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Japan Transport Safety Board ボーイング式787-8型JA804A 航空重大インシデント調査状況報告 運輸安全委員会 平成25年3月27日 本報告の内容については、今後さらに新しい情報や状況が判明した場合、変更することがあります。

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Japan Transport Safety Board

ボーイング式787-8型JA804A 航空重大インシデント調査状況報告

運輸安全委員会 平成25年3月27日

本報告の内容については、今後さらに新しい情報や状況が判明した場合、変更することがあります。

Japan Transport Safety Board

(全日本空輸株式会社の資料から引用)

1

= 目 次 =

航空重大インシデントの概要 ・・・P 2 航空重大インシデント調査の概要 ・・・P 4 これまでに判明した主要な事実情報 ・・・P 5 今後の調査事項 ・・・P40

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2

航空重大インシデントの概要 全日本空輸株式会社所属ボーイング式787-8型JA804Aは、平成25年 1月16日(水)、同社の定期692便として、東京国際空港に向けて山口宇部 空港を08時11分に離陸し、上昇中、08時27分ごろ、四国上空高度 約32,000ftにおいて、メイン・バッテリーの不具合を示す計器表示とともに、 操縦室内で異臭が発生したため、同機は目的地を高松空港に変更し、08時 47分ごろ、高松空港に着陸した。 08時49分ごろ、同機は高松空港の誘導路T4上で非常脱出(緊急脱出)を開始した。 同機には、機長ほか乗務員7名、乗客129名の計137名が搭乗しており、 そのうち乗客3名が軽傷を負った。 同機のメイン・バッテリーが損傷した。 本件は、航空法施行規則第166条の4第4号に規定された「非常脱出スライド を使用して非常脱出を行った事態」に該当し、航空重大インシデントとして取り 扱われることとなったものである。

(資料1 推定飛行経路図、資料2 機体及びメイン・バッテリーの状況 参照)

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3

– 飛行計画の概要 • 出発地: 山口宇部空港、 ・ 移動開始時刻:08時00分 • 巡航速度: 493kt ・ 巡航高度: FL410 • 経路: FIATO(ウェイポイント)~Y61(RNAV経路)~KTE(香川VOR/DME)~Y33~(略) • 目的地: 東京国際空港、 ・ 所要時間:1時間04分 • 燃料搭載量: 2時間39分 ・ 代替空港:成田国際空港

– 航空機に関する情報

• 型 式: ボーイング式787-8型 • 登録記号: JA804A • 製造番号: 34486 • 製造年月日: 平成23年12月01日 • 総飛行時間: 2,151時間22分

– 運航乗務員に関する情報

〈 機 長 〉 〈 副操縦士 〉 • 技能証明書 定期運送用操縦士 定期運送用操縦士 • 総飛行時間 13,642時間46分 10,946時間04分

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4

航空重大インシデント調査の概要

– 担当調査官 • 主管調査官及び航空事故調査官4名を指名。後に2名追加指名し、計7名

– 専門委員 • 専門委員(リチウムイオン電池の専門家) 1名を指名

– 調査参加国 • 米 国 (当該機の設計・製造国) • フランス (当該機のバッテリーシステム設計担当国)

– 主な調査事項 • 機体調査 • 関係者からの口述聴取

– 機長、副操縦士、客室乗務員、一部の乗客、管制官ほか • バッテリーに関する調査 • 関連するユニット等の調査 • 飛行記録データの分析

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BMU

+ - 1

2

3

4 5

6

7

8

+

+

+

+

+

+

+

-

-

- -

-

-

-

×

5

コンタクター

HBB

BDM

メイン・ バッテリー

BPCU

GCU

•ATP: Acceptance Test Procedure •BCU: Battery Charger Unit •BDM: Battery Diode Module •BMU: Battery Monitoring Unit •BPCU: Bus Power Control Unit •GCU: Generator Control Unit •HBB: Hot Battery Bus

メモリダンプ 及びATP実施 異常なし

メモリダンプ 及びATP実施 異常なし

ATP実施 異常なし

熱による損傷はあるが、大電流が流れた形跡はなし

BCU IN OUT

ATP実施 異常なし

熱による 損傷大

断線

(米国)

(米国)

(米国)

(フランス)

(フランス) バッテリー内部が熱損傷 特にセル3、6の損傷大

大電流が流れた形跡はなし

これまでに判明した主要な事実情報

パワーケーブル

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6

これまでに判明した主要な事実情報

1. バッテリーに関する調査 … P7~29参照

2. 関連するユニット等の調査 … P30~34参照

3. 飛行記録データの分析 … P35~39参照

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7

1. バッテリーに関する調査

– バッテリーの概要 • バッテリーの用途 • バッテリーの構造 • バッテリー・セル

– メイン・バッテリーの損傷状況 • CTスキャン • 分解調査

– バッテリー・セルの損傷状況 • エレメント • 安全弁及び集電体

– バス・バー

– コンタクタ- – バッテリー監視ユニット(BMU) – バッテリー・ケース、蓋 – アース線 – APUバッテリーの状況

• CTスキャン • 分解調査

– その他のバッテリーの状況 • CTスキャン

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APUバッテリー メイン・バッテリー

前方電気室 後方電気室

8

– バッテリーの概要

• 787型機は、前方電気室及び後方電気室に、それぞれ メイン・バッテリー及びAPUバッテリーを搭載 • これらは同じ規格のリチウムイオン二次電池 • バッテリーは8つのセルを有し、これらのセルを直列に接続 • 性能は以下のとおり

– モデル: LVP65-8 – 公称電圧: DC 29.6V (1セル当たり3.7V × 8セル) – 公称容量: 75Ah (アンペア時) – 重 量: 28.5kg – 大 き さ: 215H × 280W × 335L (mm)

215mm

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9

– バッテリーの用途 メイン・バッテリー及びAPUバッテリーは、主として以下の用途に使用される。 • メイン・バッテリー

– 飛行中に発電機からの電源が使用できなくなった場合に非常用発電機(RAT)が作動するまでの電源供給

– エンジン消火器 – 操縦室の計器(離陸時の約2分間及び他の電源が失われた場合) – 主脚の電気ブレーキ(牽引時及び他の電源が失われた場合) – 非常脚下げ – 地上での電源起動 – バスパワー制御ユニット(BPCU)など

• APUバッテリー – 補助動力装置(APU)の始動 – 牽引時の翼端灯点灯など

メイン・バッテリー

APUバッテリー

(いずれも同型式機のもの)

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10

– バッテリーの構造 バッテリー・ケースの中に、 • バッテリー・セル: 8個 • コンタクタ-: 1個 • バッテリー監視ユニット(BMU): プリント基板2枚 • その他センサー、配線等 が収められている

数字はセル番号

バッテリー 概念図

BMU

+ - 1

2

3

4 5

6

7

8

+

+

+

+

+

+

+

-

-

- -

-

-

-

コンタクタ-

コンタクタ-

BMU

バッテリー・セル 8個を直列接続

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11

– バッテリー・セル

• 性能 – モ デ ル: LVP65

– 公称電圧: 3.7 V

– 公称容量: 75 Ah(アンペア時)

– 定格容量: 65 Ah

– 重 量: 2.75 kg

– 大 き さ: 178H×132W×50D

– 使用温度: -18 ~ +65 ℃

• セルの構造

– 右図及び下の写真参照

正極板 (アルミ箔)

セパレーター

負極板 (銅箔)

セパレーター

(写真:㈱ジーエス・ユアサ テクノロジー提供)

(正極:+) (負極:-)

外側

(㈱ジーエス・ユアサ テクノロジーの技術資料から引用)

(安全弁) (負極板)

(正極板)

※ 安全弁は、バッテリー・ケース 外側に向くように配置される

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12

– バッテリー・セル

• 1つのバッテリー・セルには、3つのセル・エレメントが収められている

• セル・エレメントは、セパレーターで絶縁された正極板及び負極板を縦に巻いた構造になっており、両脇に正負の電極が表れている

– 正極板 – 負極板 – セパレーター(ポリエチレン)

• この電極を挟むように取り付けられた櫛状の正負の集電体を通して電流が流れる

– 正極集電体(アルミニウム) – 負極集電体(銅)

• セル・エレメントには電解液がしみ込んでいる

• セル・ケースはステンレス製である

負極集電体

正極集電体

•セパレーター •正極板 •セパレーター •負極板

〈 概 念 図 〉

(資料3 バッテリー・セルの概念図、資料4 電位 参照)

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13

– メイン・バッテリーの損傷状況

• バッテリー・ケースの蓋が膨らんで、熱による溶解物が漏れ出していた • バッテリー内部は、熱による損傷が大きい状態であった

メイン・バッテリー搭載状況

メイン・バッテリー内部

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14

– メイン・バッテリーの損傷状況

• CTスキャン

メイン・バッテリー APUバッテリー

独立行政法人 宇宙航空研究開発機構(JAXA)で実施

※ セル4及び5の損傷が 他のセルに比べて小さい

1

2

3

4

8

7

6

5

1

2

3

4

8

7

6

5 APUバッテリー

正常 状態

(資料5 メイン・バッテリーのCTスキャン画像 資料6、7 メイン・バッテリーのCTスキャン3D画像 参照)

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15

– メイン・バッテリーの損傷状況

• バッテリー製造者の施設で分解調査を実施した

• セル3の正極端子ボルトは、発見されなかった

• 同ナット及び座金は残されていた

• セル3と4を接続するバス・バーの、セル3正極端子側が溶断していた

バッテリー・ ケース展開

1 2 3

8 7 6

4 4

5 5

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16

– バッテリー・セルの損傷状況 • セルの状況

セル1 セル2 セル3 セル6

セル4 セル5 セル7 セル8

(資料8~16 バッテリー・セルの状況 参照)

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– バッテリー・セルの損傷状況 • セル3の状況

負 極

3 6

正 極

負極集電体(銅) 正極集電体(アルミニウム)

セル・エレメント

正極

負極

切断部

正極端子 周辺が欠落

溶断

(比較用)

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– バッテリー・セルの損傷状況 エレメントの調査 • 全てのセル・ケースからエレメントを取り出し、展開した • 全てのエレメントは熱による損傷を受けており、正極板、負極板及びセパレーターを

完全に分離することはできなかった • セパレーターはポリエチレン製(融点:約130℃)であり、全て溶融していた • エレメント内には変色痕が認められた

全てのエレメントの展開 (8セル × 3エレメント/セル)

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19

– バッテリー・セルの損傷状況 • エレメントの状況 (セル5)

– 光学顕微鏡及び走査型電子顕微鏡で観察 – セル5の外側から内側に向けて穴が開いた可能性が高い – 対面するセル6のケースにへこみがあった(穴は開いていなかった) – ケースの穴から扇状に熱が拡散してエレメントに伝わった状況が窺える – エネルギーは外側から内側に伝わったと考えられる

セル5

穴 (セル6側)

正極 負極

穴の位置

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– バッテリー・セルの損傷状況 • 安全弁及び集電体の状況

• 前方の6セル(1,2,3,6,7,8)の安全弁が開放していた • 開放圧力は、7気圧±2気圧

正極集電体

正極集電体 (溶断)

負極集電体

安全弁

開放

安全弁

アーク

凡例

(資料17 安全弁の状態、 資料18~20 バッテリー・セルのCTスキャン3D画像 参照)

8

7

6

5

1

2

3

4

8

7

6

5

1

2

3

4

クロスバー

×

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– バス・バー

• セル3の正極端子のバス・バー(ニッケルめっきの銅製)は溶断

セル3の正極端子位置

21

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– コンタクタ-

• 外観上、熱による損傷を受けていた

• 接点は、作動していなかった (通常は「閉」であり、「開」にはなっていなかった)

• 主接点は閉じており、溶けた様相はなく、大電流が流れた痕跡は見あたらなかった

• 主接点に異物は見当たらなかった

分解された主接点部 (溶けた形跡なし)

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– バッテリー監視ユニット(BMU)

• メインBMU及びサブBMUからなる – メインBMU(BMU1、BMU2) – サブBMU(BMU3、BMU4)

• バッテリーの電圧、電流、温度等を監視し、バッテリーの状態をバッテリー充電器に送る

• バッテリー充電器から受け取る信号 – BMU起動信号 – 充電中信号

• 主な機能

– 過充電、過放電電圧検出 – オーバーヒート保護、低温保護 – 外部ダイオード短絡(電流)監視 – セルバランス – コンタクタ-診断 – 自己診断

メインBMU

サブBMU

(資料21、22 バッテリー監視ユニット 参照)

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1 1 2 2 3 3 4 4

8 8 7 7 6 6 5 5

– バッテリー・ケース • 外箱には、アーク等の痕跡は見当たらなかった

– バッテリーの蓋

• 蓋の裏面に付着した物質の成分分析を実施した – セル3正極端子の上部に、亜鉛成分が多い – 正極端子ボルトは真鍮製で、銅と亜鉛の化合物

24

バッテリーの外箱

バッテリーの蓋

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25

– アース線 • バッテリー・ケースのアース線が断線していた • 溶断した痕跡があった • 同機には、落雷の履歴の記録はなかった

約19cm 約12.5cm

+

-

+

×断線

機体側 バッテリー側

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– APUバッテリーの状況

• バッテリー CTスキャン • バッテリー Acceptance Test

– 容量、電圧、抵抗、インピーダンス測定 • バッテリー 分解調査

– 端子ナットのリリーストルク測定 • セル CTスキャン

– セル7及びセル1に僅かな膨らみ • セル Acceptance Test

– 容量、電圧、抵抗、インピーダンス測定 • セル分解調査

– セル7を分解 • エレメント分解調査

– セル7のエレメント1(バッテリー前方側)を分解

いずれも特段の異常は見られず

APUバッテリー

1

7

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27

– その他のバッテリーの状況

使用時間数の多いバッテリー(S/N: 189)の調査

• バッテリー CTスキャン • バッテリー Acceptance Test

– 容量、電圧、抵抗、インピーダンス測定 • バッテリー 分解調査

– 端子ナットのリリーストルク測定 • セル Acceptance Test

– 容量、電圧、抵抗、インピーダンス測定 – ソフトショート試験(継続中) – 最終結果によりセル分解を判断

いずれも現時点で特段の異常は見られなかった

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28

1. バッテリーに関する調査 (まとめ)

– メイン・バッテリー • 8セル全てに熱による損傷が見られた。

– セル4及びセル5の損傷は、他のセルに比べて小さかった • 熱暴走が見られた • セル3正極付近の損傷が特に大きかった

– 真鍮製の端子ボルトが発見されなかった – ステンレス製のケース上部に大きな穴が開いていた – 銅製のバス・バーが溶断していた

• セル4及びセル5を除く、6セル全ての正極集電体に溶断が認められた – 正極集電体はアルミニウム製 – (資料18、19 バッテリー・セルのCTスキャン3D画像 参照)

• セル4及びセル5を除く、6セル全ての安全弁が開放していた – 安全弁開放圧力は約7気圧

• セル5のケースに、直径約1mmの穴が開いていた(セル6の対面位置は凹み) – 穴周辺のエレメントに大きな熱損傷が見られた

(つづく…)

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29

1. バッテリーに関する調査 (まとめ)

– メイン・バッテリー (…つづき) • コンタクターの主接点に大電流が流れた痕跡はなかった • コンタクターが作動した形跡はなかった

– 通常は接点が閉だが、BMUが過電圧を検知すると接点を開く (資料21 バッテリー監視ユニット 参照)

• バッテリー監視ユニット(BMU)のプリント基板は熱により損傷していた • バッテリーの外箱にはアーク等の痕跡はなかった • バッテリー・ケースのアース線が溶断していた

– APUバッテリー

• 一部のセルにわずかな膨らみがあったが、特段の異常は見られなかった

– その他のバッテリー • 現時点で特段の異常は見られなかった

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30

2. 関連するユニット等の調査

– バッテリー充電器(BCU)

– バスパワー制御ユニット(BPCU)

– 発電機制御ユニット(GCU)

– バッテリー・ダイオード・モジュール(BDM)

– パワーケーブル

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– バッテリー充電器(BCU) • 2月2~3日、米国の製造者においてATP実施

– メイン・バッテリー用及びAPUバッテリー用の2台とも、特段の不具合は認められなかった

• 2月16~17日、米国ボーイング社において、バッテリー充電器と健全バッテリーとの接続試験を実施

– 電圧、電流、セルの電圧、温度、制御信号等を測定 – いくつかの動作シナリオにより試験実施 – 引き続きデータを分析中

– 重量: 4.98kg – 大きさ: 196H×129W×373D(mm) – 最大出力: 1500W

(米国のバッテリー充電器製造者資料から引用)

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– 前方電気室内のバスパワー制御ユニット(BPCU) • 2月6日、米国の製造者において、ATP及び不揮発性メモリデータの

ダウンロードを実施 • 特段の不具合は認められなかった • ダウンロードデータを分析中 現時点で新事実はなし

– 右エンジン用発電機制御ユニット(GCU) • 2月6日、米国の製造者において、ATP及び不揮発性メモリデータの

ダウンロードを実施 • 特段の不具合は認められなかった • ダウンロードデータを分析中 現時点で新事実はなし

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– バッテリー・ダイオード・モジュール(BDM) • 2月6日から13日、フランスの製造者においてATP実施 • 特段の不具合は報告されていない • ダイオードの性能

– 定格電流: 47A – 電圧降下: 1V以下

– コントロール・ケーブル(J1端子)

• ケーブルを分解、損傷等なし

– パワーケーブル(J3端子) • ケーブルを分解、大電流の痕跡なし

コントロール・ケーブル 及びパワーケーブル

BDM

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2. 関連するユニット等の調査 (まとめ)

– バッテリー充電器(BCU) …ATPで異常なし • バッテリー充電器とバッテリーとの接続試験は継続

– バスパワー制御ユニット(BPCU) …ATPで異常なし

– 発電機制御ユニット(GCU) …ATPで異常なし

– バッテリー・ダイオード・モジュール(BDM) …ATPで異常なし

– パワーケーブル …大電流の痕跡なし

– コンタクター …大電流の痕跡なし

メイン・バッテリーの外部には、大電流が流れた痕跡は見当たらなかった

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35

3. 飛行記録データの分析

– フライトレコーダー(EAFR)の概要

– バッテリー電圧、電気室の室温等の記録

– 時系列イベント

– メイン・バッテリー電圧の記録値

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36

– フライトレコーダー(EAFR)の概要

• 飛行記録装置(DFDR)、操縦室用音声記録装置(CVR)及びデータリンク記録装置の機能を持つ一体型レコーダー

• 機体の前方及び後方に計2台のEAFRが搭載され、冗長構成になっている

• 機体の電源が失われた場合でも、10分間は記録を継続できる

– バッテリー電圧、電気室の室温等の記録

• 別添1~3 DFDR記録のとおり

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37

– 時系列イベント 08:10:46 山口宇部空港を離陸 同 26:28 上昇中、高度約32,000ftを通過 同 26:40 メイン・バッテリー電圧記録値(Main_Battery_Voltage)が31Vから低下 同 26: 41 メイン・バッテリー不具合の計器表示 同 26:48 メイン・バッテリー電圧記録値が11Vとなった 同 28:05 高度約33,600ftに達した後、降下を開始 同 28:22 約6分間、メイン・バッテリー電圧記録値が変動 同 46:53 高松空港の滑走路26に着陸 同 48:38 誘導路T4上で停止し、非常脱出の指示 同 59:27 DFDRの記録終了

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38

– DFDRに記録されたメイン・バッテリー電圧の記録値の検討

APU

バッテリー

負荷

航法灯等

リレー

リレー

TOWING POWER

メイン・

バッテリー

メイン・バッテリー及びAPU バッテリー電圧がほぼ均衡して いるときは電流が流れず、 リレーは作動しない。すなわち、 航法灯等は点灯しない

事象: 「TOWING POWER」がオフに もかかわらず、翼端灯等が点灯 していた

(左右の翼端灯と尾部灯火)

DFDRの「メイン・バッテリー電圧」記録値は、APUバッテリー電圧の影響を受けていたものと考えられる

DFDR「メイン・バッテリー電圧」 記録値 電圧降下:約1V

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39

これまでに判明した主要な事実情報 (まとめ)

1. DFDR記録によれば、メイン・バッテリー電圧は、約10秒間で31Vから急激に低下した

2. バッテリーには熱暴走が見られた

3. セル3の正極端子付近の損傷が激しかった

4. メイン・バッテリー・ケースの外側及びコンタクターに、各部が溶断するほどの大電流が流れた痕跡は見つかっていない

5. メイン・バッテリー外箱の内部及び外箱アース線付近で、大電流が流れた可能性が考えられる

6. 現時点では、根本的な原因の解明には至っていない

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40

今後の調査事項

1. 収集資料の分析 • バッテリーの分解調査結果 • 機器や部品の調査結果 • DFDR等の記録データ • 技術資料等

2. バッテリーと周辺機器の親和性の調査

3. バッテリー認証経緯に関する調査

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41

• 略語集 – APU Auxiliary Power Unit – ATP Acceptance Test Procedures – BCU Battery Charger Unit – BDM Battery Diode Module – BMU Battery Monitoring Unit – BPCU Bus Power Control Unit – CT Computed Tomography – EAFR Enhanced Airborne Flight Recorder – GCU Generator Control Unit – HBB Hot Battery Bus – JAXA Japan Aerospace Exploration Agency – RAT Ram Air Turbine

31V

08:26:41

08:48:38

(非常脱出指示)

5分

(前方電気室室温)

(後方電気室室温)

(℃)

(メイン・バッテリー電圧記録値)

(対気速度)

(気圧高度)

11V

(高度約32,000ft)

(kt)

(ft)

山口宇部空港 離陸

高松空港 着陸

約16分後

08:11 08:47

3V

※ 今後の詳細な分析により修正される場合があります

(V)

別添1 DFDRの記録1

(メイン・バッテリー不具合)

10秒 ※ 今後の詳細な分析により修正される場合があります

1分

31V

11V 11V

32V

27V 26V 22V

14V

31V

11V

32V

30V 29V

14V

※ 今後の詳細な分析により修正される場合があります

2013-01-16_JA804A_Boeing787

2013-01-16_JA804A_Boeing787

(メイン・バッテリー電圧記録値)

(APUバッテリー電圧記録値)

(メイン・バッテリー電圧記録値)

(APUバッテリー電圧記録値) 08:26:41

08:26:48

08:26:41

別添2 DFDRの記録2

別添3 DFDRの記録3

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ボーイング式787-8型JA804A 航空重大インシデント調査状況報告

■ 資料集 ■

運輸安全委員会 平成25年3月27日

本報告の内容については、今後さらに新しい情報や状況が判明した場合、変更することがあります。

Japan Transport Safety Board

1

高松空港

08:47 滑走路26に着陸

08:11離陸

08:47着陸

高松空港

08:27ごろ

誘導路T4上で停止 08:49 非常脱出

資料1 推定飛行経路図

山口宇部空港

•バッテリー不具合の計器表示 •操縦室内で異臭

Japan Transport Safety Board

2

装備品クーリング・ オーバーライド・バルブ

アウトフロー・バルブ

メイン・バッテリー

高松空港の誘導路T4上

資料2 機体及びメイン・バッテリーの状況

前方

Japan Transport Safety Board

資料3 バッテリー・セルの概念図

• このリチウムイオン電池は、正極にコバルト酸リチウムを含む化合物、負極に炭素系材料を使用し、セパレーターとしてポリエチレン多孔フィルムで絶縁して、電解液をしみこませたものである。

• 各エレメントは、樹脂シートで絶縁される • 正極集電体はアルミニウム製、負極集電体は銅製である。

• 正極及び負極端子は、真鍮製である • ステンレス製のセル・ケースと両端子は、パッキンで絶縁される

• セル・ケース間は、樹脂板で絶縁される • 材料の融点は右表のとおり

3

+ - 炭素系材料

コバルト酸リチウム化合物

セパレーター (ポリエチレン)

電解液

正極端子 負極端子

正極集電体(アルミニウム)

負極集電体(銅)

セル・ケース(ステンレス)

〈材 料〉 〈融 点〉 ステンレス 約1400℃ 銅(Cu) 約1080℃ 真鍮(銅-亜鉛合金) 約910℃ アルミニウム(Al) 約660℃ 樹脂シート 約280℃ 樹脂板 約250℃ ポリエチレン 約130℃

(いずれも真鍮)

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4

資料4 電位

• 8つのセルを収納するバッテリーの電位は、概略右図のようになる

• バッテリー・ケースは接地されている

• バッテリー・ケース、8つのセル、セル内の各エレメントは、それぞれ絶縁されている

- 1

- 2

- 3

- 4

- 5

- 6

- 7

- 8

+32V

+28V

+24V

+20V

+16V

+12V

+8V

+4V

0V

バッテリー・ケース

負荷

各セル電極の電位

Japan Transport Safety Board

5

← 上部

下部 →

(垂直方向1mm毎の断面撮影画像から10枚を抜粋)

(1月22~23日撮影) 資料5 メイン・バッテリーのCTスキャン画像

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6

※ セル4及び5の損傷が他のセルに比べて小さい

1 2 3 4

8 7 6 5

1 2 3 4

8 7 6 5

資料6 メイン・バッテリーのCTスキャン3D画像

Japan Transport Safety Board

7

1 2 3 4 4

8 7 6 5 5 ※ セル4及び5の損傷が 他のセルに比べて小さい

資料7 メイン・バッテリーのCTスキャン3D画像

Japan Transport Safety Board

8

資料8 バッテリー・セルの状況(セル1及び2)

前面

セル1 セル2

セル1

セル2

SIDE 1

SIDE 2

SIDE 3

SIDE 4 バッテリー前方 1

2 3

エレメント

セル

凡例

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9

資料9 バッテリー・セルの状況(セル3及び6)

3 6 6 3

6 3

3 6

3 6

3 6 6 3 3 6

セル・ケースの 溶着

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10

資料10 バッテリー・セルの状況(セル3)

負極板と 負極集電体(銅)

正極端子付近は、セル・ケースに穴が開き、 内部のエレメントが見える

安全弁

正極板と正極集電体。集電体(アルミ)は溶断

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11

資料11 バッテリー・セルの状況(セル6)

(分解時 に切断)

負極板と負極集電体 正極板と正極集電体。集電体は溶断

負極 正極 (溶断)

セル・ケース上部裏側

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12

セル4 セル5 セル5 セル4

セル5 セル4

資料12 バッテリー・セルの状況(セル4及び5)

Japan Transport Safety Board

13

資料13 バッテリー・セルの状況(セル4及び5)

絶縁用シートの一部が残っていた

セル5 セル4

セル5

セル5

Japan Transport Safety Board

14

資料14 バッテリー・セルの状況(セル5)

セル・エレメントの分解 (セル5、エレメント3の展開例)

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15

資料15 バッテリー・セルの状況(セル7)

負極

正極 集電体

SIDE 1 SIDE 3 SIDE 4

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16

資料16 バッテリー・セルの状況(セル8)

セル・ケース上部裏側

負極 集電体

SIDE 1 SIDE 3

SIDE 4

Japan Transport Safety Board

セル5 セル7 セル8 セル6

セル2 セル4 セル1 セル3

17

資料17 安全弁の状態

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18

セル1正極

セル1負極

セル2正極

セル2負極

セル3正極

セル3負極

セル4正極

セル4 負極

資料18 バッテリー・セルのCTスキャン3D画像

(撮影したCTスキャン画像を3D化)

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19

セル8正極

セル8負極

セル7正極

セル7負極

セル6正極

セル6負極

セル5正極

セル5負極

資料19 バッテリー・セルのCTスキャン3D画像

(撮影したCTスキャン画像を3D化)

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20

セル3

セル6

資料20 バッテリー・セルのCTスキャン3D画像

(撮影したCTスキャン画像を3D化)

負極(-)

負極(-)

正極(+)

正極(+)

安全弁 開放

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21

放電禁止

4.00 V

2.10 V

1.7 V

通常使用電圧

充電時セルバランス

充電禁止信号出力 (ラッチ信号出力)

セル電圧

4.025 V

4.20 V

4.30 V

BMU1

BMU2

充電禁止

BMU1

充電禁止 コンタクター開放

■過充電保護

■過放電保護

■過充電保護

■過放電保護

4.55 V 36.5 V

32.2 V

22 V

16.8 V

16 V

12 V

通常使用範囲

31.8 V

定電圧モード充電

充電完了

BMU1, BMU2

BMU3

BMU4 自己遮断

総電圧 資料21 バッテリー監視ユニット(BMU)

コンタクター開放

過充電及び過放電は、BMU1とBMU2の両方で二重に保護されている

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22

■外部ダイオード短絡監視

80 A

充電禁止

充電禁止

+70℃

-23℃ ■低温保護

■オーバーヒート保護

通常使用範囲

資料22 バッテリー監視ユニット(BMU)

充電禁止信号出力 (ラッチ信号出力)

■大電流充電保護