センサーネットワーク - rohm · 2020-06-09 · 3 ne handbook...

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NE Handbook Sensor Networks

NEハンドブックシリーズ

センサーネットワーク

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身のまわりから遠隔地まで、あらゆる情報が瞬時に測定され、

相互につながるセンサネットワーク社会。

ロームグループは多様な小型・高性能センサをはじめ、マイコン、無線通信技術を

組み合わせ、お客様に最適なセンシングソリューションを提供してまいります。

センサネットワーク社会の実現をロームは技術の総合力で支えます。

ロームのセンシングソリューション

照度

 UV ホール 温度 地磁

気 圧力 加速度 ジャイロ タッチ イメージ 赤外線

ローパ

ワーマイコン 無線

通信用マイコン センサコントローラ

WiFi

Bluetooth EnOcean 920MHz

ウェアラブル  モ

バイル  ヘルスケア  セキュリティ  ビッグデータ

インフラ  交

通  工場 

病院  物流  商業施設  オフィスビル  住宅  農場

RF

MCU

Sensing

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NE

Ha

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bo

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[全体動向] 2 生活や社会活動の傍らに置かれた センサーが切り拓く情報化の新時代

[応用事例●人体]10 五感超えで医療・ヘルスケアへ [応用事例●クルマ]16 多様なセンサーでADAS支える [応用事例●土木 /橋梁]20 センサー駆使しインフラ保全 [応用事例●建築 /ビル]26 ITで省エネ、小規模ビルにも [応用事例●農業]30 作物の状況が見える化

[最新動向●トリリオンセンサー]34 1兆個センサー、新ビジネス生む [最新動向●IoT、IoE、ビッグデータ]44 モノが膨大なデータを生む [最新動向●エネルギーハーベスティング]46 「ローパワー」から「ノーパワー」 [最新動向●無線ネットワーク]50 用途ごとに多様な方式が共存 [最新動向●赤外線センサー]52 クルマから応用拡大 [最新動向●スマートメーター]54 家電もネットワーク制御 [最新動向●MEMSセンサー]55 民生機器で実績積む [最新動向●CMOSセンサー]56 画像データ取得の要

contents

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[全体動向]

(1)データを分析・解釈する技術を高度化

センサー技術に組み合わせる技術マイクロプロセッサー、FPGAなどの利用技術デジタル信号処理技術

応用分野自動車の自動運転、医療での非接触・非侵襲の検査など

(2)多くのデータを収集・統合して役立つ情報を抽出

センサー技術に組み合わせる技術無線などネットワーク技術ビッグデータを活用する情報処理技術

応用分野建築物/農作物・家畜/エネルギーのモニタリングなど

 自動車、医療、建設、エネルギー、農業など、これまでエレクトロニクス化が進んでいなかった分野で、センサーとその利用技術を生かす動きが目立ってきた。 これまでセンサーは、単独の機器やシステムの動作を自動制御するために使うことが多かった。工場の工作機や製造装置を自動制御するファクトリーオートメーション(FA)、食品の温度をモニターしながら自動調理する電子レンジなどがその代表例である。こうしたセンサーの利用法が、大きく二つの方向に展開している(図1)。 一つは、センサーで収集したデータを分析・解釈する技術を高度化することで、新しい用途と価値を創出しようとする方向だ。自動制御をさらに進化させ、自動車に搭載する自動ブレーキ機能や、生体情報を常時収集できる医療機器のような、高度な安全性と信頼性が要求され

生活や社会活動の傍らに置かれたセンサーが切り拓く情報化の新時代

図1 センサーの利用法が二つの方向に進化

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NE Handbook

る分野でセンサーが活用されるようになった。 もう一つは、多くのセンサーで収集したデータを、ネットワーク技術を駆使して収集・統合し、生活や社会活動の質の向上に役立つ情報を抽出しようとする方向だ。ICT(情報通信技術)分野で開発と応用開拓が活発化しているビッグデータ関連技術の成熟が、こうした試みを加速している。今やセンサーは、高度な社会基盤(インフラ)を構築するためのキーデバイス「ソーシャル・デバイス」となりつつある。 これら2方向へと展開するセンサー利用技術の動向と、将来のさらなる応用拡大を後押しするセンサー自体の進化の方向性をもう少し詳しく見てみよう。

解析・解釈技術の発展による応用拡大

 まずは、センサーで収集したデータを分析・解釈する技術を高度化する方向での展開だ。 センサーから直接取り込まれるデータは、温度、圧力、加速度、照度などの物理量である。最も進化したセンサーの一つといえるイメージセンサーも被写体の照度分布を2次元的に取り込むことしかできない。被写体が何で、どのような状態にあるかといった機器制御をする上で意味のある情報を得るには、取り込んだデータを解析・解釈する必要がある。 このような、センサーから取り込んだデータから機器を制御する上で意味のある情報を抽出するための認識技術が、大きく進化している。その背景には、マイクロプロセッサーやDSP、FPGAといった情報処理に用いる半導体デバイスの高性能化と低価格化、さらにデータを効率よ

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全体動向

く解析・解釈するアルゴリズムの高度化がある。代表的な事例を見てみよう。 未来の自動車に向けた技術開発で、最もホットな分野といえるのが、自動運転機能である(pp.16-19参照)。自動運転機能を実現するためには、多種多様なセンサーを搭載しなければならない。具体的には、イメージセンサー、赤外線センサー、ミリ波レーダー、レーザーレーダー、超音波センサーなどの利用が検討されている。自動運転機能の前段階といえる自動ブレーキ機能が既に実用化し、EUでは2013年からすべての商用車への搭載が義務付けられるまでになった。イメージセンサーから取り込んだ

図2 自動車に応用したセンサーフュージョンの例日産自動車のQ50は、先行車で見えない前方の状況をミリ波レーダーで認識し、衝突回避を促す安全運転支援システムを搭載する(a)。単眼カメラも2個搭載し、それぞれ車線検出とハイビーム制御を行う(b)。

(a)ミリ波レーダーで2台前の車両を把握

(b)2個の単眼カメラを搭載

検出対象車

警告(表示、音) 自動ブレーキ

ミリ波が車両の床下と道路の間を通過

車線検出用の単眼カメラ

ハイビーム制御用の単眼カメラ

ミリ波レーダー

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車両周辺の画像を解析・解釈することで、周辺のクルマの位置や距離の把握、歩行者や車線の抽出などを行う。 自動ブレーキ機能を自動運転機能に発展させるためには、認識精度の向上が欠かせない。自動車メーカーやセンサーを供給するメーカー各社は、センサー単体の精度向上と並んで、複数のセンサーを統合するセンサーフュージョンに取り組んでいる(図2)。特徴の異なるセンサーを使い分け、いかに低コストで安全な自動運転機能を実現するかが、各社の腕の見せどころだ。

健康の常時モニタリングに向けて

 医療分野では、センサーで収集した情報を解析・解釈する技術を工夫して、生体情報を非接触・非侵襲で取得しようとする動きが出てきている。 これまで病状の診断に欠かせない生体情報を測定するためには、被験者の動きを拘束したり、電極を体に貼り付けたり、あるいは苦痛や不快感を与えたりする方法を取らざるを得ない場合が多かった。血圧や心電図の測定で、測定自体でストレスや緊張を感じた経験がある人も少なくないはずだ。 これに対し、非接触・非侵襲の測定は、測定されていることを被験者がほとんど意識することがない。正確さと利便性を兼ね備えた手法だ。健康状態を常時モニタリングするためにも必要な技術である。例えば富士通研究所は、イメージセンサーで被験者を撮影するだけで、心拍や脈拍を測定できる技術を開発した。画像処理技術を応用し、顔の動画の色成分を解析することで、脈拍を検出する。

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全体動向

ビッグデータの活用による応用拡大

 次は、センサーで収集したデータを収集・統合し、生活や社会活動の質の向上に役立つ情報を抽出しようとする方向での展開である。 ICT分野では、「ビッグデータ」「IoT(internet of things)」

「M2M(machine to machine)」などのキーワードに沿った技術や製品・サービスの開発による、新時代の情報システム創出が進んでいる(pp.44-45参照)。こうした情報システムとセンサーネットワークを組み合わせることで、これまで見えにくかった社会活動の様子を、様々な場所に配置したセンサーで収集した莫大な量のデータの中から抽出できるようになった。 米Google社は、仮想空間内の膨大な情報を整理することで、新しい価値を持った斬新なサービスを作り出した。センサーとビッグデータやIoTの融合は、こうした仮

図3 「TSensors Summit」(2013年10月)の様子

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想空間で起きた革新を、現実の空間にまで拡大するものだ。「今、この瞬間に起きている人は、世界中で何人いるのか」。こうした問いに即座に答える“神様の眼”のようなサービスが登場する可能性さえある。 センサー技術を開発する側でも、こうした将来を後押しする動きが出てきている。米TSensors Summit社は、毎年1兆個規模のセンサーを使う社会“Trillion Sensors Universe(1兆個のセンサーが覆う世界)”を目指すプロジェクトを立ち上げた(図3、pp.34-43参照)。これまでとはケタ違いに多くのセンサーを供給・利用するための技術開発と応用開拓をしていく。1兆個という数は、現在の年間センサー需要の約100倍に当たる。Trillion Sen-sorsプロジェクトでは、これまでセンサーを搭載していなかった機器や道具にも付与し、あらゆるものにICT技術の恩恵をもたらす世界を想定しているという。まさにIoTの実現に向けた技術だといえる。

センサー網を社会インフラとして活用

 日本でも、センサーを活用して社会を支える高度なインフラを構築するための国家プロジェクトが進められている。経済産業省は、「社会課題対応センサーシステム開発プロジェクト」を立ち上げた。同プロジェクトは、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)を通じて、技術研究組合NMEMS技術研究機構(以下NMEMS組合)に委託され、センサーの基礎技術や応用技術の開発が進められている。 日本には、新しい発想による社会インフラの再構築が必要な課題が山積している。建設分野では、社会・産業

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全体動向

インフラの経年劣化に伴う老朽化問題や震災などによる突発的障害の発生への対処が課題になっている(pp.20-25、26-29参照)。農業分野では、農業・畜産の安全・安心向上による対外競争力の強化が求められている(pp.30-33)。さらに医療分野では、到来する少子高齢化社会における医療費高騰問題などへの対処が必須だ。 こうした社会課題は、対象が大規模であること、および自然、動植物、人間という複雑系を取り扱うことから、原因となる現象の把握は容易ではない。現象の把握には、様々な角度から社会で起こっていることをつぶさに検知する情報収集が欠かせない。NMEMS組合では、種々の社会課題を解決するため、対象を常時・継続的にモニタリングし、現象を把握し、管理者に最適な判断材料を提供することを可能とする「社会課題対応常時・継続モニタリングシステム」を提案、その要素技術を開発している。

センサー自体が進化するインパクト

 現在進められている新しいセンサー応用の開拓は、既存のセンサーの活用を前提とした利用技術の開発によるものが多い。ただし、当然新しい用途に向けて新たに開発されたセンサーが登場すれば、応用開拓と普及はさらに加速することだろう。 これから求められるセンサーの進化軸として、以下のようなものが提示されている。これまで取り込めなかったデータへの対応、情報処理機能や通信機能の集積化、異質のセンサーの機能を一つにまとめるマルチモーダル化、同種のセンサーを複数個まとめるアレー化、利用場所の制限を小さくするための信頼性・耐環境性の向上な

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どである。 これまで取り込めなかったデータを検知するためのセンサー開発の事例を挙げる。ロームは、近赤外線を捉えるイメージセンサーで、皮膚から数cm程度の深さの体内の可視化を狙った研究を産業技術総合研究所と共同で進めている(pp.10-15参照)。これによって、ガン細胞を体外から可視化できる。また、血液の流れも可視化できるため、脳を流れる血液から、活性化している部分を知り、感情を読み取ることもできるかもしれないという。 一方、複数のセンサーや周辺回路を集積して、小型化や信頼性の向上などを図る技術もとても重要になる。クラウド技術の発達によって、情報の処理や蓄積は、必ずしもデータを取得するその場で行う必要はなくなっている。電子システムを運用しやすい整った環境で集中処理できる。これに対し、センサーが担う情報の入力機能は、データが生まれる最前線に分散配置しなければならない。このためデバイスには、過酷な環境に置かれることも想定し、小型化、低消費電力化、低コスト化を推し進める必要がある。 電子システムは、入力、出力、処理、蓄積、通信という要素で構成されている。このうち、出力はディスプレー技術など、処理はマイクロプロセッサーやメモリーなど、蓄積はメモリーやHDDなど、通信はネットワーク技術の進化で、それぞれの機能と性能が指数関数的に向上してきた。これに対し、入力機能は、他の機能ほどのペースでは進化してこなかった。逆に言えば、新しいセンサー技術の登場によって、社会の情報化が段違いの発展をとげる可能性が高まった。

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[応用事例●人体]

 「人体の見えなかった部分を可視化する」「ヘルスケアや介護で見守りコストを大幅に減らして事業化の敷居を下げる」―。 ここへきて、半導体や電子部品のメーカーから、医療・ヘルスケア・介護などの分野に向けた提案が相次いでいる。半導体・電子部品メーカーは、スマートフォンやパソコンなど民生機器を主な事業領域としてきたが、そこで実績のある高信頼かつ低コストの技術や新規開発の技術を取り入れて、適用範囲を非民生機器分野に拡大する狙いだ。 半導体を主力とするロームは、その応用範囲を早くから民生機器以外へ広げてきた。同社常務取締役 研究開発本部長の高須秀視氏は、開発方針に「20年前からMore than Moore(モア・ザン・ムーア)を掲げてきた」。主にパソコンやサーバー向け半導体の性能向上の指針である“Moore(ムーア)の法則”に背を向け、応用範囲の拡大に

五感超えで医療・ヘルスケアへ

図1 近赤外光で血管を鮮明に映す左はCIGS型イメージセンサーを使い波長880nmの近赤外光で撮影した画像。右は、880nmに加え、780nmと950nmの波長で撮影し画像処理を施して、血管を鮮明にした。(写真:ローム)

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適した研究開発に注力してきたのである。

新材料で人体やストレスを可視化

 同社が目指しているのは、例えば半導体の一般的な原料であるシリコンとは異なる材料を使って、化学や光学などとも相性の良い半導体を実現することだ。医療やバイオなどのセンサー開発や、超長期の稼働が可能な低消費電力のモニタリング製品が実現可能となる。これらを近い将来に身近な民生品に落とし込む狙いである。 新材料によるセンサーには、10µmの分解能があるX線イメージセンサーや紫外から赤外まで可視光以外の光を映すイメージセンサーがある。 その一つは、人体を可視化できるイメージセンサー(図1)。波長が可視光よりも長い近赤外光を使う。近赤外光には人体の内部まで3cm程度透過する性質がある。近赤外光LEDを照射して、反射光を専用撮像素子(化合物のCIGS膜を使った素子)で取り込む。近赤外光の中でも波

図2 生体認証にも応用可能左は可視光で撮像した指の映像。右は近赤外光で撮像した。(写真:ローム)

Visible Light Image NIR Image

Blood Vessel

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応用事例●人体

長を変えて像を取り込み、画像処理することで、血管など目的の対象物をより鮮明に映し出す。精度の高い生体認証にも応用できる(図2)。 血管を鮮明に撮像化できれば、精度の高い生体認証にも応用できるようになる。近赤外光はがん細胞も撮像化できる。波長1.2µmの近赤外光を使ってラマン散乱を応用することで、がん細胞を識別できる。 X線を使った撮像技術では、既存のX線装置よりも高精度で鮮明な透過像を得られる(図3)。魚を映すと10 µmの小骨まで見える。この技術を使い、乳がんを発見する装置向けの開発を進めている。 さまざまな波長の波を1チップでデジタル化するセンサーも開発中。紫外光、可視光、赤外光の各領域の光に

図3 X線イメージセンサーで魚の小骨が見えるロームが開発したX線を直接とらえるイメージセンサーで撮像した魚。(写真:ローム)

High resolution image can be captured!

SOI Pixel(INTPIX4)Pixel Size : 17um×17umNo. of Pixel : 512×832(= 425,984)Chip Size : 10.3mm×15.5mmVsensor=200V, 250us Int.×500(=1/8s)X-ray Tube : Mo, 20kV, 5mA

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反応するセンサー素子を組み合わせる。スペクトル・メーターを1チップ化した半導体デバイスといえ、小型で低消費電力な上に量産化すれば低コスト化しやすい。多くの物質を透過する性質があって、同時に物質固有の反射特性を持つテラヘルツ波の送受信モジュールも開発した。 低消費電力の半導体には、必要な時以外はオフにする“不揮発性デバイス”がある。 ロームは医療用デバイスだけではなく、医療機器も開発・販売している。バナリストはその一つ(図4)。被験者から微量の血液を取り込み、いくつかの項目(HbA1c、CRP、hsCRP)を5~6分で検査する。唾液も測定できる。これまで問診に頼っていたストレスのレベルを客観的な定量値で表現できる。 ストレスや緊張の度合いを測定する技術としては、指先などを流れる血液に緑色の光を当てて、反射光を測定する方法がある(図5)。血中のヘモグロビンは緑色の光を吸収するため、血流の状態に応じて反射波の強さが変

図4 わずかな血液で検査できる血液をチップに取り込み、機器にセットする。スタートボタンを押して6分で検査結果が出てくる。(写真:ローム)

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応用事例●人体

わる。ここから脈拍などが分かり、緊張やストレスのレベルに加え、血管の劣化や動脈硬化の有無などを推定することもできる。

人間機能の拡張で新産業を

 これらを使って「人間機能を拡張して、新しい産業を生み出す」(高須氏)可能性を同社は探っている。拡張とは、五感を超えたセンシングと、その結果のフィードバックによる人間機能のアップだ(図6)。 例えば新型センサーで、人間には見えない光を取り込み、聞こえない音を取り込み、取り込んだデータをユーザーに意識させないうちに認識させる。ユーザーへ作用するためには、脳や筋肉に直接働きかける。 さらにユーザーの意思や感情などをデータとして取り込むことができれば、新しい応用も開ける。「ユーザーの意図を読んで、その裏をかくような手を打つゲームができるかもしれない」(高須氏)。 同社は、新型デバイスによる事業化のため、現在、新規

図5 指先を流れる血液からストレスを測定緑色の光を指に当てて反射光から脈拍を測定できる。(図:ローム)

HemoglobinBlood vessel

Heart

Green LED Photo

Detector

What we can determinefrom the pulse wave

expansion/contraction

Variation ofblood stream

Hemoglobinabsorbs the light

1 pulse Pulse wave

Time

Light Attenuation

(absorption magnitude)

Attenuation byblood in vein

Attenuation byhuman tissue

Variation

Constant

Attenuation byblood in arteryAttenuation byblood in artery

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顧客の開拓に取り組んでいる。同社にとっての顧客は、従来ならエレクトロニクス機器メーカーだった。 しかし、今後は医療機器メーカーや介護サービス事業者などにも広がる。部品を単体で販売するのではなく、いわゆるソリューションで提供する。 例えばサービス事業者が、介護サービスにそのまま活用できる「完成システム」として提供しようとしている。同社の研究開発本部には、個々の手持ち技術をサービス事業者にソリューションで提示できるという営業部員を用意している。

図6 人間機能を拡張まずセンサーで人間の五感を拡張し、拡張させたセンシング機能で人間の五感にフィードバックする。さらにセンシング情報を人間にアクティブにアクチュエートする。人間の体にアクティブにアクチュエートすることによって人間の機能をアップさせる。(図:ローム)

センシング

センサーセンシング機能の拡大

五感

アクチュエー

人間機能アップ

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[応用事例●クルマ]

 “ぶつからないクルマ”に搭載される自動ブレーキなどは総称して、先進運転支援システム「ADAS(advanced driving assistant system)」と呼ばれている。ADASの普及を後押しする動きの一つが、規制強化である。欧州における新型車の安全性評価の基準である「EuroNCAP」は、2014年から評価項目として自動ブレーキと車線逸脱警報を盛り込み、2016年から歩行者検知を含んだ自動ブレーキを加える予定である。日本ではまず大型のバスやトラックで自動ブレーキ機能の搭載を義務化し、2014年11月から順次適用する。 障害物を検知するセンサーには、カメラや赤外線センサー、ミリ波レーダー、レーザーレーダー、超音波センサーなど複数の種類がある(表1)。現在の主流は「単眼カメラ+ミリ波レーダー」の組み合わせ。低コストの単眼カメラと、雨や霧などの悪天候や夜間でも認識精度が落

多様なセンサーでADAS支える

表1 自動運転に用いるセンサの主な方式の比較(パナソニックの資料を

性能 カメラ 赤外線センサー

ミリ波レーダー(76GHz)

ミリ波レーダー(79GHz)

ミリ波レーダー(24GHz)

レーザーレーダー

超音波センサー

検出距離

~40m程度 ○ ○ ○ ○ △ ○ ×~150m程度 ○ ○ ○ △ × ○ ×

距離分解能(30cm未満) × × × ○ ○ ○ ×角度検出範囲 ○ ○ × ○ ○ × △相対速度検出 × × ○ ○ ○ × ×耐環境性

雷雨・吹雪・霧 × ○ ○ ○ ○ × ×高温 ○ × ○ ○ ○ ○ ○低照度・暗闇 × ○ ○ ○ ○ ○ ○

備考 安価な単眼カメラと、高性能化を進めるステレオ・カメラがある

夜間でも人物や動物の熱を検知できる

低コスト化が急速に進んでいるが、利用可能な帯域幅が狭い

2015年以降に広帯域利用で測距精度が向上

今後、欧州や日本では限定的な利用に

中・近距離での3次元の環境センシングに強み

低コストで既に多くの車両に搭載されている

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NE Handbook

ちないミリ波レーダーによって補完し合っている。軽自動車を中心とする低価格車では、赤外線レーザーレーダーを採用する動きも活発だ。 自動運転の実現に向けては、複数の認識センサーを統合制御するセンサーフュージョンに各社は力を注ぐ方針だ。認識センサーの主軸になるとみられるのが、カメラである。 「日産自動車が思い切りましたね」─。2013年9月以降、ADAS関係者の間であいさつのように交わされている言葉だ。“思い切った”とは、日産自動車が「第65回フランクフルト・モーターショー(Internationale Automo-bil-Ausstellung:IAA)」で発表した新型「エクストレイル」を指したもの。 同車は単眼カメラ1個で自動ブレーキを実現した。前方障害物の測距用センサーとして単眼カメラを採用したのだ。測距センサーとしては、ミリ波レーダーやステレオカメラなどがよく使われる一方で、単眼カメラは精度を不安視する声が大きかった。

性能 カメラ 赤外線センサー

ミリ波レーダー(76GHz)

ミリ波レーダー(79GHz)

ミリ波レーダー(24GHz)

レーザーレーダー

超音波センサー

検出距離

~40m程度 ○ ○ ○ ○ △ ○ ×~150m程度 ○ ○ ○ △ × ○ ×

距離分解能(30cm未満) × × × ○ ○ ○ ×角度検出範囲 ○ ○ × ○ ○ × △相対速度検出 × × ○ ○ ○ × ×耐環境性

雷雨・吹雪・霧 × ○ ○ ○ ○ × ×高温 ○ × ○ ○ ○ ○ ○低照度・暗闇 × ○ ○ ○ ○ ○ ○

備考 安価な単眼カメラと、高性能化を進めるステレオ・カメラがある

夜間でも人物や動物の熱を検知できる

低コスト化が急速に進んでいるが、利用可能な帯域幅が狭い

2015年以降に広帯域利用で測距精度が向上

今後、欧州や日本では限定的な利用に

中・近距離での3次元の環境センシングに強み

低コストで既に多くの車両に搭載されている

基に本誌が作成)

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応用事例●クルマ

単眼カメラで自動運転

 その壁を越える単眼カメラシステムを開発したのが、イスラエルMobileye社である。同社はこれまでにも、車両や歩行者の警告、白線を検知して走行中に車線から外れそうになると警報を鳴らす機能を提供してきた。今回のエクストレイルで、単眼カメラが制動を伴う自動ブレーキに使えることを示した。 単眼カメラの性能をアピールすべく、Mobileye社は単眼カメラ1個で自動運転できる車両を試作済み。2012年からイスラエルの公道で走行試験を繰り返しているという。さらに、2014年夏ごろの完成を目指して、複数の単眼カメラを用いた自動運転車を開発している。 自動車メーカーの中には、単眼カメラ一つでは不安という声があるのも事実。そこで、「複数の単眼カメラで認識精度の向上や冗長性の確保を実現したい」(同社)とする。具体的には、製品化済みの視野角度が52度の単眼カメラを中距離検知用に利用する。加えて、200m以上の遠方を監視できるように視野角度を26度に狭めたものを並べて配置する。

ステレオカメラも続々

 単眼カメラに対してステレオカメラは、対象物の認識や距離推定の精度に優れるが、使いこなしには多くのノウハウが必要となる。今のところ、富士重工業の「EyeSight」に採用されている日立オートモティブシステムズの製品が先行しているが、2014年から2015年にかけてドイツRobert Bosch社や同Continental社がステレオカメラの新

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NE Handbook

製品を投入することで競争が激化しそうだ。Bosch社は、2個のカメラ間の距離が12cmと短いステレオカメラを開発した。日立オートモティブシステムズの製品は同35cmで、「小型で取り付けやすい点を訴求していく」(Bosch社)。 カメラと組み合わせるミリ波レーダーも低価格化が急速に進展している。2000年ごろはミリ波レーダーを搭載するシステムは40万円以上もした。それが、2015年にはついに1万円を切りそうな勢いである。最大の変化は、使用する高周波回路の材料。かつてGaAsを使っていたミリ波レーダーは徐々にSiGeが主流になっていった。そして、2015年にはより低コストのSiを使えるようになる。しかも、大手ファウンドリーに生産を委託することで、一気に価格を下げられる。 材料以外では、ミリ波に用いる周波数の帯域幅の拡大も大きく寄与しそうだ。ミリ波レーダーは現在、世界的に76G〜77GHz帯が利用されている。ただし、帯域幅は0.5G〜1GHzと狭く、歩行者検知の用途に向けた高分解能化が難しかった。 だが、2015年にはITU-R(国際電気通信連合の無線通信部門)において国際的に76G〜81GHzまでを車載レーダーで利用できるようにする案が承認される見込みである。これによって、1GHz以上の帯域幅を用いることができ、ミリ波レーダーによる歩行者検知が可能になる。 この他、注目が集まるのが3次元レーザーレーダーだ。これまで軍用向けだったが、車載に向けた開発が活発になっている。例えば、Bosch社は「自動運転に必須な第3センサーを開発中」としており、3次元レーザーレーダーの開発を進めているもようだ。

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[応用事例●土木/橋梁]

 建設から30~50年を経過し、耐用年数を過ぎようとしている道路や橋は数多い。これに、インフラの保全・保守を担当する技術者たちの高齢化、人口減少が加わり、インフラの保守・保全は社会全体の大きな課題になっている。この課題解決に向けたソリューションとして注目されているのが、モノの状態変化を自動的に測定し、変化の傾向を把握できるようにするセンサーネットワークである。 例えば震災時に橋にかかった力や、橋を構成するパーツの位置変化などをモニタリングすることで、通常時とどのくらい違ったことが起こっているのかをチェックする。通常かかっている負荷をモニタリングし続けることで、累計の負担を把握すれば、保全・補修の時期が近づいているかどうかも判断しやすくなる。老朽化が進んでいる橋などの保全にはうってつけの策である。保守や保全を自動化できるわけではない。あくまでも人の手による作業を効率化し、素早い状況判断を可能にするための補完的なツールだ。それでも、担い手が減っていく今後のインフラ保全には欠かせない仕組みといえよう。 こうしたセンサーによるモニタリングを実施する例は、徐々に増えてきている。国内で著名な例の一つは東京ゲートブリッジである。ほかに、首都高速道路も横羽線など3カ所ほどにセンサーを配備してある。NTTデータの橋梁監視ソリューション「BRIMOS」も、こうした使い方を想定したもので、最近の動きとしては、2007年に崩落したことのある東南アジア最長のカントー橋(ベトナム)

センサー駆使しインフラ保全

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NE Handbook

が同ソリューションを導入した。 では、センサーによるインフラ監視はどのように実践するのか。収集したデータに基づいて何ができるのか。以下では、東京ゲートブリッジを例に、どのような項目を監視するのか、みていく。実際のところ、監視すべき場所や項目は、対象とするインフラの種類、構造、材質などによって異なる。例えば東京ゲートブリッジのような鉄橋と、コンクリートで作られた橋では、ひずみ方にも違いがあり、測定の仕方にも違いが出るという。 監視方法も、センサーを常設して継続的にデータを集める方法もあれば、1週間など一定期間だけ調査のためにセンサーを配備し、データを集めて、後から分析し、保全・保守の判断をする手もある。

主橋梁を中心に状態を監視

 東京ゲートブリッジでは、全長2.6kmの橋のうち、主橋梁と呼ばれる800mの中央部分に各種のセンサーを配

図1 東京ゲートブリッジでは大きく3つの目的で橋梁の状態を監視している羽田空港の近くであるため高さ制限があり、船が通るため幅を確保しなければならないという条件もある。そこで主橋梁を1本の鉄鋼で作る構造を採用。これに伴って、主橋梁と橋脚のつなぎ目などを中心に、変位などを監視している。(写真提供:東京都港湾局)

通過した自動車・積載物の重さ

変位計、加速時計などにより、橋の利用可否を判断

モニタリングの範囲=主橋梁(約800m)

温度変化と橋の延び具合を確認

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応用事例●土木 /橋梁

置して、ひずみ、伸び縮み、主橋梁と両端をつなぐジョイント部分の動きなどをモニタリングしている(図1)。また、道路の橋桁部分にかかる負荷として、通過した車両の重量を「Weigh-In-Motion」という方法で測定している。ほかに、橋そのものの監視とは異なるが、風力など天候に関わる情報を得るためのセンサーも設置されている。 橋梁の監視の目的は、(1)震災後の利用可否の素早い判断、(2)日々の状態監視、(3)保全のための情報収集の三つである(表1)。 主橋梁を測定対象としている理由は、東京ゲートブリッジの建設条件と、それに合わせて選んだ橋の構造にある。東京ゲートブリッジは、江東区若洲と中央防波堤外側埋立地を結ぶ東京港臨海道路の一部である。このため、東京港に出入りする大型船の航行に支障を来さないだけの幅と高さが必要だった。また羽田空港のすぐ近くにあり、上空は飛行経路に当たるため、橋の高さにも制約があった。

表1 東京ゲートブリッジにおけるモニタリングの概要監視の目的 監視項目 内容災害時の活用

外部から見えない部分の位置ズレ、損傷状況を監視

橋脚上で橋桁を支持する支承の移動制限装置の位置、橋脚と橋をつなぐタイダウンケーブルにかかる力などを監視することで、地震によって橋桁がずれ損傷が発生していないかをチェック。地震発生後、橋を利用可能かどうかを30分以内に判断できる

日々の橋梁管理

橋脚箇所での橋桁内の温度変化と、橋桁の変異(伸び縮み)の状態変化を比較

橋桁は温度の昇降と同期して伸び縮みする。橋桁の変異を測定し、温度変化と比較し、同期していなければ、予期していない部分に負担がかかっている可能性などを疑える

予防保全管理

ひずみ計を利用して走行した車両の重量を測定(Weight-In-Motion)

橋桁はかかった負荷(荷重)の積み重ねによって劣化していく。ただし、どの程度の負荷でどの程度傷んでいくかは明確になっていない。このため、相対的に負荷が多くかかっている部分を見極め、そこを中心に保全に努める

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 この条件に合う形状や強度、コストを考えた結果、主橋梁部分を1本の鋼板で構成する構造とした。このため、主橋梁そのものの変位のほか、主橋梁と橋脚などの接続部分のズレなどをモニタリングすることにした。

ファイバーセンサーで位置ズレ検出

 モニタリング内容を具体的に見てみよう。 一つめの災害に備えた監視では、橋脚上で橋桁を支持する支承の移動制限装置、橋脚と橋をつなぐタイダウンケーブルといった、地震によって損傷しやすい部分の変化を見る(図2)。光ファイバーを使った加速度センサーなどにより、元の位置からのズレと、それぞれの部分にかかっている力を測ることで、各部材の健全度を診断。こうすることで橋が利用できる状況にあるかどうかを、地震発生後30分以内に判断する。 ファイバーセンサーは、振動などによりファイバー内

図2 ファイバーセンサーを使った加速度計などにより、橋の構成物のズレなどを検知する

加速度計(伸縮装置衝突把握)

加速度計(支承損傷状況把握)

加速度計(制限装置損傷状況把握)

加速度計(ケーブル損傷状況把握)

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応用事例●土木 /橋梁

を通る光に及ぶ影響から、外部の変化を検知するもの。電気で動作するセンサーの耐久年数が数年程度とされるのに対し、ファイバーセンサーは20年近く使い続けられるといわれている。また、光を通しておけばよいため、電源はファイバーセンサーの両端にあれば済む。橋の中央部分など電源を取りにくい場所で使うには都合がいい。  日々の橋梁管理に向けては、主橋梁のひずみと温度を測定し、その関連性をチェックしている。橋は温度変化とほぼ同期して、わずかに伸び縮みする(写真1)。これが同期しない状態になっていると、どこかの部位に問題があり、予期せぬストレスがかかっていると判断できる。こうした状態を放置せず、早めに保守できるよう、モニタリングしているわけだ。 保全では、路面を支える鋼床版(床版は橋の上を通る車両の重みを橋桁や橋脚に伝えるための床板)にかかった重さ、つまり通過した車の重量を測定している。基本となるひずみ量を基に重さを測る「Weigh-In-Motion」と

写真1 主橋梁のひずみと温度のグラフ変化の傾向が同期していなければ、どこかに予期せぬ負荷がかかっている可能性を疑う。

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いう方法を使う(図3)。橋は重量がかかるほど傷んでいく。このため、かかった重量の積算値をチェックし、それを保全に役立てようとしている。 ただ、どの程度の重量がかかると、どの程度傷むのか、いまのところ、具体的な指標はない。現時点では、特に大きな負荷がかかっている部分を把握し、そこを中心に保全活動を進めることを考えている。例えば東京ゲートブリッジの場合、上りになるため、積載量が多いトラックなどはどうしても走行車線を走る。このため、追い越し車線側よりも走行車線側を中心に重みがかかっているという。

図3 橋を通過した車両の重さを測定した様子2012年7月15日からの1週間の20トン車両以上の台数を曜日別に積み上げグラフで示した。7月16日の走行車両台数が土曜日、日曜日と同様に少ないのは、同日が祝日のためと考えられる。なお、測定値には、極めて近接し連行する走行車両を1台と計測する場合を含む。

1000

800

600

400

200

0湾内側(中防→若洲)

20t以上積み上げ車両台数(台)

走行車線7月15日(日)

7月16日(月)

7月17日(火)

7月18日(水)

7月19日(木)

7月20日(金)

7月21日(土)

1000

800

600

400

200

020t以上積み上げ車両台数(台)

追越車線

7月15日(日)

7月16日(月)

7月17日(火)

7月18日(水)

7月19日(木)

7月20日(金)

7月21日(土)

1000

800

600

400

200

0

湾外側(若洲→中防)

20t以上積み上げ車両台数(台)

7月15日(日)

7月16日(月)

7月17日(火)

7月18日(水)

7月19日(木)

7月20日(金)

7月21日(土)

1000

800

600

400

200

0

■ 50~59t車両■ 40~49t車両■ 30~39t車両■ 20~29t車両

20t以上積み上げ車両台数(台)

7月15日(日)

7月16日(月)

7月17日(火)

7月18日(水)

7月19日(木)

7月20日(金)

7月21日(土)

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[応用事例●建築/ビル]

 小規模ビルでも導入しやすいBEMS(ビルエネルギー管理システム)が北米で注目されている。ビルの電力を制御してエネルギー効率を上げるBEMSは、大規模なビルほど省エネ効果が大きく導入が進んでいるが、小規模ビルはこうしたIT(情報技術)の費用対効果が見えにくく、大規模ビルほどには普及していない。 これに対し、カナダREGEN Energy社が提供するBEMSは、コントローラーを設置するだけという既築ビルにも簡単に取り付けられる利点が認められ、小規模ビルでの設置が増えている。

通常は1~2日で設置完了

 REGEN Energy社のBEMSは、装置がコントローラーの

ITで省エネ、小規模ビルにも

図1 各設備に設置するコントローラー(写真: REGEN Energy社)

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みという単純な作りである(図1)。このコントローラーをエアコンやポンプなどの電力制御したい設備すべてに設置する。コントローラーは相互にデータをやり取りして、ビル全体のエネルギー効率を最大にするよう、設備をそれぞれ制御する。 「コンセントレーター」のような情報を集中管理する設備は不要である。それぞれのコントローラーが情報をやりとりしながら一つの目的に向かって連携して動作する様子が、ハチの群れの行動に似ていることから、同社のBEMS技術を「SWARM(群れ)」と呼ぶ(図2)。 コントローラーは、ZigBee(ジグビー)無線通信モジュールを内蔵し、コントローラー間が800mまでは通信可能である。コントローラーの設置は、1個当たり20~40

図2 コントローラーが連携してエネルギー効率を上げるSWARM技術(図:REGEN Energy社)

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応用事例●建築

分で済む。よほど大きなビルでなければ1~2日で完了する。この手軽さが受けて、顧客の95%が既築ビルである。これまで既築ビルに簡単に設置できるソリューションがなかったため、多くのビルオーナーが設置に動き出した。 現行のコントローラーの応答速度は2分。これでもデマンドレスポンス(DR、電力需給の逼迫度合いに応じて需要抑制にインセンティブを与えたり、消費にペナルティーを科したりして需要を抑制する仕組み)への対応は十分だが、さらに2013年9月に発売の新製品では1秒に短縮される。これであれば、高速DRにも対応できるスピードだ。電力市場の価格変動に対応して、リアルタイムで制御することもできる。

DRに参加すれば1~2年で投資回収

 REGEN Energy社のBEMSは、米国の実績でみると、標準的にピーク電力の15~30%の削減(ピークカット)を実現している。ピークカットにより、契約電力の基本料金を下げられる。さらにDRに参加すれば、その分の協力金も得ることになる。この場合、自動デマンドレスポンス(AutoDR)に対応しているので、ユーザーは特に何もしなくてよい。コントローラーが、DRの信号を受け取り、条件に沿って制御するだけだ。 コントローラーを設置するだけで実現できるので、「導入費用は通常のBEMSの3分の1程度に抑えられる」(同社社長兼CEO Tim Angus氏)。従って、3~4年で元が取れる計算だ。DRに協力して電力会社から協力金が入れば、1~2年で元が取れる可能性もある。

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カリフォルニア州ではAutoDR開始

 カリフォルニア州の大手電力会社3社、Southern Cali-fornia Edison(SCE)社、Pacific Gas and Electric(PG&E)社、San Diego Gas and Electric(SDG&E)社は、AutoDRの導入を開始している。2012年には「Open ADR2.0」という規格に準拠することを決定した。この波に乗る形で、REGEN Energy社のBEMSが売れている。同社の顧客の 8割はカリフォルニア州内にある。 REGEN Energy社は、2005年に設立。2007年にコントローラーのプロトタイプを作成、2008年から2年間、パイロット実験を行った。本格販売の開始は2010年。

日本の中小規模ビルにビジネスチャンス

 「中小規模のビルにBEMSが普及していない日本市場に期待している」(同氏)。電力が不足し、ビルのエネルギー制御のニーズが強いからだ。特に日本では、既築ビルへの対応が遅れている。同社のBEMSが入り込む余地が、日本市場にはたくさんある。

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[応用事例●農業]

 農業のICT(情報通信技術)化を推進する動きが、農家やICT業界で活発だ。農家は、環太平洋経済連携協定

(TPP)交渉に日本が参加したことを受けて国際競争力を強化したい。ICT業界は、新市場として開拓したい。「アベノミクス」の成長戦略の一つとして政府も後押ししている。 ここへきて関心が高まっているのが、スマートアグリである。農作物の育成工程にセンサーネットワークやビッグデータなどのICTを導入して生産性を高める(図1)。閉鎖空間で管理する植物工場のみならず、露地やハウスなど広大なフィールドにも広がっている。無線センサーネットワークが低価格で高信頼化したことによる。さらにICTの適用範囲を販売や調達などの工程にも広げ、高く売って農家の収益性や競争力も高める「6次産業化」の手段ともなり得る。 富士通やNECなど大手ICT関連企業は、既にこうしたスマートアグリ分野に進出している。複数のデバイスメーカーも農地の養分などを測定するセンサーを開発中である。ICTやエレクトロニクス業界にとっては、ICT化あるいはエレクトロニクス化されていない新市場の開拓となる。

農林水産省と総務省が支援

 スマートアグリに取り組むのは民間企業にとどまらない。政府の複数の戦略に組み込まれて、農家とICT業界の成長を後押ししている。 安倍政権は、国内の農林漁業を成長産業とする目標を

作物の状況が見える化

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掲げている。例えば農漁業の生産額は1990年代から低下し続けているが、2020年に向けて拡大させる。農林水産省の計画では、2009年に11兆円余りだった農漁業の生産額を2020年に14兆円へ増やす。輸出も増加させようとしており、例えばコメとその加工品の輸出額を2012年の130億円から2020年には600億円にする計画である。 一方、総務省は農林漁業による生産物(食品)を鉱物・エネルギー・水や社会インフラと共に「暮らしに不可欠な資源」と位置付けて、安心かつ持続的に調達可能とす

図1 農業用センサーネットワーク製品の例 (富士通の製品)

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応用事例●農業

るためにICTを活用する考えだ。センサーネットワークとビッグデータを使って、まずは農業を「知識産業」に、ゆくゆくは高付加価値の食品を提供できる情報網も構築する。農林漁業のデータ活用による生産性向上と、より高い価格での販売ができる販売網を利用可能にして儲けやすくしていく。同時に総務省が期待しているのは、新たなICT関連需要の創出だ。

データを集めるだけでは無価値

 多くの関係者にメリットをもたらすスマートアグリ。本格普及に向けては、いくつかの課題が残っている。センサーネットワークの応用システムのコンサルティングなどを手掛けるイーラボ・エクスペリエンス取締役副社長/創業者の島村博氏は、スマートアグリの大きな可能性と、いくつかの課題を「次世代センサ総合シンポジウム」(2013年9月25日、主催は次世代センサ協議会)で「農業における植物とのつながる・見える化」と題する講演で指摘した。 同社は、農地向けセンサーネットワーク・システムを販売中である。農家は容易にスマートアグリを構築できるが、随所からデータを集め、さらにビッグデータを活用すれば、それだけで良い農作物ができるというわけではない。データを解析するための知見や、データを育成作業にフィードバックするためのアルゴリズムが必要となる。島村氏によると、ここが難しいという。 島村氏は、ある農家でレタスの収穫量が期待より少なかった例を挙げた。栽培履歴データを分析したところ、大きな原因は植え付け直後に与えた水の量が少なかったことにあった。しかし、この分析ができるのは植物生理

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学の知識がある人で、その知識のない農家にはたとえレタス栽培に熟練していても困難とする。レタス栽培で培った経験は、栽培履歴データの分析には必ずしも役立たないのだ。

生データから農家の“気付き”を生むには

 また別の例として、おいしいことで知られるメロン農家を挙げた。その農家の主はハウスで水をまくときに、わざわざ水着になる。肌で湿度を感じ取るためである。同じハウス内でも日当たりなどの差で、場所によって湿度は微妙に変わる。その変化に合わせてまく水量を変えているという。しかし、本人は一連の作業を勘に基づいて行っているため、それを「育成アルゴリズム」に反映させることが難しい。周囲のサポートが必要だった。  こうした課題のある部分にはビジネスチャンスもある。最初の例では、勘と経験に基づく農家ではなく、植物生理学に明るい農家の知見を活用することは差異化をもたらすノウハウだ。センサーデータの中に隠れた異常を、植物生理学の知識がない「普通の農家」が見ても気付くように加工できれば、それは価値になる。さらに島村氏は「ただ気付きを与えるだけではなく、現場作業者の学習効果をもたらすようにすれば(価値ある)サービスとして提供できる」と言う。  生のセンサーデータから価値を生み出そうとしているのは、ビッグデータを提供しているコンピュータ企業、生のセンサーデータに接しているデバイス企業、農業を熟知している農家、あるいはこれらを横断的に理解している企業だ。

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[最新動向●トリリオンセンサー]

 「毎年 1兆個以上のセンサーを活用する社会 “トリリオンセンサー・ユニバース(Trillion Sensors Universe)” を構築する」。一人の米国人が提唱したビジョンが、日米欧の産業界・研究機関を巻き込み、一つのうねりとなって実現に向け動き始めた。 現在世界で使われるセンサーは年間約100億個。1兆個は現在の100倍規模に当たる(図1)。錠剤1個ずつにセンサーを搭載して患者が正しく飲んでいることを確認する。そんな応用まで含める想定だ。ビジョンが実現すると、実世界のあらゆる事象がデータ化され、解析されるため、これまで以上に効率的で安心・安全な社会が生まれることになる。

シリコンバレー発で世界へ

 提唱しているのは、米国シリコンバレー在住の起業家、Janusz Bryzek氏である。これまでにセンサー関連のベンチャー企業を7社興し、事業化に結び付けてきた経歴を持つ。その7社は売却を経て、現在は米General Electric社、米Intel社、米Maxim Integrated Products社などの事業部門となっている。 同氏は、2012年ごろにトリリオンセンサー・ユニバースの構想を抱き、周囲に自らの考えを公表しつつコンセプトを固めてきた。そして社会に膨大な数のさまざまなセンサーネットワークを張り巡らすことができれば、エネルギーや医療、飢餓など、地球的規模での社会課題を

1兆個センサー、新ビジネス生む

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解決できるとの考えに至る。 そこで、多様なセンサーを誰もが気兼ねなく使えるほどの安いコストで入手可能にするための活動を大手ハイテク企業や大学などと共に始めることにした。まずは2023年を目標とするビジョン実現のためのロードマップを作成する。 2014年 2月、そのロードマップの作成が始まった。Bryzek氏が一連の活動をするために立ち上げたベンチャー企業の米TSensors Summit社が、有志と共に取り組み始めた。有志は、日米欧などからの数十人。主に企業の技術者や経営者で、大学や研究機関の研究者もいる。 ロードマップは、トリリオンセンサーの候補となり得るセンサーを10種類ほどに大別、それぞれの製造プラットフォームを標準化していく。センサー以外に無線ネットワーク、エネルギーハーベスティング・デバイス、

図1 ロードマップは第一歩米TSensors Summit社が中心になって進めている「トリリオンセンサー」実現までの取り組み。2023年の実現を目指す。

1兆個を突破

2007

100兆

10兆

1000億

100億

10億(billion)

1億

1兆(trillion)

2012 2017 2022 2027 2032 2037

センサーの年間出荷個数(個)

時期(年)

2013年以降:錠剤にまで搭載してさらに増加させる

2012年まで:携帯電話機への搭載で急速に増加

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最新動向●トリリオンセンサー

IoT(Internet of Things)/IoE(Internet of Everything) など周辺技術も包括している。これらの標準化によって量産技術を確立するまでの期間を短縮するとともに、量産コストの大幅な低下を期待できるとBryzek氏は考えている。

コンセプト先行だが高い関心

 「コンセプト先行で実現手段の実体がない」(ハイテク分野の経営者)、「センサー以外に周辺のデバイスやシステムなどの要素技術がそろわなければ実現しない」(米国ベンチャー企業の経営者)。トリリオンセンサー・ユニバースに対して、冷ややかな見方をする経営者や技術者は少なくない。 一方、多くの技術者や経営者がBryzek 氏の活動を支援しているのも事実だ。支援の理由は、活動しなければ 1兆個のセンサーが稼働する時代が近づかないと考えているためだ。コンセプトそのものに斬新さを感じているわけではないようだ。 実際、1兆個を上回る膨大なセンサー需要が生まれるとの見方は、ICT(情報通信技術)業界で珍しいものではない。米Hewlett-Packard社、Intel社、ドイツRobert Bosch社、米Texas Instruments社など、機器やデバイスのメーカーがそのような見通しを示している。 幅広い種類のセンサーが、「ソーシャルデバイス」と して社会課題を解決し得ることもBryzek氏だけのアイデアではない。社会インフラ・センサー・システムを手掛けるスペインLibelium Comunicaciones Distribuidas社 は、トリリオンセンサーとなりそうな応用例を多数挙げ

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ている。 Bryzek氏が仕掛けていることは、社会がトリリオンセンサー・ユニバースへ至る期間を短縮する仕組み作りだ。同氏はセンサー分野で起業した経験から、「新しいセンサーの事業化には少なくとも20年はかかる」とみる。また、普及が先か価格低下が先かという「鶏と卵の関係」もハードルとなる。 そこでロードマップという仕組みによって、トリリオンセンサー・ユニバースの実現までの期間を強引に縮めようと、同氏は提案している。この活動に関心を寄せるのは、センサーメーカーやセンサーユーザーだけではな い。膨大なセンサー情報の解析をビジネスにつなげたいと考えるIT業界も目を向けている。

99%は新しいセンサーに

 大量のセンサーを広範にばら撒いて情報を集めるというコンセプトは、一見すると1990年代末に米University of California, Berkeley校が提唱した「Smart Dust」などと変わらないように見える。Smart Dustのコンセプトの一部は、既に実用となってセンサーネットワークとして農場や工場などの監視用途で使われている。 トリリオンセンサー・ユニバースが、既存のセンサーネットワークと違うのは、センサーの種類と数が膨大になる点にある。現在の需要の100倍規模のセンサーが使われる社会では、既存のセンサーは全体の1%に満たなくなる。99%以上は、現在は実現していない新しい応用や、実現していてもコストの問題などでほとんど使われていないものとなる。

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最新動向●トリリオンセンサー

 実際、2013年 10月に米国で開催された「TSensors Summit」や2014年2月に東京で開催の「Trillion Sen-sors Summit Japan 2014」では、これから普及が見込まれる応用の紹介が多数あった。

(a)

(b)

(c)

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図2 錠剤や下着にもセンサー(a)錠剤に内蔵したセンサー(右のケース内)と、これと通信する体に貼り付けるパッチ。(b)レンズを不要として使い捨てが可能な安価なカメラを実現できる米Rambus社のイメージセンサー。(c)シールのように体に貼り付ける無線センサー。米University of California, San Diego校が開発。(d)心拍センサーを内蔵し、着ている女性の心拍数に応じてフロントのホックが外れる下着。ベリグリが開発。(e)スポーツ選手が致命的なショックを受けたかどうかが分かるヘルメット。MC10社が開発した。(写真:(b)(c)(d)(e)は各社・大学のデータ)

錠剤センサーや使い捨てイメージセンサー

 冒頭で紹介した正確な服用を検出するための錠剤搭載センサーは、患者が飲むと胃酸との反応による化学エネ

(d)

(e)

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最新動向●トリリオンセンサー

ルギーで電波を発信し、肌に貼ったパッチで受信する。センサーそのものは、Si製で砂粒のように小さく、「飲んだら排出される」(開発した米Proteus Digital Health社Co-Founder and CTOのMark Zdeblick 氏)。 既に存在するイメージセンサーについては、光学レンズを省いて使い捨てにできるほど低コストにできる新提案がある。CMOSセンサーの表面に、半導体製造技術で回折格子を形成して、特定方向の光のみを取り込む。歪みは信号処理で補正する。ICカードの顔認証に使えるかもしれない。 この他、生体センサーについては体に貼れるシート状のセンサーの提案がある。使い捨てで使える値段になれば応用は広がる。

情報ビジネス創出の好機

 「センサーを搭載したシューズをタダで配って、センサー情報で収益を得るというビジネスモデルもあり得る」

(Bryzek氏)。膨大なセンサー情報が収集され、広く利活用される時代に一般化しそうなビジネス手法も、トリリオンセンサー・ユニバースの実現は普及を後押ししそうだ。 トリリオンセンサー・ユニバースでは、センサー情報を活用したサービス事業の付加価値を高めることになる。ふんだんなセンサー情報が利用可能になって、それらの組み合わせで、消費者に意味ある情報を生み出しやすくなるからだ。 例えば、空調制御に使う温度センサーの出力は、設置位置が部屋の窓際か廊下側かによって、また日照によっ

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て、その解釈が変わる。日差しが強い日に窓際に置いた場合、その出力は廊下側に置いたセンサーよりも高くなる。あるセンサーの情報は、周囲のセンサーなどの情報と連携させることで、ユーザーにとって、より価値の高い情報に変えられる。 センサー情報を蓄積し、履歴からユーザーの嗜好などを分析して得た情報を活用する。そんなビジネスの普及も促しそうだ。例えば位置センサーによるユーザーの座標データには価値はない。しかし、情報解析によってこのユーザーがあるコーヒー・ショップ・チェーンのコーヒーを好んで飲むことが分かれば、意味のあるマーケティング情報に変わる。つまり、大量データの組み合わせが価値を生むのだ。 医療分野でもセンサー情報を活用したいというニーズがある。若年の健常者はいずれ高齢になり、病気を患う。若い健常時からの生体データをセンサーで取得して蓄積しておけば、病気になるまでの過程を解析することで病気になる予兆を見いだせる。この情報は有益で、将来、「政府や医療機関、保険会社などが有効活用できる」(情報通信総合研究所 グローバル研究グループ 主任研究員の前川純一氏)。 既に多くの大手エレクトロニクスメーカーは、医療・ヘルスケア関連の情報サービスを実現するための研究に力を入れている。いずれも多様なセンサーに加え、ビッグデータ解析とIoT/IoEの普及を前提としたものといえる。

10年間に毎年10億の需要のセンサーを集める

 トリリオンセンサー・ユニバースの実現に向けたロー

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最新動向●トリリオンセンサー

ドマップ「TSensors Roadmap」は、多種多様なセンサーのうち、10年間にわたって年間10億個の需要を期待できるものを対象とする。Janusz Bryzek氏は、これらの総数が2023年までに毎年 1兆個を超えることを目指す。スマートフォンに載っている民生用の加速度センサーやマイクロフォンのように、ロードマップに頼らなくても達成可能と思われるセンサーは、ロードマップには含めない。 ロードマップでは、まずはBryzek氏らが、複数種類のセンサーをセンシング対象別のプラットフォーム「TApp」に集約し、それぞれで求める要件を定める。2014年2月までに、10種類ほどのTAppとそれぞれの責任者(チェア)を、同氏が募った有志から決めた。その後も内容を更新し続けている。TAppには、非侵襲ヘルスモニタリング、人工五感、環境センシング、インフラセンシング、食品業界向けセンシングなどがある。 計画では、2014年中に各責任者がロードマップを書面化し、全体の調整を図った仕様書を2015年6月までに発行する。さらに次のステップとして、TSensors Summit社が、センサー関連ベンチャー企業の創業支援など、トリリオンセンサー関連の産業化を加速するようなサービスを提供する。また、製造業が新たな雇用を生むことを根拠に、米国政府などから財政支援を受けるためのロビー活動を展開していく計画だ。

センサーは13米セント以下に

 TAppごとに定める主な要件は、目標価格と最適な製造手法である。標準化することで製造コストを大幅に削

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減する狙いがある。 目標価格についてBryzek氏は、センサーの市場規模の推移から、センサーの売上高の総額が「GDP(国内総生産)の0.1%を超えることはない」とみる。2023年における世界のGDPを各種統計などから130兆米ドルと自ら推定し、センサー単価の上限を13米セントと主張している。また、同様の経済規模による推定から、ネットワークや制御回路を含めたセンサーノード・システムの単価の上限は1米ドル未満にする必要があるとする。いずれも応用を特定したものではない。 これまでスマートフォンにセンサーの搭載が進んだ経緯を振り返ると、単価下落と出荷数量増大が相関していることが分かる。「膨大な数のデバイスの出荷は、単価の大幅な削減を意味する」というのがBryzek氏の考えだ。これはロードマップに反映される。

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[最新動向●IoT、IoE、ビッグデータ]

 IoT(Internet of Things)とは、パソコンやスマートフォンといったIT 機器以外の“モノ”もインターネットに よって接続しているネットワーク。「モノのインターネット」と訳されることが多い。最近に発売されたテレビやゲーム機などのデジタル機器の多くは、既にインターネッ トを介して通信できる。ここへ来て白物家電やセンサーなどの機器/部品もインターネット接続が可能になってきた。 これらのモノをインターネットに接続することで、モノの状態や環境をコンピュータや別のモノなどが認識したり、モノを操作またはモノの周囲に作用したりすることができる。センサーネットワークの多くはインターネットをベースにしているためIoTに含まれる。

「IoE」「M2M」もモノのインターネット

 IoTと同じ文脈で使われることがある「IoE」は「Internet of Everything」。M2M(machine to machine)は、モノとモノあるいはモノとコンピュータで通信するシステム。インターネットによらない通信、例えばIPアドレスでモノを一意に特定しない1対1通信もM2Mと呼ぶことがある。

ビッグデータ解析を高精度に

 IoTが最近になって注目されているのは、モノに関するデータが新たにインターネットに存在するようになることで、(1)通信需要と演算処理の需要が高まること、(2)

モノが膨大なデータを生む

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NE Handbook

つながるモノの数が今後数年のうちにスマートフォンよりも多くなって最大になるとみられていること(図1)、

(3)ビッグデータ解析の精度を高める可能性があること、(4)モノに関するデータあるいは解析データを使った新サービスが生まれ得ること、による。医療、環境、交通・物流、流通、産業、建築、1次産業、災害対策など、さまざまな分野で効率化や安心・安全をもたらす可能性がある。  IoTのもたらすインパクトを踏まえて、「モノを接続したインターネット」よりも大きな意味を与えている場合もある。例えば米Intel社は、無数の「デバイス」がシームレスに接続、管理され、ネットワーク上でインテリジェントかつ安全にやりとりされることでデータを取得し、人、デバイス、システムが価値あるサービスを実現するために、データをすぐに実践できる情報へと変換できる世界規模の革新、と定義している。

図1 増え続けるIoT(図:米IDCのデータにIntel社が加筆したデータ)

世界中におけるインターネット接続デバイスの導入予測20000

18000

16000

14000

12000

10000

8000

6000

4000

2000

0

BI INTELLIGENCE

Wearables

Tablets

Smartphones

Personal Computers(Desktop And Notebook)Personal Computers

(Desktop And Notebook)

Smart TVs

2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 20122013E2014E2015E2016E2017E2018E

使用中のデバイス(単位:千)

Internet of things

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[最新動向●エネルギーハーベスティング]

 エネルギーハーベスティングは別名「環境発電」とも呼ばれ、さまざまな場所で発電できるという利点がある。ただその一方、得られる電力は非常に小さい。1台の発電デバイス当たりの発電量は、µWオーダーにとどまるものが大半を占める。「スマートフォンに取り付けたら充電が要らなくなる」という電力が得られるわけではない。 微小な電力しか得られないにもかかわらず熱い期待が集まっているのは、その“高い利便性”にある。この仕組みを導入した機器では、1次電池の交換や配線、メンテナンスといった手間が不要になる。「ローパワー」ではなく、

「ノーパワー」にできる(図1)。こうした利便性を享受しようと、導入先は広がりつつある。例えば千葉市にあるホキ美術館は、エネルギーハーベスティング技術によるスイッチ(音声ガイダンス用)を導入した。制御信号は無線でやりとりするため、スイッチ用の新規配線は不要だ。頻繁に展示物のレイアウトを変更する美術館などにおいては、電源ケーブルなどの配線敷設が大きな負担となっていた。

周辺部品が変わった

 エネルギーハーベスティングの代表的なシステム構成要素は以下のようなものだ。①エネルギー源を検出して電力を発生させ、②収穫した電力を電源回路で変換してコンデンサーや2次電池に蓄える。③たまった電力を使って制御マイコンやセンサーを起動して、④センサーで

「ローパワー」から「ノーパワー」

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取得した情報を無線送受信によって外部に伝達する。 エネルギーハーベスティングの導入が拡大しつつあるのは、発電デバイスを生かす周辺部品が進化したためだ。前述の②~④に当たる。そして、これによって適用できるアプリケーションが増えてきたこともある。 周辺部品の進化とは、発電した電力を高効率に利用するための電源回路や、信号の送受信に利用する無線IC、制御マイコン、センサーなどが大幅に低消費電力化したことを指す。これまでは、発電デバイスがせっかく電力を収穫しても周辺部品の自己消費で使い切ってしまい、所望の機能に利用するには至らなかった。高効率で低消費電力の回路を持つICが出そろったことで、エネルギーハーベスティングが“使える”段階に入ってきたのだ。

無線送受信ICが低消費電力化

 中でも、電源回路の性能向上によるインパクトは大きい。発電部が得られるわずかな電力を少ない損失で使え

図1 電池レスのスイッチの例

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最新動向●エネルギーハーベスティング

るかは電源回路が左右するからだ。ここ最近は、超低電圧でも、効率よく電力を回収できるようになってきた。 電源回路に並んで影響が大きいのが無線送受信ICの低消費電力化である。エネルギーハーベスティング用の無線送受信ICの分野で非常に大きな存在感を示すのが、ドイツのベンチャー企業EnOcean社だ。同社の技術に基づく機器間無線通信規格「EnOcean」における消費電力は、他の方式と比べて1ケタ以上小さい。機能を限定することで低消費電力化を図った。「とにかく、シンプルな制御である」(同社 CTOのFrank Schmidt氏)。スイッチなどの用途に向けた無線ICの場合、30msの間に1ms程度の信号を3回送信してオン/オフ制御をかける。 温度や湿度といった情報を取得するセンサー自体も着々と消費電力が小さくなってきた。例えば、照明の制御に使う照度センサーは携帯電話機への搭載が進んだことで、消費電流は大幅に低減した。さらに、エネルギーハーベスティング回路やセンサーの駆動を制御するマイコンも、低消費電力の製品が登場している。マイコンにおける着眼点は、待機時の消費電流が小さく、動作時の立ち上がりがシャープであること。無線センサーネットワークで利用するような場合、間欠的に動作する使い方がほとんどのため、待機時の消費電流が特に重要となる。 発電部にも動きがある。米Georgia Institute of Tech-nologyなどは、出力密度が31.3mW/cm2と従来より桁違いに高い振動発電技術を2014年3月に開発した。

無線センサーネットワークで動きだす

 高効率で低消費電力の周辺回路と発電部の進歩によっ

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て、エネルギーハーベスティングが“使える”技術になった。アプリケーションも見えてきた。照明などのスイッチに加えて幅広い活用もできそうだ。最も期待されているのが無線センサーネットワークの分野である。センサーが取得したデータを1時間に数回といった低頻度で送信すればいいため、消費電力量が小さく、発電力がわずかなシステムでも対応可能だからだ。「電池レス」で無線化できることで応用範囲は大きく広がる。山林などに温度センサーを設置したセンサーネットワークを構築した例がある。目的は、山火事を検知して、被害を最小限に抑えること。火災で被る損害や、それに関連する人手や物資などの費用と、無線センサーネットワークの設置および運用コストをてんびんに掛けても十分見合う。 最近注目を集めるようになったのが「ヘルスモニタリング」である。ビルや橋梁などの構造体にセンサーを取り付けて、その状態変化を観察する。数値の変化した時期や量から構造体の寿命を判断するものだ。得られたデータを参考に、メンテナンスや部品交換を行う。モーターやエンジンなどの分野でも高い需要がある。自動車の場合は、各部品の状態を検知するセンサー機器の駆動のために、多数のワイヤーハーネスを張り巡らしている。それを、エンジンやモーターの熱や振動といったエネルギーを活用した「配線レス」のセンサーで代用できれば、ワイヤーハーネスの大幅な削減につながる。人や動物を管理する「ライフレコーダー」にも使える。家畜や野生動物に取り付ければ、位置情報のほかに、体温や心拍数などのデータを取得できる。さらに、電源を動物の体温のエネルギーで賄えれば、電池交換の手間が不要になる。

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[最新動向●無線ネットワーク]

 センサーネットワークに使うことが多い短距離無線通信の代表的な規格をまとめた(表1)。規格によって、利用周波数や通信速度、通信距離に差が出る。端末とハブなどとの接続形態を表すトポロジーも異なる(図1)。Wi-FiやBluetooth、ZigBeeが国内では広く知られているが、他にも多数の方式がある。北米市場を中心にスポーツ用途で採用されている「ANT/ANT+」、照明や空調の無線スイッチに使われている「EnOcean」などだ。

用途ごとに多様な方式が共存

表1 近距離無線通信規格の概要 ラピスセミコンダクタの資料を基に日経エレクトロニクスが作成。(?)は事実関

名称 規格 通信プロトコル

周波数[MHz]

通信速度[ビット/秒]

通信距離[m]

送受信時消費電流[mA]

送信電力[mW]

トポロジー 特徴

Wi-Fi IEEE 802.11

Wi-Fi Alliance

5600、5200、2400

300M、54M、11M

100 300 30 P2P、スター 超汎用、唯一のストリーム系

Bluetooth IEEE 802.15.1

Bluetooth SIG

2400 24M、3M、1M

20 35 2.5、1、100

P2P、スター 携帯電話との親和性が最良、音楽伝送可能

Bluetooth Low Energy

IEEE 802.15.1

Bluetooth SIG

2400 1M 20 15 1(10) P2P、スター Bluetoothの低電力版

ANT/ANT+ なし(独自) ANT+ Alliance

2400 1M 20 15 1 P2P、スター フィットネスとスポーツ用途の規格、北米中心

ZigBee IEEE 802.15.4

ZigBee Alliance

2400、902~928、868~870

250k 50 20 1 P2P、スター、ツリー、メッシュ

センサーネットワーク向け

ZigBee Green Power

IEEE 802.15.4

ZigBee Alliance

2400 250k 50 20(?) 1 P2P、スター、ツリー(?)、メッシュ(?)

ZigBeeの低電力版、ハーベスト通信向け

特定小電力無線

IEEE 802.15.4

規定なし 150~950 100k 700 25 20、1 P2P、スター、ツリー、メッシュ

超汎用、各国でまちまち、自由度大

Z-Wave なし(独自) Z-Wave Alliance

779~956 100k、40k、9.6k

30 30 1 メッシュ 家庭内ネットワーク向け

Wireless HART

IEEE 802.15.4

HART Alliance

2400 250k 50 20 1 メッシュ、スター、メッシュ+スター

産業用に特化

EnOcean ISO/IEC 14543-3-10

EnOcean Alliance

315、868、902、928.35

125k 100 25 1 スター ハーベスト通信に特化

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NE Handbook

図1 ネットワークトポロジーの形態

名称 規格 通信プロトコル

周波数[MHz]

通信速度[ビット/秒]

通信距離[m]

送受信時消費電流[mA]

送信電力[mW]

トポロジー 特徴

Wi-Fi IEEE 802.11

Wi-Fi Alliance

5600、5200、2400

300M、54M、11M

100 300 30 P2P、スター 超汎用、唯一のストリーム系

Bluetooth IEEE 802.15.1

Bluetooth SIG

2400 24M、3M、1M

20 35 2.5、1、100

P2P、スター 携帯電話との親和性が最良、音楽伝送可能

Bluetooth Low Energy

IEEE 802.15.1

Bluetooth SIG

2400 1M 20 15 1(10) P2P、スター Bluetoothの低電力版

ANT/ANT+ なし(独自) ANT+ Alliance

2400 1M 20 15 1 P2P、スター フィットネスとスポーツ用途の規格、北米中心

ZigBee IEEE 802.15.4

ZigBee Alliance

2400、902~928、868~870

250k 50 20 1 P2P、スター、ツリー、メッシュ

センサーネットワーク向け

ZigBee Green Power

IEEE 802.15.4

ZigBee Alliance

2400 250k 50 20(?) 1 P2P、スター、ツリー(?)、メッシュ(?)

ZigBeeの低電力版、ハーベスト通信向け

特定小電力無線

IEEE 802.15.4

規定なし 150~950 100k 700 25 20、1 P2P、スター、ツリー、メッシュ

超汎用、各国でまちまち、自由度大

Z-Wave なし(独自) Z-Wave Alliance

779~956 100k、40k、9.6k

30 30 1 メッシュ 家庭内ネットワーク向け

Wireless HART

IEEE 802.15.4

HART Alliance

2400 250k 50 20 1 メッシュ、スター、メッシュ+スター

産業用に特化

EnOcean ISO/IEC 14543-3-10

EnOcean Alliance

315、868、902、928.35

125k 100 25 1 スター ハーベスト通信に特化

ピアツーピア(P2P)

ツリー

スター

メッシュ

端末

ハブ

ハブ

端末 端末

端末

端末

端末

端末

端末

端末

端末

端末

端末

端末

端末

端末端末

端末

端末

ハブ

ハブ端末

係が不明確な部分。

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[最新動向●赤外線センサー]

 赤外線センシングへの応用範囲が、従来のサーモグラフィから、さまざまな分野に広がっている。食肉の病原菌が感染した部位の判別、同じ色・形状の錠剤の識別、ガン細胞や静脈の位置の体外からの特定、介護・見守り向けの人体検知、運転手の呼気などから出るアルコールの検知、車載用の暗視装置、ガス漏れ検知、建物や構造物の外壁に剥がれる恐れがあるかの診断…。安心・安全を支える中核技術として、多様な可能性を探る取り組みが進んでいる。特に車載向け暗視装置は、これまで高級車向けだったが裾野が広がりつつある。欧州では搭載車への法制面での優遇措置が2016~2018年にも開始される見込みである。レンズや半導体などの部材メーカーの参入が相次いでおり、カメラの価格低下も見込める。 赤外線は、波長が可視光よりも長くサブミリ波帯の電波よりも短い電磁波である。波長の長さに応じて特性が異なり、遠赤外線、中赤外線、近赤外線に大別できる。センシングに応用する場合は、それぞれの波長の赤外線が持つ特性を利用している。近赤外線と遠赤外線のセンシング応用では、反射した赤外線あるいは放出される赤外線を使う例が多い。中赤外線では、吸収した赤外線の波長から情報を得る例がある。波長が最も短い帯域が近赤外線。家電製品のリモコンや、IrDAなど赤外線通信で使われている。センシングでは暗視装置や赤外線カメラに応用されている。可視光と同様の反射特性がある、遠方まで届きやすい、人間の眼には見えない(被写体に気付か

クルマから応用拡大

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NE Handbook

図 1 遠 赤 外線イメージセンサーによる画像 (図:Autoliv社)

れにくい)、といった特性を生かしている。波長は0.7µ~2.5µm。波長が最も長い赤外線は遠赤外線である。波長は4µ~1mm。サーモグラフィで温度測定に多く使われている。一般に、物体は絶対零度でない限り電磁波を放射しており、その波長は物体の温度によって異なる。温度測定の需要が大きな-数十℃~+数百℃の物体が放つ電磁波のピーク波長は3µ~20µmとなる。 赤外線を電波とみれば周波数は最低300GHzであり、紙や布などを透過することから、例えば封筒に入った物質の種類を開封せずに特定する際にも使える。車載用の暗視装置で使用される場合もある。車載向け暗視装置で圧倒的な市場シェアを持つスウェーデンAutoliv社は、近赤外線センサーと遠赤外線センサーを組み合わせる。 近赤外線と遠赤外線の間の波長の赤外線が中赤外線である。波長は2.5µ~4µm。電磁波を当てると、物質固有の波長が吸収される現象を使って、その物質の種類などを特定するために利用することが多い。中赤外線の波長領域は、有機化合物を構成する基(O-Hなど)が吸収される波長(吸収スペクトル)が特に多い。吸収スペクトルの特徴から、化学物質の同定に応用されている。

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[最新動向●スマートメーター]

 スマートメーターとは、通信機能やほかの機器の管理機能を持つ高機能型電力メーターを含んだシステムのことを指す。電力メーターに数十~100m程度の近距離無線機能を組み込むことによって、エアコンや照明、温度計、セキュリティー機器といった家庭や事業所内の設備系機器を接続する。こうして、機器の稼働状況などを電力メーターを介してネットワーク経由で電力会社が管理する。つまり、電力の需給状況に応じて、需要側と供給側のシステムの稼働状況に折り合いをつけるスマートグリッドにおいて、要となる役割を担っている。 電力メーターと、家庭内の設備系機器をネットワークで接続する目的は、家庭内にある機器のエネルギー利用量の管理にある。その前段階として、家庭内のエネルギー利用状況を「見える化」し、ユーザーにわかりやすく提示して省電力を促すためにも使われる。将来的には電力事業者がネットワーク制御でエアコンの温度設定を変更するといった、社会規模の、キメ細かな省エネ対策を行うための活用まで視野に入れている。

家電もネットワーク制御

図1 スマートメーターとネットワーク

Aルート Bルート電力会社 スマート

メーター

太陽光発電

蓄電池

家電製品

電気自動車

HEMS

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NE Handbook

[最新動向●MEMSセンサー]

 従来のセンサーは、歪みを電圧に変換する圧電素子のように材料の物性を利用したものが多かった。MEMSセンサーは、半導体の微細加工技術を応用して作る微小な機械である。振り子など、外部の変化によって動く機構を微細化し、その動きを電圧や電流の変化に変換する。従来のセンサーと比較して欠点が少なく、扱いやすさと、特性の高さを同時に備える。 MEMSセンサーは、半導体デバイスの製造に向けた精密な成膜、露光、エッチングといった技術を使う。このため、マイクロメートル・オーダーの機構部品を作ることができる。そして、半導体素子と同じく、一般に寸法を小さくすると感度や精度が向上する。また、センサー素子と、取り込んだ信号を処理する電子回路の1チップ化が容易だ。センサーシステムの小型・軽量化だけではなく、両者をつなぐ配線の短縮によって雑音の混入を防げる。特性の違うセンサー素子を複数組み合わせた検出対象の拡大や、大量のセンサーをアレイ状に並べた分布情報の取得も比較的簡単に実現できる。 現在、MEMSセンサーは民生機器での応用が急拡大している。例えば、加速度センサーがゲーム機に、角速度センサー(ジャイロセンサー)がデジタルカメラの手振れ補正に、Siマイクがノートパソコンにそれぞれ応用されている。さらに、ガスセンサーや生物センサーなどの研究開発が進んでいる。

民生機器で実績積む

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[最新動向●CMOSセンサー]

 CMOSセンサーは、フォトダイオードに蓄積した電荷を、画素ごとに電圧に変換し増幅して読み出す撮像素子である。CCDと並ぶ、代表的な固体撮像素子である。元々は、雑音が大きいことから用途が限られていた。しかし、消費電力を小さくできることや小型化に向くことから、携帯電話機への搭載で開発に火が付いた。また、デジタル信号処理技術の進歩で雑音補償技術が発達し、欠点が問題にならなくなった。読み出し速度が速いことを利用したCMOSセンサーならではの応用製品も数多く登場している。 CMOSとCCDの撮像素子の基本構造から見た違いは、画像信号の読み出し方にある。両者とも、入射した光を、まずフォトダイオードで光電変換し、蓄積した電荷を電圧として読み出して、増幅して出力する点では同じである。この電荷電圧変換と増幅をそれぞれの画素で処理するのがCMOS、電荷のまま転送して、出力段で一括処理するのがCCDである。 CMOSセンサーの課題は、画素ごとに増幅するため、増幅器のしきい電圧がバラつくことによる雑音が発生することだった。結晶欠陥などにより生じる暗電流も大きかったが、最近では大幅に改善されてきた。また、従来フォトダイオードの上面にあった配線を下面に移し、感度を向上させた裏面照射センサーも実用化した。

画像データ取得の要

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NEハンドブックシリーズ センサーネットワーク 発行 日経BP社 〒108-8646 東京都港区白金1-17-3 NBFプラチナタワー 発行日 2014年6月 編集 日経エレクトロニクス 編集協力 日経テクノロジーオンライン、日経BPクリーンテック研究所、 伊藤 元昭(エンライト) デザイン・制作 日経BPコンサルティング 印刷 大日本印刷 協賛 ローム株式会社

©日経BP社2014 本掲載記事の無断掲載を禁じます。Printed in Japan

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