第10講コミュニケ-ションと 意思決定支援 ·...

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1 あさひかわ緩和ケア講座 2013 あさひかわ緩和ケア講座 2013 あさひかわ緩和ケア講座 2012 あさひかわ緩和ケア講座 2013 あさひかわ緩和ケア講座 2013 10コミュニケ-ションと 意思決定支援 旭川医科大学病院 緩和ケア診療部 阿部泰之 あさひかわ緩和ケア講座 2013 医療におけるコミュニケーションの役割 情報共有 心のケア 意思決定 の支援 多職種 協働 あさひかわ緩和ケア講座 2013 医師のコミュニケーション技術と関連する要因 1. がん患者の精神的苦痛 Mager et al.2002 2. がん患者の医療に対する満足感 Ishikawa et al. 2002 3. がん患者による重要な情報の開示 Maguire et al. 1996 4. 患者からの苦情 Tamblyn et al. 2007 5. 治療アドヒアランス 中川ら 2001 6. がん専門医の燃え尽き Ramirez et al. 1995 医師のコミュニケーションスキルが低いと・・・ PEACE project 緩和ケア研修会プレゼンテーション資料より引用 あさひかわ緩和ケア講座 2013 コミュニケーションは情報共有だけではない 1. がん患者の精神的苦痛 → 精神療法・メンタルケア 2. がん患者の医療に対する満足感 → 医療の質向上 3. がん患者による重要な情報の開示 → 意思決定支援 4. 患者からの苦情 → 病院のクレーム対策 5. 治療アドヒアランス → 適切な抗がん治療の提供 6. がん専門医の燃え尽き → 医師自身のケア 医師のコミュニケーションスキルが高くなれば・・・ あさひかわ緩和ケア講座 2013 情報共有としてのコミュニケーション

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あさひかわ緩和ケア講座 2013あさひかわ緩和ケア講座 2013

あさひかわ緩和ケア講座 2012

あさひかわ緩和ケア講座 2013あさひかわ緩和ケア講座 2013

第10講 コミュニケ-ションと意思決定支援

旭川医科大学病院

緩和ケア診療部 阿部泰之

あさひかわ緩和ケア講座 2013

医療におけるコミュニケーションの役割

情報共有 心のケア

意思決定の支援

多職種協働

あさひかわ緩和ケア講座 2013

医師のコミュニケーション技術と関連する要因

1. がん患者の精神的苦痛 Mager et al.2002

2. がん患者の医療に対する満足感 Ishikawa et al. 2002

3. がん患者による重要な情報の開示 Maguire et al. 1996

4. 患者からの苦情 Tamblyn et al. 2007

5. 治療アドヒアランス 中川ら 2001

6. がん専門医の燃え尽き Ramirez et al. 1995

医師のコミュニケーションスキルが低いと・・・

PEACE project 緩和ケア研修会プレゼンテーション資料より引用

あさひかわ緩和ケア講座 2013

コミュニケーションは情報共有だけではない

1. がん患者の精神的苦痛 → 精神療法・メンタルケア

2. がん患者の医療に対する満足感 → 医療の質向上

3. がん患者による重要な情報の開示 → 意思決定支援

4. 患者からの苦情 → 病院のクレーム対策

5. 治療アドヒアランス → 適切な抗がん治療の提供

6. がん専門医の燃え尽き → 医師自身のケア

医師のコミュニケーションスキルが高くなれば・・・

あさひかわ緩和ケア講座 2013

情報共有としてのコミュニケーション

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あさひかわ緩和ケア講座 2013

情報共有としてのコミュニケーション

• 語源:communicare 意味:共有する

• コミュニケーションの流れ

– 送り手が情報を発信

– 受け手が情報を受信

– 情報の理解

– 情報の理解を送り手に再発信

• 情報の種類:感情、意思、思考、知識など

• 臨床コミュニケーションも双方向の情報共有

あさひかわ緩和ケア講座 2013

コミュニケーションの種類

• 非言語的コミュニケーション

– 表情や動作、見た目、環境

• 準言語的コミュニケーション

– 語調、音調、スピード

• 言語的コミュニケーション

– フレーズ、内容、説明文

声の調子38%

言葉7%

表情・姿勢身振りなど

55%

Mehrabian 1971

あさひかわ緩和ケア講座 2013

コミュニケーションの背景

• 相手はどのような人なのか?

– 判断力は十分か

– 知的レベルはどれくらいか

– 状況(病状)をどれくらい認識(理解)しているか

– どんな価値観や考えを持っているのか

– 取り巻く環境(家族・社会)の情報

– ・・・

あさひかわ緩和ケア講座 2013

コミュニケーションの背景

• 自分は(相手にとって)どんな人か

– 主従関係/対等な関係、関係が浅い/深い?

– 信用がある/ない?

– 頼りにしている/していない?

– どんな価値観や考えをもっているのか?

– ・・・

コミュニケーションを学ぶとは自分を知ること

あさひかわ緩和ケア講座 2013

なぜコミュニケーションを学ぶのか

• 医師と患者

• 医師と看護師

• 看護師と家族

• チーム内のカンファレンス

• プライマリーケアとスペシャリスト

• 臨床家と研究者

• 自分の中の葛藤

• ・・・

あさひかわ緩和ケア講座 2013

巷にあふれる「スローガン」

• 患者の立場に立とう!

• 患者の話を良く聞こう!

• 患者中心の医療をしよう!

• 善意と配慮を持とう!

• 確かに正論だけど・・・

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あさひかわ緩和ケア講座 2013

なぜコミュニケーションを学ぶのか

• 多様性と個別性に対応するため

–ガイドラインを揃えても何もできない

• 相互影響の意識

–関わり方次第で医療は良くも悪くもなる

• 重大な決断をサポートする責任

–コミュニケーションギャップの解消

• それ自体が治療的意義を持つ

–話すことが心のケアになり得るあさひかわ緩和ケア講座 2013

コミュニケーションの前提として

あさひかわ緩和ケア講座 2013

用語の問題

• 専門用語は患者に誤った解釈をもたらし患者を混乱させている

専門用語 一般用語

治癒 がんは完全になくなり、再発の心配がない

コントロール がんの進行が抑えられている

部分寛解 がんは依然としてあるが、小さくなっている

不変 がんの大きさに変わりがない

進行 がんが大きくなり悪化している

治療不応性 治療が効かない

Wilson, Can Fam Phys. 1980.

PEACE project 緩和ケア研修会プレゼンテーション資料より引用

あさひかわ緩和ケア講座 2013

精神心理状態の見極めの問題

あさひかわ緩和ケア講座 2013

「頭の中が真っ白」

• 悪い知らせの直後

• 記憶力・思考力・判断力が著しく低下

• 丁寧に話しても記憶に残っていない

• 動揺せず、物分かりがいいように見える

⇒実際は判断力・疎通性が低下している

• 「頭の中が真っ白」への理解を示す

• 同じ内容でも繰り返し説明、日を改める

• 説明内容を書いて渡す

あさひかわ緩和ケア講座 2013

せん妄ではないですか?

• 前に話したことを覚えていない

• 急に物静かになった

• なんだか怒りっぽい

• 性格が変わったみたい

• 常に眠たそうにしている

⇒せん妄の可能性を考えましょう

• いうまでもなく・・せん妄=意識障害

• 記憶力・思考力・判断力が低下した状態です

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あさひかわ緩和ケア講座 2013

心のケアとしてのコミュニケーション

あさひかわ緩和ケア講座 2013

心のケア=コミュニケーション

• 心のケア=コミュニケーション– 心のケアとは何か=コミュニケーションとは何か

– 心のケアのスキル=コミュニケーションのスキル

• 患者は医療者の態度、もの言いなどによって心理的影響を受ける

• 良い影響を与えるコミュニケーションを図るほうがリーズナブル

• それ自体を意図的に行うのがカウンセリング

あさひかわ緩和ケア講座 2013

共感というスキル

• 共感:empathy≠sympathy:同情

• 一般の人の見解:人間味のなくなった医療に思いやりをもたらすとの期待

• 共感のスキル– 共感を表すという行動

– 自意識への感情の浸食を防ぐ

– 治療的手段

– 会得することが出来る

• ≠相手をコントロールするための方法

あさひかわ緩和ケア講座 2013

傾聴・共感と言われても・・

• 実際はどうしたらいいのか、結構難しい

• こんなのはいかがでしょう?

• 「ふんふん療法」

• 「なぞり療法」

• 「吐き出し効果」

by 柏木雄次郎先生

あさひかわ緩和ケア講座 2013

ふんふん療法

• 愚痴・弱音・泣き言・涙に対して

• 優しく静かな相づち(ふんふん)をかえす

• 聴く側の涙は禁忌ではない

○「この人は自分のことを真剣に思ってくれている」という感覚が孤独のつらさを和らげる

×誰もがつらいと思うような訴えに“気のきいた助言は逆効果

人生の根源的な問いに答えはない

あさひかわ緩和ケア講座 2013

なぞり療法

• 相手の言葉をなぞる

• いわゆるオウム返しだけでは不十分

• 少々色づけをする

○相手の言葉を自分の言いまわしで返す

「・・というのがつらかったんですね」

○言葉を咀嚼して自分の意味づけをして返す

「・・ということだと、夜も眠れないですよね」

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あさひかわ緩和ケア講座 2013

なぞり療法

×相手の話の腰を折らない

「いや、でもね、・・・(助言)って考えたら?」

×簡単に理解したように言わない

「あー、よくわかりますよ」

(お前なんかにわかってたまるか!)

あさひかわ緩和ケア講座 2013

吐き出し効果

• 溜まっている苦痛・苦悩を吐き出すことで、つかえがとれて、気持ちの整理に役立つ

• 「吐き出す」という意味では愚痴・弱音・泣き言・涙・怒り・笑い・・なんでもよい

• 近しいからこそ言えないこともある⇒吐き出せる場所があることは大切

• だからって強要はだめ。雰囲気を感じ取って!

• ときには「2人だけの秘密」も必要

あさひかわ緩和ケア講座 2013

コミュニケーションのレベル

基本的なコミュニケーション例:通常の診療

悪い知らせを伝える例:難治がん、再発、抗がん治療中止を伝える

困難なケースに対応する例:否認、怒り、「私死ぬんですか」

精神疾患に対応する例: 重症うつ病、自殺

相手の変容を意図したもの例: 認知行動療法など

あさひかわ緩和ケア講座 2013

悪い知らせのコミュニケーション

あさひかわ緩和ケア講座 2013

悪い知らせの定義

『患者の将来への見通しを根底から否定的に変えてしまうもの』

Buckman 1984

あさひかわ緩和ケア講座 2013

難治がん診断・告知

がんの再発・進行

抗がん治療の中止

終末期の話し合い

がん医療における悪い知らせ

がん医療において悪い知らせは避けて通れない

52万人/年 32万人/年闘病者300万人

Fallowfield & Jenkins 2004

PEACE project 緩和ケア研修会プレゼンテーション資料より引用改変

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あさひかわ緩和ケア講座 2013

• 相手に苦痛をもたらすのではないかという懸念

• 教育を受けていないことをすることに対する心配

• 患者が感情的になるのではないかという心配

• 自分の感情を表現することの気恥ずかしさ

• 「わかりません」と言うことに対するためらい

• 自分自身の病気や死への恐れ

悪い知らせを伝えるのはなぜ難しいのか

自らの中にあるバリア(障壁)に気付くことは重要

Buckman, BMJ. 1984.

PEACE project 緩和ケア研修会プレゼンテーション資料より引用

あさひかわ緩和ケア講座 2013

伝えるか否か⇒いかに伝え、分かち合うか

悪い知らせを伝えるか否か

• 患者権利の社会的要求の高まり

– 知りたいと考えている人が増えている

• 既に医療者の倫理的慣習

• 患者-家族-医療者の信頼関係の強化– 苦難に対処し乗り越えることを支援するためには

必要不可欠

あさひかわ緩和ケア講座 2013

悪い知らせを伝えるか否か

伝えることのメリット伝えないことのデメリット

伝えることのデメリット伝えないことのメリット

あさひかわ緩和ケア講座 2013

悪い知らせを伝えるか否か

伝えることのメリット伝えないことのデメリット

伝えることのデメリット伝えないことのメリット

あさひかわ緩和ケア講座 2013

悪い知らせのコミュニケーションスキル

あさひかわ緩和ケア講座 2013

悪い知らせのコミュニケーションスキル

• SPIKES– Robert Buckmanが提唱

– 悪い知らせを伝える際の6つの手順

– ASCOの公式カリキュラムにも入っている

• SHARE– 国立がんセンター東病院における面接調査

– 内容分析を行い、スキルを導いた

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あさひかわ緩和ケア講座 2013

OSCEの医療面接

• 客観的臨床能力試験(2005年~)

• 医療面接は模擬患者SPを相手にしたテストで評価される

• 知識偏重の医学教育のアンチテーゼでもある

• これ以降、「失礼な医者」が減っている

• 学べるのは型通りのコミュニケーションと接遇

あさひかわ緩和ケア講座 2013

コミュニケーションスキルを使う際の注意点

• 限定された状況で得られたコミュニケーションの「平均値」である

• 個別性が高いことに注意

– 「この範囲に入っていればOK」なのではない

– ≠ L/Dの正常範囲

• 方法を目的化しないこと

– (多くは無意識に)覚えたスキルと同じになるようにコミュニケーションを誘導していくことがある

あさひかわ緩和ケア講座 2013

こんな講義は役に立たない!?

• 内科研修医と看護師に対して4時間×8回の終末期ケアに関わるコミュニケーション教育

– 基本的なスキル(ロールプレイを含む)

– 模擬患者・家族・医療者によるシミュレーション

– ディスカッション(悪い知らせを伝える、事前指示、DNAR、ホスピスや死の話、看護師-医師間の衝突、家族会議)

• 結果:トレーニングを受けても患者から見たコミュニケーションの質は変わらず、抑うつはむしろ悪化した

Curtis. JAMA 2013

あさひかわ緩和ケア講座 2013

意思決定支援としてのコミュニケーション

あさひかわ緩和ケア講座 2013

難治がん診断・告知

がんの再発・進行

抗がん治療中止

終末期の話し合い

がん医療における継続的コミュニケーション

コミュニケーションスキル

コミュニケーションスキル

コミュニケーションスキル

コミュニケーションスキル

治療・ケアのゴールの共有

アドバンス・ケア・プランニングあさひかわ緩和ケア講座 2013

技術の進歩(選択肢の数)

決定の難しさ

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あさひかわ緩和ケア講座 2013

どうやって決めるか

︵話し合うか︶

考えないといけない

どうやって決めるか

︵話し合うか︶

考えないといけない

インフォームド・コンセント

「説明と同意」

アメリカ式⾃由主義・個⼈の⾃由・⾃⼰決定

を⼤切にする患者が医療の決断に参加し⾃ら決めることが⼤切

→ インフォームド・コンセント

インフォームド・コンセント• 1970年代くらいから「知る権利」「自己

決定の権利」を含む法律・倫理上の概念としてアメリカで生まれた

• 「自己決定(自律尊重)」を重視する流れから必然的に生まれたもの

• 日本では法制化はされておらず、あくまでも倫理・道徳的な意味合いで広がっている(民事裁判にはなり得る⇒結果として拘束力を持つ)

治療法、それによるメリット・デメリット、予想される経過を⼗分説明し

患者がそれを良く聞いて⾃ら選択・決断する(じぶんできめる)

﹁ど・ち・ら・に・

し・よ・う・か・な?﹂

でも本⼈が決めたからOK

?サイコロを転がして決めても

本⼈が決めたからOK?

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「じぶんできめる」のが⼀番!

「じぶんできめる」べきである!

という社会の雰囲気

でも、それってどうなの?

医療において意思決定で困る場面

認知症がある

不慮の事故で意識不明

「先生にお任せします」

緊急処置が必要

終末期に関する話題

医者が無理やりサインさせた?

家族の意見が食い違っている

・・・

当たり前すぎて忘れていること

⼈にはそれぞれの価値観・考え⽅がある

もしあなただったら⾃分の意向を最優先にしてほしいですか?

末期状態になった場合延命処置はやめて欲しいリビング・ウィル等により「患者の意思を尊重する」に賛成

厚⽣労働省 「終末期医療に関する調査」結果 2008

71%

84% もしあなただったら余命は教えてほしいと思いますか ?

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治る⾒込みがない時に⾒通し(治療期間・余命)を知りたい

そのうち70歳以上に限ると厚⽣労働省 「終末期医療に関する調査」結果 2008

77%

65%

Miyashita M, et al: Ann Oncol. 18: 1090-1097, 2007

日本人が「望ましい死」を迎えるために

必要だと考えていること

がん医療における望ましい終末期医療のあり方について

一般市民2548人および遺族513人を対象とした調査

望ましい死を迎えるために

• ⾝体的、⼼理的な苦痛がないこと• 望んだ場所ですごすこと• 医療スタッフとの良好な関係• 希望や楽しみがあること• 他者の負担にならないこと• 家族との良好な関係• ⾃⽴していること• 落ち着いた環境で過ごすこと• ⼈として尊重されること• ⼈⽣を全うしたと感じられること

Miyashita M. Ann Oncol 2007

日本人に共通する大事なこと

• できるだけの治療を受ける• ⾃然なかたちで過ごす• 伝えたいことを伝えておける• 先々のことを⾃分で決められる• 病気や死を意識しない• 他⼈に弱った姿を⾒せない• 価値を感じられる• 信仰に⽀えられている

Miyashita M. Ann Oncol 2007

人によって重要さが異なること

多数決で決めちゃっていいのかな?

胃ろう

胃の中に直接食べ物や水分を投与する手段

もともとは食べれない子どものために開発された

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民党の石原伸晃幹事長は2

月6日のBS朝日番組で、病

院で腹部に開けた穴から栄養剤

を送る「胃ろう」の処置を見学

した際の感想として「意識がな

い人に管を入れて生かしてい

る。(病院で)何十人も寝てい

る部屋を見せてもらった時に

何を思ったかというと(映画

の)エイリアンだ。人間に寄生

しているエイリアンが人間を

食べて生きているみたいだ」と

発言した。

自民党 石原伸晃幹事長

「人間に寄生しているエイリアンが人間を食べて生きているみたいだ」

2月6日 BS朝日にて

つまり

胃ろうは

「よくない」「無意味だ」

という偏った価値観

それが「唯一正しい」という誤ったメッセージの流布

この子の胃ろう

を「無意味」と

言えますか?

胃ろう

胃の中に直接食べ物や水分を投与する“手段”

・ 使うかどうかは選ぶことができる

・ 本来的に「良い」「悪い」はない

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自分の終末期や死後についての

希望を文書に残しておくこと

もしくはその文書

私は、下記の医療行為について、受けるか否かにつ

いて以下のように希望します。

① 輸液 (1)希望する (2)希望しない

② 中心静脈栄養 (1)希望する (2)希望しない

③ 経管栄養(含む胃瘻) (1)希望する (2)希望しない

④ 昇圧剤の投与 (1)希望する (2)希望しない

⑤ 人工呼吸器 (1)希望する (2)希望しない

⑥ 蘇生術 (1)希望する (2)希望しない

⑦ その他(具体的に: )

(社)全日本病院協会 終末期医療の指針より

私は、私の傷病が不治であり、かつ死が迫っていたり、生

命維持措置無しでは生存できない状態に陥った場合に備

えて、私の家族、縁者ならびに私の医療に携わっている

方々に次の要望を宣言いたします。

① 私の傷病が、現代の医学では不治の状態であり、既に

死が迫っていると診断された場合には、ただ単に死期を

引き延ばすためだけの延命措置はお断りいたします。

② ただしこの場合、私の苦痛を和らげるためには、麻薬などの適切な使用により十分な緩和医療を行ってください。

③ 私が回復不能な遷延性意識障害

(持続的植物状態)に陥った時は

生命維持措置を取りやめてください。

日本尊厳死協会 尊厳死の宣言書より(抜粋)

– 今後の医療行為に関すること• 人工呼吸器,人工透析,人工栄養、輸血など

– 蘇生行為をするかどうか

– 代理決定者は誰か

– 療養の快適さ• 苦痛の除去,音楽や詩を聞くこと,清潔でいること

– 周囲からの配慮• 祈ってもらうこと,家で死にたいこと

– 死後の家族への希望• 家族仲良く過ごすこと・・

⽇本には(まだ)法定⽂書はありません

「じぶんできめる」のが⼀番!

「じぶんできめる」べきである!

という社会の雰囲気

でも、それってどうなの?

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それでも“自分の終末期”について

話し合っておいたほうがいい

最終的に家族が困る

家族や医療者と信頼関係を作る機会を逃す

代理決定者

通常、家族など親しい人

一緒に話し合いを行う人

代理決定者って?

代わりになんでも決めていい!

「こう考えるだろう」と推定する

話し合っておかないと・・・

「親父、本当はどうしたかったんだろ?」

「わからないな・・・」

「でも考えている猶予もないな」

「じゃあ、やれることはやってください!」(なにもしないで「親を見捨てた」なんて思われるのも嫌だし・・)

終末期に関する意思決定のフレームワーク

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自分の終末期や死後についての

希望を文書に残しておくこと

もしくはその文書

1991年 「患者自己決定法」事前指示の推進

事前指示は無益!?(満足度、医療費、意向の尊重)

意思決定能力の低下に備えて,

今後の治療・療養について

患者・家族と医療者が

あらかじめ話し合うプロセス

患者さん・家族(代理決定者)医療者との共同作業

Detering, BMJ. 2010

アドバンス・ケア・プランニングを行うと・・

患者さんと家族の満足度up遺族の不安やうつが軽くなる

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終末期に関する意思決定のフレームワーク

• DNAR(Do Not Attempt Resuscitate)• 急変時または末期状態で心停止・呼吸停止の場合

に、蘇生処置をしてほしくないという患者の意向

– 心臓マッサージ

– 気管内挿管

– 人工呼吸器

– 薬物投与(エピネフリンなど)

• このような患者の意向を受けて医師が出す指示⇒“DNRオーダー”

DNAR

PEACE project 緩和ケア研修会プレゼンテーション資料より引用

• ACPは話し合いのプロセスであり

DNRオーダーをとることではない

「御注文を繰り返します。スープに

若鶏のコンフィ、ライス..そして

蘇生はしないということで...」

PEACE project 緩和ケア研修会プレゼンテーション資料より引用

違いは?

ひとりでノートに書くんじゃなくてみんなで話し合うことが⼤事

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治療法の決定療養の選択

リビング・ウィル

産物として

十分な話し合い(価値観の共有)

話し合いから得られるもの

相互理解・信頼関係

ないと困るけど、唯一の目的では

ない

完全な自律は目指せない

• 「他人に迷惑がかからなければ、あとは個人の自由」だけになった社会って!?

• 「短期的に」「目の前の人に」迷惑がかからなくても、ひとりの決定は巡り巡って社会に影響する

• どんな決定も自分だけで決定したわけではない

• 様々な人からの影響を受けて、我々は考えたり行動している

実はアドバンス・ケア・プランニングも・・・

「意思決定能力の低下に備えて・・・」

「話せるうちに決めておいてもらおう!」

「⾃⼰決定」ありきの引⼒圏から逃れきれていない

意思決定においてその人が尊重されるとは

≠ その人が最終決定をすること

= その人の価値観が尊重されること

インフォームド・コンセントもアドバンス・ケア・プランニングもその人を尊重できないことがある

その人の価値観を尊重することを主軸にして意思決定を支援する方法を考えよう

価値観(レベル)での話し合い 当たり前すぎて忘れていること

⼈にはそれぞれの価値観・考え⽅がある

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結論も⼤事だけど

その結論を出すまでに

どんな価値観の人が

どう考えたのか

周囲(家族・医療者)の人と

どう話し合ってきたのか

が、もっと大事

例えば・・・

自宅療養?

家族が大切

以前に大事にしてあげられなかった

そういえば幼少のころ・・・

こんなふうに考えるとちょっと画期的なことが起こります

既に意思表明できない人は

→尊重されない

自分で決めたくない人は

→尊重されない

自己決定の限界

価値観で話すと・・・

既に意思表明できない人も

→尊重される

自分で決めたくない人も

→尊重される

結局これって⼈間理解

なんだろう

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「氷山の一角」

ではない部分

地位地位

からだの症状からだの症状一時の感情一時の感情

スピリチュアリティースピリチュアリティー

家族家族

大事にしてきたこと大事にしてきたこと

性格性格

住所住所

主義・主張・こだわり主義・主張・こだわり

文化背景文化背景

人生の意味人生の意味

職業職業

疾患名疾患名

こころの症状こころの症状

経済力経済力

信心信心

趣味・好み趣味・好み

地位

からだの症状一時の感情

スピリチュアリティー

家族

大事にしてきたこと

性格

住所

主義・主張・こだわり

文化背景

人生の意味

職業

疾患名

こころの症状

経済力

信心

趣味・好み

「氷山の一角」

ではない部分

大事にしたいのはなんだろう?

人そのもの 自律という概念

患者さんは弱い存在

でも弱い人間ではない

病の中、どこまでも冷静沈着に物事を判断し、全てを自分で決めることの出来る人はいない。もしくはそうする必要もない。でも、その人自身の意志の力は信じてあげたい。それを汲み取ることに力を注ぎたい。

あさひかわ緩和ケア講座 2011

Take Home Message!

医療コミュニケーションの役割は情報共有、心のケア、意思決定支援、多職種協働である

悪い知らせは伝えるか否かではなく、いかに伝え分かち合うかを議論する時代となっている

アドバンス・ケア・プランニングとは、状況変化が予想される将来について、患者・家族・医療者が今後の医療や療養、ケアについてあらかじめ話し合いをするプロセス全体である

現在のインフォームド・コンセントには欠点もある。新しい意思決定支援の枠組みが必要