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Kobe University Repository : Kernel タイトル Title 経済成長モデルの収束速度: 展望(Speed of Gonvergence in Growth Models : An Overview) 著者 Author(s) 三野, 和雄 掲載誌・巻号・ページ Citation 国民経済雑誌,181(2):15-30 刊行日 Issue date 2000-02 資源タイプ Resource Type Departmental Bulletin Paper / 紀要論文 版区分 Resource Version publisher 権利 Rights DOI JaLCDOI 10.24546/00045035 URL http://www.lib.kobe-u.ac.jp/handle_kernel/00045035 PDF issue: 2020-10-28

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Kobe University Repository : Kernel

タイトルTit le

経済成長モデルの収束速度:展望(Speed of Gonvergence in GrowthModels : An Overview)

著者Author(s) 三野, 和雄

掲載誌・巻号・ページCitat ion 国民経済雑誌,181(2):15-30

刊行日Issue date 2000-02

資源タイプResource Type Departmental Bullet in Paper / 紀要論文

版区分Resource Version publisher

権利Rights

DOI

JaLCDOI 10.24546/00045035

URL http://www.lib.kobe-u.ac.jp/handle_kernel/00045035

PDF issue: 2020-10-28

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経済成長モデルの収束速度 :展望*

三 野 和 雄

1.は じ め に

本稿の目的は,経済成長モデルの収束速度をめぐる研究を展望することによって,代替的

な成長モデルの現実説明力を比較 ・検討することである。経済成長モデルの収束速度の問題

は1960年代にも論 じられたが,80年代の後半に経済成長-の関心が復活 してからは,いわゆ

る所得収束仮説との関連で再び重要視されるようになった。安定的な定常均衡 (均斉成長均

衡)が実現可能な成長経済があるとしよう。このような経済は,非定常状態から出発すると,

外生的なショックが生じない限り定常均衡へ向かって収束 していく。このとき,移行過程の

調整プロセスに長い時間がかかれば,経済は大半の時間を非定常状態で過ごすことになり,

定常状態よりも移行過程の分析がより重要になる。長い移行過程の間には,定常均衡の位置

を変えてしまうような様々なショックが生 じる可能性が高いから,均斉成長均衡は単なる基

準点の役割 しか果たさなくなるからである。逆に,経済の収束速度が十分に速ければ,移行

過程に注意を払うよりも,むしろ定常状態に関心を集中させる必要がある。すなわち,成長

経済の収束速度の大きさは,経済成長という現象の分析視点をどこに置 くべきかという問題

と密接に関係 しているのである。

Romer(1986)や Lucas(1988)の貢献を契機として活発に研究されてきた内生的成長理

論は,一人当たり所得の成長率が国によって大きな格差があるのはなぜかという疑問から出

発した。標準的な新古典派成長論では,長期的に達成される均斉成長率は外生的に与えられ

るから,長期均衡における成長パフォーマンスを内生的に説明することはできない。そのた

め,内生的成長論で展開された多様なモデル分析の大半は,定常状態における経済成長率を

いかにして内生的に決定するかということに焦点を当て,移行過程の収束速度の問題にはあ

まり関心を払ってこなかった。多くの場合,移行過程が存在 しないか,あるいは収束速度が

極めて速いモデルが検討されてきたのである。他方,新古典派成長理論の立場からは,モデ

ルの収束速度が遅いという点が重視されてきた。新古典派モデルにおいても,移行過程では

一人当たり所得の成長率は内生的に決まるから,モデルの収束速度が十分に遅ければ,内生

的成長論が問題にする国際間の成長率格差は,移行過程における成長率の差 として説明でき

る。特に,長期的に達成できる定常状態が様々を理由によって国ごとに異なっていれば,節

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古典派成長モデルを用いても,低成長の低所得国と高成長の高所得国が共存 しえる理由を説

明することは容易である。このように,成長モデルの収束速度の程度は,新古典派 (外生的)

成長論と内生的成長論の有効性を比較するひとつの重要なメルクマールになりえる。

以下では,まず第2節において,新古典派成長モデルの収束速度について展望する。ソロ

ー ・モデルの調整時間をめぐる1960年代の研究と,80年代以降,新古典派成長モデルの標準

形になった家計の最適化行動を前提にするラムゼイ型モデルの両方について,収束速度の決

定要因と具体的な数値例を説明する。また人的資本を含む修正新古典派モデルの性質につい

ても言及する。第3節では,内生的成長モデルの収束速度を検討する。上述のように,内生

的成長理論では収束速度問題はあまり重視されてこなかったが,いくつかの研究は存在する。

ここでは,それらの結果を紹介するとともに,プラクティカルな観点から,外生的成長モデ

ルと内生的成長モデルを区別する意味がどの程度あるのかについて考える。第4節では,収

束速度をめぐる通常の議論では明示的に考慮されていないいくつかの要因をとりあげる。そ

して,それらを考慮 したより一般的なモデルが,収束速度問題に再考を迫る可能性があるこ

とを指摘する。

2.新古典派成長モデルの収束速度

2.1.ソロー ・モデル

新古典派成長モデルの収束速度を最初に分析 したのは,佐藤隆三 (Sato1963)である。コ

ブ ・ダグラス型の生産関数

Y-K''(AL)トα (1)

を前提にしたソロー ・モデルにおいて,労働人口Lと労働効率Aの成長率をそれぞれnとa

としよう.資本蓄積は,貯蓄率をSとするときK-syのように決まるとするoこのとき,所

得 ・資本比率をx-Y/K とすれば,ソロー ・モデルは

x=x(I-a)(a+n-sx)

という動学方程式に集約できる。Sato(1963)は,この微分方程式の解を求め,初期に定常状

態にある経済において財政政策の変化により貯蓄率が上昇 したとき,経済が新 しい定常点に

収束するまでにどの程度の時間がかかるかを,数値例に基づき計算 した。その結果は,次の

ような近似法でも確認できる。xの定常値は (a+n)/Sだから,定常点で上の式を線形近似 し

たシステムの安定根の絶対値は (11α)(n+a)であり,この値は近似システムの収束速度を

表すoSato(1963)に従い,資本の所得シェアαを0.35,Aの成長率を0.02,Lの成長率を

0.015とすれば,安定根の絶対値は0.02275になる。すなわち,経済は年率約 2%で収束する

のであり,移行過程の50%が完了するのに約30年,90%が完了するには100年近 くかかること1

になる。

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経済成長モデルの収束速度 17

上の数値例は,当時のアメリカ経済の現状を反映 していたから,Sato(1963)の発見は,覗

実的な条件の下において,ソロー ・モデルは極めて緩慢な動きをすると受け止められた。こ

の研究に刺激されて,60年代には成長モデルの調整時間をめぐってかなりの数の研究が行わ

れた。それらの中で,最近の研究にも関連するのは,佐藤和夫の論文 (K.Sato1967)である。

Sato(1963)は資本の減耗を無視 したが,K.Sato(1967)は,技術進歩が体化されるヴィンテ

ージ ・モデル利用し,資本減耗を考慮 して問題を再検討 した。その結果,資本減耗率を年率

5%とすれば,50%の調整完了に約12年,90%の調整完了にほぼ40年かかることになり,調

整時間の長さはSato(1963)の半分以下になることが分かった。ヴィンテージ・モデルの利

用は必ずしも結果に大きく影響 しないが,資本減耗の導入は,調整時間を大幅に縮めるので

ある。 もっとも,常識的な感覚からすれば40年は十分に長い期間であり,調整時間が半減 し2

たとしても,ソロー ・モデルの収束速度は遅いと言えるだろう。

Sato(1963)が指摘するように,上の結論は2つの解釈が可能である。資本・所得比率 (x-

Y/K)や一人当たり所得 (Y/L)の動きは緩慢だから,たとえば財政政策の目的が,これら

の値をできるだけ早 く高めることにあれば,政策効果は少なくとも短 ・中期的には眼に見え

たかたちでは現れない。逆に,所得成長率に注目すると,たとえば貯蓄率を引き上げる政策

がとられるとき,所得成長率はその時点でジャンプ して上昇 し,やがてもとの自然成長率-

とゆっくり低下していく。資本減耗率を♂とすると,(1)のもとでの所得成長率は

Y/Y-a(sx-6)+(l-a)(n+a)

となるから,その動きは,緩慢に運動する所得・資本比∬の運動に従う。そのため,成長率に

対する政策効果は長期にわたり持続するのである。

2.2.ラムゼイ ・モデル

90年代になると,後述する 「収束問題」との関連で,新古典派成長モデルの収束速度は改

めて関心を集めるようになった。80年代以降,家計の貯蓄行動を動学的最適化仮説から導 く

ことが一般的になったため,主として分析の対象になったのは,ラムゼイ型の最適成長モデ

ルである。この分野の代表的な研究であるKingandRebelo(1993)に従えば,分析結果の概

要は次の通 りである。

生産関数は(1)で与えられたと仮定 し,K/AL-A,A/A-a,i/L- nとしようO一人あ

たりの消費をC~と表 し,家計の瞬時的効用関数を u(C~)-(C~1Lq11)/(1-6),とすれば,代表

的家計モデルの動学システムは

k-kα-C-(n+6+a)k(2)

6-(C/0)laka-1-p-n-6-ua]

のように集約できる.ただし,pは家計の時間選好率であり,C -C~/Aである。周知のように,

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このシステムは唯一の定常点をもち,それは鞍点であるo定常点-収束する安定経路を C-

¢(k)と表せば,¢(A)はkに関する増加関数になり,動学システムは

k-ka-¢(k)-(n+6+a)k

のように,資本・有効労働比率に関する運動方程式だけで表せる.kの定常値をk-と表し,定

常均衡の条件を用いて上のシステムを定常値で線形近似すると

k-lp+(1-0)a-¢′(k)](k-k)

となるから,収束速度は [p+(1-0・)a-¢′(k-)]の絶対値によって測定できる。この値は,

システム(2)を定常点で線形近似した体系がもつ安定根の絶対値である。この安定根の絶対

値は,資本の所得シェア (α)の減少関数であり,消費の異時点間の代替弾力性 (1/♂)に関

して増加関数になる。これは,αの増大が資本蓄積に伴う資本の限界生産性の低下を遅らせる

のに対 し,1/♂の上昇は,消費の調整速度を速め,移行過程をスピー ドアップするためである。

ここで,資本減耗を無視 し (6-0),時間選好率pを0.04として,その他のパラメタの値は

Sato(1963)の数値例と同じであるとしよう。すると,限界効用の弾力性Jが0.5のとき,安

定根の絶対値は約0.2になり,旧定常点から新しい定常点に移る過程の90%が完了するまでに

約11年で済む。この値は,♂-1のとき約21年,♂-2のとき約40年になり,♂の値の違いに大

きく影響される。また,資本減耗を考慮 して ♂-0.05とすれば,収束速度はさらに高まり,

♂-2のときでも,90%の調整が済むまでにかかる時間は20年程度になる。通常,♂の妥当な

値は1.5から2.0程度とされるから,現実的なパラメタの値のもとでは,ラムゼイ ・モデルの3

収束スピー ドは,ソロー ・モデルをかなり上回る。

2.3.所得収束仮説と修正新古典派モテリレ

以上のような新古典派成長モデルの定量的な性質は,現実の経済の成長過程をうまく説明

できるのだろうかO(1)を前提にしたソロー・モデルでは,一人当たり所得 y(-Y/L)の成

長率は,次のように表すことができる。

】-α

この式が示すように,一人当たり所得の成長率は一人当たり所得の減少関数であり,他の事

情を一定とすれば,低所得国ほどyは速 く成長する。この性質は,ラムゼイ型モデルにおいて

も同様に成立し,新古典派成長論における 「所得収束仮説」の根拠を与えている。バローが

一連の研究 (Barro1990,1992,1998,BarroandSala-i-Martin1992など)で普及させた

cross-countryregressionによる所得収束仮説の検定は,この仮説の現実的妥当性を実証し

ようとする研究プログラムである。たとえば1960年から1985年までの25年間にわたる各国の

一人当たりGDPの平均成長率を,1960年における各国の一人当たりGDP水準に剛宙させ

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経済成長モデルの収束速度 19

たとしよう。このとき,両者の間に負の関係が得られれば,所得水準の上昇にともなって経

済成長率が低下しつつ定常状態に収束していくという新古典派成長モデルの帰結が確認され

たと言える。バローたちの結論は,教育水準や政治の安定性等,各国の定常状態の決定に影

響を与える要因が仮に同等であると条件づけた 「条件付き収束」は成立 し,定常状態に向か

う収束速度は年率約2%だというものであった。しかし,上に述べたように,妥当と判断さ

れるパラメタの値を与えると,資本の減耗を考慮 した新古典派成長モデルの収束速度は少な

くとも5%を越えている。したがって,バローたちの実証結果から見れば,理論モデル (特4

に最適化モデル)の収束速度は高過ぎることになる。

また KingandRebelo(1993)や Mankiw (1995)が指摘 したように,標準的な新古典派

成長モデルでは,所得格差に対応して生じる実質利子率の格差が非現実的なほど大きくなっ

てしまう.生産技術が(1)で与えられるとすると,一人当たり所得 (Y/L-y)と実質利子率

(r)の間の関係は,y-Alーakα を用いて

r-∂Y/∂K=aka11Aト"-a-I/"A(]-a)/ay(α-))/α

と表せる。したがって,αが通常通 り1/3だとすれば,Yはyの -2乗に比例するから,一人

あたり所得の格差が10倍である二つの国の間では,低所得国の利子率は高所得国の利子率の

100倍になってしまう。これは,両国の技術水準 (A)の違いを考慮に入れたとしても,非現

実的な値である。

上の二つの問題は,資本の所得シェア-αが 1/3ではなく2/3以上であれば同時に解決す

る。先に述べたようにαの上昇は収束速度を引き下げるし,利子率格差 も常識的な範囲に収ま

るからである。Mankiw,RomerandWeil(1992)はこの点に注目し,生産技術を

Y-KαHe(AL)トa~β; o<a,β<1 (3)

と特定化 した。ここでHは人的資本のストソクを表す。技術は規模に関して収穫一定である

から,人的資本が導入されても,新古典派成長モデルの基本的性質はそのまま成立する。こ

の生産関数をラムゼイ型モデルに導入すると,家計が行う2種類の資本の最適選択によって

両資本の限界生産性は一致するため,∂Y/∂K-∂Y/∂H よりH-βK/αとなる。これを(3)

に代入すれば,生産関数は Y-(α/β)PKα'P(AL)lーα【βと表され,資本の所得シェア-は実質

的に増大する。

Mankiwetal.(1992)は,ソロー ・モデルのように,人的資本への投資も所得の一定割合

であると仮定したうえで,定常状態におけるモデルを推計 し,α-β-1/3という結論を得た。

すなわち,ソロー残差の半分以上は人的資本の蓄積によって説明できるというのである。こ

の結果が正しいとすると,資本の所得シェアは従来の値の2倍になり,上で述べた新古典派

成長モデルがもつ定量的な問題は一応解決することになる。

マンキューたちの研究に対 しては,Cohen(1996),DinopolousandThompson(1997),

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DurlaufandQuah(1998),KlenowandRodriguez-Clare(1998),Temple(1999)等,数多

くの方法論上の批判が寄せられ,いくつかの根本的な問題が含まれることが明らかになって

いる。 しかし,彼らの論文は,伝統的な成長理論が依然として有効であるという立場を明確

に打ち出し,次節で述べる内生的成長論に対する 「新古典派 リバイバル」のきっかけを作る

ことには成功 した。

3.内生的成長モデルの収束速度

3.1.内生的成長モデルの移行過程

内生的成長モデルは,状態変数が 1つだけの場合は,いわゆるAk型の技術を仮定する必要

がある。広義の資本をK と表せば,Akモデルの生産技術は

Y-AK,A-一定>0 (4)

と表せる。よく知られているように,貯蓄率を外生的に与えるか家計の最適化行動で決める

かの如何に関わらず,資本に関して線形の技術を仮定すると,経済は常に定常状態 (均斉成

長経路)にあり,移行過程は存在 しない。そのため,モデルのパラメタが変化 して均斉成長

経路が変化すれば,経済は新 しい定常点にジャンプする。その意味で,Akモデルに調整過程

は存在 しない。

Ak型技術を仮定 した内生的成長モデルが移行過程をもつためには,以下のようなモデル

の修正が必要である.ひとつは,JonesandManuelli(1990)が指摘 したように,漸近的にAk

型技術になるケースである.たとえば

Y-KaLl-a+AK

E-1 E-tEY-lAK~去~・BL E十;B,0・8,I

のような技術を仮定すると,労働Lの成長率が固定されているもとで資本Kが無限大に近付

けば,所得・資本比はAに漸近 していく。SatoandMino(1997)は,このような 「漸近的Ak

モデル」の調整速度は,標準的な新古典派成長モデルに比べて,極めて遅いことを数値例に

よって示 している。

Akモデルが移行過程を有するもう一つの例は,効用関数が非相似形の場合である。たとえ

ば,基礎消費が存在する Stone-Geary型の効用関数 u(C)-(C-_C)116/(1-6)を仮定する

と,消費に関するオイラー方程式は

‡-i(I-‡)(A-p-6)

となる.そのため,消費水準が基礎消費Cに近ければ,異時点間の消費の代替弾力性 (1/o・)5

×(1-C/_C)はゼロに近 くなり,モデルの調整時間は非常に長 くなる。

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経済成長モデルの収束速度 21

内生的成長モデルは,2つ以上の状態変数を含む場合には,一般に移行過程が存在する。

典型的な例は,人的資本を含む Uzawa-Lucas型モデルや Romer(1990)の内生的技術進歩

のモデルである。これらのモデルでは,消費と物的資本の投資のために使える最終財を生産

する部門と,もう一つのス トソクを生産する部門 (教育部門や研究開発部門)があると仮定

される。コブ ・ダグラス型の技術を仮定 し,物的資本をK, もう一つのス トソク変数 (たと

えば人的資本や技術水準)をA,総労働時間をLで表せば,このタイプのモデルは一般に

k-(qK)"(AvL)1~α-C-aK; 0<a<1

A-γ【(1-q)K]BlA(I-V)L]]-β-qA; 0<β<1,γ>0 (5)

というかたちで,各ス トソク変数の蓄積方程式が与えられる。ただし,qとL,はそれぞれK と

Lの部門間配分比であり,77はAの減耗率を表 している。たとえば,Rebelo(1991)の2部門

モデルは,上のモデルでLが一定の場合であり,Lucas(1988)や Romer(1990)のモデルで

は,β-0であり,物的資本は最終財部門でのみ用いられると仮定されている。

代表的家計の瞬時的効用関数がCES型であれば,上のような技術を仮定する内生的成長モ

デルの動学システムは,2つのス トック変数の比率(K/A),各ス トソク変数の implicitprice

の比率,及び消費・ス トック変数比 (C/A)から成る体系に集約できる.これらの変数のう

ち,初期値が歴史的に与えられるのはK/Aだけであるから,システムの線形近似体系が 1つ

の安定根をもてば,それの絶対値が収束速度を近似する。OrtigueiraandSantos(1997)は,

(5)において β-0とした Uzawa-Lucas型モデルの収束速度を検討 している。それによれ

ば,種々のパラメタの値を先の例 と同様に妥当と判断される水準に選んだとき,安定根の絶

対値は0.2程度になり,移行過程の90%は10年ほどで完了することになる。SatoandMin°

(1997)も他のタイプの内生的成長モデルにおける収束速度を分析 し,ほぼ同様の結果を得て

いる。したがって,先に述べた漸近的Ak型のような場合を別にすると,移行過程を含む標準

的な内生的成長モデルの収束時間はかなり短いと考えられる。これは,通常の内生的成長論

が均斉成長均衡にもっぱら関心を集中させることの根拠を与えていると言えるだろう。

3.2.外生的成長 vs.内生的成長

内生的成長モデルにおいて均斉成長状態が存在するためには,ス トック変数に関して線形

性が成立 しなければならないから,一般にモデルに含まれるパラメタに特殊な条件を付加す

る必要がある。たとえば,外部性を含む Romer(1986)モデルの生産関数を Y-AKaK Eとす

ると,これがAkモデルに帰着するためには,外部効果を示す.軒 のパラメタは,8-1-αと

いう条件を満たさねばならない.また(5)で示 したモデルでは,Aの蓄積方程式が,2つの

ス トック変数に関して1次同次になっているという仮定が均斉成長の実現のためには不可欠

である。Solow(1994)はこの点を重視 し,内生的成長モデルは,新古典派成長モデルにとっ

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22 第 181巻 第 2 号

てかわるほどの一般性をもっていないと批判 した。

ソローの批判は理論的には正 しいが,次のような反論 も可能である。いま2節で取 り上げ

たラムゼイ ・モデルで労働力と技術は一定であるとしよう。先に述べたように,資本の所得

シェアαが 1近づ くと,安定根は0に漸近 し,収束速度は急速に低下する。α-1のとき,モ

デルはAk型になり,KとCの比率のみが決定できる1次元システムにdegenerateする。こ

のとき元のモデルの安定根は0になり,調整プロセスは消減するのである。これは逆に言え

ば,αが 1に近いシステムとAkモデルの動学的性質は,一定の期間にわたって,大きく違わ

ないということを意味する。たとえば,定常状態にある経済で貯蓄率がある時点で恒久的に

上昇すると,Akモデルでは成長率が瞬時に上昇 し,そのままに留まる。それに対 し,αの債

が 1に近い生産関数 (たとえば Y-AKO9)をもつ経済においても,やはり所得成長率は瞬時

に上昇 し,やがて時間とともに貯蓄率が変化する前の水準に戻って行 く。しかしその調整速

度は,αが大きければ極めて遅いから,10年から20年程度の期間であれば,成長率はほとんど

変わらず,Akモデルの恒常成長経路の近傍から離れない。これは,調整過程が存在 しない内

生的成長モデルが調整速度の遅いモデルの近似 として,少なくとも一定の期間は有効である

ことを示 している。

同様の論理は,2状態変数モデルの場合も成立する。EicherandTurnovsky(1998)に従

い,次のような non-scale'モデルを考えよう。

k-(qK)α1(AvL)βL-C-6K; a.+β1≦l

A-[(1-q)K]a2lA(I-V)L]β2-qH; a2+β2<1

このとき,労働力の成長率をL/L-nとすれば,定常状態におけるKとAの成長率は

k (1-a】)β2+a2β. A β,

蘇 (1-a.)(I-β2)-a2β.n・才=(I-al)(ト β2)-a2β.n

のようになるため,長期的成長率は労働の成長率nに比例 し,外生的に決まる。(Romer1990

から均斉成長率への規模効果を排除したJones1995のモデルは,α2-0と0<β2<1を仮定

した上のモデルの特殊例である。)このモデルでは,内生的成長モデルのように∬/』 をひとつ

の状態変数として扱えず,KとAの動学方程式は独立に与えられる。したがって,集約され

た動学体系はK,A,C/Kおよび,KとAの implicitpriceに適当なウェイ トをつけた比率,

の4変数から成る。この場合,定常点で 1次近似をしたシステムは一般に2つの安定根をも

つから,今まで触れたモデルのように,収束速度は一義的には決まらない。しかし,時間が

十分にたてば絶対値が大きい方の安定根が収束速度の決定要因として支配的になるため,そ

の大きさを一つの指標 として選べる。このとき,α1+β1-1かつ α2+β2<1として,α2十

β2の値を1に近づけると,モデルの収束速度は低下していく。α2+β2-1になったときシス

テムはdegenerateして,安定根はひとつだけになる。そして,先に述べたように,相当な速

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経済成長モデルの収束速度 23

さでモデルは収束をするようになる。したがって,α2+β2が 1に近ければ,外生的成長経済6

の移行過程は,内生的成長経済の定常状態を一定の期間にわたり近似することができる。

4.収束速度に影響するその他の要因

以上では,新古典派および内生的成長の代表的なモデルをとりあげ,収束速度を検討した。

しかし,今までのモデルはすべて閉鎖経済を前提にしており,政府の行動 も明示的には考慮

していない。また不確実性の存在は無視 してきた。さらに,収束速度を問題にするほとんど

すべての研究がそうであるように,均斉成長均衡-収束する経路は一意に決まることを暗黙

のうちに前提にしてきた。本節では,これらの前提条件をはずした場合に生 じ得る問題を順

に検討しよう。

4.1.開放経済

開放経済を前提にすると,成長モデルの収束通草は大幅に変わる可能性がある。極端を例

は,資本移動が自由な小国開放経済の場合である。この場合,実質利子率が世界市場で与え

られる。 したがって,生産技術が(1)であれば,世界利子率を戸とするとき, r--∂Y/aK-

αY/Kより所得 ・資本比率は Y/Kエア/αの水準に固定されるoそのため技術は実質的には

Ak型になり,移行過程は存在 しなくなる。この極端な結果を緩める一つの方法は資本の調整

コス トを導入することであるが,それだけで閉鎖経済の新古典派モデルが導こうとする年率

2%程度の収束速度を得るのは難 しい。そこで Barroetal.(1995)は,人的資本を含む新古

典派成長モデルにおいて,物的資本の投資資金は国際的な金融市場で自由に調達できるが,

人的資本-の投資は国内でまかなわねばならないという制約を仮定 した。すると,モデルは

移行過程を含み,調整速度も閉鎖経済なみの水準に低下させるこができる。

一方,財の貿易が成長に与える効果については,国際経済学の分野では古 くから重視され

てきた。一般には,自由貿易が成長にプラスの効果をもたらすという結論が得られる。 しか

し,自由貿易が経済の収束速度にどの程度の量的な効果をもたらすのかについては,理論 ・

実証の両面において,まだ十分な分析は行われていない。Ben-DavidandLoewy(1998),

Stokey(1996),Slaughter(1997)などの研究は,この方向-の貢献を目指 している。また

Ventura(1997)は,貿易の自由化によって成長経路のパターンそのものが大きく変化する例

を示 し,興味深い議論を展開している。

開放経済を前提にするときのもう一つの問題は,技術の国際間の波及効果である。技術進

歩を外生的に扱う新古典派成長論では,技術は純公共財とみなされ,通常は各国の技術水準

は共通だと仮定される。BarroandSala-トMartin(1997)は,国際間の技術の波及に時間が

かかるような内生的技術進歩モデルの2回版をつ くり,内生的成長モデルにおいても,新古

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典派モデルと同様の収束が示せるような例を分析 している。 しかし,仮により進んだ技術に

自由にアクセスできるとしても,すべての国が先端の技術を取 り入れることができるとは限

らない。実際には,先端技術を取 り入れるべき産業が未発達であったり,技術を使いこなす

人的資本が不足 している等の理由によって,キャッチアップがなかなか軌道に乗らない発展

途上国は数多い。これは,技術水準と機械化の程度,及び人的資本の水準の間に補完性があ

り,世界で利用可能な技術が外部効果によって自動的に波及するという新古典派成長論の前

提が当てはまらないケースである。AcemogluandZilibotti(1999)や BasuandWeil

(1998)などによる技術の appropriatenessの研究は,このような現象を理論化 しようという

試みである。Temple(1998)は,技術の appropriatenessの考慮が収束速度に及ぼす効果を

調べるとともに,それが収束仮説に関する実証上の問題をかなりの程度解消する可能性があ

ることを示唆 している。

4.2.政策ルール

たとえば政府が公共投資を増やそうとするとき,財源を増税でまかなうのと国債増発でま

かなうのとでは,収束速度に対する効果はどのように異なるだろう。このような財政政策の

ルール変更が収束速度に及ぼす影響については,ソロー ・モデルを用いた研究が Feldstein

(1974)や Burnheim (1981)によって行われた。また最近では,市岡 (1997)が同様の問題を

検討している。これらの結果によれば,財政のファイナンス ・ルールは,ソロー ・モデルの

収束速度にかなり大きな影響を及ぼす。しかし,この間題を最適化モデルを用いて検討した

り,政府自身が最適化行動に基づ き政策ルールを決めている場合について分析することは,

まだ行われていない。

財政政策が多 くの場合,経済成長に対 し大きな効果をもつのに対 し,金融政策が収束速度

に与える効果は,通常の均衡モデルでは必ずしも大きくない。GokanandMino(1999)は,

移行過程では貨幣は超中立的ではないが,長期均衡においては貨幣の超中立性が成立するよ

うな標準的な貨幣的成長モデルを用いて,名目貨幣供給の成長率の変化が経済の収束速度に

及ぼす影響を調べた。その結果,モデルのパラメタを現実的な値にすると,かなり大幅な貨

幣成長率の変化 (たとえば年率10%)も収束速度に対 して極めて小さい効果 しかもたないこ7

とを確かめた。また,金融政策のルールを変えて,名目利子率を固定し貨幣成長率を内生化

することにしても,結果はほとんど変わらない。これは,Walsh(1998,Chapters2and3)

などが,別の文脈で行っている動学的貨幣経済モデルの数値実験の結果と対応 している。た

だし上の結論は,長期に貨幣の超中立性が成立 しないモデルや,名目価格の粘着性によって

貨幣の中立性そのものが短期にも成立 しないケインズ的モデルでは,成 り立たないかも知れ

ない:.

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経済成長モデルの収束速度 25

4.3.不確実性

RameyandRamey(1995)などによる実証分析が示 しているように,経済変動の大 きさと

成長パフォーマンスの間には密接な関係があるように見える。実際,理論モデルにおいても,

ランダム ・ショックを明示的に考慮すると,移行過程の性質は大きく変わる可能性がある。

KochalakotaandYi(1995,1996)が示 した簡単な例を見てみよう。家計の目的関数は,期待

効用 Eo∑βLlogcl(0<β<1)の最大化であるとして,制約条件をJ=OkL-ZLk?_1+(1-6)kLJlCl

zl-Oz卜1+El

としよう,ただし,kiは一人当たり資本,ztは技術的ショックであり,etは系列相関がなく

期待値がゼロの確率変数である。このとき,各時点の innovationの効果が恒久的であり(β-

1),かつ技術が新古典派的 (0<α<1)であるとすると,初期の資本 (したがって初期の所得)

がより低い経済の方が,平均期待成長率がより低 くなる例が示せる。また,逆にショックの

効果が時間とともに減衰 し (0<β<1)かつ内生的成長が可能な場合 (α-1)であっても,

初期の資本と所得がより低い方が,平均期待成長率がより大 きくなる例が簡単に見つかる。

すなわち,生産技術に対するランダム ・ショックを考慮すれば,収束仮説を満たさない新古

典派成長モデルや,収束仮説と矛盾 しない内生的成長モデルが存在する可能性があり,収束

性の成立如何が内生的成長と外生的成長を区分する基準になるとは限らないのである。den

Haan(1995)や BinderandPesaran(1999)などは,この点についてより詳細を議論を行っ

ている。

不確実性が成長速度に及ぼす効果は,上のような技術的ショックだけではなく,経済政策

に関する不確実性によってももたらされる。たとえば,HopenphaynandMuniagurria

(1996)は,税率の変化のタイミングに不確実性があるようなAkモデルを設定 し,政策の不

確実性の程度が成長率に本質的な影響を及ぼすことを確かめている。

なお,Ak型よりもより一般的な内生的成長モデルにおいて,不確実性がモデルの動学的性

質をどう変えるかについては,まだ十分に解明されていない。最近,Jonesetal.(1999)は,

内生的成長の2部門モデルに生産技術および財政政策の両面で不確実性を取 り入れたモデル

の分析を試みているが,彼 らも指摘するように,この分野の本格的な研究は緒についたばか

りである。

4.4.不決定性

成長経済の収束速度を検討する従来の研究は,初期条件が与えられると,成長経路は一意

に決まることを前提にしている。 しかし,既に多 くの例が示 しているように,消費や価格な

どの非先決変数の初期値が一意に決まらず,成長経路が不決定になるようなケースは簡単に

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見つけることができる。 しかも,収束経路の不決定性は経済の定常状態が一意に決まる場合

にも起こり得る。不決定性が発生 している場合,定常均衡の近傍における経済の動きは,ど

のような成長経路をとっていても大 きな違いはないが,定常点から離れたところでは,成長

パターンに大 きい違いが生 じる。 したがって,不決定性が生 じていれば,同一の技術 と選好

をもつ 2つの経済が同一の所得水準から出発 しても,全 く違う成長経路をたどって同一の定

常状態に到達するということがありえる。このとき,収束経路の違いに応 じて収束速度が異

なるから,所得収束仮説のように,低所得国の平均成長率がより高いという結論が成立する

保証はなくなってしまう。

さらに,不決定性が存在するときには,経済のファンダメンタルズに無関係な不確実性 (サ

ンスポット)が経済の成長経路を変動させる可能性がある。そのため,生産技術に対するシ

ョックを導入 しなくても,収束仮説が成立 しないような新古典派成長モデルや,収束仮説と

両立する内生的成長モデルの例を見つけることができるであろう。

成長モデルにおける不決定性を論 じた BenhabibandFarmer(1994)や Ⅹie(1994)など

の初期の研究では,不決定性を発生させるためには常識的な範囲をこえる程度の収穫逓増を

仮定する必要があった。 しかしより最近の研究によると,モデルの一般化を行えば,現実的

なパラメタの値のもとでも不決定性が発生することが判明している。 したがって,新古典派

成長モデルや標準的な内生的成長モデルに十分に近いモデルでありながら,不決定性が存在7

するために,収束時間に関して異なる結果が導かれる例は数多 く存在すると考えられる。

*本稿は,筆者がニューヨーク大学の佐藤隆三教授と行っている共同研究の内容に基づいているO

本稿の内容を報告した際に有益なコメントをいただいた大阪大学経済学部木曜研究会とニューヨ

ーク大学夏期ワークショップの出席者の方々に感謝する。本研究に対しては,98年度及び99年度

の科学研究費補助金とニューヨーク大学日米経営経済研究センターから資金の援助を得ている。

記して感謝したい。

1 安定根の絶対値をAとすれば,調整過程のβ×100%が完了するのに要する時間は,T--logeJg/

Aによって与えられる。

2 ただし,Conlisk(1967)や Atkinson(1969)が示したように,完全雇用を仮定しない不均衡成

長モデルの調整速度はかなり速い可能性がある。また均衡モデルであっても,資本と労働の代替

弾力性が非常に低い場合にも,調整速度は上昇する (Sato1964)0

3 ラムゼイ・モデルの収束速度については,BarroandSala-i-Martin(1995)も詳しく分析して

いる。

4 バローたちの実証方法については,反論も多い。たとえば,Casellietal.(1996)は,パネル・

データを利用して時系列分析を行えば,収束速度は年率7%を越えることが確かめられると主張

している。バローたちの研究をめぐる論争については,Temple(1999)が詳しい。

5 これらの例以外にも,効用関数が過去の消費の累積値に依存する習慣形成仮説を採用したAA

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経済成長モデルの収束速度 27

モデルでも移行過程が存在する (Carolletal.1997参照)。また,4.3で触れるように,モデルが

ランダムショックを含むときにも,移行過程が生 じる。これらはいずれも,資本∬以外の新たな

状態変数がモデルに導入されることによってもたらされる結果である。

6 より詳しくはMino(1999b)を参照。以上のような論点は,McCallum (1996)も主張している。

7 Fischer(1979)は,長期的に家計の超中立性が成立するシドラウスキー ・モデルにおいてち,

移行過程では,貨幣成長率の上昇が資本蓄積を加速することを理論的に示した。上のような数値

例は,この移行過程における金融政策の効果が,量的には非常に小さい可能性があることを示 し

ている。

8 たとえばMino(1999a)は,Min°(1996)が分析 した Rebelo型の2部門内生的成長モデルに外

部性を導入し,両部門の技術が外部性を含んだうえで収穫一定であるとしても,不決定性が発生

しえることを示している。

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