運動時の換気応答と呼吸のentrainment の検討

工 学 院 大 学

（共同研究者） 国 際武 道 大学

千　莖　大　学

大

佐

本

薮

藤

田

Studies　on　Ventilatory　Response

in 　Relation　with　Respiratory

Entrainment　during　Bicycle　Ergometer　E χercise

by

Yoshio　Ohyabu

Kogakuin　U ㎡1・’ersity

Midori　Sato

International　Budo　University

oshiyuki　Honda

Chiba　UI 面 ’ersity

由　夫

みどり

良　行

ABSTRACT

To　clarify　possible　affection　of　respiratory　entrainment　to　hyperpnea

during　moderate　exercise ，　bicycle　exercises　with　three　different　pedalling

rates 　（35 ，　60，　80rpm ）　with　equal　oχygen　consumption　were　conducted ．

Twelve　normal　subjects　 （one　man　and　n　women ）were　studied　the

ventilatory　responses　during　moderate　e χercises　in　room 　air　breathing　or

progressive　isocapnic　hypoxia ・

The　results　were　as　follows　：

1）　Respiratory　frequency　during　e χercises　（60 ，80rpm ）in　six　subjects

was　higher　than　of　30rpm　exercise　in　room　air　breathing ．　Accordingly ，

respiratory　responses 　of　these　six　subjects　（entrainment　group ）　were　com －

pared　with　that　of　the　other　six　subjects　（non －entrainment　group ）・

2 ）　Minute　ventilation　in　room 　air　breathing　in　the　entrainment　group

was　also　larger　than　that　of　the　non－entrainment　group　during　e χercises

（60 ，　80rpm ）．　At　80rpm　exercise ，　significant　difference　was　seen　between

― 　191　―

－－　192　－

two　groups ・　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 ＼

3 ）　Significant　difference　between　two　groups　was　still　found　in　respi －

ratory　frequency　in　hypoxia　 （atPETo2　50mmHg ）　during　80rpm　exercise ン

4 ）亅t　is　suggested　that　respiratory　entrainment　is　likely　to　affect　the

ventilatory　response　during　exercise　and　rate　of　rhythmic　movement　dur －

ing　exercise　must　be　considered　in　the　studies　of　exercise　hyperpnea ．

緒　　 言

運動中の呼吸は，しばしばその身体運動の影響

を受けて変化することは経験的によく知られてい

る．すなわち身体運動に同調してみられる呼吸の

変化は，“呼吸のentrainment ”と言われており，

舞踊，体操，剣道，ヨーガ，水泳，陸上中長距離

走等の領域では，それらの 身 体 運 動 と 呼 吸 の

entrainment の関係が深い関心をもって論じられ

ている．　　　　　　　　　　　つ

ところで運動中に観察される換気亢進は，今日

までさまざまな方向から検討か加えられてきてい

るが，そのメカニズムの解明は，未だ完全にはな

されていない．

本研究は，そのような運動中の換気亢進に対す

る運動リズムの関与を解明する手がかりとして行

なわれた．すなわち酸素摂取量一定の条件下で3

種類の異なったリズムの運動を行なわせ，空気呼

吸及び 低酸素下での 呼吸のentrainment の換気

応答への影響を検討しだ／卜

研 究 方 法

対象：健常成人男女12名（男1 名，女11名）で

あり，その身体的特徴は，表1 に示した．

実験方法：被験者には，自転車エルゴメータに

よる3 種類の異なったリズムの運動（35，　60，　80

rpm ）を行なわせた．なおその際の抵抗負荷は，

いずれの運動時の酸素摂取量も同一となるよう，

あらかじめ予備実験から算出した値（2．0，　1．0，

0．5kp）にそれぞれ調整した．

表I　Physical　characteristics　of　the　subjects．

Subj ． 詰） Weight（kg ） 零豐

V02　at　rest（mX ／min）

Sex

1　Y ．O．

2　M ．S．

3　A ．N．

4　K ．N．

5　Y ．H．

6　J 　．s．

7　T ．F．

8　T ．T．

9　Y ．M．

10　M ．　Y．

U　U ．K．

12　N ．　A．

35

29

18

18

19

18

19

19

18

18

18

18

75．0

55．0

61．0

57．0

58．0

56．0

50．0

64．0

58．0

62．0

63．0

47．0

170 ．0

163 ．0

166 ．5

160 ．0

162 ．0

164 ．0

157 ．0

164 ．0

164 ．0

160 ．5

158 ．0

157 ．0

272

294

317

273

232

325

297

348

307

301

351

372

Male

Female

Female

Female

Female

Female

Female

Female

Female

Female

Female

Female

Mean 士SD 20 ．6士5．5 58．8士7．2 162 ．2土3．9 307 土39

Pedalling　rhythm：　80rpm，　60rpm，　35rpjnload：　0．5kp，　l．Okp，　2．0kp

図I　Set　up　of　the　eχperiment

Ventilatory　responses　were　measured　by　pro ・

gressive　hypo χla

運 動は ，空気 呼吸下で5 分 間継続 実施 した ．さ

らにその後 ，　progressive　hypoxia　 下で 続 行させ ，

終末 呼気 酸素分 圧 （PETo2 ） が50mmHg に到達

した時 点で 停止 した ．また低酸 素実 験中 の終末 呼

気炭酸 ガ ス分圧（PETco2 ）は ，空気 呼吸時 の値を

維持 した ．

測 定項目 ：運 動中 の酸素摂取 量 （V02 ） は， い

ず れも空 気呼 吸下で の運 動開 始3 分目 か ら5 分目

の計2 分 間 の呼吸をダ グ ラスバ ッグに 採集 し，測

定 した■　Peto2 及 びp 　ETC02は ，呼気 ガス モニタ

ー（三栄 ） に よ り ， 一 回 換 気量（V7 ）， 呼 吸数

（f），分時 換気量（VE ）は，熱線 流量 計（ ミナト）

で 測定 した ．

― 　193

結　　　 果

図2 は ，本実 験で 得られた 記 録波 形 で あ る ．

Subj ．　J．S　では ， 空 気 呼吸時 の呼吸 数 は ，ペダ ル

回転 数 の 多い80rpm 時 の ほう が35rpm 時よ り

も多 い傾向を 示 した ．またこ の傾向 は ， 低酸素下

で も継続さ れた ． 一 方 ，　Subj ．　Y．M　も， 空気 呼

吸時 で は80rpm 時 の 呼吸数 が35rpm 時 の そ れ

より も多い 傾向を 示 した ．し かし 低酸 素 によ る呼

吸 のdrive が生 じ た 状 態 で は，80rpm 時 と35

rpm 時 の呼吸数 に は 顕著な 差を認 め な くな った ．

t ペダ ル回 転数別 に みた呼 吸応答 の検討

空 気 呼吸時 の呼 吸応答 ：表2 は ，ペ ダ ル 回転数

別 に空気 呼 吸時で の呼 吸数，PETco2 ，PE ・ro2，分

時 換気量 ，酸 素摂取 量を それ ぞれ の平 均 値 と標 準

偏 差で示 した ． すな わち 呼吸 数（ 回 ／分） は ，そ

れぞ れ24 ．8±7 ．9　（80rpm ），　24．8±4 ．5（60rpm ），

23 ．4±6 ．7　（35rpm ）で あ り ， い ず れ の回転 数 に

お いて も ほぽ 同 様の値 が 得 られ た ．PETco2 及 び

PETo2 （mmHg ）は ，それぞ れ43 ．6士4 ．2，　104 ．0

±6 ．7（80rpm ），　42．5士3 ．9，　104．0±5 ．7（60rpm ），

43 ．5士3 ．3，　102，1±4 ．7　（35rpm ）で あ り ， い ず

れ のgroup 閧 にも顕著 な差を認 めな か った ．

ま た分 時換 気量（7／min ）は ，そ れ ぞれ25 ．9±

7 ．2　（8Qrpm ），　25 ．8±4 ．6　（60rpm ），　24 ．7±4 ．0

（35rpm ） であり ，い ずれ のgroup 閲 に：も顕 著な

差を みな か った ．さ ら に酸 素摂 取量 （1／min ） は ，

そ れぞ れ1 ．091±0 ．242　（80rpm ），　1 ．101±0 ．147

表2　Respiratory　responses　during　pedalling　exercises．

80rpm

60rpm

35rpm

24．8土7．9

24．8土4．5

23．4±6．7

43．6士4．2

42．5士3．9

43．5±3．3

104 ．0土6．7

104 ．0士5．7

102 ．1±4．7

25．9士7．2

25．8士4．6

24．7±4．0

Values　are　mean土SD　　　f，　respiratory　frequency　　Petco2，　peto2：　mmHg ，

VE ：　minute　ventilation，　　V02：　oχyggn　uptake

1．091土O。242

1．101士0．147

1．106±0．137

194

VT　I

劔で卜 一一

泌引ご1xココ二コ泗肛1謳1

心［

丶亠 丶JjJJJ　I　：　U　：：XrJaに

亠

澂踰亠亠

黼jysubj，］．s　・80「pm　0．5kp

曝工　 二

ご 乙匚丿． 逼 站亠 忠　

忿防4

お’

、

’

、l

゛jjf

、l

’Xi’

、

？

、

’j

，jj、7XI

’

、jf・、1、

「

、

’」」」」」’こXJXX

，7，

ごllr

、

’」」’、11’」

、

’

、

’l¶

、

’l」

、

’」’

、iiilMUiiliiiliiii

」訌lfUl 園 鰍 　

1501　tiff　＊＊＊り“ljメ♂s卵り・・・lμ・j・り♂fo・・1♂sa仰μりf卵qjs／μ・js・6り・s　　　　　　　　　　　　　　　　 ：・

忿 詢

［

鬲 い 心W ツ 四 ら

謡

叫 卜

二 謡 二

乱 こ

こ 聊旅

臨

歟1

亠

戸

Subj ．］．S．　35rpm　2 ．0　kp　　　　　　　 卜2 －！！！1！！－ ・i

図2　－　a　Some　examples　of　ventilatory　l・esponse　to　progressive　isocapnic　hypoχia

during　exercise　in　subj，　J，S・　and　Y－M．

吊E ¬ 广vt

195 　―

隋Tm 鰍 噐鰍記詣剴 詛謳讎圜・气．150

‘““゛゙゙！’冖““゛m＊if゙斤“’1！゙叨j！呷！“冖収砂1rl哂1

’ま

，1

ヨ デ

¬ 嘸 諞亠 艸

叫ご こ

こ次 ご

砌 隣祺 礑

鞫 陶鷆躑j

゛

Subj．　Y．M　80rpm ，　Cλ5kp

HR　　16

beats　l

Ej］］

／min

y　。・：［⊃言盜血昌肌亠齒伽　

t 迩mmi 言 遺 馴胆鵬■朧釀紳 ●・し

こ15　　！7μ／？’‘tfffりls侭♂1りりrl岬りsl’゙！々μr丶五

十 肩 融 ツ サ 羂叫l に

な黝跏

亠

耡

亠ソ

Subj．　Y，　M　35Γpm．ZOkp

図2 －b

卜」！≒

―　196　－

（60rpm ），　1．106±0 ．137　（35rpm ）であり， いず

れのgroup もほぽ同一の値が得られた ．

2．　Entrainment　group　 とNon ・entrain－≒

ment　group　 の対比からみた 呼吸応答の

検討　　　 ト

ペダル回転数別 にgroup 間の比較を行なうと，

上述のように顕著な差異はみられなかった．しか

し個別に 検討すると， 図2 －　a　，　b　に示したよう

にペダ ル回転数の多い運動では，少ない運動より

も呼吸数の多い例が み ら れ た．従って本研究で

は，60rpm と80 呻m の 運動において 空気呼吸時

の呼吸数が35rpm の運動中の 呼吸数より も多い

のをentrainment　group　 とし，少ない者をnon －

entrainment　group　と　した． その結果，　entrain－

ment　group　は，それぞれ6 名（60rpm ，　80rpm ）

であり，non・entrainment　group　に属した者もそ

れぞれ6 名（60rpm ，80rpm ）であった．

空気呼吸時の呼吸応答：表3 ，図3 は，　entrain－

ment　group　とnon －entrainment　group　の呼吸応

答の比較を行なったものである．なおパーセント

表示して あ る も の は，　35rpm の運動時の値を基

準（100 ）として相対的変化率（％）を みたもので

ある．

空気呼吸時の呼吸数（％）は，それぞれ133 ±22

（entrainment　group ），　84±18 　（non －entrainment

group ）　（80rpm ），　127±25（entrainment　group ），

93 ±7　（non －entrainment　group）　（60rpm ）であり，

いずれのペダル回転数の運動においても両group

閧に有意差を 認 め た／ また 分時換気量（1／min）

は，それぞれ30 ．6±4．1　（entrainment　group ），

21 ．2±6．7　（non －entrainment　group）（80rpm ），

26 ．1±4．5（entrainment　group ），　25．5±5．1（non －

entrainment　group ）　（60rpm ）であった．さらに

35rpm 時の 分時換気量を基準（100 ） とした相対

的変化率 で み た 分時換気量（％）は， それぞれ

119 ±12　（entrainment　group ），　89±12 　（non －ent－

rainment　group ）　（80rpm ），　HO ±10　（entrain－

ment　group ），　100±15　（non －en　trainment　group）

表3　Comparison　of 　the　respiratory　respo亠es　between　entrainment

and　non 　－　entrainment　groups ．

Room　air　breathing

f（％）

VE （Z／min）

VE （％）

PETC02 （％）

PETo2 （％）

Breathing　during　hypoxia

fs，（％）

卜　VE50 （Z／min）

VE50 （％）

133±22＊＊

30．6±4．1＊

119±12＊＊

100±4

103±3

121±25＊

61．5±13．3

120 ±39

84±18

2L2 ±6．7

89±12

102±7

101±3

86±16

40．9±22．8

90±32

127 ±25 ＊

26 ．1±4 ．5

110 ±10

98 ±2

103 ±4

96±26

40．7±13．4

97±31

93±7

25 ．5上5．1

100±15

98上2

101 ±1

88±13

45．6±16．5

83±24

Values　are　mean 士SD

Ent －G，　Entrainment　group ；　Non・ent　－G，　Non　－　entrainment　group ；　f，　respiratory　frequency；。

々E ，　minute　ventilation；　petco2　0r　Petc＞2．　end－tidal　C02　0r　02　pressure；　fs。respiratory　frequency

at　PETOj　50mmHg ；　Ve5o＜　minute　ventilation　at　Peto2　50mmIIg ；　（ ％ ），The　values 　obtained．　at　eχ－

ercise　with　35rpm　were　taken 　as　100^ ＞　then　the　relative　magnitude　in　％ 　were 　calculated　for　the

works　with　60　and　SOrpm ，　respectively．　Differences　between ．　the　entrainment　and　non－entrainment

groups　are　significant　at　5％（＊）and　l％ （＊＊）levels ，respectively ．

（畿

）g冫

ぺ。。夕

（

劭

）J

150

へ

CJ

100

60

（

畿

）g瑜

ぺ。回冫

（

岨

）JへJ

－

― 　197

Nol ‾entr“inment　group

＞

匹 匹＝？

－ －

Non－entrainment　group

40　　50　　60

150

100

50

70　80

Entrainment　group

一 一

90　　100

PETo2（mmUg ）

40 50　　60　　70　　80　　90　　100 40　　50　　60　　70　　80　　90　1　100

PETo2（mmHg ）

図3　Changes　of　the　tidal　volume　and　respilatory　frequency　to　progressive　hypoχia

―198 　―

（60rpm ）であった．　60rpm 時では，両group 間

に有意差 を 認 め な か った が，80rpm 時 では両

group 間に有意差がみられた ー

またPETcoi （％）は， そ れ ぞ れ100 ±4　（en・

trainment　group ），　102 王7　（non －entrainment

group ）　（80rpm ），　98±2　（entrainment　group ），

98±2　（non －entrainment　group）（60rpm ）で あ

り， いずれの 運動時においても両group 問には

有意差を認めなかった．さらにPETo2 （％）は，

それぞれ103 ±3　（entrainment　group ），101 ±3

（non －entrainment　group）　（80rpm ），　103±4　（en －

trainment　group ），　101 ±1　（non －entrainment

group ）　（60rpm ）であり， いずれの運動時におい

ても両gr（）up 間には有意差をみなかった．

低酸 素 下 で の 呼 吸 応 答：図3 は，80rpm と

60rpm 時のprogressive　hypoxia　下 で の 呼 吸 数

と 一回換気量を 相対的変化率（％）で示したもの

である．呼吸数は，低酸素による呼吸のdrive が

生じると増加傾向を示し，　entrainment　group　に

おいても運動リズムの呼吸数への影響か顕著でな

くな った例もみられた．

Peto2 　50mmHg に達 した 時点 での 呼吸数

（％）は，それぞれ121 ±25（entrainment　group ），

86±16 　（non －entrainment　group）　（80rpm ），　96±

26　（entrainment　group ），　88 ±13　（non －entrain－

merit　group）（60rpm ）であり， 低酸素下 におい

てもentrainment　group　 の ほ う がnon －entrain－

ment　group　よりも呼吸数の多い 傾向が継続され

た ．なお60rpm 時では，両group 問に有意差を

認めな かったが ，80rpm 時では 両group 閧に有

意差がみられた． さらにPETo2 が50mmHg に

達した時点 で の分時換気量（1／min）は， それぞ

れ61 ．5±13 ．3　（enrainmentt　group ），　40．9±22．8

（non 　－entrainment　group）　（80rpm ），　40．7±13 ．4

（entrainment　group ），　45－6±16 ．5　（non －entrain－

ment　group ）（60rpm ）であった ． いずれの 運動

時においても 両group 間には， 有意差を認めな

くな った．さらに35rpm 時の値を基準（100 ）と

した相対的変化率（％）で比較すると， それぞれ

120 ±39 　（entrainment　group ），90 ±32　（non －en－

trainment　group）　（80rpm ），　97±31　（entrainment

group ），　83 ±24　（non －entrainment　group）　（60

rpm ）であった． いずれの運動時もentrainment

group のほうが大きな値を示 したか有意差はみら

れなかった．

考　　　 察

運動時の換気亢進のメカニズムについては，今

日種々の因子が考えら れ て い る．その主なもの

は，1 ）四肢からの神経性駆動（Comroe　et　al．

1943 ，　Kao　et　al．　1955，　Dxion　et　al．　1961，　Mc

Closkey ．　1972），　2）中枢性換気亢進（Krogh　et

al．　1913，　Godwin　et　al．　1972，　Morgan　et　a1．

1973 ，　Homma　et　a　I．　1984，　Eldridge　et　al．　1981，

1985 ），　3）末 梢性イ匕学受容器の興奮性増大（Weil

et　al．　1972，　Martin　et　al．　1978，　Honda　et　aL

1979 ，大藪ら：1985），　4）中枢性化学受容器の関与

（Cunningham　et　al ．　1963，　Weii　et　al．　1972，

Spode　and　Schlafke　1975，　Miyaura　et　al．　1り76），

5）体温上昇 に伴なう末梢化学受容器 及び 視床下

部の興奮性増大（Natalino　et　al．　1977，　Peterson

et　al．　1977），　6）C02 の肺への還流量増大に伴な

う混合静脈血C02 増大と心拍出量増大（Wasser ・

man　et　al．　1974，　Miyamoto　et　al．　1983）　，7 ）無

酸素性解糖の進行に伴なうpH の低下 （Wasser －

man ，　1978）などの因子があげ られる． 勿論これ

らの因子は，運動の強度，時間経過，さら記環境

条件等により，その関与の度合も異なるものと思

われ，また今後の研究成果により除外される因子

や新たにつけ加えられる因子の可能性も考えられ

る．　　　　　　　　　　／

ところで 呼吸のentrainment は， 運動リズ ム

が呼吸リズムに影響しているのではないか・とする

考えのもとに関心がもたれてきた．すなわち呼吸

のentrainment の解明は， 四肢からの 神経性駆

動，あるいは中枢性換気亢進のような神経性因子

の運動時換気亢進への関与の有無を明らかにする

ための手がかりとなるものである．しかしこれま

での研究結果は，運動時に呼吸のentrainment が

観察されなかったとするもの（Kelman　and　Wat －

son　1973，　Dixon　et　al．　1961，　Key　et　al．　1974），

あるいは呼吸のentrainment が認めら れた と す

るもの（Agostoni　and　D’ange10　1976，　Bechbache

and　Duffin　1977，　Jasinskas　et　al．　1980，　Yonge

and　Petersen　1983）に分かれ， 運動時の 呼吸の

entrainment の存在そのものの有無をめぐっての

論議もなされてきた．

本研究では，呼吸のentrainment を35rpm の

運動時の呼吸数よりも多かった場合とした．この

ことは，これまで先行研究でみられた呼吸のen －

trainment の判定基準とは多少異な るようにも思

われる．しかしそのことは，我々の研究のねらい

が単に運動リズムの呼吸リズムへの関与に対して

のみ検討を加えるの で は な く， 呼吸．のentrain －

roent が実際に 運動時の換気応答にどのような影

響を与えるのかに重点をおいたためである．その

結果，本研究でみ られ た 呼吸のentrainment の

出現率は，ペダル回転数が多くなると高くなる訳

ではなかった ．しかしペダル回転数の多い80rpm

時のほうが， 呼吸のentrainment の現象 が 顕著

であり，呼吸数の増大が著しかった．　　 二

Bechbache　and　Duffin 　（1977 ）は， 自 転 車工

ルゴメータを用いた実験で，ペダル回転数の多い

運動 の ほ う か，呼吸のentrainment の出現率が

高いことを報告している．本研究結果と傾向を異

にしたのは，呼吸のentrainment の判 定 基 準 の

違いによ るものであろう．

Jasinskas　et　al。　（1980） は， 自転車エルゴメー

タを用いて2 種類の異なった強度で運動を行なわ

せたところ，呼吸のentrainment　 の　出 現 率 は，

それぞれ87％ （Iow　work，　30～59 ％V02 ． ．），94

―　199　―

％（high　work ，　70～95％yo2 ． ．）で あり，運動

強度の高いほうが出現率も高い旨，報 告した．ま

たBechbache　and　Duffin　（1977 ）は ， 自転車エ

ルゴメータを用いて，メトロノームに合わせてペ

ダ リング運動を行なわせた場合とスピ ードメー，夕

に合わせてペダ リング運動を行なわせた場合の呼

吸のentrainment の出現率を比較し た と ころ ，

メトロノームを使用したほうがその出現率の高い

ことを観察している．

本研究では，3 種類の異なったリズ ムでペダ リ

ング運動を行なわせた，しかしその運 動強度は，

酸素摂取量が一定となるよう，予備実験のデータ

よりあらかじめ調整を行なった．これ は，運動強

度の違いによる換気亢進レベルの差異をなくすた

めである．また運動は，すべて自転車 エルゴメー

タを用い，メトロノームに合わせてペダ リング運

動を行なうよう指示した．

Bechbacha　and　Duffin　（1977 ）は， ト レ ッド

ミルを用いて中等度の運動強度の ランニングを 行

なわせ た と こ ろ，呼吸のentrainment の出現率

が自転車エルゴメータを用いた場合よ りも高かっ

たと報告し，その理由として，おそらくランニ ン

グでは，腹部内容物の上下動が生じるため，呼吸

のentrainment の 出現率が 高くな るのであろう

と推察している．

本研究の運動はすべて自転車エルゴ メータによ

るペダリング運動であり，運動の種類 からの検討

は，今回行なわなかった．しかしペダ ル回転数の

多い運動ほど，その脚の動作も早くな り，それに

伴う腹部や胸部筋群の収縮，弛緩の リズムも当然

早くなり，そのことによる横隔膜や胸 郭の呼吸運

動への 制限か 呼吸のentrainment の 主要因子 で

あるようにも考えられる．

本研究結果より，運動時にしばしば 観察される

呼吸のentrainment は，空気 呼吸 及 び 低酸素下

のいずれの状態 に お い て もtotal　output　として

－200－

の分時換気量には，それほど大きな影響を及ぼし

ていないようであり，生体の恒常性が維持されて

いるように推察された．しかしペダル回転数の多

い80rpm 時では， 空気呼吸時に 呼吸のentrain－

ment による分時換気量の有意な 増加傾向が認め

られ， 呼吸のentrainment の運動時換気亢進へ

の影響の可能性を全く否定することは困難なよう

に推察された．今後は，運動強度を変化さぜて行

なうことも肝要なように思われる．

ま　 と　 め

運動時の換気亢進に対する呼吸のentrainment

の関与の有無を解明するために以下の研究を行な

った卜すなわち酸素摂取量一定の条件下で3 種類

の異なったリズム運動を行なわせ，空気呼吸及び

低酸素下で の呼吸のentrainment の換気応答へ

の影響を検討した．

対象は，成人男女12名であり，被験者には自転

車エルゴメータによる3 種類の異なったペダル回

転数（35，　60，　80rpm）で運動を行なわせた．な

お運動中の 低酸素実験は，　progressive　hypoxia

法を用いた．

結果は，以下に示すようである．

1） 運動中の 酸素摂取量（も／min）は， それぞ

れ1 ．091±0．242　（80rpm ），　1 ．101±0．147　（60

rpm ）の1 ．106±0．137　（35rpm ）であり，いずれ

のgroup　もほぽ同一の値が得られた．

2） ペダル回転数別に空気呼吸時め呼吸数（回

／min）と分時換気量（1／min）を比較すると，そ

れぞれ24 ．8士7．9，　25．9±7．2　（80rpm ），　24．8±

4．5，　25．8±4．6　（60rpm ），づ23．4士6．7，　24．7毋

4．0　（35rpm ）であり，いずれの項目もgroup 間

に顕著な差を認めなかった．

3）　60rpm と80rpm の運動において，空気呼

吸時の呼吸数が35rpm 時の 呼吸数よりも多い者

をentrainment　group　とし， 少ない者 をnon －

entrainment　group　とした． その結果，　entrain－

ment　group　は，それぞれ6 名（60rpm ，　80rpm ）

であり，　non－entrainment　group　もそれぞれ6 名

（60rpm ，　80rpm ）であった．

4）一　空気呼吸時の呼吸数は，いずれの運動（60

rpm ，　80rpm）においてもentrainment　group　 の

ほうかnon ・entrainment　group　よりも 有意に 大

きな値を示した．

5） 空気呼吸時の分時換気量は，いずれの運動

（60rpm ，　80rpm）においてもentrainment　group

がnon －entrainment　group　よりも 大きな 値を示

し，特に80rpm 時では 両グループ間に有意差が

みられた．　　　　　　　　　　　　　　　 レ

6）PETc02 とPET02 は，い ず れ の 運 動（60

rpm ，　80rpm ）においても 両グループ間に有意差

は認められなかった．

7） 低酸素下での呼吸数は，いずれの運動（60

rpm ，　80rpm ）に・おいてもentrainment　group　 が

non －entrainment　group　よ　り も大きな 値を 示し

た． 特に80rpm 時では， 両group 間に 有意差

を認 めた．／

8） 低酸素下での分時換気量（％）は，いずれ

の運動（60rpm ，　80rpm）においてもentrainment

group がnon －entrainment　group　よりも 大きな

僖を示したか，両grout ）間に 有意差を認めなか

うた．

以上の結果より，運動時 にしばし ば観察される

呼吸のentrainment は， 空気呼吸 及び 低酸素下

のいずれの状態においても換気応答 に，それほど

大きな影響は及ぼしていないようで あった．しか

しペダル回転数の多い運動では，空気呼吸時に呼

吸のentrainment によ る換気応答 の有意な増加

が認 め ら れ，呼吸のentrainment ：の運動時換気

亢進への関与を全面的に否定することは困難なよ

うに思われた．

文　 献 ・．　　　 二

l ）　Agostoni ，　E．　and　Dangelo ，　E，；　The　effect　of

limb　movements　on　the　regulation　of　depth　and

rate　of　breathing ．　沢。spir ．　Physiol ．　27　：　33―52

（1976 ）　　　　　　　　　　 △

2 ）　Bechbache ，　R．R．　and　Duffin ，　J・；　The　entrain －

merit　of　breathing　frequency　by　e χercise

rhythm ．　J．　？り ・siol．　272　：　553―561 　（1977 ）

3）Comroe ，H ．H，　Jr・　and　Shmidt ，　C．F．；　Reflex 　fΓom

the 　limbs 　as　a　factor　in　the　hyperpnea　o ｛

mu　scular　e χeでcise ．　Am ．　J，レ 咼ysiol －　138　：　536―

547 　（1943 ）　　　　　　 づ　　犬 ・

4）Cunningham ，D ．J．C・，　Lloyd，　B．B．j　Patrick ，　L．M ．；

The　relation　between　ventilation　and　end －tidal

PC02　1n　man　during　moderate　exercise　with

and　without　C02　inhalation ．　≪／．　Physiol ．　（Lon －

don ）：104 ―106 　（1963 ）

5 ）　Dxion ，　M ．E－＞　Stewart ，　B．B．，　Mills ，　F－C－，　Varvis ，

C ．J．　and　Bates ，　D－V．；　Respiratory　consequences

二of　passive　body　movement ．　J．　Aり μ ．j）みjyj砿

16　：　30―34　（1961 ）

6 ）　Eldridge＞　F

．L．，　Millhorn ，　D．E．　and　Waldrop ，

T ．G．；　Eχercise　hyperpnea　and　locomotion ：　par・

allel　activation　from　the　hypothalamus ．　Science ，

211　：　844―846　（1981 ）

7 ）　Eldridge ，　F．L・，　Millliorn ，　D．E・，　Kiley，　J．P．　and

Waldrop ，　T．G．；　Stimulation　by　central　command

of 　locomoti 。1！，　respiration　and　circulation　dur －

ing　exercise ．　Respir ．　Physiol ．　59：313 ―337

（1985 ）

8 ）Godwin ，　G．M 。　McCloskey ，　D．L　and　Mitchell ，

J－H．；　Cardiovascular　and　respiratory　responses

to　change　in　central　command　during　iso ・

metric　e χercise　at　constant　muscle　tention ．　J．

j ）り ぶI 　226　：　173―190　 （1972 ）

9 ）　Honda ，　Y．，　Myojo ，　S－，　Hasegawa ，　S．　and　Sever －

inghaus ，　J．W ．；　Decreased　e χercise　hyperpnea

in　patients　with　bilateral　carotid　chemoreceptor

resection ．　j・　j祕 μ 。民j ・亠Z ．　46（5 ）：908 ―912

（1979 ）

10 ）　Homma ，　I．，　Obata ，　T．，　Sibuya ，　M ．　and　Uchida ，

M ．；　Gate　mechanism　in　breathlessness　caused

by　chest　wall　vibration　in　human ．　J．　Appl ．

7）りsiol ．　56（1 ）：8 ―11 　（1984 ）

11 ）　Jasinskas ，　C．L．，　Wilson ，　B．A．　and　Hoare ，　J．；

Entrainment　of　breathing　rate　to　movement

frequency　during　work　at　two　intensities ．

鳬 ・枦 み’。Physiol ．　42　：　199―209 　（1980 ）

12 ）　Kao ，　F．F。Schlig ，　B．B．　and　Brooks ，　C．；　Reguia －

ご　　　　　　　　　　　　 ― 　201　―

tion　of　respiration　during　induced　muscular　in

decreased ．　dogs．　J．　yly？μ 。？句 心砿7 ：379 ―386

（1955 ）

13 ）　Kelman ，　G－R．　and　Watson ，　A．W．S．；　Effect　of

added　dead －space　on　pulmonary　ventilation

during　sub ，maχimal　steady－state，　exercise．　Q．

J£exp －　Physiol．　58　：　305―313　（1973 ）

14 ）　Key ，　J．D．S．，　Petersen ，　E．S．　and　Christensen ，

H ．V・；　Breathing　in　珥an　during　steady ・state

exercise　on　the　bicycle　at　two　pedalling　fre－

quencies ，　and　during　treadmill　walking ．　J．

？辱 功 £251　：　645―656　（1975 ）　づ

15 ）　Krogh ，　A．　and　Lindhard，　J．；　The　regulation　of

respiration　and　circulation　during　the　initial

stage　of　muscular　work ．　JI？か函 。£47　：

112 ―136 　（1913 ）

16 ）　Martin ，　B・J。　Weil，　J．V・，　Sparks ，　K－E・，　McCul －

lough　R ．E．　and　Grover ，　R．F．；　Exercise　ventila －

tion　correlates　positively　with　ventilatory

chemoresponsiveness ．　J．　Appl．　Physiol－　45（4 ）：

557 ―564 　（1978 ）

17 ）　McCloskey ，　D．I．　and　Mitchell，　J．H，；　Reflex

cardiovascular　and　respiratory　responses　origi －

nating　in　exercise　muscle ．　J．　Physiol■　16：

30 ―34 　（1961 ）

18 ）　Miyamoto ，　Y。，　Hiura ，　T－，　Tamura ，　T－，　Naka －

mura ，　T・，　Higuchi，　J・　and　Mikami ，　T，；　Dy－

namics　of　cardiac ，　respiratory，　and　matabolic

function　in　men　in　response　to　step　work　load．

J．　AjゆZごJF）／りノぶZ ．　52（5 ）：1198 一一1208 　（1982 ）

19 ）　Miyamura ，　M．，　Folgering ，　H．Th。Binkhorst ，

R ．A・，　Smolders ，　F－D．J．　and　Kreuzer ，　F．；　Venti

latory　response 　to　C02　at　rest　and　during　posi－

tive　and　negative　work　in　normoχia　and　hyper －

oxia ．　Pflugers 　Aπ ん。347　；　341―350　（1976 ）

20 ）　Morgan ，　W．P．，　Raven ，　P．B．，　Drinkwater ，　B．L．

and　Horvarth ，　S．M．：Perceptual　and　metabolic

responsivity　to　standard　bicycle　ergometry　fol －

lowing　various　hypnotic　suggestions ．　Int．　J．

Clin ．　Exp・双 ゆ回 心 ，21　：　86―101　（1973 ）

21 ）　Natalino ，　M．R．，　Zwillich，　C．W．　and　Weil ，　J．V．；

Effects　of　hyperthermia　on　hypoxic　ventilatory

response 　in　normal　man．　jl£αゐ．　Clin．　Med．

89（3 ）：564 ―572 　（1977 ）

22 ） 大 薮 由夫 ， 佐 藤 み ど り， 大 裁 五 百 子 ；安 静 時 及 び

運 動 時 にお け る 低 酸 素 換気 ， 心 拍 数 応 答 の定 量 的

解 析， 日 本 体 育 学 会 第36 回 大 会 号 ：255 　（1985 ）

202 ¬

23 ）　Petersen ，　E、S．　and　Christensen ，　H．V．：Effects　of

body　temperature　on　ventilatory　response　to

hypo χia　and　breathing　pattern　in　man ．　J．

／りipL 　Phy ．ぶ1 ．42（4 ）：492 －500 （1977 ）卜

24 ）　Spode ，　R．　and　Schlafke ，　M．E．；　Influence 　of

muscular　e χ：ercise　on　respiration　after　central

and　peripheral　chemodenervati 　on．、Pfluger ・ ．

359 ，　R49 　（1975 ）　　　　　　　　　　　　　　 ＼

25 ）　Wasserman ，　K・，　Whipp ，　B．J．　and　Castagnia ，　J・；

Cardiodynamic　hyperpnea ：　Hyperpnea　second ・

ary　to　cardiac　output　lncrease ．ヱy り ＞pL　PhysioL

36　：　457―464　（1974 ）　　　　　　　 ‥

26）　Wassennan ，　K．；　Breathing　during　eχercise．　N．

Engl ．　J．　Med ．・　298　：　780―785　（1978）

27）　Weil，　J．V．，　Byrne－Quinn，　E．，　Sodal，　I．E．，　Kline，

J．S・，　McCullough，　R．E．　and．　Filley，　G．F．；　Aug－

mentation．　of　chemosensitivity　during　mild　eχ－

ercise　in　normal　man．　J．　Appl．　j胥y痂 厶33（6）：

813―819 　（1972）

28）　Yonge，　R．P．　and　Petersen，　S－”，　Entrain　ment　of

breathing　in　rhythmic　exercise．　in　Modelling

and　control　0f　breathing．　ed．　by　Brian　J．　Whipp

and　Donald　M．　Wiberg，　Elsevier　Science

Publishing　Co・，　Inc．　：　197―204 　（1983）