医療機関iso9001 教育用テキスト (2002年度版)2. iso 9000.....3 ii...

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医療機関ISO9001 教育用テキスト (2002年度版) 2003年3月10日 「医療の質保証のための ISO9001QMS の調査」 委員会編

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Page 1: 医療機関ISO9001 教育用テキスト (2002年度版)2. ISO 9000.....3 II 質改善を進めるためには.....5 1. 質改善のための基本の考え方.....6 2. 基本の考え方の実践.....9

医療機関ISO9001

教育用テキスト

(2002年度版)

「医療の質

2003年3月10日

保証のための ISO9001QMS の調査」

委員会編

Page 2: 医療機関ISO9001 教育用テキスト (2002年度版)2. ISO 9000.....3 II 質改善を進めるためには.....5 1. 質改善のための基本の考え方.....6 2. 基本の考え方の実践.....9

目 次

I 医療サービスの質とそのマネジメント ...................................... 1

1. 人・組織・プロセス・システム......................................... 1 2. ISO 9000 ............................................................. 3

II 質改善を進めるためには ................................................ 5 1. 質改善のための基本の考え方........................................... 6 2. 基本の考え方の実践................................................... 9

2-1 ある病院での事故事例分析の経緯 ..................................... 9 2-2 プロセス図と事故報告書 ............................................ 11

3. 事故事例の分析...................................................... 11 3-1 インシデントとは .................................................. 11 3-2 事例分析のための準備 .............................................. 12 3-3 プロセスに着目した分析方法 ........................................ 13 3-4 分析のための組織 .................................................. 16 3-5 SHEL モデルの活用 ................................................. 16

4. 標準化とその意義.................................................... 18 4-1 標準とは .......................................................... 18 4-2 標準によるマネジメント(改善)の基本 .............................. 20 4-3 ISO9000 の活用 .................................................... 21 4-4 標準としてのクリニカルパス ........................................ 23

5. 人は誰でも間違える.................................................. 24 5-1 人的ミスに対する組織的対処 ........................................ 24 5-2 エラープルーフ .................................................... 25

III ISO9000 及び審査登録制度の概要 ........................................ 34 1. ISO9000 とは ........................................................ 34

1-1 ISO9000 ファミリー規格の構成 ...................................... 34 1-2 ISO9001 の要求事項の内容 .......................................... 35

2. 審査登録制度とは.................................................... 40 2-1 審査登録制度の枠組み .............................................. 40 2-2 審査の方法 ........................................................ 41

IV ISO9000 を取込んだシステム整備の進め方 ................................. 43 1. 導入宣言 ............................................................ 43 2. 推進体制の構築 ...................................................... 44 3. マスタープランの作成................................................ 45

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4. 教育訓練及び広報.................................................... 46 5. 審査登録機関の選定.................................................. 46 6. 医療サービスを構成するプロセスの整理................................ 47

6-1 現状の業務実態の整理 .............................................. 47 6-2 病院システムの全体像の整理......................................... 48 6-3 インシデント・アクシデントレポートの解析と業務手順(プロセス図)への反映49 6-4 品質方針・目標の設定とシステム自体のPDCA ....................... 49 6-5 質管理体制整備の全体図 ............................................. 50

7. ISO9001 の規格要求事項との対比によるシステム整備課題の抽出 ............... 51 8. 品質マニュアル作成 .................................................. 52 9. 内部監査 ............................................................ 54

9-1 内部監査とは ...................................................... 54 9-2 内部監査員の養成 .................................................. 55 9-3 内部監査の実施手順 ................................................ 56

10. 予備審査............................................................58

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I 医療サービスの質とそのマネジメント

1. 人・組織・プロセス・システム 良い品質を獲得するためには、よいプロセス、システムが必須である。アウトカムを

目的としてプロセスに目を向けるというのが自然な思考である。工業分野においては、

ごく自然に、工程解析、品質解析と称して、結果としての製品の質などに影響を与える

プロセス、人、組織、システム要素を“管理”する方向に進む。組織の成員のすべては

何らかの意味でその組織のアウトプットの質に関与しているから、全員参加もまた自然

な成り行きであった。技術者にしても、専門家であると同時に、組織の一員として行動

することが求められ、実際にそのように行動してきた。 医療分野においては、長いこと、診療の質は医師の個人的能力に負うところが大きい

と信じられてきた。専門家としての個々の医師が、それぞれの診断能力、診療計画立案

能力、経過判断能力、診療技能などを磨くことによって、診療の質というものは上がる

ものと信じられてきた。ハイテク医療機器、診断機器、診断法、続々と開発される新薬

など医療技術の進歩により、個人がすべてを“仕切る”ことは不可能である。 だが、マネジメントスタイルは容易には変化しない。チーム医療が状態化しても、と

きには個人の経験に基づく旧態依然たる治療方針が頭をもたげ、医師が医療チームの技

術・管理のあらゆる面で頂点に立つという構造が、医療プロセス・システムとしての特

段の支援なしに続いている。 医師個人の能力に依存するということ自体は、脆弱な面を否定できないが、環境が整

えば決して悪い仕組みではない。アウトプットの質が個人の技量に帰せられるときに存

在する 2 つの問題をクリアできればよい。 第一は、プロセス志向になりにくいという点である。結果が個人の能力に帰せられる

と、その能力はブラックボックス化しやすい。優れた医師なら、経験を一般化して、プ

ロセス(条件、状況、治療)とアウトカム(診療結果)の関係を把握し、どのような病

態でどのような診療があり得るか、どれが優れているかを考察する。自分の経験だけで

なく、当該分野の治療に関しての“法則”を使う。EBM(Evidence Based Medicine:有効であると実証されている治療の選択)も同じである。そうでない普通の人は、要因

と結果の関係の理解に基づく行動がなかなかできない。プロセス志向というのは、単な

るマニュアル主義を推奨しているのではなく、実は物事の生起・因果にかかわる高度な

抽象化能力を要求しているのである。知識のコミュニケーションが少ない状況では、プ

ロセス志向という行動様式が生まれにくい。 第二は、組織的・計画的な運営が難しくなるという点である。個人が頂点に立つとい

うことは、管理対象すべてについて事象発生ベースで個別対応していくというマネジメ

ントスタイルになりやすい。多くの成員が同時並行的にある目的を達成するために行動

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するときには、それぞれの役割・責任・機能を明確にしておくばかりでなく、いつ誰が

何をするかという計画を、必要に応じて作成する。一言でいえば「システム志向」とい

うことになるのであろうか、全体目的の理解、個々の要素の位置づけ、要素間の関係、

重要要素の理解などが必要であり、したがってこうしたことを意識した行動様式が生ま

れる。医療分野は、そうではない。 こうしたことが問題になるのは、医療界がいま過渡的な状況にあるからである。医療

を支える技術の驚異的進展に応じて、組織運営の方法の変化が追従できれば、いずれは

解決するであろう。実際、TQM を導入・推進しようなどという病院は、こうした変化

の必要性をひしひしと感じているからでもある。過渡期にあって、システム志向が必要

であるにもかかわらず弱さがある現在は、いま生じている問題の多くが、個人的責任に

帰せられる問題ではなく、組織の責任ととらえることによって、解決する可能性が高い

ことを繰り返し説く必要がある。問題の一つ一つに実に奥深い多くの問題・原因が絡み

合っていることを実践のなかで明らかにし、単に個人を責め罰しても問題は何ら解決し

ないことを地道に示していかなければならない。 医療過誤において、過誤の直接の原因となった当事者の不注意を責め刑事責任を問う

ことが、医療過誤の再発防止・未然防止にどれほどの意味があるのか、悩ましい。 起

こしてはいけないことを起こして人を傷つけたのだから、誰かが刑事責任を問われるの

は、いまの法律の体系に照らして当然である。医療以外の分野でも事故の責任をこうし

た形で落着させる。“To err is a human”とは、ハーバード大学病院で質の管理を担当

した Don Berwick の言である。「人は間違いを起こすものである」と訳しても、この表

現のニュアンスは伝わってこない。“間違い”と訳したとたんに、言いたいことの半分

も伝わらない。「状況によっては間違いと言われることになるような行動をするのが人

間というものだ」と訳して、かろうじて 7 割ほど伝わっただろうか。7 つ以上のものを

一度に認識するのが難しいのが人間というものだ、ときどき(5%程度)いつもと異な

るものが混じってくるときそれを的確に指摘するのは難しいものだ、と言っているので

ある。これに対処するには、システム志向しかない。弱い人間が実施しても最終的に大

事に至らないような仕組みを考案するしかない。医療分野には、こうした考えの生まれ

にくい歴史的背景があることを承知して、質向上に取り組んでいかなければならない。 システム的に取組みが必要なときに、考慮しなければならないのが、その組織を構成

するメンバーのロイヤリティ(忠誠心)である。個々人が、組織の全体目標の達成に向

かって努力する、あるいは個人の目標を組織の目標と整合させるような機構になってい

ないと、組織運営は難しくなる。病院のマネジメントを考えたときに、専門家としての

医師が病院という医療サービス提供システムの目的達成に邁進する必然性があるかど

うかというのは重要なことである。 変わりつつあるが、この側面については、状況はかなり悪い。上述したように、診療

の質の確保と改善には医師の主体的な関わりが不可欠である。医師の個人的能力が重要

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となれば、人事は極めて重要である。医師の人事は、基本的に大学が握っている。病院

に所属していながら、次によい施設に移れるように、出身大学の講座を“見ている”の

である。いま所属している病院の目標達成に献身するよりも、個人の地位を上げること

に視点が移りやすい構造になっている。 品質達成に最も重要な“技術”にも問題がある。医療分野において必要な視点は、確

立した技術をどの医療グループでも間違いなく活用できるようにするための技術、方法

論であると考える。とくに医療の質保証という視点ではこの側面が重要である。医師を

頂点とする専門家の関心は研究開発にある。新たな診断・治療法、新薬の効能の実証、

珍しい症例の解明など、新規性、独創性的な、研究開発に関心が向かう。 ある分野の発展ためにこうした R&D が必要なことは議論を待たない。だが同時に、

当たり前の技術を、然るべきときに、然るべき方法で使いこなす技術、換言すれば質確

保のための技術標準の確立も進めなければならない。先端技術だけで支えられる産業は、

産業として未熟であり存立が難しく、また確立した技術の利用技術を軽視している分野

は、産業として未成熟であると言わざるを得ない。

2. ISO 9000 ISO 9000 シリーズの具体的な内容についてはⅢ章以降に記述するが、ISO9001 に基

づく審査登録制度は産業分野を超えて世界的に広がり、日本でもすでに審査登録を受け

た組織数は、2002 年末で 30000 を超えている。 さて、ISO 9001 に基づく審査登録は、病院へ適用することはどれほど有効であろう

か。引田らは、認証取得企業へのアンケート調査によって、認証取得のための取組みを

通して品質システムが改善され、改善の程度は取組み前の品質システムのレベルが低い

ほど大きいことを明らかにしている。病院の品質管理のレベルは、お世辞にも高いとは

いえないので、ISO 9001 によってかなりの改善が見込めるだろう。これは半分冗談に

しても、次の点で病院にとって ISO 9000 は有効と考えられる。 その一つが、基本動作の徹底である。ISO 9001 でいう品質保証は、目標と目標達成

の方法を決める、定めた計画通り実施する、実施された計画を確認する、計画との差異

があったら適切な処置をとることである。中でも手順の確立が強く要求されている。こ

れには、実施の段階に問題があることが多く、確実に実施することが品質保証において

重要である、という考え方が根底にある。病院において今求められているのは、管理す

べきことを組織として決めることと決められたことの確実な実施である。 もう一つの点は、システム指向、仕組み指向の導入である。第Ⅱ章で述べるが、よい

システム、よい仕組みがよい結果を生む、という考え方が希薄なために様々な問題を引

き起こしている。ISO 9001 に取り組むことによって、この考え方が導入され、また構

築されたシステムが改善のためのベースとなることによって改善が進むことも期待で

きる。

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審査登録制度は、管理システムを評価するものである。管理システムの評価が有効と

なるのは、核となる技術、すなわち製品の設計や製造に関する固有の技術が十分なとき

である。それがないときに、皮相的な管理システムを作っても効果はない。病院におい

ては、核となる技術は医療技術であり、これについてはおそらくかなりしっかりしたも

のが存在していると考えられる。むしろ医療技術の開発に重点をかけすぎたために、今

日の様々な問題が生じたのかもしれない。この状況下に、管理システムを導入するのは

効果的である。 その他 ISO 9001 の効用とされるいくつかの点、例えば内部監査は診療科単位の閉鎖

的な状況を改善しうるであろうし、文書化によって実施内容を可視化する効用も大きい。

トップマネジメントの参画、顧客志向、人員の教育などの要求事項も、これまでの病院

の弱点をついている。以上の点から、ISO 9001 は病院の質改善の基盤の整備にかなり

有用であると考えられる。

[参考文献] ・引田邦雄他(1995):ISO9000 シリーズの有効性に関する調査研究「品質」、25、[4]、

395-405. ・「品質」誌 Vol.30, No.4(2000 年 10 月)特集原稿「医療サービスの質とマネジメ

ント」飯塚悦功 1)、棟近雅彦 2) より抜粋

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II 質改善を進めるためには

日本の工業製品は、現在でこそ世界のトップクラスに位置しているが、これは一朝

一夕になしえたことではない。1950 年代、60 年代は、日本の製品は「安かろう悪か

ろう」という表現で代表されるように、値段は安いが品質はよくないという評価がさ

れていた。当然のことながら作業者による作業ミスも多発しており、徹底的に検査を

行って良品を出荷するのが精一杯であった。このような状況で、どのように質改善を

進めればよいのであろうか。以下の挿話は、日本の品質マネジメントが遅れていた時

代の作業者と管理者のやりとりである。 『作業者が作業ミスにより不良品を作ってしまい、管理者に報告することにした。

作業者:「申し訳ありません。私の不注意で不良品を作ってしまいました。」 管理者:「何をばかなことをやっているんだ。もっとよく注意して作業しなさい。」 作業者:「すいませんでした。以後よく気をつけて作業します。」 作業者は厳しく注意を受けたので、しばらくは不良品を発生させないでいたが、あ

る日また作業ミスにより不良品を発生させてしまった。 作業者:「申し訳ありません。また、不注意で不良品を作ってしまいました。気をつ

けていたんですが」 管理者:「何だと。この前注意したばかりじゃないか。たるんでるんじゃないのか。」 作業者:「すいませんでした。今度こそ注意してやりますから。」 作業者は、再び注意をしながら作業を始めたが、またまた不良品を作ってしまった。 作業者:「また、やっちゃった。叱られるな。やだな。そうだ。どうせ報告したって

管理者は怒るだけで何もしてくれないし、俺だって気をつけてるんだもんな。この不

良品を隠しちゃえば、わかんないだろう。」 このようにして、作業者は不良品を作っても隠して報告しないことにした。作業者

の心理としては当然である。人間の本性として、まず叱られたくないと思う。しかも、

報告して叱られたとしても、改善策としては自分が注意するだけで作業方法がよくな

るわけでもないし、ましてや管理者は何もしてくれないのである。これでは、報告し

ない方が得だと思うようになる。 一方管理者は、この後不良品の報告がなくなるので品質がよくなったと思ってしま

う。そして、自分の叱る管理方法がよかったと思うようになり、ますます何もしなく

なる。しかし、容易にわかるように実際には何も改善されていない。悪いはずの作業

方法には何の手も打たれていないのだから、この後も不良が出続ける。管理者はよく

なったと思っているのであるから、何の手も打たれず大量の不良が発生し、やがては

隠しきれなくなって破綻するであろう。まさに悪循環である。』 このように作業ミスをした作業者を叱る、注意を促すといった方法は、改善されな

いどころかかえって事態を悪くする。不良品を出し続ける作業方法を変えなければ不

良品は減らない。作業者が作業ミスの報告をしに来たときに、「この作業者が悪いので

はなく、設定してある作業方法が悪いのではないだろうか。」と管理者がプロセス、仕

組みの問題に着目しなければならない。作業者の方も、報告をすることで叱られるの

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ではなく、作業方法が改善されるということがわかれば、事実をなるべく正確に報告

しようという気になる。 すると不良が生じたときの事実関係がよくわかるようになり、原因追及と対策の実

施が容易になる。近代的な品質マネジメントでは、事実に基づいて科学的な分析を行

い、対策に結びつけることを重視する(これを Fact Control(事実に基づく管理)と

いう)。このように、作業者を責めるという考え方から脱却し、問題の実態を把握し、

作業者の問題からプロセス、仕組みの問題と捉えることで質改善が進むのである。 まだ工業製品の場合は、不良品を作ってから検査で選別することが可能である。し

かし、医療の場合、不良品を作ってからでは遅いのである。プロセスをしっかりした

ものにし、プロセスで不良すなわち事故を抑え込むことが特に重要となる。 以上述べたことは、論理的にものごとを考えれば容易に理解できることである。し

かしながら、日本の工業界においてもこの考え方が短期間で浸透したわけではない。

近代的な品質マネジメントが導入されてから 20 年ないし 30 年かけて、ようやく理解

されて実践されるようになったのである。「悪いことをしたら叱られる」あるいは「悪

いことを見つけたら叱る」というのは子供の頃から人間に染みついた考え方であるの

で、そこから脱却するのは容易ではない。この考え方を浸透させるには、相当の時間

と労力をかけなければならないと理解する必要がある。 1. 質改善のための基本の考え方 医療において質管理を進めるためには、以下に述べる組織的質改善のための重要な

考え方を理解することが最も大切なことである。それは、「マネジメント」、「事実に基

づく管理」、「重点指向」、「プロセス指向」の 4 つである。 “マネジメント”あるいは“管理する”とはどういうことであろうか。辞書や成書

で様々な定義があると思われるが(図Ⅱ-1)、品質マネジメントでのマネジメントは、

PDCA のサイクルを回すことである。すなわち、業務を実行するにあたって、計画

(Plan)し、実施(Do)し、それがうまくいっているかどうかチェック(Check)し、

うまくいってなければ処置(Act)をとることである。(図Ⅱ-2)改善のための基本的

考え方といってもよい。 この PDCA サイクルをどのようにしたらうまく回せるか、これが品質マネジメント

の分野で長年取り組んできた課題であり、これからも永遠の課題である。この目的の

ために、様々な支援ツールや概念を開発してきた。 PDCA における C、すなわち仕事がうまくいっているかどうかをどのように評価す

るかが最も重要となる。ここでの評価が適切でなければ、改善が始まらないからであ

る。その意味で、どのような指標によってチェックを行うかはよく検討しておく必要

がある。この指標を管理項目と呼ぶ。管理項目とは、仕事の善し悪しを判断するため

の評価基準である。

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管理とは 広辞苑(岩波書店)から

管轄し処理すること。良い状態を保つように処置すること。とりしきること。 「健康―」「品質―」

品質マネジメントシステムでいう「管理」 -ある目的を継続的に効率よく達成するために必要なすべての活動。 -そのためには、計画(Plan)を立て、実行(do)し、チェック(check)を行い、

修正処置(action)をとるという 4 つの機能が必要。 よい管理とは:目的が達成されている。効率的に行われている。 継続性がある

図Ⅱ- 1 管理とは

Plan ① 目的を明確にする ② 管理項目を決める ③ 目標(管理水準)を決める ④ 実行手順(作業標準)を定める Do ① 教育・訓練を行なう ② 実行手順どおりに実行する Check ① 目標が達成できたか? ② 他に不具合はないか?(副作用) Action ① 応急対策 : 現象を取り除く ② 再発防止策 : 根本原因を除去する

“重点指向”とは、文字通り重要 なさい、集中しなさいということで

ある。重点指向という考え方は、

“重点指向”とは,文字通り重要

る.重点指向という考え方は,当

る。しかし,この重点指向ほど実

整備して、改善をはじめようと考

ると、いろいろな問題が見えてく

な 2~3 の問題に絞り、後は捨て

のが難しい。「見えている問題に何

うのは簡単であるが、ついついい

る。また、何が重要で、何が重要

なければならない。結局、どの問

い。重要な問題に絞り、その他の

Plan計画

Action処置

Check確認

Do実施

な問Ⅱ題に絞り

当たり前のことであり何も難しいことはない様に思

な問題に絞りなさい,集中しなさいということであ

たり前のことであり何も難しいことはない様に思え

践が難しいものはない。例えば、事故報告書制度を

えたとしよう。きちんと問題が把握できるようにな

る。(図Ⅱ-3) 重点指向というのは、「非常に重要

なさい」といっているのである。この捨てるという

も手をつけずに重要な問題に絞りなさい」と口で言

ろいろな問題に手をつけてしまうのが人間の性であ

でないかを判断するためには問題の構造が判ってい

題も中途半端な取り組みに終わり、効果が得られな

問題は捨てて取り組むのが結局最も効率的であると

図Ⅱ- 2 PDCA

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いうことが、多くの例で経験されているのである。

多くの問題は、その内容を原因や現象に層別してみると、 結果に対して影響の大きい少数の項目と影響の少ない多 くの項目に分かれる。

・ 差の出るように分け方を検討する

・ 分けることが判ること

前節でも述べた事実に基づく管理とは、経験とか勘に頼るのではなく、科学的に事

実を分析して問題解決を図ろうとする考え方である。(図Ⅱ-4) 問題の解決策は、事

実の分析を行わなくとも考えることはできる。例えば、先に述べた挿話では、管理者

が「不注意だったんだろう。注意してやれ。」といっており、よいものではないが「注

意してやる」というのも対策の一つである。管理者の経験と勘に基づいた対策である。

経験や勘に基づくのは、その道の達人であれば悪いことではなく、むしろ適切なこと

も多い。しかし、種々の新しい問題に対して常に達人であることは難しい。正しい効

果的な対策を導くためには、問題に関する事実関係をよく調査し、それをもとに対策

を考案、実施していかなければならない。

事実(データ)に基づく管理 経験や勘に頼るのではなく、事実やデータに基づいて管理すること ただし、KKD(経験・勘・度胸)の活用も必要

3 現主義

現場で - 問題を起こした現場に行って 現物を - 現物をよく見て 現実的に - 観察した結果をデータ化して現実を明らかにしする

100%

累積比率

パレート図

図Ⅱ- 3 問題の影響度とその数

最後は、“プロセス指向

生む」という考え方を理

ていくことを主に実践す

人の問題、つまり注意力

製造業でも、突き詰めて

なければならないのであ

もし、プロセスをよくす

図Ⅱ

”で

解し

る改

であ

いく

るが

るこ

- 4 事実に基づく管理と3現主義

ある。(図Ⅱ-5) これは、「よいプロセスがよい結果を

、問題を正していくために仕事のやり方、仕組みを変え

善の進め方である。これが先に述べた挿話の主題である。

るとか、体調、性格、資質、能力などにも問題はある。

と最後は人の問題に突き当たる。人の問題にも取り組ま

、問題の発生の都度人を変えていくというのは難しい。

とによって結果をよくすることができるのなら、そのほ

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うが容易である。したがって、まずプロセスの問題に取り組むことを奨めるのである。

プロセス管理 結果を追うのみでなく、プロセス(仕事のやり方)に着目し、これを管理し、

仕事の仕組みとやり方を向上させることが大切、という考え方

プロセス管理のために

・現状の仕事のやり方にメスを入れ、改善し、最もよい仕事のやり方に改めていく ・標準化を重視し、よい仕事のやり方について標準を作り、守り、育てる。 ・品質は、検査だけでなく工程で作り込む。そのために工程をしっかり管理する ・結果に着目するだけでなく、結果を生むプロセスについて反省し、仕事のやり方

を改め、仕事の質を向上させる。 ・目標と実績の差異について、その要因を解析して、要因系を抑え込む。

2. 基本の考え方の実践 4 つの考え方をまず理解し、質

た。本節では、与薬事故の分析を

かについて述べる。最初にある病

事故報告書のフォーマットの工夫

2-1 ある病院での事故事例分

はじめに、どのような事故がど

生状況の調査を行った。その結果

転落、③チューブ、ライン抜去の

特に、①の与薬事故は全体の半数

り半減することを目標に活動する

次に、事故発生の要因を探るた

次の問題があることがわかった。

あるが、従来の報告書は主に反省

要因を抽出することは困難であっ

「確認不足だった」と記載されてい

ったのか」という、より深い要因

これらの問題に対し、事故の詳

プロセス図を作成し、その手順に

トを提案した。与薬業務プロセス

た、背後要因が適切に抽出できて

例分析方法を提案し、プロセスの

この分析に基づき、いくつかの改

図Ⅱ- 5 プロセス管理

改善を進めていくことが重要であることを述べてき

例にとり、これらをどのように実践していけばよい

院での事故事例分析の経緯を紹介し、プロセス図と

で重要な考え方が取り込めることを示す。

析の経緯 のような頻度で発生しているかを把握するために発

、①与薬に関する事故(与薬事故)、②患者の転倒・

3 種類の事故が多く発生していることがわかった。

以上を占めており、その年度は与薬事故に焦点を絞

こととした。 めに事故報告書の内容を詳細に検討しようとしたが、

事故防止のためには事故の背後要因の分析が重要で

文を書かせるようになっており、記載内容から背後

た。またエラーに至った要因として「不注意だった」、

る場合が多く、「なぜ不注意や確認不足がエラーに至

の分析は不可能であった。 細内容を把握できるようにするために、与薬の業務

沿って何を誤ったかを記述できるようなフォーマッ

図を付図 1 に、事故報告書例を図Ⅱ-6 に示す。ま

いないことに対しては、次回解説する予定の事故事

どこに問題があるかを把握することを可能にした。

善案を提案した。

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注射事故報告書No.

平成   年   月   日No.1

記入者

患者名

職 種

男 女

(   歳)入 院

部署名

平成   年   月   日病 名

経験年数       年      ヶ月

発生日時      月     日    :   (8-16、16-0、0-8) 発見日時      月     日    :   (8-16、16-0、0-8)

実施すべきこと 間違ったこと (間違ったことのみを記入)

患者名 氏に

与薬時間時間帯

量(単位)

薬剤名

(        )

患者名 氏に

与薬時間時間帯

量(単位)

薬剤名

(        )

を実際には

(チェックして選択)実施した

実施しなかった

その他(           )

注射する予定が

その他(                   ) 予定が

注射業務の振り返り

ミスがあったところだけでなく、すべての業務を詳しく、業務番号を用いて実際にやった業務手順を記入

*別紙の業務の流れでの業務番号参照

業務番号 実際にやったこと  (ミスの起きた業務番号には○印をする)

1.指示段階

事故に気付いた状況(いつ・どうやって・誰が)

4.実施後の管理・観察

3.実施段階

2.準備段階

図Ⅱ- 6 事故報告書の例

10

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2-2 プロセス図と事故報告書 事故報告書をどのようなフォーマットにするかは、医療事故防止においてきわめて

重要である。これを適切なものにすることによって、先に述べた問題解決のための重

要な考え方を取り入れることが可能となる。 事故防止に限らず問題解決を図るには、どのような問題が起きているのかを正確に

把握することが最初のステップである。問題の実態把握を強調するのは、次の二つの

目的がある。一つめは、重点指向により解決すべき問題点を絞り込むことである。先

の取組み例では、最初に事故の発生数を把握し、年度の活動として最も発生比率の高

い与薬事故に絞り込んでいる。もう一つの目的は、事実に基づく管理を実践するため

である。単なる推測に基づいて行動するのではなく、科学的管理ないしは科学的分析

を行うことを強調している。調べればわかることはそれを調べ、それに対処する方が

確実で効率的であるということである。 では、どのようにして事実を明らかにし、どのような事実を調べるべきなのか。1節で述べたように、不良品の実態を把握し、作業者の問題からプロセス、仕組みの問

題と捉え、プロセス、仕組みの具体的手順のうち、何があるいはどこで不良品を生む

ことになったのかを把握することで品質改善が進む。残念ながら、医療事故の報告書

は始末書的な運用をされており、反省文を書かせているケースが少なくない。ミスを

犯した人の心理的側面に関する事実を収集しているとも考えられるが、工業における

過去の例から見ても好ましいことではない。どのような事実を集めるのかをよく考え

る必要がある。つまり、事故報告書を書く目的が何であるかを十分認識する必要があ

る。 先の取り組み例の中では、与薬業務のプロセス図を作成し、業務手順に番号を付け、

どの業務手順において何をどのように誤ったかを記載するフォーマットを提案した。

その目的は、与薬プロセスのどこに不備があるかを明らかにすることである。プロセ

スの改善によって事故を減らすための報告書である。また、プロセス図が PDCA の Pにあたり、それに基づき実施(D)し、事故発生の有無(事故件数)という管理項目

でチェック(C)し、事故が発生したら P すなわちプロセスに是正処置(A)を施す

というマネジメントを行うことになる。このように、プロセス図と事故報告書を準備

することで、「マネジメント」、「事実に基づく管理」、「重点指向」、「プロセス指向」を

実践することが可能となる。 3. 事故事例の分析

3-1 インシデントとは 医療ケアの質の不具合を表す用語として、様々なものが用いられている。事故、ミ

ス、エラー、Adverse Event などである。これらの用語は厳密に定義を行って用いる

べきであるが、用語の定義は使用場面や目的によって適切に行わなければならない。

訴訟においては法律用語として定義されているものもあるし、人間工学においてはエ

ラーの中にも slip、lapse、mistake という 3 つのタイプが定義されている。 ここでは、業務の質を向上させるという立場に立って、「予定と実際のズレ」、「計画

と実行の差異」をインシデントと呼ぶ。予定と実際が異なるということは、業務上何

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らかの問題が発生したことを示しており、その影響の大小にかかわらず取り上げるこ

とにしている。重点指向の考え方に従えば、患者に重大な影響を与えるインシデント

を中心に分析するのがよいが、誤りの影響を容易に予想できる場合とできない場合が

ある。 例えば、輸血の手順を一つ間違えれば、直ちに重要な問題を引き起こす。一方、患

者取り違いは、絆創膏を貼り間違えたぐらいではたいしたことはないが、用いる注射

薬の種類によっては死亡する場合もある。絆創膏であっても注射薬であっても、ここ

で我々が認識すべき問題は、A さんが A さんであるということをどのように同定し、

確認するかということである。このミスを防止するのが課題であって、同じミスから

患者への影響はさまざまなものがありうる。対策をとる段階では患者への影響度を考

慮することも必要であるが、問題の本質を把握する段階ではとりあえず無視するのが

よい。 インシデントのタイプとしては、大きく分けて 2 つある。1 つは、手順が存在する

業務において発生するもので、与薬、検査、輸血、事務手続きなどにおけるインシデ

ントである。これは、前回述べたプロセス指向に基づき、プロセスをよくすることに

よって減らすことのできるインシデントである。もう一つは、転倒・転落に代表され

る手順が存在しないインシデントである。チューブの抜け、誤燕なども含まれる。こ

れら 2 種類のインシデントは全く性格の異なるものであり、それぞれに適切な分析手

法を用いる必要がある。本稿では、手順が存在するタイプの分析に絞る。 3-2 事例分析のための準備

1)目的の理解 きわめて当たり前のことであるが、事例分析を何のために行うのか、その目的を

分析者が理解していないとよい分析は行えない。分析の目的は何か。事故を減らす

ことである。決して統計データをとるためではない。事例が多く集まり始めると、

速く処理したい、簡単に全貌を知りたいという欲求が出てきて、処理自体が目的に

なってしまうことが多い。事故を減らすことが目的であるから、分析の結果として

は危険な要因は何か、事故を防ぐための対策はどうするのかが明確にならなければ

ならない。 事故を減らすことが目的であるということは、落ち着いて考えてみれば当然であ

るし、それを理解することも容易に思われる。しかし、現実の場では事例を収集す

ることだけが目的になっていることが少なくない。どの業種でもそうであるが、業

務には本来の業務と、その業務のやり方を改善していくという業務がある。医療で

は、本来の業務は病気の治療である。業務のやり方を改善していくという業務は、

ある意味で余分な仕事であり、やらなくても過ごしていけるものである。したがっ

て、その業務を行うには相当なエネルギーが必要である。余分な仕事なのであるか

ら、とかく目的意識も薄れてしまう。事例がうまく収集できない、事例分析が進ま

ないといった問題に遭遇した場合には、あらためて目的が何であるかを再確認して

みると、やるべきことは見えてくる。 事例の集め始めの時期には、「提出数が少ないのでどうすればよいか」といったこ

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とが問題になることがあるが、対策案が人々に示され改善が進む状況が目に見える

ようになり、事故報告書を提出することの意味がわかるようになれば、自然に増え

ていくものである。一方、多数の事例が収集されるようになった場合、すべての事

例を処理することが重要なのではない。たとえ 1 件でも、深く分析した方が今後に

生かせる有効な対策案が出てくるのである。 多くの事例を処理したくなる、あるいは事例報告に効率化を求めると、コード化

を考えたくなる。よいコード化がされていれば有効であることもあるが、一般によ

いコード化がされるためには、深い分析がなされなければならない。そのときには

問題は解決していることが多い。

2)レポート書式とプロセス図 前回も述べたように、レポートをどのような書式にするかは、改善を進めるため

にきわめて重要である。1 節で述べたように、インシデントにはいくつかのタイプ

がある。手順が存在する場合には、前回提示したようなどの業務手順において何を

どのように誤ったかを記載できるフォーマットが有用である。手順が存在しないタ

イプでは、当然この書式は使えない。例えば、転倒・転落においては、患者の病態、

体調、意識レベルなど、いわゆる患者要因がどうであったかが重要となる。したが

って、その場合の書式は、この要因が把握できるようなものにしなければならない。 本稿では、手順が存在するタイプの分析方法を解説する。この場合は、適切な書

式とともに、業務手順を示したプロセス図も必要である。

3-3 プロセスに着目した分析方法 1)正しい業務のモデル まず、看護師を例にとり、業務手順に従って正しく業務が行われる場合を考えて

みよう。図Ⅱ-7は、正しい業務、すなわちインシデントが発生していない場合の

モデル図である。中央の楕円が、業務を行う人を表す。この人が正しく業務を行う

には、まず正しい情報を手に入れなくてはならない。情報とは、処方箋での指示、

医師からの口頭指示、他の看護師からの申し送り事項、検査結果などである。次に

この情報に従って、業務に必要なモノを取りにいかなければならない。モノとは、

薬、輸液、注射器などである。そして最後に、正しい患者のところに行って正しく

作業を行えば、無事業務が終了することになる。 インシデントが起きた場合は、情報、モノ、作業のどこかで誤りが生じている。

どこで誤りが生じているのか、その誤りに関連する業務手順はどのようになってい

たのかに着目して分析を行うのが、筆者が提案する分析方法である。次節で例を挙

げて説明しよう。

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正しい情報

モノ薬、輸液、器

情報処方箋での指示

医師からの口頭指示他の看護師からの申送り

図Ⅱ- 7 正しい情報、モ

2)分析例 以下の例は、ラシックスを 1/2A 静注する

インシデントである。インシデントレポート

『尿量が 100ml/4 時間以下のとき、ラシック

朝 6 時に尿量 4 時間で 100ml に満たなかっ

いた(前勤務の Ns)。それから 4 時間後の

ため、ラシックス 1/2A を静注した。しか

理しており、その尿量は 150ml であった。

たことになる。つまり、静注しなくてもよ

施行してしまった。』 この看護師が正しい業務を行うためには、ま

ならば、ラシックス 1/2Aiv」という指示、す

ならない。さらに、「4 時間での尿量」も正しく

100ml 以下なら正しいモノ、ラシックスをと

しない、となれば業務は正しく終了すること

2 番目に必要な情報である「4 時間での尿量」

わっている。これが誤っていたために、誤っ

たのである。 では、なぜ誤った情報が伝わったのか。こ

尿の処理の担当はどのように決まっているの

14

作業与薬注射

正しい作業正しい作業

ノ、そして作業

必要がなかったのに静注してしまった

の記述を示す。

ス 1/2Aiv という指示があった。

たため、ラシックス 1/2A iv して

10 時、尿量 50ml/4 時間であった

し、尿を別の Ns が途中で既に処

結局尿量は 4 時間で 200ml あっ

かったのに、ラシックス 1/2A を

ず「もし尿量が 4 時間で 100ml 以下

なわち情報を正しく受け取らなければ

受け取らなければならない。そして、

り正しく静注し、100ml 以上なら何も

になる。ところが、この事例の場合、

が 50ml であるという誤った情報が伝

て余計にラシックスを静注してしまっ

こで業務手順として問題となるのが、

か、尿を処理した場合に尿量の伝達は

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どのようにして行うのかということである。この段階で、プロセス図と照らし合わ

せて、これに関連する業務手順があるのかないのか、あるとすればその手順に問題

はないのかを検討すればよい。ここでプロセス図を書いておくことが意味を持つ。

プロセス図に着目すれば、手順の問題が議論されるはずであり、「よく確認せずに実

施しました」という反省には終わらないはずである。

3)分析の手順 では、あらためて分析手順を整理しておこう。

[手順 1] 事故のモデル図を描く。 当事者の○を描き、「正しい情報」、「正しいモノ」、「正しい作業」を矢印で記入する。

[手順 2] 誤りを記載する。

(1)情報に関する質問

・どのような情報を受け

-指示の文書(処方

-口頭でどのような

-指示をどのように

-何を見なければな

・誤っていた情報は何か

・曖昧であった情報は何

-複数の意味にとれ

・伝わらなかった情報は

(2)モノに関する質問

・なぜそこにモノがあっ

・どのような準備をした

・薬局からいつ,どのよ

・どのように保管してい

-病棟常備薬,冷蔵

(3)作業に関する質問

・準備から実施まで何を

-プロセスを中断さ

・モノを病室までどのよ

・患者をどのように同定

(4)発見に関する質問

・なぜ誤りに気づいたの

「情報」、「モノ」、「作業」

に書き入れる。その際には

取ったか. 箋,カルテ etc.)に何が書いてあったか. 指示を受けたか. 受けたか. らなかったか.(経過観察表,引継ノート etc.) . か. るか 何か.

たのか. のか. うに運ばれるのか. るのか. 庫,麻薬保管庫

したか. せたものがあるか.

うにして運んだか. したか.

か.

表Ⅱ- 1 分析における質問項目

に関する誤りを、手順 1 で書いた矢印と区別がつくよう

、それぞれの項目に関して表 1 のような質問を行うと、

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誤りが明確となる。 表 1 の中で、「発見に関する質問」はモデル図を書くために直接必要なものでは

ないが、ミスを発見した状況を把握することで改善のためのヒントが得られること

が多いので、付け加えてある。 このモデル図は、input→process→output を記述したもので、製造業では業務フ

ローの標記、ソフトウェアでの入出力の記述などに一般的に用いられているものを、

投薬プロセスに当てはめたものと見なすことができる。つまり、プロセスを記述す

るための標準的な記法であり、このモデル図を用いることによって、自然にプロセ

ス指向を実践することができる。

3-4 分析のための組織 これまでに述べた分析方法を活用して有効な対策に結びつけていくためには、2 段

階での分析が必要となる。一つめは、実際にインシデントが起きた現場のメンバーで、

当事者、チームメンバー、チームリーダーでグループを構成して行うものである。こ

の分析の目的は、インシデントレポートの詳細を把握して、この後の組織的な分析を

容易にする、問題を共有化する、分析あるいは問題解決方法の教育をすることである。

当事者を入れるとやりにくいという意見もあるが、事実を詳細に把握すること、当事

者を責めるのではなく改善のために分析をするという風土づくりを行うことを目指す

には、当事者を含めた方がよい。前節で述べた分析方法は、この第一段階で利用する

ことを意図している。 二つめは、組織全体での分析である。現在は、リスクマネジメント委員会、質向上

委員会など組織の質向上を統括する委員会が作られていることが多いので、その委員

会で分析するとよい。この目的は、組織全体での共通問題の把握、共通対策案の検討、

標準化の推進である。現場レベルで改善を進められる問題もあるが、オーダーリング

システムの導入のような投資や意志決定をともなうもの、組織全体で統一しないと意

味のない対策など、全体を見渡した分析が必要である。病院においては、事例分析に

十分な時間がとれないのが現状である。したがって、ここでの分析において、再度当

事者にインタビューしないと詳細が把握できないようなインシデントレポートが集ま

ってくるようでは、非効率である。第一段階での重要な目的の一つは、第二段階での

検討を容易にするように、インシデントレポートを埋めることである。

3-5 SHEL モデルの活用 上述した要因分析において、要因を網羅的に列挙するための補助ツールとして

SHEL モデルを活用することが有用である。SHEL モデルは航空機事故の分析に使用

されるモデルであり、中心の L(本人)の問題と併せ、L-S(本人とソフト)、L-H(本

人とハード)、L-E(本人と環境)及び L-L(本人と他の関係者)のインターフェイス

に問題があるか分析をするものである。

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H.区別負担の大きい薬/器具/患者

L.本人の問題疲労、経験不足

E.確認不足を引き起こす環境

L.コミュニケーションの問題

S.認識・記憶負担の大きい業務

S:SoftwareH:HardwareE:EnvironmentL:Liveware

図Ⅱ-8 投薬事故分析用のSHELモデル

SHEL モデルの原点は航空機事故であり、そのまま医療事故に適用したのではわか

りにくい点がある。上の図は、医療事故に適用できるように、SHEL モデルを修正し

たものである。SHEL モデルに基づく具体的な背後要因の例には、以下のものがある。

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表Ⅱ-2 SHEL モデルの例

1)S:認識・記憶負担が大きい業務 以下のような業務(Soft)は、認識・記億の負担が大きく、取り違えや量を間違う エラーが起こりやすい。

・口頭指示、・手書きの宇が読みにくい、 ・過度に大きい又は小さい作業負担→投与前の検査緒果をもとに、投与量を算出

→他の人が準備した(トレイにセヅトした)薬の投与 ・作業の一時中断→作業中にナースコール

2)H:区別負担の大きい薬・器具・患者 以下のような薬・器具・患者などの業務対象(Hard)は区別負担が大きく、取り違えな

どの事故が起こりやすい。 ・同じ種類でも容量の異なる複数のアンプルが存在する、・似た名前または似た形状の

薬が近くにある、 ・異なる用途に同じ器具を並行使用、・似た名前または似た処置を受ける患者が近くに

いる 3)E:確認不足を引き起こす環境 以下のような環境が、確認不足の一因となる。そのような環境下で単純なミス(取り違

いなど)が起こった場合、確認不足のためにミスが発見されにくく、エラーが他の人に

も連鎖して大きな事故につながる。 ・時間的な焦り→予定の開始時刻に遅れて投与開始→緊急事態

(救急、患者様態の急変) ・継続的な業務→毎日行われている投与→複数本にわたる輸液実施時の輸液の追加

4)L:コミュニケーションの間題 病棟では、1 人の患者に複数の看護婦が関わる。また、看護婦は勤務時間帯で入れ替わる。

そのため、以下のようなことが事故の発生に影響を与えている。 ・通常業務の変更の伝達不足→継続的業務の、部分的な変更、終了業務に関する伝達

不足

複数の勤務帯が重なる時間帯の役割分担担当外が業務をするときの情報不足

即ち、SHEL モデルの 4 つの視点から背後要因を考えることによって、絡み合う要因

を網羅的に列挙することが出来る。 4. 標準化とその意義

4-1 標準とは 管理とは、計画、実施、チェック、処置のループを回すことである。管理の立場か

ら見たとき、計画と標準は同じもので、物事を行うために、その方法、手順などを、

筋道を立てて定めたものである。計画は 1 回限りの活動に適用されるのに対し、標準

は繰り返し行われる作業に対して定めるものである。

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医療行為はもともと不確実性があり、診断と治療が繰り返されるいわば試行錯誤的

プロセスである。又、対象とする患者の容態は文字どおり百人百様で、標準化の対象

になりえないように思われる。しかし、その試行錯誤を構成する個々のプロセス、例

えば、検査のプロセス、治療のプロセス等はそれ自体繰り返し行われる作業で、標準

化の対象になり得る。 標準は過去の経験と知識の結晶として作られるもので、確実で、効率的な業務の遂

行は良い標準をいかに設定し活用するかにかかっている。しかし、一方で、標準は自

由を制限するもので、新たな可能性を奪うものだとする考えもある。 標準の妥当性は、もしその標準が存在しない場合に組織にどのような不都合が発生

するかで検証される。もしその標準が存在しなくても、何も問題が生じないのであれ

ば、その標準は意味のない単なる拘束にしか過ぎず、廃止するのが良い。 しかし、例えば、同じ目的の業務が人によってばらばらのやり方では信頼性の高い

結果は得られない。そのことが組織の目的に重要な影響を及ぼすのであれば、その手

順を標準化しなければならない。標準は過去の経験と知識から、現在最も望ましいと

考えられる方法を定めたものである。従って、その標準に従って作業を行えば、より

信頼性の高い結果に繋がる。 標準化をする対象には、物、作業、仕組み、技術、測定など、様々なものがある。

標準とは、統一、単純化を図って関係者に便宜が得られるように、これらの対象に対

する取り決めを定めたものである。この中で、要求品質をできるだけ効率的に実現す

るための作業およびその手順を文書化したものが、作業標準書である。ここでは、多

数ある標準の中で作業標準に話を絞る。 3.「事故事例の分析」において、インシデントを分析するにあたっては、与薬の流

れをプロセス図に示し、分析で明らかになった問題点をプロセス図に照らして検討す

ることが重要であることを解説した。プロセス図は、与薬に関する一般的な手順を示

したもので、製造業では手順書または作業標準書に相当するものである。 このようなプロセス図に手順を表すことの目的の一つは、問題を解決していくため

に仕事のやり方を変えていくというプロセス指向を導入し、プロセス管理を促進する

ことである。これまでの医療業務においては、個人の注意力が重視される傾向が強く、

よいプロセスを構築するという考え方が弱かった。一般的な手順が記述できるのであ

れば、それを明確に記述し、それに従って業務を実行し、不備があれば改善していく

のがよい。これがプロセス管理の基本的考え方である。医療業務においても、そのよ

うなプロセスが数多く存在する。与薬はもちろん、検査や会計の業務にも適用できる。

医師の診断や手術も多くの場合は適用可能であろう。 プロセス図のもう一つの目的は、「標準化」である。標準化の目的は、 1)不適合、作業ミスの防止 2)決めることによる作業能率の向上 3)改善の容易化・促進 4)必要な作業内容の伝達 である。この中で、1)、2)に関しては一般に理解されていることであろう。決めら

れた良い手順に従うことによって、結果をよくし、効率を上げようということである。

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この効用も重要であるが、最初から完全な手順を作ることは難しい。現在考えられる

最良の方法を定めておき、それを改善していくことが実際的である。 現在行われている手順を改善する場合、起こってしまった不適合やミスと、その結

果を生みだした手順等の関係を調べることが改善の第一歩である。ここでどのような

作業を行ったのかがわからなければ、その調査から始めなければならず非効率的な解

析となる。標準は、改善を行うためのベースラインなのである。 プロセス図のような標準は、標準的な作業を可視化している。これにより、他人に

対して伝達可能となる。作業内容を徹底するための伝達の手段となり得るし、新人に

対する教育のためのテキストとしても有用である。可視化することは、複数名で検討

し議論することも可能となり、手順の改善を促進する手段ともなりうる。このような

上記の目的 3)、4)についての標準化の効用はあまり認識されていない。 実際病院において、例えば与薬の手順はほとんど文書化されていないか、されてい

てもそれを改善し改訂する、新人用のテキストにするといった使われ方はされていな

い事が多い。 病院としては、紙に書かれていなくても決められた手順はあり、それに従って実施

しているから標準化は行われているという認識があるかもしれない。しかし、文字や

図で手順を可視化し、それを維持、改訂していかなければ標準化の効用はもたらされ

ないということを十分認識しておく必要がある。 4-2 標準によるマネジメント(改善)の基本

製造業においては、何らかの不具合が生じた場合に、必ず標準という視点からの分

析を行う。以下に作業ミスの場合の分析の観点を示す。

(1)の場合はどのように作業すべきかが決まっていないので、その作業方法のど

こが良いとか悪いとかいったことを議論するのは不可能であり、作業標準等の作成を

早急に行うべきである。 (2)にはある特定の作業者ができないという場合と、誰もできないという場合の 2

つがある。前者の場合には訓練の実施、作業者登録制度の採用、適正な職場配置の実

現等の対応が必要である。また、後者の場合は生産ラインのスピード等も含めて、作

業性の面から作業標準を再検討すべきであろう。

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表Ⅱ-3 作業ミスの発生状況とその対応策 [1]

作業ミスの発生状況 対策

(1)標準作業が確立していない 作業標準の作成

特定の作業者ができない

適正な職場配置

作業者登録制度

訓練の実施

(2)標準どお

り作業するこ

とは困難 誰もできない

作業性の面から

作業標準の改訂

(3)標準どおり作業した 生産技術面から

作業標準の改訂

(4)標準作業の方法を知らなかった 教育の実施

(5)不要と判断した 動機付け

標準作業どお

り作業するこ

とが可能

標準ど

おり作

業しな

かった

標準作業の方法

を知っていた (6)やり損なった エラープルーフ化

(3)は技術の問題である。ハンダ付け作業や溶接作業などに関して作業ミスと呼

ばれている中には、このようなものが含まれている場合もある。この場合には生産技

術的な検討を十分行なった上で、作業標準の改訂を行なうべきである。 (4)は教育の問題であり、(5)は動機付けの問題である。作業者がいくら間違っ

てやろう と思ってもできないように、性悪説的な視点からエラープルーフ(人間の

ミスを防ぐための様々な工夫。後述)を行うというのは経済的でない。なぜ知らなか

ったのか、なぜ必要ないと思ったのかという点について詳細に解析を行ない、標準作

業を周知徹底させる方法について検討すべきである。 (6)については教育・訓練や職場の配置転換等をいくら行っても無駄である。こ

のようなミスに対しては、作業者の注意力を低下させないように休息の取り方を工夫

したり環境を整備することも重要な要素の一つではあるが、疲労するのを避けること

は不可能である以上は十分な効果を期待できない。したがって、(6)の問題について

は、だれがどのような体調や精神状態で行っても大丈夫なように、作業方法を変更し

て作業のエラープルーフ化を図る必要がある。 このように、ある作業ミスが起きた場合に、それに関わる作業標準の問題を追求す

る観点は様々なものがある。PDCA サイクルにおいて、標準は P にあたる。不完全か

もしれないが計画を文書化し、それに基づいて実行し、チェックする。そして問題が

あれば、上記の様々な観点から分析し、標準の改訂、教育による徹底を行って再発防

止を図る。これが標準によるマネジメント(改善)の基本である。

4-3 ISO9000 の活用 標準化は、医療ケアの質を向上させるために、取り組まなければならない重要な活

動である。しかも、個人個人が勝手に標準を定めては意味がないので、組織的に推進

していかなくてはならない。これに対する一つの方法は、ISO9000 を活用することで

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ある。 ISO9000 ファミリー規格とは、品質マネジメントに関する一般的な手順を示した国

際規格である。詳しくはⅣ章に説明するが、この中で、ISO9001 が品質マネジメント

システムにおいて、最低限実施しなくてはならない要求事項を記述したもので、審査

登録の基準として用いられる。1987 年に初版が出され、1994 年の改訂を経て、現在

は大規模な改訂がなされた 2000 年版が使われている。 この規格の具体的な要求内容は、規格本体か、Ⅲ章を参考にされたい。非常にラフ

にいえば、対象業務について「手順を定め、文書化し、そのとおりに実行してその証

拠(記録)を残す。手順に不備があれば、改善する。」ということを規定している規格

である。 この規格に基づいて品質マネジメントシステムを構築することは、標準化以外にも

病院にとって様々な効用が考えられる。以下に、簡単にまとめておく。 (1)基本動作の徹底

ISO9001 が規定する品質マネジメントシステムは、 ・目標と目標達成の方法を決める。 ・定めた計画(標準)通り実施する。 ・実施された計画(標準)を確認する。 ・計画との差異があったら適切な処置をとる。 ・以上を確実に実施していることを実証する。 ことである。

病院において今求められているのは、決められたことの確実な実施である。 (2)文書化 ISO9001 では、手順書の確立を含め様々な文書化が要求される。文書化は、現在行

っていることの可視化である。1 節のプロセス図で述べた効用がもたらされる。 病院においては、一般に文書管理がきわめて遅れている。文書体系の整備は、個人

任せの管理から組織のマネジメントへ脱却するための有効な手段である。 (3)システム指向 ISO9001 における品質マネジメントには、マネジメントへのシステムアプローチと

いう原則が取り入れられている。システムアプローチとは、 ・手順がフローチャートなどで明確に定まっている。 ・手順通りに仕事を行う。 ・手順通りに実施することが、目的を達成するための効果的で効率的な方法であるこ

とを保証する。 というものである。先に述べたプロセス指向に他ならない。ISO9001 に取り組むこと

によってこの考え方が導入され、また構築されたシステムが改善のためのベースとな

ることによって改善が進むことも期待できる。 (4)監査 ISO9001 に基づく品質マネジメントシステムを構築した場合、それが ISO9001 の

要求事項に従っているか、また実際に品質マネジメントシステムに従って業務が行わ

22

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れているかを評価するために監査が行われる。この監査は、内部監査と外部監査の二

種類がある。 内部監査は、組織内部の人(内部監査員と呼ぶ)が、自身が所属する部門以外の監

査を行うものである。この実施は、ISO9001 の要求事項に含まれている。内部監査は、

病院においては診療科どうし、あるいは部門間で peer evaluation が行われることに

なり、診療科単位、部門単位の閉鎖的な状況を改善しうるであろう。 外部監査は、外部の独立した機関によって行われるもので、代表的なものは認証登

録を行う際の審査登録機関によって行われる審査である。外部の目による評価を行う

ことは、内部にはない視点からの改善の糸口が与えられる。また、説明責任の観点か

ら、活動の透明性を高めることにもつながる。 以上の効用の中で、標準化と特に関係が強いのは(1)、(2)である。標準化の推進、

文書体系の整備を進めるために、ISO9001 に従って品質マネジメントシステムを構築

する手順は大変有効である。

4-4 標準としてのクリニカルパス 現在、医療界でクリニカルパスの研究、利用が活発に行われている。クリニカルパ

スは、標準化促進のための有力なツールである。真に有効なツールにするために、さ

らに研究が期待される。 製造工程における重要な標準の一つに、QC 工程表がある。QC 工程表とは、1 つの

製品の原材料、部品の供給から完成品として出荷されるまでの工程の各段階での、管

理特性や管理方法を工程の流れに沿って記載した表である。この管理表は、製造工程

全体を通じて品質管理活動の整合性を検討する際や、製造工程の監査に活用される。

工程設計の段階においては、工程設計のデザインレビュー(設計のチェック)を行う

ための検討対象帳票としての意義が大きい。また、作業標準、関連帳票などの台帳と

しての機能も持つ。工程でいかに品質を作り込むかに関して標準的な方法をとりまと

めたものである。 この QC 工程表とクリニカルパスは、製造工程と治療工程の違いはあるものの、目

的、機能、記載事項等は極めて似ている。QC 工程表の一般的な成果としては、 ・管理の体系を明らかにし、工程管理の全体像を把握する。 ・管理のもれ、重複を減らす。 ・管理の責任と権限を明らかにし、権限の委譲が行える。 ・早期に異常を発見する。 ・管理方法の不備を改善できる。 などがあり、クリニカルパスでもこのような効果が期待できる。クリニカルパスは、

プロセス図の一形態であるから、プロセス図が持つ効用も得られる。したがって、ク

リニカルパスの充実を課題として取り上げることは、標準化の第一歩として意義があ

る。 作成したクリニカルパスの有効性に関しては、2 つの側面からの評価が必要である。

一つめは、利用結果の評価、すなわち治癒の状況、在院日数、コスト、事故件数、患

者満足度など、結果としての評価指標を用いる評価である。2 つ目は、作成過程での

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評価、すなわち作成する際に明確になった見解、方法、手順、知識などの個人間の違

い、標準化できたもの、今後の研究課題などである。前者のような結果が改善される

ことも大切であるが、クリニカルパスは標準化推進のためのツールでもあるので、後

者のようなどれだけ標準化が進んだか、ということも見ておくことが重要である。 [参考文献]

[1]中條武志(1985):“製造作業のフールプルーフ化に関する研究” 東京大学博士学位論文

[2]飯塚悦功 , 棟近雅彦 , 住本守 , 加藤重信(2002):「ISO9000 要求事項及び用語の解説[2000 年版]」

日本規格協会

5. 人は誰でも間違える

質改善を進めるためには、人のミスを責めるのではなく、プロセスに目を向けて仕

事のやり方を変えていくことが重要であることを述べてきた。また、これを実践する

ことはそれほど容易ではないことも述べた。このような考え方の転換を行うには、ま

ず「人は誰でも間違える」という人間の基本的特性を理解する必要がある。人間のミ

スについてはこれまで様々な研究が行われてきており、この基本的特性について触れ

た文献は大変多いので本稿では詳しく述べない。医療事故に関連した文献としては、

米国医療の質委員会/医学研究所[1]の「人は誰でも間違える(原題:”TO ERR IS HUMAN”)」が参考になる。

人間のミスの発生確率についても、多くの研究がなされている。詳しくは文献[2]を参照されたい。例えば Williams[3]は、NHEP(Nominal Human Error Probability:名目人間エラー確率)を用いる HEART(Human Error Assessment and Reduction Technique)を提案した。HEART は、人間信頼性を定量的に評価するための手法で、

基本的な人間のタスクの性質に応じてタスクを 8 分類し、NHEP を割り当てている。

NHEP は、作業条件、環境条件などの評価対象の要因を考慮していない基本的なエラ

ー確率である。実際の作業を評価するには、人間行動に負の影響を与えるエラー発生

条件を同定し、その条件に応じて NHEP にかけるべき値を乗じてエラー確率を算出す

る。このエラー発生条件は、「エラーの検出、修正の時間的ゆとりがない」、「要求され

ている行動標準に曖昧なところがある」、「意図しなかったアクションを修正する手順

がはっきりしていない」のように表現されたもので、医療現場に当てはまる発生条件

も多い。この手法でエラー発生確率を推定するためには基本タスクのエラー確率を収

集しなければならないので、現状では医療における発生確率を正確に見積もることは

できないが、発生確率がそう低くはないことは容易に理解できる。 5-1 人的ミスに対する組織的対処 人的ミスに対処する方法としてよく見受けられるものの 1 つは、ミスをするのは気

持ちが弛んでいるからだと考え、ミスをした作業者にもっと注意して作業しなさいと

指導するというものである。作業者別にミスの件数を張り出す、ミス防止月間などを

設けることは、作業者にミスの重大性を理解させるという点では非常に大切であるが、

このような対策は「やる気によって作業の能率や質が左右される」という人間の特性

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の一面しか見ていないものといえる。 ミスに対するもう 1 つの典型的なアプローチは、作業者の内的な心理状態よりも作

業の管理方法を重視するものである。たとえば、ミスが起こるのは標準がきちんとそ

ろっていないからだ、教育・訓練が適切に行われていないからだという考え方である。

実際、職場で発生したミスの事例について 1 件 1 件その内容を調べてみると、適切な

作業指示を行っていなかった、作業者が正しい方法を知らなかったなどの原因により

起こったと思われるものが少なくない。しかし、すべてのミスがこのような原因によ

るものと考えるのは無理がある。 上に述べた 2 つのアプローチは、ミスは人間が犯すものであり、ミスの原因は基本

的に人間にあるという考え方に基づいており、ある意味では合理的な考え方といえる。

しかし、先に述べたように人間は本質的にミスを犯すものであり、人に注意を促すこ

とも大切であるが、それだけではミスを防ぐことはできないので、後述するエラープ

ルーフ化を含めミスの少ない作業方法を整備することが重要である。そして、組織で

仕事をしている以上は、これを組織的に進める必要がある。 中條[4][5][6][7][8]は、これまでに述べた人的ミスに対する対処方法の考え方を基本

として、エラープルーフ化のための方法論とトラブル情報に基づく組織要因の解析方

法を提案している。作業者も看護師も組織の一員として業務をこなしている。何かし

らの業務上のミスがあった場合には、組織要因として何が問題であったかの分析がな

されるべきである。工業においては、個人の不注意で片づけるような時代はだいぶ前

に終わっている。4-2 の表Ⅱ-3「作業ミスの発生状況とその対応策」で示した観点

を利用して、組織要因の何に問題があったかについて徹底的に分析する対処方法が一

般的である。また、作業者の内的な心理状態よりも作業の管理方法を重視する方が効

果的なのである。

5-2 エラープルーフ 1)エラープルーフとは 人間がちょっとした気のゆるみから犯すミスや過失を防ぐ、あるいはそれによっ

て引き起こされる不具合を低減したり影響を小さくするための様々な工夫をエラー

プルーフと呼ぶ。本来はフールプルーフと呼ぶのが正しいが、フールという用語は

海外では差別用語として扱われる傾向が多くなったので、本稿ではエラープルーフ

と呼ぶことにする。その他に、バカよけ(日本でもバカは忌避する傾向がある)、ポ

カヨケなどとも呼ばれることもある。 もともとは安全管理の分野から生まれたことばで、ベルト、ギヤ、プレス等にう

っかり手をはさんでけがをしないように安全カバーをつけたり、誤操作による事故

や設備の破損が起きないようなフェールセーフ、フェールソフト等の仕組みを指し

ていた。フェールセーフとは、製品などに故障が生じるとき、その機能は失われて

も安全性が保持されるように配慮する設計思想である。フェールソフトは、製品や

その一部の部品などに故障が生じても、システムや製品全体の急激な故障を生じさ

せないように、部品等一部分の故障や、ゆっくりした機能低下でとどめるような設

計思想である。最近はこれらの仕組みを含め、人間のミスの発生率を下げるための

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工夫、ミスを犯したときの影響を小さくするための工夫などはすべてエラープルー

フとしている。 エラープルーフは、工業における現場の知恵として創意工夫により実施されてき

た。これに関し中條[4]は、多くの事例を分析し、エラープルーフ化の原理(原著で

はフールプルーフ化の原理)として体系化した。エラープルーフでどのような工夫

が行われているかを理解するために、次節でこの中條の研究成果を簡潔に紹介する。

2)エラープルーフ化の考え方 実際の製造工程で行われているエラープルーフ化の方法には様々なものがあるが、

それらは大きく、 (1)品質トラブルや事故の原因となる作業ミスが起こらないようにする (2)発生した作業ミスが品質トラブルや事故を引き起こさないようにする の 2 つに分けられる。 (1)に関しては 3 つの原理がある。ミスを発生させない最も効果的な方法は「作

業を行わない」ことである。これを排除の原理と呼ぶ。これが不可能な場合には、

「作業を人間に任せない」あるいは「作業を人間にとって容易にする」ことが考え

られる。これらはそれぞれ代替化の原理、容易化の原理と呼ばれる。代替化の方法

は、 完全代替化:設備や治工具を工夫することによりミスをおかしやすい作業を作業

者が行わなくてもすむようにする。 一部代替化:作業の主体はあくまで作業者に残しておき、作業上必要となる記憶、

知覚、判断、動作の機能の一部を補助する手段を用いる の二つがある。また、容易化の方法は、

共通化・集中化:変化や相違を少なくする 特別化・個別化:変化や相違を鮮明にする その他の容易化:憶えやすく、見えやすく、扱いやすくするなど、記憶、知覚、判

断および動作の対象を人間の能力にあったものにするの 3 つがある。 (2)のミスによる影響が拡大するのを防ぐ方法としては、「ミスを検出し処置す

る」、「ミスの影響を緩和するための作業や緩衝物を組込む」の 2 つがある。これら

はそれぞれ異常検出、影響緩和の原理と呼ばれる。 本来ミスを防止するには、起きてしまったミスに対して対策を考えるのではなく、

現在のプロセスからミスを予測し、未然に対策をうっておくことが望ましい。その

ような観点から、中條 [5]は、予測的エラープルーフ化の方法論として AFPM(Assessment for Fool Proofs in Manufacturing)を提案している。しかし、医療

の現場においては、既にかなりのミスが起きているもののエラープルーフ化が進ん

でいないこと、新規のプロセス設計はまれであることにより、まず起きているミス

に対して着実にエラープルーフ化を実施していくことが大切である。 エラープルーフ化を進めるには、どのような作業を行っており、その中のどの作

業でどのようなミスが発生しているかを明らかにしなければならない。そして、ミ

スの種類とそれを防ぐためのエラープルーフ化の方法論が対応づけられていれば、

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対策案を立案することが容易となる。 中條[5]は、製造作業における 16 種類のエラーモードを整理している。エラーモ

ードとは、作業対象や製品の種類に依存しないように、なるべく普遍的にエラーを

表現したものである。これらは製造作業から抽出されたものであるが、医療での様々

な作業にも当てはめることができる。これを利用した医療現場での適用方法につい

て、次節で述べる。

3)医療現場におけるエラープルーフ化 医療現場においても、どのようなミスが起きているかを把握することが、ミス撲

滅への第一歩である。それらを体系的に整理することは未完成であり、今後種々の

事故事例からミスを調べ、エラーモードとして整理する必要がある。表Ⅱ-4 に、

医療現場におけるエラーモードと作業ミスの例を示す。これは、筆者が分析した事

故事例で判明したもの、および中條の分類から類推される作業ミスを列挙したもの

である。表中のエラーモードは、中條が整理した 16 種類のエラーモードである。

これらのエラーモードで、医療現場におけるエラーモードもほとんどカバーできる。 表Ⅱ-5 に、医療現場でのエラープルーフの例を示す。中條は、工業における表

Ⅱ-5 のエラープルーフ化の原理とそれに対応する実現方法を整理している。これ

をもとに、筆者が医療現場で適用可能なエラープルーフの例を列挙したものである。

これらには、既に実際に利用されているものもあるが、アイデア段階のものも含ま

れている。 表Ⅱ-5 には、ミスの発生防止の原理のうち排除の原理は入っていない。排除の

原理は、作業あるいは機能そのものをなくしてしまうものであり、実際の例は少な

い。また、異常検出、影響緩和の原理も省略した。これらについては、与薬カート

を利用して一覧によって配薬忘れを検出する、透析においてエアー混入防止のため

にエアー検知器を使う、処方箋監査を行うなど、いくつかの例はある。しかし、異

常検出、影響緩和は、ミスの発生を防ぐものではない。最初にとるべき対策は、表

5 にある代替化、容易化と考え、これらは省略した。これらの表を活用してエラー

プルーフ化を進めるには、以下の手順で進めるとよい。 手順 1)インシデントレポートを分析し、表Ⅱ-3「作業ミスの発生状況とその対

応策」の観点で作業ミスの発生状況を把握する。すなわち、ほぼ適切な

作業標準ができており、その教育、伝達等が着実に行われているかどう

かをチェックする。 手順 2)エラープルーフ化が必要な問題と判断できれば、表Ⅱ-4 のどのエラー

モード、作業ミスに当てはまるかを分析する。 手順 3)表 5 の例を参考に、対策案を検討する。表Ⅱ-5 で例を見つけるために、

表Ⅱ-6 に示す対策立案ガイドラインを利用する。 手順 1 において、作業標準ができておらず、教育、伝達もできていない状況であれ

ば、エラープルーフよりもそれらの管理的要因にまず手を打つべきである。手順 3における表Ⅱ-6 は、エラープルーフ化の原理とミスの分類に対応する具体的な実

現方法を整理したものである。実現方法は表Ⅱ-6 のものに尽きるわけではないが、

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表 5 の具体例を探すために有用となる。 4)実施のための注意事項 図-Ⅱ-9の写真 1 は、与薬カートである。各引き出しは患者毎に用意され、そ

の中は配薬時間ごとにしきいで区切られている。表 5 に示すように薬の数え間違え、

選び間違え、配薬忘れを防ぐために有効な道具であり、エラープルーフ化の原理を

いくつか取り入れることを可能にする。しかし、これを用いてもエラーが起こるこ

ともあり、特に薬の変更が頻繁な病棟では変更作業が大変になり、効率が悪くなる

ことも考えられる。このように、エラープルーフの導入に際しては、病棟の特性な

どを考慮しながら効率、副作用なども十分検討する必要がある。 写真 2 は、ICU における輸液管理の例である。電解質補正を行う場合、点滴の流

量を一時的に上げて補正終了後に戻す必要があるが、終了後に流量を元に戻すこと

を忘れるというミスが発生していた。これを防ぐために「流量アップ中」というタ

グをつけることにした対策である。これは、表 5 にあるように「一部代替化」、「指

示と記録」を活用したものである。この例は、タグをつけるという作業が一つ増え

るために、一見すると効率が悪くなると見える。実際、これを導入した病院でもそ

のような指摘があった。しかし、タグをつける前は、電解質補正中であることを人

間が記憶しておかなければならなかった。記憶を外化することで、記憶に基づいて

作業する必要をなくしているのである。この記憶負担は人間にとって大きいもので

ある。記憶というのは手を動かさないので効率には影響しないように見えるが、そ

の負担は大変なものであり、この場合はたとえタグをつけるという作業が一つ増え

ても総合的には効率は向上するのである。

写真1 与薬カート

朝 昼 夕 眠前

朝 昼 夕 眠前

火・・・

写真2 流量アップ中のタグ

・・・・・・

図Ⅱ-9 エラープルーフの例

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このように、エラープルーフの実施においては、一つの作業の効率性で判断する

のではなく、一連の作業を考えた場合の総合的な効率、効果を考慮する必要がある。

特に、記憶のような人間の内部処理に関する負担は見逃しがちで、表面的な効率で

判断してしまう場合が多い。効率と作業ミスの防止は相反するものと考えられがち

であるが、この例が示すように、効率をよくすることが作業ミスの防止につながる

のである。 エラープルーフは、人間のミスの発生確率を下げるための様々な工夫であり、医

療事故を防ぐために取り入れるべき有用な考え方である。しかし、常に発生確率を

ゼロにできるエラープルーフを実施できるものではない。また、意図的な標準遵守

違反や教育不足を救うための手段ではない。これまで述べてきたプロセス指向や標

準によるマネジメントとともに推進していくことで効果が発揮される。 このⅡ章では TQM のすべてを解説したわけではないが、医療の質管理を進めてい

くための基本的考え方、方法論は、十分説明した。理解が困難な内容はそれほどなか

ったと期待している。あまり難しい方法論は必要ではない。本項で述べきたことをま

ず理解することが ISO9000 を有効に活用する質管理、質改善を始めるベースとなる。 [参考文献]

[1]米国医療の質委員会/医学研究所著 , 医学ジャーナリスト協会訳(2000):「人は誰でも間違える」

日本評論社

[2]塩見弘(1996):「人間信頼性工学」 日科技連出版社

[3]J.C.Williams:”HEART-a proposed method for assessing and reducing human error”(1986):in

9th Advan e in Reliabili y Tech. Symp. Univ. of Bradford c t

[4]“作業のフールプルーフ化に関する研究-フールプルーフ化の原理-”(1984)「品質」 Vol.14

No.2, 128-135

[5]中條武志、久米均(1985):“作業のフールプルーフ化に関する研究-製造業における予測的フール

プルーフ化の方法-” 「品質」 Vol.15, No.1, 41-50

[6]中條武志、久米均(1985):“作業のフールプルーフ化に関する研究-製造業におけるフールプルー

フ化の方法(1)-” 「品質」 Vol.15, No.4, 350-359

[7]中條武志、久米均(1986):“作業のフールプルーフ化に関する研究-製造業におけるフールプルー

フ化の方法(2)-” 「品質」 Vol.16, No.1, 4-13

[8]中條武志(2002):”人間行動に起因する事故の未然防止のための方法論の体系-「複合技術領域に

おける人間行動研究会(終了報告)」 「品質」 Vol.32, No.2, 225-237

[9]中條武志、久米均(1984): ”作業のフールプルーフ化に関する研究-フールプルーフ化の原理- ”

「品質」 Vol.14, No.2, 128-135

月間薬事 Vol45№1~№4 医療ケアにおける質問題 早稲田大学理工学部 棟近より引用

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表Ⅱ-4 医療現場におけるエラーモード

エラーモード間の関連性 エラーモード 具体的な作業ミス例

抜け

薬・処方箋・指示票の取り忘れ、ボタン

操作の忘れ、検査のし忘れ、記録の取り

忘れ、点滴バッグの隔壁開通忘れ、配薬

忘れ、転記ミス

回数の間違い 実施済みの作業の重複、繰返しのある作

業における回数の過不足 順序の間違い 前後の作業の順序を逆に実施

実施時間の間違い 注射・点滴・与薬・検査実施の時間を間

違える

作業要素を間違え

るミス

作業に 関する記憶上の

ミス

禁止作業の実施 事故を引き起こす行動

選び間違い 薬、指示票、記録用紙等の選び間違い、

薬の量の間違い 数え間違い 内服薬の数、アンプル数の間違い

認識間違い 計器や記録の読み間違い、患者の状態の

誤認、患者の誤認、転記ミス 危険の見逃し 危険物、危険箇所の見逃し

位置の間違い

運搬場所、処置部位、セット位置の間違

い、記録の記述欄を間違える、三方活栓

やスイッチ等の設定位置を間違える、チ

ューブの接続ミス 方向の間違い 操作方向の間違い 量の間違い 角度や長さなどの操作量の間違い

外部情報 受取り上の

ミス

保持の間違い 医療器具を間違った持ち方をする

不正確な動作 ずれた位置にセット、不正確な処置、転

記ミス

不確実な動作 不正確な器具の固定、不正確な器具の保

持、誤って落とす、離す

各々の作業要素の

内容を正しく行う

ことに関するミス

動作上の ミス

不十分な回避動作 危険物への接触、歩行中の衝突、落ちる、

つまづく

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表Ⅱ-5 医療現場におけるエラープルーフの例

原理 実現方法 説明 例 連結 他の物や機械の動きおよび

状態を問題としている物や機械に作業者を介することなく伝える。電気的、機械的方法がある。

人工呼吸器における加湿器のスイッチ入れ忘れ 対策:人工呼吸器のスイッチと加湿器のスイッチを連動するようにする。

完全代替化

機械化 作業者が行っていることを機械で置き換え、作業者はそれらの始動や簡単な操作を行えばすむようにする。

インシュリンの投与時の計算ミス 対策:マイジェクターを使用する。 薬の数を数え間違える 対策:与薬カートを利用する。 患者の確認ミス 対策:バーコードで確認する。 転記ミス 対策:医師の指示をプリンタで出力してシールにし、必要なものに貼る。

指 示 と 記録

作業者の記憶を助けるためには、行うべき作業を外から示す作業の結果が外に残るようにする。

追加薬終了後に流量を戻すのを忘れる 対策:流量変更シールを貼る。 必要業務の抜け、業務の重複実施 対策:1 日の業務内容をホワイトボードに書き出し、実施済みのものはチェックをする。 冷蔵庫に保管した薬の与薬忘れ 対策:他の与薬予定の薬と一緒にダミーの人形などを置く。 服用忘れ、与薬忘れ 対策:薬に直接服用日、服用時間を記入する。 対策:注射施行後にサインする。 指示の実施忘れ 対策:指示が完結するまで指示棒を立てておく。

見 本 と ゲージ

作業指示票の内容、部品の種類や数、セットの向きや位置、あるいは設備の操作方向や操作量等を判断する際の基準を外から与える。

内服薬の数を間違える 対策:与薬カートを利用する。 ヘパリン 2800 単位のうち、2400 単位で止める予定が全量投与した。 対策:投与予定量以下の量しか準備しない。 シロップ剤の投与量を間違える 対策:投与量をシロップ瓶にマジックで印をつける。

代替化

一部代替化

ガイド 動作を助けるために、外から動作を規制する。

点滴速度の設定ミス 対策:調節器具に速度目盛りを入れる。 対策:大人に小児用点滴セットを利用する。 チューブの接続を間違える 対策:静注用チューブと経管栄養チューブの径を変える。 対策:三方活栓のかわりにプラネクタシステムを使う。 オーダーリングでの薬の選び間違い 対策:入力は 4 文字以上とする。

規則化 作業の順序や場所を決めていつも同じ方法で作業する。

薬の準備の際に必要な手順を抜かす 対策:準備作業の順序を決めておく。 与薬忘れ・誤った時間に与薬 対策:一定時刻に配薬・与薬する

容易化

共通化・集中化

グ ル ー プ化

関連のある作業をまとめて行う。続けて使用する部品や治工具は一箇所にまとめておく。

与薬(混注)すべき薬を忘れる 対策:患者一人、1 回分の薬をすべてトレイに入れる。 冷蔵庫から薬を出し忘れる 対策:他の薬の準備の際に冷蔵庫から出しておく 投薬量に過不足が生じる 対策:一人ずつ準備、施行を行うのではなく、現在ある実施予定分をすべて準備してから施行する。 薬の選び間違い、量の間違い 対策:対策:one dose(unit dose)処方にする。

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統 合 と 対称化

類似したいくつかの部品や治工具の形や特性を一種頼に統一する。それらの形を対称にする。

アンプルの種類を間違える 対策:アンプルを 1 種類に統一する。 インシュリンの投与量を間違える 対策:スライディングスケールを統一する。

現 物 と の整合化

対応を間違えないように、部品や治工具の色、記号、置場、形、大きさ、向き、距離等を一致させる。

患者を間違える 対策:色の付いたトレイを患者毎に用意し、ベッドの近くに同じ色の紙を貼っておく。 注射の種類の間違い 対策:予防注射の問診票と薬品のバイヤルの色を同一にする

分業化・専業化

同種の作業をまとめて別々に行う

薬の準備中にある作業を忘れる 対策:薬の準備を確認、混注、施行という役割分担を行い、専業化する。

均一化 取り扱う部品や治工具の形、置き方等を統一し、作業に必要な動作の種類の絶対数を少なくする。

三方活栓の取り扱いを間違える 対策:三方活栓を病院全体で 1 種類に統一する。

薬の選択間違い 対策:薬を統一する(例:インスリンで 40 単位、100 単位製剤があるのを 40 単位のみに統一する) 対策:薬品数を減らす。 対策:剤形、名称の似た薬品は採用しない。

注意喚起 指差し、喚呼、チョークによるチェック等の能動的な動作を行う。

点滴の氏名、薬品名などの確認忘れ 対策:声を出して確認する。確認の際にマーカーで印をつける。

ラ ベ リ ング

類似した部品や治工具の外観、置場、表示等を大きく異なるものにする。それらの形を非対称にして、混同しやすい種類、数、状態、位置、向き、量等の差を大きくする。

類似した薬品を取り間違える 対策:キャップやラベルの色を変える。置き場所を離す。 注射器の選び間違い 対策:注射以外の目的で使うシリンジには色をつける。 薬の選び間違い 対策:「うがい薬」「消毒薬」のシールを表示する。 対策:同一成分薬で規格の違う場合は、商品名の異なるものを採用する。 対策:点滴ボトルに ID(患者名等)を記載する。 患者の誤認 対策:手術患者のネームバンドを科別に分ける。 対策:リストバンドを着用させる。 ライン・チューブの接続ミス 対策:チューブの色を薬によって変える。

特別化・個別化

動 作 方 法の特殊化

動作を特徴的なものにして動作における混同を防止する。

記憶量・時間削減

忘れやすい作業を先に行ったり語呂合せ等の方法を用いて作業の内容や順序を覚えやすくする。

点滴バッグの隔壁開通忘れ 対策:準備の際に開通しておく。 変更の指示、伝達を忘れる 対策:変更の指示、連絡は発生した時点ですぐ行う。 冷蔵庫から薬を出し忘れる 対策:他の薬の準備の際に冷蔵庫から出しておく

表 示 方 法適正化

表示する情報の種類に適した感覚を用いたり、表示の大きさ、位置、背景との対比等を工夫して、表示を見やすく受取りやすいものにする。

薬品量を間違える 対策:単位を統一する。 点滴の速度を間違える 対策:輸液ボトルに時間の目盛りを記載する。

その他の容易化

作業対象・空 間 適 正化

部品・治工具の大きさや形、それらの取扱いに必要な力、作業を行う足場等を人間に適したものにする。

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表Ⅱ-6 エラープルーフ化対策立案ガイドライン

ミス分類

EP 化原理 記憶上のミス

外部情報

受取り上のミス 動作上のミス

完全代替化 連結 機械化 代替化

一部代替化 指示と記録 見本とゲージ ガイド

共通化

集中化

規則化

グループ化

統合と対称化

現物との整合化

分業化・専業化

均一化

特別化

個別化 注意喚起 ラベリング 動作方法の特殊化

容易化

その他の容易化 記憶量・時間

削減 表示方法適正化

作業対象・空間

適正化

33

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III ISO9000 及び審査登録制度の概要 1. ISO9000 とは

ISO9000 ファミリー規格は、1987 年 3 月に ISO(国際標準化機構)に

よって発行された品質管理及び品質保証のための一連の「品質システム規

格」です。 ISO9000 ファミリー規格は発行以来すでに 150 カ国以上で国家規格とし

て採用されており、審査登録制度が運用されています。 (アフリカ :49、中南米・北米 :32、ヨーロッパ :47、アジア・オーストリア :22

合計 150 国 1999 12 時点) 我が国においても、ISO9000 ファミリーは 1991 年に JIS Z 9900 シリー

ズとして制定されて以来、広く活用されており、企業活動に大きな影響を

与えています。 1-1 ISO9000 ファミリー規格の構成

ISO9000 ファミリー規格は 1987 年に制定されて以来、1994 年に第 1次の改定が行われ、次いで 2000 年 12 月に第 2 次の改定が行われて、

ISO9000、ISO9001、及び ISO9004 として発行されました。我が国におい

ても、直ちに JIS Q 9000、JIS Q 9001、JIS Q 9004 の 3 規格を、改定さ

れた ISO9000 ファミリー規格の完全一致規格として制定しました。 ISO9000 ファミリー規格は表 7 の通り、性格の異なる 2 つの規格から構

成されています。 ISO9000、(JIS Q 9000)は共通する基本の考え方や使われる用語の定

義です。 ISO9001、(JIS Q9001)は製品やサービスを作り出す品質システムに対

する要求事項の標準化をねらった規格で、後で述べる審査登録制度の対象

となる規格です。組織が、自分たちの顧客に対して、顧客の要求事項を満

たす製品やサービスを確実に提供するために“管理すべきシステム要素”

を規定しています。この内容は後に具体的に記述します。 一方、ISO9004、(JISQ 9004)は、組織が、品質管理のシステムを整備

する場合に従うことが好ましい指針として記述されています。品質システ

ムの整備を進める時の国際的にコンセンサスが得られた品質システムの

“テキスト”であって、一般的にいわれる“規格”のように厳密な形で使

用することを意図したものではありません。 ISO9001 と比較すると、持続的な顧客満足、組織のパフォーマンスの有

効性や効率を継続的に改善することをねらいにしています。

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表Ⅲ-1 ISO9000 9001 9004 の要求事項の対比

ISO9000 JIS Q 9000 品質マネジメントシステム基本及び用語 ⇒品質マネジメントシステムの基本を説明し、関連する用語を定義する。

ISO9001 JIS Q9001 品質マネジメントシステム要求事項 ⇒組織が顧客要求事項及び適用される規制要求事項を満たした製品を提

供する能力を持つことを実証することが必要な場合、ならびに顧客満

足の向上を目指す場合の、品質マネジメントシステムの要求事項を規

定する。 ISO9004 JISQ 9004

品質マネジメントシステムパフォーマンス改善の指針 ⇒ ISO9001 で規定される要求事項を超えて、品質マネジメントシステム

の有効性及び効率の双方を考慮して、その結果として組織のパフォー

マンス改善のための可能性を考慮するための指針を提供する。 この 2 つの規格は一貫性のある一対の規格として作られており、両者の

関係を明確にするために統一した章立て構成で作られています。このこと

のねらいは、規格の利用者に次の 3 項目の理解を促すためです。 ① ISO9001 から ISO9004 への継ぎ目のない発展 ② 審査登録に留まらず、さらに卓越したマネジメントシステムへの発展 ③ 品質マネジメントシステムの改善から本来のパフォーマンスの改善

への展開 また、 ISO9004 は ISO9001 で理解しにくい要求事項についての解説書

としても利用価値があります。 1-2 ISO9001 の要求事項の内容 審査登録制度と関係が深い ISO9001 は次のような章立てから構成され

ています。 一見、製造業を対象にした規格のように見えますが、業種、規模を問わ

ずあらゆる組織に適用することを意図して作られています。この規格での

「製品」とは“プロセスの結果”と定義されており、“サービス”も含まれ

ます。

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0.序文 1.適用範囲 2.引用規格 3.定義

4.品質マネジメントシステム

4.1 一般要求事項

4.2 文書化に関する要求事項

5.経営者の責任

5.1 経営者のコミットメント

5.2 顧客重視

5.3 品質方針

5.4 計画

5.5 責任、権限及びコミュニケーション

5.6 マネジメントレビュー

6. 資源の運用管理

6.1 資源の提供

6.2 人的資源

6.3 インフラストラクチャー

6.4 作業環境

7. 製品実現

7.1 製品実現の計画

7.2 顧客関連のプロセス

7.3 設計・開発

7.4 購買

7.5 製造及びサービス提供

7.6 監視機器及び測定機器の管理

8. 測定、分析及び改善

8.1 一般

8.2 監視及び測定

8.3 不適合製品の管理

8.4 データの分析

8.5 改善

第 0~3 章は規格の前提条件、第 4 章は品質マネジメントシステム全般

にかかわる要求事項で、いわば総論です。 第 5 章は、組織が質管理システムを構築し運用するために、経営者が果

たさなければならない役割、責任が規定されています。 第 6 章は、経営者が示す品質方針、品質目標を達成するために必要な、

人的資源、施設・設備などのインフラストラクチャー、作業環境などの経

営資源にかかわる要求事項です。 第 7 章は、設計・開発から始まり製造、サービス提供まで、顧客のニー

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ズを満たす製品・サービスを提供するための活動に対する要求事項です。 そして第 8 章は、測定、分析、改善に関する要求事項で、2 つに分けて

考えることができます。 1)は製品、プロセスの監視、測定に関する要求事項 2)は品質マネジメントシステムの継続的改善についての要求事項で

す。 この規格は、業種や規模、提供する製品を問わず、あらゆる組織に適用

することが意図されていますが、7 章に限って、組織や、製品の性質によ

って、規格の要求事項の適用が不可能な場合は、その要求事項の削除をし

ても良いことになっています。 おのおのの品質システム要素に対する具体的な要求事項の中身は規格

の本文を読む必要がありますが、規格を理解するポイントを要約すれば: 第一は、規格の目的に「顧客満足の向上」があるように、顧客重視の考

え方が取り入れられていることです。組織には、顧客満足に関する情報を

監視することが求められています。 第二は、プロセスアプローチの考え方です。組織の仕事は、つながりを

持った多くの工程、つまりプロセスが連携して進められます。個々のプロ

セス、そしてプロセスとプロセスのつながりを明確にして運営管理するこ

とが必要です。プロセスアプローチについて、 ISO9001 の序文 02 項に次

の様に説明されています。

組織が効果的に機能するためには、多くの関連しあう活動を明確にし、運営管理す

ることが必要である。インプットをアウトプットに変換することを可能にするために

資源を使って運営管理される活動は、プロセスとみなすことができる。一つのプロセ

スのアウトプットは、多くの場合、次のプロセスへのインプットとなる。

組織内において、プロセスを明確にし、その相互関係を把握し、運営管理すること

と合わせて、一連のプロセスをシステムとして適用することを“プロセスアプローチ”

と呼ぶ。

そして規格の本文の冒頭:4.1一般要求事項には次のように記述されてい

ます。

組織は品質マネジメントシステムに必要なプロセスを明確にし、運用に必要な判断基

準、方法を決め、必要な資源を確保し、運営状況を監視し、計画通りの結果が得られる

ように必要な処置をとる。

“プロセス”とはインプットをアウトプットに変換する資源を使用する一

連の活動、例えば、図Ⅲ―1に示すプロセスのインプットとアウトプット

の例示とされている一連の活動が「与薬のプロセス」と定義されます。

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処方箋調剤、監査配送、照合

服 薬

図 Ⅲ-1 プロセスのインプットとアウトプットの例

もちろん、この与薬のプロセスは更に「調剤のプロセス」等のサブプロセ

スから構成されています。どの大きさでプロセスを括ってシステムを整理

するかは、管理の目的から判断されます。 このような病院の医療サービスを構成する“プロセス”を明確にし、そ

のプロセスをきちんと運用するための基準・手順・責任を整え、プロセス間

の相互関係を把握して運営管理することが“プロセスアプローチ”です。

(付図1:「プロセス図」参照) 第三は、継続的改善です。改善が要求されているのは品質マネジメント

システム、つまり、仕事の進め方や管理の仕組みです。システムを改善す

ることで、総合的、長期的で、確実な改善を期待しているのです。 第四は、顧客重視、プロセスアプローチ、継続的改善を確実に実行する

ために、経営者の役割、責任が強調されていることです。システムを構築

し維持し改善していくためには経営者のリーダーシップと人々の参画、組

織全体の活動が不可欠です。ですから規格は、経営者を品質マネジメント

システムの構築・運用の総責任者として位置づけ、強いリーダーシップを

発揮することを求めているのです。 そして第五は、文書化についての要求です。「仕事の進め方・管理の仕

組みを目に見える形にすることで、より効果的な管理が可能になる」、とい

う文書化の意義を理解し、企業にとって必要な文書の作成が要求されてい

ます。しかし、ここで注意すべきことは、ISO9001 の規格で決められてい

るのは、品質マネジメントにおいて実施すべき事項(what)が規定されて

いますが、それをどのように行うかについては規定されていません。Howの面が欠けています。即ち、規格は「どのようなことを管理の対象にすべ

きかの項目」を提示しているのであって、「どのように管理するか」は組織

に任されているのです。規格に基づく活動が有効であるためには本来次の

3 つが基本になります。 ①必要な事柄が文書化された標準・規格になっているか(what) ②その内容が適切であるか(how) ③定められた事柄が守られているか( conformity)

ISO9001 規格において、要求していることは、この中の①と③で、②につ

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いてはほとんど触れられていません。例えば、「7。5。1 製造及びサービ

ス提供の管理」の項では、「組織は、製造及びサービス提供を計画し、管理

された状態で実行すること、管理された状態には、該当する次の状態を含

むこととされ、 ①製品の特性を述べた情報が利用できる ②必要に応じて、作業手順が利用できる

の表現が記述されています。 たしかに医療サービスを実施する場合に、患者さんに関わる情報がきち

んと提示され、必要な処置手順が定められていなければなりません。情報

や手順書の有り無しは大切ですが、要は、どのような情報がどのように提

示され、手順書に何を書かなければならないかが大切です。 しかし、how の問題は what の問題の展開であり、その展開の仕方は実

施する組織の業種、業態、規模、技術的能力などによって変わってきます。

すべての業種、規模の組織を対象とする ISO 規格としては how の問題に

立ち入ることは困難で、ここは実施する組織に任されています。この点を

よく理解して取り組むことが必要です。[3] もう一つ ISO9001 の規格を理解する上で大切なことは規格の背景に位

置付けられている「品質マネジメントの原則」です。 ISO9001 ファミリー規格の 2000 年改定に置いて、次に示す 8 つの“品

質マネジメントの原則”が明確にされました。 ここに提示されていることは、品質マネジメントシステムの運営に際し

て、異論をさしはさむ余地のない常識的事項で、Ⅲ章の「質管理のための

基本の考え方」と共通しています。ISO9001 の内容を自分たちの組織の活

動に合わせて解釈するときの基本の考え方として、よく頭に入れておく必

要があります。

a)顧客重視

組織はその顧客に依存しており、そのために、現在及び将来の顧客二一ズを

理解し、顧客要求事項を満たし、顧客の期待を越えるように努力すべきであ

b)リーダーシップ

リーダーは、組織の目的及び方向を一致させる。リーダーは、人々が組織

の目標を達成することに十分に参画できる内部環境を創りだし、維持すべ

きである。

c)人々の参画

すべての階層の人々は組織にとって根本的要素であり、その全面的な参画

によって、組織の便益のためにその能力を活用することが可能となる。

d)プロセスアプローチ

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活動及ひ関連する資源が一つのプロセスとして運営管理されるとき、望ま

れる結果がより効率的に達成される。

e)マネジメントヘのシステムアプローチ

相互の関連するプロセスを 1つのシステムとして、明確にし、理解し運営

管理することが組織の目標を効果的で効率よく達成することに寄与する。

f)継続的改善

組織の総合的パフォーマンスの継続的改善を組織の永遠の目標とすべき

である。

g)意思決定への事実に基づくアプローチ

効果的な意思決定は、データ及び情報の分析に基づいている。

h)供給者との互恵関係

組織及びその供給者は独立しており、両者の互恵関係は両者の価値創造

能力を高める。 2. 審査登録制度とは

2-1 審査登録制度の枠組み 組織の品質マネジメントシステムの実施状況が、規格や契約で定められ

た要求事項を満たしているかどうかを評価・確認する最も確実な方法は、そ

れぞれの顧客が個別に当該の組織を訪れ監査を実施することですが、これ

では監査する側もされる側も大変効率が悪いことになります。ISO9001 に

よって品質マネジメントシステムが標準化されれば、その適合性の評価を

纏めて行うことが可能と考えられます。このような観点から、実施されて

いるのが品質マネジメントシステムの第三者審査登録制度です。適切な権

限をもつ認定機関によって認められた第三者、即ち審査登録機関が組織の

品質マネジメントシステムを審査し、ISO9001 の要求事項に適合している

場合にはそのことを公表し、顧客はその結果を信頼して当該組織との取引

に活用するというのが基本的考え方です。 なお、この制度を最初に始めたヨーロッパでは“Certification“(認証)

という言葉を使っているのに対し、アメリカでは法的責任を伴わないよう

“Assessment and Registration”(審査登録)という言葉を使っています。日

本でも後者の立場をとって“審査登録”と呼んでいます。図Ⅲ-2にこの

制度の枠組みを示します。 この制度は、組織の審査登録そのものに関するしくみと、審査員の登録

に関するしくみの 2 つからなっています。 組織の審査登録は民間の「審査登録機関」が行います。この審査登録機

関の適切性を評価し妥当と認められたときに「認定」する機関として、や

はり民間の「認定機関」が最高位に位置付けられています。現在ほとんど

の国で、認定機関は一国に 1 機関です。 日本では、日本適合性認定協会、通称“JAB”が設立されています。

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品質システムの審査を実施する審査員も「審査員評価登録機関」が評価

し適格と認められると登録されます。この審査員登録機関の的確性を評価

し認定し登録するのも「認定機関」です。この制度においては、審査員は

審査技術に関する定められた教育・訓練を受けることが適切性のひとつの

条件になっています。この教育訓練を行う「審査員研修機関」の適切性も

また認定機関によって評価されています。

認定機関(財)日本適合性認定協会【JAB】

審査登録機関 審査員評価登録機関

審査員研修機関

組織会社,法人,事業所,団体、他

審査員 合格者 審査員候補

登録 認

登録

審査 登録

評価

研修・

試験

合格

登録

認定

登録

認定

図Ⅲ-2 審査登録制度の枠組み

2-2 審査の方法 審査登録を受けようとする組織は、審査を受ける「審査登録機関」を選

定しなければなりません。(審査登録機関の選定についは後述) 選定した審査登録機関に登録の申請をし、契約が結ばれます。 現地での審査に先立って、通常事前に提出した「品質マニュアル」に対

する書類審査が行われます。品質マニュアルは登録しようとする組織の品

質マネジメントシステムの全体像を記述したものですから、その品質マニ

ュアルが規格の要求事項を満たしているかどうかがまずチェックされます。 実地審査は、財)日本適合性認定協会から与えられた対象従業員数を参

考にした審査工数(何人の審査員で何日)を基準にして事前に審査登録機

関から実施計画が提示されます。通常従業員 300 名以内であれば 3 人~5人の審査員で 2 日位を必要とします。

実地審査では品質マニュアルに記述されている通りに品質マネジメン

トシステムが運用されているかを担当者に質問し、文書や記録を確認する

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ことによって行います。 審査の内容は審査結果報告書に纏められ被審査側の確認を得て、各審査

登録機関に設けられている判定委員会に報告されます。判定委員会では審

査結果報告書に基づいて登録の可否が審議決定され、通知されます。 登録が確定すれば、登録証が交付され、公表されます。この制度では、

登録すれば終わりではなく、登録された組織は、品質システムが効果的に

維持されているかどうかを確認するために、少なくとも年に 1 回はサーベ

ランス(定期維持審査)を受けることが決められています。品質システム

は一度構築しても、それを適切に維持していくのは難しいことですし、

ISO9001 の規格の中でもシステムの継続的改善が要求されています。この

維持・改善状態を確認するしくみがサーベランスです。 組織の中にいては気の付かない、あるいは気が付いていても中々実行に

踏み切れない仕事の進め方の改善課題を外から見て指摘し、実行を促して

いく仕組みがこの制度の大きな特長です。 さらに、この登録証の有効期限は 3 年間で 3 年毎に「更新審査」が実施

されます。サーベランスの連続でシステムの維持改善は確認されていきま

すが、3 年に一度はシステムの全体を振り返って登録継続可否の審査が行

われます。

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IV ISO9000 を取込んだシステム整備の進め方

多くの組織において、これまでの仕事の進め方、管理の仕組みの総点検・

再整理が必要だと思っていても、よほどの大事故でもなければ、具体的に

はなかなか手が着かないのが普通です。 ISO9000 とその審査登録制度は ,これを第三者の外圧を利用して ,推し進める効果があります。

ISO9000 への取り組みとは、簡単に言えば仕事の進め方の「整理、整頓」

です。 現状の業務の流れを ,改めて紙に書いてみると,意外に責任や手順が曖昧

なところが見えてきます。例えば、与薬のプロセスについて、医師が処方

箋を書くところから病棟の看護婦さんが患者さんに薬を飲ませるところま

での業務の流れについての“ユニットプロセスの連鎖”を書いてみてくだ

さい。これを組織内で議論して、業務標準として定めていく標準化の活動

が ISO9000 への取り組みです。 現状のやり方で不具合があれば ,その仕事の進め方に改善が必要です。ま

ず、現状の業務の進め方を可視化して一旦固定しなければ、その上に改善

の積み重ねは出来ません。 しかし、仕事の進め方、管理のしくみの標準化と言っても、組織の活動

は広範囲に渡っていて、無手勝流では何を整理すれば良いのか判りません。 ISO9000 の規格は、世界中の識者が集まって、顧客の立場から見て組織

として何を定め、管理しておかなければならないかを整理したリストです。

即ち、何を(どのような業務機能を)整理するべきかを定めたチェックリ

ストと考えることが出来ます。 自分たちの仕事を整理し、それの抜け落ちや不足を補うための“チェッ

クリスト”と考えると、さすがに世界中の人が集まって作っただけのこと

はある有効な規格です。 業務の進め方の標準化を ISO9001 というチェックリストを用いて、審査

登録と言うタ ー ゲ ット を 設 けて ,組織全体の活動として推進するのが

ISO9000 への取り組みです。 品質マネジメントシステムを導入し審査登録をするまでの一般的なステッ

プを例示すれば次のようになります。

1. 導入宣言 ISO9001 による品質マネジメントシステムの導入は、「これまでの仕事

の進め方、管理の仕組みを見直す」と言う、組織にとっての一大プロジェ

クトです。 このプロジェクトを成功させるためには、経営者(院長,理事長)の強

いリーダーシップと全員参加の体制が不可欠です。経営者自らその決意を

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明確に表明して組織全員の参加意識を高揚し、維持することがポイントに

なります。経営者が自らの言葉で、組織全員に向けて、明確に ISO9000 の導入を宣言すること。 自組織にとって、ISO9000に取り組むことの意義・狙いを明確にすること。

審査を受け登録すること自体が目的でなく、 ISO9000への取組みを通じて、

より患者本位の安心感,信頼感の持てる病院運営の体制構築を推進すること。

即ち ,経営者は病院の質管理に関わる問題意識を踏まえた明快な方針、方針

達成に向けた組織体制作り、率先垂範の姿勢を示すことが必要です。そして

そのためには、経営者(理事長、院長)が自ら勉強し ISO9000の本質につい

て一定の理解をし、導入の必要性を認識すること、各職種の主要なメンバー

に ISO9000を活用した病院の質改善についてⅡ章に記述した予備知識を持

たすことが必要です。 多くの組織において、これまでの仕事の進め方、管理の仕組みの総点検・

再整理が必要だと思っていても、よほどの大事故でもなければ、具体的に

はなかなか手が着かないのが普通です。誰でも今の仕事のやり方を変える

ことには抵抗感があります。これを推進するには文字通り経営の強力なリ

ーダーシップが必要です。

2. 推進体制の構築 推進組織は ,品質マネジメントシステムに関して ,全部門に指示ができる権

限を経営者から委譲されたリーダーの元に、組織の各部門の代表者が集い ,その代表者が各部門のまとめ役となってシステムの整備を進めるのが一般的

です。また必要に応じて部門横断のワーキンググループを作って検討するこ

ともあります。

プロジェクト委員会の役割

1. 取組みの実行スケジュールを策定し ,その進捗を管理すること 2. 組織として管理すべき“プロセス”を明確にすること

3. “プロセス”整備の方向付けをし、実施担当者を決め ,進捗を管理

すること 4. 部門間にまたがる業務手順を審議決定すること 5. 品質マニュアルの内容を審議し ,経営者に答申すること

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病院長

プロジェクト委員会

事務局

委員長・・・副院長

委員・・・事務長

委員・・・医師

委員・・・看護師長

委員・・・薬剤部

委員・・・検査部,放射線部

委員・・・栄養士

部門別委員会プロジェクト委員が中心となり部門内の検討メンバー

を組織する。

* 各職種の主要なメンバーをプロジェクト委員に指名し、経営の意思を示す。* できれば、事務局に専任に近いメンバーを1名は確保する。* 正式に任命する

図Ⅳ-1 推進組織の例示

3. マスタープランの作成

本来業務と並行してシステムの総見直しを進める作業は容易ではありませ

ん。登録までの実施事項に具体的な達成時期を定めて実行管理していくこと

が推進のポイントです。 登録までの期間としては、組織の現状の管理レベルや業務の複雑さによっ

て違いますが、1 年から 1 年半くらいが一般的です。 一般的なマスタープランの事例を下記に示します。自組織の実態に合わ

せて、実施内容を具体化し、プロジェクト委員会で進捗を確認し、修正し

ながら進めることが必要です。

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表Ⅳ-1 マスタープランの例示

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13

推進体制整備

広報、教育

審査機関選定 ,申請 /契約

システムの現状把握と整理

品質マニュアル原案・手順書作成

内部品質監査(監査員養成)

予備審査

品質マニュアル・手順書修正

システム運用

登録審査

4. 教育訓練及び広報

ISO9000 を取込んだ医療の質改善を有効に進めるためには、本テキスト

のⅡ章に記述した「質改善のための基本の考え方」を理解し ,「質改善の道

具」を適時活用するための教育訓練が欠かせません。ISO9000 自体の教育

も必要です。又、経営者の ISO9000 への取組み宣言をスタートにプロジェクト

委員会の状況を随時、全組織に広報して行く事も必要です。 本テキストをベースに上記の事務局が中心になって、自分達の組織の実

情に合わせた教材を作り実施して行きます。それによって教育する側の理

解が一歩先行し事務局としての役割が果たせるようになります。 即ち、

① ISO9000 についての正しい理解 ② 質管理の考え方、システム思考の浸透、 ③ システムの見直し・整理の進捗状況の周知、を目的に、たとえば、簡

単な社内報を作って、組織の実情に合わせた解説をつくり、全員に周

知するのは事務局の重要な役割です。 教育、広報について、具体的な実施スケジュールを定めて、実行管理し

ていくことが大切です。

5. 審査登録機関の選定 この制度は登録すればお終いではなく、前述の様に定期維持審査が継続し

ます。審査機関と組織の間はシステムの維持改善についてパートナーの関係

で継続します。従って審査機関の選定に際しては、出来るだけ直接、審査機

関を訪問して ,当該審査登録機関の審査に対する考え方や審査実績をよく確

認し、自組織の取り組みのねらい・目的に照らして選定することが大切です。

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6. 医療サービスを構成するプロセスの整理 6-1 現状の業務実態の整理 品質マネジメントシステムの見直し・構築の第 1 歩は、これまでの仕事

の進め方・管理の仕組みを目に見える形にすることです。 まず、現在、各部門で実施している業務を構成する単位プロセスとして

切り出し、そのプロセスの実施手順と責任を「プロセス図」に書いて見ま

す。ここでいう「責任」とは,組織の管理者が持つ包括的な責任ではなく、

“その業務を誰が実施するか”の実行責任です。プロセスの大きさをどの

程度にするかについては,“管理できること”すなわち“担当(計画、実行、

検証、改善、……)”するグループ、人が特定できることが要件です。 たとえば、“診察・診断プロセス”、“治療プロセス”という程度の大き

さが最大で,常識的にはこれより一段小さくして,受診登録-予診-診察

-検査(放射線検査 ,生理検査・・・)-評価(診断)-診断結果の説明と

同意-治療計画-外来治療-入院手続き-入院計画の説明-治療(手術/

投薬治療(調剤、注射、点滴、与薬)/輸血/栄養指導/…………)…・

という程度の大きさが適当です。 「プロセス図」の作成は、まず最初に、当該業務の目的は何かを明確にし

ます。 次に、仕事はどんなステップで進むのか、その業務の工程を書いてみます。

当該業務は何をインプットとして始まり、どんな作業手順、要領に従って、

誰が実施し、その結果としてどんなアウトプットを次の工程(誰に)に渡す

のかということをまとめます。具体的には次の様に作ります。 ・ タイトルを明確にする。 ・ 範囲(スタートとエンド)を明確にする。 ・ 当該のプロセスの目的を明確にする。 ・ 横軸に部門を書く(Where, Who)。 ・ 右端には、帳票、文書、会議体、手順、備考など目的に応じて欄を設

ける。 ・ 実施事項を端的に表現する(What)。 ・ 出来るだけ、「主語+述語(何をなにする)」で表現する。 ・ 実施事項を上から時間の流れ順に書く。 ・ 順序関係がわかるように矢印でつなぐ。矢印は一方通行である。 ・ 判断を伴うのは、◇で囲み、結果したがって分岐させる。 ・ 流れは途中で途切らせない。 ・ 最初におおまかにかいてみて、その後に線が複雑にならないように横

軸の部門を入れ替えて見る。 ・ できるだけ、1 行に実施事項はひとつにして、横に(時間軸に)重な

らないようにする。

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この作業は、いままでの仕事の進め方や管理の仕組みの「整理 /整頓」です。 毎日実施している業務も、いざ紙に書いてみると意外に曖昧なところが

多いことに気付くと思います。又、本来、同じ手順で実施されているはず

の業務が病棟によって、あるいは人によって違うことに気付くと思います。

書いたものを関係者で検討し、少なくとも現状で最も適切な手順を確認しま

す。部門間に跨る業務のインタフェイスは特に重要です プロセス図を作ることによって、手順が可視化され、関係者での議論が可

能となり、手順の共通化が図れます。病院の関係者は一般にプロセス図を書

くことになれていません。まず、自分達が実施している仕事の手順を書いて

みることが必要で、このプロセス図を書くことによって、プロセスを整理・

可視化することの必要性を自覚することが肝要です。そして、そのプロセス

を間違えなく運用するための、判断基準・手順・責任などを“標準書”として定

めておくことの必要性を検討し、必要であれば、“標準書”として制定します。 必要か否かの判断は、その業務の進め方が、ルールとして定められていなか

ったことによって生ずる可能性のある不具合を想定し、それが医療の質を保証

していくために重要か否かを関係者が判断して決めます。 プロセスの検討に際しては常に顧客の視点で“信頼感の持てるシステム”を

意識してください。 「プロセス図」の事例を付図1-1,1-2に示します。図はあくまで参考

例です。実際には、使われている帳票名や確認事項等も加えて具体的な運用手

順を記述します。 6-2 病院システムの全体像の整理

単位業務のプロセスの整理(プロセス図)の作成と並行して、病院業務全

体がどのようなステップで実行されるかの全体像を整理します。 産業界では、例えば、

「市場のニーズの把握」→「製品の企画」→「製品の設計」→「製品の製造」→「販売」 「市場の評価の把握」

の工程をそれぞれの部門がどのように役割を分担し、「次の工程に保証すべき品

質」をどのように確認して実施するかを「品質保証体系図」に纏めています。 この「品質保証体系図」の病院版を作成することによって、病院システムの

全体像を整理します。 「品質保証体系図」を整理することによって、病院業務を構成するシステム

の全体が把握できると共にそれを構成する主要プロセスの相互関係を確認する

こと、更にそのプロセスを構成するサブプロセス(6-1 で検討した単位業務のプ

ロセス)の位置付けを明確にします。 作成した「品質保証体系図」をプロジェクト委員会で検討し、更に、手順と

責任を明確にしておくべき“サブプロセス”の抽出を行います。このサイクル

を回すことによって、組織全体の業務実態の整理を行います。

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付図2に病院版の「品質保証体系図」のモデルを添付します。但しこの

モデルは、どの病院にも共通する一般的なレベルで書かれています。実際

には、もう少し肉付けをして、当該病院の理念や方針に基づく特長ある業

務の進め方が理解出来ること、図の右側に備考欄を作り、各工程で引用さ

れる“規定”や“手順書”(プロセス図)を記述しておくことが必要です。

これによって「品質保証体系図」が病院全体のシステムの索引あるいは目

次の役割にもなります。 付図2に病院業務に適用した「品質保証体系図」を例示する。

6-3 インシデント・アクシデントレポートの解析と業務手順(プロセス図)

への反映 「単位業務のプロセス図」⇔「品質保証体系図」によって病院システムの現

状整理がある程度進んだら、現実に発生している事象を起点に現状の業務の進

め方(プロセス図に整理した)を見直し改善していくことが必要です。 ISO9000 への取組みは仕事の進め方を標準化し、必要な文書化をすることで

すが、それは、仕事の進め方の改善の基点を整理することで、仕事の進め方を

固定するものではありません。 本テキストⅡ章 「3。事故事例の分析」を参考に実際のインシデント・

アクシデントを分析し、その結果を仕事の進め方(プロセス図)の改定に

繋げていきます。 整理したプロセスをその運用の中で発生するインシデント・アクシデン

トを基点に常に見直し改定が進められる体制をつくる事が肝要です。

ISO9001 8.5.2、是正処置 8.5.3 予防処置に該当します。

6-4 品質方針・目標の設定とシステム自体のPDCA 病院にはその設立の理念があり運営の基本方針があると思います。一方、

現実にはインシデント・アクシデントの発生や、患者さんからの苦情・要望、

あるいは、内部の人が自覚する問題点もあります。このギャップをどのよう

に改善していくかについての経営者(理事長・院長)の方針と具体的な改善目

標の設定が必要です。 改善目標の設定には現状実態の把握が必須ですから、「品質保証体系図」の

整理を通じてシステムの全体像を明確にし、インシデント・アクシデントの

解析を通じてシステム運営の実態を把握する段階を経て、経営としての改善

目標を定めます。 経営者の品質目標を各部門に展開し、具体的な改善計画を立て、実行管理し結

果をシステム(「品質保証体系図」)に反映していくPDCAのサイクルの確

立が要求されています。 更に、組織として、上記の“実務プロセス”が適切に機能するためには、そ

のプロセス自体のPDCAを回すための“C”の機能がきちんと整備されてい

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ることが必要です。 ISO9001 の規格はこれらの機能を非常に適切にリストし

ています。 「マネジメントレビュー」・・・経営者によるシステムの運営実態の定期見直

しのプロセス【5.6】 「プロセスの監視、データの分析」・・・業務実態の事実による把握・集計・分析

のプロセス 【8.2.3、8.4】 「内部監査」・・・・後述 【8.2.2】 特に内部監査のプロセスは後に詳しく述べますが、システムの整備の段階で

も、整理・構築中のシステムを相互に確認することに非常に有効です。 6-5 質管理体制整備の全体図

6-1~6-4 に記述した、システム整備の相互の関係を図示すると図の通りで

す。 病院は、一般的に質管理の基本であり、また ISO9000 の要求事項の背景にあ

る「プロセス指向」「PDCA」になれていません。従って、まず、業務実態の

「プロセス図」の作成と病院システムの全体像「品質保証体系図」の整理を重

点的に実施し、業務の進め方を“可視化”すること、標準化することの意義を

実感することが大切です。ついで、インシデント・アクシデントの解析及び方針・

目標の展開を通じて、整備中のプロセス自体にPDCAを回す体制を構築しま

す。 即ち、図Ⅳ-2の①→⑤→②、③→⑤→②、④→⑤→②の順で進め、自

組織のシステムの全体像がほぼ整理ついた段階で、初めて規格との対比を

することになります。 この段階までは ISO9001 の規格を意識する必要はありません。システム整備

の当初から ISO9001 の規格の要求事項を確認し、この要求事項に則してシステ

ムを整備していくことは、決して望ましくありません。ISO9001 の規格は元々

規格に則した画一的なシステムの構築を要求しているものではありません。規

格はあくまで、業務実態を実情に合わせて整理したシステムの客観的な視点か

らの抜け落ち防止のチェックリストとして使うべきです。

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①現状業務の実態整理単位業務プロセスの作成

病院業務を構成する主要プロセスの相互確認

②病院システムの全体像の整理

ISO9001規格要求との対比・確認

審査、登録

品質マニュアルの整理

③インシデント、アクシデントの事例解析

⑤プロセスシステムの課題抽出      ・ 改善検討      ・ 必要プロセスの標準化

病院運営の基本理念との対比患者満足・患者視点での

医療体制の確認

④病院運営に関わる質方針・目標の設定・実施

システムの運営管理

是正/予防処置のプロセス整備

文書/記録の管理プロセスの整備

目標展開プロセス整備

・ 内部監査プロセスの整備・ マネージメントレビューのプロセス整備

図Ⅳ-2 ISO9001 を活用した「質管理体制の整備」 全体構想

7. ISO9001 の規格要求事項との対比によるシステム整備課題の抽出

6.のステックで整理したシステムを規格の要求事項と対比して、必要なシス

テムの整備課題を確認します。整理されたシステムから規格を見れば、実務に

関わる業務機能については、ほとんどの要求事項が、既に取り込まれているは

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ずです。しかし、実務を支える基盤の機能:

「組織及び権限」・・・組織体制の整備、アウトソーシングの管理、管理責任者の

選任【5.5.1、4.1、5.5.2】 「資源の提供」・・・人的資源、インフラストラクチャーの確保 【6.1、6.2、6.3】 「文書化」・・・文書の起案・承認・発行・廃止・配布の管理、記録の維持管理 【4.2】 「内部コミュニケーション」・・・・・組織内の情報伝達(会議体の設置等)【5.5.3】 などについての整理が必要です。

これらの機能について、組織には明確に意識されていなくても何らかの体制、

ルールがあるはずです。それを、ステップ[6]と同様、まず見える形に整理し

てください。即ち、これらのプロセス、例えば文書の起案⇒承認⇒発行⇒配布

⇒旧文書の廃棄の責任と手順を明確にして、必要な文書が必要な部署で確実に

利用できる体制になっているか否かをまず、見える形に整理してみることです。 その上で ISO9000 の要求事項の該当部分(上記の【】内が規格の対応項目)

と対比して、必要な補強をして下さい。 繰り返しになりますが、大切なことは ISO9001 の要求事項に沿ってシス

テムの整理をするのではなく、現状の業務の進め方を整理し、それを規格と

対比して、規格をチェックリストとして活用することです。 ここでも、6。と同様、必要なプロセスについて“標準書”に整理します。 但し、 ISO9001 の規格で、文書管理プロセス、記録の管理プロセス、不

適合品の管理のプロセス、是正処置のプロセス、予防処置のプロセス、内部

監査のプロセス、の 6 つのプロセスは、“文書化された手順”の作成が要求

されています。

8. 品質マニュアル作成 品質マニュアルとは、自分たちの品質マネジメントシステムの全体像を纏

めた文書です。 ISO9000 の 2.7.2a)には「組織の品質マネジメントシステムに関する一

貫性のある情報を、組織の内外に提供する文書」と記述されています。即

ち、顧客に自組織の質管理の実態を開示し、信頼感を付与する為の文書、更

には、自組織内に品質マネジメントシステム全体の基準・骨格を理解させ、

顧客満足の向上を目指し、継続的改善を実行するための情報を提供するため

のものです。そして、審査登録機関の審査員が、実地審査する時の品質マネ

ジメントシステムの全体の骨格を理解するための文書です。 ステップ[6]、[7]で整理したプロセスを引用して、自分達の品質マネジ

メントシステムの“全体像”をまとめます。 ISO9001 の要求事項の章立て通りに整理する必要はありません。付表「品

質マニュアルの基本構造」に病院における品質マニュアルの構成内容を例示

します。

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付表の構成内容から、品質マニュアルとはどのようなことを記述するのか

の概要は理解出来ると思います。但し、これはあくまで[例示]であって、

全面的にこの章立て通りに作る必要はありません。規格の要求事項を取込ん

だシステム整理のモデルとして活用してください。 品質マニュアルを作成する場合の一般的な留意事項を下記に示します。

品質マニュアルとは 1 何のために作る?

☆ 自社の品質システムを顧客に開示して、信頼感を付与するための文書

☆ 自社の品質システムの全体像を明示し社内に徹底するための文書

☆ 第 3 者審査機関による審査登録の基準文書

2 何を記述する?

* ISO9000 の要求事項を自社では“どのように実施しているか”を記述

する

* 第 3 者が品質システムの運用状況が理解できるように記述する。

*自組織の固有条件、特徴ある業務形態を優先して記述する

*組織内では常識的事項、定着化した業務形態、慣例化した手順も品

質システムの主要な構成要素である場合は記述する

* ISO9001 の要求事項は組織の品質システム構成要素の必要条件。決し

て十分条件にあらず。要求事項以外でも必要なシステム構成要素は積

極的に記述する

* ISO9000 の要求事項であっても、客観的に見て、自社のシステムに

該当しない事項を形式的に取り込まない。(第 7 章「製品実現」)

3 どこまで詳しく記述する?

* 「顧客又は第 3 者に品質システムとその運営状況を開示する文書」

→これを読むことによって、自社固有の品質システムの概要が理解で

き、提供するサービスが信頼出来るかどうかを判断する為の必要か

つ十分な情報が含まれていること。 顧客から見て「このように管理

され、記録が取られていれば安心だ」と判る範囲

* 「自社の品質システムの全体像を明示し社内に徹底するための文書」

→これを読むことによって、組織内の各人が自らの「責任」:気が

付かなかったり、気が付いても放っておいたりしてはいけないこ

と、「権限」:自分の判断で決裁し実行することが許されるし、し

なければならないこと、が判ること。

図Ⅳ-3 品質マニュアルとは

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9. 内部監査 品質マニュアルや手順書に整理した業務の進め方について、決め方は良い

か、実行できるのか、内部品質監査を実施して確認します。内部監査を適切

に運用する事が、審査登録に向けてのシステム構築段階、登録後のシステム

の維持改善の段階のいずれにおいても有効なシステムを構築・整備していく

ための鍵を握っています。

9-1 内部監査とは まず、内部監査に関わる ISO9001 の要求事項を見てください。ISO9001

の 8.2.2 項に次のように規定されています。

組織は、品質マネジメントシステムの次の事項が満たされているか否かを明確にする

ために、あらかじめ定められた間隔で内部監査を実施すること。

a)品質マネジメントシステムが、個別製品の実現の計画( 7.1参照)に適合している

か、この規格の要求事項に適合しているか、及び組織が決めた品質マネジメントシ

ステム要求事項に適合しているか。

b)品質マネジメントシステムが効果的に実施され、維持されているか。

組織は、監査の対象となるプロセス及び領域の状態と重要性、並びにこれまでの

監 査結果を考慮して、監査プログラムを策定すること。監査の基準、範囲、頻度

及び方法を規定すること。

監査員の選定及び監査の実施においては、監査プロセスの客観性及び公平性を確

保すること。監査員は自らの仕事は監査しないこと。

監査の計画及び実施、結果の報告、記録の維持( 4.2.4参照)に関する責任、並

びに要求事項を "文書化された手順 "の中で規定すること。

監査された領域に責任をもつ管理者は、発見された不適合及びその原因を除去す

るために遅滞なく処置がとられることを確実にすること。

フォローアップには、とられた処置の検証及び検証結果の報告を含めること

( 8.5.2参照)

即ち、内部監査とは、「組織の中にいる人が、互いに自分たちが定めた

質管理のシステムが適切に、有効に運用されているかを確認しあう仕組み」

即ち、内部監査とは、「組織の中にいる人が、互いに自分たちが定めた質管理

のシステムが適切に、有効に運用されているかを確認しあう仕組み」で、ほか

の要求事項とちょっと毛色の違ったこの要求事項があることが、 ISO9001の規格を非常に有効なものにしています。

図Ⅳ-4 ISO9001 8.2.2 項の規定

内部監査は図Ⅳ-5の3つの視点について組織内の人が相互に確認する

ことによってシステムの整備、システムの改善のPDCAを回す原動力になり

ます。

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要求事項

・顧客要求

・経営方針

・法律

・ISO9000

仕組み

・品質マニュアル・実施プロセス、手順書

実施状況

結果

・記録・患者に提供される医療サービス

有効性

図Ⅳ-5 監査の構造

*意図の評価の視点:要求事項の意図が適切に仕組みに反映しているか。特

に、業務のインプット・アウトプットが適切に定められ、その間の処理の

手順、判断基準が明確か、前工程、後工程、関連工程とのインタフェイス

(部門間の取り決め)が明確か、などを確認する。 *実施状況評価の視点:規定された通りに実施されているか、実施あるいは

規定された内容が規格の要求を含む規定要求事項に対して矛盾していな

いか。 *有効性評価の視点:システム狙いに対しての期待される結果が得られてい

るか 即ち、内部監査を適切に実施することによって、①規格への適合性のチェッ

ク、②システムの欠落、システム相互の整合性チェック、 ③システム運用

の不備の発見、を通じてのシステムの整備が進み、また、①システムの目的

の再確認、②システムの目的に照らした仕組み自体の改善、③結果の事実に

基づくシステムの有効性の評価によって、システム自体の改善が進められる。 9-2 内部監査員の養成

内部監査を行うにはそれなりのスキルが必要です。又監査員には、披監査

側の実情を理解し、建設的に対話ができる素養も必要です。したがって経営

者(管理責任者)は、組織内から数名(100人の組織であれば10人位)の候

補者を選定し、内部監査員になるための研修を(外部講習または内部研修)

を行い、選任することが必要です。組織内の1~2名の代表が外部の講習を受

け、その人が講師となり、組織内で教育を行って、必要な人数の内部監査員

を養成するのが良いと思います。

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必要なことは: ○組織内で監査員の認定基準を明確に定めて置くこと ○自組織の品質マニュアル(仕事の進め方)を良く理解していること ○ ISO9001 を良く理解していること ○監査で気がついた事項に対して、積極的に意見が述べられること です。

9-3 内部監査の実施手順 内部監査は ISO9001 の規格で手順を文書化することを要求しているプ

ロセスの 1 つです。 従って、内部監査の運営の手順を、そこで使われる帳票のフォーマットと共

に規定して手順書として文書化する(または品質マニュアルに記載)するこ

とが必要です。 内部監査は次のような手順で実施されます。 1. 全体計画の策定

(1)内部監査の年間実施計画の策定・・・・事務局 ISO9001の規格で“予め定められた間隔で”実施することが規定され

ています。年間の実施計画を立てて実施することが必要です。 2. 個別計画の策定

(1)監査方針の確認・・・・・・事務局 当該監査の狙いを確認する。

(2)監査チームリーダー及びメンバーの選定・・・・事務局 披監査部門と監査員を指定する。

(3)内部品質監査実施連絡書の作成・・・・ 事務局 披監査部門に監査の実施を連絡する。

(4)監査ツールの準備 ・・・ リーダーとメンバー 監査のためのチェックシートを作成する

3. 監査の実施 (1)初回会議 ・・・・・リーダー

内部監査開始に際して監査の狙いなどを披監査側に説明する。 (2)監査の実務 ・・・ リーダーとメンバー (3)指摘事項の検出・・・リーダーとメンバー

4. 監査の終了 (1)指摘事項の確認と合意・・・ リーダーとメンバー

監査の中で検出された指摘事項に対して披監査側と協議し是正の必

要性、方向について合意を図る。 (2)監査報告書の作成・・・リーダーとメンバー (3)終了会議 ・・・・・・リーダー

監査結果を披監査側に説明する。

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5. 是正処置フォロー (1)是正処置計画の確認 ・・・ リーダーとメンバー

披監査側が策定した是正計画を確認・承認する。 (2)是正処置の実施・・・披監査側 (3)フォローアップ監査・・・・・リーダー

是正処置の有効性を評価する。 (4)マネジメントレビューへの報告・・・・ 管理責任者

内部監査の実施結果を集約し経営のシステム見直しのインプット

資料に役立てる。

10. 予備審査 品質マニュアルの原案が出来上がったら外部の審査登録機関による予

備審査を受けて、第三者から見たシステムの整備の方向、課題を提示して

もらうのも有効です。(予備審査は審査登録制度に正式に位置付けられてい

るものではなく受審側のオプションで実施されるものです。従ってこの予

備審査のやり方は審査登録機関によってかなり違います。審査機関の選定

のステップで当該審査登録機関の予備審査のやり方について、よく確認す

ることが大切です。) 内部品質監査、審査登録機関による予備審査の結果を踏まえてシステム

の修正をし、品質マニュアルを制定します。制定された品質マニュアル、

手順書に基づいてシステムを運営し、その結果を又、内部監査で確認して、

システム自体のPDCAを回して、システムの整備を進めます。そして、登

録審査を受けることになります。 登録審査は文書審査と実地審査で構成されています。 まず事前に審査機関に提出した品質マニュアルに記述された品質マネ

ジメントシステムが ISO9001 の要求事項に適合しているかの確認が行わ

れ、適合していれば、次に、そこに記述されたシステムが確実に実行され

ているかを現地で確認されます。 その結果が報告書にまとめられ、審査機関に設置された判定委員会で登

録の可否が決定されます。しかし、登録されることが決してゴールではあ

りません。構築されたシステムは放置すればすぐに陳腐化します。常にシ

ステム運用の中で現れる結果としての不具合をシステム自体に立ち戻っ

て改善を加えていくことが必要です。 前述したようにこの制度では継続的に維持審査が行われます。この第三

者が定期的にシステムの実態を確認し、内部にいては気の付かない、或い

は気がついても実行に踏み切れないシステム上の課題が提起されます。組

織の中で実施される内部品質監査と、外部の審査登録機関が実施する定期

維持審査、更新審査を活用してシステムを継続的に改善していくことが求

められています。

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超音波検査実施手順

患者 チャート室 看護師 検査技師 医師

② ①

①医師はカルテと予

・検査部位、・検

②看護師は予約表を

③看護師は検査技師

ードに記入する。

④看護師は予約表に

⑤看護師は患者に予

⑥看護師は

検査技師は

⑦・・・

⑧・・・

⑨検査技師は下記お

する。

・診察カード及び

・患者持参の予約

・検査前の注意事

⑩検査技師は「検査

に報告する。

⑪医師は目的の検査

告書」にサインをす

明する。

⑫チャート室は、「検

⑤ ④

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結果をチャートにフ

ァイル 結果を 聞く

オーダーを書く

確認

TEL にて予約を取る

日付を記入し

サインする

予約表を届ける

予約ボードに記

入する

検査前日にチャートを

依頼

検査当日、チャートに日付印・UST印を押す

検査施行

検査報告書作成

確認

サイン

確認

検査前の注意

事項について

説明を受け予

約表(患者用)

を受け取る

チャートを

出す

検査当日来院する

再確認

再確認⑪

付図1-1:プロセス図の事例

約表にオーダーを記入する

査理由(検査目的?)

確認し不明確事項があれば医師に確認する

にTELにて予約を取る。検査技師は予約ボ

予約した日付を記入しサインする

約表を渡し、検査前の注意事項を説明する。

日付を記入した予約表を検査技師に届ける。

予約ボードと照合する。

よび予約表の検査内容を確認し検査を実施

フルネームで患者の本人確認

表と検査技師の予約表の照合

項の遵守の確認

報告書」(具体的な帳票名?)を作成し、医師

結果が得られていることを確認し、「検査報

ると共に、患者に検査結果に基づく所見を説

査報告書」をチャートにファイルする。

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付図1-2 プロセス図の事例

内服薬投与手順

(B),(C)

オーダーを

書く

確認

サイン

チャート

にはさむ

薬札を受け持ち看護師に渡す

投与時間 一回量の個数を薬毎に薬札に記入

確認

調剤

患 者 ご との 棚 に 仕分ける

一回分を確認し出

与薬

服薬 記録

薬剤を取りに行く

(A)(B)(C)(D)

(A)

再確認

再確認

(B)チャート (C)医事課用

患者 看護師 薬剤師 医師 病

スタッフ チャージナース

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処方箋を

届ける

棟 ク ラ ー ク

(1)医師:カルテ

①薬の名前、②

(※)(A)処

(2)チャージナー

→NG:医師に

→OK:チャー

(A)をナ

ろす。

(B)(C)

(D)を受

(3)薬剤師は(A)の

→OK:薬剤師は

調剤の

残す。

→NG:・薬剤師

スは医

・チャ

(B)(C)(

・薬剤

・医師

(4)看護師は一定

(5)看護師(スタッ

(6)看護師(受け持

し、投与

(7)看護師(スタッ

実施した

のオーダーシーツと処方箋(※)に記入

量、③投与方法、④回数

方箋、(B)チャート用、(C)医事課用、(D)薬札

スは①~④が明確かを確認

確認、医師は①~④を修正・加筆

ジナースは確認のサインをし、

ースエイド・病棟クラークに指示して薬局へお

をチャートにはさむ

け持ち看護師に渡す。

内容を監査する。

「薬局業務マニュアル」に基づいて調剤を行う。

結果を別の薬剤師が確認し,(A)に確認の記録を

はチャージナースに口頭連絡し、チャージナー

師に確認を求める。

ージナースは医師の指示を口頭で薬剤師に伝え、

D)を修正する。

師は(A)を修正する

はオーダーシーツを変更する。

時間ごとに薬局へ調剤済みの薬剤をとりに行く

フ)は患者毎の棚に仕分けする。

ち看護師)は(D)に基づき、一回分の薬剤を用意

時間・方法を確認する。

フ)は病棟に行き、患者を確認して与薬を行い、

結果を (B),(C)に記録する。

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付表「品質マニュアルの基本構造」

品質マニュアルの基本構造

品質マニュアルは ISO9001 規格の章立てに沿って作る必要は無い。規格の要求事項

を取り込んで対応する自分達のシステムを整理する。 下記の品質マニュアルの目次構成の例示において【】内は ISO9001 の規格の章番号。 まず、自分ちのシステムを整理し、規格の該当部分の要求に照らして確認をすること。

1. 序 1.1. 作成目的・・・自分達(経営者)にとっての品質マニュアルの作成目的 1.2. 適用範囲・・・対象業務の範囲 1.3. 適用されるマネジメントシステム規格

・ ISO9000:2000 ・ ISO9001:2000(JIS Q9001:2000)

適用除外の機能:7.5.1f)製品の引渡し 7.5.5 製品の保存(例示)

ISO9001規格の 7章の要求事項に限って、対象機能が無い場合は適用除外が可能 1.4. 適用される規則、法令

システムの前提となる法令、規制、通達等を明確にする。 1)医療提供に関する法規 ①医療法、②感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律 ③結核予防法 他 2)医療資格に関する法規 ①医師法、②薬剤師法、他 3)医薬に関する法規 ①薬事法、②麻薬及び向精神薬取締法、他 4)保険に関する法規 ①健康保険法、②国民健康保険法、他 5)健康に関する法規 ①地域保険法、②学校保険法、③栄養士法、④食品衛生法、他 6)福祉に関する法規 ①社会福祉法、他

1.5. 品質マニュアルの維持管理 品質マニュアルの作成、承認、発行、配布などの管理のあり方を記述。

2. 用語の定義・・・・業界特有な用語、組織独特な用語を説明

3. システムの基本構造 【4】 3.1. 経営資源の配置 【6.1】

3.1.1. 組織構造 【5.5.1、 6.2.1】・・・組織図 3.1.2. インフラストラクチャー 【6.3】

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法に定められた資格、要員、設備を明確にする。(具体的な数値は下位

規定でも良い。)作業環境の整備 【6.4】 3.1.3. 法に定められている職員の健康診断、院内の清潔管理、などについて記述

3.2. QMS を構成する業務機能及び製品実現化プロセスの相互関係 【4.1】 「品質保証体系図」・・・別紙参照、等

3.3. 文書・記録体系 【4.1、 7.1】 品質マネジメントシステムを構成する文書の体系、品質記録一覧表

3.4. 組織内のコミュニケーション【5.5.3】 組織内の情報交換、課題審議のための会議体の整理、情報処理システムの概要

4. QMS の運営管理

4.1. 経営責任に基づく QMS 運営の基本機能 4.1.1. 品質方針・目標 【5.1、 5.3、 5.4】 品質方針の設定及びQMSの確立運営にかかわるトップマネジメントのコミッ

トメントを表明する。お題目でなく、実現を目指す具体的な方針・目標 方針・目標を実現するための推進体制、管理方法を記述

4.1.2. 管理責任者の選任 【5.5.2】 4.2. 教育訓練 【6.2.2】

*職位ごとに要求する知識、経験、資格等の内容及び判断基準・方法、結果を記

述 *各職種に法で定められた有資格者が配置されていることを前提に、病院の理

念、規則・基準の徹底を図る方法と記録。 *各職種の固有技術向上のための院内外で実施される研修、学会等への参加計

画と実施記録のあり方。 4.3. 文書・記録管理 【4.2.3、4.2.4】

*文書の発行、承認、配布、最新版管理の方法 *品質記録の責任部署、保管期間の設定・管理

5. サービスの実現→診察・診断・治療の実施 【7、8.2.3】 ISO 規格の 7 章及び 8 章の一部を踏まえて、当該組織の実務の管理方式を記述す

る。病院業務を構成する“プロセス”を抽出し、そのプロセスを運用するための基

準・手順・責任(具体的に誰が実行するかの明確化)を、プロセスフロー図を中心に

説明する。「品質保証体系図」と一体で病院全体の業務の進め方の概要が読み取れ

るように記述する。

例示: 5.1. 受け付け・入退院手続き【7.1、7.2、7.3、7.5、8.2.4、8.3】

5.1.1. 外来受診のプロセス 5.1.2. 入院手続き

通常入院、・夜間入院、・緊急入院 5.2. 治療計画の策定・管理

5.2.1. 外来治療計画 臨床情報の把握、治療方針の設定、説明と同意

5.2.2. 入院治療計画 臨床情報の把握、治療方針の設定、説明と同意、カンファレンスの実施

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看護計画の策定・管理 5.3. 治療の実施

5.3.1. 各種検査プロセスの管理 臨床検査・・・ 検体検査、生理機能検査、病理検査 画像検査 内視鏡検査・治療

5.3.2. 与薬 5.3.3. 注射 5.3.4. 手術 5.3.5. 輸血 5.3.6. 集中治療 5.3.7. 人口透析治療 5.3.8. 放射線治療 5.3.9. リハビリテーション 5.3.10. 栄養管理 5.3.11. 看護の実践 等

5.4. 購買管理・・・・対象を明確にし、規格の要求に対応して、購買先の選定管理 【7.4】 購買の実施手順、購買情報の確認、受入検査などの実施手、

責任などを整理 5.4.1. 業務委託の管理

5.4.1.1. 非常勤医師・・・医療事故を起こした場合の責任が病院側に あることを前提に:

・ 病院管理者がスクリーニングしてきちんと医師を評価すること ・ 病院の医療方針、院内の指揮命令系統、定めた種々の規約・標準・基準

をきちんと教育・訓練し、固有職員と同じように遵守させること。 等 5.4.1.2. 検体検査 5.4.1.3. 医療用具等の滅菌または消毒業務 5.4.1.4. 厚生省令で定める医療機器の保守点検 5.4.1.5. 医療の用に供するガスの供給設備の保守点検業務 5.4.1.6. 寝具、衣類の洗濯の業務 5.4.1.7. 医療廃棄物の処理委託

5.4.2. 購買業務の管理 5.4.2.1. 医薬品の管理

購入、在庫管理(麻薬、危険薬の取扱保管を含む) 購買先の管理(新薬の採用手順を含む)

5.4.2.2. 医療材料の管理 購入、在庫管理

5.5. 医療機器の管理 画像診断機器、生理機能検査機器、検体検査機器、ME機器の管理

5.6. 識別、トレーサビリティの管理【7.5.3】・・・同姓の人の識別や過去の介護

記録の遡及可能な範囲や方法 患者、検体、医薬や点滴、カルテ、レントゲンフィルム・・・・

6. QMS の検証機能

6.1. 不適合の管理及び是正・予防処置【8.3、8.4、8.5.2、8.5.3】 インシデント/アクシデントの発生。患者からの苦情。

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これらに対する処置の責任と手順、再発防止の検討/実施の責任と手順 6.2. 顧客満足に係わる情報把握及び管理方法【5.2、 8.2.1、 8.4】

医療サービスにかかわる顧客(利用者さん、その家族)からの情報について入

手~分析~処置(原因調査、再発防止、予防処置)の手順の記述 6.3. 内部監査【8.2.2】 6.4. マネジメントレビュー【5.6】・・・経営者自らの定期的なシステムの見直しの

実施手順、実施内容(インプット/アウトプット) 6.5. 継続的改善の仕組み【8.5.1】

内部監査

目標管理

図 付 “インシデント/アクシ

題ごとのPDCAと、それ

基づく大きなPDCAサイ

続的改善を図る。 [参考文献] ISO9000 シリーズ 2000

システム構築・改善

目標設定

システム運営

表―

デント

らの

クル

年改

プロセスの監視測

予防

1 継続的改善のPDCA

、クレーム⇒是正処置”や

結果を集計・層別・分析し

(図 付表―1参照)を回

定への対応 財)日本規格

63

インシデント・アクシデント

の発生/クレーム

是正処置

データの分析

目標達成度評価)

処置

マネジメントレビュ

サイクル

“内部監査”に基づく個別課

て、マネジメントレビューに

すことによってシステムの継

協会 審査登録事業部

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* 

品質保証体系図(たたき台)顧客 受付 診療部門 看護部門 支援部門 管理部門 経営者 検査部門 供給者 会議体

新規外来受診

外来 受付 問診 検査

分析

診察・診断

受診結果報告・治療方針検討

入院手続き・受け入れ

診察・

診断

検査

分析

治療方針決定 看護計画作成

症例カンファレンス

治療計画の策定

手術準備

了承

手術の実施

検査

診察・診断 看護

バリアンス監視

検証治療方針の見直し要

退院可

入院治療

必要医療

物品類の発注

受入検査

物品類の

納入

退院手続き・退院 * 外来再診へ

外来再診へ

入院通院

手術あり

手術

なし

問診

退院指導

Peerレビュー

A

AB

B

B

E

F

G

付図2 品質保証体系図(1)

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外来 受付

検査

必要物品

類の発注

受入検査

不適合品の管理・識別管理・トレーサビリティ・保存管理顧客所有物管理(外来再診だけでなくすべての段階で共通)

物品類の納入

外来再診治療

診療終了

診察・

診断

治療

検証

分析

Peerレビュー

看護

A

B

G

H

付図2 品質保証体系図(2)

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B.検査・査定プロセス

顧客 診療部門 看護部門 診療技術部門 関連資料パンフレット

検査依頼票

カルテ等

検査結果票

カルテ

検査実施決定・説明

承諾 検査依頼 指示受け 依頼票受付

検査実施

検体提出分析

検査説明・検査前準備

(必要時)

検査前準備

検査介助(必要時)

診断 判定

付図2-1 品質保証体系図(部分):B検査・査定のプロセス

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( 術前

D.手術プロセス

顧客 診療部門 看護部門 診療技術部門 関連資料

カルテ指示書

治療承諾書パンフレット

検査結果票

チェックリスト

情報収集用紙

手術記録用紙

                    手術

手術の説明

承諾

術前オリエンテーション術前準備Ⅰ

呼吸練習、物品)

指示(術前後点滴、検査等)

術前検査

準備Ⅱ(前日)術前処置(剃毛・臍処置、

腸の清浄化等)物品確認

検査データの確認

物品再確認

術前点滴開始

患者状態確認

(バイタル)

術前準備Ⅲ(当日)

手術室看護師訪問(情報収集)

手術室入室

麻酔

手術開始

手術終了

検査

術後診断

手術前の設備準備・点検

監視・測定機器の準備・点検

モニタリング

(監視・測定)

介助

付図2-2 品質保証体系図(部分):D.手術プロセス

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F.退院プロセス

顧客 受付 診療部門 看護部門 診療技術部門 管理部門 関連資料

指示書

退院療養計画書退院看護要約書

診療報告書(他院へ)パンフレット

カルテ

請求書

退院指示

退院日決定

退院指導

退院療養計画書

退院看護要約

退院指導を受ける

リハビリ

栄養指導

薬剤指導

カルテを医事課へ送る

医療費計算会計支払い

退院

退院日

付図2-3 品質保証体系図(部分):F.退院プロセス

H.外来再診治療プロセス

顧客 受付 診療部門 看護部門 診療技術部門 関連資料

受付票

カルテ

外来再診 受付 検査

診察・診断

治療 診療介助

検証

検査

診療終了

治療方針決定・見直し

治療

付図2-4 品質保証体系図(部分):H.外来再診治療プロセス