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ISO15189 認定を取得して ISO15189 認定を取得して (独)国立がん研究センター中央病院 病理・臨床検査科 三 浦 隆 雄 【はじめに】国立がん研究センター中央病院 病理・臨床検査科(臨床検査部)は、2012 年9月27日付でISO15189認定施設として登録されました。現在、認定検査室は国立大学病院、 登録検査センターを中心に 65 施設ありますが、検査センター等を除く病院検査室としては 27 番目、東京都内では 4 番目の認定施設となり、国臨協会員施設では、国立循環器病研究 センターとの同時認定となりました。 国立病院臨床検査技師協会(国臨協)では、平成 22 年度事業方 針に「ISO15189 認定取得に向けた情報収集」を取り上げ、平成 23 年度では「臨床検査部門の標準化(ISO15189への取り組み)」を事 業方針としています。今後の検査部門の標準化事業をさらに推進 するうえで、ISO15189 要求事項への取り組みの必要性については、 国臨協および臨床検査技師長協議会が継続して主導していかなけ ればならない大命題のひとつと思われます。このような中、国臨 協会員施設である東西の大施設が ISO 認定に取り組み、そして認 定を取得できたことが、他施設への波及効果となれば幸いです。 - 68 -

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Page 1: ISO15189認定を取得して ISO15189認定を取得しての教育訓練にありますが、ISO の精神が当たり前のように習慣化するまでには数年を要するものと思われ

■ ISO15189 認定を取得して ■

ISO15189 認定を取得して

(独)国立がん研究センター中央病院 病理・臨床検査科 三 浦 隆 雄

【はじめに】国立がん研究センター中央病院 病理・臨床検査科(臨床検査部)は、2012

年9月27日付でISO15189認定施設として登録されました。現在、認定検査室は国立大学病院、

登録検査センターを中心に 65 施設ありますが、検査センター等を除く病院検査室としては

27 番目、東京都内では 4 番目の認定施設となり、国臨協会員施設では、国立循環器病研究

センターとの同時認定となりました。

国立病院臨床検査技師協会(国臨協)では、平成 22 年度事業方

針に「ISO15189 認定取得に向けた情報収集」を取り上げ、平成 23

年度では「臨床検査部門の標準化(ISO15189 への取り組み)」を事

業方針としています。今後の検査部門の標準化事業をさらに推進

するうえで、ISO15189 要求事項への取り組みの必要性については、

国臨協および臨床検査技師長協議会が継続して主導していかなけ

ればならない大命題のひとつと思われます。このような中、国臨

協会員施設である東西の大施設が ISO 認定に取り組み、そして認

定を取得できたことが、他施設への波及効果となれば幸いです。

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Page 2: ISO15189認定を取得して ISO15189認定を取得しての教育訓練にありますが、ISO の精神が当たり前のように習慣化するまでには数年を要するものと思われ

【認定取得を目指して】 独立行政法人化後の 2010 年 7 月、臨床検査部は病理科・臨床検

査科となり新体制に移行しました。直後の科内運営会議において、今後の第一目標として

ISO15189 認定取得を目指すことを提案し、企画戦略室長に提言書を提出しました。その後

数回のヒアリングでは好感触を得ていましたが、当センターの大改革の流れと、3.11 東日本

大震災の混乱で忘れ去られたかのようでした。約 1 年後に再度起案し、理事長の決裁承認を

得ることができました。以下に当検査部が ISO 認定取得を目指すことを紹介した広報誌(国

立がん研究センターだより 2011.Vol.2/No3) 掲載文を引用します。

―臨床検査室の国際規格「ISO15189」の認定を目指して―

このたび、中央病院病理科・臨床検査科の検査室では、国際標準化機構(International Organization for Standardization:ISO)が発行した臨床検査室の品質と能力に関する国際規格「ISO15189」の認定取得を

目指すことが承認され、6 月 27 日にプロジェクトのスタートにあたるキックオフ・ミーティングを開催し

ました。席上、嘉山理事長より ISO への期待と意義についてのご訓示をいただき、認定受審に向けて活動

を開始したところであります。ここに目指す ISO について紹介させていただきます。

ISO15189 は、品質マネジメントシステム規格(ISO9001)と試験所及び校正機関の能力に関する一般

的要求事項の規格 ISO/IEC17025 に基づいて、臨床検査室の国際的標準化のため 2003 年に制定された国

際規格です。認定を取得するには、「品質マネジメントシステムの仕組み」に関する管理上の要求事項と、

「技術的に妥当な検査結果を出す能力」に関する要求事項に適合していることを証明しなければなりませ

ん。国際的には急速に浸透普及していますが、わが国の認定登録施設数は、本年 6 月 20 日現在、大学病院

と大手検査センターの検査室を中心に 59 施設に過ぎません。多くの検査室は認定取得とその後の維持更新

に要する予算獲得の問題、高額とも思える経費対効果への基本的な疑問、文書化などの膨大な作業量、人

材不足など、消極的な意見に足踏みしているようです。認定に関わる経費は、検査室業務の質向上のため

に決して高額な投資とは思われませんが、これが最も高いハードルとなっています。

臨床検査の妥当性・確かな根拠が国際的に問われる時代となりました。がんの臨床・研究・教育を使命

とし、がん医療を世界に発信しなければならない新生国立がん研究センターに在る臨床検査室としては、

当たり前のようになくてはならない看板と考えます。臨床検査技師としては、ISO を目指すことができる

恵まれた環境下にあることを幸運に思うとともに、これほどやりがいのある目標は見当たりません。 ISO 認定を目指す目的は、組織がよい仕事をするための体質強化にあります。期待される効果としては、

検査品質に対するスタッフの意識向上・能力向上、検査の標準化、精度管理の充実、知らず知らずのうち

に硬直化してしまう体質の改善、スタッフが入れ替わっても知識や技術が途切れてしまうことのない体制、

クレーム・トラブル・インシデントの減少、等々があげられます。また、認定施設の検査データは国際的

にも通用することになります。国際共同治験の受託を推進する効果や、将来的には診療報酬上のインセン

ティブも期待されます。

認定を取得するまでには向後一年を予定しています。年度内は、スタッフ全員の役割・責任・権限の明

確化、各種会議体の編成、内部監査員の養成、作業手順書等の管理文書類の整備、日常業務内容の分析と

問題点改善に集中的に取り組んで参ります。そして新年度早々には(財)日本適合性認定協会の予備訪問

と本審査を受け、2012 年の今頃吉日には、国際規格に適合する能力と信頼性を有する検査室の「お墨付き」

を手にできることを目指しております。 ISO 導入成功の鍵は、内部監査の質を維持し、PDCA(Plan:計画、Do:実行、Check:検証、Action:

改善)サイクルをうまく廻すための仕組みを継続的に機能させること、そしてスタッフの能力向上のため

の教育訓練にありますが、ISO の精神が当たり前のように習慣化するまでには数年を要するものと思われ

ます。認定登録を維持するためには、約 1 年ごとに ISO が適切に機能しているかのシステム審査と技術審

査サーベイランスがあり、4年毎の更新審査が必要となるため、終わりのない継続的改善の日々を送るこ

ととなります。病院機能評価との大きな違いはここにあります。

ISO15189規格序文には、「臨床検査室のサービスは、患者診療にとって不可欠であり、すべての患者と

その診療に責任を持つ臨床医のニーズを満たすために利用できなければならない。」とあります。病理科・

臨床検査科の検査室は、このことを念頭に、「よい仕事をする臨床検査室」を目指して、診療科の先生方、

看護部門、事務部門や多くの皆様のご理解とご支援を得ながら、津田科長、田野崎副科長を検査室管理主

体とするスタッフ一丸となって取り組んで参ります。どうぞ、ISO漬けとなっている検査室をよろしくお

願い申し上げます。

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Page 3: ISO15189認定を取得して ISO15189認定を取得しての教育訓練にありますが、ISO の精神が当たり前のように習慣化するまでには数年を要するものと思われ

【認定取得までの道程】 下表に一括して示します。プロポーザブル方式で公募したコンサ

ルタント(CGI)が決まってから 1 年後の認定取得を目指し、規格説明会、内部監査員養成

セミナー(17 名修了)、認定取得施設の見学を実施しました。各検査室には検査項目作業手

順書(SOP)の作成と要求事項の理解を深めることを指示し、品質マニュアル、文書管理手

順書等の品質マネジメントシステム(QMS)の基準となる文書作成は、技師長・副技師長

および一部の主任技師が担当。3 月に慣れない内部監査もどきを実施し、5 月に日本適合性

認定協会(JAB)まで受審申請に出向きました。予備訪問(審査)時点では、手順書・記録

類の一部は未完成または不備があり、またマネジメントレビュー会議も未実施でしたが、7

月の本審査までに間に合わせることができました。本審査は三日間、本誌でもお馴染みの下

田勝二氏をリーダーとする JAB 認定審査チーム 6 名によるシステム審査および技術審査を

無事乗り切ることができたのでした。

【審査での指摘事項】 本審査では不適合(NC)6 件、注記(RM)22 件、計 28 件の指摘

がありました。この他にも「コメント」7 件、“つぶやき”多数。これらの指摘内容のほと

んどは、要求事項を十分に理解していなかったこと、品質マニュアルと手順書間の整合性、

スタッフの力量評価記録や文書等の周知記録の不備、このぐらいは大丈夫だろうと安易に考

えていたことは、ことごとく指摘を受けました。内部精度管理と外部精度管理結果の評価お

よび考え方に対しては、予想以上に厳しい指摘がありました。要求事項の厳しさを体感した

スタッフは、今後のために貴重な経験となったはずです。

2011年 2012年

6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月

キックオフミィーティング 6/27

コンサルタント決定 8/1

認定施設見学 名大 横浜市大 東大 東大

規格説明会 8/23

内部監査員養成セミナー 9/13 2/23

SOP作成セミナー 9/15

不確かさセミナー 10/19

設備・機材・環境整備

自己学習

検査作業手順書作成

品質マニュアル作成

文書管理・内部監査手順作成

不適合処理手順作成

その他文書・記録作成

内部監査実施

マネジメントレビュー会議

申請書類作成

申請書類JAB提出 5/8

JAB予備訪問 5/23

予備訪問の指摘事項回答

JAB本審査 7/11-13

指摘事項の是正処置回答

認定審査委員会 9/27

内容

ISO15189認定取得までの道程

国立がん研究センター中央病院

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これらの指摘事項に対しては、約 1 ヶ月の期限内に何とか是正処置回答書を提出すること

ができ、JAB 認定審査委員会までに間に合わせることができましたが、まったく当たり前

のことができていなかったことを恥じるばかりでした。そのためか、JAB からの認定の知

らせを受けても嬉しさ満足感よりも未達成感、1 年前から立ちこめていた暗雲はいまだに晴

れてはおりません。

【今後の課題】ISO15189 規格の要求事項は、すべてのプロセスを適切に管理することで、

起こり得るリスクの回避、生じた不適合の再発防止を図り、検査業務の信頼性を向上させる

体制を確立することにあります。

「ISO15189」の看板を得ることはできましたが、まだまだ ISO 規格の意図することが十分

に浸透、周知されているとは言えません。検査室を継続的に改善していくために内部監査と

スタッフの教育訓練を充実していかなくてはなりません。これからが終わりのない継続的改

善の始まりです。

内部監査は、ISO 規格要求事項からの逸脱を定期的に監視し、検査室を今よりも良くする

ための予防処置・是正処置に結び付けるためにたいへん重要な制度です。マンネリにならな

いように、若い内部監査員を養成し、楽しくやりがいのあるイベントにしていかなければな

らないと考えています。内部監査は ISO に関係なく、どの施設でも取り入れるべき制度と

思います。

教育・訓練・研修の充実は、スタッフの力量を高め、ISO 規格を維持し PDCA サイクル

を回すために内部監査とともに重要です。ISO 規格に特化した教育プログラムを計画し、ス

タッフへ周知徹底しなければなりません。会議での報告や回覧文書で署名を得ても理解され

たとは限りませんし、周知徹底は永遠のテーマです。人の問題で悩みは尽きませんが、一部

のスタッフのみに負担が偏ることなく、人が入れ替わっても恒常的に ISO 規格の検査室業

務を維持できるよう人材育成に努めなければなりません。

【終わりに】 このたびの ISO15189 への取り組みを通して実感したことは、日常業務とし

てやるべきことをしっかりと実施するという管理上の当たり前の目標であること、決して高

いレベルの目標ではないことです。日々できるところから少しずつ取り組んでいけば、決し

て“大変な ISO”にはならないと思っています。

認定を取得するための経費と人の問題であきらめの境地を決め込むことは簡単ですが、ど

の検査室も臨床検査と臨床検査技師の原点に立ち返り、現状の体質を ISO 規格要求事項に

照らし合わせて省みる必要性を強く感じた次第です。

ひとつ上を目指して、会員の皆様のご健闘をお祈りいたします。

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