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倫理学基礎 Introduc.on to Ethics
ー倫理学って何をするの? ー (1)ガイダンス
浜渦辰二 (文学研究科/倫理学・臨床哲学)
2014年1学期金2 まずは
• 皆さん、KOANのシラバスを見てから受講しに来ているとは思いますが、
• まずは、そこに書いてあることを、少し補足しながら確認することから始めます。
授業の目的
• 倫理学に関する基礎的な考え方を学び、現代の倫理学の諸課題について受講者とともに考える。
• そして、倫理学の新しい挑戦である臨床哲学について学ぶ。
到達目標
• 倫理学がどんな問いを立て、それにどのように答えようとしてきたのかを知る。
• どのような問いが倫理学的・哲学的に考えることなのか、受講者が自ら試してみる。
講義内容
1.過去の哲学者が倫理学にまつわる問いをどのように考えてきたのかを知る
1)古代ギリシアの倫理
2)古代ローマの倫理 3)東洋の哲学と倫理 4)中世の神学と倫理 5)近代フランスの倫理学 6)近世ドイツの倫理学 7)近代イギリスの倫理学 8)現代アメリカの倫理学
2.現代の倫理の諸課題 1)現象学と倫理学2)コミュニケーションと倫理学 3)応用倫理学:生命、環境、情報、ビジネス
3.倫理学の新しい挑戦としての臨床哲学へのイントロダクション
1)倫理学と対話
2)現場/フィールドとは何か 3)現代社会における生老病死とケア 4)二つの臨床哲学と倫理学
およそ、次の3部構成からなりますが、話の流れによって前後したり、 若干の 変更が加えられる事もある。
その他 教科書 特になし。必要に応じて、レジュメを配布します。
参考文献 必要に応じて、そのつど指示します。
成績評価 毎回、簡単なコメントを書いてもらい(出欠調査を兼ねています)、最後に小 レポートを提出してもらい、総合的に評価します。
オフィスアワー 火曜4限だが、メールでアポを取れば、ほかの時間も可能。→[email protected]‐u.ac.jp
受講生へのメッセージ
倫理学は、生老病死をふくめた、人間の生き方、在り方について問う学問です。過去の哲学者がどのように社会を捉え、どんな問いを生きたのか、現代に生きる私たちが、どのような問いを誰とともに考えるのか、受講生のみなさん と探究したいと思います。
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配付資料について
• プリントアウトして配布はしません。 • 毎回の講義は、配布資料なしで聞くことに集中してく
ださい。 • Web上(私のホームページ)に事後に掲載しますの
で、必要な方は、そこからダウンロードしてください。 • 私のホームページへのアクセスの仕方は、グーグ
ルで「はまうず」で検索してください。 • 開いたトップページの中段、右上にある「2014年度
の開講科目」~「倫理学基礎」~「講義資料」と辿ってください。
公欠の手続き
• やむを得ない公的な理由により欠席する場合、必要な手続きをすれば、出席に準ずる扱いをします。
• 「公的な理由」とは、病気・けが、忌引き、教育実習・介護実習、サークルの大会・試合、など(就職活動は要相談)。
• 「公欠届」(A4の紙に、氏名、学籍番号、所属、学年、欠席日、科目名を記入して自分で作成)と「証明するもの(そのコピー)」(診断書・領収書等の発行されたもの、証明できる人に書いてもらったもの等)を、欠席日の前の週か次の週に提出。
• 事務的な話はここまで(この話は今日だけしかしない)にして、今日は少しだけイントロを……
はじめに:私の考える倫理学
• 私はどう倫理学と出会ったか? • 道徳と倫理とどう違うの? • 倫理と倫理学とどう違うの? • 哲学と倫理学はどう違うの?
私はどう倫理学と出会ったか?
• 私の父親は「ラジオ屋さん」(昔の「町の電気屋さん」)だった。 • 小さい頃から、ドライバー、半田ゴテ、テスターといった道具に興味を持っ
ていた。 • 子供の頃は、プラモデルを作り、大学時代は自作アンプを作り、大学院
時代は自作パソコンを作ったことがある。 • 父親からは、大学に行くなら工学部に行きなさい、と勧められていた。 • しかし、私は、理学部に行って、理論物理学を勉強したいと思っていた。 • あこがれは、アインシュタインと湯川秀樹だった。 • ところが、当時(転機になったのは高校2年生)、大学闘争のなか安田講
堂攻防をめぐる東大闘争(1969年)があり、三島由紀夫の自衛隊市ヶ谷駐屯地での割腹自殺(1970年)があり、いろいろと考えさせられた。
• 科学の求める客観的な真理も、時代とともに変わっていくのではないか、では何が時代を変えて行くのかに関心をもつようになり、「文転」した。
• その頃のことを、『文学部紹介』のなかで、次のように書いている。
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ちょっと脇道
• そこで書いたこととの関連で思い出す、或る映画の登場人物のセリフがある。
• 「人生とは何かを計画している時起きてしまう別の出来事のこと」
• 龍村仁監督『地球交響曲(ガイアシンフォニー)第三番)』より
• 自分の人生もまさにそんな気がする。 • それはともかく、高校時代を振り返ると……
なぜ、倫理社会のテストで白紙?
• 高校2年生の頃、数学と物理が好きで、国語と社会が嫌いだった。
• なぜかと言えば、数学や物理は、誰が解いても、ちゃんと答えが一つなのに、国語や社会は、答えがあるのかないのか、採点する人によって答えが違う、そんなことを勉強しても意味ないのではないか、と思っていた。
• 倫理社会という科目も、テストは「ギリシアの四元徳」は何かとか、プラトン、デカルト、パスカルというグループと、『国家』『方法叙説』『パンセ』というグループで正しい結びつきを線で結べというような問題で、何も興味を持てなかった。
• しかし、デカルトやパスカルの書いたものには興味をもった。 • それが、さきほどの『文学部紹介』の箇所で書いたこと。
道徳と倫理とどう違うの?
• 私が高校時代に習った「倫理」の授業に、なぜ興味を持てなかったか。
• それは単に、試験勉強用の知識(データ)の受容(鵜呑みにして吐き出すこと)でしかなかったから。
• 今から振り返って、小学校で習った「道徳」と高校で習うべきだった「倫理」の違いを、私なりに考えてみると、
• 「道徳」は、「よいこととわるいこと(善悪)」がすでに決まっていて、先生が生徒に、「あちらに行ってはいけない、こちらに行きなさい」と指導するもの。
• 「倫理」は、「何がよいのか、何がわるいのか」がまだ決まっておらず、自分たちで一緒に考える必要があるもの。先生は生徒を決まったところに指導するのではなく、生徒が自ら発見していくのをサポートする役。
• いま
今から振り返ってみると
• こうして、 • 数学や物理は、答えが一つなのは、答えが一つ
であるように作ってあるからに過ぎず、 • それに対し、国語や社会が、答えが複数あるの
は、それがより人間の生きている現実を反映しているからであって、
• むしろ、人間にとって、一つの答えしかないほうが不自然で、答えは複数ありうるほうが自然なこと、そのほうが考える価値があるのではないか、
• と思えるようになった。
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倫理と倫理学はどう違うの?
• 「倫理」は英語で言えば、 “an ethic” だが、「倫理学」は、 “ethics”。
• つまり、「倫理」は或る一つの考え方だが、「倫理学」はさまざまな考え方について考える学問。
• 「倫理」は、「倫(なかま、ともがら)」の「理(ことわり)」なので、「人と人の間にある(べき)筋道(ことわり)」のこと。
• 「倫理学」は、そのようなこと(さまざまなことわり)について探求する学問のこと。
哲学と倫理学はどう違うの?
• 哲学と倫理学は、源泉は同じで、古代ギリシアにある。 • 倫理学は、哲学の一部。つまり、哲学には、論理学、倫理学、認識
論、存在論、形而上学などが含まれるので、倫理学はその一部。 • 日本には、哲学講座と別に倫理学講座のある大学が多いが、欧
米では、哲学講座があるだけで倫理学講座はない(哲学講座で倫理学もやっているから)のがふつう。
• しかし、倫理学の方がほかの学問との接点や具体的な現実との接点が多く、その意味では、倫理学の方が哲学より広いという側面もある。
• 特に、現代(この30年ほど)においては「応用倫理学」(生命倫理学、環境倫理学、情報倫理学、ビジネス倫理学、動物倫理学など)が盛んとなり、哲学よりも広い範囲で活躍するようになっている。
来週から本論
• まずは、倫理学の源泉に遡るが、前述のように、源泉である古代ギリシアでは、哲学と倫理学の間に違いはなかった。
• もっと言えば、哲学と科学の間にすら違いはなかった。 • それらはすべて、「知を愛すること(philo-‐sophia)」だった。
それがいまでは、「哲学」と訳されている。 • ということで、来週は、「1.過去の哲学者が倫理学にまつ
わる問いをどのように考えてきたのかを知る 」のうち、「1)古代ギリシアの倫理 」から始めたい。