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宇宙活動と国家主権 一放送衛星をめぐる法的問題の分析一 1. はじめに 人類による宇宙活動の歴史は,1957年のソ連人工衛星スプートニク1号の打 ち上げに始まったと言えよう。その後1961年のソ連宇宙船ウォストーク1号に よる人間飛行の成功・1969年のアメリカ字宙船アポロ11号による人間の月着陸 の成功,さらには1975年のアポロ・ソユーズによる米・ソ共同飛行の成功と続 くのである。 一方宇宙関係国際法の歴史も,これらの科学技術の発達に歩調を合わせて, 進展してきたのである。1967年には,「宇宙憲章」とも言うべき一「宇宙条約」(一, が発効した。特にこの条約の第2条は,宇宙空間及ぴ天体を国家による取得 (natiOnal apprOpriatiOn)の対象から除外したのであり,換言すれば 先占による領域権能の取得を否認したのであり,領土権・請求権の凍結をはか った南極条約第4条に比較すれば,画期的なものと言うことができるであろう。 しかし現実には,米・ソの二大字宙活動国が大部分の宇宙開発活動を独占し ているのであり,米・ソ二国が宇宙空間を利用の側面からnatiOnalappro- priatiOnしていると言っても,過言ではないであろう。蜆〕特に近年における放 送衛星(Broadcasting Sateuites)の開発が,このnational の懸念をさらに顕著なものとしたのである。 そこで本稿では,現在国連宇宙空間平和利用委員会法律小委員会で審議中の 放送衛星についての法原則案を中心に分析することにより,宇宙空間の真の non・appropriatiOnを確保する一方法を検討してみようと思うρ 13

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Page 1: 宇宙活動と国家主権 - HERMES-IR | HOME宇宙活動と国家主権 一放送衛星をめぐる法的問題の分析一 中 村 恵 1. はじめに 人類による宇宙活動の歴史は,1957年のソ連人工衛星スプートニク1号の打

宇宙活動と国家主権

一放送衛星をめぐる法的問題の分析一

中 村   恵

 1. はじめに

 人類による宇宙活動の歴史は,1957年のソ連人工衛星スプートニク1号の打

ち上げに始まったと言えよう。その後1961年のソ連宇宙船ウォストーク1号に

よる人間飛行の成功・1969年のアメリカ字宙船アポロ11号による人間の月着陸

の成功,さらには1975年のアポロ・ソユーズによる米・ソ共同飛行の成功と続

くのである。

 一方宇宙関係国際法の歴史も,これらの科学技術の発達に歩調を合わせて,

進展してきたのである。1967年には,「宇宙憲章」とも言うべき一「宇宙条約」(一,

が発効した。特にこの条約の第2条は,宇宙空間及ぴ天体を国家による取得

(natiOnal apprOpriatiOn)の対象から除外したのであり,換言すれば無主地

先占による領域権能の取得を否認したのであり,領土権・請求権の凍結をはか

った南極条約第4条に比較すれば,画期的なものと言うことができるであろう。

 しかし現実には,米・ソの二大字宙活動国が大部分の宇宙開発活動を独占し

ているのであり,米・ソ二国が宇宙空間を利用の側面からnatiOnalappro-

priatiOnしていると言っても,過言ではないであろう。蜆〕特に近年における放

送衛星(Broadcasting Sateuites)の開発が,このnational apPropriation

の懸念をさらに顕著なものとしたのである。

 そこで本稿では,現在国連宇宙空間平和利用委員会法律小委員会で審議中の

放送衛星についての法原則案を中心に分析することにより,宇宙空間の真の

non・appropriatiOnを確保する一方法を検討してみようと思うρ

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 一橋研究 第3巻第2号

 2.放送衛星の特徴

 まず放送衛星ωについて若干説明することにする。従来のテレビジョンの国

際衛星中継は(図1参照),二国の地球局の間の電波の橋渡しを宇宙局たる人工

衛星(通信衛星)が行なうのであり,地球局に到達した電波を受け入れた受信

国の放送事業体(キー局)は,自分の判断で番組を選定しそしてそれをネット

ワークに乗せることにより,その番組を一般公衆に送達する権利と責任を保持

していたのである。また受信国自身も,国内法制いかんにより,事前に番組内

容に介入することが技術的に可能だったのである。{5〕この方式は,番組を受信

し再伝送する地球局や放送中継設備に多くの経費と技術が必要であるので,先

進国中心の中継方式であると言えるのだが,それ以前の番組フィルムの空輸に

よる国際交換に比較すれば,即時性という長所を持つのであった。

 一方放送衛星を用いた衛星中継,つまり r放送衛星業務」(Broadcasting

SatelIite Service)は(図2参照),1971年の国際電気通信連合(ITU)宇宙通

(図1)従来のテレビジ目ンの国際衛星中継

発信国

//サ......、

信国

(一般家

 ’’’フー 。   口  /   .□

/呂/

   /

ロロ(キー局)

\目(受信国内のネットワーク)

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                     宇宙活動と国家主義

   (図2) 放送衛星を用いた衛星中継

         (放送衛星業務)

(辣蔽ズ湾\3国からの電波

            /ラ1           ・ノ}         /   1        ノ ノ1

。/@/ ↓/

    /      ’

乱喜個別受信(i.di・id・・1・・㏄pti㎝)

ギ合    管(一般家庭)

CATVによる共同受信(comm皿nity reception)

信世界無線主管庁会議(WARC・ST)の定義によれば,一般公衆によって直捧

に受信されることを目的として,信号を宇宙局により伝送し,または再伝送す

る無線通信業務ということになるので1ある。㈹換言すれば,受信国の放送事業

体の介在が全くなく、受信国自身の介入も技術的に容易でないテレビ中継ζい

うことになるのである。この直接放送が実現する時期としては,一般の家庭用

受信機に対する改造を行なわない個別受信(individua1reception)について

は1985年以前には実現不可能であるが,共同アンテナ(CATV)を用いた共同

受信(cOmmunity receptiOn)については1970年代後半には実現可能である

と考えられている。ωまたこの放送衛星を用いた方式は,放送中継設備がこれ

までほとんど整備されていない発展途上国では,国内の教育その他の社会開発

を迅速かつ低価格で進めることができるという長所が有り,さらに先進国では,

難視聴地域解消の有力な手段として利用できるという長所が有ろ。しかしこの

方式には問題点も無いわけではない。受信国の放送事業体や受信国自身の番組

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 一橋研究 第3巻第2号

選択権が消滅するということである。つまり視聴者は1外国の発信者が選定し

発出した番組をそのまま直接に放送衛星から視聴できるのであり,特定技術先

進国の文明形態の圧倒的な支配に陥る危険性が存在するということである。こ

こにおいて将来発信国となる可能性をほとんど持たない一方的な受信国は,放

送衛星を用いた外国からの番組流入に対し.深い憂慮を示したのである。ω

 3 宇宙関係諸条約とその間風点

 ところでこの放送衛星1という新しい技術の出現に際し,既存の宇宙関係諸条

約は有効に対応することができるのであろうか。

 人類の宇宙活動は1950年代後半から現在まで大きく分類すれば,二つに分類

できると思われる。その一つは,アポロ計画,スカイラポ計画,金星・火星の

探査等,科学的・実験的な目的の探査・調査等にみられるように,地球をとり

まく宇宙環境の未知の世界の究明とか,現代の巨大な科学技術の限界に挑戦す

るといった性格を持つ活動である。もう一つは,打ち上げた宇宙物体を通信・

放送・気象観測・航行管制・資源探査等,実用的な目的に用いる活動である。

後者の活動は,宇宙開発の実用化として1960年代に入って急速に発展してきた

のである。ωそして本稿の課題である放送衛星を用いた放送衛星業務もその一

つなのである。しかし宇宙条約をはじめこれまでの宇宙関係諸条約で扱う「宇

宙活動」は,衛星その他の宇宙物体をロケットで打ち上げ宇宙空間そのものを

利用する活動,つまり前者の活動を対象とするものであったと言える。したが

って,これらの宇宙物体を通信・放送等の実用目的のための設備(無線局・放

送局等)として用い継続的な業務を行なう活動,つまり後者の活動を具体的に

規律してはいないのである。α0〕たとえば1967年の宇宙条約であるが,これは宇

宙空間そのものの探査及び利用に関する基本的な原則を定めている。この基本

原則には,1.宇宙利用原則(第1条第1項),2.宇宙活動自由の原則(第1条

第2項,第3項),3、国際協力原則(前文,第1条第3項,第3条,第9条第

1文),4.他国利益尊重の原則(第9条第1文),5.領有禁止原則(第2条),

6.平和利用原則(第4条,第12条)の6原則があるが,α1〕いずれの原則も月そ

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                           宇宙活動と国家主義

の他の天体を含む宇宙空間そのものに対する国家の活動を規律する原則と考え

られる。したがって前述の後者の活動については,宇宙物体自体の法的地位や

その打ち上げ等についてはこの条約で対応できても,実用的な活動をした際の

さまざまな法的側面に対しては,充分に対応できないと考えられる。また宇宙

条約第5条を具体化した「宇宙救助返還協定」{12〕にしても,宇宙条約第6条第

7条を具体化した「宇宙損害賠償条約」Ω帥にしても,さらに字一宙条約第8条を

具体化した「宇宙物体登録条約」q4〕にしても,前述の6原則を基本的に変更す

るものではなく,宇宙条約と同様に放送衛星を用いた放送衛星業務に対しては,

充分に対応できないと言わなければならない。

 一方学説の上でも,今日では宇宙法を二分する考え方が有力となってきてい

る。フランスの国際法学者COlliard教授は,宇宙法を次のように二分して考

えるのである。その第一は,宇宙空間・天体の探査・利用そのものを規律する

法であり,その第二は,地球上に直接の影響を与える宇宙空間の利用に関する

法である。そして教授によれば,前者における基本原則には,宇宙空間の探査

・利用の自由と平等,一国による領有権・属地主権の設定・行便の禁止等が考

えられ,また後者については,国家の主権平等の尊重,平和共存の確保等が基

本原則と考えられているのである。(醐また我が国においては,山本草二教授が

宇宙法を二分して考えておられる。教授によれば,宇宙法は宇宙空間の利用秩

序に関する静態的な法規範(宇宙空間そのものの特殊な法的地位と,宇宙活動の

媒体とたる宇宙物体の法的地位に関する法規範)と,継続的な宇宙開発活動に関

する動態的な法規範に二分して考えられるべきであるとされるのである。㈹

 私もこの宇宙法を二分する考え方に賛成である。人類の宇宙活動は,宇宙空

間そのものの科学的・実験的な探査・調査の行なわれていた初期の段階から,

宇宙空間を放送等のような実用目的に利用する段階に進展してきている。した

がって宇宙関係国際法の領域においても,このそれぞれの活動を区別して規律

すべき必要が生じてきていると思うのである。前にも述べたように既存の宇宙

関係諸条約では,宇宙空間一を実用目的に利用した際のさまざまな法的側面に,

充分に対応できないからである。そして本稿の課題である放送衛星を利用した

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 一橋研究 第3巻第2号

宇宙活動については,二分された宇宙法の双方から規律されなければならない

活動なのである自放送衛星自体の法的地位やその打ち上げ等については,前者

の宇宙法,つまり既存の宇宙関係諸条約が規律するが,一方放送衛星を用いて

放送する番組内容等に関しては,後者の宇宙法,つまり新しく締結されるべき

国際条約がそれを規律しなければならないのである。この放送衛星についての

新しい条約作成のため,国連総会及びその下部機関は,今日までさまざまな努

力をしてきているのである。

 4.国連総会の対応‘m

 1967年国連総会は決議2260(XX皿)を採択することにより,宇宙空間平和

利用委員会(以下宇宙利用委員会とする)に対し,r衛星からの直接放送による

通信の技術的可能性,及びこの分野における現在並びに予見しうる開発を,そ

の開発がもたらす影響(imp1icati㎝)とともに研究する」よう要請した。さら

に翌1968年には,宇宙利用委員会におけるスウェーデン・カナダの共同提案に

基つぎ;直接放送衛星作業部会が設置されることにたり,国連総会自身も「宇

宙空間の平和利用における国際協力」と題された決議2453B(XX皿)を採択

し,その第5項で直接放送衛星作業部会(Worki㎎Group on DirectBroad-

cast Sateuites)の設置を決定したのであった(以下単に作業部会とする)。そ

してこの作業部会は,1.直接放送衛星の技術的実現可能性,2.同分野の現在及

一び将来の開発,3.そのような開発のイソブリケーショソー利用者の負担費用

(uSer COStS)及びその他の経済的側面,社会的,法律的及びその他の問題一r

について検討するものとされた。

、そして1969年2月には,作業部会第1会期が開催された。この会期において

は,衛星による直接放送の技術的実現可能性とその見通し,及び利用者の費用

負担等の問題について審議がなされた。直接放送の実現時期については,本稿

の放送衛星の特徴のところで述べたような結論が出。された。また同年7~8月

には,作業部会第2会期が開催され,各国から提出された問題点の整理がなさ

れた。話題とされた点は,周波数割り当て,静止軌道便用などの技術的問題,.

 ユ8

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                          宇宙活動と国家主義

適用される国際法規則,著作権及ぴ隣接権の保護,放送の保護等の法律問題,

受信国にとって好ましくない放送内容の問題,そして国際協力等であった。さ

らに1970年5月には,作業部会第3会期が開催された。この会期における討論

の焦点は,一般原則問題,共同受信機と家庭用受信機の区別の是非,及び報道

の自由と国家権益の問題であったが,はやくも報道の自由と国家権益の保護を

めぐり各国の意見が対立したのであった。そしてこの年の国連総会は決議2733

A(XXV)を採択し,作業部会の以上の作業を評価するとともに,一応その任

務を終了したものとした。‘18:これにより作業部会は活動休止の状態に入った。

 ところが1972年8月,クロムイコン連外相はワルトハイム国連事務総長に書

簡を送り,直接放送衛星に関する条約案を公表するとともに,それが国連で審

議されるように求めたのであった。この条約案は,㈹前文及び17ケ条から成っ

ており,直接放送の実施及ぴ利益享受に関するすべての国家の平等権(第1条),

外国向け放送についての受信国の同意の必要(第5条),違法な放送の種類とそ

れに対して対抗措置をとる受信国の権利(第4,6条),そして放送実施国の国

際責任(第7条)が主な内容であった。

 このソ蓮提案を受けた1972年の第27回国連総会は,決議2916(XXW)を採

択し,この条約案に直接に触れることたく,「国際協定を締緒する目的で直接

テレビ放送衛星の使用に関する原則を作成するよう要請する」と勧告したのでミ

あった。この決議に従い作業部会は再開され,1973年6月に第4会期が開催さ

れた。この会期の冒頭カナダ・スウェーデン両国は,r直接テレビ放送衛星を

律する原則宣言案」制,を共同提案したのであった。しかしこの会期ではソ連案

やこの共同提案に対する実質的審議はなされず,各国の見解が述べられたのみ

であった。翌1974年3月には,作業部会第5会期が開催された。この会期には

先のカナダ・スウェーデン共同提案の他に,新ソ連案,ω1,アメリカ案,㈱アル

ゼンチン案{舳)の各条約案が提出された。作業部会における討議では,情報の

自由か国家権益の保護かをめぐって各国の意見が対立し,原則宣言案の作成作

業は暗礁へ乗り上げたのであった。

 作業部会における以上のような行き詰りを打開するために,1974年5月に開

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 一橋研究第3巻 第2号

催された宇宙利用委員会法律小委員会(以下法律小委員会とする)は,その下

部組織として第3作業部会(Working Group I)を新たに設置し,放送衛星

をめぐる法原則について審議させることになった。したが.って既存の直接放送

衛星作業部会は,事実上の消滅状態に入ったと言ってもよいであろう。この1974

年の第3作業部会は,5項目(国際法の通用可能性,国家の権利及び利益,国

際協力,国家責任,紛争の平和的解決)、について原則案文を作成したが,各項

目ともかなり.の部分カッコ付きであg,各国の意見が対立していれ(24〕

 翌1975年2月の法律小委員会では,.放送衛星をめぐる法原則案の審議は,第

2作業部会へ移転した。この年の第2作業部会における法原則案作成作業はか

なり進展し,合意されたもの3項目(国家責任,紛争の平和的解決,通信障害

の防止),A案・B案並記のもの4項目(目的,同意と参加,スピルオーバー

(spill・over),協議の義務と権利),カッコ付きのもの7項目(国際法の適用可

能性,国家の権利及ぴ利益,国際協力,番組内容,違法な/許容されない放送,

著作権・隣接権・テレ㌣信号の保護,国連への通報)となった。(捌さらに1976

年5月の法律小委員会第2作業部会では作業がさらに進展し,9原則について

合意ができ・2原則(スピノ!オーバr通信障害の防止)の削除が決められ㍍

そして未合意の問題として3項目(同意と参加,番組内容,違法な/許容され

ない放送)が残された。〔舳〕そして1977年3月の法律小委員会第2作業部会で

は,アメリカの実質的討議参加は得られなかったものの,一応非公式妥協案が

作成された。この案文では9項目(目的及ぴ目標,国際法の適用可能性,国家

の権利及ぴ利益,国際協力,国家責任,協議の義務と権利,紛争の平和的解決,

著作権及ぴ隣接権・国連への璋報)について合意が成立し・3項目(国家間の

協議・協定,‘舳番組内容,違法な/許容されない放送)がカッコ付きのまま浅

さたのであった。㈹また1978年3月の法律小委員会第2作業部会でも作業は

進められ,若千の進展がみられた。‘洲㈹

5.情報の自由な流通と国家主権

(1)各国の宰場及ぴ各国提出の条文案

20

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                          宇宙活動と国家主義

 放送衛星をめぐる法原則の作成について.は,二つの基本的立場の対立が有る

と言ってよいであろう。その第一の立場は,アメリカ,西ドイツ,イギリス

等のとる立場であり,情報の自由は国際法上確立した権利であり,これは放送

衛星にも適用されるとする立場である。第二の立場は,国家には自国内におい

て妥当と考える政策を遂行する権利が国際法上認められており,したがって放

送衛星のように外部から干渉を加えることは国家主権の侵害となるのであり,

その違法性を阻却するためには事前の同意が必要であるとする立場である。こ

の国家主権を強調する立場の国々は三つに分類されよう。㈹その第一は,技術

的・経済的に将来発信国となる可能性をほとんど持たない国々であり,発展途

上国の大部分がこの分類に入るのである6(3睾〕これらの国々は,自国に不利益を

もたらす可能性のある直接放送を未然に防止しようとして,事前同意原則の確

立を求めているのである。その第二は,情報を国家の手で独占的に管理してい

る国々であり,ソ連,東欧諸国がこの分類に入るのである。これらの国々は,

現在の体制を維持発展させるために情報の国家管理が必要であり,放送衛星に

よる国外からの好ましくたい情報の流入を防止しようとして,事前同意原則の

確立を求めているのである。そしてその第三は,将来発信国にたると予想され

る大国に隣接するか,叉はその影響を強く受けると思われる若干の先進諸国で

あり,カナダ,スウェーデン等がこの分類に入るのである。これらの国々には

潜在的発信能力は有るが,有力な発信国(アメリカ,西ドイツ,ソ連等)との

関係では受信国の立場に立たされるのであり,したがって何らかの形での国家

権益の保護を求めるのである。このような背景により,先のカナダ・スウェー

デン共同提案がなされたのである。

 次に各国提出の条文案を,情報の自由流通や同意・参加の項目を中心に検討

してみようと思う。

 A.新ソ連案棚〕

 まず新ソ連案の第5条であるが,「国家は,外国に対して人工衛星による直

接テレビ放送を実施する場合には,その外国の明示的同意によってのみこれを

行なうことができる」となっており,事前同意原則が明確な形で述べられてい

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 一橋研究 第3巻第2号

るのである。また第8条第1項では,スピルオーバーに対する事前協議を発信

国の義務としているのである。そして第6条で同意・協議なしの放送は違法と

みなされるので,第9条第1項により,受信国の国際法上合法なあらゆる措置

が対抗手段として正当化されるのである。このように新ソ連案は,受信国の国

家主権の保護を非常に強調するものである。しかしこの条文案には,紛争の平

和的解決条項が無いため,関係国の協議における不一致の場合には,大きな問

題が生ずるのである。

 B.アメリカ案蜆2〕

 次にアメリカ案の第4条であるが,直接放送は,国家間の文化の差異は考慮

に入れっっも,情報・思想の自由かつオーブンな交流を奨励し拡大するような

方法で実施されるべき’であるとしている。さらに第1条では放送の国際法への

準拠,また第3条では放送の国際の平和と安全の維持に両立する方法による実

施をうたっているが,受信国の同意に関しては全く触れておらず,情報流通の

自由を基調とした条文案と見ることができよう。したがって前者の新ソ連案と

の間には大きな差異が有り,妥協はなかなか容易でたいように思われる。

 C.カナダ・スウェーデン案(20〕

 この条文案は,上記の対立する二つの立場の問に妥協点を見出そうとするも

のと考えられている。この第5条は受信国の同意権とともに,関係国の国際協

定による受信国の参加権をうたっている。スウェーデン代表の説明によれば,

㈱この同意権は個々の番組に対する同意権ではなく,一定期間のライセンス

発給に対する同意権(期間後更新か撤回かの選択)であり,またこのための協

議と交渉とが参加権ということにたるとされるのである。したがってこの条文

案における同意権はライセンス制度と,また参加権は調整手続と見ることがで

きよう。このカナダ・スウェーデン案は,大国との関係における同意権行便の

困難性を考慮することにより,参加権を中心とした自国利益の保護をはかろう

とするものであり,前述の新ソ連案とはかなり異なったものなのである。

 (2) 条文案の一本化

 1975年の第30回国運総会第1委員会においてアメリカ代表は,受信国の正当

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                         宇宙活動と国家主義

な関心(leg1tmate COnCem)に対レ発信国は何らかの保証を与えるべきであ

ると,発言した。舳この正当な関心の内容については明確ではないが,発信国

の努力義務を認めたことは,アメリカの事実上の歩み寄りが有ったものと見る

ことができよう。

 1975年2月の法律小委員会第2作業部会では,両案並記ではあるが案文の一

本化がなされた。㈹㈹「同意と参加」の項目では,A案が受信国寄りで同意権

及ぴ参加権をうたい,B案が発信国寄りで参加と協力の原則をうたっている(同

意については不必要としている)。1976年3月の第2作業部会では,A案B案に

変化はなかったが,㈹1977年3月の第2作業部会では,カッコ付きではあるが

A・B両案を一本化した非公式妥協案が作られた。Ω帥この案文では従来の「同

意と参加」の項目がr国家間の協議・協定」となり,意図的な外国向け放送は,

関係国間の適当な協定ないし措置に基づいて行なわれるとされている。また発

信国は受信国に対しその意図を事前に通報しこれと協議するともされている。

そしてこの協定や措置は,一切の情報のいっそう自由で広汎な公開を促進し,

また情報の分野での国家相互間の協力と交換を助長することを目標とするとさ

れている。したがってこの条文案からすれば,情報の自由に基づく一方的な外

国向け番組発出は,法的に困難ということになるであろう。さらに1978年3月

の第2作業部会でも作業は続けられ,カッコの数が減らされた。㈹

 (3)国際法理論からの分析

 以上のような審議過程をふまえて,情報の自由及ぴ国家主権の保護について,

伝統的な国際法理論からの検討を行なってみようと思う。

 まず国際社会における情報自由の権利性についてであるが,情報自由をうた

った多数国間の国際文書には,世界人権宣言(第19条),欧州人権保護条約(第

10条),さらに市民的及ぴ政治的権利に関する国際規約(国際人権B規約)(第

ユ9条)が有る。このうち世界人権宣言は,国連総会において採択された決議で

あるので,法的拘束力の無いことは明らかである。また欧州人権保護条約(以

下欧州条約とする)や国際人権B規約(以下国際B規約とする)は多数国間の

国際条約であるのだが,果してそこでうたわれている情報の自由は一般国際法

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 一橋研究 第3巻第2号

上個人に与えられた権利なのであろうか。この人権二条約の規定を比較してみ

ると,その問にかなりの差が有ることが注員される。㈹ まず対象範囲である

が,欧州条約第1条は締約国の管轄に属するすべての者を対象としているのに

対し,国際B規約第2条第1項は,領域内にありかつその管轄権に服するすべ

ての個人のみを対象としているのである。また国内的適用については,欧州条

約第1条が締約国の国内法で直接に執行できるという自動的適用性(self-

executing)をうたっているのに対し,国際B規約第2条第2項は同規約の実

施に必要な措置を執る義務をうたっているのみである。さらに情報自由の規定

そのものであるが,欧州条約第10条は「受け」「伝える」自由のみを定めており,

まだかなり広汎な国内法上の制限を容認している。一方国際B規約第19条は「受

け」r伝え」r求める」自由を定めており,第20条で戦争宣伝等を国内法で禁止

するものとしている。そして違反の規制については,欧州条約第30条以下が人

権委員会等の違反の決定権を認めているのに対し,国際B規約第40,41条は人

権委員会への通報とその審議を認めるのみである。このように人権二条約の規

定の間にはかなりの差違が存在するのである。また第二次大戦後の国連を中心

としたr情報自由に関する条約」の作成の失敗をあわせて考えれば,=37,情報の

自由はすべての国を拘束する一般国際法上の原則として確立していないと解す

るのが妥当であろう。(呂8〕

 同様にこれまでに合意された法原則案が,受信国の「正当な憂慮」をある程

度定式化していることも注目されよう。たとえばr国際協力」の項目であるが,

放送衛星業務は国際協力に基づいてそれを助長するような方式で行なわれなけ

ればならないとされている。これは国際協力を業務の開始要件と考える余地を

残しており,受信国の側に立った規定と見ることができよう。このように法原

則案のうち合意の得られたものは,情報自由に対する実質的制限をかなり認め

ているのである。

 次に国家主権の保護についてであるが,ソ連等が主張する,受信国は自主的

な判断と選択により,自国民に対し最も適切と考える情報を提供しうるという,

受信国の「情報主権」(informational sovereignty)という新しい概念は,(舳

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                          宇宙活動と国家主義

国際社会においていまだ確立していると考えることはできない。しかし一般国

際法上,不干渉(nOn-interVention)g義務が存在することは明らかである。

1970年10月に国連総会で採択されたr国家間の友好関係と協力に関する国際法

の原則宣言」では,(40〕この不干渉の義務の要件をめぐり各国間に鋭い対立が有

り,解釈の対立を生ずる余地を残している。ω一方F1tzmaur1ce判事はこの

点に関し次のような見解を述べられているのだが,これは注目に値するであろ

う。ωつまり,他国の自由な活動領域(国内事項)への介入は,それが必ずし

も命令的た意味においてではたく,また武力の行使を伴わなくとも,疑いなく

国際法上違法となるというものである。そしてこのような違法な干渉の事例と

して,他国の正当政府や政権の国内的立場を傷つけるための公に指示・援助さ

れた宣伝や,他国の国内政策(たとえば経済・財政・産業・土地・商業・社会

・イデオロギー政策)について命令し,また不当に影響を及ぼす企て等を挙げ

られる。さらにこのような干渉の手段として,出版や放送による宣伝が含ま、れ

るとされるのである。これはきわめて適切な指摘である。不干渉の義務におけ

る干渉が,命令的介入(dictatoria1interference)に限定されないことは,

国際法が国家の意思表示にすぎない時期尚早の承認(premature recOgnition)

を違法としていることから見ても明らかである。したがって放送衛星を用いた

外国向け放送については,その番組内容につぎ,違法性を広く追及できる余地

が有ると言うことができよう。そして法原則案の「国家間の協議・協定」の項

目が,放送衛星を用いた外国向け放送を,関係国間の協議と協定に基づかせて

いるのは,法原則作成がきわめて妥当な方向に進んでいるものと考えられる。

 6. む す び

 以上検討してきたように,放送衛星を用いた外国向け放送は,宇宙利用の自

由や情報の自由の原則では,ほとんど正当化できなくなっているのが現状であ

る。今日までに作成された法原則案では,一方的受信国の憂慮に対しかなりの

考慮が払われていると言っても過言ではたい。この放送衛星業務のように,地

球上に直接の影響を与える宇宙空間の利用活動については,非宇宙活動国の国

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 一橋研究 第3巻第2号

家主権を保護することこそが,宇宙活動国の利用の側面からの宇宙空間の

aPPropriationを排除することになり,ひいては万有公物(res commmis)

としての性椿を持つ宇宙空間のすべての国の利用を可能にすることになると思

われる。㈹そして放送衛星についての法原則案が,発信国と受信国の間の協議

と協定を基調としていることは,宇宙空間の真のnOn・appropriation を確保

する一方法として,き.わめて適切であるように思われる。さらに将来的には,

放送衛星の乗る静止軌道及ぴ便用する周波数帯が「有限の天然資源」と考えら

れることから,{蜘その衡平利用を管理する新しい国際組織を考え,㈹現在の非

宇宙活動国のより進んだ程度の宇宙活動への参加を考える必要があると思われ

る。

 最後に,宇宙空間は全人類に認められた活動分野でありまたその平和利用が

全人類の共同の利益であることを再認識し,放送衛星であれその他の問題であ

れ,一国の国家的利害にとらわれたアプローチをすべきではないと述べて本稿

を終えることにする。

(駐)

(1)

(2)

(3)

(4)

(5)

26

 正式名称はTreaty on Principles goveming tbe Activities of States

i皿the Exploration and Use of0凹ter Spaco,i11cluding Moon and other

Ce1estial Bodies,1967年10月10日に発効。1976年12月22日現在,当事国72国,

署名しているが未批准の国36国。

 宇宙条約の審議が行なわれた1966年の宇宙法律小委員会において・この点はす

でに問題にされている。フランス代表の発言によれば,もし利用(uSe)が天体地

域の一時的又は恒久的占有を意味するものとすれば,一種のamrOpriationが

起りうるのであり,皿。n-appmpriationの原則と利用とをどのように調和させる

かを厳密に検討しなければならないとしている。

 cf.U1N.Doc.A/AC.105/C,2/SR.57.

 放送衛星をめぐる法的問題に関しては,国連宇宙空間平和利用委員会日本政府

代表団特別顧問であられる山本草二教授が,以下の註で引用するいくつかの詳細

な論文を発表されている。本稿はそれらの論文の御教示に負うところが犬きい。

 直接放送衛星(Dir㏄t Bmadcasting Satellites)と呼ばれることも有ろが,

本稿では放送衛星に統一する。

 山本草二r衛星放送をめぐる国際的動向と問題点」rジュリスト特集現代のマ

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                           宇宙活動と国家主義

  スコミ』,1976年,297頁。

(6) Leive,D.M.,∫〃em”κm〃Te’eco刎m舳あσ地舳ma∫切〃mf{mα’エαω,

  Leyden, 19701 p.355.

(7)我が国の宇宙開発事業団は,1978年4月26日実験用中型放送衛星「ゆり」を東

  艦110度の静止軌道上に乗せることに成功した。この実験用放送衛星は,重さ355

  キログラム,送信出力100ワット,テレビ2チャンネルの能力を有し,難視聴地

  域の解消を目的として,郵政省がNHKの協力により3年がかりで実験を行うこ

  とになっている。

(8) 山本草二「放送衛星と国家責任」r成躍法学』,第9号,1976年・7-8頁。

(9)小菅敏夫「リモートセンシング(地球遠隔探査)の法的考察」『電気通信大学

  学報(人文社会編)』,第26巻第2号,1976年,293頁。

(10)山本草二前掲論文「放送衛星と国家責任」・2-3頁。

(11)池田文雄r宇宙法論』,成文堂,1971年,92頁.

(12)正式名称はAgreeme皿t on the Rescue of Astr㎝auts,the Retum of

  Astronauts a日d th6Return of Objects Launched into Outer Space,1968

  年12月3日に発効。1976年12月22日現在,当事国62国,署名しているが未批准の

  国31国。

(13)正式名称はCOnvention on I血temational Liab舳y for Damage by

  Spa㏄0bj㏄ts,1972年9月ユ日に発効。1976年12月22日現在,当事国36国,署

  多しているが未批准の国42国。

(14)正式名称はCo皿vention on Registrati㎝of Objects Launcbed into Outer

  Spa㏄,1976年9月15日に発効。1976年12月22日現在,当事国6国,署名してい

  るが未批准の国22国。

(15) Co11iard,C.A.,“Les Satellites de Radiodiffusion Direct”、A.瓦D.工、

  vol.XVIII,1972,pp,727_728.

(16)山本草二前掲論文「放送衛星と国家責任」,5頁,「宇宙開発」r未来社会と法』,

  筑摩書房現代法学全集54,102-104頁。

(17)小川芳彦r人工衛星による直接テレビ放送」『総研論集(関西学院大学)』,第

  1号,1977年,5-lO頁を参照。

(18)A/RES/2260.2453Bに基づく任務である。

(19) U.N.Doc.A/8771.

(20)U.N.D㏄.A/AC.105/WG.3/L.4.

(21)U.N.D㏄.A/AC.105/WG.3(V)ノCRP,1.

(22)U.N.Doc.A/AC.105/WG.3(V)/CRP.2.

(23)U.N.D㏄.A/AC.105/WG.3(V)/CRP.3.

  このアルゼンチン案のみは条文形式をとらず,25項目から成る「問題の解決と解

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一橋研究 第3巻第2号

  法案」を含んでいる。

(24)

(25)

(26)

(27)

(28)

(29)

(30)

(31)

(32)

(33)

(34)

(35)

(36)

(37)

(38)

(39)

(40)

(41)

28

 U.N.Doc.A/AC.105/133,AnnexIII.

 U.N.Doc.A/AC.105/147,A口nex n.

 U,N.Doc.A/AC.105/171,Annex II.

 従来同意と参加となっていたものが・この会期でこのように変更された。

 U.N.Doc.A/AC.105/196,A皿nex II.

 U.N.Doc.A/AC.105/218,Annex II.

 国連総会以外の対応では・1972年11月のユネスコ第17回総会の対応が注目され

る。この総会では,r情報の自由な流通,教育の普及及び文化交流の拡大のため

の衛星放送の使用に関する指導原則案」が採択された。この原則案の第9条は,

報道の自由の原則を考慮に入れつつ,受信国の事前の同意を得る必要を定めてお

り,また第6条第2項は,教育番組に対する各国の決定権保持と外国と協力して

番組を制作する場合における参加権を定めている。この二点は法的拘束力の無い

指導原貝Uという形をとってはいるが・注目に値するであろう。

cf Dause,M.A..“La胎胎vision direct par sateuites et le droit i皿tema-

tiOnal”, 沢.6亨.ノ1.亙,1973,pp.384-388.

 小川芳彦前掲論文,11-12頁。

 私はこれらの国々のことを・「一方的受信国」と呼ぶことにしている。

 U,N.Doc.A/AC.l05/PV.159,162,

 U.N,Doc,A/C.1/PV.2049.

 審議中のこれらの条文案は・何らの法的効力を持つものではない。しかしこれ

までの宇宙関係諸条約の成立過程を見てくると,審議により作成された案文は,

かなりの部分そのままの形で条約化されている。したがって審議中とはいえこれ

らの案文の検討は・非常に重要と思われる。

 山本草二「放送衛星業務と情報自由」『放送制度一その現状と展望一2』,

日本放送出版協会,110-113頁。

 同上論文,108-110頁。

 Marcoff,M.G.,Tm伽〃6〃〃言〃〃伽,{m〃力必〃。 de J’e功αce,Fri-

1〕ouτg,1973,pp.620一一621;Boさ11e,G.,et al.、エ’σ〃ゐ”κm北5”e〃κe5

〃柳伽8言θn〃m肋,Paris,1970,P.55.

 Gotlieb,A.,et a㌧“The Transborder Transfer of Informatio竈 by

CommuI1ioations and Computer System”, 68ノエ.∫ムZ・,1974,pp.229,237

-240.

 A/RES/2625(XXV)

 Rosenstock, R}“The Declaration of Principles of International Law

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                           宇宙活動と国家主権

  Concerning Friendly Relations’’,65λ1∫工Z.,1971,pp.726-729、

(42) Fitzmaurice,G.I“The General Pri血。iples of Intemati011al Law”.R.

  α.1957,II,PP.170-171,175-176.

   皆川流r国際連合と国内管轄事項の原則」r法学研究(一橋大学)』,第10号,

  1977年,9頁。

(43)地球遠隔探査(remote sensing)についても同様なことが言えると思われる。

  話しくは,小菅敏夫前掲論文を参照されたい。

(44)1973年の新国際電気通信条約(マラガ・トレモリノス条約)第33条第133A号。

(45)1977年1~2月のITU放送衛星世界無線主管庁会議(WARC-BS)では,静

  止軌道及び周波数帯の厳格な国別割り当てがなされたが,私は放送衛星そのもの

  についても新たな国際管理のための組織を考えても良いのではないかと思ってい

  る。

(筆者の住所:武蔵野市関前3-3-17下山方)

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