rt‐pcr法 を用いたbiological response modhersに よる サイ...

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日消外会誌 29(9):1900~ 1910,1996年 RT‐ PCR法を用 いた biological response modher よる サイ トカイ ンmRNA誘 導の解析 岡山大学第 1外科 上 平 Blological response modiners(BMR)に よるサイ トカイン 誘 導機 序 を解 明 す る 目的 で, ヒ ト末梢 血単核球をOK‐ 432あ るいは polysaccharide K(PSK)で 束」激し, サイ トカインmRNAの発現を reverse transcription polymerase chain reacdon(RT PC 用いて経時的に解析 した.IL‐ lβ, IL‐ 6,TNF‐ α mRNAは1時間以 内 に発現 が増 強 した。IL‐ 2,IFN‐ γ mRNAは OK-432で は 3時間後 よ り誘 導 されたが,PSKでは24時 間 まで誘 導 され なか った。サ イ トカイ ン 蛋白はmRNA誘導より1 3 時間 の タイム ラグ を もって産 生 され た。 次 に B R M に対 す る感 受性 の個体 差 を検 討 す るた め, 臨 床症例にOK‐ 432を 投与 し, 末梢 血 単核 球 にお け るサ イ トカイ ン m R N A の 発現 を解析 した。皮内投与 で は多種 のサ イ トカ カイ ン m R N A が強 く誘 導 され る症 例 ( h i g h r e s p o n d e r ) が 34例中 4例あり,この ような症例が BMR療法奏効例 になるもの と推察 された。 Key words: cytOkine mRNA, OK‐ 432, PSK, responder to BRM, RT― PCR は じめ に OK‐ 432と polysaccharide K(PSK)は 広 く臨床で 用 い られ て い るbiological response modillers (BRM)で あるが, こ れ らは種 々 の作 用 に よ り抗腫瘍 活性 を発揮 す る。 なか で もサ イ トカイ ン誘 導能 は重 要 と考 え られ, こ れ らの B R M がどの よ うなサ イ トカイ ンを どの よ うな順 序 で誘 導 して い くか は興 味 あ る とこ ろで あ る。そ こで O K ‐ 432と PSKのinィ trOに おける IL‐ lβ,IL‐ 2,IL‐ 6,TNF‐ 2,IFN― γ の誘 導 を, r e v e r s e transcription‐ p01ymerase chain reaction(RT‐ PCR) を用 い て mRNAレベ ル で経 時 的 に解 析 し,イ ムノ アッセイによる蛋白 レベルでの結果 と比較検討 した. これ らの B R M の 臨床応用では,当初期待されてい たほどの臨床成績が得られていないのが現状であ 1と しか し 方で は, B R M の投与 に よ り腫瘍 の著 明 な縮小や消失 ,QOLの改善 DO,さ らには予後 の延 -1い をみる症例が少数ながらあることも事実であ る。この理 由の 1つとして,BRMに対 す る感 受性 に個 体差があることが考えられる。そこで臨床症例にOK‐ 432を 投 与 し, 末梢 血 単核 球 (peripheral b100d mononuclear cells:以 下,PBMCと 略記) におけるサ <1996年 5月8日受理>別刷請求先 :上平 裕樹 〒700 岡 山市鹿田町 2-5-1 岡山大学医学部第 1外科 イ トカイ ン mRNA誘導 の個体差 を検討 した。 対象 と方法 1.in vitroで の BRMによるサ イ トカイ ン 誘導の 経時的解析 1)対象 5人の健常人の PBMCを 対 象 とした. 2)PBMC分 離 とBRM添加培養 健常人末梢I血よりFicoll‐ COnray溶 液 に よ る比 重 遠 心法 にて PBMCを分離 した.この PBMCを血清無添 加 RPMI-1640液 で106個 /mlの 濃 度 に調 整 し, こ れ に OK‐ 432(中 外製薬)を0.005,0.05KE/mlあ るいは PSK(三 共製薬)を0,01,0.05mg/mlの 各濃度 に添加 して37° C, 5%C02下 に培養した。なおOK-4320.05 KE/mlは 3例で,OK‐ 4320.005KE/mlお よび PSK O.01mg/ml,0.05mg/mlは 各 1例で培養 を行 った。 3 ) 全R N A の抽 出 と電気泳動 培養前お よび培養後 1,3,6,12,24時 間の各 PBMCよりそれぞれ ISOGEN(ニ ッポンジ ン)を用 いたAGPC法 11)に より全RNAを抽出した。各 PBMc 107個 に対 しlmlのISOGENを 用い ,得られた RNAの沈澱 を水 に溶 解 して吸光 度 計 に よ り濃 度 を調 整 した.この各 RNAをアガロ スゲルで電気泳動 し て18Sと 28Sの バ ン ドを確認 した。 4)RT‐ PCR

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日消外会誌 29(9):1900~ 1910,1996年

RT‐PCR法 を用いたbiological response modhersに よる

サイトカインmRNA誘 導の解析

岡山大学第 1外科

上 平 裕 樹

Blological response modiners(BMR)によるサイ トカイン誘導機序を解明する目的で,ヒ ト末梢

血単核球をOK‐432あるいはpolysaccharide K(PSK)で 束」激 し, サイ トカインmRNAの 発現 を

reverse transcription polymerase chain reacdon(RT PCR)を用いて経時的に解析 した.IL‐lβ,

IL‐6,TNF‐ α mRNAは 1時 間以内に発現が増強した。IL‐2,IFN‐γ mRNAは OK-432で は3時 間後

より誘導されたが,PSKで は24時間まで誘導されなかった。サイ トカイン蛋白はmRNA誘 導より1~ 3時 間のタイムラグをもって産生された。次に BRMに 対する感受性の個体差を検討するため,臨

床症例にOK‐432を投与 し,末 梢血単核球におけるサイ トカインmRNAの 発現を解析 した。皮内投与

では多種のサイ トカカインmRNAが 強 く誘導される症例 (high responder)が34例中 4例 あり,こ の

ような症例が BMR療 法奏効例になるものと推察された。

Key words: cytOkine mRNA, OK‐ 432, PSK, responder to BRM, RT― PCR

はじめに

OK‐432とpolysaccharide K(PSK)は広 く臨床で

用 い られ て い るbiological response modillers

(BRM)で あるが, これらは種々の作用により抗腫瘍

活性を発揮する。なかでもサイ トカイン誘導能は重要

と考えられ, これらの BRMが どのようなサイ トカイ

ンをどのような順序で誘導していくかは興味あるとこ

ろである。そこで OK‐432とPSKの inィtrOにおける

IL‐lβ,IL‐2,IL‐6,TNF‐ 2,IFN―γの誘導を,reverse

transcription‐p01ymerase chain reaction(RT‐PCR)

を用いて mRNAレ ベルで経時的 に解析 し,イ ムノ

アッセイによる蛋白レベルでの結果 と比較検討した.

これらの BRMの 臨床応用では,当 初期待されてい

たほどの臨床成績が得 られていないのが現状であ

る1としかし一方では,BRMの 投与により腫瘍の著明

な縮小や消失り~り,QOLの 改善DO,さ らには予後の延

長の-1いをみる症例が少数なが らあることも事実であ

る。この理由の 1つ として,BRMに 対する感受性に個

体差があることが考えられる。そこで臨床症例にOK‐

4 3 2 を投 与 し, 末 梢 血 単 核 球 ( p e r i p h e r a l b 1 0 0 d

m o n o n u c l e a r c e l l s :以下, P B M Cと 略記)におけるサ

<1996年 5月 8日受理>別 刷請求先 :上平 裕 樹

〒700 岡 山市鹿田町 2-5-1 岡 山大学医学部第

1外科

イ トカインmRNA誘 導の個体差を検討した。

対象と方法

1.in vitroでの BRMに よるサイ トカイン誘導の

経時的解析

1)対 象

5人 の健常人の PBMCを 対象とした.

2)PBMC分 離 とBRM添 加培養

健常人末梢I血よりFicoll‐COnray溶 液による比重遠

心法にて PBMCを 分離した.こ の PBMCを 血清無添

加 RPMI-1640液で106個/mlの 濃度に調整 し,こ れに

OK‐432(中 外製薬)を 0.005,0.05KE/mlあ るいは

PSK(三 共製薬)を 0,01,0.05mg/mlの 各濃度に添加

して37°C, 5%C02下 に培養した。なお OK-4320.05

KE/mlは 3例 で,OK‐ 4320.005KE/mlお よび PSK

O.01mg/ml,0.05mg/mlは 各 1例 で培養を行った。

3)全 RNAの 抽出と電気泳動

培養前お よび培養後 1,3,6,12,24時 間の各

PBMCよ りそれぞれ ISOGEN(ニ ッポンジーン)を用

い た A G P C 法1 1 ) によ り全 R N A を 抽 出 した。各

PBMc 107個 に対 しlmlの ISOGENを 用い,得 られた

RNAの 沈澱を水に溶解 して吸光度計により濃度を調

整した.こ の各 RNAを アガロースゲルで電気泳動 し

て18Sと 28Sの バンドを確認 した。

4)RT‐ PCR

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1996年 9月

各 RNAを ランダムヘキサヌクレオチ ド(宝酒造),

M‐MLVリ バース トラ ンス ク リプ ターゼ (GIBCO

BRL社 )とともに37°C,60分 反応させ,cDNAを 作成

した。続いて PCRに より,IL‐lβ,IL‐2,IL 6,TNF‐2,

I F N γの 5種 のサイ トカインと内部 コン トロール と

したβ‐aC t i nの各遺伝 子 を増幅 した.P C R反 応 は

cD N Aに プ ラ イ マー,T a q D N Aポ リメ ラーゼ

(Promega社 )を カロえ, Thermal Cycler(PERKIN

ELMER CETUS社 )を 用V ,ゝ denaturation 94°C, 30

秒,annealng 55°C, 1分 ,extension 72°C,2分 の条

件で行った1り.PCRサ イクル数設定のために各サイ ト

カインごとに数種類のサイクル数で PCRを 行って,

プラトーに達しない最適のサイクル数を決定 した。

5)オ リゴヌクレオチ ドプライマーとインターナル

プローブ

PCRの 増幅領域が少な くとも 1つ 以上のイン トロ

ンをまた ぐようにプライマーを設定 し,DNAシ ンセ

サイザー (Mode1 380B,Applied B10systems社 )を

用いて20merの 一対のオ リゴヌクレオチ ドを合成 し

た。また,PCR増 幅領域内にハイブリダイズさせるプ

ローブとして20merの オ リゴヌクレオチ ドを同様 に

合成した (Table l).

6)増 幅遺伝子の検出

PCR反 応液をポリアクリルア ミドゲルで電気泳動

後,エ チジウムブロマイ ド染色 し,紫 外線 トランスイ

ル ミネーター上で写真撮影 した。サイズマーカーには

,X174/Hae III digest(TOYOBO社 )を 用い,目 的

とする増幅遺伝子のバンドは増幅遺伝子の大きさによ

り判定 した。

45(1901)

7)サ ザンブロット

OK‐4320.05KE/mlの 症例 の PCR産 物 について

行った。PCR反 応液をアガロースゲルで電気泳動後,

ゲルを変性液,中 和液で処理 した。続いでゲル中の

DNAを ナイ ロ ンフィル ター (HybondN十 ,Amer‐

s h a m 社) ヘ トラ ンス ファーした後, フ ィル ターを

rapid hybridization buffer(Amersham社)に てプレ

ハイブリダイズした。Table lに 示した合成オ リゴヌ

クレオチ ドインターナルプロープをT4ポ リヌクレオ

チ ドキナーゼ (TOYOBO社 ),〔γ‐32P〕dATP(7,000

Ci/mmol,ICN社 )とともにインキュベー トして32Pで

標識 した後,ハイブリダイズした19.ハィブリダイズ後

のフィルターはイメージングプレー ト(フジフィルム)

を用いてオー トラジオグラフィーを行い,バ イオイ

メージアナライザー (BAS2000,フ ジフィルム)に て

バンドの radioactivityを測定 し,経時的変化を定量的

に解析 した,

8)培 養上澄中のサイ トカイン蛋白量の測定

各培養上澄中の IL‐lβ,IL‐2,IL・6,TNF‐ 2,IFN‐γ

蛋白量 を測定 した。大塚アッセイにより,IFN‐ γは

IRMA法 ,他 はELISA ttlりで測定 した。

2.OK 432投 与症例の末梢血単核球におけるサイ ト

カインmRNA誘 導の検討

1)対 象

悪性疾患42例,良 性疾患 1例 ,健 常人 4例 を対象と

した。悪性疾患は胃癌33例,肺 癌 4例 ,膵 癌 2例 ,食

道癌 2例 ,肝 細胞癌 1例 であった。年齢は悪性疾患で

は44歳から82歳で平均63.0歳,良 性疾患および健常人

では33歳から67歳で平均42.2歳,全 体の平均は608歳

Table 1 Oligonucleotide primers used for RT-PCR and internalprobes used for Southern blot hybridization

Cytokine Primer Sequence (5'-3') Size of PCRproduct (bp)

IL 1 1 3 )

IL‐214)

IL‐61"

TNF‐ αl句

IFN‐γJ"

5'3'�

Internal probe

s'�3'�

Internal probe

5'3'�

Internal probe

s'�3'�

Internal probe

5'3'

Internal probe

ACCTCCAGGGACAGGATATGTCCAGCTCTACAGTGGGCTTCAAGGCCACAGGTATTTTGT

ACTGGACCATTTACTGCTCGCTGATTAAGTCCCTCGGTCTGGCCTTCTTGGGCATGTAAA

TCGGTACATCCTCGACGGCACCAGATTGGAAGCATCCATCCTCCCAGTGCCTCTTTGCTG

GTGACAAGCCTGTAGCCCATGAGACGAGGTTCACCTTCGTCTGGTTATCTCTCACCTCCA

GGTCATTCAGATGTAGCGGATGGTCTCCACACTCTTTTGGGACAATTTGGCTCTGCATTA

222

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46(1902)

Table 2 Characteristics

volunteers with OK‐432

of patients and healthyinjection

RT‐PCR法 を用いたbiological response modiners 日 消外会誌 29巻 9号

Disease No. of cases (i.d.*cases)

Fig. I Time course of mRNA expression for IL-l

B, lL-z, IL-6, TNF-a and IFN-7 in PBMCstimulated by OK-432 (0 .OsKE/ml) or PSK (0. 05mg/ml)

(a)OK-432

c u t t u r e t i m e

0 1 3 6 12 24(h)

1 にl β車

l L - 2

l L - 6

Malignant disease( a ^ ^ r - : ^ ^ ^ ^ ^ ^ -

I e d i l r r L L d r r L c r

I LunB cancer

I Pancreatic cancer

I Esophageal cancer

I Hepatocellular carcinoma

Benign lung tumor

Healthy volunteer

42(29)

33(25)

4 ( 2 )

2 ( 0 )

2 ( 1 )

1 ( 1 )

1 ( 1 )

4 ( 4 )

(b)PSK

culture time

0 1 3 6 12 24(h)

Total 47(34) TNF― d

Age(mean)i33~ 82(608)

(I

Malisnant disease 44-82(63.0)

I BeniSn disease and Healthy volunteer 33-67 Q2.2)

Male: Female-38 : 9*i.d : intradermal injection

であった。性別は男性38例,女 性 9例 であった(Table

2 ) .

2)方 法

OK‐432 2KEを 上腕の筋肉内あるいは皮内に投与 し

た。悪性および良性疾患症例では,術 前未治療時に投

与 した.筋 肉内,皮 内とも投与前 と投与後12時間ある

いは24時間に採血し,PBMCを 分離 した。投与後の採

血を12時間後にするか24時間後にするかは症例をラン

ダムに選択 した。前記 と同様に全 RNAを 抽出し,RT‐

P C R を行って O K 4 3 2 投与 前 後 の サ イ トカ イ ン

mRNAの 発現 を検討 した。IL‐lβ,IL‐6,TNF-2,

IFN‐γの 4種 のサイ トカインについて検討した.内 部

コントロールヤこはglyceraldehyde 3-phosphate dehy‐

drogenase(GAPDH)を 用いた. PCRサ イクル数は

GAPDHが 23サイクル,IL‐6が28サイクル,他 はすべ

て25サイクル とし,そ れ以外の PCR条 件は前記 と同

じとした。皮内投与で IL・lβとTNF α の両方とも誘

導のみられた 8例 について PCR産 物のサザンブロッ

トを行い,定 量的に解析 した。

結 果

1.in vitroで の BRMに よるサイ トカイン誘導の

経時的解析

1)RT‐ PCR

PCR反 応がプラ トーに達しない最適の PCRサ イク

ル数ヤま,IL-2が 45サイクル,IL‐6が25サイクル,他 が22

サイクルであった.RT‐PCR産 物を電気泳動後,エ チ

ジウムプロマイ ド染色 した結果,内 部コントロールの

,L-lβ

1に-2

1に-6

TNF― g

F N γ中

,FN―Y

β―a c t i n ―β―a C t i n ―

β‐aCtinのバンドはほほ均一であり, RT‐PCRに 用い

た RNA量 がほぼ等しいことを示した。IL‐lβ,IL‐6,

TNF‐ α tt mRNAは OK‐432,PSKと も培養後速やか

に発現が増強した。IL‐2 mRNAは 他のサイ トカイン

と比べて発現量が少なく,OK‐ 432で はPCRを 45サイ

クル行うことにより培養 3時 間後より発現の増強が検

出 されたが,PSKで は検 出 され なかった。IFN―γ

mRNAは OK‐432で は培養 3時 間後 より発現が増強

したが,PSKで は24時 間 まで全 く増強 しなかった

(Fig.1).OK 4320 05KE/mlで は 3例 とも同様の結

果を示 したが,OK‐ 4320.005KE/mlで は0.05KE/ml

の場合 と比べ,IL‐2と IFN‐γ mRNAの 誘導が遅れ,

培養 6時 間後 よりみ られた.ま た PSKに ついては

0.01mg/mlの 場合は0.05mg/mlの 場合よリサイ トカ

イン誘導の程度が弱いものの,経 時的な誘導パターン

は同様であつた。

2)サ ザンブロット

エチジウムブロマイ ド染色でのバンドに特異的にプ

ローブがハイブリダイズし,こ のバンドが目的とする

サイ トカイン遺伝子 に由来す ることが証明 された

(Fig.2).IL-6,TNF‐ α,IFN― γでも同様であった.

このバンドの定量的解析では,IL‐lβ,IL‐6,TNF― αは

いずれも培養後 1時 間で急速に発現が増強し, 3時 間

で ピーク とな り,以 後減衰 した。ピーク時の radio・

acuvity値 を培養前 と比較すると,こ の症例ではIL‐1

βは3.2倍,IL‐6は12.4倍,TNF‐ αは4.8倍 に増強して

いた,IL‐2と IFN‐γは培養後 3時 間で急速に発現が増

強し,以 後24時間まで増強し続けた.培 養前 と24時間

後を比較すると,IL‐2は4.9倍,IFN‐γは14.7倍 に増強

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1996年9月

Fig。 2 Southern blot hybridization of the IL‐lβ

and IL‐2 PCR products shown in Fig.1(a)

Southern blot Ethidium bromide staining

〔lL-lβ〕

0 1 3 61224(h)

〔IL-2〕

していた (Fig。3).

3)培 養上澄中のサイ トカイン蛋白量

OK-432添力『培養では IL‐lβ,IL 6,TNF‐″はいずれ

も培養 3時 間後より著明な上昇を認め,IFN‐γは6時

01 3 6 12cukure dme

6 1 2culture time

47(1903)

間後より上昇を認めた。PSK添 加培養ではIL‐lβ,IL―

6,TNF― ″はいずれもOK‐432同様 3時 間後より上昇

を認めたが,い ずれ もOK‐432に比べ低値であった。

IFN‐γは PSKで は24時間まですべて低値であった.

IL‐2は OK-432,PSKと もすべて測定限度以下であっ

た (Table 3).

2.OK-432投 与症例の末梢血単核球におけるサイ ト

カインmRNA誘 導の検討

1)筋 肉内投与例

投与12時間後 をみた 9例 では 6例 にIL-lβの誘導

を認め, 3例 に TNF―αの誘導を認めたが,IFN‐γが

誘導された症例は 1例 のみであった.一 方,投 与24時

間後をみた 4例 のうち 2例 に IFN‐γの誘導を認めた

(Fig,4).

2)皮 内投与例

全 くサイ トカインの誘導 を認 めない症例 をnOn_

responder,それ以外をresponderとしたところ,皮 内

投 与3 4 例の う ち1 4 例が r e s p o n d e r , 2 0 例が ■o n _

responderで あった。この14例の responderの 中で IL‐

lβ,IL‐6,TNF‐ 2の 3つ のサイ トカインを他症例 と比

べ強 く誘導している症例を4例 認めた.そ こでこの 4

例をhigh responder,他 の10例をlow responderと し

た (Fig.5).high responderと した 4例 と,low re―

sponderの うち IL‐lβとTNF‐ 2の 2つ とも誘導がみ

Fig. 3 Quantitative analysis of the PCR products shown in Fig. 1 (a) bySouthern blot hybridization. Numerical values of the vertical line stand forrelative radioactivity.

 

>だ>,o0〇一つo」

(ャo30o」0 にOL)

>主>事oCo一OQ」

>】一>中石●o一D母

6 1 2culture time

24(h) 01 3 6 12 24(h)cuhure dme

4 >】一>一もG氾0ロ

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48(1904)

られた 4例 の合計 8例 について RT‐PCR産 物のサザ

ンブ ロットを行って,OK‐ 432投与 前 後 の IL‐lβと

TNF‐α mRNA発 現の変化をみた。投与後の radio‐

acdvity値 を投与前 と比較すると,high responder 4

例の平均では,IL‐lβが5,7倍,TNF α が3.9倍に増強

しているのに対 し,low responder 4例 の平均は IL‐1

βが2.2倍,TNFセ が1.9倍であり,high responderは

いずれもlow responderより明らかに強 くサイ トカイ

ンが誘導されていた (Fig。6).

悪性疾患29例では, 4例 が high responder, 7例が

29巻 9号

l o w r e s p o n d e r , 1 8例が n O n _ r e s p o n d e rであり,悪″性疾

患 と健 常 人 の間 にrespOnseの有 意 差 は なかった

(Table 4)。また胃癌症例で進行度2の別にresponseの

差を見たところ,high responderはStage I症例のみ

であったが,統 計学的には進行度による有意差は認め

なかった (Table 5).平均年齢 もhigh responderが

63.0± 10.2歳, low responderが 65.4± 12.5歳, nOn_

r e s p o n d e rが6 3 4± 1 1 . 2歳で差がなかった。

考 察

B R Mに よるサイ トカイン誘導機序 を解明するた

R T P C R法 を用いた bi o l o g i c a l r e s p o n s e m o d i n e r s 日消外会誌

Table 3 The amount of cytokine protein,IL‐ lβ,IL-2,IL-6,TNF‐ α and

IFN‐γ, in the culture supernatants from OK 432 or PSK stimulated

PBArIC,the same case as Fig l

(a)OK 432

culture time 0 1 3

IL lβ

IL‐2

1L‐6

TNF-2

1FN一γ

剣制35奄1

剣制3376H

860制3532,250H

11,000

<50

1,430

8,890

4 5

7,490

<50

3,850

15,000

130

8,410

<50

5,430

19,400

970

(pglml)

(pglml)

(pglml)

(pglml)

(U/ml)

Fig.4 Change of the mRNA expresslon for IL‐lβ,IL 6,TNF―α and IFN‐γ in

PBMIC from patients with OK 432 intramuscular inJection.

IL-lβ lL-6 TNF― α lFN―γ

E=コ・・・Cases examined after 12hours(n=9)

2・・・cases examined after 24hours(n=4)

(b)PSK

culture time 0 1 3 6

IL lβ

IL‐2

1L-6

TNF‐α

IFN‐γ

<10

<50

<25

く5

1 4

く10

<50

く25

17

0 7

41

<50

112

55

0 4

45制39656阿

134

<50

726

51

0 4

337制3,84054門

(pglml)

(pglml)

(pglml)

(pglml)

(U/ml)

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1ee6+ e tr

Fig. 5 Cases of high responder, low responder andnon-responder determined by cytokine mRNAinduction pattern in patients with OK-432intradermal injection.

49(1905)

トカインには, 1時 間以内にmRNAの 発現が増強す

るIL‐lβ,IL‐6,TNF-2と ,遅 れて増強す るIL‐2や

IFN‐γの 2群 があった。ここで IL‐2と IFN,γの産生

細胞はT細 胞系に限られるのに対 し,IL‐lβ,IL‐6,

TNF‐αはいずれ も単球あるいはマクロファージが主

な産生細胞であることを考えると,OK 432に よりまず

単球が刺激されて IL-lβ,IL 6,TNF‐ 2な どが産生さ

れ,続 いてこれらのサイ トカインが T細 胞を刺激 して

IL‐2や IFN‐γが産生 されるというカスケー ド2のに合

致 していた。

石田ら281はOK‐432が in vivoで効果的に作用する

場合,ま ず好中球,次 いでマクロファージ,さ らに

helper T細 胞,killer T細 胞 という順序でエフェク

ター細胞が sequentialにテンポ良 く出現し,サ イ トカ

インに関 してはマクロファージまでの段階では IL‐1

β,IL‐6,TNF,2が 関与 し,T細 胞の段階ではIL‐2や

IFN‐γが関与するとしており, このような「sequence

とtempo」 に従ったエフェクター細胞 とサイ トカイン

の流れが必要であると述べている.著 者 らの in vitro

の実験系では好中球は除いてあり,OK‐432は単球を直

接刺激 してサイ トカインを産生させたと考えられる。

データは示していないが,さ らに単球を除去した系で

もサイ トカインの誘導はみられた。 こ のようにOK、

432の場合,in vitroではsequentialなエフェクター細

胞の出現がなくてもサイ トカカインの誘導は起 こるも

の と考 えられる.癌 性胸膜炎や癌性腹膜炎 に対する

OK‐432の胸腔内,腹 腔内投与に著効例が多いめつのは

胸腔,腹 腔 という閉鎖腔が in vitroの培養系に近い状

態になり,サ イ トカインの産生が起 きやす く,ま たサ

イ トカインを高濃度に保ちやすいためと考えられる。

2.PSKの サイ トカインmRNA誘 導台ヒ

PSKで はIL‐lβ,IL‐6,TNF‐ α mRNAは OK‐432

同様速やかな誘導が確認されたが,TNF‐ 2 mRNAの

誘導は軽微であった。IL‐2と IFN‐γ mRNAは 少なく

とも24時間まで誘導が確認されなかった。HirOseら2の

はPBMCを PSK添 加培養し,ノ ーザンブロットにて

IL‐12,IL‐lβ,IL‐6,IL‐8,TNF― α mRNAの 誘導を

1時 間以 内 に認 めて い るが,IL‐2と lymphotoxin

mRNAの 発現は少な くとも72時間まで認めず,著 者

らの結果 と同様であった。したがって,PSKは 単球を

活″性化するが Tリ ンパ球は活性化 しないとしている.

上回 ら3のはIL‐2は36時間後の培養上澄に弱 く認 めら

れたと報告し,阿部 ら31)はIFN‐γは 2日 目の培養上澄

ではじめて検出されたと報告している.こ れらのこと

-a+ \a o . ,o , 'c,s *' *' ol* C

high responder

low responder

non - responder

b i before injectiona :after injectionarrow iinduced cytokine mRNA after injection

め,in vitroに おける各種サイ トカイン誘導 を RT,

PCRお よびイムノアッセイを用いて mRNAレ ベル

と蛋白レベルの両面か ら経時的に解析 した。

1 . O K‐4 3 2のサイ トカインm R N A誘 導能

OK、432はこれまでにIL 121ちIL‐221),IL‐62り,TNF‐

α2め,IFN‐γ2り,csF2Dな ど多 くのサイ トカインの誘導

が確認 され,ま さにマルチサイ トカインインデュー

サーであるが,今 回の著者 らの検討でも検索したすべ

てのサイ トカインmRNAの 誘導が確認された2o.蛋

白レベルではIL‐2のみ検出できなかったが,こ れは

IL2 mRNAが PCRを 45サイクル行ってようや く検

出されたことを考えると,イ ムノアッセイの測定限界

以下の微量な産生であり,RT‐PCR法 の源」定感度の高

さが示された.

本研究で,OK-432に よりin vitroで誘導されるサイ

●/

/W

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50(1906) RT-PCR i*Affiu)/c biological response modifiers 日消外会誌 29巻 9号

Fig. 6 Southern blot hybridization and quantitative analysis of the IL-18 andTNF-a PCR products in 4 cases of high responders and 4 cases of low respon-der.

〔tL-lβ 〕 〔TNF―α〕

high responder

/ \Casc h 1 2 3 4

low rssponder

5 6 ? 8

h19h 「esponder

/ \Case h , 2 3 4

low responder

5 6 7 8

(中oぅOo」a にOL)>〓>,0ゃo一やG」

(一oうOo」o に0」)>〓>,ooo一Oo」

b: before iniection a : after injection

before after

><: high responder e4: low responder

Table 4 Case number of high responder, low responder and non-responder inpatients and healthy volunteers with OK-432 intradermal injection

Table 5 Case number of high responer, low responderand non-responder in patients with gastric cancer

high responder low responder non-responder

Stage I

Stage II

Stage III

Stage IV

3

「――

N.S. : not significant

より,IL‐2とIFN‐γは誘導されにくいものと考えられ

るが,本研究でのPSKは 2例 しか行っておらず,low

responderのPBMCで あった可能性があ り,ま た

PSK濃 度や培養時間の問題もあるため断定はできな

↓ゝ.

3.サ イトカインmRNA発 現とサイトカイン蛋白

産生の関係

mRNA発 現と培養上澄中の蛋白量の経時的関係を

みると,IL‐lβ,IL:6,TNF‐ αなど1時間後にすでに

mRNA発 現が増強していたものでは,蛋 白は3時 間

後より上昇した。またIFN‐γはOK、432添加培養 3時

間後よりmRNA発 現が増強していたが,蛋 白は6時

間後より上昇した。これらのことより,mRNA発 現か

high responder low responder non-responder

f after l2hoursMalignant disease |

(n=23)L after 24hours

(n=6 )

Benign disease (n=1)

Healthy volunteer (n=4)

2

2

7

1

2

SN

「―

Tctal (■ =34) 4

N.S.: not significant

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1996年9月

ら1~ 3時 間のタイムラグをもって蛋白が産生される

ものと考えられた.ま た蛋白がすべて測定限界以下で

あった IL‐2を除いては,RT PCRの 結果 とイムノアッ

セイの結果 とはタイムラグを考慮すればすべて一致し

てお り,血 清の影響のない in vitroの系ではmRNA

発現 と蛋白産生はパラレルであった.

4.RT‐ PCRに よるmRNA定 量法

RT‐PCRに よるmRNA定 量法 については諸家の

報告3寡3りがぁる。絶対的定量が可能 という点で注目さ

れ るの は Vヽangら 32)ゃGillllandら3めが 行った com‐

petitive PCR法であるが,こ の方法はインターナルス

タンダー ドの作製が必要であ り手技がやや煩雑であ

る。データは示していないが,著 者 らは,RTに 用いる

RNAの 濃度 と内部 ヨン トロールで あ るβ‐actin,

GAPDHの RT、PCR結 果を比較 し,こ れら3者 の結

果がパラレルであること,す なわち内部コントロール

が RNA濃 度を反映 していることを確認 した上で,内

部ヨントロールのバンドが均―であるものについて,

目的サイ トカインのバンドの濃度を比較 した。 この方

法では,目 的サイ トカインの mRNAの 発現が多量で

PCR反 応がプラ トーになると定量性が失われるとい

う欠点があるが,簡 便に相対的定量が行える。目的バ

ンドの濃度の測定にはデンシトメーターを用いる方法

が簡便であるが,エ チジウムブロマイド染色の発光に

余 り定量性がないので,正 確な定量には RI標 識プラ

イマーによるPCRや サザンブロット法などにより,

ゲル上の特定バンドの測定が必要である。今回の RT‐

PCR産 物のサザンブロットによる定量では,in vttro

の経時的解析におけるサイ トカインの PCR反 応がプ

ラ トーあるいはプラ トーに近い状態 と考えられるた

め,ピ ーク時にはもっと多量の mRNAが 発現 してい

るものと推測される。臨床症例の higll responderにつ

いても同様である.

5.OK 432投 与症例 におけるサイ トカインmRNA

誘導

in vivoでは BRM投 与により誘導されるサイ トカ

インを検出することは従来困難であり,BRMの 効果

をNK活 性,リ ンパ球サブセットなどをもとに判断す

ることが多かった3D~3ゆが,RT‐ PCR法 により微量の

サイ トカインmRNAを 測定できるようになり3り,新

たや重要なパラメーターが加わった。臨床例に通常用

いる程度の量の BRMを 筋肉内,皮 内あるいは経口で

投与 し,末 梢血におけるサイ トカインの誘導をとらえ

ることは BRMに よるその個体の全身的な免疫賦活状

51(1907)

態をみていると言え,BRM療 法の効果判定法 として

現実的である。佐治 ら4のは担癌患者に PSK lgを 単回

経口投与 し,PBMCに おけるIL‐6 mRNAの 誘導をみ

ている。また星野 ら41)は担癌患者にOK‐432 5KEを 皮

下投与 し,IL‐lβ,IL‐6,M、CSF mRNAの 誘導をみて

いる。著者 らは臨床症例にOK・432 2KEを 筋肉内ある

いは皮内に投与 し,各 種サイ トカインmRNAの 誘導

をみた。

筋肉内投与は症例数は少ないが,投 与12時間後をみ

るとIL lβ,TNF‐ αの誘導される症例が多 く,24時 間

後をみるとIFN―γの誘導される症例が多かった。これ

はある程度 in vitroの結果を反映しており,そ の理由

として,筋 肉内投与では皮内投与によヒベ,OK‐432の周

囲への拡散が比較的速やかであるため末梢血へその効

果が出やす く,単球からT細 胞 というカスケー ドが起

きやすいことが上げられる。このことは皮内投与では

OK‐432投与後の発熱があまりみられないのに対 し,筋

肉内投与では投与後数時間でほとんどの症例に一過性

の発熱をみることとも関係していると思われる。発熱

のある投与 4~ 5時 間後 をみれ ば,サ イ トカイ ン

mRNAの 発現は12時間後や24時間後 より強かった可

能′性がある。一方,皮 内投与で注目すべきは,多 種のサイ トカイ

ンが強 く誘導される症例 (high responder)の存在で

ある。その誘導の強さはIL‐lβとTNF‐ 2で みると,

それぞれ投与前の5。7倍,3.9倍 (平均)で あ り,low

respoderの22倍 ,1.9倍 に対 し明 らかに高値であっ

た。high responder 4例のうち 2例 は24時間後をみた

もの で,24時 間後 で もな お IL‐lβ,IL‐6,TNF‐ α

mRNAの 強い発現が維持されていた。このことは,皮

内投与ではOK‐432の拡散が遅 く筋肉内投与のような

急速な反応はみないが,長 く局所で抗原性を維持し,

マクロファージなどの抗原提示細胞にとらえられ細胞

性免疫を賊活する421ためと思われる。残念ながら24時

間以降はみておらず,IFN γ の誘導,言 い換えればT

細胞の活性化まで至ったかどうか確認できてないが,

このような症例が実際の臨床での responder,す なわ

ち BRM療 法が有効な症例ではないかと予想される。

しかし,サ イ トカインが強 く長期に誘導される症例が

BRM療 法が奏効するという証拠はな く,こ の結論を

出すには多 くの BRM療 法施行患者でサイ トカイン誘

導 と治療効果 とを詳細 に検討することが,き要であろ

う。

年齢や癌の病期は宿主の免疫能にとって重要な因子

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52(1908) RT、PCR法 を用↓ゝた biological

であろうが,本 研究ではOK‐432に対するresponseと

年齢,胃 癌の進行度および悪性疾患の有無 とは相関が

なかった。これには症例数が少ないことが理由として

考えられるが,BRMに 対するresponseについては個

体差 も1つ の重要な因子 と考えられた。

6.BRM療 法の今後

BRM療 法は宿主のもつ免疫能を修飾することによ

り抗腫瘍効果を期待する治療法で, この宿主介在性 と

いう点で,手 術,放 射線,化 学療法などの他の治療法

とは性格を異にしている。したがって BRM療 法を行

う場合,BRMに 対するresponseの個体差や宿主の免

疫抑制状態など宿主要因を考慮 しなければならないこ

とは当然である。 ま た宿主要因だけではなく,腫 瘍側

要因も考える必要がある。多 くの腫場が種々のサイ ト

カインを産生する事が判っており43ち腫瘍の産生する

サイ トカインにより悪液質がもたらされる44)45)ことも

よく知 られている。サイ トカインを産生する腫場 に

BRMが およぼす影響は複雑であると想像され,個 々

の腫瘍ごとに BRMの 適応を考える必要があろう。 し

かしながら,現在 BRMの 保険適応は,例 えば PSKな

ら胃癌,大 腸癌,肺 小細胞癌 といったように主に臓器

によって規定されている。これは非合理的であり,宿

主および腫瘍側要因を考慮した適応にすべきであろう

が,そ の判定法の確立 こそ今後 BRMが 癌治療におい

て重要な地位を占めてい くための鍵になると思われ

る。RT‐PCRを 用いた PBMCに おけるサイ トカイン

mRNA検 出法は,宿 主要因を判定する有用な方法で,

BRMに 対するresponder,non‐responderの選別のみ

な らず,BRM療 法施 行 患 者 の免 疫 賦 活 状 態 の

monitoring,さ らにはそれを通 じて患者個々の投与

量,投 与間隔などの至適投与法決定にも役立つものと

思われた。

稿を終えるにあたり,御指導,御校閲を賜りました折田薫

三教授ならびに田中紀章教授に深甚なる謝意を表します。

また,直接御指導,御教示頂いた岡林孝弘博士に深く感謝申

し上げます。

なお,本 論文の要旨は第94回日本外科学会総会 (東京)な

らびに第32回日本癌治療学会総会 (岡山)に おいて発表し

た。

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Analysis of Cytokine mRNA Induction by Biological Response ModifiersUsing the RT.PCR Method

Hiroki JohiraFirst Department of Surgery, Okayama University Medical School

In order to elucidate the mechanism of cytokine induction by biological response modifiers (BRM),the expression of cytokine mRNA in human peripheral blood mononuclear cells (PBMC) cultured withOK-432 or polysaccharide K (PSK) was serially analyzed by the reverse transcription-polymerase chainreaction (RT-PCR) method. IL'l P,IL-6 and TNF-a mRNAs were induced within one hour after stimula.tion. IL-Z and IFN-7 mRNAs were induced three hours later in OK-432-stimulated PBMC, whereas theywere not induced tp to 24 hours later in PSK-stimulated PBMC. Production of cytokine proteins increased1 to 3 hours after mRNA induction. It is important to consider various host factors when BRM therapyis employed. To investigate individual differences in response to BRM, cytokine mRNA induction inPBMC from OK-432-treated patients was analyzed. In 4 out of 34 intradermally injected patients, multiplecytokine mRNAs were strongly induced. We speculate that these patients may have shown goodresponses to BRM therapy.

Reprint requests: Hiroki Johira First Department of Surgery, Okayama University Medical School2-5 1, Shikatacho, Okayama, 700 JAPAN