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13 第三章 ヒアリング調査の結果 本研究では,調査対象事例の具体的な活動内容や連携のきっかけ,参加企業が活動を継 続できている理由などを把握するために,対象事例の主要な参加企業の関係者を中心にヒ アリング調査を実施した. 本章では,同調査の結果について,対象事例の主要な参加企業ごとにまとめる.なお, 「栗見出在家町魚のゆりかご水田プロジェクト」と「工部の部材を有効活用した琵琶湖の 生物多様性保全活動」の 2 事例に関しては,活動の主となった企業がいずれも積水化学工 業株式会社滋賀栗東工場であるため,ひとつにまとめて報告する. 3-1 ヒアリング調査の概要 本研究で実施したヒアリング調査の概要を表 3-1 に,質問項目を表 3-2 に示す. 3-1 に示すように,調査期間は 2015 11 月から 2017 2 月である.調査は,調査対 象事例における主要な企業の担当者や活動のための連携のきっかけに関わった人物などを 対象者として,対面での聞き取り調査で行った.また,表 3-2 に示すように,質問として は,活動の内容や連携のきっかけ,参加企業が活動を継続できている理由などについて尋 ねた.

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第三章 ヒアリング調査の結果

本研究では,調査対象事例の具体的な活動内容や連携のきっかけ,参加企業が活動を継

続できている理由などを把握するために,対象事例の主要な参加企業の関係者を中心にヒ

アリング調査を実施した.

本章では,同調査の結果について,対象事例の主要な参加企業ごとにまとめる.なお,

「栗見出在家町魚のゆりかご水田プロジェクト」と「工部の部材を有効活用した琵琶湖の

生物多様性保全活動」の 2 事例に関しては,活動の主となった企業がいずれも積水化学工

業株式会社滋賀栗東工場であるため,ひとつにまとめて報告する.

3-1 ヒアリング調査の概要

本研究で実施したヒアリング調査の概要を表 3-1 に,質問項目を表 3-2 に示す.

表 3-1 に示すように,調査期間は 2015 年 11 月から 2017 年 2 月である.調査は,調査対

象事例における主要な企業の担当者や活動のための連携のきっかけに関わった人物などを

対象者として,対面での聞き取り調査で行った.また,表 3-2 に示すように,質問として

は,活動の内容や連携のきっかけ,参加企業が活動を継続できている理由などについて尋

ねた.

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表 3-1 ヒアリング調査の概要 活動名 実施日 対象者

湖南企業いきもの応援団

2015/11/4 日本ガラストロニクス株式会社 取締役会長 (湖南企業いきもの応援団初代団長)桂賢氏

2015/11/18 草津市役所環境課参与 宮城成和氏 2015/11/20 琵琶湖博物館 専門学芸員 中井克樹氏 2015/12/7 結・社会デザイン事務所 代表 菊池玲奈氏

家棟川で 生態回廊の再生

~ビワマスが遡上する川に~

2016/6/28 TOTO 株式会社滋賀工場 総務グループ 旭光輝氏 木田伊久美氏

2016/9/1 NPO 法人家棟川流域観光船 顧問 北出肇氏 田村山の

カスミサンショウウオを 次世代に伝える

2016/2/22 長浜バイオ大学 教授 齊藤修氏

2016/3/15 長住建設株式会社 取締役会長 松居繁隆氏

栗見出在家町 魚のゆりかご水田プロジェクト /工部の部材を有効活用した 琵琶湖の生物多様性保全活動

2016/3/31 積水化学工業株式会社滋賀栗東工場 安全環境課 藤本浩司氏

イチモンジタナゴの 保護繁殖活動

2016/2/8 オムロン株式会社野洲事業所 グローバル人材総務本部 小野健一氏

~食べることが守ること~ 里山の食彩&

山野草プロジェクト

2016/6/23

京阪ホテルズ&リゾーツ株式会社 琵琶湖ホテル コミュニケーション推進室 大林令湖氏 副総支配人 前田義和氏

2017/2/13 畑棚田保存会 林典男氏 注: が調査対象事例の主要参加企業・事業所を表す.

表 3-2 ヒアリング調査の質問項目 1.対象事例の活動について ・具体的な活動内容 ・活動の沿革 2.主要な参加企業について ・企業の役割 ・企業の問題点・課題 3.主要な参加企業と他の主体との連携について ・どのような団体と連携しているか

・連携のきっかけ ・連携が継続できている理由

3-2 ヒアリング調査の結果

本節では,ヒアリング調査の結果を,しが生物多様性大賞の受賞年度順に報告する.

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3-2-1 湖南企業いきもの応援団

■連携している主体

「湖南企業いきもの応援団」(以下,応援団)の参加主体を表 3-3 に示す.なお「湖南企

業いきもの応援団」とは,活動名であると同時に活動に参加する企業で構成された団体の

名称でもある.表 3-3 に示すように,この活動の特徴は,12 社もの企業が参加している点

にある.活動拠点である滋賀県草津市の狼川の周辺に立地している中小企業や大企業の事

業所が主に会員企業となっている.なお,滋賀銀行に関しては,支店が 7 店参加している

が,企業としては 1 社として数えている.また,行政や研究機関もこの活動に参加してお

り,草津市は「草津市の自然と人との共生を進める施策の推進計画」の一環として,滋賀

県立琵琶湖博物館は「市民との協働の推進事業」の一環として参加している.

表 3-3「湖南企業いきもの応援団」の参加主体(2016 年時点) 湖南企業いきもの応援団

浅野運輸倉庫株式会社 イサム塗料株式会社

株式会社きんでん滋賀支店

株式会社滋賀銀行 7 支店 南笠支店・草津支店・南草津駅前支店

草津西支店・栗東支店・大宝支店 栗東トレセン前支店

株式会社藤田 草津電機株式会社 郷インテックス株式会社 滋賀中央信用金庫南草津支店

中山倉庫株式会社 日本ガラストロニクス株式会社 日本観光開発株式会社 パナソニック株式会社アプライアンス社

草津市環境経済部環境課 滋賀県立琵琶湖博物館

■活動内容

応援団は,滋賀県草津市の狼川で定期的な水質・生き物調査を行っている.狼川に 6 箇

所の調査地点(調査ポイント 1~6)を設け,年に 4 回(1 月・4 月・7 月・10 月)の調査

会を開催してきた.2010 年 4 月から始まった調査会は,2016 年 10 月までに計 27 回に上る.

活動の一例として,応援団の第 26 回調査会当日のスケジュールを表 3-4 に示す.表 3-4

に示すように,調査会当日は,会員企業からそれぞれ 1~3 人ずつ,合わせて 30 人ほどの

従業員が,最初に草津市南笠東市民センターに集合し,前回の課題や人員配置の確認とい

った内容のミーティングをもつ.その後,2~4 人ずつに分かれ,調査に必要な備品を受け

取り,それぞれ担当の調査ポイントへ移動して,水質・生き物調査を開始する.水質調査

では,水の透明度と水中の COD,硝酸態窒素,リン酸態リンの濃度を測定し,あわせて水

の泡立ちや臭いなどの気づいた点を調査用紙に記入する.生き物調査では,調査の開始時

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にセルビン(モンドリ)を川に仕掛け,約 1 時間後,調査時間の最後に川から回収すると

ともに,胴長靴を着用して川に入り,網を用いて生き物の採集を行う(写真 3-1 参照).

その後,採集した生き物を,バケツに入れて調査ポイント 4 に持っていき,琵琶湖博物館

の中井氏の指導のもとに種類の同定を行う.同定が終わったら,再び各調査地点へ戻り,

採集した生き物を川にリリースする.最後に,草津市南笠東市民センターに再集合し,そ

の日の水質・生き物調査の結果報告を調査地点ごとに発表し,課題などがあればその場で

共有して解散する.

調査で取得したデータについては,有効に活かすために 2 年ごとに『湖南企業いきもの

応援団活動報告書』としてまとめ,会員企業や草津市,琵琶湖博物館などに配布している.

応援団は,上記の水質・生き物調査に加えて,地域との交流として草津市立南笠東小学

校の地域公開講座に協力している.地域公開講座とは,同小学校の生徒や保護者,地域住

民に学校での学びを体験してもらう講座である 1).講座では,子どもたちに水質・生き物

調査のやり方を教え,調査を体験してもらう.

表 3-4 湖南企業いきもの応援団 調査会当日のスケジュール(第 26 回) 時間 活動内容

13:30 集合(南笠東市民センター) ミーティング・備品配付

13:50 各調査地点へ移動 14:00 調査開始 15:15 調査ポイント 4 に集合・生き物の同定 16:00 各調査地点に戻り,生き物をリリース 16:30 南笠東市民センターにて,調査結果報告・まとめ 17:00 解散

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写真 3-1 生き物調査の様子(2016 年 1 月 25 日筆者撮影)

■活動の沿革

活動の沿革を表 3-5 に示す.表 3-5 に示すように,同活動は 2010 年 4 月に 11 社でスタ

ートしたが,その後 1 社が退会し,2 社が参加したため,現在は 12 社で活動している.活

動を続ける中で参加企業・事業所の数が増えてくるとともに,2015 年からは地域との交流

として小学校の講座への協力を始めるなど,徐々に活動の輪を拡大してきたことがわかる.

表 3-5 活動の沿革 年月 活動内容

2009 年 4 月~ 日本ガラストロニクス㈱桂氏が狼川周辺事業所に声をかける 2009 年 7~12 月 桂氏が声をかけた企業を対象に生物多様性に関する学習会を開催

2010 年 4 月 湖南企業いきもの応援団結成(会員企業数 11 社.その後に 1 社が退会) 2010 年 5 月 第 1 回調査会 2014 年 2 月 パナソニック㈱アプライアンス社が参加(会員企業数 11 社) 2014 年 3 月 しが生物多様性大賞受賞 2015 年 7 月 草津市立南笠東小学校の地域公開講座へ協力 2015 年 8 月 イサム塗料㈱が参加(会員企業数 12 社) 2016 年 4 月 ㈱滋賀銀行から新たに 6 支店が参加 2016 年 7 月 草津市立南笠東小学校の地域公開講座へ協力

■企業の役割

本事例の活動(狼川での定期的な水質・生き物調査)は応援団の会員企業の従業員を中

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心に実施されている.その中での各会員企業の役割は,調査に必要な人員を提供すること

と調査道具を製作することなどである.どの企業もボランティアとしてではなく,業務の

一環として従業員を派遣している.そのため,ある企業が都合で全く参加できない場合で

も,会員企業全体で欠員分を補うことができ,6 調査地点を調査するのに必要な人数を安

定的に確保することができている.調査で用いられている透視度計やセルビン(モンドリ)

は,各企業がペットボトルから手作りしたものである(写真 3-2 参照).

写真 3-2 手作りの透視度計(筆者撮影 2016 年 1 月 25 日)

■連携のきっかけ

応援団は「琵琶湖いきものイニシアチブ」をきっかけに発足した.同宣言は,滋賀経済

同友会が 2009 年に発表した,企業の「持続可能な経済活動」と「地域の自然再生への貢献」

を両立させる活動の展開を宣言し,経営者自らが活動の先頭に立つことを求めたものであ

る 2).

日本ガラストロニクス㈱の桂氏(当時代表取締役社長)は,この宣言をきっかけに,自

社の事業活動が環境に与えている影響を考慮して,身近な地域の川である狼川で生物多様

性保全にかかわる活動を行うべきだと考えた.そこで,滋賀経済同友会のほかの会員企業

や個人的に懇意にしていた企業の経営者に,理解と協力を得るために,企業活動にとって

の生物多様性保全の重要性を説き,企業経営者と環境部門の担当者を対象に生物多様性に

関する学習会を開催した.また,琵琶湖博物館の中井氏や結・社会デザイン事務所の菊池

氏と相談する中で,具体的な活動内容として,狼川で水質・生き物調査を行うことを決定

した.調査方法を設計する際には,誰でもできるような方法が選ばれ,あわせて調査地点

の下見や水質・生き物調査の説明会が行われた.そのような取り組みの結果,11 社の企業

が集まり,水質・生き物調査が 2010 年 4 月に始まった.

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■参加企業が活動を継続できている理由

ヒアリングの調査対象者からは,企業が 12 社も集まって活動を継続できている理由とし

て,まず,多くの企業が連携することによって調査活動に伴う一社あたりの財政的・人的

な負担が軽減できている点が挙げられた.これは,各参加企業から 1~3 人ほどの従業員が

参加するだけで,6 地点ある調査活動を半日分ほどの労働力で,しかも高い精度で行うこ

とができているという意味である.また,別の理由として挙がったのが,活動に参加して

いる他企業や行政との異業種間の交流が可能な点である.ほかの理由としては,生物多様

性に関連した業務を行っているような企業が一社もないため,どの会員企業にも専門家が

おらず,調査に係る負担が特定の企業に偏ることなく,バランスよく会員企業間で分散で

きているため,活動を続けられているとの意見もあった.また,応援団の活動が,ボラン

ティアではなく,各企業の業務の一環として行われている点も継続理由のひとつとして挙

がっていた.

■参加企業の問題点・課題

問題点は,各企業から活動に参加する人間が替わることがあるため,そのたびに,替わ

って参加してきた人は活動に参加しながら調査方法などについて学ぶ必要があるところで

ある.そのため,生き物の採集や採れた生き物の同定といったそれぞれの調査の専門性を

高めていくのが難しいという問題がある.

3-2-2 TOTO 株式会社滋賀工場(家棟川で生態回廊の再生~ビワマスが遡上する川に~)

■連携している主体

「家棟川で生態回廊の再生~ビワマスが遡上する川に~」の参加主体を表 3-6 に示す.表

3-6 に示すように,この事例における主要な参加企業は TOTO 株式会社滋賀工場(以下,

滋賀工場)である.なお,これらの参加主体で構成されるネットワーク組織の名称が「家

棟川で生態回廊再生を目指すネットワーク(以下,家棟川ネットワーク)」である.

表 3-6「家棟川で生態回廊の再生~ビワマスが遡上する川に~」の参加主体 家棟川で生態回廊再生を目指すネットワーク

TOTO 株式会社滋賀工場 NPO 法人家棟川流域観光船 滋賀県琵琶湖環境科学研究センター 野洲市環境基本計画推進会議

■活動内容

家棟川ネットワークは,滋賀県野洲市の家棟川で生態調査や清掃活動,生き物のための

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環境づくりといった活動を 4 月~10 月の期間,月に 4 回程度行っている.これらの活動は

野洲市環境基本計画の実施の一環として行われており,活動内容は野洲市や滋賀県琵琶湖

環境科学研究センターの協議によって決定されている.また,同活動を中心的に担ってき

たのが,野洲市環境基本計画を契機として設立された NPO 法人家棟川流域観光船(以下,

家棟川流域観光船)である.家棟川流域観光船は,上記のような活動を行うとともに,家

棟川で屋形船を運行し,乗客に川の景観や湖魚食を楽しんでもらいながら川をきれいにし

ようと呼びかけている.特に多くの人員が必要な活動に,滋賀工場の従業員がボランティ

アとして参加する.滋賀工場からの参加は年に 8 回程度で,野洲市での魚のゆりかご水田

での田植えや稲刈りなどの作業に年に 2~3 回,ほかにも植樹活動に年に 1 回程度参加して

いる.

活動の一例として,家棟川での清掃活動について述べる.同活動は年に 2~3 回行われる.

参加者は主に滋賀工場の従業員とその家族,家棟川流域観光船のメンバー,地元の漁師た

ちである.1 回の活動に 20~30 人が参加する.

具体的には,参加者が大型漁船に乗り,船の上から川に流れているゴミや川岸のゴミを

回収する.野洲市菖蒲浜から家棟川の河口に向かい,河口から上流に向かって 1 時間程度,

左岸を中心にゴミ拾いを行う.15 分ほどの休憩を取ってから,今度は逆に河口に向かいな

がら右岸を中心にゴミ拾いを行う(写真 3-3 参照).

写真 3-3 清掃活動の様子(2016 年 7 月 24 日筆者撮影)

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■活動の沿革

活動の沿革を表 3-7 に示す.表 3-7 に示すように,2007 年に家棟川流域観光船が設立さ

れ,活動が始まった.滋賀工場からの活動への協力は,2011 年 4 月から始まっている.な

お,後述する TOTO 水環境基金による助成は 2015 年度をもって終了しているが,滋賀工

場からの活動への協力は現在も続いている.

表 3-7 活動の沿革 年月 活動内容

2007 年 野洲市環境基本計画の策定 家棟川流域観光船が設立される

2010 年 家棟川流域観光船が TOTO グループの「TOTO 水環境基金」に応募 2010年 10月~

2011 年 3 月 TOTO グループによる家棟川流域観光船の活動の審査・視察 TOTO 水環境基金による家棟川流域観光船への助成が決定

2011 年 4 月 魚のゆりかご水田で田植え(滋賀工場からの協力開始) 2014 年 3 月 しが生物多様性大賞受賞 2016 年 3 月 TOTO 水環境基金による家棟川流域船への助成が終了

■企業の役割

滋賀工場としては,家棟川ネットワークの活動に人員を提供する役割を担ってきた.家

棟川での清掃活動やビワマスのための魚道・産卵床づくりの活動などに,年に 8 回程度参

加し,2015 年度までに計 53 回参加してきた.一度の活動には 20 人ほどの従業員とその家

族が参加する.ただし,活動への参加はあくまでボランティアとしてである.

ボランティアの募集は TOTO グループの社内 HP を通じて行われる.募集の流れとして

は,まず野洲市の環境課から滋賀工場の総務グループへボランティアの募集について連絡

がある.その連絡を受けた同工場が社内 HP によってボランティアの募集をかける.

■連携のきっかけ

調査対象事例における連携のきっかけは,家棟川流域観光船が「TOTO 水環境基金」に

応募し,審査に通ったことである.同基金は,TOTO グループが市民団体の環境活動を助

成するとともに同社の従業員が活動に参加することによって支援する制度である.従業員

の環境意識の向上やボランティアへの参加機会の提供に加えて,生物多様性の保全,CO2

削減,地域への貢献を目的としている.審査として,基金に応募した団体に対して,書類

選考や現地ヒアリングなどが行われる.この事例の場合では,審査の結果,TOTO グルー

プからの家棟川流域観光船への助成とともに滋賀工場の従業員が活動に参加することが決

定された.

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■参加企業が活動を継続できている理由

ヒアリングの調査対象者からは,滋賀工場が活動を継続できている理由として,TOTO

グループの企業理念が従業員に浸透している点が挙げられた.同理念は,奉仕の精神で商

品やサービスを提供していくというもので,「人材」にも重きを置いている.そのため同

グループではボランティア活動を奨励しており,たとえば社内 HP では,ボランティア活

動の募集が行われるともに,従業員が参加してきたボランティア活動についての報告が掲

載されるようになっている.ほかの理由としては,事業活動が水と密接に関わっているた

め,水環境に関心のある従業員が多いという点や同工場の工場長が積極的にボランティア

として参加するなど,率先してこの活動に取り組んでいる点が挙げられた.

■参加企業の問題点・課題

問題点は,滋賀工場からボランティア活動に参加する従業員の顔ぶれが固定化してきて

いる点である.新規のメンバーを獲得し,より多くの人材を確保することが課題となって

いる.

3-2-3 長住建設株式会社(田村山のカスミサンショウウオを次世代に伝える)

■連携している主体

「田村山のカスミサンショウウオを次世代に伝える」の参加主体を表 3-8 に示す.表 3-8

に示すように,この事例における主要な参加企業は長住建設株式会社(以下,長住建設)

である.なお,これらの参加主体で構成されるネットワーク組織の名称が「田村山生き物

ネットワーク(以下,田村山ネットワーク)」である.

表 3-8「田村山のカスミサンショウウオを次世代に伝える」の参加主体 田村山生き物ネットワーク

長住建設株式会社 長浜バイオ大学 周辺の事業所 滋賀県立虎姫高校科学探求部

滋賀県立米原高校生物部 長浜市立南小学校水生生物クラブ 田村町自治会有志 寺田町自治会有志 長浜市職員有志 六荘地区地域づくり協議会有志

田村山生き物ネットワーク個人会員

■活動内容

田村山ネットワークは,滋賀県長浜市の田村山で,カスミサンショウウオを保護するた

めの活動を行っている.カスミサンショウウオは,環境省レッドリストでは絶滅危惧Ⅱ類

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に,滋賀県版レッドリストでは希少種に指定されている生物である 3), 4).活動としては,

長浜バイオ大学や地域の高校,小学校が中心となって調査・研究活動を,事務局を担当し

ている長住建設が事務作業を,地元自治会の会員が日々の見守り活動を,そして,同ネッ

トワークの参加主体が協力して,水枯れ対策や保護池の造成といった活動を行ってきた.

協力して行う活動内容は,長浜バイオ大学の職員・学生による日常的な調査の結果に基づ

いて決定されている.その他にも,啓発活動として,学習会を年に 1 回程度開催している.

学習会の目的は,カスミサンショウウオに関する調査・研究の結果を発表することを通じ

て,受講者である地域住民や学生,同ネットワークの会員にカスミサンショウウオについ

て知ってもらうことである.

活動の一例として,これまでに行ってきた水枯れ対策について述べる.水枯れ対策とし

ては,水路への水の供給や水揚げポンプの設置,水路補修などを行ってきた.当初,水路

に農業用水や水道水を直接流し込むという方法をとっていたが,軽トラックで 500 L のタ

ンク 2 つを運搬し,水を流しても,雨が降らなければ,水が 2 日ほどでなくなってしまう.

そのため頻繁な水の供給が必要であった.しかし,2011 年に,長浜市市民活動団体支援事

業補助金を受け,啓発看板とともに水揚げポンプを設置することができ,大量の水を運搬

して流し込む作業は必要なくなった.次の水枯れ対策としては,水路補修を行った.水路

の U 字溝の継ぎ目から水が漏れていることが発覚したため,継ぎ目の隙間にスポンジ状の

チューブを詰めることで,水漏れを防いだ.

■活動の沿革

活動の沿革を表 3-9 に示す.表 3-9 に示すように,活動としては当初,水の供給活動に

主に取り組んでいた.その後,田村山生き物ネットワークが,2010 年 11 月に設立され,

第一回学習会を開催し,それ以降,学習会を年に 1 回の頻度で開催してきた.たとえば,

2016 年 3 月には,カスミサンショウウオの卵を観察し,保護池に移動させる内容の観察会

を開催している.

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表 3-9 活動の沿革 年月 活動内容

2005 年 3 月 ・長浜バイオ大学の齊藤教授が田村山の周辺で カスミサンショウウオの卵を発見 ・以降,カスミサンショウウオの調査を実施

2009 年春 水路の崩壊による水枯れ,カスミサンショウウオの幼生が全滅

2009 年 4 月 齊藤教授が長住建設松居氏に カスミサンショウウオの保護について相談

2009 年 4 月~ ・松居氏が周辺事業所や長浜市,自治会などに声をかける ・水の供給活動の開始

2010 年 11 月 田村山生き物ネットワーク設立 2011 年 1 月 第一回学習会開催(以降,年に一回開催) 2011 年 9 月 啓発看板・水揚げポンプの設置

2011 年 10 月 生息水路の補修 2012 年 7 月 生息水路でザリガニ駆除の実施

2013 年 12 月 保護池を造成 2014 年 3 月 しが生物多様性大賞受賞 2016 年 3 月 観察会開催

■企業の役割

長住建設は,田村山生き物ネットワークの事務局として,学習会の開催やネットワーク

の会員集めなどの役割を担ってきた.また,保護池の造成や観察小屋の建築など建設機械

が必要な場面で,自社の機械や技術を活かし協力してきた.いずれも 5 人ほどの従業員が

業務の一環として,1 週間ほど作業に協力している.

■連携のきっかけ

調査対象事例における連携のきっかけは,長住建設の松居氏(当時代表取締役)が長浜

バイオ大学の齊藤教授からカスミサンショウウオの保全活動について相談を受けたことで

ある.

同教授は,2005 年 3 月に田村山の周辺でカスミサンショウウオの卵塊を発見した.同教

授の調査によると,田村山の周辺では,2 月中旬から 3 月末にかけて,カスミサンショウ

ウオの卵塊を確認することができる.しかし,2009 年の春に起こった水路の崩壊に伴い,

水路の水が枯れてしまい,約 5000 匹いたカスミサンショウウオの幼生が全滅してしまった.

そこで,このまま放置しておけば,田村山のカスミサンショウウオが消滅してしまうと危

惧した同教授が,長浜バイオ大学の建築に携わった長住建設の松居氏に相談したのである.

松居氏は,それを受けまず保護するための活動の賛同者を集めようと,建設業のネットワ

ークを活用し,長浜市や自治会に声をかけた.そして,カスミサンショウウオの保護のた

めの理解を行政や地域住民などから得ることができたため,田村山生き物ネットワーク設

立に結びついた.

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■参加企業が活動を継続できている理由

ヒアリング調査対象者からは,長住建設がこの活動を継続できている理由として,これ

らの活動を同社が社会貢献活動としてだけでなく,従業員の教育,人格形成の場としても

活用できている点が挙げられた.社会貢献自体は企業の直接的な利益につながりにくいが,

社会貢献に加えて,従業員の教育や人格形成など企業にとって有益な目的を持つことで,

活動に参加する必要性を高め,継続性が維持できているという.

■参加企業の問題点・課題

問題点は,特に挙げられなかったが,今後の活動の展開として,他の企業を巻き込んで

いくためには,活動の目的とその企業の理念とのマッチングが必要なため,難しいだろう

との見解であった.

3-2-4 積水化学工業株式会社滋賀栗東工場(栗見出在家町魚のゆりかご水田プロジェクト

/工部の部材を有効活用した琵琶湖の生物多様性保全活動)

■連携している主体

「栗見出在家町魚のゆりかご水田プロジェクト」の参加主体を表 3-10 に,「工部の部材を

有効活用した琵琶湖の生物多様性保全活動」の参加主体を表 3-11に示す.表に示すように,

これらの事例における主要な参加企業は積水化学工業株式会社滋賀栗東工場(以下,栗東

工場)である.

表 3-10「栗見出在家町魚のゆりかご水田プロジェクト」の参加主体

積水化学工業株式会社滋賀栗東工場 栗見出在家町自治会 (栗見出在家町魚のゆりかご水田協議会)

栗見出在家町子ども会 東近江市立能登川北小学校 JA グリーン近江 長浜バイオ大学

表 3-11「工部の部材を有効活用した琵琶湖の生物多様性保全活動」の参加主体 積水化学工業株式会社滋賀栗東工場 滋賀県農政水産部農村振興課

栗見出在家地区 たかしま地区 小佐治地区

■活動内容

「栗見出在家町魚のゆりかご水田プロジェクト」では,栗見出在家町魚のゆりかご水田協

議会が中心となって,2006 年から同地域で魚のゆりかご水田による水稲栽培に取り組んで

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いる.魚のゆりかご水田とは,田んぼの排水路に魚が遡上できるよう魚道を設置すること

で,かつての田園環境を再生し,生き物と人が共生できる農業・農村の創造を目指した滋

賀県の取り組みである 5).活動としては,水田に魚が遡上するために排水路に魚道を設置

し,田植えや稲刈りといった作業や水田の生き物観察会,地域の一斉掃除などを地域住民

や魚のゆりかご水田のオーナーとともに取り組んできた.栗東工場は,同地域の魚道の設

置作業や魚のゆりかご水田のオーナーとしてイベントに参加している.

「工部の部材を有効活用した琵琶湖の生物多様性保全活動」では,栗東工場が上記の栗見

出在家地区に加えて,県内で同じように魚のゆりかご水田による水稲栽培に取り組んでい

る,たかしま地区と小佐治地区に対して,同工場からでる端材を魚道の部材として提供す

るとともに,魚道の設置作業に協力している.魚道の部材には,同工場からでる FFU とい

う合成木材や塩ビパイプの端材を用いている.FFU は,通常の木材と同等に加工しやすく,

木材よりも耐久性があるため魚道の部材に適している.塩ビパイプは,水路に設置するこ

とで生き物の住処となることが検証されている.これらの端材をそのまま有効活用するこ

とで,端材をリサイクルするためにエネルギーを消費することなく,生物多様性保全に貢

献することができている.

■活動の沿革

「栗見出在家町魚のゆりかご水田プロジェクト」と「工部の部材を有効活用した琵琶湖の

生物多様性保全活動」の活動の沿革をあわせて表 3-12 に示す.表 3-12 に示すように,2003

年に滋賀県の魚のゆりかご水田プロジェクトが始まった 6).栗東工場からの 3 地区への協

力が始まったのは 2014 年である.

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表 3-12 活動の沿革 年月 活動内容

2003 年 滋賀県が魚のゆりかご水田プロジェクトを開始 2006 年 栗見出在家地区が魚のゆりかご水田に取り組み始める

2013 年 12 月 「エコプロダクツ」の滋賀県のブースに積水化学グループの社員が訪れる その社員を通じて当時の栗東工場長に魚のゆりかご水田の話が伝わる

2014 年 3 月 栗東工場長が何か協力できることがないかと滋賀県に相談 滋賀県が関係自治体に照会し,栗見出在家と小佐治,たかしまが関心を示す

2014 年 4 月 栗東工場と 3 地区で協議し,端材を魚道部材として活用することが決定 栗東工場が栗見出在家の魚のゆりかご水田のオーナーに登録

2014 年 5 月 栗見出在家地区でオーナーを交えた田植え作業の実施 (栗東工場の従業員とその家族が初めて参加)

2014 年 6 月 栗見出在家地区でオーナーを交えた生き物観察会の実施 (栗東工場の従業員とその家族が初めて参加)

2014 年 12 月 栗東工場が小佐治地区で塩ビパイプと水田内水路用土留め板を製作・設置 2015 年 2 月 栗東工場がたかしま地区で一筆魚道を製作・設置

2015 年 3 月 しが生物多様性大賞受賞(栗見出在家町魚のゆりかご水田協議会) 栗東工場が栗見出在家地区で堰板と一筆魚道を製作・設置

2016 年 3 月 しが生物多様性大賞受賞(栗東工場)

■企業の役割

栗東工場は,2014 年から滋賀県の栗見出在家地区やたかしま地区,小佐治地区が取り組

んでいる魚のゆりかご水田による水稲栽培に協力する活動を行っている.これらの 3 地区

に対して,魚が遡上するための魚道の部材を提供するとともに,設置作業に協力してきた.

設置作業は,いずれの地域でも冬季に行う.それぞれ 5 人ほどの従業員が業務の一環とし

て参加し,加工に 3 時間程度,設置に 2 時間程度の作業に協力する.これまでの実績とし

ては,栗見出在家地区では一筆魚道と呼ばれる魚道の部材を 9 基分と堰板方式と呼ばれる

水路の板材 2 水路分,たかしま地区では一筆魚道の部材を 3 基分,小佐治地区では水田内

の水路用の板材を約 470 m 分提供している.

一方で,栗東工場は,栗見出在家地区のゆりかご水田のオーナーでもある.栗見出在家

町魚のゆりかご水田協議会が実施する 5 月の田植えや 9 月の稲刈りに,ほかのオーナーと

ともに同工場の従業員とその家族が参加する(写真 3-4 参照).なお,イベントへの参加

募集は,社内 HP や工場の掲示板で行っている.また社内 PR として,社員食堂で魚のゆり

かご水田米を提供するなどしている.

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写真 3-4 田植えの様子(2016 年 5 月 8 日筆者撮影)

■連携のきっかけ

調査対象事例における連携のきっかけは,栗東工場の当時の工場長が滋賀県に対して,

魚のゆりかご水田への支援について,相談したことである.

発端としては,積水化学グループのある社員が東京で開催された「エコプロダクツ」で

滋賀県のブースを訪れ,魚のゆりかご水田プロジェクトについて知ったことから始まる.

その社員を通じて魚のゆりかご水田の話が栗東工場に伝わり,工場からでる端材で何か協

力できることがあるのではないかと考えた当時の工場長が滋賀県に相談をした.それを受

け,滋賀県が関係自治会に照会したところ,栗見出在家とたかしま,小佐治の 3 地区が関

心を示したことから,それらの地区との協議の結果,工場からでる端材を魚道の部材とし

て活用する活動が 2014 年から始まった.

■参加企業が活動を継続できている理由

ヒアリングの調査対象者からは,栗東工場が活動を継続できている理由として,工場か

らでる端材を活用しているため,廃棄物を削減できるとともに,活動のための材料費を抑

えることができている点が挙げられた.また,別の理由として挙がったのが,従業員の環

境教育として活用できている点である.ほかには,既存の活動に参加することで企業主導

で実施する場合に比べて負担が軽減できている点や企業イメージの向上につながっている

点が継続理由として挙がっていた.

■参加企業の問題点・課題

問題点は,これらの取り組みの社内周知が不十分な点である.田植えや稲刈りへの参加

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者数は徐々に増えてきているが,社内での PR を実施して,より多くの従業員に関心を持

ってもらうことが課題である.

3-2-5 オムロン株式会社野洲事業所(イチモンジタナゴの保護繁殖活動)

■連携している主体

「イチモンジタナゴの保護繁殖活動」の参加主体を表 3-13 に示す.表 3-13 に示すように,

この事例における主要な参加企業はオムロン株式会社野洲事業所(以下,野洲事業所)で

ある.

表 3-13「イチモンジタナゴの保護繁殖活動」の参加主体 オムロン株式会社野洲事業所 滋賀県立琵琶湖博物館

株式会社ラーゴ 東海タナゴ研究会

■活動内容

「イチモンジタナゴの保護繁殖活動」では,野洲事業所が中心となって,2009 年から,イ

チモンジタナゴの保護・繁殖活動のための活動を行っている.イチモンジタナゴは,環境

省レッドリストでは絶滅危惧ⅠA 類に指定されている生物である 7).同事業所の敷地内に

造成した,工場排水を利用したビオトープ「ぼてじゃこの池」にイチモンジタナゴを放流

し,琵琶湖博物館の専門家の指導を受けながら,イチモンジタナゴの保護と繁殖に取り組

んできた.毎年春に親魚を放流し,繁殖に成功したイチモンジタナゴはその年のうちにす

べて琵琶湖博物館に引き渡している.

同活動は,地域の水辺環境の原風景の復元といった成果にもつながっている.ビオトー

プにおける植物種や昆虫数は年々増加しており,昆虫においては,準絶滅危惧種であるコ

オイムシなどが確認できるようになった.

■活動の沿革

活動の沿革を表 3-14 に示す.表 3-14 に示すように,イチモンジタナゴの保護繁殖活動

は,2011 年 4 月から始まった.2013 年からは自然観察会を毎年 1 回開催し,地域との交流

も行っている.なお,2011 年 4 月に雄雌 15 匹ずつ放流したイチモンジタナゴは 200 匹以

上に増えた.しかし,2012 年から 2015 年にかけては繁殖に成功しなかった.2016 年に専

門家の指導のもと繁殖実験に注力した結果,2016 年 5 月には 11 匹の繁殖が確認できた 8).

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表 3-14 活動の沿革 年月 活動内容

2009 年 野洲事業所長が環境の取り組みについて本社 CSR 担当と相談

2009 年 10 月 CSR 担当が事業所長に琵琶湖博物館中井氏と 結・社会デザイン事務所の菊池氏を紹介 中井氏と菊池氏と相談し,活動内容を決定

2010 年 10 月 ビオトープ「ぼてじゃこの池」を造成 2011 年 4 月 イチモンジタナゴ雄雌 15 匹ずつビオトープに放流 2012 年 2 月 イチモンジタナゴ交流会に参加

2013 年夏 第一回自然観察会を開催 2015 年 3 月 しが生物多様性大賞受賞 2016 年 5 月 11 匹の繁殖を確認

■企業の役割

本事例の活動は,野洲事業所を中心に実施されている.同事業所の役割は,ビオトープ

を造成したことをはじめ,ビオトープの管理などである.春から秋にかけて,月に 1~3

回程度の草刈り,週に 1~3 回程度の水草取りを行っている.草刈りは,担当部署の従業員

が 5 人ほどで,3 時間程度実施する.水草取りは,気づいた従業員が行っている.

これらの活動に加えて,同事業所は,2013 年から「ぼてじゃこの池」で,自然観察会を

年に一回実施している.地域の子どもを対象とした学習会で,ビオトープの魚や植物を観

察し,学べる場を提供している.2016 年の自然観察会には,およそ 150 人の地域の子ども

たちが参加した.

■連携のきっかけ

調査対象事例における連携のきっかけは,当時の野洲事業所長がオムロン株式会社本社

の CSR 担当に,同事業所としての環境の取り組みに関して相談したことである.

所長は,大量の水を排水する事業を行っていることから,水に関連した環境の取り組み

をすべきだと考えた.そこで,本社の CSR 担当に相談したところ,琵琶湖博物館の中井氏

と結・社会デザイン事務所の菊池氏の紹介を受けた.所長と中井氏,菊池氏の 3 人で,同

事業所としてどのような活動に取り組むことができるか協議した結果,工場排水を利用し

たビオトープで,希少な生物であるイチモンジタナゴを保護,繁殖させることを決めた.

あわせて,中井氏からビオトープの整備や維持管理を専門に行っている株式会社ラーゴや

イチモンジタナゴについて詳しい東海タナゴ研究会の紹介を受けた.

■参加企業が活動を継続できている理由

ヒアリングの調査対象者からは,野洲事業所が活動を継続できている理由として,琵琶

湖博物館などの専門家と連携することで,不足している専門知識を補うことができている

点やこの活動が社内外で表彰されている点,企業イメージの向上や地域貢献として活用で

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きている点が挙げられた.

■参加企業の問題点・課題

問題点は,野洲事業所のこれらの取り組みの社内周知が十分にできていない点である.

多くの従業員に知ってもらうことと従業員の環境教育の場として活用することが課題であ

る.

3-2-6 京阪ホテルズ&リゾーツ株式会社琵琶湖ホテル(~食べることが守ること~里山の

食彩&山野草プロジェクト)

■連携している主体

「~食べることが守ること~里山の食彩&山野草プロジェクト」の参加主体を表 3-15 に示

す.表 3-15 に示すように,この事例における主要な参加企業は京阪ホテルズ&リゾーツ株

式会社琵琶湖ホテル(以下,琵琶湖ホテル)である.

表 3-15「食べることが守ること~里山の食彩&山野草プロジェクト」の参加主体 琵琶湖ホテル 畑棚田保存会(高島市畑)

オージーアイ仰木棚田米(大津市仰木) 福井弥平商店 勝村造園

■活動内容

「食べることが守ること~里山の食彩&山野草プロジェクト」では,琵琶湖ホテルが中心

となって,里山の環境を保全するための活動として「里山の食彩プロジェクト」と「山野

草プロジェクト」を展開している.

まず「里山の食彩プロジェクト」では,琵琶湖ホテルが宿泊事業の中で地元の食材を提

供することで,食材の生産地である里山の環境保全に貢献している.具体的には,棚田農

家と連携し,棚田米をホテルで使用するとともに,滋賀県高島市畑の棚田での田植えや草

刈り,稲刈りなどの作業に従業員が参加してきた.棚田米の使用は 2002 年から 2015 年ま

でで累計 200 t に上る.ほかには,福井弥平商店と連携して棚田米を使った地酒の「仕込

み」や「絞り」の作業を手伝っている.

「山野草プロジェクト」では,棚田の畦をモデルにした原風景を琵琶湖ホテルの植栽スペ

ースで再現している.勝村造園に依頼し,在来種を中心とした約 110 種の山野草を植栽す

ることで,里山の四季が感じられる景色を顧客に提供してきた.植栽スペースは,およそ

330 m2あり,レストランやバーの横に位置しているため,顧客は食事をしながら山野草を

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眺めることができる(写真 3-5,写真 3-6 参照).

写真 3-5 山野草プロジェクトの看板(2016 年 6 月 23 日筆者撮影)

写真 3-6 琵琶湖ホテルの植栽スペース(2016 年 6 月 23 日筆者撮影)

■活動の沿革

活動の沿革を表 3-16 に示す.里山の食彩プロジェクトは 2002 年から始まった.それ以

降,宿泊事業の中で,棚田米をはじめとする里山の食材を提供している.山野草プロジェ

クトは 2009 年から始まった.

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表 3-16 活動の沿革 年月 活動内容

2001 年 琵琶湖ホテル役員が写真家の今森光彦氏と出会う 今森氏から棚田農家の紹介を受ける

2002 年 里山の食彩プロジェクトを開始 2002 年 9 月 琵琶湖ホテルが高島市畑の棚田での作業への協力の開始(稲刈り)

2003 年 琵琶湖ホテルが福井弥平商店と連携し,棚田米を用いた地酒づくりの開始 2009 年 山野草プロジェクトを開始

2016 年 3 月 しが生物多様性大賞受賞

■企業の役割

本事例の活動は,琵琶湖ホテルを中心に実施されている.琵琶湖ホテルの役割の一つは,

顧客へ棚田米をはじめとする里山の食材を提供することである.また,同プロジェクトは,

同ホテルの研修・環境教育の場としても活用されている.高島市畑の棚田での田植えや草

刈り,稲刈りの作業や福井弥平商店との地酒仕込み,マキノの雑木林での下草刈りなどに,

同ホテルの入社 1 年目の従業員を中心とした 4~10 人の従業員が研修としてそれぞれ 1 日

程度,参加している.特に棚田での作業協力は,棚田農家の支援になっている.

■連携のきっかけ

調査対象事例における連携のきっかけは,琵琶湖ホテルの役員と写真家の今森光彦氏と

の出会いである.

同ホテルは,1984 年に開催された第一回世界湖沼会議や 2000 年に開催された G8 環境大

臣会合の会場となった 9).このような経緯があり,同役員は,ホテルとして何か環境活動

ができないかと考えていた.しかし,節電や節水などに関しては,顧客に負担がかかって

しまうため,宿泊事業と環境活動の両立には課題が多かった.

同役員がそのように考えていた頃,今森氏と出会う.同氏から里山や棚田の魅力につい

て教えてもらったことで,里山の食材を使いながら,同時に里山の保全に取り組むことが

できるのではないかというヒントをもらい,また大津市仰木や高島市畑の棚田農家の紹介

を受けた.これを受け,ホテルとして高島町役所(当時)を通じて畑棚田保存会に対して

棚田米の使用について打診した.琵琶湖ホテルが環境活動に取り組んでいることを知って

いた 5~6 人の棚田農家がこの取り組みに賛同し,棚田農家と連携した宿泊事業での棚田米

の使用が始まった.

■参加企業が活動を継続できている理由

ヒアリングの調査対象者からは,琵琶湖ホテルが活動を継続できている理由として,ホ

テルの事業に直結した取り組みを行っている点が挙げられた.研修や環境教育の場として

田植えや稲刈りに協力し,また,日常的に顧客に棚田米を提供するなど,従業員が活動に

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取り組んでいることを実感しやすいからであるという.

ほかには,同活動が顧客から好意的に受け止められている点が挙げられた.

■参加企業の問題点・課題

問題点は,山野草プロジェクトが顧客に対して十分に周知できていない点である.里山

の食彩プロジェクトについては,顧客の認知度が高まってきているが,山野草プロジェク

トについては,植栽スペースの山野草が雑草だと思われることがあり,顧客に対する PR

が課題である.

<参考文献>

1) 草津市立南笠東小学校:地域公開講座案内<http://www.minamigasa-p.skc.ed.jp/pdf/16%E5

%AD%A6%E6%A0%A1%E3%81%A0%E3%82%88%E3%82%8A/16%E5%9C%B0%E5%9

F%9F%E5%85%AC%E9%96%8B%E8%AC%9B%E5%BA%A7%E6%A1%88%E5%86%85.

pdf>,2016-1-5

2) 滋賀経済同友会:宣言書(日本語)<http://www.s-douyu.jp/ikimono-jp>,2016-1-9

3) 環境省:レッドリスト(2015)【両生類】<http://www.env.go.jp/press/files/jp/28059.pdf>,

2016-11-22

4) 滋賀県生きもの総合調査委員会:滋賀県で大切にすべき野生動物‐滋賀県レッドデータ

ブック 2010 年版‐,pp.363,滋賀県自然環境保全課 (2011)

5) 滋賀県:1.魚のゆりかご水田とは?<http://www.pref.shiga.lg.jp/g/noson/fish-cradle/1-inte

ntion/index.html>,2016-12-22

6) 滋賀県:7.これまでの取り組み経過<http://www.pref.shiga.lg.jp/g/noson/fish-cradle/7-past/i

ndex.html>,2016-1-10

7) 環境省:レッドリスト(2015)【汽水・淡水魚類】<http://www.env.go.jp/press/files/jp/28059.

pdf>,2016-11-22

8) オムロン株式会社:生物多様性の取り組み<http://www.omron.co.jp/about/csr/environ/redu

ce/biodiversity/>,2016-1-10

9) 琵琶湖ホテル:2016-6-23,私信