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Paolo Bosetti (イタリア,トレント大学, 生産工学部准教授) 世界中の大学の工学部生によるチームがフォーミュラ SAE(FSAE: Formula SAE)の競技会でレースカーの製作に競って取り組んでおり, 実践的にかつ楽しみながらエンジニアリング知識を応用する機会を 活用しています.E-AGLE Trento レーシングチームは,ANSYS の付加製造技術ソリューションおよび ANSYS Mechanical の トポロジー最適化機能を利用して,軽量化とジョイントの強化が施 されたレースカーを設計しています.この手法による FSAE レース カーの製作は,従来の典型的な手法よりも容易です. Stronger Race Car Framing a Lighter, 3Dプリントのジョイントによって, ねじり剛性が高まったFSAEレースカーの フレーム イタリアのトレント大学の E-AGLE Trento レーシングチームにとって, フォーミュラ SAE は単なるレースではなく,車体フレームの設計および製 造についての革新的なアイデアを実現する機会でもあります.ANSYSの テクニカルサポートチームと緊密に連携しながら,E-AGLE Trento チーム は ANSYS Workbench Additive(ANSYS Additive Suite に含まれる)に よるシミュレーションを実行して,強度の面で,潜在的に弱い溶接に依存す るよりも,材料の機械的特性への依存を高めた革新的なフレームジョイント を製作しました.このジョイントによって,溶接時にコンポーネントを適切 な位置で支持する金型(固定具)の必要性も最小限に抑えることができ,製 造段階の作業も容易になります.従来のフレームの弱い部分は,サスペン ションを車体フレームに取り付ける箇所でしたが,同チームは Workbench Additive を使用することで,この「ハードポイント」と呼ばれる部分をジョ イントの外側に溶接した金属製のタブで構成する代わりに,3D プリントで作 レースカーのフレーム構造の軽量化および強化 © 2019 ANSYS, INC. ANSYS ADVANTAGE I 53 アカデミック

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Paolo Bosetti(イタリア,トレント大学, 生産工学部准教授)

世界中の大学の工学部生によるチームがフォーミュラ SAE(FSAE:Formula SAE)の競技会でレースカーの製作に競って取り組んでおり,実践的にかつ楽しみながらエンジニアリング知識を応用する機会を 活用しています.E-AGLE Trento レーシングチームは,ANSYS の付加製造技術ソリューションおよび ANSYS Mechanical の トポロジー最適化機能を利用して,軽量化とジョイントの強化が施されたレースカーを設計しています.この手法による FSAE レースカーの製作は,従来の典型的な手法よりも容易です.

Stronger Race CarFraming a Lighter,

3Dプリントのジョイントによって, ねじり剛性が高まったFSAEレースカーの フレーム

イタリアのトレント大学の E-AGLE Trento レーシングチームにとって,フォーミュラ SAE は単なるレースではなく,車体フレームの設計および製造についての革新的なアイデアを実現する機会でもあります.ANSYS のテクニカルサポートチームと緊密に連携しながら,E-AGLE Trento チームは ANSYS Workbench Additive(ANSYS Additive Suite に含まれる)によるシミュレーションを実行して,強度の面で,潜在的に弱い溶接に依存するよりも,材料の機械的特性への依存を高めた革新的なフレームジョイントを製作しました.このジョイントによって,溶接時にコンポーネントを適切な位置で支持する金型(固定具)の必要性も最小限に抑えることができ,製造段階の作業も容易になります.従来のフレームの弱い部分は,サスペンションを車体フレームに取り付ける箇所でしたが,同チームは Workbench Additive を使用することで,この「ハードポイント」と呼ばれる部分をジョイントの外側に溶接した金属製のタブで構成する代わりに,3D プリントで作

レースカーのフレーム構造の軽量化および強化

© 2019 ANSYS, INC. ANSYS ADVANTAGE I 53

アカデミック

強度とねじり剛性が大幅に向上した 3Dプリントのジョイント

組み立てられた車体フレーム部の 拡大表示:ハードポイント接続部一体型の 4方向ジョイント

元のベルクランク 新しいベルクランク

ANSYSのトポロジー最適化機能で設計されたベルクランク:部品重量を345gから220gに 削減(37パーセントの軽量化)

成したジョイントに一体化させることができました.このような典型的な弱点を取り除くことで,チームは車体フレームの剛性を高め,レース中に破損する可能性を減らしました.最終的には,ANSYS Mechanical を用いたトポロジー最適化によって,車体の 1 つの部品の質量を 55 パーセント減らすことができました.

起源E-AGLE Trento チームは,トレント大学教員の指導の下,2016年に結成されました.製作予定のレースカーのコンポーネントによっては,付加製造技術を用いる必要があると考え,同チームは産業開発企業である Trentino Sviluppo 社と提携しました.同社は EU の出資を受けて,地方自治体が所有者となっており,そのメカトロニクスシステムの試作用設備はProMという名前で呼ばれています.この設備は Trentino Sviluppo 社,トレント大学,Bruno Kessler 財団によって管理され,トレント州経営者協会の支援も受けています.

この提携は,当事者双方にとって有益なものでした.E-AGLE Trento チームは,ProM の 3D プリンタ,レーザーカッター,その他の最先端機器を必要としていました.ProM は市場にその能力を実証するため,最初のテストケースを必要としていました.FSAE レースカーのプロジェクトは,理想的なテストケースだったのです.

基本部品の設計同チームが選択したのは,競技会の多くのチームが採用したモノコック設計ではなく,オープンフレーム設計でした.オープンフレーム設計では,エンジニアリングの課題として,金属チューブとジョイントの最適な構成を設計することに注力しました.全体目標は,車体フレームのねじり剛性をフレームの重量で割った値として定義したパラメータの最適化によって,フレームの大まかな形状を決定することでした.

車体フレームの 3 つのチューブを結ぶジョイントの寸法,厚さ,および相対位置として検討可能な変数は広い範囲に及んだため,学生エンジニアは ANSYS Workbench 環境に含まれる ANSYS Mechanical でパラメータを使用した調査を行って,すべてのオプションを検討しました.フレームの各ポイントでチューブの最適な断面積と厚さを見つけることは,フレームの総重量を最小限に抑えながら,高応力のポイントでフレームを強化するために重要な意味を持ちました.パラメータを使用したシミュレーション調査によって,従来の手動反復のみを想定した場合と比較して何分の 1 かの時間で,学生エンジニアは各チューブとジョイントの最適な構成を決定できました.

詳細設計に移行E-AGLE Trento チームの学生エンジニアは,満足の行く FSAE レースカーのフレームを単に設計するだけでなく,車両の強度と製造性を大幅に改善する革新的な要素を導入したいと強く望んでいました.この革新的な要素として挙げられるのが,フレームジョイントです.これは,3 本以上のフレームチューブが交差してコーナーを形成する箇所です.従来は,チューブの末端同士を単純に溶接してジョイントを形成していましたが,この方法では,溶接部がフレームの弱点になる可能性がありました.学生エンジニアは ANSYS Mechanical と Workbench Additive を用いて,溶接自体よりも金属の機械的特性に強度が大きく依存するフレームジョイントの製作に注力しました.また,サスペンション接続のハードポイントも 3D プリントのジョイントに一体化して,もうひとつの弱点を取り除きました.

溶け込み域

ハードポイント接続部分の堅牢な接続

チューブの正確な位置決め用の歯(ジョイント間)

軽いプレスフィットによるチューブへの取り付け溝

円錐端

54 I ANSYS ADVANTAGE ISSUE 1 | 2019

Stronger Race Car (続き)

コンポーネント実機の熱変形測定値

FSAEレースカーのコンポーネントの熱変形 シミュレーション

「トポロジー最適化 機能を用いて, 学生エンジニアは, ベルクランクの 質量を 345g から 220g に削減しました

(37 パーセントの 軽量化).」

こうして決定した最適なフレームチューブの寸法に基づき,学生エンジニアは Workbench Additive を用いて,ジョイントの端部がフレームチューブの端部に隙間なく収まるように,ジョイントの直径をわずかに大きく設計しました.最終的に内側に挿入するジョイントには,外側のフレームチューブと接するように設計された長手方向の山部が設けられました.これにより,チューブとジョイントの間の機械的応力は,以後の溶接によらず,ジョイントの機械的な嵌合によって主に支えられます.フレームチューブの末端には,溶けた溶接用の合金を保持するため,わずかな面取りが施されています.この面取りに沿って一定の間隔で配置された小さい歯のような突起によって,チューブとジョイントの間の距離が適切に保たれます.これはチューブとジョイントの極めて正確な相対位置決めであり,次の 2 つの大きな利点があります.• 車体フレームの組み立て時に必要な金型が 1 つだけで済みます.この 1 つだ

けの金型は,溶接時に車体フレームのメインフープを車両の後部と接合するために使用します.FSAE のレギュレーションでは,メインフープは単一のチューブであることが必須と規定されているので,ジョイント接続することはできず,溶接するしかありません.車体フレームの後部の組み立て時には,ジョイントに対するチューブの正確な位置決めによって構造が固定されているので,金型は不要です.この準備によって,溶接の精度が確保されるとともに,車体フレーム全体の溶接時間が大幅に短縮されます.

• 最終的なフレームは,単純な溶接によるオープンスペース式のフレーム設計と比較すると,堅牢性と剛性が大きく向上します.

コンポーネントの軽量化軽量化は車の加速を向上させる明快な方法であるとともに,同じ燃料消費量でスピードアップを達成します.これは,あらゆるレースカーにとって重要な意味を持ちます.E-AGLE Trento の学生エンジニアは,ANSYS Mechanical のトポロジー最適化機能を用いて,当初は均質な金属部品であったベルクランク,サスペンションロッカー,ステアリング支持機構という 3つのコンポーネントを再設計しました.トポロジー最適化によって,パーツが荷重を受けたときに,荷重と応力を効果的に支えられるように,所定の体積の範囲内で材料が存在すべき箇所が自動的に決定されます.最終的なフレーム構造には,材料を必要としないオープンスペースがあり,応力が高い箇所には厚さを増した支柱が存在することになります.全体として,トポロジー最適化によって各コンポーネントの軽量化が実現するわけです.このケースでは,学生エンジニアは,ベルクランクの質量を 345g から 220g に削減しました(37 パーセントの軽量化).ステアリング支持部については,質量を450g から 210g に削減しました(55 パーセントの軽量化).

付加製造技術設計における熱変形の補正金属粉末床による付加製造には,材料層を付加する処理(積層)と,レーザー加熱で粉末を溶かす処理が含まれます.この加熱と冷却により変形が生じると,理想とは異なる形状が得られる可能性があります.E-AGLE Trento チームは ANSYS Workbench Additive を用いて,3D プリントの実行前に熱変形の量をシミュレーションしました.これにより,パーツの形状を調整して,変形を補正することができました.それでも変形は起きましたが,その変形は予測可能な振る舞いの範囲内で起こるので,形状の修正によって対処できました.最終的なパーツは,仕様を正確に満たしていました.

協力体制でレースに勝利ANSYS のテクニカルサポートチームとの緊密な連携によって,E-AGLE Trento チームの学生エンジニアは,Workbench Additive と Mechanical を効率的かつ効果的に使用して,FSAE レースカー用の革新的なフレームを設計する方法について学びました.製作した車は軽量化とともに,ねじり剛性の向上による強化が施されて,高速化,摩耗の減少,安全性の向上といった効果が得られました.

© 2019 ANSYS, INC. ANSYS ADVANTAGE I 55

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