Ceftazidime耐 性Klebsiella pneumoniaeお よ びEscherichia coliの 疫 学 的 な検 討

黒州 博 史1)・ 樋渡 恒 憲1)・ 鈴木 和夫1)・ 荒川 宜親2)

1)保健科学研究所第 一検査部'

2)名占屋大学医学部細菌学講座

(平成7年9月12日 受付 ・平成7年11月24日 受理)

1994年9月 か ら1995年8月 まで の1年 間 に,当 施 設 で 感 受 性 検 査 を 実 施 したKlebsiella Pneumo-

niae16,915株,お よびEscherichia coli23,568株 の 中 か らceftazidime(CAZ)に 耐 性 を示 す 株 を 選 び,

分 離 され た 施 設 の地 理 的 分 布 な らび にaztreonam(AZT),latamoxef(LMOX),sulbactam/cefopera-

zone(SBT/CPZ),oefpirome(CPR),cefminox(CMNX),ceftizoxime(CZX),piperacillin(PIPC)

の7種 類 の β-ラ ク タム剤 に 対 す る感 受 性 パ ター ン を調 査 した 。 そ の結 果,CAZに 耐 性 を 示 すK.pneu-

moniaeが 全 国 で41株 確 認 され,そ の 分 離 施 設 も神 奈 川 県5施 設(30株),静 岡県1施 設(5株),東

京 都2施 設(5株),山 口 県1施 設(1株)と 全 国 的 に分 布 して い る事 実 が 再 確 認 され た 。CAZ耐 性 の

K.pneumoniaeはAZTやPIPCに 対 して も高 度 耐性 を示 す 傾 向 が み られ た が,他 の5剤 に 対 して は 中

等 度 の 耐性 あ る い は感 受性 を示 す 傾 向 が 認 め られ た 。 同様 にCAZ耐 性 のE.coliも8施 設(25株)と

全 国 的 に分 離 され つ つ あ る現 状 が 確 認 さ れ た 。 そ れ らは,CAZ耐 性K.pneumoniaeと 同 様 にAZTや

PIPCに 対 して 高度 耐 性 を 示 す 傾 向 が み られ た が,他 の5剤 に 対 して はK.pneumoniaeよ りも高 度 耐 性

を 示 す 傾 向 が 認 め られ た 。 さ らに,一 部 の 医 療 機 関 で は,同 一病 棟 の 複 数 の 患 者 よ りCAZ耐 性 菌 が 持

続 的 に 分 離 され 続 け,院 内 感 染 が 懸 念 され た 。 この よ う な状 況 の な か で,CAZ耐 性 菌 の増 加 を抑 え つ つ,

適 切 な 化 学 療 法 を実 施 す る た め に は,定 期 的 な 薬 剤 感 受 性 検 査 に も とつ く適 切 な抗 生 剤 の 選 択 が,よ り

一 層 重 要 に な る も の と思 わ れ た。

Key words:CAZ耐 性 株,Klebsiella pneumoniae,Escherichia coli,薬 剤 感 受 性,院 内 感 染

Klebslella pneumoniaeは 染 色体性 の ペニ シリナーゼ を産

生 し生 来 ア ンピシ リンな どの ペニ シリ ン系抗 生剤 に耐性 を示

す1)が,セ フェム系 の抗 生剤 に は感受性 を示す ため,第 三世

代 セ フェ ムの導入 に よ り本邦 での 臨床分 離の 頻度 は近年 減少

傾向 を示 して いた2,3)。しか し,フ ラ ンス にお いて,1980年

代 の半 ばにCAZ耐 性K.pneumoniaeが 分離4)さ れて以 来約

10年 が 経過 しよ うと してい る。 この 間,欧 米諸 国で 同様 の

耐性 菌が 分離 され,そ れ らの耐性 化 機構 に関す る様 々 な研 究

が 行 われ て きた5～7)。特 に最近,拡 張型 ス ペ ク トル を示 す β-

ラク タマ ーゼ[extended spectrum β-lactamases(ESBL)]

の 出現 と蔓 延が ア メ リカにお いて問題 となって い る8}。また,

各種 の抗生剤 に一 般的 に感受 性 を示すElscherichia coliに つ

いて も,一 部の セフ ェム系抗 生剤 に耐性 を示す株 の分 離 に関

す る報告 もみ られ る9～12)。本邦 におい て は,同 様 な耐性 傾 向

を示す株 が散発 的 に臨床 か ら分 離 される ものの,そ の数 も少

な く,第 三世代 セ フ ェム剤 を第 一選択 薬 と して多 用す る傾 向

の強い我 が国 にお いて は,こ の よ うな耐性株 は出現 し難 い状

況 にあ る と考 え られて いた紙14)。

しか し,1994年7月 頃 よ り,当 施設 で扱 う臨床分 離株 の

中 にNCCLSの 定め るCAZのbreak point32μg/ml15)に 生

育す るK.pneumoniaeが 月 間1～2株 恒 常 的に分 離 され る

よ うにな り,本 学 会誌 にその 結 果 を報告 した16)。そ の後 も,

同様 の耐性 傾向 を示す 株の 分離 が続 くため,臨 床 分離株 の薬

剤耐性 傾 向の変化 の兆 候 と考 え,引 続 き継続 的 な調査 を行 っ

て きた 。 今 回,こ の1年 間 に わ た る 調査 の 集 約 と して,

CAZ耐 性 のK.pneumoniae以 外 にE.eoliに 関 して も検討

を加 え,そ の結 果 をあわせ て報告 す る。

I. 材 料 と 方 法

1.対 象 株

1994年9月 よ り1995年8月 まで の1年 間 に 当施 設

が 扱 っ た細 菌 学 検 査 検 体 か ら分 離 され た 臨 床 分 離 株 で,

薬 剤 感 受 性 検 査 でceftazidime(CAZ)に 耐 性

(NCCL,Sの 判 定基 準32μg/mlに 生 育15))を 示 したK.

pneumoniaeとE.coliを 対 象 と した 。 同 一 菌 株 を重 複

して カ ウ ン トす る の を避 け る た め,同 一 患 者 か らの 分

離 菌 で 類 似 の 薬 剤 感 受 性 パ ター ンを 示 し た 株 は1株 と

カ ウ ン ト した 。 菌 種 の 同 定 はVITEK(bio Merieux)

に て 実 施 し た 。 同 定 確 率 の 低 い 株 に 対 し て は,ID

TEST EB-20(日 水)や,パ イ ル チ ュ ー ブ テ ス トを 併

用 し再 同 定 を行 っ た。

2.MIC値 の 測 定

日本 化 学 療 法 学 会 標 準 法17)に も とづ き.微 量 液 体 希

●横浜市保土ケ谷区神戸町106

2 日本化 学 療 法 学 会 雑誌 JAN,1996

釈 法 を用 い た 。 マ イ ク ロ ブ レー トは,自 家 製96穴U

底 マ イ ク ロ プ レ ー ト(新 潟 化 工),培 地 に はMueller

-Hinton Broth(Difco)を 使 用 した 。 被 検 菌 を接 種 し,

35℃ で,約18時 間 培 養 後,各 ウ ェ ル の 混 濁 を 肉 眼 的

に判 定 し,MIC値 を 判 定 した 。

希 釈 系 列 は,CAZが400μg/mlか ら3.13μg/mlま

で の10段 階 で,他 の7剤 は100μg/mlか ら0.2μg/ml

まで の10段 階 と した 。

な お,E.coliの 菌 株 に よ っ て は 検体 分 離 時 に 判 定 さ

れ たMIC値 よ り若 干 低 い値(12.5～25μg/ml糧 度)

を 示 す もの が 存 在 し た が,そ れ らに は,そ の 他 の 広 域

セ フ ェ ム剤 に 耐 性 を示 す も の も含 まれ る た め,今 回 の

調 査 対 象 に加 え た 。

3.使 用 抗 生 物 質

ceftazidime(CAZ,日 本 グ ラ ク ソ),piperacillin

(PIPC,富 山 化 学 工 業),ceftizoxime(CZX,藤 沢 薬 品

工 業),cefminox(CMNX,明 治 製 菓),1atamoxef

(LMOX,塩 野 義 製 薬),cefpirome(CPR,ヘ キ ス トジ

ヤ バ ン),aztreonam(AZT,エ ー ザ イ),

sulbactam/cefbperazone(SBT/CPZ,フ ァイザ ー・製 薬)

の8剤 に 関 し,感 受 性 テ ス トの結 果 を ま とめ た 。

II.結 果

1.分 離 菌株 数 と由 来

1年 関の調査期 聞中に分離 されたKlebsiella pneu-

moniaeとEscherichia coliの 総数は,そ れ ぞれ

16。915株 と23,568株 であった。Table 1にK.pneu-

moniae,Table 2にE.coliの4か 月ごとの分離株数を

示 した。1994年9月 から12月 までの4か 月間に分離

されたK.pneumoniaeは5,030株 でその うちのCAZ

耐性株`ま4株(0,080%)で あった。1995年1月 から

4月 の間の分離株数は5,874株 でCAZ耐 性株は3株

(0.051%)で あった。1995年5月 か ら8月 までは

6,011株 中34株(0.57%)がCAZ耐 性を示 した。し

たがって,1年 間のCAZ耐 性K.pneumoniaeの 分離

率は41/16,915日0.24%で あった。 また9同 期間中の

CAZ耐 性E.coliの 分離総株数[CAZ耐 性株数(分 離

率)]は,そ れぞれ7,284株[7株(0.096%)3,7P732

株[4株(0.052%)L8,552株[14株(0.16%)]で

あった。 したがって,年 間のCAZ耐 性E.coliの 分離

率は25/23,568-0.11%で あった。1994年9月 から

1995年4月 までの間のCAZ耐 性K.pneumoniaeと

E.cloiの 分離率は,0.05～0。01%と ほぼ一定であった

が,1995年5月 頃より増加が見られた。これは,特 定

の医療施設における,CAZ耐 性薗の急増が反映 してい

た(後 述)。

41株 のCAZ耐 性K.pneumoniaeの うち,尿 由来が

Table 1. Isolation frequencies of ceftazidime-resistant Klebsiella pneumoniae clinical

isolates and their geographical distribution

CAZ: ceftazidime

VOL.44 NO .1 　 CAZ耐 性株の動向 　 3

Table 2. Isolation frequencies of ceftazidime-resistant Escherichia colt clinical isolates

and their geographical distribution

CAZ: ceftazidime

29株(70.7%),咽 頭 液 ・喀 痰 由 来 が10株(24.3%),

膿 な どが2株(5%)で あ っ た 。 また,CAZ耐 性E.

coli 25株 の うち,尿 由 来 が12株(48%),咽 頭 液 ・喀

痰 由 来 が10株(40%),膿 な どが2株(8%),便 が1

株(4%)で あ っ た 。

2. 耐性 株 分 離 の 地 域 性

Table1(K.pneumoniae)お よびTable2(E.coli)

に,CAZ耐 性 株 の 分 離 数 ・分 離 率 と そ れ らが 分 離 され

た 医療 施 設 の所 在 を示 す 。 耐 性 株 は 神 奈 川,東 京,静 岡,

愛 知,山 口,福 岡 と い っ た 広 い地 域 か ら分 離 さ れ て お り,

前 回 の 調 査 で は 検 出 さ れ な か っ た地 域(愛 知,山 口,福

岡)か ら も分 離 され る よ うに な っ た。 神 奈 川,東 京,静

岡,愛 知 の4県 にお け る1年 間 のK.pneumoniaeとE.

coliの 分 離 総 数 は,神 奈 川[K.pneumoniae:4,520株,

E.coli:8,736株],東 京[K.pneumoniae:2,275株,E.

coli:4,320株],静 岡[K.pneumoniae:1,279株,E.

coli 1,876株],愛 知[K.pneumoniae:772株,E.coli:

754株]で あ っ た 。 ま た,以 前 報 告 したCAZ耐 性K.

pneumoniae 8株 中3株 が 分 離 され た 神 奈 川No.22施

設 で は,1995年6月 まで は 月平 均1～3株 程 度 の 分 離

状 況 で あ った が,7月 頃 よ り分 離 数 が 突 然 増 加 した 。 こ

の 施 設 で は7月 に は,同 一 病 棟 の 異 な る7人 の患 者 か

らCAZ耐 性 株 が検 出 さ れ た。 そ の 結 果,同 施 設 で は5

月 か ら8月 ま で の4か 月 間 に24株 のCAZ耐 性K.

pneumoniaeが 検 出 さ れ,こ の 期 間 の 全 国 の 総 検 出 数

(34株)を 押 し上 げ る 結 果 とな っ た 。 一 方,愛 知No.

4 日本化 学 療 法 学 会雑 誌 JAN.1996

A施 設 で は,調 査 期 間 中 に13株 のCAZ耐 性E.coliが

分 離 され,特 に1995年4月 頃 よ り総 検 幽 数 の 急 増 が み

られ た。

3.薬 剤 感 受 性

Table3にCAZ耐 性K.pneumoniae,Table4に

CAZ耐 性 且coliの 各 種 β-ラ ク タム剤 に 対 す る愁 受 牲

試験の結果を示す。CAZ耐 性K.pneumoniae41株 中

28株 は200μg/ml以 上の高度耐性 を示 した。 また,そ

れらはAZTに 対 しても同時に高度耐性 を示す傾向がみ

られた。 また,LMOX,SBTICPZ,CPR,CMNX,

CZXに 対しては中等度の耐性を示す株 も認め られたが,

感受性を示す株 も少なか らず存在 した。PIPCに 対 して

Table 3. MICs of 8 ƒÀ-lacterns against ceftazidime-resistant laeboiella pneumoniae clinical isolates

n)U: urine , S: sputum, T: swab from throat, B: swab from bedsore

Resistance to T: tetracyclines, Q: new quinolones, A: aminoglycosides, C: chloramphenicol

PIPC: piperacillin, CZX: ceftizoxime, CAZ: ceftazidime, CMNX: cefminox, LMOX:latamoxef, SBT/CPZ: sulbactam/cefoperazone , CPR: cef-

pirome, AZT: aztreonam

VOL.44 NO.1 　 CAZ耐 性 株 の動 向 　 5

Table 4. MICs of 8 ƒÀ-lactams against ceftazidime-resistant Escheriehia coli clinical isolates

a) U: urine, S: sputum, T: swab from throat, B: swab from bedsore, F: fecesb)Resistance to T: tetracyclines

, Q: new quinolones, A: aminoglycosides, C: chloramphenicol

PIPC: piperacillin, CZX: ceftizoxime, CAZ: ceftazidime, CMNX: cefminox, LMOX: latamoxef, SBT/CPZ: sulbactam/cefoperazone, CPR: cef-

pirome, AZT: aztreonam

は す べ て の 株 が 高 度 耐 性 を 示 した 。 特 にHKY-027,

115,134,196,203,209,230,237株 は,CAZ

以 外 にLMOX,SBT/CPZ,CPR,CMNX,CZXに

対 して も高 度耐 性 を示 す 傾 向 が 認 め られ た 。 これ らの株

は,HKY-209を 除 い て す べ て 神 奈 川県 内 の 医 療 施 設 か

ら分 離 され た 。 一 方,CAZ耐 性E.coli株 もAZTに 対

し て 高 度 耐 性 を 示 す 傾 向 が み ら れ た が.特 に

SBT/CPZ,CPR,CMNXま た はCZXのMIC値 が

100μg/ml以 上 の 高 度 耐 性 株 が25株 中 の 半 数 あ る い

は そ れ 以 上 を 占 め た 。 さ らに,LMOXに 対 し て 高 度 耐

性(MIC値 が100μg/ml以 上)を 示 す 株 も8株 存 在 し

た 。 こ れ らの 株 は,お も に愛 知 県 内 お よ び 山 口 県 内 の 特

定 の 医 療 施 設 か ら集 中 して 分 離 され た 。

表 に は 示 さな か っ た が,カ ル バ ペ ネ ム系 抗 生 剤 に対 し

耐性 を示 す 株 は,両 菌種 と も に 検 出 され な か っ た 。 しか

し,β-ラ ク タ ム 系 剤 以 外 の 抗 生 物 質 ・抗 菌 剤 に対 して

は,中 等 度 ～ 高 度 耐 性 を 示 す 株 も 少 な か ら ず 存 在 し,

K.pneumoniaeのHKY-139,187,220株 お よ びE.

coliのHKY-191,192,193,195,199,200,

204,235,236株 は,テ トラサ イ ク リ ン系,ア ミノ グ

リ コ シ ド系,ニ ュ ー キ ノ ロ ン系,ク ロ ラ ム フ ェニ コー ル

な どに 対 して 種 々組 み 合 わ せ で 耐 性 を示 した。 特 に,E.

coliのHKY-194とHKY-224株 は,そ れ らす べ て の 系

列 の 薬 剤 に 対 し耐 性 を 示 した 。

III.考 察

本 邦 で は 第 三 世 代 セ フ ェ ム の 開 発 と使 用 に よ り1980

年 代 の 後 半 か ら1990年 代 の 初 頭 に か け て,Klebsiella

属 な どの 腸 内 細 菌 科 に属 す る 細 菌 の 分 離 頻 度 は,全 国 的

に 減 少 傾 向 を 示 して い た2,3,13)。しか し,最 近 これ らの 菌

の 分 離 が 再 び 増 加 に転 じ,そ れ らは 一 部 の 第三 世代 セ フ

ェ ム に 高 度 耐 性 を 示 す 傾 向 が 認 め られ る18)。一 方,欧 米

で は,い わ ゆ るextended spectrum β-lactamases

(ESBL)産 生 菌 の 出 現 と,大 規 模 な 医 療 施 設 に お け る

院 内 感 染 が 近 年 問 題 と な っ て い る5)が,本 邦 で はESBL

産 生 菌 や 院 内 感 染 に 関す る 報 告 は 少 な い。 そ の理 由 と し

てESBLに 関 す る 認 識 が まだ 薄 い こ と と,さ らに そ れ

ら を効 率 的 に検 出 ・同 定 す る 方 法 が 確 立 され て い な い19)

こ とな ど が 挙 げ ら れ る。ESBLは,い わ ゆ る プ ラ ス ミ

ド性 ペ ニ シ リナ ー ゼ で あ るTEM型,あ るい はSHV型

の β-ラ ク タマ ー ゼ を 含 む ク ラ スAβ-ラ ク タマ ー ゼ の

6 日本化 学 療 法 学 会雑 誌 JAN. 1996

変異型5-7)であり,酵 素の活性中心領域のア ミノ酸配列

の変化により広域セフェム剤をも分解 ・不活化する能力

を獲得した一群の新 しい β-ラクタマーゼである20)。欧

米ではKlebsiella属 やE.coiご などでESBL産 生菌が多

数報告 されている10～12)が,今回,全 国的に分離 されは

じめたCAZ耐 性菌にESBL産 生菌が含まれているか否

かは,今 後の解析を待たねばならない。

今回の調査から,K.pneumoniaeは 特定の β-ラクタ

ム剤にのみ耐性を示す傾向があ り,一 方 瓦coliは より

多 くの種類のβ-ラクタム剤に全般的に,耐 性 を示す傾

向が認められる。E.coliで 観察されるこのような現象

は,染 色体性のセフ ァロスポリナーゼ(AmpC型)の

過剰な産生に起因す る可能性 もあ り,ESBLの 産生と

は異なる機構の存在も予想される。 しかし,い ずれにせ

よ,そ のような性質を示す株が全国的に臨床分離される

傾向はここ数年継続 してお り,し かも神奈川No.22施

設や静岡No.A施 設,愛 知No.A施 設では明らかに院

内感染の様相を呈してお り,緊 急かつ適切な対応が求め

られていると言えよう。

今回分離されたCAZ耐 性菌は,そ のほとんどが入院

患者より分離され,検 体別にみても尿 よりの分離がその

大半を占めている。第三世代広域セフェム剤は入院患者

に点滴静注で用いられ,多 くの場合ほとんど体内で代謝

されず,尿 中へ高濃度に排出される傾向がある。 したが

って,尿 か ら分離 される細菌の薬剤感受性を定期的に検

査することは,広 域セフェム剤に高度耐性を示す株の出

現をいち早 く察知する上で不可欠 と思われる18,14)。また,

耐性菌は尿以外に,喀 痰,咽 頭拭い液,膿 などからもし

ばしば分離されるため,こ れらの検体からの定期的な細

菌の分離 ・同定ならびに感受性検査 も,化 学療法の方針

を立てる上に有用な示唆を与えてくれるものと期待され

る。

今回の調査のなかで,K.pneumoniaeやE.coli以 外

のCAZ耐 性菌としてCitrobacter freundii,Enterobac-

ter aerogenes,Enterobacter cloacaeも 全国的に分離さ

れる傾向がみられた。感受性試験の詳細な結果は示さな

いが,そ れらは多種類の広域セフェム剤に対し同時に高

度耐性 を示す傾向が観察された。1994年11月 の時点

で,す でに約1割 の分離株がこのような多剤高度耐性

傾向を示している(1994年11月:Enterobacter spp.

587株 中57株,Citorobacter spp.191株 中25株)こ

とは注 目に値する。一般的にC. frendii,E.aerogenes,

E.cloacaeは 染色体支配の誘導型セファロスポリナーゼ

(AmpC)を 産出し,し か も外膜の薬剤透過性 も低いこ

とが示唆されており,そ の結果従来より広域セフェム剤

に対 して抵抗性 を示す と考えられてきた鋤。 しかし,今

回の調査期閥中に分離された多剤高度耐性菌における耐

性化 の機構 として,セ ファロスポリナーゼ型 β-ラクタ

マーゼ産生量の増加以外に,プ ラス ミドへのセファロス

ポリナーゼ遺伝子の転移22,23),β-ラクタマーゼ遺伝子の

変異 による基質特具性の変化20)ESBLの 産生など,複

数の要因の関与が示唆 される。また,特 に注 日すべ8点

として。 まだ少数ではあるが。カルバペネム系剤にも断

性 を示すE.aerogenesも 分離されてお り,こ れらの株

は,CAZに 対 して も高 度 耐性 を示 し8¢ ア7α師a

marocescensな どで発見されたIMP4型 のメクロ β-ラ

クタマーゼ24,25)を産生する可能性も示唆 され,今 後の分

離頻度の推移に,細 心の注意を払う必要があろう。

今回,1年 間にわたる調査を終え,CAZに 痛度耐性

を示すK.pneumoniaeやE.coliが 全国的な広が りをも

って分離されはじめている事実を明 らかにすることがで

きた。また,一 部の医療施設ではあるが,複 数の息者か

らCAZ耐 性株が継続的に分離 され続けていることも明

らかとなった。本調査では,当 施設に細菌学的検査を依

頼する医療施設の地理的分布に差があ り,そ の結果,分

離菌株数に地域別の偏 りが見られる。そのため,今 回の

調査結果がそのまま全国的な状況を忠実に反映している

とは言えないが,少 なくとも1994年 から1995年 にか

け,本 邦において,CAZを は じめとする各種のセフェ

ム剤に耐性 を示すK.pneumoniaeな らびにE.coliが 増

加傾向にある事実は否めないであろう。今後,よ り正確

な耐性菌の出現状況を把握するため,複 数の医療雄設と

検査機関および研究機関の連帯による全目的規模の調査

が求められていると言えよう。また,こ のような状況の

なかで,CAZ耐 性菌の増加を食い止めるためには,定

期的な薬剤感受性検査に基づ く抗生剤 ・抗菌剤の適切な

選択と投与期閥の管理が不可欠と言えよう。

謝 辞

本稿を終えるにあた り,菌 種同定に関 し御協力を頂い

た,当 検査部種山二朗先生,人 見幸枝先生に感謝申し上

げます。また,本 稿の校正にあた り,御 指導賜 りました

当施設第三検査部ラリー ・ハ ンキンズ次長に深謝申し上

げます。

文 献

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VOL.44 NO.1 　 CAZ耐 性株の動向 　 7

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8 日本 化 学 療 法 学 会 雑 誌 JAN. 1996

A clinical investigation on the prevalence of ceftazidime-resistant Klebsiella

pneumoniae and Escherichia coli isolates

Hiroshi Kurokawa 1), Tsunenori Hiwatashi1), Kazuo Suzuki1) and Yoshichika Arakawa2)

1)

First Diagnostic Division, Health Sciences Research Institute, 106 Godocho, Hodogaya-ku, Yokohama

240, Japan2) Department of Bacteriology, Nagoya University School of Medicine

Sixteen thousand nine hundred and fiffteen clinical isolates of Klebsiella pneumoniae and 23,568clinical isolates of Escherichia coli were isolated during the period September 1994 throughAugust 1995, and were subjected to susceptibility testing against ceftazidime (CAZ), aztreonam(AZT), latamoxef (LMOX), sulbactam/cefoperazone (SBT/CPZ), cefpirome (CPR), cefminox (CMNX),ceftizoxime (CZX), and piperacillin (PIPC). Forty one of the 16,915 K. pneumoniae strains

(0.24%) were found to be resistant to CAZ. Among the 41 CAZ-resistant strains, 30 were isolatedfrom 5 hospitals in Kanagawa, 6 were from a hospital in Shizuoka, 6 were from 2 hospitals inTokyo, and 1 strain was from a hospital in Yamaguchi. All 41 of these strains also demonstratedhigh-level resistances to both AZT and PIPC, and a portion of these strains showed additionalmoderate- to low-level resistances to the remaining 5 agents. Of the E. coli isolates tested, 25strains demonstrating CAZ-resistance were identified from 8 hospitals throughout Japan. Theseisolates also demonstrated high-level resistance aginst AZT and PIPC. However, in contrast to theCAZ-resistant K pneumoniae strains, CAZ-resistant E. coli strains exhibited higher-levels of resis-tance to the remaining 5 agents. Finally, a disturbing trend noted in this study was that insome hospitals, CAZ-resistant srrains were isolated repeatedly from patients who were hospitalizedin the same ward, suggesting the presence of nosocomial outbreaks. Thus, the choice of appropri-ate antimicrobial agents based on timely and accurate antimicrobial suscepitibility testing isthought to be critical for the containment of CAZ-resistant strains.