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ISS/「きぼう」日本実験棟における 宇宙放射線に対する取り組み ~有人宇宙開発の未来を拓く宇宙放射線技術~ 第18回「きぼう」利用勉強会20110624永松 愛子 宇宙航空研究開発機構 1.宇宙環境利用センター 物質材料ミッション(宇宙放射線G) 2.有人宇宙技術部 宇宙医学生物学研究室

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ISS/「きぼう」日本実験棟における宇宙放射線に対する取り組み

~有人宇宙開発の未来を拓く宇宙放射線技術~

第18回「きぼう」利用勉強会、2011年06月24日

永松 愛子

宇宙航空研究開発機構1.宇宙環境利用センター 物質材料ミッション(宇宙放射線G)2.有人宇宙技術部 宇宙医学生物学研究室

宇宙放射線による被ばく影響研究の骨格とJAXA体制(有人宇宙環境利用ミッション本部)

宇宙放射線計測 生物影響

被ばく管理

物理定量的な放射線場の把握・船内放射線環境モニタリング・個人被ばく線量計測・ライフサイエンス実験試料の被ばく線量計測

宇宙放射線環境における分子・細胞・組織・個体レベルでの作用機序の解明・宇宙放射線環境モニタリング・個人被ばく線量計測・ライフサイエンス実験試料の被ばく線量計測

宇宙飛行士の健康管理・飛行前のリスク評価・軌道上での宇宙環境データの収集と分析

・飛行後の被ばく線量評価

研究開発本部宇宙環境グループ

有人技術部

宇宙飛行士健康管理グループサポート

宇宙環境利用センター有人技術部

宇宙医学生物学研究室宇宙環境利用センター

遮蔽・防護

発表内容

1. 低地球軌道における宇宙放射線環境の特徴

2. 「きぼう」での宇宙放射線計測

3. 日本人宇宙飛行士の被ばく管理

4.放射線生物影響研究

5.ポストISS(月・火星)のための技術開発

1.低地球軌道における宇宙放射線環境の特徴

低地球軌道の宇宙放射線環境 (地上から300~500km)3種類の一次宇宙線源があり、これらが船壁や搭載物質を通過して船内へ入射する。

ISS : 地磁気により、よほど大きな太陽フレアでなければ被ばく線量に寄与しない。

JAXA宇宙環境利用センター

2. 「きぼう」での宇宙放射線計測(宇宙環境利用センター)

2011.6.10 27Sソユーズで打ち上げたArea PADLES線量計

・小型で生物試料のごく近傍に設置が可能・船内・船外活動を通して、線量計の携帯が可能・電源不要で搭載への制約がほとんどない・搭載場所に応じてサイズが可変・軌道上操作が不要・CR-39を使って、高LET放射線のLET分布が測定できる

PADLES(Passive Dosimeter for Life science Experiments in Space )受動積算型線量計

■ 宇宙放射線環境を測定するのに優れた2種類の線量計素子( CR-39プラスチック飛跡検出器、熱蛍光線量計)を組み合わせた受動型線量

計と、その解析システム

■打ち上げ前に線量計を準備・組み立てて搭載し、帰還後に地上で線量

解析を実施。固体飛跡検出器

CR-39

固体飛跡検出器CR-39

熱蛍光線量計TLD-MSO

様々なエネルギー・線種が混在する宇宙放射線場において、人体・生物の被ばく効果を調べるためには、以下の物理量の測定が必要である。

■ 吸収線量 : D(単位質量当たりの吸収エネルギー;Gy=J/kg)

■ 線量当量 : H=D×Q

H : 線質が異なる放射線場においても、放射線の人体への影響を表す量(国際放射線防護委員会[ICRP]導入。)

Q : 放射線の線質に依存する吸収線量の荷重係数であるが、LETの関数として与えられているため、Qの算出にはまずLET(線エネルギー付与)を測定する必要がある。

PADLES測定する被ばく線量

PADLESを使った国際宇宙ステーション「きぼう」船内の宇宙放射線計測

Area PADLES

日本の実験棟モジュール「きぼう」船内の定点放射線環境モニタリング

Bio PADLES

ライフサイエンス実験における生物試料の生物影響モニター

メダカ マトリョーシカ実験

宇宙飛行士の個人被ばく線量計測バッジ

国際協力物理実験

Crew PADLES

Dosimetric PADLES培養細胞

宇宙飛行士の個人被ばく管理を行うために、船内・船外活動を通したフライト期間中、宇宙飛行士が常時携帯する個人被ばく線量計。得られたデータは、有人技術部 健康管理グループへ提供される。宇宙飛行士の軌道上の滞在期間の決定は、設定した防護のため

の被ばく閾値(生涯実効線量当量制限値)に対して、線量計測の結果から得られる等価線量との比較によって決定される。線量計には、高い測定精度が要求される。

Crew PADLES 宇宙飛行士の個人被ばく線量計測

2007年 10月 15S ソユーズ (マレーシア) Muszaphar 2008年 2月 1JA/STS-123 シャトルクルー 土井

4月 16S ソユーズ (韓国) Yi4月1J/STS-124 シャトルクルー 星出

2009年 3 –7月 ULF2/ ISS長期滞在クルー 若田2009年 12月- 搭乗中 TMA-17/ ISS長期滞在クルー 野口2010年 4月 19A/ STS-131シャトルクルー 山崎2011年 ISS長期滞在クルー (予定) 古川

搭乗・帰還 船外活動

Muszaphar

土井

星出

若田

Crew PADLES dosimeter

Yi 野口

山崎

古川

3. 日本人宇宙飛行士の被ばく管理(有人宇宙技術部 宇宙飛行士健康管理

グループ)

JAXA宇宙飛行士の搭乗計画

宇宙放射線環境のモニタリング• 太陽フレア• 太陽粒子現象• 地磁気擾乱• ISS内放射線量

飛行中線量の評価• 飛行中の個人線量評価(1回/週)

放射線環境に応じた運用制限の対応• ISSのルールに従いリス

ク低減のための介入を実施

個人線量計による測定

飛行後線量の評価

• 飛行後の個人線量計の解析・評価

デブリーフィング• 要改善事項の抽出

打上 帰還飛行割当飛行前 飛行中 飛行後

長期滞在時の宇宙放射線被ばく管理

飛行前線量の評価• 滞在中の被ばく線量(予測値)の算定

宇宙飛行士へのリスク説明

個人線量計の準備(Crew PADLES)

• ISS滞在3ヶ月・・・約90ミリシーベルト

• ISS滞在5ヶ月・・・約150ミリシーベルト(古川飛行士)

ISS滞在の予測被ばく線量(飛行前)

①太陽-地球圏の宇宙環境リアルタイムモニタ

比較

④被曝線量データ予測・算定

環境・被曝状況の確認

運用制限

比較

・厚い壁へ退避・飛行中止・次の飛行判断

ISSにおける被ばく管理

②ISS船内の放射線環境リアルタイムモニタ

比較

青: 日本独自の技術と実運用方法が既に確立。日本のみで実施可能。緑: 米ロの機器データをJAXAもリアルタイムで受信。日本独自の機器の研究レベル

での確立と実運用化が今後必要

運用基準

⑤地上での教育訓練・健康診断

③個人レベルの放射線量計測(帰還後に解析)

初めて宇宙飛行を行った

年齢

線量(mSv)・リスク

男性 女性

27-29歳 600 3.2% 600 2.9%

30-34歳 900 3.1% 800 3.1%

35-39歳 1000 3.1% 900 3.1%

40歳以上 1200 3.0% 1100 3.1%

■ 生涯実効線量制限値

JAXA宇宙飛行士の被ばく管理(線量制限値)

■等価線量制限値

組織・臓器単位:mSv

1週間 1年間 生涯

骨髄 - 500 -

水晶体 500 2000 5000

皮膚 2000 7000 20000

精巣 - 1000 -

○寄与生涯がん死亡確率(生涯にわたってがんで死亡する確率の放射線被ばくによる増加分)に基づき設定。

○想定条件(初飛行後3年に1回搭乗)で 3 %程度

(参考)職業被ばく限度では、3.6 % (5年平均で20 mSv/年、単年で50 mSv/年、18-65歳就業約960mSv被ばく)

○確定的影響を回避するため、実効線量制限値のみでは防護できない組織について、個別に制限値を設定。

宇宙放射線(自然の放射線)を規制する法律はない。⇒ 国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告をもとにJAXAの規程を制定し管理「ISS搭乗宇宙飛行士放射線被曝管理規程」

4.放射線生物影響研究(宇宙環境利用センター/宇宙医学生物学研究室)

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・低線量・長期被ばくのための実験系をBio PADLESを使って構築後、 培養細胞と

メダカの短期・長期実験から得られた共通するタンパク質・遺伝子発現解析。

・細胞寿命・細胞応答への影響を評価。

(左)コントロール用のT-25フラスコはHIMAC控え室に設置。(右)照射時のT-25フラスコセットアップ

ビーム方向

培養細胞→メダカ→哺乳類への宇宙放射線影響を地上研究でブッリッジング評価

し、宇宙実験に反映を目的。宇宙放射線の構成粒子であり、顕著な生物影響が見られた炭素線、中性子を照射し、応答メカニズムを解明する。

低線量率・長期被ばくに対する宇宙放射線の生物影響研究(JAXA)

Wakamatsu et al., 2001

5.ポストISS(月・火星)のための技術開発(宇宙環境利用センター/宇宙医学生物学研究室)

月地下基地イメージ図。(提供:オンライン新聞)

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月面 : 地磁気がない。1.月面に直接降り注ぐ銀河宇宙線(GCR)と太陽粒子線(SEP)2.太陽活動や太陽フレアの影響を直接受ける。3. 月表層物質(レゴリス)と宇宙線との相互作用により、月面に発生する二次

中性子やガンマ線

月の周回軌道・月面上は、ISS軌道(LEO)とは異なる宇宙放射線環境である。

月面の宇宙放射線環境 (地球から約38万km)

Back Up

2. 「きぼう」での宇宙放射線計測(宇宙環境利用センター)

宇宙放射線環境では、広いエネルギー領域の粒子線が360度あらゆる方向から入射していることを示す。

56Fe + 12C 粒子

宇宙放射線の飛跡の写真

重粒子加速器HIMACで照射したCR-39飛跡検出器

サービスモジュール船外に621日間搭載されたCR-39飛跡検出器

宇宙放射線

56Fe12C

270×370um

Area PADLES 「きぼう」船内における宇宙放射線環境の定点モニタリング

日本の実験棟モジュール「きぼう」船内の定点に17個のArea PADLES線量計を設置。約6~8ヶ月毎(年1~2回)に線量計の回収および交換。「きぼう」運用期間中、継続的に実施する。

■ 継続的な定点モニタリングの実施は、有人技術開発に有効活用する。○ 宇宙実験テーマ提案者へ実験計画立案に必要な放射線環境情報を提供○ 宇宙飛行士の長期滞在における宇宙放射線のリスク評価を行う 等

■ 2008年5月 STS-124 (1J)ではじめて搭載され、 定点モニタリングが開始。計測結果は、常時JAXAの宇宙環境利用センター HPに公開

「ISS宇宙放射線環境計測データベース (PADLES database)」

線量計の搭載位置軌道上の設置例

Stand-offs

Stand-off DECK Stand-off OVHD

Area PADLES ー 「きぼう」与圧部 ー

STBD endcone

PORT endcone

STBD

PORT

Stand-off

細胞培養供試体 :CEU 植物実験用供試体 :PEU

計測ユニット: MEU

細胞培養装置 CBEF

Bio PADLESは、国際公募テーマ、一次選定テーマで採択されたライフサイエンス実験の研究者からの依頼を受けて搭載される。2008年から順次搭載される生物試料の被ばく線量をはかるために、生物試料が搭載される場所や幅広い温度環境(冷凍冷蔵庫-80℃~細胞培養装置37℃)の中で、生物試料の近傍で計測する。

Bio PADLES 生物試料の被ばく線量計測

Bio PADLES dosimeter

ISS宇宙放射線環境計測データベースPADLESの計測結果を掲載

Area PADLES線量計と記念写真@ISSきぼう

@Astro_Satoshi古川聡(JAXA宇宙飛行士)

ISSから毎日更新!

宇宙飛行士の視点で宇宙放射線研究についてつぶやいています。

3. 日本人宇宙飛行士の被ばく管理(有人宇宙技術部 宇宙飛行士健康

管理グループ)

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太陽-地球圏の宇宙環境リアルタイムモニタシステムCyber Uchu Tenki (CUTE)参考画面

太陽フレア、コロナ質量放出

太陽黒点

太陽X線

陽子

ISSにおける宇宙放射線被ばく管理運用

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注)1:NOAA(米国海洋大気局)2:SEES (Space Environments & Effects System、宇宙環境計測情報システム)3:情報通信研究機構4:Tissue Equivalent Proportional Counter5:Extra-Vehicular Charged Particle Directional Spectrometer