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2012年度数学 I演習第 9回理 II・III 21 ~ 24組
11月 8日 清野和彦
問題 1. 次の広義積分が収束することを示し、値を計算せよ。
(1)
∫ ∞
1
1
x√
x2 − 1dx (2)
∫ 1
−1
x Arctan x√1 − x2
dx
(3)
∫ 3
0
1√|x(x − 2)|
dx (4)
∫ ∞
0
1
1 + x3dx
(5)
∫ ∞
1
log x
xndx (n = 2, 3, . . .)
問題 2. a > 0 とし、
Ia =
∫ 2
1
1
(x2 − 1)adx
とする。Ia は積分範囲の下側において広義積分である。
(1) a < 1 では Ia は収束することを証明せよ。
(2) a ≥ 1 では Ia は発散することを証明せよ。
問題 3. b > 0 とし、
Jb =
∫ ∞
1
1
(x2 + 1)bdx
とする。
(1) b > 12では Jb は収束することを証明せよ。
(2) b ≤ 12では Jb は発散することを証明せよ。
問題 4. 次の広義積分が収束するか発散するか判定せよ。(収束する場合でも、値は求めなくてよい。)
(1)
∫ ∞
1
sin1
xdx (2)
∫ ∞
1
sin1
x2dx
(3)
∫ ∞
0
1 − cos x
x2dx (4)
∫ ∞
2
1
log xdx
問題 5. 広義積分∫ ∞
0
sin x
xdx は収束するが、広義積分
∫ ∞
0
| sin x|x
dx は発散する
ことを証明せよ。この問題の前半(広義積分が収束することを示すこと)は講義の範囲を逸脱していたので削除してください。申し訳ありませんでした。
問題 6. 次の広義積分が収束することを示し、値を求めよ。
(1)
∫ ∞
0
e−ax sin bxdx (a > 0, b > 0) (2)
∫ π2
0
log(sin x)dx
問題 7. x > 0 に対し広義積分
Γ(x) =
∫ ∞
0
e−ttx−1dt
が収束することを示し、
Γ(1) = 1 と Γ(x + 1) = xΓ(x)
が成り立つことを証明せよ。(x > 0 を定義域とする 1変数関数 Γ(x) をガンマ関数と言います。)
問題 8. x > 0 と y > 0 に対し広義(かもしれない)積分
B(x, y) =
∫ 1
0
tx−1(1 − t)y−1dt
が収束することを示し、
B(x, y) = B(y, x) と B(x, y) = 2
∫ π2
0
sin2x−1 θ cos2y−1 θdθ
が成り立つことを証明せよ。(x > 0 かつ y > 0 を定義域とする 2変数関数 B(x, y) をベータ関数と言います。)
2012年度数学 I演習第 9回解答理 II・III 21 ~ 24組
11月 8日 清野和彦
目 次
1 広義積分とは:積分範囲の極限 1
1.1 なぜこんな当たり前っぽいものにわざわざ「広義積分」なんていう名前が付いてい
るのか . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 11.2 広義積分の定義 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 2
1.2.1 問題 1の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4
2 広義積分可能性の判定法 7
2.1 広義積分可能性の判定法 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 82.1.1 問題 2の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 102.1.2 問題 3の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 112.1.3 問題 4の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 12
2.2 絶対収束 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 132.2.1 問題 5の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 15
2.3 広義積分可能性と広義積分の値 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 162.3.1 問題 6の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 17
3 ガンマ関数とベータ関数 18
3.1 問題 7の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 183.2 問題 8の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 193.3 ガンマ関数とベータ関数について後に学ぶ(かもしれない)こと . . . . . . . . . . 20
1 広義積分とは:積分範囲の極限
1.1 なぜこんな当たり前っぽいものにわざわざ「広義積分」なんていう名前が付いているのか
もしかすると高校のとき、例えば∫ π2
π4
1sin2 θ
dθ =∫ π
2
π4
cos2 θ
sin2 θ
dθ
cos2 θ=∫ π
2
π4
1tan2 θ
tan′ θdθ =∫ ∞
1
1x2
dx =[− 1
x
]∞1
= 1 (1)
なんていう計算を当たり前にやってきたかも知れません。この計算のうち置換する前の θ につい
ての積分の部分は普通の定積分なのですが、置換したあとの x についての積分は定積分ではない
のです。
何が問題なのかというと、「リーマン和の極限としての定積分」は、有限区間上の有界な関数に
対してしか定義されていないということが問題なのです。実際、
第 9 回解答 2
[a, b] で定義された関数 f が有界でないなら、つまり、どんなに大きな M をとっても
|f(x)| > M を満たす x が [a, b] に存在するなら、f は積分可能でない
ということが(省略しますが)証明できてしまいますし、また、積分区間が無限区間の場合、例え
ば [0,∞) におけるリーマン和を考えようとしても、リーマン和というものが積分区間の有限個の小区間への分割によって定義されている以上、どう分割しても [b,∞) という無限の幅を持つ「小区間」が残ってしまって、それを底辺とする長方形の面積が考えられず、リーマン和そのものを定
義することができなくなってしまうわけです。
「そんな細かいこと気にすることないじゃん。(1)の計算に問題があるとはとても思えないし。」というのが自然な感想だと思いますが、定義していないものを使うわけにはいきません。そこをお
ろそかにしないことが数学の良心であり倫理なのですから。
それでは、リーマン和による定義を作り替えて、有界でない関数や有界でない積分区間にも適用
できるようにがんばってみようか、という元気な人もいるかも知れません。しかし、普通はそうは
考えないのではないでしょうか。そんな難しげなことをしなくても、もっと安直にいけるのではな
いだろうか、だって、(1)の計算っていかにも自然で指摘されなければまずいことがあることに気づきさえしなかったかも知れないし、という感じではないでしょうか。なぜそこまで (1)の計算を自然だと感じるのでしょうか? その理由を明らかにできれば、それを使って無限区間上の積分や有界でない関数の積分を上手く定義できるかも知れません。それが我々の広義積分です。
それでは節をかえて「自然な感じ」の源と、それを使った広義積分の定義を説明しましょう。
1.2 広義積分の定義
前節の最初にあげた (1)の計算において、θ を x に置換したあとの操作を詳しく書くと、
limR→+∞
∫ R
1
1x2
dx = limR→+∞
−1R
+ 1 = 1
というように積分区間について極限をとる操作をしていることがわかります。置換する前の定積分
ではそんなことをしていないのに、置換したあとの積分でそんな極限操作をしたら場合によっては
値が違ってしまうのではないだろうかと心配になってしまう人もいるかもしれません。つまり、
1 = limR→+∞
∫ R
1
1x2
dx = limR→+∞
∫ Arctan R
π4
1sin2 θ
dθ =∫ π
2
π4
1sin2 θ
dθ
という計算において、最後の等号が必ず成り立つのかどうかが気になるということです。
実は、積分される関数がどのようなものであってもこの等号は成り立ちます。前節で何度も言っ
た「自然な感じ」の根拠がまさにこれなのです。そして、このことは積分区間に関する積分の連続
性によって保証されています。� �[a, b] で定義された関数 f が積分可能なら、f は [a, b] に含まれる任意の閉区間上で積分可能
であって、F (x) =∫ x
a
f(t)dt とすると、F (x) は連続、特に
limx→b
F (x) = F (b) (2)
が成り立つ。� �というやつです。式 (2)があるので、直接
∫ b
af(x)dx が定義できなくても、左辺の極限 lim
x→bF (x)
第 9 回解答 3
が存在するときにはそれを「積分」として採用してしまえば置換積分ともうまく合うし自然でもあ
る、というわけです。
そこで、次のように定義します。� �定義 1. b を実数または +∞ とする。[a, b) に含まれる任意の有界閉区間上で積分可能な関数f に対し、もし
limr→b−0
∫ r
a
f(x)dx
が存在するならば、f は [a, b) で(広義)積分可能である、あるいは(広義)積分は収束するといい、誤解のおそれのないときには極限の記号を使わずに∫ b
a
f(x)dx
と書いてしまう。� �(a, b] で定義された関数についても同様に∫ b
a
f(x)dx = limr→a+0
∫ b
r
f(x)dx
と定義し、(a, b) で定義された関数については、任意の c ∈ (a, b) をとって∫ b
a
f(x)dx = limr→a+0
∫ c
r
f(x)dx + lims→b−0
∫ s
c
f(x)dx
と定義します。この場合注意しなければならないことは
limε→+0
∫ b−ε
a−ε
f(x)dx
のように、両端の極限の取り方を関連づけたときの極限が存在しても広義積分可能とは限らないこ
とです。例えば、
limR→+∞
∫ R
−R
xdx = limR→+∞
12(R2 − (−R)2
)= 0
ですが、もちろん
limR→+∞
∫ 0
−R
xdx + limS→+∞
∫ S
0
xdx
は確定しませんので広義積分可能ではありません。
面倒なので、以下では具体例を除いて [a, b), (b ∈ R または b = +∞)の場合しか書きませんが、(a, b], (a ∈ R または a = −∞)の場合にも対応することが成り立ちます。また、(a, b) の場合には a と b の間に任意に c をとって (a, c] と [c, b) に積分区間を分けて考えてください。例をやっておきましょう。当たり前みたいな例ですが、広義積分可能かどうかの一般的な判定方
法はこの関数との比較しかありません。
例 1.
(1)1
(b − x)µが [a, b) で広義積分可能なための必要十分条件は µ < 1
(2)1xλが [1, +∞) で広義積分可能なための必要十分条件は λ > 1
第 9 回解答 4
である。
証明. (1)
∫ r
a
1(b − x)µ
dx =
1
1 − µ
(1
(b − a)µ−1− 1
(b − r)µ−1
)µ ̸= 1
log(b − a) − log(b − r) µ = 1
ですので、広義積分可能、つまり r → b で収束するための必要十分条件は µ < 1 です。(2)
∫ R
1
1xλ
dx =
1
1 − λ
(1
Rλ−1− 1)
λ ̸= 1
log R λ = 1
ですので、広義積分可能、つまり R → ∞ で収束するための必要十分条件は λ > 1 です。 □
1.2.1 問題 1の解答
答は
(1)π
2(2)
(√2 − 1
)π (3) π + log
(2 +
√3)
(4)2π
3√
3(5)
1(n − 1)2
です。
すべて不定積分を計算できるものばかりです。ということは、例 1のように、値を計算することが同時に広義積分の収束を示すことにもなっています。なお、広義積分は定積分の極限ですので、
置換した変数を元に戻す必要はありません。高校で学んだ定積分の計算と同様に、勝手においたあ
なたの変数のまま計算すれば O.K. です。
(1) t = 1x と置換しましょう。∫ ∞
1
1x√
x2 − 1dx =
∫ 0
1
11t
√1t2 − 1
(− 1
t2
)dt =
∫ 1
0
1√1 − t2
dt
となります。ここで、さらに t = sin θ と置換しましょう。すると、∫ 1
0
1√1 − t2
dt =∫ π
2
0
1√1 − sin2 θ
sin′ θdθ =∫ π
2
0
1cos θ
cos θdθ =∫ π
2
0
1dθ =π
2
となります。((Arcsin t)′ = 1√1−t2
を覚えているなら、もちろんそれを使って結構です。) □
(2) まず、(−√
1 − x2)′
= x√1−x2 であることを利用して部分積分しましょう。∫ 1
−1
x Arctanx√1 − x2
dx =∫ 1
−1
(d
dx
(−√
1 − x2))
Arctan xdx
=[−√
1 − x2 Arctanx]1−1
−∫ 1
−1
(−√
1 − x2) d
dxArctanxdx =
∫ 1
−1
√1 − x2
1 + x2dx
第 9 回解答 5
となります。ここで、x = sin θ と置換しましょう。すると、∫ 1
−1
√1 − x2
1 + x2dx =
∫ π2
−π2
√1 − sin2 θ
1 + sin2 θsin′ θdθ =
∫ π2
−π2
cos2 θ
1 + sin2 θdθ
となります。さらに tan θ = t、すなわち θ = Arctan t と置換すると、∫ π2
−π2
cos2 θ
1 + sin2 θdθ =
∫ π2
−π2
11
cos2 θ + sin2 θcos2 θ
dθ =∫ π
2
−π2
1(1 + tan2 θ) + tan2 θ
dθ
=∫ ∞
−∞
11 + 2t2
d
dtArctan tdt =
∫ ∞
−∞
1(1 + 2t2)(1 + t2)
dt
となります。積分される関数が有理関数になったので、あとは部分分数分解すれば計算できます。∫ ∞
−∞
1(1 + 2t2)(1 + t2)
dt =∫ ∞
−∞
(2
1 + 2t2− 1
1 + t2
)dt = 2
∫ ∞
−∞
11 + 2t2
dt −∫ ∞
−∞
11 + t2
dt
となります。右辺の第 2項は、t = tan θ によって変数を元に戻すことで、∫ ∞
−∞
11 + t2
dt =∫ π
2
−π2
11 + tan2 θ
d
dθtan θdθ =
∫ π2
−π2
1dθ = π
と計算できます。((Arctan t)′ = 11+t2 を覚えているなら、もちろんそれを使って結構です。)第 1
項は、√
2t = tanφ と置換することで、∫ ∞
−∞
11 + 2t2
dt =∫ π
2
−π2
11 + tan2 φ
1√2
d
dφtanφdφ =
1√2
∫ π2
−π2
1dφ =π√2
と計算できます。((Arctan s)′ = 11+s2 を覚えているなら、もちろん s =
√2t という置換で結構で
す。)以上より、 ∫ 1
−1
x Arctanx√1 − x2
dx = 2π√2− π =
(√2 − 1
)π
となります。 □
(3) 積分される関数は x = 0 だけでなく x = 2 を定義域に含みませんので、(0, 2) での広義積分と (2, 3] での広義積分に分けて計算しなければならないことに注意してください。まず (0, 2) で積分しましょう。∫ 2
0
1√|x(x − 2)|
dx =∫ 2
0
1√2x − x2
dx =∫ 2
0
1√1 − (x − 1)2
dx
となりますので、x − 1 = sin θ と置換しましょう。すると、∫ 2
0
1√1 − (x − 1)2
dx =∫ π
2
−π2
1√1 − sin2 θ
d
dθ(sin θ + 1)dθ =
∫ π2
−π2
1cos θ
cos θdθ =∫ π
2
−π2
1dθ = π
となります。最後の積分は広義積分ではなく普通の定積分です。
次に (2, 3] で積分しましょう。∫ 3
2
1√|x(x − 2)|
dx =∫ 3
2
1√x2 − 2x
dx =∫ 3
2
1√(x − 1)2 − 1
dx
第 9 回解答 6
となりますので、x − 1 = cosh t = et+e−t
2 と置換しましょう。すると、
et = x − 1 ±√
(x − 1)2 − 1
ですので、たとえば復号で + を選ぶと、t についての積分範囲は 0 < t ≤ log(2 +√
3) となります。この範囲で sinh t > 0 です。よって、∫ 3
2
1√(x − 1)2 − 1
dx =∫ log(2+
√3)
0
1√cosh2 t − 1
d
dtcosh tdt =
∫ log(2+√
3)
0
1sinh t
sinh tdt
=∫ log(2+
√3)
0
1dt = log(2 +
√3)
となります。最後の積分は普通の定積分です。
この二つを足して、 ∫ 3
0
1√|x(x − 2)|
dx = π + log(2 +
√3)
となります。 □
(4) 有理関数の積分なので、部分分数分解をしましょう。
11 + x3
=1
(1 + x)(1 − x + x2)=
13
1 + x+
23 − 1
3x
1 − x + x2
=13
1 + x+
16 − 1
3x
1 − x + x2+
12
1 − x + x2=
13
11 + x
− 16
(1 − x + x2)′
1 − x + x2+
23
1
1 +(
2x−1√3
)2
となります。 ∫1
1 + xdx = log |1 + x|
です。また、t = 1 − x + x2 と置換すると、∫(1 − x + x2)′
1 − x + x2dx =
∫1tdt = log |t| = log(1 − x + x2)
です。さらに、s = 2x−1√3と置換すると、∫
1
1 +(
2x−1√3
)2 dx =∫
11 + s2
√3
2ds =
√3
2Arctan s =
√3
2Arctan
2x − 1√3
となります。((Arctan s)′ = 11+s2 を覚えていなくても、s = tan θ と置換すれば導けます。)以上
より、不定積分が∫1
1 + x3dx =
13
log |1 + x| − 16
log(1 − x + x2) +1√3
Arctan2x − 1√
3
=16
log1 + 2x + x2
1 − x + x2+
1√3
Arctan2x − 1√
3
と計算できます。よって、∫ ∞
0
11 + x3
dx = limx→∞
(16
log1 + 2x + x2
1 − x + x2+
1√3
Arctan(
2x − 1√3
))− 1
6log 1 − 1√
3Arctan
(− 1√
3
)= 0 +
π
2√
3− 0 +
π
6√
3=
2π
3√
3
第 9 回解答 7
となります。 □
(5) 部分積分によって積分される関数から log x を消し去りましょう。∫ ∞
1
log x
xndx =
∫ ∞
1
1xn
log xdx =[
−1n − 1
1xn−1
log x
]∞1
−∫ ∞
1
−1n − 1
1xn−1
1x
dx
=1
n − 1
∫ ∞
1
1xn
dx =1
n − 1
[−1
n − 11
xn−1
]∞1
=1
(n − 1)2
となります。ただし、任意の正実数 a に対し
limx→∞
log x
xa= 0
となることを使いました。(このことは x = et と置換してみればわかります。) □
2 広義積分可能性の判定法
上で見たように、原始関数が具体的に計算できてしまうような連続関数については、広義積分が
可能かどうかは単に関数の値の極限の問題です。しかし、原始関数の計算できる関数は限られてい
ますので、積分される関数だけを見て広義積分可能かどうかを判定できないと不便です。
さて、「広義積分可能」とは「ある種の極限が存在する」ことですが、その極限値が先に分かっ
ているということはあまりありません。それは数列が収束するかどうかを調べるときにも経験して
いることです。そういうとき、つまり
収束先は分からなくてもいいから収束するかどうかだけ知りたい
という場合には、例によって実数の連続性に頼ることになります。実数の連続性に基づく性質でこ
こで我々が頼りにするのは次です。� �定理 1. b を実数または ∞ とする。[a, b) で定義された関数 F (x) が(広義)単調増加で有界ならば lim
x→bF (x) が存在する。� �
証明. 単調に増加して b に収束する(b が ∞ のときは発散する)数列 (cn)n∈N を [a, b) に取ります。すなわち、
a ≤ c1 < c2 < c3 < · · · < cn−1 < cn < · · · < b limn→∞
cn = b
を満たす数列です。そして実数列 (Fn)n∈N を Fn = F (cn) で定義します。関数 F (x) は単調増加で有界なので、数列 (Fn)n∈N も単調増加で有界です。従って、実数の連続
性により数列 (Fn)n∈N は収束します。その極限値を C としましょう。以下、x → b のとき F (x)がこの C に収束することを証明します。
数列 (Fn)n∈N が C に収束していることを定義に従って書くと
∀ε > 0 ∃N ∈ N [n ≥ N =⇒ |Fn − C| < ε] (3)
です。この ε と N の組に対して
cN < x < b =⇒ |F (x) − C| < ε
第 9 回解答 8
が成り立つことを示しましょう。これは x → b のとき F (x) → C となることを意味しますので、
これが示せれば証明終了です。
F (x) は単調増加なのですから、cn < x ≤ cn+1 を満たす任意の x について Fn = F (cn) ≤F (x) ≤ F (cn+1) = Fn+1 が成り立っています。また、数列 (Fn)n∈N は単調に増加して C に収
束しているのですから、任意の n について Fn ≤ C です。すなわち、cn < x ≤ cn+1 ならば
Fn ≤ F (x) ≤ Fn+1 < C が成り立っています。このことから cn < x ≤ cn+1 ならば
|F (x) − C| = C − F (x) ≤ C − Fn = |Fn − C| (4)
となっていることがわかります。一方、数列 (cn)n∈N は単調に増加して b に収束しているので、x
がある m について cm < x < b を満たしているなら、cn < x ≤ cn+1 となる m 以上の n が存在
します。
以上を合わせると次のようになります。任意の正実数 ε が与えられたとし、式 (3) でその ε に対
応する自然数を N とします。x が cN < x < b を満たすとすると、N 以上の n で cn < x ≤ cn+1
を満たすものが存在しますので、式 (4)と式 (3)から
|F (x) − C| ≤ |Fn − C| < ε
が得られます。これで示せました。 □
2.1 広義積分可能性の判定法
定理 1を F (x) =∫ x
af(t)dt に適用することで広義積分が収束するための条件を導き出したいの
ですが、積分される関数が 0を中心にはげしく振動し最終的には打ち消しあって広義積分が確定するという状況はいかにも複雑で、一般的に利用可能な条件を作ることは難しそうです。そこで、
まずは f(x) が常に 0以上の場合だけ考えることにしましょう。(f(x) が常に 0以下の場合は f(x)の代わりに −f(x) を考えることで常に 0以上の場合に帰着できます。)f(x) の値が正にも負にもなる場合については第 2.2節で改めて考えることにします。さて、f(x) が常に 0以上なのですから F (x) =
∫ x
af(t)dt は自然に単調増加になります。だか
ら、∫ x
af(t)dt が有界であるための条件を f(x) に対する条件に言い換えられれば、定理 1から広
義積分の収束条件を引き出せます。
ところが、広義積分というのは [a, b) が有界なら f(x) は有界でなく、f(x) が有界なら [a, b) が有界でないという場合を考えているのですから、
∫ x
af(x)dx が有界であるための条件を 「f(x) が
有界である」というような単純なものに言い換えることはできません。仕方がないので、「関数の
満たすべき条件を別の関数で与える」という方法を使うことにします。� �定理 2 (比較定理). [a, b) を定義域とし任意の c ∈ [a, b) に対して [a, c] 上積分可能な二つの関数 f と g が
0 ≤ f(x) ≤ g(x) ∀x ∈ [a, b)
を満たすとき、g が [a, b) で広義積分可能なら f は [a, b) で広義積分可能である。� �関数 g を関数 f の優関数と呼ぶことがあります。
証明. 任意の x について f(x) ≤ g(x) が成り立っているので、∫ x
a
f(t)dt ≤∫ x
a
g(t)dt
第 9 回解答 9
も成り立っています。一方、g は値が常に 0以上なので∫ x
ag(t)dtは単調増加です。また、g は [a, b)
で広義積分可能と仮定していますので、その値を M としましょう。以上を合わせると、任意の x
について ∫ x
a
f(t)dt ≤∫ x
a
g(t)dt ≤∫ b
a
g(t)dt = M
の成り立つことがわかります。これは∫ x
af(t)dt という x の関数が [a, b) で有界であることを意味
しています。よって、定理 1により∫ x
af(t)dt は x → b としたとき収束する、すなわち f は [a, b)
で広義積分可能です。 □
証明はこれでよいとして、比較定理の言っていることをもっとイメージ的に説明すると、
0 ≤ f(x) ≤ g(x) が成り立っているとき、x 軸と f(x) に挟まれた部分の面積は x 軸と
g(x) に挟まれた部分の面積以下なのだから、x 軸と g(x) に挟まれた部分の面積がちゃんと(有限の値に)確定するなら x 軸と f(x) に挟まれた部分の面積も確定する
ということに過ぎません。広義積分の場合、「x 軸と f(x) に挟まれた部分」が(とっても細くなりながらも)無限にのびているので「面積」という言い方はアブナイかも知れませんが、比較定理
のイメージはこのように持っておくのがよいと思います。
なお、比較定理の結論で対偶を考えると
f が広義積分不可能ならば g も広義積分不可能
となります。つまり、比較定理は広義積分不可能性の判定にも使えるわけです。
さて、比較定理はあくまで一般論なので、具体的な f が与えられたとき、それの優関数 g をど
のようにとればよいかは全く教えてくれません。だから、この一般的な方法を上手く使うためには
優関数 g の「見つけ方」が欲しいところです。ところで、広義積分可能な具体的な関数といえば
例 1の関数です。これを比較定理や比較定理の対偶に適用すると次のようになります。まず積分範囲が有界の場合。� �[a, b) を定義域とする値が 0以上の関数 f が任意の c ∈ [a, b) に対して [a, c] で積分可能なとき、次が成り立つ。
(収束) µ < 1 を満たすある実数 µ とある正実数 A に対して [a, b) 上 f(x) ≤ A
(b − x)µが成
り立つなら f は [a, b) で広義積分可能である。
(発散) µ ≥ 1 を満たすある実数 µ とある正実数 A に対して [a, b) 上 f(x) ≥ A
(b − x)µが成
り立つなら f の [a, b) での広義積分は発散する。� �積分範囲が有界でない場合は次です。� �[a,∞) を定義域とする値が 0以上の関数 f が任意の c ∈ [a, +∞) に対して [a, c] で積分可能なとき、次が成り立つ。
(収束) λ > 1 を満たすある実数 λ とある正実数 A に対して [a,+∞) 上 f(x) ≤ A
xλが成り
立つなら f は [a,+∞) で広義積分可能である。
(発散) λ ≤ 1 を満たすある実数 λ とある正実数 A に対して [a,+∞) 上 f(x) ≥ A
xλが成り
立つなら f の [a,+∞) での広義積分は発散する。� �
第 9 回解答 10
これらは結構使いやすそうに見えますが、このような µ や λ をどうやって見つければよいのか、
という疑問は残るでしょう。残念ながらそれは case by case です。ただし、テイラーの定理を考えると上手く見つけられる場合がよくあります。例えば、x ≥ 0 のとき
ex = 1 + x + λ(x) λ(x) ≥ 0
から
ex2= 1 + x2 + λ(x2)
なので、
e−x2=
1ex2 =
11 + x2 + λ(x2)
<1x2
となって、 1x2 が e−x2
の優関数であるとわかるというわけです。
後述する今回の問題の解答も、この方法で µ や λ を見つけています。例えば、問題 2の (1)では積分範囲の端が 1のところでの収束を示したいので、(x − 1)µ と比較したいわけですから、問
題の関数とこのような形の関数を結びつけたいわけです。だから x = 1 を中心としてテイラーの定理を考えてみるべきです。実際、
x2 − 1 = 0 + 2(x − 1) + (x − 1)2
という展開から1
x2 − 1=
10 + 2(x − 1) + (x − 1)2
≤ 12(x − 1)
≤ 1x − 1
が得られます。これと同じことをあらわにはテイラーの定理を見せずやったのが後述の解答です。
問題 3の (1)も同様です。
2.1.1 問題 2の解答
(1) 1 < x において
x2 − 1 = (x + 1)(x − 1) > x − 1 > 0
が成り立っていますので、逆数を取っても不等号の向きは変わらず、
0 <1
x2 − 1<
1x − 1
です。a > 0 ですから全体を a 乗してもやはり不等号の向きは変わらず、
0 <1
(x2 − 1)a<
1(x − 1)a
(5)
となります。a < 1 では右辺の関数の (1, 2] における広義積分は収束します。すなわち問題の関数の優関数になっています。これで a < 1 では広義積分 Ia は収束することが示せました。 □
注意. 問題では a > 0 という条件を付けておきましたが、a ≤ 0 のときは被積分関数は x = 1 まで連続な関数ですので、積分 Ia は広義積分ではなく普通の積分です。しかも連続関数はすべて積分可能ですので、この場合も積分可能です。★
(2) a = 1 のとき、0 < ε < 1 を満たす任意の実数 ε に対して、∫ 2
1+ε
1x2 − 1
dx =∫ 2
1+ε
( 12
x − 1−
12
x + 1
)dx =
[12
log |x − 1| − 12
log |x + 1|]21+ε
=12
log 1 − 12
log 3 − 12
log ε +12
log(2 + ε) ε→0−−−→ +∞
第 9 回解答 11
となって、広義積分 I1 は発散します。
a > 1 とします。1 < x ≤√
2 では 0 < x2 − 1 ≤ 1 なので、
(x2 − 1)a < x2 − 1
ですから、逆数を取ると1
(x2 − 1)a≥ 1
x2 − 1
となります。よって、 ∫ √2
1+ε
1(x2 − 1)a
dx ≥∫ √
2
1+ε
1x2 − 1
dxε→0−−−→ +∞
となって (1,√
2] での広義積分は発散します。広義積分の収束発散の定義より、(1, 2] での広義積分 Ia も発散ということになります。 □
2.1.2 問題 3の解答
(1) 任意の x について
x2 + 1 > x2 > 0
が成り立っていますので、逆数を取って
0 <1
x2 + 1<
1x2
が得られます。b > 12 > 0 ですから全体を b 乗しても不等号の向きは変わらず、
0 <1
(x2 + 1)b<
1x2b
(6)
となります。2b > 1 のとき右辺の [1,∞) における広義積分は収束します。つまり、b > 12 のとき
右辺の関数は問題の関数の優関数になっています。これで b > 12 では広義積分 Jb は収束すること
が示せました。 □
(2) x > 0 のとき、x2 + 1 < x2 + 2x + 1 = (x + 1)2
なので、 √x2 + 1 < x + 1
です。逆数を取って、1√
x2 + 1>
1x + 1
が得られます。これを [1, R] で積分すると、∫ R
1
1√x2 + 1
dx >
∫ R
1
1x + 1
dx
という不等式が得られますが、∫ R
1
1x + 1
dx = log(R + 1) − log 2 R→+∞−−−−−→ +∞
第 9 回解答 12
と右辺は発散しますので、左辺も発散します。これで J 12は発散することが示せました。
b < 12 としましょう。すると、
(x2 + 1)b <√
x2 + 1
となりますので、 ∫ R
1
1(x2 + 1)b
dx >
∫ R
1
1√x2 + 1
dx
となります。ところが、右辺で R → +∞ としたもの、つまり J 12が発散することを既に示しまし
たので、左辺も R → +∞ のとき発散します。これで b < 12 のときにも Jb が発散することが示せ
ました。 □
注意. 問題では b > 0 という条件を付けておきましたが、b ≤ 0 のときは被積分関数は x → ∞ で無限大に発散する関数ですので、広義積分 Jb も当然発散します。★
2.1.3 問題 4の解答
答は (1)と (4)が発散で (2)と (3)は収束です。
(1) 積分範囲の下側では普通の定積分ですので、上側だけが問題です。平均値の定理を [0, t] に対して使うと、
sin t = (cos θt)t
となる θ が (0, 1) にあることがわかります。これに t = 1x を代入すると、
sin1x
=cos θ
x
x
が得られます。積分範囲は x > 1 ですので、0 < θ < 1 と合わせてこの範囲で 0 < θx < 1 < π
2 と
なっています。よって、x > 1 において
cosθ
x> cos 1 > 0
であり、
sin1x
>cos 1
x
が成り立ちます。右辺の関数の [1,∞) における広義積分は発散しますので、問題の広義積分も発散します。 □
(2) これも積分範囲の下側では普通の定積分ですので、上側だけが問題です。テイラーの定理を 0を中心にして 2次で使うと、
sin t = t − cos θt
3!t3
となる θ が (0, 1) にあることがわかります。これに t = 1x2 を代入すると、
sin1x2
=1x2
−cos θ
x2
3!x6
が得られます。今、x > 1 かつ 0 < θ < 1 なので、0 < θx2 < 1 < π
2 ですから、cos θx2 は正です。
よって、
0 < sin1x2
<1x2
第 9 回解答 13
が得られます。右辺の関数の [1,∞) における広義積分は収束しますので、問題の広義積分も収束します。 □
(3) これは一見積分範囲の下側でも広義積分であるように見えます。しかし、テイラーの定理に
より
cos x = 1 − x2
2+ λ(x) lim
x→0
λ(x)x2
= 0
が成り立っていますので、
limx→0
1 − cos x
x2= lim
x→0
1 −(1 − x2
2 + λ(x))
x2=
12
というように収束しています。よって、積分される関数は x = 0 まで連続に拡張可能であり、積分範囲の下側では広義積分ではありません。
上側の広義積分が収束することは、
0 ≤ 1 − cos x
x2≤ 2
x2
であって、右辺の関数はたとえば [1,∞) で広義積分可能であることから従います。 □
(4) テイラーの定理により、
ex = 1 + x +eθx
2x2 (0 < θ < 1)
となる θ があります。よって、x > 0 のとき
ex > x
が成り立ちます。両辺の対数を取ると、
x > log x
が得られます。x > 1 とすると、両辺とも正ですので
1x
<1
log x
となります。左辺の広義積分は ∫ ∞
2
1x
dx =[log x
]∞2
= ∞
となって発散しますので、右辺の広義積分も発散します。 □
2.2 絶対収束
ここまでは積分される関数 f(x) が常に 0以上の場合だけ考えてきました。この節では、ここまでに考えてきたことを値が正にも負にもなる関数に適用することを考えてみましょう。
とにかくここまでは値が 0以上の関数しか相手にしてこなかったのですから、一般の関数を値が0以上の関数に「変身」させてこれまでの議論を適用するしかないでしょう。そのような「変身」は簡単にできます。絶対値をとった関数 |f(x)| を考えてしまえばよいのです。
第 9 回解答 14
まず広義積分が「絶対収束する」ということを次のように定義します。� �定義 2. |f | が [a, b) で広義積分可能なとき、f は絶対広義積分可能1である、あるいは(広義)
積分は絶対収束すると言う。� �|f | は値が常に 0以上なのですから、|f | の広義積分可能性については今までの議論をすべて適用することができます。
もちろん、我々が本当に判定したいのは |f | ではなく f の広義積分可能性です。ご安心くださ
い。次が成り立ちます。� �定理 3. [a, b) を定義域とし任意の c ∈ [a, b) に対して [a, c] で積分可能な関数 f は、|f | が[a, b) で広義積分可能ならば f 自身も [a, b) で広義積分可能である。� �
証明. 関数 f から二つの関数 f+ と f− を
f+(x) =|f(x)| + f(x)
2f−(x) =
|f(x)| − f(x)2
によって作ります。つまり、f+ の方は f(x) の値が正のところでは f(x) のまま、負のところでは 0 としたもの、f− の方は f(x) の値が正のところでは 0 とし、負のところでは −f(x) としたものです。だから、f+, f− とも値は常に 0以上であり、任意の x について f+(x) ≤ |f(x)| とf−(x) ≤ |f(x)| が成り立ちます。今 |f | は [a, b) で広義積分可能と仮定しているのですから、比較定理により f+ や f− も [a, b) で広義積分可能です。f+ と f− の定義から f(x) = f+(x) − f−(x)となっていますので、f も [a, b) で広義積分可能です。 □
広義積分が絶対収束することは広義積分可能であるための十分条件だというわけです。これで正
にも負にもなる一般の関数の広義積分可能性を判定する方法が得られました。つまり |f | に前節の議論を適用すればよいのです。
とは言え、絶対収束はしないが収束はする広義積分も存在します。問題 5の関数が例です。(解答はあとで書きます。)それなら、絶対収束を使わない広義積分可の収束判定法が欲しいと思うの
が人情でしょう。しかし、そのような一般的な判定法を得ることは大変難しいのです。上の証明で
使った分解を利用して広義積分が絶対収束する場合としない場合の違いを見てみることで、その難
しさを説明してみましょう。
f+(x) + f−(x) = |f(x)| f+(x) − f−(x) = f(x)
なのですから、 ∫ b
a
|f(x)|dx =∫ b
a
f+(x)dx +∫ b
a
f−(x)dx∫ b
a
f(x)dx =∫ b
a
f+(x)dx −∫ b
a
f−(x)dx
となっています。ここで、f+ や f− の定義から、∫ b
af+(x)dx は f のグラフの x 軸より上側の部
分の面積、∫ b
af−(x)dx は x 軸より下側の部分の面積(「負」で考えない普通の正の面積)です。
だから、広義積分が絶対収束するということは
1こちらの言い方はこのプリントだけの用語です、たぶん。
第 9 回解答 15
x 軸より上側の面積も下側の面積も有限
ということを意味します。この場合、f の広義積分は有限な値(x 軸より上側の面積)から有限な
値(x 軸より下側の面積)を引いたものとして確定するというわけで、「有限-有限」ですから大
変扱い易そうです。
もし、f+ の広義積分と f− の広義積分の片方が収束し片方が発散しているなら、二つの和も差
も発散してしまうので広義積分も絶対広義積分も発散です。つまり、例えば x 軸より下側の面積
は有限なのに上側の面積が無限大に発散してしまっているなら、両方の面積を合わせたものも差し
引きしたものも無限大だというわけです。
最後に残るのが f+ も f− も無限大に発散している場合です。この場合は和は当然発散してしま
いますので絶対広義積分は不可能です。しかし、差の方は「無限大-無限大」が上手いこと釣り
合って有限の値になってしまうことがあります。もちろん「無限大-無限大」は正の無限大になる
場合も負の無限大になる場合もあるのですから、これが有限の値になるというのはとても微妙な危
ういバランスの成り立っている場合に限ります。
こういうわけなので、絶対収束はしないが収束はする広義積分について使いやすい判定法を得る
のは諦めざるを得ないのです。
この節の最後に一つだけ
絶対広義積分可能でないが広義積分可能な関数
の例を見ておきましょう。問題 5です。
2.2.1 問題 5の解答
x → +0 のとき sin xx も | sin x|
x も 1に収束するので、どちらの広義積分も被積分関数は x = 0 まで連続に拡張されます。よって、どちらの場合も積分範囲の下端 0では広義積分ではありません。
——————– ここから講義の範囲外です。 ——————–
まず∫∞0
sin xx dx が収束することを示しましょう。部分積分により任意の二つの正実数 s < t に
対して ∣∣∣∣∫ t
s
sinx
xdx
∣∣∣∣ = ∣∣∣∣[−cos x
x
]ts−∫ t
s
cos x
x2dx
∣∣∣∣ ≤ | cos t|t
+| cos s|
s+∫ t
s
| cos x|x2
dx
≤ 1t
+1s
+∫ t
s
1x2
dx =1t
+1s− 1
t+
1s
=2s
が得られます。よって、与えられた正実数 ε に対し c を 2ε より大きくとれば、c < s < t を満た
す任意の二つの実数 s, t に対して ∣∣∣∣∫ t
s
sinx
xdx
∣∣∣∣ ≤ 2s
< ε
が成り立つことがわかります。このようにコーシーの収束条件の条件を満たすことが確かめられた
ので、この広義積分は収束します。
——————– ここまで講義の範囲外です。 ——————–
第 9 回解答 16
次に∫∞0
| sin x|x dxが発散することを示しましょう。任意の(大きな)正実数 R に対して R ≥ Nπ
となる自然数 N を一つとります。すると、∫ R
0
| sinx|x
dx ≥∫ Nπ
0
| sinx|x
dx =N∑
n=1
∫ nπ
(n−1)π
| sinx|x
dx =N∑
n=1
∫ π
0
sin x
x + (n − 1)πdx
>N∑
n=1
∫ π
0
sinx
nπdx =
2π
N∑n=1
1n
=2π
N∑n=1
∫ 1
0
1n
dt >2π
N∑n=1
∫ 1
0
1n + t
dt
=2π
∫ N
1
1tdt =
2π
[log t
]N1
=2π
log N
となります。N → ∞ のとき log N → ∞ ですので、R → ∞ とすると∫ R
0| sin x|
x dx → ∞ となり
ます。つまり、広義積分∫∞0
| sinx|xdx は発散します。(図 1の三角形の面積 1
2n−1 の和と比較することによっても示せます。) □� �
nπ(n − 1)π 2n − 12
π
高さ2
(2n − 1)π
図 1: | sin x|x のグラフより面積の小さい三角形� �
注意. この広義積分が収束することを講義の範囲内で証明しようと試みましたが、できませんでした。広義積分の収束について講義で学んだことは広義積分が絶対収束する場合にしか適用できないことですので、講義の範囲内でこの問題の広義積分の収束を証明することはできないのではないかと思います。★
2.3 広義積分可能性と広義積分の値
漸化式で定義された数列の極限値の計算で、数列が収束することと極限値の計算を別に行わなけ
ればならないということがあります。例えば、
an+1 =an
2 + 12
という漸化式を満たす数列 {an}∞n=1 は、その極限値を a∞ とすると、
a∞ =a∞
2 + 12
すなわち、
a∞2 − 2a∞ + 1 = 0
を満たすので、a∞ = 1 です。しかし、例えば a1 > 1 だとこの数列は収束しません。無限大に発散してしまいます。だから a∞ = 1 であることを示すには、a∞ が存在することを別に示しておか
なければなりません。
第 9 回解答 17
数列の収束が実数の連続性によって保証されているが為にこのようなことが起きるわけです。「収
束が実数の連続性によって保証されている」という状況は原始関数をあらわには計算できない場
合の広義積分でも同じです。ですので、広義積分においても収束を示すことと積分値を計算するこ
とを別に行わなければならないということがあり得ます。そのような例として問題 6を出題しました。
2.3.1 問題 6の解答
(1) まず、この広義積分が収束していることを示しましょう。任意の x について | sin bx| ≤ 1 ですので、|e−ax sin bx| ≤ e−ax が成り立っています。一方、a > 0 ですので、∫ ∞
0
e−axdx =[−1
ae−ax
]∞0
= 0 −(−1
a
)=
1a
となって収束しています。すなわち、e−ax は e−ax sin bx の優関数です。よって、比較定理により
問題の広義積分も収束します。
次に、広義積分の値を計算しましょう。
I =∫ ∞
0
e−ax sin bxdx
とおきます。(− 1
ae−ax)′ = e−ax ですので、部分積分により
I =[−1
ae−ax sin bx
]∞0
−∫ ∞
0
(−1
ae−ax
)d
dxsin bxdx =
b
a
∫ ∞
0
e−ax cos bxdx
となります。同様にしてもう一度部分積分をすると、
I =b
a
[−1
ae−ax cos bx
]∞0
− b
a
∫ ∞
0
(−1
ae−ax
)d
dxcos bxdx
=b
a
1a− b
a
b
a
∫ ∞
0
e−ax sin bxdx =b
a2− b2
a2I
が得られます。よって、
I =b
a2
11 + b2
a2
=b
a2 + b2
です。 □
(2) まず、
log(sinx) = log(
sinx
x
)− log x
と分解しましょう。右辺の第 1項は x → 0 のとき log 1 = 0 に収束するので x = 0 まで連続関数として拡張されます。よって、問題の広義積分が可能であることと log x の広義積分が可能である
ことは同値です。log x の広義積分を実際に計算してみると、∫ π2
0
log xdx =[x log x − x
]π2
0=
π
2log
π
2− π
2− lim
x→+0x log x
となりますが、x = e−t と置換すれば、
limx→+0
x log x = limt→+∞
−t
et= 0
第 9 回解答 18
となることがわかるので、この広義積分は収束します。これで問題の広義積分の収束が示せました。
次に値を求めましょう。求める値を I とおくことにします。x = π − y と置換することにより、
I =∫ π
2
0
log(sinx)dx =∫ π
2
π
log(sin(π − y))(−1)dy =∫ π
π2
log(sin y)dy
および、x = π2 − z と置換することにより、
I =∫ π
2
0
log(sinx)dx =∫ 0
π2
log(sin(π
2− z))
(−1)dz =∫ π
2
0
log(cos z)dz
となります。以上を使うと、
I =12
(∫ π2
0
log(sinx)dx +∫ π
π2
log(sinx)dx
)=
12
∫ π
0
log(sin x)dx =12
∫ π2
0
log(sin 2t)2dt
=∫ π
2
0
log(2 sin t cos t)dt =∫ π
2
0
log 2dt +∫ π
2
0
log(sin t)dt +∫ π
2
0
log(cos t)dt =π
2log 2 + I + I
となります。(三番目の等号で x = 2t と置換しました。)よって、
I = −π
2log 2
です。 □
3 ガンマ関数とベータ関数
広義積分を使って定義される重要な関数に、ガンマ関数とベータ関数があります。物理や工学な
どで活躍するとても重要な関数ですので、定義と基本的な性質を少し紹介することにしました。そ
れが問題 7と問題 8です。
3.1 問題 7の解答
x < 1 のときには積分区間の下の端 0も広義積分ですので、∫ 1
0
e−ttx−1dt +∫ ∞
1
e−ttx−1dt
と分けて考えましょう。
第 2項については、任意の a に対して
limt→∞
ta
et= 0
であることから、例えば
0 < e−ttx−1 <K
t2
が [1,∞) で成り立つ K が存在します。よって、比較定理により、[1,∞) における広義積分は任意の x について収束します。
0 < x < 1 のときは 1 − x < 1 で、(0, 1] 上
0 < e−ttx−1 <1
t1−x
第 9 回解答 19
が成り立ちます。よって、比較定理により、(0, 1] における広義積分も収束します。x = 1 を代入すると
Γ(1) =∫ ∞
0
e−tdt =[−e−t
]∞0
= 1
です。
また、部分積分により
Γ(x) =∫ ∞
0
e−ttx−1dt =[e−t t
x
x
]∞0
−∫ ∞
0
(−e−t
) tx
xdt =
1x
∫ ∞
0
e−ttx+1−1dt =1x
Γ(x + 1)
となります。 □
Γ(x + 1) = xΓ(x) であることから、n を自然数とすると
Γ(n) = (n − 1)Γ(n − 1) = (n − 1)(n − 2)Γ(n − 2) = · · · = (n − 1)(n − 2) · · · 2 · 1Γ(1) = (n − 1)!
となることがわかります。すなわち、ガンマ関数は階乗という演算を正実数に拡張したものになっ
ているのです。
3.2 問題 8の解答
積分区間の両端とも広義積分になる可能性があるので、∫ 1
0
tx−1(1 − t)y−1dt =∫ 1
2
0
tx−1(1 − t)y−1dt +∫ 1
12
tx−1(1 − t)y−1dt
と分けて考えましょう。
右辺の第 1項は x < 1 のとき t = 0 で広義積分です。(0, 12 ] 内の任意の t に対して
0 < tx−1(1 − t)y−1 <1
t1−x
が成り立っています。x > 0 なら 1− x < 1 なので、比較定理により (0, 12 ] における広義積分は収
束します。
同様に、第 2項についても 0 < y < 1 のとき、
0 < tx−1(1 − t)y−1 <1
(1 − t)1−y
が成り立っていることから収束します。
s = 1 − t と置換すると、
B(x, y) =∫ 1
0
tx−1(1 − t)y−1dt =∫ 0
1
(1 − s)x−1sy−1(−1)ds =∫ 1
0
sy−1(1 − s)x−1ds = B(y, x)
となります。
また、t = sin2 θ と置換すると、
B(x, y) =∫ 1
0
tx−1(1 − t)y−1dt =∫ π
2
0
(sin2 θ
)x−1 (1 − sin2 θ
)y−12 sin θ cos θdθ
= 2∫ π
2
0
sin2x−1 θ cos2y−1 θdθ
となります。 □
第 9 回解答 20
3.3 ガンマ関数とベータ関数について後に学ぶ(かもしれない)こと
「関数」という単語を聞くと、普通多項式や三角関数、指数関数など、およびそれらを足したり
掛けたり合成したりしたものを思い浮かべるでしょう。このような「式で書ける」関数のことを初
等関数と言います。実は、ガンマ関数とベータ関数は初等関数ではないことが知られています。つ
まり、ガンマ関数とベータ関数は式で書くことができないわけです。初等関数でない以上、定義に
出てくる積分をはずすことができません。だから、ガンマ関数やベータ関数の性質は積分記号を背
負ったまま調べていかなければならないことになります。そのとき、(広義)積分と極限や微分の
順序交換をしなければならなくなりますが、それは二つ、あるいは三つの極限の順序を入れ替える
ことに当たるので、無条件ではできません。ですので、これらの関数の連続性や微分可能性につい
ては、積分と極限や微分の順序交換を学んでから調べることになります。
また、ガンマ関数の具体的な値として
Γ(
12
)=
√π
が大変重要であり、さらに、ガンマ関数とベータ関数の間には
B(x, y) =Γ(x)Γ(y)Γ(x + y)
という関係がありますが、これらのことを証明するには 2変数関数の重積分の変数変換公式を使うのが簡単ですので、それを学んでから証明を紹介することにします。
問題 8で示したもらったように、ベータ関数はよく見かける形の三角関数の積分になっています。このことからベータ関数は物理や工学などのいろいろな場面で現れてきます。このことに上で
紹介したガンマ関数とベータ関数の関係を使うと、三角関数の積分が階乗と関連づけられることが
わかります。例えば∫ π2
0
sin2n θdθ =∫ π
2
0
sin2(n+ 12 )−1 θ cos2
12−1 θdθ =
12B
(n +
12,12
)=
12
Γ(n + 1
2
)Γ(
12
)Γ (n + 1)
=
(n − 1
2
) (n − 3
2
)· · · 1
2Γ(
12
)Γ(
12
)2(n!)
=(2n − 1)(2n − 3) · · · 3 · 1π
2n−12(n!)=
(2n − 1)(2n − 3) · · · 3 · 12n(2n − 2) · · · 4 · 2
π
および、∫ π2
0
sin2n+1 θdθ =∫ π
2
0
sin2(n+1)−1 θ cos212−1 θdθ =
12B
(n + 1,
12
)=
12
Γ(n + 1)Γ(
12
)Γ(n + 3
2
)=
n!Γ(
12
)2(n + 1
2
) (n − 1
2
)· · · 1
2Γ(
12
) =2n(n!)
(2n + 1)(2n − 1) · · · 3 · 1=
2n(2n − 2) · · · 4 · 2(2n + 1)(2n − 1) · · · 5 · 3
となります。より具体的には、∫ π2
0
sin3 θdθ =23
∫ π2
0
sin4 θdθ =38π∫ π
2
0
sin5 θdθ =815
∫ π2
0
sin6 θdθ =1548
π∫ π2
0
sin7 θdθ =1635
∫ π2
0
sin8 θdθ =35128
π∫ π2
0
sin9 θdθ =128315
∫ π2
0
sin10 θdθ =63256
π
などです。