ユーザの選択したボックスを基点に多様な3次元形状に変形する棚 · 2013....

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ユーザの選択したボックスを基点に多様な 3 次元形状に変形する棚 A shelf which transforms into various forms with input from users 1w130343-9 谷口 恵一朗 指導教員 橋田 朋子 准教授 TANIGUCHI Keiichiro Assoc. Prof. HASHIDA Tomoko 概要:本研究では,ユーザの選択したボックスを基点として,多様な 3 次元形状に変形する棚を提案する.リフ ト上に 3 個のボックスを積み重ね,昇降によりボックスの展開を行う.そのリフトを平面上に縦 3 基,横 3 基で 配置することにより 3 次元の形状を構築する.加えて,ユーザの使用したボックスの位置を基準として,遺伝的 アルゴリズムによる多様なパターンの生成も行い変形させる.これにより変形した棚は,ユーザの意図した形状 とは細部で異なる形状となり,ユーザの使用に刺激を与えることが可能となる.ユーザによる使用実験を行い, 収納の傾向やユーザごとの特徴,変形に対するアンケートなどから得られたデータについて実装の詳細と共に報 告する. キーワード:家具,棚,3 次元ディスプレイ,遺伝的アルゴリズム Keywords: furniture, shelf, 3D display, genetic algorism 1.はじめに 近年,家具の機能を発展させる研究が盛んに行われ ている.それらの研究では Fletcher Capstan Table[1] のように家具に対して変形や移動といった手法をとる ものが多い.しかし,変形できる形状が少なく,平面 的な拡張のみに留まるという問題点がある.一方で自 己増殖という,小さなブロックが自律的に組み合わさ り多様な形状を再現する研究も行われている[2].自己 増殖の研究として,自律移動,結合が可能で,家具の 運搬や家具の形成を行う roombots[3]が存在するが, 本研究のように家具がユーザの使用状況に基づいたラ ンダムな提示を行うことはない. そこで,本研究では,この自己増殖の要素を家具に取 り入れ,小さなブロックの集合とみなせる棚での実装 を提案する. 2.提案手法 本研究では,棚の変形をボックスの押し出しによっ て行う.押し出し式では,棚の重量を支えることが可 能である.上下方向に昇降するリフトに縦 3 個のボッ クスを設置し,横方向と奥行き方向に 3 個ずつアレイ 状に並べることで 3 次元の形状を構築する. 多様な形状パターンを提示する手法の 1 つとして,遺 伝的アルゴリズムを用いる.遺伝的アルゴリズムとは, ランダムで生成された多数の個体が,それぞれの適応 度に従い交配を繰り返し,適応度を増加させていくプ ログラムのことである.適応度をユーザの使用した段 との一致度とすることで,ユーザの意図を反映したラ ンダムな形状を作成する.繰り返し使用することで, ユーザの使用傾向を反映することができる.以降この 手法を形状進化と呼称する. 3.実装 本システムは変形機構と制御機構で構成される(図 2).変形機構は,リフトを用いてボックスを昇降させ 棚の形状を変形させるための機構である.2 つの Arduino Mega と 9 基のリフトで構成される.棚は縦に 3 個のボックスを積み上げた形状となっており,リフ トにより 1 ボックスずつ昇降を行う.昇降は赤外線測 距モジュールにより位置を計測しているため,収納物 の重量によらない制御が可能である.制御機構では, PC 内の Processing を用いて棚の形状を決定する形状 進化プログラムを実行する機構となっている.ユーザ の使用したボックスの位置を入力とし,その形状を反 映したランダムなパターンを作成し Arduino Mega へ送 信し変形させる.このプログラム内で何試行行えば適 応度が上昇するかの予備実験も行い,75 回という結果 が得られ,その回数を形状進化プログラムに使用した. 図1 提案システム(a.変形前,b.変形後)

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Page 1: ユーザの選択したボックスを基点に多様な3次元形状に変形する棚 · 2013. 3. 25. · ている.それらの研究ではFletcher Capstan Table[1] のように家具に対して変形や移動といった手法をとる

ユーザの選択したボックスを基点に多様な 3次元形状に変形する棚

A shelf which transforms into various forms with input from users

1w130343-9 谷口 恵一朗 指導教員 橋田 朋子 准教授

TANIGUCHIKeiichiro Assoc.Prof.HASHIDATomoko

概要:本研究では,ユーザの選択したボックスを基点として,多様な 3 次元形状に変形する棚を提案する.リフト上に 3個のボックスを積み重ね,昇降によりボックスの展開を行う.そのリフトを平面上に縦 3基,横 3基で配置することにより 3 次元の形状を構築する.加えて,ユーザの使用したボックスの位置を基準として,遺伝的アルゴリズムによる多様なパターンの生成も行い変形させる.これにより変形した棚は,ユーザの意図した形状

とは細部で異なる形状となり,ユーザの使用に刺激を与えることが可能となる.ユーザによる使用実験を行い,

収納の傾向やユーザごとの特徴,変形に対するアンケートなどから得られたデータについて実装の詳細と共に報

告する. キーワード:家具,棚,3次元ディスプレイ,遺伝的アルゴリズム

Keywords:furniture,shelf,3Ddisplay,geneticalgorism

1.はじめに

近年,家具の機能を発展させる研究が盛んに行われ

ている.それらの研究では FletcherCapstanTable[1]

のように家具に対して変形や移動といった手法をとる

ものが多い.しかし,変形できる形状が少なく,平面

的な拡張のみに留まるという問題点がある.一方で自

己増殖という,小さなブロックが自律的に組み合わさ

り多様な形状を再現する研究も行われている[2].自己

増殖の研究として,自律移動,結合が可能で,家具の

運搬や家具の形成を行う roombots[3]が存在するが,

本研究のように家具がユーザの使用状況に基づいたラ

ンダムな提示を行うことはない.

そこで,本研究では,この自己増殖の要素を家具に取

り入れ,小さなブロックの集合とみなせる棚での実装

を提案する.

2.提案手法

本研究では,棚の変形をボックスの押し出しによっ

て行う.押し出し式では,棚の重量を支えることが可

能である.上下方向に昇降するリフトに縦 3 個のボッ

クスを設置し,横方向と奥行き方向に 3 個ずつアレイ

状に並べることで 3次元の形状を構築する.

多様な形状パターンを提示する手法の 1 つとして,遺

伝的アルゴリズムを用いる.遺伝的アルゴリズムとは,

ランダムで生成された多数の個体が,それぞれの適応

度に従い交配を繰り返し,適応度を増加させていくプ

ログラムのことである.適応度をユーザの使用した段

との一致度とすることで,ユーザの意図を反映したラ

ンダムな形状を作成する.繰り返し使用することで,

ユーザの使用傾向を反映することができる.以降この

手法を形状進化と呼称する.

3.実装

本システムは変形機構と制御機構で構成される(図

2).変形機構は,リフトを用いてボックスを昇降させ

棚の形状を変形させるための機構である.2 つの

ArduinoMega と 9 基のリフトで構成される.棚は縦に

3 個のボックスを積み上げた形状となっており,リフ

トにより 1 ボックスずつ昇降を行う.昇降は赤外線測

距モジュールにより位置を計測しているため,収納物

の重量によらない制御が可能である.制御機構では,

PC 内の Processing を用いて棚の形状を決定する形状

進化プログラムを実行する機構となっている.ユーザ

の使用したボックスの位置を入力とし,その形状を反

映したランダムなパターンを作成しArduinoMegaへ送

信し変形させる.このプログラム内で何試行行えば適

応度が上昇するかの予備実験も行い,75 回という結果

が得られ,その回数を形状進化プログラムに使用した.

図 1 提案システム(a.変形前,b.変形後)

Page 2: ユーザの選択したボックスを基点に多様な3次元形状に変形する棚 · 2013. 3. 25. · ている.それらの研究ではFletcher Capstan Table[1] のように家具に対して変形や移動といった手法をとる

4.実験

本研究ではユーザスタディを行い,実験 1ではユーザ

の意図した形状に変形する棚の評価を,実験 2 では形

状進化を行う棚の評価を行う.手順としては,実験 1,2

共にサンプルを棚に入れてもらい,それに応じた変形

を行うという内容である.3個,6 個,9 個の 3 サンプ

ル数で 5 回ずつ実験を行い,最後にアンケート調査を

行う.20-23 歳の男女 8 名に実験を行った.本実験で

はサンプルの収納を目視で確認しプログラムに直接入

力した.

実験 1 と実験 2 において,ユーザがどのボックスに

収納したかの傾向を比較した.その結果,形状進化な

しの棚で使用される傾向の低かったブロックも,形状

進化ありの棚では使用される確率が上がった.また,

全体的に最下段の使用率に平均 1.98%の上昇がみら

れた.

実験 2 において,ユーザが初期に指定した形状から

5 回使用し続けた形状の一致度を形状一致率,新規に

発生した棚に対してユーザが使用した割合を新規ボッ

クス使用率としてプロットしたものが図 3である.

相関係数は-0.91 であり,形状一致率と新規ボック

ス使用率は強い負の相関を示す.また,新規ボックス

使用率の標準偏差は 0.3 であり,ユーザ間に顕著な差

があることも判明した.これにより,本研究で実装し

た棚はユーザによって変化の度合いが異なることが判

明した.

アンケートの結果を図 4に示す.「そう思う」を 5,「や

やそう思う」を 4,「どちらでもない」を 3,「あまりそ

う思わない」を 2,「そう思わない」を 1とし,平均を

とった.「①サンプルを簡単に収納できた」,「②置いた

サンプルが見やすくなった」,「③置いたサンプルが取

り出しやすかった」の設問では結果は形状進化あり,

なし共に非常に高い数値が得られた.棚の形状が変化

することが利便性の向上につながるかことを示せた.

「④変形後の形状は予想外だった」,「⑤変形後の形状

で新たに発見があった」,「⑥今までとは異なる置き方

をしたくなった」の 3 つの設問では形状進化ありで上

昇した.これにより,形状進化がユーザに影響を与える

ことが判明した.

5.今後の展望

棚を大型化することにより,ショウウィンドウのよ

うに複数のユーザに対して同時に変形を提示させるこ

とが可能となる.また,本実験では内部に収納された

サンプルの種別は識別しないが,内部のコンテンツを

識別することでより変形の多様性を広げられると考え

られる.

参考文献

[1] Fletcher Capstan Table, http://www.dbfletcher.com.

Accessed on January 22, 2017

[2] Self-Assembly Lab, http://www.selfassemblylab.net/.

Accessed on February 1, 2017

[3] Alexander Sproewitz, Aude Billard, Pierre Dillenbourg,

Auke Jan Ijspeert: Roombots—Mechanical Design of

Self-Reconfiguring Modular Robots for Adaptive

Furniture, ICRA’16, pp.4259-4264, 2016

図 2 システム概要

図 3 形状一致率と新規ブロック使用率の関係

図4 アンケート結果