素粒子の世代 - osaka universityosksn2.hep.sci.osaka-u.ac.jp/.../works/generation-puzzle.pdf1.3...

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August 26, 2005 1 素粒子の世代 1 1.1 ...................................... 1 1.2 ミューオン:  レプトン ......................... 4 1.3 ストレンジ :  クォーク ....................... 5 1.4 ニュートリノ: レプトン第2 .............. 7 1.5 :  .................... 8 1.6 GIM : チャーム .......................... 9 1.7 チャーム : クォーク第2 ................... 12 1.8 -:  CP .................... 13 1.9 3か? .................................. 15 1.10 ニュートリノ ................................. 17 1.11 ミューオン ........................ 19 1.12 レプトン・クォーク対 ....................... 20 1.13 ...................................... 21 1.14 わりに ...................................... 22 1 素粒子の世代 1.1 世代とは 1960 から 1970 に掛けて された 1935 してきた を、 してほぼ するこ きる。 いえ きず、 して れざるを 1

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Page 1: 素粒子の世代 - Osaka Universityosksn2.hep.sci.osaka-u.ac.jp/.../works/generation-puzzle.pdf1.3 ストレンジ粒子: 新世代クォーク 何故ストレンジ粒子は奇妙なのか?

素粒子の世代

長島順清

August 26, 2005

目 次

1 素粒子の世代 1

1.1 世代とは . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 1

1.2 ミューオン: 新世代レプトン . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4

1.3 ストレンジ粒子: 新世代クォーク . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 5

1.4 2種類のニュートリノ: レプトン第2世代の確立 . . . . . . . . . . . . . . 7

1.5 世代混合: 弱固有状態と質量固有状態 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 8

1.6 GIM機構: チャームの予言 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 9

1.7 チャームの発見: クォーク第2世代の確立 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 12

1.8 小林-益川理論: 世代混合とCPの破れ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 13

1.9 世代数は3か? . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 15

1.10 ニュートリノ振動 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 17

1.11 ミューオンの電子転換と超対称性 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 19

1.12 レプトン・クォーク対応と量子異常 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 20

1.13 世代の謎 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 21

1.14 終わりに . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 22

1 素粒子の世代

1.1 世代とは

  1960年代から 1970年代初頭に掛けて形成された素粒子標準理論は、1935年の湯川中間子論以来展開してきた素粒子現象を、理論的に首尾一貫してほぼ完全に記述することができる。とはいえ標準理論では説明できず、前提条件として受け入れざるを得ない現象も幾

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つか存在する。素粒子の世代の謎問題はその典型的な例である。 現在、これ以上分割できない最小単位の粒子という意味での素粒子には、物質の構成要素でありスピン 1/2を持つクォークとレプトン、および素粒子間の相互作用 (重力、弱い力、電磁力、強い力)を媒介し、スピン 1を持つゲージ粒子がある*1。標準理論では、クォークには、電荷 2/3 *2を持つ up、charm、topと電荷-1/3を持つ down、strange、bottomの 6種類があり、レプトンにも電気的に中性な3種のニュートリノ (νe, νµ, ντ)と電荷-1を持つ電子(e)、ミューオン (µ)、タウ (τ)の計 6種類がある。これを香りの種類と呼ぶ。下図に示すように2組ずつペア (アイソスピン 2重項という)を組んで弱い相互作用を行う。香りの異なる 6個のクォークと 6個のレプトンは、3つの世代に分けることができる。

世 代  I II III

クォーク 

u

d

c

s

t

b

(2a)

レプトン 

νe

e−

νµµ−

νττ−

(2b)

各クォークはさらに3色のカラー荷を持ち、グルーオンを交換することにより強い相互作用を行う。強い相互作用によりクォークの持つカラーは変化するが、香りは変化しない。電磁相互作用は荷電粒子がフォトンを交換する反応であり、やはりその際に香りが変化することはない。弱い相互作用のみが香りの転換を引き起こすことができる。弱い相互作用は、(W±,Z0)ゲージボソンを交換して行われ、その際にアイソスピン2重項の中で香りが入れ替わる。2重項自身が無くなることはないので、世代を越える香りの変化は本来存在しないはずであるが、世代混合 (後述)が存在するので、結局どの香りにも転換可能である。ただし、ここでは、クォーク間もしくはレプトン間にのみ生じる転換を問題にする。クォークとレプトンにまたがる転換は、大統一理論の範疇に属する。各世代の素粒子は、世代毎に質量値が大きくなる以外は、第 1世代のほぼ完全なレプリ

カであり全く同じ性質を持つ。宇宙はほぼ第 1世代の素粒子のみで構成されており、第 2,3

世代の粒子はビッグバンの化石である原始ニュートリノ以外は、高エネルギー現象でわずかに生成されるのみである。すなわち第 2第 3世代の粒子はなくても誰も困らないのである。ミューオンが発見されたときのラビ*3の質問「一体誰が注文したのだ?」4) は、現在でも生きている。世代の存在する理由は未だに判っていない。3世代で閉じるのかも未知

* 1重力を司るグラビトンは例外的にスピン 2を持つ。また、我々を取り巻く真空に充満していて、真空の状態を変える (相転移を起こす)媒質粒子のヒッグス粒子も、スピン 0の素粒子である可能性が存在するが、現時点で実験的に確認されていない。

* 2陽子の電荷を単位とする。* 3 I.I.Rabi;核磁気共鳴法を使った原子核の磁性の研究による 1944年のノーベル賞受賞者。

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Table 1:クォークとレプトンの質量値 1)

クォーク u d s c b t∗  ∼ 3 MeV ∼ 6 MeV ∼ 120 MeV ∼ 1.29 GeV ∼ 4.2 GeV 178 GeV

レプトン ν1 ν2 ν3 e µ τ∗∗ ? ∼ 0.009 eV ∼ 0.05 eV 0.549 MeV 105.7 MeV 1777 MeV

*  いわゆるカレント質量で、散乱など力学反応よりの推定値。

** ニュートリノは質量の自乗差 ∆m2i j = |m2

j −m2i |のみが判っている。

  ここでは、∆m2i j ' maxm2

i ,m2j として大きさの順に並べた。

図 1: 素粒子の質量スペクトル。上の表の質量値を世代毎にグラフで表したものである。ニュートリノ質量

の絶対値上限 (灰色の帯)は実験値および宇宙論から得られたもの。ある種のパターン 2) 3) が見られるが真

の理由は不明。

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である。しかし、歴史的には新しい素粒子現象と新世代粒子の発見は密接に結びついており、その解明の努力を通じて現代の標準理論に到達したと言っても過言ではない。新世代粒子が素粒子現象解明にどのような洞察をもたらしたか、我々は現在「世代」をどのようにとらえているかを整理して、この謎を解く鍵を見つけたい。

1.2 ミューオン: 新世代レプトン

  1912年ヘス (Hess)によって発見された宇宙線の中には、”柔らかい成分”と貫通力の強い”堅い成分”とがあった。柔らかい成分が電子と陽電子からなることはすぐ判ったが、堅い成分の吸収に関する性質が研究者を悩ませるパズルとなった。1937年、アンダーソンとネッダーマイヤーは、2次電子のスペクトル分析から堅い成分が陽子ではあり得ないこと、また制動輻射のないことから電子でもないとし、陽子もしくは電子と同じ大きさの電荷を持ち、質量が両者の中間にある粒子であると結論づけ、ギリシャ語で中間を意味する語幹メソをとってメソトロンと名付けた 5) 。同様な結論は仁科研究室の実験でも得られた。続く観測で、この粒子の質量は大体 200meの質量と 2.3× 10−6秒の寿命を持つことが明らかになった。 時あたかも 1935年、湯川は核力の媒介粒子として同程度の質量を持つ粒子の存在を予言しており、メソトロンの発見は素粒子学界に大きなセンセーションを巻き起こしたが、メソトロンの性質は湯川理論と整合性がとれなかった。湯川理論の予言するメソンは、強い相互作用をするので寿命は少なくも 100倍短く、貫通力は少なくも 100倍小さくなければならない。理論によれば、正電荷のメソンは原子核に吸収されてもクーロン障壁に阻まれて、反応を起こす前に崩壊しなければならないし、他方負電荷メソンは逆に吸収反応が主であるはずであった (朝永・荒木 6) )。この指摘に基づいてイタリアのグループが、決定的な実験 7) を行った。正電荷のメソトロンは確かに崩壊が主であり、負電荷メソトロンは確かに鉛の中で(炭素ではない)吸収される。しかし、負電荷メソトロンの反応率は湯川理論の 10桁から 12桁も弱いことが示されたのである。 この謎を解くために、メソトロンは湯川メソンではなく、湯川メソンが崩壊してできた粒子であるとする2中間子論が坂田等により 1942年に提案され、1947年には予言通りにπ → µ反応が発見された。πメソン (パイオンともいう)とミューメソンと名付けられたのはこの時である。後にミューメソンはレプトンであることが判り名前はミューオンと変えられた。 かくして、πメソンは核力の媒介粒子として素粒子界でしかるべき地位を獲得したが、

ミューオンの役割が謎として残った。先のラビの言葉はこの困惑を端的に表現したものである。

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1.3 ストレンジ粒子: 新世代クォーク

何故ストレンジ粒子は奇妙なのか?   1947年 πメソンの発見により中間子論を巡る混乱が解決したその同じ年に、宇宙線の中から何とも説明の付かない奇妙な飛跡が霧箱の中に発見された 8) 。当時に於ける素粒子とはなんであったかを振り返ってみると、ストレンジ粒子がなぜ奇妙に思われたかが理解できる。 原子核の中核をなす陽子と中性子、それを取り巻く電子が物質の基本粒子であり、それに加えてフォトンと πメソンは電磁力および強い力の伝達子として明快な存在すべき理由があった。ニュートリノは弱い相互作用を特徴づける粒子として、また弱い相互作用においてスピンやエネルギー運動量保存則を成立させる役割があった。ミューオンだけはその存在理由が判らなかったが、その他の粒子は自然界の構成メンバーとしてそれぞれ立派な役割があった。素粒子研究者はあるべき粒子は全てあると考え、既存の粒子で十分に満足しており、新しい粒子が必要とは考えなかったのである。

図 2: ストレンジ粒子連携生成 (ベヴァトロンの泡箱写真)。π− + p → K0 +

Λ0, K0→ π++π−, Λ0→ π−+p (陽子)

図 2に、ベヴァトロンで生成された

π− + p → K0 + Λ0, K0→ π+ + π−, Λ0→ π− + p (3)

反応の泡箱写真を示す。上の写真でも判るように、ストレンジ粒子は生成後崩壊するまでに数センチメートルの飛跡を残す。すなわち光速で飛んだとして寿命がほぼ 10−8 ∼ 10−10

秒程度であり、この事実は崩壊反応が弱い相互作用を通じて行われる事を示す。一方、πメソンを 10個位泡箱 (直径 30cm程度)に入射するとほぼ確実に反応が起きる。ということは反応の断面積が 10mb= 10−26cm2程度であることを示す。これは強い相互作用による反応率である。同じ粒子があるときは強い相互作用をし、別の時は弱い相互作用をするという2重性は、当時の研究者の理解を超える性質であった。

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中野・西島・ゲルマンの法則 新粒子の奇妙な性質は、中野・西島とゲルマンがそれぞれ独立に考え出した法則により説明が付けられる (1953)。彼らはこれらの新粒子が生成されるときは、単独にではなく必ず別の新粒子と連携して作られることに注目し、新粒子は既存の粒子にはない特殊性、ある特別な量子数Sを持つと考え、この量子数 (ストレンジネス)は強い相互作用では保存するが、弱い相互作用では保存しなくても良いとした。例えば、新粒子の K+, K0はS = +1、Λ0, Σ−等はS = −1を持ち、従来の πメソンや陽子などはS=0を持つとすれば、反応 (3)において最初の生成反応ではストレンジネスが保存し、次いで起こる崩壊反応では、ストレンジネスが保存しない*4。新粒子には、(K+,K0), (Σ+, Σ0, Σ−)のように、質量がほとんど等しくて電荷のみ違う組

み合わせが存在することが判り、陽子 pと中性子 nがアイソスピン 1/2の2重項を作るように、新粒子もまたアイソスピン多重項を作ることが判った。そこで、西島・ゲルマンはさらに一歩踏み込んで、ストレンジネスと既知の量子数、バリオン数 B、アイソスピン第3成分 I3、電荷 Qの間には

Q = I3 +B+ S

2= I3 +

Y2

(4)

の関係が成立するとした。これを西島・ゲルマンの法則という。Y をハイパーチャージ (超電荷)といい、香りによる分類ではストレンジネスより本質的な役割を演じることが、後に明らかになる。

クォークモデルの成立 1950-60年代に相次いで建設された加速器による新粒子の大量発見の結果、これらの粒子を基本粒子ではなく複合粒子と考え、より基本的なな粒子を追求するようになったのは自然な流れである。1956年に提案された坂田モデルは、(p,n,Λ0)を基本粒子と考えれば、全てのハドロンの量子数を再現することができることを示した。次いで、池田・大貫・小川 (IOO)は、この3種の基本粒子の質量がほぼ (20%の精度で)等しいことに着眼し、3種の基本粒子の入れ替えで強い相互作用は (近似的に)不変であるという IOO対称性、今日のSU(3)対称性を提案した。IOO対称性を使えば、坂田モデルはメソンが 8組の多重項 (ユニタリー 8重項)として現れることを示し、未知のメソン ηの存在を予言した。その後実際に発見されて SU(3)対称性は一躍脚光を浴びたが、実験的にはスピン 1/2のバリオンもまた 8重項を作ることが示され、8重項を基本におくゲルマン・ネーマンの8道説 (8-foldway)が唱えられた。(p,n,Λ)は基本粒子としての地位を失ったのである。しかし、SU(3)対称性を持つ複合モデルが正しいという精神を受け継ぎ、メソン・バリオン双方 (まとめてハドロンと呼ぶ)に8重項を再現することのできる基本構成粒子クォーク (u,d,s)があるとするならば、その量子数は以下のように表される (ゲルマン・ツバイク1964)。

* 4現代の言葉で言えば、ストレンジネスSは sクォークの数に負の符号を付けた量である。

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Table 2:クォークのもつ性質

クォーク名 u d s

アイソスピン I 1/2 1/2 0

       I3 +1/2 -1/2 0

ストレンジネス S 0 0 -1

バリオン数 B 1/3 1/3 1/3

ハイパーチャージ Y 1/3 1/3 -2/3

電荷 Q +2/3 -1/3 -1/3

クォークモデルを使えば陽子は (uud)、中性子は (udd)、ラムダ粒子は (uds)、πメソンはuもしくは dとその反粒子の u, dの組み合わせとして表される。このようにして導入されたクォークは分数のバリオン数、分数電荷を持つ。当時としてはあり得ない概念であり、全てのクォーク探索も不毛であったので、ゲルマンは、クォークは実在の粒子ではなく数学的分類手段と見なすべきであると唱えたほどである。分数電荷を持つクォークがハドロンの中に実在することは、電子およびニュートリノによる深非弾性散乱の測定 (1969∼1980)

から明らかになった。クォークが実在粒子であることは確かめられたが、単独のクォークは今日に至るまで観測されていない。観測されるのはクォークの複合体としてのハドロンである。数百種に及ぶ新粒子をわずか3種のクォークで整理し、種々の反応間の規則性を理解したときに、今日の標準理論の土台が築かれた。クォークモデルの建立という大革命をもたらしたのは、ストレンジ粒子 (新世代クォーク sを含むハドロン)の発見であったのである。

1.4 2種類のニュートリノ: レプトン第2世代の確立

 ミューオンは別名”重い電子”と呼ばれるように、質量が電子の約 200倍 (105.66 MeV)ある以外は電子と全く同じ性質を持つ。つまり、電子と同じ強さで電磁相互作用や弱い相互作用に関与する。しかし、ミューオンが本当に重い電子で電子と同じ量子数を持つならば、

µ→ e+ γ (5)

という反応が電磁相互作用で起きなければならない。一方、ミューオンのベータ崩壊 (µ± →e± + 2ν)では、生成電子のエネルギースペクトルより、同時に 2個のニュートリノが放出されることが判っていた。ミューオンと電子が違う量子数を持つにしても、ミューオンの弱い相互作用による崩壊で放出される 2個のニュートリノが同じニュートリノであるなら

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ば、図 3のような弱相互作用反応が可能であり、やはり電子への崩壊は起きる。しかし、実験的にはこの反応は全く観測されていない。このことから、ミューオン崩壊で放出される

図 3: νe = νµ ならば、µ→ e+ γ反応が起きる。

ニュートリノの一つはベータ崩壊で放出されるニュートリノと違うのではないかという推測が生まれた。原子核のベータ崩壊 中性子 (n = udd)→陽子 (p = uud)+ e− + ν)で生成されるニュートリノは電子と結合するニュートリノであるので νeと書き (実際は反ニュートリノ νe)、ミューオンと結合するニュートリノを (νµ)と書けば、πメソン崩壊 (π+ → µ+ + ν)

で生成されるニュートリノは νµである。このニュートリノを原子核に衝突させてやれば、中性子と反応して、(νµ +d→ µ− +u)過程によりミューオンと陽子を生成することができるが、電子は生成できないはずである。この実験は 1962年に行われ、電子は生成されないことが確かめられた 9) 。ミューオン崩壊で生成される二つのニュートリノは異なることが証明されたのである。かくして、弱い相互作用に関与する 2重項 (νe,e−), (νµ, µ−)が二つあること、両者は荷電レプトンの質量が違う他、それぞれ e-数、µ-数とも呼ぶべき異なる量子数 (香り)を持つことが判明した。レプトンには2世代存在することが確立したのである。 レプトンにおける第2世代の存在が与えたインパクトには、次のようなものがある。

(1) 当時、弱い相互作用において、(ν,e−, µ−)と (p,n,Λ)との類似性が注目され、名古屋学派はさらに踏み込んでレプトン・クォーク対応原理*5を素粒子の本質的な性質とみなした。レプトンに4種類あるならば、ハドロンの根元粒子も4種類あるはずと考え、チャーム粒子存在の予言につながった 10) 。(2) 世代混合によるニュートリノ振動の存在が予言された (後述 §1.10)11) 。

1.5 世代混合: 弱固有状態と質量固有状態

 強い相互作用においては、ストレンジ粒子が陽子や中性子と同等であり、u,d,s入れ替えのSU(3)対称性*6が成り立つが、弱い相互作用反応は sクォークと dクォークの入れ替えで

* 5当時はレプトン・バリオン対応原理であった。* 6 QCDにおける色の SU(3)と区別して香りの SU(3)という。

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対称ではなかった。弱い相互作用は、レプトン 2重項や二つのクォーク2重項 (u,d)と (u,s)

が左巻きベクトルボソン (W)をやりとりして行われると考えれば理解できるが、反応の強さは (u,d)と (u,s)では大きな差があり、さらにレプトン2重項とも差があった*7。Wボソンがゲージ粒子であるならば結合力は同じでなければならないはずである。そこで、キャビボ (N.Cabibbo)は弱い相互作用を行う際の量子状態 d’は質量固有状態 dとは違うと考え

d′ = dcosθc + ssinθc, sinθc ' 0.224 (6)

と置いた。これをキャビボ回転という。この場合弱い相互作用は、(u,d’) 2重項が自分自身もしくはレプトン2重項とWボソンを交換する反応と解釈できる。この提案により全ての (既知の)弱い相互作用反応を統一的に解釈することが可能となった。例えば、ミューオン、原子核、Λ粒子のβ崩壊反応は図のようなグラフで表され、反応の強さはそれぞれg4, g4 cos2 θc, g4 sin2 θcに比例するはずであるが、実験データはその事実を支持する。

図 4: 各種ベータ崩壊反応の強さ  (a)ミューオン µ− → νµ + e− + νe (b)原子核 d→ u+ e− + νe (c)スト

レンジ粒子 s→ u+ e− + νe

1.6 GIM機構: チャームの予言

Z0ボソンをやりとりする反応 (図 5)を中性カレント現象という。歴史的には弱い相互作用における中性カレントの存在は、標準理論形成において重要な役割を果たした。標準理論の予言する中性カレント現象の発見が検証の第一歩となったのである。しかし、大加速器建設によるニュートリノ散乱実験が実現される以前の中性カレント現象観測は、崩壊現象に限られていた。クォークの第一世代2重項

Q1 =

u

d′

= u

dcosθc + ssinθc

(7)

* 7歴史的には、レプトンとの結合はキャビボ回転が提案されてから精密測定され、キャビボ回転の実験的検証となった。

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図 5: 中性カレント反応例  (a)  νµ + e− → νµ + e−   (b)  νµ + u(d)→ νµ + u(d)

から中性カレントを作ってみると

jNC1 ∼ Q1τ3Q1 ∼ uu− d′d′ = uu− cos2 θcdd− sin2 θcss− cosθc sinθc(ds+ sd) (8)

と表される。場の量子論では u,d · · · は、u,d · · · クォークの消滅演算子、u, d · · · は生成演算子である。簡単のためではクォーク種以外の時空の指標などは省略した。第 1-3項に Z0が結合し、ニュートリノを相手にZボソンを交換する反応例を図5(b)に示した。最後の項は、dと sを入れ替える演算子であるから、電荷は変わらないがストレンジネスの変わる中性カレントであり、これを一般に香りの変わる中性カレント (FCNC=Flavor Changing Neutral

Current)という。この項は例えば K0→ µ−µ+, K+ → π+ννのような反応 (図 6(a)(b))を引き起こすが、これらの崩壊分岐比 (Branching Ratio)は実験的には

BR(K0→ µ−µ+) = 7.27± 0.14× 10−9 (9)

BR(K+ → π+νν) = 1.6± 1.8× 10−10 (10)

と非常に小さい 1) 。少なくも第1次近似では、FCNCは存在しないと考えて良い。この事実を説明するために、キャビボ回転を 2世代間のクォーク混合に対するユニタリー変換と考えて d′s′

= U

ds = cosθc sinθc

− sinθc cosθc

ds (11)

とし、d’が dに対応するように sに対応する s’があり、s’とペアを組むクォークすなわち c

クォークの存在を仮定する。第 1世代のクォーク2重項 (u,d’)に対応し、第 2世代のクォーク2重項

Q2 =

c

s′

= u

scosθc − dsinθc

(12)

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図 6: GIM機構:  (a) K0→ µµおよび (b) K+ → π+ννは香りの変わる中性カレントに結合する Zを示すが、

標準理論には存在しない。同じ反応が荷電カレントの高次反応 (c) (d)により誘起されるが、チャームの寄与

(e) (f)を入れると (c) (d)の寄与と (mu = mcならば正確に)相殺する。

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があると仮定するのである。そうすると、Q1による中性カレントの他に、Q2による中性カレント

jNC2 ∼ Q2τ3Q2 = cc− s′s′ = cc− cos2 θcss− sin2 θcdd+ cosθc sinθc(ds+ sd) (13)

の寄与があることになり、全体では

jNC ∼ Q1τ3Q1 + Q2τ3Q2 = uu+ cc− dd− ss (14)

となって、FCNCは無くなって実験事実と矛盾しない。これをGIM機構 (Glashow-Illioupoulos-

Maiani)と呼ぶ。FCNC反応が小さくはあるが存在する理由は荷電カレント反応の高次効果による(図 6(c)∼(f))。ただし、GIM機構は高次でも働いていて、もしmu = mcであれば、図 (c)と (e)、(d)と (f)が完全に相殺するが、質量が違うことによる差が寄与して、わずかながらこの反応が存在し得る。GIM 機構は、u,d,sの3クォークしか知られてない時代に提案されたものであり (1970)、未知の cクォークを予言するモデルの中で最も説得力のある根拠を提供した。レプトン-クォーク対応原理による cクォーク予言についてはすでに述べた。

1.7 チャームの発見: クォーク第2世代の確立

チャームクォークは、J/ψ (= cc)メソン生成と引き続くレプトン対への崩壊という形で、ハドロン反応と電子・陽電子コライダー反応において同時に発見された。

p+ p→ J/ψ + X, J/ψ→ e−e+ (15a)

e− + e+ → J/ψ→ e−e+, µ+µ−, ハドロン (15b)

チャームの存在は予言されていたとはいえ、確かな説得力があったというわけではなく、沢山あるモデルの一つとして提案されたのであった。チャームの発見もまた当時の状況では予想外の発見であり、11月革命と呼ばれるほどの興奮を巻き起こしたのである。騒がれた理由は、ストレンジ粒子の場合と似ている。3097 MeVという非常に大きい質量を持ち、強い相互作用で生産可能であるにもかかわらず、崩壊幅が実験分解能をはるかに越えて、電磁相互作用による反応と同程度に小さかった。未知の新しい性質を持っているのでない限り説明は付かなかったのである。しかし、今回はクォークモデルが十分発達しており、発見後ただちに第 4のクォーク ccの束縛状態状態であると同定され、J/ψと名付けられた。チャームの発見は、クォークモデルを正当な理論として認知する転機になった。  J/ψに続いて発見された一連の ccの励起状態 (チャーモニウム)のレベル構造から、

クォークのもつ力学的性質が明らかになり、チャーモニウムに働く強い力のポテンシャルがゲージ理論に特徴的なクーロン型に加えて、距離と共に増加する成分をも持つことが明らかになった。これはハドロンの紐モデルから予想されていた性質である。ポテンシャル

12

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が距離と共に増加するならば、クォークを巨視的な距離に分離することはできないであろう (クォークの閉じ込め)。紐を引き延ばせばバラバラに引きちぎれて、沢山のハドロンができると予想される。実際、高エネルギークォークの存在すべき所には、常にジェット (同方向に飛来する沢山のハドロン)が観測されること、そして単独のクォークは発見されていない事実と合わせて、クォークのとじ込め説は受け入れられている。

第3世代クォーク 次いで、チャーモニウム発見と同様な経過をたどり、第5のクォークbも発見された (1977)。チャームやボトムクォークを含むハドロンスペクトルの構造は、クォークモデルの予想を裏付けるものであった。このころには世代構造が明らかになり、次に述べる小林-益川モデルの信用性も高まっていたので、トップの発見 (1994)は時間の問題であった。チャームの発見は世代構造を確立したという意味で大きな意味があるが、トップ・ボトムの発見は世代という観点からは繰り返しであり大きな意味はない。しかし、世代数が2と3では、次に述べるCPの破れを理解する上で本質的な差がある。

1.8 小林-益川理論: 世代混合とCPの破れ

  3世代のクォーク2重項 (u,d),(c,s),(t,b)が存在すれば、キャビボ回転は3×3のユニタリー変換となる。

Qd′ ≡

d′

s′

b′

= UCKM

d

s

b

(16)

UCKMをCKM (Cabibbo-Kobayashi-Maskawa)行列という。この場合もGIM機構は有効である。なぜならば

Q3 =

t

b′

, Qu =

u

c

t

(17)

と置いて、3世代のクォーク 2重項から中性カレントを作ると

Q1τ3Q1 + Q2τ3Q2 + Q3τ3Q3 = QuQu − Qd′Qd′ = QuQu − QdU†UQd = QuQ− QdQd (18)

となって、やはり香りは混合しないからである。 なお、キャビボ回転やCKM行列は u,c,t間の混合として表してもよく、d,s,b間の混合

行列として表すのは単なる慣用である。なぜなら

Q′u ≡

u′

c′

t′

= V

u

c

t

(19)

13

Page 14: 素粒子の世代 - Osaka Universityosksn2.hep.sci.osaka-u.ac.jp/.../works/generation-puzzle.pdf1.3 ストレンジ粒子: 新世代クォーク 何故ストレンジ粒子は奇妙なのか?

と表したとき、CKM行列が現れるラグランジアン項は、∼ Q′uQ′d = QuV

†UQdの形をしており、V†Uを改めてUと置けば、通常のCKM行列に還元されるからである。

CPの破れ 小林-益川理論の真意は、2世代を単純に 3世代に拡張することではなく、CP

の破れ現象を説明することにあった。中性の Kメソンには短寿命でCP固有パリティが正で主として2個の πメソンに崩壊する Ksと、長寿命で CP固有パリティが負の KLの 2種類が存在するが、1964年フィッチ・クローニン等が、KL → ππ反応がわずかながら存在することを見いだし、CPの破れを発見したのである。CPの破れの解明はそもそも我々が何故存在し得るかという根元的な問題に関わる。ビッグバン宇宙時には、全ての素粒子と反粒子が同じ数だけありかつ熱平衡状態にあったが、反粒子が消滅して現在の物質宇宙に発展するためには、次のサハロフの3条件が必要とされる。 1.クォーク数を破る反応の存在 (大統一理論の必要性)

 2.CPの破れ 3.宇宙の熱平衡状態からの離脱理論的には、素粒子を記述するラグランジアンが位相因子を持つと CPの破れ現象が引き起こされる。小林-益川は位相因子を導入する要因として、3世代 6種のクォークの存在を予言したのである。提案時 (1973)には、u,d,sの 3種類のクォークしか存在せず、世代の概念もなかった時代であるから、これは大いなる先見の明と言える。クォークが 3世代存在すると何故位相因子が導入されるかは、次のようにして言える。世代間の混合はユニタリー行列として表現でき、N×Nユニタリー行列は一般にN2個の独立な行列要素を持つ。このうち、NC2 = N(N − 1)/2個は実数空間の回転角で表すことができ、残りが位相角となる。しかし、2N個のクォーク場には位相変換の自由度があり、全体に共通な 1個の位相を除いた (2N-1)個の位相はクォーク場に吸収できる。この結果残る位相の数は

N2 − N(N − 1)2

− (2N − 1) =(N − 1)(N − 2)

2(20)

となる。従って、N ≤ 2の場合は混合のユニタリー行列は全て実数で書き直せるのでCP非保存効果は現れない。現実にはCPが破れているので、N ≥ 3でなければならないというのが、そもそもの提案動機であった。歴史的には、チャーム (1974)、ボトム (1977)、トップ(1994)の 3世代クォークが予言通りに発見され、小林-益川モデルは検証される以前に標準理論に組み込まれるようになった。CKM行列は、3つの混合角とCPの破れを表す一つの位相角で表されるが、混合角は小さく行列はほぼ対角的であるので、現象論的には、次の

14

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ウォルフェンシュタイン表示が使われることが多い 1) 。

UCKM =

1− λ2

2 λ Aλ3(ρ − iη)

−λ 1− λ2

2 Aλ2

Aλ3(1− ρ − iη) −Aλ2 1

(21a)

λ = 0.2205± 0.0018, A = 0.80± 0.04 (21b)

ρ =

(1− λ

2

2

)ρ = 0.20± 0.09, η =

(1− λ

2

2

)η = 0.33± 0.05 (21c)

1.9 世代数は3か?

第3世代の存在は、タウレプトンの発見 (1975)に始まる。タウレプトンは質量が1777 MeV

と非常に大きく、従って

τ− → ντ + l− + νl , l = e, µ (22a)

τ− → ντ + u+ d (π−, ρ−等、種々のハドロン) (22b)

等多くの崩壊モードが存在するが、電磁相互作用、弱相互作用は電子と同じで、ミューオンに次ぐ”第2の重い電子”ともいうべき存在である。タウレプトンに付随するニュートリノもまた、νe, νµとは違い、2重項 (ντ, τ−)が第 3世代のレプトンとして確立された。その後第 3世代クォークもまた発見されたことはすでに述べた通りである。標準理論では、クォークとレプトンはそれぞれ3世代存在することを前提とする。第 4

世代以降の存在可能性が否定されたわけではないが、軽い (数 MeV以下)ニュートリノ種の数の制限は存在する。 ニュートリノ数の制限は、歴史的に最初宇宙論において議論された。ビッグバンから約3分後に水素、重水素、ヘリウム。リシウムなどの軽元素が合成されるが、その比率はその時期の宇宙の膨張率により規制される。膨張率は粒子種の数とりわけ軽いニュートリノの数に依存するので、宇宙に於ける軽元素の存在比測定から、ニュートリノ種は高々3-4と決められた (1979。図 7参照)。より決定的な証拠は 1989年に、LEPにおける

e− + e+ → Z0→ ee, µµ, ττ,uu, cc, bb,N∑α=1

νανα (23)

の反応において、各チャネルへの分岐崩壊率が精密測定され、標準理論の予想と過不足なく一致した事実から得られた。Z → ∑N

α=1 ναναの分岐比から、Zボソンに結合する質量の小さなニュートリノの数 Nが 2.994± 0.012と確定された 1) 。仮に Zに結合する第 4世代ニュートリノがあるとすれば、質量がmz/2 ' 45 GeV以下ならば、Zの崩壊粒子の中に見

15

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図 7: ニュートリノ数 3.0, 3.2, 3.4に対応して宇宙の軽元素比の変化する様子を示す 12) 。横軸は宇宙におけ

るバリオン密度 (ΩB = ρB/ρc, ρc =宇宙の臨界密度 = 1.88× 10−29h2g/cm2)を表し、縦の帯は宇宙の (重水素/

水素)比の観測値 (2.7± 0.6)× 10−5から決められた許容範囲を示す。幅は 2σの理論の不定性。縦軸はヘリウ

ムの重量比率で水平のダッシュ線は観測値 25%に対応。

16

Page 17: 素粒子の世代 - Osaka Universityosksn2.hep.sci.osaka-u.ac.jp/.../works/generation-puzzle.pdf1.3 ストレンジ粒子: 新世代クォーク 何故ストレンジ粒子は奇妙なのか?

つかるはずであるが、そのような生成物は見られないことから、第 4世代以降のニュートリノは 45 GeV以上の質量を持つことになり、第4世代以降の存在は不自然と考えられている。

1.10 ニュートリノ振動

 レプトンが3世代存在することの意味および結果を考察してみよう。ニュートリノはこれまでは質量の固有状態としてではなく、弱い相互作用の反応に伴って、パートナーの荷電レプトンと連携生産される粒子として観測された。従って観測されるニュートリノは、弱い相互作用の固有状態 (να)である。もし、ニュートリノの固有質量がゼロであれば、質量固有状態 (νi)と弱状態を区別する指標はないが、質量が有限の場合一般に両者の固有状態は異なるので、クォークの場合と同じく

να =∑

i

Uαiνi (24)

と表すことができる。この混合行列をMNS(牧-中川-坂田)行列 11) という。

ニュートリノ振動 質量が有限で混合があると、弱固有状態間の遷移が生じる。これはニュートリノの香りの時間的変動として観測されるのでニュートリノ振動と呼ばれる。ニュートリノ振動が生じる機構を 2世代混合で考えてみよう。2× 2の行列は1個の混合角 θを使って次のように表される。 νe

νµ

≡ cosθ sinθ

− sinθ cosθ

ν1

ν2

(25)

質量固有状態は、エネルギー Ei ∼ p+m2

i

2pを持つとき、時間と共に

|νi(t) >= |νi(0) > e−iEi t (26)

のように変化する。従って時刻 t = 0において、νeであったものが、時刻 tで νµに変化する確率は容易に計算できて

P(νe→ νµ) = | < νµ(0)|νe(t) > |2 =12

sin2 2θ[1 − cos(E1 − E2)t]

' sin2 2θ sin2

(1.27∆m2

2EL

)(27a)

∆m2 = m22 −m2

1 (27b)

ただし、ここで L=ctはニュートリノ発生点より測定点までの距離を km、∆m2は (eV)2、エネルギーEは GeV単位で表した。νeが νeのままで残る確率は P(νe→ νe) = 1− P(νe→ νµ)

17

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で与えられる。この式からニュートリノ振動は、混合がありかつ質量差がゼロでないときに発生することが判る。

3世代間の混合があるときのニュートリノ振動の式はやや複雑となるが、質量差と混合角が有限である時にのみ振動が生じることは同じである。そこで、見通しを良くするためMNS行列を次のように分解する。

UMNS =

1

c23 s23

−s23 c23

c13 s13e−iδ

1

−s13eiδ c13

c12 s12

−s12 c12

1

1

eiα

eiβ

(28a)

ci j = cosθi j , si j = sinθi j (28b)

最初の 3つの行列は、クォークにおける CKM行列と全く同じ表現式であり、θi j は i世代と j世代間の混合角を、δがCPの破れを表す位相である。ニュートリノの場合は、クォークと違い、粒子と反粒子の差がないマヨラナ粒子である可能性があり、その場合はニュートリノ場の位相により混合行列の位相を吸収できないので、独立な位相因子α, βが加わる。これをマヨラナ位相因子と呼ぶ。ただし、ニュートリノ振動の式にはマヨラナ位相因子は現れない。太陽ニュートリノ、大気ニュートリノや加速器/原子炉ニュートリノの観測から

∆m212 ' 8× 10−5 eV2, sin2 θ12 ' 0.3 (29a)

|∆m223| ' 2.5× 10−3 eV2, sin2 θ23 ' 0.5 (29b)

sin2 θ13 < 0.05 (29c)

が得られている 1) 。ニュートリノが 3世代で閉じているならば、

∆m213 = ∆m2

23+ ∆m212 ' ∆m2

23 (30)

である。標準理論では3種あるニュートリノの質量を全てゼロとしているから、ニュートリノ振動の発見は、ニュートリノに質量があること、従ってその説明には標準理論を越えた新理論、大統一理論が必要なことを意味する。ベータ崩壊ニュートリノの質量測定実験や銀河団分布などの大規模構造観測より、∑

m(νi) . 1 eV (31)

であることが判っている。またニュートリノ質量が小さいことを説明する有力な理論であるシーソーメカニズムでは、ml i を荷電レプトンの質量、MRを未発見の右巻きニュートリノ質量としてマヨラナニュートリノ質量を

m(νi) ∼m2

l i

MR(32)

18

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と表す。m2e << m2

µ << m2τであるから、各世代のニュートリノ質量比は大きく、ニュートリ

ノ振動で測れる質量差はそのままほぼ質量値を表すものと考えられている。マヨラナ位相を省略すると、MNS行列は近似的に

UMNS =

c12 s12

s13e−iδ√

2

− s12√2

c12√2

1√2

s12√2− c12√

21√2

c12 ∼ 0.84, s12 ∼ 0.55 (33)

と表される。CKM行列 (21a)との違いに注目しよう。CKM行列がほぼ対角的であるのに反し、MNS行列には大きな混合がある。クォーク・レプトン対応原理の考えからするとこれは意外な結果である。

1.11 ミューオンの電子転換と超対称性

 香りの変わる中性カレント反応の欠如の論理は、レプトン反応においてもなりたつ。実際に、香りの混合する中性カレント反応は存在しない。測定された分岐比 (Branching Ratio)

の上限値で書くと 1) 、

BR(µ→ e+ γ) < 1.2× 10−11 (34a)

BR(µ→ eee) < 1.0× 10−12 (34b)

BR(µ− + N→ e− + N) < 7.8× 10−13 (34c)

BR(τ→ l + γ ; l = e, µ) < 1− 3× 10−6 (34d)

BR(τ→ l + l′ l′ ; l, l′ = e, µ) < 1.0− 2.0× 10−6 (34e)

BR(τ→ l +m0 ; m= π,Ks, ρ, φ, · · · ) < 1.0− 9.0× 10−6 (34f)

これらの反応が存在しないのは、3個の荷電レプトン (e, µ, τ)とそれに付随する3種のニュートリノ (νe, νµ, ντ)は、e-数、µ-数、τ数ともいうべきそれぞれ独立の量子数 (香り)をもち、これらの香り量子数が弱い相互作用で保存するからである。ニュートリノ混合が存在すると、図 3の過程において、中間状態に最初 νµが現れ、混合により νeに変わってから、電子に結合することができるので、µ→ e+ γ反応が可能になるが、標準理論を越えるため反応率はモデルに依存する。標準理論の拡張としては、フェルミオンとボソンの入れ替え対称性(超対称性 (SUSY=super symmetry))を取り入れた大統一理論が有望視されている。この場合SUSY粒子を中間状態として入れることができ、モデルによっては (図 8は一例)測定可能な範囲まで反応率が上昇するので、ミューオンが電子に変換する反応の有無を調べ、分岐比を測定することにより、SUSY粒子の存在が検証できる。MEG実験 (µ → e+ γ)やPRISM計画等 13) 等、レプトンにおける香りの混合の追求は、新物理を拓く可能性を秘め

19

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図 8: SUSYを取り入れると、SUSY粒子(右巻きの µR, eR, B0)のループ図の寄与により µ → e+ γ反応率

が大きくなる。

ているのである。 同様な新物理追求はクォーク反応 b→ s(d) + γ, s(d) + g(= gluon)でも可能であるので、bクォークを含むハドロンを大量生産できる B-ファクトリー等で活発な研究が行われている。ただし、観測はハドロン反応 B(bd)→ K∗(sd) + γ, K(ss) + η′(qq)など であり、QCD

効果による雑音信号があるので、解析はレプトン反応ほど簡単ではない。

1.12 レプトン・クォーク対応と量子異常

 レプトン・クォーク対応は、当初半ば直観的な原理として提案されたが、全ての世代がクォークとレプトン 2重項の組から構成されているように、現象論的には見事な対応関係が成り立っている。これが単なる偶然ではなく自然の深い本質に根ざした現象であることは、量子異常 14) の追求により明らかになった。古典的な場の考察では,対称性があれば、保存量および保存則が存在することはネーターの定理として知られているが、量子論では成立しない場合があるという事実が量子異常である。ゲージ対称性は位相変換の自由度であるが、ディラック場 (フェルミオン)の左巻きと右

巻きの粒子で、別々の位相変換自由度があるときカイラルゲージ対称性が成り立つという。この時軸性カレント

JµA = gψγµγ 5ψ (35)

は保存するカレントである。軸性カレントはフェルミオン質量がゼロであれば、トリーレベル (最低次の摂動計算)では保存するが、高次のいわゆる3角図というループ効果 (図 9)

の存在により保存しなくなる。3角図は、フェルミオンループに軸性カレントが結合し、さらに二つのベクトルカレントもしくは二つの軸性カレントが結合する時に生じる。軸性カレントはラグランジアンのレベルで保存していても、この3角ループが存在すると保存

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図 9: Z0, π0→ 2γ反応に寄与する3角異常項。fはフェルミオン (クォ-クとレプトン)を示す。このループ

の存在により軸性カレントが保存しない。

しない。軸性カレントはカイラルゲージ対称性の結果として生じるが、このゲージ対称性が大局的であれば問題はない。実際、π0 → 2γ反応にはこの異常項が寄与していることが実験と比較して確かめられている。また、陽子や中性子の質量も大部分は量子異常項の寄与であることが知られている (表 1.1のクォーク質量と陽子質量を比較せよ)。しかし、局所ゲージ対称性の場合はゲージカレントが保存しないことになり、繰り込み不可能という重大事が発生する。Z0 → 2γはその例である。しかし、標準理論の場合は、各フェルミオンのこの図への寄与は電荷に比例するので、全てのフェルミオンについて和を採ると、

3色 × (Qu + Qd) + Qν + Qe = 3× 23+ 3×

(−1

3

)+ 0+ (−1) = 0 (36)

となって、三角異常項の寄与の総和はゼロとなり、繰り込み可能性が保証されるのである。レプトンとクォークの寄与が相殺して量子異常が消滅することは、両者の連携が不可欠なことを意味し、同じ家族の一員と見なすのが妥当であることを示す。レプトン-クォーク対応にはこうした重大な意味が隠されていたのであり、レプトンとクォークを同じ多重項に入れる大統一理論の理論的根拠を与える。正当な理論には、量子異常が存在してはならないという要請は、新理論を構成するときの重要な条件である。現代の最先端理論である超紐の理論が、10次元時空のみで成立するという帰結も、量子異常の議論から導かれたものである。

1.13 世代の謎

世代の謎はどのように理解されるのであろうか? アイデアはいくつかあるが定説はないので、数例の文献紹介にとどめる。歴史的に常に有効であった考え方は、クォークレプトンを素粒子ではなく、より基本的な粒子プレオンの複合粒子であると見なすことである 15) 。標準理論が実験事実と良く合うことから、クォークやレプトンが複合粒子であるにしても、その束縛エネルギースケール

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は数 TeV以上でなければならないとされている。複合モデルは、現実には束縛エネルギーよりはるかに小さい質量 (表 1.1参照)を再現し、さらに世代間の質量階層構造mt/mu ∼ 108

や、同じ世代間での質量差mt/m(ντ) ∼ 1015を同時に説明しなければならないという困難を抱えている。現代の標準的な考え方では、クォークとレプトンは究極の素粒子であり、相互作用も電弱強重力の4つで尽きていると見なすので、複合モデルは主流ではないが、超対称性などを取り入れたヴァリエーションがリバイバルの兆しを見せている 16) 。大統一理論では、標準理論を含むより大きな群を考えるので素粒子の数が増え、第4世代以降の存在するモデルが幾つか存在する 17) 。紙面の都合でクォークやレプトンの質量構造に関する最近の発展 2) 3) について述べる

ことはできなかったが、階層構造や世代混合を再現することのできる現象論的な対称性として、世代を横断する群 (ファミリー対称性もしくは水平対称性と呼ばれる)がいくつか提案されている 18) 。この対称性の起源は、通常超対称性や超紐の理論に求めることが多い。次に述べる方法がトップダウンであるのに対して、ボトムアップのアプローチと言えよう。超紐理論の枠内で3世代を導く方法がある。超紐は10次元時空においてのみ存在する。この時我々の4次元時空以外の6次元空間は観測に掛からない位小さくなっているとする。この 6次元時空を我々は真空と認識するが、この真空の構造が4次元時空の性質をも規制するので、標準理論およびその拡張理論の要請を満たすべしという条件を入れると、この真空は数学的にはカラビ・ヤウ多様体と呼ばれる構造を持つ。しかし、この条件のみでは多様な選択肢があり (真空の縮退)、その解決は大きな課題の一つである。素粒子の世代数はこの多様体のトポロジー不変量として表現することができる 19) 。超紐理論は、全ての力の統一、時空の次元と構造、宇宙の起源などを解として導ける可能性を秘めており、現在活発な研究分野である。

1.14 終わりに

 新世代粒子の発見は、常に当時の理論家の理解を超える新事実を提供してきた。歓迎されないやっかいものを持ち込み理論家を当惑させたのである。新世代粒子にまつわる謎の追求は、常に当時の最先端のテーマであって、それを理解し終える度に新たな世代の謎が現れるのであった。本解説では、世代の謎が素粒子に対する洞察を深め、今日の標準理論が形成する上において大きな役割を果たしたこと、世代の謎のインパクトの大きさ理解していただこうと試みた。ミューオンがこの世界に必要なのかという当初の疑問は、世代の謎として今日に持ち越され未だに解決を見ていない。しかし、世代にまつわる謎を追究することが新しい知見を得る近道なのだという経験則もまた生きている。ミューオンの稀な反応の追求、世代混合によるニュートリノ振動を追求して、レプトンのMNS行列を理解し、レプトンでのCP非

22

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保存を追求することは、高エネルギー加速器 (LHCや ILC *8 )で直接ヒッグス粒子やSUSY

粒子を発見することと並ぶ重要な将来計画としてあげられている。高エネルギー加速器で再び現代の理解を超える新世代の粒子が発見されることもあり得る。過去の経験に学んで未来に備えよう。

参考文献

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* 8 LHC (Large Hadron Collider)は欧州原子核研究所CERNで建設中のエネルギー 16 TeVのハドロン衝突型加速器。2007年稼働開始予定。ILC(International Linear Collider)は全世界共同の将来計画。1 TeV電子陽電子衝突型線型加速器。

23

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[15] S.Fredriksson; Proc. of the Fourth Tegernsee Int. Conf. on Particle Physics Beyond the

Standard Model, 2004, p. 211, hep-ph/0309213および引用文献

[16] A.E.Nelson and M.J.Strassler: Phys.Rev.D56 (1997) 4226-4237, hep-ph/9607362および引用文献

[17] P.H.Frampton, P.Q.Hung and M.Sher: Physics Reports,330 (2000) 263-348, hep-

ph/9903387

[18] G.L.Kane, S.F.King,I.N.R.Peddie and L.Velasco-Sevilla: hep-ph/0504038

[19] 例えば E.Witten; Hertz Lectures, Quest for Unification; hep-ph/0207124

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