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Applying IFRS IFRS 12 「ストラクチャード・エンティティ」 ファンド・マネージャーの留意点 2014 2

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IFRS 第 12 号 「ストラクチャード・エンティティ」 ファンド・マネージャーの留意点 2014 年 2 月

2014年2月 IFRS第12号「ストラクチャード・エンティティ」ファンド・マネージャーの留意点 1

目次

はじめに ....................................................................................................... 2

ストラクチャード・エンティティ-ファンド・マネージャーが知っておくべき要点 ............... 3

1. ストラクチャード・エンティティとは................................................................... 5

2. ファンドがストラクチャード・エンティティに該当するかどうかをどのように評価す

べきか ..................................................................................................... 7

3. ストラクチャード・エンティティへの関与とは .................................................... 10

4. 非連結のストラクチャード・エンティティに関する IFRS 第 12 号の開示規定 ......... 12

5. 非連結のストラクチャード・エンティティの内容、目的、規模及び活動、ならびに

ストラクチャード・エンティティの資金調達方法ついて説明するためにどのような

情報の開示が必要か ............................................................................... 13

6. 非連結のストラクチャード・エンティティからの「リスクの内容」を説明するために

どのような情報の開示が必要か ................................................................. 14

7. 非連結のストラクチャード・エンティティに提供される財務的その他の「支援」とは .. 15

8. 「追加的な情報」として何を開示すべきか ...................................................... 15

9. 要求されている情報はどの程度集約すべきか ............................................... 18

付録 A:開示例 ............................................................................................ 19

2 2014年2月 IFRS第12号「ストラクチャード・エンティティ」ファンド・マネージャーの留意点

はじめに IFRS第12号「他の事業体への関与への開示」は国際会計基準審議会(IASB)が2011年5月に公表した開示に関する基準書である。IFRS第12号には、子会社、共同支配の

取決め、関連会社又はストラクチャード・エンティティへの関与を有する報告企業の開示

規定のすべてが定められる。

IFRS第12号にはストラクチャード・エンティティの概念及び定義が導入されている。IFRS第12号が公表される前は、IFRSにストラクチャード・エンティティ又はSIC第12号「連結

-特別目的事業体」に定義される特別目的事業体(SPE)に関する特定の開示規定はな

かった。IFRS第12号により報告企業は,ストラクチャード・エンティティが子会社、関連会

社又はジョイント・ベンチャー(共同支配企業)に該当しなくとも、ストラクチャード・エンティ

ティへの関与に関する開示をしなければならない。

IFRS第12号は、一定の投資ファンドはストラクチャード・エンティティに該当すると説明し

ている。本稿では、ストラクチャード・エンティティの定義を満たす投資ファンドを管理する

ファンド・マネージャーにIFRS第12号がどのような影響を及ぼすか、探っていく。

銀行業界を中心にさらに多くの例が弊社刊行物「IFRS第12号-非連結のストラクチャー

ド・エンティティへの関与に関する開示例」(2013年3月)で紹介されているため、こちらも

参照されたい。

発効日 IFRS第12号は2013年1月1日以降開始する年度から適用される。また欧州連合(EU)

が承認したIFRSに従って報告する事業体は2014年1月1日以降開始する年度から適

用する。本基準書の早期適用は可能である。

2014年2月 IFRS第12号「ストラクチャード・エンティティ」ファンド・マネージャーの留意点 3

ストラクチャード・エンティティ-ファンド・マネージャーが知って

おくべき要点 IFRS第12号はストラクチャード・エンティティの概念を導入しており、これを「議決権が管

理業務にのみ関係しており、関連性のある活動が契約上の取決めによって指図される

場合など、誰が事業体を支配しているかの決定に際して、議決権その他の類似の権利

が決定的な要因とならないように設計された事業体」と定義している。

契約上の取決めの例としては、投資管理契約( IMA( Investment Management Agreement))がある。

IFRS第12号B23項は、一定の投資ファンドはストラクチャード・エンティティの定義を満

たすことになると述べている。

IFRS第12号では、連結の有無に関係なくストラクチャード・エンティティへの関与につい

て追加の開示が要求されることから、投資ファンドがストラクチャード・エンティティに該当

するかどうかの評価は重要である。

投資ファンドがストラクチャード・エンティティに該当するかどうかの評価 投資ファンドがストラクチャード・エンティティに該当するか否かを評価する場合、誰が事

業体を支配しているかを決定するにあたり、議決権その他の類似の権利が決定的な要

因になるかどうかを判断することが必要となる。議決権その他の類似の権利によって支

配されているファンドはストラクチャード・エンティティに該当しない。

IFRS第12号は「(議決権に)類似する権利」について定義しておらず、またこうした権利

とは何かについてのガイダンスも提供していないが、EYは以下の権利もこれに該当する

と考えている。

► ファンド・マネージャーの解任権

► 想定される解散日よりも前にファンドを清算できる権利

► 投資を解約できる権利(権利が解約権に相当する場合)

議決権その他の類似の権利が実質的なものであるかどうか決定するときに考慮すべき

要因には、次のようなものがある。

► 保有者による権利行使を妨げる何らかの障害(経済的又はその他の障害)があるか

どうか

► 権利行使に向けて一体で行動することを求められる当事者の数

► 権利を保有している当事者が権利を行使することによって便益を享受できるか

► 権利は現在行使可能か

活動の基本的な変更又はファンド・マネージャーによる契約(規制)違反があった場合に

のみ行使可能となる権利は、実質的な権利とは考えられない。こうした評価を行う際に

検討すべき要因はセクション2で詳細に解説する。

連結に関する評価との関連性 ファンドがストラクチャード・エンティティに該当するかどうかを評価する際に検討すべき

要因のうちいくつかは、ファンド・マネージャーがファンドに対して本人として行動している

かどうか(ファンド・マネージャーがファンドを連結しなければならないかどうか)-を評価

する際に検討すべき要因に類似する。ファンドの連結に関しては、弊社刊行物「IFRS第10号 連結財務諸表-ファンド・マネージャーへの影響」(2013年6月)で詳しく解説して

いる。したがって当該刊行物もあわせて参照された上でこの評価を行うことを推奨する。

4 2014年2月 IFRS第12号「ストラクチャード・エンティティ」ファンド・マネージャーの留意点

しかし、ファンド・マネージャーが本人として行動しているか、それとも代理人として行動し

ているかの評価は、あくまでも連結すべきかどうかを判断するために行われるものであ

る点には注意されたい。一方、ファンドがストラクチャード・エンティティに該当するかどう

かの評価は、開示を検討するために実施されるものである。

ファンド・マネージャーが投資ファンドへの関与を有しているかどうかの評価 IFRS第12号は他の事業体(企業)への関与を「企業を他の事業体の業績からのリター

ンの変動性にさらす契約上及び非契約上の関与を指す。他の事業体への関与は、資本

性金融商品又は負債性金融商品の保有によって証明できるが、これらに限らない」と定

義している。

IFRS第10号「連結財務諸表」のB56項は、変動リターンとは、固定ではなく、投資先の

業績の結果として変動する可能性のあるリターンをいう、と説明している。変動リターン

は正の値のみとなることも、負の値のみとなることも、正と負の両方となることもある。投

資先の資産の管理に対する固定の業績報酬は、投資者を投資先の業績リスクにさらす

ことになるため、変動リターンになると考えられる。

管理報酬(マネジメント・フィー)は運用の対象であるファンドの価値の一定割合を基にす

ることがしばしばある。したがって管理報酬は基礎となるファンドの価値の変動に伴い、

変動することが多い。またファンド・マネージャーはファンドの業績に基づくインセンティブ

報酬を稼得することもある(たとえば、業績がベンチマークに対してアウトパフォームする

又はリターンがハードル・リターンを上回る場合など)

EYは、ファンド・マネージャーがファンドの運用リスクにさらされることから管理報酬は変

動リターンに該当すると考えている。したがって(固定、従価又はインセンティブ・ベース

に関係なく)ファンドから管理報酬を受け取るファンド・マネージャーはそうしたファンドへ

の関与を有していることになる。

求められる開示 IFRS第12号により非連結のストラクチャード・エンティティの関与について特定の開示を

提供しなければならないが、二つの区分―すなわち「関与の内容」及び「リスクの内容」

―に分けて開示する。IFRS第12号第24項に従って企業は、財務諸表の利用者が以下

を行うために必要な情報を開示しなければならない。

a) 非連結のストラクチャード・エンティティへの関与の内容及び程度の理解(第26項から第28項)

b) 非連結のストラクチャード・エンティティへの関与に関連したリスクの内容及び変動

の評価(第29項から第31項)

以下のセクション3から9でストラクチャード・エンティティ及び要求される開示についてさ

らに詳細に解説する。

IFRS第12号は開示に関する基準書であるが、開示規定を具体的に説明する例示を提

供していない。本稿では付録Aに設例を載せているが、これはファンド・マネージャーが

非連結のストラクチャード・エンティティに分類される複数の投資ファンドを管理している

場合に想定される開示例である。

2014年2月 IFRS第12号「ストラクチャード・エンティティ」ファンド・マネージャーの留意点 5

1. ストラクチャード・エンティティとは ストラクチャード・エンティティへの関与については、IFRS第12号に従って追加の開示を

行わなければならないため、事業体がストラクチャード・エンティティに該当するかどうか

は重要である。本稿のセクション4以降では、非連結のストラクチャード・エンティティへの

関与に関し求められる追加の開示及びこれが投資ファンドであるストラクチャード・エン

ティティに対してどのように適用されるかについて説明している。

IFRS第12号はストラクチャード・エンティティ(組成された企業)を、「議決権が管理業務

にのみ関係しており、関連性のある活動が契約上の取決めによって指図される場合など、

誰が事業体を支配しているかの決定に際して、議決権その他の類似の権利が決定的な

要因とならないように設計された事業体」と定義している。

IFRS第12号B22項の適用指針は、ストラクチャード・エンティティは次の特徴又は属性

の一部又は全部を有していることが多いと説明している。

a. 制限された活動

b. 狭く十分に明確化された目的(たとえば、税務上有利なリースの実行、研究開発活

動の実施、企業への資金源の提供、又はストラクチャード・エンティティの資産に関

連するリスクと経済価値を投資者に譲渡することによる投資者への投資機会の提

供など)

c. ストラクチャード・エンティティが劣後的な財務的支援なしに活動資金を調達するに

は不十分な資本

d. 信用リスク又はその他のリスクの集中(トランシェ)を生み出す、投資者への複数の

契約上関連した金融商品の形での資金調達

IFRS第12号B23項は、ストラクチャード・エンティティとみなされる事業体の例として以下

を挙げている。

a. 証券化ビークル

b. 資産担保金融

c. 一部の投資ファンド

特徴及び属性の目的 IFRS第12号では明示的に述べられていないが、EYは定義の方が上記の特徴と属性に

優先すると考えている。つまり、事業体が議決権その他類似の権利で支配されているの

であれば、当該事業体がストラクチャード・エンティティに該当することはなく、特徴及び

属性について検討する必要はないことになる。しかしIFRS第12号の結論の根拠第84項には、「『ストラクチャード・エンティティ』という用語はSIC第12号におけるSPEと同様の事

業体の集合を捕捉すべきだという審議会の意図を反映するため、当審議会はSIC第12号と同様のガイダンスを含めることを決定した」との説明がある。これは、ある事業体に

当該特徴又は属性のうちのいくつかが存在すれば、当該事業体がストラクチャード・エン

ティティに該当する可能性が高いことを示唆しているように思われる。

6 2014年2月 IFRS第12号「ストラクチャード・エンティティ」ファンド・マネージャーの留意点

IASBがストラクチャード・エンティティに対する投資に関して特定の開示要件を盛り込ん

だ理由は、ストラクチャード・エンティティの方が従来の事業会社への関与よりもより大き

なリスクを招く可能性があるとの懸念があるなかで、ストラクチャード・エンティティへの関

与に関連して生じるリスクを財務諸表利用者が評価できるようにするということにある。

ストラクチャード・エンティティの活動は限定されていること、ストラクチャード・エンティティ

は特定の資産から生じるリスク及び経済価値を投資者に移転するために設立されてい

る場合があること、あるいは、資産の損失が発生した場合にはそれを賄うだけの十分な

資本を有していない場合があることから、より大きなリスク・エクスポージャーが生じる可

能性がある。

非連結のストラクチャード・エンティティ IFRS第12号は非連結のストラクチャード・エンティティに関しても特定の追加の開示を要

求している。「非連結のストラクチャード・エンティティ」という用語は、報告企業が連結し

ていないすべてのストラクチャード・エンティティを指す。したがって以下の事業体が含ま

れるが、ストラクチャード・エンティティの定義を満たしていることが条件になる。

► 連結財務諸表上-連結していない子会社への関与、又はジョイント・ベンチャー、関

連会社もしくは投資者が重要な影響力を有していないその他の持分への関与

► 個別財務諸表(子会社を有することのない企業の単体財務諸表)上-ジョイント・ベ

ンチャー、関連会社もしくは投資者が重要な影響力を有していないその他持分への

関与

► 企業の唯一の財務諸表として作成される個別財務諸表上-子会社、ジョイント・ベン

チャー、関連会社又は投資者が重要な影響力を有していないその他持分への関与

► 投資企業の定義を満たす企業の財務諸表(投資企業が支配している投資先を連

結せず、純損益を通じて公正価値(FVTPL)で測定する)上-子会社、ジョイント・

ベンチャー、関連会社又は投資者が重要な影響力を有していないその他の持分へ

の関与

事業体が連結財務諸表も作成する場合には、その個別財務諸表はIFRS第12号の適用

対象外となる。

ストラクチャード・エンティティが関連会社又はジョイント・ベンチャーである場合、ストラク

チャード・エンティティとしての関連会社又はジョイント・ベンチャーへの関与は、IFRS第12号に従って別個に開示しなければならない。なお、これらの開示について本稿では取

り上げていないが、『 IFRS国際会計の実務 International GAAP 2013 Japan Edition4』第14章(Chapter 13 of International GAAP 2014)で詳細に説明している

ので参照されたい。

2014年2月 IFRS第12号「ストラクチャード・エンティティ」ファンド・マネージャーの留意点 7

2. ファンドがストラクチャード・エンティティに該当するかどうか

をどのように評価すべきか 投資ファンドがストラクチャード・エンティティに該当するかどうかを評価する際には、ファ

ンドの関連性のある活動を指図するにあたり議決権その他の類似の権利が決定的な要

因になるか否かを判断することが必要となる。ファンドの関連性のある活動を指図するに

あたり、議決権その他の類似の権利が決定的な要因となる場合、ファンドがストラク

チャード・エンティティになることはない。一方、議決権その他の類似の権利が決定的な

要因とならない場合には、ファンドがストラクチャード・エンティティに該当する可能性が

高い。

関連性のある活動とは、企業のリターンに重要な影響を及ぼす事業体の活動をいう。

ファンドに関しては、投資プロセス、投資方針と目的の設定、及び投資決定の実施、なら

びに投資ポートフォリオの資金調達などが関連性のある活動になる。

「(議決権に)類似する権利」とは 上記、「ストラクチャード・エンティティ-ファンド・マネージャーが知っておくべき要点」のセ

クションで説明しているように、IFRS第12号は「(議決権に)類似する権利」を定義してお

らず、またそうした権利が何であるかについてのガイダンスも提供していない。そのため、

ここでは報告企業の判断が求められるものと思われる。したがって、「類似する権利」と

は何であり、それにより事業体がストラクチャード・エンティティに該当するかについては

実務上ばらつきが生じる可能性がある。

なお、EYは類似する権利には以下のような権利が含まれると考えている。

► ファンド・マネージャーの解任権

► 想定された解散期日よりも前にファンドを清算できる権利

► 投資を償還する権利(権利が償還権に相当する場合)

実質的な権利 IFRS第10号には、実質的な権利についての、より詳細なガイダンスが設けられている。

IFRS第10号B22項は、「投資者は、パワーを有するかどうかの評価に際して、投資先に

関連する実質的な権利(投資者やその他の者が保有する権利)のみを検討する。権利

が実質的であるためには、保有者はその権利を行使する実質上の能力を有していなけ

ればならない」と説明している。

また、IFRS第10号B23項及びB24項は、議決権その他の類似の権利が実質的かどう

かを判断する際に検討すべき要因として以下を例示している。

a. 保有者の権利行使を妨げる何らかの障害(経済的又はその他の障害)があるかど

うか

b. 特に権利行使に向けて一緒に行動することが求められる場合、権利行使を求めら

れる当事者

c. 権利を保有している当事者が権利の行使から便益を享受するかどうか

d. 関連性のある活動への指図に関し決定を下す必要がある場合に、権利が行使可能

であるかどうか

以下ではこれらの要因を順番に解説する。

8 2014年2月 IFRS第12号「ストラクチャード・エンティティ」ファンド・マネージャーの留意点

権利行使の障害 権利行使の障害になる例としては以下のような事項を挙げることができる。

► 投資者が投資者会議を招集することができないなど、権利の行使を認める明示的

かつ合理的なメカニズムがファンドの設立書類又は法律に定められていない

► 権利を行使するかどうかを決めるのに必要となる関連性のある情報が存在しない

► 解任権が行使されると、ファンドを運用するために必要なスキルを備えた他のファン

ド・マネージャーが存在しないなど、権利が行使された場合の代わりとなる適切な人

材がいない

► ファンド・マネージャーを解任した場合には不利な報酬を支払わなければならないな

ど、権利行使に対する多額のペナルティ・フィーが存在する

► ファンド・マネージャーが償還要請を棄却できるゲート条項が存在する

このような障害が存在する場合、議決権その他の類似の権利が実質的となる可能性は

低く、おそらくファンドの関連性のある活動を指図する決定的な要因とはならない。

権利を保有する当事者 単独の第三者又は独立した取締役会が保有する権利は実質的となる可能性が高い。

権利行使に複数の当事者の同意が必要である、又は権利を複数の当事者が保有して

いる場合、当該当事者が権利を共同で行使することを選択した場合に、それを実行する

ことができる実質的な能力を与える仕組みが整備されていることが重要である。そうした

仕組みの例としては、当事者が会議を招集できる能力が挙げられる。このような仕組み

が存在しないことは、権利が実質的ではないことを示す指標になる。

異なる投資者が共に行動することが要求される場合、共に行動する必要がある当事者

の数が多くなればなるほど、権利が実質的な権利でなくなる可能性が高くなる。

権利から便益を享受する当事者 議決権その他の類似の権利を保有する当事者が、その権利の行使から便益を得られな

いとしたら、これらの権利が実質的となる可能性は低い。たとえば、オプション契約を通じ

て潜在的議決権を保有する保有者は、オプションがイン・ザ・マネーにある、又は保有者

が当該金融商品の行使又は転換から他の方法(たとえば保有者と投資先との間のシナ

ジーを実現するなど)によって便益を得られる場合に、実質的な権利を保有している可能

性が高い。

どのような場合に権利は行使可能とみなされるか 権利は、関連性のある活動を指図する現在の能力が保有者に与えられる時間の枠内で

行使可能とならなければならない、すなわち権利は関連性のある活動に対する決定が

なされるときに行使可能でなければならない。通常、実質的となるためには権利は現在

行使可能であることが求められる。しかし、ときとして現在行使可能でなくても権利が実

質的となることがある。

現在の能力を評価するためには、議決権その他の類似の権利の行使に関する制限及

びそうした制限が制限期間中に(そもそも)意思決定にどのように影響を及ぼすかを理解

しなければならない。制限期間中に限定的な意思決定しかなされない場合には、権利が

実質的となる可能性は高い。

2014年2月 IFRS第12号「ストラクチャード・エンティティ」ファンド・マネージャーの留意点 9

「実質的な権利」対「防御的な権利」 防御的な権利は、典型的には事業体の活動に対する根本的な変更に関係する。これら

の権利は、事業体の目的及び設計から外れた活動から投資者を防御する。たとえば、

不正を犯した場合にファンド・マネージャーを解任することを定める権利は、その目的及

び設計の一部であるとは考えられず、したがって防御的となる。防御的権利は、理由なく

行使することはできないことから、「議決権その他の類似の権利」が実質的かどうかの評

価には関係しない。

以下のディシジョン・ツリーは、これらの要因がどのように適用されるかを示している。こ

のツリーで示した内容に合致する権利は、議決権その他の類似する権利に該当しうる。

ディシジョン・ツリー

Yes

権利は理由なく行使可能か

権利行使に対する著しい障害が存在するか

(例:ペナルティ・フィー、行使の仕組みが存在しな

い、代わりの人材がいない)

権利は現在行使可能か

(すなわち重大な決定がなされる前に行使可能か)

Yes

Yes

Yes

No

No

No 権利は関連性のある活動に対するものか

ストラクチャード・

エンティティではない

ストラクチャード・

エンティティ

本稿の範囲外

事業体は子会社、関連

会社又はジョイント・

ベンチャーか

ストラクチャード・

エンティティに関する開

示-本稿の取扱範囲

IFRS 第 12 号の関連す

る開示規定を参照

No Yes

No

10 2014年2月 IFRS第12号「ストラクチャード・エンティティ」ファンド・マネージャーの留意点

3. ストラクチャード・エンティティへの関与とは 他の事業体(企業)への関与とは、一般的に、企業を当該他の事業体の業績に対するリ

ターンの変動性にさらすことになる契約上又は契約以外の関与をいう。これは、資本性

金融商品や負債性金融の保有のほか、当該他の事業体からの報酬の受領、及び当該

事業体に対する資金提供、流動性支援、信用補完や保証の提供といった、他の形態に

よる関与によって裏付けられるが、これらに限られるものではない。なお、単なる顧客と

供給者の関係だけでは他の事業体への関与を必ずしも有していることにはならない。

IFRS第12号の適用指針は、ストラクチャード・エンティティの目的と設計を考慮すること

は、ファンド・マネージャーが当該事業体への関与を有しており、したがってIFRS第12号の開示を提供しなければならないか否かを評価する際の一助になる、と述べている。評

価に際しては、ストラクチャード・エンティティに生じるように設計されたリスクや、ファンド・

マネージャー、及び他の当事者に移転するように設計されたリスクを検討する。

上記、「ストラクチャード・エンティティ-ファンド・マネージャーが知っておくべき要点」のセ

クションで説明しているように、IFRS第10号B56項は、変動リターンは固定ではなく、投

資先の業績の結果として変動する可能性のあるリターンであると説明している。変動リ

ターンは正の値のみとなることも、負の値のみとなることも、正と負の両方になることもあ

る。投資者は、投資先からのリターンに変動性があるかどうか、及び当該リターンがどの

ように変動するかについて、リターンの法的形態にかかわらず、取決めの実質に基づい

て評価する。投資先の資産運用に対する固定の業績報酬は、投資者を投資先の業績リ

スクにさらすことになるので変動リターンになる。変動性の度合いは投資先の報酬を支

払う十分な収入を創出する能力に左右される。

IFRS第12号における関与の定義は、事業体に対する資本性又は負債性金融商品を単

に保有することよりもはるかに幅広い概念である。IFRS第12号は、報告企業が他の事

業体に対し有している関与の開示を求めていることから、作成者は、自社の報告システ

ム及びプロセスによって、これらの関与が十分に識別されることを担保する必要がある。

管理報酬(マネジメント・フィー) 管理報酬は管理対象となるファンドの価値に対する一定割合を基にしており、ファンドの

評価額に応じて変動する。ファンド・マネージャーは、ファンドの業績(たとえばベンチマー

クに対するアウトパフォーム、又はハードル・リターンを上回るリターン)に基づくインセン

ティブ報酬を稼得することがある。

EYは、管理報酬は、マネージャーをファンドの業績リスクにさらすことになるため、変動リ

ターンになると考えている。したがって、ファンドから管理報酬を受領するファンド・マネー

ジャーは、当該ファンドに対する変動持分を有していることになる。

どのような場合に事業体が非連結のストラクチャード・エンティティのスポンサーとみなされるか IFRS第12号第27項は、報告企業が非連結のストラクチャード・エンティティのスポン

サーである場合に所定の開示を行うことを求めている。なお、SIC第12号は、スポンサー

を、「自己のためにSPEを創設した企業」と定義しているが、IFRS第12号ではスポン

サーは定義されていない。報告企業は、報告日時点で非連結のストラクチャード・エン

ティティに対してたとえ関与を有していなかったとしても、スポンサーに該当しうる。

2014年2月 IFRS第12号「ストラクチャード・エンティティ」ファンド・マネージャーの留意点 11

この開示規定の背景には、企業がストラクチャード・エンティティへの関与を保持していな

くとも、ストラクチャード・エンティティが企業にとってリスクを招くことがあるという考え方

がある。これについて、IFRS第12号の結論の根拠BC87項では、「ストラクチャード・エン

ティティが問題に直面すると、スポンサーの助言又は行動が問題にされる可能性やスポ

ンサーが自己の信用を守るために行動することを選択する可能性がある」と述べられて

いる。

ファンド・マネージャーは、管理報酬によって変動性にさらされるため、管理先のファンド

への関与を有する可能性が高い。しかし、たとえばファンド・マネージャーが、すでに管理

していないファンドに対して黙示的な保証を提供している、又はファンド・マネージャーが

管理しなくなった後もファンドが当該ファンド・マネージャーの名前を使用している、あるい

はファンド・マネージャーがファンドから管理報酬を受領しないような場合には、ファンド・

マネージャーがスポンサーのカテゴリーに含まれる可能性がある。そのような状況は稀

であるため、本稿では関与がない場合にIFRS第12号で求められる開示については解説

していないが、スポンサーについて要求される開示については、弊社刊行物「Applying IFRS-IFRS第12号-非連結のストラクチャード・エンティティへの関与に関する開示例」

(2013年5月)を参照されたい。

12 2014年2月 IFRS第12号「ストラクチャード・エンティティ」ファンド・マネージャーの留意点

4. 非連結のストラクチャード・エンティティに関するIFRS第12号の開示規定

上記、「ストラクチャード・エンティティ-ファンド・マネージャーが知っておくべき要点」のセ

クションで説明しているように、IFRS第12号に従って、企業は他の事業体を支配してい

るかどうかを決定する際の重要な判断及び仮定について開示しなければならない。さら

にIFRS第12号は、非連結のストラクチャード・エンティティへの関与に関する特定の開示

を求めている。

非連結のストラクチャード・エンティティへの関与に関する開示規定では、「関与の内容」

及び「リスクの内容」の2つに重点が置かれている。

IFRS第12号第24項は、財務諸表の利用者が次のことを評価できるような情報を開示す

ることを要求している。

a. 非連結のストラクチャード・エンティティへの関与の内容及び程度の理解(第26項か

ら第28項)

b. 非連結のストラクチャード・エンティティへの関与に関連したリスクの内容及び変動

の評価(第29項から第31項)

IFRS第12号第25項は、上記bで要求している情報には、企業が過去の期間において非

連結のストラクチャード・エンティティに対し有していた関与(たとえばストラクチャード・エ

ンティティのスポンサーになること)によるリスクへの企業のエクスポージャーに関する情

報が含まれるとしている。これは企業が報告期間末においてストラクチャード・エンティ

ティに対して契約上の関与をもはや有していない場合であっても同じである。

2014年2月 IFRS第12号「ストラクチャード・エンティティ」ファンド・マネージャーの留意点 13

5. 非連結のストラクチャード・エンティティの内容、目的、規模

及び活動、ならびにストラクチャード・エンティティの資金調

達方法ついて説明するためにどのような情報の開示が必

要か IFRS第12号第26項は、「非連結のストラクチャード・エンティティへの関与に関する定性

的情報及び定量的情報の開示は、ストラクチャード・エンティティの内容、目的、規模及

び活動、ならびにストラクチャード・エンティティの資金調達方法についての情報を提供す

ることで達成される」と説明している。

IFRS第12号結論の根拠BC96項は、「これらの開示を要求するにあたり、当審議会はス

トラクチャード・エンティティが保有する資産の開示は、その資金の資金源に関する情報

がないと、有用性が限定的であり、解釈が困難となる可能性があると主張した公開草案

(ED10)のコメント提供者の見解に同意した」と説明している。したがってIASBは、ストラ

クチャード・エンティティの内容、目的、規模及び活動、ならびにストラクチャード・エンティ

ティの資金調達方法の開示を企業に要求することを決定した。IASBは、この要求は、ス

トラクチャード・エンティティが保有する資産及び当該資産の資金調達に関する十分な情

報を、企業が関与する非連結のストラクチャード・エンティティの資産の具体的な開示を

すべての状況で要求することなしに、利用者に提供するはずだと結論を下した。リスクに

対するエクスポージャーの評価に関連性がある場合には、企業は、ストラクチャード・エ

ンティティの資産及び資金調達に関する追加的な情報の提供を要求される。

内容及び目的 ほとんどの投資ファンドの内容と目的は、管理投資戦略を通じて多岐にわたる投資機会

を投資者に提供することである。

規模 非連結のストラクチャード・エンティティの規模の開示を求める規定は、ファンドの純資産

についての情報を提供することで充足される可能性が最も高い。しかし、IFRS第12号の

結論の根拠BC120項(h)は特に、「企業が関与を有するストラクチャード・エンティティが

保有するファンドの純資産の開示を求めることはない」と説明している。このことは公正価

値以外の規模の測定値も受け入れられることを示唆しているように思われる。

EYは、「AUM(Fund Under Management:運用資産額)」は、ファンドの運用業界では

よく知られており、容易に入手可能であると考えている。したがってこれは、ファンド・マ

ネージャーが投資ファンドの規模の定量化を図る上で、使用するのに最も容易かつ有用

な規模の測定値となる。しかし、たとえば、ファンドの設立当初などにおいては、総投資

実行額(Total Fund Commitment)他の測定値の方が純資産値より適切かもしれない。

活動 投資ファンドの活動を開示する際には、ファンド・マネージャーは投資ファンドが設計され

た、投資ファンドのリターンに重要な影響を及ぼす活動となる主要な活動を開示しなけれ

ばならない。IFRS第10号B11項はそのような活動の例を示しており、投資ファンドに関し

ては投資の購入、販売及び資金の調達などが説明されている。

資金調達 この開示規定は、ファンド・マネージャーが投資ファンドへの資金提供に限られるものでは

なく、第三者から調達する資金も含まれる。また資本調達にのみ限られるものではなく、投

資ファンドがその事業活動を実施するためのすべての形態の契約上の資金調達も含まれ

るように思われる。

14 2014年2月 IFRS第12号「ストラクチャード・エンティティ」ファンド・マネージャーの留意点

6. 非連結のストラクチャード・エンティティからの「リスクの内容」

を説明するためにどのような情報の開示が必要か IFRS第12号第29項に従って企業は次の事項を表形式で開示しなければならない。た

だし他の形式の方が適切な場合はその限りではない。

a. 非連結のストラクチャード・エンティティへの関与に関して財務諸表に認識した資産

及び負債の帳簿価額

b. 当該資産及び負債が認識されている財政状態計算書上の表示科目

c. 非連結のストラクチャード・エンティティへの関与から生じる損失に対する企業の最

大エクスポージャーを最もよく表す金額(最大エクスポージャーの算定方法を含む)。

企業が、非連結のストラクチャード・エンティティへの関与から生じる損失に対する企

業の最大エクスポージャーを定量化できない場合には、その旨及び理由を開示しな

ければならない。

d. 非連結のストラクチャード・エンティティへの関与に関係する資産及び負債の帳簿価

額と、当該ストラクチャード・エンティティからの損失に対する企業の最大エクスポー

ジャーとの比較

IFRS第12号は損失に対する最大エクスポージャーを定義していない。IASBはそうした

定義は示さずに、報告企業の特定の文脈において何が損失を構成するのかの識別を企

業に委ねることを決定した。報告企業は、損失に対する最大エクスポージャーをどのよう

に算定したかについて開示すべきである。IASBは、企業が金融商品によって理論的に

は無制限の損失にさらされることになる場合など、非連結のストラクチャード・エンティ

ティへの関与からの損失に対する最大エクスポージャーを計算することができない場合

があることを認識している。その場合、企業は最大可能損失の計算がなぜ可能でないの

か、その理由を開示しなければならない。

EYは、損失に対する最大エクスポージャーとは、投資ファンドへの関与の結果、ファン

ド・マネージャーが包括利益計算書に計上を求められる最大損失であると考えている。さ

らに、この最大損失は、損失が実際に発生する確率に関係なく、開示しなければならな

い。IFRS第7号で求められる開示と同様に、損失に対する最大エクスポージャーは損失

を緩和する担保又はヘッジ手段も含めて開示しなければならず、そうした金融商品につ

いて個別の開示がなされるべきであると考える。

ファンド・マネージャーの最大損失は、財政状態計算書上のファンドに関する資産及び負

債の純資産価値に限定される場合があるが、ファンドに対して行われる資本出資、ファ

ンド・マネージャーがファンドに対して行う履行保証、あるいは、必要があれば返還しなけ

ればならないという条件付きでファンド・マネージャーが稼得する報酬によって増加する

ことがある。

資産と負債の帳簿価額と損失に対する最大エクスポージャーとの比較の開示は、最大

損失エクスポージャーと財務諸表に計上されている金額との差額を利用者がより効果的

に理解できるようにすることを意図している。企業がこれらの損失の一部又はすべてを

生じさせる可能性が高いかどうかを評価する際の一助となることが、この開示の意図で

ある。

2014年2月 IFRS第12号「ストラクチャード・エンティティ」ファンド・マネージャーの留意点 15

7. 非連結のストラクチャード・エンティティに提供される財務的

その他の「支援」とは IFRS第12号は、非連結のストラクチャード・エンティティに提供される財務的その他の支

援の開示を要求している。契約上の支援に関する開示は、非連結のストラクチャード・エ

ンティティのリスクの内容に関する開示規定に包含されており、セクション5で解説してい

る。本セクションでは、事業体が契約上の義務が存在しない支援を提供する場合の開示

規定について説明する。

IFRS第12号第30項に従って企業は、非連結のストラクチャード・エンティティに契約上

の義務が存在しない財務的支援又はその他の支援について開示しなければならない。

報告企業が契約上の義務が存在しない財務的支援又はその他の支援を、現在関与を

有している又は従前に関与を有していた事業体に提供している場合、報告企業は次の

事項を開示しなければならない。

► 提供した支援の種類及び金額(ストラクチャード・エンティティが財務的支援を得るの

を企業が補佐した場合も含む)

► 当該支援を提供した理由

支援 支援はIFRSでは定義されていない。IFRS第12号の結論の根拠BC105項は、「当審議

会は「支援」という用語を定義しないことを決定した。支援の定義は、広義すぎて有効で

ない定義になるか、開示を回避するための操作の誘引となるかのいずれかとなるであろ

う」と説明している。IASBは、支援は直接的又は間接的に関係なく他の事業体に対する

資源の提供と広く理解されていると考えている。非連結のストラクチャード・エンティティに

関し開示される支援の種類の例としては、ストラクチャード・エンティティの資産の購入又

はストラクチャード・エンエィティが負っている債務の免除などがある。

IFRS第12号は「その他の支援」が何を意味するか、またそれが人的資源や管理サービ

スの提供など財務的なもの以外の支援にまで及ぶかどうかについて説明していない。

ファンド・マネージャーは、事務管理サービスや秘書サービスなど、その他のサービスを

自らが管理する投資ファンドに提供することがあるが、こうしたサービスはファンド・マ

ネージャーのグループに属する他の企業によっても提供される場合もある。

財務的その他の支援を提供する現在の意図 IFRS第12号第31項に従って企業は、ストラクチャード・エンティティが財務的支援を得る

のを補佐する意図をはじめ、財務的支援又はその他の支援を非連結のストラクチャー

ド・エンティティに提供する現在の意図を開示しなければならない。

IFRS第12号は「意図」を定義していない。結論の根拠のBC104項は、「意図」は企業が

財務的支援又はその他の支援を提供することを決定していること(すなわちそれを行う

現在の意図を有していること)を意味すると示している。これは、支援を提供する決定が、

その点に関する承認権限を有する当事者により承認されていることを示唆している。結

論の根拠を文字通り読めば、支援を受ける予定のストラクチャード・エンティティ又はIAS第37号「引当金、偶発負債及び偶発資産」に定義される推定的債務が成り立つストラク

チャード・エンティティに対する意図について開示は必要とされない。

8. 「追加的な情報」として何を開示すべきか 「リスクの内容」における開示規定を満たすため、IFRS第12号B25項の適用ガイダンス

は、「第29項から第31項で要求している情報に加えて、企業は第24項(b)の開示目的

を満たすのに必要な情報を開示しなければならない」と説明している。

16 2014年2月 IFRS第12号「ストラクチャード・エンティティ」ファンド・マネージャーの留意点

関連性がある追加の情報例として、IFRS第12号B26項は以下の例を挙げている。

a. 非連結のストラクチャード・エンティティに対して企業が財務的支援を提供することを

要求する可能性のある取決めの条件(たとえば、ストラクチャード・エンティティの資

産の購入又は財務的支援を行う義務に関連した、流動性の取決め又は信用格付け

のトリガー)。これには次のようなものが含まれる。

i. ファンド・マネージャーを損失にさらす可能性のある事象又は状況の説明

ii. 義務を限定する条項があるかどうか

iii. 財務的な支援を提供する他の当事者の有無。又はそのような当事者がいる場

合には、ファンド・マネージャーの義務が他の当事者の義務とどのように順位

付けされているか

b. 非連結のストラクチャード・エンティティへの関与に関連して報告期間中に企業に生

じた損失

c. 非連結のストラクチャード・エンティティへの関与に関連して報告期間中に受け取っ

た収益の種類

d. 企業が他の当事者よりも前に非連結のストラクチャード・エンティティの損失を負担

することを要求されているかどうか、企業にとっての当該損失の上限、及び(関連性

がある場合には)非連結のストラクチャード・エンティティへの関与が企業よりも後順

位の関係者が負担する潜在的損失の順位及び金額

e. 第三者との流動性に関する取決め、保証又は他のコミットメントで、非連結のストラ

クチャード・エンティティへの企業の関与の公正価値又はリスクに影響を与える可能

性のあるものについての情報

f. 非連結のストラクチャード・エンティティが報告期間中に活動資金を調達する際に経

験した困難

g. 非連結のストラクチャード・エンティティの資金調達に関して、資金調達の形態(たと

えば、コマーシャル・ペーパー又はミディアム・ターム・ノート)及びそれらの加重平均

存続期間。非連結のストラクチャード・エンティティが短期資金を財源とした長期の

資産を有している場合には、この情報には非連結のストラクチャード・エンティティの

資産及び資金調達の満期分析が含まれることもある。

IFRS第12号はこれらの情報開示の方法について具体的な形式を規定していない。した

がってファンド・マネージャーは、個々の状況に応じて表形式と叙述的な説明のいずれが

より適切かを判断する必要がある。

生じた損失 ファンド・マネージャーは報告期間中に非連結の投資ファンドへの関与により生じた損失

を開示しなければならない。

IFRS第12号は生じた損失について詳述していないが、我々は、実現した損失と未実現

損失の両方、さらには純損益に計上される損失とその他の包括利益に計上される損失

の双方を想定していると考えている。財務諸表上、損失が計上されている表示科目を財

務諸表の利用者に説明することも有益であろうし、報告期間中に生じた損失だけでなく

報告日時点で保有される投資に関して発生した合計損失額を開示することもまた有益と

なるであろう。そうした損失の例として、ファンド・マネージャーが保有する投資ファンドか

らの公正価値損失や報酬の返還などが挙げられる。

2014年2月 IFRS第12号「ストラクチャード・エンティティ」ファンド・マネージャーの留意点 17

受け取った収益 報告期間中に管理しているファンドからファンド・マネージャーが受け取った収益は開示

しなければならない。IFRS第12号は特に定めていないが、表形式が適切であろう。ファ

ンド・マネージャーが受け取る収益には以下のようなものがある。

► 管理及び運用業績報酬

► 利息、配当又はリース収益

► その他のサービス報酬。たとえば資産管理報酬、事務管理報酬

► 投資ファンドの保有に伴う損益

潜在的損失の順位 IFRS第12号のB26項(d)は「企業は他の当事者よりも前に非連結のストラクチャード・

エンティティの損失を負担することを要求されているかどうか、企業にとっての当該損失

の上限、及び(関連性がある場合には)非連結のストラクチャード・エンティティへの関与

が企業よりも後順位の関係者が負担する潜在的損失の順位及び金額を開示しなければ

ならない」と述べている。

この開示が関係するのは、他の投資者が保有する種類とは異なる種類の持分を投資

ファンドに保有しているファンド・マネージャーであり、たとえば一定のハードル・レートの

リターンを他の投資者が受領した後にのみリターンが発生する場合など、異なるリターン

の対象になる、又は異なる損失にさらされる持分を保有しているファンド・マネージャーで

ある。

流動性に関する取決め この開示には以下が含まれる。

► 第三者がストラクチャード・エンティティに提供する流動性に関する取決め、保証又

は他のコミットメントで、非連結のストラクチャード・エンティティへの報告企業の関与

の公正価値又はリスクに影響を与えるもの

► 第三者がストラクチャード・エンティティに提供する流動性に関する取決め、保証又

は他のコミットメントで、非連結のストラクチャード・エンティティへの報告企業の関与

のリスクに影響を与えるもの

我々は、この開示はストラクチャード・エンティティが第三者に提供する流動性の取決め、

保証又は他のコミットメントを含めることを意図していないと考える。というのも、第三者に

提供される取決め自体はストラクチャード・エンティティへの関与の要件を満たすもので

あるが、通常、非連結のストラクチャード・エンティティに対する企業の関与の公正価値

に影響を及ぼさないためである。

資金調達上の困難に関する開示 IFRS第12号B26項(f)は、ストラクチャード・エンティティが報告期間中に活動資金を調

達する際に経験した困難の開示を求めている。これらの開示は潜在的には広範に及ぶ

可能性がある。実務上は、全体又は部分的に不履行に陥った負債性金融商品及び資

本性金融商品の発行が焦点になる可能性が高く、キャピタル・コール(資本の払込要求)

に関する債務不履行も開示対象になりうると我々は考えている。

非連結のストラクチャード・エンティティの資金調達形態に関する開示 この開示は、たとえば銀行貸付、転換社債や無配当優先株式の発行など、ファンド・マ

ネージャーが関与しない資金調達の形態を含むストラクチャード・エンティティの全体的

な資金調達についての開示をいう。

18 2014年2月 IFRS第12号「ストラクチャード・エンティティ」ファンド・マネージャーの留意点

9. 要求されている情報はどの程度集約すべきか IFRS第12号は、情報の集約がその開示目的に合致し、提供される情報を曖昧なものに

することがない場合、ファンド・マネージャーが類似の投資ファンドへの関与について要

求される開示を集約することを容認している。EYは、どのような場合に、そしてどのよう

に情報を集約すべきかは、多くの企業にとって相当の判断を要すると考えている。

情報を集約すべきかどうかの判断に際して、ファンド・マネージャーは、集約の程度を検

討して投資ファンドのそれぞれに関し異なるリスク及びリターン特性について定量的及び

定性的情報及びファンド・マネージャーにとっての各投資ファンドの重要性を検討しなけ

ればならない。開示は、関与の内容及び範囲を財務諸表の利用者に明確に説明する方

法で表示されなければならない。

我々は、集約される関与は、たとえば以下のような類似のリスク特性を有するものでな

ければならないと考える。

► 投資資産の種類。たとえば株式、債券、デリバティブ、不動産など

► 上場しているか、非上場か

► 投資対象の国や地域、市場。たとえば先進国、新興国又はフロンティア市場など

2014年2月 IFRS第12号「ストラクチャード・エンティティ」ファンド・マネージャーの留意点 19

付録A:開示例 以下の例で、非連結のストラクチャード・エンティティに分類される複数の投資ファンドに

投資しているファンド運用グループにおいて想定される開示を検討する。ここでは非連結

のストラクチャード・エンティティは、ファンドが上場証券に投資しているか否かという資産

の種類ごと、そしてファンドが投資している市場の種類に基づき集約されている。

重要な会計上の判断 ファンドの投資をストラクチャード・エンティティとして評価 当グループは、運用するファンドがストラクチャード・エンティティに該当するか評価した。

当グループをファンド・マネージャーから解任する権利、ファンドを清算する権利又はファ

ンドに対する保有分を償還する権利(そうした権利がファンドの清算に相当する場合)を

はじめ、ファンドに対する他の当事者(投資者及び独立した取締役会)に認められる議決

権その他の同様な権利を検討し、誰がファンドを支配しているかを決定するに際してこれ

らの権利が決定的な要因になるかどうかについて結論を下した。

当グループは、実質的な解任権又は清算権(清算に類似する償還権を含む)が存在す

る場合を除き、ファンドはストラクチャード・エンティティであると判断した。

非連結のストラクチャード・エンティティ 当グループは複数の投資ファンドを運用しており、それらは非連結のストラクチャード・エ

ンティティである。本注記ではこれらのファンドに関する追加の情報を提供する。当グ

ループは管理報酬やその他の報酬の受領、及びファンドに対する一定の持分を保有す

ることを通じて、これらのファンドへの関与を有している。

これらの投資ファンドは、リミティッド・パートナーシップ、及び幅広い資産への投資を行う

オープン・エンド型及びクローズド・エンド型投資会社である。以下は、各カテゴリーごと

の運用資産の詳細である。

運用しているファンドで、当グループが年度末時点で関与を有していないものはない。

20X1 20X0

百万ポンド 百万ポンド

上場株式 – 先進国市場 12,560 11,118

上場株式 – 新興市場 3,402 3,680

プライベート・エクイティ – 先進国市場 800 780

プライベート・エクイティ – 新興市場 4,231 4,400

社債 9,777 8,889

不動産 6,850 7,250

合計 37,620 36,117

上場株式及びプライベート・エクイティは世界の先進国市場及び新興市場の両方で保有

している。社債は米国とヨーロッパで、不動産は英国で保有している。

投資ファンドにはさまざまな投資目的と方針が存在するが、すべてのファンドが、投資資

産のキャピタルゲイン、インカムゲイン、またはその両方を通じて得られるリターンを投資

者に提供するために、投資者から受領した資本を資産のポートフォリオに投資している。

20 2014年2月 IFRS第12号「ストラクチャード・エンティティ」ファンド・マネージャーの留意点

投資ファンドは投資者からの出資により資金を調達している。上場株式及び不動産ファ

ンドは負債による資金調達も実施しており、20X1年12月31日時点におけるそれらの満

期区分は以下の通りである。

1 年以内 1 年超

5 年以内 5 年超 合計

百万ポンド 百万ポンド 百万ポンド 百万ポンド

上場株式 – 先進国市場

100 300 150 550

上場株式 – 新興国市場

50 100 100 250

不動産 - 200 50 250

合計 150 600 300 1,050

上場株式及び不動産ファンドは負債による資金調達を実施しており、20X0年12月31日時点におけるそれらの満期区分は以下の通りであった。

1 年以内 1 年超

5 年以内 5 年超 合計

百万ポンド 百万ポンド 百万ポンド 百万ポンド

上場株式 – 先進国市場 200 200 250 650

上場株式 – 新興国市場 80 70 100 250

不動産 10 150 100 260

合計 290 420 450 1,160

以下の表は、20X1年12月31日時点で財政状態計算書に計上されている非連結のスト

ラクチャード・エンティティへの当グループの関与の帳簿価額をまとめている。

ファンド資産の 種類

FVTPL 投資 貸付金

未収収益 – 後払報酬

繰延収益 – 前払報酬 資産 負債

百万ポンド 百万ポンド 百万ポンド 百万ポンド

上場株式 – 先進国市場 12.1 - 0.4 - 12.5 -

上場株式 – 新興市場 1.2 - 0.1 - 1.3 -

プライベート・ エクイティ – 先進国市場 0.9 - - - 0.9 -

プライベート・ エクイティ – 新興市場 3.0 - 0.5 - 3.5 -

社債 1.1 - - 0.1 1.1 0.1

不動産 2.5 20.0 0.2 0.2 22.7 0.2

合計 20.8 20.0 1.2 0.3 42.0 0.3

2014年2月 IFRS第12号「ストラクチャード・エンティティ」ファンド・マネージャーの留意点 21

以下の表は、20X0年12月31日時点で財政状態計算書に計上されている非連結のスト

ラクチャード・エンティティへの当グループの関与の帳簿価額をまとめている。

ファンド資産の 種類

FVTPL 投資 貸付金

未収収益 – 後払報酬

繰延収益 – 前払報酬 資産 負債

百万ポンド 百万ポンド 百万ポンド 百万ポンド

上場株式 – 先進国市場 10.9 - 0.3 - 11.2 -

上場株式 – 新興市場 1.0 - 0.2 - 1.2 -

プライベート・ エクイティ – 先進国市場 1.0 - - - 1.0 -

プライベート・ エクイティ – 新興市場 2.8 - 0.4 - 3.2 -

社債 1.0 - - 0.1 1.0 0.1

不動産 2.5 - 0.4 0.2 2.9 0.2

合計 19.2 - 1.3 0.3 20.5 0.3

損失に対する最大エクスポージャー 社債及び不動産に投資しているファンドからの損失に対する当グループの最大エクス

ポージャーは、上記の表に示される帳簿価額に限定される。

上場株式に投資しているファンドからの損失に対する当グループの最大エクスポー

ジャーは、上記の表に示される帳簿価額及び返還対象となる業績報酬に限定される。

当グループは過去2年間に合計で14百万ポンド(20X0年:12.5百万ポンド)に及ぶ業

績報酬を受領しているが、関連するファンドの将来の業績次第では返還される可能性

がある。

プライベート・エクイティ・ファンドからの損失に対する当グループの最大エクスポー

ジャーは、上記の表の金額、及び関連するファンドの将来の業績次第では返還される可

能性がある1.2百万ポンド(20X0年:0.9百万ポンド)の成功報酬である。

22 2014年2月 IFRS第12号「ストラクチャード・エンティティ」ファンド・マネージャーの留意点

以下の表は、20X1年12月31日に終了した年度の損益計算書に計上された、非連結の

ストラクチャード・エンティティからの当グループの総収益及び損失である。

ストラクチャード・ エンティティの種類

管理報酬

及び 業績報酬 成功報酬

その他の

報酬 投資収益 FVTPL

損益 合計

百万ポンド 百万ポンド 百万ポンド 百万ポンド

上場株式 – 先進国市場 119.0 - 0.9 0.6 0.8 121.3

上場株式 – 新興市場 49.2 - 0.2 0.1 1.0 50.5

プライベート・ エクイティ – 先進国市場 16.7 1.1 - - 0.8 18.6

プライベート・ エクイティ – 新興市場 84.4 22.3 - - 0.2 106.9

社債 49.0 - 0.1 0.3 (0.1) 49.3

不動産 214.1 - 3.0 0.9 0.3 218.3

合計 532.4 23.4 4.2 1.9 3.0 564.9

以下の表は、20X0年12月31日に終了した年度の損益計算書に計上された、非連結の

ストラクチャード・エンティティからの当グループの総収益及び損失である。

ストラクチャード・ エンティティの種類

管理報酬

及び 業績報酬 成功報酬

その他の

報酬 投資収益 FVTPL

損益 合計

百万ポンド 百万ポンド 百万ポンド 百万ポンド

上場株式 – 先進国市場 105.0 - 1.0 0.8 1.2 108.0

上場株式 – 新興市場 50.1 - 0.3 0.1 1.2 51.7

プライベート・ エクイティ – 先進国市場 15.7 1.0 - - 1.0 17.7

プライベート・ エクイティ – 新興市場 65.2 19.3 - - 0.4 84.9

社債 45.6 - 0.1 0.3 0.1 46.1

不動産 180.3 - 3.0 - 0.2 183.5

合計 461.9 20.3 4.4 1.2 4.1 491.9

その他の報酬は、不動産管理及び事務管理サービスに対する報酬及び不動産取得で

稼得された報酬などである。

投資収益は、ファンドからの配当及び利息収入、不動産ファンドに提供したつなぎ融資

(下記を参照)の利息などである。

2014年2月 IFRS第12号「ストラクチャード・エンティティ」ファンド・マネージャーの留意点 23

財務的支援 当グループはABC Property Fundが不動産を取得できるように期中に50百万ポンド

(20X0年:ゼロ)のつなぎ融資を同ファンドに実行している。この融資で期中に稼得され

た利息は0.8百万ポンド(20X0年:ゼロ)で、ファンドが銀行融資を行った時点で融資は

返済される。当グループは期中にそれ以外の財務的支援を行っておらず、いずれの投

資ファンドにも財務的支援を提供する義務もなければその意図もない。

その他の情報 当グループはABC Hedge Fundの経営上の株式のすべてを保有しており、その額面は

0.6百万ポンド(20X0年:0.6百万ポンド)である。これらの株式により議決権の100%(20X0年:100%)を保有しているが、償還に関してはファンドの他の投資者が保有する

償還可能優先株より後順位になる。その他すべてのファンドに関しては、当グループが

保有する株式の権利は他の投資者の権利と同じである。

EY | Assurance | Tax | Transactions | Advisory EYについて

EYは、アシュアランス、税務、トランザクションおよびアドバイザリーなどの分野における世界的なリーダーです。

私たちの深い洞察と高品質なサービスは、世界中の資本市場や経済活動に信頼をもたらします。私たちはさま

ざまなステークホルダーの期待に応えるチームを率いるリーダーを生み出していきます。そうすることで、構成

員、クライアント、そして地域社会のために、より良い社会の構築に貢献します。

EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバル・ネットワークであり、単体、もしくは複

数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グ

ローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。詳しくは、

ey.comをご覧ください。

EY FSO(日本エリア)について

EYフィナンシャル・サービス・オフィス(FSO)は、競争激化と規制強化の流れの中で様々な要望に応えることが

求められている銀行業、証券業、保険業、アセットマネジメントなどの金融サービス業に特化するため、それぞ

れの業務に精通した職業的専門家をグローバルに有しています。また、各業界の規制動向を予測し、潜在的

な課題に対する見解を提示するため、業種別にグローバル・ナレッジ・センターを設け、規制動向の収集や業

界分析を行っています。EY FSO(日本エリア)は、グローバル・ネットワークと連携して、金融サービス業に精通

した職業的専門家が一貫して高品質なサービスを提供しています。

© 2014 Ernst & Young ShinNihon LLC. All Rights Reserved. 本書はSCORE no. AU2099の翻訳版です。

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