construction of a sensor network to forecast landslide...
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社団法人 電子情報通信学会 信学技報 THE INSTITUTE OF ELECTRONICS, IEICE Technical Report INFORMATION AND COMMUNICATION ENGINEERS
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Ad-HocネットワークとECセンサーを用いた土砂災害予測センサーネットワークの構築について
鈴木 彦文 1) 黒柳 大治 2) D.K. Asano3) 小松 満 4) 竹下 祐二 4) 澤田 和明 5) 二川 雅登 6) 不破 泰 1)
1) 信州大学総合情報センター 〒390-8621松本市旭 3-1-1 2) 信州大学大学院工学系研究科 〒380-8553 長野市若里 4-17-1
3) 信州大学工学部情報工学科 〒380-8553 長野市若里 4-17-1 4) 岡山大学大学院環境生命科学研究 〒700-8530 岡山市北区津島中 3-1-1
5) 豊橋技術科学大学電気・電子情報工学系 〒441-8580豊橋市天伯町雲雀ヶ丘 1-1 6) 豊橋技術科学大学テーラーメイド・バトンゾーン教育推進本部 〒441-8580 豊橋市天伯町雲雀ヶ丘 1-1
E-mail: 1) {h-suzuki, fuwa}@shinshu-u.ac.jp, 2) [email protected], 3) [email protected], 4) [email protected], [email protected], 5) [email protected], 6) [email protected]
あらまし 大規模地震等の災害が発生した時に,被災状況や安否確認等の情報を素早く伝達することは非常に重要である.しかしながら,既存の情報ネットワークでは,電力が喪失した場合に通信が不可能となる.このような
ことから,大規模な災害が発生し電力が喪失した場合でも通信が可能な Ad-Hoc ネットワークを塩尻市に構築してきた.そして,この Ad-Hoc ネットワークを用いて,土砂災害を予想する為のセンサーネットワークを構築している.本稿では,Ad-Hoc ネットワークを統括し,そして,センサー端末に取り付けた各種センサーの中で特に ECセンサーの観測結果を報告する. キーワード Ad-Hoc ネットワーク,センサーネットワーク,ECセンサー, 土砂災害予測
Construction of a Sensor Network to Forecast Landslide Disasters using an Ad-Hoc Network and EC Sensors
Hikofumi SUZUKI 1) Daichi KUROYANAGI2) David K. ASANO3) Komatsu MITSURUM4) Yuji TAKESHITA4) Kazuaki SAWADA5) Masato FUTAGAWA6) Yasushi FUWA1)
1) Integrated Intelligence Center, Shinshu University, 3-1-1, Asahi, Matsumoto, 390-8621 Japan 2) Graduate School of Science and Technology, Shinshu University, 4-17-1, Wakasato, Nagano, 380-8553 Japan
3) Department of Information Engineering, Shinshu University, 4-17-1, Wakasato, Nagano, 380-8553 Japan 4) Graduate School of Environmental Science, Okayama University, 3-1-1, Tsushima-Naka, Kita-ku,Okayama,
700-8530 Japan 5) Department of Electrical and Electronic Information Engineering, Toyohashi University of Technology, 1-1 Hibarigaoka,
Tempaku, Toyohashi, Aichi, 441-8580 Japan 6) Head Office For "Tailor-Made And Baton-Zone" Graduate Course, Toyohashi University of Technology, 1-1
Hibarigaoka, Tempaku, Toyohashi, Aichi, 441-8580 Japan E-mail: 1) {h-suzuki, fuwa}@shinshu-u.ac.jp, 2) [email protected], 3) [email protected],
4) [email protected], [email protected], 5) [email protected], 6) [email protected]
Abstract We believe it is extremely important to quickly communicate information — on matters such as the damage situation and safety of affected persons — when a large-scale earthquake or other disaster occurs. However, if electric power is lost, communication will be impossible with existing information networks. For this reason, we have built an Ad-Hoc network in Shiojiri City enabling communication even if electric power is lost due to a large-scale disaster. Using this Ad-Hoc network, we are building a sensor network to forecast landslide disasters. Among the various sensors installed to the sensor terminals, this paper reports in particular on observation results with EC sensors.
Keyword Ad-hoc Network, Sensor Network, EC Sensor, Landslide Hazard Prediction
1. はじめに 地震等の災害発生時においては,被災状況の正確な把握,被災者への情報伝達,住民の安否状況の確認など,様々な情報をリアル
タイムに伝達させ災害対応にあたる必要があり,そのようなことが
可能な情報ネットワークが求められている.しかしながら,2004年における新潟県中越地震や 2011 年における東日本大震災において見られたように,被災状況によってはネットワークにとっての基
盤となる電力が喪失しネットワークが不通となる.この情報ネット
ワークの不通により,必要な情報が必要な場所に伝達されない状況
が多々発生することとなった.更に,東日本大震災においては,津
波により,ネットワークインフラそのものが瓦解するという状況が
発生した.このような経緯から我々は高耐障害性のAd-Hocネットネットワークを開発した[1-10].本Ad-Hocネットワークは塩尻市の市街地全域に敷設され,2008年より運用を開始している.塩尻市においては本Ad-Hocネットワークを用いた平時のアプリケーションとし,子供見守りシステム[1-10]とバスロケーションシステム[11]を導入し運用している. 一方,集中豪雨による土砂災害は日本各地で発生し,多くの被害
をもたらしている.しかしながら,これまでの土砂災害の検知は,
基本的に土砂災害の発生を検知するものであり,予報には不十分で
ある.そこで我々は,塩尻市において運用されているAd-Hocネットワークを用いたアプリケーションとして,土砂災害の予報を目的
としたセンサーネットワークの研究開発を行っている[12].本研究では土砂災害を予測するため,EC センサーを搭載したセンサー端末を用いて土中水分量を測定し,既設Ad-Hocネットワークにてデータを伝送し予報に必要な情報を収集するシステムを考案した.そ
こで本稿では,土砂災害用センサー端末敷設状況と,実際の降雨と
の比較検証,及び,センサーネットワークの損失について述べる.
2. センサーネットワークの目的 近年,集中豪雨による土砂災害が日本各地で発生しているが,現
在の土砂災害の検知は,基本的に土砂災害の発生を検知するもので
ある.しかし,災害被害を最小限に止めるためには,自治体等から
土砂災害の予報を市民に出す必要がある.このようなことから,
我々が目指す土砂災害用センサーネットワークの目的は,検知では
なく予報することを目的とした.そのために,センサー端末を設置
し,その場所の土中水分量を計測してその値をサーバまで送信し,
サーバにおいて多くの端末から取得した値を用いて山の斜面崩壊
を予測する.
3. センサーネットワークにおける課題 土砂災害の予報を行うために,我々は山野に多数のセンサーを搭
載したセンサー端末を設置し,リアルタイムで土中水分量をサーバ
まで送信するセンサーネットワークシステムが必要であると考え
た.このセンサー端末は,次の要件が求められる. • 1つのセンサー端末で定期的に複数の深度を測定しAd-Hocネットワークに送信すること
• 設置を容易にするために乾電池で駆動して土中に埋めたまま 3
年程度稼働すること • 多数設置する必要があることからできるだけ安価であること このようなことから,我々の土砂災害用センサーネットワークの
研究開発課題を整理すると次のようになる.
(1) 土中水分量を計測する長寿命センサーの開発 (1-1) 消費電力が小さいこと (1-2) 長期間土中に埋設した状態で安定した値が測定できること (2) 山中からの安定したデータ送信技術の開発 (2-1) 山の表面に設置した無線装置が草や木に覆われても中継機
までパケットを送信できること (2-2) 山の稜線,谷間に沿ってセンサーを配置したセンサー端末が
安定して送信出来るプロトコルを開発すること 上記に列挙したそれぞれの課題は, (1) を 3.1節で,(2)を 3.2節で具体的に説明する.
3.1. 土中水分量を計測する長寿命センサーの開発 我々の目標とする土砂災害を予想するセンサーネットワークで
は,長期間稼働しなければならない.そのために次に示す(1-1), (1-2)が基本的要件として求められる.
(1-1) 消費電力が小さいこと 従来土中水分量を計測するセンサーとしては,誘電率が土中水分
量にほぼ比例する事を利用した誘電率センサーが用いられている.
誘電率センサーは対象とする土中で電流を流す必要があるため,あ
る程度の電力を消費する.実際に,代表的な誘電率センサーの消費
電力は 3V,10mA 程度となっている.このような電力を必要とするセンサーでは,長期間の運用ができない. (1-2) 長期間土中に埋設した状態で安定した値が測定できること 通常,センサーは長い間土中に埋められると,センサーそのもの
の腐食やドリフト等で測定値が変移することが考えられる.しかし,
本研究のセンサーネットワークでは,多数のセンサーを長期間埋設
することを想定しており,メンテナンスに手間がかかるセンサーで
は問題がある.そのため長期間設置した状態でメンテナンスを行わ
ずとも安定した値を出力できる実績のあるセンサーが必要となる.
3.2. 山中からの安定したデータ送信技術の開発 土砂災害予想を行うセンサーネットワークでは,センサー端末の
設置条件が市街地ではなく通信環境の条件が良くない(自然状況の変化や起伏等の条件).このような山野から安定してデータを送信してサーバに届けるために,次の(2-1), (2-2)が要件として求められる. (2-1) 山の表面に設置した無線装置が草や木に覆われても中継機までパケットを送信できること センサーネットワークで広く用いられている ZigBee は,2.4GHz帯もしくは 900MHz 帯が用いられている.しかし,周波数が高い2.4GHz では水分を多く含む草木に覆われると減衰が大きく通信が
不安定となることが予想される.このことから,センサー端末が草
木に覆われたとしても,通信が可能な無線方式でセンサーネットワ
ークを構築する必要がある. (2-2) 山の稜線,谷間に沿ってセンサーを配置したセンサー端末が安定して送信出来るプロトコルを開発すること 無線通信においては,中継機と各端末間は互いのキャリアを検出
でき通信を行うことができても,端末間で互いの通信キャリアを検
出することができずに干渉が発生するいわゆる隠れ端末問題が発
生する.特に本センサーネットワークでは,端末を,山の稜線や谷
間に設置するため,山の起伏によってセンサー間でこの隠れ端末問
題が頻発することが予想される.そのため,この問題を解決する通
信プロトコルの開発が必要となる.
4. センサー端末試作と塩尻市センサー端末設置状況 塩尻市に広域敷設されている Ad-Hoc ネットワークを用いて情報伝送が可能なセンサー端末を 2011年度に試作した(図 1).搭載する ECセンサーとしては,3章で提示した研究課題の(1)を実現するために,豊橋技術科学大学が開発した省電力で長期利用データのあ
る EC センサーを用いることとした[13].通常このような研究においては,誘電率センサーを用いて水分量を計測するが,これは消費
電力の面で(1-1)を満たさない.本 ECセンサーは農業用に開発されたセンサーであり土砂災害等などには用いられていないが,本研究
の課題(1)に対応可能な基礎データが十分にあることから本研究ではECセンサーを用いることとした. 研究課題(2)については,信州大学(松本キャンパス)に設置した検証用Ad-Hocネットワークを用いて,950MHzと 429MHzの通信状況の検証を行った.その結果,950MHzの通信では Ad-Hocネットワークの通信が樹木等に阻害され,429MHzと比較し大幅に通信状況が悪化することが判明した.そこで,本研究では 429MHzの通信を用いることで,課題(2)の(2-1)に対応することとした. そして,このセンサー端末を,塩尻市の担当者と共に土砂災害が
懸念される地域から設置場所を選定し設置した.次節以降では,セ
ンサー端末の設置箇所と設置状況,センサー端末のデータ送出タイ
ミングについて述べる.
4.1. センサー端末の設置 我々は図 1に示すセンサー端末試作機を 5台製作し,これを 2012年 5月 15日に塩尻市小野地区山中に設置した.塩尻市小野地区山中は土砂災害が懸念される地域の一つであり,早急な対応が求めら
れる地域であることから,土砂災害用センサーネットワークの検証
には非常に有効であると判断した. 図2は製作したセンサー端末試作機5台の設置場所を示している.そして図 3と図 4は設置状況を示している.図 2の様に,センサー端末試作機はそれぞれ No.1-3 が山頂から尾根にかけて設置,No.4 は尾根の斜面に,No.5 は谷に設置した(No.1~4は稜線,No.5は谷線に設置).No.1-3 のセンサー端末試作機は比較的なだらかな地形に設置(図 3)されたが,No.4,5 のセンサー端末は,傾斜 40°程度の急勾配の地形(図 4)に設置されている.この図 4 は撮影には水平を
検出可能な機材で撮影した.本センサー端末に採用したECセンサーは,土中のボーリングを行い調査した結果を基に,30cm の深さで埋設した.
図 1土砂災害用センサー端末試作機
図 2 塩尻市小野地区におけるセンサー端末試作機の設置場所
図 3 設置したセンサー端末試作機(試作機No.3)
No. 2 センサー端末
No. 1 センサー端末
No. 5 センサー端末
No. 3 センサー端末
No. 4 センサー端末
図 4 センサー端末試作機の設置状況(試作機No.5) (撮影機において水平を保持し撮影)
4.2. センサー端末からのデータ送出 今回製作したセンサー端末試作機では,測定したEC値のデータ送出のタイミングを 2種類定義し実装している.そのどちらを利用するかの判断基準は,センサー端末個々において測定されるEC値に依存する.
(A) EC値が 0.1mS/cm未満の場合,1時間毎に定期的に EC値等
のデータを送出する (B) EC値が 0.1mS/cm以上の場合,10分毎に定期的にEC値等の
データを送出する (A) は降雨のない,または,降雨が少ない状態を想定している.(B)は激しい降雨を想定している.土砂災害が予想されるような降雨が発生した場合,避難指示等を適切に行う為に,より詳細なデータ
を必要とする.このため,激しい降雨が発生した場合,つまり,セ
ンサー端末において高い EC値を検出した場合,センサー端末は 1時間に 1度のデータ送信ではなく,より粒度が高くなるよう 10分毎にEC値を送出するようになるのである. データ送出間隔,及び,その判断基準となるEC値に関しては,2012年 5月 15日に 5台のセンサー端末試作機を設置後に調整を行い現在の値となっている.特に(1)(2)のデータ送出間隔切り替えのしきい値となる EC 値(01.mS/cm)に関しては,設置後にセンサーの測定精度としきい値の調整を繰り返し,1ヶ月間測定した結果を基に現在の 0.1mS/cmをしきい値とした.
5. ECセンサーとセンサーネットワークの評価 我々は塩尻市の山中において土砂災害を予想するため,Ad-Hocネットワークを用いてセンサー端末からの情報を収集するセンサ
ーネットワークを構築してきた.ここで,収集したEC値や通信記録より,EC 値と降雨の観測結果とセンサーネットワークの損失について評価を行い,3章に記述した研究課題(1)(2)への対応,そして,
今後の課題について述べる.
5.1. ECセンサーの測定値と評価 塩尻市小野地区山中に設置したセンサー端末試作機における EC値のデータを図 5-7に示す.測定期間は 2012年 7月 7日から 9月30日までである.
図 5 ECセンサーの値(2012年 7月)
図 6 ECセンサーの値(2012年 8月)
図 7 ECセンサーの値(2012年 9月)
0
0.02
0.04
0.06
0.08
0.1
0.12
0.14
0.16
7/7
7/8
7/9
7/10
7/11
7/12
7/13
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7/24
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7/28
7/29
7/30
7/31
0.0
5.0
10.0
15.0
20.0
25.0
EC値(mS/cm)
降水量(mm/h)
No. 1 センサー端末
No. 2 センサー端末
No. 4 センサー端末
No. 5 センサー端末
No. 3 センサー端末
0.16
0.14
0.12
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0.06
0.04
0.02
7/7
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7/15
7/20
7/25
7/30
7/31
0.00
25.0
20.0
15.0
10.0
5.0
0.0
0
0.02
0.04
0.06
0.08
0.1
0.12
0.14
0.16
8/1
8/2
8/3
8/4
8/5
8/6
8/7
8/8
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8/29
8/30
8/31
0.0
5.0
10.0
15.0
20.0
25.0
No. 1 センサー端末
No. 2 センサー端末
No. 3 センサー端末
No. 5 センサー端末No. 4 センサー端末
EC値(mS/cm)
降水量(mm/h)
0.16
0.14
0.12
0.10
0.08
0.06
0.04
0.02
8/5
8/10
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25.0
20.0
15.0
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5.0
8/1
0.00
8/30
8/31
0.0
0
0.02
0.04
0.06
0.08
0.1
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0.16
9/1
9/2
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0.0
5.0
10.0
15.0
20.0
25.0
No. 2 センサー端末 No. 5 センサー端末
No. 3,4 センサー端末
No. 1 センサー端末
EC値(mS/cm)
降水量(mm/h)
0.16
0.14
0.12
0.10
0.08
0.06
0.04
0.02
25.0
20.0
15.0
10.0
5.0
0.00
9/5
9/10
9/15
9/20
9/25
9/1
0.00
9/30
0.0
図5-7の結果より,山頂付近に設置したセンサー端末No.1及び,山頂に近い峰に設置したセンサー端末No.2は降雨の都度EC値が連動して上昇している.これに対し,峰から尾根の斜面にかけて設置
したセンサー端末 No.3,4,及び,谷に設置したセンサー端末 No.5は反応がほとんど見られない.これには幾つか考慮すべき点がある.
• 実際に土砂災害が発生するような降雨状況においては,センサー端末 No.3-5が反応するような土中水分量となる可能性がある(つまり,センサー端末No.1,2の反応がセンシティブすぎる)
• 土中状況によっては,降雨時に必ずしもECセンサーが土中水分量を観測できるわけではない(設置箇所の選定)
土中の状況は極めて複雑であり,ボーリング調査等を実施しない
限り状況の把握は非常に困難である.しかしながら,設置したセン
サー端末の一部においては,図 5-7に見られるように土中水分量に反応していることが分かる.すなわち,今回の結果より,EC センサーによる土中水分量の把握は可能であり,かつ,安価なセンサー
端末を大量に敷設することで,全てのセンサー端末が動作していな
くとも土中水分量を把握することで土砂災害の予報に役立てるこ
とが可能であることが分かる. 以上のことから 3 章における研究課題(1-1),(1-2)について考察すると,次のようにまとめられる. (1) 土中水分量を計測する長寿命センサーの開発 (1-1) 消費電力が小さいこと
ECセンサーの消費電力は土中の水分の抵抗に依存しており,山の土中水分は比較的抵抗率が高いため,消費電力は少なく
なる.今回利用した EC センサーの消費電力は 0.25V,30μA程度であり,代表的な誘電率センサーの 3V,10mA 程度に比べ遥かに消費電力が少ない[13,14].このことから,本研究の目的(1-1)を達成できる.
(1-2) 長期間土中に埋設した状態で安定した値が測定できること 豊橋技術科学大学が開発した ECセンサーは表面をプラチナ加工としているため基本的に腐食することがなく,また電気
分解が発生する電圧以下で動作させており,電極へのダメー
ジを防いでいる[14].本ECセンサーは 2009年から園芸施設内において実施された実証実験において,1年 7ヶ月の期間において,安定した出力値を得ることができている[14].
特に(1-2)について,今回のこれまでの設置期間は3ヶ月であるが,
No.1,2センサー端末に搭載された ECセンサーにおいては安定した反応を示しており, No.1センサー端末の ECセンサーは安定して値を出力している.また,No.3-5センサー端末に搭載されたECセンサーは,降雨には反応していないものの,降雨の際の土中水分量
が増えていない可能性を示唆している.これに関しては,比較対象
として設置された別のセンサーとの対比を行うことにより,安定性
を検証する. 以上のように,EC センサーは本研究課題の(1)をクリアする可能
性が高いことが分かった.このことから,EC 値をベースに土中水分量を確認する基本的な環境は構築できたと考える.引き続き次の
点を考慮しながら研究を進める. 1. 山野に設置したECセンサーの長期間稼働における精度確認 2. EC値による土砂災害予測の方法の考案 3. センサー端末におけるEC値の送出タイミングの検討 今回のセンサー端末試作機に搭載されたECセンサーにおける長期利用に関するデータは,園芸施設内においてのものである[14].そのため,長期間山野に設置し利用した場合の精度を継続的に観察
する必要がある.また,本研究の目的である土砂災害の予報のため
には,EC 値をどのように処理すれば予測に繋がるのか考案する必要がある.現在のEC値データを見る限り,また,土中の状態は単純ではないため,この予測の精度を上げ予報につなげるためには,
更に多くのセンサー端末を作成し,データを取得する必要がある.
センサー端末におけるEC値の送出タイミングは 1節で述べた通りだが,このタイミングが予想や予報に利用できるのかどうかは,更
に検討して必要に応じて変更し最適なアルゴリズムにする必要が
ある.
5.2. センサーネットワークの損失率 センサーネットワークにおいて土砂災害の正確な予報を行うた
めには,センサー端末が取得したデータの伝送時損失が低くなけれ
ばならない.図 8は,2012年 7月~10月上旬にかけてのセンサーネットワークの損失率を示している.図 8は損失率を週毎に集計したものである.
図 8 センサーネットワーク損失率(2012年 6月 20~10月 5日)
損失率の計算においては次の点を考慮しながら計算している.下
記項目以外の細かな調整も行っているが基本的な計算は次の通り
となる. • データ伝送に発生したパケットの総量は,EC値が 0.1mS/cm以
!"!#$
!"%#$
&"!#$
&"%#$
'"!#$
'"%#$
("!#$
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'!&'*+*'%$
'!&'*,*'$
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'!&'*-*&,$
'!&'*-*')$
'!&'*&!*&$
!"#$%&'()**'+
"&%,-.
No. 1 センサー端末
No. 5 センサー端末
No. 4 センサー端末
No. 2 センサー端末
No. 3 センサー端末
上の場合は 10分間隔で,0.1mS/cm未満の場合は 1時間間隔で定期的なデータ転送が発生することを前提にカウントしている
• 端末の故障やバッテリー不良等により,センサー端末が停止している場合は対象としない
• 1つのセンサー端末のEC値データ伝送の通信を,複数の中継機が受信し,サーバへ転送した場合は,同一のデータが重複した
ものとしてカウントしない(複数あっても 1つとしてカウント) センサー端末はEC値によって1時間間隔または10分間隔という一定間隔でデータを送出するため,損失しているかどうかの確認は,
直前に送出されたパケットの時間差とEC値を比較することにより,損失があったかどうかを確認できる.また,現在設置しているセン
サー端末は試作機のため,動作中の不具合(故障やバッテリー障害等)に関しては,センサーネットワークの損失計算からは除外することとした.現在塩尻市で運用しているAd-Hocネットワークでは,一台のセンサー端末からのデータ送信を,複数の中継機が受信した
場合,それぞれのパケットとして親機に送信してしまう.このよう
に重複して到達したパケットは,記録上複数の到達パケットとして
記録されるが,これはすべて同一の 1つのパケットとした.このようにして損失率を計算した. 図 8の損失率からも分かるように,一部のセンサー端末にて突出して損失がでているものの,その損失率は,2012/7/16 の週おけるNo.5センサー端末で 2.5%,2012/9/3の週におけるNo.1センサー端末で 3.5%であり,これを最悪値と考えても実用上の問題はほぼ無いと考えている.図 9はセンサー端末No.5の 2012年 10月 6日の状況を示している.丈の低い植物によって周囲をまばらに囲まれてい
るが,この程度の植生であれば図 8に示すような損失率に止まる. また季節変化(植生変化)による損失に関しては,図 8 の 2012/7/9~2012/7/23週と,2012/8/27の週,2012/9/24の週において,損失率がおおよそ倍になっている.しかし,この場合も損失率は 1.5%以下であり,実用上の問題は少ないと考えている.
図 9 No.5 センサー端末試作機の状況(2012年 10月 6日撮影)
以上のことから 3 章における研究課題(2-1),(2-2)について考察すると,次のようにまとめられる.
(2) 山中からの安定したデータ送信技術の開発 (2-1) 山の表面に設置した無線装置が草や木に覆われても中継機
までパケットを送信できること 今回の実証実験では,429MHzを用いて通信を行っている.そして,センサー端末の装置そのものの不具合以外において,
最悪なケースの損失率は 3.5%以下であり,ほとんどの場合1%未満である.また,信州大学松本キャンパスのAd-Hocネットワーク実験環境において行った実験結果より,950MHzを利用した場合の通信状況を調査した.その結果,950MHzでは樹木等の影響で通信状況が不安定になる現象が見られ
た.一方,429MHzではそのような影響が見られなかった.
(2-2) 山の稜線,谷間に沿ってセンサーを配置したセンサー端末が安定して送信出来るプロトコルを開発すること 今回の実証実験においては 5 台のセンサー端末を用いたが,5 台では,これまでの通信プロトコルでも問題にならないことが確認できた.しかし,我々の研究目的を達成するために
は,多数のセンサー端末を設置する必要があることから,現
在,シミュレーションを用いて検証を行っており,最適な通
信プロトコルを開発中である. 今回の損失データからは,センサー端末の設置に関して大きく問
題となるような現象は確認できなかった.このため、3章に述べた研究課題(2)は 429MHz での通信を行うことによりクリアする見通しがついた.しかしながら,観測期間,設置環境の多様性等が十分
ではないため,引き続き次の点を考慮しながら研究を進めていく. 1. 年間を通してのデータ収集(年次を重ねたデータ収集も併せ
て実施する) 2. 多様な植生を考慮したセンサー端末の設置と植生状況の確
認(設置箇所における植生情報の収集の自動化等の検討) 3. 更に多くのセンサー端末を広範囲に設置した場合の影響の
調査 特に 3.に関しては,本研究の目的である,安価なセンサー端末を大量に設置する際には,Ad-Hoc ネットワークとして非常に重要な問題となる.これまでAd-Hocネットワークを運用してきた市街地と異なり,稜線と谷線においては高低差があり,センサー端末や中
継機のさらし・隠れ関係が複雑となる.現在,この通信モデルを構
築した上で,シミュレーションを通して,影響を事前に把握し,最
適な通信プロトコルの開発を行っている[12].
6. まとめと今後の目標 本稿では土砂災害の予報を目的としたセンサーネットワークの
構築について論じてきた.我々は,これまでに高耐障害性 Ad-Hocネットワークを研究開発し,塩尻市街地の広域にAh-Hocネットワ
ークを敷設し運用してきた.そして,このAd-Hocネットワークを用いたアプリケーションとして,土砂災害用センサーネットワーク
の研究を行っている. 本稿では,土砂災害用センサーネットワーク用のセンサー端末を
2011年度に製作し,実際に塩尻市の土砂災害が危惧される地域の山中に塩尻市の協力を得て設置した.これまでのところ,センサー端
末のECセンサー全てが有効な値を出している訳ではないが,本研究の手法として,安価なセンサー端末を多数設置することにより,
この問題は解決できる見通しがついた.また,センサーネットワー
クのネットワークとしての性能も,これまでのパケット損失の観点
からは損失はほとんどない.もちろん,まだ試作のセンサー端末を
設置した状況であり 5.1,5.2節で述べたような課題が残されている.しかしながら,これらの問題を解決していくことで,適切な土砂災
害予測が可能であると考える. 今回の報告では,EC センサーの値に注目しているが,本センサー端末は多くのインターフェイスを有し,様々なセンサーを搭載で
きるようになっている.このセンサー端末を利用し様々なデータを
取得することで,土中水分量だけでなく,河川の水位の測定等も行
うことにより,水害や土砂災害の予報に有効な予測を行うのが本研
究の最終的な目的ある.
謝 辞 本研究の一部は,総務省戦略的情報通信研究開発推進制度「自治
体全域を網羅する安心・安全な街創りのための高耐障害性アドホッ
クネットワークシステムの開発(072304002)(H19~H20)」,「Ad-Hoc ネットワークとセンサネットワークを用いた高耐障害性地域災害
通信システムの研究開発(092304014)(H21~H22)」および「地域全体の安全・安心を確保する防災・減災および鳥獣センシングを実
現するセンサーネットワークシステムの研究開発(112304003)(H23~H24)」の助成を受けて行われた.また,システムの実験及び運用について長野県塩尻市の多大なるご協力を頂いている.ここに記し
て関係する皆様に深く感謝する.
文 献 [1] 中西一貴,堀尾伸治,新村正明,國宗永佳,本山栄樹,不破
泰,”無線Ad-Hoc ネットワークを用いた地域見守りシステムの開発と評価,”信学技報,CS,108,(279),pp.13-18,Oct. 2008.
[2] 不破泰,堀尾伸治,中西一貴,新村正明,國宗永佳,本山栄樹,”【招待講演】無線アドホックネットワークを用いた地域見守りシステムについて,”信学技報,USN,108,(252),pp.69-76,Oct. 2008.
[3] 不破泰,Hernan AGUIRRE,織田浩敬,武田智博,不破かおり,本山栄樹,”端末数が多い無線通信におけるアクセスプロトコル ARIB STD-T67 の評価と改良,”信学技報,RCS,107,(402),pp.91-96,Dec. 2007.
[4] 不破泰,新村正明,國宗永佳,菊田宏,織田浩敬,武田智博,不破かおり,宮城正志,本山栄樹,”無線ネットワークプロトコルARIB STD-T67 の改良:高負荷マルチホップ環境下におけるパケット損失への対応,”信学技報,NS,107,(524),pp.313-318,Feb. 2008.
[5] 野瀬裕昭, 不破泰, 新村正明, 國宗永佳, 本山栄樹, 金子春雄 : 無線Ad-Hocネットワークによる地域見守りシステムの開発 ; 電子情報通信学会論文誌 B,Volume J95-B,No.1, pp.30-47, Jan.
2012. [6] 不破泰:高耐障害性Ad-Hocネットワークを用いた地域見守り
システムの開発について;第1回安全・安心な生活のための情報通信システム研究会講演論文集,ICSSSL2011-01,Dec.2011
[7] 野瀨裕昭,本山栄樹, 鈴木彦文,不破泰:無線 Ad-Hocネットワークによる地域見守りシステムの開発と評価;第1回安全・安心な生活のための情報通信システム研究会講演論文集,ICSSSL2011-01,Dec.2011
[8] 野瀬裕昭, 不破泰, 新村正明, 國宗永佳, 本山栄樹, 金子春雄 : 無線Ad-Hocネットワークによる地域見守りシステムの開発 ; 電子情報通信学会論文誌 B,Volume J95-B,No.1, pp.30-47, Jan. 2012.
[9] 野瀬裕昭, 不破泰 : 無線アドホックネットワークによる地域見守りシステム Regional Protection System Using a Wireless Ad-hoc Network ; 電子情報通信学会誌, 95, (9), pp.797-802, Sep. 2012.
[10] Hikofumi Suzuki, Yasushi Fuwa : Examination of a Routing decision algorithm for Improvement of Network Performance of a Regional Protection System ; International Technical Conference on Circuits/Systems, Computers and Communications 2012 (ITC-CSCC 2012), Proceedings CD of ITC-CSCC 2012, E-M1-01, July 2012. (Sapporo, Japan)
[11] 山本紘資,本山栄樹,鈴木彦文,不破泰:無線Ad-Hocネットワークを用いたバスロケーションシステム;第1回安全・安心な生活のための情報通信システム研究会講演論文集,ICSSSL2011-03,Dec.2011
[12] 黒柳 大治,D.K. Asano,鈴木彦文,不破泰:災害検知を目的としたセンサーネットワーク端末に関する一検討;第1回安全・安心な生活のための情報通信システム研究会講演論文集,ICSSSL2011-04,Dec.2011
[13] Masato Futagawa, Taichi Iwasaki, Toshihiko Noda, Hidekuni Takao, Makoto Ishida, Kazuaki Sawada : Miniaturization of Electrical Conductivity Sensors for a Multimodal Smart Microchip ; Japanese Journal of Applied Physics, 48, 04C184 (2009)
[14] 川嶋 和子, 二川 雅登, 番 喜宏, 浅野 義行, 澤田 和明 : 挿入型農業用センサを利用したトマト培地の EC 測定 ; 電気学会論文誌 E, Vol.131 No.6 pp.211-217 (2011)