clustering phenomena in complex networks...
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社団法人 電子情報通信学会THE INSTITUTE OF ELECTRONICS,INFORMATION AND COMMUNICATION ENGINEERS
信学技報TECHNICAL REPORT OF IEICE.
抵抗で結合されたカオス回路ネットワークにみられるクラスタリング現象について
高丸 裕司† 上手 洋子† トーマスオット†† 西尾 芳文†
† 徳島大学工学部 770–8506 徳島県徳島市南常三島 2–1
†† チューリッヒ応用科学大学E-mail: †takamaru,uwate,[email protected], ††[email protected]
あらまし 本研究では,結合カオス回路ネットワークで観測されるクラスタリング現象について調査を行う.まず,
カオス回路を 2次元平面上に配置し,結合強度をカオス回路間の距離に応じて設定したときの同期現象について着目
する.コンピュータシミュレーションおよび回路実験の結果,カオス回路の距離が近い場合は,同相同期になり,遠
い場合は非同期になることを確認する.そして,結合カオス回路ネットワーク全体を,同期現象によって任意のクラ
スタに分割できることを示す.さらに,結合強度とクラスタの関係についての考察を行う.
キーワード クラスタリング, 同期現象, カオス回路, 複雑系ネットワーク
Clustering Phenomena in Complex Networks
Coupled with a Resistors
Yuji TAKAMARU†, Yoko UWATE†, Thomas OTT††, and Yoshifumi NISHIO†
† Electrical and Electronic Engineering, Tokushima Univesity
2–1, Minami Josanjima, Tokushima, 770–8506 Japan
†† Einsiedlerstrasse 31a, 8820 Waedenswil, Switzerland
E-mail: †takamaru,uwate,[email protected], ††[email protected]
Abstract In this study, we investigate clustering phenomena in coupled chaotic circuits networks. A coupling
strength between the circuits is set to depend on the distance. We search that the coupled chaotic circuits network
are formed cluster for synchronization when a chaotic circuits placed near distance. We investigate the synchroniza-
tion phenomena caused by coupled chaotic circuits networks.
Key words Clustering, Synchronization, Chaotic Circuit, Complex Networks
1. ま え が き
同期現象は,自然界において観測される典型的な現象の一つ
である.近年,同期現象に関する多くの研究が,結合カオス回
路により研究されてきた.結合カオス回路を用いたシステムは,
カオス同期現象をはじめ多くの興味深い現象を得ることができ
る.さらに,同期現象は,工学のみならず物理学,生物学にも
応用され研究されている.また,生物学において,脳の動作の
特徴の一つにニューロン活動の同期現象がある.このニューロ
ン活動の同期現象を解析することは,脳の情報処理において重
要な役割を担っていると考えられている.そのため,結合カオ
ス回路にみられる同期現象を解析することは,将来的に,脳活
動の解析や,脳型コンピュータの実現といった工学分野への応
用にとても重要だと考えられる.
また近年,私たちは実社会において,膨大な量のデータを扱
うことが多くなってきた.これにより,膨大なデータを小さな
グループごとに分割することで,高速な情報処理が期待される.
そのため,大きなデータの集合を,同じようなデータごとに小
さなグループに分割するための手法として,クラスタリング手
法がよく用いられている.クラスタリングにより,膨大なデー
タは容易に分割することができる.クラスタリングは,データ
マイニングや画像処理といった多くのアプリケーションにも適
用することができ,結合写像格子を用いた多くのモデルがクラ
スタリング法として提案されている [1]- [3].しかし,結合カオ
ス回路を用いたクラスタリングについては,多くの議論がなさ
れていない.
本研究では,結合間の距離に応じて変化させた抵抗で,カオ
ス回路を結合したネットワークにで観測される同期現象につい
— 1 —
ての調査を行う [4].実際の物理システムにおいて,距離の値に
よって変化する要素は数多く存在する.よって,距離に応じて
抵抗値が異なるシステムにみられる同期現象の調査は,実際の
物理システムに近い状態であるといえる.得られた結果より,
近い距離に配置されたカオス回路どうしが同期していることを
観測し,遠くに配置したカオス回路どうしは,非同期であるこ
とを確認する.さらに,結合カオス回路ネットワークにみられ
る同期現象とクラスタリングとの関係を調査する.
2. 回路モデル
図 1に,本研究で使用する回路モデルを示す [5]- [7].この回
路は西尾-稲葉回路と呼ばれている回路モデルである.
図 1 回路モデル.
この回路は,キャパシタ,インダクタ,負性抵抗,二つのダイ
オードで構成された非線形抵抗により構成されている.この非
線形抵抗の I − V 特性は,次に示す式 (1)で示され,パラメー
タ rd は非線形抵抗の傾きである.
vd(i2) =rd2
(∣∣∣∣i2 + V
rd
∣∣∣∣− ∣∣∣∣i2 − V
rd
∣∣∣∣) . (1)
また,回路のダイナミックは次のような区分線形三次の常微
分方程式により,表すことができる.
L1di1dt
= v + ri1
L2di2dt
= v − vd(i2) (2)
Cdv
dt= −i1 − i2.
式 (2)中の各変数を,以下のように置き換えることによって,
i1 =
√C
L1V x; i2 =
√L1C
L2V y; v = V z;
r
√C
L1= α;
L1
L2= β; rd
√L1C
L2= δ;
t =√L1Cτ ; ” · ” =
d
dτ
式 (2)は正規化され,以下のような式 (3)が得られる.
x = αx+ z
y = z − f(y) (3)
z = −x− βy
また,式中の f(y)は次のように記述できる.
f(y) =δ
2
(∣∣∣∣y +1
δ
∣∣∣∣− ∣∣∣∣y − 1
δ
∣∣∣∣) . (4)
図 2に,この回路で観測されたカオスアトラクタを示す.図
2(a)がコンピュータシミュレーションによる結果で,図 2(b)が
回路実験による結果である.コンピュータシミュレーションで
は,各パラメータを α = 0.460, β = 3.0,δ = 470のように設定
する. 回路実験による結果では,各素子の値を L1 = 500[mH],
L2 = 200[mH],C = 0.0153[µF ],rd = 1.46[MΩ]としている.
(a) シミュレーション. (b) 回路実験.
図 2 カオスアトラクタ.
3. 同 期 現 象
3. 1 7個のカオス回路ネットワーク
初めに,カオス回路を 7個を 2次元平面上に配置し,完全結
合させたときにみられる同期現象について調査を行う.図 3に,
7個のカオス回路の配置図を示す.
図 3 7 個の回路の配置図.
配置したすべてのカオス回路は,他のカオス回路と抵抗で結
合されている.結合方法は,カオス回路どうしを自己以外の回
路とすべて抵抗で結合された完全結合の場合を考える.
dxi
dτ= αxi + zi
dyidτ
= zi + f(y) (5)
dzidτ
= −xi − βyi −N∑
i,j=1
γij(zi − zj)
(i, j = 1, 2, · · ·, N)
式 (5)中の iは,自己の回路を表し,j は他の回路との結合
を表す.パラメータ γ は,回路どうしを結合する結合強度の値
— 2 —
を示している.今回のシミュレーションでは,結合強度の値を
距離に応じて変化するように設定し,γ を求める式は次に示す.
γi,j =g
(lengthi,j)2. (6)
式 (6)中の g は,結合強度を決めるための結合変数パラメー
タである.今回のシミュレーションの場合,g = 0.00327と設
定している.また,lengthi,j は,i番目と j 番目の間のユーク
リッド距離を表している.
図 4 に,コンピュータシミュレーションによる結果を示す.
また,図 5は回路実験による結果であり,シミュレーションの
場合と比較し同期現象の調査を行う.これらの結果より,1番
目と 2番目,3番目のカオス回路のグループが同相同期であり,
また 4番目と 5番目,6番目,7番目のカオス回路グループも
同相同期であるといった結果が得られた.しかし,1番目と 4
番目のカオス回路の関係は,非同期という結果であった.この
結果より,カオス回路ネットワークは,カオス同期の判別によ
り 2つのクラスタに分かれるといった結果が得られた.図 6は,
カオス回路ネットワークのクラスタリングの結果を示している.
(a) 1-2 (b) 1-3 (c) 1-4
(d) 4-5 (e) 4-6 (f) 4-7
図 4 回路間の位相差 (コンピュータシミュレーション).
(a) 1-2 (b) 1-3 (c) 1-4
(d) 4-5 (e) 4-6 (f) 4-7
図 5 回路間の位相差 (回路実験).
図 6 7 個のカオス回路ネットワークのクラスタリング結果.
3. 2 20個のカオス回路ネットワーク
次に,カオス回路を増やしたネットワークの場合を考える.
20個のカオス回路を用いて,2次元平面上に配置し距離に応じ
て変化させた抵抗で各カオス回路間を結合する.図 7に,20個
のカオス回路の配置図を示す.すべてのカオス回路間は抵抗で
結合され,各回路間の結合強度は,式 (6)から求める.今回の
場合,g = 0.25× 10−4 と設定している.
図 7 20 個のカオス回路の配置図.
図 8にシミュレーションによって得られた,位相差の結果を
示す.結果より,1番目と 2番目の回路は同期している,しか
し,1番目と 7番目の回路のグループとは非同期であり,同様
に 13 番目の回路のグループとも非同期である.また,7 番目
と 8番目の回路は同期しているが,7番目と 13番目の回路の
グループとは同期していない.すなわち,このカオス回路ネッ
トワークは,カオス同期の判別により,3つのクラスタに分か
れている.さらに,18番目と 19番目,20番目は独立して発振
しており,他のどの回路とも同期していない.図 9はカオス回
路ネットワークのクラスタリング結果を示している.
次に,結合強度とクラスタ数の関係について考察する.図 10
は,結合強度を決定するパラメータ g を変化させたときの,カ
オス回路ネットワーク中のクラスタ数の変化を表したもので
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(a) 1-2 (b) 1-3 (c) 1-7
(d) 1-13 (e) 7-8 (f) 7-11
(g) 7-13 (h) 7-19 (i) 13-14
(j) 13-16 (k) 16-18 (l) 19-20
図 8 回路間の位相差 (コンピュータシミュレーション).
図 9 20 個のカオス回路ネットワークのクラスタリング結果.
ある.g = 0.05 × 10−4 までは,すべてのグループは同期して
いない.0.06 × 10−4 ∼ 0.32 × 10−4 の領域では,図 8,図 9
で得られたクラスタリングの結果が得られた.0.33 × 10−4 ∼0.62 × 10−4 の領域では,1番目の回路のグループと 7番目の
回路のグループが同期し始め,ネットワーク中のクラスタは 3
つである.0.63 × 10−4 ∼ 1.10 × 10−4 の領域では,1 番目の
回路のグループと 7番目の回路のグループ,13番目の回路のグ
ループが同期する.g の値が 1.20× 10−4 を超えるとすべての
カオス回路は同期するといった結果が得られた.
図 10 結合強度の変化によるクラスタ数の変化.
4. ま と め
本研究では,結合間の距離に応じて変化させた抵抗で,カオ
ス回路どうしを結合したネットワークで観測される同期現象に
ついての調査を行った.また,同期現象から生じるクラスタリ
ング現象の調査も行った.コンピュータシミュレーションおよ
び回路実験により調査をした結果,近い距離に配置したカオス
回路どうし同相同期が観測され,遠くの距離の回路とは非同期
という結果であった.さらに,結合カオス回路のネットワーク
中にカオス回路の距離に応じて,いくつかのグループを形成し
ているといった非常に興味深い結果を得ることができた.
今後の目標として,クラスタを判別する効率の良いプログラ
ムの提案と,実データへ本研究で提案されたシステムを応用し
ていくことが必要であると考える.
文 献[1] K. Kaneko, “Clustering, Coding, Switching, Hierarchical
Ordering, and Control in a Network of Chaotic Elements,”
Physical D, vol. 41, pp. 137-172, 1990.
[2] T. Ott, M. Christen and R. Stoop, “An Unbiased Clustering
Algorithm Based on Self-organization Processes in Spiking
Neural Networks”, Proc. of NDES’06, pp. 143-146, 2006.
[3] L. Angelini, F. D. Carlo, C. Marangi, M. Pellicoro and S.
Stramaglia, “Clustering Data by Inhomogeneous Chaotic
Map Lattice”, Phys. Rev. Lett., 85, pp. 554-557, 2000.
[4] Y. Takamaru, H. Kataoka, Y. Uwate and Y. Nishio, “Clus-
tering Phenomena in Complex Networks of Chaotic Cir-
cuits”, Proc. ISCAS’12 Mar. 2012.
[5] Y. Nishio, N. Inaba, S. Mori and T. Saito, “Rigorous Analy-
ses of Windows in a Symmetric Circuit,” IEEE Transactions
on Circuits and Systems, vol. 37, no. 4, pp. 473-487, Apr.
1990.
[6] C. Bonatto and J. A. C. Gallas, “Periodicity Hub and
Nested Spirals in the Phase Diagram of a Simple Resistive
Circuit,” Phys. Rev. Lett., 101, 054101, Aug. 2008.
[7] R. Stoop, P. Benner and Y Uwate, “Real-World Existence
and Origins of the Spiral Organization of Shrimp-Shaped
Domains,” Phys. Rev. Lett., 105, 074102, Aug. 2010.
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