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EBook2 Weekly Magazine Vol.1 No.15 12/30/2010 オブジェクトテクノロジー研究所

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EBook2 Weekly Magazine Vol.1 No.15

12/30/2010

オブジェクトテクノロジー研究所

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Vol.1, No.15, 12/30/2010 EBook2 Weekly Magazine ©2010 OTI, Inc.

2010年 12月 30日号(第 1巻 第 15号)

目次

ANALYSIS & COLUMN

E-Bookが急浮上し、印刷版沈下の米国出版界 (♥) 2

出版とソーシャルメディア#2:本か人か (♥) 6

11 マグロウヒル社長が注目する 5つのトレンド

米国E-Bookビジネスの 10大予想×2 16

NEWS & COMMENTS

20 2010年最大の誤算:米国iPad雑誌の苦戦

IDATEレポート:デジタルが出版産業を牽引 22

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な見方を得る

ANALYSIS

E-Bookが急浮上し、印刷版沈下の米国出版界(♥)

鎌田博樹(本誌編集長)

2010年は、たしかに米国にとっての「E-Book元年」だった。この 1年に米国で何が起きたかを知ることは、歴史的にも意味があることだ。幸いにして、米国の出版産業、あるいはマーケティング会社は様々な角度から、この構造変化を捉えるための定点観測データを揃えており、それらを分析することで、間違った常識や俗説にとらわれない正確ことができる。たとえば、E-Reader は印刷書籍の購買を減らすのか、書籍産業全体としてはどうか、ユーザーは専用リーダと LCDタブレットをどう使い分け(てい)るか、といった基本的問題は、様々に語られてきたが、まだコンセンサスは生まれていない。

米国の「元年」:印刷書籍は減少し、E-Bookは増えるが相関は読めず

消費者の書籍購入行動を調査しているバウカー社(Bowker)のPubTrack Consumerサービスは 4 半期ごとに調査レポートを発表しているが、第 3四半期のデータがPublishers Weekly(12/20)に紹介されている。注目すべき点としてあげられているのは以下の通り。

1. 10月時点で E-Readerを購入したいと考えている人は20%(前年同時点では 10%)

2. 毎日あるいは毎週 E-Bookを読むと答えた人は 10%超(前年は 3%)

3. 書籍販売部数に占める E-Bookの比率は 4.2%(前期比 1ポイント増、

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前年比 2.5ポイント増)

4. 印刷書籍全体および一般ペーパーバック書籍の販売部数には変化なし。

5. ハードカバーは 34.4→32%、量販ペーパーバックは21%→18.4%に減少。

6. E-Book購入者は益々デジタル版の購入を増やす傾向(56.6%→64.0%)。

7. E-Book 購入者による印刷書籍の購入減少は全体傾向と全く同程度。

8. 書籍全体への支出額は、2009年 3Qに比べ一人当たり 10%ほど減少($34.81→$31.65)

9. とくにフィクションへの支出額が 12.7%減少($19.62→$17.12)。

10. ノンフィクションはより-2.9%と緩やかな減少($19.56→$19.00)。

11. 子供の書籍購入額も-8%($18.06→$16.62)。

12. 以上の減少は、主として部数より単価の減少によるもの。

全体として印刷書籍の売上は減少しているが、E-Book購入者が非 E-Book購入者よりも印刷書籍の購入を多く減らしているわけではないので、それが E-Book のせいだとは言えない。しかし、E-Book 購入者はハードカバーや量販ペーパーバック(多くはフィクション)をデジタル版に切り替える傾向がみられるので、そうした意味で影響が及んでいるとは言える。とはいえ、米国の業界ではこれを部門間のシフトと考え、年率 100%以上の成長を続けるデジタルが出版社の経営を圧迫するとはみておらず、むしろ書籍市場の縮小に歯止めをかけるものと期待している。

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日本はどこへ行くか

日本の出版界はこれまで E-Bookをまず「脅威」と考え、印刷書籍にまったく影響しない範囲での取組みに留めてきた。もちろんそれには、(1)デジタルによるカニバリズム(共食い)への怖れのほかに、(2)再販の制度的保証のない E-Bookへの怖れ、(3)著者の市場指向による関係変化への怖れ、(4)デジタル版への付加コストの負担、(5)端末の普及の遅れ、といった事情があったわけだが、あれこれ頭を悩ました割には「脅威」の実体は見えず、逆に米国からは景気のよい話が伝わってきた。

米国と日本とで変わらないのは、不可避的に進行する出版市場の縮小である。日本の出版社はマンガと雑誌(広告)という景気に敏感なコンテンツへの依存が大きいだけに、市場縮小の影響はより深刻だ。大手でさえ、あと2年間もデフレと赤字が続けば、デジタル基盤への投資の余力もタイミングも失ってしまう可能性が大きい。

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欧米に倣おうとする一部の出版社は、そうなる前に動き、残りの多数はなお「趨勢」を見極めようとするだろう。その場合、コンテンツのデジタル化は既存の出版社以外によって進められることになる。読者と著作権者がそれを望むからである。◆

(12/28/2010)

Tags: 出版市場, 米国

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出版とソーシャルメディア#2:本か人か (♥)

鎌田博樹(本誌編集長)

前回はオンラインショップをベースに、ソーシャルメディアを結びつけたCopiaを紹介した。E-Book+SNSのタイトな結合を目ざすのは、アプローチとして正統的なものだろう。それだけに、アマゾンやB&Nなどのメージャーが同等なものをそれ以上のスケールで提供した場合に生き残れるかという問題が残る。それに対して、本との結合を緩くして、逆にヒト(SNS)にフォーカスしたのがLibraryThingやMendeleyである。いずれもパーソナル図書管理サービスをベースとしている。

ベースはオンライン図書管理サービス

自分のための図書管理をやってみたいという人は少なくないだろう。昔の日本語ワープロにも図書管理データベースが付いていたものがあった。しかし、データが特定のアプリケーションやパソコンに制約されてしまうと、入力が億劫になり、しだいに使わなくなってしまう。つまりこういうことは本質的にWebアプリケーションに向いているということだろう。データと管理ソフトがネットにあれば、どこでも自分の蔵書や買い物リストをチェックできる。パーソナル図書管理は、しかしたんなるユーティリティでは終わらない。ソーシャルなコミュニケーションを媒介

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することで、ビジネスのプラットフォームとなり得るからだ。

本はテーマと著者、それらと関連する人・モノ・時代とのコンテクストの上に存在する。

テーマにアクセスする人の興味・関心・仕事などのコンテクストが浮かび上がる。

広告のトリガーとなり得るコンテクストを発見できれば、商業的価値が生まれる。

本じたいが知識情報のネットワーク上のノードであり、それを必要とする人も社会的ネットワークを持っている。そうしたコンテクストは、さしあたって関連した本を売るために役立つだろう(本→本、人→本)。しかし、なにも本だけがすべてではない。あらゆる商品はつねに買い手を探している。コンテクストがうまくつながれば購買行動につながるわけで、Webマーケティングでは価値のあるコンテクストを探している。

本が先かコミュニティが先か:LibraryThingと Mendeley

日本語でも利用できる LibraryThing(メイン州ポートランド市)は、2006 年に創業。”social cataloging website”(世界最大の

愛書家コミュニティサイト)と称する、個人用のオンライン図書目録サービスだが、そこから進んで、個人のコレクションのカタログを他のメンバーと結びつけることができる。特定のテーマ(…Thing)についての本のカタログを集めて共有し、中身についてコミュニケーションを行う。テーマが一風変わったものほど、同好の士と知り合える楽しみも大きいだろう。同じ本が好きな人間は、他の本についても好みが一致する可能性

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が高いからだ。執筆時点(2010 年 12 月末)で、LibraryThing は全世界に125 万人あまりの会員を持ち、登録冊数(延べ)5,837 万冊以上、作品数583.6 万点、レビュー数 125.7 万、グループ数 7,078 などと公表されている。無料提供本もかなり多く、書評用が 6.7万冊、メンバー提供本も 1.9万冊あまりある。

Mendeley(ロンドン/ニューヨーク)は、200万ドルの資金を得て 2008年に英国で創業した。すでに世界最大のオンラ

イン論文データベースに成長している。こうしたサービスが民間ベースで生まれたことに注目したい。文献データベースが進んだジャーナルの世界でニッチを発見したわけである。支援者にはSkypeの創業者のほか、大学や公的機関も含まれている。2009年には TechCrunch Europeの「ベストソーシャル・イノベーション」を受賞している。

機能としては LibraryThing とよく似ているが、学術論文を対象とするので他とはかなり違ったコミュニケーションとコミュニティが生まれる。つまり、学者・研究者のための参照文献管理サービスで、それによって知的なニッチを形成することになる。論文と引用と被引用の関係はアカデミックな世界では最も重視される研究活動のトラックレコードで、論文とその被引用数は、実際に学者としての評価の指標として使われている。だから、参照文献管理は彼ら(あるいはそのアシスタント)にとって手間はかかるものの、抜くわけにはいかない。だからオンラインサービスは必ず関係者によって歓迎される。

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個々のジャーナルの主体である学会は、当然ながら個別のテーマに偏り、研究者自身のアプローチをカバーするものではない。それに学会のサイトにおけるソーシャルネットワークのサポートは、進んだものと遅れたものがまちまちで、ログインやUIもバラバラなので使いにくい。Mendeleyは学際的、国際的なデータベースとして発展していくだろう。(下の画面はMendeley)

LibraryThing と Mendeley は、それぞれ別の入口から「ソーシャル」にアプローチした。ユーザー体験としては大きく異なる。上述したように、本(ドキュメント)と人は、それぞれネットワークのノードとして存在しており、それが交錯するところで静的/動的なコミュニケーションが生ま

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れ、それが次のアクティビティと結びつく。入口と出口は 1 対 1 では対応せず、コンテクストから「意味」を取りだすシステムの設計と管理は難しくなるだろう。今回紹介した両社の場合は、入口を明確にしたことで成功したように思われる。◆ (鎌田、12/30/2010)

ソーシャルネットワーキング ソーシャルメディア ビジネ Tags: , , スモデル

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マグロウヒル社長が注目する 5つのトレンド

ブログメディアMashableの 12月 28日号は、McGraw-Hill Professional社のフィリップ・ラペル社長が寄稿した「出版の未来を変えるE-Bookの 5 つのトレンド」という記事を掲載した。マグロウヒル社は、ビジネス、科学技術、医学分野で世界有数の出版社だが、10 年以上前(RocketBook)からE-Bookに戦略的に取組んでおり、業界をリードする存在だ。ラッペル社長が注目する 5つの流れは、以下に要約を紹介するように、かなりユニークなものだ。

1. 拡張型 E-Bookはすぐにも登場し、改良されていく

現在の E-Book は利便性とアクセスで評価されたものだが、印刷書籍と同じくただ静的なページを表示するだけだ。しかし、動的・対話的機能を持った拡張型 E-Bookはすでに完成しており、ビデオの説明を付けたり、統計学で数学的計算を実行したり、外国語の発音を聞いたり、読者の履歴を記憶したり、学習を支援したりといった機能を持ったE-Bookを、数週間以内に出荷できるよう準備を進めている。

2. デバイス戦争はほぼ終わった

KindleやNook、Sony Readerのような専用リーダ、iPad、Galaxy Tab、Androidのようなタブレット、読書に使われるようになったスマートフォンなど、消費者が混乱をきたすまでに増えてきたが、カテゴリーごとに数種だけが残ることになるだろう。多くの開発者は複数のデバイスで読めるブラ

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ウザ・ソフトを書いており、消費者はデバイス(互換性)のことをあまり気にしなくなり、ソフトウェアが提供するユーザー体験やデバイス間のコンテンツの可搬性、コンテンツカタログ、といったことに関心を向けている。

3. $9.99時代は長くは続かない

アマゾンはベストセラー本について$9.99 という戦略的な価格設定を行って成功したが、それによって消費者の間には E-Book の価格は$9.99 あるいはそれ以下が標準だという誤解が生まれた。現実にはアマゾンが提供する E-Book の大半が$9.99 以上であり、とくに対話的機能を持ったコンテンツは相対的に高い。マグロウヒルのような実務・技術系コンテンツではマスマーケット・タイトルのような価格は困難で、それはコストの多くがプロダクトとしてのコンテンツの改良と編集品質の向上に費やされているためだ。多くの読者は価格よりも、ユーザー体験に期待する。

4. アップセールスは注目すべきビジネスモデル

E-Bookの優れた特徴は、出版社に顧客(読者)との対話・協力の手段を提供していることだ。統計学を学んでいて一つの数式に悪戦苦闘する顧客のことを考えてみよう。友人に聞いても納得のいく答えは得られない。そこでヘルプ・ボタンを押すと、出版社のサイトにつながり、そこでは問題の数式を解説したチュートリアルが$2.99で手に入る。すると、同じ問題を抱えた何百人、何千人もの学生がこうした“E-Book 内アプリ”で授業に追いついていけるようになる。これは E-Bookをコンテクストとした付加価値販売のマーケティン

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グ・モデルとなる。

5. 出版社の役割はますます重要になる

Webでは自主出版については誇大に語られているが、E-Bookにおける出版社の役割はむしろ大きい。コンテンツはどこにでも遍在し、多くは無料で利用できる。だからこそプロによって推敲され、編集されたコンテンツはプレミアムとしての価値を持つ。マグロウヒルでは、通常の技術書や参考書の製作は、編集者、コピーエディタ、校閲者、デザイナーが参加するチームによって行われる。デジタル出版でははるかに大きいユーザー/学習体験を開発・提供することが可能なので、出版社の役割は大きい。しかも、インターネット上で提供されるコンテンツの量は爆発的に増加しており、読者はそうした膨大な関連文献の集約、整理、評価を行う出版社を評価し対価を支払う。そうした専門知識とリソースを持つ出版社こそ、E-Book出版の新しいルールを創っているのだ。

付加価値を提供する 21世紀型出版社へのハードルはかなり高くなる

上記の 5 つの見方を、たとえば本号で紹介したマーク・コーカー氏(Smashwords)の「十大予想」と合わせて読む時、一見して正反対のように思えるかもしれない。しかし、必ずしもそうではない。Smashwordsが主として扱うコンテンツは、インディーズによるフィクションであり、マグロウヒルの専門書、学術書のような高度で膨大な編集作業を要し、付加価値サービスの提供の余地の大きいコンテンツではないことを考えれば、どちらも外れてはいない。しかし、マグロウヒルのような組織的編集体制を必要とするコンテンツはそう多くはないし、しかもそのような体制をとれる出版社も多くはない。21 世紀に出版社であるということは

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かなり厳しそうだ。少なくとも新しいスキルが必要になる。

価格についても同じことが言える。マグロウヒルは専門書で 10ドルは無理だ、としているが、結局は総売上(単価×部数+付加サービス)を最大化するマーケティング・モデルを突き詰めていけば、ベースとなるコンテンツは安くできるし、安いほうがいいということになるだろう。大学生の教科書が平均的に 1冊 100ドル以上も

するというのは、出版社が儲けすぎているかどうかは別として、学生の支払い能力を超えることで社会的な損失を生んでいると言える。10 ドルは無理でも、50ドル、25ドルへと下げればそれだけ市場は広がるし、章ごとの分売を可能とすることでより多くのコンテンツにアクセスできるようになる。専門書であろうと、E-Book市場では継続的な価格低下圧力が働き、傾向としては下がっていくだろう、と筆者は考えている。

「アップセールス」というのは、なるべく付加価値の高い製品やサービスに誘導するマーケティング手法だが、これはE-Bookビジネスの成功の鍵を握っていると考えられる。だが、それには顧客(読者)とつながっていなければならず、読者と対話し、読者のニーズをきめ細かく掴んでいないとロスが大きくなり続かない。コーカー氏もラペル氏も「顧客第一」ということでは一致している。

筆者自身、マグロウヒル社は 20年以上前に訪問したことがある。当時すでにページ組版システムやフルテキスト・データベースなどのデジタル生産インフラを社内に持っており、ハイパードキュメントの応用実験な

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どもやっていた。それにしては、その後の進化は遅かったように思うが、ラペル社長が指摘するように、技術的にはクリアしても、それが提供される環境(デバイスのフォーマット問題)が整うまで待たねばならず、その上でユーザー体験(UX)のデザインを熟成させる必要がある。それだけに、現時点で拡張型 E-Bookとサービスの準備が完了した、と自信を持って言えるのは、時間を無駄にはしてこなかったということなのだろう。2011年に注目したい。◆ (12/30/2010)

マグロウヒルTags: , 市場予測 拡張型E-Book, , 米国

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米国 E-Bookビジネスの 10大予想×2

本誌はすでに 2011 年のトレンド予想を発表(12/02)したが、米国の関係者によるものもだんだん上がっている。E-Bookのようなテーマは、独自の視野を持つ人間の見方をなるべく多く読んだ方がいい。今回ご紹介するのは、客観性を売りにするアナリストではなく、E-Bookビジネスに直接関わる、Smashwordsの創業者マーク・コーカーとE-Readsのリチャード・カーチスの両氏(いずれもMediabistroのGalleyCat所載)。年齢も背景も違い、前者はやや直線的で、後者はバランスの取れた見方を示しているが、いずれも興味深い論点を提供している。たしかにこれらの論点は 2011年に様々な形で取上げられることになるだろう。

マーク・コーカーの 2011年 10大予想

自主出版支援サービスSmashwordsの創業者のマーク・コーカー氏は、出版社に頼らない独立系著者(インディーズ)が専門的知識と経験を身に着けることでベストセラー・チャートを登りつめ、それによって業界の構図が変わることを予想(あるいは期待)している。ほとんどが彼のビジネスに関するものであるが、一種の革命宣言のようなもので、とても分かりやすくていい。

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1. E-Book販売は上昇、でも販売部数はさらに驚き:2011年末までにはE-Bookが商業出版物売上の20%、さらに部数では3分の1を占める。

2. E-Book 革命の第 2 章はエージェントが書く。:著者の経済的利益を最大化する版権エージェントが自主出版者と結びつき、販売プラットフォームと協力しつつ新しいビジネスモデルを開拓する。

3. 有名著者がデジタル版著作権を手放さなくなる。:取り分の多さ、刊行サイクル、配布に要する期間の短縮などでインディーズ出版のメリットは明らかなので、有名著者も一部あるいは全部を自主出版するようになる。

4. 新人にとって自主出版は最後の手段ではなく第一の選択になる。:今日もなお出版社の支援と権威に期待する新人著者は多いが、伝統的出版社のメッキはどんどん剥がれていて、著者たちも認められるまで長くは待てない。2011年にスターが登場すれば状況は一変する。

5. 大手出版社(ビッグシックス)も著者印税を増額。:出版社には他に選択肢はない。ただし、大手出版社が市場から退場するわけではない。著者たちに高品質のサービスを提供する賢い出版社が生き残る。

6. E-Book の価格は低下。:エージェンシーモデルで結束した 5 社の価格維持努力によっても、E-Bookの価格は下がる。本の供給は過剰気味であり、廉価/無料のコンテンツはさらに増加。価格に敏感な読者は安いものから読む。インディーズが価格低下を主導し、大手も抵抗できない。

7. お客様は神様―どの本がヒットするかは出版社でなく、読者が決める。:カネをかけたマーケティングよりもソーシャルメディアに結晶

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化された読者の声が市場を動かす。出版社も「顧客」とは取次や書店ではなく、まず読者であることを知るようになる。

8. E-Bookの世界市場は急拡大、出版社は販売権の地域限定を再考するようになる。:E-Book の世界市場は、米国出版界に未知の新しい収益源をもたらす。出版社は E-Bookビジネスにとって障害でしかない販売権の地域的限定を外し、言語圏で区分するようになる。

9. 発見されること(discoverability)がホットなテーマに。:出版物が増えるほど、消費者には発見されにくくなる。解決策は、本を入手性を高め、メタデータを活用、読者と共鳴する本を出版、ファンを営業支援部隊として位置づける、など。

10. ビッグシックスは DRMを手放さず。:大手出版社は読者を信用できない。DRMが余分なコストで、読者も DRMフリーを望むことが明白になり、販売プラットフォームが対応しても、2011年には変わらないだろう。これは間違いであってほしいが。

リチャード・カーチスの 2011年 10大予想

リチャード・カーチス氏は、ベテランの版権エージェントで、Ereads.com の社長。その発言はつねに多くのE-Bookビジネス関係者から注目されている。

1. Google Editionsが E-Book市場の様相を一変させる。

2. 出版大手、またはそれとE-Book出版社との合併劇が 1件以上起こる。

3. ビッグシックスは著者印税を現行の 25%から増額。

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4. スクリーンに長時間拘束されることによる子供の学習・読書習慣への影響について、教育者、心理学者、両親から問題が提起される。

5. 大学生は電子教科書より紙を選ぶ。

6. オンデマンド印刷は小売モデルとして定着し、返本を前提にした書籍流通はますます減少。

7. 書店や非書店でも E-Bookキオスクが登場する。

8. 児童から青年層までのタイトルが最大の売れ筋となる。

9. 著者は書店回りやカンファレンスをビデオミーティングで済ませるようになる。

10. 聞いたこともない小出版社の活動が活発化し、少数の読者層を相手にしたニッチ出版で利益が得られることを発見する。

◆ (12/28/2010)

Tags: ビジネスモデル, 米国

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NEWS & COMMENTS

2010年最大の誤算:米国 iPad雑誌の苦戦

WWD Media (12/29) が伝える米国ABC (Audit

Bureau of Circulations)の数字によると、Vanity Fairの 11月号は 8,700を売ったが、8~10月の平均である 10,500を下回った。Glamourは 9月に 4,301部で、10月にはさらにダウンして 2,775部にまで落ち込んだ。GQは 11 月に 11,000 で、5~10 月の平均(13,000)を下回る。6 月に 10 万を売って話題をさらったWiredはどうなったか。6~9 月の平均は31,000で 10月、11月はそれぞれ 22,000と 23,000だった。2,800でスタートしたMen’s Healthに至っては、なお 2,000で不振を極めている。問題はどこにあるのか。

iPad雑誌の不振。おそらくこれが 2010年最大の「?」なのだろう。iPadはもちろん売れている。iPad上での E-Bookもそれなりに売れている。十分に準備をしてプロモーションもしたはずだが、アプローチがどこか間違っていたということになろう。ざっと考えられる理由は以下の 5点。

1. iPadユーザーと雑誌読者の間にミスマッチがある

2. グラフィック主体の雑誌を重いタブレットで読むには無理がある

3. ファイルのサイズなど、iPad雑誌アプリの物理的仕様に問題がある

4. 配布方法、操作性など総合的なユーザー体験が読者のテイストに合わない

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5. 価格が高すぎて印刷版に対抗できない

iPad ではまだ定期購読制がとれず、単月販売であるという問題は含めていないが、読者にとって雑誌は毎月郵送されてくるもの、という米国の常識からすると、E-Bookのように個別に購入を判断するシステムに違和感があっても不思議ではない。1は、少なくとも iPad と親和性の高いWiredにはあてはまらないが、ファイルサイズが巨大(500MB)で、ダウンロードにも時間がかかる点が不評を呼んでいる。複数の要因が複合している可能性もある。

いずれにせよ、かなり巨額の投資をした結果なので、原因が究明され、軌道修正や新しいUIデザインの開発などによって発展することに期待したい。少なすぎると広告/購読モデルの開発という最大の課題に行きつかないで絶滅しかねない。◆ (12/30/2010)

Tags: iPad, 雑誌

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IDATEレポート:デジタルが出版産業を牽引

フランスの市場調査会社IDATEは12月9日、米国、日本、欧州を対象とした E-Book市場調査(2008-2015)を発表した。安くはないがTeleReadに要約が掲載されているので、これをもとに紹介しておこう。日米欧の三市場を対象とした調査はかなり貴重なもので、2010年にこれらの対象地域でE-Book市場がそれぞれ離陸したが、そのシナリオはかなり違ったものになった、とIDATEのレポートは述べている。紙からデジタルへの大規模な移行はあらゆるジャンルで起きるが、2014 年以降、デジタルが(その付加価値によって)出版を牽引し、成長を回復させる。この見方は欧米の識者のコンセンサスになっていると思われる。

レポートは、2010年の米国市場を€5億 9,400万(約642 億円)、日本市場を€5 億 2,700 万(約 592 億円)とし、初めて米国が「E-Bookのパイオニアであった」日本を上回った、とした。欧州は後発だが、それでも今年は 80%の成長をとげ、来年以降はさらに急成長が見込まれている(米国の数字は、フォレスター社などの数字よりはかなり低いが、算

定のベースは不明)。E-Book の増加は、印刷書籍の長期的衰退に悩んできた出版産業の売上を下支えし、2014年までには成長を担うものとなる、とみている。E-Book とは無関係に進行してきた印刷書籍市場の衰退は、E-Bookの増加によって相殺され、さらにデジタルの漸増効果によってむしろ成長に転じるというのである。出版ビジネスはゼロサムで「デジタ

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ルが増えても紙が減るだけ」と見る俗説を明確に否定した点に意義がある。デジタルには紙では不可能な付加価値を開拓できる。

2015年までの市場動向は 2つのレベルで作用する諸要因によって決定される、とレポートは述べている。すなわち、(1)現在の読者層のデジタルメディアへの移行の進度、(2)新しい読者層を惹きつける拡張型 E-Bookのインパクトである。これまでの市場は、もっぱら印刷書籍をデジタルに移行させただけで、読書家が E-Bookを読んでいる。市場も印刷書籍の出版社やそのビジネスモデルが主導している。

出版のバリューチェーンの力関係は変化している。著者とエージェントは出版社を迂回する方法を模索し、出版社はそれを押し止めようとしている。流通サイドでは、販売価格をめぐる緊張が生まれている。中間的存在は、伝統的書店のほかに、アグリゲータ、デバイスメーカー、Webビジネス、モバイル通信会社などますます複線化し、競争は激化している。その中で、アマゾン、アップル、Google がそれぞれ別々のアプローチでグローバルな競争をリードしている。

去年までは日本が世界をリードしていたという実感はまるでないが、ケータイとマンガ、電子辞書というユニークなコンテンツ市場に依存しすぎたせいで、欧米のような読書家層にはまるで浸透できておらず、いわば鎖国時代の「出島」のような状態で市場が存在している。日本の読書家層は市場からほとんど無視されてきたせいで「自炊」などという奇妙な習俗が生まれたりした。IDATE のレポートは、コンテンツの中ではデジタルになじみやすいジャンルが出版産業を牽引すると見ている。マグロウヒルのラペル社長の指摘していることと通じる。筆者も同感だが、

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たとえば「ゲーム E-Book」などは、おそらく(オンラインゲームで後れを取った)日本のゲーム産業にとっても大きなチャンスだ。◆(鎌田、12/30/2010)

市場予測: IDATETags ,

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