history of hemodialysis treatments from device engineering

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MM 3 History of Hemodialysis Treatments From Device Engineering Points of View Kiyotaka Sakai Department of Chemical Engineering, Waseda University 3-4-1, Okubo, Shinjukuku, Tokyo 169-8555, Japan 1. 1 5 6, 7 2. Abel 1913 1914 vivi diffusion Fig. 1 3 8 11 1912 Graham 1954 Fig. 4 12, 13 Fick 1855 Abel Tel: 03-5286-3216 Fax: 03-3209-7957 E-mail: [email protected] 169-8555 3-4-1 The most commonly used artificial organ is the artificial kidney using dialysis membrane, a machine that performs a treatment known as hemodialysis. This process cleanses the bodies of renal failure patients by dialysis, filtration and adsorption which are simple physicochemical processes. Dialysis membranes account for the largest volume of artificial membranes, far outstripping other fields. Worldwide, the consumption of dialysis membranes has reached some 300 million square meters a year. More than 70% of the dialysis membranes in use are made of polysulfone. This paper describes dialyzers and dialysis membranes so far developed for blood purification. Key words : dialysis dialysis membrane hollow fiber dialyzer filtration adsorption

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総説(Review Article):膜 (MEMBRANE),37(1),2-9(2012)

History of Hemodialysis Treatments – From Device

Engineering Points of View –

Kiyotaka Sakai

Department of Chemical Engineering, Waseda University3-4-1, Okubo, Shinjuku–ku, Tokyo 169-8555, Japan

1. はじめに

医療技術のブレークスルーは世界的な大戦争のときに起こると言われている.この医療技術は平和時にわれわれの健康維持に使われている.第二次世界大戦では輸液技術が開発され,朝鮮戦争では挫滅症候群の治療に人工腎臓が効果的であることが証明された.阪神・淡路大震災でも透析治療が活躍し,地下鉄サリン事件では血漿交換療法が効果を発揮した.ベトナム戦争では蘇生輸液が見直され,さらに進歩した人工血液の使用が検討された.

ここでは,装置工学的側面から見た血液透析治療の歴史について述べる 1 ~ 5).日本透析医学会学術集会における労作は非常に貴重で,大いに参考にした 6, 7).

2. 血液浄化の概念

米国の Abel らによって,1913 年と 1914 年に人工腎臓の基本原理である体外循環による vivi–diffusion と血漿交換が発表された(Fig. 1 ~ 3)8 ~ 11).ウサギを用いた実験は 1912 年に開始された.これら一連の論文には,膜を用いた血液浄化の概念と,動物実験による多くの研究成果が記載されている.誠にもって創造的な提案であった.この時に用いられたのが透析膜による拡散(透析)であり,Graham によって発見された物理法則に基づいている.浸透圧についての講義および講義録(1954 年)の中で,この拡散の原理(グラハムの拡散法則)が述べられている

(Fig. 4)12, 13).Fick の法則が世に出たのは 1855 年のことである.

「体外循環している動物血液からの拡散性物質の除去」と題する Abel らの論文に記載されている

Tel: 03-5286-3216Fax: 03-3209-7957E-mail: [email protected]

血液透析治療の歴史-装置工学的側面から見た-

酒井清孝

早稲田大学 大学院先進理工学研究科 応用化学専攻早稲田大学 先進理工学部 応用化学科〒 169-8555 東京都新宿区大久保 3-4-1

●特集 血液透析器の最新技術

The most commonly used artificial organ is the artificial kidney using dialysis membrane, a machine that performsa treatment known as hemodialysis. This process cleanses the bodies of renal failure patients by dialysis, filtrationand adsorption which are simple physicochemical processes. Dialysis membranes account for the largest volume ofartificial membranes, far outstripping other fields. Worldwide, the consumption of dialysis membranes has reachedsome 300 million square meters a year. More than 70% of the dialysis membranes in use are made of polysulfone.This paper describes dialyzers and dialysis membranes so far developed for blood purification.

Key words : dialysis / dialysis membrane / hollow fiber / dialyzer / filtration / adsorption

MEMBRANE,Vol. 37 No. 1(2012) 3

Fig. 1 Concept of bloodpurification 1.

Fig. 2 Concept of bloodpurification 2.

Fig. 3 Concept of plasma-pheresis.

Fig. 4 Graham’s law of dif-fusion.

Fig. 5 の透析器原型はウサギ用であるが,セロイジン(コロジオン)チューブ 32 本の管状透析膜(内径 8mm ;膜厚 50 ~ 200 μm ;管長 40 cm)をガラス製外筒(内径 8.5cm; 管長 36cm)に収めた透析器は,スケールアップされたイヌ用である.体外循環血液の流れは透析器内で 2 往復して,再び動物に戻る.したがってセロイジンチューブ本数は 4 の倍数になる.ウサギは 16 本,イヌは 32 本,仔牛とヤギは 92 本のチューブを用いている.透析液には 0.6 wt%NaCl 水溶液を用いている.透析液はバッチ形式で 1 時間ごとに交換し,抗凝固剤には,ヒルから採取したヒルジンが用いられた.

血液流路であるチューブの内径が大きいことから,溶質除去の律速段階が血液側流路にあり,溶質除去速度は非常に小さかった.したがって数多くの動物実験結果(ウサギ,イヌ,仔牛,ヤギ)が論文に記載されているが,310 K,7 時間で,イヌからサリチル酸ナトリウムの除去率が約 20% であった.このように除去量が大きくない最大の理由は,血液流路幅 8mm φが大きすぎることである.もちろんセロイジン膜の物質移動抵抗も大きかったことが想像される.さらに透析液はガラス製外筒内に充填され,流動していないバッチ式透析が行われているため,物質移動抵抗が大きいのは止むを得ない.それでも血液側の物質移動抵抗が最も大きかった.除去効率が低いのが大きな流路幅にあると気付いたのか,その後の仔牛とヤギの実験では,内径 6 mm φのセロイジンチューブを開発している.しかしこの程度の内径の減少では,溶質除去の促進はほとんどない.以上のことから,膜設計のみならず,膜を充填した装置設計が重要であることが示される 14).

下記のような医工学的に評価できる研究成果が論文に記載されている.

1 :膜厚が溶質除去に影響しない.2 :できるだけ小さい容器に大きな膜面積を確保し

たい.3 :ガラス製外筒にチューブをできるだけ均等に配置

し,チューブ間に淀みを形成しないようにしたい.チューブ間の距離をチューブ径に等しいか,それよりやや小さいときに性能が良い.

4 :大面積の透析器が血中溶質を除去するのに有利である.

5 :生体に必要な血中溶質を除去しないように,適正透析液組成を採用すべきである.

6 :血液の流れを均等にするために,血液が 2 往復するように,透析器を設計した.

以上のように,工学的に見ても有益な成果を得ている.透析装置製作過程で医と工の連携があったら,研究の進捗状況に大きな飛躍があったかもしれない.ひとつの技術を完成させるためには,周辺技術の活用が不可欠である.

この研究では十分な溶質除去が達成されなかったが,動物の体内から膜を用いて血中溶質を直接的に除去できた.すなわち血液浄化できたことはすばら

Fig. 5 A model of Abel dialyzer.

4 酒井:血液透析治療の歴史-装置工学的側面から見た-

しい成果であり,重要な意味がある.細かい点に違いがあるにせよ,血液透析治療黎明期における透析器の形状が,現在用いられている中空糸型透析器のそれに酷似していることは驚愕に値する.

3. 回転ドラム型透析装置

その後にこの手法を臨床に応用しようとする涙ぐましい努力が次々と行われた.セロファン膜が開発され,抗凝固剤のヘパリンが発見されてから,1940年代に臨床応用の準備が整ったが,ここでもヒトに使うための装置製作の壁が立ちはだかっていた.これらの問題を解決したのが,Fig. 6 に示すオランダのKolff(オランダ貴族出身の医師)である.人工臓器の父と言われていたが,2009 年に亡くなった.コルフも当初は幼稚な透析装置を用いていた.Kolff が行った透析器は Fig. 7 のようなものであった.腎不全患者の血液が充填されたいくつかのセロファンチューブを木の板に固定し,この木の板を生理食塩中で上下させて透析を行うという,原始的な方法であった.

1943 年にオランダの小さな町 Kampen で,ヒトの治療に使える Fig. 8 の回転ドラム型透析装置を開発して,腎不全患者の治療に着手し,遂に 1945 年に患者の救命に成功している 15).Abel が血液浄化の概念を提案してから約 30 年後のことである.

回転ドラム型透析装置の操作はバッチ操作であったが,その後に連続操作に変更している.回転ドラ

ムは最初は縦型であった.血液が落下で流れることが理由であったが,その後 Berk(エンジニア)の提案でドラムを横置きにして回転させることで,血液ポンプなしでも血液を送ることができた.装置設計で理工の知恵を借りたという点で,Kolff には先見の明があった.

回転ドラム型透析装置開発の当初は,入手困難なセロファンの代替品として,ソーセージケーシングを透析膜として用いた.少なくとも 10 m のチューブ状膜を木製円筒に巻き,その円筒の一部を透析液を貯留した約 100 L の槽に沈めた.この円筒を回転させることによって,チューブ内を流れる患者の血液と透析液の間で拡散(透析)を行い,尿毒素と過剰の水を除去する.透析液は 3 時間ごとに廃棄し,新しい透析液と交換している.俗な言葉を借りれば,回転ドラム型透析装置は血液の洗濯機である.

第 2 次世界大戦後にボストンで,この装置を用いて医療従事者 6 人がかりで 10 時間かけて,腎不全患者の治療を行っていた.まさに実験的治療であった.成績が上がっても,この透析装置では多くの腎不全患者を治療できない.このために Kolff らは使い捨て型の透析器の必要性を感じていた 16).そこで登場したのがコルフツインコイル型透析器である.

4. コルフツインコイル型透析器

1950 年に米国オハイオ州のクリーブランドクリニックに移った Kolff は,多くの腎不全患者に使える使い捨て型の小型透析器(コルフツインコイル型透析器)を開発した.これによって多くの腎不全患者の命が救われた.Fig. 9 に示すコルフツインコイル型透析器は,1956 年に米国の Travenol 社(現 Baxter 社)で量産された.セロファン(再生セルロース)チューブ(幅 15 cm,長さ約 4 m)を樹脂製の網の上に置き,これをコイル状に巻いてポリプロピレン製の円筒に収める.透析患者の血液は円筒の中心部に位置

Willem Johan Kolff MD, PhD

Fig. 6 Father of artificial organs.

Fig. 7 Early Kolff dialyzer.

Fig. 8 Kolff rotating drum dialyzer.

MEMBRANE,Vol. 37 No. 1(2012) 5

するチューブコネクターから約 200 mL/min の流量でセロファンチューブ内に流入し,チューブ内を流れる間に血液が浄化され,円筒の壁に位置するチューブコネクターから流出する.このコイル型透析器はキャニスター(透析液容量は約 6 L)内に設置され,透析が行われた.キャニスター内を循環する透析液は,樹脂製網の隙間を血液と十字流で下方より上方に流れ,その流量は 10 ~ 50 L/min である.透析器に新しく供給される透析液の流量は約 500 mL/min である.血液流路が二つあるのは,セロファンチューブ内の血液のチャンネリングを減らす目的があったのであろう.この透析器は,製造コストが低く,平型透析膜(平膜)を使えるという利点があったが,血液側流路抵抗が大きいために,水分除去効率に優れていたが,濾過を制御しにくく,血液側圧力が大きくなるため,網と接触していない膜が透析液側に膨らむ(コンプライアンス).この流路拡大によって,溶質除去速度は低下する.血液の出口に異物が詰まるなどして血液圧力が大きくなると,透析膜の破損事故が起こる.またキャニスターからの異臭が避けられず,重炭酸ソーダ透析液の使用が困難である.現在ではコイル型透析器はほとんど使われていない.

この透析器の溶質除去性能は低かった.この理由は,血液流れにチャンネリングが起こりやすく,コンプライアンスが起こり,血液流路幅が平均 1 mm と大きかったためである.製品のばらつきも存在した.ここでも装置設計の重要性は明らかである.

5. Standard Kiil 型透析装置

サンドイッチ型透析器のアイデアに基づいて,1960 年にノルウェーの Kiil が Fig. 10 の standard Kiil型透析装置を開発した 17).キュプロファンの平膜を用いた,長さ 100 cm,幅 40 cm の大きな透析装置であった.透析液の流れを制御するために,溝が彫られた樹脂製の支持板で 2 枚の平膜を挟み,血液はこの2 枚の平膜内を流れる.プラスチック板と平膜の間を

透析液は向流で流れる.血液流路は 4 層で,1 m2 以上の膜面積を確保していた.平膜が使え,血液貯留量と血液側流路抵抗が小さく,患者に合わせて層の数を調節した.血液ポンプ不要というのが謳い文句であった.流路幅は 1 mm 以上となり,溶質除去性能は低かった.血液および透析液の流れにチャンネリングが起こり,血液の流路幅を均一に保持することが難しいことも,性能を低下させる要因であった.治療ごとに装置の組立と滅菌操作が煩雑で,透析治療の準備に相当の時間と労力を必要とした.

1960 年にはもう一つの大きな成果が誕生している.Quinton(エンジニア)らによる外シャントの発明である 18).これによって,「血管の切れ目が命の切れ目」と言われ,急性腎不全患者に限定されていた時代から,慢性腎不全患者にも透析治療を行える時代に移った.これは偉大な発明である.外シャントは皮膚の外側に設置されていたため,事故が起こりやすかったが,1968 年に Tenckhoff らによって,皮膚の内側に設置できる内シャントが発明されて 19),現在に至っている.

6. 積層型透析器

Fig. 11 のような小型の積層型透析器が 1969 年にスウェーデンの Gambro 社から量産された.StandardKiil 型透析装置に比較して,多層にすることによって小型化と高性能化が達成された.しかし血液と透析液の流動を制御しにくく,効率が不安定で,血液ポンプが必要であった.さらにプラスチック板を数多く用いるため,大きくて重いなどの欠点も指摘された.

7. 中空糸型透析器

1971 年に米国の Cordis–Dow 社は,使い捨ての中空糸型透析器(Fig. 12)を世界で初めて世に出した.1964 年に Dow 社の Stewart(エンジニア)がこのア

Fig. 9 Kolff twin coil dialyzer (disposable). Fig. 10 Standard Kiil dialyzer.

6 酒井:血液透析治療の歴史-装置工学的側面から見た-

イデアを提案した 20).脱酢酸セルロースを素材とする非常に細い中空糸(内径 200 μm,膜厚 30 μm)を透析膜として用いているため,必要な膜面積を小さな装置内に収めることが可能となり(小型化),また血液のプライミングボリューム(充填量)を減少させることができ,さらに流路が 200 μm と狭いために溶質除去能に優れている(高性能化).この透析器も向流で操作される.1914 年の vivi–diffusion と異なるのは,Fig. 13 のような内径 200 μm,膜厚 30 μm の中空糸(capillary)を 13,500 本束ねることによって,膜面積 1.36 m2 という小型透析器を作った点である.内径と膜厚が大きく変化して,いずれも小さくなった.これは画期的なことである.

血液は中空糸の内側を流れ,透析液は中空糸と外筒の間を向流で流れる(人工肺では,血液は中空糸の外側を流れる).透析効率の低下を引き起こす透析液の偏流を避けるために,中空糸を縮れさせたり,中空糸を束ねてスペーサで巻いたり,中空糸の周りにフィンを付けるなど,透析液偏流防止策が講じられている.多管式熱交換器のように邪魔板を設置することができないための苦肉の策である.血液と透析液に偏流が起こらなければ,必要な膜面積は小さくなり,透析器もさらに小型になるであろう.透析器の性能を最大限に引き出すためには,さらに透析液流量が血液流量よりも大きくなければならない.中空糸型透析器の製作費は他の透析器のそれより高い.

中空糸はどの程度まで細くすべきか?これまで中空糸内の脱気を容易にするために内径を大きくしたり,血液側の物質移動抵抗を減らすために内径を小さくしたりした歴史があるが,Fig. 14 に示すように,拡散(透析)においては,内径を大きくすると,血液のプライミングボリュームが大きくなり,内径を小さくすると,血液流れの流路抵抗が大きくなって圧力損失が増加する 21).総合的な観点から,血液透

析治療に使われる中空糸内径は約 200 μm に収束している.

8. 透析装置開発の変遷

透析装置,透析器の開発の歴史を眺めてみると,高性能化,小型化,操作の簡便化を目指して改良が行われてきた.透析器としての性能が劣っていた時代,尿毒素の除去に血液側境膜抵抗が大きく,透析膜は血液と透析液を直接接触させないためだけの役目であった.Abel らの透析器の血液流路幅は 8 mm

(改良して 6 mm),コイル型透析器と積層型透析器の血液流路幅は約 1 mm,中空糸型透析器の血液流路幅は 0.2 mm と次第に細くなることによって,尿素などの分子量の小さい尿毒素でも透析膜抵抗が大きくなった.したがって分子量の大きい尿毒素から分子量の小さい尿毒素まで透析膜抵抗支配になったことから,透析膜素材が再生セルロースのみであった時代から,透析膜の素材,物理構造,物理化学的特性の多様化の時代に入った.1965 年に Scribner の中分子仮説の提案 22),また 1971 年に化学工学者 Babb らによる面積・時間仮説の提案 23)があり,1971 年にCordis–Dow 社からの中空糸型透析器の登場で,透析膜の改良に意味のなかった状況が一変して,1971 年

Fig. 11 Plate dialyzer (disposable). Fig. 12 Capillary dialyzer (disposable).

Fig. 13 Capillary (hollow fiber).

MEMBRANE,Vol. 37 No. 1(2012) 7

以降,Fig. 15 に示すように,新しい素材の透析膜が次々と世に出た.その多くが合成高分子膜であるが,中にはセルロース由来の高分子膜も含まれている.

9. 中空糸透析膜

Fig. 16 に最近の血液浄化用中空糸膜を示す.再生セルロース膜と酢酸セルロース膜は均質膜,それ以外の合成高分子膜は非対称膜である.均質膜は,分離に機能する中空糸の壁の構造が厚み方向に変化しない.均質膜と言われていた酢酸セルロース膜も,詳細に観察すると,非対称膜であることが明らかにされた 24).透析膜は均質膜であると考えられてきたが,ここに楔を打ち付けたのはドイツのフレゼニウス社である.1982 年に緻密層と支持層を持つポリスルホン透析膜を開発した.しばらくは世に出なかったが,最近ではこの非対称膜が血液透析治療に広く用いられるようになっている.世界的には,フレゼニウス,旭化成クラレメディカル,東レ,日機装,

Fig. 15 Development history of dialysis membranes.

Fig. 14 Clearance, blood pressure drop and blood primingvolume as a function of capillary inside diameter.

ニプロ,川澄化学工業で作られたポリスルホン系合成高分子膜が全透析膜の 70% 以上である.透析治療に均質膜ではなく,濾過膜の構造と同じ非対称膜を用いたことは非常識であったが,豈図らんや大成功している.非常識が常識に変身した.これは技術革新のお手本の良い実例であろう.

均質膜である再生セルロース膜では,尿毒素が透析膜に空いている細孔の中を拡散で透過していくが,細孔はまっすぐではなく,曲がりくねっている.尿毒素の大きさの約 5000 倍の孔長の中を尿毒素の分子は透過しなければならない.大変な仕事である.この距離を小さくできれば,すなわち薄膜にできれば,尿毒素を速やかに除去できる.

透析膜の生体適合性は,これまで長期にわたって指摘され,研究されてきたが,血栓形成という初歩的問題ですら,相変わらず臨床の妨げになっている.それだけ難しく,扱いにくい課題なのであろう.血液透析治療が間欠的治療であることが救いになっているが,長期にわたる治療で,患者に何らかの問題が将来的に出てくるような非生体適合性は,可及的速やかに解決しなければならない.現在のところ大量に使われているポリスルホン膜には,孔形成とともに親水化のために,親水化剤としてポリビニルピロリドン PVP が配合されている.配合されていれば十分かというと,必ずしもそうではない.湿潤膜内表 面 に お け る PVP の 均 一 性 25, 26) と PVP の 溶出 27)がこれからの大きな課題である.生体適合性を満足なものにすることは,頻繁に治療を受ける透析患者のために,急を要する.最近になって,独創的な透析膜が世に出てきたことは,喜ばしいことである . 企 業 技 術 者 の 努 力 と 活 躍 を 大 い に 期 待 したい.

Fig. 16 Current hollow fiber dialysis membranes.

8 酒井:血液透析治療の歴史-装置工学的側面から見た-

10. 血液濾過,血液濾過透析,on–line 血液濾過透析,血液吸着

Fig. 17 に示すように,血液透析(HD)は低分子量物質の除去にすぐれ,血液濾過(HF)は中・高分子量物質の除去にすぐれている.拡散で大きな分子量の尿毒素を期待したほど除くことができなければ,濾過によって,あるいは拡散に濾過を付加することによって,大きな分子量の尿毒素を除去することができる.この効果を期待したのが,血液濾過であり,血液濾過透析“あるいは血液透析濾過(HDF)”である.

濾過を強くして大きな分子量の物質の除去量を大きくしすぎると,この溶質にプール性がある場合

(例えばアルブミンに結合している尿毒素―タンパク質結合尿毒素―,細胞内で生成する尿毒素など)には,除去性能が時間とともに低下する.兎と亀の例えにあるように,この場合には拡散と濾過に違いがなくなる.このことから,溶質除去に対して適度な濾過が採用されるべきである.

拡散に比較して,濾過は膜にファウリングを起こしやすい.治療中にファウリングが起こると,濾過性能が低下するし,クリアランスも減少する.ファウリングが起こりにくい膜の開発と,操作法の工夫が不可欠である.

血液濾過は,1967 年の Henderson による前希釈 28)

にしても,1976 年の Quellhorst による後希釈 29)にしても,コストが嵩むこと,操作が煩雑なこと,流量制御装置と十分に浄化された補充液が必要であることなどの問題があるが,大きな分子量の尿毒素の除去には優れている.最近では十分に浄化された透析液を,血液透析での透析液の役割と同時に,血液濾過での補充液にも使えるようにしたのが on–line 血液濾過透析で,すでに認可されている.

最近の透析膜は濾過係数が大きく,適度の膜間圧力差で多量の溶液移動が起こる.中空糸の本数と内径と長さ,透析器外筒の内径と長さの組み合わせで,濾過量を制御することができる.この現象を内部濾過といい,透析器を用いて,大きな分子量の尿毒素の積極的な除去に利用されている 30).

前述のように,on–line 血液濾過透析と内部濾過の場合には,清浄化された透析液の使用が不可欠である.汚れた透析液が患者の体内に入ることは許されない.患者の体内に直接入らなくても,膜に捕捉された外因性毒素(エンドトキシン)が患者に反応する可能性もある 31).透析液の清浄化が不十分な透析施設で on–line 血液濾過透析と内部濾過を行ってはならない.

吸着で尿毒素を除去する治療も行われている.例えばリクセルカラムを用いて,低分子量タンパク質であるβ2 – ミクログロブリンを除去することができる.PMMA 膜は世界的に長期に亘って透析治療に使われている合成高分子透析膜であるが,血中溶質を拡散,濾過のみならず,吸着でも除去できる透析膜として知られている.生体適合性を有する物質で被膜した活性炭で血中尿毒素を除去する試みも行われた 32).特異的な分離が可能になれば有望な治療法である.

11. 腹膜透析

1923 年に Ganter が急性腎不全患者に間欠的腹膜透析を試みた 33).1960 年代にテンコフカテーテルが開発され,慢性腎不全患者にも腹膜透析を行えるようになった.1975 年には,持続的外来腹膜透析が考案され 34),患者の社会復帰を容易にした.

透析器を用いた血液透析治療は,1 回 4 時間,週 3回という間欠的治療である.生体腎は,透析器より弱い性能で常時働いている.腹膜透析も常時治療である.腹腔内に透析液を充填し,1 日に 4 回透析液を交換する.この治療法の利点は,在宅で治療でき,勤務しやすく,体外循環がないことから心血管系に負担を与えず,食事制限がゆるいことなど,有望な治療法とされているが,尿毒素の除去不足,腹膜機能の経時劣化,腹膜炎および腸閉塞を起こしやすいなどの問題点がある.これらの問題点の解決と患者に安心感を与えるために,現在では,腹膜透析-血液透析併用療法が行われている.

12. まとめ

人工腎臓は臨床的にも技術的にも最も成功した人

Fig. 17 Clearance as a function of solute molecular weight.

MEMBRANE,Vol. 37 No. 1(2012) 9

工臓器である.生体腎と異なるメカニズムの透析で慢性腎不全患者を最長 42 年延命させることに成功している.ここに到るまでに,拡散の原理が発見されて約 160 年,血液浄化の概念が提案されて約 100 年,腎不全患者の救命・延命に成功して約 65 年が経過している.まだ課題が多いが,患者のために可及的速やかに解決しなければならない.

これまでに人工腎臓の開発と改良に携わった医学研究者,工学研究者,企業技術者の多大な貢献と,さらに各分野のパイオニアを,決して忘れてはならない.

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(Received 17 December 2011 ;Accepted 19 December 2011)

著者略歴酒井 清孝(さかい きよたか)1965 年 3 月 早稲田大学理工学部

応用化学科卒業1967 年 3 月 早稲田大学大学院理

工学研究科応用化学専攻修士課程修了

1970 年 3 月 早稲田大学大学院理工学研究科応用化学専攻博士課程修了

(工学博士取得)同 年 4 月 静岡大学工学部化学

工学科 専任講師1972 年 6 月 静岡大学工学部化学

工学科 助教授1973 年 4 月 早稲田大学理工学部

応用化学科 助教授1978 年 4 月 早稲田大学理工学部

応用化学科 教授