特集 道路 lesson 1 インフラギャップ -...

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開発途上国では、人口増加や経済成長に伴い、インフラ整備の需要と供給に 大きなギャップが発生している。そのギャップをいかに埋めるか問題の背景や解消への ヒントを、政 策 研 究 大 学 院 大 学 教 授の家 田 仁さんにうかがった。 専門は交通・都 市・国 土学。著書に『社会インフラ  メンテナンス学』、『「しぶとい都市」のつくり方:脆弱性 と強靭性の都市システム』、『変貌するアジアの交通・ 物流―シームレスアジアをめざして』、『国土の未来― アジアの時代における国土整備プラン』、『都市再生 ―交通学からの解答』(いずれも共著)などがある。 政策研究大学院大学教授 東京大学名誉教授 家田 仁 (いえだ・ひとし)さん インフラギャップ Lesson 1 出典 M.Fay & T.Yepes, 2003 より作成 高所得国における平均値を100 として各国の整備レベルを指標化し、 平均値をプロット(低所得国39か国、中所得国50か国、高所得国25か国) 鉄道延長 0 20 40 60 80 100 電力 電話回線数 舗装道路 延長 水への アクセス 衛生への アクセス 低所得国 中所得国 高所得国 所得階層別のインフラ整備状況 途上国におけるインフラ需要・投資の将来予測 (2014-2020) 出典:Fernanda Ruiz-Nuñez and Zichao Wei (2015) “Infrastructure Investment Demands in Emerging Markets and Developing Economies” より経済産業省にて再編加工 0 350 300 250 200 150 100 50 (10億ドル/2011年時点試算) 309 68 141 41 125 321 87 35 62 35 58 28 53 52 インフラ需要 予想されるインフラ投資 国家間のギャップ 需要と投資のギャップ 0 350 300 250 200 150 100 50 (10億ドル/2011年時点試算) 水・衛生等 57 通信 187 運輸 255 電力 320 維持補修 建設 途上国における分野別インフラ需要の将来予測 (2014-2020) 出典:Fernanda Ruiz-Nuñez and Zichao Wei (2015)“Infrastructure Investment Demands in Emerging Markets and Developing Economies” より経済産業省にて再編加工 建設後も存在する需要 途上国の経済成長や都市化などにより、世界的に電力・運輸をはじめ とするインフラの需要が高まっているが、建設だけでなく維持管理も重 要。整備を終えた国や地域であっても、安全な運用のために多くの投 資が必要となる。 国の発展段階別に見ると、上下水道などの社会インフラに比べて、 電力や運輸など経済活動に関わる分野でより大きなギャップが存在 している。低所得国ではまだ、経済成長のために重要なインフラの 整備が進んでいない状況だ。 地域別に見ると、中国以外の途上国では需要に対して投資額が不 足することが予測されている。特にインドをはじめとする南アジア地域 や、中南米地域で大きなギャップが生じることが試算されている。 貿?10 30 JICA貿道路 未来へ続く道を造る 特集 主要地域の都市化率 の推移予測 備考:2020年以降は推計値 資料:United Nations Urbanization Prospectsより経済産業省作成 10 70 90 50 30 (%) 2050 2040 2030 2020 2010 2000 1990 1980 1970 1960 1950 中国 インド サブサハラアフリカ 東南アジア 途上国で進む都市化 これから都市化が進んでいく開発途上国。都市部へ人が密集し始める と、人口の急速な増加に対応するため、住居、上下水道、電力といっ たインフラの需要が増えていく。 *都市に居住する人口が、総人口に占める割合。 22 November 2018 23 November 2018

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Page 1: 特集 道路 Lesson 1 インフラギャップ - JICA...開発途上国では、人口増加や経済成長に伴い、インフラ整備の需要と供給に 大きなギャップが発生している。そのギャップをいかに埋めるか

開発途上国では、人口増加や経済成長に伴い、インフラ整備の需要と供給に 大きなギャップが発生している。そのギャップをいかに埋めるか─問題の背景や解消へのヒントを、政策研究大学院大学教授の家田 仁さんにうかがった。

専門は交通・都市・国土学。著書に『社会インフラ メンテナンス学』、『「しぶとい都市」のつくり方:脆弱性と強靭性の都市システム』、『変貌するアジアの交通・物流―シームレスアジアをめざして』、『国土の未来―アジアの時代における国土整備プラン』、『都市再生―交通学からの解答』(いずれも共著)などがある。

政策研究大学院大学教授東京大学名誉教授家田 仁(いえだ・ひとし)さん

埋めきれないギャップを

縮める努力

インフラギャップLesson 1

出典 : M.Fay & T.Yepes, 2003 より作成高所得国における平均値を100 として各国の整備レベルを指標化し、平均値をプロット(低所得国39か国、中所得国50か国、高所得国25か国)

鉄道延長

0

20

40

60

80

100

電力

電話回線数

舗装道路延長

水へのアクセス

衛生へのアクセス

低所得国中所得国高所得国

所得階層別のインフラ整備状況

途上国におけるインフラ需要・投資の将来予測(2014-2020)

出典: Fernanda Ruiz-Nuñez and Zichao Wei(2015) “Infrastructure Investment Demands in Emerging Markets and Developing Economies” より経済産業省にて再編加工

0

350

300

250

200

150

100

50

(10億ドル/2011年時点試算)

309

68

141

41

125

321

87

35

62

3558

28

53 52

インフラ需要

予想されるインフラ投資

中東北アフリカ

サブサハラアフリカ

欧州・中央アジア

東アジア・太平洋

(除中国)

中国

中南米

南アジア

国家間のギャップ需要と投資のギャップ

0

350

300

250

200

150

100

50

(10億ドル/2011年時点試算)

水・衛生等

57

通信

187

運輸

255

電力

320 維持補修 建設

途上国における分野別インフラ需要の将来予測(2014-2020)

出典 : Fernanda Ruiz-Nuñez and Zichao Wei(2015) “InfrastructureInvestment Demands in Emerging Markets and Developing Economies”より経済産業省にて再編加工

建設後も存在する需要途上国の経済成長や都市化などにより、世界的に電力・運輸をはじめとするインフラの需要が高まっているが、建設だけでなく維持管理も重要。整備を終えた国や地域であっても、安全な運用のために多くの投資が必要となる。

国の発展段階別に見ると、上下水道などの社会インフラに比べて、電力や運輸など経済活動に関わる分野でより大きなギャップが存在している。低所得国ではまだ、経済成長のために重要なインフラの整備が進んでいない状況だ。

地域別に見ると、中国以外の途上国では需要に対して投資額が不足することが予測されている。特にインドをはじめとする南アジア地域や、中南米地域で大きなギャップが生じることが試算されている。

産業開発のために不可欠です。しか

し特に、これから産業育成を進めよ

うとしている途上国においては、道

路と港湾は都市と農村の交流や国

外との貿易・投資を促すうえで重

要になってきます」。ギャップを埋め

ていくためには、日本を含むドナー

側は一番適切なところに資源を最

大投資しているかを、つねに立ち止

展途上国においてより大きな差と

なって現れると話す。今後も人口増

加が見込まれ、インフラの需要が増

えていく途上国において、ギャップ解

消のためにはどこに優先的な投資

をすればよいのだろうか?

「国の発展段階によって、求められ

るものは違います。インフラの整備

は、どの国にとっても生活の向上や

 インフラの需要に対して供給が追

いつかない│開発事業を行うにあ

たり避けられない問題だ。「経済が

発展すれば人口が増え、インフラ整

備の需要も増えるだけでなく、変

化していきます。追いつくことはで

きないんです」。政策研究大学院大

学教授である家田

仁さんは、この

問題は先進国にも当てはまるが発

は10年、30年先を見据えて必要と

されるものは何か。現地政府、

JICAのような開発機関、ある

いは企業、それぞれがどこに価値を

見いだしているのか│その兼ね合い

で、実際の投資のバランスは決まって

いく。インフラギャップを埋めていく

ためには、この価値観のすり合わせ

が重要だ。「インフラ整備と言って

も、やみくもに国中に道路を造って

も経済効果はありません。たとえば

貿易に力を入れるなら港湾と産地

をつなぐルート、あるいは観光業を

強化するなら空港から主要都市への

ルートをセットで進めることで、発展

につながるのです。今後の需要を考

慮に入れた長期的な、国、あるいは

地域全体をとらえる広い視点が、

ギャップを少しでも小さくするため

に必要とされるのです」

まって考えることが必要だと家田さ

んは語る。その上で、相手国に働き

かけて、自ら優先づけをしてもらう

必要がある。さまざまなニーズがあ

る以上それは容易なことではない。

「現地からのリクエストは、その国

の経済成長にとって一番必要なこと

と必ずしもイコールではありません。

将来的な産業発展のためには、電

力や運輸などさまざまな分野のイ

ンフラ整備に投資するべきでしょう

ね。しかし大規模な道路や港湾の

建設には時間がかかります。その経

済的な恩恵を国民が実感するのは

さらに先のこと。現地の状況によっ

ては、なかなか折り合いがつかないこ

ともあるでしょう」。国としてどこ

に力を入れるか、どこに目標を置く

かによってやるべきことは変わる。今

国民に喜ばれることは何か。あるい

道路 未来へ続く道を造る特集

主要地域の都市化率*の推移予測

備考 : 2020年以降は推計値資料 : United Nations Urbanization Prospectsより経済産業省作成

10

70

90

50

30

(%)

20502040203020202010200019901980197019601950

中国

インドサブサハラアフリカ

東南アジア

途上国で進む都市化これから都市化が進んでいく開発途上国。都市部へ人が密集し始めると、人口の急速な増加に対応するため、住居、上下水道、電力といったインフラの需要が増えていく。

*都市に居住する人口が、総人口に占める割合。

22November 201823 November 2018