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順序代数系の語の問題 7 1

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Page 1: 順序代数系の語の問題 - Kobe Universitybach.istc.kobe-u.ac.jp/SaburoTamura/docs/stamura...序章 1 序章 本論文の目的は,順序が入ったさまざまな自由代数系の語の問題を,肯定的に解決する

神 戸 大 学

博 士 論 文

順 序 代 数 系 の 語 の 問 題

平成 7年 1月

田 村 三 郎

Page 2: 順序代数系の語の問題 - Kobe Universitybach.istc.kobe-u.ac.jp/SaburoTamura/docs/stamura...序章 1 序章 本論文の目的は,順序が入ったさまざまな自由代数系の語の問題を,肯定的に解決する

目 次 i

目 次

序章 1

1 語の問題 2

2 シーケンシャル・メソッド 4

3 順序半群系統 6

3.1 po半群 PS . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6

3.2 シーケンシャル・システム LPS等 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 8

3.3 代数系とシーケンシャル・システムとの対応 . . . . . . . . . . . . . . . . . 10

3.4 補足 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 21

4 半束系統 22

4.1 半束 SL . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 22

4.2 シーケンシャル・システム LSL等 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 23

4.3 代数系とシーケンシャル・システムとの対応 . . . . . . . . . . . . . . . . . 24

4.4 補足 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 25

5 束系統 26

5.1 束 Lと分配束DL . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 26

5.2 シーケンシャル・システム LLと LDL . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 27

5.3 代数系とシーケンシャル・システムとの対応 . . . . . . . . . . . . . . . . . 28

5.4 補足 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 36

6 直交束系統 37

6.1 擬補束 PLと直交束OL . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 37

6.2 シーケンシャル・システム LPLと LOL . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 37

6.3 代数系とシーケンシャル・システムとの対応 . . . . . . . . . . . . . . . . . 39

6.4 補足 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 55

7 束半群系統 56

7.1 束半群 LS等 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 56

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目 次 ii

7.2 シーケンシャル・システム LLS等 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 57

7.3 代数系とシーケンシャル・システムとの対応 . . . . . . . . . . . . . . . . . 58

7.4 補足 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 59

8 論理系統 60

8.1 さまざまな含意体系 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 60

8.1.1 WI . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 60

8.1.2 RMI . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 61

8.1.3 ST . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 61

8.2 シーケンシャル・システム . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 62

8.2.1 LWI . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 62

8.2.2 LRMI . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 62

8.2.3 LST . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 62

8.3 ヒルベルト・スタイルとシーケンシャル・システムとの対応 . . . . . . . . 63

8.4 補足 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 65

終章 66

既発表論文 68

参考文献 70

索引 72

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序章 1

序章

本論文の目的は,順序が入ったさまざまな自由代数系の語の問題を,肯定的に解決する

ことである.語の問題は数学基礎論の立場からいえば決定問題であり,コンピュータ科学

の立場から見れば,アルゴリズムの存在の問題である.

ここで使われた手法はゲンツェン [1]によるシーケンシャル・メソッドによるもので,こ

の数学基礎論上の手法を代数系の語の問題に適用し,代数的手法によっては解決が困難で

あった代数系に対し,肯定的解決を与えたものである.特にゲンツェンの手法の重要な点

は,有限的,構成的な側面をもっているため,この手法がそのままコンピュータによる証

明にも適用しうる点にある.

本論文は,

順序半群系統,半束系統,束系統,直交束系統,束半群系統,論理系統

からなる.直交束系統中の擬補束および直交束については,多くの研究者が語の問題の肯

定的解決を試みていながら,それを果たしえなかった問題であって,[ST19]と [ST20]が世

界で最初に成功したものである.その後,この成功の上に立った論文 (たとえば,西村 [20]

など)が発表されており,未解決な量子論理 (quantum logic)の決定問題の取り扱いの方向

を決めたものと見ることもできよう.また,ファジー論理 (fuzzy logic)の決定問題に対し

ても,この方法は重要な糸口を与えたものと考えられる (竹村 [18],荒金 [22]参照).

一方,順序半群および束半群系統では,最近コンピュータ科学の中で注目されている線

形論理 (linear logic)と極めて類似なシステムを扱っており,その点,線形論理の魁と見る

こともできよう (小野・古森 [15],ジラール [17],バーワイズ [21]参照).さらに,論理系

統中で取り扱ったリリバント・ロジック (relevant logic)も,構造に関する規則の一部 (サ

ブ・ストラクチャー)を使用しているという意味で,線形論理との関連が極めて強いもので

ある.応用を考えずに,単に数学的システムとして考察したものが,後世その応用の道が

開かれてきたことは,誠に感慨深いものがある.

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1 語の問題 2

1 語の問題

代数系 A(S:F ;R)を定義する.Sは与えられたベース集合,Fは S上の演算 (operation)

記号の集合 ϕ1, ϕ2, ϕ3, . . . で,各ϕiに自然数 niが対応しており,ϕiは ni変数の演算であ

る.しかも,Sの ni個の元 s1, s2, . . . , sniに対して,ϕi(s1, s2, . . . , sni

) が定義されていて,

その値も Sのただ一つの元となっている (S内の定元 (constant, 0 や 1 など)も,0変数関

数として考えることもできる).また,Rは S上の関係 (relation)記号の集合 ρ1, ρ2, ρ3, . . .

で,各ρiに自然数 niが対応していて,ρiは ni変数の関係 (述語)である.さらに,Sの各

元がこの代数系の公理の集合 A のすべてを満足している.以降,混同さえなければ,代数

系とその公理の集合を同一視して A で表す.時として,ベース集合 Sを使って代数系 S

ということもある.この代数系 A で Sの 2元 s と t について,「s = t が成立する」こと

を,A |= s = t で表す (等号=は,同じであることを示すメタ記号で,代数系内の関係の

中には含めない).また,不等式が定義されている代数系 A(S:F ;≤) で「s ≤ t が成立す

る」ことを,A |= s ≤ t で表すこととする.

自由代数系を定義しよう.

• 文字記号の集合 L は,a1, a2, a3, . . . からなる.

• 演算記号の集合 Fは,ϕ1, ϕ2, ϕ3, . . . からなる.

• 語 (word)の集合 Wは,L と Fから次のように構成的に生成される.

(1) 各文字記号 aiは語である.

(2) 各演算記号ϕiに対し,w1,w2, . . . ,wniがすべて語であれば,ϕi(w1,w2, . . . ,wni

)

も語である.

(3) 上の (1)と (2)以外の方法によっては,語は生成されない.

自由代数系 A(W :F ) とは,Wの各語がこの代数系の公理系 A をすべて満足している代

数系のことである.自由代数系は同じ公理系を満たす代数系の一つであって,公理で規定

される性質以外何一つ仮定されていない代数系である.

自由代数系 A(W :F ) における語の問題 (word problem)とは,W内の任意の語 u と v

について,A |= u = vであるかどうかを,有限的に判定する問題である.自由代数系 A に

おける語の問題が肯定的に解けるとは,A |= u = vであるかどうかを判定するためのアル

ゴリズムが存在することをいう.他方,A |= u = vであるかどうかを判定するためのアル

ゴリズムが存在しないことが示されたとき,自由代数系 A における語の問題が否定的に解

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1 語の問題 3

けたという.語の問題は元が構成的に作られていない一般の代数系では意味をもたない.

順序が入った自由代数系 A(W :F ;≤)の語の問題とは,任意の語 u , vに対し,A |= u ≤ v

であるかどうかを,有限的に判定する問題である.(A |= u ≤ vかつA |= v ≤ u) ⇐⇒ A |=

u = vであるから,不等号に関する語の問題は,通常の等号に関する語の問題の拡張である.

以下で語の問題を取り扱う代数系はすべて自由代数系であって,ベース集合 Sは語全体

の集合 Wでなくてはならないので,今後 Sの元をも語と呼ぶこととする.さらに,以下

の考察ではあえて自由代数系の自由の言葉を略して,単に代数系と述べることがあるので,

その点を了解しておいていただきたい.

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2 シーケンシャル・メソッド 4

2 シーケンシャル・メソッド

シーケント (矢式 sequent)とは,語の有限列 u1, u2, . . . ,umと v1, v2, . . . , vnを矢−→で結

んだもの

u1,u2, . . . , um −→ v1, v2, . . . , vn

をいう.左辺に一つの語φ(u1,u2, . . . ,um) を対応させ,右辺に一つの語ψ(v1, v2, . . . , vn)を

対応させる.このときこのシーケントには,代数系の不等式

φ(u1,u2, . . . ,um) ≤ ψ(v1, v2, . . . , vn)

が対応している.システムによっては,左辺が空 (m = 0)や,右辺が空 (n = 0)の場合を

許すこともある.特に,m = n = 1 のときのシーケント u1 −→ v1は,不等式 u1 ≤ v1に

対応している.それはφ(u1) = u1 , ψ(v1) = v1となっているからである.今後,語の有限列

(空も含めて)を,ギリシア大文字Γ, ∆, Θ, Λ, Σ, Π, Φ, Ωなどで表すことにする.する

と,上のシーケントはΓ −→ ∆のように略記される.

シーケントを用いて表現されるシーケンシャル・システム (sequential system) LA では,

任意の語 wに対して

w −→ w

は公理である.システムによっては,これ以外の公理が採用されることもある.

さらに,推論規則として

Γ1 −→ ∆1 Γ2 −→ ∆2 · · · ΓN −→ ∆N

Σ −→ Π

なる形式のものがいくつか (有限個)与えられる (N ≥ 0,N = 0 のときの下のシーケント

を公理とみなすこともできるので,公理は一つの推論規則とみなせる).公理といくつかの

推論規則によって与えれるシステムが,LA である.

このシステム LA で,シーケントΓ −→ ∆が証明されることを,LA ` Γ −→ ∆で表す

(時として,LA を略して,単に ` Γ −→ ∆と表す)ことにすれば,公理は証明可能である

から,LA ` w −→ wである.また,推論規則の意味することは

LA ` Γ1 −→ ∆1 かつ LA ` Γ2 −→ ∆2 · · · かつ LA ` ΓN −→ ∆N

とすると LA ` Σ −→ Π

ということである.

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2 シーケンシャル・メソッド 5

つまり,上のシーケントがすべて証明可能なら,下のシーケントも証明可能であること

を示している.

シーケンシャル・システム LA での決定問題とは,LA ` Γ −→ ∆ (Γ −→ ∆が LA で

証明可能)かどうかを,有限的に判定する問題である.したがって,LA と代数系 A とが

同値であることが示されれば,代数系 A における語の問題は LA での決定問題 (decision

problem)に帰着される.

すべての推論規則での上の各シーケントに含まれている語がすべて,下のシーケント中

の語の一部 (部分語 subword)として含まれていれば (部分語特性 subword propertyをもっ

ていれば),証明すべき一番下のシーケントを上へ上へ分解して行くことにより,遂に公理

に到着できるかどうかが判定できるはずである.したがって,シーケンシャル・メソッド

(sequential method)においては,部分語特性をもったシステムが存在するかどうかが一番

の問題である.

本論文中のすべての体系は,このシーケンシャル・メソッドによって,さまざまな自由

代数系の語の問題を,肯定的に解決したものである.

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3 順序半群系統 6

3 順序半群系統

3.1 po半群 PS

集合 S上の凖順序 (quasi-order)とは,S上の各元 a と b の間に定義されている二項関係

a ≤ b であって,次の P1 (反射律),P2 (推移律)を満たす二項関係≤をいう.

P1 Sの各元 a に対し

a ≤ a.

P2 Sの各元 a , b , c に対し

(a ≤ b かつ b ≤ c)ならば a ≤ c.

このような凖順序関係≤の定義されている集合 Sを qo集合 (qo-set)という.

凖順序≤がさらに,次の P3 (反対称律)を満たしているとき,半順序 (partial order)と

いい,半順序≤が定義されている集合 Sを po集合 (po-set)という.

P3 Sの各元 a , b に対し

(a ≤ b かつ b ≤ a)ならば a = b.

もちろんのことながら,=は等しい (同じ)ということであり,この等号は形式的な関係

ではない.

qo集合 Sの各元 a , b に対し

(a ≤ b かつ b ≤ a)のとき,a ∼ b と定義する.

すると,関係∼は同値関係であって,形式的に同じとみなして差し支えがない.

P3’ Sの各元 a , b に対し

(a ≤ b かつ b ≤ a)ならば a ∼ b.

このことから,qo集合は形式的に (本当の意味ではないが) po集合とみなして扱うこと

ができる.このため,以下の考察では po集合のみを取り扱う.

po集合 S上の各元 a , bに対して,積 a×bが S上のただ一つの元として定義されていて,

次の×がP4 (順序保存性)を満たしているとき,Sつまり (S:×;≤)をpo亜群 (po-groupoid)

PGという.

P4 Sの各元 a , b , c に対し

a ≤ b ならば (a× c ≤ b× c かつ c× a ≤ c× b).

このことから,一般に

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3 順序半群系統 7

(a ≤ c かつ b ≤ d)ならば a× b ≤ c× d

がいえる.

po亜群が,さらに次の P5 (結合律)を満たしているとき,Sつまり (S:×;≤) を po半群

(po-semigroup) PSという.

P5 Sの各元 a , b , c に対し

(a× b)× c = a× (b× c).

po半群が,単位元 1をもつとき,つまり

P6 Sの各元 a に対し

a× 1 = a かつ 1× a = a.

を満たすとき,Sつまり (S: 1,×;≤) を poモノイド (po-monoid) PMという.

さらに,poモノイド Sの単位元 1が最大元でもあるとき,つまり

P7 Sの各元 a に対し

a ≤ 1.

であるとき,Sは整 poモノイド (integral po-monoid) IPMという (これは,整数環にお

いて,単位元をもつイデアルが最大であることに対応している).

一方,po 半群 Sが P8 (下界性) を満たすとき,Sは凖整 po 半群 (quasi-integral po-

semigroup) QPSという. 整 poモノイドは凖整 po半群である.

P8 Sの各元 a , b に対し

a× b ≤ a かつ a× b ≤ b.

最後に,po半群 Sに,除法についての公理P9の (1)と (2)をつけ加えた代数系 (S:×, \, /;≤

) を除法 po半群 (residuated po-semigroup) RPSという. (1)での演算 \ を左除法 (left

residuation)といい,(2)での演算/を右除法 (right residuation)という.P9のうち (1)だ

けが成り立つ代数系を左除法 po半群といい,(2)だけを満たす代数系を右除法 po半群と

いう.

P9 Sの各元 a , b , c に対し

(1) b× c ≤ a ⇐⇒ c ≤ b\a

(2) c× b ≤ a ⇐⇒ c ≤ a/b

論理の立場からいえば,除法 (residuation)は含意 (implication)に対応する.

RPSでは次の性質が成立する.

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3 順序半群系統 8

b× (b\a) ≤ a

(a/b)× b ≤ a

poモノイド PM,整 poモノイド IPM,凖整 po半群 QPSなどが,それぞれ P9を満

たしているとき,除法 poモノイド RPM,除法整 poモノイド RIPM,除法凖整 po半

群 RQPSという.

RIPMおよびRQPSでは a\a および a/a は最大元である.

以下,これらに po亜群 PGを含めた 9種類の代数系を取り扱う.

3.2 シーケンシャル・システム LPS等

a , b , c , d 等は任意の語であり,Γ, Θ, Σ, Φ等は任意の語の (空の列を含んだ) 有限列

である.

A) 公理

(1) a −→ a

(2) a −→ 1

公理 (2)は (R)IPMに対応するシステムにおいてのみ仮定される.

B) 構造上の推論規則

Γ −→ c Φ, c,Σ −→ d

Φ,Γ,Σ −→ d(cut)

Θ,Γ −→ d

Θ, a,Γ −→ d(w →)

上の (cut)はカットの規則 (cut rule)で,c がカット語 (cut word)であり,今後このカット

をカット (c) と呼ぶこともある.(w→)は左辺についての weakening (増)の意味であって,

(R)IPM, (R)QPSなどに対応するシステムに対してのみ仮定される.

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3 順序半群系統 9

C) 演算に関する推論規則

Λ, a, b,Θ −→ d

Λ, a× b,Θ −→ d(× →) Γ −→ a Σ −→ b

Γ,Σ −→ a× b(→ ×)

Γ −→ b Φ, a,Σ −→ d

Φ,Γ, b\a,Σ −→ d(\ →)

b,Γ −→ a

Γ −→ b\a (→ \)

Γ −→ b Φ, a,Σ −→ d

Φ, a/b,Γ,Σ −→ d(/→)

Γ, b −→ a

Γ −→ a/b(→ /)

D) 定数に関する推論規則

Γ −→ aΓ −→ a× 1

(→ 11)Γ −→ a

Γ −→ 1× a(→ 12)

Θ,Γ −→ d

Θ, 1,Γ −→ d(1 →)

po亜群PGおよび po半群PSに対応するシーケンシャル・システム LPGおよび LPS

は,公理 (1)と,推論規則 (cut), (× →), (→ ×) からなる.ただし,LPGには次の制限

がある.(cut)ではΣが空でないときΓは 1語だけからなり,(× →) でのΘは空でなくては

ならない.(→ ×) でのΓは 1語だけからなる.

次に poモノイドPMに対応するシーケンシャル・システム LPMは公理 (1)と推論規則

(cut), (× →), (→ ×) のほか,定数に関する推論規則 (→ 11), (→ 12), (1 →) をつけ加え

たものである.さらに,整 poモノイド IPMに対応するシーケンシャル・システム LIPM

は,LPMに公理 (2)と (w →) をつけ加えたものである.

一方,凖整 po半群QPSに対応するシーケンシャル・システム LQPSは,LPSに構造

上の推論規則 (w →) をつけ加えたものである.

これらの四つの代数系PS, PM, IPM,QPSに除法の公理P9をつけ加えたRPS,RPM,

RIPM, RQPSに対応するシーケンシャル・システムはそれぞれLRPS, LRPM, LRIPM,

LRQPSと呼ばれ, これまでのそれぞれのシーケンシャル・システムに,演算に関する

四つの規則 (\ →), (→ \), (/ →), (→ /) をすべてつけ加えて得られる.特に LRPSや

LRQPSでは,(→ \), (→ /) でのΓは空ではない.

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3 順序半群系統 10

3.3 代数系とシーケンシャル・システムとの対応

シーケントΓ −→ d での左辺における語の有限列Γに対応する一つの語φ(Γ) を次のよう

に定義する.

• モノイド系統ではΓが空のとき,φ( ) = 1.

• Γが 1語 a からなるとき,φ(a) = a.

• Γが 2語以上の有限列 a,Πのとき,φ(a,Π) = a× φ(Π).

LPSにおいてはφ(Σ,Π) = φ(Σ)× φ(Π) として単純に定義される.

さらに,シーケントΓ −→ d に,代数系の不等式φ(Γ) ≤ d が対応させられる.

代数系PG, PS, PM, IPM, QPS, RPS, RPM, RIPM, RQPSのうちの一つを A と

表すとき,これに対応するシーケンシャル・システムは LA と表される.さらに,LA の

推論規則のうち,(cut)の規則だけを除いたシステムを今後 LA−で表すことにする.

Correspondence Theorem

LA ` Γ −→ d ⇐⇒ A |= φ(Γ) ≤ d

この定理を証明するために,まず次のいくつかのレンマを証明する ([ST8]参照).

Lemma 1 PG |= a ≤ b =⇒ PG |= φ(Γ, a) ≤ φ(Γ, b).

(証明) このレンマの証明は,Γの語の個数についての帰納法による.

Γが空のとき,確かにレンマは成立する.

Γが c,∆のとき,φ(∆, a) ≤ φ(∆, b) を仮定する.

φ(c,∆, a) = c× φ(∆, a) ≤ c× φ(∆, b) = φ(c,∆, b).

一般に A についても,このレンマ

A |= a ≤ b =⇒ A |= φ(Γ, a) ≤ φ(Γ, b)

は成立する. 2

Lemma 2 PG |= φ(Σ,Γ) = φ(Σ, φ(Γ))

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3 順序半群系統 11

(証明) このレンマも,Σの語の個数についての帰納法によって証明される.

Σが空のとき,φ(Γ) = φ(φ(Γ)) だから,確かにレンマは成立する.

Σが a,∆のとき,φ(∆,Γ) = φ(∆, φ(Γ)) を仮定する.

φ(a,∆,Γ) = a× φ(∆,Γ) = a× φ(∆, φ(Γ)) = φ(a,∆, φ(Γ))

このレンマも,一般に A について

A |= φ(Σ,Γ) = φ(Σ, φ(Γ))

が成立する. 2

Lemma 3 PS |= φ(Σ,Γ) = φ(Σ)× φ(Γ)

(証明) このレンマも,Σの語の個数についての帰納法によって証明される.

Σが空のとき,確かにレンマは成立する.

Σが a,∆のとき,φ(∆,Γ) = φ(∆)× φ(Γ) を仮定する.

φ(a,∆,Γ) = a× φ(∆,Γ) = a× (φ(∆)× φ(Γ)) = (a× φ(∆))× φ(Γ) = φ(a,∆)× φ(Γ)

このレンマも,PG以外のすべての代数系 A について

A |= φ(Σ,Γ) = φ(Σ)× φ(Γ)

が成立する. 2

Lemma 4 LPG ` Γ −→ φ(Γ)

(証明) Γの語の個数についての帰納法によって証明する.

Γが 1語からなるときは成立する.

Γが a,∆のとき, ` ∆ −→ φ(∆) を仮定する.

a −→ a ∆ −→ φ(∆)

a,∆ −→ a× φ(∆)(→ ×)

ここで,a× φ(∆) = φ(a,∆) であるから,レンマは成立する.

すべてのシーケンシャル・システム LA について,このレンマ

LA ` Γ −→ φ(Γ)

が成立する. 2

Lemma 5 LPG ` Γ −→ d⇐⇒ LPG ` φ(Γ) −→ d .

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3 順序半群系統 12

(証明) ⇐=の証明.Lemma 4Γ −→ φ(Γ)

仮定φ(Γ) −→ d

Γ −→ d(cut)

=⇒ の証明.

Γの語の長さについての帰納法で証明する.

Γが 1語からなるときは,確かに成立する.

Γが∆, a, b のとき,∆, a, b −→ d

∆, a× b −→ d(× →)

帰納法の仮定より,φ(∆, a× b) −→ d.Lemma 2より,φ(∆, a, b) −→ d.

このレンマは,すべての LA についても成立する.

LA ` Γ −→ d ⇐⇒ LA ` φ(Γ) −→ d

2

以上のレンマを利用して,Correspondence Theorem は次のように証明される ([ST8],

[ST12], [ST17]を参照).

(証明) ⇐=) A |= φ(Γ) ≤ d =⇒ LA ` φ(Γ) −→ d (Lemma 5より LA ` Γ −→ d)

代数系 A のすべての公理を LA で証明する.

• A の公理 P1 a ≤ a.

これに対応するシーケント ` a −→ a は LA の公理 (1)である.

• A の公理 P2 (a ≤ b かつ b ≤ c)ならば a ≤ c.

LA ` a −→ b で LA ` b −→ c と仮定する.LA での (cut)を用いて

a −→ b b −→ ca −→ c (cut)

つまり,LA ` a −→ c.

• A の公理 P3 (a ≤ b かつ b ≤ a)ならば a = b.

LA ` a −→ b かつ LA ` b −→ a とする.これら両シーケントが a = b に対応して

いる.

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3 順序半群系統 13

• A の公理 P4 a ≤ b ならば (a× c ≤ b× c かつ c× a ≤ c× b).

c −→ c a −→ bc, a −→ c× b

(→ ×)

c× a −→ c× b(× →)

a −→ b c −→ ca, c −→ b× c

(→ ×)

a× c −→ b× c(× →)

• PG以外の代数系 A での公理 P5 (a× b)× c = a× (b× c).

a −→ ab −→ b c −→ cb, c −→ b× c

(→ ×)

a, b, c −→ a× (b× c)(→ ×)

a× b, c −→ a× (b× c)(× →)

(a× b)× c −→ a× (b× c)(× →)

同様にして,a× (b× c) −→ (a× b)× c も証明される.

• PMでの公理 P6 a× 1 = a かつ 1× a = a.

a −→ aa, 1 −→ a

(1 →)

a× 1 −→ a(× →) a −→ a

a −→ a× 1(→ 1)

同様にして,1× a = a に対応する二つのシーケントも証明される.

• IPMでの公理 P7 a ≤ 1.

これに対応するシーケント a −→ 1 は LIPMの公理 (2)である.

• QPSでの公理 P8 a× b ≤ a かつ a× b ≤ b.

a −→ aa, b −→ a

(w →)

a× b −→ a(× →)

同様にして,a× b ≤ b に対応するシーケントも証明される.

• 除法をもった po半群RPSなどの公理 P9 (1) b× c ≤ a ⇐⇒ c ≤ b\a,

(2) c× b ≤ a ⇐⇒ c ≤ a/b.

(1)=⇒ の証明

b −→ b c −→ cb, c −→ b× c

(→ ×)b× c −→ a

b, c −→ a(cut)

c −→ b\a (→ \)

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3 順序半群系統 14

(1)⇐=の証明

c −→ b\ab −→ b a −→ ab, b\a −→ a

(\ →)

b, c −→ a(cut)

b× c −→ a(× →)

同様にして,(2)に対応するシーケントについても証明される.

=⇒) LA ` Γ −→ d =⇒ A ` φ(Γ) ≤ d.

LA の公理に対応する不等式を,A で証明する.

• LA での公理 (1) a −→ a.

これに対応する不等式 a ≤ a は P1である.

• LIPMでの公理 (2) a −→ 1.

これに対応する不等式 a ≤ 1 は IPMでの公理 P7である.

LA での推論規則の上のシーケントに対応する不等式が,いずれも成立すると仮定し

て,下のシーケントに対応する不等式が A で証明されなくてはならない.

• LA での推論規則 (cut)

Γ −→ c Φ, c,Σ −→ d

Φ,Γ,Σ −→ d(cut)

特に LPGでは,Σが空でないときΓは 1語であるという制限がある.

証明にあたって,φ(Γ) ≤ c とφ(Φ, c,Σ) ≤ d とを仮定する.

LPGでの証明

(1) Σが空でないとき,LPGではΓが 1語 aだけからなるので,a ≤ c.したがって

φ(a,Σ) = a× φ(Σ) ≤ c× φ(Σ) = φ(c,Σ) Lemma 1より

φ(Φ, a,Σ) = φ(Φ, φ(a,Σ)) ≤ φ(Φ, φ(c,Σ)) = φ(Φ, c,Σ) ≤ d.

(2) Σが空のとき,Lemma 1より,φ(Φ, φ(Γ)) ≤ φ(Φ, c) ≤ d.

LPG以外のシステム LA での証明.

P4より,φ(Γ) ≤ c ならば

φ(Φ,Γ,Σ) = φ(Φ)× φ(Γ)× φ(Σ) ≤ φ(Φ)× c× φ(Σ) = φ(Φ, c,Σ) ≤ d.

• LA での推論規則 (× →)

Γ, a, b,Θ −→ d

Γ, a× b,Θ −→ d(× →)

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3 順序半群系統 15

特に LPGでは,Θは空という制限がある.

証明にあたっては,φ(Γ, a, b,Θ) ≤ d と仮定する.

LPGでの証明

φ(Γ, a× b) = φ(Γ, a, b) ≤ d.

LPG以外のシステム LA での証明.

φ(Γ, a× b,Θ) = φ(Γ, a× b)× φ(Θ) = φ(Γ, a, b,Θ) ≤ d.

• LA での推論規則 (→ ×)

Γ −→ a Σ −→ bΓ,Σ −→ a× b

(→ ×)

特に LPGでは,Γが 1語であるという制限がある.

証明にあたって,φ(Γ) ≤ a とφ(Σ) ≤ b とを仮定する.

LPGでの証明.

Γは 1語 c からなるので,c ≤ a.φ(c,Σ) = c× φ(Σ) ≤ c× b ≤ a× b.

LPG以外のシステム LA での証明.

φ(Γ,Σ) = φ(Γ)× φ(Σ) ≤ a× φ(Σ) ≤ a× b.

• LPMでの推論規則 (→ 11), (→ 12)

Γ −→ aΓ −→ a× 1

(→ 11)Γ −→ a

Γ −→ 1× a(→ 12)

φ(Γ) ≤ a を仮定すると,φ(Γ) ≤ a = a× 1 = 1× a.

• LPMでの推論規則 (1 →)Θ,Γ −→ d

Θ, 1,Γ −→ d(1 →)

これを証明するため,φ(Θ,Γ) ≤ d を仮定する.

ΘかΓのどちらかは空ではないが,Γが空でないときだけを取り扱う.

φ(Γ) = 1× φ(Γ) = φ(1,Γ) であるから,

φ(Θ, 1,Γ) = φ(Θ, φ(1,Γ)) = φ(Θ, φ(Γ)) = φ(Θ,Γ) ≤ d.

• LIPM, LQPSでの推論規則 (w →)

Θ,Γ −→ d

Θ, a,Γ −→ d(w →)

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3 順序半群系統 16

これを証明するため,φ(Θ,Γ) ≤ d を仮定する.

ΘかΓのどちらかは空ではないが,Γが空でないときだけを取り扱う.

φ(a,Γ) = a× φ(Γ) ≤ φ(Γ) であるから,

φ(Θ, a,Γ) = φ(Θ, φ(a,Γ)) ≤ φ(Θ, φ(Γ)) = φ(Θ,Γ) ≤ d.

• LRPSなどでの推論規則 (\ →)

Γ −→ b Φ, a,Σ −→ d

Φ,Γ, b\a,Σ −→ d(\ →)

これを証明するため,φ(Γ) ≤ b とφ(Φ, a,Σ) ≤ d とを仮定する.

RPSでは,b× b\a ≤ a が成立する.φ(b, b\a) ≤ φ(a) であるから,

φ(Φ,Γ, b\a,Σ) ≤ φ(Φ, b, b\a,Σ) ≤ φ(Φ, a,Σ) ≤ d.

• LRPSなどでの推論規則 (/→)

上と全く同様にして証明される.

• LRPSなどでの推論規則 (→ \)

b,Γ −→ a

Γ −→ b\a (→ /)

φ(b,Γ) ≤ a を仮定する.

b× φ(Γ) ≤ a.したがって,P9(1)よりφ(Γ) ≤ b\a.

• LRPSなどでの推論規則 (→ /)

上と全く同様に証明される. 2

Fundamental Theorem

LA ` Γ −→ d ⇐⇒ LA− ` Γ −→ d

(証明) この定理の証明については,[ST8], [ST12], [ST17]を参照のこと.

⇐=の証明は当然であるから,本質的部分は=⇒ の証明である.

LA ` Γ −→ d

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3 順序半群系統 17

と仮定する.この証明の中で,上から証明をたどっていき,最初に現れるカットについて,

その下のシーケントがカットを用いないで証明することができれば,すべてのカットを取

り除いた証明を得ることができる.したがって,証明図中の推論規則がカット (c) で,そ

の上にはカットが全く使われていない場合を考える.

Γ −→ c Φ, c,Σ −→ d

Φ,Γ,Σ −→ d(c)

つまり,LA− ` Γ −→ c で,LA− ` Φ, c,Σ −→ d であると仮定する.この仮定のもとに,

全くカットを使わないで,下のシーケントが得られることが証明できればよい.このため,

カット (c)の次数 degree (cの中に含められている文字や定元 1および演算記号の個数)と,

このカットの階数 rank ρに関する二重帰納法によって証明する (ゲンツェン [1]参照).

ここで次数と階数の定義をしておく.語 a の次数 d(a) のほうは次のように定義される.

aiが文字のとき,d(ai) = 1, d(1) = 1.

a = b× c のとき,d(b× c) = d(b) + d(c) + 1.

a = c\b のとき,d(c\b) = d(b) + d(c) + 1.

a = b/c のとき,d(b/c) = d(b) + d(c) + 1.

カット (c) の次数とは,カット語 c の次数 d(c) のことである.また,シーケントΓ −→ d

の次数とは,このシーケントの両辺に現れるすべての語 (重複も許して) の次数の総和で

ある.

このカットの左階数ρlとは,左上のシーケントΓ −→ c のすぐ上の証明図の右辺に続い

て c が現れるシーケントの最大個数である.またこのカットの右階数ρrとは,右上のシー

ケントΦ, c,Σ −→ d のすぐ上の証明図の左辺に続いて c が現れるシーケントの最大個数で

ある.このカット (c) の階数ρはρl + ρrとして定義される.このことから,ρl ≥ 1, ρr ≥ 1,

ρ ≥ 2 であることがわかる.

このカットの左上のシーケントΓ −→ c が公理でないとき,これを導く推論規則を LRと

表す.同じく,このカットの右上のシーケントΦ, c,Σ −→ d が公理でないとき,これを導

く推論規則を RRと表す.

推論規則中のギリシア大文字中の語や,上下のシーケントに含まれる共通な語 d などは

パラメーター (parameter)といわれる.演算に関する推論規則の下のシーケントに含まれ

ているパラメーター以外の語 a× b , b\a , a/b , a× 1, 1× a などは主要語 (principal word)

といわれる ((w →) の a と (1 →) の 1 は主要語から除いておく).

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3 順序半群系統 18

以下の証明では,代表として LRPSのみを取り扱う.

(I) ρ = 2 のケース

(I.1) カット (c) の左上または右上シーケントが公理 (1)のとき

下のシーケントは,すでにカットなしで証明されている.

(I.2) c = a× b のとき

Γ −→ a Σ −→ bΓ,Σ −→ a× b

(→ ×)Θ, a, b,Λ −→ d

Θ, a× b,Λ −→ d(× →)

Θ,Γ,Σ,Λ −→ d(c)

これは次のように変換される.

Σ −→ b

Γ −→ a Θ, a, b,Λ −→ d

Θ,Γ, b,Λ −→ d(a)

Θ,Γ,Σ,Λ −→ d(b)

変換された証明図における二つのカット (a) と (b) の次数は,変換前のオリジ

ナルなカット (c) の次数より低い.したがって,帰納法の仮定よりまずカット

(a) が除去され,続いてカット (b) も除去される.

(I.3) c = b\a のとき

b,Γ −→ a

Γ −→ b\a (→ \) Σ −→ b Θ, a,Λ −→ d

Θ,Σ, b\a,Λ −→ d(\ →)

Θ,Σ,Γ,Λ −→ d(c)

これは次のように変換される.

Σ −→ b

b,Γ −→ a Θ, a,Λ −→ d

Θ, b,Γ,Λ −→ d(a)

Θ,Σ,Γ,Λ −→ d(b)

変換された証明図中のカット (a) およびカット (b) の次数は,オリジナルの

カット (c) の次数よりも低いので,これら二つのカットは除去できる.

(I.4) c = a/b のとき

 これは (I.3)のときと同様である.

(II) ρ > 2 のケース

(II.1) c が LRと RRの主要語のとき

この場合は (I)のケースと同様に証明される.

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3 順序半群系統 19

(II.2) c が LRのパラメーターに含まれているとき

(Γ1 −→ a) Γ2 −→ c

Γ −→ cLR

Θ, c,Σ −→ b

Θ,Γ,Σ −→ b(c)

LRの左上シーケントの (Γ1 −→ a) は,LRが (× →) や (w →) のとき不要で,

(\ →) や (/→) のとき,対応するシーケントを追加することを示している.

これは次のように変換される.

(Γ1 −→ a)

Γ2 −→ c Θ, c,Σ −→ b

Θ,Γ2,Σ −→ b(c)

Θ,Γ,Σ −→ bLR

変換された証明図中のカット (c) は,オリジナルのカット (c) より階数ρが低

くなっているので,帰納法の仮定より,このカット (c) は除去される.

(II.3) カット語が RRのパラメーターに含まれているとき

Γ → c

Θ1, c,Σ1 −→ a (Θ2 −→ b)

Θ, c,Σ −→ dRR

Θ,Γ,Σ −→ d(c)

ここでのカット (c) によっては,RRの上に二つのシーケントがある場合,右

上のシーケント中の c がカットされることもあるかもしれないが,同様に処理

できるので,左上のシーケント中の c をカットする場合のみを取り扱う.

これは次のように変換される.

Γ −→ c Θ1, c,Σ1 −→ aΘ1,Γ,Σ1 −→ a

(c)(Θ2 −→ b)

Θ,Γ,Σ −→ dRR

ここでのカット (c) は,オリジナルのものより階数が下がっているので,帰納

法の仮定よりこのカットも除去される.

以上により,LRPSについての基本定理の証明は終わった.

LRPMの基本定理の証明は,次のレンマ

LPM− ` Θ, 1,Γ −→ d =⇒ LPM− ` Θ,Γ −→ d

を利用することにより簡単になされる.このレンマの証明は証明図の長さに関する帰納法

による.

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3 順序半群系統 20

その他のシーケンシャル・システム LA についても,同じように基本定理は証明される.

2

Decidability Theorem

(1) LA は決定可能である.

(2) 自由代数系 A の語の問題は肯定的に解ける.

(証明) この定理の証明については,[ST8], [ST12], [ST18]を参照のこと.

この定理を証明するため,語 a の部分語 (subword)の集合 S(a) を定義する.

aiが文字のとき,S(ai) = ai,また S(1) = 1.

S(b× c) = b× c ∪ S(b) ∪ S(c).(∪は集合のユニオン (結び)である.)

S(c\b) = c\b ∪ S(b) ∪ S(c).S(b/c) = b/c ∪ S(b) ∪ S(c).

語の列Γの部分語の集合 S(Γ) は,Γ内の各語のすべての部分語の集合である.

ところで,カット以外の推論規則を見ると,上のそれぞれのシーケントに含まれるどの

語も,下のシーケントに含まれる語の部分語となっている (部分語特性をもっている).しか

も,上のいずれのシーケントの次数も下のシーケントの次数よりも低い.そこで,Γ −→ d

が証明ができるかどうかの判定を試みよう.まず,有限集合 S(Γ, d) を考え,それらの中の

語のみを両辺にもち,Γ −→ d より次数の低いシーケントをすべて作る.もちろん,これ

らのシーケントも有限個しかないので,これらシーケントだけの組合せによって,Γ −→ d

を一番下にもつ証明図があるかどうかの判定は有限回で終了する.

証明可能集合 Pを構成的に作ることによって,Γ −→ d が証明可能かどうかを判定する

別の手続きを述べることとする.

まず,S(Γ, d) を考え,この中の任意の語 a について,a −→ a を作り,それを Pに含

める (LIPMを考えるときには,a −→ 1 も Pに含める).

次に,(cut)以外のすべての規則について,上のどちらのシーケントも Pに含まれている

と確認されたときで,下のシーケントの次数がΓ −→ d の次数以下のときのみ,下のシー

ケントも Pに含める.

これら二つの手続き以外の方法によって,Pの構成要素を増やすことはしない.Pは有

限集合 S(Γ, d) の中の語のみからなるシーケントの集合で,次数がΓ −→ d より低いもの

のみからなるので,Pも有限集合である.したがって,上の手続きは有限回で止まるはず

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3 順序半群系統 21

である.この最終的 Pに対して,Γ −→ d が Pに含まれていれば,Γ −→ d は LA で証明

可能であるし,Γ −→ d が Pに含まれていなければ,LA で証明可能でない.

LA と A は同値であったので,A の語の問題も肯定的に解ける. 2

3.4 補足

ここでは補元 (complement)を取り扱わなかった.たとえば,最小元 0 をもつ除法 po半

束を考えて,a\0 や 0/a を a の補元と考えることができる.ここで考えた代数系が可換な

場合も取り扱えるが,これらはここでの取り扱いと本質的に異なることはない.また,巾

等律が成り立つ代数系 poバンド (po-band)も考察できるが,これはシーケンシャル・シス

テムでいえば,コントラクション (縮 contraction)の規則を導入することによって実現さ

れる.しかし,可換な poバンドは次章で取り扱う半束である.

論文 [ST17]のあとがきにも述べているように,除法 po半群や除法 poモノイドについ

ては,既にランベックが [6]において取り扱っていることを知った.したがって,[ST17]で

は,プレプリント [ST11]で取り扱った内容の一部である除法整モノイドや除法凖整半群を

中心に取り上げている.

ここで取り扱った po半群などに対応するシーケンシャル・システムは,最近コンピュー

タ科学で研究されている線形論理や,新しい言語理論である状況理論 (バーワイズら [21])

に関連の深いシステムである.

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4 半束系統 22

4 半束系統

4.1 半束 SL

集合 S上の各元 a と b にミート演算 a∩ b が定義されていて,この演算結果も Sの元と

なっているものとする.そして S1 (結合律),S2 (交換律),S3 (巾等律)を満たしている代

数系を (ミート)半束 (meet semilattice) SLという.

S1 Sの各元 a , b , c に対し

(a ∩ b) ∩ c = a ∩ (b ∩ c)

S2 Sの各元 a , b に対し

a ∩ b = b ∩ a

S3 Sの各元 a に対し

a ∩ a = a

半束では順序が定義できる.なぜなら,S上の各元 a , b に対し

a ∩ b = a のとき,a ≤ b と定義する.

すると

a ≤ a.

(a ≤ b かつ b ≤ a)ならば a = b.

(a ≤ b かつ b ≤ c)ならば a ≤ c.

が成立するので,Sは po集合である.しかも,∩に関する順序保存性

a ≤ b ならば (a ∩ c ≤ b ∩ c かつ c ∩ a ≤ c ∩ b).

が成立するので,po半群である.さらに

a ∩ b ≤ a かつ a ∩ b ≤ b.

(c ≤ a かつ c ≤ b)ならば c ≤ a ∩ b.

であるので,凖整 po半群で,a ∩ b は a, b の下界のうち最大なものである.

最小元をもつ半束 SL0を考える.

S4 Sの各元 a に対し

a ∩ 0 = 0 (0 は最小元である)

0 をもつ半束が次の S5を満たす a の擬補元 (pseudo-complement) a∗をもつ代数系を擬

補半束 (pseudo-complemented semilattice) PSLという.

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4 半束系統 23

S5 Sの各元 a , b に対し

a ∩ b = 0 ⇐⇒ b ≤ a∗

擬補半束では,次の諸性質が成り立つ.

a ≤ 0∗ (0∗は最大元である.) a ∩ a∗ = 0

a ≤ a∗∗ a∗ = a∗∗∗

a ≤ b∗ ⇐⇒ b ≤ a∗ a ≤ b =⇒ b∗ ≤ a∗

(a ∩ b)∗∗ = a∗∗ ∩ b∗∗

半束で次の S6を満たす a と b の相対擬補元 (relative pseudo-complement)あるいは含

意元 (implicative element) a ⊃ b をもつ代数系を含意半束 (implicative semilattice) ISLと

いう.

S6 Sの各元 a , b , c に対し

a ∩ c ≤ b ⇐⇒ c ≤ a ⊃ b

含意半束では次の性質が成立する.

a ⊃ a は最大元である.

a ∩ (a ⊃ b) ≤ b.

また,含意半束が最小元 0 をもてば,a ⊃ 0 は擬補元 a∗で,そのような含意半束は擬補

半束となっている.

4.2 シーケンシャル・システム LSL等

a , b , c , d 等は任意の語であり,Γ, Θ, Σ等は任意の語の (空の列も含めた) 有限列で

ある.

A) 公理

a −→ a

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4 半束系統 24

B) 構造上の推論規則

Γ −→ c c,Σ −→ d

Γ,Σ −→ d(cut)

Θ, a, b,Γ −→ d

Θ, b, a,Γ −→ d(e →)

a, a,Γ −→ d

a,Γ −→ d(c →)

Γ −→ da,Γ −→ d

(w →) Γ −→ 0Γ −→ a

(→ w)

上の (cut)と (w →) は,既出の説明通りで,(→ w) は右辺の weakeningである.(e →)

は左辺の exchange (換),(c →) は左辺の contraction (縮)である.

C) 演算に関する推論規則

a,Γ −→ d

a ∩ b,Γ −→ d(∩1 →)

b,Γ −→ d

a ∩ b,Γ −→ d(∩2 →) Γ −→ a Γ −→ b

Γ −→ a ∩ b (→ ∩)

Γ −→ aa∗,Γ −→ 0

(∗ →)a,Γ −→ 0Γ −→ a∗

(→ ∗)

Γ −→ a b,Γ −→ d

a ⊃ b,Γ −→ d(⊃→)

a,Γ −→ b

Γ −→ a ⊃ b(→⊃)

(ミート)半束 SLに対応するシーケンシャル・システム LSLは,公理と構造上の推論規

則 (cut), (e →), (c →), (w →) および演算に関する推論規則 (∩1 →), (∩2 →), (→ ∪) か

らなる.擬補半束 PSLに対応するシステム LPSLは,LSLに推論規則 (→ w), (∗ →),

(→ ∗) をつけ加えて得られる.一方,含意半束 ISLに対応するシステム LISLは,LSLに

推論規則 (⊃→) と (→⊃) をつけ加えたものである.最小元 0 をもつ含意半束 ISL0に対応

するシステム LISL0は,LISLに (→ w) をつけ加えるだけで得られる.この場合,a ⊃ 0

を a∗と定義すれば,(∗ →) と (→ ∗) は (⊃→) や (→⊃) を用いて証明できる.

4.3 代数系とシーケンシャル・システムとの対応

シーケントの左辺の語の有限列に対応する語は,語をすべて順にミートで結んだものと

解釈される.

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4 半束系統 25

n ≥ 1 のとき,φ(a1, a2, . . . , an) = a1 ∩ a2 ∩ · · · ∩ an

また,シーケントΓ −→ d には,代数系の不等式φ(Γ) ≤ d を対応させる.

以下で,代数系 SL, PSL, ISL, ISL0のうちの一つを A で表すとき,これに対応する

シーケンシャル・システムを LAと表すことにする.さらに,LAの推論規則のうち,(cut)

の規則だけを除いたシステムを以後 LA−で表すことにしよう.

Correspondence Theorem

LA ` Γ −→ d ⇐⇒ A |= φ(Γ) ≤ d

この定理の証明については,論文 [ST13], [ST15]を参照のこと (3.3での PSと LPSの

対応と本質的に異なるところはない).

ここでのすべてのシーケンシャル・システムについて,次の基本定理が成立する.

Fundamental Theorem

LA ` Γ −→ d ⇐⇒ LA− ` Γ −→ d

この定理の証明については,論文 [ST13], [ST15]を参照のこと (次の 5.3での LLでの証

明の一部として含まれている).

Decidability Theorem

(1) LA は決定可能である.

(2) 自由代数系 A の語の問題は肯定的に解ける.

この定理の証明は,上の基本定理を使って,後はゲンツェン [1]の手法を用いればよい

(次の 5.3での LLでの証明の一部として含まれている).

4.4 補足

ミート半束と双対に,ジョイン半束も考えられる.これに対応するシーケンシャル・シ

ステムでは,左辺が 1語からなり,右辺は一般に語の有限列である.

半束に乗法を定義する乗法半束も定義されるが,ここでは取り扱わなかった.これは後

に取り扱う乗法束の一部と考えることができる.

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5 束系統 26

5 束系統

5.1 束 Lと分配束DL

集合 Sの各元 aと bの間にミート演算 a∩bとジョイン演算 a∪bが定義されていて,これ

らの演算結果も Sの元となっている.さらに,これらの演算に関し,L1 (結合律),L2 (交換

律),L3 (巾等律)および L4 (吸収律)が成立しているとき,このような代数系を束 (lattice)

Lという.

L1 Sの各元 a , b , c に対し

(1) (a ∩ b) ∩ c = a ∩ (b ∩ c) (2) (a ∪ b) ∪ c = a ∪ (b ∪ c)

L2 Sの各元 a , b に対し

(1) a ∩ b = b ∩ a (2) a ∪ b = b ∪ a

L3 Sの各元 a に対し

(1) a ∩ a = a (2) a ∪ a = a

L4 Sの各元 a , b に対し

(1) a ∩ (a ∪ b) = a (2) a ∪ (a ∩ b) = a

束において,順序を次のように定義する.Sの各元 a , b に対し

a ∩ b = a のとき,a ≤ b と定義する.

実は,束においては

a ∩ b = a ⇐⇒ a ∪ b = b

であるから,順序を a ∪ b = b によって定義することもできる.

この順序に関し,反射律,反対称律,推移律も成立するので,Sは po集合となっている.

しかも,∩および ∪についての順序保存性

a ≤ b ならば (a ∩ c ≤ b ∩ c かつ c ∩ a ≤ c ∩ b)

a ≤ b ならば (a ∪ c ≤ b ∪ c かつ c ∪ a ≤ c ∪ b)

がいえる.さらに

a ∩ b ≤ a かつ a ∩ b ≤ b

(c ≤ a かつ c ≤ b)ならば c ≤ a ∩ b

であるから,a ∩ b は a, b の下界中最大のものである.また

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5 束系統 27

a ≤ a ∪ b かつ b ≤ a ∪ b

(a ≤ c かつ b ≤ c)ならば a ∪ b ≤ c

であるから,a ∪ b は a, b の上界中最小のものである.また

さらに,次の L5 (分配律)をも満たす束を分配束 (distributive lattice) DLという.

L5 Sの各元 a , b , c に対し

(1) a ∩ (b ∪ c) = (a ∩ b) ∪ (a ∩ c) (2) a ∪ (b ∩ c) = (a ∪ b) ∩ (a ∪ c)

5.2 シーケンシャル・システム LLと LDL

a , b , c , d 等は任意の語であり,Γ, ∆, Θ, Λ, Σ, Π, Φ, Ω等は任意の語の (空の列を許

した)有限列である.

A) 公理

a −→ a

B) 構造上の推論規則

Γ −→ Ω, c c,Λ −→ ΠΓ,Λ −→ Ω,Π

(cut)

Θ, a, b,Γ −→ ∆

Θ, b, a,Γ −→ ∆(e →)

Γ −→ ∆, a, b,Φ

Γ −→ ∆, b, a,Φ(→ e)

a, a,Γ −→ ∆a,Γ −→ ∆

(c →)Γ −→ ∆, a, aΓ −→ ∆, a

(→ c)

Γ −→ ∆a,Γ −→ ∆

(w →) Γ −→ ∆Γ −→ ∆, a

(→ w)

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5 束系統 28

C) 演算に関する推論規則

a,Γ −→ ∆

a ∩ b,Γ −→ ∆(∩1 →)

Γ −→ ∆, a

Γ −→ ∆, a ∪ b (→ ∪1)

b,Γ −→ ∆

a ∩ b,Γ −→ ∆(∩2 →)

Γ −→ ∆, b

Γ −→ ∆, a ∪ b (→ ∪2)

a,Θ −→ ∆ b,Θ −→ ∆

a ∪ b,Θ −→ ∆(∪ →)

Γ −→ Φ, a Γ −→ Φ, b

Γ −→ Φ, a ∩ b (→ ∩)

以上の公理および推論規則を許したシステムが,分配束 DLに対応するシステム LDL

である.一般の束 Lに対応するシステム LLは,(cut)中のΛかΩの少なくとも一方が空と

いう条件と,(∪ →) のΘと (→ ∩) のΦは空という条件がつく.LDLではこれらの条件は

不要である.

論文 [ST1]では,束に対応するシステムとして,両辺がすべて 1語だけからなるという

条件をつけている.このように簡単なシステムでも,上のシステム LLと同値である.

5.3 代数系とシーケンシャル・システムとの対応

シーケントΓ −→ ∆の左辺Γには語φ(Γ) を対応させ,右辺∆には語ψ(∆) を対応させる.

φとψは

φ(a1, a2, . . . , am) = a1 ∩ a2 ∩ · · · ∩ am (m ≥ 1)

ψ(b1, b2, . . . , bn) = b1 ∪ b2 ∩ · · · ∪ bn (n ≥ 1)

によって定義される.

また,シーケントΓ −→ ∆には,代数系での不等式φ(Γ) ≤ ψ(∆) を対応させる.

以下で,代数系 L, DLのどちらかを A で表したとき,これに対応するシーケンシャル・

システムを LA で表すことにする.さらに,LA の推論規則のうち,(cut)の規則だけを

除いたシステムを LA−で表す.

Correspondence Theorem

LA ` Γ −→ ∆ ⇐⇒ A |= φ(Γ) ≤ ψ(∆)

この定理の証明については,論文 [ST1], [ST3], [ST4]および松本 [10]を参照のこと (3.3

での PSと LPSの対応と本質的に異なるところはない).

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5 束系統 29

ここで述べた両システムについて,次の基本定理が成立する.

Fundamental Theorem

LA ` Γ −→ ∆ ⇐⇒ LA− ` Γ −→ ∆

(証明) この定理の証明の概要を述べるが,[ST1], [ST3], [ST4]も参照のこと.

この証明にあたっては,(cut)と同値な次の規則ミックス (mix)が除去される.

Γ −→ Λ Ω −→ ΠΓ,Ωm −→ Λm,Π

(mix)

ただし,ΛmはΛ中のすべてのミックス語 (mix word) m を取り除いたもので,Ωmも同様

である.しかし,この規則 (mix)ではΛとΩには m が必ず含まれていて,ΛmかΩmの一方

は空でなければならない.この (mix)をミックス語 m を用いて,ミックス (m) と引用す

ることもある.

証明は,証明図を上からたどっていき,最初に現れたミックスを取り除くことにする.そ

れはミックスの次数 (ミックス語 m の中に含まれる文字と論理記号の数の和)と,階数ρに

関する二重帰納法による.ここで,ρの定義はゲンツェン [1]と同様である.すなわち,左

階数ρlはミックスの上の左シーケントを導くための推論規則を上に順次たどっていったと

き,引き続いて m が右辺に現れるシーケントの最大個数である.Λには必ず m が現れて

いるのでρl ≥ 1 である.同様にして,左階数ρrはミックスの上の右シーケントを導くため

の推論規則を上に順次たどっていったとき,引き続いて m が左辺に現れるシーケントの最

大個数である.ρ = ρl + ρrとして定義されるのでρ ≥ 2 である.

ミックスの左上のシーケントが,ある推論規則の下のシーケントとなっているとき,そ

の推論規則を LRとして引用する.また,ミックスの右上のシーケントを導く推論規則を

RRとして引用する.

(I) ρ = 2 のケース

(I.1) LRが公理のときm −→ m Ω −→ Π

m,Ωm −→ Π(m)

これは,ミックスを用いないで次のように変換される.

Ω −→ Πm,Ωm −→ Π

(e →)(c →)

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5 束系統 30

変換にあたって,構造に関する推論規則を何度か使って下のシーケントが求め

られるとき,今後はそれを明記しないで,一度の推論によって求めることと

する.

(I.1 ) RRが公理のとき

上の (I.1)と双対である.

(I.2) LRが (→ w) のとき

Γ −→ ∆Γ −→ ∆,m Ω −→ Π

Γ,Ωm −→ ∆,Π(m)

(ただし,∆かΩmは空である.)

これはミックスを用いないで次のように変換される.

Γ −→ ∆Γ,Ωm −→ ∆,Π

(I.2 ) RRが (w →) のとき

(I.2)と双対である.

(I.3) m = a ∩ b のとき

Γ −→ a Γ −→ bΓ −→ a ∩ b

a,Σ −→ Π

a ∩ b,Σ −→ ΠΓ,Σ −→ Π

(m)

これは次のように変換される.

Γ −→ a a,Σ −→ ΠΓ,Σa −→ Π

(a)

Γ,Σ −→ Π

ここのミックス (a) の次数は,オリジナルのミックス (m) の次数より低いの

で,帰納法の仮定より,このミックス (a)を除くことができる (RRが (∩2 −→)

のときも同様).

(I.3 ) m = a ∪ b のとき

上の (I.3)と全く双対である.

(II) ρ > 2 のケース

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5 束系統 31

(II.1) LRが (→ w) のとき

Γ −→ ∆Γ −→ ∆, a Ω −→ Π

Γ,Ωm −→ (∆, a)m,Π(m)

(ただし,(∆, a)mかΩmは空である.)

(II.1.1) ρl = 1 のとき

このとき,m = aであり,∆mは∆と一致する.これは (I.2)と同じようにミッ

クスなしで証明される.

(II.1.2) ρl > 1 のとき

ρl > 1 であるから,∆に m が含まれている.

(II.1.2.1) m = a のとき

このとき,∆mかΩmは空であって,次のように変換される.

Γ −→ ∆ Ω −→ ΠΓ,Ωm −→ ∆m,Π

(m)

このミックスの階数は,オリジナルなミックスの階数より低いので,帰納法の

仮定よりこのミックスを除去することができる.

(II.1.2.2) m 6= a のとき

このとき,Ωmは空であって,次のように変換される.

Γ −→ ∆ Ω −→ ΠΓ −→ ∆m,Π

(m)

Γ −→ ∆m, a,Π

このミックスの階数は,オリジナルなものより下がっている.

(II.1 ) RRが (→ w) のとき

(II.1)と双対である.

(II.2) LRが (w →), (e →), (→ e), (c →), (→ c), (∩i →) のとき

Θ −→ ∆Γ −→ Λ

LRΩ −→ Π

Γ,Ωm −→ Λm,Π(m)

(ただし,ΛmかΩmは空である.)

このとき,∆とΛの中に含まれている語は,全く同じものであるから,∆mか

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5 束系統 32

Ωmは空である.これは次のように変換される.

Θ −→ ∆ Ω −→ ΠΘ,Ωm −→ ∆m,Π

(m)

Θ,Ωm −→ Π,∆m

Γ,Ωm −→ Π,ΛmLR

Γ,Ωm −→ Λm,Π

このミックス (m) で,∆mかΩmが空だから,このミックスは成立している.

しかもその階数は,オリジナルなものより下がっている.

(II.2 ) RRが (e →), (→ e), (c →), (→ c), (→ ∪i) のとき

(II.2)と双対である (RRが (w →) のときは,(I.1 )で処理ずみである).

(II.3) LRが (→ ∪i) のとき

(II.3.1) RRが (∩i →) のとき

Γ −→ ∆, a

Γ −→ ∆, a ∪ bc,Σ −→ Π

c ∩ d,Σ −→ Π

Γ, (c ∩ d,Σ)m −→ (∆, a ∪ b)m,Π(m)

(ただし,(∆, a ∪ b)mか (c ∩ d,Σ)mは空である.)

(II.3.1.1) (∆, a ∪ b)mが空のとき

このとき m = a ∪ b で∆mは空で,Σに m が含まれている.

Γ −→ ∆, a ∪ b c,Σ −→ Π

Γ, (c,Σ)m −→ Π(m)

c,Γ,Σm −→ Π

c ∩ d,Γ,Σm −→ Π

Γ, c ∩ d,Σm −→ Π

このミックスの階数は,オリジナルな階数より下がっている.

(II.3.1.2) (c ∩ d,Σ)mが空のとき

これは (II.3.1.1)と同じように処理できる.

(II.3.2) RRが (∪ →) のとき

このとき,m = a ∪ b である.

Γ −→ ∆, a

Γ −→ ∆, a ∪ ba −→ Π b −→ Π

a ∪ b −→ ΠΓ −→ ∆m,Π

(m)

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5 束系統 33

これは次のように変換される.

(Γ −→ ∆, a a ∪ b −→ Π)

Γ −→ ∆m, a,Π(m)

a −→ Π

Γ −→ (∆m)a,Πa,Π(a)

Γ −→ ∆m,Π

もし,∆に m が含まれていなければ,∆mは∆と等しいので,ミックス (m)

は不要である.ミックス (m) の階数はオリジナルのミックスより低いし,下

のミックス (a)はオリジナルより次数が低い.したがって,帰納法の仮定より,

二つのミックスは除去される.

(II.3.3) RRが (→ ∩) のときΓ −→ ∆, a

Γ −→ ∆, a ∪ bΩ −→ c Ω −→ d

Ω −→ c ∩ d (→ ∩)

Γ,Ωm −→ (∆, a ∪ b)m, c ∩ d(m)

(ただし,(∆, a ∪ b)mかΩmが空である.)

次の四つのケースに分けて変換される.

(II.3.3.1) (∆, a ∪ b)mが空のとき

このとき,m = a ∪ b で∆mは空である.Γ −→ ∆, a ∪ b Ω −→ c

Γ,Ωm −→ c(m)

Γ −→ ∆, a ∪ b Ω −→ d

Γ,Ωm −→ d

Γ,Ωm −→ c ∩ d (→ ∩)

二つのミックス (m) の階数はともに,オリジナルのミックスの階数より低い.

(II.3.3.2) m 6= a ∪ b のとき

このときは,Ωmが空で,∆に m は含まれている.Γ −→ ∆, a Ω −→ c ∩ d

Γ −→ (∆, a)m, c ∩ d(m)

Γ −→ ∆m, c ∩ d, aΓ −→ ∆m, c ∩ d, a ∪ bΓ −→ ∆m, a ∪ b, c ∩ d

このミックスの階数は,オリジナルより下がっている.

(II.3.3.3) Ωmが空で,m = a ∪ b で,∆が m を含まないとき

Γ −→ ∆, a

a −→ aa −→ a ∪ b Ω −→ c

a −→ c (m)

a −→ aa −→ a ∪ b Ω −→ d

a −→ d(m)

a −→ c ∩ dΓ −→ ∆a, c ∩ d

(a)

Γ −→ ∆, c ∩ d

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5 束系統 34

二つのミックス (m) はともに,ρl = 1 でρrはオリジナルのものより下がって

いるので,階数はオリジナルのものより下がっている.下のミックス (a) は次

数が下がっている.

(II.3.3.4) Ωmが空で,m = a ∪ b で,∆が m を含むとき

Γ −→ ∆, a Ω −→ c ∩ dΓ −→ ∆m, a, c ∩ d

(m)

a −→ aa −→ a ∪ b Ω −→ c ∩ d

a −→ c ∩ d (m)

Γ −→ (∆m, c ∩ d)a, c ∩ d(a)

Γ −→ ∆m, c ∩ d

二つのミックス (m)はともに,オリジナルのものより階数が下がっている.ま

た,下のミックス (a) の次数は下がっている.

(II.3 ) RRが (∩i →) のとき

これは (II.3)と双対である.

(II.4) LRが (∪ →) のとき

(II.4.1) RRが (∪ →) のとき

このとき,m = c ∪ d である.a −→ Λ b −→ Λ

a ∪ b −→ Λc −→ Π d −→ Π

c ∪ d −→ Πa ∪ b −→ Λm,Π

(m)

これは次のように変換される.a −→ Λ c ∪ d −→ Π

a −→ Λm,Π(m) b −→ Λ c ∪ d −→ Π

b −→ Λm,Π(m)

a ∪ b −→ Λm,Π

二つのミックス (m) の階数は,オリジナルの階数より下がっている.

(II.4.2) RRが (→ ∩) のときa −→ Λ b −→ Λ

a ∪ b −→ ΛΩ −→ c Ω −→ d

Ω −→ c ∩ da ∪ b,Ωm −→ Λm, c ∩ d

(m)

(ただし,ΛmかΩmは空である.)

次の二つのケースに分けて変換される.

(II.4.2.1) Λmが空のとき

a ∪ b −→ Λ Ω −→ ca ∪ b,Ωm −→ c

(m) a ∪ b −→ Λ Ω −→ da ∪ b,Ωm −→ d

(m)

a ∪ b,Ωm −→ c ∩ d

二つのミックス (m) の階数は,オリジナルの階数より下がっている.

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5 束系統 35

(II.4.2.2) Ωmが空のとき

上の (II.4.2.1)と同様に処理できる.

(II.4 ) RRが (→ ∩) のとき

上の (II.4)と双対に処理できる.

以上で,すべてのケースが処理された.

したがって,LLについての基本定理は証明された.

LDLについての基本定理の証明は,ゲンツェン [1]の証明の一部 (⊃や¬を含まない命

題論理体系)としてなされていると考えられる. 2

Decidability Theorem

(1) LA は決定可能である.

(2) 自由代数系 A の語の問題は肯定的に解ける.

(証明) 証明は,ゲンツェン [1]と同様であるが,以下にその概要を述べる.

語 wの部分語 (subword)の集合 S(w) を帰納的に定義する.

文字 aiの部分語の集合は ai である.S(ai) = ai

w = a ∩ b のとき,S(a ∩ b) = a ∩ b ∪ S(a) ∪ S(b) (∪は集合の unionである)

w = a ∪ b のとき,S(a ∪ b) = a ∪ b ∪ S(a) ∪ S(b)

シーケントΓ −→ ∆の左辺Γに同じ語が 3語以上含まれていなくて (すなわち 2語以下

で),しかも右辺∆にも同じ語が 3語以上含まれていないとき,このシーケントを縮約シー

ケント (reduced sequent)という.縮約シーケントΓ −→ ∆が LA で証明可能であるなら

ば,縮約シーケントのみからなるΓ −→ ∆の証明が存在する.この証明は,証明図の長さ

に関する帰納法で証明される.

さて,任意のシーケントΓ −→ ∆が証明可能であるかどうかを判定しよう.まず,Γ −→ ∆

は縮約シーケントと考えて差し支えない.Γ −→ ∆が証明可能ならば,(cut)なしで証明可

能である.(cut)以外のどの推論規則も,上のシーケントに現れる語は,下のシーケントに

現れる語の部分語のみからなっている (部分語特性を持っている).したがって,Γ −→ ∆

の中に出てくるすべての語の部分語全体の集合は有限である.したがって,これら有限個

の語からなる縮約シーケントの個数は有限個しかない.これら有限個のシーケントを順次

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5 束系統 36

Γ −→ ∆の上にのせていって,証明図が完成するかどうかの判定は,有限回の手続きで完

了する.

LA と A とは (演繹的に)同値であったから,A の語の問題も肯定的に解ける. 2

5.4 補足

自由束の語の問題は,先にホイットマン [2]が代数的手法を用いて解決していた.論文

[ST1]はこの事実を知らないまま,シーケンシャル・メッソドによる別証を与えた.ここで

用いたシーケントは,両辺とも 1語だけからなる極めて特殊なもので,それだけ証明も簡

単であった.本章 5.2で考えたシステムは,松本 [10]において与えられたものである.

自由束や分配束の語の問題が肯定的に解決されている段階では,コンピュータによる機

械証明は,そのテーマの新しさの割に,さしたる困難は伴わない.しかし,論文 [ST3]と

[ST4]は,当時としては先駆的なものであった.

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6 直交束系統 37

6 直交束系統

6.1 擬補束 PLと直交束OL

束 L がさらに L6 と L7 を満たす (最小元 0 と最大元 1 をもつ) とき,その束を有界束

(bounded lattice) BLという.

L6 Sの各元 a に対し

(1) a ∩ 0 = 0 (2) a ∪ 0 = a

L7 Sの各元 a に対し

(1) a ∩ 1 = a (2) a ∪ 1 = 1

さらに,有界束が次の L8を満たす a の擬補元 (pseudo-complement) a∗をもつとき,擬

補束 (pseudo-complemented lattice) PLという.

L8 Sの各元 a に対し

a ∩ b = 0 ⇐⇒ b ≤ a∗

擬補束では,次の諸性質が成り立つ.

0∗ = 1, 1∗ = 0 a ∩ a∗ = 0

a ≤ a∗∗ a∗ = a∗∗∗

a ≤ b∗ ⇐⇒ b ≤ a∗ a ≤ b =⇒ b∗ ≤ a∗

(a ∪ b)∗ ≤ a∗ ∩ b∗ a∗ ∪ b∗ ≤ (a ∩ b)∗

擬補束 PLがさらに次の L9を満たすとき,直交束 (ortho-lattice) OLという.

L9 Sの各元 a に対し

a = a∗∗

直交束では,さらに

a ∪ a∗ = 1 a ≤ b⇐⇒ b∗ ≤ a∗

(a ∪ b)∗ = a∗ ∩ b∗ a∗ ∪ b∗ = (a ∩ b)∗

などが成り立つ.

6.2 シーケンシャル・システム LPLと LOL

擬補束 PL に対応するシーケンシャル・システム LPL は,LL での公理および (cut),

(e →), (→ e), (c →), (→ c), (w →), (→ w), (∩1 →), (∩2 →), (→ ∩), (→ ∪1), (→ ∪2),

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6 直交束系統 38

(∪ →) などの推論規則 (ここでも,LL の制限—(cut) ではΛかΩの一方は空,(→ ∩) や

(∪ →) ではΘは空—がついている)と同時に,次の擬補元∗に関する推論規則を追加する.

C) 演算に関する推論規則 (追加)

Γ −→ aa∗,Γ −→ (∗ →)

a,Θ −→ ΦΘ −→ Φ, a∗

(→ ∗)

a −→ bb∗ −→ a∗

(∗ → ∗)

a∗ −→ ∆(a ∪ b)∗ −→ ∆

(∪∗1 →) Γ −→ a∗

Γ −→ (a ∩ b)∗ (→ ∩∗1)

b∗ −→ ∆(a ∪ b)∗ −→ ∆

(∪∗2 →) Γ −→ b∗

Γ −→ (a ∩ b)∗ (→ ∩∗2)

Γ −→ a∗ Γ −→ b∗

a ∪ b,Γ −→ (∪ → ∗) Γ −→ a∗ Γ −→ b∗

Γ −→ (a ∪ b)∗ (→ ∪∗)

LPLでは (→ ∗) のΦは空でなくてはならない.ただし,後に述べる LOLではΘのほう

が空である.

擬補束 PL と LPL との同値性をいうだけなら,(∪∗1 →), (∪∗

2 →), (→ ∩∗1), (→ ∩∗

2),

(∪ → ∗), (→ ∪∗) の六つの推論規則は不要である.しかし,後の基本定理を成立させるた

めには,無駄とも思えるこれらの推論規則が必要となってくるのであって,この点が他の

研究者の考えなかった点である.

直交束 OLに対応するシーケンシャル・システム LOLでは,(∗ →) のΦが空という制

限がなくなるかわりに,Θが空という制限がつくほか,さらに次の四つの規則が追加され

る.つまり,LOLでは規則はすべて双対となっている.

a∗ −→ ∆ b∗ −→ ∆(a ∩ b)∗ −→ ∆

(∩∗ →) a∗ −→ ∆ b∗ −→ ∆−→ ∆, a ∩ b (∗ → ∩)

a −→ ∆a∗∗ −→ ∆

(∗∗ →) Γ −→ aΓ −→ a∗∗

(→ ∗∗)

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6 直交束系統 39

6.3 代数系とシーケンシャル・システムとの対応

代数系での 0 および 1 は,シーケンシャル・システムでは 0 = a1 ∩ a∗1 , 1 = 0∗として定

義される.

シーケントΓ −→ ∆の代数系への解釈φ(Γ) ≤ ψ(∆) については,束のときと同様である.

ただし,φ( ) = 1, ψ( ) = 0 である.

以下で,代数系 PL, OLのどちらかを A で表したとき,これに対応するシーケンシャ

ル・システムを LA で表すことにする.さらに,LA の推論規則のうち,(cut)だけを除い

たシステムを LA−で表す.

Correspondence Theorem

LA ` Γ −→ ∆ ⇐⇒ A |= φ(Γ) ≤ ψ(∆)

この定理の証明については,論文 [ST19], [ST20]を参照のこと.

ここに述べた両システムについては,次の基本定理が成立する.

Fundamental Theorem

LA ` Γ −→ ∆ ⇐⇒ LA− ` Γ −→ ∆

LOLについてのみ,この定理の証明をしておく.この定理の証明を,多くの数学者たち

(西村 [14]やカットランド・ギビンス [16]など)が試みてきたが,それに成功しなかった.論

文 [ST19], [ST20]において初めてそれに成功した.以下その証明の概要を,その後の西村

[20]の改良も考慮しながら,紹介することとする (LOLのシステムは改良された西村 [20]

よりオリジナルの [ST20]を採用した).そのためには,次の各レンマが重要である.

Γに対応する語φ(Γ)は,Γの語の順や結合の順序は無視して (同じとみなして)表現する.

ψ(∆) なども同様である.Γや∆が空のときはφ(Γ) やψ(∆) も空である.また,φ−1 , ψ−1

を次のように定義する.

aiが文字記号のとき,φ−1(ai) やψ−1(ai) は一つの文字 aiを表す.a と b が語のとき,

φ−1(a ∩ b) は語の列φ−1(a),φ−1(b) を表すし,ψ−1(a ∪ b) は語の列ψ−1(a),ψ−1(b) を表す.

φ−1(Γ,Σ) も語の列φ−1(Γ),φ−1(Σ) であるし,ψ−1(∆,Π) も語の列ψ−1(∆),ψ−1(Π) である.

つまり,φ−1(Γ) はΓの各語のうち,一番外の演算記号が∩の語 a ∩ b を a, b にすべて直し

た語の列である.ψ−1(∆) も∆の各語のうち,一番外の演算記号が ∪の語 a ∪ b を a, b に

全部直した語の列である.

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6 直交束系統 40

Lemma in LPL−

(1) LPL− ` Θ,Γ,Σ −→ ∆ ⇐⇒ LPL− ` Θ, φ(Γ),Σ −→ ∆

(2) LPL− ` Θ,Γ,Σ −→ ∆ ⇐⇒ LPL− ` Θ, φ−1(Γ),Σ −→ ∆

(3) LPL− ` Γ −→ Π,∆,Φ ⇐⇒ LPL− ` Γ −→ Π, ψ(∆),Φ

(4) LPL− ` Γ −→ Π,∆,Φ ⇐⇒ LPL− ` Γ −→ Π, ψ−1(∆),Φ

(5) LPL− ` a ∪ b,Γ −→ ∆ =⇒ LPL− ` a,Γ −→ ∆ and LPL− ` b,Γ −→ ∆

(6) LPL− ` Γ −→ ∆, a ∩ b =⇒ LPL− ` Γ −→ ∆, a and LPL− ` Γ −→ ∆, b

(7) LPL− ` Γ −→ a∗ ⇐⇒ LPL− ` a −→ φ(Γ)∗

(8) LPL− ` Γ −→ a∗ ⇐⇒ LPL− ` a,Γ −→

(証明) このレンマの証明については,[ST19], [ST20]を参照のこと.

これらは証明図の長さについての帰納法によって証明される.たとえば,(1), (2)につい

ては

LPL− ` Θ, a ∩ b,Σ −→ ∆ =⇒ LPL− ` Θ, a, b,Σ −→ ∆

を証明するのが最も本質的である.各推論規則の上のシーケントすべてについて,このレ

ンマが成立すると仮定すれば,下のシーケントについてもこのレンマが成立することから,

これは証明される.(3), (4)についても全く同様である.

(5)は

` Γ −→ ∆ =⇒ ` a,Γa∪b −→ ∆ and ` b,Γa∪b −→ ∆

を証明することによってなされる.ここで,Γa∪bは,Γの語の列中,a∪ b なる語だけをす

べて取り除いた語の列を表している.(6)も (5)と双対である.

(7)は,

LPL− ` Γ −→ (a∗)n =⇒ LPL− ` a −→ φ(Γ)∗

の形で証明される.ただし,(a∗)nは n 個の a∗の列を表している.(8) も (7) とほぼ同

様であるが,上のシーケントの左辺が 1 語からなる場合のみ少し考慮が必要であるので,

Γ −→ (a∗)nを導く規則が (∪ →) のときのみを取りあげておく.

c −→ (a∗)n d −→ (a∗)n

c ∪ d −→ (a∗)n

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6 直交束系統 41

上のシーケントに (7)を使って

a −→ c∗ a −→ d∗

c ∪ d, a −→ (∪ → ∗)

a, c ∪ d −→

2

Lemma in LOL−

上の (1)から (8)もLOL−で証明される.

(9) LOL− ` b∗ −→ ∆ ⇐⇒ LOL− ` ψ(∆)∗ −→ b

(10) LOL− ` b∗ −→ ∆ ⇐⇒ LOL− ` −→ ∆, b

(11) LOL− ` b∗ −→ a∗ ⇐⇒ LOL− ` a −→ b

(証明) このレンマの証明については,[ST20]を参照のこと.

LOL−における (1)–(6)の証明は容易である.(7)–(11)を証明するため,証明すべきレン

マの形を次のように一般化する.

(7′) ` Γ −→ ∆ (∆は (a∗)m ) =⇒ ∀Σ ⊃ φ−1(Γ) : ` a −→ φ(Σ)∗

(8′) ` Γ −→ ∆ (∆は (a∗)m ) =⇒ ∀Σ ⊃ φ−1(Γ) : ` a,Σ −→

(9′) ` Γ −→ ∆ (Γは (b∗)n ) =⇒ ∀Π ⊃ ψ−1(∆) : ` ψ(Π)∗ −→ b

(10′) ` Γ −→ ∆ (Γは (b∗)n ) =⇒ ∀Π ⊃ ψ−1(∆) : ` −→ Π, b

(11′) ` Γ −→ ∆ (∆は (a∗)m , Γは (b∗)n ) =⇒ ` a −→ b

ここで, ` の前にLOL−を略記してある.また,∀Σ ⊃ φ−1(Γ) でのφ−1(Γ) は,語の列

Γのうちミート∩を一番外にもつ語を二つの語に分解したもので,Σはそのような語の列を

含む勝手な語の列を意味している.∀Π ⊃ ψ−1(∆) についても同様である.

証明は,Γ −→ ∆に至る証明図の長さに関する帰納法によってなされる.

Γ −→ ∆が公理である場合,(7′)–(11′) はいえる.

Γ −→ ∆を下にもつすべての推論規則について,そのすぐ上のシーケントに対し (7′)–

(11′)が成り立っていると仮定し,下のシーケントΓ −→ ∆について,これらの性質がいえる

ことを証明する.我々が考えるべき本質的ケースは,双対の場合を除くと (→ w), (∩i →),

(∪ →), (→ ∪∗) と (∩∗ →) の 5つの場合である.

a) (→ w) のとき

(7′) (8′) のときΓ −→ (a∗)n−1

Γ −→ (a∗)n(→ w)

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6 直交束系統 42

n = 1 のとき

(7′) の証明Γ −→

φ−1(Γ) −→(2)

Σ −→φ(Σ) −→ (1)

−→ φ(Σ)∗(→ ∗)

a −→ φ(Σ)∗

(8′) の証明Γ −→

φ−1(Γ) −→(2)

Σ −→a,Σ −→

n > 1 のとき

(7′) の証明

帰納法の仮定より ` a −→ φ(Σ)∗

(8′) の証明

帰納法の仮定より ` a,Σ −→

(9′) (10′) (11′) については問題ない.

b) (∩i →) のとき

(7′) (8′) のときc,Θ −→ (a∗)m

c ∩ d,Θ −→ (a∗)m(∩1 →)

∀Σ ⊃ φ−1(c ∩ d,Θ) とするとΣ ⊃ φ−1(c,Θ) であるから,帰納法の仮定より

(7′) の証明

` a −→ (φ(Σ))∗

(8′) の証明

` a,Σ −→

(9′) (10′) (11′) のケースは生じない.

c) (∪ →) のとき

(7′) (8′) のときc −→ (a∗)m d −→ (a∗)m

c ∪ d −→ (a∗)m(∪ →)

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6 直交束系統 43

語 c∪ d を含む任意の語の列Σをとる.帰納法の仮定より ` a −→ c∗で ` a −→ d∗で

ある.

(7′) の証明a −→ c∗ a −→ d∗

a −→ (c ∪ d)∗ (→ ∪∗)

a −→ (φ(Σ))∗(→ ∩∗

i )

(8′) の証明a −→ c∗ a −→ d∗

c ∪ d, a −→ (∪ → ∗)

a,Σ −→

(9′) (10′) (11′) のケースは生じない.

d) (→ ∪∗) のとき

(7′) (8′) のときΓ −→ c∗ Γ −→ d∗

Γ −→ (c ∪ d)∗ (→ ∪∗)

φ−1(Γ) を含む任意の語の列をΣとする.帰納法の仮定より

` c −→ φ(Σ)∗ で ` d −→ φ(Σ)∗.

(7′) の証明c −→ φ(Σ)∗ d −→ φ(Σ)∗

c ∪ d −→ φ(Σ)∗(∪ →)

(8′) の証明Γ −→ c∗

φ−1(Γ) −→ c∗(2)

Σ −→ c∗

Γ −→ d∗

φ−1(Γ) −→ d∗(2)

Σ −→ d∗

c ∪ d,Σ −→ (∪ → ∗)

(9′) (10′) (11′) のとき

(b∗)n −→ c∗ (b∗)n −→ d∗

(b∗)n −→ (c ∪ d)∗ (→ ∪∗)

(c ∪ d)∗を含む任意の有限列をΠとする.帰納法の仮定より ` c −→ b , ` d −→ b.

(9′) の証明c −→ b d −→ b

c ∪ d −→ b(∪ →)

(c ∪ d)∗∗ −→ b(∗∗ →)

ψ(Π)∗ −→ b(∪∗

i →)

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6 直交束系統 44

(10′) の証明c −→ b d −→ b

c ∪ d −→ b(∪ →)

−→ b, (c ∪ d)∗ (→ ∗)

−→ Π, b

(11′) の証明c −→ b d −→ b

c ∪ d −→ b(∪ →)

e) (∩∗ →) のとき

これは d)の場合と双対である. 2

以上のレンマを利用して基本定理を証明する.ここでは LOLについてのみを取り扱う (証

明については,[ST20]を参照のこと).

Fundamental Theorem

LA ` Γ −→ ∆ ⇐⇒ LA− ` Γ −→ ∆

(証明) 定理の証明は,LOLについてのみ行う.証明は,ゲンツェン [1]の手法によるが,

語の次数を,次のように定義する.

文字 aiの次数 d(ai) は 1 である.a と b を任意の語としたとき

d(a∗) = d(a) + 1, d(a ∩ b) = d(a) + d(b) + 1, d(a ∪ b) = d(a) + d(b) + 1

このように,定義すると d(a∗) < d(a ∩ b), d(a∗) < d(a ∪ b) である.

証明は,次数と階数 (rank) ρとの二重帰納法により,証明図の上から見て最初に現れた

ミックスの規則を除去することによりなされる.このミックスの左のシーケントを導く規

則を LR,右のシーケントを導く規則を RRとする.

LOLの場合,LLのときと同様に推論規則に互いに双対なものがあるので,左上のシー

ケントについて証明したものは,双対な右上シーケントについても証明される.したがっ

て,一方についてのみ証明し,他方は省略する.

(I) ρ = 2 のケース

(I.1), (I.1 ), (I.2), (I.2 ) は LLのときと同様である.

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6 直交束系統 45

(I.3) m = a ∩ b のとき

RRは (∩i →) だけであるが,LRは (→ ∩) のほか (∗ → ∩) が追加される.

a∗ −→ ∆ b∗ −→ ∆−→ ∆, a ∩ b

a,Σ −→ Π

a ∩ b,Σ −→ Π∆,Σ −→ Π

(m)

(ここで,∆かΣは空である.)

これは次のように変換される.

a∗ −→ ∆

−→ ∆, a(10)

a,Σ −→ Π∆a,Σa −→ Π

(a)

∆,Σ −→ Π

このミックス (a) は∆かΣが空であるから成立する.しかも,ミックス (a) の

次数は,オリジナルのものより低いので,帰納法の仮定よりこのミックス (a)

は除去される.

(I.3 ) m = a ∪ b のとき

(I.3)と双対である.

(I.4) LRが (→ ∗) のとき

(I.4.1) RRが (∗ →) のとき

このとき,m = a∗である.

a,Γ −→Γ −→ a∗

−→ Π, aa∗ −→ Π

Γ −→ Π(m)

これは次のように変換される.

a∗ −→ Π

ψ(Π)∗ −→ a(9)

Γ −→ a∗

a −→ φ(Γ)∗(7)

ψ(Π)∗ −→ φ(Γ)∗(a)

φ(Γ) −→ ψ(Π)(11)

Γ −→ Π(1)(3)

このミックス (a) の次数は,オリジナルのものより下がっている.

(I.4.2) RRが (∗ → ∗) のとき

a,Γ −→Γ −→ a∗

b −→ aa∗ −→ b∗

Γ −→ b∗(m)

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6 直交束系統 46

これは次のように変換される.b −→ a a,Γ −→

b,Γa −→(a)

b,Γ −→Γ −→ b∗

このミックス (a) の次数は,オリジナルのものより下がっている.

(I.4.3) RRが (∪∗i →) のとき

このとき,m = (a ∪ b)∗である.a ∪ b,Γ −→Γ −→ (a ∪ b)∗

a∗ −→ Π(a ∪ b)∗ −→ Π

Γ −→ Π(m)

これは次のように変換される.a ∪ b,Γ −→a,Γ −→ (5)

Γ −→ a∗ a∗ −→ ΠΓ −→ Π

(a)

このミックス (a∗) の次数は,オリジナルのミックスより下がっている.

(I.4.4) RRが (∩∗ →) のとき

このとき,m = (a ∩ b)∗.a ∩ b,Γ −→Γ −→ (a ∩ b)∗

a∗ −→ Π b∗ −→ Π(a ∩ b)∗ −→ Π

Γ −→ Π(m)

これは次のように変換される.a∗ −→ Π

ψ(Π)∗ −→ a(9)

b∗ −→ Π

ψ(Π)∗ −→ b(9)

ψ(Π)∗ −→ a ∩ bΓ −→ (a ∩ b)∗

a ∩ b −→ φ(Γ)∗(7)

ψ(Π)∗ −→ φ(Γ)∗(a ∩ b)

φ(Γ) −→ ψ(Π)(11)

Γ −→ Π(1)(3)

このミックス (a ∩ b) の次数はオリジナルより低い.

(I.4.5) RRが (∗∗ →) のとき

このとき,m = a∗∗.a∗,Γ −→Γ −→ a∗∗

a −→ Πa∗∗ −→ Π

Γ −→ Π(m)

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6 直交束系統 47

これは次のように変換される.

a∗∗ −→ Π

ψ(Π)∗ −→ a∗(9)

Γ −→ a∗∗

a∗ −→ φ(Γ)∗(7)

ψ(Π)∗ −→ φ(Γ)∗(a∗)

φ(Γ) −→ ψ(Π)(11)

Γ −→ Π(1)(3)

このミックス (a∗) の次数は,オリジナルのものより低い.

(I.4 ) RRが (∗ →) のとき

ほぼ (I.4)と双対であるが,(I.4 .3) (m = (a∩ b)∗のとき)などに若干の違いが

ある.Γ −→ a∗

Γ −→ (a ∩ b)∗−→ Π, a ∩ b(a ∩ b)∗ −→ Π

Γ −→ Π(m)

これは次のように変換される.

(a ∩ b)∗ −→ Π

ψ(Π)∗ −→ a ∩ b (9)

Γ −→ a∗

a −→ φ(Γ)∗(7)

a ∩ b −→ φ(Γ)∗

ψ(Π)∗ −→ φ(Γ)∗(a ∩ b)

φ(Γ) −→ ψ(Π)(11)

Γ −→ Π(1)(3)

このミックス (a ∩ b) の次数は,オリジナルのものより下がっている.

(I.5) LRが (∗ → ∗) のとき

(I.5.1) RRが (∗ → ∗) のとき

困難なく処理できる.

(I.5.2) RRが (∪∗i →) のとき

このとき,m = (a ∪ b)∗である.

a ∪ b −→ cc∗ −→ (a ∪ b)∗

a∗ −→ Π(a ∪ b)∗ −→ Π

c∗ −→ Π(m)

これは次のように変換される.

a ∪ b −→ ca −→ c (5)

c∗ −→ a∗ a∗ −→ Πc∗ −→ Π

(a∗)

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6 直交束系統 48

このミックス (a∗) の次数は下がっている.

(I.5.3) RRが (∩∗ →) のとき

このとき,m = (a ∩ b)∗である.

a ∩ b −→ cc∗ −→ (a ∩ b)∗

a∗ −→ Π b∗ −→ Π(a ∩ b)∗ −→ Π

c∗ −→ Π(m)

これは次のように変換される.

a∗ −→ Π b∗ −→ Π−→ Π, a ∩ b a ∩ b −→ c

−→ Πa∩b, c(a ∩ b)

−→ Π, cc∗ −→ Π

ここのミックス (a ∩ b) の次数は,オリジナルのものより下がっている.

(I.5.4) RRが (∗∗ →) のとき

このとき,m = a∗∗である.

a∗ −→ bb∗ −→ a∗∗

a −→ Πa∗∗ −→ Π

b∗ −→ Π(m)

これは次のように変換される.

a∗ −→ b

b∗ −→ a(9)

a −→ Πb∗ −→ Π

(a)

このミックス (a) の次数は下がっている.

(I.5 ) RRが (∗ → ∗) のとき

(I.5)と双対である.

(I.6) LRが (→ ∩∗i ) で,RRが (∩∗ →) のとき

このとき,m = (a ∩ b)∗で,簡単に処理される.

(I.6 ) LRが (→ ∪∗) で,RRが (∪∗i →) のとき

(I.6)と双対である.

(I.7) LRが (→ ∗∗) で,RRが (∗∗ →) のとき

このとき,m = a∗∗で,簡単に処理される.

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6 直交束系統 49

(II) ρ > 2 のケース

LRかRRが構造上の推論規則であるか,LRおよびRRがともに LLでの演算

に関する推論規則である場合には,LLのときと同じである.したがって,LR

か RRの少なくとも一方が LLの推論規則以外のときだけを考える.しかも,

推論規則には互いに双対のものがあるので,以降主として LRについてのみ考

察する.

(II.1) ミックス語 m が,LRの主要語でないとき

(II.1.1) LRが (→ ∪i) か (∩i →) のとき

これは LLのときと同様に取り扱える

(II.1.2) LRが (→ ∗) か (∗ → ∩) のとき

x −→ ∆ (y −→ ∆)

−→ ∆, zLR

Ω −→ Π−→ ∆m, z,Π

(m)

このとき,m 6= zであるから,m は∆に含まれている.

これは次のように変換される.

x −→ ∆ Ω −→ Πx −→ ∆m,Π

(m)(y −→ ∆ Ω −→ Π

y −→ ∆m,Π(m)

)−→ ∆m,Π, z

LR

−→ ∆m, z,Π

この二つのミックス (m) は,ともにオリジナルなミックスより階数が下がっ

ている.

(II.1.3) LRが (∪ →), (∗∗ →), (∪∗i →), (∩∗ →) のうちのどれかのとき

x −→ Λ (y −→ Λ)

z −→ ΛLR

Σ1 −→ Π1 (Σ2 −→ Π2)

Ω −→ ΠRR

z,Ωm −→ Λm,Π(m)

(このとき∆mかΩmは空である.しかも,Σ1 , Σ2には m が含まれている.)

(II.1.3.1) Ωmが空のとき

このときは,次のように変換される.

x −→ Λ,Ω −→ Πx −→ Λm,Π

(m)(y −→ Λ Ω −→ Π

y −→ Λm,Π(m)

)z −→ Λm,Π

LR

この二つのミックス (m)の階数はともに,オリジナルなものより下がっている.

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6 直交束系統 50

(II.1.3.2) Λmが空で,m が RRの主要語でないとき

z −→ Λ Σ1 −→ Π1

z, (Σ1)m −→ Π1(m)

(Σ1)m, z −→ Π1

z −→ Λ Σ2 −→ Π2

z, (Σ2)m −→ Π2(m)

(Σ2)m, z −→ Π2

Ωm, z −→ Π

RR

z,Ωm −→ Π

たとえば,RRが (∩1 →) などの場合,Σ1が a,Σで,m が a に一致すること

もあるため,(Σ1)mでは aが消去されている.そのようなときは,(w →)によ

り適当に a を復活させればよい.これら二つのミックス (m) の階数は下がっ

ている.

(II.1.3.3) Λmが空で,m が RR (∩i →) の主要語のとき

このとき m = a∩bである.このときの (mix)は次の形をしている (m = a∩b).

z −→ Λ

a,Σ −→ Π

a ∩ b,Σ −→ Πz,Σm −→ Π

(m)

これは次のように変換される.

z −→ Λz −→ a (6)

(z −→ Λ a,Σ −→ Π)

z, a,Σm −→ Π(m)

z, (z,Σm)a −→ Π(a)

z,Σm −→ Π

ここのミックス (m) は,m がΣに含まれていないときは不要である.しかし,

このミックス (m) の階数はオリジナルより下がっているし,下のミックス (a)

の次数も下がっている.

(II.1.3.4) Λmが空で,m が RR (∗ →) の主要語のとき

このときの (mix)は次の形をしている (m = a∗ ).

z −→ ΛΣ −→ aa∗,Σ −→

z,Σm −→ (m)

これは次のように変換される.

(z −→ Λ Σ −→ a)

z,Σm −→ a(m) z −→ Λ

a, z −→ (8)

z,Σm, za −→(a)

z,Σm −→

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6 直交束系統 51

このミックス (m) は,m がΣに含まれていなければ不要である.しかし,こ

のミックス (m) の階数はオリジナルより下がっているし,ミックス (a) の次

数も下がっている.

(II.1.3.5) Λmが空で,m が RR (∪ → ∗) の主要語のとき

このときの (mix)は次の形をしている (m = a ∪ b).

z −→ ΛΣ −→ a∗ Σ −→ b∗

a ∪ b,Σ −→z,Σm −→ (m)

これは次のように変換される.

z −→ Λ

z −→ a, b(4)

(z −→ Λ Σ −→ a∗)

z,Σm −→ a∗(m)

a −→ φ(z,Σm)∗ (7)

z −→ ba, φ(z,Σm)∗ (a)

z −→ b, φ(z,Σm)∗

(z −→ Λ Σ −→ b∗)

z,Σm −→ b∗(m)

b −→ φ(z,Σm)∗ (7)

z −→ (φ(z,Σm)∗)b, φ(z,Σm)

∗ (b)

z −→ φ(z,Σm)∗

z,Σm −→ z∗(7)

z, z,Σm −→ (8)

z,Σm −→

二つのミックス (m) は,m がΣに含まれていないときは不要である.しかし,

このミックス (m) の階数はオリジナルのものより下がっているので,除去さ

れる.また,ミックス (a) およびミックス (b) の次数も下がっているので除去

される.

(II.1.3.6) Λmが空で,RRが (∪ →), (∗∗ →), (∪∗i →), (∩∗ →) のとき

x −→ Λ (y −→ Λ)

z −→ ΛLR

u −→ Π (v −→ Π)

m −→ ΠRR

z −→ Π(m)

これは次のように変換される.

x −→ Λ m −→ Πx −→ Π

(m)(y −→ Λ m −→ Π

y −→ Π(m)

)z −→ Π

LR

ここの二つのミックス (m) の階数は,オリジナルのものより下がっている.

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6 直交束系統 52

(II.1 ) ミックス語 m が RRの主要語でないとき

(II.1)と双対である.

(II.2) ミックス語 m が LR, RRの両方の主要語のとき

(II.2.1) m = a ∩ b のとき

LRが (→ ∩)のときはLLと同じであるから,(∗ → ∩)のときのみを取り扱う.

a∗ −→ ∆ b∗ −→ ∆−→ ∆, a ∩ b (∗ → ∩) a,Σ −→ Π

a ∩ b,Σ −→ ΠΣm −→ ∆m,Π

(m)

(このとき,∆mかΣmは空である.)

これは二つのケースに分けて次のように変換される.

(II.2.1.1) ∆mが空のとき

−→ ∆, a ∩ b−→ a (6)

(−→ ∆, a ∩ b a,Σ −→ Π)

a,Σm −→ Π(m)

(Σm)a −→ Π(a)

Σm −→ Π

上のミックス (m) はオリジナルのものより階数が下がっているし,下のミッ

クス (a) の次数はオリジナルのものより下がっている.ただし,Σに m が含

まれていなければ,上のミックス (m) は不要である.

(II.2.1.2) Σmが空のとき

a∗ −→ ∆ a ∩ b,Σ −→ Πa∗ −→ ∆m,Π

(m)

−→ ∆m,Π, a(10)

(−→ ∆, a ∩ b a,Σ −→ Π)

a −→ ∆m,Π(m)

−→ (∆m,Π)a,∆m,Π(a)

−→ ∆m,Π

上のミックス (m) はオリジナルのものより階数が下がっているし,下のミッ

クス (a) の次数はオリジナルのものより下がっている.ただし,Σに m が含

まれていなければ,右上のミックス (m) は不要である.

(II.2.1 ) m = a ∪ b のとき

(II.2.1)と双対である.

(II.2.2) LRが (→ ∗) のとき

(II.2.2.1) RRが (∗ →) のとき

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6 直交束系統 53

このとき,m = a∗である.

a −→ ∆−→ ∆, a∗

Σ −→ aa∗,Σ −→

Σm −→ ∆m(m)

(このとき,∆mかΣmは空である.)

これは次のように変換される.

(−→ ∆, a∗ Σ −→ a)

Σm −→ ∆m, a(m)

(a −→ ∆ a∗,Σ −→)

a,Σm −→ ∆m(m)

Σm, (Σm)a −→ (∆m)a,∆m(a)

Σm −→ ∆m

m が∆に含まれていなければ,右上のミックス (m) は不要であるし,m がΣ

に含まれていないときには,左上のミックス (m)は不要である.これら二つの

ミックス (m) の階数はオリジナルのものより低い.下のミックス (a) は,Σm

か∆mが空であるから成立するし,このミックスの次数はオリジナルのものよ

り低い.

(II.2.2.2) RRが (∗ → ∗) のとき

このとき,m = a∗である.

a −→ ∆−→ ∆, a∗

b −→ aa∗ −→ b∗

−→ ∆m, b∗ (m)

これは次のように変換される.

b −→ a

(a −→ ∆ a∗ −→ b∗)

a −→ ∆m, b∗ (m)

b −→ ∆m, b∗ (a)

−→ ∆m, b∗, b∗

−→ ∆m, b∗

∆に m が含まれていなければ,上のミックス (m) は不要である.このミック

ス (m) の階数はオリジナルのものより低いし,下のミックス (a) の次数はオ

リジナルの次数より下がっている.

(II.2.2.3) RRが (∪∗i →) のとき

このとき,m = (a ∪ b)∗である.

a ∪ b −→ ∆−→ ∆, (a ∪ b)∗

a∗ −→ Π(a ∪ b)∗ −→ Π

−→ ∆m,Π(m)

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6 直交束系統 54

これは次のように変換される.

a∗ −→ Π

−→ Π, a(10)

−→ Π, a ∪ ba ∪ b −→ ∆ (a ∪ b)∗ −→ Π

a ∪ b −→ ∆m,Π(m)

−→ Πa∪b,∆m,Π(a ∪ b)

−→ ∆m,Π

上のミックス (m) の階数はオリジナルのものより下がっているし,下のミッ

クス (a ∪ b) の次数はオリジナルのものより低い.

(II.2.2.4) RRが (∩∗ →) のとき

このとき,m = (a ∩ b)∗である.

a ∩ b −→ ∆−→ ∆, (a ∩ b)∗

a∗ −→ Π b∗ −→ Π(a ∩ b)∗ −→ Π

−→ ∆m,Π(m)

これは次のように変換される.

a∗ −→ Π b∗ −→ Π−→ Π, a ∩ b

a ∩ b −→ ∆ (a ∩ b)∗ −→ Π

a ∩ b −→ ∆m,Π(m)

−→ Πa∩b,∆m,Π(a ∩ b)

−→ ∆m,Π

上のミックス (m)の階数は,オリジナルの階数より低いし,下のミックス (a∩b)

の次数は,オリジナルの次数より下がっている.

(II.2.2.5) RRが (∗∗ →) のとき

このとき,m = a∗∗である.

a∗ −→ ∆−→ ∆, a∗∗

a −→ Πa∗∗ −→ Π

−→ ∆m,Π(m)

これは次のように変換される.

a −→ Π−→ Π, a∗

a∗ −→ ∆ a∗∗ −→ Πa∗ −→ ∆m,Π

(m)

−→ Πa∗ ,∆m,Π(a∗)

−→ ∆m,Π

上のミックス (m)の階数は,オリジナルの階数より低いし,下のミックス (a∗)

の次数は,オリジナルの次数より下がっている. 2

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6 直交束系統 55

Decidability Theorem

(1) LA は決定可能である.

(2) A の語の問題は肯定的に解ける.

(証明) この定理の証明は LLでの証明のときのように,縮約シーケントを定義し,さら

に語の部分語を拡張して,凖部分語 (quasi-subword)なるものを考える.語 wの凖部分語

Q(w) は次のように定義される.

w = aiのとき,Q(w) = w

w = a∗のとき,Q(w) = w ∪Q(a) (∪は集合のユニオン (結び)である)

w = a ∩ b のとき,Q(w) = w ∪Q(a∗) ∪Q(b∗)

w = a ∪ b のとき,Q(w) = w ∪Q(a∗) ∪Q(b∗)

語の列Γに含まれる各語の凖部分語全体の集合を Q(Γ) とする.

すると,(cut) を除いたシステム LA−における推論規則は凖部分語特性をもっている.

すなわち,各推論規則の上のシーケントに現れる語は,いずれも下のシーケントに現れる

語の凖部分語である.しかも,縮約シーケントΓ −→ ∆の証明図に現れるシーケントはい

ずれも縮約シーケントであり,それらの各語は有限集合 Q(Γ,∆) に含まれる語だけからな

る.したがって,Γ −→ ∆の証明図中に現れる可能性のあるシーケントは有限個しか考え

られないため,Γ −→ ∆が証明可能であるかどうかのチェックは有限回で完了する.

LA と A とは同値であったので,A の語の問題も肯定的に解ける. 2

6.4 補足

擬補束や直交束が,さらに分配律を満たす場合も考えられる.しかし,擬補分配束はハ

イティング束 (直観主義論理)であり,直交分配束はブール束 (古典論理)である.擬補束や

直交束に,相対補元 (含意)を定義した束も考えられるが,ここでは扱わなかった.

補元 (否定)a∗について,ドゥ・モルガン律 (a∗ ∩ b∗ = (a ∪ b)∗ , a∗ ∪ b∗ = (a ∩ b)∗ ),対

偶律 (a ≤ b ⇐⇒ b∗ ≤ a∗ ),二重否定律 (a = a∗∗ ),クリーネ律 (a ∩ a∗ ≤ b ∪ b∗ ),矛盾律

(a∩ a∗ = 0),排中律 (a∪ a∗ = 1)などが成立するかどうかによって,さまざまな代数系が

考えられる.それらについての考察は今後に残されているが,ドゥ・モルガン束,クリー

ネ束 (ファジー束),ストーン束などは既に多くの研究者によって取り上げられている.

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7 束半群系統 56

7 束半群系統

7.1 束半群 LS等

束半群 (lo-半群,lattice-ordered semigroup)または乗法束 (m-lattice, multiplicative lat-

tice) LSとは, 束上で定義された順序 (a ∩ b = a を a ≤ b と定義)に従って po-半群をな

しており,次の P10が成り立つ代数系をいう.

P10 Sの各元 a , b , c に対し

(a ∪ b)× c = (a× c) ∪ (b× c) かつ a× (b ∪ c) = (a× b) ∪ (a× c)

さらに,po-半群が poモノイド,整 poモノイド,凖整 po半群などのとき,束半群はそれ

ぞれ loモノイド LM,整 loモノイド ILM,凖整 lo半群 QLMと名づける.これらの束

半群が,左右の除法をもつとき,除法 lo半群 RLS,除法 loモノイド RLM,除法整 lo

モノイド RILM,除法凖整 lo半群 RQLSという.

ただし,RLSでは,P10は他の公理から証明される.

a ≤ a ∪ b より a × c ≤ (a ∪ b) × c.同様にして,b × c ≤ (a ∪ b) × c であるから,

(a× c) ∪ (b× c) ≤ (a ∪ b)× c.

他方,a× c ≤ (a× c) ∪ (b× c) より a ≤ ((a× c) ∪ (b× c))/c.

同様にして,b ≤ ((a× c) ∪ (b× c))/c であるから,a ∪ b ≤ ((a× c) ∪ (b× c))/c.

したがって,(a ∪ b)× c ≤ (a× c) ∪ (b× c).

(P10の証明終り)

束半群などの実例として,環 R上のイデアル全体が作るシステムを取りあげる.環 Rの

部分集合 A が次の条件を満たすとき,A を (両側)イデアルという.A 元 a, b と R元 rに

対し,a± b ∈ A , ra ∈ A , ar ∈ A.さらに,A , B , X , Y が Rのイデアルのとき

A ∩B = x | x ∈ A かつ x ∈ B はイデアルである

A ∪B = x+ y | x ∈ A かつ y ∈ B もイデアルである

このとき,イデアル全体は集合の包含関係⊆に関して束になっている.

A× Bは x× y | x ∈ A かつ y ∈ B を含む最小のイデアルとして定義すると,イデア

ルの全体は束半群となっている.

さらに,除法を次のように定義すると,イデアル全体は除法束半群である.

A/Bは,X ×B ⊆ A をみたす Xのうち最大のイデアルである.

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7 束半群系統 57

B\A は,B × Y ⊆ A をみたす Y のうち最大のイデアルである.

7.2 シーケンシャル・システム LLS等

a , b , c , d は任意の語であり,Γ, Θ, Σ, Φ等は任意の語の (空の列を含めた)有限列で

ある.

A) 公理

(1) a −→ a

(2) a −→ 1

B) 構造上の推論規則

Γ −→ c Φ, c,Σ −→ d

Φ,Γ,Σ −→ d(cut)

Θ,Γ −→ d

Θ, a,Γ −→ d(w →)

C) 演算に関する推論規則

Θ, a,Γ −→ d Θ, b,Γ −→ d

Θ, a ∪ b,Γ −→ d(∪ →) Γ −→ a Γ −→ b

Γ −→ a ∩ b (→ ∩)

Θ, a,Γ −→ d

Θ, a ∩ b,Γ −→ d(∩1 →) Γ −→ a

Γ −→ a ∪ b (→ ∪1)

Θ, b,Γ −→ d

Θ, a ∩ b,Γ −→ d(∩2 →) Γ −→ b

Γ −→ a ∪ b (→ ∪2)

Θ, a, b,Γ −→ d

Θ, a× b,Γ −→ d(× →) Γ −→ a Σ −→ b

Γ,Σ −→ a× b(→ ×)

Γ −→ b Φ, a,Σ −→ d

Φ,Γ, b\a,Σ −→ d(\ →)

b,Γ −→ a

Γ −→ b\a (→ \)

Γ −→ b Φ, a,Σ −→ d

Φ, a/b,Γ,Σ −→ d(/→)

Γ, b −→ a

Γ −→ a/b(→ /)

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7 束半群系統 58

D) 定数に関する推論規則

Γ −→ aΓ −→ a× 1

(→ 11)Γ −→ a

Γ −→ 1× a(→ 12)

Θ,Γ −→ d

Θ, 1,Γ −→ d(1 →)

lo 半群 PS に対応するシーケンシャル・システムは LLS で,公理は (1) だけで,推論

規則は (cut), (∪ →), (→ ∩), (∩i →), (→ ∪i), (× →), (→ ×) からなる.lo モノイド

LMに対応するシーケンシャル・システム LLMは,LLSに定数に関する推論規則 (→ 1i),

(1 →) をつけ加えたものであり,整 loモノイド ILMに対応するシーケンシャル・システ

ム LILMは さらに公理 (2)をつけ加えてえられる.一方,凖整 lo半群 QLSに対応する

シーケンシャル・システム LQLMは,LLSに (w →) をつけ加えたものである.

これらに除法の公理をつけ加えた代数系RLS, RLM, RILM, RQLSに対応するシーケ

ンシャル・システムは,それぞれ LRLS, LRLM, LRILM, LRQLSと呼ばれ,これまで

のそれぞれのシーケンシャル・システムに (\ →), (→ \), (/ →), (→ /) の四つの推論規

則をつけ加えたものである.

7.3 代数系とシーケンシャル・システムとの対応

シーケントΓ −→ d での左辺における語の有限列Γに対応する一つの語φ(Γ) を次のよう

に定義する.

• Γが 1語 a からなるとき,φ(a) = a.

• Γが 2語以上の有限列 a,Πのとき,φ(a,Π) = a× φ(Π).

LLSではφ(Σ,Π) = φ(Σ)× φ(Π) が証明される.

さらに,シーケントΓ −→ d に,代数系の不等式φ(Γ) ≤ d が対応させられる.

以下で,LS, LM, ILM, QLS, RLS, RLM, RILM, RQLSのうちの一つを A と表す

とき,これに対応するシーケンシャル・システムは LA で表される.さらに,LA の推論

規則のうち,(cut)の規則だけを除いたシステムを今後 LA−で表すことにする.

Correspondence Theorem

LA ` Γ −→ d ⇐⇒ A |= φ(Γ) ≤ d

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7 束半群系統 59

この定理の証明については,論文 [ST14], [ST18]を参照のこと.

これらのシーケンシャル・システムのすべてに対して,次の基本定理が成立する.

Fundamental Theorem

LA ` Γ −→ d ⇐⇒ LA− ` Γ −→ d

この定理の証明については,論文 [ST14], [ST18]を参照のこと.

Decidability Theorem

(1) LA は決定可能である.

(2) 自由代数系 A の語の問題は肯定的に解ける.

この定理の証明については,論文 [ST14], [ST18]を参照のこと.

7.4 補足

束半群は (非可換)環のイデアル論を背景にもっており,今から 20年前に著者によって

シーケンシャル・システムとして定式化された.ここでのシーケントは右辺が 1語からな

る直観論理系列のものであった.それを右辺にも語の列を許した古典論理系列のものとし

て扱うことも可能であろう.また,補元 (complement)を扱わなかったが,最小元でもある

0 元を導入して,0\a や a/0 を a の補元と考えることもできる.最近 (1980 年代後半以

降),コンピュータ科学との関連の中で,線形論理 [17][19]が注目を集めている.特に,コ

ントラクションのない論理体系 (小野・古森 [15])などは,線形論理の魁と考えられている

が,[ST14]はその十年以上前に提出されたものである.しかも,そのシステムは小野・古

森 [15]のものと全く同一 (むしろ,それを一部として含むもの)である.そういう意味では

論文 [ST14], [ST18]らは,線形論理の最も先駆的業績と見ることもできよう.

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8 論理系統 60

8 論理系統

命題論理中の主役といえば,推論であるから,論理と名のつく限り,「ならば」つまり

含意 (implication)を取り扱わざるをえない.ところが,古典論理の立場では,前提と結論

の間に (因果)関係がない場合であっても,形式的に取り扱われるため,「1 + 2 が 3 なら

ば,雪は白い」などの命題も正しい命題に含まれてしまう.いわゆる「含意のパラドック

ス」なるものが発生する.それを避けようとして,チャーチ [3]の「弱含意」や,アンダー

ソンやベルナップら [8] によるリリバント・ロジックなどが考えられるようになった.こ

のリリバント・ロジックは,現在の線形論理との結びつきが注目されているところである.

私も今から二十数年前,[ST5], [ST6], [ST7]などにおいて,弱含意やリリバント・ロジック

の含意フラグメントについても考察したことがある.

8.1 さまざまな含意体系

ヒルベルト・スタイルの含意体系WI, RMI, STなどを取り扱う.これらの体系の一つ

を A で表す.

a と b が語 (論理式,フォーミュラ)のとき,a∗や a ⊃ b も語である.a が証明できるこ

とを A ` a と表すことにする.時として,A を略して,単に ` a と表すこともある.

8.1.1 WI

これはチャーチ [3]で取り上げられた弱含意 (weak implication)の体系で,アンダーソン・

ベルナップ [8]およびメイヤー・ダン [13]によってリリバント含意 (relevant implication)と

しても取り扱われている.

a , b , c は任意の語である.

公理

W1 WI ` a ⊃ a .

W2 WI ` (a ⊃ b) ⊃ ((b ⊃ c) ⊃ (a ⊃ c)).

W3 WI ` (a ⊃ (b ⊃ c)) ⊃ (b ⊃ (a ⊃ c)).

W4 WI ` (a ⊃ (a ⊃ b)) ⊃ (a ⊃ b).

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8 論理系統 61

推論規則

MP (WI ` a かつWI ` a ⊃ b)ならばWI ` b.

8.1.2 RMI

上のリリバント含意に,大西・松本 [9]によるミングル (mingle)なる公理を入れた Rミ

ングルといわれる体系で,メイヤー・ダン [13]によって取り上げられた.ここでの公理系

は [ST7]のものを採用している.

a , b , c は任意の語である.

公理

R1 RMI ` (a ⊃ b) ⊃ ((b ⊃ c) ⊃ (a ⊃ c)).

R2 RMI ` (a ⊃ (b ⊃ c)) ⊃ (b ⊃ (a ⊃ c)).

R3 RMI ` (a ⊃ (a ⊃ b)) ⊃ (a ⊃ b).

R4 RMI ` a ⊃ (a ⊃ a).

推論規則

MP (RMI ` a かつ RMI ` a ⊃ b)ならば RMI ` b.

8.1.3 ST

ソボチンスキー [4]で取り上げられた三値論理体系で,含意以外に否定も含んでいる.こ

こでも,大西・松本 [9]によるミングルが重要な役割を果たしている.

a , b , c は任意の語である.

公理

S1 ST ` (a ⊃ b) ⊃ ((b ⊃ c) ⊃ (a ⊃ c)).

S2 ST ` a ⊃ ((a ⊃ b) ⊃ b).

S3 ST ` (a ⊃ (a ⊃ b)) ⊃ (a ⊃ b).

S4 ST ` a ⊃ (b ⊃ (¬b ⊃ a)).

S5 ST ` (¬a ⊃ ¬b) ⊃ (b ⊃ a).

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8 論理系統 62

推論規則

MP (ST ` a かつ ST ` a ⊃ b)ならば ST ` b.

8.2 シーケンシャル・システム

8.2.1 LWI

a , b , c , d は任意の語で,Γ, Σは任意の語の列である.

A) 公理

a −→ a

B) 構造上の推論規則

Γ −→ c c,Σ −→ d

Γ,Σ −→ d(cut)

Θ, a, b,Γ −→ d

Θ, b, a,Γ −→ d(e →)

a, a,Γ −→ d

a,Γ −→ d(c →)

C) 演算に関する推論規則

Γ −→ a b,Γ −→ d

a ⊃ b,Γ −→ d(⊃→)

a,Γ −→ b

Γ −→ a ⊃ b(→⊃)

8.2.2 LRMI

上の LWIのシステムに,次のミングル (mingle)の規則をつけ加えたものである.

Γ −→ d Σ −→ dΓ,Σ −→ d

(mingle)

8.2.3 LST

a , b , c , d は任意の語で,Γ, ∆, Σ, Π, Θ, Φは任意の語の列である.

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8 論理系統 63

A) 公理

a −→ a

B) 構造上の推論規則

Γ −→ ∆, c c,Σ −→ ΠΓ,Σ −→ ∆,Π

(cut) Γ −→ ∆ Σ −→ ΠΓ,Σ −→ ∆,Π

(mingle)

Θ, a, b,Γ −→ ∆

Θ, b, a,Γ −→ ∆(e →)

Γ −→ ∆, a, b,Φ

Γ −→ ∆, b, a,Φ(→ e)

a, a,Γ −→ ∆a,Γ −→ ∆

(c →)Γ −→ ∆, a, aΓ −→ ∆, a

(→ c)

C) 演算に関する推論規則

Γ −→ ∆, a b,Σ −→ Π

a ⊃ b,Γ,Σ −→ ∆,Π(⊃→)

a,Γ −→ ∆, b

Γ −→ ∆, a ⊃ b(→⊃)

Γ −→ ∆, aa∗,Γ −→ ∆

(∗ →)a,Γ −→ ∆Γ −→ ∆, a∗

(→ ∗)

8.3 ヒルベルト・スタイルとシーケンシャル・システムとの対応

ヒルベルト・スタイルの体系 Aに対応するシーケンシャル・システムを LAで表し,LA

から (cut)だけを除いたシステムを LA−で表すこととする.

Γが語の列 am, . . . , a1のとき,シーケントΓ −→ c には,Γm(c) なる語を対応させる.

Γm(c) は次のように定義される.

Γ0(c) = c

Γm(c) = Γm−1(am ⊃ c).

特に,左辺が空なるシーケント−→ d にはΓ0(d) = d が対応している.Γm(d) をΓ(d) と

略記することがある.

ソボチンスキーのシステム LSTを扱うときは,右辺も 1語とは限らないので,∆が語

の列 b1, b2, . . . , bnのとき,

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8 論理系統 64

∆0(d) = d

∆n(d) = ∆n−1(b∗n ⊃ d)

と定義したとき,Γ −→ d,∆には,Γm(∆n(d)) なる語を対応させる.これをΓ(∆(d)) と略

記することがある.

特に,右辺が空なるシーケント a,Γ −→には,Γm(a∗) なる語が対応している.一般に

Γ −→ ∆に対応する語をΓ(∆) と略記することがある.

Correspondence Theorem

(1) A がWIまたはRMIのとき

LA ` Γ −→ d ⇐⇒ A |= Γ(d)

(2) LST ` Γ −→ ∆ ⇐⇒ ST |= Γ(∆)

WIでの証明は [ST5]でなされているし,RMIでの証明は [ST6]においてなされている.

また,STでの証明は [ST10]においてなされている.

Fundamental Theorem

(1) A がWIまたはRMIのとき

LA ` Γ −→ d ⇐⇒ LA− ` Γ −→ d

(2) LST ` Γ −→ ∆ ⇐⇒ LST− ` Γ −→ ∆

いずれの証明も,ゲンツェン [1]の手法によるが,ゲンツェンの (mix)の代わりに,大

西・松本 [9]によって導入されたフュージョン (fusion)なる規則を取り扱う.

Γ −→ f Σn −→ d

Γ,Σn′ −→ d(f)

ここで,n > n′ ≥ 0 でなくてはならない.fがフュージョン語で,Σnは語の列Σの中に f

が n 個含まれていることを示しており,Σn′はΣの中の n− n′個の fを除去したことを示

している.この規則 (fusion)は (cut)と同値であり,ゲンツェン [1]による (mix)の拡張と

なっている.

以降の証明は,ゲンツェン [1] に従ってフュージョン (f) の次数と,階数ρとの二重帰

納法により,上から初めて現れる (fusion)を除去することによってなされる ([ST5], [ST6],

[ST10]参照).

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8 論理系統 65

Decidability Theorem

(1) LA は決定可能である.

(2) A の語の問題は肯定的に解決される。

ゲンツェン [1]に従って,縮約シーケントΓ −→ ∆について考察するとよい.LA−は部分

語特性をもっているので,考察すべき縮約シーケントΓ −→ ∆の部分語のみからなる縮約

シーケントは有限個しかないので,これら有限個のシーケントの組合せによって,Γ −→ ∆

の証明図が作れるかどうかの判定は有限回で終わる.

A と LA の同値性がいえているので,A の語の問題も肯定的に解ける.

8.4 補足

ここで取り扱った三つの含意論理体系は,weakeningの規則をもっていない.LRMI, LST

においてはそれを少し弱めた (mingle)なる規則が採用されている.一方,順序半群や束半群

などにおいても,この weakeningや contraction, exchangingなどの規則すら仮定しないシ

ステムを扱った.最近の線形論理において,構造上の推論規則に制限を設けた substructural

systemが考察されている.そういう意味では,ここで扱ったシステムも,線形論理での考

察の対象となっているもので,二十数年前にこれらを考察していたとみることもできよう.

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終章 66

終章

本論文は,ゲンツェン [1]の手法による,さまざまな順序代数系の語の問題 (決定問題)

の肯定的解決を扱かっている.それらの扱い方については,次の (1)(2)(3)の分類方法が考

えられる.

(1) 構造に関する推論規則の取り扱い

構造に関する推論規則としては,cut以外に exchange (換),weakening (増),contrac-

tion (縮)があるが,それらすべてを許した体系を扱ったものとして

4. 半束系統,5. 束系統,6. 直交束系統

がある.これらの構造に関する規則の一部 (substractural rule)を許したものは

3. 順序半群系統,7. 束半群系統,8. 論理系統

である.最近,コンピュータ科学で注目を集めている線形論理は,サブストラクチュ

ラル・ルールをもった論理体系と規定することもできるので,本論文の 3, 7, 8は線

形論理のテーマを 20年前に扱ったものということもできる.

(2) シーケントの右辺に関する制限

シーケントの右辺に,複数の語の列を許す古典論理系統のものは

5. 束系統,6. 直交束系統,8. 論理系統中の LST

である.ただし,5は右辺が一つと定式化することも可能である.

残りのシステムはすべて,右辺が高々1語からなる直観論理系統のものである.

3. 順序半群系統,4. 半束系統,7. 束半群系統,8. 論理系統中の LWI, LRMI

これらのシステムのいくつかは,古典論理系統として扱うことも可能であろう.

(3) 含意 (除法)演算の有無

含意 (除法)を扱っていない体系としては

5. 束系統,6. 直交束系統

がある.残りのものは含意 (除法)を扱っている.

3. 順序半群系統,4. 半束系統,7. 束半群系統,8. 論理系統

直交束については,論文 [ST19], [ST20]の立脚点に立って,西村 [20]が新しい展開を試

みてくれていることは心強い限りであるし,ファジー論理に関しても,論文 [ST19], [ST20]

の手法を有効に使いながら,竹村 [18],荒金 [22]がその成果を発表している.

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終章 67

順序半群系統は,論文 [ST8], [ST12], [ST17]より前に,ランベック [6]が手がけており,

彼のシステムは,最近の線形論理の魁と見られている.著者による論文はランベックより

数年後れるが,独立に見出されたものであり,ランベックに含まれていない部分をも考察

している.ランベックと同じように著者の論文も,線形論理やバーワイズらの状況理論に

ついてのシーケンシャルな取り扱いに関し,先駆的なものであった.

束半群系統は知られる限りでは著者の論文 [ST11], [ST14], [ST16], [ST18]らが最も早い

ものであり,その十年後,小野・古森の論文 [15]が現れた.著者の諸論文は学会等で随時

発表はしていたものの,極めてローカルな大学の研究紀要等に発表されていただけであっ

たため,注目を集めることはなかったし,現在も埋もれているように思われる.線形論理

の先駆的業績と考えられている十年後の小野・古森の論文 [15]のシステムは,著者による

論文のシステムと全く同一 (むしろ一部として含まれるもの)である.しかしながら,それ

を取り上げた動機は全く異っている.著者は「環のイデアルの作る束」をイメージしてい

たが,小野・古森は BCC, BCK代数をテーマとしていた.しかし,奇しくも二つのシステ

ムはほぼ一致しており,それが線形論理の意図するものの一部となっていたのである.

最後に論理系統の中で取り上げたシステムはリリバント・ロジックとの関連がある.論

理系統中で取り上げた三つのシステムは,いずれも weakeningをもっていないため,サブ

ストラクチュラル・ルールをもった論理体系であり,線形論理で扱われるテーマの一つで

ある.ここで扱われたミングルの規則などは,線形論理を扱う上で参考となる一つの規則

であろう.

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既発表論文 68

既発表論文

[ST1] (1964) “Decision procedure for free lattice”, Memoirs of Osaka Technical College,

Vol.1. (この内容は 5. 束系統の中で取り扱われている.)

[ST2] (1968-1) “On the decision procedure for free partially ordered groups”, Bulletin of

the college of Ube, Vol.5. (この内容は本論文中には含まれていない.)

[ST3] (1968-2) “分配束における等式の機械証明について”,宇部短期大学学術報告,第 5号.

(この内容は 5. 束系統の中にふれられている.)

[ST4] (1969) “自由束における等式の機械証明について”,山口大学教養部紀要,第 3巻.(こ

の内容は 5. 束系統の中にふれられている.)

[ST5] (1970) “On the weak implication calculus”, The Journal of the Faculty of Liberal

Arts, Yamaguchi University, Vol.4. (この内容は 8. 論理系統の中で取り扱われて

いる.)

[ST6] (1971-1) “The implicational fragment of R-mingle”, Proceedings of the Japan

Academy, Vol.47, No.1. (この内容は 8. 論理系統の中で取り扱われている.)

[ST7] (1971-2) “The implicational fragment of intensional logics”, The Journal of the Fac-

ulty of Liberal Arts, Yamaguchi University, Vol.5. (この内容は 8. 論理系統の中にふ

れられている.)

[ST8] (1972) “A decision procedure for po-groupoids and po-semigroups”, The Journal of

the Faculty of Liberal Arts, Yamaguchi University, Vol.6. (この内容は 3. 順序半群

系統の中で取り扱われている.)

[ST9] (1973) “On the word problem for free right-residuated lattices”, The Journal of the

Faculty of Liberal Arts, Yamaguchi University, Vol.7. (この内容は 7. 束半群系統で

取り扱われるものと密接に関連している.)

[ST10] (1974-1) “A sequential formulation for Sobocinski’s three-valued logic”, Technical

Report of Mathematics, Yamaguchi University, No.2. (これは,プレプリントの形で

発行されたものである.この内容は 8. 論理系統の中で取り扱われている.)

[ST11] (1974-2) “On a decision procedure for residuated semigroups”, Technical Report of

Mathematics, Yamaguchi University, No.3. (これは,プレプリントの形で発行された

もので,[ST16]に論文としてまとめられた.)

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既発表論文 69

[ST12] (1974-3) “On a decision procedure for free po-algebraic systems”, Technical Report

of Mathematics, Yamaguchi University, No.4. (これは,プレプリントの形で発行さ

れたもので,[ST17]で若干の修正の上論文としてまとめられた.)

[ST13] (1974-4) “A solution of the decision problem for free pseudo-complemented semilat-

tices”, Technical Report of Mathematics, Yamaguchi University, No.7. (これは,プ

レプリントの形で発行されたもので,[ST15]に論文としてまとめられた.)

[ST14] (1974-5) “On a decision procedure for free lo-algebraic systems”, Technical Report of

Mathematics, Yamaguchi University, No.9. (これは,プレプリントの形で発行された

もので,学会発表にあたって,[ST18]では若干の修正がされている.しかし,[ST18]

では証明の大半は略されている.)

[ST15] (1974-6) “A solution of the decision problem for free pseudo-complemented semilat-

tices”, The Journal of the Faculty of Liberal Arts, Yamaguchi University, Vol.8. (プ

レプリント [ST13]を論文としてまとめたものである.この内容は 4. 半束系統の中

で取り扱われている.)

[ST16] (1975-1) “On a decision procedure for residuated semigroups”, The Journal of the

Faculty of Liberal Arts, Yamaguchi University, Vol.9. (プレプリント [ST11]を論文

としてまとめたものである.この内容は 7. 束半群系統の中で取り扱われている.)

[ST17] (1975-2) “On a decision procedure for free po-algebraic systems”, The Journal of the

Faculty of Liberal Arts, Yamaguchi University, Vol.9. (プレプリント [ST12]を若干

修正の上,論文としてまとめたものである.この内容は 3. 順序半群系統の中で取り

扱われている.)

[ST18] (1980) “On the word problem for lo-semigroups”, Proceedings of the 4th symposium

on semigroups at Yamaguchi University. (プレプリント [ST14]の内容を学会で発表

するにあたって若干修正してまとめたもので,証明の大半は略されている.この内容

は 7. 束半群系統の中で取り扱われている.)

[ST19] (1984) “Decision procedure for pseudo-complemented lattices”, Proceedings of the

8th symposium on semigroups at Shimane University. (この内容は 6. 直交束系統の

中にふれられている.)

[ST20] (1988) “A Gentzen formulation without the cut rule for ortholattices”, Kobe Journal

of Mathematics, Vol.5. (この内容は 6. 直交束系統の中で取り扱われている.)

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参考文献 70

参考文献

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索引 72

索 引

イデアル . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 56

loモノイド . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 56

階数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 17

カット語 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 8

カットの規則 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 8

含意元 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 23

含意半束 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 23

擬補元 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 22

擬補束 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 37

擬補半束 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 22

qo集合 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6

決定問題 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 5

語 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 2

公理 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4

語の問題 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 2

最小元をもつ半束 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 22

シーケンシャル・システム . . . . . . . . . . . 4

シーケント . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4

次数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 17

弱含意 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 60

自由代数系 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 2

縮約シーケント . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 35

主要語 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 17

凖順序 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6

順序保存性 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6

凖整 lo半群 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 56

凖整 po半群 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 7

凖部分語 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 55

乗法束 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 56

除法 lo半群 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 56

除法 loモノイド . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 56

除法凖整 lo半群 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 56

除法凖整 po半群 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 8

除法整 loモノイド . . . . . . . . . . . . . . . . . . 56

除法整 poモノイド . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 8

除法 po半群 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 7

除法 poモノイド . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 8

推論規則 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4

整 loモノイド . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 56

整 poモノイド . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 7

相対補元 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 23

束 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 26

束半群 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 56

代数系 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 2

直交束 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 37

パラメーター . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 17

半順序 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6

半束 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 22

po亜群 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6

po集合 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6

po半群 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 7

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索引 73

poモノイド . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 7

左除法 po半群 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 7

左除法 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 7

部分語 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 5

部分語特性 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 5

フュージョン . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 64

フュージョン語 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 64

分配束 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 27

右除法 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 7

右除法 po半群 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 7

ミックス . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 29

ミックス語 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 29

ミングル . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 62

有界束 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 37

リリバント含意 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 60

B

BL (有界束) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 37

D

DL (分配束) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 27

I

ILM (整 loモノイド) . . . . . . . . . . . . . . . 56

IPM (整 poモノイド) . . . . . . . . . . . . . . . 7

ISL (含意半束) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 23

L

L (束) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 26

LDL . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 28

LILM . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 58

LIPM . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 9

LISL . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 24

LISL0 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 24

LL . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 28

LLM . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 58

LLS . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 58

LM (loモノイド) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 56

LOL . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 38

LPG . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 9

LPL . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 38

LPM . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 9

LPS . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 9

LPSL . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 24

LQLM . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 58

LQPM . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 9

LRILM . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 58

LRIPM . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 9

LRLM . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 58

LRLS . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 58

LRMI . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 62

LRPM . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 9

LRPS . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 9

LRQLS . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 58

LRQPS . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 9

LS (束半群,乗法束) . . . . . . . . . . . . . . . . 56

LSL . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 24

LST . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 62

Page 77: 順序代数系の語の問題 - Kobe Universitybach.istc.kobe-u.ac.jp/SaburoTamura/docs/stamura...序章 1 序章 本論文の目的は,順序が入ったさまざまな自由代数系の語の問題を,肯定的に解決する

索引 74

LWI . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 62

O

OL (直交束) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 37

P

PG (po亜群) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6

PL (擬補束) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 37

PM (poモノイド) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 7

PS (po半群) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 7

PSL (擬補半束) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 22

Q

QLM (凖整 lo半群) . . . . . . . . . . . . . . . . 56

QPS (凖整 po半群) . . . . . . . . . . . . . . . . . . 7

R

RILM (除法整 loモノイド) . . . . . . . . . 56

RIPM (除法整 poモノイド) . . . . . . . . . 8

RLM (除法 loモノイド) . . . . . . . . . . . . 56

RLS (除法 lo半群) . . . . . . . . . . . . . . . . . 56

RMI (リリバント含意論理) . . . . . . . . . 61

RPM (除法 poモノイド) . . . . . . . . . . . . 8

RPS (除法 po半群) . . . . . . . . . . . . . . . . . . 7

RQLS (除法凖整 lo半群) . . . . . . . . . . . 56

RQPS (除法凖整 po半群) . . . . . . . . . . . 8

S

SL (半束) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 22

SL0 (最小元をもつ半束) . . . . . . . . . . . . 22

ST (ソボチンスキー三値論理) . . . . . . . 61

W

WI (弱含意論理) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 60