h26.3 h28 - maff.go.jp€¦ · 山地災害危険地区調査要領(h28.7 林野庁)...

8
27 2.2 危険性把握手法の検討 山地災害の発生危険性の既往の評価手法としては以下の手法がある。 大規模崩壊潜在斜面危険度判定マニュアル(案)(H26.3 林野庁) 山地災害危険地区調査要領(H28.7 林野庁) 事象発生後は、地形が変化しているため、山地災害発生の危険性は評価前と異なっているため、事象 発生後に航空レーザ計測データの解析や微地形判読結果と組み合わせることで、発生前の危険度から変 化しているかを評価する必要がある。 2.28 災害前、災害後の危険度評価の流れ 2.2.1. 大規模崩壊潜在斜面危険度判定マニュアル(案)による評価 林野庁では、潜在する大規模崩壊等の恐れのある地域を特定するため、平成 26 年度に大規模崩壊に 対する調査体系及びマニュアルのとりまとめを行っている。調査は、第 1 段階~第 3 段階調査があり、 2 段階では航空レーザ測量成果を活用した調査をもとに、危険度判定を行う。 2.29 大規模崩壊に対する調査体系

Upload: others

Post on 16-Oct-2020

5 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: H26.3 H28 - maff.go.jp€¦ · 山地災害危険地区調査要領(h28.7 林野庁) 事象発生後は、地形が変化しているため、山地災害発生の危険性は評価前と異なっているため、事象

27

2.2 危険性把握手法の検討

山地災害の発生危険性の既往の評価手法としては以下の手法がある。

大規模崩壊潜在斜面危険度判定マニュアル(案)(H26.3 林野庁) 山地災害危険地区調査要領(H28.7 林野庁)

事象発生後は、地形が変化しているため、山地災害発生の危険性は評価前と異なっているため、事象

発生後に航空レーザ計測データの解析や微地形判読結果と組み合わせることで、発生前の危険度から変

化しているかを評価する必要がある。

図 2.28 災害前、災害後の危険度評価の流れ

2.2.1. 大規模崩壊潜在斜面危険度判定マニュアル(案)による評価

林野庁では、潜在する大規模崩壊等の恐れのある地域を特定するため、平成 26 年度に大規模崩壊に

対する調査体系及びマニュアルのとりまとめを行っている。調査は、第 1 段階~第 3 段階調査があり、

第 2 段階では航空レーザ測量成果を活用した調査をもとに、危険度判定を行う。

図 2.29 大規模崩壊に対する調査体系

Page 2: H26.3 H28 - maff.go.jp€¦ · 山地災害危険地区調査要領(h28.7 林野庁) 事象発生後は、地形が変化しているため、山地災害発生の危険性は評価前と異なっているため、事象

28

図 2.30 評価の流れ

このマニュアルでは、微地形の判読に航空レーザ計測データによる地形表現図を用いることを前提と

している(マニュアル P.3)。判読するための解像度としては、以下の図のように、5m 以上では必要な

微地形が見えないため、1m 以下とすることで、微地形判読→危険度の評価ができる。

図 2.31 解像度による地形の見え方の違い

Page 3: H26.3 H28 - maff.go.jp€¦ · 山地災害危険地区調査要領(h28.7 林野庁) 事象発生後は、地形が変化しているため、山地災害発生の危険性は評価前と異なっているため、事象

29

2.2.1.1. 評価事例 熊本地震直後の航空レーザ計測データを利用した評価事例を示す。評価は、微地形判読結果やその他

の地形情報をもとに AHP 法による重み付けで点数化することで危険度を評価する。

図 2.32 大規模崩壊発生危険度評価事例

Page 4: H26.3 H28 - maff.go.jp€¦ · 山地災害危険地区調査要領(h28.7 林野庁) 事象発生後は、地形が変化しているため、山地災害発生の危険性は評価前と異なっているため、事象

30

下図は、航空レーザ計測データにより把握した危険性の高い斜面(図の白い範囲の斜面)とマニュア

ルにより評価した単位斜面(緑~オレンジ~赤)である。このマニュアルでは、新旧の地形変状の区別

がないため、危険斜面を見落とす可能性がある。事象発生後に新しい変状が生じた斜面については、危

険性が高まっていると考えられるため、対策工検討時などに考慮する必要がある。

図 2.33 航空レーザ計測により把握した危険性の高い斜面と大規模崩壊発生の危険性の高い斜面

Page 5: H26.3 H28 - maff.go.jp€¦ · 山地災害危険地区調査要領(h28.7 林野庁) 事象発生後は、地形が変化しているため、山地災害発生の危険性は評価前と異なっているため、事象

31

2.2.2.山地災害危険地区調査要領(案)による評価

山地災害危険地区は、山地災害危険地区調査要領(平成 28 年 3 月)をもとに、山腹崩壊、地すべり、

崩壊土砂流出の危険度を評価するもので、地質や傾斜、縦横断面形状等をもとにこれらの山地災害が発

生しやすいかどうかを判定する。 本業務では山地災害危険地区について実際に評価はしていないが、熊本件では、ホームページ上に山

地災害危険地区を記載しており、災害前の状況を知ることができる。 災害後に新しい亀裂などの変状が乗じた斜面については、危険性が高まっていると考えられるため、

大規模崩壊による評価と同様に、対策工検討時に考慮する必要がある。 以下に、山地災害危険地区の評価に必要な情報を示す。

図 2.34 山地災害危険地区の調査例

2.2.3. 災害後の航空レーザ計測データを活用した山地災害の危険性把握について

山地災害発生前と後では地形が変化している可能性が高く、災害前に評価した際と比較して危険度は

異なると考えられる。 そのため、山地災害発生後の航空レーザ計測データが取得できた場合は、これまでに実施した微地形

判読や断面図による評価、差分処理結果等を踏まえ、災害前から危険度が変化したかどうかを評価する

ことが重要である。評価にあたっては、過去に実施された微地形判読結果や既往の空間情報データ、山

地災害等の危険性を判定した結果等を活用することで、効率的にかつ迅速に必要な評価を行うことが可

能である。

※熊本県山地災害危険箇所マップより

立野地区の山腹崩壊危険地区 山腹崩壊危険度:b1 被災危険度:a2 危険地区の危険度:A

Page 6: H26.3 H28 - maff.go.jp€¦ · 山地災害危険地区調査要領(h28.7 林野庁) 事象発生後は、地形が変化しているため、山地災害発生の危険性は評価前と異なっているため、事象

32

2.3. リモートセンシング技術の活用効果検討

災害発生後、調査を進めるために必要な情報の中で、各調査段階で把握すべき情報について、それぞ

れのリモートセンシング技術で具体的に何が分かるかを整理した。 また、現地・観測と航空レーザ計測、その他リモートセンシング技術等を用いて把握可能な情報につ

いて、調査の迅速性や安全性、経済性といった指標を算定し、視覚的にわかりやすい図等を用いて整理

した。 2.3.1. 各調査段階で活用できるリモートセンシング技術

表 2.6 事前調査及び害況調査において活用できるリモートセンシング技術

観点 具体的な内容

地形 地形の概略 地形の概略

地形量、流域界、渓流の分布、流

路長・幅、地形断面、微地形の分

布等

地形の概略 変動の有無 地形の概略

地形量、流域界、渓流の分布、流

路長・幅、地形断面、微地形の分

布等

植生及び森林情報の整理 林相、荒廃森林の有無林相、荒廃森林の範囲、立木密度

(立体視)

立木の位置、樹高、立木密度の推

林相、荒廃森林の範囲、森林の健

全度林相、荒廃森林の範囲

立木の位置、樹高、立木密度の推

気象

地質・土壌 リニアメントの有無・位置 リニアメントの有無・位置 リニアメントの有無・位置

農業関連施設 施設の有無 施設の有無・位置 施設の有無・位置

既存施設の把握 既存施設の有無 既存施設の有無・位置既存施設の有無・位置・規模(一

部)既存施設の有無・位置 既存施設の有無・位置 既存施設の有無・位置

保全対象 保全対象の有無 保全対象の有無・位置 保全対象の有無・位置 保全対象の有無・位置 保全対象の有無・位置 保全対象の有無・位置

法規制(保安林,砂防指定地,

地すべり指定地など)

危険地区(山地災害危険地区)

森林基本図

地形 事前調査と同じ 事前調査と同じ 事前調査と同じ 事前調査と同じ 事前調査と同じ 事前調査と同じ 事前調査と同じ

植生 〃 〃 〃 〃 〃 〃 〃

気象

地質 事前調査と同じ 事前調査と同じ 事前調査と同じ 事前調査と同じ 事前調査と同じ

降雨資料

地震資料

崩壊概況崩壊地の分布、崩壊規模の概略、

堆積地の有無

崩壊地の分布、崩壊範囲・規模

(幅・長さ)・堆積・侵食箇所

崩壊地の分布、崩壊範囲及び規模

(幅・長さ・深さ)、堆積・侵食

箇所、崩壊土量

崩壊地の分布、崩壊範囲・規模

(幅・長さ)・堆積・侵食箇所

崩壊地の有無、概略の位置(中~

大規模崩壊)、変動量

崩壊地の分布、崩壊範囲・規模

(幅・長さ)・堆積・侵食箇所

崩壊地の分布、崩壊範囲・規模

(幅・長さ・深さ)

保全対象の被災範囲 被災の有無、戸数、被災状況 被災範囲、戸数、被災状況 被災範囲 被災範囲、戸数、被災状況 被災範囲、戸数、被災状況 被災範囲

土砂氾濫状況 概略の氾濫箇所・範囲氾濫箇所・範囲(森林がない範

囲)氾濫箇所・範囲 氾濫箇所・範囲 侵食・堆積の有無 氾濫箇所・範囲(森林外のみ) 氾濫箇所・範囲

道路,橋梁,鉄道の寸断状況

寸断箇所及び区間の概略、通行可

能区間の有無及び区間の概略(森

林がない範囲)

寸断箇所及び寸断区間、通行可能

区間の有無及び区間(森林がない

範囲)

寸断箇所及び寸断区間、通行可能

区間の有無及び区間

寸断箇所及び寸断区間、通行可能

区間の有無及び区間(森林がない

範囲)

寸断の有無

寸断箇所及び寸断区間、通行可能

区間の有無及び区間(森林がない

範囲)

寸断箇所及び寸断区間、通行可能

区間の有無及び区間

森林被害

森林被害の有無、概略の範囲、被

災した林相、流木の堆積及び流出

の有無

森林被害の有無及び範囲、被災し

た林相、流木の堆積及び流出の有

無・範囲

森林被害の有無及び範囲、流木の

堆積及び流出量(推定)

森林被害の有無及び範囲、被災し

た林相、流木の堆積及び流出の有

無・範囲

森林被害の有無及び範囲、被災し

た林相、流木の堆積及び流出の有

無・範囲

森林被害の有無及び範囲、流木の

堆積及び流出量(推定)

崩壊状況(不安定土塊,亀裂) 不安定土塊の有無、概略の位置不安定土塊・亀裂等の有無(森林

がない範囲)不安定土塊・亀裂等の有無

不安定土塊・亀裂等の有無(森林

がない範囲)

崩壊地の有無、概略の位置(中~

大規模崩壊)

不安定土塊・亀裂等の有無(森林

がない範囲)

河道閉塞状況 河道閉塞の有無、概略の位置河道閉塞の位置、分布、閉塞箇所

背面の荒廃状況

河道閉塞の位置、分布、断面形

状、閉塞している土砂量(推

定)、背面の地形量

河道閉塞の位置、分布、閉塞箇所

背面の荒廃状況河道閉塞の位置、分布

河道閉塞の位置、分布、閉塞箇所

背面の荒廃状況

河道閉塞の位置、分布、断面形

状、閉塞している土砂量(推

定)、背面の地形量

土砂流出状況 土砂流出の有無、概略の位置 土砂流出の分布、流出範囲土砂流出の分布、流出範囲、流出

量土砂流出の分布、流出範囲

土砂流出の分布、流出範囲、流出

量土砂流出の分布、流出範囲

土砂流出の分布、流出範囲、流出

保全対象分布保全対象の有無、分布、概略の位

置保全対象の有無、分布、位置 保全対象の有無、分布、位置 保全対象の有無、分布、位置 保全対象の有無、分布、位置 保全対象の有無、分布、位置

概況

調査

事前

調査

災害発生

崩壊誘因

の把握

被害

の概要

データ取得

被害状況調査

被害箇所の確

災害規模把握

二次被害

の危険性

平時の地形や

植生に関する

データの蓄積

災害前

の情報

U A V U AVレーザ対応段階空中写真

(斜め撮影)

空中写真

(垂直撮影)航空レーザ測量 光学衛星 合成開口レーダ

把握すべき情報

Page 7: H26.3 H28 - maff.go.jp€¦ · 山地災害危険地区調査要領(h28.7 林野庁) 事象発生後は、地形が変化しているため、山地災害発生の危険性は評価前と異なっているため、事象

33

2.3.2. リモートセンシング技術の空間解像度とデータ取得の経済性・迅速性について

リモートセンシング技術の空間解像度とデータ取得の経済性について、公表資料から抽

出し整理した。

下図では、光学衛星の空間解像度はメートルが多いが、面積当たりの経済性に優れている

ことがわかる。航空レーザ計測は空間解像度は 50cm 程度であるが、面積当たりの経済性は

あまり良くない。しかし、光学衛星と航空レーザ計測では、得られるデータの質が異なるた

め、単純な比較はできない。そこで、この情報を参考として手引き案を参照し、必要な情報

を得られるリモートセンシング技術の抽出に手引き案を活用する。

図 2.35 空間解像度とデータ取得の経済性

①空中写真(通常:斜め撮影-概況)

②ALOS-2 PALSAR-2(通常:干渉解析)

③WV-3 光学(通常:被害解析)

④空中写真(通常:垂直撮影、DSM)

⑤航空機レーザ測量(通常:DSM)

⑥無人航空機(通常:概況、DSM)

⑦TerraSAR-X SAR(通常:干渉解析)

⑧Sentinel-1 SAR(通常:干渉解析)

⑨RADARSAT-2 SAR(通常:干渉解析)

⑩現地踏査(亀裂調査)

⑪無人航空機(災害時:概況)

⑫空中写真(災害時:垂直撮影-概況)

⑬航空機レーザ測量(災害時:DSM)

⑭WV-3 光学(災害時:被災地検出)⑮ALOS-2 PALSAR-2(災害時:被災地検出)

1

10

100

1,000

0 50,000 100,000 150,000 200,000 250,000データ取得の経済性 [円/km2]

空間解像度 [cm]

細粗

安価 高価

危険 ←← →→ 安全

Page 8: H26.3 H28 - maff.go.jp€¦ · 山地災害危険地区調査要領(h28.7 林野庁) 事象発生後は、地形が変化しているため、山地災害発生の危険性は評価前と異なっているため、事象

34

図 2.36 空間解像度とデータ取得の迅速性