1 はじめに -...

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1

【サイトトップ】>【資料】>【化学物質のリスクアセスメント】

2016 年 12 月 04 日

厚生労働省の職場のあんぜんサイトの簡易なリスクアセスメント = いわゆる“コントロールバンディング”を用いる =

元・厚労省化学物質対策課 化学物質国際動向分析官

柳川 行雄

内容 1 はじめに ...................................................................................................... 2 2 厚労省方式コントロールバンディングの理論 ............................................. 2 (1)概要 ...................................................................................................... 2 ア 作成の経緯と特徴 ................................................................................ 2 イ 主な対象となる事業者の業種・規模 .................................................... 3 ウ 対象となる物質の種類や作業等 ........................................................... 4

(2)どのようにリスクを判定しているか .................................................... 4 イ 入力項目 ............................................................................................... 4 ウ リスクの判定 ....................................................................................... 5 (ア)通常版 ............................................................................................... 6 (イ)粉じん作業版 .................................................................................. 11

(3)結果の出力 ......................................................................................... 14 ア 対策シートの概要 .............................................................................. 14 イ その他 ................................................................................................ 15

3 使い方(マニュアル) .............................................................................. 16 (1)通常版 ................................................................................................ 16 (2)粉じん作業版 ..................................................................................... 20 (3)その他(注意事項) ........................................................................... 22

2

1 はじめに 本サイトでは、有害性(吸入ばく露による慢性中毒)のリスクアセスメントの

ツールとして、これまでに、ボックスモデル、ECETOC の TRA、BAuA の EMKG Expo Tool の3つを紹介している。厚生労働省の簡易なリスクアセスメントツー

ル1)(厚労省方式コントロールバンディング)を紹介していないのはなぜかと不

思議がられたこともあるが、とくに深い理由があったわけではない。 たんに、このツールについての使い方のマニュアルは、他の多くのサイトに紹

介されているため、あえて当サイトで取り上げる必要性を感じなかったこと等

である。また、このツールは、たんにこれを用いてリスクアセスメントを行うだ

けなら、あまり難しいものではなく、解説が必要とも思えなかった。 しかしながら、一定の要望もあるようなので、稿を起こすこととした。 しかしながらたんなる使い方のマニュアルだけなら、他のサイトと変わらな

いので、本稿では、そのリスクアセスメントの考え方の解説をメインとし、使い

方については従とした。 2 厚労省方式コントロールバンディングの理論 (1)概要 ア 作成の経緯と特徴 厚労省方式コントロールバンディングは、英国安全衛生庁(HSE)が開発し

た COSHH Essentials を、国際労働機構(ILO)が改良して Chemical Control Toolkitの名称で公開していたものを、ILO の許可を得て我が国の厚生労働省がさらに

日本向けに改良したものである。 先述したように、化学物質の有害性のうち慢性毒性についてのリスクアセス

1 厚労省が WEB サイトに公開している簡易なリスクアセスメントツールは、最近は、た

んに「コントロールバンディング」と呼ばれることが多い。しかし、私個人はこのツー

ルを「コントロールバンディング」と呼ぶことに違和感を持っている。そのことについ

ては、本サイトの「簡易なリスクアセスメントツールのメリットとデメリット」の中の

コラム「コントロールバンディングという用語について」を参照して頂きたい。しか

し、この用語が定着していることから、本稿では「厚労省方式コントロールバンディン

グ」と呼ぶことにする。

3

メントを行うためのツールである。このツールは、吸入ばく露のみならず、経皮

ばく露についてもリスクアセスメントを行うことが可能である。 ただし、経皮ばく露については、ハザードをそのままリスクとして判断する仕

組みとなっており、厳密な意味でリスクアセスメントを行っているわけではな

い。そのため、経皮ばく露については、ハザードがあれば(経皮毒性のある物質

を使用していれば)常にリスクがあると判断されることとなる。 もっとも、経皮毒性のある物質を用いるのであれば、いずれにせよ適切な対策

は採るべきであるから、そのことがとくに問題となるわけではない。 イ 主な対象となる事業者の業種・規模 このツールは、本来は、化学物質のリスクアセスメントについての専門家がお

らず、リスクアセスメントのためのコストを十分にかけることのできない中小

企業向けに開発されたものである。そのため、特別な知識がなくてもリスクアセ

スメントができるようになっている。 また、リスクアセスメントの結果も、どのような対策をとればよいかが記載さ

れた“対策シート”が出力される。このため、実施者がリスクアセスメントの結

果に従って対策を行うときは、それに従えばよいので、何かの判断をする必要も

ないのである。 しかし、簡易な方式なので、それほど精度があるわけではない。そのため、対

策シートに記載されている内容は、実際に必要なレベルよりも過度なものとな

っている。また、製造業などと化学物質を取扱う態様が大きく異なっている物流

業界のほか、研究機関や教育機関などでも、化学物質のリスクアセスメントの主

要な方法として使用できるようなものではない。 我が国では、労働安全衛生法改正直後の一時期に、大企業や研究機関の一部が、

このツールを化学物質のリスクアセスメント実施の主要な方法として採用しよ

うとするケースもみられたが、さすがに最近ではそのようなことはなくなって

いるようだ。 もちろん、製造業の中小規模の事業場におけるリスクアセスメントツールと

しては、事業者がその結果に従った対策をとるのであれば、大きな効果が期待で

きるものである。また、リスクのスクリーニングや、事前の簡易な調査としての

用途であれば、大企業や研究機関、教育機関などでも、一定の効果が期待できる

ツールである。そのようなこのツールの特性を理解した上で、効果的な活用を図

って頂きたいと思う。

4

ウ 対象となる物質の種類や作業等 厚生労働省コントロールバンディングが対象としているものは、液体と粉体

である。ガス体に実施することはできない。ただ、ガスが、長期間に渡って一定

の濃度で作業空間中に存在するというようなケースは、あまり多くはないだろ

うから、ガス体についての慢性毒性のリスクアセスメントの需要はそれほど多

くはないように思える。 また、オリジナルの COSHH Essentials や Chemical Control Toolkit は、研磨作

業などによって粉じんが発生する場合などには対応していない。このため、厚労

省方式コントロールバンディングについても、従来から公開されていた版(以下

たんに「通常版」という。)では、粉じん則別表第1の粉じん作業のリスクアセ

スメントには対応していなかったのである。 そのため、厚生労働省では、「鉱物性粉じん、金属粉じん等の生ずる作業」を

対象としたツールを新たに開発して、2016 年度から公開している。 ただし、ナノマテリアルについては、現時点では、厚労省方式コントロールバ

ンディングは対応していないことに留意して頂きたい。 (2)どのようにリスクを判定しているか イ 入力項目 厚生労働省コントロールバンディングの入力項目は以下の通りである。これ

を見ても分かるように、入力項目の数はわずかなものである。 【厚労省方式コントロールバンディングの入力項目】 Ⅰ 通常版 ① タイトル ② 担当者名 ③ 作業場所 ④ 作業内容(※)選択入力 ⑤ 作業者数(※)選択入力 ⑥ 液体・粉体の別(※)選択入力 ⑦ 化学物質数(※) ⑧ 政令番号又は化学物質名(※)選択入力可能

5

⑨ GHS 分類区分(※)選択入力(自動入力可能) (⑩以降は、液体の場合と粉体の場合で異なる。) 【液体の場合】 ⑩ 沸点(※) ⑪ 取扱温度(※) ⑫ 取扱量単位(※)選択入力 【粉体の場合】 ⑩ 物理的形状(※)選択入力 ⑪ 取扱量単位(※)選択入力 Ⅱ 粉じん作業版 ① タイトル ② 担当者名 ③ 作業場所 ④ 作業の種類(※)選択入力 ⑤ 作業環境(※)選択入力 (⑥以降は、鉱物性粉じんの場合と金属その他の粉じん・ヒューム等の場合

で異なる。) 【鉱物性粉じんの場合】 ⑥ 遊離けい酸含有率(※)選択入力 ⑦ 岩石の種類(※)選択入力 【金属その他の粉じん・ヒューム等の場合】 ⑥ 政令番号又は化学物質名(※)選択入力可能 ⑦ GHS 分類区分(※)選択入力(自動入力可能) ⑧ 許容濃度(※)選択入力

注 (※)は必須入力項目 これらのわずかな項目からリスクを判定するのであるから、簡易な方式であ

るということはここからも分かる。 なお、“作業者数”はリスクの判定には使用していない。少人数では対策をと

る必要はないが、多人数なら対策をとらなければならないなどということはな

いのである。そのため、作業者数が増えるとリスクが増えるなどということはな

いので、誤解しないようにして頂きたい。 ウ リスクの判定

6

(ア)通常版 まず、Ⅰの通常版がリスクを判定する仕組みについて、解説する。ごく簡単に

言えば、物質の有害性を A から E の5つのバンドに分類し、次にばく露レベル

を推定する。そして、有害性のバンドとばく露レベルからリスクを判定するので

ある。 ① 有害性分類の決定(管理の目標濃度の決定) まず、GHS の危険有害性クラスと分類区分から、表2-1に従って、有害性

分類(バンド)を判定する。これが、通常のリスクアセスメントにいう“結果の

重大性”に該当するものといってよい。 表2-1:GHS 危険有害性クラス=有害性分類 評価基準 有害性分類

(バンド) GHSの危険有害性クラス GHSの 分類区分

管理の目標濃度 [ ppm ]

急性毒性 (経口/経皮/吸入) 5

>50~500

吸引性呼吸器有害性 1,2 皮膚腐食性/刺激性 2,3 眼に対する重篤な損傷性 /眼刺激性 1,2A,2B

特定標的毒性 (単回ばく露):麻酔作用 3

その他で分類されないものすべて

B 急性毒性(経口/経皮/吸入) 4

>5~50 特定標的臓器毒性(単回ばく露) 2

急性毒性(経口/経皮) 3

>0.5~5

皮膚腐食性/刺激性 1A,1B,1C 皮膚感作性 1,1A,1B 眼に対する重篤な損傷性/眼刺激性 1 急性毒性(吸入) 3

特定標的毒性 (単回ばく露):気道刺激性 3

特定標的毒性(単回ばく露) 1 特定標的毒性(反復ばく露) 2

7

急性毒性(経口/経皮) 1,2

>0.5

皮膚腐食性/刺激性 1,2 発がん性 2

生殖毒性 1A,1B, 2,追加区分

特定標的毒性(反復ばく露) 1

E 呼吸器感作性 1,1A,1B

専門家による判断 生殖細胞変異原性 1A,1B,2

発がん性 1A,1B

なお、この表は、英国 HSE が開発した COSHH Essentials の有害性分類の考え

方の基礎となっているものと同じものである。化学物質を、GHS の分類区分を

用いて、有害性について5つのグループ(バンド)に分けるわけである。 なお、発がん性などの GHS 分類区分は、疾病という結果の重篤度や発がん性

の強さによるのではなく、証拠の確からしさによって区分しているので、有害性

分類も、厳密にはリスクアセスメントにいう“結果の重大性”とは、やや趣を異

にするものとなっている。 そして、それぞれのバンドには、ばく露限界値に相当する濃度の範囲が、設定

されている。 具体的なイメージを持っていただくために、例としてトルエンの場合を例に

とってみよう。 トルエンの GHS の危険有害性クラスと分類区分は、表2-2の左欄及び中欄

のようになっている。 表2-2:トルエンの GHS の有害性クラス及び分類区分による有害性分類

GHS の危険有害性クラス GHS の分類区分 有害性分類 (バンド)

急性毒性(吸入:蒸気) 区分 4 B 皮膚腐食性/刺激性 区分 2 A 眼に対する重篤な損傷/眼刺激性 区分 2B A 生殖毒性 区分 1A D

追加区分:授乳に対する又は授

乳を介した影響 D

特定標的臓器毒性(単回ばく露) 区分 1(中枢神経系) C

8

区分 3(気道刺激性、麻酔作用) A 特定標的臓器毒性(反復ばく露) 区分 1(中枢神経系、腎臓) D 吸引性呼吸器有害性 区分 1 A

これらの有害性クラスの分類区分に対して、それぞれ有害性バンドを表2-

1から判定すると、表2-2の右欄のようになる。このうち、最も有害性の高い

バンドである D 判定をトルエンの有害性バンドであると判断するのである。 なお、物質数が複数ある場合には、それらの物質のうち、最も有害性の高いバ

ンドを採用する。 なお、実際に、この表2-2と2-1によって求めた管理の目標濃度は、許容

濃度や TLV-TWA などの職業暴露限界2)よりもかなり低くなる傾向がある。 ② ばく露濃度の推定 次に、労働者のばく露濃度の推定を行う。ただし、この推定はあくまでも概念

的なものと考えて頂きたい。実際に数値として濃度を出力するわけではない。実

際には飛散性のレベルを推定するのみである。 そして、飛散性のレベルと取扱量単位、有害性分類(バンド)から、リスクレ

ベルを判定するのである。このツールの開発を行ったときは、飛散性のレベルと

取扱量単位からばく露濃度を推定し、推定されたばく露濃度に応じてリスクの

判定を行うための基準(表2-4)を定めているのだが、その根拠は公開されて

いない。 なお、飛散性のレベルの決め方は液体の場合と粉体の場合で異なっているの

で、以下にそれぞれについて分けて解説する。 〇 飛散性の分類 ・ 液体の場合 液体の場合、まず、沸点と取扱温度(プロセス温度)から、図2-13)を用い

2 日本作業衛生学会の許容濃度、ACGIH の TLV-TWA など。 3 この図は中央労働災害防止協会のパンフレット「健康障害防止のための化学物質リスク

アセスメントのすすめ方」(2009 年3月)から引用しているが、厚生労働省方式コント

9

て、揮発性を「低」「中」「高」に分類する。

図2-1 揮発性判定図 ・ 粉じんの場合 固体の場合は、表2-3によって、飛散性を大、中、小に分類する。 表2-3:固体の飛散性の分類 飛散性 微細な軽い粉体(例:セメント、カーボンブラックなど) 大 結晶状・顆粒状(例:衣類用洗剤など) 中 壊れないペレット(例:錠剤など) 小

③ リスクの判定 そして、リスクは、表2-4を用いて、求められた有害性分類(バンド)、求

められた揮発性・飛散性 及び 取扱量単位によって判定している。

ロールバンディングで使用しているものと同じものである。

10

表2-4:リスク判定図

取扱量単位 低揮発性・ 低飛散性

中揮発性 (液体)

中飛散性 (粉体)

高揮発性・ 高飛散性

有害性分類(バンド) A 大量(ton、kℓ) 1 1 2 2 中量(kg、ℓ) 1 1 1 2 少量(g、ℓ) 1 1 1 1

有害性分類(バンド) B 大量(ton、kℓ) 1 2 3 3 中量(kg、ℓ) 1 2 2 2 少量(g、ℓ) 1 1 1 1

有害性分類(バンド) C 大量(ton、kℓ) 2 4 4 4 中量(kg、ℓ) 2 3 3 3 少量(g、ℓ) 1 2 1 2

有害性分類(バンド) D 大量(ton、kℓ) 3 4 4 4 中量(kg、ℓ) 3 4 4 4 少量(g、ℓ) 2 3 2 3

有害性分類(バンド) E 全ての使用量 4 4 4 4

また、併せて表2-5によって、GHS 分類区分から「S 評価」を行う。S 評

価とは、“経皮ばく露リスクがある”というリスク評価である 表2-5:S 評価をする GHS 分類区分 急性毒性(経皮、蒸気、気体、粉じん、ミスト) 区分 1~4 呼吸器感作性 区分 1 皮膚腐食性・刺激性、皮膚感作性 区分 1,2 特定標的毒性(皮膚) 区分 1,2

そして、厚労省方式コントロールバンディングでは、実施者が入力した“作業

内容”ごとに、判定されたリスクレベルに応じて対策シートを選定して出力する

仕組みになっている。また、S 評価が出ていれば、併せて「皮膚や眼に有害な化

学物質に対する労働衛生保護具」と「呼吸用保護具の選び方と使い方」のシート

も出力される。

11

(イ)粉じん作業版 先述したように、厚労省方式コントロールバンディングの通常版は、研磨作業

などの粉じん作業には対応していなかった。そのため、厚生労働省で独自に粉じ

ん作業版を作成して 2016 年度に公開している。これは、見た目は従来版と似て

いるが、リスクを判断する仕組みはかなり異なっており、我が国のオリジナリテ

ィの高いツールである。 このツールは、粉じん則の対象となる作業を念頭においているため、その中に

は作業環境測定の義務のあるものもある。しかし、それらは作業環境測定結果の

管理区分に応じた対策をとればよい。従って、このツールは、作業環境測定測定

の義務のないものについてリスクの判定を行うという発想で作られている。 具体的な作業の種類は、選択入力によって選べるようになっているが、①研

磨・ばり取り、②加工(機械的切断など)、③掻き落とし、④精錬、⑤溶接(ミ

グ・ティグ)、⑥溶接(アーク・マグ)/溶断、⑦溶接(炭酸ガス)の7種類で

ある。 ① 有害性分類の決定(管理の目標濃度の決定) リスクを判定する考え方は、①「鉱物性粉じんを発生するもの(土石・鉱物な

ど)」と②「金属・その他の粉じん・ヒューム等を発生するもの」で異なってい

る。 もちろん、①と②の双方を含有する化学物質もあるので、そのようなものにも

対応は可能である。また、②については、多くても3~4種類程度の金属等を含

有するものがほとんどであることから、3種類まで評価できるようになってい

る。 〇 金属・その他の粉じん・ヒューム等を発生するもの ②の「金属・その他の粉じん・ヒューム等を発生するもの」については、GHS分類区分から有害性を判断する。その判断の方法は、基本的に通常版と異ならな

い。なお、粉じんとヒュームの区別はしていない。 〇 鉱物性粉じんを発生するもの(土石・鉱物など)

12

①の「鉱物性粉じんを発生するもの(土石・鉱物など)」については、表2-

6によって有害性ランクを A、B、C に分ける(D、E は設定していない)。この

場合、C の方が有害性は高い。なお、遊離けい酸含有率が分かっている場合は直

接分類し、分かっていない場合は、岩石の種類によって分類する。 表2-6:有害性ランクの分類 遊離けい酸 含有率(%)

遊離けい酸含有率 が不明な場合

有害性ランク ばく露に対する管理濃度

(mg/m3)のレンジ(参考)

24~100

火成岩 中性岩 堆積岩 変成岩(雲母)

C

<0.1

1.67~24

塩基性岩 過塩基性岩 石灰岩 変成岩(雲母以外)

B

0.1≦ <1

0~1.67 A 1≦ <10 ここで、①「鉱物性粉じんを発生するもの(土石・鉱物など)」と②「金属・

その他の粉じん・ヒューム等を発生するもの」の双方が含まれている化学物質の

場合は、①と②の双方について有害性ランクを求め、ランクの高い方を採用する。 ② ばく露濃度の推定 ばく露濃度の推定には、通常版のように使用量を用いることができない。材料

の使用量と粉じんの総量の間には相関がないからである。そのため、作業の種類

からばく露濃度を推定するという方法を採用している。 なお、ばく露量には作業時間の長さも影響するが、データ量が不足しているこ

とから、このシステムでは考慮していない。 濃度の推定方法の具体的な方法は次の通りである。なお、このランク分けの分

類そのものは COSHH Essentials の考え方を流用しているが、どのように分類す

るかについては、様々な文献調査や実地調査の結果から、我が国が独自に定めて

いる。 ① 同じ作業が近傍でされていない場合には表2-7によって推定 ② 同じ作業が近傍でされている(複数の作業者が密集して作業している)場合

には同表から EPS をワンランク上げて推定

13

表2-7:ばく露ランクの分類

ばく露ランク 推定粉じんばく 露濃度範囲 (mg/m3)

- EPS1 <0.1 ② 加工(機械的切断等) ⑤ 溶接(ミグ・ティク)

EPS2 0.1≦<1

① 研磨・ばり取り ③ 掻き落とし ④ 精錬 ⑥ 溶接(アーク・マグ)/溶断

EPS3 1≦<10

⑦ 溶接(炭酸ガス) EPS4 10≦ ※ 同じ作業が近傍でされていない場合である。同じ作業が近傍でされ

ている(複数の作業者が密集して作業している)場合には、これよりも

ワンランク上げる ③ リスクの判定 リスクレベルの決定は、まず、表2-8により、有害性ランクとばく露ランク

から決定し、次に許容濃度が設定してある物質の場合には表2-9によって修

正する。なお、①の「鉱物性粉じんを発生するもの(土石・鉱物など)」につい

ては、有害性ランクは A~C のみしか設定していない。 表2-8:リスクレベルの決定

ばく露ランク EPS1 EPS2 EPS3 EPS4

有害性ランク

A 1 1 2 2 B 1 2 3 3 C 2 3 4 4 D 3 4 4 4 E 4 4 4 4

許容濃度が設定してある物質の場合の修正の方法は、推定されたばく露ラン

クの推定粉じんばく露濃度範囲の大きい側の値(例えば、EPS2(0.1≦ <1)の

場合は 0.99 としている)が、許容濃度に対して、それ未満か、1~10 倍未満、

14

10 倍以上かで、リスクランクを表2-9によって確認し、こちらのリスクラン

クが大きければこちらを採用する。 なお、リスクランク 2 と 3 に判定された場合は、対策シートに則って対策を

した後に必要に応じて作業環境濃度を測定し、その場合においても許容濃度を

超える場合はリスクランク 4 と判定することとされている。 表2-9:確認用のリスクレベル(表2-8の結果より大きければ採用)

Pmax と許容濃度との関係 確認用のリスクレベル Pmax < 許容濃度 1 許容濃度(mg/m3)≦ Pmax <許容濃度×10 2 許容濃度(mg/m3)×10≦ Pmax 3 ※ Pmax:推定されたばく露ランクの推定粉じんばく露濃度範囲の大

きい側の値 (3)結果の出力 ア 対策シートの概要 さて、厚労省方式コントロールバンディングでは、どのような対策をとるべき

かが記された対策シートが出力される。作業場についての注意事項、換気装置や

局所排気装置などの設計や保守点検の方法、個人用保護具、労働衛生教育などに

ついて記されている。 これらのシートに記載された換気に関する内容は、一言でいえば、表2-10

のようになっている。 表2-10:対策シートの内容

リスクレベル 対策シートの具体的な内容 1 全体換気 2 工学的対策(貯蔵及び保管については全体換気) 3 囲い式局所排気装置及び封じ込め 4 特別な好事例や専門家のアドバイス

なお、リスクレベル2の工学的対策とは、囲い式以外の局所排気装置のことで

ある。

15

また、S 評価となった場合には、個人用保護具に関する対策シートとして、

Sk100 シート「皮膚や眼に有害な化学物質に対する保護具」、R100 シート「呼

吸用保護具の選び方と使い方」などが出力される。 よく、厚労省方式コントロールバンディングは、特別な知識がなくてもできる

といわれることがあるが、これらの対策シートを理解するためには、一定の知

識・経験が必要となる。対策シートには、リスクレベルが4となった場合に専門

家のアドバイスが必要であるとしているが、中小規模事業場においては、リスク

レベルが1から3であったとしても、労働衛生に関する専門家に相談する必要

がある場合も出てこよう。 労働者に対して有害な化学物質を使用させる以上、その対策には一定のコス

トが必要になるし、労働災害を防止するために一定の知識が必要になるという

ことをご理解いただきたい。 イ その他 さて、厚労省方式コントロールバンディングのリスク評価方式では、局所排気

装置の設置や密閉式装置での取り扱いなどは考慮していない。このために、これ

らの装置がある場合にはリスクが判定できないなどという論考を見かけること

があるが、これはこのツールの本質を理解していないことによる誤解である。 このツールのリスクアセスメントの結果、必要な対策は対策シートとして出

力される。そこで、これらのシートの内容と実際の対策を比較して、実際の対策

がシートに記載されている内容より以上のものであれば、リスクに対応できて

いる(従ってリスクは低い)と判断すればよいわけである。 なお、ここまでの説明でもご理解いただけると思うが、呼吸器感作性、生殖細

胞変異原性、発がん性のいずれかの GHS 分類区分が“1”となっていると、そ

れだけでリスクレベルは最も高く出ることになる。また、かなりのケースで工学

的対策以上の対策を求められることとなる。これは、簡易なリスクアセスメント

である以上、やむを得ないことである。 もし、厚労省方式コントロールバンディングを用いてリスクアセスメントを

使用した対策シートに従わないという判断をするのであれば、必ずより高度な

精度の良いリスクアセスメントを行って、リスクが十分低いことは確認しなけ

ればならないことはいうまでもない。

16

3 使い方(マニュアル) (1)通常版 厚労省方式コントロールバンディングを使用するには、まずブラウザでその

サイトを表示する。“簡易なリスクアセスメント”で検索してもよい。YAHOOでの検索の結果は次のようになる。

なお、4番目にヒットしている「簡易なリスクアセスメントツールのメリット

とデメリット」は、当サイトのコンテンツであるが、厚労省方式コントロールバ

ンディングを実施されるに当たっては、こちらもぜひ参考にしていただきたい。 ここで、1番目にヒットした「職場のあんぜんサイト:化学物質:リスクアセ

スメント」をクリックすると、厚労省方式コントロールバンディングのトップペ

ージとなる。これは、次のようになっている。

ここをクリック

17

このページの下にある「リスクアセスメントを開始」のボタンを押すと、通常

版のリスクアセスメントが始まる。

このページの入力項目のうち、タイトル、担当者名、作業場所は入力しなくて

18

もリスクアセスメントは可能だが、記録のために必ず入力するようにした方が

よい。 作業内容はプルダウンメニューの14の項目から選択して入力するようになっ

ている。これは、リスクレベルの判定には影響を与えないが、最後に出力される

対策シートが、作業の内容によって変更されるのである。

作業者数もプルダウンメニューの中から、選択入力する。先述したように、こ

の数字はリスク判定の結果に影響を与えることはない。

液体と粉体の別はラジオボタンをクリックして行う。このいずれを選択する

かによって、この後のリスクアセスメントの入力画面が変わってくる。 化学物質数は数字で入力する。ある混合物を用いていて、その混合物そのもの

の SDS があるなら「1」を入力する。2つの成分からなる物質を用いていて、

SDS が成分ごとに SDS があるなら「2」を入力する。要するに用いている化学

19

物質の SDS の数を入力すればよい。 ただし、GHS 分類区分について自動入力をするなら、成分の数を入力する必

要がある。 先ほど「液体」を選んでいる場合、画面上の「次へ」ボタン( )をクリッ

クすると画面が次のように変わる。

ここで、物質名は直接入力するか選択して入力する。CAS 番号での入力はで

きない。入力して「反映」ボタン( )を押すと、GHS 分類区分と沸点が自動

で入力されるようになっている。ただし、モデル SDS に沸点が記されていない

場合は沸点は入力されないので、手動で入力する必要がある。 必要事項を入力して「次へ」ボタン( )を押すと、次のようにリスクレベ

ル等が出力される。この場合、物質名はアセトン、作業名はその他、取扱量は多

量でリスクアセスメントを行い、リスクレベルは4となっている。

20

さらに「次へ」ボタン( )を押すと、次のように実施事項等の画面に遷移

する。対策シートはシートNoの右側のPDFのマークをクリックすることで

得られる。

(2)粉じん作業版 粉じん作業の場合は、厚労省方式コントロールバンディングのトップページ

で、次のボタンをクリックする。

21

このボタンをクリックすると次の入力画面が出てくるので、必要事項を入力

する。

作業の内容は次のように、選択メニューとなっている。

入力して「反映」ボタン( )を押すと次の画面のようになる。

22

「鉱物性粉じんを発生するもの(土石・鉱物など)」、「金属・その他の粉じ

ん・ヒューム等を発生するもの」について、該当するものに☑マークを入れ、必

要事項を入力する。この場合、許容濃度は自動では入力されない。 この後の操作は通常版と同じである。 (3)その他(注意事項) 厚労省式コントロールバンディングは、化学物質の名称を直接又は選択によ

り入力することにより、GHS 結果を自動入力できるようになっている。 これについて、ガソリンやクレオソートオイルなどの混合物については、一定

の注意が必要である。というのは、化学物質の名称は“ガソリン”でも組成が異

なっている可能性があり、GHS 分類結果がモデル分類区分とは異なっている可

能性があるからである。政府のモデル分類結果は、一般的なものについてのもの

なので、混合物については自動入力を使用しないことをお勧めする。

【参考/クレオソート油について】 クレオソート油を、製造したり取り扱ったりしている事業場は多くないと思

うが、この枠内は、クレオソート油についてリスクアセスメントを行う場合に

参照して頂きたい。 厚労省方式コントロールバンディングの「化学物質名称」の入力で、クレオ

ソート油については、「クレオソート油」と「クレオソートオイル」の2つが選

23

択入力可能になっている。この場合、必ず「クレオソート油」の方を選択して

頂きたい。 クレオソート油とは、安衛令の政令番号 140 の物質であるが、石油から有用

な成分を取り去った残りのことである。“クレオソートオイル”も、たんに油

を日本語にしただけで、言葉の意味としては同じことである。 ところが、クレオソート油は、石油を採掘した場所等によっても成分が異な

り、それぞれが CAS 番号を持っている。ただ、まったく別な物質というわけ

ではなく、様々なクレオソート油について、ほぼ同様な有害性があると考えら

れる。そして、すべてのクレオソート油についてみると、ある程度の有害性の

情報はある程度存在しているが、あるひとつの種類のクレオソート油について

みると、有害性の情報がほとんどないのである。 このため、政府が最初に「クレオソート油」のモデル分類を行うときは、す

べてのクレオソート油に関する有害性の情報をすべて用いて分類したのであ

る。ところが、その後、CAS 番号が 90640-84-9 のクレオソート油についても

分類を行い、職場のあんぜんサイトでクレオソートオイルとして公開している

のである。これは、有害性の情報がほとんどないので、GHS 分類区分もほと

んど存在していないが、現実には「クレオソート油」の分類区分とほぼ同様な

有害性があると考えられるのである。 【参考文献】 1 英国安全衛生庁 WEB サイト「COSHH Essentials」 2 厚生労働省 WEB サイト「リスクアセスメント実施支援システム」 3 化学物質評価研究機構「化学物質取扱作業の簡易リスクアセスメント手法

開発事業報告書」(2015 年)(国立国会図書館蔵) 4 櫻井治彦「化学的因子のリスクマネジメント(13)」(2012 年)産業医学ジ

ャーナル Vol35,No.3 4 中央労働災害防止協会「健康障害防止のための化学物質リスクアセスメン

トのすすめ方」(2009 年)

この資料は「実務家のための産業保健のサイト」に掲示されています。よろしけ

ればサイトの方にもご訪問ください。

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