3. 韓国の農林水産業と農林水産政策 -...

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日中韓の自由貿易協定の調査・分析 平成 22 年度 農林水産省委託事業 自由貿易協定等情報調査分析検討事業 プロマーコンサルティング 2011 3 38 3. 韓国の農林水産業と農林水産政策 韓国の農業分野は、経済発展に伴う食生活の変化等によって自給率が大きく低下し、その裏返 しとして農業保護水準が比較的高い。専業農家率が高く、日本以上に深刻な問題を抱えている面 もある。一方で、依然として韓国政府は「強い農業」の育成のために輸出重視の立場を一層前面 に出している。韓国では水産業分野が農林水産業 GDP 13.9%を占め、水産業分野の重要性は 高い。現在の水産業は輸入超過で産業は内需向けに切り替わっているが、それでも輸出先として 日本が最重要であることには変わりない。林業は基本的には輸入木材に頼る構造であったが、人 工林の成熟により 2008 年以降は国産も増加してきた。以下では、韓国の農林水産業と、それを 支える政策、また日本に関わりの深い品目を中心に、品目別の産業動向をとりまとめる。前章の 中国と同様、 3.1 節で農業、 3.2 節で水産業、 3.3 節で林業を扱い、最後の 3.4 節にまとめを付す。 3.1. 農業 3.1.1. 農業の概況 農業従事者数、農家戸数 韓国の農業従事者数は減少を続けており、2000 年の 224 万人から、2009 年には 165 万人とな った。同時期に 60 歳以上の高齢者の割合は、44.0%から 55.7%に上昇している。2009 年の農家 戸数は 120 万戸、専業農家率は 58.0%である。 耕地面積は 174 万ヘクタールで、うち 68.4% が水田である。 1 戸あたりの平均耕地面積は 1.45 ヘクタールである。 規模別農家割合を見ると、0.5 ヘクタール 未満の農家が 39%0.51.0 ヘクタールの農 家が 25%と過半を占める。 5 ヘクタール以上 の耕地を持つ農家は 3%にとどまる。ただし 農家の機械所有率が低く、また地方での就 業機会が限られ不在地主が多いため、農地 の賃貸借、あるいは稲作の作業委託が一般 的にみられる。 15 農地面積別の農家割合(2009出所)(MIFAFF 2010b) 耕地無し 1% 0.5ha未満 39% 0.5ha以上 1ha未満 25% 1ha以上 2ha未満 20% 2ha以上 3ha未満 7% 3ha以上 5ha未満 5% 5ha以上 3%

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日中韓の自由貿易協定の調査・分析 平成 22 年度 農林水産省委託事業 自由貿易協定等情報調査分析検討事業

プロマーコンサルティング 2011 年 3 月

38

3. 韓国の農林水産業と農林水産政策

韓国の農業分野は、経済発展に伴う食生活の変化等によって自給率が大きく低下し、その裏返

しとして農業保護水準が比較的高い。専業農家率が高く、日本以上に深刻な問題を抱えている面

もある。一方で、依然として韓国政府は「強い農業」の育成のために輸出重視の立場を一層前面

に出している。韓国では水産業分野が農林水産業 GDP の 13.9%を占め、水産業分野の重要性は

高い。現在の水産業は輸入超過で産業は内需向けに切り替わっているが、それでも輸出先として

日本が最重要であることには変わりない。林業は基本的には輸入木材に頼る構造であったが、人

工林の成熟により 2008 年以降は国産も増加してきた。以下では、韓国の農林水産業と、それを

支える政策、また日本に関わりの深い品目を中心に、品目別の産業動向をとりまとめる。前章の

中国と同様、3.1 節で農業、3.2 節で水産業、3.3 節で林業を扱い、最後の 3.4 節にまとめを付す。

3.1. 農業

3.1.1. 農業の概況

農業従事者数、農家戸数

韓国の農業従事者数は減少を続けており、2000 年の 224 万人から、2009 年には 165 万人とな

った。同時期に 60 歳以上の高齢者の割合は、44.0%から 55.7%に上昇している。2009 年の農家

戸数は 120 万戸、専業農家率は 58.0%である。

耕地面積は 174 万ヘクタールで、うち 68.4%

が水田である。1 戸あたりの平均耕地面積は

1.45 ヘクタールである。

規模別農家割合を見ると、0.5 ヘクタール

未満の農家が 39%、0.5~1.0 ヘクタールの農

家が 25%と過半を占める。5 ヘクタール以上

の耕地を持つ農家は 3%にとどまる。ただし

農家の機械所有率が低く、また地方での就

業機会が限られ不在地主が多いため、農地

の賃貸借、あるいは稲作の作業委託が一般

的にみられる。

図 15 農地面積別の農家割合(2009)

出所)(MIFAFF 2010b)

耕地無し

1%

0.5ha未満

39%

0.5ha以上

1ha未満25%

1ha以上

2ha未満20%

2ha以上

3ha未満7%

3ha以上

5ha未満5%

5ha以上

3%

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表 27 韓国における農業従事者、農家戸数、及び耕地面積の推移

農業

従事者数 60 歳以上

60 歳以上

の比率 農家戸数 耕地面積 うち水田

1 戸あたり

耕地面積

千人 千人 % 千戸 千 ha 千 ha ha

1999 2,302 952 41.4% 1,382 1,899 1,153 1.37 2000 2,243 988 44.0% 1,383 1,889 1,149 1.37 2001 2,148 998 46.5% 1,354 1,876 1,146 1.39 2002 2,069 1,013 49.0% 1,280 1,863 1,138 1.45 2003 1,950 985 50.5% 1,264 1,846 1,127 1.46 2004 1,875 960 51.2% 1,240 1,836 1,115 1.48 2005 1,815 995 54.8% 1,273 1,824 1,105 1.43 2006 1,785 992 55.6% 1,245 1,800 1,084 1.45 2007 1,726 958 55.5% 1,231 1,782 1,070 1.45 2008 1,686 947 56.2% 1,212 1,759 1,046 1.45 2009 1,648 918 55.7% 1,195 1,737 1,189 1.45

出所)(MIFAFF 2010b)

農業生産額

韓国の農業生産額は、1990 年に 18 兆ウォンであったものが、2000 年には 32 兆ウォン、2009

年には 41 兆ウォンに達している。ただし実質の伸びでは、2000 年代には停滞傾向にある。1990

年代にはウルグアイラウンド交渉後の農業構造改革のために、施設園芸、特に野菜生産の発展と

輸出振興が図られ、農業生産額が増大している。しかし、経済危機による国内市場縮小、燃料や

飼料など投入物価格の上昇、さらには口蹄疫発生による日本向け豚肉輸出の停止などの要因を受

けて、1990 年代末から輸出は停滞、農家負債が急激に悪化し、生産の伸びが停滞したのである。

ただし 2000 年代後半になって、米国の BSE 問題による米国産牛肉の輸入停止による代替需要

に恵まれ、加えて FTA 対策等による積極的な畜産振興も行われて国内の養豚・肉牛産業が発展

し、また日本での韓流ブームに後押しされた韓国食材・加工食品の輸出増もあり、2008 年、2009

年と農業生産額は再び増加に転じている。

こういった変化を反映し、農業生産額に占めるコメの割合は 1990 年の 37%から 2009 年には

21%に低下、代わって 16%であった食肉が、31%を占めるまでに拡大している。

韓国の食料需給

韓国の食料需給は、41 ページ表 28 に示される通り、幅広い農産品分野について輸入に依存し

ている。穀物・油糧種子分野では、コメ以外のトウモロコシ、小麦、大豆などで輸入が大きく生

産を上回っている。野菜・果実・食肉分野では、全般的には国内生産が輸入を上回っているが、

オレンジや牛肉等の一部の品目ではやはり輸入のシェアが高い。

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図 16 韓国の実質農業生産高の推移

出所)(MIFAFF 2010b)

図 17 韓国の農業生産高の推移

出所)(MIFAFF 2010b)

図 18 韓国の農業生産額における品目別シェアの推移

1990 2000 2009

出所)(MIFAFF 2010b)

707580859095

100105110

1989

1990

1991

1992

1993

1994

1995

1996

1997

1998

1999

2000

2001

2002

2003

2004

2005

2006

2007

2008

2009

指数

2005=100

0

5,000

10,000

15,000

20,000

25,000

30,000

35,000

40,000

45,000

1989

1990

1991

1992

1993

1994

1995

1996

1997

1998

1999

2000

2001

2002

2003

2004

2005

2006

2007

2008

2009

10 億ウォン

卵・牛乳その他畜産物

食肉

その他農産物

果実

野菜

37%

麦・コーン・豆・

イモ類5%

野菜

19%

果実

7%

特用作物

2%

薬用作物

1%

花き

1%

キノコ

1%

タバコ・高麗

人参3%

稲わら

2% 食肉

16%

卵・牛乳その他

畜産物6%

33%

麦・コーン・豆・

イモ類3%

野菜

21%

果実

8%

特用作物

1%

薬用作物

1%

花き

2%

キノコ

2%

タバコ・

高麗人参2%

稲わら

2% 食肉

18%

卵・牛乳その他

畜産物7%

21%麦・コーン・

豆・イモ類3%

野菜

18%果実

8%

特用作物

1%薬用作物

2%花き

2%

ノコ1%

タバコ・高麗

人参3%

稲わら

1%

食肉

31%

卵・牛乳

その他

畜産物

9%

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表 28 韓国の食料需給表(2008)

単位: 千トン

生産 輸入 在庫

繰入 総

供給量 在庫

繰越 輸出 飼料 種子 減耗

食用

供給量

穀類 4,687 12,480 1,934 19,101 2,574 1 7,436 47 486 7,719 小麦 10 2,485 440 2,935 416 - 396 0 28 2,057 米 4,408 258 695 5,361 690 1 0 40 293 4,191 大麦 170 171 293 634 216 - 74 7 22 53 トウモロコシ 84 9,317 487 9,888 1,231 - 6,942 0 39 1,284 その他 15 249 19 283 21 - 24 0 104 134

イモ類 952 20 - 972 - - 96 49 96 732 ジャガイモ 600 20 - 620 - - 60 30 60 470 サツマイモ 352 - - 352 - - 36 19 36 262

砂糖類* 1,447 1 39 1,486 38 285 - - 12 1,152 豆類 134 1,346 42 1,522 86 - - 4 10 476 大豆 114 1,261 40 1,415 83 - - 4 9 373 小豆 5 26 1 32 2 - - 0 0 30 その他 15 59 1 75 1 - - 0 1 73

ナッツ 81 27 0 108 0 13 - 0 2 93 種子類 46 82 7 135 7 0 - 0 1 33 ゴマ 18 64 7 88 7 0 - 0 0 16 その他 28 18 - 47 - 0 - 0 1 18

野菜類 10,048 1,133 3 11,183 8 137 - 59 2,525 8,454 果実類 2,698 523 0 3,221 0 39 - - 300 2,698 肉類 1,717 509 104 2,330 125 20 - - 43 2,108 牛肉 174 224 40 438 73 - - - 7 358 豚肉 709 214 58 981 44 10 - - 19 908 鶏肉 377 70 6 453 8 9 - - 9 427 副産物 458 0 0 458 0 - - - 9 415

卵類 542 2 0 544 0 0 - - 11 533 乳製品類 2,181 894 10 3,085 9 58 - - 26 2,565 牛乳 2,139 885 - 3,024 - 55 - - 25 2,517 全脂粉乳 3 1 1 5 0 0 - - 0 5 脱脂粉乳 20 5 8 33 8 0 - - 0 25 調製粉乳 16 2 1 19 1 3 - - 0 15 練乳 4 0 0 4 0 1 - - 0 3

油脂類 20 575 47 643 32 6 - - 6 599 植物性油脂 18 557 46 621 31 3 - - 6 581 動物性油脂 2 19 1 22 1 3 - - 0 18

魚介類 2,424 1,744 395 4,563 355 858 - - 168 3,182 魚類 1,429 1,185 254 2,867 222 512 - - 107 2,026 貝類 996 559 141 1,696 133 347 - - 61 1,156

藻類 935 30 0 965 0 155 - - 41 770 アルコール飲料 4,090 121 91 4,302 90 228 0 0 19 3,705

出所)(KREI 2010c) 注)*砂糖は精製糖。韓国は、砂糖原料はほぼ全て輸入しているが、国内で精製糖を加工している。精製糖は国

内需要に充てるほか、一部を輸出している。

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農産物貿易

韓国の農産物貿易は一貫して輸入超過の状況にあるが、特に経済危機後の V 字型の回復時期

以降、一貫して上昇傾向を示し、特に 2006 年以降は急速に拡大している。最も輸入額が多かっ

た 2008 年には、農産物 139 億ドル、畜産物 34 億ドルの計 173 億ドルに達した。農産物輸入相手

国では FTA を既に締結した米国が最大で、次いで中国が第 2 位、第 3 位が豪州である。

農産物の輸出も 2000 年以降増加しており、2000 年に 13 億ドルであった輸出額は、2009 年に

31 億ドルとなった。ただし、輸入の成長に比べると輸出増加のスピードは遅く、2000 年代後半

になって農畜産物の貿易赤字が年々急速に拡大する結果につながった。この農産物貿易赤字の急

激な拡大は韓国政府に大きな懸念を抱かせており、後述するように輸出促進政策を活発化させて

いる背景の一つとなっている。

農産物輸出の 8 割近くは、韓国の伝統食品(キムチや参鶏湯等)、アルコール、タバコ等の加

工農産品である。生鮮品ではパプリカ等の野菜、リンゴやナシ等の果実等が主要な品目となって

いる。輸出相手国では日本が最大で、次いで ASEAN、中国、香港、EU、台湾、ロシアと続いて

いる。

図 19 韓国の農畜産物貿易額の推移

出所)aT Kati 農林水産物貿易統計

3.1.2. 農業政策

農業政策の概要52

韓国では 2008 年に従来の農林部に水産関連部門が統合され、農林水産食品部(MIFAFF)と

して改称された。農林水産食品部は農林水産業及び食品産業の振興と農漁村開発、農産食品流通

等の農業政策全般を担っている。

52 (石田 2004)(倉持 2003)(柳 and 姜 2009)(青山 2005)(安部 and 張 2002) (奥田 and 渡辺 2011) 等を参

0

5000

10000

15000

20000

1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009

百万ドル 輸出

輸入

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韓国では、ウルグアイラウンド交渉後の農産物貿易自由化を見据え、1980 年代の末から本格

的な農業構造改革が進められ、施設園芸や畜産の発展と輸出振興が図られた。この時期、国際化

に対応する第一次の農業対策として 1992~1998 年の間に 42 兆ウォンが投入されて、温室や機械

等の設備に対する補助や、輸出基地としての生産団地の育成、大規模化へ向けた農地売買制限緩

和等を通じ、高付加価値農業の発展が推進された。

しかし、これらに対する政策的融資が増加する一方で、経済危機の影響により燃料・飼料等の

投入物価格が上昇し、温室での施設園芸や畜産の採算が大きく悪化、一方で国内市場は縮小し、

さらには口蹄疫発生による日本向け豚肉輸出の停止などの要因を背景に輸出が停滞する状況の

中で、融資を受けた専業農家において、負債状況が急激に悪化した。また、高付加価値農業育成

施策はごく一部の大規模農家のみを助けるもので、韓国農業の大部分を支える小規模農家の切り

捨てであるとの批判が噴出した。このため金大中(キム・デジュン)政権下では、依然として輸

出推進の姿勢は維持しながらも、「親環境」型農業における直接支払いと流通改善、農家負債の

軽減へと比重が移された。この間に、韓国ではウルグアイラウンド後の第二次農業政策として捉

えられている『農業農村発展計画』が 1999~2003 年を対象として実施され、45 兆ウォンが投入

された。

次いでドーハラウンドの進展に伴い、農業政策において直接支払いが拡充され、稲作への直接

支払いや、経営移譲への直接支払い等が設けられた。また盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権下におい

ては積極的な FTA 推進が図られるようになり、それによって従来の関税による保護が実効を失

うため、FTA の締結により大きな被害を受ける特定の農業部門への保障対策といった点に保護

政策の重心が移されるようになる。もちろん引き続き国際的な競争力の強化にも重点が置かれて

いるが、加えて農村地域の生活・福祉の向上にも大きな注意が払われるようになった。2002 年

の韓チリ FTA 交渉妥結後、2003 年には、2004~2013 年を対象にした第三次の農業政策となる『農

業農村総合対策』が制定され、合計で 119.3 兆ウォンが投融資の財源として確保されることとな

った。財源はその後 2007 年の韓米 FTA の妥結後に 3.9 兆ウォンが増額され、計 123.2 兆ウォン

となっている。

FTAに係る国内農業対策53

前述の 119.3 兆ウォンのうち、1.2 兆ウォン(2004~2010 年)が特に韓チリ FTA の国内対策と

して充てられたもので、これにはブドウ、キウイ、モモ等の果樹農家等を中心に、競争力向上対

策(流通拠点の整備、有力な農家への集中的な融資、土地貸借の支援)、所得補償直接支払い(価

格の急激な下落に対する政府補填)、廃業支援(競争力の低い農家の退出支援)が含まれた。た

だし、実際には韓チリ FTA 後に農産物価格の大きな下落は見られなかったため、直接支払はほ

とんど実施されず、支援予算は主に廃業支援で約 3,000 億円を投じたのみに留まった。

53 (奥田 and 渡辺 2011)(會田 2008)

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次いで、韓米 FTA の国内対策としては予算額 20.4 兆ウォン(2008~2013 年)が充てられた(な

お、このうち 11.1 兆ウォンは前述の 123.2 兆ウォンの一部)。対策では①競争力強化(畜産、園

芸、食糧分野)、②農業の体質改善、③短期的な被害補填(被害補填の直接支払と廃業支援)の

三点が柱とされた。さらに韓 EU FTA の妥結に伴い、さらに FTA 対策として 2010 年に畜産分野

を中心に 2 兆ウォンが増額されている。

李明博政権下の農業政策

李明博政権の成立後の 2 年間は、農業政策において「協同組合の改革」「食品安全性を担保で

きる供給体制の確立」「韓国の食品産業のグローバル化」「農産品の価格安定」の 4 点を中心とし

た施策が進められた。2008 年には前述の 119.3 兆ウォンに加え、特に畜産業の発展対策として

2.1 兆ウォンの追加対策が打ち出された。

また 2010 年 2 月になってMIFAFFは『ビジョン 2020』54

農業政策予算

を発表、同政権の方針に従い、新しい

農業政策の大枠を示した。『ビジョン 2020』では重点課題として、①農漁業の体質転換、②新成

長動力の育成、③食品産業のグローバル化、④韓国のフードシステムの先進化、⑤地方の活力や

多元的機能を最大限に引き出す、という 5 点が取り上げられている。特に、今後の担い手となる

「専門農業経営体」の育成や、動植物資源の活性化、加工食品を中心とする輸出の促進、地方の

競争力強化などを図ることが示され

ている。

2010 年MIFAFF予算・基金運用計

画 55

KREI

によれば、韓国の 2010 年の農林

水産予算は基金を含めると計 14 兆

6,738億ウォン(約 1兆 1千億円)で、

前年比 0.3%増となった。(右表参照)

56

54 (MIFAFF 2010g)

によれば、農林水産関係の

予算は、2004 年以降、毎年 5~7%程

度増加しているが、国家予算に占め

る割合としては、2004 年に 7.0%で

あったものが、2009 年には 5.9%と

減少している。

55 (MIFAFF 2010c) 56 KREI 統計情報(http://www.krei.re.kr/kor/statistics)

表 29 韓国の農林水産予算 単位:億ウォン

2009 年度 2010 年度

農林水産予算計 146,363 146,738

農林水産事業費 141,970 142,350

農業・農村 123,240 121,505

農業の体質強化 24,950 23,489

農家所得経営安定 26,811 24,952

農村開発福祉増進 17,485 16,982

糧穀管理・農産物流通 32,354 32,479

農業生産基盤 21,640 23,603

漁業・漁村 13,330 13,606

食品産業 4,718 5,764

その他の事業費 682 1,475

基本費用 4,393 4,388 出所) (MIFAFF 2010c)

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45

2010 年の予算全体では、農業の体質強化、農家所得経営安定、農村開発福祉等の各分野で予

算が減少したが、農業生産基盤や、食品産業に対する予算配分は増加している。具体的な政策項

目では、農地流動化に対する資金援助等の規模拡大のサポート(2010 年 3,191 億ウォン)、新品

種の開発普及(4,287 億ウォン)、環境に優しい肥料の購入支援(3,045 億ウォン)、農畜産物生産

施設近代化サポート(1,892 億ウォン)、バイオ・種子産業の育成(2,437 億ウォン)、物流費支援

等の輸出促進強化(5,357 億ウォン)等の分野で、予算が増大している。

農産物輸出政策57

韓国の農林水産物の輸出促進を担うのは韓国農水産物流通公社(aT– Agro-Fisheries Trade

Corporation)である。aT は韓国農林部の外郭団体で、農水産物輸出促進のほか、食品価格安定

のための国家貿易機構、農水産物の関税割当枠管理、および、農林水産物流通と食品産業の支援

機関としての機能も持つ。

韓国の輸出促進政策では、物流費の補助に始まり、輸出拠点団地の育成、公費負担による輸出

インフラ設備建設等、非常に手厚い政策支援・融資を行っているのが特徴である。韓国国内では

それに対して、こういった施策が逆に産業としての競争力を失わせている、あるいは一部の輸出

業者のみへの優遇で一般の農家に対して恩恵が少ない等の議論もあるが、依然として輸出促進は

グローバル化する市場において韓国の農業が生き残るための手段の一つとして重要であるとい

う位置づけは現政権でも変わっておらず、また近年急速に拡大する農産物貿易赤字に対する懸念

もあって、これに係る政策支援は一層拡充されている。

aT の前身は 1967 年に設立された農水産業開発公社(AFDC – Agriculture & Fishery Development

Corporation)で、同公社は 1978 年に価格安定プログラムを担う国家貿易機関となった。さらに

1984 年以降は韓国産の農水産物のマーケティングの役割も担うようになり、1987 年に農水産業

マーケティング公社(AFMC - Agricultural and Fishery Marketing Corporation)と改称された。その

後、輸出プロモーションプログラムの充実や農産品流通エキシビジョンセンターの設立等を行い、

2005 年に現在の名称である農水産物流通公社(aT)に改められている。

aT の 2014 年に向けた展望「ビジョン 2014」によれば、aT の使命は国内外における韓国産農

産物の競争力の確保と、農家及び漁家の所得の向上、国内経済のバランスのとれた発展であり、

aT の長期的なビジョンは、輸出と流通分野において世界レベルの公社になることである。その

ための戦略的目標の一つとして、農水産物輸出を 2014 年までに 100 億ドルに増加させることを

掲げた。その後前述の MIFAFF の『ビジョン 2020』において 2020 年までに農水産物の輸出を

300 億ドルに増やし、世界 10 位圏内の農産物輸出国になるとの目標指標が示され、100 億ドルの

目標は 2012 年に前倒しされた。それを担う機関として aT の重要性は増している。計画の実現

可能性や aT 運営の効率性等に国会等で疑問が挙げられているものの、韓国政府としてはより一

57 本節は、(プロマージャパン 2010)に加筆したもの。

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46

層輸出に力を入れる方針に変わりはないものとみられる。

表 30 aT の貿易プロモーション部門

部 課 業務内容 スタッフ 輸出戦略課 輸出企画室 企画・予算総括・展望 31 名

輸出管理室 GAP、輸出ブランド「フィモリ」運営 物流管理・輸出保険

マーケティング戦

略室 マーケティング戦略総括 海外 aT 支社運営、販促活動 中国の代理店サポート等

市場開拓室 輸出広報・展示会企画の総括 バイヤー招へい 在外公館との協力

農水産物マ

ーケティン

グ課

果樹花き輸出室 果樹花きの国内外でのマーケティング 21 名 野菜輸出室 野菜の輸出支援・キノコの輸出支援

新商品開発支援 水産物等輸出室 水産物の国内・海外でのマーケティング支援

畜産物と林産物の海外支援 食品マーケ

ティング課 伝統食品輸出室 朝鮮人参、キムチ、伝統酒、ゆず茶、醤類

の輸出支援、商品化支援 30 名

加工食品輸出室 食品企業の輸出協議会の運営とサポート、

加工食品のマーケティング、ベンダーの相談 コメ及び韓国料理食材の輸出

食品輸出情報室 Agro Trade 運営、KATI 運営、調査企画、顧客

管理、水産物についてのモニタリング、FTAについての情報収集、貿易月報

食品産業課 食品産業育成室 有機認証、外食企業コンサルティング 食品加工企業へのコンサルティング・コーチング 資金調達支援

29 名

韓国料理グローバル化

室 韓国料理協議会の構築 韓国料理食材の促進 韓国料理のグローバル化、上海 EXPO 専門人材育成

食品消費促進室 優秀な伝統食品や伝統酒に対する表彰、育

成、広報、認証農産物の支援 天日塩やキムチ産業等の育成

出所)aT ウェブサイト

aT の本部組織は 3 部門から成り、農水産物輸出支援を担う貿易プロモーション部門の他に、

全体の企画や総務・人事、基金の運営、危機管理等を担う企画・マネージメント部門と、食料の

需給調整や普及・教育、関税割当等を担うマーケティングサポート部門がある。加えて、国内に

11 の地方事務所と、国外に 9 の海外事務所を持つ。貿易プロモーション部門の下には、輸出戦

略課、農水産物マーケティング課、食品マーケティング課、食品産業課の 4 課があり、輸出促進

関連には委託契約者を含めて合計で 100 名強のスタッフを充て、活動の充実を図っている。

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海外事務所は、現在は日本(東京・大阪)、中国、米国等の海外 6 カ国の主要 9 都市に置かれ

ているが、2015 年までに 16 か国、30 事務所に拡充することが計画されている。海外事務所の事

業内容には、農水産貿易に関連する情報の収集、PR 活動、販売プロモーションなどが含まれ、

具体的には主な国際展示会への出展、パッケージデザインの向上支援、韓国の伝統的食品の展示

会の開催、食関係雑誌等での広告などを担当している。

農林水産物輸出支援事業経費には、aT の 2009 年度予算額で 837 億ウォン(約 60 億円(日本

の農林水産物等輸出促進予算は約 32 億円:報告書本項 62 ページ参照))、2010 年度予算額で 917

億ウォンが充てられている(国内外の aT センターの運営経費は別途)。aT の農産物輸出促進事

業には、以下のような事業が含まれる。

生産から輸出まで一貫する形で輸出を主導できる輸出組織の育成を図っている。長期的には一

品目一輸出組織へ統合し、ゼスプリやサンキストのような先進国型の力のある組織を育成するこ

とを目標としている。2009 年現在で農産物・食品の輸出組織 13 ヵ所が選定されており、2010

年にはさらに林産物等も含めて 21 組織に拡充する方針。これらの認定された組織に対して物流

経費の一部補助(物流費の 20%が上限)や、輸出インフラの強化事業費の支給等を行っている。

さらに、同一品目の中での過当競争を防ぎ、協力してマーケティングを行えるようにするために、

関係する輸出業者が加盟する連合組織の育成も行っている。

輸出の主要組織の育成

2010 年の農林水産事業実施規定によれば、「農畜産物の販売促進事業(輸出業者の物流費と輸

出インフラの強化)」に対して、補助予算額 2008 年 327 億ウォン、2009 年 413 億ウォン、2010

年 415 億ウォンが挙げられており、この事業が aT の輸出促進事業の中核となっていると考えら

れる。

高品質農産物の輸出支援のために aT が 2004 年に立ち上げた韓国の農産物ブランドで、パプ

リカ、ナシ、菊、バラ、エリンギ、キムチの 6 品目が対象で、認証された生産者及び企業のみ

が取り扱うことができる。規定にしたがって栽培、収穫、品位、選別、包装、安定性など、厳格

な品質管理を行う。新しく認定されたバラでは、光や温度によって色が変わる新品種「マジック

ローズ」が対象となっており、日本への輸出が好調であるとみられる。

輸出用の共同ブランド(フィモリ(Whimori))の管理運営

2009 年実績では、フィモリ事業に輸出業者 11 社が参加し、計 2,400 万ドルの輸出実績があっ

た。事業者に与えられる補助額は 2009 年 1,519 百万ウォン、2010 年 1,728 百万ウォン 58

58 2010 年 10 月 19 日付 Yahoo Korea 記事「農水産物流通公社、どんぶり勘定式インセンティブ支給」

。報道

によれば、参加している輸出業者には、上記の主要組織育成事業にさらにプラスして物流費の

2010 年 10 月 18 日付財経日報記事「ファンヨンチョル"農水産物流通公社の輸出支援のインセンティブの

重複支給"」

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10%が補助されるほか、フィモリ事業参加のインセンティブとして品質管理指導料、育苗支援、

栽培技術開発、生物農薬の購入費補助等の個別の支援金が支給される 59。例えば、きのこの生産

者団体によれば、エリンギのフィモリブランド輸出認定業者のモスィエムでは、主要組織育成事

業やフィモリ事業等の関連補助金を合わせると、補助金総額は輸出単価の 40%のレベルに達す

る 60

専門人材の育成:輸出に積極的な指導的立場の農家を対象に、先進農業機関の現場教育、

海外専門家招請コンサルティング、輸出業者、専門教育の実施を行う。また、韓国料理レ

ストランの認証や、韓国料理人の育成計画

その他の事業

61

輸出の安全性管理:安全な農産物の供給を確保するために、GAP 認証システムの運営と認

証機関の指定、農家への普及を行う。

もある。

品目別輸出協議会の育成:輸出業業者間の自律的な協力機構を立ち上げ、輸出品の安全品

質管理、共同マーケティングの実施、あるいは出荷時期や単価、品質等に関する自主規制

を導入するために、品目別の輸出協議会の育成を図っている。2009 年現在 12 団体あり、2010

年には 15 団体に拡大する計画。

有望品目の発掘:海外マーケット、テストや試験輸出を通じて新規の輸出有望品目を発掘

するために、商品開発費、輸出試験、海外プロモーション費用の支援などを行う。

海外輸出ネットワーク構築:主要な市場において、現地の大手流通業者に対して、韓国産

品の常設コーナーの拡充や、供給ルートの確立、広報プロモーション推進を通じた、グロ

ーバルな輸出ネットワーク構築により、輸出基盤確立をはかる。

海外事業所による商社/代理店業務の拡大:中小輸出企業に対して、海外事業所における支

援を積極的に行い、彼ら自身の現地拠点として利用できるようにする。また、主要な食品

企業に対しても、海外での現地 TV 広告等のマーケティングをサポートする。

国際博覧会への参加支援:主要な国際的な展示会に参加して、輸出業者と現地バイヤーと

の商談機会を提供する。

バイヤー招請:『Buy Korean Food』などのイベントを開催し、海外の優秀なバイヤーを招待

して、輸出業者とバイヤーとの輸出商談機会を提供する。

59 2009 年 6 月 26 日付農業新聞記事「'フィモリ'エリンギアメリカで'ダンピング販売』の悩み」 60 同上 61 韓国経済新聞 2010 年 10 月 13 日付記事「農水産物流通公社‥グローバル農水産ビジネスの成長目標は

韓国版カーギルへの飛躍」

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輸出情報の提供:農水産物の輸出に関連する情報をインターネット上のサイトの農水産物

貿易情報(KATI.net)で提供しており、農水産物のインターネットの貿易取引斡旋システム

(Agro Trade)を使って、輸出商品の海外広報及び海外取引先の発掘をサポートする。

韓国料理グローバル化支援:主要都市における韓国料理協議会の設立や、海外の大学や料

理学校における韓国料理講座の開設、海外の韓国料理店のコンサルティング支援や、認証

制度の運営等を行っている。

農水産物の輸出業者支援のための融資:aT が管轄する農産物価格安定基金から、輸出業者

のための運転資金や原材料の調達資金等に対して、融資貸付を実施している。

(青山 2005)、(會田 and 樋口 2010)によれば、これらの中央政府予算の他に、地方政府も独自

で物流費支援(例えば忠南 34 億ウォン、済州 17 億ウォン、全北 16 億ウォンなど)や、その他

に輸出関係の教育普及事業、コンサルティング事業、基盤造成事業等を手掛けている。

3.1.3. 品目別―コメ

韓国の農産物で、最も重要な位置を占めるのがコメであるが、生産面積、生産量とも減少傾向

にある。2001 年に生産面積 108 万ヘクタール、籾米生産量 741 万トンであったものが、2010 年

実績ではそれぞれ 89 万ヘクタール、581 万トンとなり、それぞれマイナス 17.6%、マイナス 22.1%

となった。

図 20 韓国のコメ生産量・生産面積の推移

出所)KOSTAT 作物生産調査 注)籾米ベース

他方で 1 人当たりのコメ消費量も年々減少しており 62

62 1990 年 119.6kg → 2000 年 93.6kg → 2009 年 74.0kg (KREI)

、コメの余剰感が高まっている。韓国で

は 1995 年から後述するミニマムアクセスによる輸入が始まった。これに 2002 年の大豊作が重な

り、在庫が大きく積みあがった。このため、米価下落による農家所得減少を緩和するため、2002

年に所得補填直接支払制度が導入された。さらに、2003~2005 年の間にコメの生産調整も行わ

0

200

400

600

800

1,000

1,200

4,000

4,500

5,000

5,500

6,000

6,500

7,000

7,500

8,000

1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010

作付

面積

千ha

生産量

t

生産量

生産面積

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れた。2005 年にはコメ所得等補填直接支払制度へと制度を改変した。2006 年以降は、生産量は

緩やかに減少したため、その後は生産調整が行われなかった。しかし、2009 年は再び在庫量が

増加、2010 年はさらに増加の見通しとなり、モデル事業として生産調整が再開されている。63

図 21 韓国のコメ需給の推移

出所)(통계청(韓国統計局) 2010)

韓国では、ウルグアイラウン

ド交渉において、1995 年から 10

年間の関税化の猶予を得る代わ

りに、ミニマムアクセス米の受

け入れを承諾した。2004 年に、

関係諸国との交渉の上で、韓国

はさらに 10 年間の猶予と、ミニ

マムアクセス米の拡大、さらに

国内での主食用の販売を行うこ

とに合意した。右表にミニマム

アクセスの合意内容を示したが、

ミニマムアクセス米の輸入量は

2010 年には約 32.7 万トンで、こ

のうち 3割の約 9.8万トンが主食

用である。

ミニマムアクセスについては

枠内関税が 5%と設定されており、ミニマムアクセス以外での輸入はほとんどみられない。ミニ

マムアクセス米のうち、国別指定のあるものが 20.5 万トンで、うち 11.6 万トンが中国に割り当

てられている。

63 (樋口 2010)

0

1,000

2,000

3,000

4,000

5,000

6,000

1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009

千t生産+輸入

需要

在庫

表 31 韓国のコメのミニマムアクセス 単位:千 t

年度

割り当て 主食

主食用

比率 合計 指定無 国指定

うち中国

2005 226 20 205 116 23 10%

2006 246 41 205 116 34 14%

2007 266 61 205 116 48 18%

2008 287 81 205 116 63 22%

2009 307 102 205 116 80 26%

2010 327 122 205 116 98 30%

2011 348 142 205 116 104 30%

2012 368 163 205 116 110 30%

2013 388 183 205 116 117 30%

2014 409 203 205 116 123 30%

出所) (한국쌀가공식품협회 2010)

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ただし弊社のインタビューによれば、韓国では業界や研究者らの間でミニマムアクセスの負担

が重すぎるため、関税化を検討すべきとの考え方が強くなっており、ミニマムアクセスから関税

化へ向けて動く可能性があるとの見解が示されている。

一方、コメの輸出については、1990 年代後半から 2000 年代はほとんど見られなかったが、2009

年、2010 年は豪州とニュージーランド等に対して計 4 千トン程度の輸出があった。他に、北朝

鮮への援助米として、2002 年から 2007 年にかけて毎年 10~40 万トン程度を供与したが 64

、そ

の後両国関係が悪化したためにストップしている。このことも韓国国内のコメ余り状況に拍車を

かけていると言われている。

3.1.4. 品目別―その他の耕種作物

韓国のコメ以外の穀物等の耕種作物の生産においては、ハダカムギ、ビール麦、一般大麦、大

豆、イモ類等が主な作物となっている。このうち、大豆についてはコメ以上に内外価格差が大き

い手厚い保護政策をとっており、中韓 FTA を検討するにあたって影響が懸念されている。

表 32 韓国の麦類・雑穀・豆類・イモ類・油糧種子生産量の推移 単位:千 t

2004 2005 2006 2007 2008 2009

麦類

ハダカムギ 120 141 95 113 121 113 ビール麦 91 93 80 87 83 67 一般大麦 38 38 33 38 38 31 小麦 13 8 6 7 10 19

雑穀

トウモロコシ 78 73 65 84 93 77 その他雑穀 10 13 17 14 11 11

豆類

大豆 139 183 156 114 133 139 その他豆類 17 15 13 14 14 16

イモ類

ジャガイモ 771 1,073 757 689 605 590 サツマイモ 362 300 303 373 349 372

油糧種子 49 50 47 53 52 53 出所)(MIFAFF 2010b)

大豆

韓国ではコメ余りの懸念と自給率向上のために、水田等での大豆生産が振興されている。韓国

では国内生産を確保するために大豆の政府買入れ制度が 1980 年代にはじまり、一時は生産の約

64 (KREI 2010b, 136)

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4 割近くを政府買い入れが占めるまでになったが、その後自由化に伴って政府買い入れの割合は

縮小した。また水田での大豆生産を振興するために水田大豆の政府買い入れ価格を高く設定する

などの措置をとっていたが、それも 2006 年に廃止となり、2009 年の政府買い入れ率は 0.9%に

なっている。

輸入面では、WTO交渉の結果、カレントアクセス(1988~1990 年の平均輸入量を基準に設定)

の割当を行っており、さらに国内の需要拡大に合わせて、カレントアクセス以外の割当も拡大し

てきている。輸入先は中国と米国で、2009 年度の実績では中国が 76%、米国が 22%である 65

弊社のインタビューによれば、韓国の食用大豆には非 GM 大豆が用いられており、中国も大

豆の純輸入国とはいえ、非 GM 大豆の生産国としては重要な国であるため、中国との FTA を考

えた際には大豆の輸入が最も懸念されている点である。

輸入大豆のうち、飼料用等については民間貿易であるが、食用大豆として用いられるものについ

ては、国家貿易となっており(国家貿易の場合の関税 5%、それ以外では関税 487%であり、事

実上国家貿易のみ)、国産との価格差を考慮したマークアップが課されて国内に販売される。こ

れによって、国産大豆の価格を高く維持している。

表 33 韓国の大豆需給の推移 単位:千t

供給

需要

期首 在庫

生産 輸入

食用 飼料用 種子・ その他

期末 在庫

2000 1,781 79 116 1,586 1,694 399 1,282 13 87

2001 1,544 87 113 1,344 1,463 390 1,061 12 81

2002 1,688 81 118 1,489 1,614 401 1,200 13 74

2003 1,700 74 115 1,511 1,582 385 1,185 12 118

2004 1,597 118 105 1,374 1,480 408 1,059 13 117

2005 1,493 117 139 1,236 1,420 441 965 14 73

2006 1,410 73 183 1,154 1,344 438 888 18 66

2007 1,431 66 156 1,209 1,391 421 956 14 40

2008 1,416 40 114 1,261 1,333 374 946 13 83

2009 1,772 83 133 1,557 1,576 397 1,168 12 195

出所)(KREI 2010b, 149)

3.1.5. 品目別―野菜

韓国では 1990 年代に農業構造の転換を図り、「強い」農業を創出するために施設園芸、特に野

65 (Seung and Heo 2010, 564)

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53

菜生産の振興が図られたが、経済危機の影響も受け、農家負債が深刻な問題となる一方で、2000

年代にかけて生産の伸びはやや停滞している。ただしコメ生産が縮小する中で、2000 年代末に

は、野菜と果実を合わせた園芸作物の生産額がコメを追い越した。

韓国の野菜生産では、キムチの原料ともなるハクサイが 253 万トンと飛びぬけて多く、次いで

タマネギ 137 万トン、ダイコン 126 万トン、スイカ 85 万トン、ネギ 45 万トンとなっている。

表 34 韓国の野菜生産量の推移 単位:千 t

2004 2005 2006 2007 2008 2009

野菜計 10,062 9,097 9,445 8,828 9,343 9,353

ハクサイ 2,865 2,325 2,749 2,217 2,585 2,529 ホウレンソウ 119 109 104 81 93 105 レタス 205 167 160 155 138 146 キャベツ 274 277 319 320 317 319

ダイコン 1,710 1,277 1,495 1,194 1,402 1,256 ニンジン 80 118 130 77 100 99

スイカ 824 905 778 742 857 847 メロン 243 200 220 205 220 228 イチゴ 203 202 205 203 192 204 カボチャ 304 339 322 330 328 341 キュウリ 407 403 390 330 384 352 トマト 395 439 433 480 408 384

タマネギ 948 1,023 890 1,213 1,035 1,372 ネギ 700 513 543 489 505 447 ニンニク 358 375 331 348 375 357 唐辛子 410 395 353 414 386 350 ショウガ 18 29 23 29 18 16

出所)(MIFAFF 2010b)

野菜の輸出では、日本向けのキムチやパプリカが主体で、2009 年では日本が輸出の約 64.5%

を占めた(KREI 2010b, 198)。

輸入では中国から唐辛子、キムチ、ニンジン、ニンニクが流入しており、これらに対しては国

内生産に影響が出ないよう、関税割り当て等の措置を活用している。なお、ニンニクについては、

2000 年に韓国がセーフガードを発動して高関税を賦課したことに対して、中国側が反発して携

帯電話とポリエチレンの輸入を停止した「韓中ニンニク戦争」が起きており、ニンニクや唐辛子、

タマネギ等については韓国側がセンシティブな分野である 66

66 (奥田 and 渡辺 2011)

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54

表 35 韓国の野菜の輸出入

貿易量(千トン) 貿易額(10 万ドル)

2005 2009 2005 2009

輸出 89 107 2,314 2,509 キムチ 32 29 930 894 パプリカ 18 18 531 533 イチゴ 1 3 44 192 トマト 4 2 88 39 キュウリ 1 0 16 4 輸入 588 668 3,812 4,906 唐辛子 83 153 516 846 キムチ 112 148 513 663 ニンジン 73 76 292 349 ニンニク 42 32 212 182 タマネギ 41 26 85 95 貿易バランス

△1,498 △2,397

(KREI 2010b, 198)

パプリカ

(柳 and 會田 2007)によれば、韓国におけるパプリカ生産は 1990 年代中盤にはじまり、国の

助成によって建てられたガラス温室で栽培が展開されたが、2000 年代中ごろにはビニールハウ

スでの生産も可能となった。日本向けの輸出の中心は、オランダの技術を導入したガラス温室で

生産されており、総じて日本よりも設備や技術が高度である 67

。韓国は日本のパプリカ市場に対

して良い感触を持っており、パプリカの生産は下図に見るように現在も年々増加を続けている。

図 22 韓国におけるパプリカ生産の進展

出所)1997-1999 年(柳 and 會田 2007) 2000-2007 年(KREI 2008) 2008 年(MIFAFF 2009a) 2009 年

(MIFAFF 2009b)

なお、パプリカ以外に日本に輸出されていた園芸品目については、(青山 2005)によれば、ト

67 日本では大規模温室によるパプリカ栽培は遅れをとっていたが、各種報道によればドール、豊田通商等

が参入し、2010 年以降はこれら農場からの出荷が本格化する見通し。

050100150200250300350400450

0

5000

10000

15000

20000

25000

30000

35000

40000

1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009

hat

生産量(t)

生産面積(ha)

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55

マトは国内消費増の影響で価格が輸出に見合わなくなり、キュウリやナスは輸出向けと国内向け

の品種が異なるためにリスクが高いということで低迷している。またイチゴは輸出の主力であっ

た品種レッドパールについて、日本の品種育成者から許諾されずに無断で栽培されていたため、

その後日本との間でロイヤリティー徴収を巡って問題となり、現在は輸出が大きく減少している。

3.1.6. 品目別―果実

韓国の果実生産では、ミ

カンが最も多く75万トン、

次いでリンゴ 49 万トン、

ナシとカキが 42 万トンず

つとなっている。生産量は

緩やかに増加している。ミ

カンでは貿易自由化に対

応するために、2003~2004

年にかけて廃業支援が行

われた。7.1 節で詳しく説

明するが、生鮮果実はいず

れも関税が高く、特に米国

との FTA 交渉ではミカン

が大きな論点の一つとな

った。

韓国からは台湾等に向けてナシやリンゴが輸出されているが(2009 年にはナシ 5,373 万ドル、

リンゴ 1,932 万ドル 68

)、一方ではバナナやオレンジ、ブドウ、キウイフルーツ等の輸入が多く、

大幅な輸入超過となっている。

3.1.7. 品目別―畜産・酪農

韓国の畜産業は、ウルグアイラウンドによる自由化後の IMF ショックを機に、大きく構造調

整を迫られることになった。これに加えて 1999 年には口蹄疫の発生により日本向けの豚肉輸出

がストップした。この結果、1998 年までは国内消費の増加とほぼ並行して食肉生産が増加した

が、1999 年以降は消費が伸びたにも関わらず国内生産は水平に推移し、その分を輸入が補う形

となった。2000 年代中旬には口蹄疫や鳥インフルエンザ、BSE の影響で国内消費も一時低迷し

たが、その後は輸入牛肉からの代替需要などで、国内生産はやや増加に転じている。

68 (KREI 2010b, 205)

表 36 韓国の果実生産量の推移 単位:千 t

2004 2005 2006 2007 2008 2009

果実計 2,411 2,593 2,504 2,750 2,698 2,881

ミカン 584 638 620 778 636 753

リンゴ 357 368 408 436 471 494

ナシ 452 443 431 467 471 418

カキ 299 364 353 396 431 417

モモ 201 224 194 184 189 198

ブドウ 368 381 330 329 334 333

プラム 72 76 64 65 67 64

その他 78 99 104 96 100 204

出所)(MIFAFF 2010b)

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ただし韓国では 2010 年 1 月に口蹄疫が発生、6 月に一度終息したが、11 月に再発が確認され、

被害が大きく拡大している。2011年 2月 24日現在で、6,104農家の約 342万頭が殺処分された 69

図 23 韓国の食肉需給の推移

出所)(농업협동조합 2010)

牛肉

韓国の肉牛生産では、在来種

の「韓牛」生産が主流であるが、

輸入牛肉との差別化が難しい

問題であった 70

ただし、(柳 2009)は、企業化した養豚や養鶏経営と比べると零細な農家が多い韓国の肉牛セ

クターにとって、米国からの輸入再開本格化の影響は非常に大きく、牛価の下落とそれへの対応

を迫られる農家の動向が心配されると指摘している。肉牛農家は 2009 年の肉牛飼養農家数は 17

。韓国の肉牛頭

数は 1995 年をピークにその後

輸入拡大を背景に大きく落ち

込んだが、その後BSE問題によ

る米国産からの代替需要を受

けて、肉牛頭数が 2004 年の 167

万頭から 2009 年には 264 万頭

へと 58%も増加した。

69 (農林水産省 2011) 70 (成 2006, 19-42)

0

200

400

600

800

1,000

1,200

1,400

1,600

1,800

2,000

1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009

千t

消費

生産

輸入

輸出

表 37 韓国の家畜飼養頭数の推移

千頭

2004 2005 2006 2007 2008 2009

肉牛 1,666 1,819 1,819 2,201 2,430 2,635

乳牛 497 479 479 453 446 445

豚 8,908 8,962 8,962 9,606 9,087 9,585

鹿 138 126 110 98 79 75

馬 19 20 23 25 28 29

羊 1 1 1 2 3 3

犬 2,622 2,311 2,124 1,918 1,745 1,812 出所)(MIFAFF 2010b)

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万戸 71

である。肉牛農家は政治的な行動力が強く、韓米FTAでも強い反対姿勢をアピールした。

1 戸あたりの飼養頭数は 15.5 頭で、他の作物栽培と組み合わせた営農形態となっている農家が多

い。

表 38 韓国の家畜と畜数と畜産物生産量の推移

と畜頭数 畜産物生産量

肉牛

豚 鶏 食肉

卵 牛乳 韓牛 乳用種 肉用種 交雑種 計 牛肉 豚肉 鶏肉

千頭 百万羽 千t

2000 817 165 10 5 13,293 395 1,190 214 714 262 479 2,253

2001 550 164 12 2 14,324 443 1,163 163 733 267 490 2,339

2002 449 174 9 2 15,338 497 1,224 147 785 291 537 2,537

2003 362 91 131 0 15,287 493 1,211 142 783 286 503 2,366

2004 324 91 159 0 14,620 500 1,181 145 749 288 508 2,255

2005 391 83 138 0 13,465 577 1,155 152 702 301 515 2,229

2006 425 78 127 0 13,003 609 1,185 158 677 349 537 2,176

2007 494 68 121 0 13,597 638 1,257 171 706 380 544 2,188

2008 589 64 116 0 13,806 626 1,260 174 709 377 542 2,139

2009 644 58 113 0 13,919 680 1,328 198 722 409 579 2,110 出所)(농업협동조합 2010)

韓国の牛肉の輸入相手国は、2003 年以前は米国が 7 割近くを占めていたが、BSE の影響によ

り 2004 年からは豪州が首位となり、ニュージーランドからの輸入も増加した。2007 年からは米

国からの輸入も一部再開している。韓国からは牛肉は殆ど輸出されていない。

豚肉

韓国の養豚の飼養頭数は、1990 年代には継続して増加していたが、2002 年以降はほとんどフ

ラットな状態になっている。一方、口蹄疫や豚コレラ等の被害に直面する中で養豚農家の数は一

貫して減少し、2009 年には 7,962 戸 72

現在韓国は豚肉の供給の 2 割強を輸入で賄っており、最大の輸入相手国は米国で 2009 年では

35%を占め、次いで韓チリFTAが発効したチリが 16%、カナダが 12%、これにフランス、オース

トリア、ベルギー、オランダ等のEU諸国が続く。豚肉の輸出は日本への輸出が停止して以降は

大きく減少しており、2009 年実績では 1 万 3 千tで、フィリピン、ロシア、モンゴル等に輸出し

となった。この結果、1 戸あたりの飼養頭数は 1,200 頭と

大きく拡大した。

71 (KREI 2010b, 163) 1990 年の 62 万戸から 2009 年には 17 万戸に減少。 72 (KREI 2010b, 172)

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ている。73

なお、日本は、2004 年 4 月に豚コレラ発生がない済州島に限って輸入を再開したが、11 月に

済州島で豚コレラが発生したため停止、その後 2009 年 9 月に済州島からの輸入を再開した。し

かし 2010 年に口蹄疫が発生し、再び輸入を禁止した。

韓国産豚肉の日本向け輸出について(柳 2004)は、近代的な設備を整えた特定業者の市場占有

率が高いことから、環境さえ整えば早期に輸入再開ができるとしていた。しかし最近の状況を取

材した(山下 2009)によれば、韓国の豚肉産業は過去 5 年で養豚農家が半減して一戸あたりの飼

養頭数が増加した半面、事故率が急激に悪化して 1 母豚あたりの出荷頭数が 14 頭に減少してお

り、豚コレラの清浄化に対する国全体での取り組み(韓国の業界は 2013 年の清浄化を目標にし

ている)も本格化しておらず、また以前に比べると肉質が低下していることから、日本向けの再

開については疑問を呈している。ただし、韓国の養豚業界の動きの早さも同時に指摘しており、

対日輸出については日本にとってやはり十分に注意する必要がある。

鶏肉

韓国では 2002 年と 2004 年に鳥インフルエンザが発生したものの、鶏の飼養羽数、と畜羽数、

鶏肉の生産量は増加傾向にあり、2009 年には鶏肉生産量は 41 万トンとなった。養鶏農家は 1,470

戸である。74

韓国は 2009 年実績で約 7 万トンの鶏肉・鶏肉製品を輸入しており、ブラジルが 43%、米国が

42%を占めている。中国からの鶏肉輸入は 2007 年に 1 万 2 千トンみられたが、2009 年には 3,500

トンに低下した。輸出も 2009 年には 1 万 1 千トンとなったが、主要な品目は冷凍手羽が 25%、

韓国の伝統食である参鶏湯に加工された調製品が 12%で、冷凍鶏手羽は香港、サムゲタンは日

本や台湾に輸出されている。

75

酪農・乳業

1990 年代から 2000 年代初頭にかけて、乳牛の飼養頭数は減少したが、一頭当たりの搾乳量が

飛躍的に増加し、牛乳生産量は増加した。しかしその後は乳牛の飼養頭数、牛乳生産量ともに緩

やかな減少傾向にある。2009 年実績では飼養頭数は 45 万頭、牛乳生産量は 211 万トン、酪農農

家数は 2009 年には 6,767 戸 76

(農畜産業振興機構 2011)によれば、韓国の生乳処理大手はソウル牛乳、南陽牛乳、毎日牛乳

の三社で、これを含め韓国では 20 社あり、乳処理工場は全国で 48 か所ある。韓国の生乳は飲用

となった。

73 (KREI 2010b, 176) 74 (KREI 2010b, 178) 75 (KREI 2010b, 180-181) 76 (KREI 2010b, 167)

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乳向けが主体で、乳製品向けは余剰乳を原料とする位置づけのため、飲用乳以外の乳製品の生産

量は比較的少ない。韓国では主要な乳製品に関税割当が導入されているが、調製粉乳やチーズ等

を含む主要な乳製品については実質的に関税率が 36%となっていることから、国内の乳業は飲

用向けに特化している。

(趙 2007)によれば、韓国では 1997 年に酪農振興法を改正し、酪農振興会を設立、国内の生乳

計画生産を導入しようと試みたが、結局は計画生産への加入を義務付けるに至らず、乳価の低迷

が大きな問題となっている。

韓国ではウルグアイラウンド合意の結果、乳製品のミニマムアクセスが導入され、以来、乳製

品の輸入は大きく増加した。2009 年の生乳換算の輸入量は 96 万トンに及んでおり、チーズ(38%)、

ホエイ(6%)、混合粉乳(14%)、脱脂粉乳(5%)、調整粉乳(4%)のような形態で輸入されて

いる。米国、ニュージーランド、豪州、オランダ、フランスが主要な輸入相手国である。77

本事業におけるインタビューでは、日本の北海道の酪農産業と比べると基盤が弱く、日本との

EPA 締結による韓国国内の酪農への影響を懸念する意見が挙げられた。肉牛や養豚農家と比べ

ると政治的な力も弱いと言われている。

3.2. 水産業

3.2.1. 水産業の概況

漁獲・養殖

韓国の水産業は、日本との新日韓漁業協定締結をはじめとする各国の漁業規制の強まりや、沿

岸水産資源の減少、1997 年の IMF ショック等の要因により 1990 年代から 2003 年にかけて縮小

傾向にあったが、韓国政府の「育てる漁業」に対する推進政策や、内需の拡大を受けて、魚類、

貝類、海藻類等の海面養殖が発達し、韓国の水産業生産量は 2002 年以降回復に転じた。2008 年

は 336 万トン、2009 年はやや減少して 318 万トンとなった。

海面養殖生産量は 2000 年以降増加を続け、2006 年には沿岸漁業を抜いて水産業の中で最も重

要な位置を占めるようになった。2009 年実績では 131 万トンになる。生産量が最も多いのは海

藻類で、内外の食用向けの他に、貝類養殖の飼料としても用いられる。次いでカキやアサリ、ア

ワビなどの貝類が多く生産されており、魚類ではヒラメやクロソイ等が主体となっている。

また沿岸漁業は全体の 4 割弱の 123 万トンで、最も漁獲量が多いのはイカの 23 万トン、次い

77 (KREI 2010b, 171)

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60

でカタクチイワシ、サバ、タチウオが主な漁獲対象となっている。一方遠洋漁業は 60 万トンで、

うちカツオやキハダ、メバチ等のマグロ類が 32 万トン、これにイカが続く。内水面漁業ではウ

ナギ等が生産されているが、生産量は計 3 万トン程度である。

図 24 韓国の水産業生産量の推移

出所)1980-2008: (KMI 2010), 2009: (Statistics Korea 2010)

表 39 韓国の水産業生産量の推移(2004-2009 年)

単位:千 t

沿岸漁業 遠洋漁業

小計 魚類 うち

イカ等 その他 小計 魚類 うち

イカ等 甲殻類

カタクチイワシ サバ タチウオ マグロ類

2004 1,077 672 197 184 66 238 167 499 400 228 74 26

2005 1,097 722 249 136 60 217 158 552 439 248 84 29

2006 1,109 715 265 101 64 226 168 639 433 284 172 34

2007 1,152 762 221 144 66 213 177 710 447 291 226 37

2008 1,285 878 262 190 72 224 183 666 445 278 185 36

2009 1,227 796 204 175 85 230 201 605 488 321 88 29

海面養殖 内水面

小計 魚類 うち

海藻 貝類 うち

甲殻類 その他 小計 うち

ヒラメ クロソイ カキ ウナギ

2004 918 64 32 20 537 305 239 2 9 25 5

2005 1,041 81 40 21 621 326 252 1 11 24 6

2006 1,259 91 44 28 765 391 283 2 10 25 8

2007 1,386 98 41 36 793 479 321 1 15 27 11

2008 1,381 99 46 33 921 344 250 2 15 29 7

2009 1,313 110 55 33 859 327 241 2 17 30 7

出所)2004-2008: (MIFAFF 2009b), 2009:(Statistics Korea 2010)

0

500

1000

1500

2000

2500

3000

3500

4000

1980

1981

1982

1983

1984

1985

1986

1987

1988

1989

1990

1991

1992

1993

1994

1995

1996

1997

1998

1999

2000

2001

2002

2003

2004

2005

2006

2007

2008

2009

千t

内水面漁業・養殖

海面養殖

遠洋漁業

沿岸漁業

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61

水産加工業

水産加工品の生産量は 2009 年実績で約 190 万トンあり、2007 年から 3 年連続で増加した。イ

カやサバなどの魚介類の冷凍品が 126 万トンと最も多いが、このほかに、養殖された海藻の湯通

し塩蔵や乾燥加工(16 万トン)、すり身やかまぼこ生産(14 万トン)、主にツナを材料とする魚

介の缶詰生産(6 万トン)、魚介の茹で干し(5 万トン)、キムチの原料にもなる塩辛や漬け類(4

万トン)などの生産がある。

表 40 韓国の水産加工業生産量の推移

単位:千 t

2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009

合計 837 1,547 1,439 1,358 1,529 1,559 1,547 1,384 1,767 1,898

冷凍品 415 1,128 996 1,030 1,053 1,023 1,033 1,066 1,135 1,259

海藻製品(塩蔵・乾燥等) 48 80 83 29 71 154 136 14 157 157

すり身・かまぼこ 167 94 87 91 97 88 69 73 107 143

缶詰 50 81 83 81 160 139 149 120 74 61

茹で干・煮干 16 21 23 17 38 35 33 24 33 54

塩辛・漬け魚/魚卵 57 48 39 36 33 40 38 29 49 41

調味乾燥加工品 15 17 19 22 22 20 20 13 97 34

その他 69 79 108 53 55 61 69 46 115 149

出所)(MIFAFF 2010e)

水産物貿易

韓国の水産業はもともと日本向けの水産物輸出を主体とする構造であったが、1990 年代の後

半から 2000 年代にかけて、経済成長に伴って国内の水産物需要が拡大する一方で、前述の通り

国内生産が停滞する。そのギャップを埋めるように増加したのが輸入で、韓国の水産物貿易では、

次頁図に見るように 1990 年代から 2007 年にかけて、スケソウダラ、エビ、タコ、マグロ、グチ

等のなどの魚介類をはじめとする輸入が急速に増加し、2000 年を境にして、輸入が輸出を大き

く上回る状況になった。輸入額は 2009 年実績で 27.4 億ドル、輸入量は同年実績で 143 万トンで

ある。主要な相手国は中国、ロシア、ベトナム、日本、米国、タイとなっている。

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図 25 韓国の水産物貿易額の推移

出所)(MIFAFF 2009b), (MIFAFF 2010a) 注)天日塩を除く

輸出は 2006 年以降、ようやく養殖魚の輸出等によりやや持ち直している。とはいえ、韓国の

水産物生産量 318 万トンに比べると、輸出量は 65 万トンに留まり、韓国の水産業が以前とは異

なって内需向けを主体とした産業構造となっていることが分かる。

ただし依然として最大の輸出相手国は日本で、輸出額のうち約半分を日本が占める。次いで中

国、タイ、米国等が主な輸出先である。輸出品目ではマグロが最も重要な品目で、輸出額のうち

21%を占めている。次いでイカが 7%、ノリが 5%、その他にヒラメ、サワラ、カキ、カニ身等と

なっている。

0

500

1,000

1,500

2,000

2,500

3,000

3,500

1990

1991

1992

1993

1994

1995

1996

1997

1998

1999

2000

2001

2002

2003

2004

2005

2006

2007

2008

2009

百万ドル輸出

輸入

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63

表 41 韓国の水産物輸出と主要な品目

輸出量(千 t) 輸出額(百万ドル)

2007 2008 2009 2007 2008 2009 合計 536 614 652 1,226 1,455 1,511 マグロ 112 114 178 275 293 314 イカ 156 151 101 124 127 108 ノリ 7 8 9 60 75 82 ヒラメ 3 4 5 44 43 52 サワラ 12 17 14 27 45 45 カキ 8 9 7 40 46 42 カニ身 4 5 5 32 43 42 アナゴ 5 5 4 38 44 39 サバ 14 41 54 14 30 38 アサリ 4 8 14 13 19 35 アワビ 0 1 1 15 21 34 ヒジキ 3 3 2 25 36 29 魚卵 1 1 2 13 17 25 メロ 1 13 1 16 2 23 アジ 12 13 22 29 23 21 タイ 10 21 6 14 8 18 ワカメ 6 18 11 21 8 17 メルルーサ 4 15 3 14 4 16 スケトウダラ 11 12 17 21 10 14 ホキ 8 13 8 17 8 14 その他 154 401 179 482 193 504 出所)(MIFAFF 2010a)

3.2.2. 水産業政策

水産政策の概要

韓国では李明博政権の発足に伴い、2008 年に海洋水産部のうち水産業に関わる部門が従来の

農林部に統合され、農林水産食品部(MIFAFF)として改称された。それに伴って設置された農

林水産食品部の水産政策室が、水産業の振興と漁村開発、水産物流通等の水産業政策全般を担っ

ている。なお、これら政策運営については、海洋資源の開発や海洋環境保全等を担当する国土海

洋部(MLTM)海洋政策局と協力している。また輸出促進については前述の aT がこれを担う。

日韓漁業協定締結の 1999 年以降、韓国は 5 年ごとに『水産振興総合対策』を策定している。

2000~2004 年を対象にした『第一次水産振興総合対策』では、日韓・韓中漁業協定締結による

近海漁場の縮小を受けた漁船数削減計画と、水産資源の自立管理に主眼が置かれたが、2005~

2009 年を対象にした『第二次水産振興総合対策』では、WTO や FTA に対する国内対策の実施

や、所得の向上も課題の一つとして取り上げられた。また、WTO ドーハラウンド交渉後に備え

た水産政策として、韓国政府は別途 2004~2013 年の 10 年間を対象とした『漁業・漁村総合対策』

を策定、この中で、WTO 上認められにくい補助金の廃止や、持続的漁業経営、水産物の安全性

向上と高付加価値化、漁業観光の振興等の大きな方向性を示した。

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李明博政権後は、水産業に対する予算配分が増え、政権の意向を反映して 2009 年に『新水産

30 プロジェクト』と称して主要な 30 課題を選定、近海漁業の構造調整に加え、より積極的な養

殖推進、水産流通インフラの改善、水産ガバナンス体制の再構築等の集中的な対策を行ってきた。

その後、前述の 2010 年初頭に発表された中長期計画『ビジョン 2020』において示された中長期

的方向に沿って、MIFAFFは 2010~2014 年を対象とする現行の『第三次水産振興総合対策 78

第三次水産総合対策

』を

策定した。これに伴い、『新水産 30 プロジェクト』を核としながら、より包括的な『第三次水産

振興総合対策』に沿って各種の施策が実施されることになった。

第三次水産振興総合対策では、①低炭素グリーン漁業への転換促進、②資源管理に基づく近海

漁業の競争力強化、③環境にやさしく高付加価値な養殖産業の育成、④韓国漁業界の世界への進

出拡大、⑤高品質な水産食品の安定的供給体制構築、⑥漁業・漁村活力の強化の6点が主要な政

策方向として設定されており、具体的には 2014 年までに漁獲量 370 万トン(2009 年は 318 万ト

ン)、輸出額 25 億ドル(15 億ドル)を目指すとしている。

①低炭素グリーン漁業への転換促進では、白熱灯から LED への転換等による漁船からの二酸

化炭素排出量削減や、「海の森」造成による二酸化炭素吸収、養殖産業エネルギー使用効率の向

上、リサイクル促進等をはかり、世界的な気象変動に対して漁業分野の対策を整える。②資源管

理に基づく近海漁業の競争力強化では、海洋水産資源と比べると過剰であると考えられている漁

船数について、政策的な削減を引き続きはかるとともに、従来の政府主導の資源管理では違法な

過剰漁獲を防げなかったという反省から、漁業者の主体的意識の向上を図るための自主的な管理

制度の導入を推進し、海洋資源管理コミュニティの育成をサポートする。

③環境にやさしく高付加価値な養殖産業の育成では、海洋法や漁業協定の成立、資源減少等に

伴って年々厳しさを増している漁業環境に対応するため、「育てる漁業」をより強化・育成する

ことを目指し、各種規模のモデル養殖場の設立に対する補助や、種苗法流等の事業を実施する。

内湾や干潟・陸上での養殖を引き続き強化するほか、クロマグロ等の「外海」養殖の養殖場を

19 ヵ所造成するとしている。

④韓国漁業界の世界への進出拡大では、遠洋漁業の競争力強化、安定的な海外水産資源確保の

基盤づくり、水産物輸出基盤の強化の 3 点に分け、以下のような施策を計画している。

遠洋産業競争力強化

漁船の老朽化による競争力低下を防ぐため、2016 年までに計 38 隻の遠洋漁船を更新

し、平均船齢を 26 年から 20 年へ改善する。

公海における新規許可の取得と、船籍の切り替えによって遠洋漁業勢力を拡大する。

FTA などの市場開放に対応能力の低い業種においては、構造調整を実施する。

78 (MIFAFF 2010f)

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65

安定的な海外水産資源確保の基盤づくり

太平洋島嶼国との連携を強化し、マグロ資源の安定的な確保を目指す。

ロシア極東における造船所や水産物流通施設(冷凍工場など)の設立に参加し、韓

露交流を拡大するなど、海外における水産投資を活性化する。

開発途上国との漁業交流促進のため、「国際漁業交流センター」を設立する。

インドネシアにヒジキ等の海藻類の大規模養殖場と海藻パルプ生産設備を建設し、

次世代のパルプ市場(3~5 兆ウォンと推計)を独占する。

海外の養殖漁業、加工工場等、官民合同基金を活用した海外進出を支援する。

水産物の輸出基盤強化

水産物の輸出拡大のための地域拠点のインフラ拡充

海外市場輸出需要の継続的な把握、及び海外マーケティングの多様化(アワビ、ナ

マコ、マグロなど、中国市場を狙った商品開発や広報活動の強化)

EU の IUU 漁業規則に対応するため、国産水産物の漁獲証明書発行システムの構築

⑤高品質な水産食品の安定的供給体制構築では、産地における水産加工施設の建設や、低温物

流網の拡充、釜山広域市国際水産物卸売市場や水産物取引所等の連携確保による北東アジアのハ

ブ化、水産物の総合的な安全管理システムの導入等を目指す。⑥漁業・漁村活力の強化では、人

材育成、港湾設備増強、水産物災害保険の加入率向上等による強化・安定策に加え、ドーハラウ

ンド後を意識し、水産業においても、2013 年までに「条件不利地域水産直接支払」制度の導入

をはかる方針を示している。

水産政策予算

2010 年MIFAFF予算・基金運用計画 79

第三次水産振興総合対策では、漁業・漁村関連の予算・基金支出について、2010 年を基準と

して 2014 年まで毎年 1.9%増を計画している。財政支出の方向としては、水産協同組合の経営正

常化サポートや、水産物輸出基地の育成等の既に目的が達成された分野については支援を減少さ

せる一方、以下の分野で今後増加させる方針が示されている。

によれば、韓国の 2010 年の漁業・漁村関連予算は 8,467

億ウォンで前年比 9.8%増、基金支出を合わせると計 13,606 億ウォン(前年比 2.1%増)となる。

漁業基盤強化のために必要であるが、ドーハラウンド終結後には支出が難しくなると考

えられる漁船建造に対する補助金等

低炭素グリーン成長の促進(石油使用量の削減に資する装置やその他低炭素技術の開発、

炭素吸収源となる「海の森」造成等)

新成長動力育成、水産資源の造成・管理

経営セーフティーネットの構築(漁船保険や直接支払等)

79 (MIFAFF 2010c)

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水産物輸出政策

第三次水産振興総合対策における水産物の輸出基盤強化における具体的な施策には、国内外で

のインフラ設備の拡充(拠点空港におけるパッキング及び物流センターや、主要品目の産地物流

センター、HACCP 導入等の資金援助等)や、品目別の輸出団体の育成、「優秀」な輸出業者・

生産者らへの融資支援や費用援助等が含まれる。計画には、以下のように記載されている。

輸出物流インフラの拡充

- 品目別の重点輸出対象国を選定し、拠点地域における物流設備構築への支援を行い、

物流拠点を確保する。

- 韓国国内の空港近隣に活魚と冷蔵魚の集荷・包装・輸出のための水産物航空物流セ

ンターを建設する。(パッキングから輸入国に至る時間を短縮し、また混載を容易に

することによって物流コストを削減する。)

輸出加工の先進基地の建設

- 原料の供給から加工、輸出に至る一連のプロセスにおいて、先進的な物流システム

の構築をサポート

- HACCP 基準に適合する食品加工施設の拡充と近代化

輸出代表団体の設立

- 小規模零細業らが参加・活用できる、品目別の輸出代表団体の育成を図る(2014 年

までに、アワビとヒラメについて輸出向けの物流センターをそれぞれ建設する。)

- 主要な地域については、地域別の輸出代表団体も育成する。

輸出水産物の衛生安全性の強化

- 輸出水産物の加工業者や、衛生安全施設の現代化とシステムの導入拡大

- HACCP 導入、ノリの異物選別機、金属探知機の購入費などを支援する。

「優秀」水産物のサポート拡大

- 民間業者や生産者団体などに対し、輸出向けの水産物の購入やその他運営資金調達

における融資による支援を拡大

- 「優秀」水産物の保存、加工、輸出関連の費用を支援(輸出目標の増大に従って、

従来の支援措置を拡充し、また新規有望企業も継続的に発掘する。また、評価制度

を活用し、「優秀者」へインセンティブを与えることにより、支援体制を持続的に改

善させる。)

輸出支援体制の整備

- MIFAFF、農水産物流通公社(aT)、水産物輸出入組合との間の役割分析と評価を行い、

総合的な支援体制を整備する。

- 品目別の輸出協議会を設け、専門的なマーケティング支援ができるよう組織的な育

成を図る。(中小企業、零細輸出業者、生産者団体へのトレーニング。また技術的な

輸出障害については、技術支援団を構築して、その解消をサポート。)

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3.2.3. 品目別―魚類(漁獲)

韓国の魚類漁獲は、沿岸漁業と遠洋漁業を合わせて 2009 年実績で約 128 万トン、このうち主

要な漁獲は、遠洋漁業のマグロ類、沿岸漁業のカタクチイワシ、サバ、タチウオ等となっている。

沿岸漁業では資源の減少、遠洋漁業では各国との海洋協定の締結等により、全般的に縮小傾向に

あったが、2000 年中旬以降は沿岸漁業については資源が比較的安定しつつある。ここでは日本

に輸出実績のあるマグロ類、サバ・マアジ・サワラ、スケトウダラ(主に魚卵)について、取り

上げる。

マグロ類

韓国では米国のマグロ缶詰原料市場への供給を主体に遠洋マグロ漁業が発達、1960 年代後半

になってキハダやメバチなどについて日本の刺身マグロ市場への輸出を拡大させたが、その後は

労賃高騰や新興国との競争、マグロ資源減少等に伴って、1980 年代後半をピークに、減少傾向

にあった 80

一般に、韓国の遠洋マグロ漁業は

台湾やインドネシアよりも洗浄処理

技術が優れており、刺身用マグロと

しての品質が比較的高いことで知ら

れている。韓国では、メバチやキハ

ダ等を日本やイタリア等へ積極的に

輸出する一方で、台湾やインドネシ

アから数千トンのマグロを輸入し、

国内消費に充てている。

。しかし、直近の 6 年間では国内におけるマグロ消費の拡大等を背景に、漁獲量は緩

やかな増加傾向に転じている。韓国のマグロ類の中では、カツオの漁獲量が最も多く、2008 年

実績ではマグロ類漁獲量計 28.2 万トンのうち 18.7 万トンと、6 割以上を占める。このほかにメ

バチ、キハダが主なマグロ漁獲となっている。

81

韓国政府は、国際連携の強化によ

って引き続き太平洋でのマグロ資源

の確保を図るとともに、遠洋漁船の更新を促進し、同時にクロマグロの外海における養殖事業を

育成する方針を示している。また、日本への一極集中を解消するため、中国との他国市場の開拓

にも今後力を入れるとみられる。

80 (松浦 and 玉置 2010) 81 (松浦 and 玉置 2010)

表 42 マグロの漁獲と輸出 単位:千 t

漁獲 輸出

計 カツオ メバチ キハダ 計

2004 228 162 26 40 80

2005 248 172 24 52 92

2006 284 205 24 55 100

2007 291 214 23 54 112

2008 278 187 20 71 114

2009 321 178 出所)(Statistics Korea 2010) (MIFAFF 2009b)(MIFAFF 2010a)

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アナゴ

韓国のアナゴの漁獲は 2009年実績で約 1.4万トンであり、

漁獲量は 2007 年以降、2 年連続で減少した。韓国のアナゴ

輸出は同年実績で約 4 千トン、ほとんど全てが日本向けで、

活魚や生鮮・冷凍フィレの状態で出荷されている。フィレ

の輸出がおよそ 6~7 割を占めることを考慮すると、生産

の 6 割程度が日本市場に向けられていると考えられる。国

内市場においても健康や美肌に良いとして焼きアナゴが

消費されている模様である。

なお、韓国のアナゴ漁については、日本の排他的経済水

域における違法操業について度々拿捕事件があるほか、日

本で使用が制限されている「アナゴ筒」を多用しており、一部が漂流したまま回収されず、廃棄

物として日本側の漁業の妨げになっている点が広く指摘されている。82

サバ・マアジ・サワラ

サバは韓国の沿岸漁業でカタ

クチイワシに次いで漁獲量の高

い品目で、韓国国内でも一般的に

人気のある魚として消費量も多

い。サバの 2009 年実績漁獲量は

17 万 5 千トンとなっている。サバ

は沿岸海域の資源の増減によっ

て毎年大きく漁獲量が変動して

おり、2010 年は不漁のため価格が

高騰し、これを緩和するために政

府は 1万トンの緊急無税輸入枠の

設定を行った。

サワラ、マアジも同じく沿岸漁業で漁獲され、生産量はそれぞれ 2009 年実績で 3 万 7 千トン、

2 万 2 千トンとなっている。マアジはサバと同じく漁獲量の変動が大きいが、食用サイズのもの

は主に日本向けになり、国内では主に飼料として用いられている。輸出は増加傾向にある。サワ

ラの漁獲量は比較的安定的に推移しているが、国内で用いられる他、冷凍フィレや冷凍骨抜き切

り身等の形態で日本等に輸出されている。

82 (境港漁業調整事務所 2010)

表 43 アナゴの漁獲と輸出 単位:t

漁獲量 輸出量

2004 16,506 6,209

2005 14,739 6,216

2006 15,242 5,583

2007 19,399 4,851

2008 18,437 5,251

2009 13,507 4,155 出所) (Statistics Korea 2010) (MIFAFF 2009b)(MIFAFF 2010a)

表 44 サバ・マアジ・サワラの漁獲と輸出 単位:千 t

漁獲 輸出

サバ マアジ サワラ サバ マアジ サワラ

2004 184 26 27 6 10 4

2005 136 43 34 7 8 5

2006 101 23 36 4 10 5

2007 144 19 42 14 12 12

2008 190 23 41 41 22 17

2009 175 22 37 54 23 14 出所)(Statistics Korea 2010) (MIFAFF 2009b)(MIFAFF 2010a)

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69

なお、これら沿岸漁業では、日韓漁業協定に基づき、両国での相互入漁が行われている。

スケソウダラ(魚卵)

スケソウダラも韓国では食用として

人気のある魚種の一つで、日韓漁業協定

の発効により漁獲量が減少しており、現

在は加工以外では広く用いられていな

い日本からの輸入もみられる。魚卵は韓

国では古くから明太加工の歴史がある

が、現在は主に日本向けに相当量を輸出

しており、2007~2009 年の平均をとる

と、生産量の約 45%を輸出に向けている

ことになる。

3.2.4. 品目別―魚類(養殖)

養殖魚生産は急速に拡大してお

り、2009年は計 11万トンに達した。

内訳はヒラメ 55,000 トン、クロソ

イ 33,000 トン、マダイ 9,000 トン、

ボラ 6,000 トン、その他 7,000 トン

である。韓国ではこの 10 年間の間

に、活魚を用いた刺身専門店が大き

く発展したが、養殖で生産される魚

類は、一部が日本市場等に輸出され

るほか、主にこれら刺身店向けの活

魚出荷となっている 83

ヒラメ

韓国のヒラメ養殖は、現在は主に陸上水槽で生産されており、済州島が最大産地となっている。

2000 年以降、生産量は急速な拡大傾向にあるが、2003 年からは養殖水槽面積はほぼ一定となっ

ており、養殖密度や成長速度等の生産性が向上しているものとみられる。養殖拡大の原動力とし

ては、政府主導のヒラメ養殖拡大への補助政策や、化学薬品会社等の異業種からの資本算入、そ

83 (加藤 2009)

表 45 韓国のスケソウダラ漁獲量と魚卵生産・輸出量

スケソウ漁獲量 魚卵調製品生産量 魚卵輸出量

千 t t t

2004 20 2,315 3,102

2005 26 1,544 3,760

2006 26 2,709 2,897

2007 20 2,595 1,082

2008 28 3,833 1,190

2009 36 2,167 1,609 出所)(MIFAFF 2009b)(MIFAFF 2010a) (MIFAFF 2010e) (Statistics Korea 2010)

表 46 養殖魚生産とヒラメ輸出 単位:千 t

養殖 輸出

計 ヒラメ クロソイ マダイ ボラ その他 ヒラメ

2004 64 32 20 4 4 4 5

2005 81 40 21 6 6 8 6

2006 91 44 28 4 6 9 4

2007 98 41 36 7 5 9 3

2008 99 46 33 7 6 7 4

2009 110 55 33 9 6 7 5 出所)(Statistics Korea 2010) (MIFAFF 2009b)(MIFAFF 2010a)

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70

してそれを支えた内需の拡大等が挙げられる。84

ヒラメは、2009 年実績では生産量 55,000 トンのうち約 1 割にあたる、約 5,000 トンが輸出さ

れており、その 9 割近くが日本向けとなっている。ただし輸出量は為替状況や日本市場の需給を

反映して、比較的大きく増減する傾向にある。

3.2.5. 品目別―貝類

韓国の貝類生産は 2009 年実績で漁獲が約 9 万トン、養殖が約 33 万トンで、合計約 42 万トン

で、韓国水産物生産量のうち約 13%を占める。特に貝類の養殖は、「育てる漁業」の育成を図る

韓国水産業政策の下で、後述する海藻養殖と並んで重要視されている。貝類の中では、生産量の

6 割以上を占めるカキが最も重要な品目となっており、これに 1 割強を占めるイガイが続き、次

いでアサリとなっている。また、近年養殖が爆発的に拡大しているのがアワビで、それに伴って

日本への輸出も急増している。以下では日本への輸出が多いカキ、アサリ、アワビを取り上げる。

カキ

韓国のカキ生産は慶尚南道から

全羅南道に至る南部のリアス式沿

岸で盛んに行われている。主に垂下

式の栽培方式で、1970 年代から 80

年代にかけて一大産業として発達

した。1990 年代中旬からは国内で

もカキ料理専門店が現れるなど、内

需も大きく拡大したが、2000 年代

後半からは内需の頭打ちと、輸出市

場の伸び悩みを背景に、生産が停滞

してはいる。ただし 2009 年生産量実績で 24 万トンと、現在でも韓国で最も重要な養殖貝類であ

る。

輸出では生鮮カキの他に、缶詰、干カキ、冷凍カキ等があり、米国、日本、カナダ、EU等へ

出荷しているが、他国との価格競争が激しく、総じて減少傾向にある。85

アサリ

韓国のアサリ生産は西部海岸一帯が中心で、天然の漁獲は全羅南道、養殖は全羅北道を中心に

84 (田嶋 2010) 85 (박 and 김)

表 47 カキとアサリの生産・貿易 単位:千 t

カキ アサリ

漁獲 養殖 輸出 漁獲 養殖 輸出 輸入

2004 26 239 15 13 28 4 9

2005 27 252 11 14 17 3 6

2006 31 283 11 8 14 12 5

2007 29 321 8 9 19 12 3

2008 29 250 9 21 16 7 7

2009 24 241 7 22 18 11 13 出所)(Statistics Korea 2010) (MIFAFF 2009b)(MIFAFF 2010a) KITA 貿易統計

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行われている。韓国のアサリ産業は 1990 年ごろをピークとして、全体の生産量は減少の傾向に

あった。加えて 2004 年ごろからアサリ稚貝の大量斃死減少が問題となっていたところ、2007 年

には天然アサリ産地付近で原油流出事故の影響が追い打ちをかけ、生産がさらに停滞した。その

後環境改善に向けた努力により、天然アサリの漁獲量はやや回復したものの、前頁表に見るよう

に養殖生産は変わらず停滞傾向にある。2009 年の生産量実績では、漁獲 22,000 トン、養殖 18,000

トンとなっている。

韓国は北朝鮮や中国からのアサリ輸入も多く、2009 年では約 13,000 トンが輸入されている。

一方で、同年実績で約 11,000 トンが輸出されており、その 9 割以上は日本向けである。全羅北

道高敞郡が日本向けアサリの輸出基地となっており、同地域で養殖されたもののほか、他地域で

生産されたものが、蓄養及び砂抜き等の処理を施されて出荷されている 86

アワビ

。なお、北朝鮮に対す

る経済制裁によって日本が北朝鮮産アサリを禁輸した際に、北朝鮮産のアサリを韓国産と偽装す

るような例が数度に亘って報じられている。

韓国のアワビ養殖は、主に全羅南道莞島(ワンド)郡を中心とする南西部の沿岸部で行われて

いる。この地域はリアス式の海岸線で、島が多く、水流がゆるやか、また水温も比較的温暖で、

養殖に適する。もともと 1990 年代からノリやコンブ、ワカメ等の海藻養殖がさかんであったが、

ワカメやコンブの輸出不振によって価格が大きく下落した。このおかげでアワビ養殖は安価な餌

の調達が可能になり、また従来の陸上養殖に比べて設備費等の面で有利な海面生簀養殖が普及し、

特に初期のあわび漁家が非常に高収益を上げたことが後押しし、生産が急速に拡大した。87

右図に示すように、2000年代初頭には 100トンも無かったアワビ生産量は、2009年には約 7,500

トンへと急発展している。政府もアワビ漁業の発展に積極的に取り組んでおり、莞島にはアワビ

養殖漁家 3,806 戸と、流

通・加工・輸出業者らから

構成される莞島アワビ株

式会社をはじめとして、ア

ワビ流通・輸出センター、

加工施設、アワビ研究所等

が次々に設立され、アワビ

養殖の競争力強化を図っ

ている。

韓国のアワビ生産の発

86 (Agra Food 2010) 87 (山川 2007)(옥 2010)

図 26 韓国のアワビ生産量の推移

出所)(옥 2010)

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展に伴って、韓国国内でも

アワビ専門店が増加する

など、国内消費が順調に伸

びた。一方で、輸出も右図

に見るように生産の発展

にともなって大きく増加、

2009年には1,000トンを超

えた。輸出のうち 99%が日

本向けである。ただ一方で

供給の急増に伴って輸出

単価が著しく減少してお

り、韓国側の懸念点となっている。88

3.2.6. 品目別―軟体動物・甲殻類

軟体動物は韓国の水産物生産の約 1 割を占めるが、その 9 割近くがイカである。日本への輸出

はそれほど多くないが、IQ 管理品目となっている。甲殻類は生産量の約 4%であるが、生産量は

緩やかに増加しており、近海で漁獲されるカニが主要な魚種となっている。カニは、日本へは調

製品の形で輸出されている。

イカ

韓国のイカ漁業は主に、沿岸・近海漁である日本海(東

海)でのスルメイカ漁と、ニュージーランドやフォークラ

ンド等の海外漁場で操業する遠洋漁業の二種類がある。ス

ルメイカ漁は 1990 年代の後半にかけて急激に増加したが、

1998 年に新日韓漁業協定が発効し、日本海でのスルメイカ

漁が規制されるようになったことを受けて、減少傾向にな

った。漁獲されたスルメイカは主に干物に加工されるが、

近年では一部は活イカとして出荷され、生食に用いられ

る 89

88 (山川 2007)(옥 2010)

。 沿岸漁業によるイカの生産量は比較的安定的に推

移しており、2009 年実績では約 19 万トンとなっている。

一方、遠洋漁業は資源変動等により大きく増減する傾向にあり、2009 年実績では約 8 万 5 千ト

ンと、2007 年に比べると半分以下となった。

89 (崔, 大. 金, and 東. 金 2002)

図 27 韓国のアワビ輸出量の推移

出所)(옥 2010)

表 48 イカの漁獲と輸出 単位:t

漁獲

輸出 沿岸 遠洋

2004 213 70 70

2005 189 81 65

2006 197 170 37

2007 174 222 156

2008 186 182 151

2009 189 85 101 出所) (Statistics Korea 2010) (MIFAFF 2009b)(MIFAFF 2010a)

輸出量 輸出単価

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イカは韓国の水産物の輸出の中ではマグロに次ぐ第二位の品目となっており、2009 年の輸出

実績は 10 万トンを超えている。主な輸出相手国は中国で、半分近くが中国向けの輸出である。

その他にニュージーランド、フィリピン、米国等へも輸出されている。日本向けの輸出は額・量

ともに少ないが、モンゴウイカを除き、活・生鮮・冷凍イカ及び干しイカともに IQ 品目となっ

ている。

カニ

韓国で漁獲されるカニ類は、主にベ

ニズワイガニとワタリガニである。近

年ワタリガニの豊漁が続いており、漁

獲量が大幅に増加し、2009 年には 3

万トンを超えるまでになっている。ベ

ニズワイガニは平均して 2~3 万トン

の漁獲量がある。その他にズワイガニ

が約 2 千トン程度となっている。

ベニズワイガニ及びズワイガニに

ついては、日本海の暫定水域が好漁場

となっており、2000 年から両国間で民

間協議が行われるなどの措置がとられているが、韓国側の不履行や、漁業者間の漁具トラブル等

があり、依然として問題が多い 90

カニの輸出は主にカニ調製品の形で、そのほとんどが日本向けの輸出である。ベニズワイガニ

のほぐし身や、ワタリガニの加工品等が輸出されているものとみられ、2004 年以降、平均して 4

~5 千トン弱の輸出量がある。

3.2.7. 品目別―海藻類

韓国の海藻の生産量は 2009 年実績で約 87 万トン、このうち 99%近くが養殖によるものであ

る。水産業の生産量のうち海藻は 3 割弱に及ぶ。生産量が多いのはワカメとコンブ、ノリである。

以下ではこの 3 品種及び、日本への海藻輸出で最も多いヒジキについて生産概要を述べる。

ワカメ

韓国の海藻類養殖で最も生産量が多いのがワカメで、古くから天然の採取が盛んであったが、

90 (水産庁 2009)

表 49 カニの生産と輸出 単位:千 t

漁獲 輸出

合計 ワタリガニ ズワイガニ ベニ ズワイガニ

その他 カニ 調製品

2004 37 3 3 23 8 4

2005 39 4 3 22 10 4

2006 45 7 4 24 10 5

2007 52 14 5 25 8 4

2008 58 18 3 28 9 5

2009 64 31 2 30 0 5 出所)(Statistics Korea 2010) (MIFAFF 2009b)(MIFAFF 2010a) KITA 貿易統計

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1960 年代末から商業的な養殖

が始まり、政策的な後押しと日本

への輸出増を受けて生産が増加

した。ただし、1997 年の 43 万ト

ンをピークにその後は 20~30 万

トン台で推移している。生産地は

南西部から南東部の海岸に広が

っており、主に水平いかだ式の施

設で養殖されている 91

日本へのワカメ輸出は両国産

業の交渉の下、1978 年から塩蔵

ワカメの自主協定が行われてい

たが、乾燥ワカメや、中国産の急

増等により 1994 年に撤廃された

。食用とし

て国内・輸出市場に向けられるほ

かに、貝類養殖の飼料としても用

いられる。

92。その後ワカメの輸出は中国への塩蔵ワカメの輸出が増えた

2004 年、2005 年を除いて、1 万トン前後で推移している。2009 年の韓国のワカメ輸出は、塩蔵

品が約 4 千トン、冷凍品が約 3 千トン、乾燥が 1 千トンの計 8 千トン、原藻換算 93

一方で、韓国国内市場向けにも、1990 年代末から中国産塩蔵ワカメの輸入が増加し、多い時

には 6 万トン近く輸入されており、2009 年実績では 2 万トンとなっている。

では約 5 万 3

千トンで、生産量のうち約 17%が輸出に向けられていると推計される。相手国は主に日本、米

国のほか、安価な塩蔵品については中国向けにも相当量が輸出されている。

コンブ

ワカメに次いで養殖が盛んな海藻がコンブであるが、韓国では食用のほか、アワビ養殖の餌の

原料として用いられており、前述したような近年のアワビ養殖の発展に伴い、生産量は 2004 年

以降、毎年増加を続けており、2009 年実績では 3 万トンを超えた。内需、特に養殖用飼料が主

体とみられ、輸出向けはわずかで、輸出量は 2009 年実績で塩蔵が 480 トン、乾燥・その他が 442

トンとなっている。主に米国と日本市場向けで、日本では IQ が導入されている。

91 (西沢 2006) 92 (西沢 2006) 93 乾燥ワカメは 25 倍、塩蔵ワカメは 5 倍で推計

表 50 韓国の主要な海藻類養殖生産・輸出量の推移 単位:千 t

海藻計 ノリ ワカメ コンブ ヒジキ その他

生産 2004 537 229 262 23 23 0 2005 621 198 282 108 30 3 2006 765 218 322 202 21 2 2007 793 211 309 250 21 2 2008 921 224 381 285 18 13 2009 859 210 309 306 20 14 輸出 2004

6.7 22.5 1.3 4.5

2005

7.5 21.3 1.5 4.1

2006

7.3 11.3 1.3 3.4

2007

6.5 6.4 1.1 3.2

2008

7.8 10.4 1.0 3.2

2009

9.2 7.9 0.9 2.2

出所)(MIFAFF 2009b), (Statistics Korea 2010), 出所)KITA 貿易統計 注)輸出はワカメは乾燥・塩蔵・冷凍の計、コンブは塩蔵・その他の計、

ノリは乾燥・調整品の計、ヒジキは乾燥

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ノリ

韓国のノリ養殖の歴史は古く、日本占領下の 1930 年代頃から技術の導入と開発が進んで盛ん

に行われるようになり、多くが日本へ輸出されていた。しかしノリの病害発生と日本での価格低

迷を背景に 1978 年から 1992 年までは輸出がストップ、もっぱら国内向けの生産となり、産地で

は貝類養殖への転換が積極的に進められた。94

現在生産は 20 万トン前後で推移しており、2009 年実績では 21 万トンである。輸出は乾燥ノ

リが約 2,300 トン、ノリ調製品(味付け海苔)が約 6,900 トンで、乾燥ノリはタイ、日本、米国

へ、ノリ調製品は日本と米国へ輸出されている。なお、日本では IQ が導入されており、韓国が

これを独占していたが、2004 年以降は中国へも IQ が割り当てられるようになったため、韓国は

これを WTO に提訴したが、その後日本と協議の上、輸入枠を引き上げることで訴えを取り下げ

た。

ヒジキ

韓国のヒジキ養殖生産は 2009 年で約 2 万トンあり、この他に済州島では多少天然ひじきが採

取されている。ヒジキの国内需要は非常に少なく、生産の 9 割程度は日本向けに輸出されている

ものとみられる。日本市場での価格の低迷から、生産意欲が失われており、生産量は緩やかな減

少傾向にある。95

3.3. 林業

3.3.1. 森林・林業の概況

森林

韓国は日本と似て、国土の約 6 割を森林が占める。森

林面積は 2009 年実績で 637 万ヘクタールあり、このうち

24%が国有林、8%が州等の公有林、残りの 68%が私有林

である。樹種別には、針葉樹林が 42%、広葉樹林が 27%。

混合林が 29%となっている。

ただし、韓国では朝鮮戦争に至る過程で森林が大きな

被害を受け、また燃料用として広く木材が用いられてい

94 (海苔産業情報センター 2010) 95 (日本海藻協会 2006)

表 51 2009 年の森林面積

単位:千 ha

計 6,370

針葉樹 2,672

広葉樹 1,657

混合林 1,844

竹林 7

無立木地 190

出所)Korean Forest Service 統計資料室

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たため、森林資源は荒廃しており、建築用材等に適する良質な材木生産量は限られていた。1970

年代から森林資源の回復のための施策がはかられ、以来、下図に見るように森林における材木蓄

積量は増加している。

図 28 韓国の森林における材木蓄積量の推移

出所)Korean Forest Service 統計資料室

林業

材木蓄積量の増加に伴い、用材供給においても、国産材の回復傾向が見られる。韓国における

丸太供給では、国産比率は 1990 年代を通じて 10%台であったが、2000 年代中旬以降、国産材の

供給が増加しており、2008 年実績では 34%を占めるまでになっている。特に近年はロシアやカ

ナダで原木輸出規制が強化されていることから、韓国政府も国有林や公有林等からの原木供給増

を積極的に図っている 96

。2003 年に 116 万㎥であった材木の生産量は、2009 年には 252 万㎥に

達した。国産材は主にボードやパルプチップ産業で用いられている。

図 29 韓国における丸太供給

出所)(MIFAFF 2009b)

材木の他に「林産物」として扱われているものの中では、竹、そして栗や松の実などのナッツ

類、ベリーや渋柿の果実類、椎茸や松茸等のキノコ類の生産も盛んである(次頁表参照)。

96 (목재신문 2010)

0 100 200 300 400 500 600 700 800

1980 1982 1984 1986 1988 1990 1992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008

百万㎥

0

2,000

4,000

6,000

8,000

10,000

12,000

1988 1990 1992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008

千㎥

輸入

国産

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木材貿易

韓国の林産物貿易は、国内での生産が限られて

いることから、下図に見るように輸出はごくわず

かで、大幅な輸入超過となっている。金融危機の

影響により 2009年の輸入額は 20 億ドル弱に落ち

込んだが、2010 年はやや回復した。国内で使用さ

れる材の 9 割以上が外材であり、中国、マレーシ

ア、ニュージーランド、米国、カナダ、インドネ

シア等から輸入している。

品目については、1990 年代を通じて韓国では丸

太の輸入に比べて、製材や合板・単板等の割合が

増加し、1990 年には丸太の割合は輸入全体の 60%

台であったものが、1997 年までに 30%台へ低下

した。2010 年実績では丸太が 31%、単板・合板

が 21%、製材が 14%、パーティクルボードが 6%、燃料用材が 5%等となっている。

図 30 韓国の木材等貿易額の推移

出所)KITA 貿易統計 注)HS44 類の計

3.3.2. 林業政策

林業政策の概要

韓国では、農林水産食品部(MIFAFF)傘下の山林庁(Korea Forest Service)が、森林保全と国

有林管理、林業の発展促進、景観利用、生態系保全等に関わる林業政策全般を担う。

林業政策では 10 年毎に基本計画が策定され、それに沿って各種の施策が実施されている。林

0

500

1,000

1,500

2,000

2,500

3,000

1990 1992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010

百万ドル 輸出

輸入

表 52 韓国の主な林産物生産量の推移

単位:千 t

材木 竹 ナッツ・果実* キノコ

千㎥ 千 t 千 t 千 t

2003 1,163 18 110 25

2004 1,466 160 137 28

2005 1,826 155 142 28

2006 1,616 147 164 27

2007 1,702 150 187 29

2008 1,955 36 195 28

2009 2,516 34 206 27 出所)(MIFAFF 2009b),(산림청 2010) 注)*ラズベリー、渋柿

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78

業政策では、朝鮮戦争までの過程で被害を受けた森林資源の回復のために 1973 年に治山緑化 10

ヶ年計画が立てられたが、以降 10 年ごとに基本計画が更新されている。第1次、第 2 次計画で

は治山緑化に重点が置かれ、森林資源の育成が図られた。1988~1997 年の第 3 次森林基本計画

では、より経済林の造成とその利用へと主たる目的が移行し、1998~2007 年の第 4 次山林基本

計画では、持続可能な森林経営の構築を図る一方、競争力のある林業育成を目指した。97

現在施行されているのが、2008~2017 年の第 5 次森林基本計画で、ここでは「持続可能性」、

「国土の緑の基盤」、「福利厚生」の三点をテーマとし、森林資源育成と管理、林業の持続可能性

の確保と競争力の向上、森林の保全、生活の質を向上させる「緑の空間」育成、国際協力の拡大

等を中心とした戦略となっている。

98

3.3.3. 品目別―栗

以下では、日本への輸出が比較的多い林産物である栗について取り上げる。

韓国の栗生産量は 2009年実績で約 7万 6千トン、主に忠清南道と慶尚南道で栽培されている。

慶尚南道等の南部地域では減少しているが、中部では 2000 年代に入っても新規の栗プランテー

ションが造成されていることから、微増の傾向と見込まれている 99

韓国では、2010 年実績で約 1 万 3,000 トンの栗輸出があ

るが、一方で中国から栗を 6,200 トン輸入している。輸出

においては、2000 年初頭までは主要な相手国は日本で、甘

露煮向けに皮むき処理した製品を輸出していたが、2000 年

代に入って以降、生栗を中国へ輸送し、現地で剥き加工し

て日本に再輸出する方法が主流になった。現在は輸出量の

8 割近くを中国向けが占める。日本市場では品質面への評

価は高く、中国産食品の安全懸念から多少韓国産へ需要が

シフトしているとみられているが、日本の栗市場が縮小す

るなかで依然として苦戦が続いている。

。栗生産は国内消費向けが中

心の生産であるが、一部は輸出されている。

3.4. 韓国の農林水産業に関するまとめ

韓国の農林水産業に関してこれまでの内容は以下のようにとりまとめられる。 97 (洙林 et al. 2002) 98 (산림청 2008) 99 (KREI 2010a)

表 53 栗の生産と輸出 単位:千 t

生産量 輸出量

2004 60 14

2005 72 17

2006 76 17

2007 82 16

2008 78 13

2009 75 13 出所)(MIFAFF 2009b)(산림청 2010), Korean Forest Service 統計資料室

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プロマーコンサルティング 2011 年 3 月

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農畜産業

韓国の農業は高齢専業農家が多いという特徴を抱え、これまで高い関税率で国内農家を

保護してきたが、WTO や FTA 対策を次々と導入し、体質転換、成長動力の育成、グロー

バル化、流通システムの先進化、多元的機能の保全等を柱に、競争力のある農家の育成

と、農家への直接支払を中心とする農業政策体制に転換しつつある。

また、2012 年までに輸出額を 2009 年 48 億ドルの二倍強の 100 億ドルに増加させること

を目標に、輸送費補助を中心とする輸出促進政策を展開している。

コメ生産では消費減退により余剰感が高まっており、規模はごく小さいが、生産調整が

再開されている。ミニマムアクセスを延長したが、近い将来に関税化に向けて動くとみ

られる。

韓国では大豆生産が振興されており、食用大豆の輸入には国産との価格差を考慮したマ

ークアップが課されている。

野菜では、日本向けのパプリカとキムチが主要な輸出産品である。パプリカ生産はオラ

ンダ式の高度な生産設備と技術が導入されており、生産面積は増加している。

かつて日本向けに多く輸出していた養豚業界は、口蹄疫発生により輸出が停止し、その

後も事故率の悪化や豚コレラの封じ込めにが難航するなどの課題を抱えた。養鶏は規模

拡大が急速に進み、輸入超過の状況ではあるが、冷凍鶏手羽の香港向け輸出と参鶏湯の

日本や台湾向け輸出が増加している。また米国での BSE 発生後は、代替需要として国産

牛肉や豚肉・鶏肉の生産が伸びた。ただし、2010 年に口蹄疫が猛威を振るい、牛や豚な

ど計 342 万頭が殺処分された。

水産業

韓国の水産業分野は、かつては日本向けの輸出を基盤に発展したが、その後は生産が停

滞、現在は旺盛な内需を支えるために輸入超過状態である。

水産政策では、地球温暖化問題への対応や、養殖振興、輸出や海外投資促進等を重視し

ている。

輸出は 2009 年 15 億ドルで、韓国政府は 2014 年までに 25 億ドルとの目標を持つ。輸出

相手国の中では日本が約半分を占め、刺身用の遠洋マグロ、養殖のヒラメやアワビ、ア

サリ、沿岸漁業のアナゴ、半加工品のカニの身、明太子等を輸出している。輸出相手国

の中では中国は二番目で、現況では遠洋イカ等の加工原料が主体とみられるが、韓国政

府は今後、養殖のアワビ・ナマコや、刺身用高品質マグロ等の中国市場を開拓したいと

考えている。

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日本と韓国との関係では、沿岸漁業について、両国間で漁業協定を締結し、両国の経済

水域での秩序ある資源保全を図ろうとしているが、日本では特にカニやアナゴ、イカ漁

等で、依然としてしばしば韓国船による違法操業等が報告されている点に注意が必要で

ある。

林業

韓国では、1980 年代以降荒廃した森林資源の回復を図ってきたが、2000 年代中旬になっ

てその成果が現れるようになり、現在では国内の丸太需要における国産材の比率が 3 割

台にまで上昇した。

ただし、木材需要の 7 割は現在でも、中国、マレーシア、ニュージーランド、カナダ等

の海外からの輸入が支えている。中国が最大の輸入相手国で、合板が中心品目である。

木材の輸出は非常に少ないが、主要相手国は日本である。栗やキノコ等のその他の林産

物が中心である。栗は中国で剥き加工されて日本に輸出される例が増えている。