ネズミの体毛が混じるイタチ類の糞イタチ類の確認地点を図6.7-18に示す。イタチ類は、チガヤ群落や路傍・空...

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6.7-35 b.分布状況 イタチ類の確認地点を 図 6.7-18 に示す。イタチ類は、チガヤ群落や路傍・空 地雑草群落の草地、工場事業場内の路傍で確認され、 表 6.7-16 に示した1個体 当たりの行動圏の大きさを考慮すると、確認地点のいくつかは、それぞれ別個 体のもので、調査地域には複数の個体が生息していると考えられる。 繁殖の状況は確認できなかったものの、調査地域には、草地と道路の境界に は側溝や草木の茂みの陰、工場事業場にはパイプや側溝、施設の隙間等、身を 隠せる場所が多数あり、これらの場所で営巣し、繁殖していると考えられる。 c.他の動物との関係 調査地域で発見した糞には、ネズミ類の体毛、植物体などが含まれており、 本種は、ジネズミ、カヤネズミ等のネズミ類や多種の昆虫類の他、植物を餌と していると考えられる。

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Page 1: ネズミの体毛が混じるイタチ類の糞イタチ類の確認地点を図6.7-18に示す。イタチ類は、チガヤ群落や路傍・空 地雑草群落の草地、工場事業場内の路傍で確認され、表6.7-16に示した1個体

6.7-35

b.分布状況

イタチ類の確認地点を図 6.7-18 に示す。イタチ類は、チガヤ群落や路傍・空

地雑草群落の草地、工場事業場内の路傍で確認され、表 6.7-16に示した1個体

当たりの行動圏の大きさを考慮すると、確認地点のいくつかは、それぞれ別個

体のもので、調査地域には複数の個体が生息していると考えられる。

繁殖の状況は確認できなかったものの、調査地域には、草地と道路の境界に

は側溝や草木の茂みの陰、工場事業場にはパイプや側溝、施設の隙間等、身を

隠せる場所が多数あり、これらの場所で営巣し、繁殖していると考えられる。

c.他の動物との関係

調査地域で発見した糞には、ネズミ類の体毛、植物体などが含まれており、

本種は、ジネズミ、カヤネズミ等のネズミ類や多種の昆虫類の他、植物を餌と

していると考えられる。

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6.7-36

図 6.7-18 イタチ類の確認地点

ネズミの体毛が混じるイタチ類の糞

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6.7-37

4)陸域生態系の典型性(チガヤ、ヨシ、カヤネズミ、オオヨシキリ)

①調査の手法

a.調査すべき情報

調査すべき情報は、典型性注目種の生態等を把握するために、次の事項を調

査した。

・生 態

・分布状況(生育場所、採餌、休息、繁殖の場所)

・他の動植物との関係

b.調査の基本的な手法

典型性注目種の生態及び他の動植物との関係は、現地調査による情報の収集

並びに当該情報の整理及び解析、文献その他の資料による情報の整理によって

把握した。

典型性注目種の分布状況は、現地調査による情報の収集並びに当該情報の整

理及び解析によって把握した。現地調査の手法は、表 6.7-17 に示すとおりであ

る。

c.調査地域・調査地点

調査地域は、「植物」、「動物」と同様に、植物、動物に係る環境影響を受ける

おそれがあると認められる事業実施区域及びその周辺とした。

調査地点、調査ルートは、「6.5 植物」、「6.6 動物(哺乳類、鳥類)」と同

様とした。

d.調査期間等

現地調査の調査期間は、1年間とした。現地調査の時期は、注目種の生態特

性をふまえて表 6.7-17 に示すとおり実施した。

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6.7-38

表 6.7-17 陸域典型性の現地調査の手法

調査項目 調査方法 調査地点 調査日

チガヤ、ヨシ等

生態、他の生

物との関係、

分布状況

植物社会学的手法に よ

って、植生高、階層構造、

出現種等を調査し、群落を

識別・同定するとともに、

空中写真判読と現地踏査

により現存植生図を作成

した。

調査地域全域

(図 6.5-2)

秋季

平成 21 年 9 月 17、18 日

カヤネズミ

生態、他の生

物との関係、

分布状況

[目撃法]

ルートを踏査し、目視で

種を同定した。また、無人

撮影による調査を行った。

[フィールドサイン法]

ルートを踏査し、フィー

ルドサイン(糞、足跡、食

痕、巣、爪痕、モグラ塚等

の生息痕跡)から生息する

種類を推定した。

哺乳類:

4 ルート (増設エリア

×1、周辺×3)

無人撮影 3 地点(増設エリア×2、周辺×1)

(図 6.6-2)

春季、秋季

平成 21 年 4 月 8、9 日

平成 21年 10月 15、16日

オオヨシキリ

生態、他の生

物との関係、

分布状況

[ルートセンサス法]

ルートを踏査し、目撃や

鳴き声から生息する種類

を判別し、種別に計数し

た。

[ポイントセンサス法]

調査地点(ポイント)に

おいて、目視で種類を判別

し、種別に計数した。観察

時間は、地点あたり 30 分

とした。

[ルートセンサス法]

4 ルート(増設エリア

×1、周辺×3)

[ポ イ ント セン サス法]

陸域-1~6

(図 6.6-4)

繁殖期

平成 21 年 4 月 8 日

平成 21 年 5 月 8 日

平成 21 年 6 月 8 日

飛来時期、

平成 21 年 9 月 24 日

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6.7-39

②調査の結果

a.チガヤ

ⅰ.生 態

既存文献等によるチガヤの形態、分布、生育環境、生活史に関する知見を表

6.7-18 に示す。

表 6.7-18 チガヤの生態 30)

分類・形態

イネ科の多年草

高さ 30~80cm

生育環境 河原や堤防法面、海浜、畑の畦道などに群生する。日当たり

の良い乾いた草地、特に砂質地に多い。

栄養の少ない土壌でよく育ち、被度や高さなどと土壌水分量と

の間には負の関係があり、土壌水分の少ない乾燥した環境で優占する傾向がある。

生 活 史 繁殖は主に地中を長く這う地下茎によって行われる。4 月頃発

芽して生長する。4 月~6 月には花穂を出し、結実する。地上部の植物体が確認できるのは、4~ 11 月である。

ⅱ.分布状況

本種は、図 6.7-19 に示すとおりチガヤ群落として約1~14ha のまとまった

面積で調査地域内に分布しており、草地の約 7 割を占める。

生育地は、有機物の少ない砂質土からなる乾燥した土壌である。

ⅲ.他の動植物との関係

チガヤ群落内には、10%以下の被度でセイタカアワダチソウ、アレチノハナ

ガサなどの植物が混生しており、ハラオカメコオロギ、トノサマバッタ等のバ

ッタ類、クロアシホソナガカメムシ等のカメムシ類、イチモンジセセリ等のチ

ョウ類等のチガヤやイネ科の草本を餌とする昆虫類の生息場として機能してい

る。また、チガヤ群落は、これら草食性の昆虫類を餌とするカヤネズミ等の哺

乳類の生息・繁殖場としての機能も有している。

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6.7-40

図 6.7-19 チガヤ群落・ヨシ群落等の草地の分布状況

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6.7-41

b.ヨ シ

ⅰ.生 態

既存文献等によるヨシの形態、分布、生育環境、生活史に関する知見を表

6.7-19 に示す。

表 6.7-19 ヨシの生態 31)

分類・形態

イネ科の多年草

高さ 1~3m

生育環境 主に中・下流から河口域にかけての不安定帯の水際付近に生育

し、水深 1m 位まで耐えることができる。低地の湿地にも多い。

栄養の多い土壌でよく育ち、河川、湖沼の水際、湿地など湿潤な環境で優占する傾向があるとされる。

生 活 史 地上部の植物体がみられるのは、3 月下旬~12 月上旬。12 月

中旬~3 月中旬は、地上部が枯死して、地下茎のみが生育する。花期は 8 月~10 月。 10 月~3 月に種子をつける。

ⅱ.分布状況

本種は、図 6.7-19 に示すとおり、ヨシ群落として緑地-1 及び調査地域西端

にそれぞれ 2ha、0.7ha の面積で分布しており、草地の 4%を占める。

生育地は、いずれの分布域も窪地で降雨後に湛水しやすく土壌水分が高い。

なお、本群落内には、ヤマアワなどの湿性植物が混生している。

ⅲ.他の動植物との関係

ヨシが形成するヨシ群落は、アオモンイトトンボ、シオカラトンボのトンボ

類等の幼生期を水中で過ごす種や、アメンボ類、マツモムシ類の水生昆虫など、

湿性の環境に依存する昆虫類の生息場として機能している。

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6.7-42

c.カヤネズミ

ⅰ.生 態

既存文献等によるカヤネズミの分類・形態、生息環境、生態に関する知見を

表 6.7-20 に示す。

表 6.7-20 カヤネズミの生態 2)、32)

分類・形態 ネズミ目ネズミ科

頭胴長:50~80mm、尾長:61~83mm

生息環境 多少湿り気のある低地の草原、水田、畑地に生息する。

生 態

5 月~12 月は、直径 10cm 位の球巣をススキ、チガヤ等のイネ科植

物につくり、巣を中心に生活する。巣材はススキ、チガヤ、スゲ類、

エノコログサなどを用いる。チガヤが枯れる冬の間は、地表面の枯

れ草の下に隠れて生息する。

餌はエノコログサ、ノビエ、オヒシバなどの植物の種子やバッタ、

コガネムシ、イナゴなどの小型の昆虫類であり、巣の周辺で捕獲する。

行動圏は、巣を中心として、雄が約 400m 2、雌が 300m2 程度。

九州の場合、繁殖期は 5 月~6 月と 9 月~12 月上旬の年 2 回である。1 回あたり平均 5~6 頭の子を産む。一夫一婦である。

ⅱ.分布状況

カヤネズミの確認地点を図 6.7-20 に示す。

本種は、主に草地として比較的まとまった面積を有するチガヤ群落に分布し

ており、事業実施区域内の敷地増加エリア、敷地増加エリア西側の調査ルート

沿いで多く確認された。敷地増加エリアのチガヤ群落では球巣が多く発見され

ており、本群落で繁殖していると考えられる。

ⅲ.他の動植物との関係

チガヤ群落等の草地には、エノコログサ、オヒシバ等のイネ科草本や、バッ

タ類やコオロギ類等の小型昆虫類が多数生息しており、本種はこれらを摂食し

ていると考えられる。また、本種は、肉食性のイタチ類に捕食されていると考

えられる。

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6.7-43

図 6.7-20 カヤネズミの確認地点

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6.7-44

d.オオヨシキリ

ⅰ.生 態

既存文献等によるオオヨシキリの分類・形態、生息環境、生態に関する知見

を表 6.7-21 に示す。

表 6.7-21 オオヨシキリの生態 2)、33)

分類・形態 スズメ目ウグイス科

全長:約 18cm

生息環境 河川、海域のヨシ原、その周辺の草地、水田等。

生 態 夏鳥として 4 月から 9 月に日本全国に飛来する。

雄はなわばり性が非常に強く、周囲を見渡せる場所で 1 日中囀り続け

る。水中からヨシが生え、高く密生した場所では生息密度が高く、雄同

士の縄張りが密接してコロニーのようになる。縄張りの広さは、場所によって様々であり、平均 850~1,00 0m2 とされている。

ヨシ原やその周辺の草原、水田などの中で餌をとる。ガやチョウの成

虫と幼虫、ハナアブ、バッタ、甲虫、トンボなどの昆虫類やクモ、カタ

ツムリ、アマガエル等の小動物を採餌する。繁殖期は5~8月。河岸、

湖沼の岸、休耕田などのヨシ原に営巣する。本種は、営巣地として群落

高、密度共に高いヨシの純群落を好み、ヨシ以外の種が混じる群落は営

巣地としての質が低い。巣はヨシ原の中央部よりも水際や水路、道路等

に近い場所に作られることが多い。一夫一婦の場合と一夫多妻の場合があり、前者は比較的乾燥した場所に多く、後者は湿地に多い。

冬季は東南アジア、アフリカ大陸等の熱帯域に渡って過ごす。

ⅱ.分布状況

オオヨシキリの確認地点を図 6.7-21 に示す。

本種は、チガヤ群落やヨシ群落とその周辺に分布していた。増設エリアの西

側にはヨシ群落があり、営巣地としてヨシの純群落を好む本種は、主にここを

生息場、繁殖場にしていると考えられる。

ⅲ.他の動植物との関係

本種はヨシを巣材として利用し、ヨシに営巣する。ヨシ群落、チガヤ群落等

の草地には、本種の餌となるバッタ、トンボ等の小型昆虫類が多数生息してお

り、本種はこれら昆虫類を餌にしていると考えられる。

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6.7-45

図 6.7-21 オオヨシキリの確認地点

Page 12: ネズミの体毛が混じるイタチ類の糞イタチ類の確認地点を図6.7-18に示す。イタチ類は、チガヤ群落や路傍・空 地雑草群落の草地、工場事業場内の路傍で確認され、表6.7-16に示した1個体

6.7-46

6.7.2 予測の結果

(1)予測の手法

海域生態系では、工事の実施に伴う水の濁りの発生による影響、並びに土地

又は工作物の存在及び供用に伴い発生する排水・温排水による影響を予測した。

陸域生態系では、土地又は工作物の存在及び供用に伴う土地の改変よる影響

を予測した。

1)予測の基本的な手法

予測対象種とする注目種は、表 6.7-22 に示すとおり、海域では、上位性注目

種のミサゴ、典型性注目種である海藻類のワカメ、ツルアラメ、魚類のメバル、

コノシロ、陸域では、上位性注目種のイタチ、典型性注目種のチガヤ、ヨシ、

カヤネズミ、オオヨシキリである。

工事の実施に伴う水の濁りの発生による影響は、事業計画と注目種の分布、

生息環境の状況をふまえ、「6.3 水質」で求めた海域の水質(懸濁物質量:SS)

の変化をもとに、生育・生息環境の改変の程度により環境影響を把握した。

土地又は工作物の存在及び供用において、施設の稼働に伴い発生する排水及

び温排水による影響は、事業計画と注目種の分布、生息環境の状況をふまえ、

「6.3 水質」で求めた海域の水質(COD、T-N、T-P、SS)、水温の変化をもとに、

生育・生息環境の改変の程度により環境影響を把握した。

土地又は工作物の存在及び供用に伴う土地の改変による影響は、事業計画と

注目種の分布、生息環境の状況をふまえ、生息環境の改変の程度から、生育・

生息環境の改変の程度により環境影響を把握した。

表 6.7-22 予測対象とする注目種とその影響要因

工事の実施 土地又は工作物の存在及び供用 影響要因

注目種 水の濁り 水の汚れ 富栄養化

水の濁り 水温 流向及び

流速 生息地の

消滅

ミサゴ ○ ○ ○ ○ - -

ワカメ、

ツルアラメ

メバル、

コノシロ

○ ○ ○ ○ ○ -

イタチ - - - - - ○

チガヤ、ヨシ、

カヤネズミ、

オオヨシキリ

- - - - - ○

備考)○:影響要因との関係があり、影響が考えられるもの

-:影響要因との関係がなく、影響が考えられないもの

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6.7-47

2)予測地域

予測地域は、調査地域と同様とした。

3)予測対象時期等

予測対象時期は、生態系に係る環境影響を的確に把握できる時期とした。

工事の実施に伴う影響については、海域の水の濁りに係る環境影響が最大と

なる時期とし、基礎工事エリアが最大となる工事着工後 1~4 月目とした。

施設の稼働による影響については、操業の状態が定常となり、排水の影響が

最大となる時期(平成 25 年度以降)とした。

土地の改変の影響については、施設完成時とした。

4)予測条件

工事の実施に伴う水の濁りの発生による影響は、「6.3 水質」の予測結果を

用いた。

施設の稼働における排水の水質は、「6.3 水質」における環境保全措置(ク

ーリングタワーによる温排水の冷却、アルカリストリッピング処理能力の強化)

を実施した場合の予測結果を用いた。

土地の改変の影響については、「6.6 動物」における環境保全措置(草地環

境の整備)を実施した場合の予測結果を用いた。

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6.7-48

(2)予測結果

1)海域生態系

①上位性注目種(ミサゴ)

a . 工事の実施による影響

ミサゴが生息している洞海湾湾口部及び響灘では、工事の実施に伴い、水の

濁り(SS)が変化することが考えられる。これにより餌生物である魚類が忌避す

ると、ミサゴの採餌への影響が想定される。

工事の影響が最大となる時期の SS の予測結果は、現況との差が 1mg/L 未満と

予測され(表 6.7-23)、濁りによる魚類の生息状況の変化はほとんどなく、ミ

サゴの採餌に及ぼす影響は小さいと考えられる。

表 6.7-23 排水口直近の計算格子(50m×50m)における SS の計算結果

計算対象 現 況(mg/L)

工事中(mg/L)

差濃度 (mg/L)

第 1 層 (海面下 1m 以浅)

3 3 <1

第 2 層 (海面下 1~3m)

<1 <1 <1

第 3 層 (海面下 3~5m)

<1 <1 <1

排水口から25m 地点

第 4 層 (海面下 5~7m)

<1 <1 <1

b.土地又は工作物の存在及び供用に伴う影響

施設の稼働に伴い排水量が増加することにより、排水口前面の海域の表層の

水質(COD、T-N、T-P、SS)や水温が変化すると、餌生物である魚類が底層に分

散する、濁りによって上空からの餌の確認が困難になるなど、ミサゴの採餌環

境に変化が生じると考えられる。

水質と水温の予測結果は、図 6.7-22 と図 6.7-22 に示すとおりであり、「6.5

動物」に示したように、餌となる魚類の分布に与える影響は排水口直近に限ら

れ、本種が主な採餌場としている貯木場周辺への影響はなく、採餌環境は現在

とほとんど変わらないと考えられる。

ミサゴは予測地域では繁殖しておらず、休息には主に貯木場にある杭を利用

しているため、工作物の存在及び供用が繁殖、休息場の機能に変化を与えるこ

とはないと考えられる。

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6.7-49

図 6.7-22 水質差濃度(年平均)並びに水温差(年平均)とミサゴの生息状況の重ね合わせ

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6.7-50

図 6.7-23 水質(差濃度)、水温(差温度)の予測結果

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6.7-51

c.上位性注目種(ミサゴ)への影響

造成時に発生する濁水については、ミサゴの餌である魚類の分布に与える影

響は小さい。施設の稼働により増加する排水・温排水については魚類の分布に

与える影響は排水口直近に限られ、その周囲には餌となる魚類が広く分布して

いることから、ミサゴの採餌場としての機能の変化は小さい。また、ミサゴは

予測地域では繁殖しておらず、休息には主に貯木場にある杭を利用しているた

め、工作物の存在及び供用が繁殖、休息場の機能に変化を与えることはないと

考えられる。

以上より、予測地域におけるミサゴの生息環境の変化は小さく、本種の生息

は維持されると予測される。

②典型性注目種(ワカメ、ツルアラメ、メバル、コノシロ)

a. 工事の実施による影響

典型性注目種(ワカメ、ツルアラメ、メバル、コノシロ)が生息する洞海湾

湾口部及び響灘では、工事の実施に伴い、水の濁り(SS)が変化することが考え

られる。これによりワカメ、ツルアラメの生育に必要な光量の減少、メバル、

コノシロの忌避などの影響が想定される。

水の濁りの予測結果によると予測地域における水の濁りは、「6.3 水質」に

示すように、現況との差はほとんどないものと予測される。

したがって、予測地域におけるワカメ、ツルアラメ、メバル、コノシロの分

布、生育・生息環境の変化は小さく、これらの種の生育・生息は維持されると

考えられる。

b.土地又は工作物の存在及び供用による影響

ⅰ.ワカメ

ワカメが生息している洞海湾湾口部及び響灘では、施設の稼働に伴い、水質

(水の汚れ、富栄養化、水の濁り)、水温、流向及び流速の変化による生息環境

の変化が想定される。

・水の汚れ(COD)

COD の予測結果は、図 6.7-24に示すとおりである。これによると、ワカメの

分布域である洞海湾湾口部の護岸周辺で、排水口から半径 300mの範囲内で COD

は 0.2~0.6mg/L 上昇し、最大値は排水口直近で 3.3m/L と予測される。この値

は、ワカメの生育限界とされる COD3.6mg/L12)と同程度であり、最大値を示した

排水口直近では本種の生育環境が変化すると予測される。

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6.7-52

・富栄養化(T-N、T-P)

T-N、T-P の予測結果は、図 6.7-24 に示すとおりである。これによると、ワ

カメの分布域である洞海湾湾口部の護岸周辺で、排水口から約 300m の範囲内で

T-N、T-P はそれぞれ 0.2~0.4mg/L、0.005~0.01mg/L 上昇し、差濃度の最大値

は排水口直近でそれぞれ 0.4mg/L、0.01mg/L と予測される。T-Nや T-P のうち、

ワカメの生長に用いられるのは溶解性の窒素やりんである。これらの増加は、

ワカメの生長に影響を及ぼすことはないと考えられるが、懸濁性の窒素やりん

の増加は、ワカメの生長に必要な光を阻害する要因となるため、排水口直近で

は本種の生育環境が変化することが考えられる。

・水の濁り(SS)

SS の予測結果は、図 6.7-24 に示すとおりである。これによると、ワカメの

分布域である洞海湾湾口部の護岸周辺で、排水口から約 300m の範囲内で SSは

0.4~1.3mg/L 上昇し、現況と比較して排水口直近で 1.3mg/L の増加と予測され

る。現況においても比較的 SS が高い排水口直近は周辺と比べて被度が小さく、

SS の増加はワカメの生長に必要な光を阻害する可能性があるため、排水口直近

では本種の生育環境の変化が考えられる。

・水 温

本種の夏季の生育上限水温は、30℃とされている 5)。水温の予測結果は図

6.7-24 に示すとおりであり、排水量の増加に伴い護岸では排水口から 300m の

範囲で夏季に 30℃を超えると考えられる。

現況の冬季の水温は、排水口直近の 16.7℃を除き、南限の水温とされる 14℃

17)を下まわっている。また、現況と将来の水温差は、排水口直近を除けば 0.8℃

以下と予測され、冬季の水温が 10℃以上の地域で生育量が減少するとされる

1℃を上まわる上昇 16)はみられない。

排水量の増加に伴う護岸の水温の変化により、本種の生育環境は変化すると

予測される。

・流向及び流速

洞海湾湾口部の護岸、響灘における流向及び流速の予測結果は「6.3 水質」

に示すとおりであり、排水口から 25m 地点の差流速は 0.5cm/s 未満であり、本

種の生育への影響は極めて小さいと考えられる。

Page 19: ネズミの体毛が混じるイタチ類の糞イタチ類の確認地点を図6.7-18に示す。イタチ類は、チガヤ群落や路傍・空 地雑草群落の草地、工場事業場内の路傍で確認され、表6.7-16に示した1個体

6.7-53

図 6.7-24 現況におけるワカメの生息状況と供用時 および現況の水質との重ね合わせ結果

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6.7-54

ⅱ.ツルアラメ

施設の稼働に伴い、水質(水の汚れ、富栄養化、水の濁り)、水温、流向及び

流速の変化によるツルアラメの生育環境の変化が想定される。

本種の生育する響灘における水の濁り、水の汚れ、富栄養化、水温、流向及

び流況の変化は、「6.3 水質」に示すとおりほとんどなく、本種の生育は維持

されると考えられる。

ⅲ.メバル、コノシロ

メバル、コノシロが生息している洞海湾湾口部と響灘では、施設の稼働に伴

い、水質(水の濁り)、水温の変化による生息環境の変化が想定される。

・水の濁り(SS)

SS の予測結果によると、メバル、コノシロの生育する洞海湾湾口部の護岸、

響灘では、排水口付近で濃度が上昇するものの、「6.3 水質」に示すようにそ

の変化は小さい。

したがって、水の濁りによるメバル、コノシロの生息環境の変化は小さいと

考えられる。

・水 温

水温の予測結果によると、メバル、コノシロの生育する洞海湾湾口部の護岸、

響灘では、排水口付近で温度が上昇するものの、「6.3 水質」に示すようにそ

の変化は小さい。

したがって、水の濁りによるメバル、コノシロの生息環境の変化は小さいと

考えられる。

c.典型性注目種(ワカメ、ツルアラメ、メバル、コノシロ)への影響

ワカメへの影響については、工事の実施に伴う水の濁りはほとんどなく、光

量の減少により生育が阻害されることはないと考えられる。また、土地又は工

作物の存在及び供用時は、排水口周辺で COD、T-N、T-P、SS の濃度や水温が上

昇する範囲が拡大する。その範囲は、現況においてもワカメの生育量が少ない

排水口の周辺に限られることから、予測地域におけるワカメの生育環境の変化

は小さく、本種の生育は維持されると予測される。

ツルアラメの影響については、工事中と操業時のいずれも響灘の水質・水温

が変化することはなく、本種の生育は維持されると予測される。

メバルとコノシロへの影響については、工事の実施に伴う水の濁りはほとん

どなく、忌避することはないと考えられる。また、土地又は工作物の存在及び

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6.7-55

供用により、排水口周辺では水質(SS)や水温が上昇する範囲が広がるものの、

その範囲は排水口周辺に限られ、洞海湾湾口部にはメバルとコノシロの生息環

境が広く分布していることから、予測地域における生息環境の変化は小さく、

これらの種の生息は維持されると予測される。

③海域生態系への影響まとめ

本事業の実施に伴う海域生態系への影響について、上位性、典型性の視点か

ら予測した。予測地域の海域は、洞海湾湾口部の護岸、洞海湾湾口部の浅海域、

響灘の護岸、響灘の浅海域の 4 つの類型に区分した。

「上位性」の注目種としては、4 つの類型全てを含んだ食物連鎖の上位に位

置するミサゴを選定した。ミサゴは海域でボラ、コノシロ、スズキ等の魚類を

餌としており、本事業の実施に伴い排水が増加することにより、水質と水温の

変化が魚類の生息へ影響を与えることが想定された。そこで、濁りと水温の予

測結果をふまえミサゴの餌生物の関連性から予測すると、水質の変化はミサゴ

の生息に影響を及ぼすものではないと考えられた。

「典型性」の注目種としては、護岸に生育するワカメ、ツルアラメ等の海藻

類、メバル、コノシロ等の魚類を選定した。本事業の影響として、工事中、供

用時の濁り、供用時の水の汚れ、富栄養化、水温、流向及び流速の変化が考え

られ、これらの変化が注目種の生息環境へ与える影響を予測した。その結果、

水温の変化によって一部の範囲でワカメの生育が不良となることが予測された

ものの、洞海湾湾口部の護岸にはワカメの生育環境が広く分布することから、

本種の生育は維持されると考えられた。また、ツルアラメの生育する響灘への

変化は及ばず、メバル、コノシロの生息環境についても変化の範囲が小さいこ

とから、生息に影響を及ぼすものではないと考えられた。

以上のことから、予測地域の海域において、ワカメ、ツルアラメ等の海藻類

がワレカラ等の小型生物、メバルやその他の魚類の生息場として機能している

状態は変化しない。またメバル、コノシロが植物プランクトン、動物プランク

トンを捕食し、ミサゴが魚類を採餌する関係は維持されると考えられる。

このように、上位性、典型性の視点から、予測地域の海域生態系は維持され

ると考えられる。

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6.7-56

2)陸域生態系

①上位性注目種(イタチ類)

a.土地又は工作物の存在及び供用による影響

イタチ類は、予測地域において複数の個体が生息しており、主に草地で採餌

し、草地や工場・事業場の身を隠せる場所で営巣、繁殖していると考えられる。

イタチ類の採餌場である草地は、施設の存在に伴い 4.5ha が改変され、予測

地域の 5.8%が消失する(表 6.7-24、図 6.7-25)。これにより、改変区域で採

餌していた個体は、周辺に残存する草地等へと行動圏や採餌場を移すと考えら

れる。イタチ類の行動圏は 1~10ha 程度とされ、改変区域から移動した個体と

周辺の草地等を利用していた個体の一部は、競合によってさらに周辺地域へと

移動・分散すると考えられる。予測地域において採餌場となる草地は、将来も

まとまって残存し、複数の個体が採餌できる状況に変化はないと考えられる。

敷地増加エリアの草地で繁殖していた個体は、繁殖場を他の場所へ移動する

と考えられる。本種は、草木の茂み以外でも側溝、施設の隙間等の身を隠せる

場所であれば営巣することが可能である。よって、敷地増加エリアの土地利用

が変化した場合でも営巣可能な場所は存在することが期待され、予測地域にお

けるイタチ類の繁殖状況の変化は小さいと予測される。

以上より、事業の実施に伴い採餌場の一部が消失し、個体の一部は周辺地域

へと移動・分散するがその割合は小さく、まとまった草地が残存すること、ま

た、繁殖状況の変化も小さいと考えられることから、イタチ類の生息は維持さ

れると予測される。

表 6.7-24 イタチ類の餌場の消失・改変割合

面 積(ha) 生息環境

現 況 消失・改変

消失・改変 割合(%)

アカメガシワ- カラスザンショウ群落

0.6 0.1 16.7

常緑低木群落 2.1 0.0 0.0

チガヤ群落 53.6 4.3 8.0

ヨシ群落 2.7 0.0 0.0

路傍・空地雑草群落 18.6 0.1 0.5

合 計 77.6 4.5 5.8

備考)チガヤ群落は、工事完了後に実施する草地環境の整備により

0.5ha を復元するものと想定した。

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6.7-57

②典型性注目種(チガヤ、ヨシ、カヤネズミ、オオヨシキリ)

a.土地又は工作物の存在及び供用による影響

ⅰ.チガヤ

チガヤ群落は、事業の実施により消失・改変される。チガヤ群落と事業計画

の重ね合わせ結果によると、予測地域の消失・改変割合は 8%である(表 6.7-24、

図 6.7-25)。また、周辺にはチガヤ群落がまとまりをもって残存する。

以上より、施設の存在によるチガヤの生育環境の変化は小さく、本種の生育

は維持されると考えられる。

ⅱ.ヨ シ

ヨシが繁茂しているヨシ群落は、事業の実施により消失・改変され、生育環

境が変化する。ヨシ群落と事業計画の重ね合わせ結果によると、予測地域のヨ

シ群落は消失・改変されない(表 6.7-24、図 6.7-25)。

以上より、施設の存在によるヨシの生育環境の変化はなく、本種の生育は維

持されると考えられる。

ⅲ.カヤネズミ

カヤネズミが生息場として利用している草地は、事業の実施により消失・改

変され、生息環境が変化する。草地環境と事業計画の重ね合わせ結果によると、

予測地域全体の草地に占める消失・改変割合は、チガヤ群落では 8%、路傍・

空地雑草群落では 0.5%であり、草地全体として 5.9%が消失・改変される(表

6.7-25、図 6.7-25)。これらの消失・改変区域は工場・事業場となり、本種の

生息環境としては適さなくなる。事業の実施にあたっては、「6.6 動物」に示

す環境保全措置を実施する計画であり、これによりカヤネズミの繁殖に及ぼす

影響は軽減されると考えられる。また、チガヤ群落をはじめとする草地は、予

測地域でまとまりをもって残存することから、生息環境への変化は小さいと考

えられる。

以上より、施設の存在によるカヤネズミの生息環境の変化は小さく、予測地

域における本種の生息は維持されると考えられる。

Page 24: ネズミの体毛が混じるイタチ類の糞イタチ類の確認地点を図6.7-18に示す。イタチ類は、チガヤ群落や路傍・空 地雑草群落の草地、工場事業場内の路傍で確認され、表6.7-16に示した1個体

6.7-58

表 6.7-25 カヤネズミの生息環境の消失・改変割合

面 積(ha) 生息環境

現 況 消失・改変

消失・改変 割合(%)

チガヤ群落 53.6 4.3 8.0

ヨシ群落 2.7 0.0 0.0

路傍・空地雑草群落 18.6 0.1 0.5

合 計 74.9 4.4 5.9

備考)チガヤ群落は、工事完了後に実施する草地環境の整備により

0.5ha を復元するものと想定した。

ⅳ.オオヨシキリ

オオヨシキリが生息場として利用している草地は、事業の実施により消失・

改変され、生息環境が変化する。草地環境と事業計画の重ね合わせ結果による

と、本種の繁殖場であるヨシ群落は消失・改変せず、繁殖場の減少は生じない。

また、予測地域の草地の消失・改変割合は 5.9%である(表 6.7-25、図 6.7-25)。

以上より、施設の存在によるオオヨシキリの生息環境の変化は小さく、本種

の生息は維持されると考えられる。

Page 25: ネズミの体毛が混じるイタチ類の糞イタチ類の確認地点を図6.7-18に示す。イタチ類は、チガヤ群落や路傍・空 地雑草群落の草地、工場事業場内の路傍で確認され、表6.7-16に示した1個体

6.7-59

図 6.7-25 イタチ類、カヤネズミ、オオヨシキリの繁殖場、餌場 となる草地環境と事業計画の重ね合わせ

Page 26: ネズミの体毛が混じるイタチ類の糞イタチ類の確認地点を図6.7-18に示す。イタチ類は、チガヤ群落や路傍・空 地雑草群落の草地、工場事業場内の路傍で確認され、表6.7-16に示した1個体

6.7-60

③陸域生態系への影響まとめ

事業の実施に伴う陸域生態系への影響について、上位性、典型性の視点から

予測した。

「上位性」の注目種としては、陸域生態系の食物連鎖の上位に位置するイタ

チ類を選定した。イタチ類は、草地を採餌場や繁殖場として利用しており、草

地の消失が、本種の分布状況へ影響を及ぼすことが想定された。予測地域にお

けるイタチ類の生息環境の消失の程度は、イタチ類の生息に影響を及ぼすもの

ではないと考えられる。

「典型性」の注目種としては、チガヤ、ヨシ及びそこに生息するカヤネズミ、

オオヨシキリを選定した。

敷地増加エリアのチガヤは消失するものの、これが予測地域に占める割合は

小さく、周辺にはチガヤ群落が広く分布する。また、ヨシは消失することがな

く、生育は維持されると考えられる。

カヤネズミについては、草地の消失により繁殖場と採餌場が減少し、生息状

況が変化することが考えられた。「6.6 動物」に示す環境保全措置をふまえ、

予測地域における生息環境の消失の程度から予測すると、草地の消失による生

息環境への影響は軽減され、カヤネズミの生息は維持されると考えられる。

オオヨシキリについては、草地の消失による繁殖場、採餌場の減少に伴い、

生息状況が変化することが考えられた。予測地域における生息環境の消失の程

度は小さく、オオヨシキリの生息は維持されると考えられる。

以上のことから、予測地域の陸域において、チガヤ群落やヨシ群落などの草

地が、ツチイナゴ等の小型昆虫類、カヤネズミ及びオオヨシキリの生息場とな

り、イタチ類がこれらの植物や小動物を採餌する関係は維持されると考えられ

る。

このように、上位性、典型性の視点から、予測地域の陸域生態系は維持され

ると考えられる。

Page 27: ネズミの体毛が混じるイタチ類の糞イタチ類の確認地点を図6.7-18に示す。イタチ類は、チガヤ群落や路傍・空 地雑草群落の草地、工場事業場内の路傍で確認され、表6.7-16に示した1個体

6.7-61

6.7.3 環境保全措置の検討

(1)環境保全措置の検討項目

工事の実施については、造成等による一時的な水の濁りについて予測を行っ

た。また土地又は耕作物の存在及び供用については、施設の稼働による排水・

温排水による影響、施設の存在による土地の改変について予測を行った。予測

にあたっては、「6.6 動物」で検討した環境保全措置(草地環境の整備)を実

施することを条件とした。

予測の結果、事業の実施が上位性、典型性の注目種の生育・生息に及ぼす影

響は小さく、注目種等が構成する生態系は維持されると判断されたことから、

環境保全措置の検討は行わない(表 6.7-26)。

表 6.7-26(1) 環境保全措置の検討項目

項 目 予測結果の概要 環境保全措置

の検討

位性

ミサゴ 造成時に発生する濁水については、ミサゴの餌である魚類の分布に与える影響は小さい。

施設の稼働により増加する排水・温排水については魚類の分布に与える影響は排水口直近に限られ、その周囲には餌となる魚類が広く分布していることから、ミサゴの採餌場としての機能の変化は小さい。

また、ミサゴは予測地域では繁殖しておらず、休息には主に貯木場にある杭を利用しているため、工作物の存在及び供用が繁殖、休息場の機能に変化を与えることはないと考えられる。

以上より、予測地域におけるミサゴの生息環境の変化は小さく、本種の生息は維持されると予測される。

域生態系

型性

ワカメ

ツルアラメ

メバル

コノシロ

ワカメは水質の変化によって一部の範囲で生育が不良となることが予測されたものの、洞海湾湾口部の護岸にはワカメの生育環境が広く分布することから、本種の生育に影響を及ぼすものではないと考えられる。

ツルアラメの生育する響灘への変化は及ばず、メバル、コノシロの生育・生息環境についても変化の範囲が小さいことから、生息に影響を及ぼすものではないと考えられる。 以上より、予測地域におけるこれらの種の生育・生息環境の変化は小さく、種の生育・生息は維持されると予測される。

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6.7-62

表 6.7-26(2) 環境保全措置の検討項目

項 目 予測結果の概要 環境保全措置

の検討

イタチ類 土地又は工作物の存在及び供用に伴い採餌

場の一部が消失し、個体の一部は周辺地域へと移動・分散することが考えられる。しかし、予測地域における採餌環境と繁殖環境の変化は小さいと考えられることから、イタチ類の生息は維持されると予測される。

チガヤ

ヨシ

カヤネズミ

オオヨシキリ

チガヤは消失・改変されるが、消失・改変の程度は小さく、周辺にはチガヤが広く分布する。また、ヨシは消失・改変せず、生育は維持されると考えられる。

カヤネズミについては、草地の消失による繁殖場、採餌場の減少が生息へ影響を与えることが考えられた。そこで「6.6 動物」に示す環境保全措置をふまえ、予測地域における生息環境の消失の程度から予測すると、草地の消失・改変による生息環境への影響は軽減され、カヤネズミの生息は維持されると考えられる。

オオヨシキリについては草地の消失による繁殖場、採餌場の減少が生息へ影響を与えることが考えられた。そこで、予測地域におけるオオヨシキリの生息環境の消失の程度から予測すると、生息環境である草地の消失・改変による影響は小さく、オオヨシキリの生息は維持されると考えられる。

Page 29: ネズミの体毛が混じるイタチ類の糞イタチ類の確認地点を図6.7-18に示す。イタチ類は、チガヤ群落や路傍・空 地雑草群落の草地、工場事業場内の路傍で確認され、表6.7-16に示した1個体

6.7-63

6.7.4 事後調査

生態系に関する予測結果の不確実性は小さく、「6.6 動物」に示す環境保全

措置および事後調査を実施することにより、環境への影響の程度が重大となる

おそれは小さいと判断されることから、事後調査は行わない。

6.7.5 評価の結果

生態系については、事業の実施に伴う生態系の注目種等への影響を評価する

ための調査、予測を実施した。生態系に係る環境影響は、「6.6 動物」に示す

環境保全措置を実施することにより、事業者の実行可能な範囲内でできる限り

回避・低減されているものと評価する。

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6.7-64

【引用・参考文献】

1)「福岡県航空写真集 ふるさと飛行 平成元年版」(青木秀、西日本新聞社、平成元年10 月 10 日)

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平成 3 年 9 月 10 日) 7)「藻類の生活史集成 第2巻 褐藻、紅藻類」(堀輝三、(株)内田老鶴圃、1993 年 9

月 20 日) 8)「原色日本海藻図鑑」(瀬川宗吉、(株)保育社、昭和 33 年 1 月 10 日) 9)「洞海湾総合調査報告書Ⅲ生態系の主要生物群」(北九州市環境衛生研究所、平成6年

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源保護協会、昭和 58 年 10 月 15 日) 11)「水産学シリーズ 1 水圏の富栄養化と水産増養殖」(社団法人 日本水産学会、昭和

48 年 4 月 15 日) 12)「海の自然再生ハンドブック 第 3 巻 藻場編」(国土交通省港湾局監修、(株)ぎょ

うせい、平成 15 年 11 月 10 日) 13)「水産用水基準 2005 年版」(社団法人 日本水産資源保護協会、平成 18 年 3 月)) 14)「水生生物生態資料」(社団法人 日本水産資源保護協会、昭和 56 年 3 月) 15)「環境白書」(北九州市 平成 11~19 年) 16)「水産研究叢書 水産生物と温排水」(社団法人 日本水産資源保護協会、昭和 48 年

3 月 30 日) 17)「1998 年春に見られた大分県国東半島沿岸の天然ワカメ不漁とその原因」(伊藤龍星、

大分海水研調研報、№3 5-7(2001)) 18)「標準原色図鑑全集/第 15 巻」(千原光雄、(株)保育社、昭和 45 年 7 月 20 日) 19)「海藻の生育深度に關する研究」(殖田三郎、岡田喜一、水産学会誌 vol.7、№4、1938

年) 20)「福岡県百科事典」(西日本新聞社、1982 年) 21)「魚の事典」(能勢幸雄監修、東京堂出版、1989 年) 22)「日本産稚魚図鑑」(沖山宗雄、東海大学出版会、1988 年) 23)「近年の海水温上昇による筑前海沿岸魚類相の変化」(西田高志、中園明信、及川信、

松井誠一、九大農学芸雑誌、第 60 巻 第2号 187-201 (2005)) 24)「水生生物生態資料」(日本水産資源保護協会、昭和 58 年 3 月) 25)「海生生物の温度耐性に関する文献調査」(海生研研報、第 2 号、1-351 2000 年) 26)「新版 魚類学(下)」(落合明、田中克、(株)恒星社厚生閣出版、昭和 61 年 3 月 25

日) 27)「神奈川県域ケ島沖における魚卵・仔魚の垂直分布について」(神水試研報 第 3 号

(1981)) 28)「日本動物大百科 第 1 巻 哺乳類Ⅰ」(日高敏隆監修、平凡社、1996 年)

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6.7-65

29)「イタチとテン」(今泉忠明著、自由国民社、1986 年) 30)「中山間地における圃場整備後の経過年数による畦畔植生の変化の特徴」(近中四農

研 地域基盤研究部 畦畔管理研究室、平成 15 年度) 31)「川の生物図典」(奥田重俊、柴田敏隆、島谷幸宏、水野信彦、矢島稔、山岸哲監修、

(財)リバーフロント整備センター編集、山海堂、1996 年) 32)「カヤネズミの四季」(白石哲著、文研出版、1988 年) 33)「オオヨシキリの生活史に関する研究 ⅡPolygny and territory」(羽田健三、寺西

けさい、日本生態学会誌 Vol.18、No.5、1968 年)