第4章 実証試験とその評価
1 電波伝搬特性試験
(1)試験項目
①特性試験項目
(ア)電界強度
(イ)RSSI1)値
(ウ)単位時間あたりのパケット損失
②試験パラメータ
(ア)親機の高さ
・地上高 45cm(児童の腰の高さとして子機間中継時を想定)
・地上高 135cm(大人の胸、校門の高さの置いた中継機を想定)
(イ)子機の高さ及び方向パターン
・人物(地上高約 45cm)での値(前面、半身、裏面)
・台(地上高約 45cm)での値
(2)試験環境
①試験場所・月日
屋外の電波の反射、他電波干渉等の少ない場所での試験を計画し、次の両日に試験
を実施した。
2006 年 8 月 9 日 波佐谷小学校運動場
2006 年 10 月 13 日 金沢テクノパーク運動場
②天候
地面の特性を同一にするため、雨天でないときに実施した。
③試験機
クロスボー株式会社 Mote MICAz MPR2400J 2.4GHz
IEEE802.15.4 準拠、ZigBee®版 日本国内技適2)
試験機は、定格出力(1mW:0dBm)とし、1秒ごとに情報(パケット)発信した。
1) RSSI(Received Signal Strength Indicator):「受信信号強度」であり、受信機に入る受信信号の
強度を示す数値で、受信した受信機入力電圧の対数値とほぼ比例した値を生成し、RSSI 値として出力
している。 2)電波法令で定めている技術基準に適合している無線機であることを証明するもの。適合しているもの
には、「技適マーク」が付けられる。
- 36 -
④測定器
(ア)電界強度:アンリツ MS2711B ハンドヘルドスペクトラムアナライザ
<仕様>
周波数範囲:100kHz~3.0GHz
周波数スパン:100kHz~3GHz 及びゼロスパン
掃引時間:≧6500ms フルスパン;510ms ゼロスパン
分解能帯域幅:10kHz/30kHz/100kHz/1MHz
ビデオ帯域幅:100Hz~300kHz(1-3 シーケンス)
振幅測定範囲:+20dBm~表示平均ノイズレベル
表示平均ノイズレベル:≦-115dBm
(≧1MHz、プリアンプオン時代表値)
≦-95dBm
(≧500kHz、プリアンプオフ時代表
値)
(イ)アンテナ:ELECTRO-METRICS 社 EM-6961
RIDGED GUIDE ANTENNA
※アンテナ特性利得があるため、実測値から約7.75dBmの補正減を
行った。
(ウ)RSSI:試験機による通信状態をモニターソフトウエアである XSniffer(クロス
ボー株式会社)により測定
(エ)パケット数:試験機による通信状態をモニターソフトウエアである MoteView
(クロスボー株式会社)により測定
- 37 -
(3)試験イメージ
60m 40m
PC
パケット損失測定
子機
親機
50m
RSSI値測定
PC
電界強度測定器
45cm
45cm又は 135cm
回転(4方向)
パターンC パターンDパターンA 台上パターンB
人間
【C】
【D】
【A】
【B】
【パターンA~D】人間の腰(側面)に布製の袋に入れた子機を設置し、体ごと回転する
親機
【台*上】
*:木製の台
アンテナ
子機
【台*上】
アンテナ
*:木製の台
60m 40m
PC
パケット損失測定
子機
親機
50m
RSSI値測定
PC
電界強度測定器
45cm
45cm又は 135cm
回転(4方向)
パターンC パターンDパターンA 台上パターンB
人間
【C】
【D】
【A】
【B】
人間
【C】
【D】
【A】
【B】
【パターンA~D】人間の腰(側面)に布製の袋に入れた子機を設置し、体ごと回転する
親機
【台*上】
*:木製の台
アンテナ
子機
【台*上】
アンテナ子機
【台*上】
アンテナ
*:木製の台
図 4.1-1 電波伝搬特性試験イメージ
- 38 -
(4)試験結果
①電界強度特性
(ア)試験特性結果
親機の高さを 45cm、135cm とした距離特性を RSSI 値も合わせて図 4.1-2
~図 4.1-4 に示す。
45cm 135cm凡例: 45cm 135cm凡例:
-85.44
-97.15-98.92
-89.99
-96.44
-100.18
-81
-92
-79.5
-90
-92
-120
-110
-100
-90
-80
-70
-60
5m 10m 30m 50m
電界強度(dBm)(棒グラフ)
-100
-95
-90
-85
-80
-75
-70
RSSI(折れ線グラフ)
人間
【C】
【D】
【A】
【B】
【パターンA~D】
親機人間
【C】
【D】
【A】
【B】
【パターンA~D】
人間
【C】
【D】
【A】
【B】
【パターンA~D】
親機
測定せず
図 4.1-2 台上 RSSI・電界強度特性
-88.92
-97.18-99.34 -98.75
-90.51
-95.94
-99.51
-73.5
-88
-92
-79
-92 -92
-120
-110
-100
-90
-80
-70
-60
5m 10m 30m 50m
電界強度(dBm)(棒グラフ)
-100
-95
-90
-85
-80
-75
-70
RSSI(折れ線グラフ)
測定せず
図 4.1-3 パターン B RSSI・電界強度特性
- 39 -
-100.82 -101.27 -101.44 -101.32-100.61 -101.06-100.01
-92.5
-94
-120
-110
-100
-90
-80
-70
-60
5m 10m 30m 50m
電界強度(dBm)(棒グラフ)
-100
-95
-90
-85
-80
-75
-70
RSSI(折れ線グラフ)
測定せず
図 4.1-4 パターン D RSSI・電界強度特性
(イ)分析・評価
各パターンにおける距離別の特性を見ると、以下のとおりである。
・台上、パターン B の特性から、親機の高さが高くなると、電界強度が大きく
なる。
・台上、パターン B の特性から、5m~30m では電界強度の低下が大きく、そ
れをすぎると横ばい状態で、-100dBm を超えると、RSSI 値の測定が困難と
なった。
・パターン D の特性から、5m でも-100dBm の電界強度となり、RSSI 値の測
定が不安定で通信困難となった。
②パターン別距離特性
(ア) 試験特性結果 親機の高さを 45cm、135cm とした試験パラメータにおける距離特性を、図
4.1-5~図 4.1-9 に示す。
なお、パケット数については、毎秒パケット送信を行い、100 秒間の測定結果
をログにて集計した。この測定において、試験機のリンクレベルの再送機能によ
り、本来データパケット 100 受信が正確な送受信であるが、その中において受信
ができなかった場合に再送が実行される。この再送が 1 データパケットに対して
複数の再送パケットが送信(最大 6 回)されることがあるため、
パケット数=データパケット数+再送パケット数
でカウントされることから、100 を超えているものも発生した3)。
3) 附属資料6「パケット調査試験」参照
- 40 -
:45cm :135cm凡例:
パケット数には再送を含む(付属資料6「パケット調査試験」参照) 人間
【C】
【D】
【A】
【B】
【パターンA~D】
親機人間
【C】
【D】
【A】
【B】
【パターンA~D】
人間
【C】
【D】
【A】
【B】
【パターンA~D】
親機
104 103 103 104 103 103
0 0
103 104 104 104
112 110
103
53
-70
-74
-79
-85-86.5
-91.5 -91.5-93
-80-79 -79
-83
-91 -90-88
-95
0
20
40
60
80
100
120
5m 10m 15m 20m 25m 30m 35m 40m 45m 50m 55m 60m
パケット数(棒グラフ)
-120
-110
-100
-90
-80
-70
-60
RSSI(折れ線グラフ)
※
※送出パケット数【再送パケットを含む】
図 4.1-5 台上パターン距離特性
103 104 103 103 104
9296
0
51
38
104 104108
104 103 104
83
107
-78
-85.5 -86.5-88
-92 -93 -93-94.5
-93-91
-96
-82
-90.5 -89.5-88 -87 -88
-90.5
-94
0
20
40
60
80
100
120
5m 10m 15m 20m 25m 30m 35m 40m 45m 50m 55m 60m
パケット数(棒グラフ)
-120
-110
-100
-90
-80
-70
-60
RSSI(折れ線グラフ)
※
※送出パケット数【再送パケットを含む】
図 4.1-6 パターン A 距離特性
- 41 -
104 104 104 103 104
110 110
91
102
33
2 0
103107
103 104 104
94 96
0
-75
-83.5-81.5
-84.5
-87.5
-93.5
-84.5
-91.5-94
-80.5
-87
-91.5
-83.5
-93
-88.5
-93 -93.5
0
20
40
60
80
100
120
5m 10m 15m 20m 25m 30m 35m 40m 45m 50m 55m 60m
パケット数(棒グラフ)
-120
-110
-100
-90
-80
-70
-60
RSSI(折れ線グラフ)
※
※送出パケット数【再送パケットを含む】
図 4.1-7 パターン B 距離特性
104 104 103 104 103
1
103 101 99103
0
44
104
55
104 103 103
7
102
0
-74
-77
-84
-87.5 -87
-94-92.5
-94.5 -94
-91
-94 -93.5
-82.5
-87-88
-89.5-91 -90.5 -90.5 -91
0
20
40
60
80
100
120
5m 10m 15m 20m 25m 30m 35m 40m 45m 50m 55m 60m
パケット数(棒グラフ)
-120
-110
-100
-90
-80
-70
-60
RSSI(折れ線グラフ)
※
※送出パケット数【再送パケットを含む】
図 4.1-8 パターン C 距離特性
- 42 -
34 36
0
8
0
-93.5
0
20
40
60
80
100
120
5m 10m 15m 20m 25m 30m 35m 40m 45m 50m 55m 60m
パケット数(棒グラフ)
-120
-110
-100
-90
-80
-70
-60
RSSI(折れ線グラフ)
※
※送出パケット数【再送パケットを含む】
図 4.1-9 パターン D 距離特性
(イ)分析・評価
各パターンにおける距離別の特性を見ると、以下のとおりである。
・各パターンでのパケット数が 100 を超えるものについては、測定対象データ
パケットの親機での受信不良または子機での Ack 受信不良による再送パケッ
ト複数回送信の影響であるが、この再送により情報データが損失せずに親機へ
伝達されている。
・台上、パターン A、B、C 特性から、親機の高さが高くなると、通信到達距離
が延びる。
・台上、パターン A、B、C 特性から、親機 45cm の高さで到達距離が約 30m
~50m くらいまで、135cm では 45m~55m くらいまで延びている。
・パターン D の特性から、5m でもパケット数 34 と不安定でデータパケット
(再送を含む)が損失することが多く、通信困難となった。
③距離別パターン特性
(ア)試験特性結果
距離別の各パターンにおける特性を図 4.1-10~図 4.1-15 に示す。
- 43 -
:45cm :135cm凡例:
パケット数には再送を含む(付属資料6「パケット調査試験」参照)
人間
【C】
【D】
【A】
【B】
【パターンA~D】
親機人間
【C】
【D】
【A】
【B】
【パターンA~D】
人間
【C】
【D】
【A】
【B】
【パターンA~D】
親機
103 104 104 104
36
103 104 103 104
8
-74
-85.5-83.5
-77-80
-82 -80.5-82.5
0
20
40
60
80
100
120
台上 パターンA パターンB パターンC パターンD
パケット数(棒グラフ)
-120
-110
-100
-90
-80
-70
-60
RSSI(折れ線グラフ)
※
※送出パケット数【再送パケットを含む】
図 4.1-10 10m パターン特性
104 103 103 104104 104 107
55
-79
-86.5
-81.5-84
-79
-90.5-87 -87
0
20
40
60
80
100
120
台上 パターンA パターンB パターンC パターンD
パケット数(棒グラフ)
-120
-110
-100
-90
-80
-70
-60RSSI(折れ線グラフ)
※
※送出パケット数【再送パケットを含む】
図 4.1-11 20m パターン特性
- 44 -
103
92
110
1
104108
103 104
-83
-89.5-91.5
-88
0
20
40
60
80
100
120
台上 パターンA パターンB パターンC パターンD
パケット数(棒グラフ)
-120
-110
-100
-90
-80
-70
-60
RSSI(折れ線グラフ)
※
※送出パケット数【再送パケットを含む】
図 4.1-12 30m パターン特性
0 0
91
101103 104 104 103
-93 -94.5-91.5
-94.5
-88 -88
-83.5
-89.5
0
20
40
60
80
100
120
台上 パターンA パターンB パターンC パターンD
パケット数(棒グラフ)
-120
-110
-100
-90
-80
-70
-60
RSSI(折れ線グラフ)
※
※送出パケット数【再送パケットを含む】
図 4.1-13 40m パターン特性
- 45 -
33
103110
104
94
7
-91-90-88 -88.5
-90.5
0
20
40
60
80
100
120
台上 パターンA パターンB パターンC パターンD
パケット数(棒グラフ)
-120
-110
-100
-90
-80
-70
-60
RSSI(折れ線グラフ)
※
※送出パケット数【再送パケットを含む】
図 4.1-14 50m パターン特性
8
44
53
107
0 0
-96-93.5-95 -94 -93.5
-91
0
20
40
60
80
100
120
台上 パターンA パターンB パターンC パターンD
パケット数(棒グラフ)
-120
-110
-100
-90
-80
-70
-60
RSSI(折れ線グラフ)
※
※送出パケット数【再送パケットを含む】
図 4.1-15 60m パターン特性
(イ)分析・評価
各パターンにおける距離別の特性を見ると、以下のとおりである。
・10m の近距離では、台上、パターン A、B、C 特性はどれも良好で変わらな
いが、D パターンは通信困難となった。
・20m~30m の距離では、台上、パターン A、B 特性はどれもほぼ良好で変わ
らないが、パターン C は多少不安定な面が見られ通信困難となった。パター
ン A と C では、試験機の向きが逆であるが、その違いで影響があるのか不明
である。
・40m の距離では、台上、パターン A 特性が通信困難となったが、パターン B、
- 46 -
C 特性はほぼ良好であった。
・50m の距離では、45cm では通信困難となった。135cm では台上、パター
ン A、B 特性がほぼ良好であったが、パターン C は通信困難となった。
・60m の距離では、135cm のパターン A 特性が良好であったが、その他のパ
ターンは通信困難となった。
・パターン D では、近距離の 10m でも不安定で、それより距離が離れると通
信困難となった。
④子機の向きによる特性
(ア)試験パラメータ
・親機の高さ 135cm
・子機の高さ 45cm
・通信距離 10m
(イ)子機の方向と傾きパターン
パターン a
パターン b
パターン C
パターン d
親機 子機
子機
子機
図 4.1-16 子機の方向
(ウ)試験特性結果
試験機向きパターンにおける特性を図
- 47 -
子機
と傾きパターン
4.1-17 に示す。
105
96
109
20
-81-82
-93
-79
0
20
40
60
80
100
120
パターンa パターンb パターンc パターンd
パケット数(棒グラフ)
-120
-110
-100
-90
-80
-70
-60
RSSI(折れ線グラフ)
※送出パケット数
※
【再送パケットを含む)】
図 4.1-17 親機 135cm、10m パターン特性(向き)
(エ)分析・評価
RSSI 値、パケット損失ともに、パターン d の特性が悪くなっている。これは、
アンテナの向きから推測すると、無線信号がアンテナの軸の同心円上に送られて
いることにより、親機方向への無線信号が届きにくいものと考えられる。
⑤中継距離特性
(ア)試験パラメータ
・親機、中継子機、子機の高さ 45cm
・子機取付パターン パターン C
(イ)試験イメージ
図 4.1-18 中継距離特性
)試験特性結果
~子機の距離の試験結果を表 4.1-1 に示す。
親機 中継子機 子機
距離測定 距離測定
親機 中継子機 子機
距離測定 距離測定
(ウ
親機~中継子機
- 48 -
表 4.1-1 親機~中継子機~子機の通信可能距離結果
30 m ○ ○
35 m ○ ○
40 m ○ ○
45 m ○ ×
40 m × -45 m
中継子機-子機継子機距離
親機-中継子機
35 m
40 m
親機-中距離
40 m
40 m
中継子機-子機
※○:通信可、×:通信不可、-:通信状態把握不可
(エ)分析・評価
機~子機の通信可能距離は、いずれも 40m~45m 程度で通信で
き
(5)総合特性評価
ーンから総合特性評価すると以下のとおりである。
①人間の体が本試験機の電波を反射及び吸収するため、親機から見て人間の体の裏
②試験機の高さが高くなると、電界強度が大きくなる。
ターンでの実測値から、
④試験機の設置場所にもよるが、到達距離は約 30m~50m 程度である。
信感度
⑥親機~中継子機~子機の通信可能距離は、いずれも 40m 程度で、親機~中継子
親機~中継子
なくなり、親機~中継子機と中継子機~子機の距離特性の差はあまり見受けら
れなかった。
以上の各試験パタ
側にある試験機に電波が届きにくい状態となっており、人間の動きによっては通
信が困難になることが発生する。
③さまざまな環境条件により左右されるが、台上、B、D パ
ほぼ電界強度が-100dBm を超えると、パケットの再送が多くなり、通信が不安
定になる傾向にある。
⑤親機、子機試験機のアンテナがお互いに直交状態の位置関係にあると、通
が低下する。
機と中継子機~子機の距離特性の差はあまり見受けられなかった。
- 49 -