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VOL.31 NO.11 CHEMOTHERAPY 1055 腎 不 全 時 に お け るCefpiramideの 血清中濃度および尿中排泄動態について 大川光央 ・徳永周二 ・元井 勇・庄田良中・菅田敏明 沢木 勝 ・島村正喜 ・岡所 明・平野章治 金 沢大学医学部泌尿器科学教室 (主任:久住治男教授) 厚生連高岡病院泌尿器科 福井赤十字病院泌尿器科 山之内製薬株式会社・中央研究所 (昭和58年6月24日受付) セ フェ ム系 抗 生剤cefpiramideの 腎不全時における血清中濃度,尿 中排泄および血液透析時の動 態 につ いて検 討 した。 対 象 は 健 康 成 人 ボ ラ ンテ ィア6例 お よび 種 々の 程 度 の 腎 機 能 障 害 を 有 す る31 例 の計37例 で あ った。 方 法 は,本 剤500mgを3分 間 で静 注 後,経 時 的 に 採 血,採 尿 し,濃 度 測 定 はEscherichia coli NIHJを検定菌 とす るagar well法 で行 な っ た。 腎 機 能 の 指 標 と して は,24 時間内因性 クレアチニ ンクリアラ ンス(Ccr)を用いた。薬 動 力 学 的 解 析 は,two-compartment open modelに 従 った。本 剤 投 与 後 の 血 清 中 濃 度 は,腎 機 能 障 害 者 で や や 遷 延 化 す る傾 向 が認 め られ た。 しか し,β-phaseに お け る半 減 期(t1/2β)に つ い て み る と,腎 機 能 正 常 者 のt1/2β は平 均4.06 時間 であ り,腎機 能 障 害 者 で や や 延 長 す る もの の,Ccrとt1/2β との 間 には 有 意 の 相 関 関 係 は認 め ら れ なか った。 また,t1/2β のみ な らず,血 清 中 濃 度 の推 移 のみ に依 存 す る各 種 薬 動 力学 的 パ ラ メー タ とCcrとの間 に は いず れ も有 意 な 相 関 は 認 め られ な か った 。 本 剤 の24時 間 尿 中 回 収 率 は,腎 機 能 正常例 で は21.5%で,腎機 能 の低 下 に伴 い減 少 した。 なお,血 液 透 析 に よる 本 剤 のt1/2β の短縮は 認 め られ なか った。 以 上の結 果 は,腎 が 本 剤 の 主 排 泄 経 路 で な い こ とに主 と して 由来 して い る もの と考 え られ た。 cefpiramide(CPM)は,新 し く開 発 され た 注 射 用 セ フェム系 抗 生 剤 で ,Fig.1に示 す化 学 構 造 式 を有 す る。 本剤 は,グ ラム陽 性 菌 よ びPseudomonas aerugi- nosaを含む グ ラム陰 性菌 に対 し強い抗菌力を有すると いわ れ て い る1,2)。 一方 ,本 を各種実験動物およびヒ トに投与 した際 の血 中濃 度 は持 続 性 で ,ヒ トに おけ る 血 中半 減期 は約4.5時 間 ,ま た 尿 中排 泄 率 は25%程 度と 報告 され て お り3,4),従 の多 くの同系抗生剤とは異な った 動態 を と る こ と が 考 え ら れ て い る 。 わ れ わ れ は 健 康 成人 ボ ラ ンテ ィ ア お よ び 種 々の程度の腎機能障害を有す る患者に本 剤を投与 した 際 の血 清 中濃 度 お よび尿 中排 泄 を検討するとともに ,血 液 透 析 が体 内 動 態 に及 ぼ す影 響 につ い て も検 討 した の で 報 告 す る I.対 象 お よび 方 法 1.対 象 対 象 は,健 康 成 人 ボ ラ ンテ ィア6例 お よび金 沢大 学 医 学 部 お よび そ の関 連 病 院 泌 尿 器 科 に 昭 和55年12月1 日 よ り同56年5月31日 までに入院中の腎機能障害患 者31例 の計37例 で,年 齢 は25~85歳に 分 布 し,平 均56.2歳で あ った。 対 象 の性,年 齢,身 長,体 重 お よ Fig. 1 Chemical structure of CPM

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Page 1: CHEMOTHERAPY 1055 VOL.31 NOfa.chemotherapy.or.jp/journal/jjc/31/11/31_1055.pdfVOL.31 NO.11 CHEMOTHERAPY 1055 腎不全時におけるCefpiramideの 血清中濃度および尿中排泄動態について

VOL.31 NO.11 CHEMOTHERAPY 1055

腎不全時におけ るCefpiramideの 血清中濃度お よび尿中排泄動態 について

大川光央 ・徳永周二 ・元井 勇 ・庄田良中 ・菅田敏明

沢木 勝 ・島村正喜 ・岡所 明 ・平野章治

金沢大学医学部泌尿器科学教室

(主任:久 住治男教授)

美 川 郁 夫

厚生連高岡病院泌尿器科

南 後 千 秋

福井赤十字病院泌尿器科

松 井 秀 文

山之内製薬株式会社 ・中央研究所

(昭和58年6月24日 受付)

セフェム系抗生剤cefpiramideの 腎不全時におけ る血清中濃度,尿 中排泄お よび血液透析時 の動

態について検討 した。対象は健康成人 ボラ ンテ ィア6例 お よび種 々の程度の腎機能障害を有する31

例の計37例 であ った。方法は,本 剤500mgを3分 間 で静注後,経 時的に採血,採 尿 し,濃 度測

定はEscherichia coli NIHJを 検定菌 とす るagar well法 で行 なった。腎機能の指標 としては,24

時間内因性 クレアチニ ンクリアラ ンス(Ccr)を 用いた。薬 動 力 学 的 解 析 は,two-compartment

open modelに 従 った。本剤投与後の血清中濃度は,腎 機能障害者でやや遷延化す る傾 向が認 め られ

た。 しか し,β-phaseに おける半 減期(t1/2β)に ついてみ ると,腎 機能正常者のt1/2β は平均4.06

時間であ り,腎 機能障害者でやや延長す るものの,Ccrとt1/2β との間 には有意の相関関係は認 め ら

れなかった。 また,t1/2β のみ ならず,血 清中濃度 の推移 のみ に依存す る各種薬動力学的 パ ラメータ

とCcrと の間にはいずれ も有意な相関は認め られなか った。本剤の24時 間尿中回収率は,腎 機能

正常例では21.5%で,腎 機能 の低下 に伴 い減少 した。 なお,血 液透析に よる本剤のt1/2βの短縮は

認められなか った。

以上の結果は,腎 が本剤の主排泄経路 でないこ とに主 として由来 しているもの と考え られた。

cefpiramide(CPM)は,新 し く開 発 され た 注 射 用 セ

フェム系抗 生剤 で,Fig.1に 示 す化 学 構 造 式 を有 す る。

本剤は,グ ラム陽 性 菌 お よ びPseudomonas aerugi-

nosaを 含む グ ラム陰 性菌 に対 し強 い 抗 菌 力 を 有 す る と

いわれている1,2)。一方 ,本 剤 を 各 種 実験 動 物 お よび ヒ

トに投与 した際 の血 中濃 度 は持 続 性 で,ヒ トに おけ る 血

中半減期 は約4.5時 間 ,ま た 尿 中排 泄 率 は25%程 度 と

報告 されてお り3,4),従 来 の 多 くの 同系 抗 生 剤 とは 異 な

った動態 を とるこ とが考 え られ て い る。 わ れわ れ は 健 康

成人ボ ランテ ィアお よび種 々の程 度 の 腎機 能 障 害 を有 す

る患者に本 剤を投与 した 際 の血 清 中濃 度 お よび尿 中排 泄

を検討すると ともに,血 液 透 析 が体 内 動 態 に及 ぼ す影 響

についても検 討 した の で報 告 す る。

I.対 象および 方法

1.対 象

対象は,健 康成人 ボラ ンテ ィア6例 お よび金 沢大学医

学部 お よびその関連病院泌尿器科に昭和55年12月1

日より同56年5月31日 までに入院中の腎機能障害患

者31例 の計37例 で,年 齢は25~85歳 に分布 し,平

均56.2歳 であ った。対象 の性,年 齢,身 長,体 重 およ

Fig. 1 Chemical structure of CPM

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1056 CHEMOTHERAPY NOV. 1983

Table 1 Specification of subjects with normaland impaired renal function

Table 1 Continued

Table 1 Continued

* Healthy volunteers

** Hemodialysis patients

び 腎 機 能 を一 括 してTable1に 示 した。なお,血 液生化

学 所 見 よ り肝 障害 が 疑 わ れ た 例 につ いて はICGを 施行

し,ICGが10%以 上 を示 す 肝 機 能 障害 例 は対象から除

外 した。 腎 機 能 の 指 標 と して は,24時 間 内因性 クレア

チ ニ ン ク リア ラ ンス(以 下,Ccr)を 用 い,対 象の37例

を 腎 機 能 障害 程 度 に よ り以下 の5groupに 分 けた。すな

わ ち,group I (6例):Ccr≧90ml/min,group II(7

例):90>Ccr≧60ml/min,group III (8例):60>Ccr

≧30ml/min,groupIV (5例):30>Ccr≧10ml/min,

group V(11例):Ccr<10ml/min。groupVの11例 中

10例 は血 液 透 析 施 行 中 の患 者 であ った。

2.投 与 量 お よび投 与 方 法

CPM 500mgを 生 理 食 塩 液20mlに 溶解 し,翼 状針

(21G)を 用 い て 正 確 に3分 間 で 静 注 した。

3。 採 血 お よび 採 尿 方 法

静 注 開 始,5分,15分,30分,1時 間,2時 間,4

時 間,8時 間,12時 間,24時 間 後 に末梢 静脈血を,同

じ く0~2,2~4,4~6,6~8,8~12,12~24時 間の尿

検 体 を 採 取 した。な お,groupII-Vの 各1例 は正確な採

尿 が で き なか っ た ため 尿 中 排 泄 の 集計 か ら除外 した。

次 に,CPMの 血 清 中 濃 度 が,血 液 透析 に より受ける

影 響 を 検 討 す る 目的 で,非 透 析 時 に血 清 中濃度が測定さ

れ た4例(subject No.30,31,33,35)に つ いて,cross-

over法 に て透 析 施 行 時 の 血 清 中濃 度 を 測定 し比較検討

した 。 方 法 は,透 析 開 始 約30分 ~1時 間後 の血流量が

安 定 した 時 に,CPM500mgを 非透 析 時 と同様の方法で

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1057

Table 2 Dialysis condit ions in pharmacokinetic studies of CPM on

hemodialysis

*(): Single pass or recirculation .

投与 し,静 注開始,5分,15分,30分,1時 間,2時

間,5時 間後 の血 清中 濃 度 を測 定 した 。 各 症 例 に 用 い た

透析方法をTable 2に 示 した 。

なお,血 液 は血 清を 分離 し,尿 検 体 と と もに 測 定 時 ま

で凍結下(-20℃)に 保 存 した。

4.濃 度測 定

CPMの 血清 中お よび尿 中 濃 度 の 測 定 は,Escherichia

coli NIHJを 検 定菌 と し,感 受 性 デ ィス ク用 培 地(栄

研)を 用い たagar well法 で行 な った 。標 準 希 釈 液 の 調

整には,血 清 中濃 度は ヒ ト血 清,尿 中 濃 度 は1/15M燐

酸緩衝液(pH7.0)を 用 い た。

5.薬 動力学 的解 析

CPM静 注後 の 血 清 中 濃 度 の 薬 動 力 学 的 解 析 は,非

線形最小自乗法 プ ロ グラ ム(nonlinear regression pro-

gram,NONLIN)5)を 用 い,two-compartment open

modelに 従 った。 ま た,使 用 した 式 は,著 者 ら の腎 不

全時におけるcefotetan(YM 09330)の 血 清 中 濃 度 お よ

び尿中排泄 動態に 関す る研 究6)に 用 い た もの と 同 じで あ

ある。

II.成 績

1.腎 機能 と血清 中 濃度

Fig.2 Mean serum concentrations of CPM after asingle 500-mg i. v. injection

血 清 中濃 度 の各groupご との 推 移 を 平均 値 で示 す と

Fig.2の とお りに な る。投 与5分 後 の血 清 中濃 度 は,各

group間 で 大 きな 差 は み られ な か っ たが,そ れ 以降 で は

group II~Vの 腎 機 能 障 害 を 有 す る 各 群 の 血 清 中 濃 度

は,group Iの そ れ よ り高 値 を示 し,時 間 の経 過 とと も

に遷 延 化 す る傾 向が 認 め られ た 。 しか し,こ の遷 延 化傾

向はCcrと は 必 ず しも平 行 せ ず,例 えぼ12時 間 後 の 血

清 中 濃 度 はgroup IVが30.5±11.9μg/ml(mean±

S.D.,以 下 同 じ)と 最 も高 く,次 いでgroup IIの27.6±

19.6μg/ml,group Vの18.5±13.5μg/ml,group III

の13.6±6.7μg/ml,group Iの10.6±6.3μg/mlの 順

で あ った 。

2.腎 機 能 と尿 中排 泄

尿 中 排 泄 の 各groupご との推 移 を 累 積 尿 中 回収 率 の

平 均 値 で 示 す とFig.3の とお りに な る。group I,す な

Fig. 3 Urinary excretion of CPM after a single 500-mg i. v. injection

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1058 CHEMOTHERAPY NOV. 1983

Table 3 Urinary concentrations of CPM after a single 500mg i.v. injection (mean•}S.D.)

* Subject No .10 in group 2, No.21 in group 3, No.26 in group 4 and No.34 in group 5

were remove d because of incomplete collection of urine.

Table 4 Pharmacokinetic parameters of CPM after a single 500-mg i.v. injection to subjects withnormal and impaired renal function

わ ち腎機能正常者の24時 間累積尿 中回収率は投与量の

21.5±6.8%で,そ の約半量 は投与2時 間後 までに排泄

された。尿中回収率は,腎 機能 の低下 に伴 い減少 し,24

時間累積尿中回収率は,group II~Vで それぞれ17.1

±13.0,12.8±7.1,11.1±18.9,0.50±0.40%で あっ

た。

尿中濃 度は,尿 量に よる影響を 受 けるが,各group

ごとの各採尿時間におけ る尿中濃度をTable 3に ま と

めて示 した。

3.薬 動力学的 パラメータ

CPM静 注後の薬動力学 的パ ラメータをTable 4に 示

した。

1)腎 機能 と血清中濃度半減期

group I~Vの β-phaseに おける血 清中濃 度半減期

(t1/2β)は,そ れ ぞれ4.06±1.52,6.22±2.87,4.44±

1.08,7.52±2.39,5.18±2.11時 間 で,腎 機能障害患者

で延 長 す る傾 向 が み られ た。 しか し,Ccrとt1/2β との

関 係 を図 示 す る とFig.4の とお りで あ り,両 者間には

有 意 の相 関 関 係 は認 め られ なか った 。

2)腎 機 能 と消 失 速 度定 数

Ccrと β-phaseに お け る消 失 速 度 定数(β),お よび

消 失 速 度 定 数(kel)と の 関 係 を 図示 す る とFig.5お よ

び6の とお りで あ り,い ず れ も両 者 間 に有意 の相関関係

は認 め られ な か った 。

3)腎 機 能 と腎 ク リア ラ ンス

Ccrと 腎 ク リア ラ ンス との関 係 をFig.7に 図示した。

両 者 間 に は,

腎 ク リア ラ ンス=4.40+1.67・Ccr

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VOL.31 NO.11 CHEMOTHERAPY

1059

Fig. 4 Correlation between Ccr and serum half-

life (ƒÀ) of CPM (n=37)

Fig.5 Correlation between Ccr and the rate con-

stant ƒÀ of CPM (n=37)

Fig.6 Correlation between Ccr and elimination

rate constant of CPM (n=37)

Fig. 7 Correlation between Ccr and renal clearanceof CPM (n=33)

Fig. 8 Serum concentrations of CPM after a single500-mg i. v. injection in 4 hemodialysis pa-tients (cross-over method)

とい う,有 意 の 直 線 関 係 が 認 め られ た(r=0.867,P<

0.0001)。

4)そ の 他 の パ ラ メ ー タ

腎 機 能 正 常 者 の 血 清 中 濃 度 曲 線 下 面 積(AUC)は

452.9±149.9hr・ μg/mlで,ま たCcrとAUCと の間 に

は 有 意 の 相 関 関 係 は 認 め られ な か った。 そ の 他,投 与 直

後 に お け る理 論 的 血 清 中 濃 度(C0),α-phaseに お け る

消 失 速 度 定 数(α),体 ク リア ラ ンス,central compart-

mentに お け る分 布 容 積(V1),steady stateに お け る分

布 容 積(Vd)な どに つ い て も検 討 した が,血 清 中濃 度 推

移 の み に 基 づ くパ ラ メ ー タ とCcrと の 間 に は いず れ も

有 意 の 相 関 関 係 は 認 め られ な か った。

4.血 液 透 析 時 の血 清 中濃 度

血 液透 析患 者4例 に お い て測 定 され た非 透 析 時 お よび

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1060 CHEMOTHERAPY NOV. 1983

透 析 時 の血 清 中 濃 度 の推 移 をFig.8に 示 した。 血 清 中

濃 度 は,投 与 直 後 で非 透 析 時 の 方 が 高 値 を 示 した が,30

分 以 降 で は 両 者 間 に ほ とん ど 差 は 認 め られ な か った 。

また,t1/2β は,非 透 析 時 お よび 透 析 時 で そ れ ぞ れ4.25

±1.28お よび5.48±2.24時 間 で あ った 。

III.考 按

新 しい セ フ ェ ム系 抗 生剤CPMの 腎 機 能 障 害 時 に お け

る血 清 中濃 度,尿 中排 泄 につ い て検 討 す る と と もに,血

清 中濃 度 が 血 液 透 析 に よ り受 け る影 響 につ い て も検 討 し

た 。

CPM 500mgを,健 康 成 人6例 を 含 む37例 の 被 検 者

に静 注 した際 の血 清 中 濃 度 は,投 与30分 以 降 で 腎 機 能

障 害 者 が や や 高値 を 示 し,t1/2β も若 干 延 長 す る傾 向 が

認 め られ た。 しか し,血 清 中濃 度 の推 移 が 腎 機 能 障 害 に

よ り受 け る影 響 は小 さ く,そ の 度合 と腎 機 能 障 害 程 度 と

の間 には 相 関 は認 め られ な か った。 例 え ば,投 与12時

間後 の 血 清 中濃 度 が 最 高 値 を 示 し た の は,Ccrが10

ml/min.未 満 のgroup Vで は な く,10~30ml/min.の

group IVで あ り,そ の 濃 度 も腎機 能 正 常 者 の2.9倍 に

す ぎな か っ た。t1/2β が 最長 だ った の もgroup IVで,

平 均7.52時 間 で あ ったが,group Iの1.9倍 にす ぎな

か った。 ま た,Ccrと βあ るい はkelと の 間 に は,腎 外

性 消 失速 度 定 数 をknrと して,DETTLIら7)が 解 析 して い

る β=knr+a・Ccrあ る いはkel=knr+a・Ccrと い う有

意 の 直線 関係 は 得 られ な か った。 これ らの 結 果 は,腎 を

主 排 泄経 路 とす るcephalothin8),ceftezole9),cefmeta-

zole10),cefotiam11),cefazolin12,13),cefamandole14),

cefoxitin15),cefotaxime16) ,ceftizoxime17),latamoxef18),

cefotetan19)な どの腎 機 能 障 害 時 に お け る体 内 動 態 とは

異 な る もの で あ っ た。 これ は,本 剤 の主 排 泄 経 路 が 腎 以

外 であ る こ とに 由来 す る もの と考 え られ た。 す なわ ち,

本 剤 の 腎 機 能正 常 者 にお け る24時 間 尿 中 回 収 率 は投 与

量 の約20%で あ り,腎 機 能 が 正 常 時 の1/2に 低 下 して

も体 外 排 泄 が受 け る影 響 は10%程 度 で あ り,し たが っ

て血 清 中 濃度 の推 移 に 大 きな 変 化 は認 め られ な か った も

の と考 え られ た。 類 似 の 成 績 は,尿 中 回 収 率 が20~30

%程 度 とい わ れ て い るcefoperazone20)で も得 られ て い

る。 そ の た め,CPMの 血 清 中濃 度 の推 移 のみ に基 づ く

薬 動 力学 的 パ ラ メ ー タのCO,α,β,tl/2β,kel,AUC,体

ク リア ラ ンス,V1,Vdな ど と腎 機 能 の指 標 と して用 い

たCcrと の間 には,い ず れ も有 意 の 相 関 は 認 め られ な

か った。 なお,腎 機 能 正 常例 に お け るt1/2β は 平 均4.06

時間 と計 算 され,こ の値 は 従 来 の セ フ ェム系 抗 生 剤 の 中

で は 最 も長 く,cefotetanの3.0時 間19)を も凌 駕 す る も

の で あ った。

本 剤 の尿 中 へ の排 泄 は,前 述 した ご と く,従 来 の セ フ

ェム系抗生剤に比べ低率であ る。一方,各 種実験動物に

本剤を投与 した際の24時 間尿中回収率は,マ ウスおよ

び ラ ッ トで30~35%,ウ サギおよびイ ヌで70~75% ,

サルで45%で あ り,胆 汁中を合わせた回収率は,ラッ

トお よび ウサ ギで約95%,イ ヌで約90%と 報告されて

い る3)。これに糞便中への排泄を加える と,ラ ットでは

投与後48時 間 までに投与量のほぼ100%が 体外へ排泄

され るといわれ てお り,ま た 各種動物の 尿および胆汁

中,健 常人に おけ る尿中 に 本剤の 代謝物は認められな

い1)ことか ら,ヒ トにおけ る 主排泄経路は肝 と考えられ

てい る。 ところで,今 回 の検討 ではCPMの 尿中排泄率

は腎機能の低下 に伴 い減少 し,本 剤の腎 クリアランスと

Ccrと の間には有意の相関関係が認められた。この結果

は,腎 排泄が関与 した薬動力学的パ ラメータと腎機能と

は相関す るこ とを意味 し,本 剤の尿中排泄は腎機能の低

下 に伴 って確実 に減少す る ことを示 している。このよう

に,尿 中排泄率 は低 く,か つ腎機能の低下 とともにさら

に減 少す る ものの,group I-IVの 投与12時 間後までの

本剤 の尿中濃 度は,そ のMIC1)を 考慮すると,充分に強

い抗菌 力を有 している もの と考 え られた。

血液透 析時のCPMの 血 清中濃度お よびt1/2βは,非

透析 時 と差は認め られなか った。著者 らは,同 様の検討

をcefotetan19)に ついて も行な っ て い る が,cefotetan

のt1/2β は血液透析 によ り9.4時 間か ら5.7時 間への

短縮が認め られた。文献的にみ ると,滝 井 ら21)はcefti-

zoxime,HESSら22)はceforanideに ついて,t1/2βは血

液透析に よ り前老で29.0時 間か ら4.9時 間に,後者で

19.1時 間か ら5.0時 間に,ま たGAMBERTOGLIOら28)は

cefamandoleに ついて13.9時 間 から4.0時 間にそれ

ぞれ短縮 した と報告 している。今回の検討で,血 液透析

に よるCPMのt1/2β の短縮が認め られなかった理由と

して,非 透 析時のt1/2β が平均4.25時 間と正常者の値

とほぼ等 しか った こと,本 剤 の血清蛋白結合 率が96.3

%1)と 高い こと,分 子 量が634.6と 比較的大きいこと

な どが考 え られ るが,そ の詳細 は不 明 で あ る。もちろ

ん,透 析条件 もある程 度関与 していることも否定できな

いが,今 回の成績 か らみる と血液透析はCPMの 動態に

大 きな影響 は及 ぼさない もの と考 えられた。

以上,腎 機 能障害時におけ るCPMの 動態を正常時の

それ と比較 しなが ら述べて きたが,本 剤の特徴の一つは

その長 い血 中半減期にあろ う。本邦 では,セ フェム系抗

生剤はその血中半減期の長短 と関係な く1日2回 投与法

が繁用 され る 傾 向にあるが,最 近開発中のceftriaxone

のt1/2β は8.8時 間24)といわれてお り,こ れら長い血

中半減期を有す る抗生剤 につ いては投与回数も問題とな

ろ う。一方,腎 不全時 のCPMの 体 内動態には,正常時

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VOL.31 NO.11 CHEMOTHERAPY 1061

のそれに比 し有意の変化は認め られなか った。 これは,

本剤の主排泄経路が腎ではな く,肝 である ことに由来 し

ているものと考えられ,そ のため腎機能障害者において

も投与量の調節な しに 用 い得 るもの と 考え られた。 な

お,今 回は明らかな肝機能障害を有す る例は対象か ら除

外したが,本 剤の排泄動態か ら考 え,肝 機能 の面か らの

検討も必要であろ う。

文 献

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PHARMACOKINETICS OF CEFPIRAMIDE IN NORMAL SUBJECTS

AND PATIENTS WITH IMPAIRED RENAL FUNCTION

MITSUO OHKAWA, SHUJI TOKUNAGA, ISAMU MOTOI, RYOCHU SHODA,

TOSHIAKI SUGATA, MASARU SAWAKI, MASAYOSHI SHIMAMURA,AKIRA OKASHO and SHOJI HIRANO

Department of Urology, School of Medicine, Kanasawa University

(Director• Prof. H. HISAZUMI)

IKUO MIKAWA

Department of Urology, Koseiren Takaoka General Hospital

CHIAKI NANGO

Department of Urology, Fukui Red Cross Hospital

HIDEFUMI MATSUICentral Research Laboratories, Yamanouchi Pharmaceutical Co., Ltd.

The pharmacokinetics of cefpiramide (CPM), a new parenteral semisynthetic cephalosporin deriva-

tive, were studied in 6 healthy adult volunteers and 31 patients with impaired renal function after

the administration of a single 500-mg dose intravenously. CPM concentrations in serum and urine

were determined by the agar well method with Escherichia coli NIHJ as a test organism and sensitive

test agar as a test medium. Endogenous creatinine clearance was used as an indicator of renal

function. Pharmacokinetic parameters were estimated from a two-compartment open model, using a

NONLIN nonlinear regression program. The serum levels in patients with renal impairment were

slightly higher than those in healthy volunteers for varying periods from 30min. to 24hr. postdrug.

The mean serum half-life during ƒÀ-phase, 4.06hr. in normal subjects, were slightly prolonged in

patients with impaired renal function; the prolongation, however, was not remarkable. The mean

24-hr. urinary recovery rate of CPM was 21.5% in normal subjects and decreased with decreasing

renal function to 0.6% in 10 hemodialysis patients. There was no significant relationship between the

creatinine clearance and pharmacokinetic parameters obtained from the serum concentration-time

curve; serum half-life during ƒÀ-phase, elimination rate constant, distribution volume or area under

the serum concentration curve. On the contrary, the urinary recovery rate and renal clearance of the

drug were decreased with a corresponding diminution of renal function. The mean serum half-life

during ƒÀ-phase was not shortened by hemodialysis. These results suggest that injected CPM is

mainly excreted by other organs than the kidney, probably the liver.