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60 計画研究:2005 ~ 2009 年度 高精度比較ゲノム地図の作成と、それに基づいた比較ゲノム構造解析研究 ●藤山 秋佐夫 1),4) ◆渡邉 正勝 (2005, 2006) 2) ◆豊田 敦 (2006-2009) 3),4) ◆二階堂 雅人 (2007) 2) ◆黒木陽子 (2008, 2009) 3) (研究協力者)西原秀典 2) 1) 情報・システム研究機構 国立情報学研究所 2) 東京工業大学大学院生命理工学研究科 3) 理化学研究所ゲノム科学総合研究セン ター 4) 情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所 <研究の目的と進め方> 本研究では、我々がこれまでに進めてきた比較ゲノム研究を継 続的に発展させ、霊長類から単孔類までの哺乳類ゲノムと硬骨魚 類ゲノムを対象とした系統的かつ網羅的な比較解析を通して、ヒ トへと向かう進化経路で起きた進化イベントをゲノムレベルでの 変遷過程として解明することを目指す。研究の実施に当たって は、特に常染色体と性染色体の比較、テロメア領域、反復配列、 シンテニー等のゲノムを構成する単位に着目する。一方、種の形 成に関する問題は、17 年度の中間評価でも指摘されたように生 物学全般にわたる基本的で重要な課題である。そこで本研究で は、生物種の形成と多様化のモデルケースとしてアフリカ東部ビ クトリア湖に生息する硬骨魚類であるシクリッドをとりあげ、近 縁種間の比較ゲノム解析から、この種で起きた種分岐の機構解明 を目指す。以上により、最終的には、脊索動物の出現から哺乳類、 霊長類、ヒトへの進化という文脈の中で起きたと考えられるゲノ ムの構造変化過程の主要経路を明らかにする。そのため、これら の研究の基礎となるリソースの整備を支援班の協力を得ながら進 めると共に、高精度地図の構築を進め、今後も重要性が増加する ことが予想される比較ゲノム解析のための研究基盤の整備も図 る。一方で次世代シーケンサの登場により、個体(系統)間や近 縁種間のゲノム構造の違いやさまざまな環境に存在する微生物集 団の組成を迅速に低コストで明らかにすることが可能となりつつ ある。2007 年度に中間評価を受けた本研究では、次世代シーク エンサーによる配列解析システムを構築し、遺伝的多様性を明ら かにすることも新たな目標に設定した。特にヒトでは遺伝的多様 性がさまざまな疾患や体質、薬物応答に関与していることが示唆 されており、今後テーラーメイド医療や予防医学を実現するにあ たって、その基盤技術の構築が必要不可欠である。 研究組織としては、2006 年度から豊田敦を分担班員に加えた。 2007 年度には渡邊正勝班員の転出に伴い、二階堂雅人を分担班 員とした。2008 年度から黒木陽子を分担班員に加えると共に、 科学研究費システムの変更に伴い、二階堂班員に代わって西原秀 典を研究協力者とした。 <研究開始時の研究計画> 2005 年度においては、染色体構成要素のなかでも、特にヒト とチンパンジーの相同染色体比較から両者の差異が明らかになっ た特定の反復配列について、まず両者の全ゲノムを対象に網羅的 に比較解析を開始し、ヒトとチンパンジーの種分岐後に特異的に 発生した反復配列の増幅・挿入イベントの全貌解明を目標に研究 を進める。また、このための対照群として旧世界ザル、新世界ザ ル、原猿の代表的な種について、ゲノムの部分領域を対象に同様 な解析を実施するための準備を進める。最終的には、哺乳類にお ける霊長類、さらにそこからヒトへの進化という全体的文脈のな かでゲノムのダイナミックな変化を追跡、解明したいので、それ に必要なリソースの準備を進める。また、従来から進めている染 色体テロメア領域についての網羅的構造解析を続行する。 渡邊班員は、ビクトリア湖産シクリッドの内部系統あるいはシ クリッド系統特異的に起こったと考えられる遺伝子増幅を染色体 レベルの比較解析から研究を開始し、順次高等動物との比較を進 めることにより、相補的に脊椎動物の多様化のメカニズム解明を 目指した研究を行う。 2006 年度においては、新しいシーケンス技術を霊長類の大規 模ゲノム構造解析に適用するための基礎研究を開始することとし た。藤山班員は2005年度に引き続き、ヒトとチンパンジーの 種分岐後に特異的に発生したゲノムイベントの全貌解明を目標に 研究を進める。このための対照群として旧世界ザル、新世界ザル、 原猿の代表的な種について、比較ゲノム解析を実施するための準 備を進める。最終的には、哺乳類における霊長類、さらにそこか らヒトへの進化という全体的文脈のなかでゲノムのダイナミック な変化を追跡、解明したいので、それに必要なリソースの準備を 進める。また、染色体テロメア領域についての網羅的構造解析は 継続的に実施する計画とした。豊田班員は、特にヒト 21 番染色 体に相同(シンテニー)な領域の高精度なゲノム地図を作成し、 進化における染色体の構造変化を明らかにする。具体的には、オ ラウータンの染色体特異的 fosmid ライブラリを作成するととも に次世代シーケンサを用いて領域特異的な高精度比較を開始する 計画とした。渡邊班員は、ビクトリア湖産シクリッドについて遺 伝子重複や、また、魚類の多くではいまだ明らかにされていない 性決定の問題も含めて染色体レベルの比較解析を進めると共に、 顎部の多様化にかかわる遺伝子の機能解析を進める。ビクトリア 湖産シクリッドに多様化をもたらした生殖隔離には、これまで言 われていた色覚に加え、嗅覚も重要な位置を占めるという生態学 的データが報告されているので、嗅覚受容体遺伝子の網羅的解析 を実施し、その実態を明らかにする。 2007 年度においては、2005 年のチンパンジーゲノム概要配列 の報告、2006 年には改訂版が公開された。また 2007 年には、ア カゲザルゲノムの概要配列解析結果が論文発表になり、さらに霊 長類以外の哺乳類ゲノムでは、ウシ、ブタ、オポッサム、ワラビー などの概要配列決定が進むなど、比較ゲノム研究を取り巻く世界 的な情勢が米国を中心に急速な展開を遂げている。このため、本 研究も世界の研究情勢を見極め、あらためて戦略を立て直す時期 に到達している。そのための方策の一つとして、研究項目 B02 に 属し、霊長類ゲノムを直接の研究対象としている 6 グループの連 携により、霊長類、ほ乳類ゲノムでの高度保存領域の解析、霊長 類におけるサブテロメア領域の比較ゲノム解析、性染色体/常染 色体比較解析を年度内に開始する計画とした。さらに、これらの 計画を補完するため、豊田班員は、霊長類の大規模ゲノム構造解 析、特にヒト 21 番染色体に相同(シンテニー)な領域の高精度 な配列決定を行い、進化における染色体の構造変化を明らかにす る目的で、オラウータンの染色体特異的 fosmid ライブラリを作 製するとともに次世代シーケンサを用いて領域特異的な高精度ゲ ノム比較を開始する。また、ヒトモデル動物として期待されてい るコモンマーモセットについては、ゲノム研究の基盤情報の構築

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計画研究:2005 ~ 2009 年度

高精度比較ゲノム地図の作成と、それに基づいた比較ゲノム構造解析研究●藤山 秋佐夫 1),4) ◆渡邉 正勝 (2005, 2006)2) ◆豊田 敦 (2006-2009)3),4) ◆二階堂 雅人 (2007)2) ◆黒木陽子 (2008, 2009)3)  (研究協力者)西原秀典 2)

1) 情報・システム研究機構 国立情報学研究所 2) 東京工業大学大学院生命理工学研究科 3) 理化学研究所ゲノム科学総合研究センター 4) 情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所

<研究の目的と進め方>本研究では、我々がこれまでに進めてきた比較ゲノム研究を継

続的に発展させ、霊長類から単孔類までの哺乳類ゲノムと硬骨魚類ゲノムを対象とした系統的かつ網羅的な比較解析を通して、ヒトへと向かう進化経路で起きた進化イベントをゲノムレベルでの変遷過程として解明することを目指す。研究の実施に当たっては、特に常染色体と性染色体の比較、テロメア領域、反復配列、シンテニー等のゲノムを構成する単位に着目する。一方、種の形成に関する問題は、17 年度の中間評価でも指摘されたように生物学全般にわたる基本的で重要な課題である。そこで本研究では、生物種の形成と多様化のモデルケースとしてアフリカ東部ビクトリア湖に生息する硬骨魚類であるシクリッドをとりあげ、近縁種間の比較ゲノム解析から、この種で起きた種分岐の機構解明を目指す。以上により、最終的には、脊索動物の出現から哺乳類、霊長類、ヒトへの進化という文脈の中で起きたと考えられるゲノムの構造変化過程の主要経路を明らかにする。そのため、これらの研究の基礎となるリソースの整備を支援班の協力を得ながら進めると共に、高精度地図の構築を進め、今後も重要性が増加することが予想される比較ゲノム解析のための研究基盤の整備も図る。一方で次世代シーケンサの登場により、個体(系統)間や近縁種間のゲノム構造の違いやさまざまな環境に存在する微生物集団の組成を迅速に低コストで明らかにすることが可能となりつつある。2007 年度に中間評価を受けた本研究では、次世代シークエンサーによる配列解析システムを構築し、遺伝的多様性を明らかにすることも新たな目標に設定した。特にヒトでは遺伝的多様性がさまざまな疾患や体質、薬物応答に関与していることが示唆されており、今後テーラーメイド医療や予防医学を実現するにあたって、その基盤技術の構築が必要不可欠である。

研究組織としては、2006 年度から豊田敦を分担班員に加えた。2007 年度には渡邊正勝班員の転出に伴い、二階堂雅人を分担班員とした。2008 年度から黒木陽子を分担班員に加えると共に、科学研究費システムの変更に伴い、二階堂班員に代わって西原秀典を研究協力者とした。

<研究開始時の研究計画>2005 年度においては、染色体構成要素のなかでも、特にヒト

とチンパンジーの相同染色体比較から両者の差異が明らかになった特定の反復配列について、まず両者の全ゲノムを対象に網羅的に比較解析を開始し、ヒトとチンパンジーの種分岐後に特異的に発生した反復配列の増幅・挿入イベントの全貌解明を目標に研究を進める。また、このための対照群として旧世界ザル、新世界ザル、原猿の代表的な種について、ゲノムの部分領域を対象に同様な解析を実施するための準備を進める。最終的には、哺乳類における霊長類、さらにそこからヒトへの進化という全体的文脈のなかでゲノムのダイナミックな変化を追跡、解明したいので、それに必要なリソースの準備を進める。また、従来から進めている染色体テロメア領域についての網羅的構造解析を続行する。

渡邊班員は、ビクトリア湖産シクリッドの内部系統あるいはシクリッド系統特異的に起こったと考えられる遺伝子増幅を染色体レベルの比較解析から研究を開始し、順次高等動物との比較を進めることにより、相補的に脊椎動物の多様化のメカニズム解明を目指した研究を行う。

2006 年度においては、新しいシーケンス技術を霊長類の大規模ゲノム構造解析に適用するための基礎研究を開始することとした。藤山班員は2005年度に引き続き、ヒトとチンパンジーの種分岐後に特異的に発生したゲノムイベントの全貌解明を目標に研究を進める。このための対照群として旧世界ザル、新世界ザル、原猿の代表的な種について、比較ゲノム解析を実施するための準備を進める。最終的には、哺乳類における霊長類、さらにそこからヒトへの進化という全体的文脈のなかでゲノムのダイナミックな変化を追跡、解明したいので、それに必要なリソースの準備を進める。また、染色体テロメア領域についての網羅的構造解析は継続的に実施する計画とした。豊田班員は、特にヒト 21 番染色体に相同(シンテニー)な領域の高精度なゲノム地図を作成し、進化における染色体の構造変化を明らかにする。具体的には、オラウータンの染色体特異的 fosmid ライブラリを作成するとともに次世代シーケンサを用いて領域特異的な高精度比較を開始する計画とした。渡邊班員は、ビクトリア湖産シクリッドについて遺伝子重複や、また、魚類の多くではいまだ明らかにされていない性決定の問題も含めて染色体レベルの比較解析を進めると共に、顎部の多様化にかかわる遺伝子の機能解析を進める。ビクトリア湖産シクリッドに多様化をもたらした生殖隔離には、これまで言われていた色覚に加え、嗅覚も重要な位置を占めるという生態学的データが報告されているので、嗅覚受容体遺伝子の網羅的解析を実施し、その実態を明らかにする。

2007 年度においては、2005 年のチンパンジーゲノム概要配列の報告、2006 年には改訂版が公開された。また 2007 年には、アカゲザルゲノムの概要配列解析結果が論文発表になり、さらに霊長類以外の哺乳類ゲノムでは、ウシ、ブタ、オポッサム、ワラビーなどの概要配列決定が進むなど、比較ゲノム研究を取り巻く世界的な情勢が米国を中心に急速な展開を遂げている。このため、本研究も世界の研究情勢を見極め、あらためて戦略を立て直す時期に到達している。そのための方策の一つとして、研究項目 B02 に属し、霊長類ゲノムを直接の研究対象としている 6 グループの連携により、霊長類、ほ乳類ゲノムでの高度保存領域の解析、霊長類におけるサブテロメア領域の比較ゲノム解析、性染色体/常染色体比較解析を年度内に開始する計画とした。さらに、これらの計画を補完するため、豊田班員は、霊長類の大規模ゲノム構造解析、特にヒト 21 番染色体に相同(シンテニー)な領域の高精度な配列決定を行い、進化における染色体の構造変化を明らかにする目的で、オラウータンの染色体特異的 fosmid ライブラリを作製するとともに次世代シーケンサを用いて領域特異的な高精度ゲノム比較を開始する。また、ヒトモデル動物として期待されているコモンマーモセットについては、ゲノム研究の基盤情報の構築

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を進める。テロメア領域の解析については、フィンガープリント作成による部位の特定や定量 PCR によるコピー数の測定などの新しい手法を導入して解析を続行する。

一方、東アフリカのビクトリア湖産シクリッドは、わずか12,000 年という、進化的にみるとごく最近に種の放散が起きたと考えられており、DNA レベルでの多様性が著しく低いにも関わらず、形態的・生態的に多様な独立した種が多数存在している。二階堂班員は、種や形態を決定付ける因子は「DNA レベルでの違いが少ない」方が実験的に特定しやすいとの仮定のもとに研究を進め、遺伝子重複や、また、魚類の多くではいまだ明らかにされていない性決定の問題も含めて染色体レベルの比較解析を進める。そのため、まずは嗅覚受容体遺伝子の中から特に OR 型遺伝子群と V2R- 型遺伝子群に着目して網羅的な単離を試みる。

2008 年度においては、前年度に開始した研究項目 B026 グループの連携により、特に、細胞遺伝学的手法によってヒトと 3 種の類人猿染色体間で構造変異が確認されている染色体サブテロメア領域(ヒトとオランウータンとの間、ゴリラとチンパンジーとの間で見かけ上の類似性が高い)、なかでも代表的な遺伝子調節タンパクである Zn フィンガータンパクがクラスターを形成して存在する 19 番染色体長腕末端 2Mb の領域に着目し、霊長類間での比較ゲノム解析を徹底的に実施することで、代表的な遺伝子調節タンパクである Zn フィンガークラスター(と下流の遺伝子群)メンバーの増減とヒトの進化過程との関連を明らかにする。一方で、現在公開されているヒトゲノムアセンブリには、5 番長腕、10 番短腕、11 番長短腕、18 番短腕、21 番長腕(以上は日本グループの寄与)と、X / Y 短腕以外には配列解読がテロメアまで到達した染色体は存在しない。そこでまず、ヒトゲノムのテロメア領域を対象に信頼性の高いライブラリからクローンを単離し、再シーケンシングによって構造を再確認する構造解析研究を並行的に実施し、この情報をもとに他の霊長類ゲノムからのクローン単離や構造比較を行い、ヒトに至る染色体の再構成プロセスを明らかにする。豊田班員と黒木班員は、霊長類の大規模ゲノム構造解析、特にヒト 21 番染色体とY染色体に相同(シンテニー)な領域の構造解析を進める。そのため、オラウータンの染色体特異的fosmid ライブラリのスクリーニング、構造決定、純化染色体の次世代シーケンサによるゲノム比較を開始する。また、個人ゲノム解析の基盤整備に向けて、ヒト由来の細胞株を用いて次世代シークエンサーによる配列解析および構造変異の検出手法を構築する。

2009 年度においては、昨年度に実施したヒト 21 番染色体、Y染色体について、配列データの情報解析を進めると共に、他のヒト由来細胞 ( 特に HapMap 計画で使われている日本人由来細胞株 )についても比較解析を実施する。Y 染色体の比較ゲノム解析についても続行し、オランウータン Y 染色体特異的フォスミドライブラリ(5X ゲノム分)の作成と、テロメアプライマーによるスクリーニングをすすめる。比較の外群としては有袋類であるタマーワラビー Y 染色体の解析を進め、Y 染色体のソーティングを進めているほか、シーケンサを利用した高速フィンガープリントによる比較ゲノム地図の作成を進める。また、ヒト 19 番長腕末端に相当する霊長類ゲノム領域について、ZNF 遺伝子群とサブテロメア構造進化の二つの局面から比較ゲノム解析を続行させる。<研究期間の成果>

2005 年度においては、B01 佐藤班、岩部班との共同研究で、ナメクジウオとタテエリベンモウチュウのゲノム解読を進めるために必要となるリソース構築のための基礎研究を行った。これらは当初、支援班に依頼されたものであるが、支援業務として進める域を超える内容を含むと判断したため、共同研究としても実施

した。タテエリベンモウチュウ、M.ovata は、配布元の ATCC から複

数のバクテリアを含む培養液として頒布されており、培養液中に存在するバクテリアの種類と構成比、鞭毛虫の均一性については一切の情報がない。特に培養液中における鞭毛虫の個体数とバクテリアの個体数には極めて大きな差があり、ゲノム解読の効率に大きく影響するため、鞭毛虫の存在比を相対的に高めるための精製方法の検討を続けている。それに加え、大量培養法の確立、混在するバクテリア種数の低減、鞭毛虫のクローン化などの諸点の検討が必要であった。まず鞭毛虫個体のクローン化については、限界希釈法による単細胞分離を試み、1系統の単離に成功した。この系統を 2A4 と命名し、以後の解析を進めるための原系統とした。また、オリジナルの培養液から L 培地で生育するバクテリアコロニーを単離し、鞭毛虫の生育に最適な菌の選別を行った。選択された菌については岩部班員により、16SRNA 遺伝子配列解析が行われているが、最終的な菌種の同定には至っていない。これらの検討が終了後に、1Lスケールの培養を半連続的に実施し、BAC とフォスミドライブラリ構築を試行している。鞭毛虫と細菌類との分離については、通常の遠心分離、定径ポア膜による濾過、フィコール溶液を用いた密度勾配遠心等の各種の組み合わせを検討しており、最終産物の純度については構築済ライブラリの末端配列からの純度推定を行っている。BAC 用とフォスミド用とでは精製方法に多少の違いがあるが、末端塩基配列の BLAST検定で見る限り、現時点で最高 80%弱の配列が既知の細菌の配列と有意な bit 値で類似性を示さない。

霊長類の比較ゲノム研究に関しては、B02 斎藤班、B02 黒木班、B05 矢田班野口班員、豊田班友、韓国 KRIBB 等との共同研究で実施したチンパンジー Y 染色体の構造決定と比較ゲノム解析の成果を Nature Genetics 誌に投稿受理された(2006 年1月1日オンライン出版のため、成果 DB には未登録)。単一個体由来の DNA約 12 Mb の高精度配列を決定し、ヒト Y 染色体配列との塩基置換頻度を常染色体間での比較による数値と比較検討し、Y 染色体の塩基置換頻度が常染色体のそれよりも高いことを確認するなどの成果を得たが、印刷版が本報告執筆時に未出版であることから詳細な報告は別の機会に行いたい。その他の霊長類、哺乳動物ゲノム解析材料として、支援班石田班員から供与された細胞株を用いてオランウータンBACライブラリの構築を進めている。また、オーストラリア国立大学 Graves グループとの共同研究も進めており、カンガルー全ゲノムの BAC ライブラリ構築、X 染色体特異的フォスミドライブラリの構築を進めた。また、基盤ゲノム菅野班の支援と東京医科歯科大学石野グループとの共同研究により、カンガルー精巣、卵巣、子宮膜、下垂体、脳から全長 cDNAライブラリを構築した。また、カモノハシ全ゲノム BAC ライブラリの構築も進めている。

2006 年度においては、タテエリベンモウチュウ、M.ovata について、昨年度に単離した限界希釈系統 2A4 を使用し、同時に単離した細菌の培養液で希釈培養を反復して混在細菌種の低減に努めた。この間に継続的な試料供給を可能にすべく大量培養システムを確立し、さらに遠心分離と定径ポア膜による濾過、密度勾配遠心を組み合わせた鞭毛虫細胞の精製法を検討した結果、最終的に70%程度の純度の標品が得られたため、これを用いた fosmid ライブラリを作成すると同時に、同一ロットの DNA を基盤ゲノム小原班にショットガン配列決定を依頼した。また、別途精製した細胞から BAC ライブラリを作成した。完全長 cDNA ライブラリも基盤ゲノム菅野班の支援で完成している。

霊長類の比較ゲノム研究に関しては、B02 斎藤班、B02 黒木班、B05 矢田班野口班員、韓国 KRIBB 等と共同で Nature Genetics 誌

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に発表した結果が米国グループとの論争になったが、チンパンジーの3亜種のうち、解析に用いた verus 種の Y 染色体は特に個体間変異が極めて少ないとの結果になった。これに関連して、藤山は、大阪市天王寺動物園、東京都多摩動物園との協力関係の確立にも務め、亜種判定、親子鑑定などの技術協力を行っている。また、B05 矢田班野口班員、B02 黒木班との協力でニホンザルBAC 末端配列の解析を行った(論文準備中)。この配列は、米国アカゲザルゲノム解読グループにも提供し、国際協力の推進に務めた。これ以外の国際共同研究として、オーストラリアとの関係を強化し、オーストラリア国立大学 Graves グループに加えてメルボルン大学 Renfree グループ、カンガルーゲノム解読コンソーシアムとの共同研究を新たに開始した。カンガルーゲノムについては、BAC ライブラリを構築する共に、末端配列3X分、76,500クローンの両末端配列を決定し、コンソーシアムに提供した。また、基盤ゲノム菅野班の支援と東京医科歯科大学石野グループとの共同研究により、カンガルー精巣、卵巣、子宮膜、下垂体、脳から全長 cDNA ライブラリを構築し、精巣ライブラリについては8万クローンの配列決定とクラスタリングを行い、現在内部配列解読の準備を進めている。豊田班員は藤山班員と協力し、オラウータンゲノムからセルソーターで単離したヒト 21 番染色体に相当する染色体 DNA を材料に用いて、新しい DNA シーケンシングシステムである GS20 による配列決定を行った。その結果、325,035 リードのうち約 70% がヒト 21 番染色体にマッピング(リピート配列のみを含むものが約 10%)され、平均 identity は96.3% であった。現在、この試料から染色体特異的 fosmid ライブラリを作製中である。

渡邉班員は、シクリッドの生殖前隔離の一因として体表模様の多様化に新たに着目し、モデルケースとしてゼブラフィッシュ模様変異体の解析を行った。色素細胞の発生は正常だが、そのパターニングにのみ異常が見られる変異体として知られるレパードとジャガーの原因遺伝子の特定を行い、論文発表した(名古屋大学近藤滋教授との共同研究)。次に、これら変異体の原因遺伝子として得られたコネキシン及びカリウムイオンチャネルに関して、シクリッドホモログの解析を行った結果、コネキシン遺伝子に関してはシクリッド系統内で高度に保存されていることが明らかとなった。一方、カリウムチャネル遺伝子はシクリッドの系統特異的に遺伝子重複を起こし、遺伝子配列並びに遺伝子発現の解析からこれら2つの遺伝子は機能分化が進んでいることが予測された。これまでの解析から、シクリッドの多様化に遺伝子重複が大きくかかわっている可能性が示唆された。

2007 年度に開始した B02 斎藤班、植田班、那波班、黒木班との共同研究では、ヒト 19 番染色体長腕テロメア領 2Mb を対照領域とし、まずチンパンジーゲノムについて相同領域のクローン地図作成を開始した。ヒト 19 番染色体はテロメア末端までクローンコンティグが作成されていない、つまり配列情報が存在しないため、この領域を対象としたコンティグクローンの単離も進めた。さらに、斎藤班、植田班、黒木班との共同研究で、ゴリラゲノムテロメア領域の比較研究も開始し、全ゲノムフォスミドライブラリからのテロメア末端クローンの単離と細胞遺伝学的解析を進めつつある。霊長類、哺乳動物ゲノム解析材料として、支援班石田班員から供与された細胞株を用いてオランウータン BAC ライブラリの構築を進めた。また、オーストラリア国立大学 Gravesグループとの共同研究も進めており、カンガルー全ゲノムのBAC ライブラリ構築、X 染色体特異的フォスミドライブラリを構築した。二階堂班員が担当しているシクリッドの多様化研究については、前年度に単離した OR 遺伝子群の解析に引き続き、合計 11 個の OR 遺伝子を単離することに成功した。これらの OR 遺

伝子のタンパク質コード領域について、ビクトリア湖産シクリッド間における DNA 配列を比較したところ、ある1つの遺伝子に関して、種間で異なるアリル型が確認された。今後は、この OR遺伝子のアリル頻度がシクリッドの種間における有意差の検定を行う予定である。V2R 遺伝子群に関しては、遺伝子クラスター領域を全てカバーする領域を 8 個の BAC clone に絞り込むことに成功した。ただ非常に高頻度な反復配列を含む領域(おそらく20kbp 以下でその領域には V2R 遺伝子は存在していないと予想している)のみは未単離となっている。これらの BAC clone については全配列決定を終了した。

2008 年度以降は、ヒト 19 番染色体長腕サブテロメア領域と、それに対応するチンパンジー、オランウータンのゲノム構造解析、ゴリラサブテロメア領域由来クローンの解析を行った。現行のヒト参照配列内にサブテロメア領域が含まれていなかったため、まず、この領域のクローン地図作製を行った。この領域に対応するチンパンジーとオランウータンのゲノム領域も解析を進めており、チンパンジーについては、ヒト 19 番長腕サブテロメア領域近傍のクローン地図を完成した。一方、ゴリラ全ゲノムフォスミドライブラリから、サブテロメア領域由来のクローンを単離し、染色体上へマッピングしたところ、複数の染色体のサブテロメア領域に相同性を示すクローンが得られたため、これらのクローンの塩基配列決定を進めている。また、前年度から進めているヒトーオランウータン Y 染色体の比較クローン地図の高精度化と高被覆度化を目標に、finger printing によるクローンの整列化とゲノムライブラリのスクリーニングを行った。今回、新たにオランウータン Y 染色体特異的フォスミドライブラリを作成し、Y染色体サブテロメア領域由来のクローンを単離するとともに、 サブテロメア側からセントロメア側に向けてクローン地図の作製に着手した。これまでに、オランウータン Y 染色体の長腕と短腕、それぞれのサブテロメア候補クローンが得られており、これらのクローンを用いた他の大型類人猿の染色体上の位置を確認するとともに、クローンの高精度塩基配列の決定を進めている。また、ヒト Y 染色体の遺伝子領域に対応するオランウータン Y 染色体のゲノム構造解析も、昨年に引き続き、解析を進めている。次世代シーケンサを用いたパーソナルゲノム解析に向けた技術開発を目指し、ヒト21番染色体と Y 染色体の塩基配列決定を行った。 リンパ芽球様細胞株 GM130B からセルソーターを用いて 21 番染色体(約 350 万本)を単離し、 Genome AnalyzerII を使用して決定した配列データ(約 9224 万リード)をヒト標準配列にマッピングするとともにアセンブリにより作成されたコンティグ配列との比較を行った結果、平均重複度 33.8x で約 36,600 カ所の SNP

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を同定できた。 構造変化を視覚化する viewer を作製中(遺伝研・小原研究室と共同)である。なお、アセンブリについては、データ量が少ないためミスアセンブリが生じていることが示唆された。また、Y染色体についてはソートできた染色体数が少ないためデータ解析が遅れており、配列決定を続行中である。

比較ゲノム構造進化研究して、新たに哺乳類が海洋環境へ適応する過程に起こったゲノム構造の変化に着目し、クジラ類(オキゴンドウクジラ)の BAC ライブラリ作製とクローン地図の作成を行った。特に嗅覚関連遺伝子群領域と MHC 領域(東海大・椎名班員との共同研究)に注目し、各領域に位置する BAC クローンのスクリーニングと配列決定を行った。これまでに海生哺乳動物と陸生動物の大規模なゲノム比較の例はなく、進化の過程で起きたゲノム構造の変化を明らかにしたいと考えている。

<国内外での成果の位置づけ>2005 年に、概要配列ではあるがチンパンジー全ゲノム配列が

報告され、2006 年には改訂版が公開された。霊長類ではアカゲザル、その他の哺乳類では、ウシ、ブタ、オポッサムなどの概要配列が発表されるなど、比較ゲノム研究を取り巻く世界的な情勢は急速な展開を遂げている。このため、本研究班の研究計画もかなりの影響を受けているが、我々が独自に開発したゲノム資源を有効に活用することで相応の国際貢献が可能であると考えている。特に霊長類間でのゲノム比較では、高精度配列が必要不可欠であり、進化の過程におけるゲノム構造変化と機能に与えた影響の全貌の解明を目的に研究を進めている。

模様遺伝子に関して、ゼブラフィッシュの模様変異体レパードは、発生学の有名な教科書である Developmental Biology にも紹介される有名な変異体であり、原因遺伝子を解明した成果は大きい。また、嗅覚遺伝子に関して、モデル生物(ゼブラフィッシュ、メダカ、フグ)以外の魚類嗅覚遺伝子群の解析は、ほとんど進んでいない。国内では唯一、ドジョウの OR 遺伝子が 24 個ほど単離されているが、網羅的な解析まではたどり着いていないのが現状である。更に、近縁種間での嗅覚遺伝子比較はヒトやマウス以外では例がなく、進化学的な面からも非常に興味深い結果の得られることが期待される。

2004 年に完成したことになっているヒトゲノムであるが、サブテロメアーテロメア領域に関する限りは、信頼性のあるクローン地図が作成されておらず、したがって日本の研究グループが構造決定に関与してきた一部の染色体を除き、構造情報は極めて不十分である。特にテロメア領域の構造不安定性が細胞老化やガン化との関連で問題になっていることから、この領域の正しい構造情報を決定することは極めて重要であると考える。また、サブテロメア領域の構造については、細胞遺伝学的研究からヒト、チンパンジー、ゴリラ、オランウータンの間でかなりの違いのあることが知られていたが、実際にチンパンジーとヒト染色体のテロメア領域の構造とを高精度地図と配列を基に比較することにより、具体的な配列情報の違いが明らかになりつつある。

モデル魚種(ゼブラフィッシュ、メダカ、フグ、トゲウオ等)以外における魚類嗅覚遺伝子群の解析は、ほとんど進んでいない。それはタンデムに重複している嗅覚遺伝子群の網羅的な塩基配列決定や、その解析が非常に困難なためである。今回、V2R 遺伝子群を包含するゲノム領域の単離に成功したが、続いてその配列の解析が終了すれば、それはモデル魚種以外では世界で最初の例になる。またシクリッドは一般的なモデル魚種と違い、遺伝子を単離した後の種間比較といった観点から非常に重要な生物である。これまで、嗅覚受容体遺伝子群の種間、集団間における大規模な比較研究はヒト・マウスに限られており、それも 2007 年に

研究論文が出版されたばかりの新しい分野である。シクリッド野生集団において嗅覚受容体遺伝子にどれだけの個体差、種間差が存在しているのかに関しては多くの研究者の興味の集まるところと考えている。

Y 染色体については黒木班員が中心となり、チンパンジー、ゴリラ、オランウータンなど霊長類を含むほ乳類を対象に広範な比較解析研究を進めており、タマーワラビーについてはオーストラリアの有袋類や単孔類のゲノム研究の専門家、性分化と生殖発生学の専門家と連携して解析を進めている。ゲノムの比較解析から明らかになった Y 染色体の機能分子は、有袋類の個体発生過程における機能解析が可能であり、ゲノム構造の変化と表現型の関連性を明らかにすることができると考えている。

1000 人ゲノムプロジェクトと呼ばれる、個人のゲノム解析プロジェクトが進んでいる一方で、Y 染色体のように反復配列が豊富な上に全ゲノムでハプロイドのゲノム領域は、配列データの解析が難しいことが危惧されている。そこで、本研究では、染色体特化型のリシーケンス法による解析系の立ち上げを進めた。ソーティングした染色体を用いることで、配列データの被覆度を染色体特異的に高くすることが可能であり、配列データの解析において情報処理にかかる時間と労力を削減できる上、得られた解析データの考察、解釈を進める上でも効率的である。反復配列や染色体間の重複領域が多く見られるヒトゲノムの解析においては、有効な方法と思われる。染色体特化型リシーケンス法は、ヒト X染色体の解析結果が既に報告されており、染色体レベルでの個人間の相違を検出するシステムを構築することを考えており、これらの解析を系統的に進めている研究チームは国内外においてまだ存在しない。

日本人の標準ゲノム配列は、今後の個人医療を実現するためには必要不可欠な基盤情報である。また、これまでにワトソン博士を始めとして 4 人の個人ゲノム配列が報告されており、本研究で得られた解析基盤を今後の個人ゲノム解析に適用し遺伝的多様性を明らかにすることにより、国際貢献ができるとともに医療への応用を目指したゲノム解析が飛躍的に進むことが予想される。

<達成できなかったこと、予想外の困難、その理由>霊長類ゲノム研究に関しては、2005 年9月にチンパンジー全

ゲノムの概要配列が Nature 誌に論文報告され、研究状況が一変したため、全般的な研究戦略の再検討が必要になった。また、Nature 誌の同号には別個体チンパンジーの Y 染色体解析結果が我々との申し合わせを無視する形で掲載されたため、前述したチンパンジー Y 染色体論文の投稿と修正に専念せざるを得ず、その分、戦略の再検討が遅れたことは否めない。テロメア領域、セントロメア領域についても、構造の複雑さが原因となり、データの再検討に時間を要している。

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哺乳類性染色体の比較ゲノム研究を進める上で、原始哺乳類とも言える有袋類の性染色体のゲノム情報は、祖先型染色体の推測を行う上で有用である。しかし、霊長類と有袋類では進化距離が離れているため、ゲノム構造の相同性が低く、Y 染色体の比較解析を行う上で対応領域の同定に苦労していた。今回、オーストラリアの研究チームと共同でタマーワラビー Y 染色体由来の BACクローンをアンカーポイントに、ゲノムライブラリのスクリーニングを行い、Y 染色体に位置する新規クローンの単離に成功した。それらのクローンのうち、遺伝子を含むクローンについては、クローンの高精度塩基配列決定を行い、ヒト、チンパンジーなど、高精度配列データが報告されている生物種の Y 染色体の配列と比較解析を行うべく、解析を進めている。また、今回解析を行った、タマーワラビー Y 染色体由来のクローンは、Y 染色体特異的反復配列を含むものが多く、さらに fiber-FISH 法によるゲノム構造解析の結果、複数種の Y 染色体特異的反復配列が存在し、それぞれが、数百 kb の領域に渡り、タンデムに反復していることがわかってきた。 

当初の予想以上にサブテロメア領域の解析が難航しており、未だにヒトゲノムの全テロメア領域のクローン化には至っていない。主要な原因はサブテロメア領域に染色体間で共有される領域が多いためにクローンの特定に手間取っていることと、おそらくはクローン化の時点でのバイアスと宿主大腸菌内での不安定化などが原因であろう。

<今後の課題、展望>これまで同定された DNA 構造の違いが日本人の集団では見い

だせない(疾患に関与していない)場合が多いため、独自に日本人ゲノム配列を決定する必要がある。そこで、HapMap プロジェクトで使用された JPT パネル(日本人由来)の細胞株を用いて一塩基多型(SNP)および構造多型などを検出し、その結果をデータベース化するとともにハプログループ間で比較する。

また今後、日本人の個人ゲノム解析を進めて行くうえで、ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針の改正や個人ゲノム解析研究の意義について国民のコンセンサスを得ることが必要である。また、情報管理体制の構築も早急に進めていく必要がある。

<研究期間の全成果公表リスト>論文1.0512010934

Takashi Suzuki, Tadasu Shin-I, Asao Fujiyama, Yuji Kohara, and Masanori Kasahara: Hagfish Leukocytes Express a Paired Receptor Family with a Variable Domain Resembling Those of Antigen Receptors. J Immunol. 174, 2885-2891 (2005).2.0601251800

Chad Nusbaum et al., including Asao Fujiyama (54 人中の 50 番目): DNA sequence and analysis of human chromosome 18. Nature

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Todd Taylor, Hideki Noguchi et al. including A. Toyoda, Y. Kuroki, A. Fujiyama, M. Hattori&Y. Sakaki et al.: Human chromosome 11 DNA sequence and analysis including novel gene identification, Nature 440, 497-500 (2006)5. 0701121356

Reply to "Has the chimpanzee Y chromosome been sequenced?", Nature Genetics 38, 854-855 (2006)6. 0612191237

Watanabe, M., Iwashita, M., Ishii, M., Kurachi, Y., Kawakami, A., Kondo, S., Okada, N. Spot pattern of leopard Danio is caused by mutation in the zebrafish connexin41.8 gene. EMBO Rep 7(9):893-7.(2006) 7.0612191244

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Kobayashi, N., Watanabe, M., Kijimoto, T., Fujimura, K., Nakazawa, M., Ikeo, K., Kohara, Y., Gojobori, T., Okada, N. magp4 gene may contribute to the diversification of cichlid morphs and their speciation. Gene 373, 126-133 (2006) 9.0702022029

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Kasahara M, Naruse K, Sasaki S, Nakatani Y, Qu W, Ahsan B, Yamada T, Nagayasu Y, Doi K, Kasai Y, Jindo T, Kobayashi D, Shimada A, Toyoda A, Kuroki Y, Fujiyama A, Sasaki T, Shimizu A, Asakawa S, Shimizu N, Hashimoto S, Yang J, Lee Y, Matsushima K, Sugano S, Sakaizumi M, Narita T, Ohishi K, Haga S, Ohta F, Nomoto H, Nogata K, Morishita T, Endo T, Shin-I T, Takeda H, Morishita S, Kohara Y.: The medaka draft genome and insights into vertebrate genome evolution. Nature 447, 714-719 (2007).11.0801270044

Ahsan B, Kobayashi D, Yamada T, Kasahara M, Sasaki S, Saito TL, Nagayasu Y, Doi K, Nakatani Y, Qu W, Jindo T, Shimada A, Naruse K, Toyoda A, Kuroki Y, Fujiyama A, Sasaki T, Shimizu A, Asakawa S, Shimizu N, Hashimoto S, Yang J, Lee Y, Matsushima K, Sugano S, Sakaizumi M, Narita T, Ohishi K, Haga S, Ohta F, Nomoto H, Nogata K, Morishita T, Endo T, Shin-I T, Takeda H, Kohara Y, Morishita S.: UTGB/medaka: genomic resource database for medaka biology. Nucleic Acids Research 36, D747-752 (2008)

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12.0801251617Stefan A. Rensing, Daniel Lang, Andreas D. Zimmer, Astrid

Terry, Asaf Salamov, Harris Shapiro, Tomoaki Nishiyama, Pierre-François Perroud, Erika Lindquist, Yasuko Kamisugi, Takako Tanahashi,, Keiko Sakakibara, Tomomichi Fujita, Kazuko Oishi, Tadasu Shin-I, Yoko Kuroki, Atsushi Toyoda, Yutaka Suzuki, Shin-ichi Hashimoto, Kazuo Yamaguchi,, Sumio Sugano, Yuji Kohara,, Asao Fujiyama et al.: The genome of the moss Physcomitrella patens reveals evolutionary insights into the conquest of land by plants. Science 319, 64-69 (2008)13.0806261537

Putnam NH, Butts T, Ferrier DE, Furlong RF, Hellsten U, Kawashima T, Robinson-Rechavi M, Shoguchi E, Terry A, Yu JK, Benito-Gutiérrez EL, Dubchak I, Garcia-Fernàndez J, Gibson-Brown JJ, Grigoriev IV, Horton AC, de Jong PJ, Jurka J, Kapitonov VV, Kohara Y, Kuroki Y, Lindquist E, Lucas S, Osoegawa K, Pennacchio LA, Salamov AA, Satou Y, Sauka-Spengler T, Schmutz J, Shin-I T, Toyoda A, Bronner-Fraser M, Fujiyama A, Holland LZ, Holland PW, Satoh N, Rokhsar DS. The amphioxus genome and the evolution of the chordate karyotype. Nature 453, 1064-1071 (2008) 14.0901150042

Kumagai H, Utsunomiya S, Nakamura S, Yamamoto R, Harada A, Kaji T, Hazama M, Ohashi T, Inami A, Ikegami T, Miyamoto K, Endo N, Yoshimi K, Toyoda A, Hattori M, Sakaki Y.: Large-scale microfabricated channel plates for high-throughput, fully automated DNA sequencing. Electrophoresis. 23, 4723-32 (2008)15. 0901140104

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Hongoh Y, Sharma VK, Prakash T, Noda S, Taylor TD, Kudo T, Sakaki Y, Toyoda A, Hattori M, Ohkuma M.: Complete genome of the uncultured Termite Group 1 bacteria in a single host protist cell. Proc Natl Acad Sci U S A. 105,:5555-60 (2008)

その他1.0601251808

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黒木陽子、野口英樹、豊田敦、藤山秋佐夫:ヒトゲノム配列決定の内容と意義、ヒトとチンパンジーの比較ゲノム、 蛋白質核酸酵素 50, 2073-2031 (2005) 共立出版3.0601271241

藤山秋佐夫:霊長類の比較ゲノム学、実験動物ニュース 55, 25-28 (2006) 日本実験動物学会4.0702141642

渡邉日出海、藤山秋佐夫 : ヒトへの進化のゲノム基盤、ヒト・霊長類の比較ゲノム解析、実験医学 25, 226-231(2007)羊土社5.0702141644

藤山 秋佐夫 : 生命の秘密に挑戦するゲノムインフォマティクス~人間とチンパンジーの違いを読み解く、情報通信ジャーナル 24, 30-31(2006) 情報通信学会

6.0707261149藤山秋佐夫、黒木陽子、豊田敦、野口英樹 :チンパンジーの Y

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藤山秋佐夫、黒木陽子、豊田敦、野口英樹:チンパンジーと人の違い、1.78%、 読売新聞 2006/06/048.0707261155

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藤山秋佐夫:ヒトとチンパンジーは近いか、遠いか 、 日経サイエンス 2007 / 06 / 25 10.0912271812

黒木陽子、藤山秋佐夫:ヒトーチンプ Y 染色体の常染色体よりも早い進化 male-driven evolution の可能性、遺伝 別冊 No20, 138-143 (2007) 裳華房 11.0912271815

黒木陽子、野口英樹、豊田敦、藤山秋佐夫:ヒトと霊長類の比較ゲノム:近縁種との比較から見るヒトゲノムの特徴、細胞工学別冊(比較ゲノム学から読み解く生命システム、監修 藤山秋佐夫) (2007) 秀潤社12.0912271816

豊田敦、藤山秋佐夫:次世代シークエンサーによるゲノム解読と今後の動向、実験医学 27、1929 - 1935 (2009) 羊土社13.0912271818

豊田敦、藤山秋佐夫:ゲノム再配列決定をいかに行なうか〈 特集 次世代高速シークエンサーの応用と情報解析 〉、蛋白質核酸酵素、54、1271-1275(2009) 共立出版14.0912271820

黒木陽子、藤山秋佐夫:ヒトとチンパンジーの比較からゲノム機能を解明する(特集 ゲノム機能の進化)、 実験医学、27、3087-3092 (2009) 羊土社