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更新日:2011/06/23 石油調査部:坂本茂樹 Shell の洋上液化 Prelude LNG 最終投資決定 ➪ LNG 産業へのインプリケーション (Shell HP, Platts, Gas Strategies, コンサルタント資料) Shell は 2011 年 5 月、かねてから計画していた西豪州沖合 Browse 海域における Prelude LNG の最終 投資決定を発表した。世界で初めての洋上液化方式(FLNG、Floating LNG)案件となる。2000 年代半ば に実現への期待が高まっていた FLNG は、2008 年リーマン・ショック後の世界不況に伴うガス需要低迷 から一時関心が低くなっていた。2011 年 3 月「福島原発事故」後のエネルギー代替需要がガスに向かう との思惑が、FLNG を含む新規 LNG 供給形態への期待復活に繋がった。 Prelude LNG の事業進展により、FLNG 方式が抱える未検証の技術的リスクの対処が徐々に明らかに されることから、同方式のリスク軽減が期待される。FLNG 方式にはなお、技術、保険などコマ―シャル面 の課題が多い。複数の FLNG 案件が投資決定を行うにはまだ時間がかかると見られる。 Prelude LNG 以外に、アジア太平洋、ブラジル、西アフリカ沖合等でさまざまな FLNG 案件が検討され ている。中でもアジア太平洋は中小ガス田の発見比率が高い。FLNG 方式の進展により、同地域のガス 田開発、ひいては LNG 産業の活発化に繋がることが期待される。 1. Shell Prelude LNG最終投資決定(FID, Final Investment DecisionShell 2011 5 20 日に Prelude LNG FID を発表した。同社は以前から、同プロジェクト検 討が進展しており、2011 年に FID を行う可能性があることを示唆していた。 (1) Prelude LNG 事業概要 – 1 – Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)石油調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に 含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何ら かの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一 切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

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更新日:2011/06/23

石油調査部:坂本茂樹

Shell の洋上液化 Prelude LNG 最終投資決定 ➪ LNG 産業へのインプリケーション

(Shell HP, Platts, Gas Strategies, コンサルタント資料)

Shell は 2011 年5 月、かねてから計画していた西豪州沖合Browse 海域における Prelude LNG の 終

投資決定を発表した。世界で初めての洋上液化方式(FLNG、Floating LNG)案件となる。2000 年代半ば

に実現への期待が高まっていた FLNG は、2008 年リーマン・ショック後の世界不況に伴うガス需要低迷

から一時関心が低くなっていた。2011 年 3 月「福島原発事故」後のエネルギー代替需要がガスに向かう

との思惑が、FLNG を含む新規LNG 供給形態への期待復活に繋がった。

Prelude LNG の事業進展により、FLNG 方式が抱える未検証の技術的リスクの対処が徐々に明らかに

されることから、同方式のリスク軽減が期待される。FLNG 方式にはなお、技術、保険などコマ―シャル面

の課題が多い。複数の FLNG 案件が投資決定を行うにはまだ時間がかかると見られる。

Prelude LNG 以外に、アジア太平洋、ブラジル、西アフリカ沖合等でさまざまな FLNG 案件が検討され

ている。中でもアジア太平洋は中小ガス田の発見比率が高い。FLNG 方式の進展により、同地域のガス

田開発、ひいては LNG 産業の活発化に繋がることが期待される。

1. ShellのPrelude LNG 終投資決定(FID, Final Investment Decision)

Shell は 2011 年5 月20 日に Prelude LNG の FID を発表した。同社は以前から、同プロジェクト検

討が進展しており、2011 年に FID を行う可能性があることを示唆していた。

(1) Prelude LNG 事業概要

– 1 – Global Disclaimer(免責事項)

本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)石油調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に

含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何ら

かの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一

切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

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図 1 Prelude LNG 模式図 (出所)Shell HP

表 1 Prelude LNG 事業概要

① PreludeLNG事業名事業者 *オペレーター

*Shell 100%

事業タイミング最終投資決定 2011年5月LNG生産開始 2017年

事業スキーム

LNG販売者 Shell液化設備

液化基地サイト 洋上液化方式(西豪州Browse海域)

液化設備能力 360万トン/年(コンデンセート130万t+LPG40万トン/年)大阪ガス 80万t*25年 (2012年4月~)

LNG販売先 台湾CPC 200万t*20年 (2016年~) (共にポートフォリオ契約)

ガス埋蔵量 3 Tcf (Prelude + Concerto)投資額:100~130億ドル(推定)

備 考 LNG船建設:三星重工業(SHI)Preludeガス田 CO2含有率=9%

– 2 – Global Disclaimer(免責事項)

本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)石油調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に

含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何ら

かの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一

切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

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フィードガス供給は西豪州沖合 Browse ベースン WA-371-P 鉱区 Prelude ガス田(水深=230~

280m、2007年発見)、次いでConcertoガス田(Preludeの北方約16m、2009年発見)から行われる。

Prelude LNG 液化設備能力は年間360万トンである。併せて、コンデンセート 130万トン、LPG40万ト

ンを生産し、これらの液分生産によって良好な事業採算が期待される。Prelude 商業生産開始が 2017

年、Concertoガス田生産開始が2024年頃との前提で、2030年頃ま一定量のフィードガス供給が可能と

見られる。ガス田開発を含む当初の投資額は 100~130 億米ドルと推定される。

図 2 西豪州沖合 Browse ベースンのガス田群と LNG 案件

(2) Prelude LNG の特徴

Prelude ガス田は埋蔵量2.5 Tcf 程度の沖合小規模ガス田であり(鉱区内Concerto ガス田を併せて 3

Tcf 程度)、液化設備の大型化が進展してきた従来の LNG 事業概念では商業規模に達しない。液化設

備の再利用が可能な FLNG 方式を用いて、初めて採算水準に至る。西豪州、特に Gorgon など大型ガ

ス田群が存する Carnarvon 堆積盆地はしばしばサイクロンに見舞われる荒れた海域である。これに対

して Prelude ガス田が位置する Browse 堆積盆地は気象条件が比較的穏やかな海域と言われる。洋上

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切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

液化事業では、洋上に浮かぶ液化設備および LNG タンカー間で安全な LNG 出荷作業の実施可能な

ことが主要な条件である。これらの条件を併せ持つ Prelude ガス田は FLNG に適する。

Prelude、Concerto ガス田の生産終了後は、Shell がガス処分権を持つ Crux ガス田(Prelude の北

東約140kmの北部準州海域)のガス生産に同FLNGを使用する可能性がある。またCruxガス田近辺

の Libra ガス田開発の可能性も考えられる(AC/P-41、Shell=80%、2009~、三井 20%)。

Shell は Prelude に続く FLNG 案件として、自社が事業参加し、Woodside がオペレーターを務める

チモール海の Sunrise ガス田開発を視野に置いていると見られる。

なお強い財務基盤を持つ Shell は、自社グループ内で資金調達、保険付保を手配し、外部からの資

金調達を必要としない優位性がある。

(3) Prelude LNG マーケティング

Shellは下記2件のポートフォリオ契約を締結している。LNG供給源を特定していないが、Preludeが

主様なガス供給元になると見られる。 買手 数量 契約期間 納入開始 大阪ガス 80 万トン/年 25 年 2012 年 台湾 CPC 200 万トン/年 20 年 2017 年

FLNG方式はまだ安定的なLNG出荷が検証されているわけではない。Shellが持つ豊富なLNGポ

ートフォリオによるバックアップが、LNG 買主の安定供給に対する信頼に繋がっていると考えられる。

2. 洋上液化方式(FLNG)の特徴、これまでの経緯

(1) FLNG 当初の検討とその後の経緯

FLNG 導入は、2000 年代半ばに期待が高かった。当時は経済活況から将来のガス・LNG 需要増加

が見込まれる一方、LNG は長期的事業で迅速な供給が期待できないため、LNG 需給逼迫が懸念され

ていた。東南アジア・オセアニアは中小規模ガス田の発見が多く(2~3 Tcf 以下)、商業規模に至らずに

放置されるガス田が多いと言われる。アジア太平洋に多い既発見未開発ガス資源の有効活用の観点か

らも、上流事業者は LNG 導入に着目していた。また船体建造など FLNG の新事業モデルに係る商機

の拡大も期待された。

ところが 2008 年のリーマン・ショックに伴う世界経済不況で、東アジア、欧州のガスを含むエネルギー

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需要が大幅に落ち込み、その後も低迷が続いた。さらに北米のシェールガス等非在来型ガス生産の好

調が明らかになり、それまで主要な LNG 成長市場と見なされていた米国の LNG 輸入見通しが大きく

下方修正された。それまで逼迫すると見られていた LNG 需給は、一転して需給緩和見通しとなった。そ

の結果、注目が高まっていた新規 LNG 形態(CBM LNG、FLNG)は、「初めて」のリスクが敬遠されて

急速に関心が遠のいた。FLNG 実現は先送りされた感があった。

2011 年「福島」原の発事故後休止した複数の原発の代替エネルギー需要としてガスへの期待が高ま

った。中長期のエネルギー供給見通しが不透明になり、有力な代替燃料として LNG 需要が短期、中長

期共に拡大する趨勢にある。非在来型LNG(CBM、シェールガス使用)と共に、新規LNG供給形態の

FLNG に対する要請が回復して更に高まるに至った。

(2) FLNG の特徴、メリット

FLNG は陸上の固定式液化設備建設と比べて、下記の特徴を持つ:

① 特定の陸域液化サイト(土地)が不要

・ 海底ガス田から陸上液化設備までガスパイプラインの建設が不要

・ 自然環境保護など陸域に微妙な環境問題を抱える地域での液化事業が可能となる

→他の条件が同じであれば、陸域固定設備に比べて FLNG 建設費の方が安い

② 液化設備を繰り返し使用することが可能

・ 特定ガス田での生産完了後、次のガス田に移動可能

・ 中小規模、遠隔地のガス田群を、同じ液化設備を用いて順次開発することが可能

③ 操業の安全性

・ 危険な陸域での操業を回避することが可能 (ナイジェリアなど治安が悪い地域)

(3) FLNG の課題

一方で、実現事例のない FLNG は未検証の要素を抱えており、様々なリスクを伴う。

① 安全・技術基準

・ FLNG は既存技術の組合わせと言われるが、事例が無いため「初めて」リスクを伴う。

・ 安全な出荷方法の検討: 浮体(液化設備、LNG タンカー)の揺れの状況(←気象条件)に応じて、

出荷方法(縦列、横付け)検討が必要

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② 出荷の不安定性への懸念

・ 未検証の技術基準が多いため、安定的なLNG出荷が可能かどうかが課題。仮に出荷が滞る場合の

対処を考える必要がある。

③ FLNG のロケーション(事業地域の選定)

・ 海洋の浮体(液化設備)上で操業されるため、ある程度安定した気象条件にあることが望ましい(赤

道地域)。

・ 西豪州 Carnarvon 堆積盆地のようにしばしばサイクロン来襲を受ける場所は不利。

④ 事故による損害リスク

・ 洋上液化方式は限られた面積上に必要な設備を据え付ける。陸域設備と異なり、設備間の空間をが

狭いため、事故が起きると設備全体に損害が広がる可能性が高い。

・ 事故発生時に浮遊液化設備全体が損害を被る全損被害の可能性がある。

⑤ ファイナンス+保険付保

・ 事例が無いため、技術面の安全性を証明できない要素は保険カバーの対象にできない可能性があ

る。

・ 投資額が多大となると、該当プロジェクト形態の商業保険市場の引き受け能力を超えることがあり得

る。

➪開発資金を外部から調達する場合、保険付保を含むファイナンス手配に工夫を要する。

このように、「初めて」のリスクに付随する①技術的課題、②出荷の不安定性(の可能性)、そして③保

険付保を含む資金調達の課題が大きい。

(4) Shell の Prelude LNG FID の意義

初の FLNG 案件となる Prelude LNG 投資決定は、今後の LNG 産業に対して大きな意味合いを

持つ:

① FLNG 方式は実現例が無く操業の安定性が実証されていないため、上述したように、さまざまな技

術的、コマーシャル的リスクを抱える。Shell は世界で有数の LNG 操業者として、FLNG 方式に対

する自信を表明していた。Prelude LNG 開発作業を通して、実証されていない技術的課題・操業安

定性に対する評価がある程度明らかになると見られる。後続の FLNG 案件事業者にとっては、若干

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切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

なりとも技術的、コマーシャル的課題への対処のカギが得られ、「初めて」のリスクをある程度軽減す

る効果がある。

② LNG 産業に対して新たな液化方式が提示される。特に中小ガス田比率が高いと言われるアジア太

平洋のガス田開発に対して、画期的な事業展開を投げかける。LNG 事業者にとっては事業対象が

拡大し、LNG 購入者にとっては調達オプションが広がる。

③ LNG 設備を搭載する船体建造に事業機会が拡大する。三星重工業、大宇など韓国企業が LNG 事

業者から発注を受けているケースが多いが、日本を含む造船業界に新規事業機会が生じる。

3. FLNG案件、今後の展望

Prelude LNG 開発進展に伴ってリスク軽減が期待でき、Prelude LNG 操業を待たずに後続案件が

成立する可能性がある。Prelude に続いて FLNG の事業化可能性がある地域および案件は次の通り:

(1) アジア太平洋

アジア太平洋は世界でも発見ガス田のに占める中小ガス田発見率が高い。同地域は米国、欧州北海

に比べるとガス需要が地域によって異なり、輸送インフラが不十分であることから、海域に未開発の中小

規模ガス田が多いと言われる。国によってデータ公開に幅があるが FLNG 方式で開発可能となる海上

ガス田案件は多いと考えられる。

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図 3 アジア太平洋の中小ガス田位置 (出所)HIS 社提供データを基に作図

① 豪州(西豪州~北部準州海域)

豪州は資源データが公開されており、海上ガス田開発状況がわかりやすい。海域ガス資源は、西

豪州~北部準州沖合に広く分布している。巨大ガス田が連なる西豪州沖合 Carnarvon ベースンはイ

ンド洋からサイクロンが吹く荒れやすい海域で、サイクロンシーズンでは月に数回生産を中止して

洋上生産システムを避難させる必要がある。従って洋上液化方式導入は難しいと考えられる。これ

に対して、Browseベースン以東の海域は比較的穏やかで洋上液化設によるガス田開発が可能とさ

れる(Preludeガス田が存する海域)。チモール海を中心とする同地域には、既発見の中小ガス田

が多い。

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図 4 西豪州~北部準州沖合(チモール海)のガス田

下記2案件は、オペレーターがFLNGによるガス田開発を表明している。

a. Bonapart LNG(GDF Suez/ Santos、Petrel, Tern, Frigateガス田):2013年にFLNG方式で

FIDを計画

b. Cash/Maple LNG(PTTEP、Cash/Mapleガス田): 2012年にFID を計画(2010年Golar

LNGが撤退)

他にも下記案件が考案されている:

c. チモール海 Sunrise ガス田(オペレーター=Woodside):Shell は、パートナーとして参加する

Sunriseガス田をFLNG方式で開発する意向を持ち、オペレーターWoodsideを含む他パートナー

もこれを支持している。ただし、同ガス田開発に権限を持つ東チモール政府の合意が必要である。

d. Carnarvon ベースン Scarborough ガス田(オペレーター=ExxonMobil)

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上記以外に、同海域には下記既発見未開発ガス田があり、FLNG 方式の開発候補になり得る。

・Barossa、Caldita ガス田(北部準州、オペレーター=ConocoPhillips)

・Evans Shoal ガス田(北部準州、(オペレーター=Santos)

・Echuca Shoals ガス田(西豪州、(オペレーター=Nexus Energy)

② パプアニューギニア

a. Flex LNG/ InterOil の FLNG 構想(Elk/Antelope ガス田利用、陸上液化案件とは別途実施):両

社は 2011 年 4 月に契約締結、FEED 作業を実施している。

b. 大宇/Hoegh LNG/国営 Petromin の FLNG 構想: ガス田は特定されていない。

③ マレーシア:Petronas の FLNG 構想

Petronas は以前から FLNG 構想を表明してきたが、2011 年6 月 8 日、2011 年末までに 120 万トン

の FLNG の FID を行うと発表した。同社は 2011 年 2 月に Technip/大宇に FLNG の FEED を発

注している。対象ガス田など具体的な内容は明らかにされていない。しかし新規ガス田位置、FLNG に

よる輸出可能性を勘案すると、サバ州沖合油ガス田を対象とする可能性が考えられる。

同海域には、Kikeh、Gumusut など深海油田随伴ガス供給が期待されており、また 2011 年 5 月に

Kebabangan ガス田開発計画が発表された(オペレーター=ConocoPhillips)。これら深海での生産ガ

スは Kimanis のガス処理施設で処理された後、約 500MMcfd が Bintulu のマレーシア LNG 向けフ

ィードガス用に供給される。これとは別に、100~200MMcfd を洋上液化設備で処理する可能性があ

る。

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図 5 東マレーシア(サバ、サラワク州)のガス関連設備

④ インドネシア

INPEX 社による Abadi LNG 計画が進められている。それ以外には、ENI がカリマンタン北東部

Bukat鉱区で発見したガス田開発をFLNGで行う構想が伝えられているが実現性は未詳である。インド

ネシア政府の国内市場向け供給を優先するガス政策の方向性が見えず、新たな FLNG 案件の実現性

も不透明である。

(2) ブラジル沖合 Santos Basin Pre-Salt 油ガス田 (Petrobras/ BG/ Repsol/ GALP)

Petrobras 等コンソーシアムは Lula 油田随伴ガス輸送方法を検討中である(パイプラインと FLNG)。

2009 年 12 月、FLNG の FEED が 3 グループに発注され(→Saipem, SBM/千代田加工,

Technip/JGC/Modec)、2010 年 12 月に完成した。2011 年に開発方式を決める予定だが、パイプライ

ンと FLNG を併用する可能性が高いと考えられる。

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図 6 ブラジル Santos Basin Pre-Salt 油ガス田群

ブラジルの発電構造は水力発電比率が高く、雨季・乾期でガス需要の季節変化幅が大きい。FLNG

を使うガス開発により、ガスの国内供給、輸出の調整を柔軟に行うことが期待できる。

0%10%20%30%40%50%60%70%80%90%

100%

日本 中国 ブラジル 米国 英国

1次エネルギー消費比率(2010年、BP統計)

再生可能

水力

原子力

石炭

ガス

石油

図 7 ブラジルを含む主要国の 1 次エネルギー消費比率 (出所)BP 統計 2011 年 6 月

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(3) 西アフリカ:

西アフリカ沖合ガス田開発を FLNG 方式で行うことが検討されてきた。赤道ギニア Lykos/ Fortuna

ガス田開発(Ophir Energy)でもFLNGが開発オプションの一つとして検討されている。西アフリカでは、

ナイジェリアのように治安が悪く陸上の石油生産設備がしばしば破壊工作の影響を受けるような地域で

は、操業安全性の観点からも沖合で操業する FLNG の特徴が評価される。

4. 今後のFLNG事業の発展性

Shell が先鞭をつけようとしている FLNG は LNG 産業に変革をもたらす可能性を秘めるが、課題もな

お多く、バラ色の見通しが開けているわけではない。

(1) FLNG 操業能力を持つ事業者: 当面、限定的

Shell は長期にわたり Prelude LNG を実現させるための技術的検討を行ってきた。洋上液化方式の

技術的知見に強い自信を表明している。Shell は世界の大手 LNG 事業者の一角を占めて豊富な経験

を持ち、LNG 産業界でも同社の信頼性が高い。また 大手石油企業の 1 社として財務基盤が盤石であ

り、開発作業に際して外部からの資金調達に頼る必要が無い。このような超優良事業者は数社のみに限

定される。

Prelude に続く案件として豪州では Bonapart LNG(GDF Suez)、Cash/Maple LNG(PTTEP)等

が名乗りを挙げている。しかし大企業のGDF Suez であっても LNG 操業経験は無く、実現には技術

面、コマ―シャル条件設定の双方面において相当な困難が予想される。

自国海域で FLNG を計画している Petronas は、財務基盤の充実、マレーシア LNG の操業経験、堅

実なマーケティング政策から、Shell 等第 1 グループに次いで信頼性の高い LNG 事業者とみなされて

いる。Petronas の FLNG 案件が Shell の Prelude に続く可能性がある。

PNG、西アフリカ等で構想を持つ FLNG には海運/中小石油開発企業から成るコンソーシアムが計

画する案件が多く、その実現性は未詳である。

(2) FLNG 進展の可能性

FLNG は液化事業の中で、短・中期的にはニッチな開発方式であって全体の供給量の数%の比率を

占めるに止まると見られる。小規模案件であるため、LNG 供給量を大型陸域案件と比べると比較になら

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ない。

しかし中・長期的に、また地域的にはアジア太平洋で進展する可能性が高い。アジア太平洋には 2

Tcf 以下の中小規模ガス田が多いと言われ、従来の開発概念では商業規模に満たなかった。しかし液

化設備の据え付けが不要で、設備の再利用が可能であれば、ガス田開発機会は大幅に拡大する可能

性がある。またアジア太平洋は世界で もガス需要拡大が見込まれており、域内の買主は LNG 供給ポ

テンシャルの拡大と LNG 調達機会の多様化を強く望んでいる。

FLNG は世界 大手の石油会社の一つで LNG 産業をリードしてきた Shell によって先鞭が付けられ

る。しかしまだ実現可能性の入り口段階にあり、今後の事業展開がどのような企業によって主導されるの

か未知である。一方技術革新は大手企業によってのみ実現されるのではない。例えば、非在来型ガス

開発は、本来、手間がかかって利幅の薄い事業だった。北米のシェールガス開発は中小のガス事業者

の地道なコストダウン努力によって実現された。豪州の CBM 開発は米国大手石油企業によって開始さ

れたが彼らは採算ベースに至らずに撤退し、それを継承してコストダウンを実現し、現在の CBM 生産を

担っているのは豪州の中小ガス生産者である。

FLNG は技術革新の余地が大きいと考えられ、海洋建造物に技術優位を持つアジア企業の進出余地

の可能性も考えられる。