代数学序論
志村 真帆呂
プリント置場http://www.ss.u-tokai.ac.jp/~mahoro/2013Spring/alg_intro/
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第1章 数の合同
2013.4.8, 代数学序論 (情報数理学科)担当:志村真帆呂
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1.1 数を数える
代数学の基本は数を数えることです.まずは簡単な例から見てみよう.
例 1 2013年 4月 16日は 2013年 4月 8日の何日後ですか.
解答 1 16− 8 = 8なので,8日後になります.
では,次の問題はどうでしょう.
例 2 2013年 4月 8日から 2013年 4月 16日までの日数を求めてください.
解答 2 16− 8 = 8なので 8日,ではなく 9日あります.
解説 同じような問題なのに,なぜ 1日のずれがあるのでしょうか.こういったときは,もっと簡単な場合を考えると理解しやすくなります.10日は 8日の 2日後です.これは,10− 8 = 2と計算できます.8日から
10日までの期間は 3日あります.これは,10− 8 = 2という計算だけでは求まりません.これには 8日を数えるかどうかの違いが影響しています.日付 8日 9日 10日 11日 12日 · · · 16日
何日後 0日後 1日後 2日後 3日後 4日後 · · · 8日後日数 1日目 2日目 3日目 4日目 5日目 · · · 9日目結局,8日から 16日までの期間の日数は
16− 8 + 1 = 9
という計算で得られることがわかります.1を足すのは初日である 8日を数えているからです.
計算法が正しいかどうか迷ったときに役に立つ技術
簡単な状況を考え,その計算法が正しいかを確認する.この説明では,8日と 10日という簡単な状況を考えた.
2 第 1章 数の合同
問題 1 次の問いに答えてください.
(i). 2013年 4月 22日は 2013年 4月 8日の何日後ですか.
(ii). 2013年 4月 8日から 2013年 4月 29日までの日数を求めてください.
(iii). 2013年 4月 22日は 2013年 3月 26日の何日後ですか.
(iv). 2013年 3月 26日から 2013年 4月 14日までの日数を求めてください.
1.2 用語の定義
定義 1 (自然数,整数,有理数,実数,複素数)
• Nで自然数の全体の集合,
• Zで整数の全体の集合,
• Rで実数の全体の集合,
• Cで複素数の全体の集合
を表します.
(注意) 黒板に書くときは,N,Z,R,C のように書きます.ノートや解答するときも同じように書いてください.細い字で N , Z, R, C のように書くと自然数の全体の集合などの意味は無
いので注意しましょう.
定義 2 (倍数,約数) a, bを整数とする.ある整数 nがあって
b = na
となるとき,bを aの倍数,aを bの約数という.また,aが bの約数のとき,aは bを割り切るという.
例 3 91は 13の倍数であることを示してみよう.(証明)整数 13と 91に対し,整数 7があって 91 = 7× 13となる.よって,倍数の定義より 91は 13の倍数である.
(注意) a = 13, b = 91, n = 7と対応させると,倍数の定義を満たしていることがわかります.
1.2. 用語の定義 3
問題 2
(i). 18は 3の倍数であることを示してください.
(ii). 7は 35の約数であることを示してください.
(iii). 0は全ての整数の倍数であることを示してください.
(iv). 1は全ての整数の約数であることを示してください.
補題 1 (割り算の原理) 整数 aと,自然数 bに対し,次の式を満たす整数 qと 0 ≤ r < bとなる自然数 rがあります.
a = qb+ r.
この rを aを bで割った余り,qを商といいます.
(注意) これは明らかに思えますが,証明の必要なことです.
例 4 17を 3で割った余りと商,−17を 3で割った余りと商を求めてみよう.
17 = 5× 3 + 2
つまり,17を 3で割った余りは 2,商は 5.
−17 = (−6)× 3 + 1
よって,−17を 3で割った余りは 1,商は−6余りは負にならないので,−17 = (−5)× 3− 2ではないことに注意.
(計算法)負の数を割った余りを求めるには次のようにします.
まず,マイナスを取って,割り算をします.
17 = 5× 3 + 2
両辺を(−1)倍すると,−17 = (−5)× 3 + (−2)余りが0以上の数になるように,余りに割る数 3を加え,商から 1を引く.
−17 = (−5)× 3− 3 + (−2) + 3 = (−5− 1)× 3 + (−2) + 3
−17 = (−6)× 3 + 1
問題 3 次の a, b に対し,上記の条件を満たす q, rをみつけて a = qb+ r の形で表してください.
(i). a = 12, b = 5.
(ii). a = −23, b = 12.
4 第 1章 数の合同
2013.4.11, 代数学序論 (情報数理学科)担当:志村真帆呂
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1.3 曜日を計算する
予定を立てるときなどに,その日が何曜日かを知りたいことがよくあります.もちろん,カレンダーがあればカレンダーを見れば済む話なのですが,いつでもカレンダーが用意されているとは限りません.そこで,効率的に曜日の計算をする方法を考えてみましょう.
1.4 曜日計算のための予備知識
曜日の計算をする前に,いくつかの必要な知識を列挙しておきましょう.
閏 (うるう)年
定義 3 グレゴリオ暦では,閏年の年の 2月は 29日になります.その年が閏年かどうかは次の規則で定まります.
• 西暦年が 4で割り切れる年は,閏年.
• ただし,西暦年が 4で割り切れても,100で割り切れる年は閏年ではない.
• ただし,西暦年が 100で割り切れても,400で割り切れる年は閏年.
例 5 以下は,閏年かどうかの計算例です.
• 1968年は,1968 = 492× 4, 1968 = 19× 100 + 68.つまり,4で割った余りが 0,100で割った余りが 68 ̸= 0.よって,4で割り切れるけれど,100で割り切れないので閏年.
• 1700年は,900 = 225× 4, 1700 = 17× 100, 900 = 4× 400 + 100なので閏年ではない.
• 2000年は,2000 = 500 × 4, 2000 = 20 × 100, 2000 = 5 × 400なので閏年.
問題 4 次の年が閏年かどうかを判定してください.
(i)1834年 (ii)1960年 (iii)2100年. (iv)3600年.
1.5. 曜日計算の方法 5
各月の日数
定義 4 一年の各月の日数は,次の表のようになります.月 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12日数 31 28, 29 31 30 31 30 31 31 30 31 30 31
1.5 曜日計算の方法
西暦 2010年 9月 27日 (月曜日)を基準にして,他の日が何曜日かを計算してみよう.
例 6 2010年 10月 8日は,
9/27 9/28 9/29 30 10/1 2 3 4 5 6 7 8 9月 火 水 木 金 土 日 月 火 水 木 金 土
よって,金曜日.
解説 例 6では,順番に曜日を数えて答えを求めています.この例のように 10日後くらいならこの方法でもすぐに求まりますが,もっと先の日が何曜日かを求めようとすると時間がかかります.そこで,もっと簡単に求められる方法がないかと考えてみましょう.一週間は 7日なので,7日経つと同じ曜日になります.よって,基準の日から何日経ったかを求め,それを 7で割った余りを計算すれば曜日がわかります.
9/27
7 日︷ ︸︸ ︷9/28 9/29 9/30 10/1 2 3 4 5 6 7 8 9.
10月 8日は 9月 27日から数えて 11日後.
11 = 1× 7 + 4.
より,7で割った余りは 4.これを下の表と照合すると,10月 8日は金曜日だとわかります.
曜日 月曜 火曜 水曜 木曜 金曜 土曜 日曜7で割った余り 0 1 2 3 4 5 6
また,過去の日付の曜日を求めるにはマイナスの数を利用すると上の表がそのまま使えて便利です.たとえば,9月 27日を基準にして 9月 17日の曜日を計算するには
17− 27 = −10 = (−2)× 7 + 4.
6 第 1章 数の合同
つまり,10日前を −10日後と考えます.余りが 4なので,表から 9月 17日は金曜日だとわかります.慣れないうちは,一週間くらい前までの日付について以下のような表を書
いて仕組みを理解するとよいでしょう.
日付 9/17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27曜日 金 土 日 月 火 水 木 金 土 日 月日数 −10 −9 −8 −7 −6 −5 −4 −3 −2 −1 0
7で割った余り 4 5 6 0 1 2 3 4 5 6 0
問題 5 上の表を利用して,次の日付の曜日を求めてください.
(i). 西暦 2010年 10月 23日.
(ii). 西暦 2010年 12月 30日.
(iii). 西暦 2010年 8月 30日.
例 7 西暦 2016年 9月 27日は何曜日でしょうか.これに答えるためには,閏年が何年あるのか (正確には,閏日が何日ある
か) が必要になります.
年 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016日数 365 365 366 365 365 365 366
7で割った余り 1 1 2 1 1 1 2
西暦 2010年 9月 27日 (月曜日)を基準にすると,
95 + 365 + 366 + 365 + 365 + 365 + 271 = 2192.
つまり,2192日後になります.(最初の 95は,2010年の残りの日数,最後の 271は 2016年に含まれる日数です )これを 7で割って,
2192 = 313× 7 + 1.
よって,火曜日になります.実は,この計算よりも効率がよい方法があります.
それは,各年の日数を 7で割った余りを足してから,さらに 7で割った余りを求める方法です.95 + 271 = 366 = 7× 52 + 2も利用して実際に計算してみると,
1 + 2 + 1 + 1 + 1 + 2 = 8 = 1× 7 + 1.
1.5. 曜日計算の方法 7
よって,余りが 1なので火曜日.さらに効率を上げるなら,年数を求め,その中に何年閏日があるかを数えます.この問題では,翌年の 9月 27日までを一かたまりにして,1年ずつ数えると年数が 6年,閏日が 2日なので,
6 + 2 = 8 = 1× 7 + 1.
よって,余りが 1となり火曜日.
解説
(i). 日数を全部計算してから 7で割る.
(ii). 各年ごとの日数を 7で割り,その余りを全部足してから 7で割る.
(iii). 年数を求め,さらに閏日の日数を求めて,全部足して 7で割る.
どの方法も正しい答えが求まりますが,下に行くに従って,計算が簡単になることがわかります.ただし,同時になぜそれで答が求まるのかはわかりにくくなります.
(注意) これらの計算が正しいことは,問題を解いてみれば何となくわかると思います.ただし,数学ではこれを証明することにより,はじめて安心して使えるようになります.つまり,証明というのは試験に出るから覚えるといったものではなく,計算法などを安心して使うための心のよりどころだと思ってください.
問題 6
(i). 西暦 2110年 9月 27日は何曜日ですか.
(ii). 西暦 3010年 9月 27日は何曜日ですか.
(iii). 西暦 1980年の体育の日は何曜日ですか.
(iv). 西暦 1945年の体育の日は何曜日ですか.
(v). 自分の生年月日は何曜日ですか.
8 第 1章 数の合同
1.6 まとめ
曜日計算に必要な知識をまとめてみましょう.
• 閏年の規則
• 各月の日数
• 閏年かどうかの判定のために,ある範囲に 4で割り切れる数がいくつあるか,さらに,100で割り切れる数がいくつあるか,という計算が必要
• 割り算の余りを効率的に計算するための方法
これらの知識や技術を理解するには,整数の性質を理解する必要があります.時間が十分にあれば,全部の日数を素朴に数えれば求められますが,それ
ではあまりに効率が悪いので,やはり知恵を使ってみようというわけです.代数学は,様々な問題に現れてくる数の性質などを研究し,問題を解いた
りするのに役立てたりする学問です.
1.7. 前回の復習 9
2013.4.15, 代数学序論 (情報数理学科)担当:志村真帆呂
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1.7 前回の復習
1.7.1 曜日計算
曜日計算の手順
(i). 基準日 (たとえば 2013年 4月 15日とする)から数えて,求めたい日 (たとえば 3025年 5月 25日とする)のある年の同じ日 (3025年4月 15日)が何年後 (3025-2013=1012)かを求める.1年は 365日.365 = 52× 7+ 1なので,1年後の曜日は 1日後の曜日と同じ
(ii). その間に何日閏日があるかを計算する.(閏年の数)=(4の倍数の年の数)−(100の倍数の年の数)+(400の倍数の年の数)253− 10 + 2 = 245閏日の分だけ曜日がずれる.
(iii). 年を考えずに何日後かを計算する.(5月 25日は,4月 15日の 40日後)日数の分だけ曜日がずれる.
(iv). (年数)+(閏日の日数)+(何日後) を 7で割った余りで曜日を求める.(1012 + 245 + 40 = 1297 = 185 × 7 + 2 よって,月曜日の 2日後なので水曜日)(年数)+(閏日の数)+(何日後)を7で割った余りから曜日が求まる.
曜日計算は,基準となる日と知りたい日との日数の差を 7で割った余りを計算して行います.ただし,必要な情報は余りだけなので,素朴に日数を計算するのではなくより効率的な計算の工夫ができます.
例 8 1980年 10月 10日の曜日を計算してみよう.1980年 9月 27日は,2010年 9月 27日 (月曜日)の −30年後.−365 = 7× (−52)− 1より,閏年でなければ 1年前は曜日が 1日前に戻るので,−30日ずれると計算できる.また閏年は,1984, 1988, 1992, 1996, 2000, 2004, 2008 の 7年あるので,さらに −7日ずれると計算できる..1980年 10月 10日は,1980年 9月 27日の 13日後.
−30− 7 + 13 = −24 = 7× (−4) + 4.
よって,月曜日の 4日後の金曜日.
10 第 1章 数の合同
1.7.2 倍数の個数を数える
閏年の数を数える場合には,ある区間に 4の倍数がいくつあるかを数える必要があります.ここではその数え方を復習しておきましょう.植木算と同じ原理です.
例 9 127から 321までの間に 4の倍数がいくつあるかを考えよう.
127 = 4× 31 + 3
321 = 4× 80 + 1
よって,
128 = 4× 32
...
320 = 4× 80
までには,
80− 32 + 1 = 49個の 4の倍数がある.
(注意) 80− 32 + 1 = 49 と 1を足す理由は,2から 6までにいくつ数があるかを計算すると,6 − 2 + 1 = 5という計算になることからもわかります.6− 2 = 4だと 2を数えていないことに注意しよう.
1.8 数の合同
余りだけが必要なとき,余りが同じ数を同じものだと思って計算すると便利なことがあります.曜日計算では,日数の差を 7で割った余りが等しければ曜日が同じでした.
定義 5 (合同) 自然数m,整数a, bに対し,整数 q1, q2と自然数0 ≤ r1, r2 < mがあって{
a = q1m+ r1,
b = q2m+ r2.
と表せる.このとき,r1 = r2 が成り立つことを
a ≡ b (mod m).
と書くことにします.このことを a と b は m を法として合同といい,この式を合同式といいます.
1.9. 合同式の性質 11
(注意) つまり,mで割った余りが等しい数を等しいとみなす記号です.a ≡ b (mod m)は,a− bがmで割り切れると言い換えることもできます.
問題 7
a ≡ b (mod m).
ならば,a− b が m の倍数であることを示してください.
例 10{31 = 2× 13 + 5,
−34 = (−3)× 13 + 5.
なので,
31 ≡ −34 (mod 13).
となります.このことは,次の等式からもわかります.
31− (−34) = 65 = 5× 13.
問題 8 次の二つの数が,法 11で合同かどうかを調べてください.もし合同だったら,それを 合同式で表してください.
(i). 123, 1124.
(ii). −23, 54.
1.9 合同式の性質
補題 2 a,a′, b, b′ を整数,m自然数とする.{a ≡ a′ (mod m),
b ≡ b′ (mod m).
ならば,次が成り立つ.
(i). a+ b ≡ a′ + b′ (mod m).
(ii). ab ≡ a′b′ (mod m).
12 第 1章 数の合同
例 11 (補題 2の応用例) 23895257 と 153121423 の和と積を 13 で割った余りを求めてみよう.
普通に計算すると,非常に桁数の大きな計算になります.
23895257 + 153121426 = 177016683 = 13616667× 13 + 12
23895257× 153121426 = 3658875826476482 = 281451986652037× 13 + 1
しかし,先に 13で割って余りを求めると,
23895257 = 1838096× 13 + 9
153121426 = 11778571× 13 + 3
よって,
23895257 + 153121426 ≡ 9 + 3 = 12 (mod 13)
23895257× 153121426 ≡ 9× 3 = 27 ≡ 1 (mod 13)
と非常に簡単に計算ができます.
解説 例 11でわかるように,余りだけの計算 (剰余計算といいます)は桁数を小さくできます.この性質は,メモリやレジスタの長さに限りがあるコンピュータと非常に相性が良いものです.実際,多くの高速なアルゴリズムが剰余計算を利用しています.
補題 2の証明
{a ≡ a′ (mod m),
b ≡ b′ (mod m).
より,次の 等式が得られます.{a′ − a = q1m,
b′ − b = q2m.
よって,次の 等式が得られます.{a′ = q1m+ a,
b′ = q2m+ b.
この式から a′ + b′ を計算すると,
a′ + b′ = (q1m+ a) + (q2m+ b) = (q1 + q2)m+ (a+ b).
よって,
a+ b ≡ a′ + b′ (mod m).
1.9. 合同式の性質 13
また,
a′b′ = (q1m+a)(q2m+b) = q1q2m2+bq1m+aq2m+ab = (q1q2m+bq1+aq2)m+ab.
よって,
ab ≡ a′b′ (mod m) 2.
問題 9 次の数を 7で割った余りを求めてください.
(i). 1234567
(ii). 75318× 3488
解説 (補題 2の証明の解説)a ≡ a′ (mod m)を言葉で表すと,
「aと a′ はmの倍数の差を無視すると同じ」
となります.だから,ある整数 q1 を用いて a′ = q1m + aと表せます.aを移項すると
a′ − a = q1mとなり,mの倍数なのがわかります.同様に,b ≡ b′ (mod m)から,ある整数 q2 があって,b′ = q2m + bと表せます.よって,a′ + b′ =(q1 + q2)m+ (a+ b)となるので,a+ b ≡ a′ + b′ (mod m) が示せます.
a′︷ ︸︸ ︷︸ ︷︷ ︸q1m
︸ ︷︷ ︸a
b′
︷︸︸
︷︸
︷︷︸
q2m
︸︷︷︸
b ab
面積 = q1q2m2
(mの倍数)
面積 = bq1m(mの倍数)
面積 = aq2m(mの倍数)
表 1.1: ab ≡ a′b′ (mod m)の説明図
全体の面積は a′b′.白い長方形の面積は abなので abと a′b′ の差は網がけ部分の面積ですが,網がけの 3つの長方形は辺の長さがmの倍数なので,面積もmの倍数となり,網がけ部分の面積もmの倍数.よって,ab ≡ a′b′ (mod m)となります.
14 第 1章 数の合同
1.10 合同式の応用 (倍数の判定)
例 12 k + 1個の自然数 0 ≤ n0, n1, · · · , nk ≤ 9, (nk ̸= 0)を用いて k + 1桁の自然数 aが次のように表せます.
a = n0 + n1 × 10 + n2 × 102 + · · ·+ nk10k.
このとき,次の 合同式が成り立ちます.
a ≡ n0 + n1 + n2 + · · ·+ nk (mod 9).
これは,10− 1 = 9より,次の合同式が成り立つことかわわかります.
10 ≡ 1 (mod 9).
両辺を i乗すると
10i ≡ 1i = 1 (mod 9).
よって,
ni × 10i ≡ ni × 1 (mod 9).
全部足すと,
a ≡ n0 + n1 + n2 + · · ·+ nk (mod 9).
が得られます.たとえば,
1241 = 9× 137 + 8
ですが,割り算をしなくても,
1241 ≡ 1 + 2 + 4 + 1 = 8 (mod 9)
なので,余りは 8とわかります.
問題 10 次の数を 9で割った余りを求めてください.
(i). 1234567
(ii). 75318× 3488
問題 11 1, 2, · · · , 9までの数字を一回ずつ使って 9桁の数を作ります.たとえば 148259367などです.このとき,その数が必ず 9で割り切れることを示してください.
問題 12 自然数 aを,k個の自然数 0 ≤ n0, n1, · · · , nk−1 ≤ 9, (nk−1 ̸= 0)を用いて次のように表します.
a = n0 + n1 × 10 + n2 × 102 + · · ·+ nk−110k−1.
このとき,次の 合同式が成り立つことを示してください.
a ≡ n0 − n1 + n2 + · · ·+ (−1)k−1nk−1 (mod 11).
1.11. 最大公約数 15
2013.4.18, 代数学序論 (情報数理学科)担当:志村真帆呂
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1.11 最大公約数
定義 2 [約数 (定義 2再掲)] 整数 aが整数 bの約数であるとは,ある整数 nが存在して次を満たすことです.
b = an.
(注意) この定義は,論理記号を用いて表すとわかりやすくなります.「a ∈ Z が b ∈ Zの約数」⇐⇒
def.∃n ∈ Z s.t b = an.
定義 6 (公約数) 「d ∈ Zが,a, b ∈ Zの公約数」⇐⇒def.
「d ∈ Z が a ∈ Zの
約数」かつ「d ∈ Z が b ∈ Zの約数」
定義 7 (最大公約数) 「d ∈ Zが,a, b ∈ Zの最大公約数」⇐⇒def.
「d ∈ Z は
a, b ∈ Zの一番大きい公約数」a, b ∈ Zの最大公約数を,(a, b)で表します.
例 13 72と 120の最大公約数 (72, 120)は,次のように計算できます.
72 = 23 · 32, 120 = 23 · 3 · 5.
よって,2のベキ乗のうちで最大の公約数は 23, 3のベキ乗のうちで最大の公約数は 32と 3 = 31の小さい方なので 3, 5のベキ乗のうちで最大の公約数は 1 = 50 と 5 = 51 の小さい方なので 1.よって,最大公約数は 23 · 3 = 24.このように,素因数分解がわかっていると最大公約数は簡単に求まります.
問題 13 次の値を素因数分解を用いて計算してください.
(i). 486と 63の最大公約数 (486, 63)
(ii). 456と 1193の最大公約数 (456, 1193)
解説 最大公約数は,今後様々な場面で重要な役割をします.そのために効率的に最大公約数を求める計算法が必要になります.それが互除法です.
16 第 1章 数の合同
1.12 剰余環Z/NZ
定義 8 (倍数の記号NZ) Zを整数全体の集合,N を自然数としたとき,NZでN の倍数全体の集合を表すことにします.集合として定義すると次のようになります.
NZ := {aN | a ∈ Z} = {· · · ,−2N,−N, 0, N, 2N, · · · }.
定義 9 (Z/NZ) N を自然数とします.N を法とした余りは,次の N 個になります.
0, 1, 2, · · · , N − 1
よって,整数全体の集合 Zは,余りがどれになるかで分類できます.
NZ = {· · · ,−kN, · · · ,−2N,−N, 0, N, 2N, · · · , kN, · · · }
は,N を法として余りが 0になる整数全体です.この集合を 0で表し,0の属する剰余類と呼びます.また,他の元 kN を用いて kN と書いても 0を意味します.同様に,N を法として余りが aになる整数全体
a+NZ = {· · · , a−kN, · · · , a−2N, a−N, a, a+N, a+2N, · · · , a+kN, · · · }
を aで表し,aの属する剰余類と呼びます.また,他の元 a+ kN を用いて a+ kN と書いても aを意味します.集合
{0, 1, · · · , N − 1, }
を,Z/NZという記号で表します.
(注意) 本当は,Z/NZの元は xのように書かないといけませんが,面倒なので単に xと書くことも多いです.
Z/NZ = {0, 1, 2, · · · , N − 1}.
定義 10 (Z/NZの演算) Z/NZには,次のようにして加法と乗法が定義されます.
加法 x+ y := x+ y.
乗法 x y := xy.
例 14 N = 8として,Z/8Zでの計算例を見てみよう.
1.13. Z/NZの加法表と乗積表 17
(i). 5 + 7 = 5 + 7 = 12 = 4.Z/8Zでは,12と 4は,12 = 8× 1 + 4なので同じ数です.
(ii). 5× 5 = 5× 5 = 25 = 1.Z/8Zでは,25と 1は,25 = 8× 3 + 1なので同じ数です.
問題 14 Z/13Zで次の計算を行ってください.答えは,0から 12を用いて表すこと.
(i). 23 + 4
(ii). 16− 3
(iii). 8× 5
(iv). 34
1.13 Z/NZの加法表と乗積表
例 15 Z/5Zの加法表と乗積表を書いてみよう.
表 1.2: 加算表
+ 0 1 2 3 40 0 1 2 3 41 1 2 3 4 02 2 3 4 0 13 3 4 0 1 24 4 0 1 2 3
18 第 1章 数の合同
表 1.3: 乗積表
× 0 1 2 3 40 0 0 0 0 01 0 1 2 3 42 0 2 4 1 33 0 3 1 4 24 0 4 3 2 1
問題 15 同様に,Z/6Zの加算表と乗積表を書いてください.
問題 16 Z/5Zと Z/6Zの乗積表の違いを探してください.
問題 17 Z/NZの乗積表が,Z/5Zのパターンになるのはどのようなときでしょうか.
問題 18 Z/NZの乗積表が,Z/6Zのパターンになるのはどのようなときでしょうか.
1.14. 前回の復習 19
2013.4.22, 代数学序論 (情報数理学科)担当:志村真帆呂
http://www.ss.u-tokai.ac.jp/~mahoro/2013Spring/alg_intro/
1.14 前回の復習
Z/NZの世界は,N = 0となっている数の世界です.
解説 N = 8の場合を考えます.8 = 0となっている数の世界,つまり Z/8Zの世界では次のような等式が成り立ちます.
26 = 2
なぜなら 8 = 0 なので,
26 = 3× 8 + 2 = 0× 3 + 2 = 2
となるからです.大切なことは,Z/NZの世界でも足し算と掛け算がうまく定義できることです.
Z/8Zの世界では,26 = 2,−3 = 5
26 + (−3) = 2 + 5, 26× (−3) = 2× 5は計算しなくても成り立つ.
より一般的に書くと Z/NZの世界で,a = a′, b = b′が成り立つとすると
a+ b = a′ + b′, ab = a′b′は計算しなくても成り立つ.
これだけ見ると整数の世界とあまり変わらないように思えますが,違うところもあります.
解説 Z/NZ の世界では,不等式はうまく定義できない.実際,Z/13Z の世界で,普通の整数の世界のように
2 < 7, 3 < 6
としたとする.
整数の世界では
2× 3 < 7× 6,
6 < 42が成り立つ.
しかし,Z/13Zの世界では,
42 = 13× 3 + 3 = 3なので
6 < 42 = 3
となるので最初の 3 < 6と矛盾してしまい,不等号がうまく定まらない.
(注意) Z/NZ の世界では順序が定まらないことを利用して暗号が作られたりします.
20 第 1章 数の合同
1.15 互除法
この節では,整数 a, bの最大公約数 (a, b) を効率的に求める方法,互除法を学びます.
定義 11 (約数の記号) a, bを整数とする.aが bの約数であることを a|bで表し,aは bを割り切るという.
補題 3 a, b, n ∈ Zに対し,次の等式が成り立つ.
(a, b) = (a− nb, b).
(証明) (a, b) = dとすると,∃x, y ∈ Z s.t. a = dx, b = dy.a− nb = dx− n(dy) = d(x− ny) より,d|(a− nb, b).逆に,(a− nb, b) = d′ とすると,∃x′, y′ ∈ Z s.t. a− nb = d′x′, b = d′y′.
a = (a− nb) + nb = d′x′ + n(d′y′) = d′(x′ + ny′) より,d′|(a, b).よって,d = d′ となり,等号成立. 2
解説 証明は以上の通りですが,慣れないと何をやっているのかわからないものです.ポイントとなる事実として次を用いています.d, d′ を自然数,d|d′ かつ,d′|dならば,d = d′
この証明では,(a, b) = d, (a− nb, b) = d′なので,dと d′が互いの約数となることを示せば,(a, b) = (a− nb, b)が言えます.
a,b ∈ Zについて次のような割り算を考える.
a = bq1 + r1, 0 ≤ r1 < |b|.a1 := b, b1 := r1.
a1 = b1q2 + r2, 0 ≤ r2 < b1.
a2 := b1, b2 := r2.
a2 = b2q3 + r3, 0 ≤ r3 < b2.
......
|b| > r1 > r2 > · · · ≥ 0より,最後には rn+1 = 0となる
an−1 = bn−1qn + rn, 0 ≤ rn < bn−1.
an := bn−1, bn := rn.
an = bnqn+1.
補題 3より,
(a, b) = (a− bq1, b) = (r1, b) = (r2, b1) = · · · = (rn, bn−1) = rn.
よって,rn = (a, b)が得られました.この方法を互除法といいます.
1.15. 互除法 21
例 16 最大公約数 (391, 221)を求めてみよう.
391 = 221× 1 + 170.
221 = 170× 1 + 51.
170 = 51× 3 + 17.
51 = 17× 3.
よって,
(391, 221) = 17.
(注意) 互除法による最大公約数の計算は,素因数分解による計算に比べて非常に速いものです.
問題 19 次の最大公約数を計算してください.
(i). (48, 36)
(ii). (1813, 777)
(iii). (11753, 8687)
問題 20 次の分数を約分してください.
(i).51
119
(ii).133
209
22 第 1章 数の合同
2012.4.29, 代数学序論 (情報数理学科)担当:志村真帆呂
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1.16 整数解と不定方程式
定義 12 (不定方程式) 変数が 2つで,方程式が 1つのように,変数の数が式の数より多い方程式を不定方程式といいます (さらに,整数解 (定義 13)を求める場合に限定して不定方程式というのが普通です)
例 17 以下の変数 x,yについての方程式は,それぞれ不定方程式です.
• 3x+ 4y = 5
• x2 + y2 = 13
定義 13 (整数解) 全ての変数の値が整数になっている解を,その方程式の整数解といいます.
例 18 (整数解の例) (x, y) = (2,−3)は,方程式
5x+ 3y = 1
の整数解になっています.
(x, y) =
(1,−4
3
)は,この方程式の解になっていますが,yの値 −4
3が整
数でないので整数解ではありません.
解説 世の中には,解が整数解でないと意味がない問題があります.上の不定方程式は,ラグビーの試合で Aチームと Bチームのトライ数の差が x回(追加の 2点は全て失敗とする),ペナルティキック数の差が y回で,Aチームが 1点勝ちという状況を表しています.このとき xや yの値が整数でなかったら意味がないことは明白です.
1.17 不定方程式 ax+ by = cの解法
例 16では,391と 221の最大公約数 (391, 221) = 17を互除法を用いて計算しました.実は,この計算から
391x+ 221y = 17.
を満たす x, y ∈ Zが求められます.
1.17. 不定方程式 ax+ by = cの解法 23
このことは,互除法の計算を逆にたどっていけば求まります.また,行列表示をすると見通しがよくなります.例 16の互除法の計算を行列で書いてみると次のようになります.
391 = 221× 1 + 170 ↔(
391221
)=
(1 11 0
)(221170
).
221 = 170× 1 + 51 ↔(
221170
)=
(1 11 0
)(17051
).
170 = 51× 3 + 17 ↔(
17051
)=
(3 11 0
)(5117
).
(注意) 例えば,
170 = 51× 3 + 17 ↔(
17051
)=
(3 11 0
)(5117
)という対応は次のようになっています.{
170 = 3× 51 + 1× 1751 = 1× 51 + 0× 17
これを行列で表すと,次のようになります.(17051
)=
(3× 51 + 1× 171× 51 + 0× 17
)=
(3 11 0
)(5117
)
(注意) これらの行列表示に現れるベクトルは,互除法の計算に現れる数を二つずつ順に並べたものになっています.この例だと,
391, 221, 170, 51, 17
の順に数が現れますが,それに応じてベクトルも(391221
),
(221170
),
(17051
),
(5117
)の順に現れます.
(391221
)=
(1 11 0
)(1 11 0
)(3 11 0
)(5117
).
24 第 1章 数の合同
よって,(5117
)=
(3 11 0
)−1(1 11 0
)−1(1 11 0
)−1(391221
).
(5117
)=
(0 11 −3
)(0 11 −1
)(0 11 −1
)(391221
).(
5117
)=
(−1 24 −7
)(391221
)=
(391× (−1) + 221× 2391× 4 + 221× (−7)
).
第 2成分より,
17 = 391× 4 + 221× (−7).
となります.これにより,391 と 221 の最大公約数 (391, 221) = 17 が 391x + 221y,
x, y ∈ Zの形で書けました.
(注意) ここに現れるベクトルは,次の最大公約数の等式に対応しています.
(391, 221) = (221, 170) = (170, 51) = (51, 17).
また,行列を用いると,計算の仕組みが見易くなり,しかも計算を間違えにくくなる効果があります.
解説 例 16の互除法の計算を行列で書いてみると次のようになります.(391221
)=
(1 11 0
)(221170
).
これは,互除法の以下の計算を行列で書いたものです.{391 = 1× 221 + 1× 170,
221 = 1× 221 + 0× 170.
以下同様に,(221170
)=
(1 11 0
)(17051
).{
221 = 1× 170 + 1× 51,
170 = 1× 171 + 0× 51.(17051
)=
(3 11 0
)(5117
){170 = 3× 51 + 1× 17,
51 = 1× 51 + 0× 17.
1.17. 不定方程式 ax+ by = cの解法 25
ax+ by = cの解法
ax+ by = cの整数解は,次の手順で得られます.
(i). 最大公約数 (a, b) = dを互除法で求める.
(ii). cが dの倍数でなければ解なし.
(iii). cが dの倍数ならば,両辺を dで割った式を考える.つまり,a = da′, b = db′, c = dc′ とすると,a′x + b′y = c′ を考える.
(iv). 互除法の計算の行列表示を用いて a′x0 + b′y0 = 1となる x0, y0を求める.
(v). (x, y) = (x0c′, y0c
′)が一つの解となる.
(vi). 全ての解は,
(x, y) = (x0c′ + b′t, y0c
′ − a′t).
ただし,tはパラメータとなる.
不定方程式 ax+ by = cの解法は,次の方針で行います.
不定方程式 ax+ by = cの解法の方針
(i). 互除法で a, bの最大公約数 (a, b)を求める.
(ii). 互除法の計算を用いて,ax+ by = cの解を一つ見つける.
(iii). パラメータを用いて,ax+ by = cの解を全て求める.
解を全て求めるところでは,次の補題を用います.
補題 4 a, bを整数.dを aと bの最大公約数とする.不定方程式
ax+ by = 0
の解は,a = da′, b = db′ とすると{x = b′t
y = −a′t, (t ∈ Zはパラメータ)
となる.
26 第 1章 数の合同
(証明)
ax+ by = 0
da′x+ db′y = 0
両辺を dで割ると,
a′x+ b′y = 0
dが aと bの最大公約数だったので,a′と b′は互いに素.
a′x = −b′yより左辺は b′の倍数ですが,(a′, b′) = 1から xが b′の倍数.
よって,x = b′t, t ∈ Zと表せる.
これを a′x = −b′yに代入すると,a′b′t = −b′yより y = −a′t.x = b′t, y = −a′tとなり,補題が示せました.
解説 (全ての解の求め方) ax + by = c の一つの解を x = x0, y = y0 とする.ax+ by = c の全ての解は,x0, y0 を用いて次のように求められます.
ax+ by = c
ax0 + by0 = c
両辺を引くと,
a(x− x0) + b(y − y0) = 0
よって,補題の形になるので
x− x0 = b′t, y − y0 = −a′tこれより,x = x0 + b′t, y = y0 − a′tが全ての解になる.
解説 実際に整数解を求めるときには,a, bの最大公約数 dが求まった時点で ax+ by = cの両辺を dで割ってから計算するとわかりやすい.もちろん,cが dで割れない場合は「解なし」となります.
例 19
391x+ 221y = 34
の整数解を求めてみよう.互除法により (391, 221) = 17 なので,方程式の両辺を 17で割る.
23x+ 13y = 2
1.17. 不定方程式 ax+ by = cの解法 27
例 16の互除法の計算を行列で書いてみると次のようになります.(391221
)=
(1 11 0
)(221170
).
これの両辺を 17で割ると,(2313
)=
(1 11 0
)(1310
).
となり,掛けられる行列は変りません.
以下同様に,(1310
)=
(1 11 0
)(103
).(
103
)=
(3 11 0
)(31
)(
2313
)=
(1 11 0
)(1 11 0
)(3 11 0
)(31
)
(3 11 0
)−1(1 11 0
)−1(1 11 0
)−1(2313
)=
(31
)(
0 11 −3
)(0 11 −1
)(0 11 −1
)(2313
)=
(31
)(−1 24 −7
)(2313
)=
(31
)(
23× (−1) + 13× 223× 4 + 13× (−7)
)=
(31
)よって,23× 4 + 13× (−7) = 1を得る.
つまり,23と 13の最大公約数を 23x+ 13yの形で表せた.
求めたいのは 23x+ 13y = 2の解なので,両辺を 2倍すると
23× 4× 2 + 13× (−7)× 2 = 1× 2
23× 8 + 13× (−14) = 2
よって,x = 8, y = −14という一つの解が求まりました.
28 第 1章 数の合同
(注意) 行列
(a bc d
)は,ad− bc ̸= 0のとき逆行列を持ち,
(a bc d
)−1
=1
ad− bc
(d −b−c a
)となります.
よって,行列
(a 11 0
)の逆行列は次のようになります.
(a 11 0
)−1
=1
a× 0− 1× 1
(0 −1−1 a
)=
(0 11 −a
).
例 20
391x+ 221y = 35
の整数解を求めてみよう.互除法により (391, 221) = 17 なので,方程式の両辺を 17で割ろうとする
と左辺は 17の倍数なのに,右辺が 17 の約数でないので整数解なしとなります.
17(23x+ 13y) = 35
このように書くと,35が 17で割れないと整数解が存在しないことがよくわかります.
(注意)
ax+ by = (da′)x+ (db′)y = d(a′x+ b′y)
より,ax+ byは必ず dの倍数になるので,もし cが dの倍数でなければ,解は存在しません.上記の手順で全ての解を求まるのはなぜでしょうか.それには直前に求めた一つの解 (x, y) = (x0, y0)を利用するのが簡明です.これ以外の解を (x, y) = (x1, y1)とします.当然,これらは次の等式を満
たします.{ax1 + by1 = c
ax0c′ + by0c
′ = c.
辺々を引くと,
a(x1 − x0c′) + b(y1 − y0c
′) = 0.
1.17. 不定方程式 ax+ by = cの解法 29
を得ます.a, bの最大公約数 (a, b) = dを用いて a = da′, b = db′ と書けるので,
da′(x1 − x0c′) + db′(y1 − y0c
′) = 0.
両辺を dで割って,
a′(x1 − x0c′) + b′(y1 − y0c
′) = 0.
移項すると,
a′(x1 − x0c′) = −b′(y1 − y0c
′).
(a′, b′) = 1 (もし 1より大きいとすると,dが a,bの最大公約数に反する) より,(x1 − x0c
′)は b′ の倍数,(y1 − y0c′)は a′ の倍数になる.
よって,
x1 − x0c′ = b′t
とすると,
y1 − y0c′ = −a′t
となり,任意の解 (x1, y1)は必ず次のように書けます.
(x1, y1) = (x0c′ + b′t, y0c
′ − a′t).
よって,全ての解は,
(x, y) = (x0c′ + b′t, y0c
′ − a′t), (t ∈ Z, t :パラメータ).
例 21 次の方程式を解いてみよう.
391x+ 221y = 34.
例 16の計算より,(391, 221) = 17.17 | 34より解はある.
17 = 391× 4 + 221× (−7).
34 = 17× 2より,
(x, y) = (8,−14).
が一つの解.
391 = 17× 23, 221 = 17× 13.
より,全ての解は,tをパラメータとして
(x, y) = (8 + 13t,−14− 23t).
30 第 1章 数の合同
問題 21 次の不定方程式を解いてください.
(i). 3x+ 2y = 0
(ii). 18x+ 15y = 0
(iii). 7x+ 5y = 1.
(iv). 7x+ 5y = 3
(v). 18x+ 15y = 3
(vi). 18x+ 15y = 2
(vii). 209x+ 57y = 19.
(viii). 209x+ 57y = 17.
(ix). 209x+ 57y = 76.
1.18 レポート問題 (4月25日 (木)の補講)
問題 22 以下の問いに計算過程をはっきり書いて答えてください.計算過程が不完全なものは解答と認めません計算には,9ページの手順を利用するとよい.また,Web上の万年カレンダーなどを用いて答えが正しいことを確認する
こと.
(i). 50年~70年後の 9月から一日選び,レポートを行った日を基準としてその日の曜日を求めてください.
(ii). 50年~70年前の 3月から一日選び,レポートを行った日を基準としてその日の曜日を求めてください.
(iii). 1100年~1300年後の 7月から一日選び,レポートを行った日を基準としてその日の曜日を求めてください.
問題 23 自分の学生証番号の下 4桁に 2桁追加して 6桁の数を作る.(1BSS9999なら,たとえば 12を追加して 999912を作るという意味です)この数が 9の倍数にも 11の倍数にもなるようにしてください.また,どのように考えてその数を求めたかも説明してください.
1.19. 前回の補足 31
2013.5.2, 代数学序論 (情報数理学科)担当:志村真帆呂
http://www.ss.u-tokai.ac.jp/~mahoro/2013Spring/alg_intro/
1.19 前回の補足
解説 ax+ by = 0 の全ての解は,d = (a, b), a = da′, b = db′ とすると{x = b′t
y = −a′t (t ∈ Z)
となるのでした.{x = bt
y = −at (t ∈ Z)
は,ax+ by = 0 の解にはなりますが,d > 1のときは全ての解になりません.
例 22
391x+ 221y = 0
の全ての整数解について調べてみよう.
391 = 17× 23, 221 = 17× 13, 34 = 17× 2.
上記の記号を用いると,a = 391, b = 221, d = 17, a′ = 23, b′ = 13です.{x = 221t
y = −391t (t ∈ Z)
を 391x+ 221y = 0の左辺に代入すると,
391× 221t+ 221× (−391t) = (391× 221− 221× 391)t = 0
よって解になることはわかります.
しかし,
{x = 13t
y = −23t (t ∈ Z)
で表せる解 (具体的には t = 1を代入して得られる解)
{x = 13
y = −23
は,
{x = 221t
y = −391t (t ∈ Z)の形では表せません.
つまり,全ての解を表せないことがわかります.
32 第 1章 数の合同
解説 (全ての解の求め方 (再掲))
ax+ by = c の一つの解を
{x = x0
y = y0とします.
すると, ax+ by = c の全ての解は,x0, y0 を用いて次のように求められます.ここで,d = (a, b), a = da′, b = db′ です.{
x = x1
y = y1を任意の解とします.
ax1 + by1 = c
ax0 + by0 = c
両辺を引くと,
a(x1 − x0) + b(y1 − y0) = 0
X = x1 − x0, Y = y1 − y0とすると,方程式は aX + bY = 0の形になります.
これの解は,X = b′t, Y = −a′t元に戻すと,x1 − x0 = b′t, y1 − y0 = −a′tよって任意の解が次のように表されます.{x = x0 + b′t
y = y0 − a′t (t ∈ Z)
例 23
391x+ 221y = 34
の整数解を求めてみよう.
391 = 17× 23, 221 = 17× 13, 34 = 17× 2.
よって,d = 17, a′ = 23, b′ = 13, c′ = 2となります.
前もって求めた 23x+ 13y = 1の一組の解 x0 = 4, y0 = −7を用いると.全ての解は,{x = 8 + 13t
y = −14− 23t (t ∈ Z)
1.20. 不定方程式の演習 33
1.20 不定方程式の演習
問題 24 次の最大公約数を求めてください.
(i). (1204, 817).
(ii). (2747, 804).
問題 25 次の不定方程式に解があるかどうか判定してください.
(i). 1204x+ 817y = 83.
(ii). 2747x+ 804y = 603.
問題 26 次の a, bに対し,d = (a, b), a = da′, b = db′となる整数 a′, b′, dを求めてください.
(i). a = 1204, b = 817.
(ii). a = 2747, b = 804.
問題 27 次の不定方程式の解を一つ見つけてください.
(i). 28x+ 19y = 1.
(ii). 2747x+ 804y = 67.
問題 28 次の不定方程式の解を一つ見つけてください.
(i). 28x+ 19y = 3.
(ii). 2747x+ 804y = 268.
問題 29 次の不定方程式の解を,全て求めてください.
(i). 28x+ 19y = 0.
(ii). 2747x+ 804y = 0.
問題 30 次の不定方程式の解を,全て求めてください.
(i). 28x+ 19y = 3.
(ii). 2747x+ 804y = 268.
問題 31 次の不定方程式の解を,全て求めてください.
(i). 11x+ 9y = 4.
(ii). 1909x+ 1162y = 498.
(iii). 13332x+ 6767y = 11817.
34 第 1章 数の合同
2013.5.9, 代数学序論 (情報数理学科)担当:志村真帆呂
http://www.ss.u-tokai.ac.jp/~mahoro/2013Spring/alg_intro/
1.21 Z/NZの世界
有理数の世界では,1
7という数は整数ではありません.では,Z/15Zの世
界ではどうでしょうか.ここで,分数とは何かを考えると次の方程式の解だと言うことができます.
7x = 1.
そこで,Z/15Zの元 13を選び,xに代入すると
7× 13 = 91 = 15× 6 + 1 = 1.
となり,確かに上の方程式の解になっています.つまり,Z/15Zの世界では
1
7= 13
となるわけです.
問題 32 Z/15Zの世界で,次の数はどのように書けるでしょうか.
Z/15Z = {0, 1, 2, · · · , 14}
の範囲で答えてください.
(1) − 18. (2)1
2. (3)
4
5.
N を自然数とすると,Z/NZという数の世界を定義できます.Z/NZには整数全体 Zと同じように和と積が定義されますが,大きな違い
が一つあります.それは,1をN 個足すと次のように 0になってしまう性質です.
1 = 1, 1 + 1 = 2, 1 + 1 + 1 = 3, · · · ,N︷ ︸︸ ︷
1 + 1 + 1 + · · ·+ 1 = N = 0.
解説 以前,Z/NZ = {0, 1, 2, 3, · · · , N − 1} と書きましたが,本当は,Z/NZ に N という数が含まれていないわけではありません.N もあるけれど,0と一致してしまうというわけです.
1.21. Z/NZの世界 35
このように,Z/NZの世界では分数で書かれていて Z/NZには含まれないように見えても,実は Z/NZに含まれることがあります.そこで,分数とは何かを今一度考えてみましょう.
一般に,数 a,bがあったとき,分数b
aは次の方程式の解で定義します.
ax = b.
(注意) もちろん,a = 0, b ̸= 0 のときのように,解が無い場合もあります.
そのときは,分数b
aは存在しません.
また,Z/NZの世界だと a ̸= 0でも,分数b
aが存在しない場合があります.
例 24 Z/15Zの世界でも,1
7は次の方程式の解.
7x = 1.
そこで,Z/15Zの乗積表の 7の列を見ると,1があるのは 13の列.そこで,
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 147 0 7 14 6 13 5 12 4 11 3 10 2 9 1 8
Z/15Zの元 13を選び,xに代入すると
7× 13 = 91 = 15× 6 + 1 = 1.
となり,確かに上の方程式の解になっています.つまり,Z/15Zの世界では
1
7= 13
問題 33 Z/7Zの世界で,次の数はどのように書けるでしょうか.
Z/7Z = {0, 1, 2, 3, 4, 5, 6}
の範囲で答えてください.
(1)1
4. (2)
4
5.
36 第 1章 数の合同
1.22 Z/NZでの逆数の計算
a ∈ Z/NZ, (a ̸= 0) の逆数1
aは次の方程式を解いて得られます.
ax = 1.
最も簡単な解法は,Z/NZの乗積表を作って aの列に 1を探し,もし見つかっ
たら 1のある行が1
aに対応します.例題 24参照.
例 25 Z/NZの面白いところは, a ∈ Z/NZ, (a ̸= 0)でも逆数1
aが存在す
るとは限らないことです.実際,Z/15Zで,5の行を見ると
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 145 0 5 10 0 5 10 0 5 10 0 5 10 0 5 10
となるので,1
5は存在しません.
では,どのようなときに逆数が存在しないのでしょうか.それには,方程式
ax = 1
をもう一度見直す必要があります.この方程式は,Z/NZの世界での方程式ですが,整数の世界に戻してやると
ax ≡ 1 (mod N)
という合同式の方程式になります.さらに,これは axと 1がN の倍数だけ差があると考えると,
ax+Ny = 1
という不定方程式の整数解を求めることと同じになります.結局,前節で学んだ不定方程式の解法によって逆数が計算できるわけです.この考え方が素晴しいのは,逆数の計算が乗積表を作成するのに比べてと
ても速くなることと,理論的に扱うのが便利になるという二つの利点があるからです.
例 26 Z/13Zにおいて,1
7を計算しよう.
7x+ 13y = 1
1.22. Z/NZでの逆数の計算 37
13 = 7× 1 + 67 = 6× 1 + 16 = 1× 6.
(137
)=
(1 11 0
)(1 11 0
)(61
).
(61
)=
(1 11 0
)−1(1 11 0
)−1(137
)=
(1 −1−1 2
)(137
).
7× 2 + 13× (−1) = 1.
よって,
1
7= 2.
問題 34 Z/21Zで,次の数を計算してください.
(1)1
11. (2)
1
3. (3)
4
5.
問題 35 0以外の元が Z/NZで必ず逆数を持つための N の条件を求めてください.
38 第 1章 数の合同
2013.5.13, 代数学序論 (情報数理学科)担当:志村真帆呂
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1.23 前回の復習
(注意) x ∈ Z/NZならば,xは {0, 1, 2, · · · , N − 1}の中の一つで表せる.よって,{0, 1, 2, · · · , N − 1}の範囲で解を表すように指示されたときは,この範囲から等しい数を選んで答えること.
a, b ∈ Zとする.Z/NZの世界で,b
aは
ax = b
の解を意味する.これは,Zの世界では
ax+Ny = b
を解くのと同じ.
解説 (a,N) = dとする.
(d = 1のとき)
ax+Ny = bには解があり,b
a∈ Z/NZとなる.
(d > 1のとき)
(d ∤ bのとき)
解なし.b
a̸∈ Z/NZとなる.
(d | bのとき)解 Z/NZの世界でも複数ある.b
aが一つに定まらないので
b
a̸∈ Z/NZと考える.
例 27 Z/21Zの世界,
(b
a=
3
11のとき,(11, 21) = 1)
11x+ 21y = 3には解 x = 6, y = −3があり, 3
11= 6となる.
1.24. Z/NZの加法表と乗積表 (再掲) 39
(d > 1のとき)
(b
a=
2
3のとき,(3, 21) = 3 > 1, 3 ∤ 2)
解なし.2
3̸∈ Z/21Zとなる.
(b
a=
3
6のとき,(6, 21) = 3 > 1, 3 | 3)
6x+ 21y = 3の解は x = 4, 11, 18 となり,Z/21Zの世界でも複数ある.3
6が一つに定まらないので
3
6̸∈ Z/21Zと考える.
1.24 Z/NZの加法表と乗積表 (再掲)
例 28 Z/5Zの加法表と乗積表を書いてみよう.
+ 0 1 2 3 40 0 1 2 3 41 1 2 3 4 02 2 3 4 0 13 3 4 0 1 24 4 0 1 2 3
× 0 1 2 3 40 0 0 0 0 01 0 1 2 3 42 0 2 4 1 33 0 3 1 4 24 0 4 3 2 1
問題 15 Z/6Zの加算表と乗積表を書いてください.
問題 16 Z/5Zと Z/6Zの乗積表の違いを探してください.
問題 17 Z/NZの乗積表が,Z/5Zのパターンになるのはどのようなときでしょうか.
問題 18 Z/NZの乗積表が,Z/6Zのパターンになるのはどのようなときでしょうか.
40 第 1章 数の合同
2013.5.16, 代数学序論 (情報数理学科)担当:志村真帆呂
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1.25 前回の補足 (Mathematica のコマンド)
(* 7を法として 100は 2と合同 *)
Mod[100,7]
2
(* 指定した範囲の要素をリストにする *)
Table[Mod[2*x, 7],{x,0,6}]
{0, 2, 4, 6, 1, 3, 5}
(* 要素を表示する *)(* a=, 2, 空白, Table[Mod[2*x, 7],{x,0,6}] の順で表示している *)
Print["a=", 2," ", Table[Mod[2*x, 7],{x,0,6}]]
a=2 {0, 2, 4, 6, 1, 3, 5}
(* 指定した範囲の操作を繰り返す *)
Do[Print["a=",a ," ",Table[Mod[a*x, 7],{x,0,6}]], {a,0,6}]
a=0 {0, 0, 0, 0, 0, 0, 0}a=1 {0, 1, 2, 3, 4, 5, 6}a=2 {0, 2, 4, 6, 1, 3, 5}a=3 {0, 3, 6, 2, 5, 1, 4}a=4 {0, 4, 1, 5, 2, 6, 3}a=5 {0, 5, 3, 1, 6, 4, 2}a=6 {0, 6, 5, 4, 3, 2, 1}
1.26. 今までのまとめ 41
1.26 今までのまとめ
1.26.1 定義について
例 29 (倍数) 「18が 9の倍数であることを示せ」このような問題にどう答えたらよいかは,作法を知らないとわかりません.ポイントは,「倍数」の定義にあてはめることです.
a, b ∈ Zに対し,ある n ∈ Zがあって b = naとなるとき,「bは aの倍数」という.
これが倍数の定義でした.だから,a, b, nを適切に選んで定義の条件を満たすことを示せば証明が完了します.
9, 18 ∈ Zに対し,2 ∈ Zがあって 18 = 2× 9となるので,倍数の定義を満たし,18は 9の倍数となる.
例 30 (割り算の商と余り) 整数 aと,自然数 bに対し,次の式を満たす整数qと 0 ≤ r < bとなる自然数 rがあります.a = bq + r.この rを aを bで割った余り,qを商といいます.aが負の値でも rは正の値です.
1.27 曜日計算
解説 (閏年の定義) • 西暦年が 4で割り切れる年は,閏年.
• ただし,西暦年が 4で割り切れても,100で割り切れる年は閏年ではない.
• ただし,西暦年が西暦年が 100で割り切れても,400で割り切れる年は閏年.
ある期間にある閏年の年数は次のように求まります.
(4の倍数の個数)− (100の倍数の個数) + (400の倍数の個数)
42 第 1章 数の合同
解説 (日数と曜日) 曜日は,基準とした日の曜日から何日ずれているかで計算できます.また,7日で元の曜日に戻るので,日数そのものではなく,日数を 7で割った余りを求めればよいことがわかります.たとえば,1年は 365日,365 = 7× 52+ 1なので,1年で曜日は 1つずれ
るといった具合です.
解説 (過去の曜日) 日数を 7で割った余りが重要なので,過去の日付の場合はマイナス何日後と数えると未来の曜日計算と同じになります.
解説 曜日計算の手順をまとめると次のようになります.
(i). 基準となる日の年から,求めたい日の年までが何年後かを数える.
(ii). その間に閏日が何日あるかを数える.
(iii). 年は無視して基準となる日から求めたい日までが何日後かを数える.
(iv). (何年後)+(閏日の日数)+(年数を無視して何日後).この値を 7で割る.
1.28 数の合同
曜日計算のように,余りだけが必要なとき,余りが同じ数を同じものだと思って計算すると便利なことがあります.これが合同式の計算です.
定義 14 (合同) 自然数m,整数 a, bに対し,整数 q1, q2と自然数 0 ≤ r1, r2 <mがあって{
a = mq1 + r1,
b = mq2 + r2.
と表わせる.このとき,r1 = r2 が成り立つことを
a ≡ b (mod m).
と書くことにします.このことを aと bは,mを法として合同といい,この式を合同式といいます.
(注意) つまり,mで割った余りが等しい数を等しいとみなす記号です.a ≡ b (mod m)は,a− bがmで割り切れると言い換えることもできます.
1.29. Z/NZ 43
1.28.1 合同式の性質
a,a′, b, b′ を整数,m自然数とする.{a ≡ a′ (mod m),
b ≡ b′ (mod m).
ならば,次が成り立つ.
(i). a+ b ≡ a′ + b′ (mod m).
(ii). ab ≡ a′b′ (mod m).
例 31 合同式の簡単な応用として,ある数を 9で割った余りを簡単に求める方法があります.k個の自然数 0 ≤ n0, n1, · · · , nk−1 ≤ 9, (nk−1 ̸= 0)を用いて k桁の自然数
aが次のように表わせます.
a = n0 + n1 × 10 + n2 × 102 + · · ·+ nk−110k−1.
このとき,次の 合同式が成り立ちます.
a ≡ n0 + n1 + n2 + · · ·+ nk−1 (mod 9).
1.29 Z/NZ
N を自然数とし,
Z/NZ := {0, 1, 2, · · · , N − 2, N − 1}
と定義するのでした.Z/NZは足し算と掛け算ができる集合,つまり環になります.
1.30 互除法と不定方程式
Z/NZの世界での計算を効率的に行うには,次の形の不定方程式の整数解を求める必要があります.
ax+ by = c.
そのために用いられるのが,互除法です.
44 第 1章 数の合同
1.30.1 互除法
a,b ∈ Zについて次のような割り算を考える.
a = bq1 + r1, 0 ≤ r1 < |b|.a1 := b, b1 := r1.
a1 = b1q2 + r2, 0 ≤ r2 < b1.
a2 := b1, b2 := r2.
a2 = b2q3 + r3, 0 ≤ r3 < b2.
......
|b| > r1 > r2 > · · · ≥ 0より,最後には rn+1 = 0となる
an−1 = bn−1qn + rn, 0 ≤ rn < bn−1.
an := bn−1, bn := rn.
an = bnqn+1.
補題 3より,
(a, b) = (a− bq1, b) = (r1, b) = (r2, b1) = · · · = (rn, bn−1) = (rn).
よって,rn = (a, b)が得られました.この方法を互除法といいます.
例 32 最大公約数 (391, 221)を求めてみよう.
391 = 221× 1 + 170.
221 = 170× 1 + 51.
170 = 51× 3 + 17.
51 = 17× 3.
よって,
(391, 221) = 17.
1.30. 互除法と不定方程式 45
1.30.2 不定方程式 ax+ by = cの解法
例 16の互除法の計算を行列で書いてみると次のようになります.(391221
)=
(1 11 0
)(221170
).
これは,互除法の以下の計算を行列で書いたものです.{391 = 1× 221 + 1× 170,
221 = 1× 221 + 0× 170.
以下同様に,(221170
)=
(1 11 0
)(17051
).{
221 = 1× 170 + 1× 51,
170 = 1× 171 + 0× 51.(17051
)=
(3 11 0
)(5117
){170 = 3× 51 + 1× 17,
51 = 1× 51 + 0× 17.
(注意) ここに現われるベクトルは,次の等式に対応しています.
(391, 221) = (221, 170) = (170, 51) = (51, 17).
また,行列を用いると,計算の仕組みが見易くなり,しかも計算を間違えにくくなる効果があります.上記の行列の式を次々と代入していくと,次の式が得られます.(
391221
)=
(1 11 0
)(1 11 0
)(3 11 0
)(5117
).
よって,(5117
)=
(3 11 0
)−1(1 11 0
)−1(1 11 0
)−1(391221
).
(5117
)=
(0 11 −3
)(0 11 −1
)(0 11 −1
)(391221
).(
5117
)=
(−1 24 −7
)(391221
)=
(391× (−1) + 221× 2391× 4 + 221× (−7)
).
46 第 1章 数の合同
第 2成分より,
17 = 391× 4 + 221× (−7).
となります.これにより,391と 221の最大公約数 (391, 221) = 17が 391x+221y, x, y ∈ Zの形で書けました.
解説 (ax+ by = cの解法) ax + by = cの整数解は,次の手順で得られるのでした.
(i). 最大公約数 (a, b) = dを互除法で求める.
(ii). cが dの倍数でなければ解なし.
(iii). cが dの倍数ならば両辺を dで割る.a′x+ b′y = c′ という形になる.(a′, b′) = 1
(iv). 互除法の計算の行列表示を用いて a′x0 + b′y0 = 1となる x0, y0 を求める.
(v). c = dc′ とすると,(x, y) = (x0c′, y0c
′)が一つの解となる.
(vi). 全ての解は,a = da′, b = db′ とすると,
(x, y) = (x0c′ + b′t, y0c
′ − a′t).
ただし,tはパラメータとなる.
(注意)
ax+ by = (da′)x+ (db′)y = d(a′x+ b′y)
より,ax+ byは必ず dの倍数になるので,もし cが dの倍数でなければ,解は存在しない.
例 33 次の方程式を解いてみよう.
391x+ 221y = 34.
例 16の計算より,(391, 221) = 17.17 | 34より解はある.両辺を 17で割って
23x+ 13y = 2
1.31. Z/NZの世界 47
ここで,
23x+ 13y = 1
の解は互除法の計算により
23× 4 + 13× (−7) = 1
なので,(x, y) = (4,−7)が一つの解になる.
23x+ 13y = 2
の一つの解は,34 = 17× 2より,23x+13y = 1の解 (x, y) = (4,−7)を 2倍して
(x, y) = (8,−14).
となる.
391 = 17× 23, 221 = 17× 13.
より,全ての解は,tをパラメータとして
(x, y) = (8 + 13t,−14− 23t).
1.31 Z/NZの世界
有理数の世界では,1
7という数は整数ではありません.では,Z/15Zの世
界ではどうでしょうか.ここで,分数とは何かを考えると次の方程式の解だと言うことができます.
7x = 1.
そこで,Z/15Zの元 13を選び,xに代入すると
7× 13 = 91 = 15× 6 + 1 = 1.
となり,確かに上の方程式の解になっています.つまり,Z/15Zの世界では
1
7= 13
48 第 1章 数の合同
となるわけです.
Z/15Zの世界で1
7を考える.
⇐⇒ Z/15Zの世界で 7x = 1の解を求める.
⇐⇒ 7x ≡ 1 (mod 15)の解を求める.
⇐⇒ 7x+ 15y = 1の整数解を求める.
このことを一般的に書くと,
Z/NZの世界で1
aを考える.
⇐⇒ Z/NZの世界で ax = 1の解を求める.
⇐⇒ ax ≡ 1 (mod N)の解を求める.
⇐⇒ ax+Ny = 1の整数解を求める.
となり,今までの互除法を用いた不定方程式の計算と Z/NZの世界で逆数を求める計算がつながります.
1.31.1 Z/NZでの逆数の計算
a ∈ Z/NZ, (a ̸= 0) の逆数1
aは次の方程式を解いて得られます.
ax = 1.
最も簡単な解法は,Z/NZの乗積表を作って aの列に 1を探し,もし見つかっ
たら 1のある行が1
aに対応します.ですが,不定方程式の解法によって逆数
が計算できるわけです.この考え方が素晴しいのは,逆数の計算が乗積表を作成するのに比べてとても速くなることと,理論的に扱うのが便利になるという二つの利点があるからです.
例 34 Z/13Zにおいて,1
7を計算しよう.
7x+ 13y = 1
13 = 7× 1 + 67 = 6× 1 + 16 = 1× 6.
1.31. Z/NZの世界 49
(137
)=
(1 11 0
)(1 11 0
)(61
).
(61
)=
(1 11 0
)−1(1 11 0
)−1(137
)=
(1 −1−1 2
)(137
).
7× 2 + 13× (−1) = 1.
よって,
1
7= 2.
解説 Z/NZの世界では,(a,N) > 1という形の分数b
aは考えません.なぜ
なら,1
aが存在しないからです.
51
第2章 群論入門
2013.5.27, 代数学序論 (情報数理学科)担当:志村真帆呂
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2.1 「同じ」を定義する (変換群と自己同型群)
群は,公理で与えられたよい性質を持つ演算が一つだけある集合です.ややなじみが薄いので,比較的わかりやすい例を題材に群の有用性を見ていきましょう.
次の図形を同じものと違うものに分けてみよう.
(A) (B) (C) (D)
分けるといってもどうやって,という疑問が当然出てきます..実際,
(i). (A)と (B)は右 90°回転させれば同じ.
(ii). (A)と (C)は左右を折り返せば同じ.
(iii). (A)と (D)は 1/2に縮小すれば同じ.
といった具合に,解釈によってどれが同じかが変わってきます.
数学では二つのものが同じかどうかの判定がとても重要になります.その際,同じの明確な基準を決めておかないと判定ができません.この問題の場合だと,重ね合わせるためにどのような操作まで許すかを決めておく必要があります.そして,二つの図形が予め許された操作で重ね合わせられるとき同じと定めるわけです.
52 第 2章 群論入門
次に,図形を重ね合わせる操作 (変換)の集合に着目してみよう.この変換の集合が,図形が同じであることを定められるとすると,次のような性質が自然に必要になります.
(1). 図形を動かさない変換 (恒等変換)は含まれている.その心:自分自身と等しくなかったらわけがわからない.
A動かさない-
A
(2). 図形 Aを図形 Bに変換できるならば,逆変換 (つまり,図形 Bを図形Aに移す変換)も含まれる.その心:Aと B が等しいのに,B と Aが等しくなかったら困る.
A
変換があれば-
逆の変換も存在�
B
(3). 図形 Aを図形 B に,さらに図形 B を図形 C に変換できるならば,図形 Aを図形 C に移す変換も含まれる.その心:Aと B,B と C が等しいのに,Aと C が等しくないと困る.
A
変換 > 変換
~
直接移す変換が存在-
B
C
実は,この三つの性質を満たす変換全体は群と呼ばれるものになります.特に,このように図形を重ね合わせる操作からなる群を (その図形の)変換
群といいます.変換群は,図形を与えると決まるものではなく,最初の例でもわかるよう
にどの図形を同じとみなすかによって変わるものです.
ここで,群の定義を書いておこう.
2.2. 自己同型群 53
定義 15 (群の公理) 群の公理は四つあります.すなわち,集合 Gが群であるとは,
(i). ∀a, b ∈ G ∃ab ∈ G. (積の存在)
(ii). ∃e ∈ G s.t. ∀a ∈ G ea = ae = a. (単位元の存在)
(iii). ∀a ∈ G ∃b ∈ G s.t. ab = ba = e. (逆元の存在)
(iv). ∀a, b, c ∈ G (ab)c = a(bc). (結合律)
2.2 自己同型群
図形の対称性を正方形を例にとって考えてみよう.言うまでもなく,一般の四角形よりも正方形は対称性が高い.それらは「四つの辺の長さが全て同じ」「四つの頂点の角度が全て 90°」といった性質からもわかりますが,ここでは正方形を自分自身に重ね合せる変換によって対称性をみるアイデアを紹介します.どのように重ね合せたかを見るために,各頂点の位置に数字を割り振っています.
基準の位置の番号(元の正方形も同じ番号付け)
1
2
4
3
変換された正方形
1
2 3
4 4
1 2
3 3
4 1
2 2
3 4
1
1
4 3
2 2
1 4
3 3
2 1
4 4
3 2
1
54 第 2章 群論入門
対応する置換
(1 2 3 41 2 3 4
) (1 2 3 42 3 4 1
) (1 2 3 43 4 1 2
) (1 2 3 44 1 2 3
)(
1 2 3 41 4 3 2
) (1 2 3 42 1 4 3
) (1 2 3 43 2 1 4
) (1 2 3 44 3 2 1
)
変換は,基準の位置の番号付けで決まります.
例:正方形の基準の位置は前と同じとします.
4
3
1
2
(1 2 3 41 4 3 2
)−−−−−−−−−−−−→
4 3
1 2
この例は,左の正方形の
• 基準の位置の番号 1にある 4が,基準の位置の番号 1の位置に移動,
• 基準の位置の番号 2にある 3が,基準の位置の番号 4の位置に移動,
• 基準の位置の番号 3にある 2が,基準の位置の番号 3の位置に移動,
• 基準の位置の番号 4にある 1が,基準の位置の番号 2の位置に移動,
することにより,左の正方形に変換されています.
定義 16 (自己同型群) 行き先が自分自身になるような変換からなる変換群を,自己同型群といいます.
例 35 上の正方形の例では,「対応する置換」に列挙した置換全体が正方形の自己同型群になります.また,変換として平面上の回転しか許さない場合は,上の四つの置換から
なる群が自己同型群となります.
一般の四角形の自己同型群は,言うまでもなく単位元のみからなる群となります.つまり,自己同型群が大きければ大きいほど図形の対称性が高いといえます.また,平面上の回転しか許さない場合のように変換に制限をつけると,自己同型群は小さくなることがあります.
2.2. 自己同型群 55
問題 36 正方形の基準の位置は前と同じとします.
(1). 2
3
1
4
を
(1 2 3 44 3 2 1
)で変換した正方形を求めてください.
(2).
4
1
3
2
を
(1 2 3 42 3 4 1
),
(1 2 3 43 2 1 4
)の順で変換してください.
(3). (2)の変換を一つの置換で表してください.
56 第 2章 群論入門
2013.5.30, 代数学序論 (情報数理学科)担当:志村真帆呂
http://www.ss.u-tokai.ac.jp/~mahoro/2013Spring/alg_intro/
2.3 あみだくじと置換
あみだくじは,出発する場所が異なるとゴールも必ず異なります.たとえば,五本の線からなるあみだくじは 1から 5までの数字が重複なく入れ換わります.
左のあみだくじが与えられたとき,縦棒に左から順に番号を振ります.
1 2 3 4 5
1 2 3 4 5
このあみだくじでは 1 の行き先は 2, 2 の行き先は 5.同様に他の文字の行き先を考えると,このあみだくじは
出発点 1 2 3 4 5ゴール 2 5 4 1 3
と対応していることがわかります.
この様子を,(1 2 3 4 52 5 4 1 3
)と書くことにします.これは行列ではなく,単に出発点とゴールの対応を表す記号です.
2.3. あみだくじと置換 57
このような対応を置換といいます.n個の数字を入れ換える置換を n次の置換といい,記号は σ(シグマ), τ(タウ)などのギリシア文字をよく使います.n次の置換全体のなす集合を Sn と書き,n次対称群といいます.出発点とゴールの数字が全て一致する置換を恒等置換といい,1n で表します.
σ
1 2 3 4
1 2 3 4
τ
1 2 3 4
1 2 3 4
上図の表す置換はそれぞれ σ =
(1 2 3 43 1 2 4
), τ =
(1 2 3 42 3 4 1
)です.
σ
τ
1 2 3 4
1 2 3 4
σ
σ−1
1 2 3 4
1 2 3 4
左図は σ を表すあみだくじの下に τ を表すあみだくじをつなげたものです
が,これを τσで表すことにします.すると,左図は τσ =
(1 2 3 44 2 3 1
)を表すあみだくじとなります.また,右図は σ を表すあみだくじの下にその上下をひっくり返したものを
58 第 2章 群論入門
つなげたものです.このあみだくじは上下対称なので恒等置換を表していることは明らかです.この σ を表すあみだくじの上下をひっくり返したあみだくじが表す置換を σ−1 と書き,σの逆置換といいます.
(注意) 置換の記号は,上下の数字の対応が全て同じなら同じ置換を表すの
で,たとえば σ =
(1 2 3 43 1 2 4
)と
(3 2 4 12 1 4 3
)は同じ置換です.
また,σ(1) = 3, σ(2) = 1, σ(3) = 2, σ(4) = 4 のように集合 {1, 2, 3, 4} から,それ自身への関数として置換をみなすこともできます.
(注意) 置換の数字は,あみだくじの縦棒を番号付けしたものです.
σ
τ
D B C A
B C A D
A B C D
σ =
(1 2 3 43 1 2 4
)
τ =
(1 2 3 42 3 4 1
)
τσ =
(1 2 3 44 2 3 1
)
σ =
(1 2 3 4↓ ↓ ↓ ↓3 1 2 4
)
τ =
(1 2 3 4↓ ↓ ↓ ↓2 3 4 1
)
τσ =
(1 2 3 44 2 3 1
)j ?
左図は,置換σ, τの積 τσを表すあみだくじによって,文字列 A B C Dがどの場所に移るかを表したものです.σ, τ , τσは,それぞれ右の記号が正しいので要注意.行き先の文字列 B C A D
の位置が 1 2 3 4 から 2 3 1 4 になったからといって,σを
(1 2 3 42 3 1 4
)などと書いてはいけません.右の図は,置換の記号から置換の積を求める手順を表しています.また,このあみだくじを τσと書く理由は,文字列 A B C D を,こ
のあみだくじが文字列 B D C A に移す様子を次のように書けるからです.
τσ ( A B C D ) = τ (σ ( A B C D ))
= τ ( B C A D ) = ( D B C A )
つまり,合成関数の記法そのものになっているわけです.
2.4. 巡回置換 59
2.4 巡回置換
置換
(1 2 3 42 4 1 3
)は,1 → 2 → 4 → 3 → 1 という順に移ってい
き,元に戻ります.このような置換を巡回置換といいます.この巡回置換を( 1 2 4 3 ) で表します.つまり,異なる数字 a, b cが a → b → c → aと移る置換は ( a b c ) と表すといった具合です.( a b c ) = ( b c a ) = ( c a b )ですが,( a b c ) ̸= ( a c b )です.異なるn個の数字が巡回する巡回置換をn次の巡回置換といいます.( 1 2 3 4 )は 4次の巡回置換といった具合です.(
1 2 3 42 1 3 4
)のように,3, 4は動かないけれど残りの 1 → 2 → 1の
部分が巡回しているような置換も巡回置換といいます.(1 2 3 42 1 4 3
)は,巡回置換ではありません.しかし,共通の数字を持
たない二つの巡回置換 ( 1 2 ), ( 3 4 ) の積 ( 1 2 ) ( 3 4 ) で書くことができます.共通の数字を持たないことから,積の順序を変えても同じ置換を表します.(
1 2 3 42 1 4 3
)= ( 1 2 ) ( 3 4 ) = ( 3 4 ) ( 1 2 )
補題 5 任意の置換は,共通の数字を持たないいくつかの巡回置換の積で表される.
定理 1 任意の置換はあみだくじを用いて表すことができる.
証明の方針) たとえば σ =
(1 2 3 4 55 2 1 4 3
)を表すあみだくじを作って
みよう.σ(3) = 1 であるから 3 の行き先が 1 になるように線を引く.
60 第 2章 群論入門
1 2 3 4 5
1 2 3 4 5
次に σ(2) = 2 なので 2 の行き先が 2 となるように線を追加する.ここで,追加する線を最初に引いた線により低いところで,なおかつ 2番目の線より右に引くようにすると σ(3) = 1をいつでも満たすことに注目.
1 2 3 4 5
1 2 3 4 5
1 2 3 4 5
1 2 3 4 5
1 2 3 4 5
1 2 3 4 5
同様に σ(5) = 3 および σ(4) = 4 となるように,それまで引いた線より下で,なおかつゴールの縦線より右に横線を追加すると最後のあみだくじが σを表すあみだくじになります.
2.5. まとめの問題 61
2.5 まとめの問題
問題 37 次のあみだくじに対応する置換を
(1 2 3 4 52 5 4 1 3
)のような記
号で表してください.
1 2 3 4 5
1 2 3 4 5
1 2 3 4
1 2 3 4
1 2 3 4 5
1 2 3 4 5
問題 38 σ =
(1 2 3 43 1 2 4
), τ =
(1 2 3 42 4 1 3
)とする. このとき次
を計算してください.(i). τσ (ii). στ (iii). σ−1 (iv). σ−1(2) (v). τ(3)
問題 39 次の置換を,共通の数字を含まない巡回置換の積で表してください.
(1).
(1 2 33 1 2
).
(2).
(1 2 3 4 5 65 1 6 4 2 3
).
問題 40
(1 2 3 4 54 5 2 1 3
)と等しい置換を次の中から全て選んでくださ
い.( 5 2 3 ) ( 1 4 ), ( 1 4 ) ( 2 5 3 ), ( 3 5 ) ( 1 4 2 ),
( 1 4 ) ( 3 2 5 ),
(1 2 3 4 55 2 4 3 1
)(1 2 3 4 53 1 2 5 4
),(
1 2 3 4 53 1 2 5 4
)(1 2 3 4 55 2 4 3 1
).
62 第 2章 群論入門
問題 41 n次対称群 Sn は,いくつの元からなる集合か.ここで,元とは集合の要素のこと.
問題 42 帰納法を用いて,「任意の置換はあみだくじを用いて表すことができる」を証明してください.
問題 43 置換の中で 2 つの文字を交換するだけのものを互換といいます.「任意の n 次の置換は (1 2), (2 3), . . ., (i i+ 1), . . ., (n− 1 n) という形の互換の積の形で表すことができる」を前問の結果を用いて証明してください.
問題 44 n 次の置換 σ が与えられたとき,i < j かつ σ(i) > σ(j) となるような 1 ≦ i, j ≦ n の組 (i, j) の数を σ の転倒数といい,l(σ) で表すことにします.
たとえば σ =
(1 2 3 4 55 2 1 4 3
)とすると,(i, j) が (1, 2), (1, 3), (1, 4),
(1, 5), (2, 3), (4, 5) のとき σ(i) > σ(j) となるので l(σ) = 6 となります.(1 2 3 4 52 5 4 1 3
)の転倒数を求めてください.
問題 45 (1 2), (2 3), . . ., (i i+ 1), . . ., (n− 1 n)のどれか一つ τ と,任意の n 次の置換 σ との積 τσ の転倒数 l(τσ)は l(σ)± 1となることを証明してください.
問題 46 置換 σ に対応するあみだくじは,横線の数が転倒数 l(σ)未満では作れないことを証明してください.
問題 47 置換 σ に対応するあみだくじで,横線の数が転倒数 l(σ)と等しいものが存在することを証明してください.
2.6. 対称群の計算練習 63
2013.6.6, 代数学序論 (情報数理学科)担当:志村真帆呂
http://www.ss.u-tokai.ac.jp/~mahoro/2013Spring/alg_intro/
2.6 対称群の計算練習
2.6.1 置換の積,逆置換
解説 4次対称群 S4の元 σ =
(1 2 3 43 1 2 4
), τ =
(1 2 3 42 4 3 1
)の積
τσは以下のように計算できるのでした.
σ
τ
4 2 1 3
2 3 1 4
1 2 3 4
σ =
(1 2 3 43 1 2 4
)
τ =
(1 2 3 42 4 3 1
)
τσ =
(1 2 3 43 2 4 1
)
σ =
(1 2 3 4↓ ↓ ↓ ↓3 1 2 4
)
τ =
(1 2 3 4↓ ↓ ↓ ↓2 4 3 1
)
τσ =
(1 2 3 43 2 4 1
)j ?
問題 48 4次対称群 S4の元 σ =
(1 2 3 44 3 1 2
), τ =
(1 2 3 44 1 2 3
)に
ついて以下の計算をしてください.
(i). στ. (ii). τσ. (iii). σ2. (iv). τ−1.
2.6.2 巡回置換
解説 置換
(1 2 3 42 4 1 3
)は,1→ 2→ 4→ 3→ 1 という順に移ってい
き,元に戻ります.このような置換を巡回置換といい ( 1 2 4 3 ) で表すのでした.
64 第 2章 群論入門
問題 49 次の等号が成り立つように四角に 1から 4までの数字を入れてください.
( 1 3 4 2 ) =
(1 2 3 4
)例 36 (共通する数字を含まない巡回置換の積で置換を表す)次の置換を共通する数字を含まない巡回置換の積で表してみよう.(
1 2 3 4 5 6 74 7 2 1 3 6 5
)まず 1と 4は,1→ 4→ 1となるので ( 1 4 ) という巡回置換で表せます.次に 1と 4以外の数で最小の 2がどうなるかを調べると 2→ 7→ 5→ 3→ 2
となり ( 2 7 5 3 ) という巡回置換で表せます.最後に残った 6は 6→ 6となり動かないので (6)ですがこれは普通は省略
されます.得られた巡回置換は同じ数字を含まないので,掛ける順番を変えても同じ
です.よって,元の置換は次のように同じ数字を含まない巡回置換の積で表せます.(
1 2 3 4 5 6 74 7 2 1 3 6 5
)= ( 1 4 ) ( 2 7 5 3 )
2.7 巡回置換の利点と計算法
巡回置換の利点
• 普通の置換の記号より少ない文字数で表せる.
• 全ての置換は共通の数字を含まない巡回置換の積で表せる.
• 共通の数字を含まない巡回置換の積は,積の順序交換ができる.
• 巡回置換のベキ乗は簡単に求まる.
• 巡回置換の逆置換は簡単に求まる.
補題 6 σ, τ ∈ Sn を共通の数を含まない巡回置換とする.このとき
στ = τσ
が成り立つ.
2.7. 巡回置換の利点と計算法 65
(証明) kが τ に含まれる数とすると,τ(k)も τ に含まれる.よって,τ(k)はσには含まれないので τ(k)は σで動かされない (σ(τ(k)) = τ(k)).つまり,
στ(k) = σ(τ(k)) = τ(k) = τ(σ(k)) = τσ(k)
となる.lが σに含まれる数とすると,lは τ に含まれないので τ(l) = l.
στ(l) = σ(τ(l)) = σ(l) = τ(σ(l)) = τσ(l)
となる.mが σ, τ のどちらにもに含まれないならば σ(m) = τ(m) = mなので,
στ(m) = σ(m) = m = σ(m) = τ(σ(m)) = τσ(m)
よって,全ての数 xについて στ(x) = τσ(x) となり,
στ = τσ
が成り立つ.
補題 7 σ, τ ∈ Sn を共通の数を含まない巡回置換とする.このとき
(στ)r = (τσ)r = σrτ r
が成り立つ.
例 37 (巡回置換のベキ乗の計算)巡回置換 σ = ( 1 3 2 4 ) のベキ乗を計算してみよう.σ は,1→ 3→ 2→ 4→ 1 となるので,σ2は矢印を二つ移動すればよい.すると,1→ 2→ 1, 3→ 4→ 3 という二つの巡回置換に分解するので,
σ2 = ( 1 2 ) ( 3 4 )
同様に,
σ3 = ( 1 4 2 3 )
σ4 = 14
となります.
(注意) この例では,σ3 = σ−1 となっています.1→ 3→ 2→ 4→ 1 を逆にたどると逆置換になります.
1← 3← 2← 4← 1
σ−1 = ( 1 4 2 3 )
66 第 2章 群論入門
問題 50 次の置換を共通の数字を含まないいくつかの巡回置換の積で表してください.(
1 2 3 4 5 6 7 83 6 7 8 5 2 1 4
)問題 51 次の計算をしてください.
(i). ( 1 4 ) ( 1 3 2 ) . (ii). ( 2 3 ) ( 1 4 2 5 ) ( 2 3 ) .
(iii). ( 1 2 3 4 )2. (iv). ( 4 2 3 1 )
−1.
問題 52 あみだくじが全ての n次置換と対応することを用いて,n次対称群の全ての元が (1 2), (2 3), · · · , (k − 1 k), · · · , (n − 1 n) の積で表せることを説明してください.積には同じ置換を何度用いてもよいとします.
2.8. 群に関する注意 67
2013.6.10, 代数学序論 (情報数理学科)担当:志村真帆呂
http://www.ss.u-tokai.ac.jp/~mahoro/2013Spring/alg_intro/
2.8 群に関する注意
定義 15 (群の公理 (再掲)) 群の公理は四つあります.すなわち,集合 Gが群であるとは,
(i). ∀a, b ∈ G ∃ab ∈ G. (積の存在)
(ii). ∃e ∈ G s.t. ∀a ∈ G ea = ae = a. (単位元の存在)
(iii). ∀a ∈ G ∃b ∈ G s.t. ab = ba = e. (逆元の存在)
(iv). ∀a, b, c ∈ G (ab)c = a(bc). (結合律)
群の公理の中で「積」という言葉が出てきますが,これは「掛け算」のこととは限りません.群Gの積とは,集合G上で定義される二項演算であって,群の公理を満たすもののことです.
定義 17 (二項演算) 集合 Aの任意の元 aと,集合 B の任意の元 bに対し,ある規則で集合 S の元 a ◦ bが与えられているとする.このとき演算 ◦は,二つの元 a, bから一つの元 a ◦ b を与える演算になっているので,◦を二項演算といいます.
(注意) ◦は具体的には +や ×などになります.一つに決められないので,仮に ◦という記号を用いて定義しています.
例 38 A = B = S = Zとし,a, b ∈ Zに対して a+ bを対応させると,+は二つの整数 a, bの和を与える二項演算になります.
例 39 (置換の積) 二つの置換 σ, τ ∈ Sn に対応するあみだくじを考えます.二つのあみだくじを上下に繋いたあみだくじに対応する置換 τσ ∈ Snを与える演算は二項演算になります.つまり,対称群 Sn の二つの元 σ, τ の積 τσがあみだくじを繋ぐという操作を用いて得られたことになります.
群 Gの積を ′′·′′ で与えたとします (つまり,a, b ∈ Gの積を a · bで表す) 群は積まで含めて定義されるものなので,群 Gという書き方は正確ではなく,厳密には群 (G, ·)と書くのが正確です.ただし,普通は群の積は書かなくてもわかる場合が多いので,しばしば a,
b ∈ Gの積を abと略記したり,群 Gと積を省略して書きます.また,(G, ·)が群のとき,集合 Gは積 ·に関して群をなすといいます.
68 第 2章 群論入門
例 40 実数全体から 0を除いた集合R× := R \ {0} = {x ∈ R | x ̸= 0} は,通常のRの積 ×に関して群をなす.つまり,(R×,×)は群になる.
例 41 整数全体の集合 Zは,通常の Zの加法+に関して群をなす.つまり,(Z,+)は群になる.
2.9 群に関する基本的な記法と概念
定義 18 (可換、可換群) Gを群とする。a, b ∈ Gが
ab = ba.
となっているとき、aと bは可換といいます。群 Gが
∀a, b ∈ G, ab = ba.
となっているとき 群 Gを可換群 (アーベル群)といいます。群 Gが可換群のとき、しばしば群 Gの積を +で表します。また、積を +
で表したときは加法群とも呼びます。
例 42 R上の 2次正方行列全体の集合M2(R)は、行列の加法に関して群をなします。つまり (M2(R),+)は群。さらに、(M2(R),+)は可換群になります。
問題 53 (M2(R),+)の単位元と逆元を具体的に与えてください。
例 43 R上の正則な 2次正方行列全体の集合GL2(R)は、行列の積に関して群をなします。しかし、この群は可換群にはなりません。
定義 19 (群の n乗、n倍) Gを群とする。a ∈ G, n ∈ Nとしたとき、元 aの n乗を次で定義する。
an :=
n︷ ︸︸ ︷aa · · · a.
また、元 aの (−n)乗を次で定義する。
a−n :=(a−1
)n.
Gが可換群のとき、a ∈ G, n ∈ Nとしたとき、元 aの n倍を次で定義する。
na :=
n︷ ︸︸ ︷a+ a+ · · ·+ a.
また、元 aの (−n)倍を次で定義する。
(−n)a := n(−a).
2.10. 群の位数 69
解説 n乗と n倍は本質的に同じものです。指数と対数の関係の類似だと思えば理解できます。
例 44 (群の単位元の一意性) 群 G の単位元を表す記号は、e 以外にも eG,1, 1G などがあります。添字のGは、複数の群が出てきたときなど、Gの単位元であることを強調たい場合に使います。もし、e, e′ ∈ G が共に群の公理 (ii)を満たすとすると、
e = ee′ = e′.
となり、一致します。ここで最初の等号は、e′が公理 (ii)を満たすので成り立ち、二番目の等号は、eが公理 (ii)を満たすので成り立っています。
問題 54 (群の逆元の一意性) 群の公理 (iii)から群の逆元の存在がわかりますが、さらに逆元は唯一つ存在することを証明してください。
2.10 群の位数
定義 20 (群の位数) Gを群とする.集合としてGが有限集合のとき,集合Gの元の個数を (群Gの)位数といい,#G,あるいは |G|で表します.位数有限の群を有限群といいます.集合 Gが無限集合のとき,群 Gは無限群といいます.無限群の位数は,無限.記号で書くと #G = ∞(あるいは,|G| = ∞). より正確に無限群の位数を集合 Gの濃度で定義することもあります.
解説 群の位数は,群の最も基本的な不変量の一つです.今後,様々な量が群の位数の約数になるかどうかで群の詳しい情報がわかるという状況が頻繁に起きます.他にも位数の異なる二つの群は異なる,といった使い方もあります.
例 45 正方形の自己同型群は 8つの元からできているので,位数 8の群です.
問題 55 正三角形の自己同型群の位数を求めてください.
2.11 群の生成,生成系
正 12面体の自己同型群は,実際に群の元を列挙すると 60個になります.つまり,正 12面体の自己同型群の位数は 60というわけです.ここで問題なのは,群の位数が大きくなると列挙するには時間がかかりすぎること.また,群の構造が元を列挙しただけでは見えてこないことなどです.そこで,群の構造がよくわかるような表示を考えることにします.
70 第 2章 群論入門
定義 21 (生成,生成系) G を群,a1, a2,· · · , an ∈ G とする.群 G が a1,a2,· · · , an で生成されるとは
∀a ∈ G, a = be11 be22 · · · berr ,
b1, b2, · · · br ∈ {a1, a2, · · · , an}, e1, e2, · · · , er ∈ Z.
となっていること.つまり,任意のGの元が a1, a2, · · · , an を組み合せた積で表されていることを指します.また,a1a
52a
−31 のように同じ元を有限回な
ら何度用いてもよいことにします.生成されていることを,記号では次のように書きます.
G = ⟨a1, a2, · · · , an⟩.
このとき,集合 {a1, a2, · · · , an}を Gの生成系といいます.また,一つの元で生成される群を巡回群といいます.
例 46 可換群 (Z,+)は,1 ∈ Zで生成される.つまり,Z = ⟨1⟩. 実際,任意の n ∈ Zは n = n · 1と書ける.ここで,群の積が +になっているので群の生成の定義の ei 乗を ei 倍に読み換えていることに注意.さらに,一つの元 1 で生成されているので巡回群にもなっています.
例 47 n次対称群 Sn は次のような生成系を持つ.
Sn = ⟨(1 2), (2 3), . . . , (i i+ 1), . . . , (n− 1 n)⟩.
解説 この例は,「任意の n次の置換は (1 2), (2 3), . . ., (i i+1), . . ., (n−1 n)という形の互換の積の形で表すことができる」を群の生成という言葉で言い換えたものです.さらにこれは,「任意の置換はあみだくじを用いて表すことができる」と翻訳できるのでした.このように生成系をうまく取ることで「任意の置換はあみだくじを用いて
表すことができる」のような命題を群の言葉に翻訳できる場合があります.
例 48 正 n角形のある頂点から順に左回りで 1から nまで番号付けをしたとき,その自己同型群は次の二つの元で生成される.
σ = (12 · · · k · · ·n),
τ = (2 n)(3 n− 1) · · · (k n− k + 2) · · · .図形的には,σ は頂点一つ分の左回りの回転,τ は頂点 1を動かさない折
り返しに対応する.この群を n次の 2面体群といい,Dn で表します.
Dn = ⟨σ, τ⟩.
2.12. 部分群 71
2.12 部分群
群 Gの部分集合が,Gの積に関して再び群の構造を持つことがあります.これを Gの部分群といいます.Gの部分群を調べることにより Gの性質がわかったり,逆に Gをより大きな群の部分群とみなすことにより Gの性質がわかったりします.
定義 22 (部分群) 集合H が群Gの部分群であるとは,次の二つの性質を満たすことをいいます.
(i). H は Gの部分集合.
(ii). H は Gの積に関して群をなす.
例 49 Gを群とする.G自身と,Gの単位元のみからなる群 {eG}はGの部分群になります.この二つの部分群を自明な部分群といいます.
例 50 Gを群とする.a ∈ G で生成される巡回群 ⟨a⟩はGの部分群になります.この部分群を巡回部分群といいます.
例 51 (n次交代群) Sn の元のうちで,偶数個の互換の積で書けるもの全体の集合を An で表します.An は Sn の部分群になります.An を n次交代群といいます.
定義 23 (元の位数) Gを群とする.元 a ∈ Gの位数を,Gの部分群 ⟨a⟩の位数で定義します.
解説 位数には,群の位数と元の位数の二つがあり,混同しがちなので注意が必要です.
例 52 k次巡回置換の位数は k.
補題 8 Gを有限群,e ∈ Gを Gの単位元,a ∈ Gとすると,ある自然数 nが存在して次の等式が成り立つ.
an = e
(証明) 有限群 Gの位数をN とする.集合
S = {a1, a2, a3, · · · , ak, · · · , aN+1}
を考える.すると,異なる二つの自然数 i, j があって
ai = aj
72 第 2章 群論入門
を満たします.なぜなら S は Gの部分集合なので S の元の可能性は Gの位数以下しかありませんが,S の位数はN + 1なので少なくとも二つは同じものがないといけないからです.Gが群なので,aの逆元 a−1 が存在します.
ai(a−1)j = aj(a−1)j
よって,
ai−j = e
となり,n = i− j という自然数が得られました.2
2.12.1 置換の位数
補題 9 σ, τ ∈ Sn を共通の数を含まない巡回置換とする.このとき,στ の位数は,σの位数と,τ の位数の最小公倍数となる.
(στ)r = 1nとなる最小の rは,(στ)r = σrτ r より,σr = τ r = 1nを満たす.rを,σ の位数と τ の位数の最小公倍数とすればこの等式を満たし,それより小さい数では満たさないことが簡単にわかる.
例 53 次の置換 σの位数を求めてください.
σ =
(1 2 3 4 54 5 2 1 3
).
まず,σを共通の数を含まない巡回置換の積で表す.
σ = ( 1 4 ) ( 2 5 3 )
( 1 4 )は 2次の巡回置換,( 2 5 3 )は 3次の巡回置換なので,それぞれの位数は,2, 3となる.よって,σの位数は 2と 3の最小公倍数の 6となる.
問題 56 M2(R)は 2次行列全体のなす環です.群 (M2(R),+)が可換群であることを証明してください.
問題 57 M2(R)の乗法群GL2(R)が可換群でないことを証明してください.
問題 58 n次対称群 Sn の位数を求めてください.
2.12. 部分群 73
問題 59 正 n角形のある頂点から順に左回りで 1から nまで番号付けをし,その自己同型群に属する次の二つの元を考える.
σ = (12 · · · k · · ·n),
τ = (2 n)(3 n− 1) · · · (k n− k + 2) · · · .このとき次の等式を証明してください.ただし,eは自己同型群の単位元とします.
(i). σn = e.
(ii). τ2 = e.
(iii). τστ = σ−1.
問題 60 n次 2面体群Dn の位数を求めてください.また,Dn の元はどのような位数を取り得るでしょうか.
問題 61 任意の互換 τ と,任意の n 次の置換 σ との積 τσ の転倒数 l(τσ)はl(σ)± 1となることを証明してください.
問題 62 任意の n 次の置換 σ を互換の積で表したとき,その積に現われる互換の個数の偶奇は互換の積の取り方に依らずに定まることを証明してください.このとき,σの符号 sgnσを次のように定義する.
sgnσ =
{1 · · ·σが偶数個の互換の積で表されるとき−1 · · ·σが奇数個の互換の積で表されるとき
.
問題 63 n次交代群Anが,n次対称群 Snの部分群であることを証明してください.
問題 64 群 Gの巡回部分群が,Gの部分群であることを証明してください.
問題 65 nを自然数とする.n乗すると 1になる複素数全体 µn は,通常の複素数の積に関して群をなすことを証明してください.さらに,µn の位数を求めてください.
問題 66 次の置換の位数を求めてください.
τ =
(1 2 3 4 5 6 77 4 1 5 2 3 6
).
75
第3章 環と体
2013.6.17, 代数学序論 (情報数理学科)担当:志村真帆呂
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3.1 環と体
定義 24 [環 (直感的な定義)] Zの元同士は,足し算,引き算,掛け算をするとまた Zの元になります.割り算はそうとは限りません.このような性質を持つ集合を環 (かん)といいます.
(注意) 正確な定義はあとで行います.
例 54 (整数環) 整数の全体 Zは環になります.Zを整数環ともいいます.
例 55 自然数の全体Nは環になりせん.なぜならば,引き算をするとNの範囲に収まらなくなってしまうことがあるからです.
2, 5 ∈ N, 2− 5 = −3 ̸∈ N.
例 56 (多項式環) 係数が有理数の多項式全体をQ[x]で表します.Q[x]は環になり,(有理数係数の)多項式環と呼びます.
定義 25 (体) F が体 (field)であるとは,以下の性質を満たすこと.
(i). F は環.
(ii). 0以外の全ての F の元には乗法逆元が存在する.
(注意) 乗法逆元とは逆数のことです.
例 57 (有理数体) 有理数全体の集合をQは体になり,有理数体と呼びます.
例 58 (実数体) 実数全体の集合をRは体になり,実数体と呼びます.
例 59 (複素数体) 複素数全体の集合をCは体になり,複素数体と呼びます.
76 第 3章 環と体
3.2 新しい数の作り方
多項式の割り算と余りを考えてみよう.3x+ 1を 2x+ 1で割ると,
3x+ 1 = (2x+ 1)× 3
2+
(−1
2
).
このように,元の多項式の係数は整数なのに割り算をすると分数が出てきてしまいます.よって,多項式の係数は有理数全体の集合Qで考える必要があります.もちろん,0以外の値の逆数が存在すればよいので係数は実数全体の集合
R や,複素数全体の集合Cでもよいわけです.そこで,これらに共通の性質を探して統一的に調べます.これが代数学でしばしば行われる一般化とか抽象化というものです.
3.2.1 方程式の根
新しい数を作る基本的な方法として,ある集合の元を係数とする方程式の根を新しい数とする方法があります.具体例を挙げると,自然数から整数を作るには,a ∈ Nとして
x+ a = 0.
という方程式の根 x = −aを考えてやればよい,といった具合です.同様に,a ∈ Z (a ̸= 0), b ∈ Zに対し,
ax = b.
という方程式の根b
aを考えると有理数ができます.
さらに,an, an−1, · · · , a0 ∈ Q, (an ̸= 0)に対し,
anxn + an−1x
n−1 + · · ·+ a0 = 0.
という方程式の根を考えると代数的数ができます.
(注意) aを自然数として,x + aの xに自然数を代入すると必ず x + aも自然数になります.aを整数として,axの xに整数を代入すると必ず axも整数になります.a0, a1, · · · , anを有理数として,anx
n + an−1xn−1 + · · ·+ a0 の xに有理数
を代入すると必ず有理数になります.しかしながら,それらを用いた方程式の根が考えている数の世界にあると
は限りません.そのため,方程式の解を考えると自然に新しい数の世界が必要になってく
るというわけです.
3.2. 新しい数の作り方 77
3.2.2 自然数
自然数は,物を数える,順序を数えるという最も基本的な要求から考えられた数です.自然数は普通,ペアノの公理を用いて定義されますが,ここではその説明に深入りしないことにします.
(注意) 0を自然数に含めるかどうかは,流儀によって違います.数学基礎論や,それに近い分野では 0を含め,それ以外の分野では含めないことが多いようです.代数学でも 0を含めないことが普通ですが,諸般の事情により,この章では 0 を含めることにします.曜日計算をしたときに,何日後を計算するには基準となる日を 0日と数えると計算が便利でした.自然数に 0を入れたくなる事情はこういったところに現れます.
3.2.3 整数
様々な問題を考えるとき,加法に関する方程式を解く必要がしばしば生じます.たとえば,
x+ 3 = 5.
を満たす自然数 xは,x = 2と得られます.しかし,
x+ 3 = 0.
を満たす自然数は存在しません.そこで,この方程式の解を x = −3という記号で表わすことにします.つまり,方程式が必ず解を持つように数を拡張するわけです.全く同様に,任意の自然数 aに対し,
x+ a = 0.
という方程式の解を,x = −aと定めます.自然数全体と,このような方程式の解全体の合併で,整数環 Zを定義します.つまり,マイナスの数を自然数に付け加えると,Zが得られます.
解説 元々,自然数の中で方程式を考えていたのだから自然数の中に解が無ければ「解無し」とするのも自然です.実際,中世の人は負の数をほとんど受け入れませんでした.しかし,数学では何だかよくわからないけれど与えられた方程式の根が役に立つのなら,それを新しい数として受け入れるという大らかな態度を取ります.このような柔軟な態度によって,数学は大きな発展をしてきたのです.
78 第 3章 環と体
3.2.4 有理数
自然数に,マイナスの数をつけ加えて整数が得られました.これと同様に,逆数をつけ加えて数の世界を広げてみましょう.しかし,0にどのような整数を掛けても 0なので,0には逆数が存在しま
せん.そこで,
Z∖ {0} := {a ∈ Z | a ̸= 0}.
という集合を考え,任意の a ∈ Z∖ {0}, b ∈ Zに対し,
ax = b.
の方程式の解を,b
aで表わすことにします.
(注意) S を集合,T (⊂ S)を S の部分集合としたとき,
S ∖ T := {s ∈ S|s ̸∈ T}.
という集合が定義されます.S ∖ T を,S − T と書くこともあります.ここでは,S = Z, T = {0}なので,S ∖ T = Z∖ {0} は,0以外の整数の
集合となります.ただし,
3
5=
6
10=−9−15
.
のように,異なる表示が同じ数を表わすので,これらを同一視しないといけません.これがいわゆる約分です.このようにして,有理数体Qが得られます.
解説 最初は何をやっているのかわからないのですが,a, b ∈ Zを用いた方程式 ax = bを考えている時点では自然数と整数の世界しか知らないことに注意しましょう.つまり,整数だけを用いて有理数を作らないといけません.
(注意) a ∈ Qが a ̸= 0ならば,aの乗法逆元は aの逆数1
a∈ Qとなりま
す.よって,Qは体の定義を満足するので体になります.
3.2. 新しい数の作り方 79
3.2.5 代数的数
これまでに考えた方程式は,一次方程式だけでした.そこで,有理数係数の二次以上の方程式の根を新しい数として考えます.それが,代数的数と呼ばれる数です.代数的数全体をQの代数閉包といい,Qで表わします.Qは体になります (要証明).an, an−1, · · · , a0 ∈ Q, (an ̸= 0)に対し,
anxn + an−1x
n−1 + · · ·+ a0 = 0.
という形の方程式の根全体がQの代数閉包Qです.
例 60
x2 − 2 = 0.
の二つの根は代数的数.普通,x = ±√2と書かれる数.
3.2.6 実数
今までの話とは異なり,実数は位相的な要請によって作られた数です.大雑把にいえば,有理数体は隙間だらけなので,その隙間を埋めるように作ったのが実数です.
解説 実数の構成法にはいくつかの方法がありますが,ここでは触れません.
3.2.7 複素数体
x2 + 1 = 0.
の一つの根を i =√−1とし,
C := {a+ bi|a, b ∈ R}.
という集合を複素数体といいます.
3.2.8 Z/NZ
Z/NZは,N が素数のときは 0以外の元に逆数が存在するので体になります.これを有限体といいます.pを素数としたとき,Z/pZを Fpという記号で表わすこともあります.逆にN が合成数のときは,0以外の元で逆数を持たないものがあり,体にはなりません.
80 第 3章 環と体
2013.6.20, 代数学序論 (情報数理学科)担当:志村真帆呂
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3.3 環の定義
群を導入すると、環がきれいに定義できます。
定義 26 (環の定義) 空集合ではない集合 Rが次の性質を満たすとき、Rは環であるといいます。
[加法] Rは、+という演算に関して可換群になる。
[乗法] ∀x, y ∈ Rに対し、xy ∈ Rという積が定まる。
[乗法の結合律] ∀x, y, z ∈ Rに対し、(xy)z = x(yz).
[分配律] ∀x, y, z ∈ Rに対し、x(y + z) = xy + xz, (x+ y)z = xz + yz.
さらに、次の条件を満たすときに Rを可換環といいます。
[積の可換性] ∀x, y ∈ Rに対し、xy = yx.
解説 「Rが、+という演算に関して可換群になる。」とは、Rが +に関して群をなし、さらに次の性質を満たすことです。
∀x, y ∈ Rに対し、x+ y = y + x.
このように、可換群の積は +を用いて表すのが普通です。
(注意) 環の積には単位元や逆元の存在を仮定していないので、一般に群にはなりません。
解説 分配律は、加法と乗法の関係を表しています。この関係は非常によい性質を持っています。環は集合に二つの演算を考えたものです。これをさらに一般化し、三つ以
上の演算を持つ集合を考えようとすると、分配律に相当する性質が大抵の場合うまく定義できません。
例 61 (環の例 (整数環 Z)) 整数全体の集合 Zは、普通の加法と乗法によって可換環になります。Zは乗法単位元 1を持ちます。しかし、2 ∈ Zには乗法についての逆元は存在しません。
3.4. 環の加法群、乗法群 (単数群) 81
例 62 (環の例 (多項式環)) Rを可換環とし、xを変数とする。
R[x] := {a0 + a1x+ a2x2 + · · ·+ akx
k + · · ·+ anxn|ak ∈ R,n ∈ N}.
を R係数の (1変数)多項式環といいます。R[x]も通常の和と積によって、可換環となります。
例 63 (環の例 (行列環)) Rを可換環とします。
M2(R) :=
{(a11 a12a21 a22
) ∣∣∣∣a11, a12, a21, a22 ∈ R
}を R係数の (2次)行列環といいます。M2(R)は通常の和と積によって環となりますが、可換環ではありません。実際、R = Zとし、
A =
(1 00 0
), B =
(0 10 0
)∈M2(Z)
とすると、
AB =
(1 00 0
)(0 10 0
)=
(0 10 0
).
BA =
(0 10 0
)(1 00 0
)=
(0 00 0
).
となり、
AB ̸= BA.
例 64 (環の例 (Z/NZ)) Z/NZは環になります。N = 6のとき、2 ∈ Z/6Zには逆元が存在しません。
定義 27 (体) F が体 (field)であるとは、以下の性質を満たすこと。
(i). F は環。
(ii). 0以外の全ての F の元には乗法逆元が存在する。
3.4 環の加法群、乗法群 (単数群)
環には、二つの演算「加法」と「乗法」がありました。それぞれの演算について群をなすような環の部分集合を考えてみよう。
82 第 3章 環と体
定義 28 (単数、環の加法群、乗法群) Rを可換環とする。R全体は、定義より加法群でした。それを Rの加法群といい、R+ で表します。乗法逆元を持つ Rの元を単数 (単元)といいます。
単数全体は乗法に関して群をなします。これをRの乗法群、あるいはRの単数群 (単元群)といい、R× で表します。
(注意) 加法群R+は、集合としてはRと同じものですが、乗法を忘れて加法群としての構造だけを考えています。このため、R+ を Rと書く場合もありますが、加法群であることを強調するときには R+ を使います。本によっては、乗法群を R∗ で表していることもあります。
例 65 (体の加法群と乗法群) F を体とすると、集合としては F+ = F .F× は、F の単数全体なので、
ax = 1.
が F に解を持つような a ∈ F 全体になります。F は体なので、この方程式は a ̸= 0の時に必ず F に解を持ちます。よって、
F× = {a ∈ F |a ̸= 0}.
となります。
例 66 (整数環の乗法群) 整数環の乗法群 Z× は、Zの単数全体なので、
ax = 1.
が Zに解を持つような a ∈ Z全体になります。|a| > 1ならば |a||x| = 1より 0 < |x| < 1なので、x ̸∈ Zとなり、a = ±1のときにしか Zに解を持ちません。よって、
Z× = {±1}.
となります。
例 67 (Z/pZの乗法群) pを素数とします。
(Z/pZ)×は、
a x = 1.
が Z/pZに解を持つような a ∈ Z/pZ全体になります。これを合同式で書き直すと、
ax ≡ 1 (mod p).
3.4. 環の加法群、乗法群 (単数群) 83
さらに、不定方程式に直すと、
ax+ py = 1.
となります。これが解を持つための必要十分条件は、
(a, p) = 1.
pが素数なので、この条件は次のように書き換えられる。
a ̸= 0.
よって、
(Z/pZ)×= {a ∈ Z/pZ | a ̸= 0} = {1, 2, · · · , p− 1}.
(注意) これより、pを素数とすると、Z/pZは体になります。
問題 67 (Z/6Z)×を求めてください。
この結果から、Z/6Zが体にならないこと示してください。
例 68 (Z/pZの乗法群 (Z/pZ)×) Z/7Zの乗法群 (Z/7Z)
×= {1, 2, 3, 4, 5, 6}
の元 3は,3× 1 = 3, 3× 2 = 6, 3× 3 = 2, 3× 4 = 5, 3× 5 = 1, 3× 6 = 4
より,
(1 2 3 4 5 63 6 2 5 1 4
)という S6 の元に対応します.これを共通の
数字を含まない巡回置換の積で表すと,(1 2 3 4 5 63 6 2 5 1 4
)= ( 1 3 2 6 4 5 )
となるので,全ての数字を含む巡回置換になります.よって,(Z/7Z)
×は 3で生成される巡回群であることがわかります.
(Z/7Z)×= ⟨3⟩.
実は,pが素数ならば,ある元 a ∈ (Z/pZ)×を用いて
(Z/pZ)×= ⟨a⟩.
となります.この事実が,(Z/pZ)
×の扱いがとても簡単になる理由になります.
84 第 3章 環と体
解説 (有限群と対称群) Gを位数 nの有限群とします.任意の元 a ∈ Gによる積は Gのある置換を与えます.
たとえば,例68だと,3 ∈ (Z/7Z)×による積は,
(1 2 3 4 5 63 6 2 5 1 4
)∈
S6 という置換を与えるのでした.つまり,位数 6の有限群 (Z/7Z)×は,6次
対称群 S6 の部分群と思うことができるわけです.このことから,n次対称群 Sn の部分群の分類や性質を調べることはとて
も重要だとわかります.なぜなら,それにより位数 nの有限群が全てわかるからです.
3.5 群と方程式
群の考え方は方程式の解法などで無意識に使っているものです.たとえば次の方程式を解いてみよう.
例 69
4x+ 8 = 3
この方程式から xを求めるには,係数の 4と定数の 8が邪魔です.そこで,8を消去することを考えます.そのために,8の加法逆元 (−8)を両辺に足します.
4x+ 8 + (−8) = 3 + (−8)
(注意) 自然数の範囲では,8の加法逆元 (−8)が無いので (−8)を足す操作ができず,移項ができません.つまり,加法について群になっていないと方程式の解法に制限がかかります.
(−8)を足した結果は次のようになります.
4x = −5
さらに,4を消去するために 4の乗法逆元1
4を両辺に掛けます.
1
4× 4x =
1
4× (−5)
(注意) 整数の範囲では,4の乗法逆元1
4が無いので
1
4を掛ける操作ができ
ず,方程式を解けません.つまり,4が乗法群の元になっていないと方程式の解法に制限がかかります.
3.5. 群と方程式 85
解説
ax+ b = c
bが加法逆元を持ち,さらに aが乗法逆元を持てば,a, bが具体的に与えられなくてもこの方程式は必ず解を持ちます.だから,方程式をどの世界で考えているかが重要になってきます.もし,環 Rで方程式を解こうとすると bは必ず加法逆元を持ちますが,aはRの乗法群R× に属していないと解を持たない場合があります.そのため乗法群 R× の決定が大事な問題になるわけです.もし環Rが体だったらこの問題の答えは簡単で,R×は 0以外のRの元全体となります.逆にRが体でない場合は,R×の構造がもっと複雑で面白いものとなります.
86 第 3章 環と体
2013.6.24, 代数学序論 (情報数理学科)担当:志村真帆呂
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3.6 前回の復習
3.6.1 Z/NZの乗法群
N を自然数とする.
(Z/NZ)×:= {a ∈ Z/NZ|∃x ∈ Z/NZ s.t. ax ≡ 1 (mod N)}
は Z/NZの乗法について群をなす.これを Z/NZの乗法群という,
3.6.2 (Z/NZ)×が群をなすことの証明
(Z/NZ)×が群をなすことは次のように示せる.
(積について閉じていることの証明)
a, b ∈ (Z/NZ)×とすると,∃a−1, b−1 ∈ Z/NZなので,積 abに対し
て b−1a−1 ∈ Z/NZは,(ab)(b−1a−1) = a(bb−1)a−1 = a × 1 × a−1 =aa−1 = 1.よって,ab ∈ Z/NZ.
(単位元の存在の証明)
1 ∈ Z/NZは,1× 1 = 1なので,1 ∈ (Z/NZ)×となる.
(逆元の存在の証明)
a ∈ (Z/NZ)×とすると,∃a−1 ∈ Z/NZですが,aa−1 = a−1a = 1よ
り,a−1 も (Z/NZ)×の条件を満たすので a−1 ∈ (Z/NZ)
×.
(結合律)
Z/NZが結合律を満たすので,その部分集合である (Z/NZ)×も結合
律を満たす.
a ∈ (Z/NZ)×となるためには,ax+Ny = 1が整数解を持てばよいので,a
の条件としては
(a,N) = 1
が得られる.
3.7. フェルマーの小定理 87
3.7 フェルマーの小定理
定理 2 (フェルマーの小定理) pを素数,aを pと互いに素な整数とすると,次の合同式が成り立つ.
ap−1 ≡ 1 (mod p).
定義 29 Gを有限群,H を Gの部分群とします.a, b ∈ G がH を法として同値とは,
∃h ∈ H s.t. b = ah.
を満たすことをいう.H を法として aと同値な元の全体を aH で表す.
aH := {x ∈ G | x = ah(∃h ∈ H)}.
aH を (H を法とした)aの類という.
問題 68 3次対称群 S3と,その部分群H = {13, (1 2 3), (1 3 2)} について,H を法とした類を全て求めて下さい.
補題 10 Gを有限群,H を Gの部分群とします.a, b ∈ Gに対し,次のいずれかが成り立つ.{
aH = bH
aH ∩ bH = ∅.
証明x ∈ bH が,x ∈ aH となっていたとすると,bH の定義より,ある h ∈ H が存在して x = bh かつ aH の定義より,ある h′ ∈ H が存在して x = ah′ となります.よって,
bh = ah′.
H は群なので,hの逆元 h−1 が存在する.これを両辺の右から掛けると,
bhh−1 = b = ah′h−1
となります.H は群なので,h′h−1 ∈ H となり,b ∈ aH となるので,
bH = aHH = aH.
つまり,bH の元が一つでも aH に属すると,aH = bH となるわけです.逆に,aH ̸= bH とすると共通の元は一つもないことになり,aH ∩ bH = ∅がいえます. 2
88 第 3章 環と体
補題 11 Gを有限群,H を Gの部分群とします.任意の a ∈ GのH を法とした類 aH の元の個数は,部分群H の位数 |H|と一致する.
証明写像
f : H −→ aH
h 7−→ ah
を考える.h, h′ ∈ H とし,
ah = ah′
とする.両辺の左から a−1 を掛けると,
h = a−1ah = a−1ah′ = h′
となるので,f は単射になります.また,任意の aH の元は ahという形をしているので,
f(h) = ah
となり,f は全射になります.よって,f は有限集合H, aH の全単射になるのでH と aH の元の個数は
一致する. 2
解説 有限集合を類別すればいつでも類の元の個数はいつでも一致するように思えますが,それは正しくありません.この補題は,部分群で類別しているから言えるとても特殊な性質です.
定理 3 (ラグランジュの定理) Gを有限群,H を Gの部分群とします.(G : H)をGをH で類別したときの異なる類の総数とすると,次の等式が成り立ちます.
|G| = |H|(G : H).
証明
a1H, a2H, · · · , a(g:H)H
3.7. フェルマーの小定理 89
を異なる全ての類とします.すると,任意のGの元はどこかの類に必ず属します.さらに,どの二つも共通部分がありません.よって,aiH ∩ ajH = ∅,(i ̸= j),
G = a1H ∪ a2H ∪ · · · ∪ a(g:H)H.
となることと,任意の aiH の元の個数が |H|であることより,
|G| = |H|(G : H).
がいえます. 2
系 1 Gを有限群,H を Gの部分群とします.このとき,H の位数 |H|は,Gの位数 |G|を割り切る.
証明定理の等式より,|H|は |G|の約数になっている. 2
問題 69 Gを有限群,任意の a ∈ Gについて aの位数を f としたとき次の等式が成り立つことを示してください.ただし,eは Gの単位元
af = e.
命題 1 Gを有限群とする.任意の a ∈ Gについて,次の等式が成り立つ.
a|G| = e.
証明Gを有限群,任意の a ∈ Gで生成される部分群 ⟨a⟩ を考えると,系から |⟨a⟩|は |G|の約数となるので,aの位数は,|G|の約数.よって,ある自然数が存在して,
|G| = k|⟨a⟩|.
よって,
a|G| = ak|⟨a⟩| =(a|⟨a⟩|
)k= ek = e.
となる. 2
定理 2 (フェルマーの小定理) pを素数とする. G = (Z/pZ)×とすれば,任
意の a ∈ Gについて,
ap−1 = 1.
証明(Z/pZ)
×の位数は p− 1なので命題より明らか.
90 第 3章 環と体
3.8 フェルマーの定理のまとめ
• 現象をみつける.
210 = 1024 ≡ 1 (mod 11).
他の数値でも同様のことが成り立つか調べる.
• 全ての現象を一度に表せる式をみつける.フェルマーの小定理:pを素数,aを pと互いに素な整数とすると,
ap−1 ≡ 1 (mod p).
これを証明する方法は沢山あるけれど,なぜ p− 1乗なのかという疑問に答られる証明がよい証明です.
• より一般的な事実を証明し,その結果として上記の定理を得る.このとき,よく知られた枠組,たとえば群論や環論などを用いて証明するとこれ以外にも応用できて便利Gを有限群,|G|を Gの位数,eを Gの単位元とする.任意の a ∈ Gに対し,次が成り立つ.
a|G| = e.
これを G = Z/pZに用いると,フェルマーの小定理を得られます.
3.9 シローの定理
Gを有限群とします.Gの部分群H があれば,H の位数は Gの位数の約数になりますが,Gの位数の約数を与えても,同じ位数を持つGの部分群が存在するとは限りません.しかし,次のようなことは言えます.
定理 3 Gを有限群,素数 pが群Gの位数の約数だとすると,位数 pのGの元が存在する.
例 70 ルービック・キューブの群としての位数は,
43252003274489856000 = 227 × 314 × 53 × 72 × 11.
となることが知られています.Sylowの定理より,ルービック・キューブには位数 7の元や,位数 11の元が存在します.つまり,7回繰り返すと元に戻ったり,11回繰り返すと元に戻ったりする一連の手順がそれぞれ存在するわけです.具体的にその手順がわからないのに,位数だけからそのような位数を持つ手順の存在がわかるのは面白いことです.
91
第4章 対称式と交代式
2013.7.1, 代数学序論 (情報数理学科)担当:志村真帆呂
http://www.ss.u-tokai.ac.jp/~mahoro/2013Spring/alg_intro/
4.1 2次方程式の解法と対称式2次方程式
x2 + ax+ b = 0
の解を x = α, β とすると,
x2 + ax+ b = (x− α)(x− β) = x2 − (α+ β)x+ αβ = 0
より,{α+ β = −aαβ = b
という解と係数の関係が得られます.ここに現れる α+ β, αβ という式を (2変数の)基本対称式といいます.式の特徴は,どちらも α と β を入れ替えても式が変わらないことです.2次方程式とは,基本対称式の値を α+ β = −a, αβ = bと指定したときに
α, β の値を求める,と言い換えることができます.x = α, β, γ を解とする 3次方程式は
x3+ax2+bx+c = (x−α)(x−β)(x−γ) = x3−(α+β+γ)x2+(αβ+αγ+βγ)x−αβγ = 0
より,α+ β + γ = −aαβ + αγ + βγ = b
αβγ = −c
となり,これらの式も α, β,γ を入れ替えても式が変わりません.そこで方程式を解くために,変数を入れ替えても式が変わらない対称式という式を調べることにします.
92 第 4章 対称式と交代式
4.2 2変数の対称式
2変数の対称式
二つの変数 x, yからなる多項式 f(x, y)を考えます.f(x, y)の xに yを,yに xを代入した式 f(y, x)が
f(x, y) = f(y, x)
を満たすとき,f(x, y)を 2変数の対称式といいます.
例 71 2変数の対称式と,そうでない多項式の例を挙げてみます.
• f(x, y) = x+ yは対称式.
• f(x, y) = xyは対称式.
• f(x, y) = (x− y)2 は対称式.
• f(x, y) = x− yは,f(y, x) = y − x = −f(x, y)となるので対称式ではない.
例 72 2次方程式
x2 + ax+ b = (x− α)(x− β) = 0
では,解と係数の間に次の関係式が成り立ちます.{α+ β = −a,αβ = b.
つまり,係数 a, bは,二つの解 α, β の対称式になっています.
問題 70 次の 2変数多項式を,2変数の対称式とそうでないものに分けてください.
(i). x2 + y2
(ii). x+ y2
(iii). x2 − y2
(iv). (x+ 2y)3 + (2x+ y)3
4.3. 対称群の多項式への作用 93
4.3 対称群の多項式への作用
定義 30 (対称群の多項式への作用) n個の変数 x1, x1, · · · , xn からなる多項式 f(x1, x2, · · · , xn)への n次対称群 Sn の元 σの作用を以下で定義する.
σ(f(x1, x2, · · · , xn)) := f(xσ(1), xσ(2), · · · , xσ(n)).
例 73 多項式 f(x1, x2, x3) = x21 +5x1x3 − 4x2x3への σ =
(1 2 32 3 1
)の
作用は,
σ(f(x1, x2, x3)) = f(xσ(1), xσ(2), xσ(3)) = f(x2, x3, x1) = x22+5x2x1−4x3x1.
解説 n次対称群 Sn の全ての元による作用で変わらない多項式が対称式です.つまり,対称式の自己同型群は Snと一致します.このことは対称式が高い対称性を備えていることを示しています.
対称式
定義 31 (対称式) n変数の多項式 f(x1, x2, · · · , xn)が (n変数の)対称式であるとは,任意の σ ∈ Sn に対して,次の等式が成り立つこと.
σ(f(x1, x2, · · · , xn)) = f(x1, x2, · · · , xn).
解説 対称式の定義から,n次対称群 Sn で f(x1, x2, · · · , xn)の添字を変換しても元の多項式と変わらないという性質 (不変といいます )が得られます.Sn の任意の元には対応するあみだくじがあるので,(i i + 1) ∈ Sn (i =
1, 2, · · · , n− 1) という形の元で不変ならば,それらの積で表せる Sn の任意 の元でも不変になります.つまり,Snの全ての元 (n!個ある)について調べなくても,(i i+ 1)の形の n− 1個だけ調べれば十分です.こんなところにも群論の威力が現れています.
問題 71 次の 3変数多項式を,3変数の対称式とそうでないものに分けてください.
(i). x+ y + z
(ii). xy + xz + yz
(iii). xyz
(iv). x2y + y2z + z2x
94 第 4章 対称式と交代式
基本対称式
定義 32 (基本対称式) n個の変数 x1, x2, · · · , xn からなる以下の対称式 σk を,(k次の)基本対称式といいます.
• σ1 = x1 + x2 + · · ·+ xn.
• σ2 = x1x2 + x1x3 + · · ·+ xixj + · · ·+ xn−1xn, (i < j).
• σk = {x1 , x2, · · · , xn から取り出した異なる k個の積の総和 }
• σn = x1x2 · · ·xn.
例 74 3変数の基本対称式は次の通り.
• σ1 = x1 + x2 + x3.
• σ2 = x1x2 + x1x3 + x2x3.
• σ3 = x1x2x3.
(注意) 同じ σk でも,変数の個数が違うと違う式になることに注意しましょう.たとえば,3変数の基本対称式 σ1 = x+ y + z,4変数の基本対称式 σ1 =
x+ y + z + wなどとなります.
解説 n変数の基本対称式は,次の多項式を展開したときの係数として得られます.
(x+ x1)(x+ x2) · · · (x+ xn) = xn + σ1xn−1 + σ2x
n−2 + · · ·+ σn.
解と係数の関係は,
(x− x1)(x− x2) · · · (x− xn) = xn − σ1xn−1 + σ2x
n−2 + · · ·+ (−1)nσn.
から得られます.
問題 72 変数 x, y, z, wからなる 4変数の基本対称式を全て挙げてください.
命題 2 全ての n変数の対称式は,n変数の基本対称式の和と積で表される.
例 75 この命題は,次のような関係式が必ず存在することを主張しています.
• x3 + y3 = (x+ y)3 − 3(x+ y)xy = σ31 − 3σ1σ2.
• x31+x3
2+x33 = (x1+x2+x3)
3−3(x1+x2+x3)(x1x2+x2x3+x3x1)+3x1x2x3 = σ3
1 − 3σ1σ2 + 3σ3.
4.3. 対称群の多項式への作用 95
例 76 方程式の解に関する対称式が方程式の係数を用いて表せるのはこの命題からわかります.
x2 + 5x+ 3 = 0
の解を α, β とすると,次の対称式
(α− β)2
は,σ1 = −(α+ β) = −5, σ2 = αβ = 3より,
(α− β)2 = (α+ β)2 − 4αβ = (−5)2 − 4× 3 = 13
となります.
問題 73 方程式 x3 + 2x2 + 4x− 8 = 0の解を α1, α2, α3 とする.このとき,次の値を求めてください.
(i). α1α2α3
(ii). α21 + α2
2 + α23
4.3.1 対称式の基本対称式による表示アルゴリズム
簡単のため,最初は 2変数で説明します.
例 77
f(x, y) = x3y2 + x2y3 + x3 + y3 + 2x2y + 2xy2 + 3xy.
次数が一番高いのは x3y2, x2y3 の 2項.この項は基本対称式による 5次式
(x+ y)5, (x+ y)3xy, (x+ y)(xy)2
から出てくる可能性があります.しかし,(x+ y)5からは x5という項が,(x+ y)3xyからは x4yという項が出てくるため,この二つの項は除外しないといけません.
f(x, y)− (x+ y)(xy)2 = x3 + y3 + 2x2y + 2xy2 + 3xy.
これにより,右辺は 3次の多項式になりました.
f(x, y)− (x+ y)(xy)2 − (x+ y)3 = −x2y − xy2 + 3xy.
同様にして,3次の部分を基本対称式で表して引くと,
f(x, y)− (x+ y)(xy)2 − (x+ y)3 + (x+ y)xy = 3xy.
96 第 4章 対称式と交代式
さらに,1次の部分を基本対称式で表して引くと 0になります.
f(x, y)− (x+ y)(xy)2 − (x+ y)3 + (x+ y)xy − 3xy = 0.
よって,f(x, y)は基本対称式を用いて次のように表されます.
f(x, y) = (x+y)(xy)2+(x+y)3−(x+y)xy+3xy = σ1σ22+σ3
1−σ1σ2+3σ2.
解説 (アルゴリズム) 実用的には,以下の手順で対称式を基本対称式を用いて表します.
(i). 対称式 f(x, y) を同次の項でまとめる.
(ii). 基本対称式の積でその次数になるものの線形結合を作る.
(iii). 同次の項と,その基本対称式の線形結合の恒等式を作る.
(iv). 変数に色々な値を代入して,必要な数の関係式を作る.
(v). 連立方程式を解いて,係数を決定する.
例 78 実際の計算は以下のようになります.
f(x1, x2, x3) = x21 + x2
2 + x23
σ1 = x1 + x2 + x3
σ2 = x1x2 + x2x3 + x3x1
σ3 = x1x2x3
x21 + x2
2 + x23 = aσ2
1 + bσ2.
(x1, x2, x3) = (1, 0, 0)とすると,
1 = f(1, 0, 0) = aσ1(1, 0, 0)2 + bσ2(1, 0, 0) = a.
(x1, x2, x3) = (1, 1, 0)とすると,
2 = f(1, 1, 0) = aσ1(1, 1, 0)2 + bσ2(1, 1, 0) = 4a+ b.
よって,a = 1, b = −2となるので
x21 + x2
2 + x23 = σ2
1 − 2σ2.
問題 74 変数 x, y, zに関する基本対称式 σ1, σ2, σ3を x, y, zを用いて表してください.
問題 75 変数 x, y, z に関する次の対称式を,基本対称式 σ1, σ2, σ3 を用いて表してください.
(i). x2 + y2 + z2
(ii). x2y + y2z + z2x+ x2z + y2x+ z2y
(iii). (x− y)2 + (y − z)2 + (z − x)2
4.4. 対称式の基本対称式による表示アルゴリズムの解説 97
2013.7.4, 代数学序論 (情報数理学科)担当:志村真帆呂
http://www.ss.u-tokai.ac.jp/~mahoro/2013Spring/alg_intro/
4.4 対称式の基本対称式による表示アルゴリズムの解説
対称式の基本対称式による表示アルゴリズム
(i). 対称式 f(x, y) を同次の項でまとめる.
(ii). 基本対称式の積でその次数になるものの線形結合を作る.
(iii). 同次の項と,その基本対称式の線形結合の恒等式を作る.
(iv). 変数に色々な値を代入して,必要な数の関係式を作る.
(v). 連立方程式を解いて,係数を決定する.
次の分割数は,「同次の項と,その基本対称式の線形結合の恒等式を作る」の部分で用います.
分割数
自然数 nを,いくつかの自然数の和 (和の順序は無視し,同じ数を何回使ってもよい)で表すやり方の個数を分割数といいます.たとえば n = 3のときは,
• 3=1+1+1
• 3=1+2
• 3=3
なので,3の分割数は 3となります.
解説 3変数の対称式 f(x, y, z) = x3+y3+z3を基本対称式
σ1 = x+ y + z
σ2 = xy + xz + yz
σ3 = xyz
の和と積で表す手順を解説します.f(x, y, z)は 3次式なので,σ1, σ2, σ3 の3次式で表せます (命題 2).σ1, σ2, σ3は,それぞれ 1次式,2次式,3次式なので,これらの積で作られる 3次式は 3の分割数だけあります.具体的には
98 第 4章 対称式と交代式
• 1 + 1 + 1に対応する σ31
• 1 + 2に対応する σ1σ2
• 3に対応する σ3
よって,ある定数 a, b, cが存在して次の恒等式が成り立ちます.
f(x, y, z) = x3 + y3 + z3 = aσ31 + bσ1σ2 + cσ3
[素朴で手間のかかる方法]素直に計算するには,aσ3
1 + bσ1σ2 + cσ3 を展開して x, y, zについて整理し,左辺の係数と比較すれば a, b, cの連立方程式が得られ,a, b, cが求まります.
x3 + y3 + z3
=aσ31 + bσ1σ2 + cσ3
=a(x+ y + z)3 + b(x+ y + z)(xy + xz + yz) + cxyz
=a(x3 + y3 + z3 + 3x2y + 3x2z + 3y2z + 3xy2 + 3xz2 + 3yz2 + 6xyz)
+ b(x2y + x2z + y2z + xy2 + xz2 + yz2 + 3xyz)
+ cxyz
=a(x3 + y3 + z3)
+ (3a+ b)(x2y + x2z + y2z + xy2 + xz2 + yz2)
+ (6a+ 3b+ c)xyz
よって係数を比較すると,a = 1
3a+ b = 0
6a+ 3b+ c = 0
が得られます.
これを解くと,a = 1
b = −3c = 3
よって,
x3 + y3 + z3 = σ31 − 3σ1σ2 + 3σ3
[計算の手間が少ない方法]恒等式
x3 + y3 + z3 = aσ31 + bσ1σ2 + cσ3
4.4. 対称式の基本対称式による表示アルゴリズムの解説 99
は x, y, z にどんな値を代入しても成り立つので,上手に値を選んで a, b, cの関係式を求めることができます.このとき,σ1, σ2, σ3の値のいくつかが 0になる x, y, zの値を選ぶとより簡単です.
• (x, y, z) = (1, 0, 0). (σ2 = σ3 = 0になる)σ1 = x+ y + z = 1 + 0 + 0 = 1
σ2 = xy + xz + yz = 1× 0 + 1× 0 + 0× 0 = 0
σ3 = xyz = 1× 0× 0 = 0
f(1, 0, 0) = 13 + 03 + 03 = 1
(aσ31 + bσ1σ2 + cσ3)(1, 0, 0) = a× 13 + b× 0× 0 + c× 0 = a
よって,a = 1
• (x, y, z) = (1, 1, 0). (σ3 = 0になる)σ1 = 1 + 1 + 0 = 2
σ2 = 1× 1 + 1× 0 + 0× 0 = 1
σ3 = 1× 1× 0 = 0
f(1, 1, 0) = 13 + 13 + 03 = 2
a = 1は求まっているので,次が成り立つ.
(σ31 + bσ1σ2 + cσ3)(1, 1, 0) = 23 + b× 2× 1 + c× 0 = 8 + 2b
よって,8 + 2b = 2なので,b = −3.• (x, y, z) = (1, 1,−1). (σ1, σ2, σ3が 0でない小さい値になる)σ1 = 1 + 1− 1 = 1
σ2 = 1× 1 + 1× (−1) + 1× (−1) = −1σ3 = 1× 1× (−1) = −1
f(1, 1,−1) = 13 + 13 + (−1)3 = 1
a = 1, b = −3は求まっているので,次が成り立つ.
(σ31 − 3σ1σ2 + cσ3)(1, 1,−1) = 13 − 3× (−1)× 1 + c× (−1) = 4− c
よって,4− c = 1なので,c = 3.
よって,
x3 + y3 + z3 = σ31 − 3σ1σ2 + 3σ3.
(注意) x, y, zの値は自由に選べますが,基本対称式 σ1, σ2, σ3の値がより多く 0になったり,小さい値になるようにすると計算が楽になります.
100 第 4章 対称式と交代式
交代式
定義 33 (交代式) n 変数の多項式 f(x1, x2, · · · , xn) が交代式であるとは,任意の i ̸= j に対して,次の等式が成り立つこと.
f(x1, x2, · · · ,i
x̂j , · · · ,j
x̂i, · · · , xn) = −f(x1, x2, · · · , xn).
例 79 交代式には以下のようなものがある.
• x1 − x2
• (x1 − x2)(x1 − x3)(x2 − x3)
•∏i<j
(xi − xj)
(注意) これらの式は,基本交代式と呼ばれている.
補題 12 全ての交代式は,
(基本交代式)× (対称式)
という形で表せる.
問題 76 (ファンデルモンドの行列式) 以下の行列式が交代式であることを示し,
(基本交代式)× (対称式)
という形で表してください.∣∣∣∣∣∣∣∣∣∣
1 1 · · · 1a1 a2 · · · ana21 a22 · · · a2n...
......
...an−11 an−1
2 · · · an−1n
∣∣∣∣∣∣∣∣∣∣問題 77 ω2 + ω + 1 = 0のとき,
(x1 + ωx2 + ω2x3)3 + (x2 + ωx1 + ω2x3)
3
が対称式であることを示し,基本対称式を用いて表してください.
4.4. 対称式の基本対称式による表示アルゴリズムの解説 101
解説 2次方程式
x2 + ax+ b = (x− α)(x− β) = 0
では,解と係数の間に次の関係式が成り立ちます.{α+ β = −a,αβ = b.
つまり,係数 −a, bは,二つの解 α, β の基本対称式になっているのでした.この関係を用いると,次のような問題が簡単になります.
与えられた解を持つ方程式を求める問題
次の 2次方程式の解を α, β とする.
x2 + 5x+ 3 = 0
このとき,α2, β2 を解とする 2次方程式を求めよ.
求めたい方程式は,解と係数の関係から次のようになります.
x2 − (α2 + β2)x+ α2β2 = 0.
この係数が α, βの対称式であることから,α, βの基本対称式 (これが元の方程式の係数なのに注目) で表せるので,以下のように簡単に求まります.
α2 + β2 = (α+ β)2 − 2αβ = (−5)2 − 2× 3 = 25− 6 = 19.
α2β2 = (αβ)2 = 32 = 9
これより,
x2 − 19x+ 9 = 0.
が求める方程式となります.
102 第 4章 対称式と交代式
これをまともに α2, β2 を計算して求める非常に大変です.
α, β =−5±
√52 − 4× 3
2=−5±
√13
2
α2 =
(−5 +
√13
2
)2
=(−5)2 + 2× (−5)×
√13 + (
√13)2
4=
19− 5√13
2
β2 ==
(−5−
√13
2
)2
=(−5)2 − 2× (−5)×
√13 + (
√13)2
4=
19 + 5√13
2
α2 + β2 =19− 5
√13
2+
19 + 5√13
2= 19.
α2β2 =
(19− 5
√13
2× 19 + 5
√13
2
)2
= 9.
このような状況は,n次方程式の解の公式を求めるときなどによく現れます.
問題 78 次の 2次方程式の解を α, β とする.
x2 − 3x− 1 = 0.
このとき,1
α,1
βを解とする 2次方程式を求めよ.
103
第5章 3次方程式の解法
2013.7.8, 代数学序論 (情報数理学科)担当:志村真帆呂
http://www.ss.u-tokai.ac.jp/~mahoro/2013Spring/alg_intro/
5.1 3次方程式の解法の準備解説 3次方程式
x3 + ax2 + bx+ c = 0.
は,x = t− a
3とすると
t3 + pt+ q = 0.
の形の 3次方程式に変形できます.この 3次方程式の解を
t = α, β, γ
とすると,
x3 + ax2 + bx+ c = 0.
の解は
x = α− a
3, β − a
3, γ − a
3
と求まります.
(注意) このことから,3次方程式は 2次の項の係数が 0の場合を解ければ全て解けることがわかります.なぜなら 2次の項の係数が 0 でなかったら,上記の変形で 0にできるからです.
104 第 5章 3次方程式の解法
解説 x3 + ax2 + bx+ c = 0に x = t− a
3を代入して t3 + pt+ q = 0 と変形
する計算は,微分を用いると簡単に計算できます.
t3 + pt+ q =(t− a
3
)3+ a
(t− a
3
)2+ b
(t− a
3
)+ c
t = 0を代入すると,
q =(−a
3
)3+ a
(−a
3
)2+ b
(−a
3
)+ c
tで微分すると,
3t2 + p = 3(t− a
3
)2+ 2a
(t− a
3
)+ b
t = 0を代入すると,
p = 3(−a
3
)2+ 2a
(−a
3
)+ b
例 80 3次方程式
x3 − 6x2 + x+ 5 = 0.
を t3 + pt+ q = 0に変形する.
x3 − 6x2 + x+ 5 = 0.a = −6なので x = t−(−63
)= t+ 2を代入すればよい.
t3 + pt+ q = (t+ 2)3 − 6(t+ 2)2 + (t+ 2) + 5
t = 0を代入すると,
q = 23 − 6× 22 + 2 + 5 = 8− 24 + 2 + 5 = −9.tで微分すると,
3t2 + p = 3(t+ 2)2 − 12(t+ 2) + 1.
t = 0を代入すると,
p = 3× 22 − 12× 2 + 1 = 12− 24 + 1 = −11.t3 − 11t− 9 = 0.
問題 79 3次方程式
x3 + 3x2 − 7x+ 1 = 0
を t3 + pt+ q = 0の形に変形してください.
5.2. 3次方程式の解法 (カルダノの方法) 105
5.2 3次方程式の解法 (カルダノの方法)
例 81 3次方程式
x3 − 6x+ 4 = 0
の根 α = 3√−2 + 2i+ 3
√−2− 2i, (i =
√−1) がどのように求められるかを説
明します (同時に他の根も求めます)
まず,α = u+ vと置いてみます.
なぜこのように置くとうまく解が求まるかは,後の説明をみるとわかります.
x = u+ vを代入すると (u+ v)3 − 6(u+ v) + 4 = 0.
これを展開して次のように整理します.(u3 + v3 + 4) + 3(u+ v)(uv − 2) = 0.
ポイントは,u+ v = αという値を固定しても uvの値は自由に選べることです.
なぜなら uv = βを任意に選んでも,t2 − αt+ β = 0が t = u, vを解に持つからです.
そこで,uv − 2 = 0としてみると,u3 + v3 + 4 = 0となります.
u3v3 = (uv)3 = 23 = 8と,
u3 + v3 = −4, u3v3 = 8から,u3, v3は次の 2次方程式の根になります.
T 2 + 4T + 8 = 0.
T = −2±√22 − 8 = −2± 2i.
よって,u, vは以下の 3通りになります (uv = 2に注意)
u = 3√−2 + 2i, v = 3
√−2− 2i.
u = ω(
3√−2 + 2i
), v = ω2
(3√−2− 2i
).
u = ω2(
3√−2 + 2i
), v = ω
(3√−2− 2i
).
ただし,ω3 = 1, ω ̸= 1.
これにより,元の方程式の根は次のようになります.x = 3√−2 + 2i+ 3
√−2− 2i,
x = ω(
3√−2 + 2i
)+ ω2
(3√−2− 2i
).
x = ω2(
3√−2 + 2i
)+ ω
(3√−2− 2i
).
106 第 5章 3次方程式の解法
5.3 カルダノの方法の解説
• 2次の係数が 0になっている
x3 + px+ q = 0.
の形の 3次方程式が解けると,
x3 + ax2 + bx+ c = 0.
も解ける.
解説 3次方程式
x3 + ax2 + bx+ c = 0.
x = t− 1
3aとおくと,(
t− 1
3a
)3
+ a
(t− 1
3a
)2
+ b
(t− 1
3a
)+ c = 0.
t3 +
(−a2
3+ b
)t+
(2a3
27− ab
3+ c
)= 0.
となり,2次の項が消えます.p = −a2
3+ b
q =2a3
27− ab
3+ c
と置くと,
t3 + pt+ q = 0.
この方程式の解を α, β, γ とすると,
x3 + ax2 + bx+ c = 0.
の解は,α− 1
3a, β − 1
3a, γ − 1
3a となる (t = x+
1
3aに注意).
よって,最初から
x3 + px+ q = 0
の形の方程式だけを考えればよいことになります.
5.3. カルダノの方法の解説 107
解説 u, v を複素数とし,その和 u + v が固定されてるとします (u + v =α とします).このとき,uvをどんな値にしても,(uv = β とします) u, v は存在します.実際,u+ v = α, uv = β とすると,t2 − αt+ β = 0の解は u, vです.
• 3次方程式
x3 + px+ q = 0.
の解を x = u+ vという形で表すと,uvの値は自由に選べる.
• よって,都合のよい uvの値を自由に選んで解法に利用できる.
x3 + px+ q = 0の解を
x = u+ v
と置くと,方程式は次のように変形できます.
(u+ v)3 + p(u+ v) + q = 0.
(u3 + v3 + q) + (u+ v)(3uv + p) = 0.
ここで,(3uv+ p)の項に注目して この項が 0になるように uvの値を選びます.uvの値が自由に選べることに注目しましょう.
3uv = −p.
このように uvの値を定めると,u3 + v3 + q = 0が得られます.さらに u3v3 を計算すると次のようになります.u3v3 = −p3
27u3 + v3 = −q.
よって,u3, v3 は次の 2次方程式の根となります.
T 2 + qT − p3
27= 0.
108 第 5章 3次方程式の解法
T =−q ±
√q2 + 4
27p3
2.
s =3
√√√√−q +√q2 + 427p
3
2,
t =3
√√√√−q −√q2 + 427p
3
2.
とすると,u, vは以下の 3通りになります (3uv = −pに注意)
u = s, v = t.
u = ωs, v = ω2t.
u = ω2s, v = ωt.
ただし,ω3 = 1, ω ̸= 1.
これにより,元の方程式の根は次のようになります.x = s+ t,
x = ωs+ ω2t.
x = ω2s+ ωt.
5.4 1の 3乗根ωについて解説 1の 3乗根 ωは,ω3 = 1, ω ̸= 1となる数です.2つありますが,どちらか 1つを自由に選んでよいです.ωは,
ω3 = 1
を満たすので,
ω3 − 1 = (ω − 1)(ω2 + ω + 1) = 0
となり,ω ̸= 1より
x2 + x+ 1 = 0
という 2次方程式の根となります.
解説 (3乗根について)
x3 = a
5.4. 1の 3乗根 ωについて 109
という方程式の根の一つは,x = 3√aと表せます.
全ての根は 1の 3乗根 ωを用いて
x = 3√a, ω 3
√a, ω2 3
√a
と表せます.これは ω3 = 1から直ちに確認できます.
解説 3次方程式
x3 + px+ q = 0.
を解く過程で,
T 2 + qT − p3
27= 0.
という 2次方程式を解いています.つまり,3次方程式がより簡単な 2次方程式を解くことで解けたわけです.このような方程式を補助方程式といいます.n次方程式の解法では,うまく次数の低い補助方程式がみつかるかどうかが問題となります.
問題 80 3次方程式
x3 + 3x2 + 4x+ 4 = 0.
の根を求めてください.
110 第 5章 3次方程式の解法
2013.7.11, 代数学序論 (情報数理学科)担当:志村真帆呂
http://www.ss.u-tokai.ac.jp/~mahoro/2013Spring/alg_intro/
5.5 2次方程式の解の公式と対称式2次方程式の解の公式は中学校で学ぶものですが,これを群論の立場から
見直してみましょう.
解説 b, cを定数としたとき,2次方程式
x2 + bx+ c = 0
の解の公式は,
x =−b±
√b2 − 4c
2
でした.α, β を二つの解とすると
x2 + bx+ c = (x− α)(x− β) = x2 − (α+ β)x+ αβ
なので,
α+ β = −b, αβ = c
となります.ここで注目してほしいことは,α+ β, αβ が,αと β の基本対称式であり,その値が係数の b, cで与えられていることです.つまり,2次方程式を解くとは,解の基本対称式の値から解を求める作業
だと言い換えられます.もし,α+ β と α− β の値がわかれば,
(α+ β) + (α− β)
2= α,
(α+ β)− (α− β)
2= β.
となって,解が求まります.これを踏まえて解の公式の各項が何を表しているのかを考えます.
−b = α+ β.√b2 − 4c =
√(−(α+ β))2 − 4αβ
=√α2 + 2αβ + β2 − 4αβ
=√α2 − 2αβ + β2
=√(α− β)2
= α− β.
5.6. 3次方程式の解法のための補足 111
つまり,−b = α+ β,√b2 − 4c = α− β となっているのがわかります.
一番のポイントは,α−βは対称式ではないけれど,(α−β)2 = (α+β)2−4αβと対称式になっているところです.対称式だから b, cで表せ,2乗の形なので平方根を用いて α− β が求まります.
5.5.1 2次方程式の解法がうまくいった理由
解 αと β の差 α− β の 2乗が対称式になり,係数 b,cを用いて表せたのがうまくいった理由です.ここで,(α−β)2が対称式であることを対称群S2を用いて示してみましょう.
S2 = {(1 2), 12} = ⟨(1 2)⟩.
よって,
(1 2)(α− β)2 = (β − α)2 = (α− β)2
S2 の元で (α− β)2 は変わらないので,(α− β)2 は対称式となります.対称式は基本対称式の多項式で表せるので,方程式の係数を用いて表せます.
5.6 3次方程式の解法のための補足問題 81 ω2 + ω + 1 = 0 とします.このとき,
x1 + x2 + x3 = p
x1 + ωx2 + ω2x3 = q
x1 + ω2x2 + ωx3 = r.
から,x1, x2, x3 が p, q, rを用いて表せることを示してください.ヒント:これは,連立一次方程式です.
問題 82 ω2 + ω + 1 = 0のとき、
(x1 + ωx2 + ω2x3)3 + (x2 + ωx1 + ω2x3)
3
が対称式であることを示してください.ヒント:S3 = ⟨(1 2), (2 3)⟩なので,(1 2)と (2 3)でこの多項式が変らないことを示せばよい.
112 第 5章 3次方程式の解法
2013.7.15, 代数学序論 (情報数理学科)担当:志村真帆呂
http://www.ss.u-tokai.ac.jp/~mahoro/2013Spring/alg_intro/
5.7 復習
(i). 3次方程式 x3 + ax2 + bx+ c = 0
(ii). x = t− a
3とすると,t3 + pt+ q = 0に変形できる.
(a = 0のときは何もする必要はない)
(iii). 解 t = t1 が求まったら,元の方程式の解は x = t1 −a
3と求まる.
(iv). t = u+ vとおくと,(u+ v)3 + p(u+ v) + q = 0.(u3 + v3 + q) + (u+ v)(3uv + p) = 0.
(v). ここで,3uv + p = 0とすると
{u3 + v3 = −q,uv = −p
3,u3 + v3 = −q,
u3v3 = −p3
27,
.
(vi). u3, v3 は,T 2 + qT − p3
27= 0の解になる.
この解を α, β とすると,u3 = α, v3 = β となる.
(vii). (u, v) =
{3√α
3√β
,
{ω 3√α
ω2 3√β
,
{ω2 3√α
ω 3√β
. ただし,ωは,ω3 = 1, ω ̸= 1
となる数.
(viii). t = 3√α+ 3√β, ω 3
√α+ ω2 3
√β, ω2 3
√α+ ω 3
√β
(ix). x = 3√α+ 3√β − a
3, ω 3√α+ ω2 3
√β − a
3, ω2 3√α+ ω 3
√β − a
3
5.8 期末試験について
期末試験では,講義ノートにある問題の類題を出題します.
以下の内容から出題します.
5.9. 過去の期末試験問題 (の一部) 113
• あみだくじや,正方形などの図形と対称群に関する問題.たとえば,与えられた置換に対応するあみだくじを作るなど.
• Z/NZの乗法群 (Z/NZ)×や,対称群 Snの群の位数や,元の位数の計
算,置換の積,逆置換,共通の数字を含まない巡回置換の積で置換を表すなど.
• 対称式を基本対称式を用いて表す.
• 簡単な証明問題.
• フェルマーの小定理の応用.
• 3次方程式.
5.9 過去の期末試験問題 (の一部)
問題 83 (i). Z/12Z の乗法群 (Z/12Z)×を {0, 1, 2, · · · , 11} の部分集合の
形で表してください。
(ii). 乗法群 (Z/12Z)×の位数を求めてください。
(iii). 9次対称群 S9の元
(1 2 3 4 5 6 7 8 99 3 8 1 5 6 2 7 4
)の位数を求めて
ください。
(iv). さらに,上記の置換に対応するあみだくじを一つ作ってください.
問題 84 x4 + y4 を基本対称式 σ1 = x + y, σ2 = xy の多項式で表してください.
問題 85 次の 3次方程式の根を全て求めてください。
x3 − 3x2 − 1 = 0.
114 第 5章 3次方程式の解法
5.10 なぜ,カルダノの解法がうまくいったのか
x3 + px+ q = 0.
の根を x1, x2, x3 とします.解と係数の関係から,次の等式が得られます.
x1 + x2 + x3 = 0,
x1x2 + x2x3 + x1x3 = p,
x1x2x3 = −q.
左辺は基本対称式であることに注意しましょう.次に,
x1 + ωx2 + ω2x3
という値を考えます.ただし,ω3 = 1, ω ̸= 1. つまり, ω2 + ω + 1 = 0.
定義 34 (対称群の多項式への作用) n次対称群 Snによる n変数の多項式への作用とは,任意の σ ∈ Sn によって,任意の多項式 f(x1, x2, · · · , xn)に多項式
f(xσ(1), xσ(2), · · · , xσ(n))
を対応させることをいいます.f(xσ(1), xσ(2), · · · , xσ(n)) を記号では
σ (f(x1, x2, · · · , xn)) や,(σf) (x1, x2, · · · , xn) や,fσ(x1, x2, · · · , xn)
などで表します.
例 82 3次対称群 S3 による 3変数多項式への作用を考えます.σ = (2 3) ∈ S3 による f(x1, x2, x3) = x2
1 + 2x2 + 3x1x3 への作用は,
σ(x1) = xσ(1) = x1, σ(x2) = xσ(1) = x3, σ(x3) = xσ(1) = x2.
なので,次のようになります.
fσ(x1, x2, x3) = f(x1, x3, x2) = x21 + 2x3 + 3x1x2.
解説 任意の σ ∈ Sn について
fσ(x1, x2, · · · , xn) = f(x1, x2, · · · , xn)
5.10. なぜ,カルダノの解法がうまくいったのか 115
が成り立つとき,f(x1, x2, · · · , xn)は対称式になります.また,この式が成立するかどうかを調べるには全ての Sn の元について計算する必要はなく,Sn の生成元について調べれば十分です.たとえば,S3 = ⟨(1 2), (1 2 3)⟩なので,{
f (1 2)(x1, x2, x3) = f(x2, x1, x3) = f(x1, x2, x3),
f (1 2 3)(x1, x2, x3) = f(x2, x3, x1) = f(x1, x2, x3).
の二つが成り立てば f(x1, x2, x3)は対称式となります.
(1 2)(x1 + ωx2 + ω2x3) = x2 + ωx1 + ω2x3
なので,この式は対称式ではありません.
(1 2 3)(x1 + ωx2 + ω2x3) = x2 + ωx3 + ω2x1 = ω2(x1 + ωx2 + ω2x3)
なので,これからも対称式ではないことがわかりますが,(1 2 3)が ω2 倍になるのが面白いところです.このことを踏まえると,ω3 = 1であることから
(1 2 3)(x1+ωx2+ω2x3)3 = ω6(x1+ωx2+ω2x3)
3 = (x1+ωx2+ω2x3)3
となります.よって,
(x1 + ωx2 + ω2x3)3 + (x2 + ωx1 + ω2x3)
3
と,
(x1 + ωx2 + ω2x3)3(x2 + ωx1 + ω2x3)
3
は,対称式になります.(1 2 3)で式が変らない (不変といいます) ことは既に示した通り.(1 2)で不変なのは,(x1 +ωx2 +ω2x3)
3と (x2 +ωx1 +ω2x3)3
交換されるだけなので全体として変わらないからです.対称式は基本対称式を用いて表せるので,この二つの式は元の方程式の係数を用いて表せます.よって,
(x1 + ωx2 + ω2x3)3, (x2 + ωx1 + ω2x3)
3
を二つの解とする 2次方程式
T 2 + kT + l = 0.
が得られます.係数 の k, lと lは元の 3次方程式の係数を用いて得られます.
116 第 5章 3次方程式の解法
これを解くと,次の値が求まります.
x1 + ωx2 + ω2x3, x2 + ωx1 + ω2x3.
この値が求まると,
1
3
((x1 + x2 + x3) + (x1 + ωx2 + ω2x3) + ω2(x2 + ωx1 + ω2x3)
)= x1 +
1
3(1 + ω + ω2)(x2 + x3)
= x1.
1
3
((x1 + x2 + x3) + ω2(x1 + ωx2 + ω2x3) + ω(x2 + ωx1 + ω2x3)
)= x2 +
1
3(1 + ω + ω2)(x1 + x3)
= x2.
1
3
((x1 + x2 + x3) + ω(x1 + ωx2 + ω2x3) + ω(x2 + ωx1 + ω2x3)
)= x3 +
1
3(1 + ω + ω2)(x1 + x2)
= x3.
となり,元の 3次方程式の根が全て得られました.
解説 つまり,
(x1 + ωx2 + ω2x3)3
が S3 の作用で二つの値しか取らなかったので,その値を求めるのに 2次方程式を解けば済んだのが成功の理由です.また,その二つの値の和と積が対称式になっていることからその 2次方程
式の係数が元の 3次方程式の係数で表せるのもポイントです.
解説 5次方程式の中に加減乗除とベキ根だけでは解けないものがあるのは次のように説明できます.ここで ζ5 = 1, ζ ̸= 1とします.5次方程式の根を x1, x2, x3, x4, x5 とすると,
(x1 + ζx2 + ζ2x3 + ζ3x4 + ζ4x5)5
は S5 の作用で 24個の値を取ります.つまり,補助方程式が 24次方程式になってしまいます.このため, この
方法では 5次方程式は解けません.他の式を調べても,6次の補助方程式までにはなりますが 5次より小さいものは見つかりません.
5.10. なぜ,カルダノの解法がうまくいったのか 117
ここで行っていることは,Snの作用でなるべく値が変らない式を求めるという作業です.つまり多項式の Sn による対称性を調べているというわけです.こんなところにも,対称性を群を用いて調べるというアイデアが出てきます.残念ながら,他のどんな方法でも加減乗除とベキ根だけでは解けないことがわかりますが,それには S5の部分群A5が可解群でないという群論の事実を用います.それがガロア理論と呼ばれる現代数学の基礎となる理論です.ガロア理論を用いると,与えられた n次方程式が加減乗除とベキ根だけで解けるかどうかまで判定できます.