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1 (PRE-PRINT) より安全な未来のためのナッジ:意思決定と予報の コミュニケーションのパラダイムシフト Nudge for a safer future: Paradigm shifts in forecast communication and decision making Yoshiyuki Tomiyama Weather Environment Education Center, Tokyo, Japan ____________________ Corresponding author address: Yoshiyuki Tomiyama, Weather Environment Education Center, 3-17 Kandanishikicho, Tokyo, Japan E-mail: [email protected]

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(PRE-PRINT) より安全な未来のためのナッジ:意思決定と予報の

コミュニケーションのパラダイムシフト

Nudge for a safer future:

Paradigm shifts in forecast communication and

decision making

Yoshiyuki Tomiyama

Weather Environment Education Center, Tokyo, Japan

____________________

Corresponding author address: Yoshiyuki Tomiyama, Weather Environment Education Center, 3-17

Kandanishikicho, Tokyo, Japan

E-mail: [email protected]

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1. Introduction(はじめに)

ハリケーン・カトリーナが予報事業にとって衝撃であったのは「予報が正確だ

ったにもかかわらず,被害を小さくできなかった」点にある(Rosenfeld 2005).

自然災害からの安全は,正確で信頼に足る気象情報をタイムリーに提供できる

予報事業の能力に依存している,とよく言われる.しかし,それだけではまった

く不十分だったのである.気象学に関係するわれわれすべてがそのことに気付

かされた瞬間であった.予報の進歩と社会の安全との間には重大なギャップが

ある.

予報の改善と社会的便益とのギャップは予報の活用やコミュニケーションの

研究によって橋渡しされる必要がある(e.g., Pielke Jr. et al. 1997; Hooke 2009).予

報の活用とコミュニケーションの改善については何十年も研究されてきている

が,これといった将来のパラダイムは見出されていない(e.g., Stewart et al. 2004;

Morss et al. 2008; Majumdar et al. 2015).

予報が社会の安全に寄与するには,正確な予報を作るだけでなく,それをうま

く伝えられなくてはならない.次に,個々の予報ユーザーが予報を活用できなけ

ればならない.気象情報の利用機会が広く開かれているにもかかわらず,ユーザ

ーはそれを使いこなせていないのが現実である(e.g., Meyer et al. 2014; Morrow et

al. 2015).

Brotzge and Donner (2013)は,トルネードの被害を減らす鍵として個々人の役

割に言及している.地球温暖化の時代の極端な気象現象によるリスクの増大と

多様化は,ユーザー個々が予報を用いて対応することの大切さを浮かび上がら

せている.ここで,集合体としてのユーザーを問題にすることと個々のユーザー

に焦点を当てることとを区別する必要がある.後者の視点は,個々のユーザーが

リスクにどう立ち向かおうとしているのか,を見ようとする.だが,それはたん

にユーザーを観察してその行動を記述することではない.個々のユーザーに焦

点を当てるリスクの研究は次の点に切り込む:1)ユーザーの立場でみた意思決

定問題はどんなものでありうるか? 2)それに資するコミュニケーションと

はどんなものでありうるか?

個々のユーザーに焦点を当てることはまた,仮想的なユーザーを論じること

でもない.ユーザー個々の役割を論じることは,彼になにができるかを論じるこ

とになるが,これは必ずしも,仮想的なユーザーの意思決定を論じることではな

い.さらに,ここでは意思決定の伝統理論を排除する.

意思決定の伝統理論は意思決定者に合理的理性を想定する.現実の意思決定

が合理的理性に基づいてなされることはめったにない.ユーザーにとって,リス

クに対応したりそのために予報を活用したりすることは,自分の知の世界を凌

駕する問題である.Pielke は,フントウィッツとラヴェッツが提唱したポスト・

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ノーマル科学(Funtowicz and Ravetz 1993)に触れている(Pielke 2012).無知が

知を凌駕しているようにみえる状況で,それでも意思決定をしなければならな

いような状況を扱う科学である.近年,経済学に新しい意思決定理論をもたらし

たカーネマン(2002 年ノーベル経済学賞)とトベルスキーは,人間は必ずしも

合理的理性によって判断を下しているのではないことを示した(Kahneman

2011).気象情報を用いた意思決定理論にも伝統的意思決定問題を超えるパラダ

イムが求められる.

予報のコミュニケーションについての伝統的理論は,集合体としてのユーザ

ーを対象として,予報の伝達や活用の改善を議論してきた.だが現実には,情報

を行動に変換するのは個々のユーザーであり,そのユーザーが自分に必要な予

報を知っていることはまずない(e.g., Haddow 2013; Meyer 2014).それは,ユーザ

ーが自分にふりかかるリスクが何であるかを知らないからである.ここでも知

は無知によって凌駕されている.気象情報を用いたコミュニケーションにも新

しいパラダイムが求められる.

これらのパラダイムシフトのために,本論はセイラーが提唱した人間の行動

に強い影響を及ぼす選択である「ナッジ」の応用を考える.ナッジの考え方は行

政サービスなど多くの分野で導入されており,効果が確かめられている(e.g.,

Patel 2018; Rutter 2018).気象情報の活用の分野では,これまでのところ,ナッジ

の考え方を導入することの潜在的効果に注意が払われてこなかった.この小論

では,意思決定とコミュニケーションにナッジの考え方を応用して,より安全な

未来のために新しいパラダイムを提案する.それは無知のもとでのコミュニケ

ーションであり,無知のもとでの意思決定である.

次節では意思決定論の新しいパラダイムとして「ナッジ型の意思決定問題」

について述べる.第 3 節では,予報のコミュニケーションの新パラダイムとし

て「リスクコミュニケーションモデル」を提案する.第 4節では,これらのパ

ラダイムをハリケーンに直面したあるメディカルセンターにあてはめたとした

ら何ができたか,を示す.最後の節はまとめと議論にあてる.

2. Decision making(意思決定)

a. Decision makers(意思決定者)

意思決定やコミュニケーションを論ずる視点は2つある.個々の気象情報ユ

ーザーのリスクに基づく視点と一定範囲の集団のリスクに基づく視点である.

前者をプライベートの視点,後者をパブリックの視点と呼ぶことにする.プラ

イベートの視点はそれぞれのリスク選好に依存する.プライベートの視点は,

自分に影響のあるハザードに注意を示し,パブリックの視点はある集団に影響

のあるハザードに注意を示す.人間社会に悪影響を及ぼす可能性のある外力は

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ハザードと呼ばれている(e.g., Tierney 2001; UNISDR 2011).ここでは自然外力に

限定する.

防災構造物,情報インフラ,規制など公共の安全をはかるトップダウンのアプ

ローチはパブリックの視点を基礎にしている.予報の視点は台風や大雨のよう

な気象現象を記述する空間の視点である.警報の視点は気象現象を基礎にしな

がらパブリックの視点を加味している.パブリックの視点は,気象情報のユーザ

ーを集合的に扱う.空間の視点はその集団の居住地域を分解能に依存してみる.

パブリックの視点からも空間の視点からも,ユーザーの顔は区別できない.パ

ブリックの視点にとって,プライベートな視点は死角になっているのである.

警報が避難などの行動につながっていないことは警報遵守の問題と呼ばれてい

る(e.g., Dash 2007, Lindell 2007).問題の根本は,警報はパブリックの視点での

情報であるのに対してプライベートの視点はそれとは異なることにある.

コミュニケーションと意思決定をプライベートの視点で考えるとき,無知は

問題の中心にすわる.気象情報のユーザーは,まず,自分のリスクを知らない,

したがって,どの予報に注目すればよいのかを知らない,というところからスタ

ートする.彼らはまた,予報があれば何ができるかを知らない.無知は情報や利

害といった意思決定条件の問題であるだけでなく,意思決定者そのものの問題

でもある.たいていのユーザーは,意思決定者として素人である.しかも,彼に

は無知の自覚があるとは限らない.

Pielke (2012)は無知であることに気づかないでいるような完全な無知と無知の

自覚とを区別している.ユーザーは自分の無知に気付いていないだけでなく,す

すんで無知であることから目を背けようとする(Pielke 2012).彼は自分のリスク

に対する責任を引き受けることから逃げて傍観者の立場に安住しようとする.

2011 年に日本の東北地方を襲った地震と津波で,宮城県のある地区では住民

5,600 人のうち 700 人近くが津波に飲みこまれた.NHK テレビはこのときの住

民の行動についてすぐれたドキュメンタリーを制作している(NHK 2011).それ

によると,ほとんどの住民は津波を自分に対する脅威と認識することがなかっ

た.つまり,住民には緊急事態だという認識がなく,自発的に行動することがな

かったのである.行動は群集心理によるものであった.カーラジオで津波警報を

聞いた一人の男性が,ひとびとに大声で逃げるように呼びかけたが,彼らはそれ

を無視した.家に帰りたいというものさえあった.非常事態に臨んで,まるで他

人事のようだったのである.適切に行動しておれば,助かる機会があったのであ

る.かれらは自分の運命に対する傍観者であった.

ユーザー固有のリスクに責任を負うのはユーザー自身以外にないのであるが,

そのことに気づいているユーザーは少ない.ユーザーが,自らの無知を自覚して,

固有のリスクの結果を引き受ける覚悟を持ちはじめるとき,彼は当事者性をも

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った存在になる.無知の自覚によって意思決定者が生まれる.彼は自分の運命を

他者に委ねるかわりに自分で決定しようとする.本論では意思決定者をプライ

ベートと呼ぶことにする.すなわちプライベートとは,当事者性をもった住民や

事業所である.

プライベート個々が見ている世界はプライベートの視点から見えるものであ

る.ユーザーに当事者性がないとき,プライベートの視点はたんなる可能性にす

ぎない.パブリックの視点に代わるのは,ユーザーの視点ではなくプライベート

の視点である.そこでは,プライベートは能動体で語る主体として登場する.プ

ライベートの視点から見た問題はこうなる.「わたしにはどんなリスクがあって,

何に備えればよいのか? そのためにわたしが利用できる情報は何か? その

情報を得たとき,わたしはどう行動すればよいか? これらについてわたしは

だれに助言を求めることができるのか?」.

b. Professional support(専門的支援)

自然災害からの安全をはかるトップダウンのアプローチとボトムアップのア

プローチとは互いに補完的な性格のものだが,後者は十分でない.少なからぬ

人々は,災害が襲ったときには政府が救い出してくれる,と信じている(Haddow

2013).つまり,彼らは自分でできることを何もしないで,手を拱いて国全体が

援けにきてくれるのを待つのである(Tocqueville 1835).

トップダウンのアプローチはパブリックの視点に基づいている.ユーザーの

ニーズや意思決定過程を理解して予報の伝達を改善しようとする研究もまたこ

の視点からのものである.それが警報遵守などユーザーの行動の改善につなが

ることがまれであるのはこの理由による.このような観察に基づいてユーザー

の行動を変えようというのはトップダウンの集産主義である.ボトムアップの

アプローチの根本的な増進のためには防災の個人主義が必要になる.それはプ

ライベートがプライベートの視点で安全を考えることである.問題はまさに,い

かにして予報の活用範囲をパブリックの視点で見える範囲を超えて広げるかと

いうことなのである.社会にできること,そして必要なのは個々人の行動を変え

ることではなく,行動しようとするプライベートを支援することである.

自然災害からの安全を推進するには後者の発展が不可欠である.Brotzge

(2013)は,トルネードの被害を減らす鍵として個々人の役割に言及している.し

かし,プライベートの視点から見た問題をプライベートが独力で解決するのは

困難である. そこには専門的支援が必要になる.この機能をリスクケアと呼ぶ

ことにする.わたしたちの社会はこの機能を欠いている.防災における個人主義

はレッセフェール(laissez-faire)の個人主義ではない.専門的支援に支えられる個

人主義である.

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安全の個人主義的アプローチにおいてリスクケアは主要な役割を果たすこと

になる.

ユーザーのリスク対応の研究では:1)ユーザーが自分のリスクを知ってい

ること;2)それに対して利用すべき情報を知っていること;3)予報を理解

して正しく解釈できること;4)自分の利害と起こりうる結果を知っているこ

と;5)可能な対応行動を知っていること;6)合理的な意思決定を行う能力

を備えていること;がそれぞれ整合性を無視して想定されているのが普通であ

る.これは,医療でいえば,患者が自分の疾患を知っており,医薬品にかんす

る知識を有して,その疾患に効能をもつ医薬品を適切に選べる,ことを想定し

ているのと同じである.気象情報はドラッグストアに並んだ薬のように考えら

れているのである.

医療においてはこのような想定ははじめから排除されている.医薬品は医師

の出す処方箋がなくては買えない.医療にはプライマリケアと呼ばれる機能が

ある.これは,「疾患でなく患者に即した」医療を提供する機能である(IOM, 2012,

pp. 2-3). プライマリケア医は患者にとって最初の接点であり(IOM, 2012, pp.

2-3).患者はそこで診断を受け,患者に応じた治療(多くの場合医薬品による)

ことができる.

たいていのプライベートにとって危機管理は本業ではない.プライベートの

ハザードに対する体験や予報の知識は限られている.リスクケアの機能は,プラ

イベートに専門的支援を提供することである.リスクケアが提供する支援はこ

ういうことになる:1)プライベート固有のリスクの原因となるハザードを診断

し;2)そのハザードの切迫を知るための情報を特定し;3)それによってとる

べき対応行動についてプライベートと協議すること.

リスクケアの専門性は科学に支えられたものでなければならない.だが,こ

の科学はまだ登場していない.プライベートのための防災に関する科学は,気

象学,災害科学,防災学,建築学,など多岐にわたる上に,現在はそれぞれが

細分化され独立して存在している.

c. Nudge(ナッジ)

緊急時の意思決定問題に関するリスクケアの機能は,プライベートの視点に

立って意思決定問題に処方箋を提案することである.プライベートの視点での

意思決定問題は無知のもとでの意思決定問題である.ところがこれまでの意思

決定論は,認知や判断について合理的理性に過剰な期待をおいてきた.

伝統的意思決定論がめざすのは結果の最適化である.緊急時の意思決定につ

いてさえ合理的理性を想定した最適解について議論されてきた.実際には個々

の意思決定はさまざまなヒューリスティックや偏見の影響下にある(Tierney

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2001: 29; Kahneman 2011: 89).伝統的意思決定論は,理論がめざす最適化と現実

の無為との間で引き裂かれてきた.その結果は,痛ましい失敗の繰り返しであっ

た.にもかかわらず,おなじドグマが繰り返されている.これは死に至るドグマ

というべきである.

ここ数十年の社会科学の研究は,ひとびとが行う判断や意思決定の合理性に

重大な疑問の余地があることを明らかにしてきた(Thaler 2008: 8).カーネマンは

ヒューリスティクを次のように定義している.ヒューリスティクは,困難な質問

に対して,適切ではあるが往々にして不完全な答えを見つけるための手続きで

ある(Kahneman 2011: 98).ヒューリスティクが誤りやすいからといって,緊急時

の意思決定に熟慮が向かないのは言うまでもない.

そこで,カーネマンはリスクポリシーを推奨している.それは,平時に熟慮に

よって決めておいた対応行動を,緊急時にはデフォルト・オプションとして機械

的に適用するというやり方である.(Kahneman 2011).同じ災害は2つとない,

とよく言われる.そうだとしても,対応の失敗がいくつかのパターンに類型かで

きる以上,できることはたくさんあるはずである.

そこで,緊急時の意思決定問題に関するリスクケアの機能は次の点をプライ

ベートに処方箋として提案することだということになる.1)個々のプライベー

トに対してリスク診断を行い,リスクの原因となるハザードを特定する;2)リ

スクの原因となるハザードごとに,プライベートがその切迫を知るのに最も良

い情報を特定する;3)その情報にもとづいてプライベートがとるべき対応行動

を特定する.リスクケアの支援のもとで取り組まれるこの意思決定問題を,伝統

的意思決定問題と区別して,ナッジ型の意思決定問題と呼ぶことにする.

ナッジ型の意思決定問題は次のような特徴をもつ(第 1表).伝統的な意思決

定問題がめざすのは最適解であるが,ナッジ型の意思決定問題がめざすのは,こ

れだけはできるというベースラインを決めることである.これは,緊急時に合理

的理性を動員して問題を解決するという見込みの薄いやり方を,あらかじめ平

時に決めておきた対応行動を機械的に適用するというやり方に変更することを

意味する.

伝統的な意思決定問題は,意思決定者に合理的理性を想定するのに対してナ

ッジ型の意思決定問題では,意思決定者であるプライベートは気象情報や災害

に特別の知識を持たない普通のひとである.ただし,かれにはリスクケア提供者

の専門的支援がある.伝統的な意思決定問題では意思決定がリアルタイムに,つ

まり緊急時に行われることが想定されている.ナッジ型の意思決定問題では,意

思決定過程は平時の準備と緊急時の対応行動とに分離する.平時の準備はリス

クケア提供者の専門的支援を得て行われる.それによって,緊急時の意思決定は

熟慮・熟考に基づく意思決定ではなくデフォルト・オプションの機械的な適用に

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なる.

緊急時の意思決定問題について伝統的理論は情報をモニターすることから始

める.ナッジ型の意思決定問題では,プライベートはこの負担から解放されて

いる.緊急時の対応行動のトリガーとなる情報はあらかじめ決められているか

らである.この情報をプライベート・ワーニングと呼ぶことにする.

3. Communication(コミュニケーション)

a. Risk(リスク)

リスクにうまく対応するためには,プライベートはどんなハザードが自分の

リスクの原因になるか知っていなければならない.体調異変を覚えたひとがプ

ライマリケア医を訪れて診断を受けるように,プライベートはリスクケアによ

ってリスク診断を受ける.リスク診断とはプライベート固有のリスクの原因と

なるハザードを特定することである.

リスクケア提供者は,まずハザードの包括的リストを用意して,それぞれのハ

ザードに対するプライベートのエクスポージャーを評価する.あるハザードの

物理的影響がプライベートにおよぶとき,プライベートはこのハザードに対し

てエクスポージャーを有する,という.このようなハザードは,普通,複数ある.

評価は暴風や洪水のような気象現象にかかわる外力だけでなく,地震,津波,干

ばつや山火事のようなそれ以外の自然現象にかかわる外力を含めて,ハザード

の包括的リストに対して行う必要がある(Bertrand and Shafer 2017).エクスポー

ジャーの評価は,ハザードの影響範囲をリスク当事者の立地に重ね合わせて行

う.エクスポージャーの大小は,一定規模の現象の再現期間などによって測るこ

とができる(e.g., Burton 2008; Grothmann 2006).エクスポージャーをなくすもっ

とも端的な方法は立地を変更することである.

次に,リスクケア提供者は,プライベートがエクスポージャーを有するハザー

ドのひとつひとつに対してバルナラビリティを評価する.プライベートがある

ハザードによって被害を受ける可能性が大きいとき,そのハザードに対してバ

ルナラビリティが大きいという(e.g., Wisner 2003; UNISDR 2011).強風というハ

ザードにエクスポージャーを有するプライベートの建物や設備が,強風に対し

て十分に頑健であれば,このハザードに対するバルナラビリティはないという

ことになる.バルナラビリティの有無はハザードの規模に依存している.

バルナラビリティの評価にあたっては,建物や設備の強度を含めた防災力を

総合的に評価する専門性が求められる.2011 年 3 月の東日本大震災で東京電力

が運転する福島第一原発は,INES評価スケール7という最大級の原発事故を起

こした.福島第一原発の損傷は,外部電源の浸水によって原子炉の冷却システム

が運転できなくなったことによってもたらされた(IAEA 2015).地震は,福島第

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一原発がエクスポージャーを有する別のハザードである.この原発の 2号機は,

津波で冷却機能を喪失する前に,地震によって破損していた可能性がある(田辺

2017).

バルナラビリティはプライベートの備えによって小さくすることができる.

建物や設備の改修はその主な手段である.

プライベートがエクスポージャーを有して,かつバルナラビリティを有する

ハザードにプライベートはリスクを有していることになる.プライベートはそ

れらのハザードそれぞれに対して備える必要がある.備えはハザードの種類ご

とに異なるのが普通である.

たいていのプライベートは,リスク診断を受けるまで,自分がどのようなハザ

ードにリスクを有しているかを知らない.したがって,どう備えればよいのかを

知らない.たとえば,関西エアポート社は,高潮というハザードにリスクがある

ことを知らなかった.このことは 2018 年 9 月の台風 21 号(JMA 2018)で明らか

になった.また,ニューヨーク市のベルビュー病院も,高潮というハザードにリ

スクがあることを知らなかっことが,2012年 10月のハリケーン・サンディ(Blake

2012)で明らかになった().これについては,第4節で詳しく述べる.

リスク診断の重要性は,たとえば,宅地開発において明白である.新規開発さ

れる住宅のリスクは次の3つに帰着する.1)リスクを知らずに住宅を購入する

買い手;2)住宅が売れないで困る開発業者;3)リスクを知らずに住宅の所有

者と契約を結ぶ保険業者;4)住宅を失った住民を支援するパブリック.

つまり,個々のプライベートが自分のリスクを有するハザードを知っておくこ

とは,社会の負担軽減につながる.

b. Private warnings(プライベート・ワーニング)

ナッジ型意思決定問題におけるリスクケアの役割はリスク診断のほかに,プ

ライベート・ワーニングとそれによってプライベートがとるべき対応行動を決

めることであった.

トルネード警報について論じたなかで Brotzge (2013)は警報を個人向けにカス

タマイズすることおよびそれを個別に伝達することに触れている.プライベー

ト・ワーニングはこの考え方の延長線上にあるが,それと違うのは,プライベー

ト・ワーニングがめざすのは警報など特定の情報の個人向けカスタマイズでは

なく,プライベートのリスク対応に必要な情報の選択である.この選択は,最初

のバージョンでは,公的機関が発表するだれでもアクセスできる情報の中から

行うことを想定する.つまり,プライベート・ワーニングは予報開発の問題でな

く,既存の予報の利用の仕方の問題なのである.

プライベート・ワーニングは,プライベートがリスクを有するハザードごとに

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用意する必要がある.高潮というハザードにリスクを有する米国のプライベー

トは,ハリケーン・センター(NHC)が発表する高潮浸水予報(Blake 2012)をプライ

ベート・ワーニングとして利用することができる.日本では,すべてのプライベ

ートが地震にリスクを有しているので,緊急地震速報(JMA 2009)は,プライベー

ト・ワーニングのひとつとなる.また,傾斜地の多い日本では,土石流などのハ

ザードにリスクを有するプライベートが少なくない.それらのプライベートは

土砂災害警戒情報(消防庁 2006; 高橋 2008)をプライベート・ワーニングとして

利用できる.河川洪水による浸水というハザードには水位情報も有用である.

リスクに対するプライベートの態度,すなわちリスクに対する寛容度によっ

て,プライベート・ワーニングは変わってくる.あるハザードを予報する情報が

複数ある場合,リスク回避的なプライベートに対してはよりリードタイムの長

い情報がプライベート・ワーニングとなる.

たとえば日本のプライベートで,大雨にかかわるハザードの切迫を知らせる

情報としては,通常,大雨警報を採用することになるが,リスク回避的なプライ

ベートには大雨警報にかえて大雨注意報を用いることになる.反対に,ぎりぎり

までリスクの切迫を見極めたいというプライベートに対しては,大雨警報にか

えて土砂災害警戒情報や記録的短時間大雨情報を用いることができる.対応に

段階をもうけることも考えられる.第 1 段階で警戒態勢を発動し,第 2 段階で

避難行動を発動する,などである.その場合には,ひとつのハザードに対するプ

ライベート・ワーニングを複数用意する必要がある.

プライベート・ワーニングを受信すると,プライベートは生活や業務を日常モ

ードから緊急モードに切り替える.日常モードの生活を緊急モードに切り替え

ることは日常の思考の延長上でできることではない.災害に関する問題は生活

や事業にとっては周辺的なことであるか偶発的なことだからである.この切り

替えには逡巡を伴う.情報の見落としもある.

情報の見落としを避けるためには,外的なトリガーによって受動的に切り替

えを行う必要がある.そのために,プライベート・ワーニングの受信にアラーム

をともなうなどの工夫をするのが望ましい.緊急モードへの切り替えと対応行

動の発動には熟慮も逡巡が介在する余地があってはならない.つまり,プライベ

ート・ワーニングの受信から対応行動の発動への過程は機械的でなくてはなら

ない.高潮というハザードにリスクを有するプライベートは,プライベート・ワ

ーニングを受信したら,ただちに浸水の心配のないところに避難する必要があ

る.緊急地震速報を受信したプライベートがとるべき対応行動については,気象

庁が,業種ごとの事例を紹介している(JMA 2018).

プライベート・ワーニングはプライベートがハザードの切迫を知るのに理想

的な情報であるとは限らない.その多くに予想されるのは空振りが多いのに見

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逃しもあるということであろう.これは,極端現象の予報に共通することである.

プライベート・ワーニングは,観測や予報の進歩とともに更新されるべきもので

ある.また,プライベートのリスクとハザードの関係を見直すことによって変更

される可能性もある.

リスク診断そのものが更新されていくべき性格のものである.たとえば,2017

年のハリケーン・ハーベイによってテキサス州で観測されたような降水の生起

確率は前世紀末にくらべて 6倍に増えているという研究がある(Emanuel 2017).

これは,これまで雨に関係するハザードにエクスポージャーのなかったプライ

ベートにもエクスポージャーが生じ,それによってリスクが発生するかもしれ

ないことを意味している.

現在多くの有用な情報が活用されずにいること,それによって避けられたは

ずの被害が多いこと(Meyer 2014)を考えると,それでも,プライベート・ワー

ニングによる安全の増進は,単に大きいだけでなく,飛躍的に大きなものになる

と考えられる.

c. Risk communication(リスクコミュニケーション)

コミュニケーションに関するリスクケアの機能は,情報の流れがプライベー

トにむけて収束するようにコミュニケーションを組み替えることであった.プ

ライベート・ワーニングに関係するコミュニケーションは,平時と緊急時の2つ

のタイムラインに分岐することになる.平時のコミュニケーションはプライベ

ートとリスクケア提供者との間で行われる対話である.緊急時のコミュニケー

ションは,配信事業者がプライベートにプライベート・ワーニングを伝達する一

方向的なものである.

プライベート・ワーニングの配信は情報配信事業者とプライベートとの間の

配信契約に基づいて行われる.プライベートはリスクケア提供者が交付したプ

ライベート・ワーニングの処方箋を持って情報配信事業者の所に行き,配信契約

を結ぶのである.配信事業者は,配信契約に基づいて配信設定をする.配信設定

とは,配信事業者が受信する情報の中からプライベート・ワーニングを検出して

送信できるようにすることである.情報の受信,検出と送信は自動的におこなわ

れなければならない.プライベートの側は受信装置を用意する必要がある.配信

契約が成立すると,プライベートはリアルタイムでプライベート・ワーニングを

受信できる.

第2表に,コミュニケーションの点から見た一般の警報,プライベート・ワー

ニングの違いを整理した.気象情報の情報形式は,文字や数値そしてグラフィッ

クからなるコンテンツである.警報もコンテンツでありうるが,その本質的な情

報形式は単なる信号である.すなわち,警報は,それが発表されていること,つ

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まり,特定の警報がオンかオフかに本質的な意味がある.プライベート・ワーニ

ングは,警報のこの面だけを保持している.更新方法の違いは情報形式の違いに

対応している.気象情報は定期的に更新される.警報は現象に基づいて更新され

る.プライベート・ワーニングの場合はリスクに基づく更新で,これが現象に基

づく更新と違うのは,警報が対象とする現象はプライベートのリスクに無関係

な場合もある,という点である.

気象情報は一般公衆に向けて提供されていて,だれでもそれにアクセスでき

る.警報も同様だが,防災機関などにはアクセスと無関係に伝達される.プライ

ベート・ワーニングは,契約関係にある顧客だけに,アクセスと無関係に伝達さ

れる.一般の気象情報にはだれでもアクセスできるが,利用者は積極的にアクセ

スしないかぎり,その情報について知らないでいることになる.受動的アクセス

というのは,アクセスと無関係に情報を受け取ることである.

「意思決定のもっとも大事な最初のステップは情報を収集してリスクを評価

することである」(Morrow et al. 2015; Whitehead et al. 2000; Stein et al. 2013).これ

が,緊急時の意思決定と情報の関係について一般的な考え方である.たくさんの

情報のなかでどれが必要な情報なのかを見極めることは,十分に余裕のある平

時でも容易でない上に,緊急時には情報が増える(Bates 2016).ハリケーンだけ

でも何種類もの情報が発表されている.それを知ったうえでさらに,そのなかの

どれを使うとよいかまで知っていることをユーザーに期待することはできない.

ナッジ型意思決定問題は,情報コミュニケーションのこの過程をスキップす

る.リスクへの対応行動に必要な情報は,プライベートごとに,あらかじめ決め

てあるからである.リスクコミュニケーションは,リスクに関する情報を伝達す

るところに特徴があるだけではなく,コミュニケーションの構造にも特徴があ

る.プライベート・ワーニングを伝達するコミュニケーションはリスクコミュニ

ケーションのひとつである.それに対して,一般の気象情報のコミュニケーショ

ンをパブリック・アクセス型のコミュニケーションと呼ぶことにする.これは一

般公衆のだれでもが必要な情報に自由にアクセスできるコミュニケーションで,

情報通信技術の発達によって可能になったコミュニケーションである(AMS

2007).

リスクコミュニケーションの特徴を第3表に,パブリック・アクセス型のコミ

ュニケーションと比較して示した.パブリック・アクセス型のコミュニケーショ

ンでは,情報フローは予報センターから一般公衆に向けて発散的である.これに

対して,リスクコミュニケーションのそれはプライベートに向けて収束的であ

る.パブリック・アクセス型のコミュニケーションでは,ユーザーは自由に情報

にアクセスし,情報を選択し,解釈する.リスクコミュニケーションではこれら

について自由はない.伝達される情報はリスク診断に基づく処方箋で決められ

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ている.処方箋は,情報をプライベート・ワーニングという形で特定しているだ

けでなく,それをトリガーとする対応行動も決めている.

この情報伝達は,あらかじめ決められた約束事にもとづいて機能する.伝達さ

れるのは信号にすぎないが,その意味については解釈の余地がなく,それに基づ

く行動については考慮や逡巡の余地がない.コミュニケーションの点で一般の

気象情報とプライベート・ワーニングは両極にあって共通するものをもたない.

警報は中間的である.

4. A medical center(メディカルセンター)

ここまでで,ナッジ型の意思決定問題とプライベート・ワーニングのリスクコ

ミュニケーションについて,その概要を示した.この節では,あるメディカルセ

ンターをプライベートの例としてとりあげて,これらを具体的に示す.

ベルヴュー病院(Bellevue Hospital Center; BHC)は 25 階建て病床数 800 を誇る

ニューヨーク有数の公立病院で,ニューヨーク市の主要なメディカルセンター

のひとつである(e.g., Hartocollis 2012; Ramme et al. 2015).BHCは 2012 年 10 月の

ハリケーン・サンディで浸水し,非常用電源を含めた全電源を喪失して病院機能

を停止した(Ofri 2012).嵐の中で BHC はすべてのエレベーターが停止した病院

から患者の避難を開始した.全患者の避難には丸二日あまりを要したが,幸い一

人の死者も出すことはなかった(Ofri 2012; Redlener and Reilly 2012).

BHC の外部電源は,サンディがニュージャージー州に上陸した 10月 29日の

夜 2100 EDT(0100 UTC 30 October)(Blake et al. 2013)ころ途絶えたとみられる

(Hartocollis 2012).日付が変わるころには非常用電源を含む全電源を失った.非

常用電源は上層階におかれていたのだが,それに燃料を送るポンプが地下に設

置されていて,浸水で機能停止したのである(Ofri 2012).

社会にリスクケアの機能があったならば,BHC はそれによってリスク診断を

受けることができたはずである.

BHC はマンハッタン島のイーストリバーに面する低地(low-lying areas)に立地

している(Rappaport 2013).BHCは高潮による浸水というハザードに対してエク

スポージャーがあると評価されていたはずである.同じように低地に立地して

いたセントルイスのおおくの施設は,2005 年のハリケーン・カトリーナで浸水

し電源を失って孤立している.メモリアル・メディカルセンターでは,少なくと

も 34人の死者を出している(Okie, 2008).

高潮による浸水にエクスポージャーがあることがわかったら,リスクケアは

次にこのハザードに対する BHCのバルナラビリティを評価したはずである.ハ

リケーン・カトリーナのあと改訂された指針は,病院が 96 時間機能を維持でき

ること,そのために非常用発電機を備えること,およびそれが浸水に耐えること

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を求めていた.しかし,これらの指針は不十分なものであった(Powell 2012).BHC

の非常用発電機は 13 階に設置されていて浸水の心配はなかったのだが,それに

燃料を供給する燃料ポンプは地下にあった(Ofri 2012).燃料ポンプが浸水する恐

れがあったので,全電源喪失に陥る可能性が考えられた.したがって,高潮によ

る浸水というハザードに対するBHCのバルナラビリティは大きいと評価された

はずである.

したがって BHCには,高潮による浸水というハザードにリスクを有する,と

いうリスク診断が下されていたはずである.

BHC がバルナラビリティを小さくするために,あらかじめ燃料ポンプを上層

階に移設することができたかどうか,という問題がある.これには建物の改修が

必要になり,それには建築基準の制約があった(Hartocollis 2012; Powell 2012).サ

ンディの影響について市当局は風を第一に考えていた(NYT 2012).サンディは

上陸時には温低化しており,サフィール・シンプソン・スケールも 2に落ちてい

た(Blake 2013).ハリケーンの影響を,強風を第一に考えるのは一般的なことで

はあるが(Morrow 2015),BHCがリスクを有するハザードは強風ではなく高潮に

よる浸水だったのである.

社会にリスクケアの機能があったならば,BHC はその支援を得て,プライベ

ート・ワーニングのコミュニケーションを用意し,その受信とともに起動すべき

対応行動を知っていたはずである.この場合のプライベート・ワーニングは,高

潮による浸水というハザードの切迫を知るのに利用できる情報になる.それに

は,NHCの「高潮による浸水予報」が考えられる.

プライベート・ワーニングにあわせてとるべき対応行動は,ただちに業務モー

ドを緊急モードに切り替えて全館避難を実施することであろう.その実施要領

についてはあらかじめ,十分に練っておき,訓練も行っておく必要がある.BHC

はプライベート・ワーニングとして取り決めた高潮浸水予報をリアルタイムに

配信してもらえるように情報配信事業者と契約しておく必要がある.BHC側は,

危機管理センターにプライベート・ワーニングの受信装置と表示パネル,受信時

にアラームを鳴動させる仕組みを用意しておく.これらの仕組みについては,疎

通試験を繰り返して,完璧に作動することを確認しておく.

10月 27日土曜日 1100 EDT(1500 UTC 27 October)には BHC の危機管理セン

ターでアラームが鳴動したはずである.NHC から,ニューヨークを含む沿岸地

域に 4 – 8 ft (1.2 – 2.4 m)の高潮浸水予報が発表されたのは 10 月 27 日 1500 UTC

であった(Blake, E. S., et al., 2013).BHCと契約した配信事業者は,無数の情報

入力のなかからこの情報を検知した上, BHCにプライベート・ワーニングを伝

達する.これらはすべて,自動的過程である.

BHC の危機管理スタッフは,アラームを確認するとただちに業務モードの緊

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急モードへの切り替えを発令する.一般のスタッフは,緊急対応実施要領に基づ

いて緊急モードに移行し患者の避難を開始する.これらの移行は機械的に行わ

れる.BHC のスタッフは,そのときまで,危機管理スタッフを除いて通常業務

に専念しているのである.BHC が全電源喪失に陥ったのは 10 月 29 日月曜日

2200 EDT(0100 UTC 30 October)以降(Ofri 2012)なので,リードタイムは 58

時間ということになる.

高潮浸水予報はその後,10月 28日日曜日 0200 EDT(0600 UTC 28 October)

(5~10 ft の浸水を予想)と 10月 28 日日曜日 1100 EDT(1500 UTC 28

October)(6~11 ft の浸水を予想)にも発表された(Blake, E. S., et al., 2013).

これらを利用して,業務モードの区分に,平常モードと緊急モードのほかに,

その間に警戒モードを設けることも考えられる.対応行動の段階も,先行避難

と全館避難に分けることを考えてもよい.

ニューヨーク市当局は,BHC を含めた公立病院などに,事前避難を求めない

ことを決めていた.避難が必要だという明白な根拠がないかぎり,避難するより

病院にとどまったほうが安全だ,と考えたのである(NYT 2012).災害対応の検証

においては,一般にはこのような市当局の意思決定が適切であったかどうかが

問題とされる.

実際に起こった浸水はマンハッタン島で 4-9 ft (1.2 – 2.7 m)であった(Blake

2013).マンハッタン島にあった 5 つのメディカルセンターはすべて外部電源を

失った.そのうち BHC を含む 3つが浸水した.浸水を免れた 2つのうち一つは

外部電源が途絶える前に避難していた.もう一つのメディカルセンターは,非常

用電源で機能を継続することができた.浸水した BHC 以外の 2つも,外部電源

が途絶える前に避難していた(Jangi 2012; Powell 2012).

サンディに伴って起きた浸水というハザードに対して,マンハッタン島の 5つ

のメディカルセンターが受けた影響はそれぞれ違っていた.プライベートごと

のリスク診断が必要な所以である.「避難が必要だという明白な根拠」を,プラ

イベートそれぞれが知っているべきだったのである.ニューヨーク市当局の判

断はパブリックの視点からのものであった. BHC固有のリスクはその死角にな

っていて,市当局が知ることは難しい.したがって責任を市当局に負わせること

には無理がある.

必要であったのは,BHCがその固有のリスクに関する無知を自覚し,リスク

に自ら責任を負おうとすることであった.もちろん,医療機関である BHC が

専門家の支援なしにこれらのことを成し遂げることはできない.したがって,

もうひとつ必要であったのは,この問題の解決について BHCが専門的支援を

求めたとき,その求めに呼応できる仕組みが社会に用意されていることであっ

た.

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5. Summary and discussion(議論とまとめ)

安全の増進に予報がもっと活用されて寄与できるためには,予報を用いた意

思決定とコミュニケーションをユーザーの視点で考える必要がある.自らの安

全に対する説明責任を自覚しているユーザーをプライベートと呼んだ.プライ

ベートの視点で考える安全は防災の個人主義であり,これは中央集権的防災か

らのパラダイムシフトである.

防災における個人主義は専門的支援に支えられる個人主義である.この支援

の機能をリスクケアと呼んだ.リスクケアの最も重要な機能は個々のプライベ

ートに対してリスク診断を行い,リスクの原因となるハザードを特定すること

である.リスクケアは,リスク診断にもとづいて,プライベート個々にリスク対

応とそれを支えるコミュニケーションの仕組みについて処方箋を提示する.

緊急時の意思決定に関する処方箋はリスクの切迫を知らせる情報に基づいて

あらかじめ決めておいた対応行動を起動するというもので,これはカーネマン

やセイラーの意思決定論の考え方に基づく.これをナッジ型の意思決定問題と

呼んだ.伝統的意思決定論のナッジ型の意思決定問題への転換は意思決定問題

のパラダイムシフトである.リスクの切迫を知らせる情報をプライベート・ワー

ニングと呼んだ.

コミュニケーションの仕組みに関する処方箋は情報の流れをプライベートに

むけて収束するように組み替えるもので,プライベート・ワーニングを伝達する

コミュニケーションを提示したものである.リスクコミュニケーションは,リス

クに関する情報を伝達するところに特徴があるだけではなく,コミュニケーシ

ョンの構造にも特徴がある.パブリック・アクセス型のコミュニケーションから

プライベート・ワーニングのリスクコミュニケーションへの転換はコミュニケ

ーションのパラダイムシフトである.

「インセンティブとナッジが要求と禁止にとって代われば,政府は小さくな

ると同時に,より穏当になるだろう」(Thaler 2008)とセイラーは述べている.

防災の個人主義は政府の役割を軽減して,しかも社会の安全を増進することに

なろう.

経済の個人主義は市場という社会的機能に支えられているように,防災の個

人主義はリスクケアという社会的機能に支えられるべきものである.そしてわ

れわれの社会に決定的に欠落しているのがこの機能である.

リスクケアを提供するサービスが社会に登場するとすれば,民間事業者によ

る有料のサービスとしてであろう.このサービスをリスクケア・サービスと呼ぶ

ことにする.このサービスは,予報事業とは別の事業である.一般に,あるニー

ズに対応するモノやサービスが社会に存在しないとき,専門家のインテグレー

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ションによってそれを用意して提供する機能は境界マネジメント,それを提供

する機関は境界組織と呼ばれている((i.e., Cash et al. 2003; Feldman and Ingram

2009).リスクケアは境界マネジメントに似ているが 1回限りのプロジェクトで

はない.それは恒常的に社会に存在して,だれでもが必要なときにアクセスでき

るようなサービスでなくてはならない.

リスクケア・サービスは一つの新しい産業の出現を意味する.リスクケアとい

うサービスを提供する産業である.一般に,発明はすんなりと実用化につながる

ものではない(Taleb 2012).技術の成果と社会の便益との間を橋渡しするのは産

業である.つまり,プロダクトが商品となることによってである.予報技術とい

う技術はこれまでこの仲立ちをする産業に巡り合っていない.予報事業のプロ

ダクトの大半は商品ではない.

リスクケア・サービスは予報事業とは重なり合わないばかりか競合関係にも

ない.リスクケア・サービスは予報を作るのでも提供するのでもないからである.

これまで無料でアクセスできた気象情報が有料になることもない.プライベー

ト・ワーニングのリスクコミュニケーションは気象情報の現在のコミュニケー

ションにとってかわるのではなく,そこに重なって加わるのである.

プライベート・ワーニングとして利用する情報には,初めのバージョンでは,

公的機関が発表している既存の情報を想定した.ことの自然の発展として,情報

配信事業者がそこに新しい情報を追加して発展させることが考えられる.ここ

で特に注目されるのは,これまであまり活用されてこなかった確率形式の情報

の導入であろう.リスクに対するプライベートの態度によって,プライベート・

ワーニングは多様化すべきものである.確率形式の予報はこれを可能にする.確

率予報をプライベート・ワーニングに活用する点で専門的役割を果たすのはリ

スクケアである.リスクケアは,予報事業に対して具体的なニーズを掘り起こし

て伝達する機能を持つ.予報事業には,公共財としての気象情報に加えて,市場

財としての気象情報を提供する役割が大きく加わることになる.つまり,予報事

業の発展に本当に必要なのは調整する指揮者(Hooke 2000)ではなく市場なので

ある.

現在予報をインプットとして使っているいくつかのビジネスや産業同様,リ

スクケア・サービスにとっても予報は重要なインプットとなる.予報ユーザー

のなかのビジネスや産業の割合が高まるとともに,予報の仕様と品質が明示さ

れていること,およびその表示方法が標準化されていることについての要求が

高まると予想される.リスクケア・サービスにとって,この要求は決定的なも

のである.なぜなら,プライベート・ワーニングの決定には予報の仕様と品質

の情報とともにその表示方法が標準化されていることは不可欠だからである.

驚くべきことに,現在の気象情報提供の仕組みは,この基本的な要件を欠いて

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いる.医薬品の場合,法律によって認可と品質表示の制度が定められている

(FDA 2019).気象情報の場合,認可が必要かどうかについては議論があるだろ

うが,標準的なやりかたでの仕様と品質の表示は避けて通れない.

市場財としての気象情報の役割が大きくなり,予報事業がおおきく発展する

とき,このような要件は満たされている必要がある.

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