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copyright since 2008 TASUC. ALL RIGHT RESERVED. 文章や,写真の転載,研究会等での無断使用はお止めください。 著作権は,ご本人と,たすく株式会社が保持しています。 For Challenged Children 2012.12.27 たすく株式会社 主催 教材マスターの集い MAX Case: エリ さん 小学5年生 特別支援級 JsKep 2.7

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Page 1: 教材マスターの集い MAX 実践報告書 - TASUC · 2014. 9. 10. · ル・アプリの中に,お金のページを作りまし た。そして,お金の学習の前に,iPod

 Case エリさん

copyright since 2008 TASUC. ALL RIGHT RESERVED.文章や,写真の転載,研究会等での無断使用はお止めください。著作権は,ご本人と,たすく株式会社が保持しています。

For Challenged Children

2012.12.27 たすく株式会社 主催

教材マスターの集いMAX

実 践 報 告 書

C a s e : エリさん小学5年生 特別支援級

J☆sKep 2.7

Page 2: 教材マスターの集い MAX 実践報告書 - TASUC · 2014. 9. 10. · ル・アプリの中に,お金のページを作りまし た。そして,お金の学習の前に,iPod

Case:

エリさん(小学6年)

■たすくと出会ったとき たすくと,エリさんとの出会いは,小学1年生の可愛らしい時です。物音などに注意が散ってしまうことと感覚の過敏に配慮して,集中できる環境づくりが欠かせませんでした。また,音声を聞いたり,聞きとることが難しく混乱することがありました。J☆sKepでは,注視物の選択と表出性の

コミュニケーションを重視して,課題学習を積み重ねました。現在J☆sKepは,2.7点になり,立派

なお姉さんになってきました。

■この一年間を振り返って  エリさんの療育は,優位である視覚的な手掛かりだけでなく,しっかりと音を聞いて判断することがテーマでした。書字や計算,お金の勉強をとおして,J☆sKepの注視物の選択を重視してきま

した。行動が落ち着き,見通しをもって取り組むことができるようになり,注目すべき刺激に注目

して,“耳を開いて,勉強する”ことができるようになってきました。

 Case エリさん

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  娘のエリの様子について,発表致します。現在小学5年生で,特別支援学級に通っています。

[スライド1]   娘は,モノ・トラックという特性があり,同時に複数の情報を処理することが難しいことがあります。  聴覚よりも,視覚的な情報処理が優位です。視覚的な情報処理が優位ですが,注目して欲しいところ以外に焦点が定まってしまうことがあります。例えば,興味があることはパッと注目するのですが,興味が無いことは,見えるんだけど見ていない,見ないという状態です。また,必要な音声のみをキャッチすることが苦手です。聞こえているけど,本人にとって興味が無いことや必要が無いことは聞かない。よく“耳が閉じている”と言われますが,そういう状態です。そして,発語が無く,復唱することが難しいです。これは,オウム返しではなく,コミュニケーションが取れないということです。でも,関係ないことは,ずっとしゃべっています。そういうタイプの子どもです。  手続き的な記憶が得意ですが,手続きだけが入ってしまい,応用が利かないことがあります。

[スライド2]

  機能的な目標のうち,お金についての課題は,硬貨の弁別の段階から始めて,「複数の硬貨が入っている財布の中から,値段に応じて支払うことができる」ということを目標にして,取り組みました。

[スライド3]

  システム理論の位置付けは,静態的システムのところにいますが,流動的システムに行ったり,戻ったりしながら,流動的システムの所に移れるようにチャレンジをしています。

[スライド4]

 Case エリさん

[スライド1]

[スライド2]

[スライド3]

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 療育は,次のようなステップで進めました。最初は,硬貨の弁別を行いました。ここでは,金額表示の数字に注目できるようにしました。  2番目に,10円や100円硬貨を,複数枚取り出す課題に取り組みました。この課題に取り組むために,量の理解を深めることをねらって,粒タイルを使いました。聞き取りが苦手だったのですが,アセスメントで,iPadを使うと音声を聞き取りやすいことが分かったので,iPod touchを活用して,聞き取る力を付けることにも取り組みました。 3番目に,値段に応じて支払う課題 に取り組みました。ここでは, 100円と10円の2種の硬貨を使いました。このときに,見わけることと聞きとる力を活用しました。  4番目に,値段に応じて支払う課題として,3種の硬貨を使って,153円などのちょうどの金額を支払うことに取り組みました。

[スライド5]

  では始めに,硬貨の弁別の学習を振り返ります。まずは,硬貨の弁別の前に,硬貨の写真と硬貨のマッチングに取り組みました。100円や10円に注目することが難しかったので,硬貨の写真の数字をなぞらせていました。最初は,いくら手でなぞらせても,目が違う所を見ていましたが,継続するうちに,何となくなぞるようにはなりました。ただ,確実に分かるようになったのは,iPod touchを使ったときでした。

  このあとに,硬貨の弁別に取り組みました。イラストよりも,本物の方が分かりやすかったので,硬貨の写真を使用しました。同じ硬貨をケースに入れた後は,硬貨の写真と硬貨を順番に指差して,「10円」「10円」と音声を聞かせながら確認をしました。次に,硬貨の写真と硬貨のマッチングができるようになったので,イラストと硬貨,そして金額表示と硬貨のマッチングに,ステップアップしていきました。これらの過程を経て,硬貨の弁別ができるようになりました。

 次に,10円や100円硬貨を,数字に応じて複数枚取り出す課題に取り組みました。この課題では,3までの数は出せるようになりましたが,4枚以上になると,あやふやでした。そこで,タイルをヒントにして,硬貨を並べるようにしてみましたが,5のタイルに対して,硬貨を4枚置いて終わるなど,タイルと同じ数の硬貨を置くことが分かっていませんでした。

 Case エリさん

[スライド5]

[スライド4]

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[スライド7]

  この頃,アセスメントで,iPadの音声を聞くことができたという出来事がありました。そこで,iPod touchを購入し,たすくスケジュール・アプリの中に,お金のページを作りました。そして,お金の学習の前に,iPod touchを使って,硬貨の写真を自分で押すことで,注目したときに金種の音声を聞かせるようにしました。これにより,前は,私がいくら言っても聞いていなかったのに,「300円」などの音声を聞いて,正しい硬貨を選べるようになっていきました。

[スライド8]

 Case エリさん

  そこで,タイルを硬貨と同じサイズに変更しました。これにより,タイルと硬貨を1対1対応で置けるようになりました。また,以前やっていた数字とタイル並べの課題に再度取り組むことにしました。缶づめのタイルを使った数字とタイル並べは,終わっていたのですが,量が分かっていないのではないかということで,粒タイルを使って取り組むことにしました。並んでいる粒タイルを見て,何となく量をつかんでいたので,数字を指差して「4」と確認した後,「1,2,3,4」と同じ数の粒タイルをボードに移動させ置く練習をしました。これらの取り組みを経て,量が分か

るようになり,小さいタイルを手掛かりにしても,タイルの数と同じ枚数の硬貨を出せるようになりました。

  これができるようになったので,次は,位取りの枠を使って,数字に応じて,30円や300円などの硬貨を出すことに取り組みました。始めは,金種を置く位置を示す硬貨のイラストをヒントにしていました。また,金額表示も,数字が小さいと,硬貨をどこに置いて良いのか分からないので,位取りの枠と同じサイズになるようにしていました。

[スライド6]

[スライド6]

[スライド7]

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 その後,150円などの2種の硬貨を出す課題にも取り組みました。ずっと10円玉だけ,100円玉だけを別々に出すという手続きが入っていたので,2種の硬貨を出すということが,なかなか難しかったです。例えば,120円の表示を見て,100円も10円も2枚出してしまうことなどがありました。 そこで,硬貨を置く場所を指差してみせたり,「◯百円」などの言語的プロンプトを聞かせたりしながら療育を続けたところ,100円と10円硬貨を使った支払いができるようになりました。また,始めは,硬貨のイラスト表示を見ながら硬貨を置いていましたが,次第にイラスト表示をチラッと見て,ヒントにしながら支払うようになり,最終的には硬貨のイラストが無くても,支払えるようになっていきました。

[スライド9]

  次に,1円も加えて,3種の硬貨を使った支払いを開始しました。1円玉は初めて使いましたが,一度見本を見せてもらったら,以外とすんなり支払うことができました。この頃から,支払う場所に置いていた位取りの枠をはずし,直接トレイに硬貨を置くようにしました。始めは,金額表示の上に硬貨を並べていましたが,繰り返し取り組むうちに,金額表示を呈示する位置を上にしたり,小さな金額表示をトレーの外に呈示したりするなど,金額表示の呈示方法を変更しました。その結果,写真の下に小さく3桁の数字が書いてあるカードを見ても,ちょうどの金額を支払うことができるようになりました。コツコツやったので,本人の中に,数字を見ようとする意識が育ち,支払うことができるようになったのではないかと思っています。

 Case エリさん

[スライド8]

[スライド9]

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[スライド10]

  最後にまとめです。療育の結果,3桁のちょうどの金額を支払うことができるようになりました。また,視覚的な指示や音声の指示に注目しやすくなりました。思考しているときのジャーゴンが減りました。以前は,療育をしているときに,鼻歌を歌ったり,ずっとしゃべっていた子だったのですが,集中しているときには,そのようなことが減っていきました。そして,手続きが入ってしまって,硬貨の枚数に関係なく,「お金を出せばいいんでしょ!」というようになってしまっていた状態から,じっくりと考えてから支払えるように変ってきました。  今後の課題です。モノトラックなので,財布を開いて硬貨を出すという手続きがあると,分からなくなってしまうため,家では,硬貨をトレーに入れた状態で支払っていました。療育で財布を使っていたので,そろそろ家でも財布を使おうと思ったのですが,本人が,家ではトレーを使うと思っていて,お金をトレーに出してから支払う手続きが抜けていない状況です。家でも財布を使って支払うことに取り組みたいと思っています。また,お店でお金を支払うことも,練習していきたいと思います。  そして,見ることや聞くことができるようになってきたので,見て聴いた情報を頭に留め置いてできるような,ワーキングメモリを使った学習をしていきたいと思います。

 Case エリさん

[スライド10]

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 Case エリさん

質 疑 応 答

Q. 金額表示の呈示方法を変えたときに,「何でここに置いてあるの?」というようには,ならなかったですか?

A.  そうなるかと思っていたのですが,意外にスムーズでし。家では,無理だと思って

いたので,ずっと同じ位置に呈示していましたが,たすくの療育で試してみたら,「できた!」ということでした。この段階にくるまでが大変だったのですが,この段階にきたら,新しいパターンを受け入れることができるようになりました。

Q. 今までの積み重ねの中で,色々なやり方をやって,受け入れられるようになったということですか?

A. そうだと思います。

  本人は,復唱をしないので,153円の表示を見て,1,5,3の数字の羅列と思っているのか,153円と固まりで見ているのか分からないところがありました。でも,金額表示の位

置を変えたり,小さな金額表示を見て支払ったりしたことにより,153円と固まりで捉えることが分かりました。

Q. 147円などの支払いは,どうですか? A.  5円までしかやっていません。5円玉や50円玉を使うのは難しいので,まだ取り組んでいません。

Q. 他に使ったアプリを紹介してください。

A.  単語を読み上げるアプリや,数字を押すと読み上げるアプリを使いました。数字とタイル並べの課題の前に,アプリを使って

数字を聞かせるようにしたところ,数字とタイル並べの課題でも数字を聞くようになっていきました。 アプリを使って,数字に興味を持つことができたから,課題にも進みやすくなったと思っています。

Q. 日常的には,変化がありましたか?

A. こちらが言ったことを,わりと聞けるようになりました。身体は多動ではなく,座っているんだけど,目が全然違う所を向いて

いたり,耳も一つのことに集中しないタイプなので,苦労しました。今は,何か言っているぞということが分かるので,聞こうとしたり,見ようとしたりしているのだと思います。

<発表者より>

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 Case エリさん

Q. 主体的に,自分でやろうと思わないと,なかなか進まないですよね。やらされ感だけでは,だめですね。

A. うちも,そういうタイプです。やらされ感が強いと,「やればいいんでしょ!」とい

うようになってしまいます。分かってくると,「自分でやります!」というようになってきました。でも,ここまでくるのに1年半位かかりました。聞けるようになったことが大きいですね。

Q. うちの子も,見分ける,聞き分けることが難しいです。発表を聞いて,丁寧に積み重ねることが大切だと改めて思いました。難しいときに,こうしてみようというアイディアは,お母さんが思いつくのですか?たすくの先生と密に話していくのですか?

A.  現物が良いとか,お金とタイルが同じ大きさが良いとかは,私のアイディアです。聞くということについては,iPod touchが使えるというのは,私には無い発想でした。絵本を読み聞かせようとしても,耳をふさいで,聞かない子だったので。たすくスケジュールに入っている私の声は,聞くんです。何で?と思いますよね。

質 疑 応 答

 うちの子も,手続きは入るのですが,どうしても中身の理解まで進めません。見ることと聞くことが合わさることが大切だと分かっていても,どこから手をつけたらよいのか分

からない状態です。今回の発表を聞いて,iPod touchなどを使わせてみようかな。きっかけを見つけてあげられたらと思いました。

 タイル並べも長い期間やっていましたね。  家だと,色々な雑音をひろってしまい,気が散ってしまうので,雪ノ下の学びの基

地に行ったときに,自立課題の時間に,防音の部屋で取り組みました。週1回位やっていました。

Q. “見分ける” “聞き分ける” 課題には,この教材が合っていたということですか?

A. 以前は,見せようと思っても,聞かせようと思っても,全然だめだったけど,iPod

touchを聞くことがよいきっかけになったと思います。聞き取りやすい音域に調整されていることも,聞き取りやすさにつながったのかもしれません。

<発表者より>

<ご意見>