dysplasia epiphysealis hemimelica; report of three cases

4
336 Dysplasia Epiphysealis Hemimelicaの3例 について Dysplasia Epiphysealis Hemimelicaの3例 について 九州大学整形形科 (主任:西尾篤人教授) ・杉 広島日赤病院整形外科 国立別府病院整形外科 Dysplasia Epiphysealis Hemimelica; Report of Three Cases By M. Eguchi, Y. Sugioka & T. Fujii Department of Orthopaedic Snrgery, Faculty of Medicine, Kyushu University M. Tomisige Hiroshima Red Cross Hospital M. Masuda Beppu National Hospital 1. Three cases of dysplasia epiphysealis hemimelica are reported and the literature is briefly reviewed. 2. The course of these cases is described and discussed. 3. It is stressed that the treatment of this disease must be individualized depending on the amount of deformity and pain. 本 症 は1926年MouchetとBelotに よ ってtarso- megalieと い う名 称 で 報 告 され て 以来, tarso-epiphy seal aclasis, benign epiphyseal osteochondroma な ど 種 々の 名 称 で 呼 ば れて きた が 現 在 で は1956年 Fairbankに よ って提 唱 され たDysplasia epiphy- sialis hemimelicaが 一般 に受 け入 れ られ て い るよ う で あ る.本 邦 に おい て は 杉浦 らの報 告 を は じあ と して い くつか の報 告 が あ るが希 な症 患 と思 わ れ る. 現 在 ま で 原 因 は不 明で 遺 伝 性 は み と め られ ず 病 変 は 片 側 の 下 肢の骨端 それも内側か外側かにかたよっていること が多 く大腿骨遠位端 ・距骨 ・脛骨 下端 および上端に頻 度が高いとされている. われわは片側の膝関節のみに病変をみとめた3例 を 経 験 した の で そ の 概 要 に 一 部 経過 を 追 加 して 報 告 す る. 症 例1は 初 診 時1才11ケ月 の女 児 で 現 在8才8ケ あ る(図1). 妊娠 中 ・出産 ・生下時に異 常な く処 女歩行 は11ケ月, 1才5ケ 月頃少 し歩 き方がおか し いのに両親が 気 付 い て い た. 1才11ケ月の時 に精 査 を求 めて来院 した. 前 病 歴, 家 族 歴 に 特 記 すべ きこと な く全 身 的 には 正 常 な 発育 経 過 を と って い るが, 右 大 腿 内穎 部 が 梢 々突 出 し膝 関節 に軽 度 の 外 反 変形 を み と あ る. 脚 長 差 な く膝 関 節 の可 動 性 は 正 常 で あ る. 右 大 部に軽度 の筋萎縮がみ られ る. そ の他 に 理学 的 な異 常所 見 は な い. レン トゲ ン所 見: 単 純 レ線 で は右 大 腿 骨 遠 位端 内側 に の み本 来 の骨 端 核 とは 明 瞭 に区 別 され る多 中 心性 の 不規 則な石灰化像をみ とめ, 側面 像 で 後 方 に 異 常 陰影 -92-

Upload: others

Post on 15-Nov-2021

1 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: Dysplasia Epiphysealis Hemimelica; Report of Three Cases

336 Dysplasia Epiphysealis Hemimelicaの3例 に つ い て

Dysplasia Epiphysealis Hemimelicaの3例 に つ い て

九州大学整形形科 (主任: 西尾篤人教授)

江 口 正 雄 ・杉 岡 洋 一

藤 井 敏 男

広島日赤病院整形外科

冨 重 守

国立別府病院整形外科

増 田 元 彦

Dysplasia Epiphysealis Hemimelica; Report of Three Cases

By

M. Eguchi, Y. Sugioka & T. FujiiDepartment of Orthopaedic Snrgery,

Faculty of Medicine, Kyushu University

M. Tomisige

Hiroshima Red Cross Hospital

M. Masuda

Beppu National Hospital

1. Three cases of dysplasia epiphysealis hemimelica are reported and the literature

is briefly reviewed.

2. The course of these cases is described and discussed.

3. It is stressed that the treatment of this disease must be individualized depending

on the amount of deformity and pain.

本症は1926年MouchetとBelotに よ ってtarso-

megalieと い う名称で報告 されて以来, tarso-epiphy

seal aclasis, benign epiphyseal osteochondroma

など 種 々の 名称で 呼 ばれて きたが 現在 では1956年

Fairbankに よって提 唱されたDysplasia epiphy-

sialis hemimelicaが 一般 に受 け入れ られてい るよ う

であ る. 本邦 においては杉浦 らの報告をは じあ として

い くつか の報告があ るが希 な症患 と思われ る. 現在ま

で原因は不 明で遺伝性はみとめ られず病変は片側の下

肢の骨端 それ も内側か外側かにかたよってい ること

が多 く大腿骨遠位端 ・距骨 ・脛骨 下端 および上端に頻

度が高いとされてい る.

われわは片 側の膝関節のみに病 変をみとめた3例 を

経験 したのでその 概要に 一部経過 を 追加 して 報 告す

る.

症 例

症例1は 初診時1才11ケ 月の女児で現在8才8ケ 月

で ある(図1). 妊娠 中 ・出産 ・生下時に異 常な く処

女歩行 は11ケ 月, 1才5ケ 月頃少 し歩 き方がおか し

いのに両親が 気付いていた. 1才11ケ 月の時 に精査

を求 めて来院 した. 前病歴, 家族歴に特記すべ きこと

な く全身的 には正常な発育経過 をとってい るが, 右大

腿 内穎部が梢 々突出 し膝関節 に軽度の外反変形 をみと

ある. 脚長差な く膝関節の可動性は正常である. 右大

腿 部に軽度 の筋萎縮がみ られる. その他に理学 的な異

常所見 はない.

レン トゲン所見: 単純 レ線 では右大腿骨遠位端 内側

にのみ本来 の骨端核 とは明瞭に区別 され る多中心性 の

不規 則な石灰化像をみ とめ, 側面像で後方に異常陰影

-92-

Page 2: Dysplasia Epiphysealis Hemimelica; Report of Three Cases

(整 形 外科 と災 害 外 科 第22巻 第3号) 337

が存在す ることがわか る. 関節造影 にて異常陰影は骨

端軟骨 内に存在する ことが示 された. 骨幹端部に異 常

はない. その他の骨端部, 足根骨 に も異常 はみ とめ ら

れなか った. 3才4ケ 月の時点で は大腿骨遠位端内側

の異 常陰影 は増大 して いるが外側に異常 はな く膝関節

は機能 的に正常であった.

8才8ケ 月の レ線で異常陰影は本来の骨端核に吸収

された如 くに癒 合 し内側骨端核の軽 度の不規則な腫大

のみとな っている. 骨端軟骨板, 骨幹端 に異常はな

い. 右大腿部に軽度の筋萎縮があ るが, 膝関節に変形

な く機能的には全 く正常で ある. この例 は経過観察に

とどめた症例で良好な経過 をとった1例 といえる.

症例2は 初診時11才9ケ 月の男児(図2). 左膝関

節痛を主訴 と して来院 した. 前病歴, 家族歴 に特記す

べ きことな く小学校入学以来陸上 ・野球 ・水泳 の選手

を してお り, それ まで何等異常 に気付かず受診1ケ 月

位前か ら左膝関節痛を きた して来院 した, 理学 的には

左大腿 内穎部が内側後方に稽 々突 出 してお り, 左膝関

節の伸展は170° と軽度の制限が あるが屈曲は正常で

あ る. 脚長差はないが, 左大腿 部, 下腿部 に軽度の筋萎

縮がみ とめ られる. 躁間距離2cmの 軽度 の外反膝があ

る. 左膝関節以外に理学 的異常所見はみとめ られ ない.

レン トゲ ン所見: 左大腿骨遠位端 の内側骨端核にの

み異常な骨増殖 があり外側にはは っきり した異常はみ

とめ られない. 軽度 の屈曲を加えると骨端核の内側が

不規則に腫大 している様子がは つき りし, 側面の断層

撮影にて骨端核 が内側後方にむけて分葉状 に不規則に

腫大 してい る様子が わか る. その他の骨端部 ・足根骨

に異常はな く現 在経過観察中であ る.

症例3は 初診時1才6ケ 月の 男児 で現在17才 であ

る(図3). 左膝の外反変形を主訴 として来院 した.

前病歴, 家族歴に特記 すべ きことな く初診時 の所見で

左膝関節に約15° の外反変形があ り膝内側に骨様 の突

出が あって腫瘤 として触れ る. 脚長差な く筋萎縮 もみ

とあ られず膝関節の可動性 は良好であ る. この時点で

試験 関節切開, 針生検を受 けた.

レン トゲ ン所見: 単純 レ線では左大腿骨遠位端 およ

び脛骨上端に本来の骨端核 とは部位を異に して, それ

も内側 にのみ, 不規 則な形態 を した多中心性 の石 灰化

を思わせ る異 常陰影 をみとめるが, 骨幹端には っき り

した異常はな くその他 の骨端 郭, 足根骨に異常はみと

あ られない, 関節造 影所見 にてこの異常陰影が軟骨 内

に存在 して いることが示唆 される.

その後経過観察中であ ったが次第 に左膝 内側の腫瘤

の増 大, 膝外反変形の増強があ って7才6ケ 月の時点

で35° の膝 関節外反変形 と可 動制限(伸 展145°, 屈曲

100°)お よび疹痛を きたす よ うになったたあ, 左大腿

骨遠位端 脛骨上端 の内側か ら発生 した腫瘤 の部分切

除を受 けひ きつづ いて内側 の大腿骨遠位骨端軟骨板 に

図1 症 例1の 経 過

a) 1才11カ 月 b) 1才11カ 月関 節造 影 c) 1才11カ 月 d) 3才4カ 月 e) 8才8カ 月

図2 症 例2(11才9ヵ 月)

断層撮影

-93-

Page 3: Dysplasia Epiphysealis Hemimelica; Report of Three Cases

338 Dysplasia Epiphysealis Hemimelicaの3例 に つ い て

対 してstaplingが 行 なわれた. 9才6ケ 月にて再度

増殖 した 脛骨 上端か らの 腫瘤の 部分切除が 行なわれ

た. 病理組織診断 はOsteochondromaで あ った. 10

才6ケ 月の時点 では膝外反変形は改善 されて可動性 は

伸展180°屈 曲90°となり抜釘 と腫瘤 の部分再切除 が行

なわれた. 12才10ケ 月では膝 関節 の可動性は不変で

あったが約25° の内反変形 と疹痛 とを きた したため大

腿骨下部で襖状骨切 り術が 行 なわれた. 13才6ケ 月

の時点で膝関節の 変形は 改善 されていたが15才6ヶ

月では再び約15° の 内反変形 を来 したために脛骨 にて

骨切 り術が行 なわれ 変形の 改善 をみた. 左下肢 に約

5cmの 短縮があり膝関節の可動域は伸展1800屈 曲90°

である.

考 察

本症は冒頭に述べた ようにMouchetとBelotに よ

るtarsomegalieが 最 初の報告だ といわれ てい るが,

1950年Trevorはtarso-epiphyseal aclasisと し

て10症 例 をまとめて報告 してい る. 1956年Fairbank

は 自験例 お よび 既報告例 の27症 例の 検討 を 行 ない

Trevorの 命名には不満足 と してDyrplasia epiphy-

sealis hemimelicaと 称 する ことを提唱 した. その

後はこの名 称が 一般に受 け 入れ られてい る よ うで あ

る.

これ によれば本症の特徴と して, 遺伝性, 家族 内発

生は通常 みとめ られない. 男性 の発症が多 くて診断 が

つ く年 令は主 と して2~8才 が多 いが生後8ケ 月, 23

才 とい う例 もあ る. 罹患部位 は下肢が圧倒的に多 いが

上肢の例 も希にはあ るよ うで ある. 罹患側に左右差 は

ない. 受診の動機はその他の身体的発育は正常である

のに膝 関節 あるいは足関節の内又 は外側の徐 々に進行

す る腫脹 であることが多 く, 骨様の腫脹で軟部組織 に

異常はみ られ ない. 腫 脹は生 後数年間 に増大 し関節 の

外反あ るいは内反変形が この期 間に進行す る. 1966年

Kettelkampら は15症 例を追加 して罹患頻度が高 い

のは距骨, 大腿骨遠位端 脛骨 下端 および上端 足舟

状骨な どをあげてお り, さらに2ケ 所以上の罹患を示

す例が全体の2/3を 占め るとしている.

レ線的には極 く初期では変形があ って も異常はな く

ご くわずかなメタフ ィーゼの拡大のみで あ り, その後

本来の骨端核 とは部位を異に して不規 則な形態を した

多中心性 のradiopacityが 出現 し, 成熟 して くると本

来の骨端核 と連絡 して不規則な分葉状 の骨塊 と して認

識 され るようになるのが通常の経過 といわれてい る.

診断 は 特徴 的な レ線像 か ら 容易で あるが chon-

drodysplasia punctataと の鑑別 をまず考 えねばな

らない. synovial osteochondromatosisと の鑑別

は年令を考慮 すれば容易であ る. 病変部 の病理組織学

的所見は通常の外骨腫 と相違 はない といわれておりこ

の点か らすれば本症 と外骨腫 とは発生部位 において の

みの相違であ る. 本症 にお ける悪性 化の報告 はな く又

本症 と外骨腫 の合併例 の報告 も現在の ところみ られ な

い.

治療 に関 しては個 々の症例で異な るが, 膝 関節 に発

症 した例 に限 れば非手術例 もあるが腫瘤の部分的 ある

いは全摘 出施 行例が多 く外反変形 に対 して穎 上切骨術

が行 なわれた報 告 もあ る. いずれに しろ治療 は病変 の

進行 および障害の程 度によ って慎重 に考慮 されねばな

らない.

本邦 における本症の長期観察例 は少ないが杉浦 らは

3例 を報告 して いる. 症例1に つ いては組 織学 的検 討

は行なわれて いなか ったが初診後約2年 の3才4ケ 月

の レ線 では当初 より異常陰影 の増強がみ られたが, 変

図3 症 例3

初 診 時 1才6カ 月 7才6カ 月

1才6カ 月 関 節 造影 7才6カ 月

-94-

Page 4: Dysplasia Epiphysealis Hemimelica; Report of Three Cases

(整形外 科 と災害外科 第22巻 第3号) 339

形および機能障害が極 く軽 微なため経過観察のみを行

ない, 約7年 後の8才8ケ 月の時点では大腿骨遠位端

における軽度の不規則な腫大がみ とあ られ るのみで異

常増殖 を示唆す る所見 にとぼ しく機能 的には全 く正常

で良好 な自然経過 をとった. これはKettelkampの

症例12の 経過に良 く似てい る. 例2は 発見 の時期 と

して は遅い方に属 するが これ も単発例で現在 の愁訴は

軽度 な膝関節痛のみで あり, 変形および機能障害 も軽

度で あるたあ現 在のところ経過観察にとどめてい る.

症例3に ついては, 発見時期は症例1と ほぼ同 じ頃

で あったが当初よ りすでに変形が強 く又病変が大腿骨

遠位端 と脛骨上端 の2ケ 所にあ るとい う点で異な り,

約6年 後の7才6ケ 月の時点では左 膝関節 の強度な外

反変形 と可動制限 および疹痛を きた し, この時をは じ

めと してその後数 回の観血的治療を余儀 な くさせ られ

た.

以上3例 をみ ると少数例ではあ るが病勢 の進行程度

は個 々の症例で異 な り, その経過 の多様性が うかがわ

れ る. 症例3に おける病変部の増殖 の様子 は全 く腫蕩

性を帯 びているのが 特徴的であ ったが16才 の時点で

は異常増殖 は停止 し, 症例1は8才8ケ 月の時点です

でに異常増殖 を示唆す るレ線所見 に乏 しく, 症例2は

症例1と3の 中間 に相当す る経過 だと思われ る.

む す び

比較的まれな疾患 と思われるDysplasia epiphy-

sealis hemimelicaの3例 につきその概要 と経過 を

いささかの考察を加 えて報告 した.

参 考 文 献

1) Trevor, D.: J. B. J. S., 32-B: 204, 1950.

2) Fairbank, T. J.: J. B. J. S., 38-B: 237,

1956.

3)杉 浦 保 夫 ・国 島 康 文: 整 形外 科, 11: 110,

1960.

4) Bechnagel, K.: Acta Orthop. Scandinavica,

29: 236, 1960.

5) Kettelkamp, D. B., Campbell, C. J, and

Bonfiglio, M.: J. B. J. S., 48-A: 746, 1966.

6) 杉 浦保 夫 ・村 地 俊 二: 日整 会誌, 45: 884,

1971.

7) Noyes, F. R. and Kivi, L. P.: Clinical

Orthopaedics, 86: 175, 1972.

質 問 九大整形 西尾 篤人

第3例 は手術 によ って膝 関節の可動性 は回復 しま し

たか. 早期の切除で, 関節強直をお こした例 の報告が

あるので, 早期の切除は慎重 に考え るべきである.

質 問 鳥大整形 前 山 巌

関節軟骨内の硬化陰影 は骨化核で しよ うか, あ るい

は石灰化巣で しよ うか. 境界が きわあて不鮮 明なもの

が あるようでが.

解 答 九大整形 江口 正雄

異常陰影はOssificationと 思われ る.

-95-