円管のスピニング加工に関する研究 - altair …...- - 2...
TRANSCRIPT
- - 0
アカデミックオープンプログラム中間報告書
円管のスピニング加工に関する研究
期間 平成23年6月~平成24年5月
香 川 高 等 専 門 学 校
機 械 工 学 科
木 原 茂 文
- - 1
目 次
Ⅰ.H23 年度研究成果の発表 ・・・・ 2
Ⅱ.研究内容
円管スピニング成形時の縮径部長さが
割れの発生に及ぼす影響 ・・・・ 3
管端ネッキング時のローラー先端曲率半径が
割れの発生に及ぼす影響 ・・・・ 8
管端ネッキング時のローラー先端曲率半径が
成形形状に及ぼす影響 ・・・・14
- - 2
Ⅰ.H23 年度研究成果の発表 題 目 円管スピニング成形時の縮径部長さが割れの発生に及ぼす影響 講演会名称 平成 23年度中国・四国地区高等専門学校 専攻科生研究交流会 開 催 日 2011年 4月 28日, 29日 題 目 管端ネッキング時のローラー先端曲率半径が割れの発生に及ぼす影響 講演会名称 第 62回塑性加工連合講演会講演 開 催 日 2011年 10月 27日
題 目 管端ネッキング時のローラー先端曲率半径が成形形状に及ぼす影響 講演会名称 日本塑性加工学会中国四国支部第 12回学生研究発表会 開 催 日 2011年 12月 12日
- - 3
Ⅱ.研究内容
円管スピニング成形時の縮径部長さが割れの発生に及ぼす影響
1.緒 言
スピニング成形法は回転成形法の代表的成形方法の一つであり,自動車用排気部
品や各種機械構造部品,家電製品の部品の製造などに用いられている 1).スピニン
グ成形される素材はローラに接触していない自由表面領域が多いため,その変形は
複雑となる.また,鍛造やプレス成形などに比べて成形条件因子が多いため,成形
不良が生じやすい.これまでに本研究室では,円管スピニング成形時のテーパ角度,
縮径部長さ, SF / 値,ローラ数,半径方向ピッチなどの成形条件がしわや割れの発
生に及ぼす影響について実験とシミュレーションを行っている 2), 3).
本研究では,縮径部長さが割れの発生に及ぼす影響について検討し,シミュレーションにより得ら
れた応力とひずみから割れの発生を評価した.
2.実 験 方 法
実験方法の模式図を図1に示す.素材は外径120mm,長さ 112mm,肉厚 1.5mm のフェライト系ステンレ
ス鋼管(SUS409)であり,外径 100mm,先端曲率半径 8mm のローラで縮径部の外径が 54mm になるよう
口絞り成形する.成形条件はテーパ角度θ= 60°,F/S 値 20,ピッチ P = 2.32mm,縮径部長さ L = 5,10,
図 1 実験方法の模式図
半径方向
長手方向
公転速度 :
][rpmS 送り速度 :
min]/[mmF
テーパ角度 : θ
縮径部長さ : ][mmL
ピッチ :
][mmP
- - 4
20,40mm である.F/S 値とはローラの送り速度 F とワーク外周のローラの公転速度 S
との比である.図 1 に示すように,固定された円管の軸心周りをローラが公転しな
がら,長手方向にローラを往復させ,さらに半径方向に押しこむことにより成形が
進められる.
3.シ ミ ュ レ ー シ ョ ン 方 法
図 2 にシミュレーションモデルを示す.シミュレーションには動的陽解法で定式
化された有限要素解析ソフト RADIOSS(アルテアエンジニアリング(株))を用いた.
円管は肉厚方向に 3 層,長手方向に 40 層,円周方向に 80 層の総要素数 9600 の六面
体要素でモデル化した.ローラはシェル要素でモデル化し,剛体として定義した.
境界条件として,円管端部を固定とした.円管とローラとの間の摩擦係数は 0.15
とし,材料密度は,計算効率を考慮して 7.8×10-4kg/mm3 と仮定した.計算時間は
3.0GHz の CORE2Quad コンピュータで 1 条件あたり約 100 時間であった.
図 2 シミュレーションモデル
4.割 れ の 評 価 方 法
縮径部長さが割れの発生に及ぼす影響を定性的に評価するために,(1)式に示す
Cockcroft ら 4)の延性破壊条件式を適用した.
円管 ローラー
固定
- - 5
∫=f
dCε
εσ
σ0
max (1)
ここで Cはダメージ値, ε は相当ひずみ, fε は破断時の相当ひずみである.なお,
最大主応力 maxσ を(2)式に示す相当応力 σ で除して無次元化している.ここで,加工
硬化係数 0C =280MPa,加工硬化指数 n =0.25 である.
1100 +=n
C εσ (2)
5.結 果 お よ び 考 察
5.1 成 形 後 の 変 形 形 状
表 1 に実験及びシミュレーション結果を示す.成形条件はテーパ角度θ= 60°, SF /
値 20,ピッチ P =2.32mm,縮径部長さ L = 5~ 40mm である.表 1 に示すように,L
が短い L=5mm および L=10mm では割れ等の欠陥は発生せず,成形が可能であった.し
かし,L が長い L =20 および L=40mm の場合ではコーナー部にて割れが発生している
ことが分かる.
図 3 に肉厚比分布を示す.なお,コーナー部を x=0mm としている.肉厚比とは成
形後と成形前の肉厚の差を初期肉厚で割った値である.図 3 に示すように,縮径部
長さが増加するほどコーナー部付近における肉厚比が減少していることがわかる.
特に L=20mm 以上の条件での最小肉厚比は,著しく小さい.すなわち,縮径部長さが
増加するほど長手方向のひずみが大きくなることでコーナー部の肉厚比が小さくな
り,最終的に割れへと進展する.
5.2 割 れ の 評 価
図 4 にダメージ値分布を示す.縮径部長さを L = 5~ 40mm と増加させた場合のダ
メージ値を Cockcroft らの延性破壊条件式より算出した.図 3 の分布と同様にコー
ナー部を x=0mm としている.図 4 より,縮径部長さが増加するほど,コーナー部付
近におけるダメージ値が増加していることがわかる.割れが発生した縮径部長さ
L=20, L=40mm における,それぞれの最大ダメー
- - 6
ジ値は C=1.01,C=1.18 となった.以上のことから,ダメージ値が 1.0 付近に達すると
割れが発生すると考えられる.
表 1 実験及びシミュレーション結果
割れ
- - 7
図 3 肉厚比分布 図 4 ダメージ値分布
6.結 言
縮径部長さが割れの発生に及ぼす影響について検討した結果以下に示す結論を
得た.
(1) 縮径部長さが増加するほどコーナー部付近において肉厚比が減少して割れが生
じる.
(2) 縮径部長さが増加するほどコーナー部付近におけるダメージ値が増加する.
(3) ダメージ値が 1.0 付近に達すると割れが発生する傾向にある.
参 考 文 献
1) 葉山,新回転加工,(1992),近代編集社.
2) 高橋ほか,塑性と加工,59-591(2010),348-354.
3) Iritani et.al, Proc.ITSS2010(2010), 60-63.
4) M.G.Cockcroft et.al, J. Inst. Metals.,96 (1968),33-39.
- - 8
管端ネッキング時のローラー先端曲率半径が割れの発生に及ぼす
影響
1. はじめに
管端ネッキングは,管材の端部を外側から絞ってくびれを作る回転成形法の一つ
であり,自動車用排気管の製造に用いられている 1).しかし,ネッキングの成形条
件因子は,かなり多いため,割れやしわ等の加工欠陥に対して適切な成形条件を見
出すことは難しい.著者らはこれまでにネッキング時の成形条件がしわの発生に及
ぼす影響について検討し,素材の変形機構およびしわの発生機構を明らかにしてい
る 2).また,ネッキング時のテーパー角度が大きく,縮径部長さが長い場合にテー
パーコーナー部で割れが生じることも明らかになっており,延性破壊条件式を用い
て割れの発生を評価している 3) , 4 ).
本報では,ローラー数,ピッチおよび成形リード一定の条件下で,ローラー先端
曲率半径を変化させて,成形シミュレーションを行い,曲率半径が成形形状および
割れの発生に及ぼす影響について検討する.
2. 計算方法
図1に管端ネッキングの模式図を示す.素材は外径120mm,長さ112mm,肉厚1.5mm
のフェライト系ステンレス鋼管(SUS409)である.この円管を外径100mm,先端曲率半
径Rのローラーで,テーパー角度 =60,縮径部の外径54mm,テーパー部のコー
ナーがRcになるように成形シミュレーションを行う.縮径部長さは,35mmとしてい
る.図1のように固定された円管の軸心周りをローラーが螺旋運動をしながら軸方向
に往復し,同時に半径方向に移動することで成形が進められる.なお,図中のzが円
管の軸方向,rが半径方向を示している.成形条件は,ローラー数2,半径方向ピッ
チP=2.4mm,成形リードL=20mmである.成形リードは軸方向の送りピッチを表してい
る.これらの条件で,ローラー先端曲率半径Rを 6~14mmまで2mmずつ変化させてシミ
ュレーションを行う.
- - 9
図 1 管端ネッキングの模式図
図 2に R8mmの場合のシミュレーションモデルを示す.シミュレーションには動的
陽解法で定式化された有限要素解析ソフトRADIOSS(アルテアエンジニアリング
(株))を用いた.円管は軸方向に30層,円周方向に80層,半径方向に3層の総要素
数7200の六面体要素でモデル化した.ローラーはシェル要素でモデル化し,剛体と
して定義した.境界条件として,円管端部を固定とした.円管とローラーとの間の
摩擦係数は0.15とし,材料密度は計算効率を考慮して7.8×10-4kg/mm3と仮定した.
計算時間は3.0GHzの Core2Quadコンピュータで1条件あたり約100時間であった.
3. 割れの評価方法
ローラー先端曲率半径が割れの発生に及ぼす影響を定性的に評価するために,(1)
式に示すCockcroftら 5)の延性破壊条件式を適用し,ダメージ値を求めた.
(1)
ここでC はダメージ値,εは相当ひずみ,ε f は破断時の相当ひずみである.な
お,最大主応力σ maxを (2)式に示す相当応力σで除して無次元化している.ここで,
∫=f
dCε
εσ
σ0
max
L
z
r
送り速度 : F = 6 0 0 0 m m/ mi n
公転速度 : S = 3 0 0 r p m
R
固定
R c
P
3 5
θ = 6 0 °
1 9 . 0 5
z = 0
- - 10
加工硬化係数C0=280MPa,加工硬化指数n =0.25である.
(2)
4. 結果および考察
表1にローラー先端曲率半径Rを 6~14mmに変化させた時のシミュレーション結果
の一覧を示す.R6mmのシミュレーション結果では,管端部に大きなしわが発生した.
これは,Rが小さいことでローラーの局所的な食い込みが大きくなり,急激な曲げ戻
し変形が生じたためである.他のRにおいては,しわは発生しておらず最終形状まで
成形可
図 2 シミュレーションモデル
能であった.また,Rが大きくなるにつれて,テーパー部のコーナーRcも大きくなっ
ていることがわかる. R8,10,12,14mmの場合のRcの値は,それぞれ8.6, 10.2, 12.2,
14.8mmであった.
図 3,図4に軸方向の肉厚比分布およびひずみ分布をそれぞれ示す.これらの値は,
いずれもシミュレーション結果から得られる値である.肉厚比は,成形後の肉厚t
と初期肉厚t0との差を求めてt0で除した値である.なお,円管のテーパーコーナー
1100 +=n
C εσMPa
ロ ー ラ
固定
円管
- - 11
部をz=0mmとしている.R6mmは表1に示すようにしわが発生し,最終形状まで成形で
きなかったため,肉厚比およびひずみは計算していない.図3に示すように,肉厚比
はテーパー部で減少し,縮径部で増加している.また,Rが小さいほど,コーナー部
付近における肉厚比は小さい.一方,図4に示した軸方向ひずみは,z=0mm近傍で最
大値となるように増加し,縮径部にかけて減少している.これまでの実験 3)で割れ
が発生したR8mmの条件でテーパー部の軸方向ひずみが最も大きく,肉厚比は著しく
小さくなっている.すなわち,Rを大きくすることで,テーパー部での軸方向ひずみ
が小さくなり,肉厚比の減少が抑制される.
図 5にダメージ値の軸方向分布を示す.これらのダメージ値(C値)は,R6mmを除
いたR8~ 14mmの場合について(1)式に示したCockcroftらの延性破壊条件式により
算出したものである.z=0mmの位置は,図3および図4と同様にテーパーコーナー部と
している.図5に示すように,C値はテーパー部で増加し,縮径部で減少しているこ
とが分かる.またRが小さいほど,コーナー部付近における最大C値が大きい.R10mm
の C値は,割れの生じるR8mmの C値と同程度であるのに対し,R12mmおよびR14mmでは,
C=0.9以下まで減少している.これまでの実験からC=1.1を越えると割れが生じるこ
とを確認しているため,これより小さいC値であるR12mmおよびR14mmのローラーを用
いた成形では割れが生じないと推察される.
表 1 シミュレーション結果
R /mm
R6 R8
R10 R12
R14
- - 12
図 3 軸方向の肉厚比分布
図 4 軸方向のひずみ分布
図 5 軸方向のダメージ値分布
-60 -40 -20 0 20 40-0.6
-0.4
-0.2
0
0.2
0.4
0.6
0.8
軸方向位置 z/mm
肉厚比
(t-t 0
)/t0
R8R10R12R14
z = 0
-60 -40 -20 0 20 400.0
0.2
0.4
0.6
0.8
1.0
1.2
軸方向位置 z/mm
軸方向ひずみ
εz
R8R10R12R14
z = 0
-60 -40 -20 0 20 400
0.2
0.4
0.6
0.8
1.0
1.2
軸方向位置 z/mm
ダメージ値
C
R8R10R12R14
z = 0
- - 13
5. まとめ
(1) ローラーの先端曲率半径6mmの場合,ローラーの局所的な食い込みによる急激
な曲げ戻し変形が生じ,管端部にしわが生じる.
(2) ローラーの先端曲率半径が小さいほど,軸方向伸びが大きく,肉厚比は小さく
なる.割れの発生した先端曲率半径8mmの場合に最も肉厚比が小さくなる.
(3) Cockcroftの延性破壊条件式から求めたダメージ値は,テーパーコーナー部で
最大値となり,先端曲率半径が大きいほど最大値は減少する.
参考文献
1)葉山:新回転加工, (1992) , 244, 近代編集社.
2)高橋ほか:塑性と加工, 51-591(2010), 348.
3) Takahashi et.al.: Steel Research Int., 81-9(2010), 986.
4)木原ほか:第58回塑加連講論(2007), 567.
5) Cockcroft et.al: J. Inst. Metals., 96, (1968), 33.
- - 14
管端ネッキング時のローラー先端曲率半径が成形形状に
及ぼす影響
1. はじめに
管端ネッキングは,管材の端部を外側から絞ってくびれを作る回転成形法の一つ
であり,自動車用排気管の製造に用いられている 1).しかし,ネッキングの成形条
件因子は,かなり多いため,割れやしわ等の加工欠陥に対して適切な成形条件を見
出すことは難しい.著者らはこれまでにネッキング時の成形条件がしわの発生に及
ぼす影響について検討し,素材の変形機構およびしわの発生機構を明らかにしてい
る 2).また,ネッキング時のテーパー角度が大きく,縮径部長さが長い場合にテー
パーコーナー部で割れが生じることも明らかになっており,延性破壊条件式を用い
て割れの発生を評価している 3) , 4 ).
本報では,ローラー数,ピッチおよび成形リード一定の条件下で,ローラー先端
曲率半径を変化させて,成形シミュレーションを行い,ローラー先端曲率半径が成
形形状および割れの発生に及ぼす影響について検討する.
2. 計算方法
図1に管端ネッキングの模式図を示す.素材は外径120mm,長さ112mm,肉厚1.5mm
のフェライト系ステンレス鋼管(SUS409)である.この円管を外径100mm,先端曲率半
径Rのローラーで,テーパー角度 =60,縮径部の外径54mmになるように成形シ
ミュレーションを行う.このときのテーパー部のコーナー曲率半径をRcとする.ま
た,縮径部長さは35mmとしている.図1のように固定された円管の軸心周りをローラ
ーが螺旋運動をしながら軸方向に往復し,同時に半径方向に移動することで成形が
進められる.なお,図中のzが円管の軸方向,rが半径方向を示している.成形条件
は,ローラー数2,半径方向ピッチP=2.4mm,成形リードL=20mmである.これらの条
件で,ローラー先端曲率半径Rを 6~14mmまで 2mmずつ変化させてシミュレーションを
行う.
- - 15
図 1 管端ネッキングの模式図
図 2に R8mmの場合のシミュレーションモデルを示す.シミュレーションには動的
陽解法で定式化された有限要素解析ソフトRADIOSS(アルテアエンジニアリング
(株))を用いた.円管は軸方向に30層,円周方向に80層,半径方向に3層の総要素
数7200の六面体要素でモデル化した.ローラーはシェル要素でモデル化し,剛体と
して定義した.境界条件として,円管端部を固定とした.円管とローラーとの間の
摩擦係数は0.15とし,材料密度は計算効率を考慮して7.8×10-4kg/mm3と仮定した.
計算時間は3.0GHzの Core2Quadコンピュータで1条件あたり約100時間であった.
3. 成形形状及び割れの評価方法
円管の成形形状およびその精度について評価するために,縮径部の真円度および
コーナー曲率半径Rcをシミュレーション結果より求めた.また,ローラー先端曲率
半径が割れの発生に及ぼす影響を定性的に評価するために,(1)式に示すCockcroft
ら 5)の延性破壊条件式を適用し,ダメージ値を求めた.
(1) ∫=f
dCε
εσ
σ0
max
z
r
送り速度 : F 6 0 0 0 / i
公転速度 : S = 3 0 0 r p m
R
固定
R c
L
P
z = 0
θ
- - 16
ここでC はダメージ値, は相当ひずみ, f は破断時の相当ひずみである.な
お,最大主応力 m a xを (2)式に示す相当応力で除して無次元化している.ここで,
加工硬化係数C0=280MPa,加工硬化指数n =0.25である.
(2)
4. 結果および考察
縮径部の真円度 rおよびコーナー曲率半径Rcを測定した結果を図3に示す.なお,
R=8mmのみ実験結果から実測
図 2 シミュレーションモデル
値を求め,計算値と比較した.図3に示すように,実験と計算の rおよびRcの値は,
ほぼ一致している.R=6mmの場合は他の条件に比べて rが非常に大きいことがわか
る.成形後の円管の概観図においても,管端部に大きなしわが発生している.これ
は,Rが小さいことでローラーの局所的な食い込みが大きくなり,急激な曲げ戻し変
1100 +=n
C εσ MPa
ローラー
固定
円管
180°
- - 17
形が生じたためである.R=8,10,12,14mmの場合の rの値はそれぞれ,
0.97,0.91,0.92,0.53mmであり, rの値に大きな差は見られなかった.さらに,R
の増加に伴い,テーパー部のコーナー曲率半径Rcも増加している.R=8,10,12,14mm
の場合のRcの値はそれぞれ,9.43,10.85,12.72,14.44 mmであり,いずれもRcが Rよ
りわずかに大きくなった.
また,R=8mmの実験において,割れが発生することが確認されている 3)ため,割れ
についても検討を行う.
図 4,図 5に軸方向の肉厚比分布およびひずみ分布をそれぞれ示す.肉厚比は,成
形後の肉厚tと初期肉厚t0との差を求めてt0で除した値である.なお,円管のテーパ
ーコーナー部をz=0mmとしている.R=6mmは管端部にしわが発生し,最終形状まで成
形できなかったため,肉厚比およびひずみは計算していない.図4に示すように,肉
厚比はテーパー部で減少し,縮径部で増加している.また,Rが小さいほど,コーナ
ー部付近における肉厚比は小さい.一方,図5に示した軸方向ひずみは,z=0mm近傍
で最大値となるように増加し,縮径部にかけて減少している.これまでの実験 3)で
割れが発生したR=8mmの条件でテーパー部の軸方向ひずみが最も大きく,肉厚比は最
も小さくなっている.すなわち,Rを大きくすることで,テーパー部での軸方向ひず
みが小さくなり,肉厚比の減少が抑制される.
図 6にダメージ値の軸方向分布を示す.これらのダメージ値(C値)は,R=6mmを
除いたR=8~ 14mmの場合について(1)式に示したCockcroftらの延性破壊条件式によ
り算出したものである.z=0mmの位置は,図4および図5と同様にテーパーコーナー部
としている.図6に示すように,C値はテーパー部で増加し,縮径部で減少している
ことが分かる.またRが小さいほど,コーナー部付近における最大C値が大きい.
R=10mmの C値は,割れの生じるR=8mmの C値と同程度であるのに対し,R=12mmおよび
R=14mmでは,C=0.9以下まで減少している.これまでの実験からC=1.14を超えると割
れが生じることを確認しているため,これより小さいC値であるR=12mmおよびR=14mm
のローラーを用いた成形では割れが生じないと推察される.
- - 18
図 3 円管縮径部の真円度 r
図 4 軸方向の肉厚比分布
図 5 軸方向のひずみ分布 図 6 軸方向のダメージ値分布
6 8 10 12 140
2
4
6
8
10
8
10
12
14
16
ローラー先端曲率半径 R /mm
真円度
Δr
/mm
Δr 計算値 Δr 実測値 Rc 計算値 Rc 実測値
コーナー曲率半径
Rc /
mm
-60 -40 -20 0 20 40-0.6
-0.4
-0.2
0
0.2
0.4
0.6
0.8
軸方向位置 z /mm
肉厚比
(t-t 0
)/t0
R=8mm R=10mm R=12mm R=14mm
z = 0
-60 -40 -20 0 20 400.0
0.2
0.4
0.6
0.8
1.0
1.2
軸方向位置 z /mm
軸方向ひずみ
εz
R=8mm R=10mm R=12mm R=14mm
z = 0
-60 -40 -20 0 20 400
0.2
0.4
0.6
0.8
1.0
1.2
軸方向位置 z /mm
ダメージ値
C
R=8mm R=10mm R=12mm R=14mm
z = 0
- - 19
5. まとめ
(1) ローラーの先端曲率半径6mmの場合,ローラーの局所的な食い込みによる急激
な曲げ戻し変形が生じ,管端部にしわが生じる.
(2) ローラーの先端曲率半径が8mm以上の場合,縮径部の真円度はほぼ一定とな
る.
(3) ローラーの先端曲率半径が小さいほど,軸方向伸びが大きく,肉厚比は小さく
なる.割れの発生した先端曲率半径8mmの場合に最も肉厚比が小さくなる.
(4) Cockcroftの延性破壊条件式から求めたダメージ値は,テーパーコーナー部で
最大値となり,ローラー先端曲率半径が大きいほど最大値は減少する.
参考文献
1)葉山:新回転加工, (1992) , 244, 近代編集社.
2)高橋ほか:塑性と加工, 51-591(2010), 348.
3) Takahashi et.al.: Steel Research Int., 81-9(2010), 986.
4)木原ほか:第58回塑加連講論(2007), 567.
5) Cockcroft et.al: J. Inst. Metals., 96, (1968), 33.