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数理物質科学研究科
微分幾何学 I
————–
多様体のトポロジー入門
田崎博之
2007年度
数理物質科学研究科
微分幾何学 I
Differential Geometry I
開講授業科目概要
写像度を使って多様体のトポロジーを解き明かす。
i
目 次
第 1章 準備 1
1.1 多様体とC∞級写像 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 1
1.2 正則値の逆像 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 10
1.3 Sardの定理の証明 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 24
第 2章 多様体のトポロジー 28
2.1 法 2の写像度 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 28
2.2 向きの付いた多様体 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 35
2.3 線形群の連結性 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 41
2.4 ベクトル場と Euler数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 46
第 3章 フレーム付きコボルディズム 65
3.1 フレーム付きコボルディズム . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 65
3.2 まつわり数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 75
3.3 Hopf不変量 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 82
参考文献について 83
参考文献 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 84
1
第1章 準備
1.1 多様体とC∞級写像定義 1.1.1 U ⊂ Rkと V ⊂ Rlを開集合とする。U から V への写像 f : U → V のすべての偏微分 ∂nf/∂xi1 · · · ∂xin が存在し連続になるとき、f を C∞級写像と呼ぶ。より一般に任意の部分集合X ⊂ Rk と Y ⊂ Rl をとり、X から Y への写像f : X → Y について考える。各 x ∈ Xに対して xの開近傍 U ⊂ RkとC∞級写像F : U → Rlが存在し、F |U∩X = f |U∩X となるとき、f : X → Y を C∞級写像と呼ぶ。
C∞級写像の合成がC∞級写像になることと、恒等写像がC∞級写像になることは、開集合上定義されたC∞級写像の場合に成り立つことからわかる。
定義 1.1.2 部分集合X ⊂ Rk から Y ⊂ Rlへの写像 f : X → Y が逆写像 f−1 :
Y → Xを持ち、f と f−1がともにC∞級写像になるとき、f を微分同型と呼ぶ。
定義 1.1.3 部分集合M ⊂ Rkが次の条件を満たすとき、M をm次元多様体と呼ぶ。各点 x ∈ M はRk内の開近傍W を持ち、W ∩M はRmの開集合U と微分同型になる。微分同型 g : U → W ∩ M は、W ∩ M のパラメータ付けと呼ばれ、その逆写像W ∩ M → U は、W ∩ M の座標系と呼ばれる。各点 x ∈ M はRk内の開近傍W を持ち、W ∩ M が x一点になるとき、M を 0次元多様体という。
多様体の一点に対してその近傍のパラメータ付けと座標系は一意的定まるわけではない。
例 1.1.4 2次元単位球面
S2 = {(x, y, z) ∈ R3 | x2 + y2 + z2 = 1}
が 2次元多様体になることを示す。
U = {(x, y) ∈ R2 | x2 + y2 < 1}
はR2の開集合になり、
W+ = {(x, y, z) ∈ R3 | z > 0}
2 第 1章 準備
はR3の開集合になる。写像
g : U → W+ ∩ S2 ; (x, y) 7→(x, y,
√1 − x2 − y2
)
は微分同型になることを示す。gは定義よりC∞級写像になる。gの逆写像は
g−1 : W+ ∩ S2 → U ; (x, y, z) 7→ (x, y)
によって定まり、g−1もC∞級写像になる。よって、gは微分同型になる。
W− = {(x, y, z) ∈ R3 | z < 0}
とおくと、W+の場合と同様にU とW− ∩ S2の間に微分同型を構成することができる。さらに、zの役割を他の変数 x, yに置き換えても同様の微分同型を構成することができる。したがって、S2は 2次元多様体になる。
n次元単位球面
Sn = {(x1, . . . , xn+1) ∈ Rn+1 | x21 + · · · + x2
n+1 = 1}
についても、同様の議論で n次元多様体になることがわかる。
多様体の接ベクトル空間とその性質を考えるために、Euclid空間の開集合から開集合へのC∞級写像の微分の基本的性質を復習しておく。
U ⊂ Rk と V ⊂ Rl を開集合とする。x ∈ U における U の接ベクトル空間をTxU = Rk によって定める。U から V への C∞級写像 f : U → V の xにおける微分
dfx : Rk → Rl
を h ∈ Rkに対して
dfx(h) =d
dt
∣∣∣∣t=0
f(x + th) = limt→0
1
t(f(x + th) − f(x))
によって定める。t 7→ x + thと f の合成は C∞級写像になり、合成関数の微分の公式から
dfx(h) =d
dt
∣∣∣∣t=0
f(x + th) =k∑
j=1
∂f
∂xj
(x)hj =
[∂fi
∂xj
(x)
]
h1
...
hk
が成り立つ。したがって、dfxは線形写像になり、RkとRlの標準基底に関する dfx
の表現行列は、(∂fi/∂xj(x))になる。
1.1. 多様体とC∞級写像 3
命題 1.1.5 (合成写像の微分) f : U → V と g : V → W を Euclid空間の開集合から開集合へのC∞級写像とする。このとき x ∈ U に対して
d(g ◦ f)x = dgf(x) ◦ dfx
が成り立つ。すなわち、二つの写像を合成してから微分したものは、それぞれ微分してから合成したものに等しい。
U ⊂ U ′ ⊂ Rkを開集合とし、i : U → U ′を包含写像とする。このとき、任意のx ∈ U に対して dixはRkの恒等写像になる。線形写像 L : Rk → Rlと任意の x ∈ Rkに対して、dLx = Lが成り立つ。
命題 1.1.6 f を開集合 U ⊂ Rkから開集合 V ⊂ Rlへの微分同型とすると、k = l
となり、任意の x ∈ U に対して
dfx : Rk → Rk
は線形同型になる。
証明 f : U → V の逆写像を g : V → Uで表すと、g ◦fはUの恒等写像になる。命題 1.1.5より、d(g ◦f)x = dgf(x) ◦dfxはRkの恒等写像になる。同様に dfx ◦dgf(x)
はRlの恒等写像になる。したがって、dfx : Rk → Rlは線形同型になり、k = lが成り立つ。
命題 1.1.6の逆の主張が局所的には成り立つことを示しているのが、次の逆写像定理である。
定理 1.1.7 (逆写像定理) 開集合U ⊂ Rkから開集合 V ⊂ RkへのC∞級写像の点x ∈ U における微分が線形同型のとき、xの開近傍U ′が存在し、f のU ′への制限f |U ′は U ′から f(U ′)への微分同型になる。
定義 1.1.8 M ⊂ Rkをm次元多様体とする。x ∈ Mに対して、xの開近傍のパラメータ付け g : U → M で u ∈ U, g(u) = xとなるものをとる。ここで、U はRm
の開集合である。gの微分 dgu : Rm → Rkの像を TxM と表し、M の xにおける接ベクトル空間として定める。
上の定義において、多様体の接ベクトル空間の定め方が、パラメータ付けのとり方に依存しないことを示しておく必要がある。もう一つのパラメータ付けh : V → M
で v ∈ V, h(v) = xとなるものをとる。h−1 ◦ gは uのある開近傍 U1から vのある開近傍への微分同型になる。
dhv ◦ d(h−1 ◦ g)u = dgu
になるので、dhv(Rm) = dgu(R
m)が成り立つ。さらに TxM はm次元ベクトル空間になる。
4 第 1章 準備
定義 1.1.9 M ⊂ Rk, N ⊂ Rlを多様体とし、f : M → N を C∞級写像とする。x ∈ Mをとる。fはC∞級なので、Rk内のxの開近傍WとC∞級写像F : W → Rl
が存在し、f |W∩M = F |W∩M が成り立つ。そこで、
dfx = dFx|TxM : TxM → Tf(x)N
によって f の xにおける微分 dfxを定義する。
上の定義において、dFx(TxM) ⊂ Tf(x)N となることと、微分 dfxの定め方が、f
の拡張 F のとり方に依存しないことを示しておく必要がある。パラメータ付け
g : U → M ⊂ Rk, h : V → N ⊂ Rl
で g(U)が xの開近傍になり、h(V )が f(x)の開近傍になるようにとる。さらに必要なら、g(U) ⊂ W と f(g(U)) ⊂ h(V )が成り立つように U を小さくとる。すると、C∞級写像
h−1 ◦ f ◦ g : U → V
が定まる。これは Euclid空間の開集合から開集合へのC∞級写像である。また、
h ◦ (h−1 ◦ f ◦ g) = F ◦ g
となるので、u = g−1(x), v = h−1(f(x))とおくと、命題 1.1.5より
dhv ◦ d(h−1 ◦ f ◦ g)u = dFx ◦ dgu
が成り立つ。これより、
dFx(TxM) = dFx ◦ dgu(Rm) = dhv ◦ d(h−1 ◦ f ◦ g)u(R
m) ⊂ dhv(Rn) = Tf(x)N
となり、dFx(TxM) ⊂ Tf(x)N が成り立つ。さらに、
dgu : Rm → TxM, dhv : Rn → Tf(x)N
はともに線形同型写像だから、逆写像を考えることができ、
dfx = dhv ◦ d(h−1 ◦ f ◦ g)u ◦ (dgu)−1
となるので、dfxは F のとり方に依存しない。
命題 1.1.10 f : M → N と g : N → P を多様体から多様体への C∞級写像とする。このとき x ∈ M に対して
d(g ◦ f)x = dgf(x) ◦ dfx
が成り立つ。M ⊂ N を多様体とし、i : M → N を包含写像とする。このとき、任意の x ∈ U
に対して dixは包含写像 TxM ⊂ TxN になる。
1.1. 多様体とC∞級写像 5
証明 命題 1.1.5を適用すればよい。
命題 1.1.11 f : M → N を多様体の間の微分同型とすると、任意の x ∈ M に対して
dfx : TxM → Tf(x)N
は線形同型になる。特に、dim M = dim N が成り立つ。
証明 M をm次元多様体とし、N を n次元多様体とする。定義より
M ⊂ Rk, N ⊂ Rl
となっている。xはRk内の開近傍WM を持ち、WM ∩ M はRmの開集合 UM と微分同型になる。さらに f(x)はRl内の開近傍WN を持ち、WN ∩ N はRnの開集合 UN と微分同型になる。UM からWM ∩ M への微分同型を gM とし、UN からWN ∩ N への微分同型を gN とする。接ベクトル空間の定義 (定義 1.1.8)より、dgM : Rm → TxM と dgN : Rn → Tf(x)N は線形同型になり、g−1
N ◦ f ◦ gM はg−1
M (x) ∈ Rmの開近傍から g−1N (f(x)) ∈ Rnの開近傍への微分同型になる。命題
1.1.6よりd(g−1
N ◦ f ◦ gM) : Rm → Rn
は線形同型になる。命題 1.1.5より
d(g−1N ◦ f ◦ gM) = dg−1
N ◦ dfx ◦ dgM
となり、dg−1N と dgM は線形同型だから、df も線形同型になる。さらに、次の等式
が成り立つ。dim M = m = n = dim N
定理 1.1.12 (逆写像定理) 多様体の間のC∞級写像 f : M → N の x ∈ M における微分 dfx : TxM → Tf(x)N が線形同型のとき、xの開近傍U が存在し、f をU に制限すると微分同型になる。
証明 命題 1.1.11の証明中の設定をそのまま使うことにする。
d(g−1N ◦ f ◦ gM) = dg−1
N ◦ dfx ◦ dgM : Rm → Rn
は線形同型になり、定理 1.1.7より g−1M (x) ∈ Rmの開近傍 U ′が存在し、
(g−1N ◦ f ◦ gM)|U ′ : U ′ → g−1
N ◦ f ◦ gM(U ′)
は微分同型になる。したがって、f |gM (U ′)は U = gM(U ′)から f(U)への微分同型になる。
6 第 1章 準備
定義 1.1.13 f : M → N を等しい次元を持つ多様体の間の C∞ 級写像とする。x ∈ M に対して、dfx : TxM → Tf(x)N が線形同型になるとき、xを f の正則点と呼ぶ。M の正則点ではない点を臨界点と呼ぶ。y ∈ N に対して、f(x) = yとなるfの臨界点 xが存在するとき、yを fの臨界値と呼ぶ。Nの臨界値ではない点を正則値と呼ぶ。
命題 1.1.14 f : M → Nを等しい次元を持つ多様体の間のC∞級写像とし、Mはコンパクトであると仮定する。このとき、f の正則値 y ∈ N に対して、f−1(y)は有限集合になる。
証明 f−1(y)はコンパクト多様体M内の閉部分集合になるので、f−1(y)もコンパクトになる。定理 1.1.12より、各 x ∈ f−1(y)の開近傍 Uxが存在し、f を Uxに制限すると微分同型になる。特に、Ux ∩ f−1(y) = {x}となり、f−1(y)は離散位相を持つ。したがって、f−1(y)は有限集合になる。
命題 1.1.15 f : M → Nを等しい次元を持つ多様体の間のC∞級写像とし、Mはコンパクトであると仮定する。f の正則値 y ∈ N に f−1(y)の元の個数#f−1(y)を対応させる関数は、局所定数になる。
証明 命題 1.1.14より、f の正則値 yの逆像 f−1(y)は有限集合になるので、
f−1(y) = {x1, . . . , xk}
とおく。定理 1.1.12より、各 xi ∈ f−1(y)の開近傍 Ui が存在し、f を Ui に制限すると微分同型になる。必要なら Uiを小さく取り直すことにより、i 6= jならばUi ∩Uj = ∅となるようにできる。Vi = f(Ui)とおくと、各 Viは yの開近傍になる。よって、V1∩· · ·∩Vkも yの開近傍になる。M−U1−· · ·−Ukはコンパクト多様体M
内の閉部分集合になるので、コンパクトになる。これより、f(M − (U1 ∪ · · ·∪Uk))
もコンパクトになり、N の閉部分集合になる。
f−1(y) ⊂ U1 ∪ · · · ∪ Uk
だから、M − f−1(y) ⊃ M − (U1 ∪ · · · ∪ Uk).
y /∈ f(M − f−1(y))だから、
y /∈ f(M − (U1 ∪ · · · ∪ Uk)).
以上より、f(M − (U1 ∪ · · · ∪ Uk))は yを含まない閉部分集合だから、
V = V1 ∩ · · · ∩ Vk − f(M − (U1 ∪ · · · ∪ Uk))
1.1. 多様体とC∞級写像 7
は yの開近傍になる。y′ ∈ V に対して、V の定め方より、f−1(y′) ⊂ U1 ∪ · · · ∪ Uk
が成り立つ。よって、#f−1(y′) = k = #f−1(y)となり、y 7→ #f−1(y)は局所定数関数である。
上の命題の応用を一つ示す。
定理 1.1.16 (代数学の基本定理) 定数でない複素多項式は、零点を持つ。
証明 定数でない複素多項式P (z)をとる。複素数全体Cを平面R2と同一視すると、P はR2からR2へのC∞級写像とみなせる。これが 2次元球面 S2から S2
へのC∞級写像を誘導することを以下で示す。S2の北極 (0, 0, 1)に関する立体射影を h+ : S2 − {(0, 0, 1)} → R2で表す。すな
わち、(x1, x2, x3) ∈ S2 − {(0, 0, 1)}に対して
(0, 0, 1) + t(x1, x2, x3 − 1) = (tx1, tx2, 1 + t(x3 − 1))
の第三成分が 0になる点を対応させることになるので、
1 + t(x3 − 1) = 0
t =1
1 − x3
.
よって、
h+(x1, x2, x3) =
(x1
1 − x3
,x2
1 − x3
)((x1, x2, x3) ∈ S2 − {(0, 0, 1)}).
これによって、写像 f : S2 → S2を
f(x) =
{h−1
+ ◦ P ◦ h+(x) (x ∈ S2 − {(0, 0, 1)})(0, 0, 1) (x = (0, 0, 1))
で定める。fがS2−{(0, 0, 1)}でC∞級写像になることは、fの定め方からわかる。(0, 0, 1)の近傍でも fがC∞級写像になることを示すために、S2の南極 (0, 0,−1)に関する立体射影 h− : S2 −{(0, 0,−1)} → R2を導入する。すなわち、(x1, x2, x3) ∈S2 − {(0, 0,−1)}に対して
(0, 0,−1) + t(x1, x2, x3 + 1) = (tx1, tx2,−1 + t(x3 + 1))
の第三成分が 0になる点を対応させることになるので、
−1 + t(x3 + 1) = 0
t =1
1 + x3
.
8 第 1章 準備
よって、
h−(x1, x2, x3) =
(x1
1 + x3
,x2
1 + x3
)((x1, x2, x3) ∈ S2 − {(0, 0,−1)}).
z ∈ C = R2に対して
h− ◦ f ◦ h−1− (z) = h− ◦ h−1
+ ◦ P ◦ h+ ◦ h−1− (z)
となるので、まず、h+ ◦ h−1− (z)を計算しておく。h−1
− (z)を求めるためには、直線
(0, 0,−1) + t(z1, z2, 1) = (tz1, tz2,−1 + t)
と S2との交点を求めればよい。
t2z21 + t2z2
2 + 1t2 − 2t = 1
t2(z21 + z2
2 + 1) − 2t = 0
t =2
1 + z21 + z2
2
.
よって
h−1− (z1, z2)
= (0, 0,−1) +2
1 + z21 + z2
2
(z1, z2, 1)
=1
1 + z21 + z2
2
(2z1, 2z2,−1 − z21 − z2
2 + 2)
=1
1 + z21 + z2
2
(2z1, 2z2, 1 − z21 − z2
2).
これより、z = z1 +√−1z2 = (z1, z2) ∈ C = R2 に対して、
1 − 1 − z21 + z2
2
1 + z21 + z2
2
=2(z2
1 + z22)
1 + z21 + z2
2
となり、
h+ ◦ h−1− (z) =
1 + z21 + z2
2
2(z21 + z2
2)
(2z1
1 + z21 + z2
2
,2z2
1 + z21 + z2
2
)
=1
z21 + z2
2
(z1, z2)
=z
|z|2= 1/z.
これより、h− ◦ h−1+ (z) = 1/zもわかる。
P (z) = a0zn + a1z
n−1 + · · · + an (a0 6= 0)
1.1. 多様体とC∞級写像 9
とおいておくと、
h− ◦ f ◦ h−1− (z) = h− ◦ h−1
+ ◦ P ◦ h+ ◦ h−1− (z)
= h− ◦ h−1+ ◦ P (1/z)
= h− ◦ h−1+ (a0z
−n + a1z−n+1 + · · · + an)
= 1/(a0z−n + a1z
−n+1 + · · · + an)
= zn/(a0zn + a1z
n−1 + · · · + an).
よって、h− ◦ f ◦ h−1− は z = 0の近傍で C∞級になる。以上より、f : S2 → S2は
C∞級写像になる。次に P の微分について考える。
P (z) = P (z1, z2) = (P1(z1, z2), P2(z1, z2))
とおくと、P は複素正則関数だから、Cauchy-Riemannの方程式より、
∂P1
∂z1
=∂P2
∂z2
,∂P1
∂z2
= −∂P2
∂z1
が成り立つ。他方、
P ′ =∂P1
∂z1
+√−1
∂P2
∂z1
となるので、
|P ′|2 =
(∂P1
∂z1
)2
+
(∂P2
∂z1
)2
= det(dP ).
したがって、P の臨界点はP ′(z) = 0となる点 zに一致する。ところが、P (z)は多項式だから、P ′(z)も多項式になり、P ′(z) = 0となる点 zは有限個しかない。これより、f : S2 → S2の臨界値も有限個になり、正則値の全体は連結になる。よって、次に示す補題 1.1.17より正則値の全体で定義された局所定数関数 y 7→ #f−1(y)は定数関数になり、特に 0ではない。つまり、fは全射になり、P の零点は存在する。
補題 1.1.17 連結集合上の局所定数関数は定数関数になる。
証明 連結集合C上の局所定数関数 αについて考える。x0 ∈ Cをとり、
C0 = {x ∈ C | α(x) = α(x0)}, C1 = {x ∈ C | α(x) 6= α(x0)}
によってCの部分集合C0, C1を定める。定め方より
C0 ∩ C1 = ∅, C = C0 ∪ C1
が成り立つ。さらにC0とC1がCの開集合になることを示す。y0 ∈ C0を任意にとるとα(y0) = α(x)が成り立つ。αが局所定数であることから y0のある開近傍U0が
10 第 1章 準備
存在し任意の y ∈ U0に対してα(y) = α(y0)が成り立つ。よって、α(y) = α(x)となり y ∈ C0を得る。したがって、U0 ⊂ C0となりC0は開集合になる。次に y1 ∈ C1
を任意にとると α(y1) 6= α(x)が成り立つ。αが局所定数であることから y1のある開近傍 U1が存在し任意の y ∈ U1に対して α(y) = α(y1)が成り立つ。よって、α(y) 6= α(x)となり y ∈ C1を得る。したがって、U1 ⊂ C1となりC1も開集合になる。Cは連結だから、以上のことからC0またはC1は空集合になる。x ∈ C0よりC0は空集合ではないので、C1が空集合になる。すなわち、αは定数関数になる。
注意 1.1.18 多項式に限らず複素変数 z = z1 +√−1z2の複素正則関数 φ(z)を
φ(z) = (φ1(z1, z2), φ2(z1, z2))
と表すと、Cauchy-Riemannの方程式
∂φ1
∂z1
=∂φ2
∂z2
,∂φ1
∂z2
= −∂φ2
∂z1
が成り立つ。φはCの開集合からCへの写像なので、R2の開集合からR2への写像とみなすこともできる。この観点から φの微分を考えると
dφ =
[∂φ1
∂z1
∂φ1
∂z2∂φ2
∂z1
∂φ2
∂z2
]=
[∂φ1
∂z1−∂φ2
∂z1∂φ2
∂z1
∂φ1
∂z1
].
これは R2 から R2 への一般の線形写像ではなく、特殊な形をしている。複素数α = a + b
√−1をかけるというCからCへの複素線形写像 φαをR2からR2への
実線形写像とみなすと、
φα[1√−1] = [a + b
√−1 − b + a
√−1] = [1
√−1]
[a −b
b a
]
となり、φα の表現行列は dφと同じ形の行列になっている。すなわち、Cauchy-
Riemannの方程式は複素正則関数をCの開集合からCへの写像とみなしたときの微分が複素数倍に対応する線形写像になっていることを意味する。複素正則は複素変数に関して微分可能だから、局所的に複素数倍で近似できるということと考え合せるとわかりやすい。
1.2 正則値の逆像定理 1.2.1 (Sard) m ≥ 0, n ≥ 1としておく。UをRmの開集合とし、f : U → Rn
をC∞級写像とする。C = {x ∈ U | rankdfx < n}
とおくと、f(C)の Lebesgue測度は 0になる。
1.2. 正則値の逆像 11
定理の証明は次の節で行う。この定理を使うため、臨界点等の定義を拡張する。
定義 1.2.2 f : M → N を多様体M から多様体N へのC∞級写像とする。x ∈ M
に対して、dfx : TxM → Tf(x)N が全射になるとき、xを f の正則点と呼ぶ。M の正則点ではない点を臨界点と呼ぶ。y ∈ Nに対して、f(x) = yとなる fの臨界点 x
が存在するとき、yを f の臨界値と呼ぶ。N の臨界値ではない点を正則値と呼ぶ。
上の定義において、二つの多様体の次元が等しいときは、定義1.1.13に一致する。
系 1.2.3 (Brown) 多様体の間のC∞級写像 f : M → Nの正則値の集合は、Nの稠密な部分集合になる。
証明 多様体は可算個の開集合のパラメータ付けで覆われ、各パラメータ付けを持つ開集合においては、定理 1.2.1より、臨界値の集合のLebesgue測度は 0になるので、補集合は稠密になる。したがって、f の正則値全体の集合も稠密になる。
補題 1.2.4 f : M → N を多様体の間のC∞級写像とする。dim M ≥ dim N と仮定する。f の正則値 y ∈ N に対して、f−1(y)は次元 dim M − dim N の多様体になる。
証明 m = dim M, n = dim N とおく。x ∈ f−1(y)をとる。yは正則値だから、dfx : TxM → TyN は全射になる。
V = {v ∈ TxM | dfx(v) = 0}
とおくと、V は TxM の次元m − nの部分ベクトル空間になる。M ⊂ Rkとしておく。V ⊂ TxM ⊂ Rkに注意しておく。V からRm−nへの線形
同型写像をRkに拡張した線形写像を L : Rk → Rm−nとする。
F : M → N × Rm−n ; p 7→ (f(p), L(p))
によって、C∞級写像 F を定める。F の微分 dFxは
dFx(v) = (dfx(v), L(v)) (v ∈ TxM)
で与えられる。Lの定め方より、dFxは線形同型写像になる。したがって、定理1.1.12より、M 内の xの開近傍 U とN × Rm−n内の (y, L(x))の開近傍 V が存在し、F はU から V への微分同型写像になる。F の定め方より、F は f−1(y)∩U を({y} × Rm−n) ∩ V に微分同型に写すので、f−1(y)はm − n次元多様体になる。
例 1.2.5 補題 1.2.4の応用例として、例 1.1.4で扱った球面が多様体になることの別証明を与える。C∞級関数 f : Rn+1 → Rを
f(x1, . . . , xn+1) = x21 + . . . + x2
n+1 ((x1, . . . , xn+1) ∈ Rn+1)
12 第 1章 準備
で定める。すると、dfx = [2x1, . . . , 2xn+1]
となり、Rn+1の原点 0のみが f の臨界点であることがわかる。よって、0以外の実数は f の正則値になり、特に f−1(1) = Snは、補題 1.2.4より、n次元多様体になる。
定義 1.2.6 多様体M ′が多様体Mに含まれているとする。x ∈ M ′に対して、TxM′
は TxM の部分ベクトル空間になる。TxM 内の TxM′の直交補空間をM 内のM ′
の xにおける法ベクトル空間と呼ぶ。
補題 1.2.7 補題 1.2.4と同じ仮定のもとで、f(x) = yとなる x ∈ M をとる。このとき、
{v ∈ TxM | dfx(v) = 0}
は多様体 f−1(y)の点 xにおける接ベクトル空間に一致する。dfxはM 内の f−1(y)
の xにおける法ベクトル空間から TyN への線形同型を与える。
証明 M ′ = f−1(y)とおき、
V = {v ∈ TxM | dfx(v) = 0}
としておく。f をM ′に制限すると、値 yをとる定値写像になるので、dfx|TxM ′ =
0。よって、TxM′ ⊂ V となるが、どちらの次元も dim M − dim N になるので、
TxM′ = V が成り立つ。
仮定より、線形写像 dfx : Tx → TyN は全射になるので、M 内のM ′の xにおける法ベクトル空間から TyN への線形同型を与える。
定義 1.2.8 半空間Hmを
Hm = {(x1, . . . , xm) ∈ Rm | xm ≥ 0}
で定めると、Hmの境界は ∂Hm = Rm−1 × {0}になる。部分集合X ⊂ Rkが次の条件を満たすとき、Xを境界付きm次元多様体と呼ぶ。各点 x ∈ XはRk内の開近傍W を持ち、W ∩XはHmの開集合Uと微分同型になる。∂Hmに対応するX
の点全体をXの境界と呼び、∂Xで表す。X − ∂XをXの内部と呼ぶ。
定理 1.2.9 (1次元多様体の分類) 連結な 1次元多様体は円 S1または実数のある区間に微分同型になる。
注意 1.2.10 実数の区間は開区間、半開区間、閉区間のいずれかであり、
(0, 1), (0, 1], [0, 1]
のいずれかに微分同型になる。したがって、定理 1.2.9の主張は、連結な 1次元多様体は円 S1, (0, 1), (0, 1], [0, 1] のいずれかに微分同型になるということになる。
1.2. 正則値の逆像 13
定理 1.2.9の証明をするために、若干の準備をしておく。
定義 1.2.11 Iを実数の区間とする。1次元多様体M に対して、M のパラメータ付け f : I → M がM の開集合への微分同型であり、各 s ∈ I に対して速度ベクトル
dfs(1) =d
dsf(s) = f ′(s) ∈ Tf(s)M
が単位ベクトルになるとき、f を弧長によるパラメータ付けと呼ぶ。
注意 1.2.12 1次元多様体の各点の近傍には弧長によるパラメータ付けが存在することは、曲線論の本には必ず書かれていることではあるが、簡単に復習しておこう。M を 1次元多様体、Jを実数の区間とし、g : J → M をM のパラメータ付けとする。t0 ∈ J を一つとり固定しておく。パラメータ付けであることから、任意の t ∈ J に対して g′(t) 6= 0が成り立つ。そこで、
s(t) =
∫ t
t0
‖g′(t)‖dt (t ∈ J)
とおくと、s(t)は J 上定義された単調増加関数になり、s(J)は実数の区間、s :
J → s(J)は微分同型になる。逆関数 s−1 : s(J) → J と g : J → M との合成f = g ◦ s−1 : s(J) → M を考えると
f ′ = g′(s−1)′ = g′ · 1
s′=
g′
‖g′‖
となり、f ′は単位ベクトルになるので、f : s(J) → M は弧長によるパラメータ付けになる。
補題 1.2.13 Mを1次元多様体、IとJを実数の区間とし、f : I → Mとg : J → M
を弧長によるパラメータ付けとする。このとき、f(I) ∩ g(J)は高々二つの連結成分を持つ。連結成分が一つの場合、f(I) ∪ g(J)上の弧長によるパラメータ付けにf を拡張できる。連結成分が二つの場合、M は S1に微分同型になる。
証明 f(I)∩ g(J)が空集合の場合は言及する必要がないので、f(I)∩ g(J)が空集合ではない場合を考える。写像
g−1 ◦ f : f−1(f(I) ∩ g(J)) → g−1(f(I) ∩ g(J))
は微分同型になる。さらに fと gはどちらも弧長によるパラメータ付けなので、微分は長さを保つ線形写像になる。よって、命題 1.1.10より g−1 ◦ f の微分も長さを保つ線形写像になる。つまり、g−1 ◦ f は傾き±1の一次関数になる。
I × J の部分集合
Γ = {(s, t) ∈ I × J | f(s) = g(t)} ⊂ I × J
14 第 1章 準備
について考える。これは関数 g−1 ◦ f のグラフとみなすことができる。さらに上で示したことからΓは傾き±1の線分からなる。さらにΓの端点は I × Jの内部にはないことがわかる。もし内部にあるとすると線分をそのまま I × J 内で延長できることになるので、延長した部分もΓに含まれ矛盾する。よってΓの端点は I × J
の境界にあることになる。g−1 ◦ f が微分同型であることから、I × J の各辺にある Γの端点は高々一つになり、I × Jの辺の数は 4だから、Γの連結成分は高々二つになる。
Γ ⊂ I × J
a b c d
γ
δ
α
β
上の図のように各点の値を定める。必要ならパラメータを平行移動することにより、c = γ, d = δとすることができる。すると、次の不等式が成り立つ。
a < b ≤ c = γ < d = δ ≤ α < β.
Γの定め方より{
f(t) = g(t) (c = γ ≤ t ≤ d = δ)
g(t) = f(t − α + a) (α ≤ t ≤ β)
が成り立つ。そこで、S1のパラメータ θに対して θ = 2πt/(α − a)によって θと t
を対応させ、
h(cos θ, sin θ) =
{f(t) (a < t < d)
g(t) (c = γ < t < β)
によって C∞級写像 h : S1 → M を定める。hは局所的に微分同型になるので、像 h(S1)はMの開集合になる。他方、S1はコンパクトだから h(S1)もコンパクトになり、M において h(S1)は閉集合になる。M は連結だから h(S1) = M が成り立つ。さらに、hの定め方から hは S1全体で全単射になるので、hは微分同型になる。
定理 1.2.9の証明 M を連結な 1次元多様体とする。M の任意の弧長によるパラメータ付けを定義域が極大になるように弧長によるパラメータ付け f : I → M
に拡張することができる。
1.2. 正則値の逆像 15
Mが S1に微分同型ではないと仮定する。f が全射になることを示す。これがわかれば f : I → Mは微分同型になり、すなわちMは区間に微分同型になる。定義1.2.11より f(I)はM の開集合になる。f(I)がM に一致しないと仮定する。すると、f(I)の極限点でありM − f(I)の点である xが存在する。xの近傍の弧長によるパラメータ付けをとるとM が S1と微分同型ではないことから補題 1.2.13により f を区間の片方にだけ拡張することができる。これは f : I → M の極大性に矛盾する。したがって、f は全射になり証明は完結する。
例 1.2.14 Hm自身境界付きm次元多様体になる。その内部Hm − ∂HmはRmと微分同型になることが次のようにしてわかる。
f : Rm → Hm − ∂Hm ; (x1, . . . , xm) 7→ (x1, . . . , xm−1, exm)
はC∞級写像になり、逆写像
f−1 : Hm − ∂Hm → Rm ; (y1, . . . , ym) 7→ (y1, . . . , ym−1, log ym)
もC∞級写像になる。したがって、f は微分同型になる。
補題 1.2.15 g : M → Rを多様体M 上のC∞級関数とし、0 ∈ Rを gの正則値とする。このとき、
{x ∈ M | g(x) ≥ 0}
は境界 g−1(0)を持つ多様体になる。
証明 dim M = mとおいておく。問題の集合の部分集合を
N+ = {x ∈ M | g(x) > 0}
によって定めると、問題の集合はN+ ∪ g−1(0)に一致する。さらに、N+はM の開集合になるのでm次元多様体になる。よって、N+の各点はRmの開集合と微分同型になり、例 1.2.14よりHmの開集合に微分同型になる。次にx ∈ g−1(0)について考える。0は gの正則値だから、dgx : TxM → T0R = R
は全射になる。V = {v ∈ TxM | dgx(v) = 0}
とおくと、V は TxM の次元m − 1の部分ベクトル空間になる。M ⊂ Rkとしておく。V ⊂ TxM ⊂ Rkに注意しておく。V からRm−1への線形
同型写像をRkに拡張した線形写像を L : Rk → Rm−1とする。
F : M → Rm ; p 7→ (L(p), g(p))
によって、C∞級写像 F を定める。F の微分 dFxは
dFx(v) = (L(v), dgx(v)) (v ∈ TxM)
16 第 1章 準備
で与えられる。Lの定め方より、dFxは線形同型写像になる。したがって、定理1.1.12より、M内の xの開近傍UとRm内の (L(x), 0)の開近傍 V が存在し、F はU から V への微分同型写像になる。F の定め方より、F は (N+ ∪ g−1(0)) ∩ U をHm ∩V に微分同型に写すので、N+ ∪ g−1(0)は境界付きm− 1次元多様体になる。
例 1.2.16 Rm上のC∞級関数 gを
g(x1, . . . , xm) = 1 −m∑
i=1
x2i
によって定めると、例 1.2.5と同様の計算より、Rmの原点のみが gの臨界点になるので、1のみが gの臨界値になる。補題 1.2.15より、
Dm = {x ∈ Rm | g(x) ≥ 0}
は境界付き多様体になり、境界は g−1(0) = Sm−1になる。
補題 1.2.17 f : X → Nを境界付きm次元多様体Xからn次元多様体NへのC∞
級写像とする。m > nと仮定する。y ∈ N が f と f |∂Xの両方に関する正則値ならば、f−1(y)は境界付き (m−n)次元多様体になる。さらに∂(f−1(y)) = f−1(y)∩∂X
が成り立つ。
証明 証明すべき性質は、局所座標近傍で考えれば十分なので、f : Hm → Rn
であって、正則値 y ∈ Rnについて考える。x ∈ f−1(y)をとる。xがXの内部に含まれるときは、xの近傍では f−1(y)は (m − n)次元多様体に
なる。次に xがXの境界に含まれる場合を考える。f : X → RnはC∞級写像なので、
Rm内の xの開近傍 U と C∞級写像 g : U → Rnが存在し、g|U∩Hm = f |U∩Hm となる。yは f の正則値だから、必要ならUを小さくすることにより、gはい臨界点を持たないとしてよい。よって、g−1(y)は (m − n)次元多様体になる。
Rmの第m成分への射影を g−1(y)に制限したものを π : g−1(y) → Rで表す。
π(x1, . . . , xm) = xm ((x1, . . . , xm) ∈ g−1(y)).
0 ∈ Rがこの写像の正則値であることを示す。補題 1.2.7より、x ∈ g−1(y)∩π−1(0)
における g−1(y)の接ベクトル空間は
dgx = dfx : Rm → Rn
の核に一致する。yは f |∂Hm の正則値にもなっているという仮定より、
dim ker(dfx|∂Hm) = (m − 1) − n.
1.2. 正則値の逆像 17
これより、kerdfx 6= ker(dfx|∂Hm) = kerdfx ∩ Rm−1 × {0}
となり、特に、kerdfxはRm−1 × {0}に含まれることはない。よって、
dπx : Tx(g−1(y)) → R
は 0にはならない。つまり、全射になり、xは πの正則点になる。以上より 0 ∈ R
は π : g−1(y) → Rの正則値になる。補題 1.2.15より、
g−1(y) ∩ Hm = {x ∈ g−1(y) | π(x) ≥ 0}
は境界付き多様体になり、境界は
π−1(0) = g−1(y) ∩ ∂Hm
に一致する。
補題 1.2.18 X を境界付きコンパクト多様体とする。このとき、C∞ 級写像 f :
X → ∂Xで f |∂X = 1∂X を満たすものは存在しない。
証明 f |∂X = 1∂X を満たす C∞級写像 f : X → ∂X が存在すると仮定する。y ∈ ∂Xを f の正則値とする。f |∂X = 1∂X より、yは f |∂X の正則値にもなる。補題 1.2.17より、f−1(y)は境界付き 1次元コンパクト多様体になる。さらに
∂(f−1(y)) = ∂X ∩ f−1(y) = {y}
となり、f−1(y)の境界は一点 yのみになる。他方、定理 1.2.9より境界付き 1次元コンパクト多様体は S1 と閉区間の有限個の合併になる。よって、境界の点の個数は偶数個になるので、これは矛盾する。したがって、このような C∞級写像f : X → ∂Xは存在しない。
補題 1.2.19 任意のC∞級写像 g : Dn → Dnは不動点を持つ。
証明 gは不動点を持たないと仮定する。x ∈ Dnに対して、xと g(x)を結ぶ直線と Sn−1の交点で g(x)よりも xから近い点を f(x)として定める。特に x ∈ ∂Dn =
Sn−1のときは f(x) = xが成り立つ。f : Dn → Sn−1 = ∂Dnが C∞級であることがわかれば、補題 1.2.18に矛盾する。したがって、gは不動点を持つ。そこで f がC∞級であることを示そう。gは不動点を持たないという仮定から x
と g(x)を結ぶ直線は必ず定まり
x + tx − g(x)
|x − g(x)|(t ∈ R)
18 第 1章 準備
となる。
u =x − g(x)
|x − g(x)|とおく。上の直線と Sn−1との交点での tは
1 = |x + tu|2 = |x|2 + 2〈x, u〉t + t2
を満たす。
t2 + 2〈x, u〉t + |x|2 − 1 = 0
t = −〈x, u〉 ±√〈x, u〉2 − |x|2 + 1
f の定め方より、
f(x) = x +(−〈x, u〉 +
√〈x, u〉2 − |x|2 + 1
)u
となり、f はC∞級写像になる。
f(x)x
g(x)
補題 1.2.19ではDnのC∞級写像が不動点を持つことを示した。さらに、連続写像でも不動点を持つことがわかる。その証明の準備として、連続写像が C∞級写像で近似できることを示しておく。
定理 1.2.20 (Dini) Xをコンパクト距離空間とする。X上定義された単調増加実数値連続関数列 (fn)がX上定義された連続関数 gに各点収束するとき、(fn)は g
に一様収束する。
証明 任意に ε > 0をとる。各 x ∈ Xに対してある自然数 n(x)が存在し
m ≥ n(x) ⇒ g(x) − fm(x) ≤ ε
3
が成り立つ。gと fn(x)は連続だから、xの開近傍 U(x)と V (x)が存在し
x′ ∈ U(x) ⇒ |g(x) − g(x′)| ≤ ε
3
1.2. 正則値の逆像 19
とx′ ∈ V (x) ⇒ |fn(x)(x) − fn(x)(x
′)| ≤ ε
3
が成り立つ。そこで、W (x) = U(x) ∩ V (x)とおくとW (x)は xの開近傍になり、
x′ ∈ W (x) ⇒ |g(x) − g(x′)| ≤ ε
3, |fn(x)(x) − fn(x)(x
′)| ≤ ε
3
を得る。以上より x′ ∈ W (x)のとき
g(x′) − fn(x)(x′) ≤ |g(x′) − g(x)| + g(x) − fn(x)(x) + |fn(x)(x) − fn(x)(x
′)| ≤ ε.
{W (x) | x ∈ X}はXの開被覆になり、Xはコンパクトだから有限個の x1, . . . , xk
が存在し {W (xi) | 1 ≤ i ≤ k}はXの開被覆になる。
n0 = max{n(xi) | 1 ≤ i ≤ k}
とおくと、n ≥ n0のとき、任意の x ∈ X に対してある xiが存在し x ∈ W (xi)となり
g(x) − fn(x) ≤ g(x) − fn0(x) ≤ g(x) − fn(xi)(x) ≤ ε.
したがって、(fn)は gに一様収束する。
補題 1.2.21 閉区間 [0, 1]上√
tに単調増加一様収束する実多項式の列 (un)が存在する。
証明 u1 = 0とし、unを次式で帰納的に定める。
un+1(t) = un(t) +1
2(t − un(t)2) (n ≥ 1).
定め方より un(t)は tの実多項式になる。任意の n ≥ 1について un(t) ≤√
tとun ≤ un+1が成り立つことを nに関する帰納法で証明する。n = 1のとき
u1(t) = 0 ≤√
t
となり、
u2(t) = u1(t) +1
2(t − u1(t)
2) ≥ u1(t)
を得る。そこで、nのときにun(t) ≤√
tとun ≤ un+1が成り立つと仮定して、n+1
でも同じ不等式が成り立つことを示す。
√t − un+1(t) =
√t −
{un(t) +
1
2(t − un(t)2)
}
=√
t − un(t) − 1
2(√
t − un(t))(√
t + un(t))
= (√
t − un(t))
{1 − 1
2(√
t + un(t))
}(∗)
20 第 1章 準備
となり、√
t − un(t) ≥ 0より
1
2(√
t + un(t)) ≤ 1
2(√
t +√
t) =√
t ≤ 1.
これらの不等式と (∗)から√
t − un+1(t) ≥ 0が成り立つ。さらに、
un+2(t) = un+1(t) +1
2(t − un+1(t)
2) ≥ un+1(t).
以上で任意の n ≥ 1について un(t) ≤√
tと un ≤ un+1が成り立つことがわかった。これより各点 t ∈ [0, 1]において (un(t))は単調増加で、un(t) ≤
√tだから上に有界
になっている。よって un(t)は収束する。その極限を v(t)で表す。un(t)を定めた漸化式の両辺の n → ∞による極限をとると
v(t) = v(t) +1
2(t − v(t)2)
が成り立つ。したがって、v(t)2 = tとなり v(t) ≥ 0だから v(t) =√
tが成り立つ。un(t)は単調増加で
√tに各点収束するので、定理 1.2.20より un(t)は
√tに一様収
束する。
定理 1.2.22 (Stone-Weierstrass) Xをコンパクト距離空間とする。X上の実数値連続関数全体の成すベクトル空間C(X)に
‖f‖ = max{|f(x))| | x ∈ X}
によってC(X)上のノルム ‖ ‖を定める。C(X)の部分ベクトル空間Aが積に関して閉じていて、定数関数をすべて含み、異なる任意の二点 x, y ∈ Xに対してあるf ∈ Aが存在し f(x) 6= f(y)が成り立つと仮定する。このとき Aは C(X)内で稠密になる。
証明 いくつかの段階に分けて定理を証明する。(1) まず f ∈ Aに対して、|f |は Aの C(X)内の閉包 Aに含まれることを示
す。補題 1.2.21の実多項式 un(t)を利用して un(f 2/‖f‖2)について考える。Aが積について閉じていることから f 2 ∈ Aであり、さらに Aは定数関数を含むのでun(f 2/‖f‖2) ∈ Aが成り立つ。un(t)は
√tに一様収束するので、任意の ε > 0に対
してある n0が存在し
n ≥ n0 ⇒√
t − un(t) < ε/‖f‖.
0 ≤ f2/‖f‖2 ≤ 1であり、√
f2/‖f‖2 = |f |/‖f‖だから、
n ≥ n0 ⇒ |f |/‖f‖ − un(f2/‖f‖2) < ε/‖f‖.
1.2. 正則値の逆像 21
これより、n ≥ n0 ⇒ |f | − ‖f‖un(f2/‖f‖2) < ε
となり、‖f‖un(f2/‖f‖2) ∈ Aは |f |に一様収束し、|f | ∈ Aが成り立つ。(2) Aの元 f, gに対してmin{f, g}とmax{f, g}は Aに属することを示す。Aは
C(X)の部分ベクトル空間だから、Aも C(X)の部分ベクトル空間になる。さらにAが積について閉じていることから、Aも積について閉じていることがわかる。よって、(1)を Aにも適用できる。f − g ∈ Aだから、|f − g| ∈ Aが成り立つ。よって、
min{f, g} =1
2(f + g − |f − g|), max{f, g} =
1
2(f + g + |f − g|)
は Aに含まれる。(3) 任意の異なる点 x, y ∈ X と任意の実数 α, βに対してある f ∈ Aが存在し、
f(x) = α, f(y) = βが成り立つことを示す。定理の仮定よりある g ∈ Aが存在しg(x) 6= g(y)が成り立つ。そこで
f = α +β − α
g(y) − g(x)(g − g(x))
とおくと、Aは定数関数を含むので f ∈ Aとなり、f(x) = α, f(y) = β が成り立つ。
(4) 任意の f ∈ C(X)、任意の点 x ∈ Xと任意の ε > 0に対して、ある g ∈ Aが存在して g(x) = f(x)と
g(y) ≤ f(y) + ε (y ∈ X)
が成り立つことを示す。各 z ∈ Xに対してhz ∈ Aを次のように定める。z = xのときはhx = f(x) ∈ A (定数関数)とし、z 6= xのときは (3)よりhz(x) = f(x), hz(z) =
f(z)を満たすように hz ∈ Aをとることができる。各 hzは zにおいて連続だからzのある開近傍 U(z)が存在し、
y ∈ U(z) ⇒ hz(y) ≤ hz(z) +ε
2= f(z) +
ε
2.
さらに f も zにおいて連続だから zのある開近傍 V (z)が存在し、
y ∈ V (z) ⇒ f(z) − ε
2≤ f(y).
そこでW (z) = U(z) ∩ V (z)とおくと、W (z)は zの開近傍になり
y ∈ W (z) ⇒ hz(y) ≤ f(z) +ε
2≤ f(y) + ε
が成り立つ。{W (z) | z ∈ X}はX の開被覆になり、X はコンパクトだから有限個の z1, . . . , zkが存在し {W (zi) | 1 ≤ i ≤ k}はXの開被覆になる。
g = min{hzi| 1 ≤ i ≤ k}
22 第 1章 準備
とおくと、(2)を繰り返し使うことにより g ∈ Aとなることがわかる。この gが条件を満たしていることを確かめておこう。各 hzi
は hzi(x) = f(x)を満たすの
で、g(x) = f(x)が成り立つ。任意の y ∈ X に対してある 1 ≤ i ≤ kが存在してy ∈ W (zi)となるので、
g(y) ≤ hzi(y) ≤ f(y) + ε
が成り立ち、gは条件を満たしていることがわかる。(5) A = C(X)を示し、定理の証明が完了する。任意の f ∈ C(X)と任意の ε > 0
をとる。(4)より、各 x ∈ Xに対してある gx ∈ Aが存在して gx(x) = f(x)と
gx(y) ≤ f(y) + ε (y ∈ X)
が成り立つ。f と gxは連続だから、xの開近傍 U(x)と V (x)が存在し
y ∈ U(x) ⇒ |f(x) − f(y)| ≤ ε
2
とy ∈ V (x) ⇒ |gx(x) − gx(y)| ≤ ε
2
が成り立つ。そこで、W (x) = U(x) ∩ V (x)とおくとW (x)は xの開近傍になり、y ∈ W (x)ならば
|f(y) − gx(y)| ≤ |f(y) − f(x)| + |gx(x) − gx(y)| ≤ ε
2+
ε
2= ε
を得る。すなわち、y ∈ W (x) ⇒ f(y) − ε ≤ gx(y)
が成り立つ。{W (x) | x ∈ X}はX の開被覆になり、X はコンパクトだから有限個の x1, . . . , xkが存在し {W (xi) | 1 ≤ i ≤ k}はXの開被覆になる。
φ = max{gxi| 1 ≤ i ≤ k}
とおくと、(2)を繰り返し使うことによりφ ∈ Aとなることがわかる。任意の y ∈ X
に対してあるW (xi)が存在し y ∈ W (xi)が成り立つので
f(y) − ε ≤ gxi(y) ≤ φ(y).
よってf(y) − ε ≤ φ(y) (y ∈ X)
が成り立つ。さらにどの xiについても
gxi(y) ≤ f(y) + ε (y ∈ X)
が成り立つのでφ(y) ≤ f(y) + ε (y ∈ X)
1.2. 正則値の逆像 23
が成り立つ。結局
f(y) − ε ≤ φ(y) ≤ f(y) + ε (y ∈ X)
となり、‖f − φ‖ ≤ εを得る。したがって、f ∈ Aとなり A = C(X)が成り立つ。
定理 1.2.23 (Brouwerの不動点定理) 任意の連続写像 g : Dn → Dnは不動点を持つ。
証明 gが不動点を持たないと仮定する。任意の x ∈ Dnに対して g(x) 6= xとなり、Dnはコンパクトだから、
min{|g(x) − x| | x ∈ Dn} = µ > 0.
0 < ε < µ/2とおいておく。Weierstrassの近似定理より、ある多項式写像p1 : Rn →Rnが存在し、
|g(x) − p1(x)| < ε (x ∈ Dn)
となる。p = p1/(1 + ε)とおくと、x ∈ Dnに対して
|p1(x)| ≤ |g(x)| + ε ≤ 1 + ε
となるので、|p(x)| ≤ 1、よって p(x) ∈ Dn。さらに、
|g(x) − p(x)| ≤ |g(x) − p1(x)| + |p1(x) − p(x)| < ε + |p1(x)|∣∣∣∣1 − 1
1 + ε
∣∣∣∣
≤ ε + (1 + ε)ε
1 + ε≤ 2ε = µ
より、|g(x) − p(x)| < µ.
したがって、|g(x) − x| ≤ |g(x) − p(x)| + |p(x) − x|
より、|p(x) − x| ≥ |g(x) − x| − |g(x) − p(x)| > µ − µ = 0.
これより、p : Dn → Dnは不動点を持たないことになり、補題 1.2.19に矛盾する。したがって、gは不動点を持たない。
24 第 1章 準備
1.3 Sardの定理の証明定理 1.3.1 (Sard) n ≥ 0, p ≥ 1のとしておく。U をRnの開集合とし、f : U →RpをC∞級写像とする。
C = {x ∈ U | rankdfx < p}
とおくと、f(C)の Lebesgue測度は 0になる。
証明 nに関する帰納法で証明する。n = 0のときは、主張は明らか。n− 1のときに主張が成り立つと仮定して、nのときに主張が成り立つことを証
明する。
Ci =
{x ∈ U
∣∣∣∣∂jfa
∂xs1 · · · ∂xsj
(x) = 0 (1 ≤ a ≤ p, 1 ≤ j ≤ i)
}
とおくと、C ⊃ C1 ⊃ C2 ⊃ · · · ⊃ Ci ⊃ · · ·
となる。以下では、次の三段階に分けて主張を証明する。
(1) f(C − C1)の Lebesgue測度は 0である。
(2) f(Ci − Ci+1)の Lebesgue測度は 0である。
(3) 十分大きな kに対して f(Ck)の Lebesgue測度は 0である。
以上が証明できれば、f(C)の Lebesgue測度は 0になる。
(1) p = 1の場合は、
C = {x ∈ U | rankdfx < 1} = {x ∈ U | dfx = 0} = C1.
C − C1 = ∅となり、f(C − C1) = ∅の Lebesgue測度は 0になる。p ≥ 2の場合を考える。x ∈ C − C1をとる。xにおいて、f のある方向の偏微
分は 0にならないので、座標の順序を変えることにより、∂f1/∂x1(x) 6= 0としてよい。
h : U → Rn ; x 7→ (f1(x), x2, . . . , xn)
によってC∞級写像 hを定める。
det dhx = det
∂f1
∂x1(x) ∂f1
∂x2(x) · · · ∂f1
∂xn(x)
0... 1n−1
0
=∂f1
∂x1
(x) 6= 0
1.3. Sardの定理の証明 25
だから、dhxは線形同型になり、U ⊂ Rn内の xのある開近傍 V とRnの開集合 V ′
が存在し、h : V → V ′は微分同型になる。
g = f ◦ h−1 : V ′ → Rp
とおく。gの臨界点の集合を
C ′ = {x ∈ V ′ | rankdgx < p}
とすると、hは微分同型だから、C ′ = h(V ∩ C)。よって、g(C ′) = f(V ∩ C)。(t, x2, . . . , xn) ∈ V ′に対して、
f1 ◦ h−1(t, x2, . . . , xn) = t
となるので、
g(t, x2, . . . , xn) ∈ {t} × Rp−1 ((t, x2, . . . , xn) ∈ V ′).
これより、gはC∞級写像
gt : ({t} × Rn−1) ∩ V ′ → {t} × Rp−1
を誘導する。gの微分は
dg =
[1 0
∂gtk
∂t
∂gtk
∂xl
]
となるので、
{(t, x2, . . . , xn) ∈ V ′ | (t, x2, . . . , xn)は gの臨界点 }= {(t, x2, . . . , xn) ∈ V ′ | (t, x2, . . . , xn)は gtの臨界点 }
が成り立つ。帰納法の仮定より、gtの臨界点全体の像の p − 1次元 Lebesgue測度は 0になるので、g(C ′) ∩ ({t} ×Rp−1)の p− 1次元 Lebesgue測度は 0になる。他方、C ′は閉集合だから、コンパクト集合の可算個の合併になり、g(C ′)もコンパクト集合の可算個の合併になる。特に、Lebesgue可測になる。したがって、Fubini
の定理から、g(C ′) = f(V ∩ C)の p次元 Lebesgue測度は 0になる。以上より、各 x ∈ C − C1 に対して開近傍 Vx が存在し、f(Vx ∩ C)の p次元
Lebesgue測度は 0になる。{Vx}x∈C−C1 はC − C1の開被覆になるので、可算個の開被覆 {Vi}をとることができ、
f(C − C1) ⊂ ∪if(Vi ∩ C)
の p次元 Lebesgue測度も 0になる。
26 第 1章 準備
(2) x ∈ Ck−Ck+1をとる。xにおいて、fのある (k+1)階偏微分∂k+1fr/∂xs1 . . . ∂xsk+1(x)
は 0にならないので、
w(x) = ∂kfr/∂xs2 . . . ∂xsk+1(k階微分)
とおくと、∂w/∂xs1(x) 6= 0。座標の順序を変えることにより、∂w/∂x1(x) 6= 0としてよい。
h : U → Rn ; x 7→ (w(x), x2, . . . , xn)
によってC∞級写像 hを定める。(1)と同様、dhxは線形同型になり、U ⊂ Rn内の xのある開近傍 V とRnの開集合 V ′が存在し、h : V → V ′は微分同型になる。
g = f ◦ h−1 : V ′ → Rp
とおく。hの定め方より、h(Ck ∩ V ) ⊂ {0} ×Rn−1 ∩ V ′。gの {0} ×Rn−1 ∩ V ′への制限を
g : {0} × Rn−1 ∩ V ′ → Rp
とおくと、gはC∞級写像になり、帰納法の仮定より、gの臨界点全体の像の p次元 Lebesgue測度は 0になる。hは微分同型だから、h(Ck ∩ V )の各点において、g
の微分は 0になり、gh(Ck ∩ V ) = f(Ck ∩ V )
の p次元 Lebesgue測度は 0になる。以上より、各 x ∈ Ck − Ck+1に対して開近傍 Vxが存在し、f(Vx ∩ C)の p次元
Lebesgue測度は 0になる。{Vx}x∈Ck−Ck+1はCk −Ck+1の開被覆になるので、可算
個の開被覆 {Vi}をとることができ、
f(Ck − Ck+1) ⊂ ∪if(Vi ∩ C)
の p次元 Lebesgue測度も 0になる。
(3) k > n/p − 1を満たす自然数 kについて、f(Ck)の p次元 Lebesgue測度が0になることを示す。一辺の長さが δの n次元立方体 In ⊂ Uをとる。Ck内の点では、fの任意の k階
以下の偏微分が 0になるので、InがコンパクトであることとTaylorの定理を使うと、ある定数 c > 0が存在し
f(x + h) = f(x) + R(x, h), |R(x, h)| ≤ c|h|k+1 (x ∈ Ck ∩ In, x + h ∈ In)
が成り立つことがわかる。Inを一辺の長さ δ/rの rn個のn次元立方体に分割する。その一つ I1にCkの元 xが入っているとする。このとき、
I1 ⊂ {x + h | |h| ≤√
nδ/r}.
1.3. Sardの定理の証明 27
さらに、|h| ≤√
nδ/rとなる hに対して
|f(x + h) − f(x)| = |R(x, h)| ≤ c|h|k+1 ≤ c(√
nδ)k+1/rk+1.
よって、f(I1)は一辺の長さ 2c(√
nδ)k+1/rk+1 の p次元立方体に含まれる。そのp次元立方体の p次元 Lebesgue測度は (2c(
√nδ)k+1/rk+1)pとなる。したがって、
f(Ck ∩ In)の p次元 Lebesgue測度は
rn(2c(√
nδ)k+1/rk+1)p = (2c)p(√
nδ)p(k+1)rn−(k+1)p.
で上から評価される。kはk > n/p−1を満たすようとっているので、n−(k+1)p <
0。よって、r → ∞とすると、f(Ck ∩ In)の p次元 Lebesgue測度はいくらでも小さい正の数で上から評価されることになり、f(Ck ∩ In)の p次元 Lebesgue測度は0になる。
CkはU内の加算個の n次元立方体で被覆されるので、f(Ck)の p次元Lebesgue
測度も 0になる。
28
第2章 多様体のトポロジー
2.1 法 2の写像度定義 2.1.1 部分集合X ⊂ Rkと Y ⊂ Rlをとる。二つのC∞級写像 f, g : X → Y
に対して、次の条件を満たすC∞級写像F : X× [0, 1] → Y が存在するとき、f ∼ g
と書き、f と gは滑らかにホモトピックであるという。
F (x, 0) = f(x), F (x, 1) = g(x) (x ∈ X).
ただし、X × [0, 1] ⊂ Rk+1とみなす。
補題 2.1.2 部分集合X ⊂ Rkと Y ⊂ Rlをとる。Xから Y へのC∞級写像全体の集合の中の滑らかにホモトピックという関係は同値関係になる。
証明 C∞級写像 f : X → Y に対して
F (x, t) = f(x) ((x, t) ∈ X × [0, 1])
によって写像 F : X × [0, 1] → Y を定めると、F によって f ∼ f となる。C∞級写像 f, g : X → Y が f ∼ gとなるとき、
F (x, 0) = f(x), F (x, 1) = g(x) (x ∈ X)
を満たすC∞級写像 F : X × [0, 1] → Y が存在する。そこで、
G(x, t) = F (x, 1 − t) ((x, t) ∈ X × [0, 1])
によってC∞級写像G : X × [0, 1] → Y を定めると、
G(x, 0) = F (x, 1) = g(x), G(x, 1) = F (x, 0) = f(x)
となり、g ∼ f。C∞級写像 f, g, h : X → Y が f ∼ g, g ∼ hとなるとき、
F (x, 0) = f(x), F (x, 1) = g(x) (x ∈ X)
G(x, 0) = g(x), G(x, 1) = h(x) (x ∈ X)
2.1. 法 2の写像度 29
を満たす C∞級写像 F,G : X × [0, 1] → Y が存在する。この証明の後で示す補題2.1.3の (3)より、C∞級関数 φ : [0, 1] → [0, 1]であって
φ(t) = 0 (0 ≤ t ≤ 1/3)
φ(t) = 1 (2/3 ≤ t ≤ 1)
を満たすものが存在する。このとき、
H(x, t) =
{F (x, φ(2t)) (1 ≤ t ≤ 1/2)
G(x, φ(2t − 1)) (1/2 ≤ t ≤ 1)
とおくと、H : X × [0, 1] → Y はC∞級写像になり、
H(x, 0) = f(x), H(x, 1) = h(x) (x ∈ X).
よって f ∼ h。以上より、∼は同値関係になる。
補題 2.1.3 (1) R(t)を tに関する有理関数とすると
limt→+0
R(t)e−1/t = 0
が成り立つ。
(2) 関数 a(t)を
a(t) =
{0 (t ≤ 0)
e−1/t (t > 0)
によって定めると、a(t)はC∞級関数になる。
(3) (2)で定めた a(t)を使って
φ(t) =a(t − 1
3)
a(t − 13) + a(2
3− t)
によって関数 φ(t)を定めると、φ(t)は
φ(t) = 0 (t ≤ 1/3)
0 < φ(t) < 1 (1/3 < t < 2/3)
φ(t) = 1 (2/3 ≤ t)
を満たすC∞級関数になる。
30 第 2章 多様体のトポロジー
証明 (1) t > 0に対して s = 1/tとおくと
R(t)e−1/t =R(t)
e1/t=
R(1/s)
es
となる。R(1/s)は sに関する有理関数になる。P (s)/Q(s)をR(1/s)の既約な表示とし (P (s), Q(s)は sに関する多項式)、P (s), Q(s)の次数をそれぞれm,nとする。指数関数の羃級数展開
es =∞∑
k=0
sk
k!
より、どんな自然数 kに対しても 0 < sのとき es > sk/k!が成り立つ。よって、N > max{m,n}に対して、
0 ≤∣∣∣∣R(1/s)
es
∣∣∣∣ =
∣∣∣∣P (s)
Q(s)es
∣∣∣∣ ≤ (N − n)!|P (s)|
|Q(s)|sN−n= (N − n)!
sm|P (s)/sm|sN |Q(s)/sn|
.
ここで
lims→+∞
sm|P (s)/sm|sN |Q(s)/sn|
= 0
だから、
lims→+∞
∣∣∣∣R(1/s)
es
∣∣∣∣ = 0
となって、lim
t→+0R(t)e−1/t = 0
がわかる。(2) 0以上のすべての整数 nに対して正の実数全体で定義された tに関する有理
関数Rn(t)が存在して、次の (式 n)
dna
dtn(t) =
{0 (t ≤ 0)
Rn(t)e−1/t (t > 0)
が成り立つことを nに関する帰納法で証明する。これがわかれば aは C∞級関数になる。
R0(t) = 1とおけば (式 0)は aの定義そのものである。次に (式 n)が成り立つと仮定して (式 n + 1)が成り立つことを証明しよう。まず
dna
dtnが t = 0で微分可能で微分係数が 0になることを示そう。(式 n)より
limt→−0
1
t
dna
dtn(t) = 0
limt→+0
1
t
dna
dtn(t) = lim
t→+0
1
tRn(t)e−1/t = 0. ((1)より)
2.1. 法 2の写像度 31
したがってdna
dtnは 0で微分可能で微分係数が 0になる。さらに (式 n)より
dn+1a
dtn+1(t) =
d
dt
dna
dtn(t) = 0 (t < 0),
dn+1a
dtn+1(t) =
d
dt
dna
dtn(t) =
(d
dtRn(t) + Rn(t)
1
t2
)e−1/t (t > 0)
が成り立つので
Rn+1(t) =d
dtRn(t) + Rn(t)
1
t2
とおくとはRn+1(t)正の実数全体で定義された tに関する有理関数になり (式n+1)
が成り立つ。(3) 1/3 < tのとき a(t − 1
3) > 0であり、t < 2/3のとき a(2
3− t) > 0だから、
φ(t)の定義式の分母はすべての実数 tについて
a
(t − 1
3
)+ a
(2
3− t
)> 0
を満たす。よって、φ(t)は実数全体で定義されたC∞級関数になる。t ≤ 1/3のとき a(t − 1
3) = 0だから φ(t) = 0になる。1/3 < t < 2/3のとき
0 < a
(t − 1
3
)< a
(t − 1
3
)+ a
(2
3− t
)
となるので 0 < φ(t) < 1が成り立つ。2/3 ≤ tのとき a(23− t) = 0だから φ(t) = 1
になる。
定義 2.1.4 部分集合X ⊂ Rkと Y ⊂ Rlをとる。二つの微分同型 f, g : X → Y に対して、f と gがC∞級写像F : X × [0, 1] → Y によって滑らかにホモトピックになり、各 t ∈ [0, 1]について
X → Y ; x 7→ F (x, t)
が微分同型になるとき、f は gに滑らかにイソトピックであるという。
補題 2.1.5 f, g : M → N を等しい次元を持つ多様体の間の滑らかにホモトピックなC∞級写像とし、M は境界がなくコンパクトであると仮定する。N は境界を持っていてもよい。f と gの共通の正則値 y ∈ N に対して
#f−1(y) ≡ #g−1(y) (mod2)
が成り立つ。
32 第 2章 多様体のトポロジー
証明 C∞級写像F : M × [0, 1] → N によって、f と gが滑らかにホモトピックになるとする。M × [0, 1]は境界付き多様体になり、その境界は
∂(M × [0, 1]) = M × {0} ∪ M × {1}
となる。まず、y ∈ N が F の正則値にもなっている場合を考える。このとき、補題 1.2.17より、F−1(y)は境界付き 1次元多様体になり、境界 ∂F−1(y)は
F−1(y) ∩ (M × {0} ∪ M × {1})= {(x, 0) | x ∈ M, F (x, 0) = y} ∪ {(x, 0) | x ∈ M, F (x, 1) = y}= {(x, 0) | x ∈ M, f(x) = y} ∪ {(x, 0) | x ∈ M, g(x) = y}= f−1(y) × {0} ∪ g−1(y) × {1}
に一致する。M はコンパクトだから、F−1(y)はコンパクト境界付き 1次元多様体になる。よって F−1(y)の境界の元の個数は偶数になる。
#f−1(y) + #g−1(y) ≡ 0 (mod2)
となり、#f−1(y) ≡ #g−1(y) (mod2)
が成り立つ。次に yがFの正則値ではない場合を考える。命題 1.1.15より、yの開近傍V1 ⊂ N
が存在し y′ ∈ V1に対して#f−1(y′)は定数になり、特に#f−1(y)に一致する。gに関しても同様に、yの開近傍 V2 ⊂ N が存在し y′ ∈ V1に対して#g−1(y′)は定数になり、特に#g−1(y)に一致する。そこで、F の正則値 z ∈ V1 ∩ V2をとると、すでに示したことより、
#f−1(y) = #f−1(z) ≡ #g−1(z) = #g−1(y) (mod2).
したがって、#f−1(y) ≡ #g−1(y) (mod2)
が成り立つ。
補題 2.1.6 y, z ∈ Nを連結多様体Nの任意の内点とする。このとき、Nの恒等写像と滑らかにイソトピックな微分同型 h : N → N であって、h(y) = zを満たすものが存在する。ただし、N は境界を持っていてもよい。
証明 まず、|y| < 1となる y ∈ Rnに対して、滑らかなイソトピー Ftで
F0(x) = x (x ∈ Rn)
F1(0) = y
Ft(x) = x (|x| ≥ 1)
2.1. 法 2の写像度 33
を満たすものを構成する。補題 2.1.3の (3)と同様にして、下の条件を満たす C∞
級関数 φ : R → R を構成できる。
φ(t) = 1 (t ≤ |y|)0 < φ(t) < 1 (|y| < t < 1)
φ(t) = 0 (1 ≤ t)
このC∞級関数 φを使った常微分方程式
dx
dt= φ(|x|)y, x(0) = x
の解をFt(x)で表すと、x 7→ φ(|x|)yの台は原点中心半径 |y|の球体に含まれ、特にコンパクトになる。よって、任意の x ∈ Rnと任意の t ∈ Rに対して Ft(x)は定まる。F0はRnの恒等写像になり、|x| ≥ 1のときはφ(|x|) = 0となるので、Ft(x) = x
となる。ここで|Ft(0)| ≤ |y| (0 ≤ t ≤ 1)
が成り立つことを示しておこう。0 ≤ t ≤ 1に対して
|Ft(0)| = |Ft(0) − F0(0)| =
∣∣∣∣∫ t
0
d
dsFs(0)ds
∣∣∣∣ =
∣∣∣∣∫ t
0
φ(|Fs(0)|)yds
∣∣∣∣
≤∣∣∣∣∫ t
0
|φ(|Fs(0)|)y|ds
∣∣∣∣ ≤∫ t
0
|y|ds = t|y| ≤ |y|.
これと φ(t)の定め方より
φ(|Ft(0)|) = 1 (0 ≤ t ≤ 1)
が成り立つ。したがって、
F1(0) − F0(0) =
∫ 1
0
d
dtFt(0)dt =
∫ 1
0
φ(|Ft(0)|)ydt = y
となるので、Ftは望む滑らかなイソトピーになる。次に一般の連結多様体N の任意の内点 y, zについて考える。N の恒等写像と滑
らかにイソトピックな微分同型 h : N → Nであって、h(x) = x′を満たすものが存在するとき、xと x′はイソトピックであるということにする。補題 2.1.2の証明と同様にして、イソトピックはN の内点の同値関係になることがわかる。さらに上で示したことから、N の内点の各点 xのある開近傍の元は、xとイソトピックになり、各同値類は開集合になる。N は連結だからその内点全体も連結になり、N
の内点全体は yとイソトピックな元の全体に一致する。
34 第 2章 多様体のトポロジー
定理 2.1.7 f : M → N を等しい次元を持つ多様体の間の C∞級写像とし、M は境界がなくコンパクトであると仮定する。N は連結であるとし、境界は持っていてもよい。このとき、f の正則値 y, zに対して
#f−1(y) ≡ #f−1(z) (mod2)
が成り立つ。さらに、この法 2の剰余類は f に滑らかにホモトピックな C∞級写像に対して等しくなる。
証明 補題2.1.6より、Nの恒等写像と滑らかにイソトピックな微分同型h : N →N であって、h(y) = zを満たすものが存在する。このとき、zは h ◦ f の正則値にもなっている。f と h ◦ f は滑らかにホモトピックになり、補題 2.1.5より、
#f−1(z) ≡ #(h ◦ f)−1(z) (mod2)
が成り立つ。他方
(h ◦ f)−1(z) = f−1(h−1(z)) = f−1(y)
となるので、#f−1(y) ≡ #f−1(z) (mod2)
が成り立つ。次に f, g : M → N が滑らかにホモトピックであると仮定する。Sardの定理よ
り、f と gの両方に共通の正則値 y ∈ N が存在する。このとき、補題 2.1.5より、
#f−1(y) ≡ #g−1(y) (mod2)
となる。
定義 2.1.8 f : M → Nを等しい次元を持つ多様体の間のC∞級写像とし、Mは境界がなくコンパクトであると仮定する。Nは連結であるとし、境界は持っていてもよい。このとき、定理 2.1.7より、fの正則値 yに対して法 2の剰余類#f−1(y)(mod2)
は yの選び方に依存しない。この剰余類を f の法 2の写像度と呼び、deg2 f で表す。これはC∞級写像の滑らかにホモトピックな類にのみ依存する。
系 2.1.9 多様体M は境界がなくコンパクトであると仮定する。このとき、M の恒等写像と定値写像は滑らかにホモトピックにはならない。
証明 恒等写像の法 2の写像度は 1であり、定値写像の法 2の写像度は 0だから、定理 2.1.7より、両者は滑らかにホモトピックにはならない。
定理 2.1.10 f : X → Y を境界付きコンパクト (n + 1)次元多様体X から連結 n
次元多様体 Y へのC∞級写像とする。このとき、deg2(f |∂X : ∂X → Y ) = 0が成り立つ。
2.2. 向きの付いた多様体 35
証明 Sardの定理より、f : X → Y と f |∂X : ∂X → Y の両方に共通の正則値y ∈ Y が存在する。補題 1.2.17より、f−1(y)は境界付き 1次元コンパクト多様体になる。さらに
∂(f−1(y)) = ∂X ∩ f−1(y) = (f |∂X)−1(y)
となる。定理 1.2.9より境界付き 1次元コンパクト多様体は S1と閉区間の有限個の合併になる。よって、境界の点の個数は偶数個になるので次の等式を得る。
deg2(f |∂X : ∂X → Y ) ≡ #((f |∂X)−1(y)) (mod2)
≡ 0 (mod2).
2.2 向きの付いた多様体定義 2.2.1 有限次元実ベクトル空間 V の基底の全体に次の同値関係を導入する。V の基底 (b1, . . . , bn)と (b′1, . . . , b
′n)に対して、基底変換 b′i =
∑j aj
i bj の定める行列 [aj
i ]の行列式 det[aji ]が正になるとき、二つの基底 (b1, . . . , bn)と (b′1, . . . , b
′n)は
同値であるという。単位行列の行列式は 1だから特に正になり、上の基底の関係は対称律を満たすことがわかる。逆行列の行列式は元の行列の行列式の逆数になるので、上の基底の関係は反射律を満たすことがわかる。さらに、行列の積の行列式はそれぞれの行列式の積になるので、上の基底の関係は推移律を満たすことがわかる。これらよりこの基底の関係は同値関係になる。この同値関係の同値類を V の向きと呼ぶ。ベクトル空間の基底を一つとり、その基底に正の行列式を持つ変換行列を作用させて得られる基底と負の行列式を持つ変換行列を作用させて得られる基底を考えることにより、基底の全体は二つの同値類に分割されることがわかる。すなわち、ベクトル空間の向きは二つあることになる。Rn の基底(1, 0, . . . , 0), (0, 1, 0, . . . , 0), (0, . . . , 0, 1)の定める向きをRnの標準的な向きと呼ぶ。0次元ベクトル空間 {0}の向きは、+1と−1を考えることにする。多様体Mの各接ベクトル空間に次の条件を満たす向きが定まっているとき、M
を向きの付いた多様体と呼ぶ。M の各点に対して開近傍U と、U からRmの開集合への微分同型 hが存在し、各 x ∈ Uに対して、dhx : TxM → Rmは向きを保つ。ここで、Rmの向きは標準的な向きを考えている。向きの存在する多様体を向き付け可能多様体と呼ぶ。0次元多様体の向きは、各点に+1または−1をつけたものとする。
定義 2.2.2 向きの付いた境界付き多様体Mの境界 ∂Mに向きを定めるために、まず ∂M での接ベクトルを次の三つに分類する。x ∈ ∂M をとる。m = dim M としておく。
(1) (m − 1)次元部分空間 Tx(∂M) ⊂ TxM .
(2) M の内部を向く接ベクトルを内向きベクトルと呼ぶ。
36 第 2章 多様体のトポロジー
(3) 内向きベクトルの−1倍を外向きベクトルと呼ぶ。
m ≥ 2のとき、TxM の基底 (v1, . . . , vm)をM の正の向きになるようにとる。さらに、v2, . . . , vmが ∂M に接し、v1が外向きベクトルになるようにする。このとき、(v2, . . . , vm)が (m − 1)次元多様体 ∂M の向きを定める。M の次元が 1のときは、x ∈ ∂Mに対して、TxMの正の向きのベクトルが外向きのとき、xの向きを+1と定め、TxM の正の向きのベクトルが内向きのとき、xの向きを−1と定める。
v1
v2
v1
v1
−1
+1
定義 2.2.3 M とN をともに向きの付いた n次元多様体とし、どちらも境界を持たないとする。さらに、M はコンパクトであり、N は連結であると仮定する。f
の正則点 x ∈ M に対して、線形同型写像 dfx : TxM → Tf(x)N が向きを保つときdfxの符号を+1と定め、dfx : TxM → Tf(x)N が向きを逆にするとき dfxの符号を−1と定める。dfxの符号を signdfxで表す。f の正則値 y ∈ N に対して
deg(f ; y) =∑
x∈f−1(y)
signdfx
によって deg(f ; y)を定める。
補題 2.2.4 定義 2.2.3と同じ仮定のもとで、f の正則値 y ∈ N に deg(f ; y)を対応させる関数は、局所定数になる。
証明 f の正則値 y ∈ N に対して、命題 1.1.15の証明中に示したように、各x ∈ f−1(y)の開近傍Uxと yの開近傍 V が存在し、f |Ux : Ux → V は微分同型になり、z ∈ V の逆像 f−1(z)と各 Uxは一点で交わる。f |Ux : Ux → V が微分同型であることから、x′ ∈ Uxにおける dfx′ の符号は dfxの符号に一致するので、z ∈ V に対して
deg(f ; y) =∑
x∈f−1(y)
signdfx =∑
x′∈f−1(z)
signdfx′ = deg(f ; z)
が成り立ち、局所定数であることがわかる。
2.2. 向きの付いた多様体 37
定理 2.2.5 定義 2.2.3と同じ仮定のもとで、f の正則値 y ∈ N に対する deg(f ; y)
は、正則値 yの選び方に依存しない。さらに、この値は f に滑らかにホモトピックなC∞級写像に対して等しくなる。
定理の証明に必要になる補題をいくつか準備しておく。
補題 2.2.6 Xを向きの付いた境界付きコンパクト多様体とし、∂XにはXの向きから定まる向きを入れておく。N を ∂X と同じ次元を持つ境界のない向きの付いた連結多様体とする。C∞級写像 F : X → N の制限 f = F |∂X : ∂X → N の正則値 y ∈ N に対して、deg(f ; y) = 0が成り立つ。
証明 まずyがFの正則値にもなっている場合を考える。補題1.2.17より、F−1(y)
は境界付き 1次元多様体になり、
∂(F−1(y)) = F−1(y) ∩ ∂X = f−1(y)
が成り立つ。F−1(y)は境界付きコンパクト 1次元多様体になるので、有限個の S1
と弧の合併になる。特に弧の両端点の全体が ∂(F−1(y))に一致する。一つの弧 A
をとり ∂A = {a} ∪ {b}とおく。以下で
signdfa + signdfb = 0
を示す。x ∈ Aをとる。(v1, . . . , vn+1)を TxXの正の向きの基底であって、v1はAに接し
ているとする。(dFx(v2), . . . , dFx(vn+1))が TF (x)N の正の向きの基底になるとき、v1を TxAの正の向きの基底と定めることにより、Aの向きが確定する。各 x ∈ A
について v1(x)を TxAの正の向きの基底とし、xについて v1(x)がC∞級になるようにとることができる。このとき、Aの端点の片方で v1(x)が外向きならば、他方の端点では内向きになる。そこで、aで v1(a)は内向きであり、bで v1(b)は外向きであるとする。TaXの基底 (v1(a), v2, . . . , vn+1)をTxXの正の向きにとり、さらに、v2, . . . , vn+1は ∂Xに接するようにすると、v1(a)は内向きだから、∂Xの向きの定め方より、Ta(∂X)の負の向きの基底になる。したがって、dfa : Ta(∂X) → Tf(a)N
の符号は−1になる。signdfa = −1.
点 bでは v1(b)は外向きなので、同様の考察から
signdfb = +1.
これらより、signdfa + signdfb = 0
を得る。
38 第 2章 多様体のトポロジー
f−1(y)は∂(F−1(y))に一致し、F−1(y)の弧の両端点の全体だから、二点ずつが一つの弧の両端点として組になって現れ、二端点での dfの符号の和が 0になるので、
deg(f ; y) =∑
x∈f−1(y)
signdfx = 0
が成り立つ。f の任意の正則値 y ∈ N について考える。補題 2.2.4より、yのある開近傍 V が
存在し、y′ ∈ V に対してdeg(f ; y′) = deg(f ; y)
となる。Sardの定理より、V 内に F の正則値にもなる点 zが存在し、先に示したことより、
deg(f ; y) = deg(f ; z) = 0
が成り立つ。
補題 2.2.7 M と N が定義 2.2.3と同じ仮定を満たしているとする。C∞ 級写像f, g : M → N が滑らかなホモトピー F : [0, 1] × M → N によって滑らかにホモトピックになっていると仮定すると、f と gの共通の正則値 y ∈ N に対して
deg(f ; y) = deg(g; y)
が成り立つ。
証明 [0, 1] × M は境界付き多様体になり、[0, 1]の正の向きの接ベクトル v1とM の正の向きの接ベクトルの基底 v2, . . . , vn+1を並べて、(v1, v2, . . . , vn+1)を正の向きの基底にすることにより、[0, 1]×Mは向きの付いた多様体になる。[0, 1]×M
の境界は∂([0, 1] × M) = {0} × M ∪ {1} × M
になることに注意しておく。このとき、{1}×Mにおいて v1は外向きになるので、{1}×Mの境界としての向きは、もとのMの向きに一致する。{0}×Mにおいてv1は内向きになるので、{0}×Mの境界としての向きは、もとのMの向きと逆になる。したがって、
deg(F |∂([0,1]×M); y) = deg(g; y) − deg(f ; y).
他方、補題 2.2.6より、deg(F |∂([0,1]×M); y) = 0
だから、deg(f ; y) = deg(g; y)
が成り立つ。
2.2. 向きの付いた多様体 39
定理 2.2.5の証明 y, z ∈ N を f の正則値とする。補題 2.1.6より、N の恒等写像と滑らかにイソトピックな微分同型 h : N → N であって、h(y) = zを満たすものが存在する。このとき、zは h ◦ f の正則値にもなっている。f と h ◦ f は滑らかにホモトピックになり、補題 2.2.7より、
deg(h ◦ f ; z) = deg(f ; z)
が成り立つ。また、hはNの恒等写像と滑らかにイソトピックな微分同型だから、N の向きを保存する。
(h ◦ f)−1(z) = f−1(h−1(z)) = f−1(y)
となり、各 x ∈ f−1(y)について
signdfx = signd(h ◦ f)x.
よって、
deg(f ; y) =∑
x∈f−1(y)
signdfx =∑
x∈(h◦f)−1(z)
signd(h ◦ f)x = deg(h ◦ f ; z).
したがって、deg(f ; y) = deg(f ; z)
が成り立つ。次に f, g : M → N が滑らかにホモトピックであると仮定する。Sardの定理よ
り、f と gの両方に関する正則値 y ∈ N が存在する。このとき、補題 2.2.7より、
deg(f ; y) = deg(g; y)
となる。
定義 2.2.8 定義 2.2.3と同じ仮定のもとで、定理 2.2.5より、f の正則値 yに対して deg(f ; y)は yの選び方に依存しない。この値を f の写像度と呼び、degf で表す。これはC∞級写像の滑らかにホモトピックな類にのみ依存する。
例 2.2.9 複素平面CとR2を同一視すると、絶対値 1の複素数全体はS1と同一視される。そこで、整数 kに対して
fk : S1 → S1 ; z 7→ zk
によって、C∞級写像 fkを定めると、degfk = kとなる。
例 2.2.10 定義 2.2.3と同じ仮定のもとで、さらに f が定値写像であるとすると、degf = 0となる。
40 第 2章 多様体のトポロジー
例 2.2.11 M, Nをともにコンパクトで向きの付いた同じ次元の連結な多様体とする。このとき、向きを保つ微分同型写像 f : M → N に対して、degf = +1となり、向きを逆にする微分同型写像 f : M → N に対して、degf = −1となる。特に、向きを保つ微分同型写像と向きを逆にする微分同型写像とは、滑らかにホモトピックにはならない。
例 2.2.12 n次元球面の微分同型写像 ri (1 ≤ i ≤ n + 1)を
ri : Sn → Sn ; (x1, . . . , xn+1) 7→ (x1, . . . ,−xi, . . . , xn+1)
によって定めると、riは Snの向きを逆にする。原点中心の点対称写像
r : Sn → Sn ; x 7→ −x
は r = r1 ◦ · · · ◦ rn+1と表せ、n + 1が偶数のときは向きを保ち、n + 1が奇数のときは向きを逆にする。したがって、degr = (−1)n+1が成り立つ。特に、nが偶数のときは rは恒等写像と滑らかにホモトピックにはならない。
定義 2.2.13 多様体M ⊂ Rk上定義されたC∞級写像 v : M → Rkが、M の各点xで v(x) ∈ TxM を満たすとき、vをM 上のC∞級ベクトル場と呼ぶ。
定理 2.2.14 n次元球面 Sn上に各点で 0にならないC∞級ベクトル場が存在するための必要十分条件は、nが奇数になることである。
証明 nが奇数であると仮定する。n = 2k − 1とおく。
v(x1, . . . , x2k) = (x2,−x1, x4,−x3, . . . , x2k,−x2k−1)
によって、S2k−1上のC∞級ベクトル場 vを定める。各 x ∈ S2k−1に対して
〈v(x), x〉 = x2x1 − x1x2 + · · · + x2kx2k−1 − x2k−1x2k = 0
が成り立つので、v(x) ∈ TxS2k−1となっている。さらに、v(x)は任意の x ∈ S2k−1
に対して 0にはならない。逆に Sn 上に各点で 0にならない C∞ 級ベクトル場 v が存在すると仮定する。
v(x)/|v(x)|を考えることにより、ベクトル場はすべての点で単位ベクトルになっているとしてよい。v(x) ∈ TxS
nより、
〈v(x), x〉 = 0 (x ∈ Sn)
が成り立ち、単位ベクトルであることから
〈v(x), v(x)〉 = 1 (x ∈ Sn)
2.3. 線形群の連結性 41
が成り立つ。
F : Sn × [0, π] → Sn ; (x, θ) 7→ x cos θ + v(x) sin θ
とおく。
〈F (x, θ), F (x, θ)〉 = 〈x cos θ + v(x) sin θ, x cos θ + v(x) sin θ〉= 〈x, x〉 cos2 θ + 〈v(x), v(x)〉 sin2 θ
= cos2 θ + sin2 θ
= 1.
よって、F (x, θ) ∈ Snとなる。さらに、
F (x, 0) = x, F (x, π) = −x
となる。これより、原点中心の点対称写像 rはSnの恒等写像と滑らかにホモトピックになる。例 2.2.12より、nは偶数にはならない。したがって、nは奇数になる。
注意 2.2.15 定理 2.2.14の証明中から、nが奇数のとき、Snの原点中心の点対称rは恒等写像と滑らかにホモトピックになることがわかる。
2.3 線形群の連結性この節では次の線形群の弧状連結性に関する結果を解説する。ただし、n次複素
正方行列全体をMn(C)で表し、n次実正方行列全体をMn(R)で表すことにする。
GL(n,C) = {g ∈ Mn(C) | det(g) 6= 0},U(n) = {u ∈ Mn(C) | uu∗ = 1},
GL(n,R) = {g ∈ Mn(R) | det(g) 6= 0},O(n) = {u ∈ Mn(R) | uu∗ = 1},
SO(n) = {u ∈ Mn(R) | uu∗ = 1, det(u) = 1}.
GL(n,C)を複素一般線形群、U(n)をユニタリ群、GL(n,R)を実一般線形群、O(n)
を直交群、SO(n)を回転群と呼ぶ。このうちで、GL(n,R)の弧状連結成分に関する結果が次の節で必要になる。
定理 2.3.1 ユニタリ群 U(n)は弧状連結である。
42 第 2章 多様体のトポロジー
証明 U(n)の任意の元 uは uu∗ = u∗uを満たし正規行列になる。Toeplitzの定理より uはユニタリ行列によって対角化可能である。つまり、ある g ∈ U(n)とa1, . . . , an ∈ Cが存在して
g−1ug =
a1
. . .
an
となる。g−1ug ∈ U(n)だから |a1| = · · · = |an| = 1。よって θ1, . . . , θn ∈ Rが存在して ai = e
√−1θi (1 ≤ i ≤ n)となる。
u = g
a1
. . .
an
g−1 = g
e√−1θ1
. . .
e√−1θn
g−1.
そこで
γ(t) = g
e√−1θ1t
. . .
e√−1θnt
g−1
によって γ(t)を定めると、γはRからU(n)へのC∞級写像になる。さらに、γ|[0,1]
は U(n)の単位元と uを結ぶ曲線になり、U(n)は弧状連結になることがわかる。
注意 2.3.2
T n =
e√−1t1
. . .
e√−1tn
∣∣∣∣∣∣∣t1, . . . , tn ∈ R
とおくと、T nはトーラス (U(1)の積)になり、定理 2.3.1の証明中に示したことより、等式
U(n) =⋃
g∈U(n)
gT ng−1
が成り立つ。これはコンパクトLie群の極大トーラスの共役性をユニタリ群の場合に示したことになっている。
定理 2.3.3 回転群 SO(n)は弧状連結である。
証明 SO(n) ⊂ U(n)だから定理 2.3.1の証明と同様にSO(n)の任意の元 uに対して、ある g ∈ U(n)と θ1, . . . , θn ∈ Rが存在して
u = g
e√−1θ1
. . .
e√−1θn
g−1.
2.3. 線形群の連結性 43
uの固有多項式は実係数だから uの固有値の共役複素数も uの固有値になる。これより、gの縦ベクトルの順序を適当にかえて
(∗) u = g
e√−1θ1
e−√−1θ1
. . .
e√−1θk
e−√−1θk
ε2k+1
. . .
εn
g−1
とできる。ただし θi /∈ πZ (1 ≤ i ≤ k), εj = ±1 (2k + 1 ≤ j ≤ n)である。g = [g1 . . . gn]と表すと、(∗)は
u[g1 . . . gn] = [g1 . . . gn]
e√−1θ1
e−√−1θ1
. . .
e√−1θk
e−√−1θk
ε2k+1
. . .
εn
となるので、ug2i−1 = e√−1θig2i−1 (1 ≤ i ≤ k) が成り立つ。uは実行列だから
ug2i−1 = e−√−1θi g2i−1 (1 ≤ i ≤ k) を得る。そこで g2i を g2i−1 に置き換えても
g ∈ U(n)となり (∗)は成り立つ。また 2k + 1 ≤ j ≤ nに対して εj ∈ Rだからgj ∈ Rn とすることができる。さらに detu = 1だから εj = −1となる εj の個数は偶数。よって gの縦ベクトルの順序を適当にかえて ε2k+1 = · · · = ε2l = −1,
ε2l+1 = · · · = εn = 1とできる。1 ≤ i ≤ kに対して
h2i−1 =1√2(g2i−1 + g2i−1), h2i =
1√−2
(g2i−1 − g2i−1)
とおき hj = gj (2k + 1 ≤ j ≤ n)とすると h = [h1 . . . hn] ∈ U(n)で hは実行列になる。したがって h ∈ O(n)を得る。1 ≤ i ≤ kに対して
uh2i−1 =1√2(e
√−1θig2i−1 + e−
√−1θi g2i−1)
=1√2{(cos θi +
√−1 sin θi)g2i−1 + (cos θi −
√−1 sin θi)g2i−1}
=cos θi√
2(g2i−1 + g2i−1) +
√−1 sin θi√
2(g2i−1 − g2i−1)
44 第 2章 多様体のトポロジー
= cos θih2i−1 − sin θih2i
uh2i =1√−2
(e√−1θig2i−1 − e−
√−1θi g2i−1)
=1√−2
{(cos θi +√−1 sin θi)g2i−1 − (cos θi −
√−1 sin θi)g2i−1}
=
√−1 sin θi√
−2(g2i−1 + g2i−1) +
cos θi√−2
(g2i−1 − g2i−1)
= sin θih2i−1 + cos θih2i
となるので
θi = π (k + 1 ≤ i ≤ l)
R(θi) =
[cos θi sin θi
− sin θi cos θi
](1 ≤ i ≤ l)
とおくと
u = h
R(θ1). . .
R(θl)
1. . .
1
h−1.
そこで
γ(t) = h
R(θ1t). . .
R(θlt)
1. . .
1
h−1
によってγ(t)を定めると、γはRからSO(n)へのC∞級写像になる。さらに、γ|[0,1]
はSO(n)の単位元と uを結ぶ曲線になり、SO(n)は弧状連結になることがわかる。
系 2.3.4 直交群O(n)の弧状連結成分は、SO(n)と {g ∈ O(n)|detg = −1}の二つである。
証明 定理 2.3.3より SO(n)は弧状連結で、deth = −1となる h ∈ O(n)をとると
{g ∈ O(n)|detg = −1} = hSO(n)
となりこれも弧状連結。したがって SO(n)と hSO(n)はどちらも O(n)の弧状連結成分になりO(n) = SO(n) ∪ hSO(n)はO(n)の弧状連結成分への分解になっている。
2.3. 線形群の連結性 45
定理 2.3.5 GL(n,C)は弧状連結である。
証明 X ∈ Mn(C)の (i, j)成分をXijで表すことにする。
T (n,C) = {X ∈ Mn(C) | Xii > 0 (1 ≤ i ≤ n), Xij = 0 (i > j)}
とおくと、T (n,C)はMn(C)の凸部分集合になる。特に T (n,C)は弧状連結である。さらに、X ∈ T (n,C)に対して detX =
∏ni=1 Xii > 0 だからX ∈ GL(n,C)。
したがって T (n,C) ⊂ GL(n,C)。さらに T (n,C)はGL(n,C)の部分群になる。
P : U(n) × T (n,C) → GL(n,C) ; (a,X) 7→ aX
とおくとPは連続になる。さらにPが全射になることを示そう。任意のg ∈ GL(n,C)
に対して g = [g1 . . . gn]と縦ベクトル gi ∈ Cnを使って表す。g1, . . . , gnはCnの基底になる。Cnの標準的なHermite内積に関して g1, . . . , gnにGram-Schmidtの直交化を行う。b1 = g1, a1 = 1
|b1|b1とし、bk, ak(k ≥ 2)を次のように帰納的に定める。
bk = gk −k−1∑
i=1
〈gk, ai〉ai, ak =1
|bk|bk.
するとa1, . . . , anはCnの正規直交基底になる。各akは g1, . . . , gkの線形結合になっていて、その線形結合の gkの係数は 1/|bk| > 0である。そこで基底の変換を
(∗) [a1 . . . an] = [g1 . . . gn]X
で表すと X ∈ T (n,C)となる。a = [a1 . . . an]とおくと a ∈ U(n)で a = gX。g = aX−1になりX−1 ∈ T (n,C)だから g = P (a,X−1)。したがって P は全射である。定理 2.3.1よりU(n)は弧状連結で T (n,C)も弧状連結だからGL(n,C)は弧状連結である。
定理 2.3.6 GL(n,R)の弧状連結成分は、
GL+(n,R) = {g ∈ GL(n,R) | det g > 0}, {g ∈ GL(n,R) | det g < 0}
の二つである。
証明 定理 2.3.5の証明で使った記号を使うことにする。
T (n,R) = Mn(R) ∩ T (n,C)
とおくと、T (n,R)はMn(R)の凸部分集合になる。特に T (n,R)は弧状連結である。さらに T (n,R)はGL+(n,R)の部分群になる。以下でP (SO(n)×T (n,R)) =
GL+(n,R)を示そう。定理 2.3.5の証明と同様にすると、任意の g ∈ GL+(n,R)に対してある a ∈ O(n)とX ∈ T (n,R)が存在し a = gXとなる。detg > 0, detX > 0
46 第 2章 多様体のトポロジー
だから deta = 1になり a ∈ SO(n)。g = aX−1になりX−1 ∈ T (n,R)。したがって P (SO(n)× T (n,R)) = GL+(n,R)である。定理 12.3より SO(n)は弧状連結でT (n,R)も弧状連結だから、GL+(n,R)は弧状連結である。
det−1({t ∈ R | t > 0}) = GL+(n,R),
det−1({t ∈ R | t < 0}) = {g ∈ GL(n,R) | det g < 0}
はどちらもGL(n,R)の開かつ閉の弧状連結部分集合になる。したがってこれら 2
つがGL(n,R)の弧状連結成分である。
2.4 ベクトル場とEuler数定義 2.4.1 U ⊂ Rmを開集合とし、v : U → Rmを孤立零点 z ∈ U を持つC∞級ベクトル場とする。
{u ∈ Rm | |u − z| ≤ r} ⊂ U
を満たし、この集合内に z以外の vの零点がないような r > 0に対して
Sm−1(r) = {u ∈ U | |u − z| = r}
と定める。v(x) = v(x)/|v(x)| (x ∈ Sm−1(r))
で定まるC∞級写像 v : Sm−1(r) → Sm−1の写像度を、vの zにおける指数と呼ぶ。
注意 2.4.2 定義 2.4.1において、z = 0と仮定する。0 < r′ < rとなる r′に対して
v′(x) = v(x)/|v(x)| (x ∈ Sm−1(r′))
とおく。
hrr′ : Sm−1(r) → Sm−1(r′) ; x 7→ r′
rx
は向きを保つ微分同型になり、
F (x, t) = v(tv)/|v(tv)| ((x, t) ∈ Sm−1(r) × [r′/r, 1])
は、vと v′ ◦ hrr′の間の滑らかなホモトピーを与える。補題 2.2.7より、
deg(v) = deg(v′ ◦ hrr′) = deg(v′).
以上より、C∞級ベクトル場の零点の指数の定義は r > 0のとり方に依存しない。
Rmの開集合上定義されたC∞級ベクトル場だけでなく、多様体上のC∞級ベクトル場の孤立零点の指数を定義するためには、指数の定義が微分同型で不変になることを示しておく必要がある。そのための準備をいくつかしておく。
2.4. ベクトル場と Euler数 47
定義 2.4.3 f : M → N を多様体間の微分同型とする。vと v′をそれぞれM とN
上の C∞級ベクトル場とする。各 x ∈ M について dfx(v(x)) = v′(f(x))が成り立つとき、vと v′は f によって対応しているという。言い換えると
v′ = df ◦ v ◦ f−1
が成り立つ。
補題 2.4.4 f : U → U ′をRmの開集合間の微分同型とする。U 上のC∞級ベクトル場 vが、U ′上のC∞級ベクトル場 v′と f によって対応していると仮定する。このとき、vの孤立零点 zにおける指数は、v′の f(z)における指数に一致する。
この補題を証明するために、次の補題を示しておく。
補題 2.4.5 Rmの向きを保つ微分同型は、恒等写像に滑らかにイソトピックになる。
証明 f をRmの向きを保つ微分同型とする。平行移動により、f は原点 0を 0
に写す微分同型と滑らかにイソトピックになる。そこで、f(0) = 0と初めから仮定してよい。以下で f がその 0における微分写像
df0(x) = limt→0
f(tx)
t(x ∈ Rm)
に滑らかにイソトピックになることを示す。
F (x, t) = f(tx)/t (0 < t ≤ 1)
F (x, 0) = df0(x)
によってF : Rm × [0, 1] → Rm
を定める。F がC∞級になることを示すためには、t = 0でのC∞級性が問題になる。f(0) = 0だから、x ∈ Rmに対して
f(x) =
∫ 1
0
d
dtf(tx)dt =
∫ 1
0
m∑
i=1
∂f
∂xi
(tx)xidt =m∑
i=1
xi
(∫ 1
0
∂f
∂xi
(tx)dt
).
そこで、gi(x) =
∫ 1
0
∂f
∂xi
(tx)dt とおけば、
f(x) =m∑
i=1
xigi(x) (x = (x1, . . . , xm) ∈ Rm)
gi(0) =∂f
∂xi
(0)
48 第 2章 多様体のトポロジー
が成り立つ。これより、0 < t ≤ 1のとき
F (x, t) =f(tx)
t=
m∑
i=1
xigi(tx)
となり、さらに、
F (x, 0) = df0(x) =m∑
i=1
xi∂f
∂xi
(0) =m∑
i=1
xigi(0).
したがって、すべての (x, t) ∈ Rm × [0, 1]について
F (x, t) =m∑
i=1
xigi(tx)
が成り立つ。特に、F はRm × [0, 1]においてC∞級になる。すなわち、f は df0に滑らかにイソトピックになる。
f はRmの向きを保つので、df0もRmの向きを保つ。これは df0の行列式が正になることに他ならない。定理 2.3.6よりGL+(m,R)は弧状連結になるので、df0 ∈ GL+(m,R)はRmの
恒等写像 1に滑らかにイソトピックになる。したがって、fはRmの恒等写像に滑らかにイソトピックになる。
補題 2.4.4の証明 一般性を失うことなく、z = f(z) = 0と U が凸であることを仮定できる。まず、f が向きを保つ場合を考える。補題 2.4.5の証明と同様に、
F (x, t) = f(tx)/t (x ∈ U, 0 < t ≤ 1)
F (x, 0) = df0(x) (x ∈ U)
によってC∞級写像F : U × [0, 1] → Rm
を定める。F (·, 1) = fであり、F (·, 0) = df0となっている。定め方より、F (0, t) = 0
も成り立つ。さらに、df0とRmの恒等写像の間の滑らかなイソトピーをF と合せることにより、C∞級写像
G : U × [0, 1] → Rm
であって、G(·, 1) = f, G(·, 0) = 1を満たし、G(0, t) = 0が成り立つものを得る。
ft = G(·, t) : U → Rm
とおく。f0 = f, f1 = 1と ft(0) = 0が成り立つ。ftはすべて向きを保つ微分同型になる。U 上の C∞級ベクトル場 vは、微分同型 ftによって ft(U)上の C∞級ベ
2.4. ベクトル場と Euler数 49
クトル場 dft ◦ v ◦ f−1t と対応する。補題 2.2.7より、df0 ◦ v ◦ f−1
0 = df ◦ v ◦ f−1の零点 0における指数は、df1 ◦ v ◦ f−1
1 = vの 0における指数に一致する。f が向きを逆にする場合は、向きを保つ場合と同様にして f を滑らかに df0に変
形することができる。さらに、df0の行列式は負になるので、
ρ(x1, . . . , xm) = (−x1, x2, . . . , xm)
で定まる ρに滑らかに変形できる。よって、vと dρ0 ◦ v ◦ ρ−1の零点 0における指数が一致することを示せばよい。つまり v′ = dρ0 ◦ v ◦ ρ−1の場合を考えればよい。ρは線形写像だから、dρ0 = ρとなるので、v′ = ρ ◦ v ◦ ρ−1 が成り立つ。
v(x) = v(x)/|v(x)|, v′(x) = v′(x)/|v′(x)| (x ∈ Sm−1(r))
とおくと、v′ = ρ ◦ v ◦ ρ−1が成り立つ。
deg(v′) = deg(ρ ◦ v ◦ ρ−1) = (−1)deg(v)(−1) = deg(v).
したがって、vと v′の零点 0における指数は一致する。
定義 2.4.6 M を多様体とし、vをM 上の C∞級ベクトル場とする。z ∈ M を v
の孤立零点とすると、zの近傍のパラメータ付け g : U → M をとり、gによって対応する U 上の C∞級ベクトル場 dg−1 ◦ v ◦ gの孤立零点 g−1(z)における指数をvの zにおける指数として定義する。補題 2.4.4より、この定義はパラメータ付けg : U → M のとり方に依存しない。
定理 2.4.7 (Poincare-Hopf) Mをコンパクト多様体とする。vはM上のC∞級ベクトル場であって、零点はすべて孤立していると仮定する。M が境界を持つ場合は、さらに、M の境界上のすべての点で vは外向きであると仮定する。このとき、vの指数の和はM の Euler数に一致する。特に、指数の和はベクトル場に依存せず、M の位相不変量になる。
証明 まず、特殊な場合のC∞級ベクトル場の指数の和を考察する。
補題 2.4.8 (Hopf) X ⊂ Rmを境界を持つコンパクトm次元多様体とする。Gauss
写像g : ∂X → Sm−1
を各 x ∈ ∂X に外向きの単位法ベクトル g(x)を対応させることによって定める。v : X → RmはX上のC∞級ベクトル場であって、零点はすべて孤立していてX
の内点であると仮定する。C∞級写像 v : ∂X → Sm−1を
v(x) = v(x)/|v(x)| (x ∈ ∂X)
で定めると、vの零点の指数の和は、vの写像度に一致する。さらに、Xの境界上のすべての点で vは外向きであると仮定する。このとき、vの零点の指数の和はGauss写像 g : ∂X → Sm−1の写像度に一致する。特に、この場合は、X上のC∞
級ベクトル場の零点の指数の和は、ベクトル場のとり方に依存しない。
50 第 2章 多様体のトポロジー
証明 X はコンパクトで、vの零点は孤立しているので有限個になる。それらを z1, . . . , zkとする。ε > 0を十分小さくとると、
Bm(zi, ε) = {x ∈ Rm | |x − zi| ≤ ε} ⊂ X − ∂X
とi 6= j ⇒ Bm(zi, ε) ∩ Bm(zj, ε) = ∅
が成り立つ。
Y = X −k⋃
i=1
(Bm(zi, ε) − ∂Bm(zi, ε))
とおくと、Y も境界を持つm次元多様体になる。Y には v の零点が存在しないので、
v(x) = v(x)/|v(x)| (x ∈ Y )
を考えることができ、v : Y → Sm−1
はC∞級写像だから、補題 2.2.6より、
deg(v|∂Y ) = 0.
ここで、∂Y = ∂X ∪ ∂Bm(z1, ε) ∪ · · · ∪ ∂Bm(zk, ε)
だから、それぞれの部分で vを考える。各 ziについて、C∞級ベクトル場 vの零点の指数を定める際に使った ∂Bm(zi, ε)の向きと ∂Y の境界の一部とみたときの向きは、逆向きになる。したがって、
0 = deg(v|∂Y ) = deg(v|∂X) −k∑
i=1
(vの ziにおける指数)
となり、vの零点の指数の和は、v|∂X の写像度 deg(v|∂X)に一致する。ここで、Gauss写像 g : ∂X → Sm−1がC∞級写像になることを示しておく。定
義 1.2.8より任意の x ∈ ∂Xに対して、Rm内の xを含む開集合W、半空間
Hm = {(x1, . . . , xm) ∈ Rm | xm ≥ 0}
の開集合 U と微分同型写像 p : U → W ∩ Xが存在する。
ei = (0, . . . , 0,i
^
1 , 0, . . . , 0) (1 ≤ i ≤ m)
とおくと、dp(ei) (1 ≤ i ≤ m − 1)は ∂Xの接ベクトル空間の基底になり、dp(em)
は内向きベクトルになる。各 dp(ei)はW ∩ ∂X上でRmに値をとるC∞級写像に
2.4. ベクトル場と Euler数 51
なる。Rmの標準的な内積に関して dp(e1), . . . , dp(em)にGram-Schmidtの直交化を行う。b1 = p(e1), a1 = 1
|p(e1)|p(e1)とし、bk, ak(k ≥ 2)を次のように帰納的に定める。
bk = gk −k−1∑
i=1
〈gk, ai〉ai, ak =1
|bk|bk.
するとa1, . . . , amはRmの正規直交基底になる。各akはdp(e1), . . . , dp(ek)の線形結合になっていて、その線形結合のgkの係数は1/|bk| > 0である。よって、b1, . . . , bm−1
は ∂Xの接ベクトル空間の正規直交基底になり、amは ∂Xの内向きの単位法ベクトルになる。これよりW ∩ ∂Xにおいて g = −amが成り立つ。bk, akの定め方より、これらもW ∩ ∂X 上でRmに値をとる C∞級写像になる。したがって、gはW ∩ ∂X上C∞級になり、∂X全体でもC∞級になることがわかる。さらに、Xの境界上のすべての点で vは外向きであると仮定する。v|∂XとGauss
写像 gはともに境界 ∂X 上で外向きの C∞級ベクトル場である。さらにどちらも各点で単位ベクトルに値をとっているので、x ∈ ∂Xについて
0 < 〈g(x), v(x)〉 ≤ 1.
そこで、u(x, t) = tg(x) + (1 − t)v(x) ((x, t) ∈ ∂X × [0, 1])
とおくと、(x, t) ∈ ∂X × [0, 1]に対して
〈g(x), u(x, t)〉 = t + (1 − t)〈g(x), v(x)〉 > 0.
よって、u(x, t)は 0ではない外向きのベクトルになる。
F (x, t) =u(x, t)
|u(x, t)|((x, t) ∈ ∂X × [0, 1])
によってC∞級写像F : ∂X × [0, 1] → Sm−1
を定めると、F (x, 0) = v(x), F (x, 1) = g(x)となるので、vと gは滑らかにホモトピックになる。補題 2.2.7より、
deg(v|∂X) = deg(g).
したがって、先に得た結果より、vの零点の指数の和は、deg(g)に一致する。
定義 2.4.9 開集合 U ⊂ Rm上のC∞級ベクトル場 vに対して、z ∈ U における微分 dvz : Rm → Rmが線形同型写像になるとき、vは zにおいて非退化であるという。vの零点において非退化のとき、その零点を非退化零点と呼ぶ。
注意 2.4.10 逆写像定理より、C∞級ベクトル場の非退化零点は孤立する。
52 第 2章 多様体のトポロジー
補題 2.4.11 C∞級ベクトル場 vの非退化零点 zにおける指数は、det dvz > 0のとき+1になり、det dvz < 0のとき−1になる。
証明 v : U → RmをC∞級ベクトル場とし、z ∈ U を vの非退化零点とする。逆写像定理より、zのある凸開近傍 U0で vは微分同型になる。一般性を失うことなく z = 0としてもよい。det dv0 > 0のとき、補題 2.4.4の証明中に示したように、v : U0 → Rmを恒等写像 1に滑らかに変形できる。よって、vの 0における指数は+1になる。また、det dv0 < 0のときは、v : U0 → Rmを
ρ(x1, . . . , xm) = (−x1, x2, . . . , xm)
に滑らかに変形できる。よって、vの 0における指数は−1になる。
補題 2.4.12 vを多様体M ⊂ Rk上の C∞級ベクトル場とする。z ∈ M を vの零点とすると、v : M → Rkの zにおける微分 dvz : TzM → Rkの像は TzM ⊂ Rk
に含まれる。そこで、dvz : TzM → TzM とみなしてその行列式を det dvzで表す。det dvz 6= 0のとき、zは vの孤立零点になり、vの zにおける指数は、det dvz > 0
のとき+1になり、det dvz < 0のとき−1になる。
証明 M の zの近傍のパラメータ付け h : U → M をとる。U ⊂ Rmだから、Rmの標準的な基底 e1, . . . , emは自然に U 上のC∞級ベクトル場とみなせる。
ti = dhu(ei) =∂h
∂ui
(u) (u ∈ U)
とおくと、各 tiは h(U) ⊂ M 上のC∞級ベクトル場になる。さらに、各点 h(u) ∈h(U)において、t1, . . . , tmは Th(u)M の基底になる。vの微分
dvh(u)(ti) = dvh(u) ◦ dhu(ei) =∂(v ◦ h)
∂ui
(u)
を計算するために、
v(h(u)) =m∑
j=1
vjtj
とおく。
dvh(u)(ti) =∂(v ◦ h)
∂ui
=m∑
j=1
(∂vj
∂ui
tj + vj∂tj∂ui
)
となり、vj(z) = 0だから、
dvz(ti) =m∑
j=1
∂vj
∂ui
tj ∈ TzM
2.4. ベクトル場と Euler数 53
となる。よって、dvz(TzM) ⊂ TzM が成り立ち、
det dvz = det
(∂vj
∂ui
).
hによって vに対応する U 上のC∞級ベクトル場 v′は、
v′(u) = dh−1u (v(h(u))) = dh−1
u
(m∑
j=1
vjtj
)=
m∑
j=1
vjej
と表される。v′の零点は hによって vの零点に対応する。det dvz 6= 0とすると、h−1(z) ∈ U は V ′の非退化零点になり、注意 2.4.10より h−1(z)は v′の孤立零点になる。したがって、zは vの孤立零点になる。補題 2.4.11より、
det dvz = det
(∂vj
∂ui
)> 0
のとき、v′の零点 h−1(z)における指数は+1になり、det dvz < 0のとき、v′の零点 h−1(z)における指数は−1になる。補題 2.4.4より、それぞれの場合、vの零点zにおける指数は+1, −1になる。
注意 2.4.13 多様体M ⊂ Rk上のC∞級ベクトル場 vに対して、一般の点 x ∈ M
については微分 dvz : TxM → Rkの像は TxM に含まれるとは限らない。
命題 2.4.14 M ⊂ Rkを境界を持たないm次元多様体とする。定義 1.2.6で定めた x ∈ M におけるRk内のM の法ベクトル空間を T⊥
x M で表す。
TM = {(x, v) ∈ Rk × Rk | x ∈ M, v ∈ TxM},T⊥M = {(x, v) ∈ Rk × Rk | x ∈ M, v ∈ T⊥
x M}
とおくと、TM は 2m次元多様体になり、T⊥M は k次元多様体になる。
定義 2.4.15 命題 2.4.14の TM をM の接ベクトル束と呼び、T⊥M をM の法ベクトル束と呼ぶ。
命題 2.4.14の証明 M ⊂ Rk がm次元多様体であることから、各点 x ∈ M
はRk内の開近傍W を持ち、Rmの開集合 U からW ∩ M への微分同型 g : U →W ∩ M が存在する。Rmの標準的な基底を ei (1 ≤ i ≤ m)で表す。各 z ∈ U について dgz(ei) (1 ≤ i ≤ m)は接ベクトル空間 Tg(z)M の基底になる。TxM はRk
の部分ベクトル空間だから、Rk の標準的な基底 ej (1 ≤ j ≤ k)から k − m個をdgg−1(x)(ei) (1 ≤ i ≤ m)に付け加えてRkの基底にすることができる。必要なら ej
の順序を変えることで
dgg−1(x)(e1), . . . , dgg−1(x)(em), e1, . . . , ek−m
54 第 2章 多様体のトポロジー
をRkの基底にすることができる。点 xにおいてこれがRkの基底になるので、x
のRkにおけるある開近傍W ′ ⊂ W が存在し、各 y ∈ W ′ ∩ M に対して
dgg−1(y)(e1), . . . , dgg−1(y)(em), e1, . . . , ek−m
はRkの基底になる。U ′ = g−1(W ′∩M)とおくとU ′はRmの開集合になり、z ∈ U ′
に対してdgz(e1), . . . , dgz(em), e1, . . . , ek−m
はRkの基底になる。さらにこれらは zに対してC∞級に対応している。そこで、
h1(z) = dgz(e1), . . . , hm(z) = dgz(em), hm+1(z) = e1, . . . , hk(z) = ek−m
とおいて、Rkの標準的な内積に関してこれらにGram-Schmidtの直交化を行う。b1(z) = h1(z), a1(z) = 1
|b1(z)|b1(z)とし、bi(z), ai(z)(i ≥ 2)を次のように帰納的に定める。
bi(z) = hi(z) −k−1∑
j=1
〈hi(z), aj(z)〉aj(z), ai(z) =1
|bi(z)|bi(z).
すると a1(z), . . . , ak(z)はRkの正規直交基底になる。定め方より ai(z)は i以下の番号の h1(z), . . . , hi(z)の線形結合になっている。特に、a1(z), . . . , am(z)は接ベクトル空間 Tg(z)M の正規直交基底になり、am+1(z), . . . , ak(z)は直交補空間 T⊥
g(z)M
の正規直交基底になる。そこで、
g : U ′ × Rm → TM ; (z, ξ1, . . . , ξm) 7→
(z,
m∑
i=1
ξiai(z)
)
g⊥ : U ′ × Rk−m → T⊥M ; (z, ηm+1, . . . , ηk) 7→
(z,
k−m∑
j=1
ηm+jam+j(z)
)
によって写像 gと g⊥を定めると、
m∑
i=1
ξiai(z) ∈ Tg(z)M,k−m∑
j=1
ηm+jam+j(z) ∈ T⊥g(z)M
となるので、g(z, ξi) ∈ TM, g⊥(z, ηj) ∈ T⊥M であることがわかり、g と g⊥ もC∞ 級写像になる。g の定義域 U ′ × Rm ⊂ Rm × Rm = R2m と g⊥ の定義域U ′ × Rk−m ⊂ Rm × Rk−m = Rkはどちらも開集合になる。
(W ′ × Rk) ∩ TM = {(z, v) ∈ (W ′ ∩ M) × Rk | v ∈ TzM}
は gの像に一致し、
(W ′ × Rk) ∩ T⊥M = {(z, v) ∈ (W ′ ∩ M) × Rk | v ∈ T⊥z M}
2.4. ベクトル場と Euler数 55
は g⊥の像に一致する。各 z ∈ U について
Rm → Tg(z)M ; (ξ1, . . . , ξm) 7→m∑
i=1
ξiai(z)
Rk−m → T⊥g(z)M ; (ηm+1, . . . , ηk) 7→
k−m∑
j=1
ηm+jam+j(z)
はどちらも線形同型写像になるので、
g : U ′ × Rm → (W ′ × Rk) ∩ TM, g : U ′ × Rk−m → (W ′ × Rk) ∩ T⊥M
は全単射になる。これらが微分同型写像になることを以下で証明する。g : U ′ → W ′ ∩ M は微分
同型写像だから、g−1 : W ′ ∩ M ′ → U も微分同型写像になる。
g−1(y, v) = (g−1(y), 〈v, a1(g−1(y))〉, . . . , 〈v, am(g−1(y))〉)
∈ (W ′ × Rk) ∩ TM
(g⊥)−1(y, v) = (g−1(y), 〈v, am+1(g−1(y))〉, . . . , 〈v, ak(g
−1(y))〉)∈ (W ′ × Rk) ∩ T⊥M
となり、g−1と (g⊥)−1はどちらもC∞級になることがわかる。したがって、
g : U ′ × Rm → (W ′ × Rk) ∩ TM
g⊥ : U ′ × Rk−m → (W ′ × Rk) ∩ T⊥M
はどちらも微分同型写像になる。以上より、TM は 2m次元多様体になり、T⊥M
は k次元多様体になる。
定理 2.4.16 M ⊂ Rkを境界を持たないコンパクト多様体とする。
ν : T⊥M → Rk ; (x, v) 7→ x + v
によってC∞級写像 νを定める。このとき、ある ε > 0が存在して
T⊥ε (M) =
{(x, v) ∈ T⊥M | |v| < ε
}
とおくと、T⊥ε (M)は T⊥M内のM ×{0}の開近傍、ν(T⊥
ε (M))はRk内のMの開近傍になり、νは T⊥
ε (M)と ν(T⊥ε (M))の間の微分同型を誘導する。
証明 z ∈ M を任意にとる。(z, 0) ∈ M ×{0} ⊂ T⊥M における T⊥M の接ベクトル空間 T(z,0)(T
⊥M)と νの微分写像
dν(z,0) : T(z,0)(T⊥M) → Rk
56 第 2章 多様体のトポロジー
を求める。u ∈ TzM に対してM の曲線 c : (−a, a) → M を
c(0) = z,d
dt
∣∣∣∣t=0
c(t) = u
を満たすようにとる。すると (c(t), 0)は T⊥M の曲線になり、
(c(0), 0) = (z, 0),d
dt
∣∣∣∣t=0
(c(t), 0) = (u, 0)
となるので、TzM × {0} ⊂ T(z,0)(T
⊥M)
が成り立つ。v ∈ T⊥z M に対して v(t) = (z, tv)とおくと、v(t)は T⊥M の曲線に
なり、
v(0) = (z, 0),d
dt
∣∣∣∣t=0
v(t) = (0, v)
となるので、{0} × T⊥
z M ⊂ T(z,0)(T⊥M)
が成り立つ。TzM × T⊥
z M = TzM × {0} + {0} × T⊥z M
は直和分解になり、それぞれの次元はmと k −mだから TzM × T⊥z M の次元は k
になる。T(z,0)(T⊥M)の次元も kなので、
T(z,0)(T⊥M) = TzM × T⊥
z M
が成り立つ。上で T(z,0)(T⊥M)を求めるために利用した曲線を使って、微分写像
dν(z,0)を求めよう。
dν(z,0)(u, 0) = dν(z,0)
(d
dt
∣∣∣∣t=0
(c(t), 0)
)=
d
dt
∣∣∣∣t=0
ν(c(t), 0) =d
dt
∣∣∣∣t=0
c(t)
= u,
dν(z,0)(0, v) = dν(z,0)
(d
dt
∣∣∣∣t=0
(z, tv)
)=
d
dt
∣∣∣∣t=0
ν(z, tv) =d
dt
∣∣∣∣t=0
(z + tv)
= v
より、次の等式を得る。
dν(z,0)(u, v) = u + v ((u, v) ∈ TzM × T⊥z M).
これよりdν(z,0) : T(z,0)(T
⊥M) → Rk
2.4. ベクトル場と Euler数 57
は線形同型写像であることがわかる。定理 1.1.12より νは局所的に微分同型写像になる。すなわち、各 z ∈ M に対して zの開近傍 Uzと εz > 0が存在して、
T⊥εz
(Uz) ={(x, v) ∈ T⊥M | x ∈ Uz, |v| < εz
}
とおくと、T⊥εz
(Uz)は T⊥M の開集合、ν(T⊥
εz(Uz)
)はRkの開集合になり、
ν : T⊥εz
(Uz) → ν(T⊥
εz(Uz)
)
は微分同型写像になる。そこで、
U =⋃
z∈M
T⊥εz
(Uz) ⊂ T⊥M, V =⋃
z∈M
ν(T⊥
εz(Uz)
)⊂ Rk
とおくと、U は T⊥M の開集合になり、V はRkの開集合になる。ここまでの議論では、M がコンパクトであるという仮定は必要なかったが、ここからこの仮定が必要になる。
{Uz | z ∈ M}
はMの開被覆になり、Mはコンパクトだから、有限個のUzでMを覆うことができる。すなわち、ある z1, . . . , zp ∈ M が存在して
M = Uz1 ∪ · · · ∪ Uzp
が成り立つ。そこでε = min{εz1 , . . . , εzp} > 0
とおく。T⊥
ε (M) ⊂ T⊥εz1
(Uz1) ∪ · · · ∪ T⊥εzp
(Uzp)
が成り立ち、T⊥ε (M)は T⊥M 内のM × {0}の開近傍になる。さらに、ν(T⊥
ε (M))
はRk内のM の開近傍になる。さらに、ε > 0を十分に小さくとれば ν : T⊥
ε (M) → ν(T⊥ε (M))は微分同型写像
になることを示す。νが局所的には微分同型になることはすでに示したので、そのためには、ε > 0を十分に小さくとれば ν : T⊥
ε (M) → ν(T⊥ε (M))は単射になるこ
とを示せば十分である。もしそうならないと仮定すると、任意の自然数 iについて
(xi, ui) 6= (x′i, u
′i), ν(xi, ui) = ν(x′
i, u′i)
を満たす (xi, ui), (x′i, u
′i) ∈ T⊥
1/i(M)が存在する。M はコンパクトだからM の点列 {xi}は収束部分列 {xij}を持つ。その極限を x0 ∈ M とする。さらにM の点列{x′
ij}は収束部分列 {x′
ijl}を持つ。その極限を x′
0 ∈ M とする。任意の lについて
ν(xijl, uijl
) = ν(x′ijl
, u′ijl
)
58 第 2章 多様体のトポロジー
が成り立ち、liml→∞
uijl= lim
l→∞u′
ijl= 0.
したがって、x0 = lim
l→∞ν(xijl
, uijl) = lim
l→∞ν(x′
ijl, u′
ijl) = x′
0
を得る。以上より、T⊥M の点列 (xijl, uijl
)と (x′ijl
, u′ijl
)は同じ極限 (x0, 0)に収束する。よって、ある番号以上では (xijl
, uijl)と (x′
ijl, u′
ijl)は T⊥
εx0(Ux0)に含まれる。
(xijl, uijl
) 6= (x′ijl
, u′ijl
) ν(xijl, uijl
) = ν(x′ijl
, u′ijl
)
が成り立つので、ここで νは微分同型であることに矛盾する。したがって、ε > 0
を十分に小さくとれば ν : T⊥ε (M) → ν(T⊥
ε (M))は単射になり、さらに微分同型写像になることがわかった。
定理 2.4.17 M ⊂ Rkを境界を持たないコンパクト多様体とする。ε > 0に対して
Mε = {x ∈ Rk | d(x,M) ≤ ε}
とおくと、十分小さな εに対してMεは境界を持つコンパクト k次元多様体になる。vをM 上のC∞級ベクトル場とし、零点はすべて非退化であると仮定する。このとき、vの零点の指数の和は、∂MεのGauss写像
g : ∂Mε → Sk−1
の写像度に一致する。特に、M 上のC∞級ベクトル場の零点の指数の和は、ベクトル場のとり方に依存しない。
証明 Rk上の関数を
d(x,M) = inf{|x − y| | y ∈ M} (x ∈ Rk)
によって定める。x ∈ Rkに対して
M → R ; y → |x − y|
は連続関数になり、M はコンパクトだから、ある y ∈ M で最小値をとる。この y
に対して d(x,M) = |x − y|が成り立つ。このとき、x − yは yにおいてM に直交することを示そう。任意の接ベクトルX ∈ TyM に対して yを通るM の曲線 c(t)
を
c(0) = y,d
dt
∣∣∣∣t=0
c(t) = X
を満たすようにとることができる。このとき、関数
t 7→ |x − c(t)|2
2.4. ベクトル場と Euler数 59
は t = 0で最小値をとるので、微分は 0になる。よって
0 =d
dt
∣∣∣∣t=0
|x − c(t)|2 = −2〈x − y, X〉
となり、x − yはXと直交する。すなわち、x − yは yにおいてM に直交する。定理2.4.16の εよりも小さい ε > 0をとると、任意のx ∈ Mεに対して、d(x,M) =
|x− y|となる y ∈ Mがただ一つ存在することを示しておく。このような y ∈ Mが存在し、x − yが TyM と直交することを上で示した。これより
x − y ∈ T⊥y M, |x − y| = d(x,M) < ε
となるので、(y, x − y) ∈ T⊥ε (M)が成り立つ。さらに、
ν(y, x − y) = y + (x − y) = x.
もし他の y1 ∈ Mも d(x,M) = |x−y1|を満たすとすると、ν(y1, x−y1) = xとなり、νが T⊥
ε (M)において単射であることに矛盾する。したがって、d(x,M) = |x − y|となる y ∈ M は、xに対してただ一つである。この yを r(x)とおく。
ν−1(x) = (r(x), x − r(x)) (x ∈ Mε)
となるので、r : Mε → M はC∞級になる。Mε上のC∞級関数 φを
φ(x) = |x − r(x)|2 = 〈x − r(x), x − r(x)〉
で定める。Mεの接ベクトル uに対して dr(u)はM の接ベクトルになるので、
dφ(u) =d
dt
∣∣∣∣t=0
φ(x + tu) =d
dt
∣∣∣∣t=0
〈x + tu − r(x + tu), x + tu − r(x + tu)〉
= 2〈u − dr(u), x − r(x)〉 = 2〈u, x − r(x)〉 − 2〈dr(u), x − r(x)〉= 2〈u, x − r(x)〉.
∂Mε = φ−1(ε2)の xにおける接ベクトル u ∈ Tx(∂Mε)に対して、
0 = dφ(u) = 2〈u, x − r(x)〉.
よって、x − r(x)は ∂Mεにも直交する。さらに、x − r(x)はMεの境界 ∂Mεにおいて外向きになるので、∂MεのGauss写像 gは
g(x) =x − r(x)
|x − r(x)|=
1
ε(x − r(x)) (x ∈ ∂Mε)
で与えられる。
60 第 2章 多様体のトポロジー
次に零点はすべて非退化であるM 上の C∞級ベクトル場 vに対して、Mε上のC∞級ベクトル場wを
w(x) = (x − r(x)) + v(r(x)) (x ∈ Mε)
で定める。x ∈ Mのときはx = r(x)だから、w(x) = v(x)となる。よって、wはM
上のC∞級ベクトル場 vのMεへの拡張になっている。さらに x − r(x)と v(r(x))
は直交しているので、w(x) = 0となるための必要十分条件は x − r(x) = 0かつv(r(x)) = 0が成り立つことである。よって、wの零点はM上の vの零点に一致する。零点における指数を比較するために、wと vの零点 z ∈ M における微分を計算する。zを通る曲線 c(t)をM に含まれるようにとると、
dwz(c′(0)) =
d
dt
∣∣∣∣t=0
w(c(t)) =d
dt
∣∣∣∣t=0
{(c(t) − r(c(t))) + v(r(c(t)))}
=d
dt
∣∣∣∣t=0
v(c(t)) = dvz(c′(0)).
これより、dwz(u) = dvz(u) (u ∈ TzM)
を得る。次に u ∈ T⊥z M に対して |t| < εのとき r(z + tu) = zだから、
w(z + tu) = (z + tu) − r(z + tu) + v(r(z + tu)) = tu
となり、
dwz(u) =d
dt
∣∣∣∣t=0
w(z + tu) =d
dt
∣∣∣∣t=0
tu = u.
以上より、det dwz = det dvzとなり、補題 2.4.11と補題 2.4.12より、wと vの zにおける指数は一致し、零点の指数の和も一致する。補題 2.4.8より、wの零点の指数の和は ∂MεのGauss写像 ∂Mε → Sk−1の写像度に一致するので、vの零点の指数の和は、gの写像度に一致する。特に、M 上の C∞級ベクトル場の零点の指数の和は、ベクトル場のとり方に依存しない。
定理 2.4.7の証明の概略 定理の証明は次の三つの段階を示すことによって証明される。第一段階 定理 2.4.17より、M 上の非退化零点のみを持つC∞級ベクトル場の
零点の指数の和は、C∞級ベクトル場のとり方に依存しないので、非退化零点のみを持ち、零点の指数の和がM のEuler数 χ(M)に一致するC∞級ベクトル場の存在を示せばよい。
M ⊂ Rkのとき、Rkの単位ベクトル uに対して、
fu : M → R ; x 7→ 〈x, u〉
2.4. ベクトル場と Euler数 61
によってM 上の C∞級関数 fuを定める。さらに、x ∈ M に対して uを TxM に直交射影したベクトルを vu(x)と表すことにより、M 上のC∞級ベクトル場 vuを定める。ほとんどすべての uについて vuは非退化零点のみを持つC∞級ベクトル場であることがわかる。そこで、そのような uについて fuにMorse理論を適用すると、vuの指数の和はM のEuler数 χ(M)に一致することがわかる。Morse理論は多様体の胞体分割をその多様体上の関数の挙動を利用して記述する理論であり、多様体のトポロジーに関する幅広い応用がある。Morse理論については、ホームページに公開している 1998年度の講義ノート数学、理工学研究科:微分幾何学 I、II (Morse理論とその部分多様体への応用)
http://www.math.tsukuba.ac.jp/~tasaki/lecture/ln1998/tsukuba.html
の第 1章、またはMorse理論に関する書籍を参照のこと。第二段階 退化零点を持つ C∞級ベクトル場に対しても定理の結論が成り立つ
ことを示す。まず、Rmの開集合 U 上の C∞級ベクトル場 vが z ∈ U を孤立零点として持つ場合を考える。zが vの零点として孤立していることから、
N = {x ∈ Rm | |x − z| ≤ r} ⊂ U
内の vの零点が zだけになるように r > 0をとることができる。このとき、vの z
における指数は、v(x) = v(x)/|v(x)| (x ∈ ∂N)
で定まるC∞級写像 v : ∂N → Sm−1の写像度 deg(v)になる。
δ = min{|v(x)| | r/2 ≤ |x − z| ≤ r}
とおくと、N内の vの零点は zだけだから δ > 0となる。Sardの定理より、|y| < δ
を満たす vの正則値 y ∈ Rmをとることができる。そこで、
{x ∈ Rm | |x − z| < r/2}
上恒等的に 1で台がN に含まれるC∞級関数
λ : U → [0, 1]
を補題 2.1.3を利用して構成する。補題 2.1.3(2)の関数 a(t)を使って
b(t) =a(r2 − t)
a(r2 − t) + a(t − r2/4)(t ∈ R)
によって関数 b(t)を定めると、b(t)は
b(t) = 1 (t ≤ r2/4)
0 < b(t) < 1 (r2/4 < t < r2)
b(t) = 0 (r2 ≤ t)
62 第 2章 多様体のトポロジー
を満たすC∞級関数になる。
λ(x) = b(|x − z|2) (x ∈ U)
とおくと λ(x)は望む条件を満たすC∞級関数になる。
v′(x) = v(x) − λ(x)y (x ∈ U)
によって U 上の C∞ 級ベクトル場 v′ を定める。v′ の N 内の零点 x0 をとると、v(x0) = λ(x0)yとなるので、
|v(x0)| = |λ(x0)y| ≤ |y| < δ.
よって、δの定め方から、|x0 − z| < r/2となる。λの定め方から、x0のある開近傍で λ = 1となり、v′(x) = v(x)− yが成り立つ。よって、dv′
x0= dvx0となる。さ
らに、0 = v′(x0) = v(x0) − y
より、y = v(x0)となり、yは vの正則値だから、x0は v′の正則点になる。よって、dv′
x0は線形同型写像になる。すなわち、x0は v′の非退化零点になる。以上より、
v′のN 内の零点はすべて非退化になる。v′は ∂N で vに一致する。補題 2.4.8より、v′のN 内の零点の指数の和は、v : ∂N → Sm−1の写像度に一致し、vの zにおける指数に一致する。以上より、C∞級ベクトル場の孤立零点の近傍で、非退化零点のみを持つC∞級
ベクトル場であって、零点の指数の和がもとのベクトル場の孤立零点の指数に一致するものをとることができる。一般の境界を持たないコンパクト多様体M 上のC∞級ベクトル場の場合は孤立
零点の近傍で、非退化特異点のみを持つ C∞級ベクトル場に置き換えて、しかも零点の指数の和を変えないようにすることができる。非退化零点のみを持つ C∞
級ベクトル場の零点の指数の和は、第一段階より、χ(M)に一致する。第三段階 Mが境界を持つ多様体の場合。M ⊂ Rkにおいて、M上のC∞級ベ
クトル場 vをMε上に拡張すると、∂M の近傍では、vを拡張したベクトル場は連続ベクトル場になってしまう。しかし、今までと同様の議論から、vの零点の指数の和は χ(M)に一致することがわかる。
例 2.4.18 m次元球面 Smの北極を p = (0, . . . , 0, 1)で表す。
v(x) = p − 〈p, x〉x (x ∈ Sm)
で Sm上のC∞級ベクトル場 vを定める。これは pを xの接ベクトル空間 TxSmに
直交射影したものである。各 x ∈ Smについて
〈v(x), x〉 = 〈p − 〈p, x〉x, x〉 = 〈p, x〉 − 〈p, x〉 = 0
2.4. ベクトル場と Euler数 63
となるので、v(x) ∈ TxSmが成り立ち、vはSmのC∞級ベクトル場になっている。
v(x)の定め方より、vの零点は±pのみである。vの零点における指数を計算する。u ∈ TpS
mに対して、
dvp(u) =d
dt
∣∣∣∣t=0
v(cos tp + sin tu)
=d
dt
∣∣∣∣t=0
(p − 〈p, cos tp + sin tu〉(cos tp + sin tu))
= −〈p, u〉p − 〈p, p〉u= −u.
よって、det dvp = (−1)m となり、補題 2.4.12より、v の零点 pにおける指数も(−1)mになる。次に u ∈ T−pS
mに対して、
dv−p(u) =d
dt
∣∣∣∣t=0
v(cos t(−p) + sin tu)
=d
dt
∣∣∣∣t=0
(p − 〈p, cos t(−p) + sin tu〉(cos t(−p) + sin tu))
= −〈p, u〉(−p) − 〈p,−p〉u= u.
よって、det dv−p = +1となり、補題 2.4.12より、vの零点 pにおける指数も+1になる。以上より、vの零点の指数の和は、1 + (−1)mになる。すなわち、mが奇数のときは 0であり、mが偶数のときは 2になる。定理 2.4.17より、偶数次元球面上の任意のC∞級ベクトル場は零点を持つことがわかる。
例 2.4.19 奇数次元球面には S2n+1には零点を持たない C∞級ベクトル場を構成できる。
v(x1, x2, . . . , x2n+1, x2n+2) = (−x2, x1, . . . ,−x2n+2, x2n+1)
((x1, x2, . . . , x2n+1, x2n+2) ∈ S2n+1)
によって、S2n+1上のC∞級ベクトル場 vを定める。S2n+1の元に対して奇数番の成分を番号に 1を加えた偶数番の成分にし、偶数番の成分を−1倍して番号から 1
引いた奇数番の成分にしている。任意の x ∈ S2n+1に対して
〈v(x), x〉 = −x1x2 + x2x1 − · · · − x2n+1x2n+2 + x2n+2x2n+1 = 0
が成り立つので、v(x) ∈ TxS2n+1となり、確かに vは S2n+1上のベクトル場になっ
ている。定め方から vは零点を持たない。特に vの零点の指数の和は 0になる。偶数次元の球面のEuler数は 2になり、Poincare-Hopfの定理 (定理 2.4.7)より零
点を持たないC∞級ベクトル場は偶数次元球面上には存在しない。
64 第 2章 多様体のトポロジー
例 2.4.20 M を境界を持たない奇数次元コンパクト多様体とし、vをM 上の任意のC∞級ベクトル場とする。−vの零点 zにおける指数は、vの zにおける指数の−1倍になる。よって、零点の指数の和も逆符号になるが、定理 2.4.17より、これらは一致するので、0になる。
65
第3章 フレーム付きコボルディズム
3.1 フレーム付きコボルディズムコンパクト多様体M からM ′へのC∞級写像の写像度は、M とM ′に向きが付
いていて等しい次元を持っているときだけ定義することができる。この節では、コンパクトで境界のない多様体M から球面へのC∞級写像
f : M → Sp
に対して Pontryaginによって定義された、写像度のある一般化を扱う。
定義 3.1.1 M をコンパクトm次元多様体とし、N とN ′をM 内のコンパクト n
次元部分多様体とする。M,N, N ′はすべて境界を持たないと仮定する。m − nをNの余次元と呼ぶ。M内でNがN ′にコボルダントであるとは、ある 0 < ε < 1/2
が存在し、M × [0, 1]の部分集合
N × [0, ε) ∪ N × (1 − ε, 1]
がコンパクト多様体X ⊂ M × [0, 1]
に拡張され、∂X = N × {0} ∪ N ′ × {1}
であり、Xは ∂X以外の点でM × {0} ∪M × {1}と交わらないことである。XをN とN ′の間のコボルディズムと呼ぶ。
注意 3.1.2 上の定義のコボルダントは一つのコンパクト多様体内のコンパクト部分多様体の間の同値関係になる。
定義 3.1.3 多様体M の部分多様体N のフレームとは、各 x ∈ N に対してN の x
における法ベクトル空間 T⊥x N ⊂ TxM の基底
v(x) = (v1(x), . . . , vm−n(x))
を対応させるC∞級写像のことである。部分多様体NとNのフレームvの組 (N, v)
をフレーム付き部分多様体と呼ぶ。二つのフレーム付き部分多様体 (N, v)と (N ′,w)
66 第 3章 フレーム付きコボルディズム
がフレーム付きコボルダントであるとは、N と N ′ の間のコボルディズム X ⊂M × [0, 1]とXのフレーム uが存在し、
ui(x, t) = (vi(x), 0) ((x, t) ∈ N × [0, ε))
ui(x, t) = (wi(x), 1) ((x, t) ∈ N ′ × (1 − ε, 1])
が成り立つことである。
注意 3.1.4 上の定義のフレーム付きコボルダントはフレーム付きコンパクト部分多様体の間の同値関係になる。
Mを境界のないコンパクト多様体とし、dim M ≥ pとなるpをとる。f : M → Sp
をC∞級写像とする。fの正則値y ∈ Spをとる。以下でfが部分多様体f−1(y) ⊂ M
のフレームを誘導することを示す。接ベクトル空間 TySp の正の向きの基底 v =
(v1, . . . , vp)をとる。各 x ∈ f−1(y)に対して
dfx : TxM → TySp
は Tx(f−1(y))を 0に写し、法ベクトル空間 T⊥
x (f−1(y))を TySpに線形同型に写す。
したがって、dfx(wi(x)) = viを満たす
wi(x) ∈ T⊥x (f−1(y)) ⊂ TxM
が唯一つ定まる。これによって、部分多様体f−1(y) ⊂ Mのフレームw = (w1(x), . . . , wp(x))
が定まる。wを f ∗vで表す。
定義 3.1.5 上で定めたフレーム付き部分多様体 (f−1(y), f ∗v)を写像 fに付随するPontryagin多様体と呼ぶ。
f に付随する Pontryagin多様体は、f の正則値 y ∈ Spと TySpの正の向きの基
底 vの取り方に依存するが、同じフレーム付きコボルディズム類を定めることがわかる。
定理 3.1.6 y, y′ ∈ Spを fの正則値とし、v, v′をそれぞれTySpとTy′Spの正の向き
の基底とする。このとき、フレーム付き部分多様体 (f−1(y′), f ∗v′)は (f−1(y), f ∗v)
にフレーム付きコボルダントになる。
定理 3.1.7 M から Spへの二つのC∞級写像が滑らかにホモトピックになるための必要十分条件は、対応するPontryagin多様体がフレーム付きコボルダントになることである。
定理 3.1.8 M内の任意の余次元 pのフレーム付きコンパクト部分多様体 (N, w)に対して、ある C∞級写像 f : M → Spが存在し、f に付随する Pontryagin多様体が (N, w)に一致する。
3.1. フレーム付きコボルディズム 67
以上の定理より、M から SpへのC∞級写像の滑らかなホモトピー類と、M 内の余次元 pのフレーム付きコンパクト部分多様体のフレーム付きコボルディズム類とが一対一に対応することがわかる。定理 3.1.6を証明するため、次の三つの補題を準備する。
補題 3.1.9 vと v′を f の正則値 y ∈ Spにおける接ベクトル空間 TySpの二つの正
の向きの基底とする。このとき、Pontryagin多様体 (f−1(y), f ∗v)と (f−1(y), f ∗v′)
はフレーム付きコボルダントになる。
証明 vと v′ は共に TySp の正の向きの基底だから、一般線形群 GL(p,R)内
の行列式正の元全体の成す部分群 GL+(p,R)の元 gによって、v′ = gvと変換される。定理 2.3.6より GL+(p,R)は弧状連結だから、g(0) = 1, g(1) = g となる GL+(p,R)の C∞ 級曲線 g(t) (0 ≤ t ≤ 1)が存在する。そこで、部分多様体f−1(y) × [0, 1] ⊂ M × [0, 1]のフレームwを
w(x, t) = (f ∗(g(t)v)(x), t) ((x, t) ∈ f−1(y) × [0, 1])
によって定めると、(f−1(y), f ∗v)と (f−1(y), f ∗v′)はフレーム付きコボルダントになることがわかる。
注意 3.1.10 補題 3.1.9より、Pontryagin多様体 (f−1(y), f ∗v)のフレーム付きコボルディズム類を考える限り、TyS
pの vの取り方を明記する必要がないので、単にフレーム付き部分多様体 f−1(y)と言うことができる。
補題 3.1.11 y ∈ Spを f の正則値とすると、yのある開近傍 U が存在し、任意のz ∈ U に対して、フレーム付き部分多様体 f−1(z)は f−1(y)にフレーム付きコボルダントになる。
証明 C ⊂ M を f の臨界点の全体とすると、CはM の閉集合になるので、特に、コンパクトになる。よって、f(C)も Sp内のコンパクト部分集合になり、特に、閉集合になる。これより f の正則値全体は f(C)の補集合だから Spの開集合になり、ある ε > 0をとると、
{z ∈ Sp | |z − y| < ε}
は fの正則値全体に含まれる。このとき、ε < 2としても差し支えない。|z−y| < ε
となる z ∈ Spをとる。すると yと zを通るSpの大円はただ一つ定まる。この大円の回転変換であってzからyに向かう方向の角度をθで表したものをR(θ) ∈ SO(p+1)
とする。θを 0から正の方向に動かすと、R(θ)(y)は yから zに向かって大円の上を動いていく。R(θ)(y)が最初に zに到達するときの θの値を θ0で表すことにす
68 第 3章 フレーム付きコボルディズム
る。すなわちR(θ0)(y) = zとなる。補題 2.1.3(3)で定めたC∞級関数 φ(t)をとると、φ(t)は
φ(t) = 0 (t ≤ 1/3)
0 < φ(t) < 1 (1/3 < t < 2/3)
φ(t) = 1 (2/3 ≤ t)
を満たす。そこで、rt = R(θ0φ(t))とおくと、rtは SO(p + 1)のC∞級曲線になり次の条件を満たす。
(1) 0 ≤ t < 1/3に対して rt = 1。
(2) 2/3 < t ≤ 1に対して rt = r1で、r1(y) = z。
(3) 各 0 ≤ t ≤ 1について r−1t (z)は yと zを通る Spの大円上にある。
rtを使って、F (x, t) = rtf(x) ((x, t) ∈ M × [0, 1])
によってC∞級写像F : M × [0, 1] → Sp
を定める。各 0 ≤ t ≤ 1について r−1t (z)は yと zを通る大円の yと zの間の点にな
り、それらは f の正則値だから、zは
rt ◦ f : M → Sp
の正則値になる。よって、補題 1.2.17より、F−1(z)はM × [0, 1]内の境界付き部分多様体になり、
∂(F−1(z)) = F−1(z) ∩ (M × {0} ∪ M × {1})= ((r0 ◦ f)−1(z) × {0}) ∪ ((r1 ◦ f)−1(z) × {1}).
ここで、(r0 ◦ f)−1(z) = f−1(z)
であり、(r1 ◦ f)−1(z) = f−1(r−1
1 (z)) = f−1(y)
となるので、F−1(z)はM の部分多様体 f−1(z)と f−1(y)の間のコボルディズムを与える。さらに、TzS
pの正の向きの基底 vをとると、(F−1(z), F ∗v)はMのフレーム付き部分多様体 f−1(z)と f−1(y)の間のフレーム付きコボルディズムを与える。したがって、フレーム付き部分多様体 f−1(z)は f−1(y)にフレーム付きコボルダントになる。
補題 3.1.12 f, g : M → Spを滑らかにホモトピックな C∞級写像とする。f と g
の共通の正則値 y ∈ Spに対して、フレーム付き部分多様体 f−1(y)は g−1(y)にフレーム付きコボルダントになる。
3.1. フレーム付きコボルディズム 69
証明 補題 3.1.11より、yの開近傍 U が存在し、任意の z ∈ U に対してフレーム付き部分多様体 f−1(z)は f−1(y)にフレーム付きコボルダントになる。同様に、yの開近傍 V が存在し、任意の z ∈ V に対してフレーム付き部分多様体 g−1(z)はg−1(y)にフレーム付きコボルダントになる。
f と gの間の滑らかなホモトピーを補題 2.1.2の証明中に示したように
F (x, t) = f(x) (0 ≤ t ≤ 1/3)
F (x, t) = g(x) (2/3 ≤ t ≤ 1)
となるようにとりなおすことができる。Sardの定理から、Fの正則値zをU∩V 内からとることができる。このとき、TzS
pの正の向きの基底vをとると、(F−1(z), F ∗v)
はフレーム付き部分多様体 f−1(z)と g−1(z)の間のフレーム付きコボルディズムを与える。よって、f−1(z)と g−1(z)はフレーム付きコボルダントになり、先に示したことと合わせると、f−1(y)と g−1(y)はフレーム付きコボルダントになる。
定理 3.1.6の証明 y, z ∈ Spを f の正則値とする。SO(p + 1)の C∞級曲線 rt
を r0 = 1と r1(y) = zを満たすようにとる。すると、f は r1 ◦ f に滑らかにホモトピックになる。zは f と r1 ◦ f の共通の正則値になり、補題 3.1.12より、フレーム付き部分多様体 f−1(z)は
(r1 ◦ f)−1(z) = f−1(r−11 (z)) = f−1(y)
にフレーム付きコボルダントになる。以上で定理 3.1.6の証明が完結する。
定理 3.1.8を証明するため、次の定理を準備する。
定理 3.1.13 M を境界のない多様体とし、(N, v)をM の余次元 pのフレーム付きコンパクト部分多様体で、境界を持たないと仮定する。このとき、M内のNの開近傍であって、N ×Rpと微分同型になるものが存在する。さらに、この微分同型は各 x ∈ N を (x, 0) ∈ N ×Rpに写し、v(x)をRpの標準基底に写すようにとることができる。
証明の概略 M の各点の接ベクトル空間はRkの部分ベクトル空間になり、Rk
の標準的内積はM の各点の接ベクトル空間の内積を誘導する。これによって、M
はRiemann多様体になる。この後の議論ではRiemann幾何学の知識を若干利用する。Euclid空間内の多様体の場合と同様にM 内のN の法ベクトル束を定義でき、N の法ベクトル束の法指数写像を使ってN の開近傍をつくると、定理 2.4.16の証明と同様に法ベクトル束の 0断面のある一定半径の開近傍とM 内のN の開近傍との間に微分同型写像を構成できる。N にフレームがあることから、N の法ベクトル束は自明になり、v(x)をRpの標準基底に写すように微分同型を構成することができる。
70 第 3章 フレーム付きコボルディズム
定理 3.1.8の証明 定理 3.1.13より、M 内のN の開近傍 V と微分同型写像
g : N × Rp → V
が存在する。これより π(g(x, v)) = vを満たすC∞写像
π : V → Rp
が一意的に定まる。すなわち、gの逆写像のRp成分が πである。法指数写像の性質を定理 3.1.13の写像に適用すると 0 ∈ Rpは πの正則値になることがわかる。Rp
の標準基底をとることにより、π−1(0)はフレーム付き部分多様体になり、(N, w)
に一致する。一点 s0 ∈ Spを固定し、
{x ∈ Rp | |x| < 1}
を Sp − {s0}に微分同型に写し、
φ{x ∈ Rp | |x| ≥ 1} = {s0}
となるC∞級写像 φ : Rp → Spを構成する。s0 = (0, . . . , 0, 1)としても一般性は失われない。これを使って
f(x) =
{φ(π(x)) (x ∈ V )
s0 (x /∈ V )
によってC∞級写像 f : M → Spを定める。φ(0) ∈ Spは f の正則値になり、
f−1(φ(0)) = π−1(0) = N
になり、f に付随する Pontryagin多様体は (N, w)に一致する。
補題 3.1.14 M を境界を持たないコンパクト多様体とする。f, g : M → Spを二つのC∞級写像とし、y ∈ Spを f, g共通の正則値とする。TyS
pの正の向きの基底vについてフレーム付き部分多様体 (f−1(y), f ∗v)と (g−1(y), g∗v)が等しいならば、f, gは滑らかにホモトピックになる。
証明 N = f−1(y) = g−1(y)とおく。f∗v = g∗vより、任意の x ∈ N についてf ∗v(x) = g∗v(x)となり、dfx|T⊥
x N = dgx|T⊥x N。また、dfx|TxN = dgx|TxN = 0だか
ら、dfxと dgxは TxM = TxN + T⊥x N で等しくなり、dfx = dgxが成り立つ。
まず f と gがN のある近傍 V 上で一致している場合を考える。
h : Sp − {y} → Rp
3.1. フレーム付きコボルディズム 71
を立体射影とする。
H(x, t) =
{f(x) (x ∈ V )
h−1(th(f(x)) + (1 − t)h(g(x))) (x ∈ M − N)
とおく。x ∈ V ∩(M −N) = V −Nのとき f(x) = g(x)となるので、上のH(x, t)の定義の二つの場合分けの共通部分において二つの定義は一致する。さらにH(x, t)
はC∞級になり、f と gは滑らかにホモトピックになる。上で示したことより、補題を証明するには f をN のある近傍で gに一致するよ
うに、yの逆像N を変化させずに、滑らかに変形できればよいことになる。定理3.1.13より、N × RpからM 内のN の開近傍 V への微分同型
N × Rp → V ⊂ M
が存在する。N = f−1(y)であり N はコンパクトだから、V を十分小さくとり、f(V ), g(V ) ⊂ Spが−y ∈ Spを含まないようにすることができる。V とN × Rp
を上の微分同型で同一視し、Sp − {−y}を微分同型によってRpと同一視すると、f, gに対応する写像
F,G : N × Rp → Rp
を得る。F,GはF−1(0) = G−1(0) = N × {0}
とdF(x,0) = dG(x,0) = Rpへの射影 (x ∈ N)
を満たす。F, GのN × {0}における微分の性質より、ある c > 0が存在し、x ∈ N, u ∈
Rp, 0 < |u| < cのとき、
〈F (x, u), u〉 > 0, 〈G(x, u), u〉 > 0
が成り立つことを示す。F は
F (x, 0) = 0, dF(x,0)(X, u) = u
を満たしているので、Taylorの定理より、ある定数 c1, c2 > 0が存在し、
|F (x, u) − u| ≤ c1|u|2 (|u| ≤ c2)
が成り立つ。Nはコンパクトだから、c1, c2はすべての x ∈ Nについて共通にとることができる。Cauchy-Schwarzの不等式より、
|〈F (x, u), u〉 − |u|2| = |〈F (x, u) − u, u〉| ≤ |〈F (x, u) − u, u〉| · |u| ≤ c1|u|3.
72 第 3章 フレーム付きコボルディズム
よって、−c1|u|3 ≤ 〈F (x, u), u〉 − |u|2
となり、|u|2 − c1|u|3 ≤ 〈F (x, u), u〉
を得る。そこで、c = min{c−11 , c2}とおくと、0 < |u| < cに対して
0 < |u|2(1 − c1|u|) ≤ 〈F (x, u), u〉
が成り立つ。Gについても同様にできる。これより、F (x, u), G(x, u)はRp内の半空間
{v ∈ Rp | 〈v, u〉 > 0}
内にある。そこで、x ∈ N, u ∈ Rp, |u| < cと 0 ≤ t ≤ 1に対して
Ht(x, u) = (1 − t)F (x, u) + tG(x, u)
によってHtを定める。0 < |u| < cのとき各 0 ≤ t ≤ 1についてHt(x, u) 6= 0だから、
H−1t (0) = N × {0}
が成り立つ。滑らかなホモトピーを全体で定義するために、C∞級関数 λ : Rp → [0, 1]を
λ(u) =
{1 (|u| ≤ c/2)
0 (c ≤ |u|)
となるようにとる。
Ft(x, u) = (1 − λ(u)t)F (x, u) + λ(u)tG(x, u)
によって滑らかなホモトピーFtを定めると、F0 = F とF1 = G (|u| ≤ c/2)を満たし、さらに各 0 ≤ t ≤ 1について F−1
t (0) = N × {0}が成り立つ。対応する元の f の滑らかな変形は望むものになり、補題の証明が完結する。
定理3.1.7の証明 f, gが滑らかにホモトピックであると仮定すると、補題3.1.12
より、Pontryagin多様体 f−1(y)と g−1(y)はフレーム付きコボルダントになる。逆に Pontryagin 多様体 f−1(y) と g−1(y) の間のフレーム付きコボルディズム
(X, w)があると仮定する。フレーム付き部分多様体 (X, w) ⊂ M × [0, 1]に対して、定理 3.1.8の証明と同様にして、C∞級写像
F : M × [0, 1] → Sp
3.1. フレーム付きコボルディズム 73
であって、(F−1(y), F ∗v) = (X, w)を満たすものを構成することができる。Ft(x) =
F (x, t)とおく。F0, f : M → Spは同じPontryagin多様体を定めているので、補題3.1.14より、F0と f は滑らかにホモトピックになる。同様にして、F1は gは滑らかにホモトピックになる。したがって、f と gも滑らかにホモトピックになる。
定理 3.1.15 (Hopf) M を境界を持たない向きの付いたコンパクト連結m次元多様体とする。M から Smへの二つのC∞級写像が滑らかにホモトピックになるための必要十分条件は、二つのC∞級写像が等しい写像度を持つことである。
証明 滑らかにホモトピックになる二つのC∞級写像の写像度が等しいことは、定理 2.2.5ですでに証明されている。
M 内の余次元mのフレーム付き部分多様体とは、M の有限部分集合の各点に接ベクトル空間の基底を指定することに他ならない。M から SmへのC∞級写像f : M → Smについて、正則値 y ∈ Smについて
deg(f) =∑
x∈f−1(y)
signdfx
となる。M から Smへのもう一つのC∞級写像 g : M → Smが f と同じ写像度を持つと仮定する。f と gの共通の正則値 y ∈ Smをとると、
∑
x∈f−1(y)
signdfx =∑
x∈g−1(y)
signdgx
が成り立つ。f−1(y)の点 x0, x1であって、signdfx0 = −signdfx1となる点の組に対して、M × [0, 1]内の曲線 c : [0, 1] → M × [0, 1]で二点を結び、cがM × [0, 1]の境界に直交するようにする。Tx0M の正の向きの基底を cの c(0)における法ベクトル空間の基底とみなして、cに沿って滑らかに移動すると、c(1)では Tx1M の逆向きの基底になる。g−1(y)についても同様の操作を行う。残った f−1(y)と g−1(y)
の点はすべて同符号で、個数はどちらも |deg(f)| = |deg(g)|に一致する。これらf−1(y)の点と g−1(y)の点を組にしてM × [0, 1]内の曲線で結び、構成したすべての曲線の合併に法ベクトル場の基底を合わせて考えると、Pontryagin多様体 f−1(y)
と g−1(y)の間のフレーム付きコボルディズムになる。したがって、定理 3.1.7より、f と gは滑らかにホモトピックになる。
定理 3.1.16 Mを境界を持たない向き付け可能ではないコンパクト連結m次元多様体とする。M から Smへの二つのC∞級写像が滑らかにホモトピックになるための必要十分条件は、二つのC∞級写像が等しい法 2の写像度を持つことである。
証明 滑らかにホモトピックになる二つの C∞級写像の法 2の写像度が等しいことは、定理 2.1.7ですでに証明されている。
74 第 3章 フレーム付きコボルディズム
M から Smへの二つのC∞級写像 f, g : M → Smが同じ法 2の写像度を持つと仮定する。f と gの共通の正則値 y ∈ Smをとると、
#f−1(y) = #g−1(y)
が成り立つ。f−1(y)の点x0, x1に対して、M × [0, 1]内の曲線 c : [0, 1] → M × [0, 1]
で二点を結び、cがM × [0, 1]の境界に直交するようにする。Tx0Mの基底 df∗x0
vをcの c(0)における法ベクトル空間の基底とみなして、cに沿って滑らかに移動すると、c(1)では Tx1M の基底になる。これが df∗
x0vと同じ向きのときは cをそのまま
にし、逆向きのときは、M が向き付け可能でないことから、M × [0, 1]も向き付け可能ではないので、cのホモトピー類をとりかえることにより、同じ向きになるようにすることができる。
g−1(y)についても同様の操作を行う。残った f−1(y)と g−1(y)の点の個数はどちらも 0になるかまたは 1になる。1のときは、これら f−1(y)の点と g−1(y)の点を組にしてM × [0, 1]内の曲線で結び、構成したすべての曲線の合併に法ベクトル場の基底を合わせて考えると、Pontryagin多様体 f−1(y)と g−1(y)の間のフレーム付きコボルディズムになる。したがって、定理 3.1.7より、f と gは滑らかにホモトピックになる。
例 3.1.17 例 2.2.12で原点中心の点対称写像
r : Sn → Sn ; x 7→ −x
の写像度は degr = (−1)n+1となることを示し、特に nが偶数のときは rは恒等写像と滑らかにホモトピックにはならないことをみた。さらに、定理 2.2.14の証明中に nが奇数のときは Sn上に各点で 0にならない C∞級ベクトル場が存在することを示し、そのとき、rは恒等写像と滑らかにホモトピックになることを示した。この結果は定理 3.1.15からも次のように簡単にわかる。nが奇数のときは、degr = (−1)n+1 = 1 = deg1となり、定理 3.1.15から rは 1と滑らかにホモトピックになる。
例 3.1.18 例 2.2.9ではfk : S1 → S1 ; z 7→ zk
の写像度が kになることを述べた。定理 3.1.15より任意のC∞級写像 f : S1 → S1
は fdegf に滑らかにホモトピックになる。したがって、
{f : S1 → S1 : C∞級写像 | degf = k}
は滑らかにホモトピックなC∞級写像の同値類になり、fkが代表元になる。
3.2. まつわり数 75
3.2 まつわり数この節の主題まつわり数の定義では球面の向きを使うので、まず球面の向きを
復習しておこう。有限次元実ベクトル空間の向きと多様体の向きは、定義 2.2.1で定義した。特にRnには標準的な向きが定まっている。その向きからRn内の n次元多様体にも自然に向きが定まる。特に
Dn = {x ∈ Rn | |x| ≤ 1}
にも自然に向きが定まる。定義 2.2.2では向きの付いた境界付き多様体の境界に向きを定めた。これに従ってDnの境界である球面の向きを定める。下図は S1と S2
の向きを示している。どちらも v1が外向きのベクトルである。
v1
v2
v1
v2
v1
v2
v3
v1
v2
v3
S1 S2
S1の場合は v2が向きを定め、S2の場合は v2, v3が向きを定めている。一般の場合、p = (1, 0, . . . , 0) ∈ Snにおける接ベクトル空間は
TpSn = {(0, x2, . . . , xn+1) | xi ∈ R}
となり、(0, 1, 0, . . . , 0), (0, 0, 1, 0, . . . , 0), . . . , (0, 0, . . . , 0, 1)
が Snの向きを定める。
定義 3.2.1 共通部分のない多様体M, N ⊂ Rk+1に対して、まつわり写像
λ : M × N → Sk
を λ(x, y) = (x − y)/|x − y|によって定める。M とN が境界なしで向きの付いたコンパクト多様体であって、dim M + dim N = kを満たすとする。M の接ベクトル空間の正の向きの基底とN の接ベクトル空間の正の向きの基底を順に並べて、M ×N の接ベクトル空間の向きを定めると、M ×N の向きが定まる。このとき、λの写像度をM とN のまつわり数と呼び、l(M, N)で表す。
76 第 3章 フレーム付きコボルディズム
定理 3.2.2 M,N ⊂ Rk+1は共通部分がなく、さらに境界なしで向きの付いたコンパクト多様体であって、dim M + dim N = kを満たすとする。N と共通部分を持たない向きの付いた境界付きコンパクト多様体X ⊂ Rk+1が存在し、M = ∂Xとなるとき、l(M,N) = 0が成り立つ。
証明 m = dim M, n = dim N とおく。すると、dim X = m + 1となり、X の各点は半空間Hm+1の開集合と微分同型になる開近傍を持つ。N の各点はRnの開集合と微分同型になる開近傍を持つので、X × N の各点は
Hm+1 × Rn = Hm+n+1 = Hk+1
の開集合と微分同型になる開近傍を持つ。したがって、X × N は向きの付いた境界付きコンパクト (k + 1)次元多様体になり、
∂(X × N) = ∂X × N = M × N
が成り立つ。XはN と共通部分を持たないことから、
λ : X × N → Sk
を λ(x, y) = (x − y)/|x − y|によって定めることができる。λ|∂(X×N) = λだから、補題 2.2.6より degλ = 0を得る。したがって、l(M,N) = degλ = 0が成り立つ。
例 3.2.3 R3内の二つの閉曲線のまつわり数の例を挙げておく。
µ(s) = (cos s, sin s, 0), ν(t) = (0, 1 + cos t, sin t) (s, t ∈ R)
によって µ(s), ν(t)を定め、
M = {µ(s) | s ∈ R}, N = {ν(t) | t ∈ R}
によってR3 内の二つの閉曲線M, N を定める。これらは、コンパクト 1次元多様体になり、パラメータ s, tによって向きがついている。M とN は共通部分を持たないことは直感的には明らかだが、定義式から次のように示すことができる。(x1, x2, x3) ∈ M ∩N とすると x1 = x3 = 0となる。これをM の点とみなすと可能性は (0,±1, 0)であり、N の点とみなすと可能性は (0, 1 ± 1, 0) = (0, 0, 0), (0, 2, 0)
である。これらは一致しないのでM ∩ N = ∅になる。これによってM,N ⊂ R3
のまつわり数を考えるための設定が整っていることがわかる。まつわり写像
λ : M × N → S2 ; (x, y) 7→ x − y
|x − y|の写像度を求めるため z = (1, 0, 0) ∈ S2について考える。(µ(s), ν(t)) ∈ λ−1(z)とすると
µ(s) − ν(t)
|µ(s) − ν(t)|= z = (1, 0, 0)
3.2. まつわり数 77
が成り立つ。µ(s) − ν(t) = (cos s, sin s − 1 − cos t,− sin t)
となるので、sin t = 0となり cos t = ±1を得る。これより
µ(s) − ν(t) = (cos s, sin s − 2, 0), (cos s, sin s, 0)
となる。sin s − 2 = 0となることはないので、
µ(s) − ν(t) = (cos s, sin s, 0).
さらに sin s = 0となり cos s = 1が成り立つ。したがって、
λ−1(z) = {(µ(0), ν(π))}
となり、zの逆像は一点 (µ(0), ν(π))のみからなる。そこで、(µ(0), ν(π))におけるλの微分写像を調べる。
dλ(µ(0),ν(π))
(dµ(0)
ds, 0
)=
dµ(0)
ds= (0, 1, 0),
dλ(µ(0),ν(π))
(0,
dν(π)
ds
)=
d
dt
∣∣∣∣t=π
(−1,−1 − cos t,− sin t)
|(−1,−1 − cos t,− sin t)|
=d
dt
∣∣∣∣t=π
(−1,−1 − cos t,− sin t)
(3 + 2 cos t)1/2
=1
3 + 2 cos t
{(0, sin t,− cos t)(3 + 2 cos t)1/2
−(−1,−1 − cos t,− sin t)1
2(3 + 2 cos t)−1/2(−2 sin t)
}∣∣∣∣t=π
= (0, 0, 1).
これよりdλ(µ(0),ν(π)) : T(µ(0),ν(π))(M × N) → TzS
2
は向きを保つ線形同型写像であることがわかる。よって、(µ(0), ν(π)) ∈ M ×Nはλの正則点になり、z ∈ S2は λの正則値になり、signdλ(µ(0),ν(π)) = 1も成り立つ。以上より
degλ =∑
x∈λ−1(z)
signdλx = signdλ(µ(0),ν(π)) = 1
となり、l(M, N) = 1を得る。次に
ν1(t) = (0, 3 + cos t, sin t) (t ∈ R)
によって ν1(t)を定め、N1 = {ν1(t) | t ∈ R}
78 第 3章 フレーム付きコボルディズム
によってR3内の閉曲線N1を定める。これは、コンパクト 1次元多様体になり、パラメータ tによって向きがついている。M とN1は共通部分を持たないことは直感的には明らかだが、定義式から次のように示すことができる。M の第二成分の動く範囲は [−1, 1]であるのに対して、N1の第二成分の動く範囲は [2, 4]だから、M ∩N1 = ∅になる。これによってM,N1 ⊂ R3のまつわり数を考えるための設定が整っていることがわかる。まつわり写像
λ1 : M × N1 → S2 ; (x, y) 7→ x − y
|x − y|の写像度を求める。
µ(s) − ν1(t) = (cos s, sin s − 3 − cos t, sin t)
の第二成分はsin s − 3 − cos t < 2 − 3 < 0
となるので、まつわり写像 λ1の像は
{(x1, x2, x3) ∈ S2 | x2 < 0}
に含まれ、特にλ1は全射ではない。したがって、λ1の写像度は0になり、l(M,N1) =
0を得る。上の l(M,N1) = 0は定理 3.2.2を使って、次のように示すこともできる。
X = {(x1, x2, 0) ∈ R3 | x21 + x2
2 ≤ 1}
によって X を定めると、第二成分を比較することにより X は N1 と共通部分を持たないことがわかる。X の定め方からX は境界付きコンパクト多様体になり、X ⊂ R2 × {0}は自然に向きが定まる。したがって、定理 3.2.2より l(M, N1) = 0
が成り立つ。
命題 3.2.4 L,M, Nを向きの付いた境界を持たない n次元多様体とする。さらに、L,Mはコンパクトであり、M,Nは連結であると仮定する。このとき、C∞級写像f : L → M, g : M → N に対して
deg(g ◦ f) = degg · degf
が成り立つ。
証明 z ∈ N を g ◦ f の正則値とすると、zは gの正則値になり、さらに各 y ∈g−1(z)は f の正則値になる。x ∈ (g ◦ f)−1(z)について、
signd(g ◦ f)x = sign(dgf(x) ◦ dfx) = signdgf(x)signdfx
3.2. まつわり数 79
が成り立ち、(g ◦ f)−1(z) =
⋃
y∈g−1(z)
f−1(y)
は共通部分のない合併になるので、
deg(g ◦ f) =∑
x∈(g◦f)−1(z)
signd(g ◦ f)x =∑
x∈(g◦f)−1(z)
signdgf(x)signdfx
=∑
y∈g−1(z)
∑
x∈f−1(y)
signdgysigndfx =∑
y∈g−1(z)
signdgy · degf
= degg · degf
を得る。
命題 3.2.5 M, N ⊂ Rk+1は共通部分がなく、さらに境界なしで向きの付いたコンパクト多様体であって、dim M + dim N = kを満たすとする。このとき、Rk+1
の恒等写像と滑らかにイソトピックな微分同型 h : Rk+1 → Rk+1に対して、微分同型 h : M → h(M), h : N → h(N)によって h(M)と h(N)の向きを定めると、l(h(M), h(N)) = l(M, N)が成り立つ。
証明 仮定より、滑らかなイソトピー Ft (t ∈ [0, 1])で
F0(x) = x, F1(x) = h(x) (x ∈ Rk+1)
を満たすものが存在する。これによって滑らかなホモトピー
Ft : M × N → Sk ; (x, y) 7→ Ft(x) − Ft(y)
|Ft(x) − Ft(y)|
を定めることができる。F0はM とN のまつわり写像 λM,N であり、F1は
h : M × N → h(M) × h(N) ; (x, y) 7→ (h(x), h(y))
とh(M)とh(N)のまつわり写像λh(M),h(N)との合成λh(M),h(N) ◦hになる。よって、λM,N は λh(M),h(N) ◦ hと滑らかにホモトピックになり、補題 2.2.7と命題 3.2.4より
degλM,N = deg(λh(M),h(N) ◦ h) = degλh(M),h(N) · degh.
h : M ×N → h(M)×h(N)は向きを保つ微分同型だから、例 2.2.11より degh = 1
となり、l(M,N) = degλM,N = degλh(M),h(N) = l(h(M), h(N))
を得る。
Rk+1内の部分多様体に対して定義したまつわり数を Sk+1内の部分多様体に対しても定義する。そのために、球面の立体射影を準備しておく。2次元球面の立体
80 第 3章 フレーム付きコボルディズム
射影は定理 1.1.16の証明中に定義した。一般次元の球面の立体射影はその拡張である。
Snの北極 (0, . . . , 0, 1)に関する立体射影を h+ : Sn − {(0, . . . , 0, 1)} → Rnで表す。すなわち、(x1, . . . , xn+1) ∈ Sn − {(0, . . . , 0, 1)}に対して
(0, . . . , 0, 1) + t(x1, . . . , xn, xn+1 − 1) = (tx1, . . . , txn, 1 + t(xn+1 − 1))
の第 (n + 1)成分が 0になる点を対応させることになるので、
1 + t(xn+1 − 1) = 0, t =1
1 − xn+1
.
よって、(x1, . . . , xn+1) ∈ Sn − {(0, . . . , 0, 1)}に対して
h+(x1, . . . , xn+1) =
(x1
1 − xn+1
, . . . ,xn
1 − xn+1
).
この立体射影によって Snの向きがどのように写るか調べる。そのために i成分のみ 1で他の成分はすべて 0のRn+1の元を eiで表す。e1 ∈ Snにおける接ベクトル空間 Te1S
nの元 e2, . . . , en+1は Te1Snの基底になり、向きを定めている。
ei =d
dt
∣∣∣∣t=0
(cos te1 + sin tei) (2 ≤ i ≤ n + 1)
となるので、2 ≤ i ≤ nのとき
dh+(ei) =d
dt
∣∣∣∣t=0
h+(cos te1 + sin tei) =d
dt
∣∣∣∣t=0
(cos te1 + sin tei) = ei
となり、
dh+(en+1) =d
dt
∣∣∣∣t=0
h+(cos te1 + sin ten+1) =d
dt
∣∣∣∣t=0
cos t
1 − sin te1
=− sin t(1 − sin t) − cos t(− cos t)
(1 − sin2 t)
∣∣∣∣t=0
e1 = e1.
dh+は Te1Snの正の向きの基底 e2, . . . , en, en+1をRnの基底 e2, . . . , en, e1に写す。
したがって、dh+ : Te1Sn → Rnはnが奇数のときに向きを保ち、nが偶数のときに
向きを逆にする。そこで、nが奇数のとき ρ = 1とし、nが偶数のとき ρ ∈ O(n)をdet ρ = −1となるものをとると ρ ◦ dh+ : Te1S
n → Rnは向きを保つ微分同型写像になる。これより、ρ ◦ h+ : Sn −{en+1} → Rnも向きを保つ微分同型写像になる。en+1 ∈ Sn以外の点 p ∈ Snについては、en+1と pを含む平面の回転 rθ ∈ SO(n+1)
を rθ(p) = en+1を満たすようとり、ρ ◦ h+ ◦ rθ : Sn − {p} → Rn を考えると、これも向きを保つ微分同型写像になる。そこで、stp = ρ ◦ h+ ◦ rθ : Sn − {p} → Rn とおくと、任意の p ∈ Snに対して stp : Sn − {p} → Rnは向きを保つ微分同型写像になる。
3.2. まつわり数 81
定義 3.2.6 M, N ⊂ Sk+1は共通部分がなく、さらに境界なしで向きの付いたコンパクト多様体であって、dim M + dim N = kを満たすとする。M ∪N に含まれない点 p ∈ Sk+1をとり、向きを保つ微分同型写像 stp : Sk+1 −{p} → Rk+1 によってstp(M), stp(N)の向きを定め、
l(M, N) = l(stp(M), stp(N))
によってM とN のまつわり数 l(M,N)を定める。
命題 3.2.7 定義 3.2.6のまつわり数の定義は、M ∪N に含まれない点 p ∈ Sk+1のとり方に依存しない。
証明 dim Sk+1 − dim M = k + 1 − dim M = 1 + dim N ≥ 2が成り立つ。同様に dim Sk+1 − dim N ≥ 2も成り立つ。これより、Sk+1 − M は弧状連結になりSk+1 − (M ∪N)も弧状連結になる。任意の二点 p0, p1 ∈ Sk+1 − (M ∪N)に対してこれらを結ぶ Sk+1 − (M ∪N)内の埋め込みになっているC∞級曲線 pt (t ∈ [0, 1])
をとることができる。さらに ptのパラメータは弧長パラメータをとる。
{pt | 0 ≤ t ≤ 1}
の開近傍W ⊂ Sk+1 − (M ∪ N)をとり、速度ベクトル p′tを Sk+1上のベクトル場Xに拡張し、
{x ∈ Sk+1 | X(x) 6= 0} ⊂ W
を満たすようにする。x ∈ X を始点とするX の積分曲線を φt(x)で表わすと、φt
はdφt(x)
dt= X(φt(x)), φ0(x) = x
を満たす。さらにXの定め方からdpt
dt= X(pt) (0 ≤ t ≤ 1)
が成り立つので、ptはp0を始点とするXの積分曲線になっている。よって0 ≤ t ≤ 1
のとき φt(p0) = ptとなり、特に φ1(p0) = p1が成り立つ。φ1は恒等写像とイソトピックになり、各 φtは Sk+1 − W では恒等写像になる。そこで、
stpt ◦ φt ◦ (stp0)−1 : Rk+1 → Rk+1
について考えると、これはRk+1微分同型 stp1 ◦ φ1 ◦ (stp0)−1と恒等写像の間のイ
ソトピーになり、
stp1(M) = (stp1 ◦φ1 ◦ (stp0)−1)◦stp0(M), stp1(N) = (stp1 ◦φ1 ◦ (stp0)
−1)◦stp0(N)
が成り立つ。したがって、命題 3.2.5より次の等式を得る。
l(stp1(M), stp1(N)) = l(stp0(M), stp0(N)).
以上で定義 3.2.6のまつわり数の定義は、M ∪ N に含まれない点 p ∈ Sk+1のとり方に依存しないことがわかった。
82 第 3章 フレーム付きコボルディズム
3.3 Hopf不変量f : M → N を向きの付いた多様体間の C∞ 級写像とし、dim M > dim N が
成り立つと仮定する。f の正則値 y ∈ N に対して、補題 1.2.4より f−1(y)は多様体になる。各点 x ∈ f−1(y)において dfx : TxM → TyN は全射になり ker(dfx) =
Tx(f−1(y))が成り立つ。そこで、TxMにおけるTx(f
−1(y))の直交補空間をPxで表すと dfxはPxから TyNへの線形同型を与える。TyNの正の向きの基底w1, . . . , wn
をとり、dfx(vi) = wi (1 ≤ i ≤ n)を満たすように vi ∈ Pxをとると、v1, . . . , vnはPxの基底になる。Tx(f
−1(y))の基底 u1, . . . , um−nを
u1, . . . , um−n, v1, . . . , vn
が TxMの正の向きになるようにとる。この u1, . . . , um−nによって Tx(f−1(y))の向
きが定まり、f−1(y)は向きの付いた多様体になる。
定理 3.3.1 f : S2p−1 → Sp を C∞ 級写像とし、y 6= z を f の正則値とする。f−1(y)と f−1(z)には自然に向きが定まり、まつわり数 l(f−1(y), f−1(z))が定まる。l(f−1(y), f−1(z))は yと zの選び方には依存しないで、f のホモトピー類にのみ依存する。
定義 3.3.2 定理 3.3.1の整数H(f) = l(f−1(y), f−1(z))を fのHopf不変量と呼ぶ。
83
参考文献について
この講義ノート全体を通してMilnor[2]を参考にした。Brouwerの不動点定理 (定理 1.2.23)の証明は、C∞級写像の場合に不動点定理を
証明し (補題 1.2.19)、連続写像の場合はStone-Weierstrassの近似定理 (定理 1.2.22)
を利用して証明した。定理 1.2.22については [2]には詳しく書かれていないので、Dieudonne[1], Chapter VII Spaces of continuous functions,
3. The Stone-Weierstrass approximation theorem
を参考にして詳細な証明をつけた。その際、[1]の (7.3.1.6)の証明にあった不自然な部分は修正した。
84
参考文献
[1] J. Dieudonne, Foundations of modern analysis, Enlarged and corrected print-
ing, Academic Press, 1969.
[2] John W. Milnor, Topology from the differentiable viewpoint, University Press
of Virginia, 1965.
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