prediction measurementまず拡張カルマンフィルタ1)(ekf)が挙げられる。 ekf...

4
13 フィルタの二種統合環境における交通状態とパラメータの動的推定 小林 剛 1. はじめに 1-1. 背景 将来の状態を予測する際には、通常、モデルを 設定して予測を行う。このような場合には、実際 に得られる観測実データによる補正を加えたフィ ードバック推定法が有効であり、多くの研究者に よって導入が行われている。これにより、直接観 測することのできない状態変量を、観測できる実 データを用いて推定を行うことができる。 ここで問題となるのは、次のような場合である。 (1) 使用する観測データのノイズ性が高いとき (2) 同定困難なモデルパラメータを含むとき この状況を放置したまま状態推定を行えば、精度 に深刻な影響を与えかねない。この場合はモデル パラメータ、つまりモデルそのものを同時に動的 推定するシステムが求められる。 交通状態の推定においても同様のことが言え、 シミュレーションモデルであるマクロ交通流モデ ル内には、事前設定が難しいものや、時間変化を 伴ういくつかのモデルパラメータが存在している。 1-2. 目的と方法 本研究では、上記の困難を解決すべく、二種類 のフィルタを統合したデュアルフィルタシステム を提案し、その有用性を明らかにすることを目的 とする。 方法としては、まずステップ 1 として、解析関 数を用いたサンプルモデルによる出力例を算出し、 精度と計算速度等を検証する。この例をもとに、 ステップ 2 としてマクロ交通流モデルを用いた交 通状態を出力して、その精度、計算速度等を比較 する。 2. フィードバック推定法 2-1. 状態空間モデル フィードバック推定を行う際には、状態空間モデ ルとして、以下の二式を設定する。 状態方程式: = ( −1 )+ (1) 観測方程式: = ( )+ (2) f(*)は時刻 k から時刻 k+1 への状態変量 の時間変 動を表し、g(*)は、x k と観測変量 y k の関係を表す。 また、v k は時間変化に関する誤差行列、w k は観測 誤差行列である。 2-2. 拡張カルマンフィルタ(EKFフィードバック推定法の代表例は、カルマンフ ィルタ(KF )である。KF 1960 年代に提唱され た方法論であり、コンピュータが発達する以前か ら一般的となってきた。しかし、KF は線形事象し か取り扱うことができないという点で制限が強く、 改良が数多く行われてきている。その例としては、 まず拡張カルマンフィルタ 1) EKF)が挙げられる。 EKF では、状態方程式と観測方程式の両式にテイ ラー展開による一次近似を行い、非線形事象を線 形化して計算を行う。 −1 −1 + −1 + −1 (3) + + (4) = = (5) なお、p k q k は定数項である。 ここで、線形制限のあった KF を適用する場合、モ デルによって予測される状態変量 x k と観測変量 y k の予測値を式(6)および式(7)のように表すならば、 状態変量は式(8)に従って補正が行われ、推定値が 算出される。 = ( −1 )+ (6) = ( )+ (7) = + ( ) (8) K はカルマンゲインとよばれ、式(9) から式(13) によ って導かれる。 = −1 −1 −1 + −1 (9) = (10) = + (11) = ( ) −1 (12) = (13) V k および W k は、誤差項であった v k および w k の共 分散行列であり、M k および P k はそれぞれ状態変量 の予測値 と推定値 の誤差の共分散行列を表し ている。このフィードバック推定法による推定フ ローを2-1 に示す。 2-1 フィルタによるフィードバック推定法 ) 1 ( ˆ k x )] ( ~ [ ) ( ~ )] 1 ( ˆ [ ) ( ~ k g k k f k x y x x ) (k y ) ( ~ ) ( ) ( k k k y y e ) ( ) ( ~ ) ( ˆ k k k Ke x x k=k+1 Update Prediction Measurement

Upload: others

Post on 09-Aug-2020

0 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: Prediction Measurementまず拡張カルマンフィルタ1)(ekf)が挙げられる。 ekf では、状態方程式と観測方程式の両式にテイ ラー展開による一次近似を行い、非線形事象を線

13

フィルタの二種統合環境における交通状態とパラメータの動的推定

小林 剛

1. はじめに

1-1. 背景

将来の状態を予測する際には、通常、モデルを

設定して予測を行う。このような場合には、実際

に得られる観測実データによる補正を加えたフィ

ードバック推定法が有効であり、多くの研究者に

よって導入が行われている。これにより、直接観

測することのできない状態変量を、観測できる実

データを用いて推定を行うことができる。

ここで問題となるのは、次のような場合である。

(1) 使用する観測データのノイズ性が高いとき

(2) 同定困難なモデルパラメータを含むとき

この状況を放置したまま状態推定を行えば、精度

に深刻な影響を与えかねない。この場合はモデル

パラメータ、つまりモデルそのものを同時に動的

推定するシステムが求められる。

交通状態の推定においても同様のことが言え、

シミュレーションモデルであるマクロ交通流モデ

ル内には、事前設定が難しいものや、時間変化を

伴ういくつかのモデルパラメータが存在している。

1-2. 目的と方法

本研究では、上記の困難を解決すべく、二種類

のフィルタを統合したデュアルフィルタシステム

を提案し、その有用性を明らかにすることを目的

とする。

方法としては、まずステップ 1 として、解析関

数を用いたサンプルモデルによる出力例を算出し、

精度と計算速度等を検証する。この例をもとに、

ステップ 2 としてマクロ交通流モデルを用いた交

通状態を出力して、その精度、計算速度等を比較

する。

2. フィードバック推定法

2-1. 状態空間モデル

フィードバック推定を行う際には、状態空間モデ

ルとして、以下の二式を設定する。

状態方程式:𝐱𝑘 = 𝐟(𝐱𝑘−1) + 𝐯𝑘 …(1)

観測方程式:𝐲𝑘 = 𝐠(𝐱𝑘) + 𝐰𝑘 …(2)

f(*)は時刻 k から時刻 k+1 への状態変量𝐱𝑘の時間変

動を表し、g(*)は、xkと観測変量 ykの関係を表す。

また、vk は時間変化に関する誤差行列、wk は観測

誤差行列である。

2-2. 拡張カルマンフィルタ(EKF)

フィードバック推定法の代表例は、カルマンフ

ィルタ(KF)である。KF は 1960 年代に提唱され

た方法論であり、コンピュータが発達する以前か

ら一般的となってきた。しかし、KF は線形事象し

か取り扱うことができないという点で制限が強く、

改良が数多く行われてきている。その例としては、

まず拡張カルマンフィルタ 1)(EKF)が挙げられる。

EKF では、状態方程式と観測方程式の両式にテイ

ラー展開による一次近似を行い、非線形事象を線

形化して計算を行う。

𝐱𝑘 ≅ 𝐀𝑘−1𝐱𝑘−1 + 𝐩𝑘−1 + 𝐯𝑘−1 …(3)

𝐲𝑘 ≅ 𝐂𝑘𝐱𝑘 + 𝐪𝑘 + 𝐰𝑘 …(4)

𝐀𝑘 =∂𝐟

∂𝐱 𝐂𝑘 =

∂𝐠

∂𝐱 …(5)

なお、pkと qkは定数項である。

ここで、線形制限のあった KF を適用する場合、モ

デルによって予測される状態変量 xk と観測変量 yk

の予測値を式(6)および式(7)のように表すならば、

状態変量は式(8)に従って補正が行われ、推定値が

算出される。

�̃�𝑘 = 𝐟(�̂�𝑘−1) + 𝐯𝑘 …(6)

�̃�𝑘 = 𝐠(�̃�𝑘) + 𝐰𝑘 …(7)

�̂�𝑘 = �̃�𝑘 + 𝐊𝑘(𝐲𝑘 − �̃�𝑘) …(8)

K はカルマンゲインとよばれ、式(9)から式(13)によ

って導かれる。

𝐌𝑘𝑥𝑥 = 𝐀𝑘−1𝐏𝑘−1𝐀𝑘−1

𝑇 + 𝐕𝑘−1 …(9)

𝐌𝑘𝑥𝑦

= 𝐌𝑘𝑥𝑥𝐂𝑘

𝑇 …(10)

𝐌𝑘𝑦𝑦

= 𝐂𝑘𝐌𝑘𝑥𝑥𝐂𝑘

𝑇 + 𝐖𝑘 …(11)

𝐊𝑘 = 𝐌𝑘𝑥𝑦

(𝐌𝑘𝑦𝑦

)−1 …(12)

𝐏𝑘 = 𝐌𝑘𝑥𝑥 − 𝐊𝑘𝐂𝑘𝐌𝑘

𝑥𝑥 …(13)

Vkおよび Wkは、誤差項であった vkおよび wkの共

分散行列であり、Mkおよび Pkはそれぞれ状態変量

の予測値�̃�𝑘と推定値�̂�𝑘の誤差の共分散行列を表し

ている。このフィードバック推定法による推定フ

ローを図 2-1に示す。

図 2-1 フィルタによるフィードバック推定法

)1(ˆ kx)](~[)(~

)]1(ˆ[)(~

kgk

kfk

xy

xx

)(ky

)(~)(

)(

kk

k

yy

e

)()(~)(ˆ

kk

k

Kex

x

k=k+1

Update

Prediction

Measurement

Page 2: Prediction Measurementまず拡張カルマンフィルタ1)(ekf)が挙げられる。 ekf では、状態方程式と観測方程式の両式にテイ ラー展開による一次近似を行い、非線形事象を線

14

2-3. Unscentedカルマンフィルタ(UKF)

EKFは、主に二つの問題点が指摘されている。

(1) 非線形性が強い場合、誤差が大きくなる

(2) 微分演算が不可能なシステムへの導入は難しい

EKF に代わるフィードバック推定法の一つとし

て挙げられるのが、Unscented カルマンフィルタ 1)

(UKF)である。UKF では微分演算を必要とせず、

複雑なモデル構造への導入が可能となっている。

N次元の状態変量 xの平均値(つまり、推定され

た値)を�̂�𝑘とすれば、先程と同様�̂�𝑘の誤差の共分

散行列を Pkとする。この Pkをコレスキー分解し、

下三角行列の i列番目の平方根を σiとしたとき、以

下のように、シグマポイントとよばれるサンプル

点を発生させる。

𝛔𝑖,𝑃 = (√(𝑁 + 𝜆)𝐏𝑘)𝑖 …(14)

Φ̂0,𝑘−1 = �̂�0 …(15)

Φ̂𝑖,𝑘−1 = �̂�𝑘−1 + 𝛔𝑖,𝑃 (𝑖 = 1, ⋯ , 𝑁) …(16)

Φ̂𝑖,𝑘−1 = �̂�𝑘−1 − 𝛔𝑖−𝑁,𝑃 (𝑖 = 𝑁 + 1, ⋯ ,2𝑁) …(17)

�̃�𝑘 = 𝐟(�̂�𝑘−1) …(18)

なお、λ はスケーリングパラメータであり、この変

換をUnscented変換(UT)と定義する。

UKF においては、この UT によって算出されたシ

グマベクトル�̃�𝑘を用いて、�̃�𝑘と𝐌𝑘𝑥𝑥を統計的に算

出することができる。

�̃�𝑘 = ∑ ℎ𝑖2𝑛𝑖=0 Φ̃𝑘 …(19)

𝐌𝑘𝑥𝑥 = ∑ ℎ𝑖 [Φ̃𝑖,𝑘 − �̃�𝑘][Φ̃𝑖,𝑘 − �̃�𝑘]𝑇 + 𝐕𝑘−1…(20)

なお、hiはあらかじめ決められた重み定数である。

同じ要領でシグマベクトル�̃�𝑘と�̃�𝑘を定義して、

�̃�𝑘、𝐌𝑘𝑦𝑦、𝐌𝑘

𝑥𝑦を算出することができる。

𝛔𝑖,𝑀 = (√(𝑁 + 𝜆)𝐌𝑘)𝑖 …(21)

Ω̃0,k = �̃�0 …(22)

Ω̃𝑖,𝑘 = �̃�𝑘 + 𝛔𝑖,𝑀 (𝑖 = 1, ⋯ , 𝑁) …(23)

Ω̃𝑖,𝑘 = �̃�𝑘 − 𝛔𝑖−𝑁,𝑀 (𝑖 = 𝑁 + 1, ⋯ ,2𝑁) …(24)

�̃�𝑘 = 𝐠(�̃�𝑘) …(25)

�̃�𝑘 = ∑ ℎ𝑖2𝑛𝑖=0 Ψ̃𝑘 …(26)

𝐌𝑘𝑦𝑦

= ∑ ℎ𝑖 [Ψ̃𝑖,𝑘 − �̃�𝑘][Ψ̃i,𝑘 − �̃�𝑘]𝑇 + 𝐖𝑘 …(27)

𝐌𝑘𝑥𝑦

= ∑ ℎ𝑖 [Φ̃𝑖,𝑘 − �̃�𝑘][Ψ̃𝑖,𝑘 − �̃�𝑘]𝑇 …(28)

これにより、式(12)からカルマンゲインKが算出さ

れ、式(8)により、状態変量は�̂�𝑘に更新される。ま

た、式(13)は以下のように書き換えることができる。

𝐏𝑘 = 𝐌𝑘𝑥𝑥 − 𝐊𝑘𝐌𝑘

𝑦𝑦𝐊𝑘

𝑇 …(29)

以上のフローをまとめて、図 2-2に示す。

UKF における利点としては、微分演算以外に以

下のような点が挙げられる。

(1) 式(29)により、観測変量が与えられるたびに過

去の影響が誤差に反映される。よって、データ

の蓄積の必要性がない。

(2) 精度は EKF より増すことに加え、計算負荷は

EKFと大差ない。

(3) 状態方程式と観測方程式は、明確な式である必

要がない。

図 2-2 Unscentedカルマンフィルタ

2-4. パーティクルフィルタ(PF)

パーティクルフィルタ 2)(PF)も UKF と同様、

EKF で問題とされていた微分演算を克服する手段

として用いられる。

PF では、モンテカルロ法によって、ある確率分

布に従う状態の確率標本(パーティクル)を発生させ、

その状態に依存している新たな観測変量を用いて

ベイズ的に更新していくシステムである。

時刻 kまでの観測変量の集合を Yk={y1,…,yk}とす

れば、�̂�𝑘は事後確率分布 p(xk|Yk)を用いて次のよう

に表される。

�̂�𝑘 = 𝐸(𝐱𝑘|𝐘𝑘) = ∫ 𝐱𝑘𝑝(𝐱𝑘|𝐘𝑘)𝑑𝐱𝑘 …(30)

このとき、Ykから xkの事後確率 p(xk|Yk)を直接推定

することは困難であるため、ベイズの定理を用い

て次のように導かれる。

𝑝(𝐱𝑘|𝐘𝑘) =𝑝(𝐲𝑘|𝐱𝑘)𝑝(𝐱𝑘|𝐘𝑘−1)

𝑝(𝐲𝑘|𝐘𝑘−1) …(31)

これまでと同様に状態空間モデルの中であれば、

p(yk|xk)は、観測方程式から与えられる。また、

p(xk|Yk-1)は、時刻 k における事前確率であり、次の

ようにあらわされる。

𝑝(𝐱𝑘|𝐘𝑘−1) = ∫ 𝑝(𝐱𝑘|𝐱𝑘−1)𝑝(𝐱𝑘−1|𝐘𝑘−1)𝑑𝐱𝑘−1…(32)

p(xk-1|Yk-1)は時刻 k-1 における事後確率である。ま

た、𝑝(𝐱𝑘|𝐱𝑘−1)は時刻 k-1 から時刻 k への状態推移

確率であり、状態方程式から与えられる。

このベイジアンフィルタを用いて、PF では多数

の確率標本によって近似を行う。具体的な手順は

以下のとおりとなる。

いまタイムステップを k=0,1,2,⋯とすれば、

1. イニシャルサンプリング

サンプル𝐱0𝑖 を初期分布 p(x0)から生成する。

(𝑖 = 1, ⋯ , 𝑁)

)1(

)1(ˆ

k

k

P

x

.....)(

)(~

)(~2

0

t

tht

xx

t

n

i

ii

M

x

)(ky)(~)(

)(

kk

k

yy

e

Update

)()()(~)(ˆ

kkk

k

eKx

x

1 k

k

)]1(ˆ[)(~

1)-(kˆ)1(Φ̂ Pi,

kk

ki

ΦfΦ

σx

)](~

[)(~

)(~)(~

,

kk

kk Mii

ΩgΨ

σx

Measurement

)]()[()( 1 kkk yyxyMMK

.....)(,....)(

)(~

)(~2

0

kk

khk

xy

t

yy

t

n

i

ii

MM

y

Unscented

Transform

Unscented

Transform

Prediction

Prediction

Page 3: Prediction Measurementまず拡張カルマンフィルタ1)(ekf)が挙げられる。 ekf では、状態方程式と観測方程式の両式にテイ ラー展開による一次近似を行い、非線形事象を線

15

2. 予測サンプルの生成

状態方程式によって時刻 k-1 のサンプル𝐱𝑘−1𝑖 を

推移させ、予測サンプルを生成する。

�̃�𝑘𝑖 = 𝐟(�̂�𝑘−1

𝑖 )+𝐯𝑘𝑖 …(33)

3. サンプルの重度計算

次の式に従い、サンプルに重み付けする。

�̃�𝑘𝑖= p(yk|�̃�𝑘

𝑖 ) …(34)

p(yk|�̃�𝑘𝑖 )は、観測方程式によって推定する。

4. サンプルの正規化

計算された重度は、すべて正規化しておく。

�̂�𝑘𝑖 =

�̃�𝑘𝑖

∑ �̃�𝑘𝑗𝑁

𝑗=1

…(35)

5. リサンプリングによる更新

サンプル集合{�̃�𝑘𝑖 }から重度�̂�𝑘

𝑖に比例する割合で

N個の新しいサンプル�̂�𝑘𝑖 を生成する。

6. 繰り返し計算

2~6のステップを繰り返す。

ある時刻 k における�̂�𝑘は、次のように重度付き

平均によって、期待値として求める。

�̂�𝑘 = 𝐸(𝐱𝑘) ≈1

𝑁∑ �̂�𝑘

𝑖 = ∑ �̂�𝑘𝑖�̃�𝑘

𝑖𝑁𝑖=1

𝑁𝑖=1 …(36)

UKF と PF を比較した時、精度面では PF が若干

有利となり、計算速度面では UKF が有利となるこ

とが一般的に知られている。

2-5. デュアルフィルタ(DF)

状態空間モデル内に、未知のパラメータ u が組

み込まれている場合について考える。この時、式

(1)は次のように変換される。

状態方程式:𝐱𝑘 = 𝐟(𝐱𝑘−1, 𝐮) + 𝐯𝑘 …(37)

この“未知の”パラメータ値 u を同時に推定する

システムが求められていることは、先述したとお

りである。これを解決手段として、本研究ではデ

ュアルフィルタシステム(DF)を提案する。

DFは、状態変量を推定するフィルタと平行し

て、もう一つパラメータを推定するフィルタを組

むことで、状態変量の推定精度を増すためのシス

テムである。本研究では、デュアル“統合”シス

テムとして、二つのフィルタそれぞれで使用する

種類を検討する。

3. 解析関数を用いた推定例

3-1. 解析関数モデル

出力例の一つとして、以下で与えられる解析関

数を用いて分析を行う。状態遷移関数 f(*)には、未

知のパラメータ uが設定されている。

…(38)

…(39)

3-2.モデルパラメータの推定

はじめに使用する観測データを作成する。ノイ

ズの設定を、𝑣𝑘~𝛮(0,1)、𝑤𝑘~𝛮(0,10)、さらに

“真の”値としてパラメータ u に𝑢 = 5.0を与えて

観測データを作成する。その後、ノイズの設定は

そのままにして 、”未知”のパラメータ u に初期値

を与え、DF を用いて推定し、その精度と処理速度

を比較する。状態推定には PF、パラメータ推定に

は PF、EKF、UKF をそれぞれ使用した。また、PF

におけるサンプル数(パーティクル数)は 100 個、

パラメータに与える初期値 u0は 15.0に設定した。

状態推定の結果を図 3-1に、パラメータ推定の結

果を図 3-2 に示す。また、状態推定の RMSE の比

較を図 3-3に、処理時間の比較を図 3-4に示す。

DF を用いたほうが総じて推定結果は良くなった。

また、DF 三種の結果を比較すると、パラメータ推

定に PF と UKF を用いた場合は差がなく、EKF の

みが精度が劣る結果となった。処理速度は三種に

おいてほとんど差は見られなかったが、PF を用い

た場合がやや処理時間を要した。

4. マクロ交通流モデルを用いた推定例

4-1. マクロ交通流モデル

これまで解析関数で行なってきたモデリングを、

マクロ交通流モデルに適用する。初歩的なモデル

の例として、Daganzo3)による Cell Transmission

Model(CTM)が挙げられる。CTM は図 4-1 のよ

うに、ネットワークをいくつかのセグメントに分

0

0.5

1

1.5

2

2.5

3

3.5

4

4.5

5

PF DF-EKF DF-UKF DPF

RMSE

Dual system

0

2

4

6

8

10

12

PF DF-EKF DF-UKF DPF

Processing time (sec)

0

2

4

6

8

10

12

14

16

Theoretical

DF-EKF

DF-UKF

DPF

PF

k: Time-step

u: Model Parameter

図 3-2 パラメータ推定結果

図 3-1 状態推定結果

0

5

10

15

20

25

30

Theoretical

DF-EKF

DF-UKF

DPF

PF

k: Time-step

x: state

k

k

kkkk uk

x

xxuxf

)2.1cos(8

1255.0),(

2

2

20

1)( kk xxg

図 3-3 RMSE 図 3-4 処理時間

Page 4: Prediction Measurementまず拡張カルマンフィルタ1)(ekf)が挙げられる。 ekf では、状態方程式と観測方程式の両式にテイ ラー展開による一次近似を行い、非線形事象を線

16

割して、計算を行う。本研究では、これに

Godunov 法 4)による定式化の元、車両感知器から得

られる交通流率[veh/hr](観測変量)を用いて、交

通密度[veh/hr](状態変量)を推定する。

4-2. 対象データとシミュレーション設定

本研究では、交通工学研究会 5)により提供されて

いる阪神高速道路松原線のベンチマークデータセ

ットを用いる。時間帯は夜ピークである 15:00-

22:00 を抽出、感知器データは 15 分間隔とし、全

29 のタイムステップにおける交通密度を推定する。

また、フィードバックは路線上に設置されてい

る車両感知器六地点のうち、三地点のみに適用し、

残る三地点は精度の検証のみに使用する。使用す

るフィードバックシステムは、解析関数の結果か

ら、状態推定に PF を、パラメータ推定には PF ま

たは UKF をそれぞれ適用し、EKF を候補から外し

た。

4-3. フィルタを用いた交通状態の推定

まず、DF を用いずに状態推定フィルタのみで推

定を行った結果について示す。図 4-2は三地点にお

いて、フィルタ無し、UKF、PF で境界部の交通量

を推定した場合の RMSE の比較である。すべての

地点で PF が最もよい精度を示した。また、Link12

の地点は渋滞の影響をうけているが、このときフ

ィルタが最もよく効いていることがわかる(図 4-

3)。密度推定の結果を見ると、Link12 については、

この結果が反映されていることがわかる(図 4-4)。

4-4. DFによるシステムノイズの分散推定

モデル内の未知のパラメータの一つに、システ

ムノイズの分散があげられる。ノイズを伴う不完

全なモデルを取り扱うことから、状態推移を表現

するシステムノイズにおいては、事前に定量化し

て設定することは困難である。

図 4-5は、推定した分散値の様子である。タイム

ステップが進むに連れて一定の値に収束していく

ことがわかる。また、図 4-6はデュアル推定なしの

場合と、分散推定に PF、UKF を使用した場合の三

種について RMSE を比較したものである。DFを使

用したほうが若干であるが改善が見られた。改善

の度合いが僅かに留まったのは、サンプリングに

よる逆効果が発生している可能性、PF のみの推定

の時点ですでに高い精度の元に計算されていたこ

と、また収束速度の遅さなどが原因と思われる。

5. おわりに

本研究では、交通状態推定のためのデュアル統

合推定システムの定式化に成功し、DF が有効であ

ることを示した。また、処理速度と精度に注目し、

DF-UKFが最も有効である可能性を提言する。

今後の課題としては、大規模ネットワークへの

適用、車両感知器の速度データの使用、ハイブリ

ッドシステムの構築の検討などがあげられる。

参考文献

1) S. Haykin, “Kalman Filtering and Neural Networks,” Wiley-

Interscience, 2001

2) Z. Chen, “Bayesian Filtering: From Kalman Filters to Particle

Filters and Beyond,” 2003

http://soma.crl.mcmaster.ca/~zhechen/homepage.htm

3) C. F. Daganzo, “The Cell Transmission Model: A Dynamic

representation of Highway Traffic Consistent with the

Hydrodynamic Theory,” Transportation Research, vol.28B

No.4, pp 269-287, 1994

4) J. P. Lebacque, “The Godunov scheme and what it means for

first order traffic flow models,” Proc. of the 13th International

Symposium of Transportation and Traffic Theory, pp. 647-677,

1996

5) 交通工学研究会:交通シミュレーションベンチマークデ

ータセット

0

50

100

150

200

250

Link4 Link8 Link12

No Filter

Unscented

Particle

RMSE

0

2

4

6

8

10

12

Link4

Link8

Link12

Variance of system noise

Time step0

50

100

150

200

250

Link4 Link8 Link12

No Filter

PF

DPF

DF-UKF

図 4-1 マクロシミュレーション概略図

図 4-2 RMSE

図 4-3 交通量推定(Link12)

10

15

20

25

30

35

40

Particle

Unscented

No Filter

veh/km

Time step1000

1200

1400

1600

1800

2000

2200

2400

2600

2800Particle

Unscented

No Filter

Detector

veh/hr

Time step

図 4-4 密度推定(Link12)

図 4-5 分散値の収束 図 4-6 RMSE

j: セグメントNo.

w: 地点速度(km/hr)

q: 交通流率(veh/hr)

ρ: 交通密度(veh/km)

v: 空間平均速度(km/hr)

r: 流入交通量(veh/hr)

s: 流出交通量(veh/hr)