海外子会社マネジメントtoll 」氏が荷馬車による石炭運送会社を...

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トールとは ②集特

トール社に見る海外子会社マネジメント    ― 日本郵便の海外展開戦略について ―

中編

(*前号からの続き)

5.トール社の概要

(1)豪州物流企業トール社の子会社化

日本郵政による豪州物流企業トール社の子会社化は、2015年2月18日に日本郵政と豪州物流企業大手のトール社との買収実行契約を締結したことによって実現した。実際には、2015年5月28日に、トール社の100%の株式取得(子会社化)により完了したことになる。

日本郵政のトール社株式取得の目的としては、①海外間のフォワーディング事業(航空・

海上・陸上貨物輸送)、海外における3PL(コントラクト・ロジスティクス)事業へ進出するため、トール社を海外展開のプラットフォーム企業として

ーストラリア人の「レイ・ホースバーグ(Ray Horsburgh)」氏が勤め、総数7人の取締役のうち、4人が日本郵政からの日本人で占められ、社長・議長を含む3人がオーストラリア人である。この7名の取締役には、日本郵政の権限規程の契約があり、経費や投資等に対しての事前承認・報告義務等が課せられている。

1993年にASX(オーストラリア証券取引所)に上場し、1995年よりオーストラリア国内での様々なM&Aにより成長を加速させ、2003年にはニュージーランドへ進出した。2006年にM&Aによりアジア市場への進出を開始、2010年には北米に進出している。そして、2015年に日本郵政の子会社化(日本郵政グループ参入)を決めている。

(3)事業セグメントの概要

トール社は、約280社を束ねる持ち株会社であるトールグループの傘下に、5つ(①宅配、②国内フォワーディング、③国際フォワーディング、④国際ロジステ

険のユニバーサルサービス等を適切・確実に提供し続けるため、

④グローバル展開については、トール社の豊富なM&A実績やグローバルな経営手腕を活かし、アジアおよび欧米地域での更なるM&A等を通じて、物流業界におけるリーディングプレイヤーとなることを目指すため、である。日本郵政は、お客様の多様なニーズに

お応えするために、この戦略を通じて独自の成長モデルを追求することになる。

(2)トール社の概要

トール社の登記簿上の社名は、「トール・ホールディングス・リミテッド(Toll Holdings Limited)」で、所在地は豪州・メルボルン、設立は1888年で、「Albert Toll 」氏が荷馬車による石炭運送会社を設立したのが起源である。

2014年6月期の連結売上高は約8,175億円で、従業員数約40,000名である。主要業務は、「豪州で強固な事業基盤を保有し、安定的な収益を確保しつつ、アジア太平洋地域では、フォワーディング事業・3PL(コントラクト・ロジスティクス)事業に強みを持つ総合物流企業」である。現在、約280社の子会社を保有し、資源輸送を中心としたビジネスモデルである。

社長(MD)は、オーストラリア人の「ブライアン・クルーガー(Brian Kruger)」氏で、取締役会・議長(chairman)もオ

買収し、物流事業における国際化を加速させるため、

②トール社の豊富な3PL事業の経験・実績やグローバルな経営手腕を活かし、アジアおよび欧米地域におけるグローバルな事業展開を強力に推進するため、

③3PL事業のノウハウを習得し、国内物流事業をさらに協力に推進するため、である。株式取得の背景には、日本郵政が抱え

る様々な事情がある。それらは、①国内郵便市場の縮小の中、収益を強化

するための新たな事業基盤の獲得に向けて、M&A等による事業拡大を検討する必要性に迫られていたため、

②中期経営計画の実現のため、お客様の多様なニーズにお応えする独自の成長モデルを追求する必要があったため、

③引き続き日本のお客様には、郵便局ネットワークを活用した郵便・貯金・保

東海大学 観光学部 教授

立原 繁

画像:トールグループ HP よりhttp://www.t o l l g r o u p .com/onetoll

ブライアン・クルーガー氏(左)とレイ・ホースバーグ氏(右)画像:トールグループ HP よりhttp://www.tollgroup.com/leadership

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トールとは ②集特

トール社に見る海外子会社マネジメント― 日本郵便の海外展開戦略について ―

中編

トールとは ②集特

トール社に見る海外子会社マネジメント    ― 日本郵便の海外展開戦略について ―

中編

ィクス、⑤政府・資源関係)の事業セグメントを運営している。この5つのセグメントは、ネットワーク事業(①宅配、②国内フォワーディング、③国際フォワーディング)とコントラクト事業(④国際ロジスティクス、⑤政府・資源関係)の2つから成り立っている。

以下、5つのセグメントの簡単な概要である。①Global Express (TGX)【宅配】

オーストラリア・グローバル市場における速達便や時間指定便の配送サービス

②Domestic Forwarding (TDF) 【国内フォワーディング】

オーストラリア・ニュージーランドにおけるパレット輸送

③Global Forwarding (TGF) 【国際フォワーディング】

国際物流及びサプライチェーンの管理、これに付帯するサービス

④Global Logistics (TGL) 【国際ロジスティクス】

アジア・太平洋地域におけるサード・パーティ・ロジスティクス(3PL)事業

⑤Resources & Government Logistics (TRGL) 【資源・政府関連】

オーストラリア・アジアにおける資源輸送及び政府分野におけるサービス

(4)トール社の経営成績

トール社の損益は、2015年7月から日本郵政グループの連結決算に反映されて

可能性があるビジネスへの進出である。

7.日本郵政が トール社にすべきこと

現時点で、日本郵政がトール社に対して行っておかない事は、「ガバナンス」の徹底であることは、前編でも述べたことである。具体的には、①「企業理念」、②「経営戦略」、③「組織・トップマメジメント」、④「規程・制度」等を日本郵政はトール社に対して、その期待と、親会社と子会社それぞれの役割と責任を明確にすることが必要である。日本郵政が事業運営の細部まで日常的に指示せずとも、トール社自らその役割と責任を果たすことが出来るよう、この4つの要素から優先的に導入する必要がある。

ト(イオングループの豪州子会社)生産の牛肉の輸送である。冷蔵・冷凍の特殊コンテナによる豪州タスマニア島から日本(大阪港)到着までの輸送手配で、貨物量は年間20フィートコンテナ360本程度に達する量である。

トール社の受託業務範囲としては、豪州タスマニア島から日本(大阪港)までの輸送手配及び特殊コンテナの手配であり、①豪州タスマニア島内の陸上輸送(精肉加工場からバーニー港までの陸送)、②豪州タスマニア島から豪州メルボルンまでの海上輸送、③豪州メルボルンから日本(大阪)までの国際間の海上輸送手配および豪州輸出に必要な書類の手配、を含むものである。

(2)トール・シティ(物流拠点)の建設

トール社は、アジアでのサービス拡大を加速するため、アジアの中継港として名高いシンガポールに新たな物流拠点

「トール・シティ」を建設中である。2017年の夏頃に稼働予定である。トール・シティは、延床面積約101,300㎡、5階建てで、8万L燃料タンク・自動トラック洗浄機・危険物管理設備等を有するものである。

建設地は、シンガポール政府が新たに開発中のトウアス港エリアに隣接しており、航空・海上輸送に加え、マレーシアを経由した陸送にも適した立地である。

シンガポール政府との連携によって、付加価値が高く、今後の活用についての

いる。近々のトール社の経営成績は、日本郵政グループの子会社化前であった前年同月期との比較では、営業収益、営業利益ともに減少している。

事実、2016年3月期の営業収益は6291百万豪ドルで、前年同期と比較して2.6%の減少である。また、営業利益は、3前年同月比6.2%の減少で、199百万豪ドルにとどまっている。

さらに、先日発表された2017年3月期の第1四半期の決算でも、減益基調は続いており、前年同期期より、営業収益で189百万豪ドルの減少、営業利益で43百万豪ドルの減少となっている。

これは、オーストラリア経済が、資源価格の下落等の要因により引き続き厳しい状況下にあるとこが要因である。特に、ネットワーク物流事業が固定費がかかることから大きな影響を受けている。今後されなるコスト削減等の諸施策の継続的な実施により収益の改善を図っていくことが必要である。

一方、コントラクト物流事業は堅調に推移しているところである。

6.トール社による 新規事業

(1)「イオン」タスマニアビーフの輸送

トール社は、日本の小売業大手のイオンとタスマニアビーフの輸送についての新規ビジネスを始めた。

具体的には、タスマニアフィードロッ

画像:トールグループ HP よりhttp://www.tollgroup.com/about-japan-post

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トールとは ②集特

トール社に見る海外子会社マネジメント    ― 日本郵便の海外展開戦略について ―

中編

(1)企業理念

企業理念とは企業の目的、利害関係者(ステークホルダー)、倫理観、価値観、基本戦略などについての方針である。「我が社は何のために存在するのか、事業を通じて誰に、どのように貢献するのか」を社内外に明らかにする必要がある。

日本郵政とトール社のように国境を越えたグループ経営において企業理念は存在するだけでは浸透しない。日本郵政の理念をトール社社員も理解し、共鳴出来るように必要に応じて再定義し説明を加え、積極的に周知する必要がある。日本郵政トップが常に言動と姿勢でグローバルグループに属する全員に明確なメッセージとして発信し続けることが重要である。

(2)経営戦略

グローバル経営におけるグループ全体戦略の策定は、グループ理念の決定同様、本社の責任で行うべきものである。ただし、グローバル経営が進展すると、機動

運用などの「会社運営上重要な事項」については、重要性基準として一定の金額を設定し、事前承認を求めることが一般的である。

日本郵政はトール社について、これら上記の規程・制度を適応している。

このように親会社の承認や報告を必要とする事項を決める一方、子会社が規程を定め自主管理出来る事項を決めておく必要がある。人事規程、経理規程、IT規程など会社運営の基礎をなす重要な規程(ポリシー)である。さらにその下の概念として、実務上の細かな「ルール(細則)」や「手順(マニュアル)」を制定することになる。

トール社の場合、日本郵政の子会社化以前にすでに存在していたルール(細則)手順(マニュアル)を基板に策定している。

(次号に続く)

上有効なのか。たいへん難しい問題であるが、日本郵政は執行組織の過半数を日本郵政からの役員で構成することを選択している。

(4)規程・制度

親会社と子会社の関係について、お互いの間に誤解のないように詳細に決めて文章化することが「規程・制度」である。

親会社と子会社の関係に関して最も重要な決めごとは「権限委譲の範囲」についてである。

どこまでの権限を親会社である本社が留保し、どこから先の権限を子会社に委譲すつかという点については極めて重要事項である。具体的には、①親会社の決裁(事前承認)が必要な事

項、②子会社の取締役会決議が必要な事項、③子会社トップ(社長ないしCEO)が単

独で決定できる事項、④親会社に報告が必要な事項、⑤子会社が規程を整備して自主管理でき

る事項、である。①については、たとえば会社定款・取

締役会・決算期間などの重要事項の変更、事業計画・年度決算関連、合併や会社分割、会社株式、役員の就任・退任などの「会社のフレームワークに係わる事項」は無条件に親会社の事前承認を求めることが一般的である。また、④についての、設備投資や資産の処分、出資や借入、資金

的な事業運営実現のため広範な事業活動の責任と権限が海外子会社に委譲されることになる。したがって、本社が特定の事業や地域におけるマーケティング戦略などの個別戦略や戦術に細かく介入する必要はない。しかし本社は、各国・各事業の戦略をとりまとめ、必要に応じて方向づけや目標設定を行い、全体戦略として最終化する必要がある。

日本郵政は、トール社を含むグループが行うM&A戦略の検討、グループ内各社統合(水平および垂直)戦略によるシナジーの追求、新規分野への戦略的資源

(資金・人材・ノウハウ等)再配置などを、経営戦略として決定化しなければならない。

(3)組織・トップマネジメント

日本の本社は戦略策定後、その実施に向けて海外子会社の組織とトップマネジメントを決定することが基本である。経営の現地化の必要性からトップおよび取締役会の議長を現地の人間にすることが多々見られる。実際、日本郵政もトール社に対してそのようなトップマネジメントを決定している。また、「人の派遣によるガバナンス」も確保したいとの考えから、執行組織に最低限の常勤者を派遣するのも一般的である。日本郵政もこの体制を組んでいる。

経営現地化が進展したトール社のような海外子会社に対してどのようなポストに日本人駐在員を派遣すればガバナンス

立原 繁(たちはら しげる) 1959年生まれ。東海大学大学院経済学研究科博士課程修了。東海大学政治経済学部教授、平和戦略国際研究所教授を経て2010年4月から現職。専門は比較経営論、産業政策論、郵政事業論。主な著書として『会社から社会へ』、『変革期の郵政事業』、『現代経営』、『21世紀の人間の安全保障』など多数。

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画像:トールグループ HP よりhttp://www.tollgroup.com/technology

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