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39 回日本 IVR 学会総会「技術教育セミナー」:三村秀文,他 1 . 腎 RFA 適応と合併症 川崎医科大学附属川崎病院 放射線科,岡山大学大学院 医歯薬総合研究科放射線医学 1) 三村秀文,郷原英夫 1,平木隆夫 1,藤原寛康 1,芝本健太郎 1,金澤 右 1腎 RFA の適応 腎癌診療ガイドラインの記載 腎癌診療ガイドライン 2007 年版には「小さな腎癌に 対する経皮的局所療法は推奨されるか?」との CQ 対して「推奨グレード C1 (エビデンスは十分とはいえ ないが,日常診療でおこなってもよい)。全身状態や 合併症により根治的な治療が困難な場合や患者が手術 を拒否した場合に推奨される。」と回答され,根拠と して「小さな腎癌に対する経皮的局所療法としてのラ ジオ波焼灼術および凍結療法は腎部分切除術との比較 検討および長期的評価が十分になされていないが,腫 瘍が小さく(3 5 ㎝以下)外方に突出する場合は制癌 が可能である。」と記載されている。 また,同ガイドラインには「腫瘍径 4 ㎝以下(T1a)の 腎癌患者において腎部分切除術は推奨されるか?」と いう CQ があり,「推奨グレード B (エビデンスがあり, 推奨内容を日常診療で実践するように推奨する)。制癌 性は根治的腎摘除術と同等で,特に腎機能保持の面で 有用であり,腎部分切除術は推奨される。」と回答され ている。根拠としては「単腎症例,腎機能低下症例, 両側腎癌症例に対して腎部分切除術は絶対的適応であ り,対側腎が正常で特に腫瘍径 4 ㎝以下の場合は選択 的適応である。腫瘍径 4 ㎝以下の腎癌症例に対する腎 部分切除術の 5 年癌特異的生存率は 97.8100%,再発 率は 0.8 1.6%と根治的腎摘除術と比較して遜色ない 術式である。」と記載されている。この適応は腎 RFA 類似しており,成績は腎 RFA においても目標となる。 腎 RFA 適応決定のためのチェック項目 1. 年齢,余命,パフォーマンスステイタス(PS)。 2. 血液生化学所見,生理学検査所見など:腎機能(血 清クレアチニン,クレアチニンクリアランス),出 血凝固,肝機能。心肺機能(心電図,胸部 X 線検査), 検尿。 3. 腫瘍の画像診断:腎 CTMRI。肺転移の除外のた め,胸部 CT。骨転移が疑われれば骨シンチグラム。 4. 病理組織:可能な限り採取する。RFA の術中(直前, 直後)でも可。 5. 患者のコンプライアンス。 RFA(腎臓) ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 第 39 回日本 IVR 学会総会「技術教育セミナー」 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 腎 RFA の適応・適応外となる患者・病態 適応(表1) 1腫瘍の大きさ:腫瘍径 5 ㎝あるいは 4 ㎝(T1a)以下 が適応と思われる。3 ㎝以下では完全壊死が得られ やすく,1 回のセッションで完全壊死が可能である。 3 ㎝より大きい腫瘍に対しては多くは 2 回目のセッ ションを必要とし 1,また TAE 併用も考慮される。 2手術不能あるいは切除により透析が必要となる患者。 ・併存疾患(冠動脈疾患,心筋症,慢性閉塞性肺疾患 など)があり,全身麻酔によるリスクが高い患者。 ・片腎かあるいは腎機能低下があり,切除により透 析を要する可能性が高い患者。 3新たな腎癌が出現する可能性が高く,最小限の侵襲 で腎を温存する治療が望ましい患者。 VHL von Hippel-Lindau 病),遺伝性腎癌など。多 くは小さい腫瘍で発見される。最終的には腎摘除 術が必要となりやすく,RFA により腎摘除術が必 要となるまでの期間を延長できる。 ・両側腎癌で大きな腎癌を切除し,対側の小さな腎 癌に RFA を施行することにより,対側腎摘除術 が必要となるまでの期間を延長できる。 適応外 1肺転移・骨転移など,広範囲の転移性病変を有する。 限局した転移であれば RFA が有用となるかもしれ ない。 2余命が限られている。 3 ヵ月以内の生命予後であるなど。 3急性感染症。 改善するまで延期する。 4出血凝固異常が補正できない。 血小板> 5 / μℓ,PT INR 1.5 が望ましい。 5適切な PS ではない。 ・5 ㎝以下の腫瘍 ・併存疾患あるいは患者の拒否により手術不能 ・片腎 ・腎機能低下 ・多発腫瘍(VHL など) 表 1 腎 RFA の適応 36408

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Page 1: RFA(腎臓) - jsir.or.jp · 第39回日本ivr学会総会「技術教育セミナー」:三村秀文,他 1.腎rfa 適応と合併症 川崎医科大学附属川崎病院 放射線科,岡山大学大学院

第39回日本 IVR学会総会「技術教育セミナー」:三村秀文,他

1 . 腎RFA 適応と合併症川崎医科大学附属川崎病院 放射線科,岡山大学大学院 医歯薬総合研究科放射線医学1)

三村秀文,郷原英夫1),平木隆夫1),藤原寛康1),芝本健太郎1),金澤 右1)

腎RFAの適応

腎癌診療ガイドラインの記載 腎癌診療ガイドライン2007年版には「小さな腎癌に対する経皮的局所療法は推奨されるか?」とのCQに対して「推奨グレードC1(エビデンスは十分とはいえないが,日常診療でおこなってもよい)。全身状態や合併症により根治的な治療が困難な場合や患者が手術を拒否した場合に推奨される。」と回答され,根拠として「小さな腎癌に対する経皮的局所療法としてのラジオ波焼灼術および凍結療法は腎部分切除術との比較検討および長期的評価が十分になされていないが,腫瘍が小さく(3~5㎝以下)外方に突出する場合は制癌が可能である。」と記載されている。 また,同ガイドラインには「腫瘍径4㎝以下(T1a)の腎癌患者において腎部分切除術は推奨されるか?」というCQがあり,「推奨グレードB(エビデンスがあり,推奨内容を日常診療で実践するように推奨する)。制癌性は根治的腎摘除術と同等で,特に腎機能保持の面で有用であり,腎部分切除術は推奨される。」と回答されている。根拠としては「単腎症例,腎機能低下症例,両側腎癌症例に対して腎部分切除術は絶対的適応であり,対側腎が正常で特に腫瘍径4㎝以下の場合は選択的適応である。腫瘍径4㎝以下の腎癌症例に対する腎部分切除術の5年癌特異的生存率は97.8~100%,再発率は0.8~1.6%と根治的腎摘除術と比較して遜色ない術式である。」と記載されている。この適応は腎RFAと類似しており,成績は腎RFAにおいても目標となる。

腎RFA適応決定のためのチェック項目1 . 年齢,余命,パフォーマンスステイタス(PS)。2 . 血液生化学所見,生理学検査所見など:腎機能(血清クレアチニン,クレアチニンクリアランス),出血凝固,肝機能。心肺機能(心電図,胸部X線検査),検尿。

3 . 腫瘍の画像診断:腎CT,MRI。肺転移の除外のため,胸部CT。骨転移が疑われれば骨シンチグラム。

4 . 病理組織:可能な限り採取する。RFAの術中(直前,直後)でも可。

5 . 患者のコンプライアンス。

RFA(腎臓)‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 第39回日本IVR学会総会「技術教育セミナー」‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥

腎RFAの適応・適応外となる患者・病態適応(表1)1) 腫瘍の大きさ:腫瘍径5㎝あるいは4㎝(T1a)以下が適応と思われる。3㎝以下では完全壊死が得られやすく,1回のセッションで完全壊死が可能である。3㎝より大きい腫瘍に対しては多くは2回目のセッションを必要とし1),またTAE併用も考慮される。

2) 手術不能あるいは切除により透析が必要となる患者。・併存疾患(冠動脈疾患,心筋症,慢性閉塞性肺疾患など)があり,全身麻酔によるリスクが高い患者。・片腎かあるいは腎機能低下があり,切除により透析を要する可能性が高い患者。

3) 新たな腎癌が出現する可能性が高く,最小限の侵襲で腎を温存する治療が望ましい患者。・VHL(von Hippel-Lindau病),遺伝性腎癌など。多くは小さい腫瘍で発見される。最終的には腎摘除術が必要となりやすく,RFAにより腎摘除術が必要となるまでの期間を延長できる。・両側腎癌で大きな腎癌を切除し,対側の小さな腎癌にRFAを施行することにより,対側腎摘除術が必要となるまでの期間を延長できる。

適応外1) 肺転移・骨転移など,広範囲の転移性病変を有する。 限局した転移であればRFAが有用となるかもしれない。

2) 余命が限られている。 3ヵ月以内の生命予後であるなど。3) 急性感染症。 改善するまで延期する。4) 出血凝固異常が補正できない。 血小板>5万/μℓ,PT-INR<1.5が望ましい。5) 適切なPSではない。

・5㎝以下の腫瘍・併存疾患あるいは患者の拒否により手術不能・片腎・腎機能低下・多発腫瘍(VHLなど)

表1 腎RFAの適応

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第39回日本 IVR学会総会「技術教育セミナー」:三村秀文,他

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技術教育セミナー / RFA(腎臓)

補 足1)腫瘍占拠部位腫瘍占拠部位として外方発育型,実質型,中心型,混合型に分類される。外方発育型の腫瘍は完全壊死を達成し易い。中心型の腫瘍は残存しやすいが適応外ではない1)。

2)片腎RFA後の腎機能変化片腎RFAの際の腎機能の変化を Jacobsonら2)が以下のとおり報告をしている。16例の片腎患者の平均3.4㎝の充実性腎腫瘍に対してRFAを施行した。RFA後一週間以内の血清クレアチニン値,クレアチニンクリアランスの治療前と比較した低下率はそれぞれ12.1%,13.3%,平均15.3ヵ月のフォローアップでのそれらは8.7%,9.1%であった。合併症としては急性血栓性尿路閉塞が3例,腎周囲血腫が1例みられた。また,RFA前後でクレアチニンクリアランスに有意差はみられなかった,という報告もある。

3)VHL患者における適応Duffeyら3)は3㎝未満の腎細胞癌を有するVHL 108患者を経過観察し,3㎝に達してから手術を勧めたところ,平均58ヵ月の経過観察中転移はなかった。3㎝より大きい腎細胞癌を有するVHL 73患者では手術を勧め,平均72.9ヵ月の経過観察中27.4%で転移が出現した。彼らは転移の危険性を減らして腎機能を温存するために,腎保存手術を実施する腫瘍の大きさのしきい値を3㎝とすることを推奨している。RFAでもこの成績は参考になるが,RFAは繰り返し治療が可能であり,腫瘍がより小さい段階で治療すれば正常腎を温存可能であり,早期の治療も検討すべきかもしれない。

4)生 検可能な限り生検を施行するべきである4)。充実性腎腫瘍には少なからず良性病変が含まれる。Frank5)

らは2770人2935個の片側性の転移のない充実性腎腫瘤を切除したところ,良性腫瘤の比率は全体で13%,2㎝以上3㎝未満では22%,1㎝以上2㎝未満では22%,1㎝未満では46%であったと報告している。生検の合併症として播種が問題とされるが,腎細胞癌針生検による播種はまれで,0.01%未満の発生率と報告されており,1994年以来報告されていない6)。悪性の診断のための腎生検の感度は80~92%,特異度83~100%であったと報告されている6)。また,多くの術者がRFAと同じセッション(直前あるいは直後)で生検を施行している。

5)TAEとRFAの併用大きく,腎門に進展するRCCが良い適応と考えられる。Yamakadoら7)は11患者の3.5㎝以上(3.5~9.0㎝)の12個の腎細胞癌病変に対し,TAEとRFAを併用し,全ての腫瘍で13ヵ月の平均フォローアップ期間中局所制御が得られ,major complicationとしては遅発性膿瘍が1例でみられた,と報告している。

腎RFAの合併症

 Major complicationsとして,多量の出血,尿管損傷,腸管損傷,残存・再発腫瘍などがあり,minor compli-cationsとして,疼痛,血腫,血尿,神経筋損傷,気胸,梗塞,inflammatory tract massなどがある。1)出 血・血 腫(図1) わずかな腎被膜下・腎周囲血腫はしばしば認められる。RFA直後にCTでチェックする。予防策としては不要な穿刺を避ける,tract ablation,RFA前TAEを施行する。電極針の方向や角度は血腫形成と関連はみられなかった1)。・血 尿 頻度:4%1)。多くは経過観察で12時間以内に消失する。多量の血尿にはbladder outlet obstruction予防のため導尿,灌流が行われる。穿刺に起因するAVFによる血尿に対しては動脈塞栓術を要するかもしれない。尿路出血に対する特別な予防策はない。・輸血を必要とする多量の出血(腎被膜下・腎周囲血腫,尿路出血)

頻度:1~2%1,8)。原因として大動脈・下大静脈・腎茎部の機械的損傷なども挙げられる。その予防策としては電極針先端をモニタリングすること。

2)尿管狭窄 頻度:1~2%1,8)。尿管狭窄の画像所見としては尿管壁肥厚,尿漏出,水腎症が挙げられる。

治療としては内視鏡下尿管ステント,腎瘻造設,腎摘除術が施行される。予防策としては腫瘍と尿管を2㎝以上離す1)(4)腸管熱傷参照),尿路内液体灌流を行う9),腹腔鏡下で尿管を離してRFAを施行することが有用である。

3)尿漏出(Urine leaks) 頻度:3%。臨床的に問題となる尿漏出の頻度は1%1)。中心に位置する腫瘍で生じやすい。多くは経過観察で1年以内に消失する。治療としてはurinomaのドレナージ,尿管狭窄があれば尿管ステントが留置される。

4)腸管熱傷 頻度:症例報告がみられる10)。予防策としては体位変換,腫瘍と腸管の間の液体・CO2の注入(図2)が挙げられる11)。しかし,凝固範囲が不十分となる可能性がある。また電極針をテコとして使用し,腸管から腫瘍を離すことも有用である。

5)播 種 頻度:症例報告がみられる12)。原因として直接の播種,血液その他の液体の tract逆流を介しての播種が考えられる。予防策としては tract ablationが有用かもしれない。他に穿刺回数を少なくする,TAEを併用するなどが挙げられる。

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第39回日本 IVR学会総会「技術教育セミナー」:三村秀文,他

技術教育セミナー / RFA(腎臓)

図1 RFA後腎被膜下・腎周囲血腫 a : RFA前MRI T2強調像:右腎下極腎癌は大部分が高信号を呈する腫瘍としてみられる。 b : RFA直後CT:腎被膜下血腫,腎周囲血腫が出現した。 c : RFA後6時間CT:腎被膜下血腫はやや増大しているが,腎周囲血腫の増大はみられない。 d : RFA翌日CT。血腫の大きさはRFA後6時間CTと同様である。輸血により対処可能であった。

c da b

図2 CO2 注入による腸管損傷の予防 a : RFA前CT:左腎癌と下行結腸が近接している。 b : CO2注入後腹臥位CT透視:サーフロー針からのCO2注入により両者を離し,安全に

RFAを施行可能であった。

a b

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6)神経筋損傷 頻度:1~2%1,8)。症状としては慢性疼痛,知覚障害があり,多くは一時的だが永続的となりうる。陰部大腿神経損傷が原因と考えられている。陰部大腿神経は腰神経叢上部を出て大腰筋外側を下降する。予防策としては電極針をテコの要領で腎を外側に移動させる,液体,CO2を用いて腎と腰筋を離す,などが挙げられる。

7)気 胸 頻度:2%8)。腎上極腫瘍のRFAに際して問題となる。予防策としては頭側方向に向けて穿刺する,CTガントリーを傾ける,超音波,MRIガイド下に行うなど。

8)Inflammatory tract mass 頻度:2%13)。播種性病変との鑑別が問題となる。RFA後長期経過して tract周囲に出現し,充実性,geo-graphicな形態である。

9)その他の合併症 その他尿路感染症,腎梗塞が挙げられる。腎梗塞は小動脈の閉塞で生じ,腎機能障害がある患者には問題となりうる。

【参考文献】1) Gervais DA, McGovern FJ, Arellano RS, et al: Radio-

frequency ablation of renal cell carcinoma: part 1, Indications, results, and role in patient management over a 6-year period and ablation of 100 tumors. AJR Am J Roentgenol 185: 64 - 71, 2005.

2) Jacobsohn KM, Ahrar K, Wood CG, et al: Is radiofre-quency ablation safe for solitary kidneys? Urology 69: 819 - 823, 2007.

3) Duffey BG, Choyke PL, Glenn G, et al: The relation-ship between renal tumor size and metastases in patients with von Hippel-Lindau disease. J Urol 172: 63 - 65, 2004.

4) Clark TW, Millward SF, Gervais DA, et al: Reporting standards for percutaneous thermal ablation of renal cell carcinoma. J Vasc Interv Radiol 20: S409 - S416, 2009.

5) Frank I, Blute ML, Cheville JC, et al: Solid renal tu-mors: an analysis of pathological features related to tumor size. J Urol 170: 2217 - 2220, 2003.

6) Brown DB, Gonsalves CF: Percutaneous biopsy before interventional oncologic therapy: current sta-tus. J Vasc Interv Radiol 19: 973 - 979, 2008.

7) Yamakado K, Nakatsuka A, Kobayashi S, et al: Ra-diofrequency ablation combined with renal arterial embolization for the treatment of unresectable renal cell carcinoma larger than 3.5cm: initial experience. Cardiovasc Intervent Radiol 29: 389 - 394, 2006.

8) Zagoria RJ, Traver MA, Werle DM, et al: Oncologic efficacy of CT-guided percutaneous radiofrequency ablation of renal cell carcinomas. AJR Am J Roent-genol 189: 429 - 436, 2007.

9) Cantwell CP, Wah TM, Gervais DA, et al: Protecting the ureter during radiofrequency ablation of renal cell cancer: a pilot study of retrograde pyeloperfu-sion with cooled dextrose 5% in water. J Vasc Interv Radiol 19: 1034 - 1040, 2008.

10) Weizer AZ, Raj GV, O�Connell M, et al: Complica-tions after percutaneous radiofrequency ablation of renal tumors. Urology 66: 1176 - 1180, 2005.

11) Arellano RS, Garcia RG, Gervais DA, et al: Percuta-neous CT-guided radiofrequency ablation of renal cell carcinoma: efficacy of organ displacement by injection of 5% dextrose in water into the retroperito-neum. AJR Am J Roentgenol 193: 1686 - 1690, 2009.

12) Mayo-Smith WW, Dupuy DE, Parikh PM, et al: Imaging-guided percutaneous radiofrequency abla-tion of solid renal masses: techniques and outcomes of 38 treatment sessions in 32 consecutive patients. AJR Am J Roentgenol 180: 1503 - 1508, 2003.

13) Lokken RP, Gervais DA, Arellano RS, et al: Inflam-matory nodules mimic applicator track seeding after percutaneous ablation of renal tumors. AJR Am J Roentgenol 189: 845 - 848, 2007.

技術教育セミナー / RFA(腎臓)

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第39回日本 IVR学会総会「技術教育セミナー」:曽根美雪,他

2 . 腎RFAの治療成績岩手医科大学 放射線科

曽根美雪,加藤健一,鈴木美知子,赤羽明生,田中良一江原 茂,佐藤健介,大森 聡,藤岡知昭

はじめに

 近年,マルチスライスCT等の画像診断技術の発達と普及により,小径の腎癌が偶然発見される機会が増加している1,2)。これに伴い,治療法は腎機能温存に寄与する低侵襲治療へとシフトし,縮小手術,鏡視下手術が増加するとともに,経皮的治療として thermal ablationが台頭してきた。従来,腎癌に対する IVRとして主に動脈塞栓術が行われてきたが,手術の補助あるいは手術不能な場合の代替治療としての意義に限定されていた。Thermal ablationは,小径腎癌の増加,なかでも他に併存疾患を有することの多い高齢患者の増加という患者構成の変化にともない,腎癌診療の主軸となり得る IVRである。Thermal ablationは温度変化によって腫瘍壊死をきたす抗癌治療で,ラジオ波焼灼療法(radiofrequency ablation: RFA)と凍結治療(cryoablation)が含まれる。このうちRFAは,画像ガイド下に IVR医が行う手技としての認知度が高まり,近年,施行数が増加している。本稿では,IVR医が腎癌のRFAを行う際に知っておきたい治療成績について概説する。

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小径腎癌に対する標準的治療

 腎癌診療ガイドライン(2007年版)によると,遠隔転移のない腎癌に対する標準的治療は,腎摘除術である3)(図1)。RFAおよび cryoablationは,T1a腎癌,すなわち最大径4㎝以下で腎に限局する小径の病変が適応となるが(表1,2),その位置づけは“全身状態や合併症により根治治療が困難な場合や手術拒否の場合に推奨(推奨グレードC1)”というものであり,まだ標準的治療とするエビデンスは十分に揃っていない。また,T1a腎癌では,内視鏡下腎摘除術(推奨グレードB),開腹腎部分切除術(推奨グレードB),内視鏡下腎部分切除術(推奨グレードC1)も適応となり,治療法の選択肢が多い。さらに,画像で小径腎癌と診断されるものの中には組織学的に良性の病変も相当数含まれていること,腎細胞癌の増大速度は年間3㎜程度と緩徐であることから,特に腫瘍径2㎝以下の場合,年齢や手技に伴うリスクを総合的に判断して,6~12ヵ月毎に経過観察する“active surveillance”も選択肢の一つとしてガイドラインに示されている3)。

Stage

T: tumor stage 1a 1b 2 3a 3b 3c 4

(原発腫瘍)最大径が4.0㎝以下で,腎に限局する腫瘍最大径が4.0㎝を越えるが7.0㎝以下で,腎に限局する腫瘍最大径が7.0㎝を越え,腎に限局する腫瘍腫瘍は副腎または腎周囲脂肪組織または腎洞脂肪組織に浸潤するが,Gerota筋膜を越えない腫瘍は腎静脈または横隔膜下までの下大静脈内に進展する腫瘍は横隔膜を越える下大静脈内に進展する腫瘍はGerota筋膜を越えて浸潤する

N: node stage 0 1 2

(所属リンパ節)所属リンパ節転移なし1個の所属リンパ節転移2個以上の所属リンパ節転移

M: metastasis stage 0 1

(遠隔転移)遠隔転移なし遠隔転移あり

表1 腎癌のTNM分類

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第39回日本 IVR学会総会「技術教育セミナー」:曽根美雪,他

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技術教育セミナー / RFA(腎臓)

著 者 年 患者数 腫瘍数 平均腫瘍径(㎝)

平均観察期間(月)

重篤な有害事象(%)

一次成功率(%)

二次成功率(%)

再発率(%)

CSS(%)

Levinson et al17) 2008 31 31 2 61.6 3 97 100 9.7 100

Zagoria et al6) 2007 104 125 2.7 13.8 2 87.2 92.8 3.4 98

Breen et al9) 2007 97 105 3.2 16.7 4.2 79 90 0 99

Gervais et al7) 2005 85 100 3.2 28 6 90 98 7 100

Varkarakis et al8) 2005 46 56 2.2 27.5 2 89.3 100 7 RFS 86.4

Ahrar et al18) 2005 29 30 3.5 10 12 83 96 0 NA

Abbreviations: CSS, cancer-specific survival; RFS, recurrence-free survival; NA, not available

表2 経皮的腎RFAの治療成績

図1 腎癌診療のアルゴリズム(腎癌診療ガイドライン 2007より:改変 3))

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技術教育セミナー / RFA(腎臓)

RFAの腫瘍学的治療成績

 腎癌は,泌尿器腫瘍医が診療の中心となっている疾患であり,新しい治療法の確立においては,腫瘍学的なエビデンスが求められていることは言うまでもない。現時点では,腎RFAの文献報告は大半が後ろ向きのケースシリーズであり,“有望な治療法であるが,腫瘍学的評価が不十分”という表現が数多く認められる。 RFAは新しい治療法であり,中期成績が中心となることはやむを得ないが,われわれ IVR医も腫瘍学的な視点から5年ないし10年の長期成績や生存への寄与を評価する必要があることを念頭におきたい。 T1aおよびT1b腎癌に対して,標準的治療である腎摘除術を施行した場合,癌特異的生存割合(cancer-specific survival: CSS)は,5年97%,10年94%ときわめて高く,腎部分切除術でも5年95%,10年92%という高い生存割合が示されている4,5)。RFAにおいても,局所制御は一次成功率79~97%,二次成功率90~100%,癌特異的生存割合は,観察期間にばらつきがあるものの98~100%と良好な成績が報告されており,手術と比べて遜色ない(表2)。今後,長期成績および手術との比較試験により,標準的治療とするに十分な強固なエビデンスが構築されることが期待される。中でも,高齢者や併存疾患を有する患者など,低侵襲治療の恩恵が特に期待される対象におけるエビデンス構築が望まれる。

治療成績に影響を及ぼす因子

 腫瘍径は,RFAの局所効果に影響を及ぼす主要な因子である。腫瘍径3㎝以下での局所制御率はほぼ100%であるのに対し,3㎝より大きい場合は 60~81%と低下する6~8)。Gervaisらは,100腫瘍の治療経験より,3㎝以下(n=52)では2回以内の治療で完全焼灼が得られたが,3~5㎝(n=39)では92%,>5㎝(n=8)では25%であったと報告している7)。Zagoriaらの125腫瘍の検討では,3.5㎝以下(n=95)の腫瘍における1回の治療での完全壊死は全例(100%)で達成されたが,3.6~5.0㎝(n=20)では60%,5.1㎝以上(n=10)では20%であった 6)。Breenらは105腫瘍の検討を行い,1回治療での完全焼灼に統計学的有意差をもって影響する因子として,“腫瘍径3㎝以下”を挙げている9)。腫瘍径3㎝以下がRFAの最もよい適応であり,3~5㎝でも複数回の治療により腫瘍壊死が期待できるが,5㎝以上の場合RFA単独での局所制御は困難であるといえる。 腫瘍の局在も,RFAの治療効果に影響する。外方突出型と腎門型で治療効果に有意差はないという報告もあるが9),前出のGervaisらの検討では,外方突出型の腫瘍(n=67)では全例で完全焼灼が可能であったが,腎門型(n=7)では78%,混合型(n=18)では61%にとどまった7)。腎門成分をもつ腫瘍では,腎動静脈の血

流による不十分な焼灼や,尿路の焼灼による有害事象が懸念されるため十分な焼灼範囲をとれないことから,腫瘍残存が多くなると考えられる。

安全性と腎機能温存についての成績

 腎RFAにおいて頻度の高い有害事象は,焼灼時の疼痛と熱感,血尿である。血尿は,通常は一過性で治療を要さず24時間以内に消失する。無症候性の乳び尿も比較的多くみられる合併症で,41%に認めたという報告もある10)。重篤な有害事象は2~12%の頻度で発生し(表2),出血,尿路損傷,尿瘻等が挙げられる。また,稀ではあるが,消化管損傷や皮膚熱傷,穿刺経路への腫瘍播種の報告がある11)。 RFAは高齢者や片腎など手術の適応となり難い全身状態の患者を対象とすることが多いため,腎機能の変化に注意が必要である。Salasらによると,RFA後の血清クレアチニンの上昇は平均0.14㎎と軽度であった12)。片腎患者については,Ramanらの16名の検討において,GFR低下は術後6週間で平均7%,平均2.5年間の観察期間全体では11%の低下と報告されている13)。

Quality-of-life: QOL

 QOLは,患者が自覚することのできる重要なアウトカムの一つであり,低侵襲治療の意義を正しく評価するためにも重視すべき事項である。腎RFAでQOLを評価した論文はまだ少ないが,Onishiらは,4㎝以下の小径腎癌に対する経皮的RFAと鏡視下腎摘出術のQOLスコア(SF-36)を比較した非ランダム化比較試験において,RFAは手術と比べてQOLスコア低下が有意に少なく,24週の時点でも高い傾向があったと報告している14)。また,米国からの報告であるため日本と医療事情は異なるが,quality-adjusted life years(QALYs)を指標として4㎝以下の小径腎癌の費用対効用分析を行った研究において,経皮的RFAは開腹腎部分摘除術よりも費用に対する効用が優るという結果が示された15)。

RFA vs cryoablation

 Kunkleらは,47の論文で,cryoablationを施行した600腫瘍,RFAを施行した775腫瘍のメタ分析を行い,報告した16)。局所の腫瘍増大はcryoablation(5.2%)と比べてRFA(12.9%)で有意に多く,再治療もRFAに多いという結果であった。2つの治療法の間で年齢などの患者因子や腫瘍径などの腫瘍因子に差はなかったが,RFAは93.7%が経皮的に行われたのに対し,cryoabla-tionは経皮的アプローチは23.2%にとどまり開腹手術が64.8%という差異が関係している可能性がある。なお,初期のcryoablationでは,穿刺プローブの径が大きかったために開腹手術が大多数を占めたと考えられる。 Cryoablationは,RFAと異なり,治療時の疼痛が少なく,CT,MR,USの画像で治療範囲の正確なモニターが可能であるという利点を持つ。昨年,アルゴンガス

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第39回日本 IVR学会総会「技術教育セミナー」:曽根美雪,他

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を用いた凍結治療器が日本でも薬事承認され,普及に向けての一歩を踏み出した。RFAでの焼灼が困難な腎門型の腫瘍における安全性と有効性などの臨床的疑問について,臨床試験を遂行してエビデンスを構築していくことが望まれる。

おわりに

 腎RFAは,IVR医が腎癌の診療に参画する新たな機会をもたらした。腎癌診療の全体像を理解し,画像診断と IVRの視点をもってチーム医療に参加するとともに,RFAが腎癌診療ガイドラインのなかで高いエビデンスレベルで推奨されるような研究を行い,患者に最良の治療法を提供する姿勢が IVR医に求められていると考えられる。本稿が,腎RFAの実臨床における現在の“立ち位置”と,エビデンス生成の必要性を再確認する一助となれば幸いである。

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技術教育セミナー / RFA(腎臓)

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第39回日本 IVR学会総会「技術教育セミナー」:高木治行,他

3 . 腎RFAの手技とそのコツ三重大学 IVR科

高木治行,山門亨一郎

はじめに

 腎癌は,本邦では年間7,000例以上,米国では年間50,000例以上が新たに診断され,その罹患率は世界的に増加傾向である1)。しかも腎癌患者のピークは70歳代後半と高齢で全身麻酔や手術のリスクが高い患者が多く,腎機能低下例も少なくない1,2)。このため,従来の外科的治療に比べより低侵襲かつ腎機能温存能に優れたラジオ波凝固療法(radiofrequency ablation,以下RFA)への期待が高まっている。本稿では,腎RFAの手技とそのコツについて解説する。

前処置・麻酔

 経口摂取は術前食事禁,飲水可としている。腫瘍が結腸に隣接している症例では,適宜下剤投与や浣腸を行う。RFA施行時の発汗による脱水や血尿による尿閉を回避するため,治療前後で十分な補液を行い利尿を促す。術前より尿道カテーテルを留置して,治療中~治療後の尿の正常および尿量に十分注意する。 患者の精神的緊張を緩和する目的で前投薬として塩酸ヒドロキシジン(アタラックスP)を用いている。腎

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RFA手技は局所麻酔下に行い,RFA電極刺入部の局所麻酔としてリドカイン(キシロカイン),焼灼中の疼痛に対してはフェンタニル(フェンタネスト)を用いる。

体 位

 RFA施行時に適切な患者の体位を選択することは,その後の手技の行い易さに直接影響し,また合併症を回避する上でもきわめて重要である。我々は腎RFA施行時の体位は腹臥位を基本としている。しかし,腎上極に位置する腫瘍の場合には経胸腔穿刺となってしまう場合があり,注意が必要である。このような場合,CTのガントリーを手前に傾けて穿刺を行うgantry tilt techniqueが有用である(図1)。また,患側臥位の体位だと穿刺の際に腎が動きにくく,また経肺穿刺を回避しやすいため,患側臥位を第一選択とするとの報告もある3)(図2)。 腫瘍が腎外側や背側に位置している場合には背臥位で手技を行う場合がある。しかし通常は結腸が腎外側に位置しており背臥位での手技可能例は限られる。腫瘍が右腎上極に位置し他の穿刺経路での穿刺が困難な場合には,背臥位・経肝的アプローチでRFA施行可

図1 60代男性,右腎細胞癌 a : 右腎上極に径4㎝の腎細胞癌を認める(矢頭)。 b : 腹臥位では,腫瘍背側に肺が位置している(矢印)。 c : CTのgantryを手前に約15°傾けて電極針を刺入。Gantry tilt techniqueにより,経肺穿刺を

回避することが可能であった(矢印)。

a b c

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能な場合がある。腎外側に位置する腫瘍が腸管に隣接している場合には,体位を健側臥位とすることにより腸管と腫瘍の間に十分な距離を保つことができ,安全にRFA施行可能な場合がある(図3)。

腎RFA施行例の腎生検

 腎RFAの対象となることが多い4㎝以下の充実性腎腫瘍のうち,約20%が良性腫瘍と報告されている4)。また,RFA後の経過観察のタイミングや追加治療の必要性を検討する際に組織学的な診断確定が必要であり,米国泌尿器科学会議(American Urological Association, AUA)のガイドラインでも腎RFA施行例には腎生検を行うことが推奨されている5)。しかし,実際には腎RFAの対象となる腫瘍の多くが多血性であり,腎生検に伴う出血や播種が懸念される。このため,我々の施設では事前に十分なインフォームドコンセントを行い,まず腎RFAを行ってから直後に腎生検を行っている。すでにRFAを行った部位からの生検なので出血や播種の

リスクは少なく,またRFA直後~数ヵ月後までは組織の形体が保たれているため,多くの場合組織学的診断が可能である6)。

穿刺のコツ

 腎RFA手技を成功させるためには,適切な位置にRF電極針を穿刺する必要がある。我々はRF電極針の穿刺はCT透視下で行っている。超音波ガイド下で電極を穿刺する施設もあると思われるが,超音波では隣接する腸管や尿管の位置確認が困難な場合がある。更に,一旦 ablationを開始するとbubbleの発生により,超音波では腫瘍の確認が困難となる。特に腎は血流の豊富な臓器であるため1度の電極刺入で得られる凝固領域はかなり制限され7),数回の電極刺入が必要となる場合が多い。このため,腎RFAの際の穿刺支援画像としてはCT透視が最も適していると思われる。 RF電極針を腫瘍に刺入する際には,正常腎実質を介した腫瘍の穿刺を心がける(図4)。これは,腫瘍を

図2 70代男性,右腎細胞癌a : 右腎に径3㎝の腎細胞癌を認める(矢頭)。腹臥位では,腫瘍背側に肺が位置している(矢印)。

b : 患側臥位では経肺穿刺とならずに電極針を刺入することが可能であった(矢印)。

図3 80代男性,左腎細胞癌a : 左腎に径4㎝の腎細胞癌を認める(矢頭)。背臥位では,腫瘍のすぐ外側に結腸が隣接している(矢印)。

b : 健側臥位では結腸が腹側に移動(矢印)。腫瘍と結腸の間に十分な距離を確保でき,腸管を損傷することなく安全にRFAが施行可能となった。本例では,事前に少量の造影剤を静注して尿路を確実に識別できるようにした後に電極針を刺入している。

a b

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直接穿刺することによる出血や播種の危険を回避するためである。また,電極刺入の際に腎が動いてしまい,目標とした部位にうまく電極針が到達しない場合がある。この様な場合には,最初に刺入した電極針はそのまま残しておいて,新たなRF電極針を用いて目標とした部位を穿刺する(図5)。こうすると最初に刺入した電極針により腎が固定されるため,次の穿刺が容易となる。

焼灼範囲拡大のためのコツ

 腎は血流の豊富な臓器であり,腎癌自体もほとんどが多血性である。このため,1回の治療で得られる凝

固領域には限界があり,overlapping ablationが必要となる場合が多い。この場合には,まず腫瘍の腎門側からの穿刺・焼灼を行い,続いて腫瘍の末梢側を穿刺・焼灼する(図6,7)。これは,腫瘍の血流を少しでも落として凝固領域を拡大させようとするものである。 また,RFAの局所治療効果を左右する因子として腫瘍径が重要であり,腫瘍径が3.6㎝を超えた場合,腫瘍径が1㎝増加するごとにRFA後の残存腫瘍の頻度が約2倍上昇するとの報告がある8)。このような大型腎癌に対しては動脈塞栓術併用RFAの有用性が報告されており,Yamakadoらは3.5~9.0㎝(平均5.2㎝)の大型腎癌に対して動脈塞栓術併用RFAを行い,全例で完

図5 腎が回転した場合の対応 RF電極針を刺入する際に腎が腎門部の血管を軸に回転し,目標とした部位にうまく電極針

が到達しない場合がある。この様な場合には,最初に刺入した電極針(黒矢印)はそのまま残しておいて,新たなRF電極針(点線矢印)を用いて目標とした部位を穿刺する。最初に刺入した電極針により腎が固定されているため,次の穿刺が容易となる。

図4 60代女性,左腎細胞癌 a : 左腎上極に径3.5㎝の腎細胞癌を認める(矢頭)。 b : 腹臥位でのCT像。腫瘍は腎上極の腎実質より腎外に突出している。 c : 正常腎実質を介してRFA電極針を腫瘍内に刺入(矢印)。

a b c

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全壊死が得られたと報告している9)。

合併症回避のためのコツ

 米国での多施設共同研究において,腎RFAの合併症発生率はmajor complicationが2.2%,minor complica-tionは6%であったと報告されている 10)。頻度の高いmajor complicationとしては血尿と尿閉(1~10%),尿管損傷(1~2%),熱傷(1%),尿漏(<1%)等の報告

がある10)。 特に腫瘍が腎洞に進展するcentral typeの腎癌の場合には,尿路の損傷に注意する必要がある。我々は腫瘍が尿路と接するような場合には,少量の造影剤を静注して尿路を確実に識別できるようにした後にRFAを施行している(図3)。また,腫瘍が尿路に隣接している場合には事前に尿管カテーテルを留置しておいて,冷却した5%ブドウ糖液を還流させながらRFAを行う

図7 60代女性,右腎細胞癌a : 治療前MRI(T1強調像)。右腎に径

2.5㎝の腎細胞癌を認める(矢頭)。b : まず腫瘍の腎門側から穿刺・凝固を行う(黒矢印)。

c : 次に,腫瘍の末梢側にRFA電極針を刺入(白矢印)。

d : 治療後MRI(T1強調像)。良好な凝固領域が得られている(矢頭)。

図6 腎門側からの凝固 Overlapping ablationを行う場合には,まず腫瘍の腎門側から穿刺・凝固を行い(黒矢印),

腫瘍の血流を低下させておいてから腫瘍の末梢側を凝固する(点線矢印)。

c da b

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報告もある3)。一方,腫瘍が腎外に突出するexophitic typeの場合には,隣接する腸管等の臓器損傷に注意する必要がある。我々は,腫瘍が腸管と隣接している場合には,まず体位を工夫することで腫瘍と腸管との距離を保つことができないかどうかを試みている。体位変換後も腫瘍と腸管との距離が保てない場合には,前傍腎腔または腎周囲腔に5%ブドウ糖液を注入して腫瘍と腸管とを離した後にRFAを施行している(図8)。この際,5%ブドウ糖液に少量の造影剤を混和することで,腫瘍と隣接臓器との位置関係の把握が容易となり,出血との鑑別にも役立つ。腫瘍と腸腰筋が接している場合にも陰部大腿神経障害を回避するために5%ブドウ糖液を注入する場合がある3)。 治療後,電極針を抜去する場合には穿刺経路の凝固(tract ablation)を行い,出血や播種の合併を防ぐ。

おわりに

 腎RFAの手技とそのコツについて解説した。腎癌診療の中で,現時点での腎RFAの位置づけは手術リスクの高い症例や腎機能低下例に対するoptionとされている5)。この様な症例に対して安全かつ確実に治療を行い実績を積み上げてゆくことが,腎RFAが今後ますます普及していく上での土台になると思われる。

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図8 70代女性,右腎細胞癌 a : 右腎に,結腸肝彎曲部に隣接する径1.3㎝の腎細胞癌を認める(矢頭)。 b : 前傍腎腔に18G PTC針を刺入し,少量の造影剤を加えた5%ブドウ糖液を注入(黒矢印)。腫瘍と

結腸が離れたことを確認した後にRFAを施行(白矢印)。 c : RFA後のCTでは,良好な凝固領域が得られている(矢頭)。

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