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特集 富士ゼロックス テクニカルレポート No.24 2015 13 多様化するデジタル印刷ビジネスに新しい 価値を届ける「Versant TM 2100 Press」 "Versant TM 2100 Press" Offering New Values for the Expanding Digital Printing Business 富士ゼロックスは2000年に本格的なオンデマン ドデジタル印刷機としてColor DocuTech 60を導 入し、デジタル印刷機のリーディング企業として市場 をけん引してきた。 しかしながら、印刷物のデジタル化に伴い、多くの 企業がデジタル印刷機の市場へ参入し、競争が激化ている。富士ゼロックスはこの競争環境の中で、多く のお客様が高いコストパフォーマンスの商品を要望 していることに着目し、ハイエンドデジタル印刷機の 性能を普及機レベルのサイズと価格で実現するため の技術を導入した、新開発のプリントエンジン Versant TM 2100 Pressと、新開発のコントローラー GX Print Server を 発 売 し た 。 本 稿 で は 、 こ の Versant TM 2100 PressおよびGX Print Serverに 搭載されている主要技術について紹介する。 Abstract In 2000, Fuji Xerox released the Color DocuTech 60 a print-on-demand digital press intended for graphic customers and has since led the digital printer market. As materials printed by digital printers have become popular, many companies entered the digital printer market, resulting in intensified competition. In such a situation, Fuji Xerox focused on a point of customer demand for high cost-effective products, and launched a new print engine (Versant TM 2100 Press) and a new controller (GX Print Server), both of which introduce technologies for realizing the performance of high-end digital printers at the size and price of an entry model. This paper introduces the major technologies used in the Versant TM 2100 Press and GX Print Server. 執筆者 鈴木 孝義(Takayoshi Suzuki*1 織田 康弘(Yasuhiro Oda*2 佐々木 俊徳(Toshinori Sasaki*2 黒川 和範(Kazunori Kurokawa*3 *1 商品開発本部 第一商品開発部 Product Development & Program Management I, Product Development Group*2 デバイス開発本部 第一マーキングプラットフォーム開発部 Marking Platform Development I, Device Development Group*3 コントローラ開発本部 コントローラプラットフォーム 第一開発部 Controller Platform Development I, Controller Development Group【キーワード】 デジタル印刷、コストパフォーマンス、高生産 性、高精細再現、高安定画質、高信頼性、用紙 汎用性、コンパクト Keywordsdigital printing, cost-effective, high productivity, high definition, stable image quality, high reliability, media support, small size

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特集

富士ゼロックス テクニカルレポート No.24 2015 13

多様化するデジタル印刷ビジネスに新しい 価値を届ける「VersantTM 2100 Press」 "VersantTM 2100 Press" Offering New Values for the Expanding Digital Printing Business 要 旨

富士ゼロックスは2000年に本格的なオンデマン

ドデジタル印刷機としてColor DocuTech 60を導

入し、デジタル印刷機のリーディング企業として市場

をけん引してきた。

しかしながら、印刷物のデジタル化に伴い、多くの

企業がデジタル印刷機の市場へ参入し、競争が激化し

ている。富士ゼロックスはこの競争環境の中で、多く

のお客様が高いコストパフォーマンスの商品を要望

していることに着目し、ハイエンドデジタル印刷機の

性能を普及機レベルのサイズと価格で実現するため

の技術を導入した、新開発のプリントエンジン

VersantTM 2100 Pressと、新開発のコントローラー

GX Print Server を 発 売 し た 。 本 稿 で は 、 こ の

VersantTM 2100 PressおよびGX Print Serverに

搭載されている主要技術について紹介する。

Abstract

In 2000, Fuji Xerox released the Color DocuTech 60—a print-on-demand digital press intended for graphiccustomers — and has since led the digital printermarket.

As materials printed by digital printers have becomepopular, many companies entered the digital printermarket, resulting in intensified competition. In such asituation, Fuji Xerox focused on a point of customerdemand for high cost-effective products, and launcheda new print engine (VersantTM 2100 Press) and a newcontroller (GX Print Server), both of which introducetechnologies for realizing the performance of high-enddigital printers at the size and price of an entry model.This paper introduces the major technologies used inthe VersantTM 2100 Press and GX Print Server.

執筆者 鈴木 孝義(Takayoshi Suzuki)*1

織田 康弘(Yasuhiro Oda)*2 佐々木 俊徳(Toshinori Sasaki)*2 黒川 和範(Kazunori Kurokawa)*3

*1 商品開発本部 第一商品開発部

( Product Development & Program Management I, Product Development Group)

*2 デバイス開発本部 第一マーキングプラットフォーム開発部

(Marking Platform Development I, Device Development Group)

*3 コントローラ開発本部 コントローラプラットフォーム

第一開発部 (Controller Platform Development I, Controller Development Group)

【キーワード】

デジタル印刷、コストパフォーマンス、高生産

性、高精細再現、高安定画質、高信頼性、用紙

汎用性、コンパクト

【Keywords】

digital printing, cost-effective, high productivity,

high definition, stable image quality, high

reliability, media support, small size

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特集

多様化するデジタル印刷ビジネスに新しい価値を届ける「VersantTM 2100 Press」

14 富士ゼロックス テクニカルレポート No.24 2015

1. はじめに

1.1 デジタル印刷機の本格的普及

2008年のリーマンショック以降、印刷物の

多品種・少量化が急激に進むとともに、デジタ

ル印刷機の性能や品質も向上したため、デジタ

ル印刷が本格的に普及してきた。また、2012

年のdrupa*1では、B2デジタル印刷機が各社か

ら発表され、オフセット印刷機からデジタル印

刷機への移行が加速されつつある。このような

背景の中で、カットシートのデジタル印刷機は、

オフセット枚葉機を代替するB2機と、デジタル

印刷を前提としたA3機に二分されてきた。これ

によって、A3機は従来のハイエンドデジタル印

刷機並みの生産性を持ちながらも低価格化が進

み、普及機並みの価格で販売されるようになっ

てきている。

富士ゼロックスはB3幅や長尺の用紙に対応

し、高い耐久性を持つiGenシリーズ、A3ノビ

幅ながら、多色印刷の付加価値を提供し、薄コー

ト紙への適用範囲を広げたColor Pressシリー

ズなど、ハイエンドデジタル印刷機でオフセッ

ト印刷のデジタル印刷化を促進してきたが、近

年の低価格なA3機というお客様のニーズに対

応 す る た め 、 新 開 発 の プ リ ン ト エ ン ジ ン

VersantTM 2100 Pressと、新開発のコント

ロ ー ラ ー GX Print Server を 発 売 し た 。

VersantTM 2100 Pressはハイエンドデジタ

ル印刷機の半分以下の体積、質量ながら、毎分

100枚(A4)の生産性、高精細かつ安定した

画質、薄コート紙から厚紙までの幅広い用紙へ

の対応など、高いコストパフォーマンスを実現

している。

1.2 VersantTM 2100 Pressの高いコス

トパフォーマンスを支える技術

コンパクトなサイズの中で、高生産性、高精

細再現、高安定画質、高い用紙汎用性を実現す

るために、VersantTM 2100 Pressでは高生

産・高信頼ドラム/現像技術、高速小型定着・

用紙冷却技術、高速小型転写技術、高速高精度

用紙位置制御技術、画像検出補正技術、高解像

*1 drupa:4年に一度ドイツで開催される国際印刷総合見

本市

高速画像処理・伝送技術、高速高解像コントロー

ラー技術を搭載している。以降各技術について

紹介していく。

2. マーキング技術

2.1 マーキング技術概要

コンパクトでありながら高生産性、高安定画

質、高信頼性、高い用紙汎用性を獲得するため

に、マーキング技術全体に抜本的な見直しを

行った。すべてのマーキングサブシステムにつ

いて新規技術を導入し高い次元ですり合わせ設

計を行い、お客様からの要求にお応えする高い

パフォーマンスを実現している。

2.1.1 高生産・高信頼ドラムユニット

ドラムユニットの高生産性、高信頼性を達成

するため、新たに材料設計を行い、高速・高生

産性、および耐摩耗性能を向上させた新規感光

体を導入した。また、帯電ロールについても、

ハイエンドユースを担保する高安定画質、高信

頼性の観点で新規設計を行い、表面抵抗均一化

および表面形状制御により画質向上、トナー/

外添粒子などの耐汚染性改善を実現している。

また、帯電ロールクリーナーの経時変形の影響

を受けにくい軸受け構成や、清掃シーケンスな

どを導入し画質維持を確保した。クリーニング

ブレードは、Color 1000 Pressで採用した積

層タイプのブレードを採用し、高信頼性を確保

した。

現像ユニットについては、高安定画質を得る

ため、複数の解析モデルを組み合わせたシミュ

レーション検討により、現像ロールと供給オー

ガー形状の 適化設計を行い、安定したトナー

供給を実現した。また、高速化と高密度レイア

ウトに伴う現像器の温度上昇を抑制するため、

現像器の発熱部であるトリマー部と軸受け部に、

機外エアをダイレクトに当てて冷却する方式を

採用した。オーガー駆動ギアを機外エア導入

ファンとして構成、エア流路をエンジン内空気

と独立させ、現像器の温度上昇を、毎分100枚

(A4)生産時においても、Color C75 Press

同等レベルに抑え、安定した稼働性能を実現し

た(図1)。

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多様化するデジタル印刷ビジネスに新しい価値を届ける「VersantTM 2100 Press」

富士ゼロックス テクニカルレポート No.24 2015 15

機外エア

オーガー

ギアファン

トリマー

導入エア

2.2 高速小型定着・用紙冷却技術

2.2.1 小型ベルトロール定着技術

印刷市場では、オフィス用途よりも広範囲の

坪量の用紙に対応できる汎用性と高速高画質化

が求められる。VersantTM 2100 Pressは、

Color 1000 Pressで採用したカラーデジタル

印刷機向け「ベルトロール定着器」の持つ用紙

汎用性と高速高画質化を継承したまま極限まで

小型化した新規定着技術を採用した(図2)。坪

量52~300g/m2の広範囲の用紙で毎分100

枚(A4)という高い生産性を確保している。

また、新開発の定着パッドにより定着ニップ

内の用紙との接触面がフラットとなり、用紙と

定着ベルトが密着するニップ幅を十分に確保す

ることが可能となった(図3)。これにより、用

紙に対する圧力が一定となり、用紙への変形ス

トレスが軽減されるため、コート紙で発生しや

すいブリスター(用紙が過熱されて発生する水

蒸気の気泡による画質欠損)が軽減し、さらに、

封筒搬送時のストレスも 小限に抑えられるた

め、封筒のシワが軽減され、さらなる用紙汎用

性の向上を実現している。

2.2.2 小型用紙冷却技術

用紙冷却技術は、定着器により高温で加熱、

搬送されてきた用紙を冷却する技術であり、用

紙カールや用紙波打ちを抑制し、安定した用紙

走行を可能にするとともに、排出用紙積載時の

用紙同士の貼り付きをなくし、後処理工程の効

率化を実現している。さらに、冷却装置通過後

には用紙上のトナーは完全に固まっているため、

用紙走行経路上の用紙ガイド、切り替えゲート、

搬送ロールなどによる画像への傷、光沢筋など

の画像欠陥を防止している。

従来の用紙冷却装置では、数多くのファンを

用いるファン方式が採用されているが、当社で

は、独自技術であるベルト接触方式をColor

1000 Pressから採用している。この方式は

ファン方式と比較し、冷却効率が高く小型化で

きるメリットがある。VersantTM 2100 Press

で採用した用紙冷却装置はレイアウトの 適設

計により、冷却長を従来商品よりも大幅に短縮

しつつ、毎分100枚(A4)に対して十分な冷

却性能を確保している(図4)。

図1 現像ユニット Developer unit

図2 小型ベルトロール定着器 Compact belt-roll fusing unit

図3 定着パッド技術 Fusing pad technology

約60%小型化

V2100P

C1000P

図4 小型用紙冷却装置 Compact paper-cooling unit

定着の様子をご覧いただけます。

Color 1000 Press定着器 VersantTM 2100 Press定着器

約67%小型化

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多様化するデジタル印刷ビジネスに新しい価値を届ける「VersantTM 2100 Press」

16 富士ゼロックス テクニカルレポート No.24 2015

2.3 高速小型転写技術

VersantTM 2100 Pressは薄紙汎用性を向

上させるために、図5に示すような低コストで

高速適性のあるBTR(Bias Transfer Roll)を

採用した新規2次転写技術を開発した。

当社ではColor C75 PressでもBTR技術を

採用しているが、市場要求である薄コート紙に

対応できない。一方、Color 1000 Pressは

55gsmの薄コート紙まで対応可能だが、高価で

大型なBTB(Bias Transfer Belt)技術を用い

ており、VersantTM 2100 Pressでの採用が難

しいため、新規のBTR技術を開発した。

その特長は転写部排出後の用紙の安定した搬

送であり、BTR径の 適化により薄紙を剥離し、

転写部からの用紙表裏の剥離位置と排出角度を

BTRとBUR(Back Up Roll)で制御すること

で、用紙への静電気力の影響を大幅に抑制して

いる。また、高速化により発生する画像欠陥に

対し、転写前からニップ領域の圧力を制御した。

これらにより、小型・低コストの高速2次転写

技術を実現し、薄紙汎用性を大幅に改善した。

3. 高速高精度用紙位置制御技術

Color 1000 Pressでは、斜め送りロール

(Crossed Roll)で用紙をサイドガイドに突き

当 て る ス キ ュ ー 補 正 技 術 「 Crossed Roll

Aligner」を採用している。この技術はサイドガ

イドに突き当てながら搬送するため、用紙搬送

の安定性に影響を与えるとともに、用紙が屈曲

部にまたがる用紙経路では搬送抵抗がスキュー

補正精度に大きく影響する。高精度に補正を行

うためには用紙長さ以上のストレートな搬送経

路を必要とし、機体のサイズの大型化につな

がっていた。

VersantTM 2100 Pressでは、リードゲート

に対し用紙を搬送方向に押しつけるスキュー補

正技術「Gate Aligner」を新たに採用した(図

6)。この技術ではリードゲートへ用紙を押しつ

ける力を可変できるニップ圧調整機構を導入し、

用紙に応じた 適な押しつけ力を与えることで

補正精度を高めている。同時に、ニップを解除

しているロールに駆動力を与え用紙搬送抵抗を

軽減する制御を行い、補正精度と搬送性をさら

に高めている。

本技術の採用により、屈曲用紙経路において

も安定して用紙搬送およびスキュー補正を行う

ことが可能となり、Aligner部の機体サイズの約

55%削減を実現した。さらに、薄紙から超厚紙

まで、幅広い坪量の用紙でスキュー補正可能と

なり、用紙汎用性が向上している。

4. 画像検出補正技術

VersantTM 2100 Pressでは、プリント画質の

維持およびマシンのダウンタイム低減のため、

印刷機内部でテストチャート全面を読み取って

調整機構を制御するインライン画像センサーを

標準で装備し(図7)、オペレーター作業を自動

化した。Color 1000 Pressでは照明にXe蛍光

ランプを用いたが1)、VersantTM 2100 Press

ではLED照明を新規に開発し、消費電力とラン

プ点灯待ち時間の低減および長寿命を実現した。

照明要素であるLEDアレイ光源では、LED素

子ごとの分光特性ばらつきにより、スキャン方

向に色むらが発生するが、校正機構に搭載した

図5 新規2次転写技術 New second transfer technology

図6 Gate Aligner構成 Configuration of Gate Aligner

稼働している様子をご覧いただけます。

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多様化するデジタル印刷ビジネスに新しい価値を届ける「VersantTM 2100 Press」

富士ゼロックス テクニカルレポート No.24 2015 17

基準板を読み取って、都度補正処理を行うこと

で解決した。さらに新開発のライトガイドでは、

線光源の不感帯*2を用いた光学設計により、深

い照明深度を実現した1)。これら新技術により、

LED照明でも、プロダクション機に求められる

インライン画像センサーの読み取り性能を確保

した。

機能面では、従来の画質調整に加え、専用の

モードにて画質診断用のチャートを出力し、点や

筋などの欠陥を検出する機能を加えた。このデー

タを活用して不良部材の推定が可能となった。

5. 高解像高速画像処理・伝送技術

VersantTM 2100 Pressは、高速高画質化の

ために、イメージング技術、デジタル画像処理

技術を刷新している。新規開発の高速シリアル

伝送技術は、GX Print Serverでビットマップ

化された大容量データを、高速にVersantTM

2100 Press本体に伝送することが可能である。

1200dpi x 1200dpi x 10bitでRIP(Raster

Image Processor)処理されたGX

*2 線光源の不感帯:線光源の入射角を45°近傍に保ったと

きに、光源の深度方向の変化に対して、照射位置の面照度

が不変となる領域

Print Server の 画 像 デ ー タ に 対 し て 、

VersantTM 2100 Pressに搭載した新規開発

の画像処理ASICで印刷機に 適な画像処理を

実施し、高品質の文字・線画、滑らかな階調性

のイメージ画像の印刷を実現している。

画像処理ASICは、滑らかな階調再現とハイラ

イト・シャドウの再現性を向上させる10bit階

調補正技術やHQデジタルスクリーン技術、高

品質の文字・線画を実現するデジタルスムージ

ング技術、高精度の画像位置制御を実現するデ

ジタル画像位置制御技術(IReCT:Image

Registration Control Technology)などイ

メージパスの一連の画像処理をリアルタイムで

処理し、2400dpiの画像信号を出力する。出力

された画像信号は面発光型半導体レーザー

VCSELを光源としたROS(Raster Output

Scanner画像書き込み部)により、2400dpi

の高解像度で高速印字を行う(図8)。

高速シリアル伝送技術は、ギガヘルツ帯の高

周 波 回 路 実 装 技 術 に よ り 、 8.5Gbps

(4.25Gbps×2チャンネル)/colorという大

幅に高速化した伝送速度を実現し、GX Print

ServerからVersantTM 2100 Press本体に、

リアル(非圧縮)1200dpi x 1200dpi x 10bit

の画像信号の伝送を可能にし、高画質化を実現

した。VersantTM 2100 Pressでは、デジタル

印刷機に 適な送信4チャンネル、受信1チャン

ネル/2colorの非対称伝送を採用し、2本ケー

ブルの構成で、効率的な伝送と確実なデータ送

受信を可能にしている(図9)。

生産財であるデジタル印刷機はシステムの信

頼性確保が重要であり、ギガヘルツ帯のシリア

ル伝送信号品質を保証する基板回路設計、信号

画像処理回路

Air Flow

結像レンズカラーCCD

LEDアレー

ライトガイド

色むら校正機構

LED 照明ユニット

テストチャート

図7 LED照明インライン画像センサー LED illumination inline image sensor

図8 イメージパス構成図 Image path architecture

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多様化するデジタル印刷ビジネスに新しい価値を届ける「VersantTM 2100 Press」

18 富士ゼロックス テクニカルレポート No.24 2015

波形制御技術、信号品質のモデリング/シミュ

レーション技術などの高周波回路実装技術、さ

らに、デジタル印刷機に 適な通信プロトコル

を独自開発し、エラー検知/訂正機能、診断機

能を搭載することにより、伝送システムの信頼

性を向上させている。

6. 高速高画質コントローラー技術

6.1 GX Print Serverの狙い

印刷の制作工程のフルデジタル化が進んでお

り、デジタル印刷機に対する高速化と高画質化

の要求は高まっている。しかしながら、高画質

化のためにRIPの解像度を2倍にすると、処理

データ量は4倍となり、従来方式のRIP処理では

高速と高画質を両立させることが困難であった。

この問題を解決するために、新たに中間データ

フォーマットとRIPアクセラレーターボード、

そして3Dキャリブレーション技術を開発した。

これらの技術により、GX Print Serverは従来

方式に比べ2倍から10倍のRIP速度を実現し、

画像劣化させることなくVersantTM 2100

Press の 1200dpi x 1200dpi x 10bit 、

100ppmの印刷機性能を発揮させることが可

能になった。また、ユーザーインターフェイス

を一新し、シンプルで直感的な操作と、カスタ

マイズによる利便性の向上を可能にしている。

6.2 中間データフォーマット

特色(CMYKの組み合わせだけでは再現でき

ない色を表すために調合された、インキなどで

作成された色)の色変換処理など正確な処理の

ために、特定の処理はRIP後のラスターデータ

で実施する必要がある。しかしながら、ラスター

データの処理は、RIP解像度に依存したデータ

サイズになり、 も負荷がかかる部分である。

このため、ラスターデータに代わる、RIP解像

度に依存しない中間データフォーマットを開発

した。これはオブジェクト(テキスト、図形、

イメージ)単位にエッジ情報と色情報を持つラ

スタライズしないデータ形式であり、ラスター

データの1/100程度までデータ量を削減して

いる。あわせて、特色処理、インポジションお

よびウォーターマーク処理、オーバープリント

警告および特色警告処理など、従来ラスター

データに対して行っていた処理を中間データ

フォーマット上で行う技術を開発し、高速な処

理を実現した。さらに、同一ジョブ内で複数回

参照されるフォームやイメージをキャッシュす

ることにより、大幅なデータ量削減、およびRIP

処理時間の短縮を実現している。

6.3 RIPアクセラレーターボード

DRP ( Dynamic Reconfigurable

Processor)はRISC CPUと動的再構成可能な

演算器アレイを1チップに集積したLSIであり、

ソフトウェア処理を柔軟にハードウェア回路と

して実装できる特長を持つ。今回、新DRPチッ

プを搭載したRIPアクセラレーターボードを新

規に開発し、ハードウェアレベルでの高速画像

処理を実現した。これまでのソフトウェア処理

で 負 荷 の 高 か っ た 色 校 正 を 行 う た め の

CMYK-CMYK色変換処理、3Dキャリブレー

ション処理、ユーザー調整カーブ、シャープネ

ス調整などの画像処理については、ソフトウェ

ア処理に比較して5倍から10倍の高速化が図

られ、画像処理のリアルタイム性を確保した(図

10)。また、このRIPアクセラレーターボード

の枚数増減によって画像処理性能のスケーラビ

リティが図られ、柔軟なシステム構築を可能に

した。

高速シリアル伝送ケーブル

高速シリアル伝送

高周波回路/プロトコル部

新規画像処理ASIC

図9 画像処理ASICと高速シリアル伝送基板 Image processing ASIC and high-speed serial communication board

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多様化するデジタル印刷ビジネスに新しい価値を届ける「VersantTM 2100 Press」

富士ゼロックス テクニカルレポート No.24 2015 19

6.4 簡単操作で高精度なキャリブレー

ション

従来のキャリブレーションは単色の色調整で

あったため、混合色までは十分に調整しきれな

いことがあった。そこで、3次元LUT(Look Up

Table)によりCMY混合色の色調整を行う3D

キャリブレーション技術を開発した。さらに、

フィードバックによる精度追い込み機能も用意

し、高精度で安定した色調整を可能とした。

これらの処理はすべてインライン画像センサー

で実施可能であり、高価な測色器を使わずに、

短時間かつ容易な調整作業が可能である。

番号 技術内容 高生産性 高精細

再現 高安定性

用紙

汎用性

1 高速小型定着・

用紙冷却技術 ○ ○ ○

2 高速小型転写技術 ○ ○ ○

3 高速高精度用紙

位置制御技術 ○ ○ ○

4 画像検出補正技術 ○

5 高解像高速画像処理・

伝送技術 ○ ○ ○

6 高速高画質

コントローラー技術 ○ ○ ○

7. おわりに

以上説明してきたVersantTM 2100 Press

の高生産性、高精細再現、高安定画質、用紙汎

用性をコンパクトなサイズの中で実現するため

に適用した技術を表1に示す。

VersantTM 2100 Pressはこれらの技術に

加え、GX Print Serverまで含めたENERGY

STAR®対応や、Color Universal Design認証

などを獲得するとともに、第11回エコプロダク

ツ大賞、経済産業大臣賞を受賞した。VersantTM

2100 Pressはドライトナーを採用する普及型

のカットシートデジタル印刷機の次世代機とし

て大幅なコストパフォーマンスの向上を実現し

た。環境と人に優しいデジタル印刷機として、

新たなデジタル印刷市場の創造・普及拡大に貢

献していく所存である。

8. 商標について

Versantは、米国ゼロックス社の登録商標ま

たは商標です。

ENERGY STARは、アメリカ環境保護庁の

登録商標です。

表1 VersantTM 2100 Pressを支える技術と効用

Technology incorporated into VersantTM 2100 Press and the effects

図10 RIP高速化技術 High-speed RIP technology

超高速I/FIOT伝送

RIPアクセラレーターボード

従来RIP処理

新RIP処理

CPSI/APPEラスタライズ

RGB/CMYK補正

色補正(オーバープリント/特色)

可逆圧縮キャリブ

レーションUAC等

ラスターデータ

600×600dpi処理データ量

約128MB(A3)

CPSI/APPERGB補正

色補正(オーバープリント/特色)

CMYK-CMYK変換3Dキャリブレーション

UAC等

1,200×1,200dpi

中間データフォーマット

処理データ量

500MB超(A3)

➊ ➌

➋ ハードウェア処理

ソフトウェア処理

高速化技術➊中間データフォーマット➋RIPアクセラレーターボード➌高速シリアル伝送技術

I/FIOT伝送

ラスターデータ

IOT

I/F Card

IOT I/F Card

ビデオデータ

ビデオデータ

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特集

多様化するデジタル印刷ビジネスに新しい価値を届ける「VersantTM 2100 Press」

20 富士ゼロックス テクニカルレポート No.24 2015

その他掲載されている商品名、会社名は、一

般に各社の商号、登録商標または商標です。

9. 参考文献

1) 伊藤昌夫, 伊本善弥, 石井昭, 武部佳文, 風

間敏之; “Color 1000 Press向けインライ

ン 画 像 セ ン サ の 開 発 ”, Imaging

Conference Japan 予 稿 集 ,

pp.123-126, (2011).

筆者紹介

鈴木 孝義 商品開発本部 第一商品開発部に所属

専門分野:商品開発推進、電気工学

織田 康弘 デバイス開発本部 第一マーキングプラットフォーム開発部に所属

専門分野:マーキングシステム設計

佐々木 俊徳 デバイス開発本部 第一マーキングプラットフォーム開発部に所属

専門分野:定着技術、定着システム開発

岩岡 一浩 デバイス開発本部 次世代マーキングプラットフォーム開発部に所属

専門分野:Production領域のマーキング技術開発

風間 敏之 デバイス開発本部 イメージングプラットフォーム開発部に所属

専門分野:画像処理システム/レジストレーション設計

北川原 淳志 デバイス開発本部 イメージングプラットフォーム開発部に所属

専門分野:イメージング・アーキテクチャー設計、画像工学

黒川 和範 コントローラ開発本部 コントローラプラットフォーム第一開発部

に所属

専門分野:システム設計

大槻 直人 富士ゼロックスアドバンストテクノロジー株式会社に所属

専門分野:用紙搬送設計

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専用アプリで関連情報にアクセス!

◆アプリのインストールの手順

◆アプリのご利用手順

「Media Switch」で検索 インストールを実行

画像全体をガイドに入れて!

App Store/Google Play にアクセス

アプリを起動 検索窓に「富士ゼロックス」を入力結果から「富士ゼロックス テクニカルレポート」を選択

カメラアイコンをタップして撮影モードに移動

画像全体がガイドの中に入るようにして撮影

送信するとコンテンツへアクセス

「富士ゼロックス テクニカルレポート」は、App Store・Google Play からSkyDesk Media Switch のアプリ(ダウンロード無料)をインストールし、アプリを起動したスマートフォンで紙面の特定画像を撮影すると、各関連情報にアクセスいただけます。*対象OS(iOS):iOS 7.1, 8.0, 8.1 (15年 2月現在)*対象OS(Android):Android™ 2.3.x, 4.0.x, 4.2.x (15年 2月現在)*アクセスできる動画のリンク先は、予告なく閉鎖される場合がありますので、予めご了承ください。

SkyDesk Media Switchは画像認識技術を使ったクロスメディアサービスです。スマートフォン/タブレットで紙から簡単に動画などのマルチメディアコンテンツを再生できます。 (日本語のみ対応しています。 Available only in Japanese)

企画→制作→活用→分析、そしてまた企画というサイクルを効率的に実践し、改善していくために必要なツールをオールインワンでご提供します。

※登録画像は こちらの マークが目印

●iOSの商標はCiscoの米国およびその他国のライセンスに基づき使用されています。 ●App Storeは、Apple Inc.が運営するiPhone、iPad、iPod touch向けアプリケーションソフトウェアのダウンロードを行えるサービスの名称です。 ●Android™はGoogle Inc.の商標です。 ●Google Playは、Google Inc.の商標です。 ●その他の掲載されているサービス、商品名等は各社の登録商標または商標です。

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表紙写真について 富士ゼロックスの技術を結集し、総本山醍醐寺の重要文化財「醍醐花見短籍」を複製した写真です。「醍醐花見短籍」は、豊臣秀吉が 1598 年(慶長 3 年)3 月、1,300 人以上を招いて醍醐寺で行った歴史的に有名な花見において、和歌の会を催し各自短冊に和歌を記したものを、後に1冊の画帳に仕立てられたもので、歌131首からなる重要文化財です。

「富士ゼロックス テクニカルレポート」は SkyDesk Media Switch に対応しています。

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企画→制作→活用→分析、そしてまた企画というサイクルを効率的に実践し、改善していくために必要なツールをオールインワンで

1.撮影する

2.送信

3.コンテンツ表示

画像、動画、音声、Web、ソーシャルメディア、マップ等

管理ツールウェブブラウザ上で動作し、紙面にマークを付け、印刷データを出力するツールで簡単にコンテンツと紐づいた紙面を作成できます。

検索サーバー、スマートフォンアプリコンテンツ閲覧に必要なスマートフォンアプリ

(iOS、Android)と画像検索サーバーも合わせて提供。

企画ログ分析のフィードバック結果をもとに、クロスメディアの活用アイデア検討にお役立てください。

ログ分析コンテンツへのアクセス履歴をリポートでき、

分析結果のフィードバックが可能。

◀印刷物を配布

詳しくはSkyDesk Media Switchのサイトをご覧ください! 検 索

企画 制作

分析 活用

富士ゼロックス テクニカルレポート 第 24号 2015年Fuji Xerox Technical Report No.24 2015

企画・編集 富士ゼロックス株式会社 R&D企画管理部 〒220-8668 神奈川県横浜市西区みなとみらい六丁目 1番 Tel. 045-755-9391

編集委員長 大西 康昭編集委員 相田 美智子/溝口 忠志/白附 好之/津田 大介/岩崎 栄介翻訳 中村 絵理子/田辺 愛子/小野 友季絵/アレクサ カウイング/福島 愛/清水 真希/出田 静編集デザイン 富士ゼロックスシステムサービス株式会社 コンテンツソリューションセンター(CSC)

発行日 2015 年 3月 5日発行人 大西 康昭発行所 富士ゼロックス株式会社 〒107-0052 東京都港区赤坂 9-7-3非売品 禁無断転載 本誌に関するお問い合わせは企画・編集までご連絡ください。 本誌は環境に配慮した森林認証紙(C2)を使用し、Color 1000 Press にて印刷しております。 本誌は弊社ホームページでも全文を公開しております。 (URL : http://www.fujixerox.co.jp/company/tr/index.html)