development of technology by rotary tiller to control the

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研究論文 農 業 機 械 学 会 誌67(1):68~74,2005 ミリンゴガイ防除 ロー リ耕 うん技術 の 開 発* 高橋仁康*1・関 正裕*2・東 定 洋*3・三池輝幸*3 ロ ー タ リ耕 うん 機 の な た 爪間 に 直 刃 を付 加 し,慣 行 の 耕 うん と同 じ作 業 で ス ク ミ リ ン ゴガ イ 〔Pomacea canaliculata(Lamarck)〕 の殺貝効果を高める技術を開発した。異なる土壌硬度での耕うん爪による打撃 速 度 と殺 貝 効 果 の関 係 を 明 らか に す る と と もに,土 槽 試 験 の 結 果 を 用 いて 直 刃 配 列 を 最 適 化 し,防 除 ロ ー タリの設計 ・試 作 を行 っ た。 試 作 機 で 圃 場 試 験 を行 っ た と こ ろ貝 の生 息 密 度 が 慣 行 の ロ ー タ リ耕 うん と 比較 してお よそ半減 した。 [キー ワー ド]スク ミリンゴガ イ,ジ ャンボ タニ シ,ロ ー タ リ耕 うん,防 除,湛 水 直播,水 稲 Development of Technology by Rotary Tiller to Control the Density of Apple Snail* Kimiyasu TAKAHASHI*1, Masahiro SEKI*2, Sadahiro HIGASHI*3, Teruyuki MIIKE*3 Abstract We developed the technology to enhance the Golden Apple Snail •kPomacea canaliculata (La- marck)•l killing effect in conventional tilling work by adding straight blades between the tilling blades of the rotary tiller. We clarified the relationships between the striking speed of tilling blades and the snail-killing rate for different degrees of soil hardness. We subsequently established the optimum arrangement of straight blades based on the results of tilling tests in a soil tank, then designed and manufactured a prototype of a snail-controlling rotary tiller. Field test results revealed that the prototype halved the normal density of snails. [Keywords] apple snail, rotary tiller, prevention, direct seeding, paddy rice Ⅰ緒 水稲などの生育初期に食害を及ぼすスクミリンゴガイ (通称 ジ ャ ンボ タ ニ シ)に 対 して,様 々 な 防 除 方 法 が行 わ れ て い る(Ozawaand Makino,1989,Yamanaka et al., 1988,Kiyota et al.,1990,Suzuki et al.,2000)が,大 雨に よ り圃 場 が4cm以 上 の 深 水 とな っ た 場 合 な ど,稚 苗水 稲 の 被 害 を 防 ぐ こ と は 困 難 な 場 合 も多 い(Ozawa et al., 1988)。 九 州 で の 発 生 面 積 は約48千ha,被 害 面 積 は7千 ha(とも に2000年)であ り,西 南 暖 地 を 中 心 に横 ば い か や や 上 昇 傾 向 とな って い て,お よ そ 被 害 面 積 の9割 が 九 州 で あ る(Wada,2000)。 水 田 圃 場 に お い て 本 貝 は秋 の落 水 と と もに土 中 の 浅 い 部 分 へ 潜 って 越 冬 し,翌 年 の入 水 時 に再 び 出現 す る。 本 研 究 の 目的 は秋 期 か ら春 期 に か け て の ロ ー タ リ耕 うん に よって本貝の圃場での生息密度を低減 し,水稲の被害を 軽 減 す る こ とで あ る。 現 在 まで に殺 貝 効 果 の 高 い耕 うん 条 件 は軟 土 条 件(麦 作 後 な ど)よ り硬 土 条 件(稲 作 後 な ど)で あ ること,ま た耕 うん ピッチが小 さい(作 業速度 が 遅 い)こ と な ど が 明 らか に な って い る(Takahashi et *2001年4月 第60回 農業機械学会年次大会(鳥 取 大 学),2002年9月 第61回 農業機械学会年次大会(岩 手 大 学)に て一部講演 *1会 員,九 州沖縄農業研究 セ ン タ ー(〒833-0041筑 後 市 和 泉496TELO942-52-3101) National Agricultural Research Center for Kyushu Okinawa Region(KONARC),496 Izumi,Chikugo-shi,833-0041,Japan; e-mailof corresponding author: 現 在:生 物系特定産業技術研究支援 セ ン タ ー(〒331-8537埼 玉 県 さ い た ま市 北 区 日 進 町1-40-2TELO48-654-7094) Present address:Bio-oriented Technology Research Advancement Institution,1-40- 2Nisshin-cho,Kita-ku,Saitama-shi,Saitama 331-8537,Japan *2会 員,九 州沖縄農業研究セ ンター *3九 州沖縄農業研究センター

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Page 1: Development of Technology by Rotary Tiller to Control the

研究論文 農業 機械 学会 誌67(1):68~74,2005

ス ク ミ リ ン ゴ ガ イ 防 除 ロ ー タ リ耕 う ん 技 術 の 開 発*

高橋仁康*1・ 関 正裕*2・東 定 洋*3・三池輝幸*3

要 旨

ロ ー タ リ耕 うん 機 の な た 爪間 に 直 刃 を付 加 し,慣 行 の 耕 うん と同 じ作 業 で ス ク ミ リ ン ゴガ イ 〔Pomacea

canaliculata(Lamarck)〕 の殺 貝 効 果 を高 め る技 術 を開 発 した 。異 な る土 壌 硬 度 で の 耕 うん 爪 に よ る打 撃

速 度 と殺 貝 効 果 の関 係 を 明 らか に す る と と もに,土 槽 試 験 の 結 果 を 用 いて 直 刃 配 列 を 最 適 化 し,防 除 ロ ー

タ リの 設 計 ・試 作 を行 っ た。 試 作 機 で 圃 場 試 験 を行 っ た と こ ろ貝 の生 息 密 度 が 慣 行 の ロ ー タ リ耕 うん と

比 較 して お よ そ半 減 した 。

[キーワー ド]ス ク ミリンゴガイ,ジ ャンボタニシ,ロ ータリ耕 うん,防 除,湛 水直播,水 稲

Development of Technology by Rotary Tiller to Control the Density of Apple Snail*

Kimiyasu TAKAHASHI*1, Masahiro SEKI*2, Sadahiro HIGASHI*3, Teruyuki MIIKE*3

Abstract

We developed the technology to enhance the Golden Apple Snail •kPomacea canaliculata (La-

marck)•l killing effect in conventional tilling work by adding straight blades between the tilling

blades of the rotary tiller. We clarified the relationships between the striking speed of tilling blades

and the snail-killing rate for different degrees of soil hardness. We subsequently established the

optimum arrangement of straight blades based on the results of tilling tests in a soil tank, then

designed and manufactured a prototype of a snail-controlling rotary tiller. Field test results

revealed that the prototype halved the normal density of snails.

[Keywords] apple snail, rotary tiller, prevention, direct seeding, paddy rice

Ⅰ緒 言

水 稲 な ど の生 育 初 期 に食 害 を及 ぼ す ス ク ミ リ ン ゴガ イ

(通称 ジ ャ ンボ タ ニ シ)に 対 して,様 々 な 防 除 方 法 が行 わ

れ て い る(Ozawa and Makino,1989,Yamanaka et al.,

1988,Kiyota et al.,1990,Suzuki et al.,2000)が,大 雨 に

よ り圃 場 が4cm以 上 の 深 水 とな っ た 場 合 な ど,稚 苗 水

稲 の被 害 を 防 ぐ こ と は困 難 な 場 合 も多 い(Ozawa et al.,

1988)。 九 州 で の 発 生 面 積 は約48千ha,被 害 面 積 は7千

ha(と も に2000年)で あ り,西 南 暖 地 を 中 心 に横 ば い か

やや上昇傾向となっていて,お よそ被害面積の9割 が九

州である(Wada,2000)。

水田圃場において本貝は秋の落水 とともに土中の浅い

部分へ潜って越冬 し,翌 年の入水時に再び出現する。本

研究の目的は秋期から春期にかけてのロータ リ耕 うんに

よって本貝の圃場での生息密度を低減 し,水 稲の被害を

軽減することである。現在 までに殺貝効果の高い耕 うん

条件は軟土条件(麦 作後など)よ り硬土条件(稲 作後な

ど)で あること,ま た耕 うん ピッチが小 さい(作 業速度

が遅い)こ となどが明 らかになっている(Takahashi et

*2001年4月 第60回 農 業 機 械 学 会 年 次 大 会(鳥 取 大 学),2002年9月 第61回 農 業 機 械 学 会 年 次 大 会(岩 手 大 学)に て 一 部 講 演

*1会 員,九 州 沖 縄 農 業 研 究 セ ン タ ー(〒833-0041筑 後 市 和 泉496TELO942-52-3101)

National Agricultural Research Center for Kyushu Okinawa Region(KONARC),496 Izumi,Chikugo-shi,833-0041,Japan; e-mailof

corresponding author:

現 在:生 物 系 特 定 産 業 技 術 研 究 支 援 セ ン タ ー(〒331-8537埼 玉 県 さ い た ま市 北 区 日進 町1-40-2TELO48-654-7094)

Present address:Bio-oriented Technology Research Advancement Institution,1-40- 2Nisshin-cho,Kita-ku,Saitama-shi,Saitama

331-8537,Japan

*2会 員,九 州 沖 縄 農 業 研 究 セ ン タ ー

*3九 州 沖 縄 農 業 研 究 セ ン タ ー

Page 2: Development of Technology by Rotary Tiller to Control the

高 橋 ・関 ・東 ・三 池:ス ク ミ リンゴガイ防 除 ロー タ リ耕 うん技 術 の開 発 69

al.,2001b)が,こ の条件では作業時間が増大す るなどの

欠点がある。本報では速度や作業性など慣行通 りの耕 う

ん方法で,高 い殺貝効果が得 られるロータリ耕 うん技術

を開発する。そのため土槽実験装置により殺貝効果の高

い耕 うん技術の開発を行い,殺 貝効果の解明,耕 うん爪

配列の検討の後 ロータリ耕 うん機を試作 し,圃 場試験に

供 して効果を確認 した。

Ⅱ防除 ロータ リ耕 うん技術 の開発

1.材 料および方法

耕 うん機のなた爪間に殺貝効果を向上 させる素材を付

加 し,通 常の耕 うん機と同様な使い方ができる低 コス ト

な耕 うん技術の開発を目的 とした。予備実験で殺貝効果

を確認 したところ,直 刃をロータ リの回転方向に平行に

付加 した場合で最 も殺貝効果が向上 したため,土 槽実験

装置において条件を変えて詳細に実験を行 った。

実験 は表1に 示すとおり,硬 土,軟 土の2つ の土壌条

件において標準の18本 のなた爪,標 準に直刃を14本 付

加 した場合,標 準 に直刃を28本 付加 した場合 の3つ の

爪条件について行った。土槽実験装置は幅1m× 長 さ4

m× 深 さ0.3mの 土槽 を耕幅80crnで2.7kWモ ー ター

により耕 うんする装置で,作 業速度約15cm/s,ロ ータ

リ回転数400rpmに 設定 した。 耕深12cmと6cmの 場

合の殺貝効果の違いは認められない(Takahashi,et al.,

2002b)こ とか ら調査 の容易な6crnに 耕深を設定 した。

硬土条件の土槽は土壌(灰 色低地土)へ 加水 し練ったも

のを一定の土壌硬度(山 中式硬土計で25mm程 度)ま で

乾燥 したもので,軟 土条件 は加水することなく踏圧 した

もの(同20mm程 度)で ある。直刃は靭性の高いバネ鋼

(40×180×1mm)を 用い,な た爪間へ配置 した。貝の大

きさは貝殻の高 さである殻高で表 し,土 槽へは1試 験に

っ き殻高5mm以 上10mm未 満(小 貝),殻 高10mm以

上20mm未 満(中 貝),殻 高20mm以 上(大 貝)そ れ

ぞれ50頭 ずつ合計150頭 を供試 し,反 復数 は3回 以上

とした。供試貝は試験前日に土槽の土壌へそれぞれの貝

の大 きさの穴を削 り,土 中へ固定された状態で埋設 し

た。直刃を付加 した土槽実験装置のロータリ耕うん部を

図1に 示す。

2.結 果および考察

図2に 結果を示す。結果か ら軟土条件より硬土条件の

方が5~25ポ イン ト殺貝率が高 く,貝 が大きいほど殺貝

率が高 く,直 刃を14本 付加することで標準 より平均7.3

ポイン ト,28本 付加す ることで14.6ポ イン ト殺貝率が

向上 した。軟土条件および大貝の場合では,付 加する爪

数を増やすのに応 じて殺貝効果の向上を期待できるが,

硬土条件では特に小 ・中貝で爪数を増加 して も殺貝率が

頭打 ちとなる傾向があった。直刃28本 付加では土壌の

切断抵抗の増加 とともに爪間での土壌 の抱 き込みがあ

り,必 要 トルクが増加 したためロータリ回転数の低下 も

観察 された。貝の密度低減に効率の良いのは硬土条件で

あること(Takahashi et al.,2002b),必 要 トルクの上昇

を抑制 したいことか ら,試 作するスク ミリンゴガイ防除

ロータリの直刃付加数は標準のなた爪間に1本 程度が良

図1 直 刃 を 付 加 した 土 槽 実 験 装 置 の 耕 う ん 部

Fig.1 The rotary tillage tester with straight blade

図2 直 刃 付 加 実 験 で の 殺 貝 率 比 較

Fig.2 Result of reduced snails in rotary tillage test

with straight blade

表1 直 刃 付 加 ロ ー タ リ実 験 条 件(土 槽 実 験 装 置)

Table 1 Condition of the rotary tillage test

Page 3: Development of Technology by Rotary Tiller to Control the

70 農 業 機 械 学 会 誌 第67巻 第1号(2005)

いと考え られた。土槽実験装置では直刃を装着する位置

が限 られたため,配 列は適正ではなか った°

Ⅲ殻破砕試験

1.材 料および方法

ロータリ耕 うん爪が土中のスク ミリンゴガイの殻を破

砕する現象の解明を目的として,図3に 示す実験装置で

条件を変えて殻破砕実験を行った。装置は リニアベアリ

ングに爪ホルダを製作 して耕 うん爪を取 り付け,質 量お

よそ3kgの 耕 うん爪部分を,レ ールに沿 って鉛直方向

へ落下させるもので,内 圧 ・抵抗をほぼ無 くしたベアリ

ングにより,自 由落下に最 も近い設定 とした。耕 うん爪

の落下高(お よび算出 される貝への打撃速度)は0.20

(1.96),0.44(2.94),0.78(3.92),1.23(4.90),1.76m(5.88

m/s)と 設定 した。供試する貝は生貝で殻高5mm以 上

10mm未 満(小 貝),同10mm以 上20mm未 満(中 貝),

同20mm以 上(大 貝)と し,土 槽(灰 色低地土)に 前

もってそれぞれの殻高 ほどの深 さへ埋設 した。耕うん爪

の屈曲部刃面を貝殻の一定の部分に当てるよう設置 し,

貝の中心部を通る鉛直線上を貝殻面 に真 っ直ぐに当てる

場合(オ フセット0°)と,貝 の中心を通る鉛直線に対 し

て中心角を45°ず らした部分に当てる場合(オ フセット

45°)の2通 りのオフセ ット条件 とした。また,硬 土条件

(山中式土壌硬度計;15.3±3.0mm)と 軟土条件(同;3.4

±1.7mm)に ついて試験を行 った。耕 うん爪の落下高を

低い条件から試験 し,生 存 した場合は落下高を高 くし,

殺貝で きた落下高を記録 した。耕 うん爪が当たり,貝 殻

へひびが入った程度は生存とし,貝 殻の亀裂により内部

が露出した場合や耕 うん爪により切断された場合を殺貝

とした。1回 の試験に殻高の大中小10個 体ずつ,合 わせ

て30個 体,土 壌硬度 とオフセ ットの組み合わせについ

て4試 験,合 計120個 体について試験を行った。

2.結 果および考察

土壌硬度 とオフセットの条件を変えた各試験について

耕うん爪による打撃速度毎の殺貝率を算出すると図4に

示す結果 となった。 オフセット45°の条件下で殺貝する

ためには,硬 土条件に比較 して軟土条件で非常に速い打

撃速度を必要とし,硬 土条件での殺貝時打撃速度と軟土

条件でのそれとの間には有意に差があった。軟土条件で

はオフセ ット45°の場合,打 撃時に耕 うん爪か らの逃 げ

が生 じ,殺 貝するためにはオフセ ット0°で殻面に垂直に

打撃することが望ましい。オフセットして殻面に斜めに

当たる場合,硬 土条件で耕うん爪による貝への打撃速度

は3m/s程 度,軟 土条件で6~7m/s程 度が必要である

といえる。殻高の大小にかかわらず結果はほぼ同 じ傾向

であった。殻の厚 さを測定 したところ中貝がやや厚かっ

たためか,中 貝の生存率が若干高か ったが有意差は認め

られなかった。小貝の殻 は比較的薄 く,特 に打撃速度の速

い試験では爪からの直接の打撃を逃れた貝が爪の側面 と

土壌の間で圧死 している場合が観察 された。また実験結

果か ら,軟 土条件より硬土条件で耕 うん した場合が スク

ミリンゴガイ密度低減に効果的であること(Takahashi

et al.,2002b)が 追認 された。

打撃速度が殺貝効果に影響することか ら,直 刃では爪

の周速度がそのまま貝への打撃速度 となるのに対 し,な

た爪 はその排絡角をθとすると,爪 の周速度Vの 場合

打撃速度はVcosθ となり,同 じ軸回転数でも殺貝効果

が劣る場合があると考え られた。よって,爪 の形状 とし

ては直刃が最 も殺貝効果が高いと考察された。

Ⅳ 防除 ロー タ リの試作 と圃場試験

1.直 刃の配列

一般的な筒形 ホルダタイプの耕 うん作業機の耕 うんパ

ターンとして耕うん幅1.5m,な た爪数32本 のロータリ

耕 うん作業機 で作業速度時速1.5km,ロ ー タリ回転数

250rpm(PTO4段 変速の2速 に相当)の 場合を考える。

このとき,な た爪によ り耕 うん反転される圃場表面はお

よそ幅50mm,長 さ100mmの 部分(パ ターンⅠ)で あ

図3 殻 破 砕 実 験 装 置(電 磁 石 オ フ に よ り リニ ア ベ ア

リ ン グ面 を 落 下)

Fig.3 Tester to break the shell of the snail

図4 殼 破 砕 実 験 結 果

Fig.4 Result of the rate to break the shell of the snail

Page 4: Development of Technology by Rotary Tiller to Control the

高 橋 ・関 ・東 ・三池:ス ク ミリンゴガ イ防除 ロー タ リ耕 うん技術 の開 発 71

る。作業速度を遅 くするなどして耕 うん ピッチを2分 の

1と して土壌を細か く砕土 した場合,圃 場表面 はおよそ

幅50mm,長 さ50mmの 部分(パ ターンⅡ)と なる。そ

こでなた爪の中間に耕 うん爪を取 り付けて,パ ターン1

を縦方向に分断すると圃場表面はおよそ幅25mm,長 さ

100mmの 部分(パ ターンⅢ)と なる。スク ミリンゴガイ

が水田圃場で土中越冬する場合,ほ ぼ土中表面の浅い部

分に潜土する(Hirai 1989,Takahashi et al.,2002a)こ

とか ら,殻 高を直径 とする円に見立てた貝が耕 うん爪に

接触す る確率を殻高毎 に算出す ると,図5の ようにな

る。つ まり中央 を縦に両断 した場合の方が殺貝率が高

く,効 率のよいことが分かる。

2.防 除ロータリの試作

ロータリ耕 うん作業機の構造上,付 加する直刃の ピッ

チ円の径はなた爪のそれ以内である必要がある。 また,

なた爪が耕 うんすると土塊が投て き ・砕土されるため,

なた爪が耕 うんする前に硬い土壌を直刃で両断すること

が望 ましい。よって,可 能な限 りなた爪の直前へ,な た

爪 と同 じピッチ円を もっ直刃を固定することが最 も殺貝

効果を高 くす ることになる。実際にはなた爪 と直刃が近

接すると土壌の抱 き込みなどの弊害が生 じ,ま た,製 作

上筒形 ホルダの配置が困難であることから,土 塊の中央

部分を両断す る直刃の位相は図6の ようになた爪の前方

90°と決定 した。試作 したロータリを図7に 示す。耕 うん

幅1.5m,な た爪32本,爪 ピッチ円半径0.25mの ロータ

リ作業機へ専用のホルダを用いて直刃25本 を装着 した

仕様で,通 常のなた爪と同様に爪交換が可能である。直

刃は土槽実験装置で使用 したバネ鋼ではな く,焼 き入れ

鋼(27×200×3mm)と して耐久性を向上 した。

3.圃 場試験方法

九州沖縄農業研究センター水田作研究部圃場(黒 ボク

水田土壌,30a)に おいて2001年10月 から11月 にかけ

て耕 うん試験,圃 場調査を行った。水稲収穫後の圃場に

おいて慣行のロー タリで耕 うんを行 う区(慣 行区)と,

試作 したスク ミリンゴガイ防除ロータリで防除耕 うんを

行 う区(防 除区)の2区 を設定 した。調査の精度を高め

るため,水 稲(ヒ ノヒカ リ)栽 培中の8月 上旬におよそ

15,000頭 の貝を圃場へ投入 し,生 息密度を高めた。両区

は10月 初頭に 自然落水 し,貝 は自然 の状態 で土 中へ

潜 った。まず,耕 うん前の殻高毎の貝生息密度を測定す

るため両区で64点 の土壌を堀 り上 げ調査 し,土 壌表面

および土壌中に含 まれるほぼすべての生息貝を取 り出

し,そ の殻高を測定 した。1調 査点は0 .5m×0.5m,深 さ

0.15m(耕 盤 まで)と した。貝生息密度調査後の圃場を2

つのロータリを用いてほぼ同 じ条件で耕 うん し,両 区での土壌硬度,砕 土率,耕 うん ピッチ,PTO軸 トルクなど

を測定 した。これ ら試験条件を表2に 示す。耕うん後,

殻高毎の貝生息密度を同様に調査 した。耕 うん後の調査

点 は耕 うん前調査の影響が出ないようそれぞれ耕 うん方

向へ2mだ け移動 した。耕 うん前後の殻高毎の貝生息密

度 を比較 し,貝 密度低減率をそれぞれの ロータリの殺貝

率 とした。

4.結 果および考察

耕 うん前後の貝生息密度 と殺貝率を殻高別に図8に 示

図5耕 う ん パ タ ー ン と貝 へ の接 触 確 率 の 比 較(貝 は 殻 高

を 直 径 と した 円 で 計 算)

Fig.5 Tillage pattern and its rate that each blade

hit snails

図6な た 爪 間 へ の 直 刃 の 配 列 と 耕 うん パ タ ー ン

Fig.6 The pattern of straight blade and rotary tillage

blade

図7 試 作 し た ス ク ミ リ ン ゴ ガ イ 防 除 ロ ー タ リ

Fig.7 Prototype rotary cultivator to control

the density of Apple Snail

Page 5: Development of Technology by Rotary Tiller to Control the

72 農 業 機 械 学 会 誌 第67巻 第1号(2005)

す 。 防 除 区 で は,慣 行 区 と比 較 して 貝 の 生 息 数 が40~

48%減 少 した。ま た,防 除 ロ ー タ リの殺 貝 率 は 小 貝(殻 高

3~10mm)で 慣 行47.9%に 対 し76.9%,中 貝(同10~20

mm)で 慣 行16.3%に 対 し45.8%,大 貝(同20~40mm)

で 慣 行26.1%に 対 し59.1と そ れ ぞ れ29.0~33.0ポ イ

ン ト増 加 した 。 両 区 の 耕 うん 前 お よび 耕 うん 後 の貝 生 息

数 分 布 を殻 高10mm以 上,10mm未 満 に 分 けて 図9に

示 す 。 貝 は圃 場 の水 た ま り部 分 へ 潜 土 す る場 合 が 多 く,

貝生息数分布は非常にば らっ きが大 きか った。両区の耕

うん前の平均生息数に対する,耕 うん後の各調査点の生

息数か ら殺貝率を個 々に算出 した場合,小 貝は1%水

準,中 ・大貝は5%水 準で防除区が有意に殺貝効果が高

かった。PTO駆 動 トルクは防除ロータリでは215N・m

であり,通 常 ロータリの169N・mに 対 して27%増 加

した。試験中に直刃へのわ らの絡みっきがあり,ト ルク

への影響があったと考え られた。砕土率は防除区,慣 行

表2 圃 場 耕 うん 試 験 条 件

Table2 The condition of tillage test

※黒 ボ ク水 田 土壌 での試 験,土 壌 硬度 は山中式

硬 土計 で 計 測,PTO軸 トル クは 実効 値(RMS:Root

Mean Square)

図8 圃 場 試 験 で の 貝 生 息 密 度 と殺 貝 率

Fig.8 The density of snails and its rate of change

in testing field

図9 耕 う ん 前 後 の 貝 密 度 分 布(上:殻 高10mm以 上,下:殻 高10mm未 満)

Fig.9 The density of snails in the paddy field before tillage and after tillage

Page 6: Development of Technology by Rotary Tiller to Control the

高橋 ・関 ・東 ・三 池:ス ク ミ リンゴガ イ防除 ロー タ リ耕 うん技 術 の開発 73

区ともほぼ同 じであ り,過 砕土することな く通常の耕 う

ん と同様 に使用できると思われる。

土槽実験と比較すると圃場試験での小貝の殺貝率が高

いが,土 槽実験では小貝を固定 して埋設することが比較

的難 しく実質の土壌硬度が下がっていたこと,圃 場では

小貝が中 ・大貝 と比較 して土表面に多 く存在するため耕

うんする トラクタのタイヤなどの影響があることなどが

考えられた。

試作 したスク ミリンゴガイ防除ロータリは水稲収穫後

の一度の耕 うんで通常 と比較 して貝の生息数を大 きく低

減することが可能であるため,通 常のロータリと同様に

通年使用することでさらに効果が期待できる。 このロー

タリは最大の殺貝効果を狙 ったものであり,市 販す る場

合に使用する圃場条件によっては直刃を若干の排絡角を

持つ爪 に換えて,ワ ラの絡みつき,必 要 トルクの上昇な

どを防 ぐ必要が ある。また,試 験に使用 した トラクタは

17kW(23馬 力)で あったが,過 負荷によるエンジン回

転数低下が見 られた。土壌条件 によってはより大きな馬

力の トラクタが必要となる。

Ⅴ結 言

軟 らかい土壌中に存在す る貝殻を破砕するには,硬 い

土壌の場合と異 なり,貝 殻面 に対 して垂直に耕 うん爪を

当てるか,そ うでなければ一定以上の速い打撃速度の必

要なことが分か った。そして,通 常のロータリ耕 うん機

のなた爪前方へ直刃を配列 し,な た爪が耕 うん ・砕土す

る土壌を前 もって縦方向へ両断することで,高 い殺貝効

果を発揮する耕 うん作業技術を開発 した。試作 したスク

ミリンゴガイ防除ロータリで圃場試験を行 ったところ,

慣行 ロータリで耕 うん した場合 に比較 して約30ポ イ ン

ト殺貝率が向上 し,貝 の生息密度が40~48%減 少 した。

本 ロータリは構造が簡単なため比較的安価であり,慣

行と同様 に耕 うん作業を行 うことでスク ミリンゴガイの

防除効果を高めることがで きる。

謝 辞

膨大な調査に協力いただいた研究室スタッフの皆様,

試作機の製作に関 しご指導 ・ご協力 していただいた小橋

工業(株)の 皆様,ま た本論文作成 にご協力いただいた生

研センター畜産工学研究部,山 名伸樹氏,志 藤博克氏に

この場をお借 りして感謝の意を表 します。

References

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Horticulture, 62 (5), 612-616. Kiyota, Y., Hayashi, Y., Yamanaka, M., 1990. The method of

Control to the Apple Snail, Pomacea canaliculata (La- marck), by IBP Gramure (in Jananese). New Technology

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(原 稿 受 理:2004年5月12日 ・質 問期 限:2005年3月31日)

Page 7: Development of Technology by Rotary Tiller to Control the

74  農 業 機 械 学 会 誌 第67巻 第1号(2005)

コ メ ン ト

[閲読者のコメン ト]

直刃にはやはり排絡角を持たせ るべきではないで しょ

うか。 その場合,殺 貝率はどれ位低下す ることになるの

か(ほ とんど問題ないのか),必 要な トラクタの大 きさ

はどうなるのかの確認はされないので しょうか。

[コメン トに対する著者の見解]

仰るとおり,営 農現場では殺貝率がある程度低下 して

も,わ らなどを噛まない措置が必要です。メーカよりト

ルクの問題か らもその方が望ま しいとの意見 も頂 いてお

ります。 よって直刃 に排絡角を持たせ,軟 らかい土壌で

の殺貝効果の低下 と必要 トルクの減少が予想されます。

スク ミリンゴガイの根絶 は現実的に不可能 という専門家

の意見 もあります し,将 来的な環境問題の高まりととも

に本技術が普及する可能性 もありますので,改 良および

性能確認する必要があると考えております。