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初年次教育における LEGO Mindstorms を用いたロボット製作体験の試み L E G O M i n d s t o r m s T r i a l o f R o b o t D e v e l o p m e n t E x p e r i e n c e U s i n g L E G O M i n d s t o r m s f o r F i r s t Y e a r E d u c a t i o n T a k a h i r o D O I , K a z u k i H I R A S A W A , H i r o y u k i K A W A I , Y o s h i n o r i T A K E I , R y o i c h i S U Z U K I , K i y o s h i K O G U R E a n d K o s e i D E M U R A 本学ロボティクス学科では,入学直後の 1 年生を対象に,LEGO Mindstorms を用 いたロボットの製作体験型授業を実施している.入学直後のロボット開発に対する高 いモチベーションを逃さずロボット製作に取り組ませることで,関連技術の概要を体 験することができ,後の学習意欲の向上につながることが期待されるからである.本 23 号館のコラボレーションスタジオ,コミュニケーションスタジオを利用したグ ループ活動を行い,中間発表と設計へのフィードバック,最終発表,学生間相互評価 による授業運営を行った.また,この授業に対するアンケートを全学年で実施し,満 足度,学習意欲の向上を確認した. キーワード:LEGO Mindstorms,初年次教育,工学教育,教育効果 Robot development experience using LEGO Mindstorms has been given to the first year students of KIT Robotics department. The experience is suitable for the motivated students and it gives brief overview of robot technologies and encourages the students to study them. The class consists of group activities in the collaboration studio and the communication studio in the 23rd building, halfway presentation and feedback to robot design, final presentation and peer reviewing by students. The satisfaction with the class and the enhancement of motivation to study robot technologies have been confirmed by questionnaire. Keywords: LEGO Mindstorms, First Year Education, Technology Education, Educative Effect ロボティクスを学ぶ上で,「ロボットとは何か,ロボットを作るためには何が必要か」ということを 初期の段階で大まかにつかんでおくことは重要である.特に本学ロボティクス学科の教育目標では「社 会や生活に役立つロボットや新しい知能機器システムを創造できる技術者」の育成が標榜されており 1) ,この目標を達成するためには,本学科の学生にはロボット創造に必要な技術・知識分野に対する早 期の理解が不可欠である. 本学科入学直後の学生は,その多くはロボットに対する夢や憧れを持ち,各種メディアの影響から, ロボットというものに漠然とした安易で万能なイメージを持っている.このようなイメージは,学びや 91 初年次教育における LEGO Mindstorms を用いたロボット製作体験の試み KIT Progress 24

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論文 KIT Progress №24

初年次教育における LEGO Mindstorms を用いたロボット製作体験の試み

初年次教育における LEGO Mindstormsを用いたロボット製作体験の試み

Trial of Robot Development Experience Using LEGO Mindstorms for First Year Education

土居隆宏,平澤一樹,河合宏之,竹井義法,鈴木亮一,小暮潔,出村公成 Takahiro DOI, Kazuki HIRASAWA, Hiroyuki KAWAI, Yoshinori TAKEI,

Ryoichi SUZUKI, Kiyoshi KOGURE and Kosei DEMURA

本学ロボティクス学科では,入学直後の 1 年生を対象に,LEGO Mindstorms を用

いたロボットの製作体験型授業を実施している.入学直後のロボット開発に対する高

いモチベーションを逃さずロボット製作に取り組ませることで,関連技術の概要を体

験することができ,後の学習意欲の向上につながることが期待されるからである.本

学 23 号館のコラボレーションスタジオ,コミュニケーションスタジオを利用したグ

ループ活動を行い,中間発表と設計へのフィードバック,最終発表,学生間相互評価

による授業運営を行った.また,この授業に対するアンケートを全学年で実施し,満

足度,学習意欲の向上を確認した. キーワード:LEGO Mindstorms,初年次教育,工学教育,教育効果

Robot development experience using LEGO Mindstorms has been

given to the first year students of KIT Robotics department. The experience is suitable for the motivated students and it gives brief overview of robot technologies and encourages the students to study them. The class consists of group activities in the collaboration studio and the communication studio in the 23rd building, halfway presentation and feedback to robot design, final presentation and peer reviewing by students. The satisfaction with the class and the enhancement of motivation to study robot technologies have been confirmed by questionnaire. Keywords: LEGO Mindstorms, First Year Education, Technology

Education, Educative Effect

1.はじめに

ロボティクスを学ぶ上で,「ロボットとは何か,ロボットを作るためには何が必要か」ということを

初期の段階で大まかにつかんでおくことは重要である.特に本学ロボティクス学科の教育目標では「社

会や生活に役立つロボットや新しい知能機器システムを創造できる技術者」の育成が標榜されており1),この目標を達成するためには,本学科の学生にはロボット創造に必要な技術・知識分野に対する早

期の理解が不可欠である.

本学科入学直後の学生は,その多くはロボットに対する夢や憧れを持ち,各種メディアの影響から,

ロボットというものに漠然とした安易で万能なイメージを持っている.このようなイメージは,学びや

91初年次教育におけるLEGO Mindstormsを用いたロボット製作体験の試み

KIT Progress №24

初年次教育における LEGO Mindstorms を用いたロボット製作体験の試み

新しいイノベーションへの動機になり,好ましい一面もあるが,問題はそのイメージが曖昧であること

であろう.たとえば,人間のような直立 2足歩行を行うロボットを作る事は,かなり高度な知識と技術

を必要とすること,産業用のロボットのほとんどがこのような形態ではないこと,多くの機械の隠れた

ところにロボット的な機械制御技術が多く使われ,役に立っていること等は,学生にはあまり意識され

ていない.また,多くのロボットはセンサ,アクチュエータ,コンピュータからなり,外界に働きかけ

て目的を達成するために十分な出力と,それを支える強くて軽量な構造,適切なセンサ配置と制御系を

持つ必要がある.このシステム構成について正しく認識できている新入生は極めて少ない.

そこで,簡単にロボットを製作できる部品群を用いて,ロボット開発を新入生に実際に体験させるこ

とで,彼らが既に持っているロボットに対するイメージと,それを実現するために必要なロボット技術

との対応付けをし,後の専門的な学科の学習の動機づけにつなげる授業を実施した.本論文ではその取

り組みの内容と,アンケート調査による教育効果の分析について述べる.

2.LEGO Mindstormsを用いた教育について

2.1 LEGO Mindstormsについて

本科目ではロボットの製作体験において LEGO Mindstormsと呼ばれる,ブロックのセットを採用した2).これはレゴ社とマサチューセッツ工科大学が共同で開発したロボット開発環境であり,モータやセ

ンサ,コンピュータユニットがすべてレゴブロックの形で用意され,レゴブロックを組み立てるのと同

じ感覚でロボットを作り上げることができるようになっている.また,開発環境としてブロックの形を

した命令を組み合わせることで直感的にプログラムを作成できるアプリケーションも付属している 3).

これにより,コンピュータ制御でセンサに基づいてアクチュエータを駆動するという基本的なロボット

的システムを,比較的簡単に柔軟に作り上げることができる.LEGO Mindstormsのシリーズは 1998年

発売の「Robotics Invention System(RIS)」がその最初であるが,今回の授業では,その後 2006年に

モデルチェンジされた LEGO Mindstorms NXTを使用した.

2.2 LEGO Mindstormsを用いた教育活動の事例

LEGO Mindstormsは,子供から高校,大学,社会人にいたるまで授業や研修活動で広く使われてお

り,多くの実績がある.たとえば徳島大学では LEGO Mindstormsを3年次の実習科目で教材として使用

し,与えられたタスクを実行するロボットを作り,競技大会を実施し,問題発見・解決能力,プレゼン

テーション能力,文章作成能力の向上を狙った 4).また,神奈川工科大学では高校生向けの出張講義の

教材,大学低学年向けの教材として導入した例が報告されている 5).東工大付属科学技術高等学校では

2年次に,LEGO Mindstormsの部品を用いて機械要素の機構を設計製作し,コンピュータで機構を動か

す授業が行われている 6).

2.3 本学ロボティクス学科での実施形態

ロボット製作体験は,入学後できるだけ早い時期が良いと考えられるため,平成 27年現在の本学科

のカリキュラムでは, 1年次の前学期,学年全員が受講する授業「工学大意」の中でロボット製作体

験の機会を設けている.この科目は,「社会を支える『ものづくり』の三大技術である機械分野,電

気・電子分野,情報分野の技術について,工学と社会さらには地域とのつながり,歴史および現在,未

来の技術について学ぶ」授業である 7).前半では企業や他学科の先生方の講話があり,後半にロボット

体験教室を実施する形式となっている.なお,本学科での LEGO Mindstormsを用いたロボット製作体験

の取り組みは,平成 21 年度の「機械の原理」という機械の設計・製作・制御等を扱う授業の中で試験

的に行ったものが最初であり,その後カリキュラムの改編を経て平成 24 年度より現在の形となった.

平成 21~24 年に旧カリキュラムの受講生に対して行ったアンケートでは,図 1~3 に示すように,お

おむね肯定的な結果が得られている.

92 初年次教育におけるLEGO Mindstormsを用いたロボット製作体験の試み

初年次教育における LEGO Mindstorms を用いたロボット製作体験の試み

図1 平成 21年度受講生

アンケート結果

質問:

授業は役に立っているか?

(平成 23年アンケート実施)

図2 平成 22年度受講生

アンケート結果

質問:

この講義は良かったか?

(平成 22年アンケート実施)

図3 平成 23年度受講生

アンケート結果

質問:

この講義を体験して良かったか?

(平成 24年アンケート実施)

3. 平成27年度の実施内容

3.1 全体のスケジュール

平成27年度のロボット製作体験は,前述の「工学大意」の授業の中に設けた.1コマ90分,全1

6コマの授業のうち,最初の4回はガイダンスと座学(講話)に,残り12回を LEGO Mindstormsを用

いたロボット製作活動と自己点検授業にそれぞれ割り当てた.平成27年度のロボット製作体験の実施

スケジュールを表1に示す.

表1 平成 27年のロボット製作体験のスケジュール

回 実施日 実施内容 実施内容詳細

1 5月 11日 ガイダンス テーマに沿ったタスク(案),グループで製作するロボット(案)を考える.

ソフトウェアのインストール.

2 5月 18日 ロボット製作① グループで製作するロボットの仕様,機構組立担当,プログラム担当の決定.

3 5月 25日 ロボット製作② 機構の組立,プログラミングを進める.

4 5月 29日 ロボット製作③ 次週の成果発表に向けてロボットを完成させ,プレゼンテーションの準備を進める.

5 6月 8日 中間発表 進捗とロボットの概略を説明(プレゼン).並行して機構の組立,プログラミングを進め

る.

6 6月 15日 ロボット製作④ 機構の組立,プログラミングを進める.

7 6月 22日 ロボット製作⑤ 機構の組立,プログラミングを進める.

8 6月 29日 ロボット製作⑥ 機構の組立,プログラミングを進める.

9 7月 6日 ロボット製作⑦ 次週の成果発表に向けてロボットを完成させ,プレゼンテーションの準備を進める.最

終審査用の動作説明書を作成する.

10 7月 13日 最終審査 製作したロボットについてプレゼン(実演).製作したロボットが目的を達成するように

動作できるかを評価.

11 7月 27日 学生間相互評価 製作したロボットを学生同士で相互に評価する.製作したロボットのプレゼンと他のチ

ームのロボットの評価を同時に行う.

12 8月 3日 自己点検授業 まとめ,アンケート実施,他

対象人数は135名,(1組69名,2組66名)で,5または6名の24グループで活動した.

初年次教育における LEGO Mindstorms を用いたロボット製作体験の試み

新しいイノベーションへの動機になり,好ましい一面もあるが,問題はそのイメージが曖昧であること

であろう.たとえば,人間のような直立 2足歩行を行うロボットを作る事は,かなり高度な知識と技術

を必要とすること,産業用のロボットのほとんどがこのような形態ではないこと,多くの機械の隠れた

ところにロボット的な機械制御技術が多く使われ,役に立っていること等は,学生にはあまり意識され

ていない.また,多くのロボットはセンサ,アクチュエータ,コンピュータからなり,外界に働きかけ

て目的を達成するために十分な出力と,それを支える強くて軽量な構造,適切なセンサ配置と制御系を

持つ必要がある.このシステム構成について正しく認識できている新入生は極めて少ない.

そこで,簡単にロボットを製作できる部品群を用いて,ロボット開発を新入生に実際に体験させるこ

とで,彼らが既に持っているロボットに対するイメージと,それを実現するために必要なロボット技術

との対応付けをし,後の専門的な学科の学習の動機づけにつなげる授業を実施した.本論文ではその取

り組みの内容と,アンケート調査による教育効果の分析について述べる.

2.LEGO Mindstormsを用いた教育について

2.1 LEGO Mindstormsについて

本科目ではロボットの製作体験において LEGO Mindstormsと呼ばれる,ブロックのセットを採用した2).これはレゴ社とマサチューセッツ工科大学が共同で開発したロボット開発環境であり,モータやセ

ンサ,コンピュータユニットがすべてレゴブロックの形で用意され,レゴブロックを組み立てるのと同

じ感覚でロボットを作り上げることができるようになっている.また,開発環境としてブロックの形を

した命令を組み合わせることで直感的にプログラムを作成できるアプリケーションも付属している 3).

これにより,コンピュータ制御でセンサに基づいてアクチュエータを駆動するという基本的なロボット

的システムを,比較的簡単に柔軟に作り上げることができる.LEGO Mindstormsのシリーズは 1998年

発売の「Robotics Invention System(RIS)」がその最初であるが,今回の授業では,その後 2006年に

モデルチェンジされた LEGO Mindstorms NXTを使用した.

2.2 LEGO Mindstormsを用いた教育活動の事例

LEGO Mindstormsは,子供から高校,大学,社会人にいたるまで授業や研修活動で広く使われてお

り,多くの実績がある.たとえば徳島大学では LEGO Mindstormsを3年次の実習科目で教材として使用

し,与えられたタスクを実行するロボットを作り,競技大会を実施し,問題発見・解決能力,プレゼン

テーション能力,文章作成能力の向上を狙った 4).また,神奈川工科大学では高校生向けの出張講義の

教材,大学低学年向けの教材として導入した例が報告されている 5).東工大付属科学技術高等学校では

2年次に,LEGO Mindstormsの部品を用いて機械要素の機構を設計製作し,コンピュータで機構を動か

す授業が行われている 6).

2.3 本学ロボティクス学科での実施形態

ロボット製作体験は,入学後できるだけ早い時期が良いと考えられるため,平成 27年現在の本学科

のカリキュラムでは, 1年次の前学期,学年全員が受講する授業「工学大意」の中でロボット製作体

験の機会を設けている.この科目は,「社会を支える『ものづくり』の三大技術である機械分野,電

気・電子分野,情報分野の技術について,工学と社会さらには地域とのつながり,歴史および現在,未

来の技術について学ぶ」授業である 7).前半では企業や他学科の先生方の講話があり,後半にロボット

体験教室を実施する形式となっている.なお,本学科での LEGO Mindstormsを用いたロボット製作体験

の取り組みは,平成 21 年度の「機械の原理」という機械の設計・製作・制御等を扱う授業の中で試験

的に行ったものが最初であり,その後カリキュラムの改編を経て平成 24 年度より現在の形となった.

平成 21~24 年に旧カリキュラムの受講生に対して行ったアンケートでは,図 1~3 に示すように,お

おむね肯定的な結果が得られている.

93初年次教育におけるLEGO Mindstormsを用いたロボット製作体験の試み

初年次教育における LEGO Mindstorms を用いたロボット製作体験の試み

3.2 ロボット製作活動

ロボット製作活動にあたり,「2つ以上のセンサを使って制御を行うロボットを作る」という制約条

件を課した.テーマ,ロボットの形状は自由とした.また,何らかのタスクを学生が考え,それを実行

できるロボットを製作するよう指示した.また,スケジュールを示し,プレゼンテーション,デモがあ

ることを説明し,決まった時間内で完成させること,確実に動かせるよう注意を喚起した.学生をグル

ープに分け,各グループに LEGO Mindstorms NXTのセット一式を配布した.活動場所としては本学 23

号館1階のコラボレーションスタジオ ,コミュニケーションスタジオを使用した.図4にロボット製

作活動の様子を示す.

図4 ロボット製作活動の様子

3.3 中間発表

第 5回目に中間発表を行った.教員が各テーブルを巡回し,1グループずつ 5分程度で説明,デモン

ストレーション,質疑応答を行う形式とした.図5に中間発表の様子を示す.この時点では未完成なロ

ボットも多かったが,中間発表で受けたコメントを設計にフィードバックする様子が見られた.

図5 中間発表の様子

3.4 最終審査

第 10回に,最終審査を行った.ここでは中間発表と同様に教員が各テーブルを巡回し,説明とデモ

ンストレーションのチェックを行った.ほぼすべてのロボットがハード的に完成し,プログラム通りの

動きをすることが確認できた.

3.5 学生間相互評価

最終審査の翌週に,学生間相互評価を行った.ここでは,学生が自分たちのロボットのプレゼンテー

ションをし,また他の班の作品を見て回り,良いと思ったものに投票を行う形式とした.この狙いは他

の作品を見て刺激を受けること,よりよい設計とは何か,を考えさせることである.学生は意欲的に他

の班の作品を見て回り,活発に意見を交換する様子が見られた.学生間相互評価の様子を図6に,平成

27年度の投票で最優秀となった作品を図7にそれぞれ示す.

94 初年次教育におけるLEGO Mindstormsを用いたロボット製作体験の試み

初年次教育における LEGO Mindstorms を用いたロボット製作体験の試み

図6 相互評価の様子

図7 平成27年度相互評価の得票数 1位の作品

4.アンケートによる評価

平成27年度実施学生を含め,過去4年間の経緯を確認するために,本学ロボティクス学科1年から

4年在学中の学生に対してアンケートを実施した.アンケートの設問を表2に示す.1年生は工学大意

最終回の自己点検授業時,2年生は,ほぼ全員が受講しているロボティクス数理・演習1の自己点検授

業時,3年生は,ほぼ全員が受講しているロボティクス専門実験の自己点検授業時,4年生は,所属研

究室においてアンケートを実施した.1年生 132名,2年生 83名,3年生 115名,4年生 71名より回答

を得た.アンケートの集計結果を図 8~11,表 3に示す.

初年次教育における LEGO Mindstorms を用いたロボット製作体験の試み

3.2 ロボット製作活動

ロボット製作活動にあたり,「2つ以上のセンサを使って制御を行うロボットを作る」という制約条

件を課した.テーマ,ロボットの形状は自由とした.また,何らかのタスクを学生が考え,それを実行

できるロボットを製作するよう指示した.また,スケジュールを示し,プレゼンテーション,デモがあ

ることを説明し,決まった時間内で完成させること,確実に動かせるよう注意を喚起した.学生をグル

ープに分け,各グループに LEGO Mindstorms NXTのセット一式を配布した.活動場所としては本学 23

号館1階のコラボレーションスタジオ ,コミュニケーションスタジオを使用した.図4にロボット製

作活動の様子を示す.

図4 ロボット製作活動の様子

3.3 中間発表

第 5回目に中間発表を行った.教員が各テーブルを巡回し,1グループずつ 5分程度で説明,デモン

ストレーション,質疑応答を行う形式とした.図5に中間発表の様子を示す.この時点では未完成なロ

ボットも多かったが,中間発表で受けたコメントを設計にフィードバックする様子が見られた.

図5 中間発表の様子

3.4 最終審査

第 10回に,最終審査を行った.ここでは中間発表と同様に教員が各テーブルを巡回し,説明とデモ

ンストレーションのチェックを行った.ほぼすべてのロボットがハード的に完成し,プログラム通りの

動きをすることが確認できた.

3.5 学生間相互評価

最終審査の翌週に,学生間相互評価を行った.ここでは,学生が自分たちのロボットのプレゼンテー

ションをし,また他の班の作品を見て回り,良いと思ったものに投票を行う形式とした.この狙いは他

の作品を見て刺激を受けること,よりよい設計とは何か,を考えさせることである.学生は意欲的に他

の班の作品を見て回り,活発に意見を交換する様子が見られた.学生間相互評価の様子を図6に,平成

27年度の投票で最優秀となった作品を図7にそれぞれ示す.

95初年次教育におけるLEGO Mindstormsを用いたロボット製作体験の試み

初年次教育における LEGO Mindstorms を用いたロボット製作体験の試み

表2 アンケートの設問

(1)「工学大意」を受ける前に,LEGO Mindstormsを知っていましたか?

(2)「工学大意」を受けたことによって,ロボット工学に対して興味がわきましたか?

(3)「工学大意」の中ではグループ活動をしました.自分が担当した部分を選んでください.また,グループの人数を書いてください.

(4)「工学大意」を受けたことによって,より勉強したくなった分野があれば以下から選んでください.

(5)「工学大意」についての感想,コメントがあれば書いてください.

(a)総合

(b)1年生

(c)2年生

(d)3年生

(e)4年生

図 8 設問(1)事前に LEGO Mindstormsを知っていたか

(a)総合

(b)1年生

(c)2年生

(d)3年生

(e)4年生

図 9 設問(2)この体験でロボット工学に対して興味がわいたか

96 初年次教育におけるLEGO Mindstormsを用いたロボット製作体験の試み

初年次教育における LEGO Mindstorms を用いたロボット製作体験の試み

(a)総合

(b)1年生

(c)2年生

(d)3年生

(e)4年生

図 10 設問(3)グループの中で担当した作業

(a)総合

(b)1年生

(c)2年生

(d)3年生

(e)4年生

図 11 設問(4)ロボット製作体験を受けて,より勉強したくなった分野

初年次教育における LEGO Mindstorms を用いたロボット製作体験の試み

表2 アンケートの設問

(1)「工学大意」を受ける前に,LEGO Mindstormsを知っていましたか?

(2)「工学大意」を受けたことによって,ロボット工学に対して興味がわきましたか?

(3)「工学大意」の中ではグループ活動をしました.自分が担当した部分を選んでください.また,グループの人数を書いてください.

(4)「工学大意」を受けたことによって,より勉強したくなった分野があれば以下から選んでください.

(5)「工学大意」についての感想,コメントがあれば書いてください.

(a)総合

(b)1年生

(c)2年生

(d)3年生

(e)4年生

図 8 設問(1)事前に LEGO Mindstormsを知っていたか

(a)総合

(b)1年生

(c)2年生

(d)3年生

(e)4年生

図 9 設問(2)この体験でロボット工学に対して興味がわいたか

97初年次教育におけるLEGO Mindstormsを用いたロボット製作体験の試み

初年次教育における LEGO Mindstorms を用いたロボット製作体験の試み

表 3 設問(5)感想,コメントの抜粋

レゴのロボットを作ることを通してロボットを作るために考えて工夫したり、チームと協力し

て何かを作り上げる楽しさや重要さが理解できてすごく勉強になった.

1年の最初にロボットを作る授業をするのは、生徒のモチベーションが上がるので、良いと思

う.

ロボットのしくみなどがよくわかってとてもよかった.ほかのチームのロボットを見ることで

自分にはないアイデアの枠が広がった.

わからないことだらけで大変だったが、少しずつできることが増えていって、よかった.

グループで1つのロボットを作り上げる経験は今後の大学生活においても役に立つと感じた.

この授業でロボティクス学科での授業をうけるのが楽しみになった.

普通科高校からきた私にとってはとてもむずかしい科目だった.

決められた期日内にロボットを製作するとのことだったが、最後まで完成することができず、

残念だった.

プログラム担当が一人しか体験できていないので、多くの人が体験できればよかった.

プログラムに関して説明がほしい.

4人未満チームがよかった.

レゴマインドストームのプログラムの演習などを他のあいている時間にあればよかった.

4.1 全体の分析

授業全体を通じて学生は意欲的に楽しんで活動する様子が見られた.アンケートからもそれが確認で

きた.中間発表による設計へのフィードバック,最終審査が設定されていることにより,学生が自らス

ケジュールを決め,計画的に活動する様子が見られた.その一方で作業が思うように進まないチームが

いくつかあったものの,授業時間外にも活動を許可してほしいという申し出が自主的にあり,意欲が見

られた.

個別のアンケートの設問について見ていくと,設問(1)の事前に LEGO Mindstormsについて知って

いたかという質問については,どの学年も 6割程度が知らなかったという回答を得た.設問(2)のこ

の体験でロボット工学に対して興味がわいたかという質問に対しては,1年生の 9割近くが「とても興

味がわいた」,もしくは「少し興味がわいた」という回答であった.「とても興味がわいた」という割合

は,学年が上がるにつれ,減少する傾向があった.設問(3)のグループの中で担当した作業について

は,どの学年も機構製作が 6割前後,プログラミングが 2~3割という結果になった.両方担当したと

いう学生も 1割程度いるので,指導者的な役割なのか,あるいは作業の分担が不公平になっているとい

うことが予想される.設問(3)のより勉強したくなった分野については,「プログラミング関連」が

もっとも多くなる結果となった.

自由回答に関しては「楽しかった」「良かった」といったおおむね肯定的な回答が多かったが,グル

ープ活動,活動時間の不足,教材に関するものなど,授業自体の運用に対する提言がいくつか見られ

た.グループ活動については,チームワークの重要性への気付き,他の班の活動を見ることで刺激をう

けるといった意見とともに,メンバー間の能力差や作業量の差に対する不満や改善要求があった.活動

時間については短いという意見が多くみられた.教材については,難しく感じたか・易しく感じたかで

意見が分かれていたのと,キットの総数や使用可能なセンサのバリエーションやモータ数が不足してお

り,作りたいものを実現するうえで制約になったという意見があった.

4.2 専門科目学習に対する動機づけ,ロボット工学に対するイメージの明確化

設問(4)に対する答えが,本科目の,専門科目に対する動機づけを表していると考えられる.前述

98 初年次教育におけるLEGO Mindstormsを用いたロボット製作体験の試み

初年次教育における LEGO Mindstorms を用いたロボット製作体験の試み

したように,「プログラミング関連」が多い結果となった.多くの学生が初めてプログラミングに触れ

ることがその原因と考えられるが,プログラミングは目に見えにくいにも関わらず,動機づけの効果が

大きいことには大きな意味がある.さらに他の分野も相当数回答されており,「とくになし」という回

答は総合で 15%程度だったため,ロボティクスに関連するさまざまな分野に対して幅広く動機づけと

なったと言える.なお,設問(2)の結果より担当作業分野は「機構製作」がほとんどだったため,実

際に学生自身が担当した作業と,動機づけされた専門科目の分野は,関連があまりないということがわ

かった.つまり,学生は自身が担当した箇所だけでなくグループ全体の動向をみて,ロボットを創造す

るためにどのような作業が必要なのか感じ,その中で自分なりに勉強したい分野を選んだと推察され

る.このような動機づけは,グループ活動特有のものであると考えられる.

5.結言

LEGO Mindstormsを用いたロボット工学に対するイメージの明確化,後の専門科目への動機づけを強

めるための体験授業を実施し,アンケートによりその効果を確認した.おおむね肯定的な意見が多く,

学生は楽しんで活動し,後の専門科目の動機づけとして有効であることが確認できた.アンケートで明

らかになった課題としては,グループ活動,スケジューリング,教材の準備等授業の運用についてのも

のがあった.これらの解決案として,学生一人一人の体験機会をより多く,深くするため,予算・カリ

キュラムの許す限り,教材をより多く用意し少人数の班で実施すること,細切れにならないよう長く連

続した作業時間を確保することが考えられる.

今後ロボット技術はますます高度化,複雑化していくと思われるが,その初期の教育においては,本

授業で扱った LEGO Mindstormsのような,簡単にロボットシステムを組み上げることができるシステム

を利用した体験授業の有効性は変わらないと考えられる.今後も積極的に,この取り組みを継続してい

きたい.

参考文献

1) 金沢工業大学ロボティクス学科 HP 教育目標

http://www.kanazawa-it.ac.jp/gakubu_daigakuin/kogaku/robo.html

(2015年 8月 28日アクセス)

2) LEGO Mindstorms HP

http://www.lego.com/ja-jp/mindstorms

(2015年 9月 1日アクセス)

3) 大庭慎一郎:入門 LEGO MINDSTORMS NXT[第2版],ソフトバンククリエイティブ (2010)

4) 大山ほか:Lego Mindstorms を利用した創造的ものづくり教育とその効果, 工学教育(J.of

JSEE),52-4,pp.20-24 (2004)

5) 三栖ほか:LEGO 教育ツールを活用した工学系低学年教育の実践,日本工学教育協会 平成 23 年

度工学教育研究講演会講演論文集 pp.596-597 (2011)

6) 門田:科学技術高校におけるロボット教育のカリキュラム開発,日本ロボット学会誌 31 巻 2

号,pp.133-139 (2013)

7) 金沢工業大学学習支援計画書(Syllabus),http://www.kanazawa-it.ac.jp/syllabus/

(2015年 8月 28日アクセス)

[受理 平成 27 年 9 月 1 日]

初年次教育における LEGO Mindstorms を用いたロボット製作体験の試み

表 3 設問(5)感想,コメントの抜粋

レゴのロボットを作ることを通してロボットを作るために考えて工夫したり、チームと協力し

て何かを作り上げる楽しさや重要さが理解できてすごく勉強になった.

1年の最初にロボットを作る授業をするのは、生徒のモチベーションが上がるので、良いと思

う.

ロボットのしくみなどがよくわかってとてもよかった.ほかのチームのロボットを見ることで

自分にはないアイデアの枠が広がった.

わからないことだらけで大変だったが、少しずつできることが増えていって、よかった.

グループで1つのロボットを作り上げる経験は今後の大学生活においても役に立つと感じた.

この授業でロボティクス学科での授業をうけるのが楽しみになった.

普通科高校からきた私にとってはとてもむずかしい科目だった.

決められた期日内にロボットを製作するとのことだったが、最後まで完成することができず、

残念だった.

プログラム担当が一人しか体験できていないので、多くの人が体験できればよかった.

プログラムに関して説明がほしい.

4人未満チームがよかった.

レゴマインドストームのプログラムの演習などを他のあいている時間にあればよかった.

4.1 全体の分析

授業全体を通じて学生は意欲的に楽しんで活動する様子が見られた.アンケートからもそれが確認で

きた.中間発表による設計へのフィードバック,最終審査が設定されていることにより,学生が自らス

ケジュールを決め,計画的に活動する様子が見られた.その一方で作業が思うように進まないチームが

いくつかあったものの,授業時間外にも活動を許可してほしいという申し出が自主的にあり,意欲が見

られた.

個別のアンケートの設問について見ていくと,設問(1)の事前に LEGO Mindstormsについて知って

いたかという質問については,どの学年も 6割程度が知らなかったという回答を得た.設問(2)のこ

の体験でロボット工学に対して興味がわいたかという質問に対しては,1年生の 9割近くが「とても興

味がわいた」,もしくは「少し興味がわいた」という回答であった.「とても興味がわいた」という割合

は,学年が上がるにつれ,減少する傾向があった.設問(3)のグループの中で担当した作業について

は,どの学年も機構製作が 6割前後,プログラミングが 2~3割という結果になった.両方担当したと

いう学生も 1割程度いるので,指導者的な役割なのか,あるいは作業の分担が不公平になっているとい

うことが予想される.設問(3)のより勉強したくなった分野については,「プログラミング関連」が

もっとも多くなる結果となった.

自由回答に関しては「楽しかった」「良かった」といったおおむね肯定的な回答が多かったが,グル

ープ活動,活動時間の不足,教材に関するものなど,授業自体の運用に対する提言がいくつか見られ

た.グループ活動については,チームワークの重要性への気付き,他の班の活動を見ることで刺激をう

けるといった意見とともに,メンバー間の能力差や作業量の差に対する不満や改善要求があった.活動

時間については短いという意見が多くみられた.教材については,難しく感じたか・易しく感じたかで

意見が分かれていたのと,キットの総数や使用可能なセンサのバリエーションやモータ数が不足してお

り,作りたいものを実現するうえで制約になったという意見があった.

4.2 専門科目学習に対する動機づけ,ロボット工学に対するイメージの明確化

設問(4)に対する答えが,本科目の,専門科目に対する動機づけを表していると考えられる.前述

99初年次教育におけるLEGO Mindstormsを用いたロボット製作体験の試み

初年次教育における LEGO Mindstorms を用いたロボット製作体験の試み

土居隆宏 准教授 工学部機械系 ロボティクス学科

河合宏之 准教授 工学部機械系 ロボティクス学科

鈴木亮一 教授 工学部機械系 ロボティクス学科

出村公成 教授 工学部機械系 ロボティクス学科

平澤一樹 講師 工学部機械系 ロボティクス学科

竹井義法 教授 工学部機械系 ロボティクス学科

小暮潔 教授 工学部機械系 ロボティクス学科

100 初年次教育におけるLEGO Mindstormsを用いたロボット製作体験の試み