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甲状腺機能異常Thyroid dysfunction
臨床薬物情報学研究室
学部4年 坂口 百合野
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シナリオ
35歳のMrs Smithが1歳の娘と来局処方内容:レボチロキシン 50μg錠 1錠/日今回が初めての処方
患者訴え:娘を出産後体重が増加した
暑い日でも、いつも寒い
髪が薄くなってきている
活力が全く無い
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患者背景
Mrs Smith[年齢] 35歳 1歳の娘がいる[処方内容]• レボチロキシン 50μg錠 1錠/日• 今回が初めての処方[病歴・患者の訴え]• 娘を出産後体重が増加した• 暑い日でも、いつも寒い• 髪が薄くなってきている• 活力が全く無い
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出産後自己免疫性甲状腺症候群
• 甲状腺機能正常の、潜在性の慢性甲状腺炎患者が、出産後に種々のタイプの甲状腺機能異常を起こすことがある
• 頻度全産後婦人の5%、潜在性甲状腺炎患者の60%• 分類①永続性甲状腺中毒症②一過性甲状腺中毒症③破壊性甲状腺中毒症④一過性甲状腺機能低下症⑤永続性甲状腺機能低下症
内分泌代謝疾患レジデントマニュアル
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甲状腺機能低下症
• 定義種々の原因により、甲状腺ホルモンが減少し、その作用が低下する結果生じる各臓器の
機能不全症
• 臨床所見無気力、易疲労感、眼瞼浮腫、寒がり、
体重増加、動作緩慢、嗜眠、記憶力低下、 便秘、嗄声等いずれかの症状
薬と疾病Ⅱ 薬物治療(1)甲状腺疾患診断ガイドライン2010
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甲状腺機能低下症の原因
1)原発性甲状腺機能低下症(甲状腺に原因)• 先天性 甲状腺発生異常、ホルモン合成異常• 後天性 橋本病、萎縮性甲状腺炎、
甲状腺摘出術、131I療法、大量ヨード、放射線外照射、薬物(抗甲状腺薬、amiodarone、リチウム製剤など)
2)中枢性甲状腺機能低下症• 下垂体性• 視床下部性• 両者の混合(下垂体または視床下部の腫瘍、炎症、虚血性壊死、Rathken嚢胞など)
甲状腺疾患治療マニュアル
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•視床下部性甲状腺機能低下症の一部ではTSH値が10μU/mlくらいまで逆に高値を示すことがある。
•中枢性甲状腺機能低下症の診断では下垂体ホルモン分泌刺激試験が必要なので、専門医への紹介が望ましい。
•慢性甲状腺炎が原因の場合、抗マイクロゾーム(またはTPO)抗体または抗サイログロブリン抗体陽性となる。
•阻害型抗TSH受容体抗体により発症することがある。
•コレステロール高値、クレアチンフォスフォキナーゼ高値を示すことが多い。
出産後やヨード摂取過多などの場合は一過性甲状腺機能低下症の可能性が高い。
追記
遊離T4低値でTSHが低値~正常遊離T4低値およびTSH高値検査所見
中枢性甲状腺機能低下症原発性甲状腺機能低下症
甲状腺疾患診断ガイドライン2010
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甲状腺機能低下症診断のフローチャート
甲状腺機能低下症の症状
遊離T4低値 TSH
高値
正常
低値
原発性甲状腺機能低下
中枢性甲状腺機能低下甲状腺中毒症の回復期
重症疾患
ステロイド・ドーパミン等の投与(薬剤性)
甲状腺疾患治療マニュアル
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甲状腺機能低下症に関する検査値
遊離T4 0.9~1.9ng/dl遊離T3 2.5~4.5pg/ml
0.34~3.5μU/ml基準値
[刺激]TSH[抑制]過剰のT3 、 T4により
TSH分泌抑制
[刺激]TSH放出ホルモン
分泌調節因子
成長・発育、熱産生、糖代謝、
脂質代謝亢進、カテコールアミン感受性増大
ヨードの取り込み、
甲状腺ホルモンの合成と
分泌の促進
生理作用
全身甲状腺標的臓器
甲状腺下垂体産生臓器
甲状腺ホルモンTSH(甲状腺刺激ホルモン)
ホルモン検査
薬と疾病Ⅱ 薬物治療(1)
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0.3U/ml以下抗サイログロブリン抗体
0.3U/ml未満抗TPO抗体
基準値抗体検査
最新内分泌検査マニュアル
徐脈・波高の低下心電図
増加クレアチニンキナーゼ
増加免疫グロブリン
増加AST、ALT増加総コレステロール値
陽性膠質反応(TTT、ZTT)その他の検査値
薬と疾病Ⅱ 薬物治療(1)
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プロブレムリスト
#1 甲状腺機能異常(甲状腺機能低下症)
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#甲状腺機能低下症
S 娘を出産後体重が増加した
暑い日でも、いつも寒い
髪が薄くなってきている
活力が全く無い
O 処方内容:レボチロキシン 50μg錠 一錠/日今回が初めての処方
A 出産後自己免疫性甲状腺症候群の
甲状腺機能低下症と思われる
レボチロキシン50μg/日は開始量
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P 服薬指導時に注意・確認すること
投与開始において①重篤な心・血管系障害がないか?②副腎皮質機能不全、下垂体不全がないか?
維持量決定~維持療法中において③初期量開始後、血清TSH(できればF T4も)を測定しながら、 T4用量を漸増していく④内服のアドヒアランス・甲状腺機能の更なる悪化や必要量の変化を考慮する⑤患者が動悸、頻脈を訴えた場合は心血管系の検査を行い、十分な説明や必要に応じた減量を医師に相談する
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甲状腺機能低下症の治療のポイント
• 副腎皮質機能低下症を合併している場合甲状腺ホルモン薬のみを投与すると
副腎不全を助長するので、副腎皮質ステロイドの
補充を先に行う• 甲状腺ホルモン薬の補充チラージンSの初回投与量は通常50μg、高齢者や冠動脈疾患の合併が予想される患者では25μgとする。
チラージンS(levothyroxine sodium)1回25μgまたは50μg 1日1回 徐々に増量
内分泌代謝疾患レジデントマニュアル
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• 血中F T3 、F T4は結合蛋白が飽和してから
上昇するので、投与開始後、あるいは増量後短期間で評価すると過剰投与になりがち
• 維持量原発性甲状腺機能低下症:
TSHを正常に保つように調整
検査間隔は2週~1ヶ月程度。3~4ヶ月で維持量になればよい
内分泌代謝疾患レジデントマニュアル
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レボチロキシンナトリウム
【効能・効果】粘液水腫,クレチン病,甲状腺機能低下症(原発性及び下垂体性),甲状腺腫
【用法・用量】レボチロキシンナトリウムとして通常,成人25~400μgを1 日1 回経口投与する.一般に,投与開始量には25~100μg,維持量には100~400μgを投与することが多い.なお,年齢,症状により適宜増減する
【禁 忌】新鮮な心筋梗塞のある患者[基礎代謝の亢進により心負荷が増大し,病態が悪化することがある.]
チラージンS添付文書
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治療薬
補充療法• 甲状腺ホルモン(乾燥甲状腺)• レボチロキシンナトリウム( T4 )
1日1回投与で遊離T3 、遊離T4濃度をほぼ一定に維持できる→補充維持療法に適している。日常臨床で多用される
• リオチロニンナトリウム( T3)効果の出現が早いが作用は短い→緊急投与に適している
薬と疾病Ⅱ 薬物治療(1)
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QuestionQ1 患者の兆候・症状が示すこと
→スライド 4~5Q2 疾患の原因→スライド 6~8
Q3 血液検査→スライド 9~10
Q4 必要なモニタリング→スライド13~15
Q5 支払いの必要はあるか
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Q5 支払いの必要はあるか特定疾患:
• 症例数が少なく、原因不明で治療方法も未確立でありかつ、生活面での長期にわたる支障がある特定の疾患に
ついて、それぞれ研究班を設置し、特定疾患治療研究との
連携を図りつつ原因の究明、治療方法の確立に向けた研究
行われているもの。
◎そのうち45疾患については、医療保険の自己負担について一部、又は、全額を公費負担
• 甲状腺疾患・・・下垂体機能低下症
難病情報センター http://www.nanbyou.or.jp/top.html
下垂体性なら公費負担が適応される可能性がある
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特定疾患治療研究事業
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参考文献
• 日本甲状腺学会 http://thyroid.umin.ac.jp/flame.html• 甲状腺疾患治療マニュアル• 内分泌代謝疾患レジデントマニュアル• 最新内分泌検査マニュアル• 薬と疾病Ⅱ 薬物治療(1)
(社)日本薬学会編 (株)東京化学同人発行 2005年• 生理学テキスト第4版大地陸男 著 (株)分光堂発行 2003年
• 難病情報センター http://www.nanbyou.or.jp/top.html
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甲状腺
• 甲状腺の機能は下垂体前葉の甲状腺刺激ホルモン(TSH)で調節される。
• 甲状腺は、血中カルシウムを低下させるホルモンであるカルシトニンを分泌する
• 甲状腺:甲状軟骨の下部に付着する内分泌腺。多数の濾胞からなる。濾胞は1層の上皮細胞が壁を形成し、中はコロイドで満たされる。組織間隙にはカルシトニンを分泌する傍濾胞細胞がある。
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甲状腺ホルモン
• 甲状腺が分泌する主要なホルモンはサイロキシン(T4)とトリヨードサイロニン(T3)
• 活性T3> T4
• T3の大部分は末梢組織でT4よりつくられる
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甲状腺ホルモンの生合成
• ヨウ素イオン(I‐)は甲状腺細胞内に能動輸送される• 細胞内に取り込まれたI‐は甲状腺ペルオキシダーゼによりヨウ素(I)に酸化されサイログロブリン中のチロシンに結合する。こうして、サイログロブリン上にモノヨードチロシン(MIT)とジヨードチロシン(DIT)ができる
• サイログロブリンはコロイド中へエキソサイトーシスされ、コロイド中でDIT2分子の酸化的縮合が行われ、 T4が生成される。
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甲状腺ホルモンの分泌
• 分泌時は甲状腺細胞はエンドサイトーシスでコロイドを取り込む
• コロイドとリソソームが融合しファゴソームを形成する
• T4 、 T3はファゴソーム中のプロテアーゼで遊離され、そのまま甲状腺細胞を通り抜けて拡散し、毛細血管中へ分泌される。
• サイログロブリンから遊離されたMITとDITは細胞内で脱ヨウ素化され、I‐を生じ、これがホルモン合成に再利用される。
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甲状腺ホルモンの輸送と代謝
• 甲状腺ホルモンの大部分が特定の血漿タンパク質に結合している。
• 結合血漿タンパク質にはアルブミン、サイロキシン結合アルブミン、サイロキシン結合グロブリンがある。
• 組織や下垂体前葉に作用するのは遊離型
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甲状腺ホルモンの作用
• 熱量産生作用(O2消費を刺激)→貯蔵タンパクと脂肪を異化→体重減少
• 神経系T3は思考の迅速化、被刺激性の亢進作用を示す
• 骨格筋機能亢進により筋タンパク異化・ミオシン変性→筋衰弱
• 心臓β‐アドレナリン受容体の和と親和性を増大させる→カテコラミンの変力・変時作用の感度を高める
• 炭水化物代謝消化管の炭水化物の吸収速度を上昇する
• コレステロール代謝LDLレセプターを生成促進→循環血中のコレステロール濃度をO2消費量促進とは無関係に下げる
• 成長と発育成長ホルモンの効果を増強