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電磁石を用いた砂鉄の位置制御による動的なサンドドローイング Producing Dynamic Sand Drawings by Controlling Iron Sand Movements with an Electromagnet 1W120365-8 登山 元気 指導教員 橋田 朋子 准教授 TOYAMA Genki Assoc. Prof. HASHIDA Tomoko 概要: 近年,実体ディスプレイが多く提案されているが,そのほとんどはピクセルの位置やスケールが固定さ れたままである.このことから本研究では,素材として砂に着目した.また,砂を用いた描画手法を「サンドド ローイング」と定義し,これらを組み合わせた新たな情報提示を目指した.関連研究における問題点から,実世 界の砂の位置を制御し,描画後の修正が可能なサンドドローイングの実現を目的とした.砂のかわりに砂鉄を用 い,電磁石の位置および磁力を制御することで,砂鉄そのものをダイナミックに動かすサンドドローイングのシ ステムを提案し,実装した.実装実験を行い,その結果から砂鉄の移動量の調整を行った.また,アプリケーシ ョンとして,単純図形と文字の描画,同一箇所での再描画,および描画物の部分修正の機能を実装した. キーワード:実体ディスプレイ,サンドドローイング,砂鉄,電磁石 Keywords: substantial display, sand drawing, iron sand, electromagnet 1.はじめに 近年,実世界に存在する物質をピクセルに見立 て情報提示を行う実体ディスプレイが多く提案 されている.しかし,これらのほとんどはピクセ ルの位置やスケールが固定されたままである.そ こで本研究では,素材として砂に着目した.砂は 一つ一つの粒子が非常に小さいため,風などの力 で簡単に動かすことができる.さらに,大量に集 まることで集団としてそのスケールを変更する ことができる.また,砂を用いた描画手法を「サ ンドドローイング」と定義し,これらを組み合わ せた新たな情報提示を目指した. サンドドローイングに関して,その一種である サンドアニメーションの生成シミュレーション の研究[1][2]や,実世界の砂面を移動してできる 軌跡により描画を行う研究[3][4]がこれまでに 行われてきた.しかし,これらの研究は実際の砂 を制御していない点や,描画後の同一箇所での再 描画や修正が難しい点が課題であった. 以上から本研究では,実世界の砂の位置を直接 制御し,かつ同一箇所での再描画や描画の修正が 可能なサンドドローイングの実現を目的とする. 2.提案手法 前章で述べた目的を満たすために,本研究では 砂鉄および電磁石に着目した.砂鉄の持つ磁性を 利用し,電磁石の位置および磁力を制御すること で,砂鉄そのものをダイナミックに動かし描画を 行うサンドドローイングのシステムを提案する. 3.システム実装 3.1 システム構成 図1に実装した本システムの構成図を示す.本 システムは大きく分けて,XY ステージ(L150, オリジナルマインド製)・電磁石・制御回路 (Arduino UNO, MEGA)・および制御ソフトウェア (openFrameworks)からなる駆動部と,砂鉄・キ ャンバス・カメラ(BSW20KM11BK,バッファロー 製)からなる筐体部により構成される.XY ステ ージ上の電磁石が磁力を変えながら平面移動す ることにより,キャンバス上の砂鉄を移動させて 描画を行う. 図1 システム構成図

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Page 1: 0128 rere abst toyama - intermedia...3.2 実装実験 システム実装に伴い,電磁石にかける電圧に対 してキャンバス上の砂鉄がどれほど移動するか

電磁石を用いた砂鉄の位置制御による動的なサンドドローイング

Producing Dynamic Sand Drawings by Controlling Iron Sand Movements with an Electromagnet

1W120365-8 登山 元気 指導教員 橋田 朋子 准教授

TOYAMA Genki Assoc. Prof. HASHIDA Tomoko

概要: 近年,実体ディスプレイが多く提案されているが,そのほとんどはピクセルの位置やスケールが固定さ

れたままである.このことから本研究では,素材として砂に着目した.また,砂を用いた描画手法を「サンドド

ローイング」と定義し,これらを組み合わせた新たな情報提示を目指した.関連研究における問題点から,実世

界の砂の位置を制御し,描画後の修正が可能なサンドドローイングの実現を目的とした.砂のかわりに砂鉄を用

い,電磁石の位置および磁力を制御することで,砂鉄そのものをダイナミックに動かすサンドドローイングのシ

ステムを提案し,実装した.実装実験を行い,その結果から砂鉄の移動量の調整を行った.また,アプリケーシ

ョンとして,単純図形と文字の描画,同一箇所での再描画,および描画物の部分修正の機能を実装した. キーワード:実体ディスプレイ,サンドドローイング,砂鉄,電磁石

Keywords: substantial display, sand drawing, iron sand, electromagnet

1.はじめに

近年,実世界に存在する物質をピクセルに見立

て情報提示を行う実体ディスプレイが多く提案

されている.しかし,これらのほとんどはピクセ

ルの位置やスケールが固定されたままである.そ

こで本研究では,素材として砂に着目した.砂は

一つ一つの粒子が非常に小さいため,風などの力

で簡単に動かすことができる.さらに,大量に集

まることで集団としてそのスケールを変更する

ことができる.また,砂を用いた描画手法を「サ

ンドドローイング」と定義し,これらを組み合わ

せた新たな情報提示を目指した.

サンドドローイングに関して,その一種である

サンドアニメーションの生成シミュレーション

の研究[1][2]や,実世界の砂面を移動してできる

軌跡により描画を行う研究[3][4]がこれまでに

行われてきた.しかし,これらの研究は実際の砂

を制御していない点や,描画後の同一箇所での再

描画や修正が難しい点が課題であった.

以上から本研究では,実世界の砂の位置を直接

制御し,かつ同一箇所での再描画や描画の修正が

可能なサンドドローイングの実現を目的とする.

2.提案手法

前章で述べた目的を満たすために,本研究では

砂鉄および電磁石に着目した.砂鉄の持つ磁性を

利用し,電磁石の位置および磁力を制御すること

で,砂鉄そのものをダイナミックに動かし描画を

行うサンドドローイングのシステムを提案する.

3.システム実装

3.1 システム構成

図1に実装した本システムの構成図を示す.本

システムは大きく分けて,XY ステージ(L150,

オリジナルマインド製)・電磁石・制御回路

(Arduino UNO, MEGA)・および制御ソフトウェア

(openFrameworks)からなる駆動部と,砂鉄・キ

ャンバス・カメラ(BSW20KM11BK,バッファロー

製)からなる筐体部により構成される.XY ステ

ージ上の電磁石が磁力を変えながら平面移動す

ることにより,キャンバス上の砂鉄を移動させて

描画を行う.

図1 システム構成図

Page 2: 0128 rere abst toyama - intermedia...3.2 実装実験 システム実装に伴い,電磁石にかける電圧に対 してキャンバス上の砂鉄がどれほど移動するか

3.2 実装実験

システム実装に伴い,電磁石にかける電圧に対

してキャンバス上の砂鉄がどれほど移動するか

を測定するため実装実験を行った.キャンバス上

の始点に砂鉄を円形に配置し,0[V]から 12[V]ま

での電圧をかけた電磁石を始点から終点まで

10[cm]平行移動させた.それにより終点まで移動

した砂鉄の集団を筐体上部のカメラで検出し,そ

の面積を測定した.その結果を図2に示す.この

図から,4[V]以下の電圧では砂鉄はほとんど移動

しないことがわかる.また,移動面積が増加し始

める 6[V]以上の範囲で移動量の調整を行えば良

いことがわかった.

4.アプリケーション

本システムのアプリケーションとして,

1.単純な図形および文字の描画

2.同一箇所での再描画

3.描画物の部分修正

の3点を実装した.その様子を図3に示す.

図3(a)左側では,単純な図形として直線・円・

三角形・四角形・任意曲線の描画を実装した.ま

た右側では,文字として,アルファベットの描画

を実装した.

図3(b)では,キャンバスの同一箇所での再描

画を行った.手順としては,変更前の描画物に変

更後の描画を上書きすることで行っている.

また図3(c)では,描画物の部分的な修正を行

った.カメラの映像から修正部分を判断し,電磁

石に PWM 制御を施して擬似的に電圧を変え,移動

させる砂鉄の量を調整して修正を行っている.こ

こでは,図左側の状態から,砂鉄の多い半円上部

では PWM 値を上げて砂鉄を移動させ,砂鉄の少な

い下部では PWM 値を下げて砂鉄をその場に置く

作業を繰り返すことで図右側の状態となる.

5.まとめと今後の展望

本研究では,実体ディスプレイにサンドドロー

イングを組み合わせた新たな情報提示を目指し

た.砂鉄と電磁石を用いることで,砂鉄がダイナ

ミックに動くサンドドローイングのシステムを

提案・実装した.また,本システムのアプリケー

ションとして,単純な図形および文字の描画,同

一箇所での再描画,描画物の部分修正の3点を実

装した.

今後の課題として,まず描画システムの改善が

挙げられる.具体的には,描画の高解像度化およ

び精度向上などである.また,ユーザとのインタ

ラクションも重要な要素である.展望としては,

砂としての特徴を活かし,ユーザの描画自体を入

力にしたインタフェースの提案などが考えられ

る.

参考文献

[1] 浦正広ら: テーブルトップインタフェースを

利用したサンドアニメーションの生成シミュレーショ

ン,芸術科学論文誌,Vo.10 No.2, 2011, pp.58-67.

[2] Rubaiat H.K. et al: SandCanvas: a multi-touch

art medium inspired by sand animation, In Proc.

CHI’11, 2011, pp.1283-1292.

[3] Ruofei D. et al: AtmoSPHERE: Representing Scape

and Movement Using Sand Tracing in an interactive

Zen Garden, In Proc. CHI EA’15, 2015,

pp.1627-1632.

[4] Beach Bot, http://www.beachbot.ch/, Accessed

in December, 2015.

図3 アプリケーション

(a)単純な図形および文字の描画,

(b)同一箇所での再描画,(c)描画物の部分修正

図2 電磁石の電圧と移動した砂鉄の面積の関係