9144 「病は気から」を科学する...

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1 Notes はじめに P6 毎年、代替医療の開業医に三億五千四百万回の診療を受け、三百四十億 ドルを支払っている Nahin, R.L. et al. National Health Statistics Reports, no. 18, July 2009. 参照 https://nccih.nih.gov/sites/nccam.nih.gov/files/nhsrn18.pdf 2007 年の補完代替医療(CAM)の使用に関するデータを集めた報告書。祈り についてのデータはない。前回の2002 年の報告書では健康のために祈ってい るかという質問があり、総合すると成人の62% がある種の CAM を利用してい ることが明らかになった(祈りを含めない場合、36%)。 Barnes, P.M. et al. National Health Statistics Reports, no. 343, May 2004. 参照 http://www.cdc.gov/nchs/data/ad/ad343.pdf 2012 年データの報告書は2015 年に発行されたが、コストのデータは含まれて いない。前回の調査より定義を狭くすれば、2012 年には成人の34%がCAMを 利用したことになる。 Clarke, T.C. et al. National Health Statistics Reports, no. 79, 10 February 2015. 参照 http://www.cdc.gov/nchs/data/nhsr/nhsr079.pdf P6 一般開業医での診察はおよそ五億六千万回 National Ambulatory Medical Care Survey: 2010 Summary Tables. 参照 http://www.cdc.gov/nchs/data/ahcd/namcs_summary/2010_namcs_ web_tables.pdf このデータは2010 年のもの。 P7 科学ジャーナリスト、スティーブ・シルバーマンが「砂に書いた別れの 手紙」と呼び Silberman, S. The Journal of Mind.Body Regulation 2011; 1: 44-52 執筆時、ホメオパシーは英国の一部で NHS により利用可能。 参照 http://www.nhs.uk/Conditions/homeopathy/Pages/Introduction. aspx#available(2015 4 30 日にアクセス)

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    Notes

    はじめに

    P6 毎年、代替医療の開業医に三億五千四百万回の診療を受け、三百四十億ドルを支払っているNahin, R.L. et al. National Health Statistics Reports, no. 18, July 2009.参照 https://nccih.nih.gov/sites/nccam.nih.gov/fi les/nhsrn18.pdf2007年の補完代替医療(CAM)の使用に関するデータを集めた報告書。祈りについてのデータはない。前回の2002年の報告書では健康のために祈っているかという質問があり、総合すると成人の62%がある種のCAMを利用していることが明らかになった(祈りを含めない場合、36%)。Barnes, P.M. et al. National Health Statistics Reports, no. 343, May 2004.参照 http://www.cdc.gov/nchs/data/ad/ad343.pdf2012年データの報告書は2015年に発行されたが、コストのデータは含まれていない。前回の調査より定義を狭くすれば、2012年には成人の34%がCAMを利用したことになる。Clarke, T.C. et al. National Health Statistics Reports, no. 79, 10 February 2015.参照 http://www.cdc.gov/nchs/data/nhsr/nhsr079.pdf

    P6 一般開業医での診察はおよそ五億六千万回National Ambulatory Medical Care Survey: 2010 Summary Tables.参照 http://www.cdc.gov/nchs/data/ahcd/namcs_summary/2010_namcs_web_tables.pdfこのデータは2010年のもの。

    P7 科学ジャーナリスト、スティーブ・シルバーマンが「砂に書いた別れの手紙」と呼びSilberman, S. The Journal of Mind.Body Regulation 2011; 1: 44-52執筆時、ホメオパシーは英国の一部でNHSにより利用可能。参照 http://www.nhs.uk/Conditions/homeopathy/Pages/Introduction.aspx#available(2015年4月30日にアクセス)

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    P9 医学の父と呼ばれる古代ギリシアの医師ヒポクラテスは「自然治癒力」という言葉をはっきりと口にし、二世紀の医師ガレノスは「自信と希望は薬より効く」と考えていた。Dunn, P.M. Archives of Disease in Childhood - Fetal and Neonatal Edition 2003; 88: F441-F443

    第1章

    P24 一九九八年、ホルバートはある医学雑誌に三人の少年たちのセクレチン療法について発表し、「彼らの行動が劇的に改善し、以前よりアイコンタクトを取り、意識レベルが上がり、表現言語の拡充が見られた」と伝えた。Horvath, K. et al. Journal of the Association for Academic Minority Physicians 1998; 9: 9-15セクレチンについての情報源には「セクレチン試験」も含まれる。自閉症の子どもに効果のある薬、あるいは彼らに害を及ぼす薬が幅広く処方されているが、現在、スティーブ・バンク(The Scientist, 21 June 1999)が実験中であり、ビクトリア・ベックからの書簡が公開されている。

    P25 『デートライン』によれば、そのホルモンを投与された二百名の自閉症の子どものうち、半数以上が良い反応を見せた。デートラインのセクレチンに関する番組の記録は次のサイトで読める。http://psydoc-fr.broca.inserm.fr/fora/aut_for1.html

    P25 「電話が鳴りっぱなしでした。私たちが診ていた自閉症の子どもの親たちがセクレチンによる治療を望んだからです」2014年2月7日、エイドリアン・サンドラーとの電話インタビュー。

    P26 サンドラーの報告は、一九九九年十二月、権威ある『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン』誌に掲載されたが、結果は驚くほど悪いものだった。Sandler, A.D. et al. New England Journal of Medicine 1999; 341: 1801-1806

    P27 試験開始時、サンドラーのプラセボ群の子どもたちの平均スコアは六十三だった。偽ホルモン(生理的食塩水)の注射から一ヵ月後、平均スコアはた

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    った四十五だった。セクレチン群の子どものスコアは59から50となった。2群の間に統計上の著しい差はなかった。

    P28 二〇〇五年の夏の夕方、七十五歳のボニーは、テレビを観ながらソファで眠り込んでしまった。2014年5月20日、ボニー・アンダーソンとの電話インタビュー。現在、80歳を超えたボニーは正確な日付を思い出せないが、2005年だったと考えている。

    P30 「ついでに言うと、この手術の有効性を示す報告はいくらでもあります。患者を手術台に載せ、セメントを注入すれば、見事に治癒し、手術台から飛び降りられるほどです」2014年5月7日、シアトルのワシントン大学でのジェリー・ジャービックとのインタビュー。

    P30 ボニーを担当したメイヨークリニックの外科医デビッド・カルメスも、その手術のよい結果を目にし、自分の患者のおよそ八〇パーセントに確かなメリットがあったと言う。2014年5月16日、デビッド・カルメスとの電話インタビュー。

    P31 二〇〇九年、その研究が発表された。Kallmes, D.F. et al. New England Journal of Medicine 2009; 361: 569-79

    P32 一九五四年まで遡れば、医学雑誌『ランセット』に、プラセボは「無知あるいは無力な患者」のエゴをなだめるという内容の記事があった。Anon. The Lancet 1954; ii: 321

    P33 サンドラーがセクレチンの研究に参加した自閉症の子を持つ親たちに、「そのホルモンにはプラセボを超えるメリットがなかった」と伝えても、六九パーセントもの親たちがわが子のためにそれを欲しがった。Sandler, A.D. et al. New England Journal of Medicine 1999; 341: 1801-1806

    P33 二〇一二年、Zドラッグという安価な睡眠薬は、プラセボ効果が明らかになり、ほとんど価値のないものとされた。Huedo-Medina, T.B. et al. British Medical Journal 2012; 345: e8343

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    P33 同じ年、麻酔剤ケタミンに対し、がん性 痛に対する二重盲式臨床試験が実施された。それまでの研究で、その効果は「完全」「劇的」「優秀」とされていたが、これもまた、プラセボ以上のものではないとわかった。Hardy, J. et al. Journal of Clinical Oncology 2012; 30: 3611-3617

    P34 二〇一四年、専門家たちが、狭心症から膝関節炎にいたる症状に対する有望な外科手術について、五十三件のプラセボ対照試験を分析し、その半数で偽の手術が同程度のよい結果を出していることを確認した。Wartolowska, K. et al. British Medical Journal 2014; 348: g3253

    P36 「何かを調べたりしなかった。自分の未来を知りたくなかったのよ」ロザンナは私にイタリア語で話し、それをエリサ・フリサルディが英語に通訳した。

    P38 ブリティッシュコロンビア大学の神経学者ジョン・ストースルが実施した一連の試験では、パーキンソン病患者に偽薬を与えた症例で、強いプラセボ効果が見られた。de la Fuente-Fernandez, R. et al. Science 2001; 293: 1164-1166

    P38 「ドカーン!」BBCのドキュメンタリー番組の制作者たちに、彼はプラセボ効果について伝えている。‘The Power of the Placebo’, Horizon BBC2, February 2014

    P40 パーキンソン病患者にプラセボ注射を行うと、運動ニューロンの興奮が、本当の薬に反応するときとまったく同じように穏やかになることを証明したのだ。Benedetti, F. et al. Nature Neuroscience 2004; 7: 587-588

    P43 スカイダイバー、フェリックス・バウムガルトナーが、宇宙からの記録破りのスカイダイビングで使用した一万五千ユーロの装置と同じものだ参照 http://www.redbullstratos.com/the-team/felix-baumgartner/

    P44 「人間は象徴的な動物なんです」と彼は言う。「どんな場面でも、重要なのは心理的な要素です」

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    ファブリッツィオ・ベネデッティとのインタビュー(2014年3月21日ブルユチェルヴィニアにて、2014年3月22日プラトーローザにて)。

    P45 レビンは、口腔外科手術後の患者で自分の仮説を確かめてみた。すると、患者の三分の一以上が、プラセボ投与後、痛みが著しく緩和されたと言ったLevine, J.D., Gordon, N.C. & Fields, H.L. The Lancet 1978; 312: 654-657

    P48 大半の症例(重症患者を除く)で、プロザックなどの抗うつ剤には、プラセボを超える効果がほとんどなかったのだ。Kirsch, I. Epidemiologia e psichiatria sociale 2009; 18: 318-322Kirsch, I. The Emperor’s New Drugs: Exploding the Antidepressant Myth (Basic Books, 2011)アービング・カーシュ『抗うつ薬は本当に効くのか』(邦訳:エクスナレッジ)

    P49 ベネデッティは不安障害に広く処方されるバリウム(ジアゼパムの商品名)は、患者がそれを投与されていることを知らないかぎり、効果がないことを発見した。Benedetti, F., Carlino, E. & Pollo, A. Clinical Pharmacology & Therapeutics 2011; 90: 651-661

    P49 ある喘息の研究では、プラセボ投与のあと、患者は呼吸が楽になったと言ったが、肺機能の客観的計測値に変化はなかった。Wechsler, M.E. et al. New England Journal of Medicine 2011; 365:119-126

    P49 がん患者の臨床試験では、一般的に痛みと生活の質にプラセボが大きな効果を及ぼしはしても、プラセボ群内の腫瘍が小さくなったという患者の割合は低い(七件の試験のうちのある分析では二・七パーセント)。Chvetzoff, G. & Tannock, I.F. Journal of the National Cancer Institute 2003; 95: 19-29

    P50 二〇〇一年に発表された米国の実験で、研究者たちが中絶されたヒト胎児から採取したニューロンをパーキンソン病患者の脳に注入し、そこで成長し、ドーパミン産生を始めることを期待した。Freed, C.R. et al. New England Journal of Medicine 2001; 344: 710-719

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    P51 この研究のデータを分析した研究者たちは、その効果にはそれ以上のものがあると言い、一年を通し、「プラセボ効果は非常に強かった」という結論を出している。McRae, E. et al. Archives of General Psychiatry 2004; 6: 412-420

    第2章

    P55 「私が型破りな人間だと知っているかい?」テッド・カプチャクにまっすぐ見つめられると、彼がその事実を誇りに思っていることがわかった。2014年5月28日、マサチューセッツ州ケンブリッジでのテッド・カプチャクとのインタビュー。

    P57 初期の試験で、カプチャクは二種類のプラセボ─偽の鍼と偽の薬─の効果を、腕の痛みが消えない二百七十名の患者で比較した。Kaptchuk, T.J., et al. British Medical Journal 2006; 332: 391

    P57 特定の潰瘍治療の試験でプラセボに反応した人の割合は、デンマークでは五九パーセントであったのに対し、ブラジルではたった七パーセントと幅があった。Moerman, D.J. Medical Anthropology Quarterly 2000; 14: 51-72モアマンによれば、プラセボ効果の原因に関する大きな議論のひとつは、このような文化の違いを根拠にしたものだ。モアマンはこのテーマに関する幅広い調査を行い、2002年の著書『Meaning, Medicine and the Placebo Eff ect』の第6章でその結果の多くをまとめている。

    P58 電話インタビューでモアマンは、手術後の患者に鎮痛剤を点滴したベネデッティの研究に言及した。Amanzio, M., Pollo, A., Maggi, G. & Benedetti, F. Pain 2001; 90: 205-215

    P59 ふたつの群の違いは、「人間との交流と言葉」だけだったとモアマンは言う。2011年4月20日、ダン・モアマンとの電話インタビュー。2015年5月にメールで確認。

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    P59 彼は、この三十年以上の間に行われた抗うつ剤の臨床試験についても指摘した。その時期、うつ治療において薬が徐々に成果を挙げてきたが、それはプラセボも同じだった。Walsh, B.T., Seidman, S.N., Sysko, R. & Gould, M. Journal of the American Medical Association 2002; 287: 1840-7

    P61 二〇一〇年に発表された試験によれば、プラセボを飲んだ患者は、なんの治療も受けなかった患者より著しい回復を見せた。Kaptchuk, T.J. et al. PLoS ONE 2010; 5: e15591

    P61 カプチャクは、それ以降、うつ病の女性二十名のパイロット試験、偏頭痛患者六十六名の臨床試験で同じような結果を出した。Kelley, J.M., et al. Psychotherapy & Psychosomatics 2012; 81: 312-314

    P61 偏頭痛の臨床試験では、合計四百五十回以上の発作に対し、薬、プラセボ、何も与えないという対応をした。Kam-Hansen, S. et al. Science Translational Medicine 2014; 6: 218ra5

    P63 アプラセボのウェブサイトには、カプチャクの研究に関するマスコミ報道へのリンクがあり、幅広い製品を扱っている。参照 http://www.aplacebo.com/

    P64 青い錠剤は概して優れたプラセボ睡眠薬となるが、イタリア男性にとっては逆の効果をもたらす傾向がある─おそらく、青はイタリア代表サッカーチームの色であるため、リラックスするより、むしろ興奮してしまうのだろう。Moerman, D. Pain Practice 2006; 6: 233-236

    P65 「つねに有効な治療と併用しながら、プラセボ効果を最大限に活用するべきだ」2014年2月4日と2015年4月13日、エツァート・エルンストへのメールによるインタビュー。

    P69 「アフガニスタン人にはわかっている。こんなことをするのはテロリス

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    トかタリバンだ。少女たちを脅し、学校へ行かせまいとしている」と彼はCNNに語った。参照 http://edition.cnn.com/2012/05/29/world/asia/afghanistan-girls-poisoned/

    P69 ビビハジェラ高校の女子生徒と教師と面談した世界保健機関(WHO)のスタッフが出した結論は、毒物は使用されていないというものだった。World Health Organization Weekly Epidemiological Monitor vol 5, issue 22: Sunday 27 May 2012

    P71 最近の米国とイギリスにおける研究では、被験者に対し、強力なWi-Fiの放射線にさらされている、あるいは環境有害物質を吸い込んでいるという偽の情報を与えることで、不快な症状が引き起こされた。Lorber, W., Mazzoni, G. & Kirsch, I. Annals of Behavioral Medicine 2007; 33: 112-116Witthoft, M. & Rubin, G.J. Journal of Psychosomatic Research 2013; 74: 206-212

    P71 二〇〇七年、米国の医師がミシシッピ州ジャクソンの二十九歳の男性の症例を報告している。Reeves, R.R., Ladner, M.E., Hart, R.H. & Burke, R.S. General Hospital Psychiatry 2007; 29: 275-277

    P72 各群のうち、のちにこの副作用が現れた患者の割合は、それぞれ三・一パーセントと三一・二パーセントだった。Silvestri, A. et al. European Heart Journal 2003; 24: 1928-1932

    P72 ニコラス・ハンフリーは、人は周囲の人たちが病気になっていくのに気づいたとき、あるいは自分たちは毒を盛られたと確信したときに、嘔吐を始めるのは賢明な対策だと主張する。こういった考えは、ハンフリーの2002年のエッセイ『The Mind Made Flesh』(『喪失と獲得─進化心理学から見た心と体』邦訳:紀伊国屋書店)の「Great Expectations: The evolutionary psychology of faith healing and the placebo eff ect (pp. 255-285)で述べられている。もっと新しいレビューとして、Humphrey, N. & Skoyles, J. Current Biology 2012; 22: R1-R4がある。

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    P74 ベネデッティがプラトーローザで行ったずる賢い実験は二〇一四年に発表され、プラセボは、既存のノセボ効果を取り除くことによって機能する場合があるという考えを裏づけている。Benedetti, F., Durando, J. & Vighetti, S. Pain 2014; 155: 921-928

    P76 「僕は錠剤に話しかけます」と人類学者ダン・モアマンは楽しげに打ち明ける。「『やあ、君たちがすばらしい仕事をしてくれるのはわかってるよ』ってね」‘Heal Thyself’ by Jo Marchant, New Scientist, 27 August 2011, pp. 30-34より引用。

    P76 ビアドリナ欧州大学の心理学者、科学哲学者ハーラル・バラッハバラッハは代替医療の利用を支持しているため、2012年にドイツの懐疑論者たちが擬似科学に与えるGoldene Brett賞を受賞。

    P76 毎日、同じ時間の服用を勧める─朝の入浴後、決まった部屋、あるいは祈りや黙想をしながら。Walach, H. & Jonas, W.B. Journal of Alternative and Complementary Medicine 2004; 10: S-103-S-112

    P76 「回復した状態を思い浮かべるのです」と彼は私に言う。2011年4月20日、アービング・キルシュとの電話インタビュー。2015年5月にメールで確認。

    P77 二〇〇八年、カプチャクは、IBSの患者二百六十二名を対象に行った試験について発表した。Kaptchuk, T.J. et al. British Medical Journal 2008; 336: 999

    P79 一九八五年に実施されたある古典的な研究では、処方するのが、鎮痛剤なのか、プラセボなのか、医師がどちらだと考えているかにより、患者が感じる痛みの強さが劇的に変化した─たとえ、医師が患者に伝える言葉は同じであっても。Gracely, R.H. et al. The Lancet 1985; 1: 43

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    P79 間接的なプラセボ効果─患者ではなく、ケアギバーの考えと態度によって決まるもの─は、プラセボ効果が子どもにも(さらには動物にも)見られるもうひとつの理由だ。McMillan, F.D. Journal of the American Veterinary Medical Association 1999; 215: 992-999

    P80 二〇一二年、カプチャクは顔写真を患者が気づかないほど素早く、次々に見せることで、プラセボ効果とノセボ効果の両方を引き起こしたJensen, K.B. et al. Proceedings of the National Academy of Sciences 2012; 109: 15959-15964

    第3章

    P82 彼は大きな代償を払った。もう透析装置にはつながれていないが、異物である臓器に対する体の拒絶反応を止めるため、死ぬまで、毎日、免疫系を抑制する強力な薬を服用しなければならない。そのため、命にかかわる感染症に罹る危険だけでなく、がんの脅威にもさらされながら生きている。腎臓移植を受けた人は、年齢と性別が同じ一般の人より、がんを発症するリスクが2~3倍になる。主な原因は、臓器に対する体の拒絶反応を防ぐ薬が、通常、がんを防ぐ免疫反応をも抑制してしまうからだ。Wong, G. et al. Kidney International 2014; 85: 1262-1264

    P86 「すべての患者が反応すると言ってもいいくらいだ」と彼は言う─たとえ最後の注射は本物ではないと知っていても。2014年3月21日にブルユチェルヴィニアにて、2014年2月13日にメールにて、ファブリッツィオ・ベネデッティのインタビュー。

    P87 「診察室で行っているのは、そのバランスを取ることです」と彼は言う。「十分な効果を出しながら、大きな副作用が出ない投与量を見つけようとしています」2014年2月7日、エイドリアン・サンドラーとの電話インタビュー。

    P88 二〇一〇年、サンドラーは結果を発表した。予想どおり、薬を半量にした対照群では、子どもの症状は試験の二ヵ月目に著しく悪化した。しかし、条

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    件づけをした群では安定したままで、全量の患者と同じだった。実際には、この群の子どもたちのほうがよい兆候もあり、副作用は全量の子どもたちより少なかった。Sandler, A.D. et al. Journal of Developmental & Behavioral Pediatrics 2010; 31: 369-375

    P89 実験のこの段階でアデルが与えたものは、甘味をつけた水だけであり、薬はまったく入っていない。しかし、ラットの吐き気は治まらなかった。それどころか、次々と死んでいったのだ。Ader, R. & Cohen, N. Psychosomatic Medicine 1975; 37: 333-340

    P90 「免疫系と神経系は、まったくの独立したシステムだと考えられていました」と言うのはドイツ、エッセン大学の医療心理学者マンフレート・シェドロフスキーだ。2014年3月27日、エッセン大学にて、マンフレッド・シェドロフスキーとのインタビュー。

    P90 「私には詳しい知識がなかった」と彼はよく言っていた。「免疫系と脳には結びつきがないと考えられていることを知らなかったんだ」Vitello, P. New York Times 29 December 2011, p. B8

    P91 「ありとあらゆる場所に神経線維を見つけました。免疫系のこういった細胞のど真ん中に入り込んでいるんです」Healing and the Mind with Bill Moyers 1993, Ambrose Video Publishing, Vol 2: The Mind Body Connection

    P92 フェルテンは、一九八一年にその結果が初めて発表されたとき、Williams, J.M. et al. Brain Research Bulletin 1981; 6: 83-94

    P92 「この研究領域は、医学における生物学の本当に重要な領域のひとつになるでしょう。反対する人もいるでしょうが、上流へ向かって泳ぎ続けてください」The Rochester Review, 1997; vol 59, no 3.参照 http://www.rochester.edu/pr/Review/V59N3/feature2.html

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    P94 当初、マレッティはステロイド治療を受け、暴れまわる免疫系を抑えていた。彼女は薬を飲むのが嫌だった─顔がまるで「飛行船を飲み込んだ」ようになる。Healing and the Mind with Bill Moyers 1993, Ambrose Video Publishing, Vol 2: The Mind Body Connection

    P95 一九八二年に発表されたアデルの論文Ader, R. & Cohen, N. Science 1982; 215: 1534-1536

    P96 ティーンエイジャーは顔をしかめた。「戻しそうな気分よ」Healing and the Mind with Bill Moyers 1993, Ambrose Video Publishing, Vol 2: The Mind Body Connection.

    P97 症状は安定し、その後、改善し始めた。Olness, K. & Ader, R. Developmental and Behavioral Pediatrics 1992; 13: 124-125

    P97 一九九六年に、アデルは多発性硬化症の患者十名に同様の治療法を試している。Giang, G.W. et al. The Journal of Psychiatry & Clinical Neurosciences 1996; 8: 194-201

    P97 マレッティの心臓はある薬の副作用のために機能しなくなった。2014年2月27日、カレン・オルネスとの電話インタビュー。

    P99 この群が余分な心臓を受け入れた期間は平均十三日で、薬を投与したラットと同じだった。Exton, M.S. et al. Transplantation Proceedings 1998; 30: 2033

    P100 ある研究では、ラットの二〇パーセントが、シェドロフスキーが研究を続けた何ヵ月もの間、第二の心臓を維持した。Exton, M.S. et al. American Journal of Physiology - Regulatory, Integrative and Comparative Physiology 1999; 276: 710-717

    P100 イエダニアレルギーのある六十二名に行った試験では、患者たちに緑

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    色のドリンクと抗ヒスタミン薬デスロラタジンの効果とを結びつけさせた。Vits, S. et al. Brain, Behavior & Immunity 2013; 29: S17

    P101 免疫細胞の数も抑えられていたのは、条件づけをした場合だけだった。Goebel, M.U. et al. Psychotherapy & Psychosomatics 2008; 77: 227-234

    P101 移植された腎臓十個のうち約一個が一年以内に失われている。それらの患者の半数が死亡、残り半数は透析療法に戻らなければならない。この統計値はオリバー・ウィツキーから聞いたもの。詳しい統計値は下記参照。http://srtr.transplant.hrsa.gov/annual_reports/2012/

    P101 「移植臓器を維持するためには、免疫系の機能を大きく低下させる必要があります」と彼は言う。2014年3月27日、エッセン大学でのオリバー・ウィツキーとのインタビュー。

    P103 ある実験では、条件づけだけを行い、実薬を投与しなかった二匹から、がんが消えていた。Ghanta, V.K. et al. Annals of the New York Academy of Sciences 1987; 496: 637-646Ghanta, V.K. et al. Annals of the New York Academy of Sciences 1988; 521: 29-42Ghanta, V.K. et al. Cancer Research 1990; 50: 4295-4299Ghanta, V.K. et al. International Journal of Neuroscience 1993; 71: 251-265

    P103 二〇一一年にアデルが亡くなる前に行った最後の試験のひとつは、乾癬患者を対象にしたものだったが、条件づけとコルチコステロイド軟膏の四分の一の量または半量を与えられた群は、全量与えられた対照群と同じ程度まで改善した。Ader, R. et al. Psychosomatic Medicine 2010; 72: 192-197

    P104 二〇〇七年、ADHD薬にかかった費用は米国だけで推定五十三億ドルDoering, B.K. & Rief, W. Trends in Pharmacological Sciences 2012; 33: 165-172

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    第4章

    P108 「重苦しい死の恐怖に襲われた」とハーベラーはのちに書いている。「今、酸素不足が命を奪う仕事を始めつつある」West, J.B. High Life: A History of High-Altitude Physiology and Medicine (1998), Oxford University Press, p. 281

    P108 「私は単なるひとつの、細く、喘ぎ続ける肺となり、霧と山頂の上を漂っていた」West, J.B. High Life: A History of High-Altitude Physiology and Medicine (1998), Oxford University Press, p. 282

    P108 エベレストを登る登山者を調査した二〇〇九年の研究では、頂上近くの八四〇〇メートルまで来ると、血中酸素濃度が通常レベルのたった四分の三まで急に下がった。Grocott, M.P.W. et al. New England Journal of Medicine 2009; 360: 140-149

    P109 めまいがするような七一〇〇メートルまでの高度で採取された血液サンプルでは、登山者の血中酸素濃度は海抜ゼロ地帯で記録されたものとまったく同じだった。もちろん、人が吸い込む空気の酸素濃度は上に登るにつれて低下するが、7,100mまでは─少なくとも経験を積み、慣れているこれらの登山家の場合─体が血中ヘモグロビン(酸素を運ぶ血色素)量を増加させることにより補うことができた。

    P109 そのような環境では、酸素が組織を通してうまく拡散しない可能性がある、と言うのは、ロンドン大学ユニバーシティ・カレッジの高度・宇宙・極限環境医学センター長であり、研究著者のダニエル・マーティンだ。2015年5月11日、ダニエル・マーティンとのメールによるインタビュー。

    P109 研究は次々と行われているのに、科学者たちはそのどちらも確認していない。

  • 15

    Noakes, T.D. Journal of Applied Physiology 2009; 106: 737-738

    P109 高地では、比較的軽いものでも運動すれば疲れるが、心臓にはまだ十分な余力がある。さらに、上へ登るにつれ、疲労時の血中乳酸濃度は、実際には低下するのだ。この分野では「ラクテートパラドクス」として知られている。その根拠については下記参照。West, J.B. Journal of Applied Physiology 2007; 102: 2398-2399Van Hall, G. Journal of Applied Physiology 2007; 102: 2399-2401West, J.B. Journal of Applied Physiology 2007; 102: 2401

    P111 「この気持ちを言葉で言い表すことはできません」彼は感激していた。「あんなシーンを見たことがありますか?」BBC London 2012ニュース。参照 http://www.bbc.co.uk/sport/0/olympics/18912882

    P111 「観衆が奮起させてくれたんです」と彼はのちに言っている。「彼らがいなかったら、あんなに踏ん張れなかったでしょう」BBC London 2012ニュース。参照 http://www.bbc.co.uk/sport/0/athletics/19230671

    P112 一九八〇年代、彼は南アフリカのラグビー選手に頸部損傷が多発していると暴露した。Nathan, M. et al. South African Medical Journal 1983; 64: 132-137Kew, T. et al. South African Medical Journal 1991; 80: 127-133Noakes, T. et al. British Medical Journal 1995; 310: 1345-1346

    P113 「年間売上が数十億ドルにも及ぶ米国スポーツドリンク業界との衝突から私が学んだことは、医学は業界の利益のためなら、簡単に屈してしまうということ。Noakes, T.D. South African Medical Journal 2012; 102: 430-432

    P113 「体を動かしていれば、必ず疲れるから、その理由を理解したくなる」と彼は私に言う。「すぐにわかったのは、それは学校で習うものとは違うということだ」

  • 16

    2014年4月22日、ティム・ノークスとのメールによるインタビュー。

    P114 サイクリストが疲れてくると、筋肉線維のスイッチが切られた。St Clair Gibson, A. et al. American Journal of Physiology. Regulatory, Integrative and Comparative Physiology 2001; 281: R187-R196Kay, D. et al. European Journal of Applied Physiology 2001; 84: 115-121ノークスのセントラルガバナーの根拠については下記参照。‘Running on Empty’ by Rick Lovett, New Scientist, 20 March 2004, pp. 42-45

    P115 彼らはこれを行う脳システムを「セントラルガバナー」と名づけた。Noakes, T.D. et al. The Journal of Experimental Biology 2001; 204: 3225-3234Noakes, T.D. Applied Physiology, Nutrition and Metabolism 2011; 36: 23-35

    P116 エベレストの研究者マーティンの意見は、人が高地に行くとすぐに疲れる原因は酸素不足ではなく、セントラルガバナーだというノークスの考えは「たぶん正しいのだろう」が、この仮説には「証拠による裏づけがない」というものだ。2015年5月18日、ダニエル・マーティンとのメールによるインタビュー。

    P116 アンフェタミン、モダフィニル、カフェインなど、多くの運動能力向上薬は、筋肉そのものではなく、中枢神経系に影響を及ぼすことによって作用する。Swart, J. et al. British Journal of Sports Medicine 2009; 43: 782-788

    P116 科学者たちも、電流で直接、脳を刺激することで、サイクリストの最大能力を高め、疲労感を減らした。Okano, A.H. et al. British Journal of Sports Medicine 2013; doi:10.1136/bjsports-2012-091658

    P116 アベリストウィス大学の心理学者クリス・ビーディは、選り抜きのサイクリストに成績向上薬だと信じ込ませた錠剤やドリンクを与えると、走りが平均二~三パーセント速くなることを発見した

  • 17

    Beedie, C.J. & Foad, A. Sports Medicine 2009; 39; 313-329

    P117 「脳には驚くべきことができるが、同時に人に制限をかける」2014年4月10日、ロンドンにて、クリス・ビーディとのインタビュー。

    P117 「プラセボには、セントラルガバナーにブレーキを緩めろと合図する働きがあるのかもしれない」Pollo, A. et al. European Journal of Neuroscience 2008; 28: 379-388

    P120 二〇〇五年の分析によれば、患者を最大五年間追跡した試験の結果、治癒率はたった五パーセントだ。Cairns, R. & Hotopf, M. Occupational Medicine 2005; 55: 20-31

    P121 慢性疲労症候群は、筋痛性脳脊髄炎あるいはMEとも呼ばれる(これが同じ病気だと認めない人もいる)。原因もわからず、決まった診断検査もないが、状況が変わる可能性あり。650近くの患者の血液を分析した2015年の研究で、3年未満罹患していた患者は、体に炎症を起こす化学物質の値が健康な人たちより高く、それより長く罹患していた患者は、値が正常より低かった。Hornig, M. et al. Science Advances 2015; 1: e1400121

    P121 線熱に罹った成人の約一二パーセントが六ヵ月後にCFSを発症する。White, P.D. et al. The British Journal of Psychiatry 1998; 173: 475-481

    P125 いくつかの小規模な臨床試験からわかるのは、サマンサが例外ではないことだ。試験の情報は下記を参照。Edmonds, M. et al. Cochrane Database of Systematic Reviews 2004; 3: CD003200Bagnall, A.-M. et al. ‘The Treatment and Management of Chronic Fatigue Syndrome (CFS)/Myalgic Encephalomyelitis (ME) in Adults and Children: Update of CRD Report 22’.参照サイトhttp://www.york.ac.uk/media/crd/crdreport35.pdfMalouff , J.M. et al. Clinical Psychology Review 2008; 28: 736-45Price, J.R. et al. Cochrane Database of Systematic Reviews 2008; 3:

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    CD001027

    P125 「イギリス内外のほとんどすべての患者支援団体が、試験を失敗として受け止めた」とホワイトが言う。2014年5月2日、ピーター・ホワイトとの電話インタビュー。

    P126 二〇一一年、研究者たちは医学誌『ランセット』に研究結果を発表した。APTにはまったく効果がなく、この群の患者に対照群との差は認められなかった。White, P.D. et al. The Lancet 2011; 377: 823-836

    P127 その医学誌はホワイトたちを支持する論説を載せ、「矛盾する考え方と治療法を無作為化臨床試験で調べた意欲は賞賛されるべきだ」と言い切った。The Lancet 2011; 377: 1808

    P127 二〇一四年六月、イギリス、サウスエンド大学病院エセックスCFS/ME部門のふたりの研究者が、「ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル」のウェブサイトに、CFSは「ミーム」の可能性があるという記事を掲載した。Collings, A.D. & Newton, D. Response to White, P.D. British Medical Journal 2004; 329: 928.参照 http://www.bmj.com/content/329/7472/928/rr/702549Blackmore, S.J. Response to White, P.D. British Medical Journal 2004; 329: 928.参照 http://www.bmj.com/content/329/7472/928/rr/759419

    P129 彼女は芸術家としても活躍している。サマンサのアートについてはこちらを参照。http://www.samantha-miller.co.uk/

    第5章

    P133 「多くの医師が患者に、すべてあなたの思い込みにすぎないと言う」2014年5月14~15日、マンチェスター、ウィゼンショー病院のピーター・ウ

  • 19

    ォーウェルとのインタビュー。

    P134 一七八四年、フランス王ルイ十六世が一流の科学者からなる委員会を招集し、メスメルの手法を評価させた。Herr, H.W. Urologic Oncology: Seminars and Original Investigations 2005; 23: 346-351

    P140 「こういうものだという判断がしづらく、何かと対比も比較もできない。ただ起きることに身を任せるだけ。経験しているものは、とても鮮明で現実のようだ。違和感も抱かず、時間の経過も感じない。心のジェットコースターみたいなもので、ただしがみつき、起こっていることを眺めているだけだ」2013年10月23日、パリ、キュリー研究所でのデビッド・スピーゲルとのインタビュー。

    P141 催眠術師が、腕が上がると暗示すると、腕が勝手に動いているように思える。催眠術のかかりやすさは人によって異なる。被催眠性の古典的な尺度は一連のテストを行い、判断するものであり、たとえば、腕がひとりでに上がるか、部屋にいる親友を見つけられるかどうかというものだ。一般的には80%の人が中程度、10%が非常にかかりやすく、10%はほとんどかからないといわれる(hypnosis.tools/measurement-of-hypnosis.html参照)。しかし、このテストのスコアは調査、対象となる人たちにより、わずかに異なる(Bongartz, W. International Journal of Clinical and Experimental Hypnosis 1985; 33: 131-139参照)。

    P142 スピーゲルが「信じれば、見えてくる」実験と呼ぶものだ。Kosslyn, S.M. et al. The American Journal of Psychiatry 2000; 157: 1279-1284

    P143 彼女の研究によれば、子どもたちは血流を思いどおりに操り、指先の温度を変えることができる。Dikel, W. & Olness, K. Pediatrics 1980; 66: 335-340

    P143 「子どもたちは、リラックス状態が起こす変化をはるかに越えたレベルまで、末梢体温を上げることができました」

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    2014年2月27日、カレン・オルネスとの電話インタビュー。

    P144 ある実験では、催眠術をかけた被験者たちに、腕から約二百五十ミリリットルの血液を採取していると伝えた。すると、彼らの血圧が下がり、血管が収縮した。それは実際に採血された第二群に起こった反応と同じだった。Casiglia, E. et al. American Journal of Clinical Hypnosis 1997; 40: 368-375

    P144 別の実験では、被験者たちに、温かい湯に浸かっていると伝えた。すると、まるで実際に湯に浸かっているかのように、全身の血管が拡張した。さらに、前腕を温水に入れていると伝えると、その前腕だけ血管が拡張した。Casiglia, E. et al. International Journal of Psychophysiology 2006; 62: 60-65

    P144 第三の実験で、カシグリアは被験者たちに、右手を氷水のバケツに入れるよう求めた。Casiglia, E. et al. American Journal of Clinical Hypnosis 2007; 49: 255-266

    P144 催眠術をかけられた被験者が、腸への血液供給を、求めに応じて増やすことができるという研究成果を最近得たと彼は言う。エドアルド・カシグリアとの2014年3月4日のメールによるインタビュー。

    P145 他のチームの臨床試験によれば、催眠術中にリラックスせよという暗示を与えると、たとえば、試験に臨む医学生たちのストレスや炎症抑制に関連する様々な免疫系に影響を与えることができる。Kiecolt-Glaser, J.K. et al. Journal of Consulting and Clinical Psychology 2001; 69: 674-682Naito, A. et al. Brain Research Bulletin 2003; 62: 241-253

    P145 いくつかの小規模な試験では、催眠療法は湿疹や乾癬などの自己免疫疾患を改善させることができ、上気道感染症の持続時間を短くし、イボの除去もできることを示唆している。上気道感染についてはこちらを参照。Hewson-Bower, B. & Drummond, P.D. Journal of Psychosomatic Research 2000; 51: 369-377 イボについてはこちらを参照。Spanos, N.P. et al. Psychosomatic Medicine 1990; 52: 109-114

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    しかし、結果ははっきりしたものではない。カレン・オルネスはイボのある61名の子どもに試験を行い、催眠療法、標準的な治療、治療なしの群に分けたところ、3つの群に著しい差はなかった。Felt, B.T. et al. American Journal of Clinical Hypnosis 1998; 41: 130-137

    P147 最初の論文を発表したのは一九八四年だ。無作為化臨床試験で、三十名が十二週間、消化管に焦点を絞った催眠療法あるいは心理療法(症状の原因かもしれないストレスと感情面の問題を話し合うもの)、どちらかのセッションを受けた。Whorwell, P.J. et al. The Lancet 1984; 324: 1232-1234

    P148 いくつもの試験と調査を経て、ウォーウェルが明らかにしたのは、どの治療も効かなかった患者の七〇~八〇パーセントに催眠療法が役立つことだ。Miller, V. & Whorwell, P.W. International Journal of Clinical and Experimental Hypnosis 2009; 57: 279-292

    P148 小規模な試験により、この治療法が機能性消化不良や非心臓性胸痛など、他の機能性胃腸疾患にも役立つことが示唆され、Calvert, E.L. et al. Gastroenterology 2002; 123: 1778-1785Miller, V. & Whorwell, P.W. International Journal of Clinical and Experimental Hypnosis 2009; 57: 279-292

    P148 免疫系が腸粘膜を攻撃するクローン病や潰瘍性大腸炎といった、さらに深刻な自己免疫疾患の患者にも役立つ可能性がある。Miller, V. & Whorwell, P.J. International Journal of Clinical and Experimental Hypnosis 2008; 56: 306-317Mawdsley, J.E. et al. The American Journal of Gastroenterology 2008; 103: 1460-1469Keefer, L. et al. Alimentary Pharmacological Therapy 2013; 38: 761-71

    P148 ウォーウェルが催眠療法に反応を示したIBS患者二百名以上を最大五年間追跡したところ、八一パーセントがよい状態でいたばかりか、そのほとんどの状態が改善し続けていた。Gonsalkorale, W.M. et al. Gut 2003; 52: 1623-1629

  • 22

    P149 ウォーウェルが治療後の患者を調べたところ、正常範囲に戻っていた。Lea, R. et al. Alimentary Pharmacology & Therapeutics 2003; 17: 635-642

    P149 胃の内容物を小腸に送る速度(リアルタイム超音波画像装置で測定)Chiarioni, G., Vantini, I., de Iorio, F. & Benini, L. Alimentary Pharmacology & Therapeutics 2006; 23: 1241-1249

    P149 結腸の収縮速度も操ることができる。Whorwell, P.J. et al. The Lancet 1992; 340: 69-72

    P152 世界中の医療チームが消化管に焦点を絞った催眠療法の無作為化比較試験を実施し、つねに劇的とはいえないまでも、よい結果を出し、Lindfors, P. et al. American Journal of Gastroenterology 2012; 107: 276-285Moser, G. et al. American Journal of Gastroenterology 2013; 108: 602-609

    P152 最近の系統的な再調査でも、この治療には効果があり、それが長く持続するという結果が出ている。Peters, S.L. et al. Alimentary Pharmacology & Therapeutics 2015; doi: 10.1111/apt.13202

    P153 NHSのウェブサイトには患者へのアドバイスとして、IBSへの催眠療法に関する調査研究では「効果に対する有力な証拠が出ていない」と書かれているのだ。参照 http://www.nhs.uk/conditions/hypnotherapy/Pages/Intro duction.aspx(2015年3月24日にアクセス)

    P154 「健康に問題があれば、知りたいのは、あらゆる選択肢の中でどれが最良の治療法かということでしょう。患者が関心を持つのはそれですよ」2015年4月20日、オックスフォード大学のジェレミー・ホーウィックとのインタビュー。

    P154 瞑想のような他のマインド・ボディ療法と比較しても、催眠術の研究に対する資金提供が非常に少なく、NIHのオンライン検索ツールprojectreporter.nih.govによると、NIHは現在、

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    タイトルに「催眠術」あるいは「催眠療法」がつく研究プロジェクト5件に資金提供している(「マインドフルネス」は35件)。

    P155 ウォーウェルはちょうど、消化管に焦点を絞った催眠療法で治療した別の千名の患者の調査を発表したところだ。Miller, V. et al. Alimentary Pharmacology & Therapeutics 2015; doi: 10.1111/apt.13145

    第6章

    P157 サム・ブラウン中尉は、二〇〇八年に初めて従軍し、アフガニスタンのカンダハールに配備された。任務最終日の日暮れ時、近くにいた小隊から連絡が入り、待ち伏せされたと言う。ブラウンは部下を率いて砂漠を抜け、救出に向かったが、途中で乗っていたハンビー(訳注/高機動多目的装輪車両)が、道端に仕掛けられていた爆弾に衝突した。サム・ブラウンの物語は、『GQ』誌2012年2月号にJay Kirk著「Burning Man」として記載された。http://www.gq.com/news-politics/newsmakers/201202/burning-man-sam-brown-jay-kirk-gq-february-2012

    P158 米国では毎年、推定七十万人が熱傷治療のために緊急治療室を訪れ、うちおよそ四万五千人が入院する。Hoff man, H.G. et al. Annals of Behavioral Medicine 2011; 41: 183-191

    P160 「現代の次々と明らかになる悲惨な出来事のひとつ」と表現されている。Pilkington, E. ‘Painkiller Addiction: The plague that is sweeping the US’, The Guardian, 28 November 2012. 参照 http://www.theguardian.com/society/2012/nov/28/painkiller-addiction-plague-united-states

    P160 世界人口の五パーセントに満たない米国人が、オピオイド処方薬の世界の供給量の八〇パーセントを消費している。The American Society of Interventional Pain Physicians (ASIPP) Fact Sheet.

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    参照 https://www.asipp.org/documents/ASIPPFactSheet101111.pdf

    P160 二〇一二年までに、処方薬の過剰摂取で毎年一万五千人のアメリカ人が死亡し、これはヘロインとコカインを合わせた死亡数より多い。‘Opioids Drive Continued Increase in Overdose Deaths’, CDC Press Release, 20 February 2013.参照 http://www.cdc.gov/media/releases/2013/p0220_drug_overdose_deaths.html‘Vital Signs: Overdoses of opioid prescription pain relievers -United States, 1999-2008’, Centers for Disease Control and Prevention Morbidity and Mortality Weekly Report 2011; 60: 1487-1492も参照。 http://www.cdc.gov/mmwr/preview/mmwrhtml/mm6043a4.htm

    P160 二〇一三年、米国疾病管理予防センター(CDC)は、鎮痛剤依存症のことを、米国史上最大の薬物汚染と呼んでいる。Ahmed, A. ‘Painkiller Addictions Worst Drug Epidemic in US History’, Al Jazeera America, 30 August 2013. 参照 http://america.aljazeera.com/articles/2013/8/29/painkiller-kill-morepeoplethanmarijuanause.html

    P162 二〇〇三年、人里離れたユタの渓谷で身動きできなくなり、五日後にポケットナイフで自分の前腕を切り落とす羽目になった人だ。‘Aron Ralston Shares His Incredible Story of Survival’ 参照 https://www.youtube.com/watch?v=83nk6zmu5_o

    P164 「最初の子どもには効果がありました」とホフマンは言う。そこで、熱傷患者専用の仮想世界の設計に取りかかった。2014年5月7日、ハンター・ホフマンとの電話インタビュー。

    P165 ラボでホフマンが教えてくれたのは、音楽が痛みのスコアを約五パーセント下げるのに対し、スノーワールドはつねに三五パーセント下げるということだ。さらに、鎮痛剤を併用した場合、薬のみの効果に加え、患者の痛みのスコアをさらに一五~四〇パーセント下げる。ワシントン大学病院サム・シャラルとの2014年5月8~9日のインタビューで聞いたデータ。Hoff man, H. et al. Annals of Behavioral Medicine 2011; 41: 183-191も参照。

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    P165 研究者によれば、その効果は主観的な痛みのスコアだけでなく、脳スキャンにも表れ、痛みに関連する脳の領域の活動がほとんど完全に消えていた。Hoff man, H. et al. Annals of Behavioral Medicine 2011; 41: 183-191にレビューがある。

    P165 ホフマンと同僚たちは、ブラウン中尉を含むBAMCの十二名の兵士を対象に臨床試験を行った。Maani, C.V. et al. Journal of Trauma and Acute Care Surgery 2011; 71: S125-130

    P166 セッションのあと、彼はホフマンに意見を述べた。「あなた方はいいところに目をつけたと思うよ」『GQ』誌2012年2月号Jay Kirk著「Burning Man」より引用。http://www.gq.com/news-politics/newsmakers/201202/burning-man-sam-brown-jay-kirk-gq-february-2012

    P170 「おそらく」と彼は書き残している。「痛みに苦しみ、もがくことで血液循環が促されるか、心身の苦悶が体に与える悪影響が大きくなっていたなら、出血多量で死んでいた可能性が極めて高い」エスデイルによるグーローチュアン・シャーの治療については下記参照。Hidden Depths: The Story of Hypnosis (2002) by Robin Waterfield, pp. 196-197.

    P170 パターソンによれば、彼が催眠術に興味を持ったのは、数ヵ月前にハーバービューの熱傷病棟で「人生を変えるような」経験をしたあとだった。ワシントン、シアトルでのデビッド・パターソンとの2014年5月10日のインタビュー。

    P173 研究の最終日、グラントは催眠術のセッションを受けなかった。すると痛みのスコアは百に戻った。実際、痛みに苦しむあまり、パターソンの質問票を書き終えることができなかったほどだ。Patterson, D.R. et al. The International Journal of Clinical & Experimental Hypnosis 2004; 52: 27-38

  • 26

    P173 骨折から銃創まで、激痛のある二十一名の患者を対象としたパイロット試験で、パターソンはVR催眠術群を、スノーワールドゲーム群と治療なしの群と比較した。Patterson, D.R. et al. The International Journal of Clinical & Experimental Hypnosis 2010; 58: 288-300

    P174 南オーストラリア大学の神経科学者ロリマー・モーズリーは、ラバーハンドイリュージョンが起こっているとき、見えていない本物の手の血管が収縮し、血流が減り、温度が下がっていることを、最近、発見している。見えない手のアレルギー反応も、免疫拒絶反応と同じようなメカニズムで高まるらしい。Barnsley, N. et al. Current Biology 2011; 21: R945-946

    P175 モーズリーは研究から、人は誰でも自分自身の「マインドマップ」─体の心的表象─を脳内に持っているという結論を出した。Moseley, G.L. Neuroscience & Biobehavioral Reviews 2012; 36: 34-46

    P176 「周辺部位はどこも非常に速く治癒するのに、中枢神経系は、通常なら痛みを起こすはずのないことに過度に敏感になります」2014年12月19日、キャンディ・マッケイブとの電話インタビュー。

    P176 マッケイブやモーズリーなど研究者たちが現在、研究しているのは、脳を騙して四肢が正常だと思わせることで、幻肢症候群、CRPS、脳卒中患者、変形性関節炎の痛みを軽くできないかというものだ。McCabe, C. Journal of Hand Therapy 2011; 24: 170-179Preston, C. & Newport, R. Rheumatology 2011; 50: 2314-2315

    P177 ミラーセラピーがプラセボより効果があると断言できるような、質の高い証拠は十分見つかっていないというのが最近の見方だ。Rothgangel, A.S. et al. International Journal of Rehabilitation Research 2011; 34: 1-13

    P177 催眠術や他の心理療法が抱える問題は、「それを推し進めようとする関連産業がないことです」というのが彼の意見だ。

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    2013年10月23日、パリ、キュリー研究所でのデビッド・スピーゲルとのインタビュー。

    第7章

    P183 イギリスでは、死産や出産直後の死亡率は約〇・七パーセントだ。‘Childhood, Infant and Perinatal Mortality in England and Wales’, Offi ce for National Statistics Bulletin 2012. 参照 http://www.ons.gov.uk/ons/dcp171778_350853.pdf

    P183 ある調査で出産から二日後の女性に質問したところ、九十一パーセントが麻酔剤を投与されていたにもかかわらず、半数近くが想像できる最悪の痛みだったと答えた。Waldenstrom, U. et al. Journal of Psychosomatic Obstetrics & Gynecology 1996; 17: 215-228

    P183 出産後の女性の三分の一近くが心に傷を負い、二~六パーセントが本格的な心的外傷後ストレス障害を発症する(リスクが高いため、器具による出産や緊急帝王切開術を経験した女性たち)。Olde, E. et al. Clinical Psychology Review 2006; 26: 1-16

    P183 英米など先進国では、出産の半分以上が「支援を受けた」もの、つまり、器具によって促されたか、手術によるものになっている。2013/14年度のイギリスにおける「支援を受けない出産」(誘発、帝王切開術、器具の使用、会陰切開術は行わないが、硬膜外麻酔などの鎮痛処置は含むもの)の割合は44.5%だった。http://www.birthchoiceuk.com/Professionals/index.html

    P184 二〇一二年、ホーネットは、十六ヵ国の一万五千名以上の妊婦を対象にした、二十二件の無作為化対照試験を分析した。すると、分娩中に一対一のサポートを継続的に受けた妊婦は、帝王切開術や器具の使用が必要になることが少なく、麻酔薬の使用も少なかった。Hodnett, E.D. et al. Cochrane Database of Systematic Reviews 2012; issue 10, article no. CD003766

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    P184 「私が知るかぎり、それこそ、帝王切開出産を避ける唯一の介入方法なんです」と彼女は言う。2014年3月10日、エレン・ホーネットとの電話インタビュー。

    P184 世界保健機関が二〇一〇年に出した警告によれば、帝王切開術の割合が非常に低ければ危険だが、不必要に高くても危険だ。Gibbons, L. et al. ‘The Global Numbers and Costs of Additionally Needed and Unnecessary Caesarean Sections Performed Per Year: Overuse as a barrier to universal coverage’, World Health Report 2010. Background Paper 30.参照 http://www.who.int/healthsystems/topics/financing/healthreport/30C-sectioncosts.pdf

    P185 イギリスでの帝王切開術の割合は二六パーセント。米国では三三パーセントだ。イギリスの統計値http://www.birthchoiceuk.com/Professionals/index.html米国の統計値http://www.cdc.gov/nchs/fastats/delivery.htm

    P185 ストレスや恐怖を感じると血流に放出されるホルモンには、特に分娩の初期に陣痛を弱くする働きがあるからだ。動物ではよく知られている。人間に関する研究は非常に少ない。下記参照。Lederman, R.P. American Journal of Obstetrics & Gynecology 1978; 132: 495-500Lederman, R.P. American Journal of Obstetrics & Gynecology 1985; 153: 870-877

    P185 米国とカナダの七千名の妊婦を対象にした研究では、持続的なケアを行っても、医学的介入の割合はまったく下がらなかった。Hodnett, E.D. et al. Journal of the American Medical Association 2002; 288: 1373-1381

    P186 二〇一一年に行われたある研究では、低リスクの妊婦六万五千名近くを追跡している。Brocklehurst, P. et al. British Medical Journal 2011; 343: d7400

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    P187 二〇〇九年の九千名近い妊婦を対象にした研究では、介入なしの出産は、病院出産の妊婦では五四パーセントであるのに対し、独立開業助産師グループの妊婦では七八パーセントであることがわかった。Symon, A. et al. British Medical Journal 2009; 338: b2060独立開業助産師グループが扱う新生児は死亡傾向が高いが、著者たちはその理由として、このグループには以前から問題や合併症のある著しく「ハイリスク」な妊婦が含まれていたからだという結論を出した。研究者たちがそうした症例を分析から排除したところ、両グループの死亡率は同じだった。

    P187 二〇一二年版コクランレビュー(医療従事者の判断基準となる分析)で自宅出産と病院出産を比較した執筆者たちは、病院での合併症発生率の高さを「忍耐力のなさと、多くの医療処置へのアクセスの容易さ」のためだとしている。Olsen, O. & Clausen, J.A. Cochrane Database of Systematic Reviews 2012, issue 9. Art. No. CD000352.

    P187 二〇一四年、NHSは新しい指針を公開し、そういう妊婦たちは産科病棟に入らない方がよく、助産師主導の出産センターあるいは自宅での出産を勧めるべきである、と明言している。‘New Advice Encourages More Home Births’, NHS Choices, 13 May 2014.参照 http://www.nhs.uk/news /2014/05 May/Pages/New-advice-encourages-more-home-births.aspx

    P188 二度目の出産の時、陣痛が始まったのは十月の深夜だった。パートナーと私は独立開業助産師たちを呼び、私は病院ではなく、我が家の居間に置いたゴムプールへ搬送された。息子が生まれたのは2012年10月18日の朝。助産師ジャッキー・トムキンスとエルケ・ヘッケルはLondon Birth Practice(www.londonbirthpractice.co.uk)所属。トムキンスは2013年からイギリス独立開業助産師団体(IMUK)の会長を務め、2014年には独立開業助産師の保険を確保した功績により、英国助産術ジャーナルの最優秀助産師賞を受賞した。

    P190 初産婦の病院出産では、自宅出産と比べ、赤ん坊が死亡したり、重度の障害を負ったりする確率がわずかに少ない(逆子あるいは双子など、ハイリ

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    スク妊娠の場合も同じだと言ってもいいだろう。ただ、こういった妊婦で自宅出産を試みる人は非常に少ないため、これについて調査した研究はまったくない)。私は初産で帝王切開術を受けていたため、二度目の妊娠は正式には「ハイリスク」だった。前回の手術の傷が出産中に割け、赤ん坊と私に重大な影響が及ぶ恐れがあったからだ。NHSガイドラインによれば、私は自宅出産を試みるべきではなかった。しかし、パートナーと私は子宮破裂の文献を調べ、私の症例ではリスクは非常に小さいという結論を出した。そして、地域の病院の助産師長の支援も受け、自宅で持続的なケアを受ける利益がリスクに勝ると考えた。

    P191 イギリスにおける助産師主導の出産センターの理念の一部だが、まだ持続的なケアを保証できる状態ではなく、対象も低リスク妊婦(全体のおよそ四五パーセント)‘NICE Confirms Midwife-led Care During Labour is Safest for Straightforward Pregnancies’, NICE Press Release, 3 December 2014. 下記も参照。https://www.nice.org.uk/news/press-and-media/midwife-care-during-labour-safest-women-straightforward-pregnancies

    P191 北米の十三の病院で七千名近くの妊婦を対象に行った臨床試験で、持続的なケアを提供したときは、どの時間帯にも勤務するスタッフ数を増やすことなく、ただ看護師と助産師の配置を変更しただけだった。Hodnett, E.D. et al. Journal of the American Medical Association 2002; 288: 1373-1381

    P192 妊産婦ケア(妊娠、分娩、新生児ケア)に対し、米国の病院が請求する平均治療費は、普通分娩の三万ドル前後に比べ、帝王切開術では五万ドル前後となる。‘The Cost of Having a Baby in the United States’, Truven Health Analytics Marketscan Study, January 2013.  http://transform.childbirthconnection.org/wp-content/uploads/2013/01/Cost-of-Having-a-Baby1.pdf

    P195 「求められているのは、患者を手術台に載せ、そこに留まらせ、すべきことを威厳を持って行うことです」

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    2014年4月24日、エルビラ・ラングとのスカイプによるインタビュー。

    P196 ラングは、マサチューセッツ州ボストンのハーバード大学医学部病院にいるとき、乳房生検や腎臓腫瘍など、侵襲的処置を受ける七百名以上の患者を対象に、無作為化対照試験を実施し、自分の治療法を試した。Lang, E.V. et al. The Lancet 2000; 355: 1486-1490Lang, E.V. et al. Pain 2006; 126: 155-164Lang, E.V. et al. Journal of Vascular and Interventional Radiology 2008; 19: 897-905

    P196 腎臓および血管の処置の臨床試験では、介入群の患者が必要とした薬の量は半分だった。さらに、その処置にかかった時間は平均十七分短く、病院にとって患者ひとり当たり三百三十八ドルの経費削減となった。Lang, E.V. & Rosen, M.P. Radiology 2002; 222: 375-382

    P196 その技術を自分で広めることにし、ハーバードを離れ、自分の会社を立ち上げ、医療チームを訓練している。ラングの会社はヒプナルジェシクス社という(www.hypnalgesics.com参照)。ラングはコンフォートトークに関する書籍も2冊書いている。医療専門家 向 け は、Patient Sedation Without Medication (2011)、 患 者 向 け は、Managing Your Medical Experience (2014)。

    P197 ラングの推定では、そのようにむだになったスキャンのコストは、全米で毎年、四億二千五百万~十四億ドルになる。Lang, E.V. Journal of Radiology Nursing 2012; 31:114-119

    P198 ラングはハーバードのプラセボ研究者テッド・カプチャクと協力し、手術を受けた患者百五十九名のビデオを分析し、十五分毎に痛みと不安のレベルを評価した。Lang, E.V. et al. Pain 2005; 114: 303-309

    P199 患者がひどく怯えている場合は、スタッフはある原稿を読み上げる。ただ話したり、安心させたりするより、患者が自分で対処できるようなツールを与えることの方が重要らしい。腫瘍を化学物質あるいは電流により破壊した患者201名を対象とした臨床試験で、ラングは対照群に、否定的な言葉を避

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    け、要望にすぐに応えるという「感情移入したケア」を与えた(Lang, E.V. et al. Journal of Vascular and Interventional Radiology 2008; 19: 897-905)。これらの患者は、標準的なケアを受けた患者より、かなり不安感が強くなった。より多くの薬を必要とし、多くの合併症(酸素レベルの低下や血圧の危険な上昇)が出たため、ラングは早期に研究を中止しなければならなかった(やはりリラクセーション用原稿を読み聞かされたコンフォートトーク群の患者は、標準的なケアの患者より結果がよかった)。ラングによれば、「感情移入したケア」群の看護師たちは、自分の闘病体験を話したり、患者の額を撫でたりして患者を慰めようとしたが、彼女はそれが患者の自分で対処しようとする試みを妨げたと考えている。意図的なものではなかったが、「病室にいた誰もが、突然、特別に親切になりたがりました」と彼女は言う。「でも、患者は独り静かにしていたいこともあったのです」

    P200 MRI検査、およそ一万四千件の調査からラングが明らかにしたのは、MRIチームにコンフォートトークの訓練をさせたことで、閉所恐怖症による中断率が四十パーセント近く低下したことだ(各スキャンの完了により、病院は七百五十~五千ドルの経費を削減できた。金額は保険業者と設備により異なる)。Lang, E.V. et al. Academic Radiology 2010; 17: 18-23

    P202 がん専門医ジェニファー・テメルが主導した研究の対象は、末期の肺がんと診断された直後の百五十名の患者だった。Temel, J.S. et al. The New England Journal of Medicine 2010; 363: 733-742

    P203 「がん専門医が四十分かけて、スキャン結果の説明を行い、そのあと、私が一時間、彼と話しました」2014年11月16日、ビッキー・ジャクソンとの電話インタビュー。

    P203 対照群の平均生存期間が八・九ヵ月だったのに対し、緩和ケア群では十一・六ヵ月だった。Temel, J.S. et al. The New England Journal of Medicine 2010; 363: 733-742

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    第8章

    P208 「人生で、自分はこのまま死ぬのかと感じた、数少ない瞬間のひとつだね」2013年4月23日、ロバート・クローナーとの電話インタビュー。

    P208 その災害前と当日に国中で報告された心臓死についてクローナーが調査したところ、隠れた犠牲者の一群が見つかった。Kloner, R.A. et al. Journal of the American College of Cardiology 1997; 30: 1174-1180

    P208 心臓死の急増は他の緊急事態でも見られてきた。Meisel, S.R. et al. The Lancet 1991; 338: 660-661Trichopoulos, D. et al. The Lancet 1983; 1: 441-444Suzuki, S. et al. The Lancet 1995; 345: 981

    P209 クローナーによれば、そうなる可能性が最も高いのはすでに心臓の弱っている人たちであり、「自分の身が危険にさらされている」と感じる、差し迫った状況でなければ起こらない。たとえば、クローナーは2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ事件後、ニューヨークの心臓死が増加していないか調査したが、まったく見つからなかった。その理由は、直接的な危険にさらされ、この状態になった人─あのふたつのビルにいた人たち─の大部分がビルの崩壊により死亡したからだと彼は指摘している。

    P214 イギリスの公務員数万人を追跡した試験─政府の建物が集まるロンドンの通りに因み、「ホワイトホール研究」と呼ばれる─で明らかになったのは、ストレスの強い仕事を持つ人は著しく短命で、死因のほとんどが心疾患であることだ。ホワイトホール研究の詳細については以下を参照。https://www.ucl.ac.uk/whitehallII

    P214 共産主義が破綻し、社会が崩壊した東欧では、心臓麻痺による死亡率が急増した。Bobak, M. & Marmot, M. British Medical Journal 1996; 312: 421-425

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    P215 これは、コルチゾールなどのストレスホルモンがもたらす結果だ。Dhabhar, F.S. et al. Psychoneuroendocrinology 2012; 37: 1345-1368

    P215 慢性的なストレスは、人のワクチンに対する反応を弱め、風邪からHIVにいたる感染症に罹りやすくしてしまうのだ。Glaser, R. & Kiecolt-Glaser, J.K. Nature Reviews Immunology 2005; 5: 243-251Cohen, S. et al. Journal of the American Medical Association 2007; 298: 1685-1687

    P215 あまりに長くストレスがかかりすぎると、オフスイッチが擦り切れ、もう体がコルチゾールに対して見せるべき反応を見せなくなる。Cohen, S. et al. Proceedings of the National Academy of Sciences 2012; 109: 5995-5999

    P216 研究者たちは、アルツハイマー病の身内の介護をする女性たち、試験に臨む歯科学生、口論したときの夫婦がこの状態になっていることを発見している。Christian, L.M. et al. Neuroimmunomodulation 2006; 13: 337-346Godbout, J.P. & Glaser, R. Journal of Neuroimmune Pharmacology 2006; 1: 421-427

    P216 欧米ではおよそ三分の一の人たちの炎症レベルが危険なほど高い状態になり、McDade, T.W. Proceedings of the National Academy of Sciences 2012; 109 supp 2: 17281-17288

    P216 科学者たちも、それが糖尿病、心疾患、関節炎、骨粗鬆症、痴呆症など、加齢に伴い人を苦しめるあらゆる慢性疾患の原因、あるいは一因であることに気づき始めている。Chung, H.Y. et al. Ageing Research 2009; 8: 18-30

    P216 数多くの疫学的調査から明らかになったのは、喫煙や飲酒という行動因子を制御しても、ストレスとなる日々の出来事によって特定のがんのリスク

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    を高まることだ(けれども、その影響を示さない調査もある。どんな関連性も、ストレスの種類、影響を受ける体の組織、腫瘍の成長段階によって変わるからだろう)。Chida, Y. et al. Nature Clinical Practice Oncology 2008; 5: 466-475Heikkila, K. et al. British Medical Journal 2013; 346: f165

    P216 ラボの実験から、少なくとも動物では、ストレスがDNA修復機構を妨げること、ナチュラルキラー細胞など、本来、腫瘍と闘う免疫反応の一部を抑えることがわかっている。Jenkins, F.J. et al. Journal of Applied Biobehavioral Research 2014; 19: 3-23

    P216 様々ながんのマウスにストレスを与えたり、ストレスホルモンのアドレナリンを注射したりすれば、その腫瘍はより速く成長し、広がっていくSloan, E.K. et al. Cancer Research 2010; 70: 7042-7052(乳がん)Lamkin, D.M. et al. Brain, Behavior & Immunity 2012; 26: 635-641(急性リンパ性白血病)Kim-Fuchs, C. et al. Brain, Behavior & Immunity 2014; 40: 40-47(膵臓がん)

    P217 現在、いくつかの研究グループが人間を対象に、よく似た薬─ベータ受容体遮断薬と呼ばれ、すでに医療現場で高血圧治療に幅広く使用されているもの─を使用し、同様な予防効果の有無を研究中)。Lemeshow, S. et al. Cancer Epidemiology, Biomarkers & Prevention 2011; 20: 2273-2279

    P217 二〇〇四年、カリフォルニア大学サンフランシスコ校のエリッサ・エペルとエリザベス・ブラックバーンは、染色体の末端にある反復するDNAモチーフへのストレスの影響を測定した。そのモチーフはテロメアと呼ばれ、老化プロセスで重要な役割を果たしている。テロメアの働きの解明により、ブラックバーンは、2009年ノーベル生理学・医学賞を共同受賞。

    P217 エペルとブラックバーンは母親たちを二群に分け、テロメアを研究した。片方の群は健康な子を持つ母親たち、もう片方の群はリサのように自閉症

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    などの慢性疾患の子を持つ母親たちだ。その結果、女性が感じるストレスが大きいほど、テロメアが短くなることが明らかになった。Epel, E.S. et al. Proceedings of the National Academy of Sciences 2004; 101: 17312-17315

    P218 その研究は、ストレス研究者ロバート・サポルスキーの言葉によれば、「学問分野の間にある大きな渓谷を飛び越え」、女性たちの複雑な人生と経験を、その細胞内にある分子と結びつけた。Sapolsky, R. Proceedings of the National Academy of Sciences 2004; 101: 17323-17324

    P218 高齢女性、アルツハイマー病患者の介護者、家庭内暴力やレイプ、幼児期トラウマの被害者、さらにはうつ病やPTSDなど精神疾患の人たちだ。レビューは、Lin, J. et al. Mutation Research 2012; 730: 85-89参照。ストレスがどのようにテロメアに影響を及ぼすかに関するヒントもある。実験室での研究によれば、ストレスホルモンのコルチゾールがテロメアの活動を損ない、炎症に関わる分子がテロメアを直接蝕んでいく。このプロセスは両方向から働くらしく、免疫細胞のテロメアが短くなりすぎると、炎症を促進する化学物質を排出する。Rodier, F. & Campisi, J. Journal of Cell Biology 2011; 192: 547-556参照。

    P218 「十年経った今では、環境がテロメアの長さに影響を与えることにまったく疑いを持っていません」と言うのは、メリーランド州ボルチモアのジョンズ・ホプキンス大学医学部で、テロメア障害を研究するメアリー・アルマニオスだ。テロメアについての説明は、以下の記事から引用。‘Can Meditation Really Slow Ageing?’ by Jo Marchant published by Mosaic, 1 July 2014より引用。参照 http://mosaicscience.com/story/can-meditation-really-slow-ageing

    P218 テロメアが短い人たちは、糖尿病、心疾患、アルツハイマー病、脳卒中など、ストレス性の病気に罹りやすく、早死にする。Cawthon, R.M. et al. The Lancet 2003; 361: 393-395

    P218 アルマニオスの研究対象である遺伝病患者では、テロメアが正常よりずっと短く、老化が速く、臓器不全が起こる。

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    Armanios, M. & Blackburn, E.H. Nature Reviews Genetics 2012; 13: 693-704

    P219 アルマニオスが研究する極端な症例ほどではなくても、テロメアを短くする遺伝子の突然変異も、将来、幅広い慢性疾患に罹るリスクを高める、と彼女は指摘する。Codd, V. et al. Nature Genetics 2013; 45: 422-427

    P219 肥満度指数や血糖値など、従来の危険因子を考慮してもなお、変わりやすいテロメアの長さを見れば、ストレスが起こすテロメアの変化と同様、将来の健康を予測できるようだ。Epel, E.S. et al. Aging 2009; 1: 81-88Zhao, J. et al. Diabetes 2014; 63: 354-362

    P220 長さがたった三百マイル、幅二十五マイルのブラックベルトに、米国の貧困層のおよそ三分の一が暮らしている。目立つのは、標準以下の住宅、学校、交通機関で、もちろん、犯罪の多さと失業率の高さなど、アフリカ系米国人住民が影響を受けやすい、ありとあらゆる問題も目立つ。「貧困」は連邦政府により定義されている。たとえば、2014年の4人家族(子ども2人)の場合、年収が$24,008未満とされていた。ブラックベルトの各郡にある地域共同体が直面している経済問題については、Brody, G.H., Kogan, S.M. & Grange, C.M. (2012)参照。‘Translating Longitudinal, Developmental Research with Rural African American Families into Prevention Programs for Rural African American Youth’. In V. Maholmes & R.B. King (eds), Oxford Handbook of Poverty and Child Development. London: Oxford University Press.

    P220 ミレッジビルのような貧困層が多い地域では、人口全体の健康が損なわれているのだ。2015年1月8日、ジーン・ブロディとの電話インタビュー、および2014年2月4日のアトランタ、エモリー大学でのインタビュー。

    P222 若者の飲酒問題(および、その結果である学校中退、不品行、危険なセックス)の発生年齢は都会より田舎の方が低く、田舎の十代の黒人たちの飲酒量は都会の若者と同程度、あるいはそれ以上になっている。

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    Brody, G.H., Kogan, S.M. & Grange, C.M. (2012). ‘Translating Longitudinal, Developmental Research with Rural African American Families into Prevention Programs for Rural African American Youth’. In V. Maholmes & R.B. King (eds), Oxford Handbook of Poverty and Child Development. London: Oxford University Press

    P223 低所得家庭の子どもたちは、低体重、早産で生まれ、分娩直後に死亡することも少なくない。さらに成長するにつれ、肥満、インスリン抵抗性、喘息など、健康の問題が増えていく。人生の後半に入れば、脳卒中、心臓血管疾患、慢性肺疾患、なんらかのがんに罹ったり、死亡したりする傾向が強い。Miller, G.E. et al. Psychological Bulletin 2011; 137: 959-997

    P223 健康問題における貧富の差は国によって異なるが、概して、その国における経済的不平等のレベルと相関関係がある。参照 http://www.ted.com/talks/richard_wilkinson?language=en

    P223 「国内にも、国家間にも、男女間にも、どの民族内にも見られるものであり、妊娠がわかった時点から、痴呆症や脳卒中になるまで、人生のあらゆる段階に存在します」グレッグ・ミラーとの2014年12月4日の電話インタビュー。この研究は次の著書にまとめられている。Marmot, M. The Status Syndrome: How Social Standing Affects Our Health and Longevity (2005), Holt Paperbacks.

    P224 「しかし、その外見の中にある体の状態を覗いてみれば、まったく違うものが見えます」血圧が高めで、循環するストレスホルモン値と炎症レベルも高くなっている。Miller, G.E. et al. Proceedings of the National Academy of Sciences 2009; 106: 14716-14721

    P225 デンマークの養子一万二千名以上を追跡した研究では、四十代での死亡率は、実父の社会階級によって決まることが明らかになった。Osler, M. et al. International Journal of Epidemiology 2006; 35: 1272-1277

    P225 別の研究は、ジョンズ・ホプキンス大学の医学生を四十年間追跡した。

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    教養のある裕福な医師たちの中で、貧困家庭で育った人たちが五十歳までに心疾患にかかる割合は、他の人たちの二倍以上だった。Kittleson, M.M. et al. Archives of Internal Medicine 2006; 166: 2356-2361

    P225 高校を中退したり、虐待関係にあったりする人たちのテロメアは短く、さらに、社会経済的地位の低さ、交替勤務、危険な地域、環境汚染と、短いテロメアとの因果関係も研究により明らかになってきた。Lin, J. et al. Mutation Research 2012; 730: 85-89

    P225 アフリカ系米国人の場合は、人種差別体験が、短いテロメアなど、様々なストレスバイオマーカーと結びついている。Szanton, S.L. et al. International Journal of Behavioral Medicine 2012; 19: 489-495Chae, D.H. et al. American Journal of Preventive Medicine 2014; 46: 103-111Brody, G.H. et al. Child Development 2014; 85: 989-1002

    P225 二〇一二年、エリザベス・ブラックバーンとエリッサ・エペルは『ネイチャー』に投稿し、政治家たちに、「社会的ストレスの削減」を進めるよう呼びかけた。Blackburn, E.H. & Epel, E.S. Nature 2012; 490: 169-171

    P226 「それを無視し、一時しのぎをするだけで先送りしていては、予防などできず、ただ治療に失敗するだけです」この文と次の段落の文は、‘Can Meditation Really Slow Ageing?’ by Jo Marchant published by Mosaic, 1 July 2014より引用。参照サイトhttp://mosaicscience.com/story/can-meditation-really-slow-ageing(子供時代の環境とストレスの関係はこの記事から引用)

    P226 エペルによれば、『ネイチャー』の記事への反応はほとんどなかった。「かなり強い意見だったので、批判されるか、支持されるかのどちらかだろうと考えていました」と彼女は言う。「どちらでもいいから、反応が欲しかったのに!」2014年2月24日、エリッサ・エペルとの電話インタビュー。

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    P227 山を下りるにはそこを通るしかないとき、スキーヤーの心拍数は上がり、体が滑降に備える。けれども感じるものが恐怖心なのか、高揚感なのかは、熟練度と自分の技能に対する自信によって決まる。この考え方(スキーヤーの例を含む)の詳細については下記参照。Jamieson, J.P. et al. Current Directions in Psychological Science 2013; 22: 51-56.

    P227 この対照的な精神状態はどちらも闘争・逃走反応が形を変えたものであるが、体に対する物理的な影響はまったく違う、とメンデスは言う。2014年9月17日、ウェンディ・メンデスとの電話インタビュー。

    P229 プラセボ群(ストレスの原因は気にしないようにという助言を受けた)と、まったく助言を受けていない群と比較すると、このことを知っているだけで、血管拡張、心拍出量の増加といった挑戦的な反応をより強く見せることがわかった。Jamieson, J.P. et al. Current Directions in Psychological Science 2013; 22: 51-56

    P230 ストレスを前向きに解釈するように言われた彼らは、対照群と比較すると、前回の研究と同様、生理学的なメリットを示した。しかも、彼らは試験の得点も高かった─その偽の試験だけでなく、三ヵ月後に受験した本物のGREでもそうだった。Jamieson, J.P. et al. Journal of Experimental Social Psychology 2010; 46: 208-212

    P232 ある重要な実験で、心理学者たちが、ミズーリ州セントルイスのある高校の生徒たちに短い映画を見せた。内容は、買い物客を見ている店員など、当たり障りのないもので、生徒たちは各シーンに自分がいると想像するよう求められた。ほとんどの生徒は悪い想像はしなかったが、恵まれない生い立ちの生徒たち (人種による調整済み)は、万引きしたと責められている場面など、各シーンを威圧的なものと解釈し、心拍数が上がり、それに合わせて血圧も上がった。Chen, E. et al. Child Development 2004; 75: 1039-1052

    P232 ノースウェスタン大学のグレッグ・ミラーは、貧しい家庭と裕福な家

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    庭に育った大人たちにこのビデオを見せた実験で、同じ結果を得ている。Miller, G.E. et al. Psychological Bulletin 2011; 137: 959-997

    P232 ロックフェラー大学のブルース・マキューエンなど、神経科学者がその原因を解明した。動物実験だけでなく、慢性的にストレスにさらされている人の場合も、扁桃体が繰り返し活性化されれば、時間の経過と共に肥大し、神経結合が強くなり、一方で海馬と前頭前皮質は萎縮する。McEwen, B.S. & Gianaros, P.J. Annals of the New York Academy of Sciences 2010; 1186: 190-222McEwen, B.S. & Morrison, J.H. Neuron 2013; 79: 16-29

    P232 ニューヨークの九・一一テロ攻撃から三年後に行われた研究で、崩壊したビルの近くで暮らしていた、それまで健康に問題のなかった大人たちの脳を調べたところ、その領域の灰白質が萎縮していたことがわかった。Ganzel, B.L. et al. NeuroImage 2008; 40: 788-795

    P233 多くの国々で、貧困層に育った人たちは、過度に喫煙、飲酒し、運動しない傾向がある。不健康な食事をし、女性たちは肥満傾向が強い。Miller, G.E. et al. Psychological Bulletin 2011; 137: 959-997

    P234 社会経済的に低い環境にいた人は、現在の生活環境はどうあれ、のちに大きな報酬を手に入れるより、即座に小さな報酬をもらうことを好む傾向がある。Sweitzer, M.M. et al. Nicotine & Tobacco Research 2008; 10: 1571-1575

    P234 二〇一一年に行われた脳画像研究で、七十六名の成人を対象に現金を賭けたゲームをさせた。Gianaros, P.J. et al. Cerebral Cortex 2011; 21: 896-910

    第9章

    P236 朝七時、私はカリフォルニア州サンタモニカのビーチを歩いている。本章で紹介した、私がビーチでの瞑想に参加した時の模様は、私の記事‘Can Meditation Really Slow Ageing?’ by Jo Marchant published by Mosaic, 1

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    July 2014より引用。参照 http://mosaicscience.com/story/can-meditation-really-slow-ageing

    P239 「ほとんどの人たちは、一瞬、一瞬に気を取られ、自分がどこにいるのか、何をしているのかということなど意識していません」と彼は言う。「たいてい、次にすることを考えているか、起こったことを再現しています」2009年2月9日、マーク・ウィリアムズとの電話インタビュー。2015年4月にメールで確認。

    P240 パニョーニが発見したのは、瞑想家はこのネットワークの活動を抑制できること、そして、瞑想経験のない対照群と比較すると、彼らは取り乱しても、素早く平常心を取り戻すことができることだった。Pagnoni, G. et al. PLoS One 2008; 3: e3083

    P244 「将来の夢をすべて、突然、奪われて」と彼は言う。「どうすればいいのかわからなかった。僕にとっては、本当に不幸な時期でした」http://www.everyday-mindfulness.org/gareths-video-testimonial/のガレス・ウォーカーのビデオより引用(2015年4月2日にアクセス)。それ以外のガレス・ウォーカーの言葉はすべて、2015年1月23日、バーンズリーでのインタビューより引用。

    P246 「他にできることがなかったので、医師たちは患者を送ってきた。痛みが和らいだ人たちがいた。安らかに亡くなった人たちもいたね」2013年11月22日、サンタモニカでのトゥルーディ・グッドマンとのインタビュー。

    P247 米国の国立衛生研究所(NIH)によれば、今では米国人成人のおよそ十人にひとりが瞑想している。National Health Statistics Reports, no. 79, 10 February 2015.参照 http://www.cdc.gov/nchs/data/nhsr/nhsr079.pdf

    P247 『マインドフル』という月刊専門誌も出版され、マインドフルネス用アプリも何百とある。アマゾンで「マインドフルネス」を検索すれば、魂の旅からストレス軽減法、子ども向けエクササイズまで、一万九千件近い本とDVDが表示される。セッションや講演は、シリコンバレーから連邦議会まで、あり

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    とあらゆる場所で行われている。Pickert, K. ‘The Mindful Revolution’, TIME magazine, 23 January 2014.参照 http://time.com/1556/the-mindful-revolution/

    P247 系統的レビューとメタ分析は相次いで、MB