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2018 年度 北里大学海洋生命科学部附属 三陸臨海教育研究センター 年次報告 Vol. 5, 2019 北里大学海洋生命科学部附属 三陸臨海教育研究センター Sanriku Education and Research Center for Marine Biosciences

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2018 年度

北里大学海洋生命科学部附属

三陸臨海教育研究センター

年次報告

Vol. 5, 2019

北里大学海洋生命科学部附属

三陸臨海教育研究センター

Sanriku Education and Research Center for

Marine Biosciences

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目次

センター長挨拶 - 1 -

北里大学三陸キャンパスの沿革 - 3 -

教育活動 - 4 -

2018 年度臨海生物学実習 - 4 -

三陸水産食品加工体験実習 - 7 -

研究活動 - 9 -

環境生物学部門 - 9 -

増殖生物学部門 - 20 -

応用生物化学部門 - 26 -

応用微生物学部門 - 31 -

KAUST プロジェクト事業の紹介と 2018年度の活動 - 33 -

地域連携部門 - 38 -

水産食品加工室の活動報告 - 40 -

地域連携活動 - 43 -

水産海洋イノベーションオフィサ(IOF)育成プログラム - 43 -

地域連携活動 - 45 -

越喜来小学校 PTAによる SERC 施設見学会 - 48 -

大船渡市産業まつりにおけるドンコ蒲鉾の出展 - 52 -

地域連携活動報告 - 55 -

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2018 年度いわて海洋研究コンソーシアム関連事業 - 59 -

施設・設備 - 60 -

主な施設・設備 - 60 -

2018 年度 地域交流研修フロア利用実績 - 61 -

アクセス - 62 -

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センター長挨拶

三陸臨海教育研究センター年次報告 Vol. 5 発刊に寄せて

海洋生命科学部・学部長

三陸臨海教育研究センター・センター長

菅野 信弘

2018 年度は,盛-久慈を結ぶ三陸鉄道リアス線の開通,東北横断自動車道・釜石-花

巻間の開通,三陸沿岸道路・唐桑-宮古間が概ね開通し,東北横断自動車道と三陸沿岸道

路が釜石 JCT で連結するなど,センターを取り巻く交通・物流環境に大きな変化がありま

した。また,岩手大学三陸水産研究センター(釜石市)では農学部食料生産環境学科水産

システム学コースの 1 回生を迎え,いよいよ岩手大学釜石キャンパスとして始動しまし

た。2019 年度には,沿岸市町村による三陸防災復興プロジェクトや釜石市でのラグビーワ

ールドカップの開催を控えるなど,東日本大震災被害からの着実な復興の歩みを強く感じ

た年でした。

一方,三陸沿岸域の基幹産業である水産業は,シロサケ漁獲量の低迷,サンマやスルメ

イカをはじめとする浮魚類の不漁,貝毒問題の長期化や海域拡大など,厳しい状況が続い

ています。これらに加え,漁業就労者数の減少と高齢化は,三陸沿岸域においても大きな

問題となっています。当センターは,漁業現場に隣接した立地を活かし,学部の窓口とし

て,これらの問題の解決と「強い水産業」への改革に少しでも貢献できるよう今後も努力

していきたいと考えています。新規漁業就労者の確保を目的とした「いわて水産アカデミ

ー」が 2019 年 4 月 9 日に開講しました。当センターを集合研修の会場として利用してい

ただくことになったことは大変うれしく思っております。「いわて水産アカデミー」が期

待以上の成果を上げられるよう,微力ながら今後も協力を惜しまないつもりでおります。

当センターは,2014 年 4 月,旧三陸キャンパスをベースに設置されました。復興支

援,地域連携,臨海教育研究,さらには国際的な海洋共同研究の拠点として多岐にわたる

活動を行なってきましたが,震災の影響,経年劣化などにより,現状,配電設備,飲料水

供給設備,研究用淡水・海水給排水設備等の修繕・メンテナンスが喫緊の重大な課題とな

っています。学部では,2018 年度より重点事業としてこの問題に取り組んでおりますが,

センター活動の維持と更なる活性化のため,引き続きご支援を賜りたく,よろしくお願い

申し上げます。

年次報告第 3 号では,特別号として「岩手県南部海域の海藻」を発刊しました。第 5 号

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では,特別号「三陸の海産無脊椎動物」の発刊を予定しています。三陸沿岸域で実施され

る臨海実習のみならず,学習・研究や漁業の現場で広くご利用いただければ幸甚です。

(2019 年 5 月)

越喜来湾(夏虫山より)

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北里大学三陸キャンパスの沿革

1967 年 8 月 三陸海洋生物研究所(現三陸研修所)竣工

1972 年 4 月 水産学部開設

第 1 校舎(F1 号館)が竣工

1973 年 3 月 第 2(F2 号館)、第 3(F3 号館)、第 4 校舎竣工

1975 年 1 月 体育館竣工

1978 年 9 月 図書館竣工

1992 年 7 月 F4 号館(マリンホール)竣工

2009 年 4 月 海洋生命科学部へ改組

2009 年 3 月 MB5 号館(学生実習棟)竣工

平成 23 年(2011 年)~

2011 年 3 月 東日本大震災による学部の相模原キャンパス一時移転

2012 年 4 月 感染制御研究機構・釜石研究所が活動再開(MB5 号館 2F)

2012 年 7 月 相模原キャンパス MB 号館竣工

2013 年 4 月 海洋生命科学部及び大学院海洋生命科学研究科の教育は、相模原キャン

パスを主たる拠点とすることが決定

平成 26 年(2014 年)~

2014 年 3 月 F3 号館解体撤去

2014 年 4 月 三陸臨海教育研究センター設置

2014 年 7 月 KAUST との国際再共同研究開始(MB5 号館 4F)

2014 年 8 月 海洋実習実施

2015 年 7 月 F1 号館、F2 号館解体撤去工事終了

2015 年 7 月 三陸研修所の利用停止

2015 年 7 月 センター改修工事完了

F4 号館、MB5 号館を SERC1 号館、SERC2 号館に改称

地域連携機能、研修機能を新たに設置

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教育活動

2018 年度臨海生物学実習

沿岸生物学研究室・准教授

難波信由

2018年度の「臨海生物学実習」は、三陸臨海教育センター(SERC)と、真鶴にある横浜

国立大学臨海環境センター(MMCER)を拠点として実施され、SERCで過半数の実習生を受け

入れた。8 月 2 日から 11 日にかけて、海洋生命科学部 2 年生 185 名のうち 123 名が 4 つの

グループに分かれ、2泊 3日の行程で順次実習を行った(第 1グループ 31名は 4日~4日、

第 2グループ 31名は 4日~6日、第 3グループ 31名は 7日~9日、第 4グループ 30名は 9

日~11 日)。主担当の難波と、奥村教授、朝日田教授、水澤准教授、小檜山准教授、阿見彌

講師、廣瀬助教、SERCの清水助手、補助学生 6名が指導にあたった。

実習初日は、集合場所の JR 水沢江刺駅から貸し切りバスで SERC に移動、説明を受けた

後、再びバスに乗って越喜来湾の崎浜漁港に移動し、「ホタテガイ養殖施設見学・プランク

トン採集・釣り実習」を実施した。漁港から 6隻の漁船に分乗して出港し、養殖施設に到着

した後、船上で船頭からホタテガイ養殖についてレクチャーを受け、養殖ロープを引き上げ

た(図 1)。さらに、プランクトンネットを用いて養殖ロープ直下の海水を採水した(図 2)。

下船後は崎浜漁港で釣り実習やロープワーク実習を行った。そして、2号館 1階の実習室に

戻り、採集したプランクトンの形態観察と検索を行った。

図 1. 漁船に分乗したホタテガイ養殖施設

見学

図 2. 漁船に分乗してプランクトン採集

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2 日目は「ホタテガイ養殖ロープ観察実習と磯採集実習」を実施した。実習室において、

前日養殖施設から引き上げたホタテガイやロープに付着した生物を観察し、付着している

生物をホタテガイから外して種や分類群ごとに並べて観察や計数を行った。また、ホタテガ

イの殻長などを計測・記録した(図 3)。観察実習終了後は、SERCの宿泊室から一望できる

吉浜湾の舟作海岸において「磯採集」を行い、昼食後、採集生物の観察と検索を行った。さ

らに、採集海藻を使って押し葉標本(海藻アート)を作成した。どの実習生も夢中に取り組

み、今年度も個性豊かな作品が数多く生まれた(図 4)。

実習最終日、第 1・4グループは貸し切りバスで JR水沢江刺駅に移動後、無事解散した。

第 2・3 グループは地元大船渡市にある北日本水産株式会社に伺い、社長の古川季宏氏(本

学部 OB)から説明を受けつつエゾアワビの陸上養殖施設を見学した後、JR水沢江刺駅に移

動・解散した。

今年度も、台風の影響を受けてスケジュール変更を余儀なくされたが、前もって三陸の定

置網で漁獲された魚類を確保していたため、フィールド実習が中止になった時も、色々な魚

類の解剖を行うことができた。さらに今年度は、越喜来湾の湾奥に位置し、沖合からの波の

影響を受けにくいが、多くの磯生物が生息する越喜来地区防潮堤前浜での「磯採集実習」が

可能になった。実際、沖合に面した舟作海岸では「磯採集実習」ができず、この浜で安全に

実習を行なったグループもあり(図 5)、フィールド実習における荒天対策の幅も広がった。

図 3. SERC 実習室での採集生物の観察

図 4. 海藻アート「カラアゲくんのも

と」

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三 陸 で の 「 臨 海 生 物 学 実 習 」 は 、 本 学 部 ホ ー ム ペ ー ジ の 動 画 コ ー ナ ー

(http://www.kitasato-u.ac.jp/mb/campus/movie.html)にアップされている。この動画は

優れもので、実習に参加した学生たちの楽しさが体験できるので、是非ご覧いただきたい。

本実習の実施にあたって、大学内外の多くの方々の多大なご協力とご支援を賜った。越

喜来漁業協同組合にはホタテガイ養殖施設見学実習から荒天用の定置網漁獲魚類の用意に

至るまで、さまざまなご協力をいただいた。また、磯採集の実施にあたっては越喜来漁業

協同組合と吉浜漁業協同組合に快くご許可いただいた。SERCの職員各位には、10 日間に

わたって実習生活を支えていただいた。本実習は大船渡市の助成を受けて実施された。こ

こにあらためて御礼を申し上げる。

図 5. 越喜来地区防潮堤前浜での磯採集

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三陸水産食品加工体験実習

食品化学研究室・准教授

池田大介

2019 年 1 月 27 日(日)〜29 日(火)の 3 日間、学部 3 年生対象の三陸水産食品加工体

験実習を実施した。参加者は 3 年生 2 名と少なかったが、4 年生の補助学生 4 名と教職員

4 名(池田、渡部、三陸臨海教育研究センターの古水州さんと研究員の池田有里さん)で

協力して実習指導を行った。1 名の参加者に対して指導者 4 名という、参加学生にとって

は大変贅沢な実習であったと思ってもらえれば幸いである。前年度と実習スケジュールは

ほぼ同じで、実習1日目夜に実習講義、2日目に実際の水産食品加工を行い、3日目に大

船渡魚市場および阿部長商店大船渡食品の見学を行った。

本実習の主目的は、エゾイソアイナメ、通称ドンコを試料として、魚体の処理から水産

練り製品を作る一連の作業を体験することである。この一連の作業の中で、一番過酷なも

のは魚体を洗浄した後、頭、鱗、表皮のぬめりおよび内蔵を除去する解体工程である。前

年度は幸か不幸かドンコを大量に入手することが出来たため、150 尾、合計 100kg 程度の

魚体を、流し台の水が氷るほどの極寒の中処理するという貴重な体験をすることが出来た

(今年度の参加者が少なかった理由は、もしかしてこの噂が広まったからかもしれな

い)。今年度はこの苦い経験を踏まえ、ドンコは前年度の 4 分の 1、25kg 程度用いて実習

を行った。無論、参加学生にはすこぶる好評であった(図 1)。

解体後は三枚おろしにし、包丁で肉を削ぎ落して採肉、ミートチョッパーを用いて荒び

き、水さらし、脱水の一連の作業の後、フードカッター冷却型ステファン UM-12 型を用い

図 1. 魚体の解体(左)と三枚おろし作業の様子(右).

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て擂潰した。得られた肉糊を成形し、板蒲鉾および揚げ蒲鉾の二種類を作製した(図 2)。

作製した蒲鉾の一部はその日の夕食として食卓を彩ったことは言うまでもない。

本実習では、大船渡の水産加工の現状を知ってもらうといった側面も持っている。その

ため例年通り、3 日目午前中に大船渡魚市場および阿部長商店大船渡食品を見学した。前

年度は年末に実習を行ったため、大船渡食品では製造を行っておらず大掃除の真っ只中で

あった。きれいに磨かれた様々な製造機器の前で、製造品目の説明をして頂いたのだが、

製造工程を想像することは困難であった。本年度はサバを使った様々な商品や塩サンマな

ど、実際の製造工程を目の当たりにすることができたので、学生にとっても有意義であっ

たと思われる。

本実習の実施に当たり、学生の水沢江刺~大船渡間の交通の便につき、大船渡市より多

大なご支援を頂いた。深く感謝いたします。

図 2. 成形工程(左)と出来上がった揚げ蒲鉾と板蒲鉾(右).

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研究活動

環境生物学部門

環境微生物学研究室・教授

山口峰生

環境生物学部門では,三陸をフィールドにした研究が多く行われている。本報告では東日

本大震災が環境や生物に与えた影響に関する研究について,その概要を以下に記す。

1.越喜来湾の砂浜海岸に出現する仔稚魚および隣接するアマモ場,コンブ藻場等の変化

(朝日田 卓)

砂浜海岸やアマモ場に代表される浅海域は,魚類の産卵場や成育場として重要であるが,

東日本大震災によって越喜来湾内の浦浜海岸,浪板海岸の環境も大きく変化した。我々はこ

の 2 海岸において震災後の環境変化や仔稚魚相とその食性などについて調査を行っており,

これまでその回復過程や復興工事の影響などを明らかにしてきた。2018 年度の研究では,

仔稚魚の出現動態や食性,コンブ藻場の面積変化などが明らかになった。

浪板海岸の浅所(水深:1-2m)では,多くのマコガレイ稚魚(当歳魚:0+)が出現し,標

準体長 80-100mm になるまで本海岸の浅所を利用していることが明らかとなった。本種の出

現個体数には年変化が見られたが,水系分析の結果,産卵期(1-6 月)の親潮勢力によって

加入量が変化することが示唆された。また,体長 30mm 前後までの個体はハルパクチクス

類やヨコエビ類を,70mm 前後までは食性を多様化させつつタナイス類などの潜砂性小型甲

殻類を,80mm 以上の個体では多毛類を主に摂餌していることが胃内容物分析と炭素・窒素

安定同位体分析の結果から明らかとなり,成長に伴い食性が変化することが示された。また,

アマモ場の優占種であるクダヤガラ・タケギンポ・アサヒアナハゼの胃内容物組成には,震

災後(2012-2013 年)に底生生物が著しく減少するという変化が見られ,津波によりアマモ

場内の餌環境(底生生物相)に変化が生じた可能性が示唆された。

越喜来湾奥部に位置する浦浜海岸は,震災によって砂浜海岸が消失し新たに浸水域とな

った場所に砂浜等が形成された場所である。本地点では住民要望により新防潮堤(2017 年

竣工)がセットバックされ,砂浜等が保全された。海岸の潮間帯から潮下帯では,コンクリ

ート片(旧防潮堤のがれき等)を含む転石を付着基質としてコンブ藻場が形成されているこ

とが植生調査によって明らかとなり,その面積は 2017 年の約 1400m2 から 2018 年の約

3600m2 へと経年的に増加したしたことがドローンの空撮画像解析によって明らかとなった。

また,両海岸の浅所(水深:1m 以浅)では希少種であるホシガレイ稚魚(TL:17-137mm)

とマツカワ稚魚(TL:115-146mm)の出現が確認できた(図1)。両種は初期生活史におい

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て極めて浅い水域を利用することが知られており,『震災後に形成・保全された浦浜海岸』

や『震災後も残存した浪板海岸』の浅所が成育場として利用されていることが示唆された。

図1.浦浜海岸で採集されたホシガレイ稚魚(A)とマツカワ稚魚(B)

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2.ヒラメ着底稚魚の出現動態および餌料環境(林崎健一)

岩手県においてヒラメは価値の高い重要な魚類資源である。岩手県沿岸に出現したヒラ

メ着底稚魚の詳細な情報から震災の影響等を評価でき,今後の増殖事業の復興方策立案に

資することが出来るものと考えられる。岩手県沿岸の湾では震災前からヒラメ着底稚魚と

餌生物の調査を行っている。ヒラメの採集には,水工研Ⅱ型ソリネットを用い,餌生物の採

集には広田式ソリネットを用いた。2007-2018 年(2011 年除く)に 7 月から 10 月にかけて月 1

回採集されたヒラメ及び餌生物を材料として,ヒラメの胃内容物を調べるとともに,環境中

の餌生物に関しても調査を行った。胃内容物重量は相対胃充満度(RSF)により評価した。さ

らに,餌であるアミ類とカタクチイワシ仔稚魚の安定同位体比が異なることを利用して,各

餌のヒラメへの寄与を計算により求めた。また,耳石の微細輪紋から日齢を推定するととも

に,輪紋形成時の体長を推定した。

調査期間を通してヒラメの着底密度は 8 月下旬に最大となり,9 月下旬には極めて低くな

った。7 月下旬には全長 50 mm 以下の小型個体が多く,8 月下旬には小型個体から 100 mm

超まで,様々なサイズの個体が出現することから,この海域の着底時期は 7-8 月と推察され

た。9 月中旬に密度が比較的高い観察例もあったことから,9 月下旬には成長に伴い多くの

着底稚魚が深場に移動するものと推察された。年度間で比較すると,2016-2018 年の最近 3

カ年は着底密度が特に低かった。

環境中のアミ類の密度は,7 月下旬には低く 9 月下旬に最大となる年が多かった。出現種

は,ミツクリハマアミ,コクボフクロアミ,シキシマフクロアミ,クロイサザアミ,キタイ

サザアミ,サンドモアミ,セトトゲハマアミ,オオトゲハマアミ,ニホンハマアミなどであ

った。ミツクリハマアミが優占したが,アミ類の密度が低い 7 月下旬ではミツクリハマアミ

が出現することは稀であった。ヒラメ着底盛期にはアミ類の密度は非常に低く,着底数が減

少した 9 月下旬になって,アミ類の密度が最大となる年が多かった。ヒラメの成長に伴い

TL50 mm 前後から胃内容物中に魚類(主にカタクチイワシのシラス)が占めるようになる

のが一般的な傾向であった。 同位体分析の結果,アミ類の餌としての寄与は年度,季節に

よって異なっていた。ヒラメはある程度成長するとアミ類から魚類へと食性を移行すると

されているが,カタクチイワシの寄与は多くが 1~2 割であり,最大でも 4 割程度であった。

したがって,魚食へと移行できるサイズに達してもカタクチイワシに遭遇する確率が低く,

アミ類のような餌料効率の悪い餌に依存し続けている個体が多い可能性が示唆された。近

年東北海区のカタクチイワシが減少しているとの報告があり,カタクチイワシ資源量との

関連性を検討する必要がある。さらに着底初期ではアミ類密度が低く,摂餌成功度が異なる

個体が存在しているために胃充満度にばらつきが生じたと推察された。ヒラメ稚魚の摂餌

行動とも関連し,本海域における摂餌特性をさらに検討する必要がある。特に,最近は当該

調査海域において着底期の成長が極めて悪い年級が出現した可能性があり,加入への影響

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を詳細に検討する必要がある。

3.三陸沿岸域の固着性動物群集および底生無脊椎動物相(広瀬雅人)

岩手県大槌湾,越喜来湾,および宮城県松島湾において,水中に垂下した付着板を約 2 ヶ

月半の間隔で交換・観察し,養殖施設等に生息する付着生物の種組成,季節消長,生息環境

特性を調査した。また,大槌湾においてはドレッジや ROV を用いて,海底岩礁域の固着性

動物群集およびさまざまな底質環境における底生無脊椎動物の多様性についても調査した。

大槌湾における調査では,種組成に関しては前年度までの調査結果と同様の傾向を示し,

春先にヒドロ虫(Obelia sp.),夏から秋にヨコエビ類の棲管が優占した。秋にコブコケムシ

の付着が多い傾向も前年度と同様であったが,前年度までの結果に比べて群体数は顕著に

少なかった。これは,2018 年は過去の調査年に比べて秋の水温が高かったことによると考

えられる。

越喜来湾における調査では,春から夏にかけては同時期の大槌湾と同様にヒドロ虫

(Obelia sp.)が優占し,秋季においても同時期の大槌湾奥部と同様にコブコケムシの付着

が多い傾向がみられた。しかし,前年度の結果と比較すると,確認されたコケムシ類の種組

成が大きく異なった。冬季には再びヒドロ虫が優占したが,春に優占した Obelia 属とは異

なりクダウミヒドラの仲間が多く,これは同時期の大槌湾口部の結果と類似していた。また,

これらの付着生物群集に多くの小型甲殻類(図 2)が棲み込みを行っており,その動態や深

度分布が水温と関係していることが示唆された。

松島湾における調査では,前年度までと同様に,春先に湾央の深い水深帯においてヒドロ

虫(Obelia sp.),7 月に湾奥の深い水深帯においてツブナリコケムシ,9 月に湾奥の浅い水

深帯においてフサコケムシが多く付着する傾向がみられた。これら 2 地点の環境について,

塩分やクロロフィル,流速についても計測を行った結果,湾奥は湾央に比べて塩分が低く流

速が穏やかである傾向がみられた。これらの環境要素が,コケムシやヒドロ虫の松島湾内に

おける出現動態と関係していると考えられる。また,松島湾で得られたフサコケムシの摂餌

行動と水温および流速との関係を飼育実験により調査した結果,水温が高く流速が緩やか

であるほど摂餌行動が活発となり,摂餌量も増加することが明らかとなった。

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図 2.付着板上の付着生物群集に棲み込んでいた小型甲殻類(一部)

大槌湾におけるドレッジと ROVを用いた海底の固着性動物群集および底生無脊椎動物相

調査では,大槌湾口部の水深約 60~100 m 地点において,苔虫動物門 42 種を含む 10 動物

門約 300 種の底生無脊椎動物を得た。また,起立性のコブコケムシ群体およびキノエダカイ

メンを基質とする生物群集について,基質となる固着生物ごと採集した結果,それぞれ 7 動

物門 42 種と 7 動物門 27 種の無脊椎動物が得られた。この結果から,これらの固着性動物

は他の小型無脊椎動物の棲み込み場として実際に利用されていることが明らかとなった。

これら得られた底生生物の中には未記載種や未記録種が多数含まれていると考えられるた

め,現在詳細な分類学的研究を進めている。

また,同海域で得られる起立性コケムシ群体の成長履歴について,マイクロフォーカス X

線 CT を用いた観察および酸素・炭素同位体比の分析による成長線(図 3)の解析を実施し

た。その結果,ほとんどの成長線が夏に形成される年輪であり,その他の時期に形成される

ものは夏季に形成されるものに比べて石灰化の程度が弱い傾向にあることも明らかとなっ

た。さらに本年度の解析結果から,震災前後においてコケムシ群体の成長過程に変化があっ

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た可能性も示唆された。

図 3.マイクロフォーカス X 線 CT で観察したコケムシ群体内部にみられる成長線

4.大船渡,唐丹,越喜来湾沿岸におけるクラゲ類の出現(三宅裕志)

クラゲ類は,魚類の餌である動物プランクトンを捕食し,さらには仔稚魚をも捕食する。

そのため,クラゲ類の種組成や出現の仕方によっては,その生息域の生態系構造を変えてし

まい,漁業をはじめとする沿岸経済活動に大きな影響をあたえる。本研究室では,東日本大

震災以前の 2008 年からクラゲ類の個体群動態を観測してきた。

2018 年度では,春期には,サルシアクラゲ,オオタマウミヒドラ,シミコクラゲ,ドフライ

ンクラゲ,エダクダクラゲ,カミクロメクラゲ,カタアシクラゲモドキ,オベリアクラゲの

1 種,キタヒラクラゲ,ミズクラゲ,アカクラゲ,オベリアクラゲ類の複数種が見られた。

夏季には,大船渡湾でミズクラゲ,アカクラゲが数多く見られた,越喜来湾においては,

オオタマウミヒドラ,シミコクラゲが見られた。唐丹湾においては,ウラシマクラゲが採集

された。

秋期および冬季には,大船渡湾では例年になくクラゲ類の出現が少なく,越喜来湾と唐丹

湾において,ウリクラゲ,カンパナウリクラゲ,カブトクラゲ,カラカサクラゲ,ヤジロベ

エクラゲ,ヒトツクラゲ,オタマボヤ類など外洋種がみられた。湾奥の浦浜漁港において,

11〜12月に成熟したアンドンクラゲが初めて観察された。

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2018 年のクラゲの出現種については,震災前に出現していた主な種は出現するようにな

った。しかし,全体的に出現量は少なかった。大船渡湾においては,特にこれまで出現が多

く見られたエダクダクラゲの出現が通年みられなかった。エダクダクラゲはエラコのポリ

プは棲管にのみ付着するため,大船渡湾内のエラコの生息環境に何らかの変化があった可

能性がある。

図 4.三陸沿岸で見られるクラゲ類

上段左:カブトクラゲ 上段右:カラカサクラゲ

下段左:エダクダクラゲ 下段右:カミクロメクラゲ

4.吉浜湾舟作海岸の潮間帯植物群落調査(難波信由)

東日本大震災は岩手県南部沿岸域に津波による破壊と地盤沈下を引き起こした。そこで,

吉浜湾舟作海岸の潮間帯植物群落を調査し,震災前の結果と比較することで震災の影響と

その後の変化を明らかにした。すなわち,震災後 2012 年から今年度(2018 年)までに確認

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された植物種を,震災前(1997 年〜2010 年)の結果と比較した(表 1)。

震災前には緑藻 11 種,褐藻 21 種(1 亜種を含む),紅藻 31 種,単子葉植物(海草)1 種

が確認されたが,震災後には緑藻が 8 種(震災前の 73%),褐藻が 16 種(76%),紅藻が 28

種(90%),海草では震災前と同じ 1 種が確認され,全体では 53 種(震災前の 83%)であ

った(表 2)。なお,今年度新たに確認されたのは,緑藻シリオミドロ,紅藻ウシケノリ,ヒ

ラムカデの 3 種であり(表 1 の震災後の出現種に「++」で記載),震災 7 年後の現在までに,

震災前の出現種の大部分が確認された。一方,今年度は,震災前の優占種 5 種(褐藻マツ

モ,ホソメコンブ,エゾノネジモク,紅藻フクロフノリ,イボツノマタ,表 1 の震災前の出

現種に「+++」で記載)の中でホソコメンブが確認されなかった。

表 1. 震災前後の出現種

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5. 湾口防波堤再建後の大船渡湾の水質環境の変化(山田雄一郎)

大船渡湾は震災前には湾口防波堤の影響で湾内の海水が滞留し,富栄養・貧酸素の状態に

あったが,東日本大震災の巨大津波により湾口防波堤が全壊したことで,湾内外の海水交換

が活発になり,湾内の富栄養化および貧酸素状態の緩和が確認された(Yamada et al. 2017)。

その後 2013 年に湾口防波堤の再建工事が開始され,2017 年 3 月に新しい防波堤が竣工し

た。この工事期間中,底層における水温および溶存酸素の湾内外の差は工事開始前と比べて

拡大し,さらに湾中央部の深層においてリン酸態リン濃度が増加したことから,工事期間中

に湾内水の滞留化・成層化が起こったことが考えられた。湾口防波堤の竣工後は湾内の水質

環境がどのように変化するのか,本研究は,これまで大船渡湾で行なわれてきた調査を継続

し,得られたデータをこれまで蓄積された調査結果と比較することで,新しい防波堤が湾内

の水質環境に与える影響について適切に評価し,さらには安定的・持続的な水産養殖業の実

現に寄与することを目的として行った。

2018 年 5 月から同年 11 月までの毎月 1 回,大船渡湾の湾外(湾口防波堤のすぐ外側)か

ら湾奥(盛川河口)にかけての 4 点において観測を行った。水温,塩分および溶存酸素の鉛

直プロファイルは多項目水質計を用いて測定した。各点において表層から海底まで 5m 毎に

バンドーン採水器およびニスキン採水器を用いて海水を採集し,クロロフィル a 濃度測定

(蛍光法),栄養塩(硝酸態+亜硝酸態窒素,アンモニア態窒素,リン酸態リンおよびケイ酸)

濃度測定に供した。

調査期間中の底層水温の湾内外の差は最大-2.5℃であり,再建工事中と同様の値を示した

が,湾中央部の底層における溶存酸素濃度は 8 月から 9 月にかけて極めて低く(最小値

0.96mg/l),深刻な貧酸素にあることが確認された。各栄養塩濃度は前年(2017 年)と比較

して特に夏季~秋季の中央部の低層においてアンモニア態窒素およびリン酸リン濃度が大

幅に上昇した。クロロフィル a 濃度の平均値は 2.27µg L-1 であり,例年よりもやや低い結果

表 2. 震災前後の出現種数と震災後の出現率

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となった。

6.三陸をフィールドとした主な研究成果のリスト

【論文等】

Katayose, G. and T. Asahida. 2018. Effect of environmental change after the 2011 tsunami on the

population dynamics of Japanese tubesnout Aulichthys japonicus (Gasterosetiformes). Cybium, 42:

321-326.

【学会,シンポジウム等での発表】

Miyake, H., Y. Sakuma, K. Onochi, N. Nishikawa, K. Sugimoto, F. Motoishi, S. Honda, T. Saito, H.

Yokoba and Y. Hamatsu (2018). Jellyfish fauna changes before and after 2011 Tohoku earthquake

and tsunami in southern part of Sanriku coast, Iwate, Japan. PICES-2018 Annual Meeting

(Yokohama) Book of Abstract p.235.

鈴木陽太・片寄剛・林崎健一・朝日田卓.岩手県南の小規模砂浜海岸におけるマコガレイ稚

魚の食性.平成 30 年度日本水産学会秋季大会,広島大学,2018 年 9 月.

片寄剛・藤田楓・鈴木陽太・朝日田卓.岩手県沿岸のアマモ場におけるタケギンポ摂餌生態

と震災後の変化.平成 30 年度日本水産学会秋季大会,広島大学,2018 年 9 月.

広瀬雅人.大槌湾・越喜来湾の付着生物群集と底生無脊椎動物の多様性.いわて海洋コンソ

ーシアム研究者交流会,国際沿岸海洋研究センター,2018 年 9 月.

朝日田卓.奇跡の海三陸~豊かな文化を育んだ自然~,シンポジウム「よみがえる文化財と

博物館の復興」,津波により被災した文化財の保存修復技術の構築と専門機関の連携に関

するプロジェクト実行委員会,陸前高田市,2019 年 2 月.

朝日田卓.越喜来湾における生態系調査の防潮堤建設に対する効果.平成 31 年度水産環境

保全委員会シンポジウム(共催:東日本大震災災害復興支援検討委員会),平成 31 年度日

本水産学会春季大会,東京海洋大学,2019 年 3 月.

広瀬雅人,古谷恵亮,小林勇太,難波信由.岩手県越喜来湾の人工構造物上にみられる付着

生物群集を利用する表在性動物の種組成と生活史.2019 年度日本付着生物学会研究集会,

東京海洋大学,2019 年 3 月.

山田雄一郎.三陸海域における Pseudocalanus 属カイアシ類の出現状況と体長の地理的変異.

日本海洋学会海洋生物学研究会主催 海洋生物シンポジウム 2019.東京海洋大学,2019 年

3 月.

【図書および印刷物】

難波信由・広瀬雅人. 2019. 平成 30 年度三陸町海域・河川の水質調査報告書. 大船渡市 pp.

1-28.

【新聞記事】

広瀬雅人.オドロキ!海のへんてこ動物ファイル.岩手日報ジュニアウイークリー,2018 年

4 月~10 月[週刊連載(全 26 回およびプロローグ・エピローグ)]

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【漁業復興への貢献,アウトリーチ活動およびその他の関連活動】

広瀬雅人.コケムシってどんな動物?-海にいるへんてこな動物の多様性-.海洋研究出前

授業,大船渡市カメリアホール,2019 年 1 月.

【受賞】

片寄剛.平成 30 年度三陸海域研究論文知事表彰事業特別賞:学生の部.岩手県越喜来湾の

アマモ場における仔稚魚の出現動態と東日本大震災の影響.

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増殖生物学部門

大船渡市産学官連携事業を活用した研究

増殖生物学講座水族育種生物学研究室・講師

古川 史也

本研究に至る経緯

学位取得から現在まで、私は主に魚類生理学を専門としており、近年は魚類発生初期の栄

養代謝に着目した研究を進めてきた。研究に使用する主な生物は淡水産の熱帯魚であるゼ

ブラフィッシュである。2016 年春、縁あって北里大学の水族育種生物学研究室に入れてい

ただき、アワビやナマコの遺伝育種学等を専門とする奥村誠一教授の元で研究をはじめた。

せっかく新しい環境に来たので、何か新しいこと、できれば奥村教授と共同でできることを

考えた。そこで、アワビの発生過程に起こる代謝現象を調べることとなった(「同じテーマ

で研究材料を変えただけ」といえばそれまでかもしれないが…)。このテーマに興味を持っ

てくれた学生が 2 名(古賀由香君、小山夢玄君)おり、うち 1 名(小山君)が大学院へ進学

したため、合計で 3 年間この研究を行ったことになる。そのうち、2017 年度と 2018 年度

には大船渡市産学官連携研究開発事業のご支援をいただき、不便なく研究を行うことがで

きた。また、元正榮 北日本水産株式会社での大変なサンプリング作業や三陸臨海教育研究

センターでの宿泊を含め、日夜学生たちと熱い時間を過ごすことができたと思う。様々な環

境に深く感謝するとともに、その研究内容や得られた結果の意義を書いてみたい。

本題に入る前に、魚類を使って私が行っている研究を少し紹介する必要があるように思

う。大規模な生け簀などを用いて魚を育てる水産養殖では、例えば農作の「タネ」や「なえ」

に相当する稚魚、すなわち「種苗」が必要である。海や川から獲ってきた稚魚は「天然種苗」、

人工授精等により得られたものは「人工種苗」である。人工種苗を得るために行う、親魚か

らの採卵や採精、そして人工授精や幼生~稚魚までの飼育過程が「種苗生産」と呼ばれる。

この種苗生産過程で問題となることの一つに、受精卵が発生して稚魚になるまでの間に、た

びたび大量へい死(初期減耗と呼ばれる)が起こることである。そのため種苗生産の現場で

は、得られた受精卵の生残率が低ければ、飼育環境や飼育方法が改善されてきた。しかし、

それでも原因のわからない初期減耗が生じることがある。そのような際は往々にして「今回

のロットは卵質が悪かった」とされ、親魚の選定や餌の変更などによる「卵質」の向上が望

まれる。しかし、この「卵質」とは実に曖昧な言葉であり、具体的に卵の「どのような形質」

や、卵中の「どの物質」を指した言葉なのかという明確な定義が存在しない。ここに、私は

研究テーマを見出した。

魚類を含めてほとんどの動物では、発生過程の胚や幼生の栄養源は、卵の中に豊富に含ま

れる卵黄である。そのため、発生過程で起こるへい死の原因として、この卵黄の質(≒卵質)

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が一つの原因と考えられる。しかし前述のように、卵質の定義は曖昧である。その原因とし

て、そもそも魚類の胚や仔魚が「どのように卵黄を利用しているのか」という基本的なこと

の大部分が実は未解明であることが挙げられる。卵黄の中にはタンパク質や脂質が豊富に

含まれており、多くの場面では「発生過程ではタンパク質や脂質が重要なのだろう」という

程度の理解で議論が進められている。また、これまで知られていることの大半はつまり「こ

れらの物質は分解され体に吸収される」というざっくりとしたものであった。私は 6 年ほ

ど前、遺伝学や発生学のモデル生物であるゼブラフィッシュの胚を使い、まず栄養代謝に関

連する遺伝子の発現を調べた。その結果、なぜか別の栄養素である「糖質」に関連する遺伝

子がことごとく、しかも同調して発現していることに気がついた。糖質は、動物体内での量

こそ少ないものの、脳や血球の主要なエネルギー源である他、低酸素下でのエネルギー基質

として重要であるなど、タンパク質や脂質とは異なる性質を持っている。万が一、魚類の発

生初期におこるへい死にも、この糖質が関係しているかもしれない。魚類発生過程の糖代謝

なんて、研究している人は世界中で一人もいないんじゃないか?と、宝物を掘り当てた気分

になった。それから今まで、この糖質に着目し、発生過程の代謝を追いかけている。

アワビを使った実験

話を本筋に戻したい。当研究室では、大船渡市の綾里湾に面した土地にある「元正榮 北

日本水産株式会社」との共同研究として、以前よりエゾアワビに関する遺伝育種学的な研究

が行われている。同社は長年、日本で最大規模のエゾアワビ養殖と種苗生産を行っており、

日本のアワビ養殖をけん引する存在である。私が北里に入った当初、同社の古川季宏社長

(私との親戚関係はありません、念のため。)や奥村教授とお話ししたところ、エゾアワビ

の種苗生産過程でも、初期減耗が激しいとのことだった。また、ロット間での幼生の生残率

のばらつきが大きく、同じ年に何度も種苗生産作業を行うこともあるそうだ。エゾアワビの

発生過程は、受精後の卵割が進むと、繊毛運動をしながら遊泳する俵型のトロコフォア幼生

の形で孵化し、さらに幼殻が生じてベリジャー幼生へと変態、その後、足が発達し岩などに

着底すると遊泳用の繊毛を備えた器官を取り外し、稚貝へと変態していく(図 1)。この中

でも特に、着底期間での減耗が激しいとのことであった。この話をお聞きし、それではエゾ

アワビでもゼブラフィッシュと類似のテーマ、糖代謝の研究をしてみましょう、という事に

なった。そんな感じで簡単に始めてみたものの、実はアワビ幼生を扱うのは大変に難しかっ

た。ゼブラフィッシュの研究では、相模原の研究室で週に 2-3 回は得られる~1000 個の受

精卵をシャーレに入れ、いつでも得られる水道水をカルキ抜きして使い、29℃のインキュベ

ーターの中で飼育すれば良い。しかし、エゾアワビの幼生の飼育となるとまるで勝手が違う

図 1.アワビ幼生の発生過程。トロコフ

ォア幼生とベリジャー幼生という、2 つ

の浮遊幼生期の後、着底し稚貝へと変

態する。

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(図 2)。ゼブラフィッシュ卵よりはるかに小さいアワビの受精卵は海水の中で沈むが、卵

が重なりすぎると死んでしまう。別々の雌親から得られた卵を別々の容器で飼育したいが、

幼生の個体密度が異なると発生速度が異なり、実験に使えなくなる。~3 mL 当たりの幼生

数を顕微鏡下で何度もカウントし、生残率を算出し、水槽当たりの密度を揃えた。1 日に 2

回水替えを行うが、飼育水槽の数が多く、また重いため、大変な肉体労働である。さらに、

メッシュを使って幼生をキャッチし、水だけを変える作業にはなかなかのテクニックが必

要である。毎年同じ時期に実験するにもかかわらず、幼生飼育のためのインキュベーターや

エアコンが使えないため、1~2℃の温度の違いが生じると発生速度が変わってくる。そのた

びに、温度と発生速度の計算式を元に、サンプリング時間をずらして夜中に何度もサンプリ

ングしたりした。ここまで大変そうに書いたが、ほとんどすべて学生たちが苦労してやって

くれた(特に小山君、お疲れさまでした…)。ただ、このような苦労をして得られるデータ

は魅力的である。このような大きな養殖施設で、沢山のアワビ幼生を使った実験はなかなか

できるものではない。実際に、PubMed の完全一致検索で”zebrafish larvae(ゼブラフィッ

シュ幼生)”と”abalone larvae(アワビ幼生)”のヒット件数を比較すると、1600 件と 9 件

である。これだけでもアワビ幼生を使った実験のハードルの高さがうかがえる。

得られたサンプルを相模原に持ち帰り、さっそく分析に取り掛かった。調べたのは、我々

ヒトの血漿などの細胞外液中で主要な単糖であるグルコース(ブドウ糖)と、細胞内に蓄積

される糖質であるグリコーゲンである。アワビ幼生では、孵化期にこれらが急増加していた。

さらに、着底期になると、グリコーゲンが減少する一方、グルコースは再度増加していた(図

3)。これらが明らかになった瞬間、よし、と心の中でガッツポーズをしたと思う。いや、学

生とハイタッチをしたかもしれない。なぜなら、アワビの浮遊幼生は基本的に餌を食べない。

摂餌行動を開始するのは、着底した後の事である。すなわち、今回浮遊幼生に見られたグル

コースやグリコーゲンの増加は、これら糖質がアワビ幼生の体内で「合成された」ことを意

図 2. A, 各雌親から得られたアワビ受精卵をそれぞれ水槽に入れ、静かに等量の海水を

流し入れる。B, 顕微鏡下で飼育水単位体積当たりのアワビ幼生数をカウントする。 C,

顕微鏡で見たアワビ幼生。1 匹の全長は約 150 m。(元正榮 北日本水産株式会社にて)

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味している。アワビ浮遊幼生が糖質を合成するとい

う事は、これまで報告されていない。しかし、本当

に糖を合成したのだろうか?この現象の原因を明

らかにするため、遺伝子の働きを調べた。

アワビ幼生は糖の合成を行う?

我々ヒトをはじめとする脊椎動物には、血糖値

(血液中のグルコース濃度)を一定に保つしくみが

ある(図 4)。ご飯を食べた直後、血糖値の上昇が感

知されると、様々な細胞が血液中からグルコースを

取り込み、細胞内にグリコーゲンとして蓄積するこ

とで、血糖値を下げる。逆におなかがすいている時は血糖値が下がりやすいので、肝臓の細

胞などがグリコーゲンを分解してグルコースを作り、血糖値を上げる。また、アミノ酸やグ

リセロールなどをもとにしたグルコースの合成(糖

新生)も行われる。これらの代謝を担うのは、細胞

内にある様々な酵素である。これらの酵素と同じも

のが、エゾアワビの幼生でも働いているのか、遺伝

子の働きを調べることで確認した。その結果、予想

通りではあったが、以下のようなことが分かった。

すなわち、孵化期のトロコフォア幼生は、卵黄内の

アミノ酸やグリセロールなどを代謝してグルコー

スを作り、さらにグリコーゲンを細胞内に蓄積して

いるようだ。発生が進みベリジャー幼生となり、着

底期が近づいてくると、今度は貯めておいたグリコ

ーゲンを分解してグルコースを作っている。これらのことから、孵化期と着底期ではグルコ

ースが重要である可能性が浮上した。また、タンパク質や脂質を分解して得られるアミノ酸

やグリセロールをもとに糖新生を行うよりも、グリコーゲンを分解する方が、はるかに細胞

内での作業が短く済み、簡単にエネルギーを得ることができる。そのため、卵黄のタンパク

質と脂質がまだ豊富にあるトロコフォア幼生~初期ベリジャー幼生のうちに、細胞内にグ

リコーゲンをためておき、着底に備える、という生存戦略も見えてきた。

アワビ幼生にとって糖質の役割とは?

しかし、本当にグルコースはエネルギー源として重要なのか?これを検討するため、グル

コースの利用を邪魔する物質(2-デオキシグルコース;2-DG、いわゆるグルコースの偽物)

を海水に混ぜて、孵化期や着底期のアワビ幼生を飼育してみた。その結果、孵化期のアワビ

幼生には影響がなかったものの、着底期のアワビ幼生は明瞭に生残率の低下を示した(図

5)。やはり、着底期にはグルコースを利用した代謝が行われているようである。着底期の幼

生は、良い環境を求めて泳ぎ回り、着底と遊泳を繰り返すことが知られる。この時に、大量

図 3. 着底(摂餌開始)前のアワビ

幼生体内で、グルコースやグリコ

ーゲンなどの糖質が増加した。

図 4. 肝臓の細胞内で起こる糖代

謝の模式図。様々な酵素反応(矢

印)を介して血糖値が調節されて

いる。

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のエネルギーが必要なのかもしれない。しかし残念ながら、グルコースが「何に」使われて

いる、という具体的なことはまだ明らかになっていない。これを明らかにするためには、よ

り多くの実験をしなければならないが、エゾアワビ幼生を使ってやるのは本当にハードル

が高いなあ、というのが私の本音である。重要なのは、「グルコースが、このタイミングで

アワビ幼生にとって重要である」という事が分かったことだとしたい。ここで思い出してい

ただきたいのは、「着底期のアワビ幼生は死にやすい」ということだ。もしかしたら、グル

コースを人為的に与えたら、生残率が良くなるかもしれない…?実はその実験も同時に行

っていたが、フィルター滅菌海水を使っていたにも関わらず、グルコース入り飼育海水にカ

ビが生えるという事態に見舞われ、思うような結果が得られなかった(図 5)。クリーンベ

ンチでやったらうまくいったかもしれないが、どちらにせよそれでは実用化は難しいだろ

う。しかし、カビが生えた水槽でも、何も与えていない水槽と同程度に幼生の生残率が良か

ったため、もしかしたらグルコースには何か幼生に対してポジティブな影響があるのかも

しれない。今度の方向性としては「カビなどの雑菌は増えにくいが、アワビ幼生が自ら代謝

してグルコースを作り出す材料」のような物質を海水に添加する、等が考えられる。種々の

アミノ酸や乳酸、グリセロールなどがあるだろう。または、アワビの雌親が卵黄内にグリコ

ーゲンをより多く蓄えられるような、特殊な飼育方法を確立する、等も面白いだろう。ただ、

大船渡市と北日本水産との産学官連携研究開発事業では、「新規飼育技術の確立」までを目

標としていた。力及ばず、中途半端な状態となってしまっていることをお詫びしたい。

最後に

魚類生理学という比較的基礎的な研究分野からか、私は基礎生物学的な研究に没頭する

あまり、実学に対する意識が薄れていく傾向にある。しかし、今回の産学官連携研究開発事

業のエゾアワビ幼生を用いた研究では、明確に研究の出口(=幼生の生残率を向上する)を

意識しながら実験を進めることができたため、水産の分野で研究を進める上で、応用を見据

えて研究することの重要性を再確認することができたと思う。この実験を主にやってくれ

た小山夢玄君、古賀由香君をはじめ、実験動物と実験スペース、アワビ幼生飼育のノウハウ

を提供してくださった元正榮 北日本水産株式会社の古川社長、石橋様、様々な面で多大な

図 5. エゾアワビ幼生の生残率に及

ぼす 2-デオキシグルコース(2-DG)

およびグルコース(Glc)の飼育水へ

の添加の影響。孵化期では影響がな

いものの、着底期では 2-DG により

生残率が低下した(赤矢印)。また、

グルコースの添加によりカビ(*)

が発生したが、10 M のグループ

では生残率が通常程度に維持され

た。

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るご支援をいただきました本学部の奥村教授と森山教授には、この場をお借りして心より

お礼いたします。

首崎(こうべざき)より太平洋を臨む

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応用生物化学部門

生物化学研究室・准教授

高田 健太郎

海洋天然物化学研究は、フグ毒 tetrodotoxin や麻ひ性貝毒 saxitoxinなど人間の活動に

重大な影響を与える海洋生物毒から始まり、やがて、海藻、カイメン、ホヤ、コケムシなど

の海洋生物に、陸上生物とは異なるユニークな化学構造をもった二次代謝産物が含まれる

ことが明らかとなり、盛んに研究されるようになった。さらに、これらの化合物が、抗菌、

抗カビ、細胞毒性をはじめとした様々な生物活性を示すことから、海洋生物全般が未利用の

生物資源として注目されている。海洋天然物の中には医薬品の候補として臨床開発される

ものもあり、現在では、海洋生物由来の7つの化合物が薬剤として上市され、13が臨床試

験中である。(1) しかしながら、これまでに土壌由来の微生物から開発された医薬品と比較

すると、海洋天然物は未だ成功例が多いとは言えない。成功できない大きな理由として、海

洋天然物の化学構造が複雑で臨床開発に必要な試料を十分供給できないことがあげられる。

例えば、クロイソカイメンより単離されたハリコンドリンB(1)は、誘導体(エリブリン、

2)が抗転移性乳がん薬として認可された海洋天然物の成功例であるが、(2) カイメン 600 kg

からわずか 12 mgしか単離できていない。(3)しかしながら化学合成を駆使した多大な努力(4)

により、サンプル供給が実現したという経緯がある。この事例のように、サンプルを十分に

供給できれば、これまでに海洋生物から発見されている3万以上の化合物、もしくは未報告

ながら潜在的に存在する膨大なケミカルライブラリーの中に、医薬資源として有効利用で

きる化合物が存在する可能性は高い。

海洋生物の中でも、特にカイメンからは数多く化合物が単離、報告されている。これらの

化合物はカイメン自身が生産するのではなく、体内に共生する微生物が生産すると考えら

れている。カイメンは驚くべきことに自身の体積の 35 ~50%を占める微生物を共生させて

おり、(5) その種数は 1000属を超える。共生微生物の関与を前提とすれば,カイメンから多

彩な天然物が発見されていることの理由を容易に説明できる。しかしながら、カイメンに共

生する多くの共生微生物は培養が困難でおり、現在でも、どの微生物が有用な天然化合物を

生産するのかという情報はほとんど得られてない。同じ理由により、海洋天然物の生合成研

究、つまりどの遺伝子群が化合物生産に関与しているかはほとんど明らかにされていなか

った。

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メタゲノム解析による生合成研究

共生微生物由来の海洋天然物の遺伝子レベルでの生合成研究は、チューリッヒ工科大学

の Piel らによる onnamide(3)の生合成遺伝子クラスターの取得に始まった。2002 年に,

Pielはアオバアリガタハネカクシの有毒成分である pederin(4)の生合成遺伝子クラスタ

ーの解析に成功するとともに、遺伝子情報から、この化合物がアオバアリガタハネカクシ共

生する Pseudomonas aeruginosa によって生産されることを示した。(6) 続いて、pederinの

生合成研究の際に得られた遺伝子情報を基に、pederinと類似した化学構造をもつカイメン

Theonella swinhoei由来の細胞毒性物質 onnamideの生合成遺伝子クラスターを発見した。

(7) いずれの研究も共生微生物を培養することなく、生物の微生物画分からメタゲノム DNA

を直接抽出し、ゲノム解析を実施したという特長がある。当時からゲノム情報の特徴から

onnamideも pederinと同様に共生微生物によって生産されることが予想されていた。

化合物生産能が高い共生微生物 Entotheonella

八丈島には2種類の T. swinhoei が存在することが知られており、内部が黄色の T.

swinhoei (TSY)と白色 T. swinhoei(TSW)である。前述のカイメン T. swinhoei (TSY)から

は数多くの生物活性物質が単離されており、有用物質の探索源の宝庫として考えられてい

た。Piel を中心とし日本、ドイツ、アメリカ合衆国の研究者で構成され、著者も参画した

研究グループは、八丈島沿岸に生息する TSYを研究対象に、有用物質の生産者に関する研

究を実施した。(8) カイメン TSY には 2-3 μm の細胞が数珠状に並び、蛍光を発する

Entotheonella に形状が似た微生物が数多く存在していた(図1)。そこで、フローサイト

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メトリーを用いて1細胞を分離し、MDA法により、微生物のゲノム DNAを増幅した。上記の

生合成遺伝子情報を基に遺伝子の有無を確認したところ、48 細胞のうち 16 細胞から

onnamide生合成遺伝子、および Entotheonella 特有の 16S rRNAが検出した。このように

シングルセルゲノミクスとメタゲノミクスを駆使することで、共生微生物 Entotheonella

が数多くの有機化合物を生産していることを遺伝子レベルで明らかにすることに成功した。

この研究では、Entotheonella 属の微生物が TSYだけでなく、他の多くの海綿動物中にも

存在していることを発見した。さらに Entotheonella は 16S rRNAの塩基配列が他の微生物

とは大きく異なるクレードを形成することから、新たな微生物門として Tectomicrobia 門

が提唱されている。Entotheonella が持つ化合物生産能力は、微生物の中でも特に秀でてお

り、Entotheonella は創薬における有望な化合物供給資源になる可能性がある。この研究の

後、イシカイメン目に属する他種のカイメンに共生する Entotheonella が様々な二次代謝

産物の生産に関与することが相次いで報告されている。例えば、カイメン Discodermia

calyx ではタンパク質脱リン酸化酵素を強力に阻害する caliculin 類が同カイメンに含ま

れる Entotheonellaによって生産されることが明らかになっている。(9) その他、swinholide,

misakinolide、(10) theonellamide(11)もまた別種の Entotheonellaが生産することが遺伝学

的に証明されている。

図1 左)八丈島沿岸に生息するカイメン Theonella swinhoei 右)蛍光を発する物質生産

に優れた共生微生物 (Nature 2014, 506, 58-62より引用)

Entotheonellaとカイメンの共生機構の解明に向けて

このように Entotheonella は化合物生産能に優れており、多くの抗生物質を排出してき

た放線菌のように産業微生物として利用できる可能性がある。しかしながら、

Entotheonellaは人工的な条件では培養できないことから課題は多い。我々の研究グループ

はカイメンと微生物の共生関係の解明を糸口にその可培養化を目指している。カイメンは

フィルターフィーダーとして微生物や溶存有機物を餌にしているにも関わらず、体内には

1000 属以上の微生物が共生する巨大な微生物共同体を構築している。この矛盾しているよ

うにみえるカイメン―微生物の関係の真相は長年の謎であり、宿主の微生物識別機構はま

ったく明らかにされていない。これまで実施されてきた微生物叢解析の結果、カイメンの共

生微生物は水平伝播(環境を通して宿主間を移動)と垂直伝播(卵、幼生を経て子孫へ移行)

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の両者の存在が知られている。我々はまず、Entotheonella の伝播機構の解明を試みている。

前述 TSY からは 2 種類の Entotheonella が検出され、そのうち 1 種類のゲノムにだけ、過

去に TSY から単離された化合物の生合成遺伝子が存在することが知られていた。これまで

Theonella属カイメンから報告されている二次代謝産物のうち、生産者が特定されたものは

すべて Entotheonella が生産に関与することが知られている。我々は、化合物の分布と共生

微生物の分布には相関があると予想し、八丈島の同一海域で採取した TSY15個体について、

メタボローム解析を行った。ある特定の個体で高含量の化合物が認められたため、当該化合

物を単離して構造決定を行ったところ、 TSY と同海域に生息する TSW の別種の

Entotheonellaが生合成することがわかっている theonellamideの新規類縁体(5)であった。

(12) この発見は、TSY中には 3種以上の Entotheonella が共生すること、ならびに隣り合っ

て生息するにも関わらず TSY と TSW の間で Entotheonella は互いに混合し合わないことが

推察された。このことから、Entotheonellaは垂直伝播によって子孫に受け継がれることが

予想される。すなわち当該微生物の分布と化合物を調べることにより、イシカイメン目カイ

メンと Entotheonella の共生開始時期や、カイメンの進化と化合物の関係が推測可能とな

ると考えている。

最後に

最も原始的な多細胞動物である海綿動物は、極めて単純な体構造を持つにも関わらず、6億

年以上もの間、その体構造を大きく変えることなく進化してきた。この背景には、微生物と

の共生がある。微生物の役割としては、宿主への栄養源の供給、物質循環の環境構築に加え、

二次代謝産物による化学防御があげられる。しかしながら、宿主と微生物の共生関係につい

てはほとんど明らかになっていない。この共生メカニズムを明らかにすることは、学術的に

は生物の進化を考える上で重要であり、また有用微生物の活用という点で産業的にも重要

な課題である。

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文献

1) (a) Mayer A.M.S., Glaser K.B., Cuevas C., Jacobs R.S., Kem W., Little R.D.,

McIntosh J.M., Newman D.J. Potts B.C., Shuster D.E. Trends Pharmacol. Sci. 31,

255-265. (2010) (b) Gerwick W.H., Moore B. Chem. Biol.19, 85-98 (2012)

2) (a) Stamos D., Sean S., Kishi Y. J. Org. Chem. 62, 7552-7553. (1997) (b) Wang Y.,

Habgood G., Christ W., Kishi Y. Littlefield B., Yu M. Bioorg. Med. Chem. Lett. 10,

1029-1032 (2000) (c) Kuznetsov G., Towle M.J. Cheng H., Kawamura T., TenDyke

K., Liu D., Kishi Y., Yu M.J., Littlefield B.A. Cancer Res. 15, 5760-5766.

3) (a) Uemura D., Takahashi K., Yamamoto T., Katayama C., Tanaka J., Okumura Y.,

Hirata Y. J. Am. Chem. Soc. 107, 4796-4798 (1985) (b) Hirata Y., Uemura D. Pure

Appl. Chem. 58, 701-710. (1986)

4) Aicher T.D., Buszek K.R., Fang F.G., Forsyth C.J., Jung S.H., Kishi Y., Matelich M.C.,

Scola P.M., Spero D.M., Yoon S.K., J. Am. Chem. Soc. 114, 3162-3164. (1992)

5) (a) Brantley S.E., Molinski T.F., Preston C.M., DeLong E.F. Tetrahedron 51, 7667

(1995) (b)Taylor M.W., Radax R., Steger D., Wagner M. Microbiol. Mol. Biol. Rev.

71, 295-347 (2007)

6) Piel J. Proc. Natl. Acad. Sci 99, 14002-14007 (2002)

7) Piel J., Hui D., Wen G., Butzke D., Platzer M., Fusetani N., Matsunaga S. Proc. Natl.

Acad. Sci 101, 16222-16227 (2004)

8) Wilson M. C., Mori T., Rückert C., Uria A. R., Helf M. J., Takada K., Gernert C.,

Steffens U., Heycke N., Schmitt S., Rinke C., Helfrich E. J. N., Brachmann A. O.,

Gurgui C., Wakimoto T., Kracht M., Crüsemann M., Hentschel U., Abe I., Matsunaga

S., Kalinowski J., Takeyama H., Piel J. Nature 506, 58-62 (2014)

9) Wakimoto T, Egami Y, Nakashima Y, Wakimoto Y, Mori T, Awakawa T, Ito T,

Kenmoku H, Asakawa Y, Piel J, Abe I. Nat. Chem. Biol. 10, 648-655 (2014).

10) Ueoka R, Uria AR, Reiter S, Mori T, Karbaum P, Peters EE, Helfrich EJ, Morinaka

BI, Gugger M, Takeyama H, Matsunaga S, Piel J. Nat. Chem. Biol. 11, 705-712

(2015).

11) Mori T, Cahn JKB, Wilson MC, Meoded RA, Wiebach V, Martinez AFC, Helfrich

EJN, Albersmeier A, Wibberg D, Dätwyler S, Keren R, Lavy A, Rückert C, Ilan M,

Kalinowski J, Matsunaga S, Takeyama H, Piel J. 115, 1718-1723 (2018)

12) Fukuhara, K., Takada, K., Watanabe, R., Suzuki, T., Okada, S., Matsunaga, S.

Colony-wise Analysis of a Theonella swinhoei Marine Sponge with a Yellow Interior

Permitted the Isolation of Theonellamide I. J. Nat. Prod. 81, 2595-2599. (2018)

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応用微生物学部門

SERC 応用微生物学部門・特任教授

笠井宏朗

応用微生物学部門の概要

応用微生物学部門は、2008 年に旧株式会社海洋バイオテクノロジー研究所(以下、MBI)

から移譲された海洋微生物バンク及び微生物探索利用技術を基盤として、海洋微生物に由

来する創薬を主たる目的としてきた。2011 年の東日本大震災被災以後は、本来の目的に加

えて、三陸の水産復興、地域振興に貢献するべく微生物利用研究を展開している。

応用微生物学部門の研究内容

1. 油脂生産微細藻類の研究

微細藻類は多糖、油脂、タンパク質などの有用物質を光合成によって生産することができ

る。我々は軽油相当の油脂高生産株を用い、農業用資材を用いた培養技術の開発及び油脂抽

出残渣を用いた水産飼料の開発に取り組んでいる。

これまでに、油脂抽出後の残渣を用いた飼育試験において、稚ナマコや稚アユに成長促進

もしくは体色の向上効果などを確認してきた。2018 年度は、油脂の生産性の向上さらには

生産する油脂の高付加価値化のために、京都大学大学院の宮下教授が環境中から単離した

Chlorella 属や Chlorococcum 属に分類される油脂微細藻類や、すでに水産飼料として実績の

ある Isochrysis 属について、生育、油脂生産条件などを検討した。

図 1. Chlorococcum 属油脂生産微細藻類

左:光学顕微鏡像、右:Nile red 染色像。

2. 高度不飽和脂肪酸を生産する海産無脊椎動物由来微生物の研究

MBI から移譲された海洋微生物バンクは系統的に新規で機能未知の海洋微生物を数多く

含んでいる。これらの新規微生物の分類学的な研究と並行して、北里生命科学研究所と共同

で創薬シーズとしての可能性を探索している。2018 年度は、サンゴから分離培養され、MBI

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コレクションに保存されていた希少株について、それらの系統的、機能的多様性について研

究を進めた。中でも、阿嘉島(沖縄県)で採取したオニヒトデの食害を受けた珊瑚、西表島

の海砂、石垣島で採取した海綿から分離した3株は、18S rRNA 遺伝子に基づく系統分類に

よって、Phylum Pluriformea に属する Corallochytrium limacisporum と同定された。本種は動

物や菌類が形成する系統樹上、独立した系統群に属し、いくつかの点で菌類と動物の両方の

性質を併せ持つ進化的に興味深い生き物である。しかし、その代謝の特徴や産業上の有用性

については検討されてこなかった。そこで、当研究室で化学分類指標を調査したところ、3

株とも高度不飽和脂肪酸を生産することが明らかになった。現在、学内外の研究機関と共同

で、これらの株の生理生化学的な特徴や化学分類指標、並びに、形態的特徴を解明している。

図 2. Corallochytrium limacisporum DK-11 株の顕微鏡像

左:光学顕微鏡像、右:Nile red 染色像。

2018 年度 研究の成果リスト

原著論文

1. Yoon J, Yasumoto-Hirose M, Kasai H. 2018. Spongiibacterium fuscum sp. nov., a marine

Flavobacteriaceae isolated from the hard coral Galaxea fascicularis. Arch Microbiol. 2018

Nov;200(9):1317-1322.

2. Kimura T, Tajima A, Inahashi Y, Iwatsuki M, Kasai H, Mokudai T, Niwano Y, Shiomi K,

Takahashi Y, Ōmura S, Nakashima T. 2018. Mumiamicin: Structure and bioactivity of a new

furan fatty acid from Mumia sp. YSP-2-79. J Gen Appl Microbiol. 2018 May 21;64(2):62-67.

3. Yoon J, Yasumoto-Hirose M, Kasai H. 2018. Coraliitalea coralii gen. nov., sp. nov., a Marine

Bacterium of the Family Flavobacteriaceae Isolated from the Hard Coral Galaxea fascicularis.

Curr Microbiol. 2018 Apr;75(4):464-470. Erratum in: Curr Microbiol. 2018 May 7.

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KAUSTプロジェクト事業の紹介と 2018年度の活動

海洋ゲノム科学研究室・特任教授

工藤俊章

三陸沖には、北から親潮(寒流)、南から黒潮(暖流)、さらに津軽海峡から津島暖流が流

れ込み複雑な潮境を形成している。このため、マグロ、カツオなどの暖流系の魚やサケ、サ

ンマなどの寒流系の魚も採れ世界的な好漁場となっている。本研究は、メタゲノム手法を用

いて栄養豊富で比較的寒冷な三陸沖と砂漠に囲まれ栄養分が乏しく暑い紅海を比較し、そ

れぞれに棲息する微生物の多様性とその機能の解明を目指すものである。本事業も 4 年目

を迎え、研究成果を複数の原著論文として発表することが出来た。

日本側の研究海域は三陸海域、特に岩手県南部の大船渡湾である。大船渡湾は湾長 5.2km、

南北約 2km の細長い閉鎖性が高い湾であり、カキなどの養殖も盛んなことで知られている。

調査定点は湾奥(KSt1)、湾央(KSt2)、湾口(KSt3)の 3 点で、それぞれで表層(1m)、低

層(10m, KSt1 のみ 8m)の海水試料を採取した。同時に水質環境や底泥試料など調査定点の

生態系に関連する各種データ・試料も収集した。

海水試料を各種ポアサイズのフィルターで分画し、微生物 DNA を抽出した。得られた

DNA 試料は次世代シーケンサー、イルミナ MiSeq およびバイオインフォマティクスの各

種パイプラインを用いるメタゲノム解析に供した。その結果、0.2μm フィルター回収微生

物の 2015-2018 年度のショットガンメタゲノム解析データを用いた細菌叢の解析で季節変

動を明らかにすることが出来た。

一方、大船渡湾海水の 0.8μm、5μm フィルター回収微生物のメタゲノム解析も進めた

結果、水深 10m の試料では微細藻類が多く存在することが明らかになった。更に、ショッ

トガンメタゲノム手法で解析した岩手県大船渡湾微生物叢と環境要因との関連性について

も検討を進めている。

大船渡湾はカキの養殖が盛んであり、このカキも主要な消費者になる。そのためサンプリ

ング時には海水を採取するだけでなく、水質、微生物量、底泥試料、ベントス試料、魚介類

腸内試料などに関する各種データ・試料の収集、解析も進めている。これらの研究成果の一

部は 5 報の原著論文や平成 30 年度マリンバイオテクノロジー学会大会、日本水産学会秋季

大会、平成 31 年度春季大会等で発表された。

謝辞

本プロジェクトは King Abdullah University of Science and Technology (KAUST) 五條

堀孝教授を代表者とし、北里大学海洋生命科学部渡部終五教授を日本側代表者として平成

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26 年 7 月(2014.7)に発足したもので、このような執筆の機会を与えていただきましたプロ

ジェクトの皆様に心から御礼申し上げます。また、色々ご支援、ご協力を賜っております北

里大学海洋生命科学部、三陸臨海教育研究センター、岩手県水産技術センターの皆様に心か

ら御礼申し上げます。

(参考文献)

(原著論文)

1. Jonaira Rashid, Atsushi Kobiyama, Md. Shaheed Reza, Yuichiro Yamada, Yuri Ikeda,

Daisuke Ikeda, Nanami Mizusawa, Kazuho Ikeo, Shigeru Sato, Takehiko Ogata,

Toshiaki Kudo, Shinnosuke Kaga, Shiho Watanabe, Kimiaki Naiki, Yoshimasa Kaga,

Katsuhiko Mineta, Vladimir Bajic, Takashi Gojobori, Shugo Watabe,

Seasonal changes in the communities of photosynthetic picoeukaryotes in Ofunato

Bay as revealed by shotgun metagenomic sequencing, Gene, 665, 127-132, 2018.

2. Atsushi Kobiyama, Kazuho Ikeo, Md. Shaheed Reza, Jonaira Rashid, Yuichiro

Yamada, Yuri Ikeda, Daisuke Ikeda, Nanami Mizusawa, Shigeru Sato, Takehiko

Ogata, Mitsuru Jimbo, Toshiaki Kudo, Shinnosuke Kaga, Shiho Watanabe, Kimiaki

Naiki, Yoshimasa Kaga, Katsuhiko Mineta, Vladimir Bajic, Takashi Gojobori, Shugo

Watabe,

Metagenome-based diversity analyses suggest a strong locality signal for bacterial

communities associated with oyster aquaculture farms in Ofunato Bay, Gene, 665,

149-154, 2018.

3. Toshiaki Kudo, Atsushi Kobiyama, Jonaira Rashid, Md. Shaheed Reza, Yuichiro

Yamada, Yuri Ikeda, Daisuke Ikeda, Nanami Mizusawa, Kazuho Ikeo, Shigeru Sato,

Takehiko Ogata, Mitsuru Jimbo, Shinnosuke Kaga, Shiho Watanabe, Kimiaki Naiki,

Yoshimasa Kaga, Satoshi Segawa, Katsuhiko Mineta, Vladimir Bajic, Takashi

Gojobori, Shugo Watabe,

Seasonal changes in the abundance of bacterial genes related to

dimethylsulfoniopropionate catabolism in seawater from Ofunato Bay revealed by

metagenomic analysis, Gene, 665, 174-184, 2018

4. Md. Shaheed Reza, Atsushi Kobiyama, Yuichiro Yamada, Yuri Ikeda, Daisuke Ikeda,

Nanami Mizusawa, Kazuho Ikeo, Shigeru Sato, Takehiko Ogata, Mitsuru Jimbo,

Toshiaki Kudo, Shinnosuke Kaga, Shiho Watanabe, Kimiaki Naiki, Yoshimasa Kaga,

Katsuhiko Mineta, Vladimir Bajic, Takashi Gojobori, Shugo Watabe,

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Basin-scale seasonal changes in marine free-living bacterioplankton community in

the Ofunato Bay, Gene, 665, 185-191, 2018.

5. Md. Shaheed Reza, Atsushi Kobiyama, Yuichiro Yamada, Yuri Ikeda, Daisuke Ikeda,

Nanami Mizusawa, Kazuho Ikeo, Shigeru Sato, Takehiko Ogata, Mitsuru Jimbo,

Toshiaki Kudo, Shinnosuke Kaga, Shiho Watanabe, Kimiaki Naiki, Yoshimasa Kaga,

Katsuhiko Mineta, Vladimir Bajic, Takashi Gojobori, Shugo Watabe,

Taxonomic profiles in metagenomic analyses of free-living microbial communities in

the Ofunato Bay, Gene, 665, 192-200, 2018.

(口頭発表)

1. Watabe S., Kobiyama A., Rashid J., Reza M. S., Ikeo K., Yamada Y., Ikeda Y., Ikeda

D., Mizusawa N., Sato S., Ogata T., Jimbo M., Kudo T., Kaga S., Watanabe S., Naiki

K., Kaga Y, Segawa S., Mineta K., Bajic V., Gojobori T.

Metagenome-based diversity analyses for bacterial communities in the Ofunato Bay

and their seasonal change

(第 20 回マリンバイオテクノロジー学会大会 平成 30 年 5 月 宮崎)

2. Jonaira Rashid, Atsushi Kobiyama, Saki Yanagisawa, Nanami Mizusawa, Md.

Shaheed Reza, Yuichiro Yamada, Yuri Ikeda, Daisuke Ikeda, Shigeru Sato, Toshiaki

Kudo, Kazuho Ikeo, Shinnosuke Kaga, Shiho Watanabe, Kimiaki Naiki, Yoshimasa

Kaga, Satoshi Segawa, Katsuhiko Mineta, Vladimir Bajic, Takashi Gojobori and

Shugo Watabe

Comparative study on filter-size fractionated microbial communities for seawaters

in the Ofunato Bay (大船渡湾海水のフィルターサイズ分画した微生物叢の比較)

(日本水産学会秋季大会 平成 30 年 9 月、広島)

3. Jonaira Rashid, Atsushi Kobiyama, Md. Shaheed Reza, Yuichiro Yamada, Yuri Ikeda,

Saki Yanagisawa, Daisuke Ikeda, Nanami Mizusawa, Shigeru Sato , Toshiaki Kudo

(Kitasato Univ.), Kazuho Ikeo (Nat. Inst. Genet.) , Shinnosuke Kaga (Iwate Pref.

Office), Shiho Watanabe, Kimiaki Naiki, Yoshimasa Kaga, Satoshi Segawa (Iwate

Fish. Technol. Ctr.), Katsuhiko Mineta, Vladimir Bajic, Takashi Gojobori (King

Abdullah Univ. Sci. Technol.) and Shugo Watabe (Kitasato Univ.)

Seasonal fluctuation of the microbial community in seawater samples trapped on

0.8μm pore size filters from the Ofunato Bay (大船渡湾海水の孔経 0.8 μm フィル

ター回収試料の微生物叢の季節変化)

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(日本水産学会秋季大会 平成 30 年 9 月、広島)

4. Saki Yanagisawa, Nanami Mizusawa, Jonaira Rashid, Atsushi Kobiyama, Yuri

Ikeda, Tosiaki Kudo, Yuichiro Yamada, Md. Shaheed Reza, Mitsuru Jimbo, Daisuke

Ikeda, Shigeru Sato, Takehiko Ogata, Shinnosuke Kaga, Shiho Watanabe, Kimiaki

Naiki, Yoshimasa Kaga, Satoshi Segawa, Kazuho Ikeo, Katsuhiko Mineta, Vladimir

Bajic, Takashi Gojobori, and Shugo Watabe

Seasonal change in the biotic communities by metagenomic analyses on seawater

samples collected through 5.0 μm-filters from the Ofunato Bay(大船渡湾 5.0 μm

フィルター回収海水試料のメタゲノム解析で調べた生物群集の季節変化)

(日本水産学会秋季大会 平成 30 年 9 月、広島)

5. Jonaira Rashid, ○Atsushi Kobiyama, Saki Yanagisawa, Nanami Mizusawa, Md.

Shaheed Reza, Yuichiro Yamada, Yuri Ikeda, Daisuke Ikeda, Shigeru Sato, Toshiaki

Kudo, Kazuho Ikeo, Shinnosuke Kaga, Shiho Watanabe, Kimiaki Naiki, Yoshimasa

Kaga, Satoshi Segawa, Katsuhiko Mineta, Vladimir Bajic, Takashi Gojobori and

Shugo Watabe,

Relationship of bacterial communities in the Ofunato Bay based on shotgun

metagenomics with environmental parameters (ショットガンメタゲノム手法で解析

した岩手県大船渡湾微生物叢と環境要因との関係)

(日本水産学会春季大会 平成 31 年 3 月、東京品川)

6. Atsushi Kobiyama, Jonaira Rashid, Md. Shaheed Reza, Yuichiro Yamada, Yuri Ikeda,

Saki Yanagisawa, Daisuke Ikeda, Nanami Mizusawa, Shigeru Sato, Takehiko Ogata,

Toshiaki Kudo, Kazuho Ikeo,Shinnosuke Kaga, Shiho Watanabe, Kimiaki Naiki,

Satoshi Segawa, Yoshimasa Kaga, Katsuhiko Mineta, Vladimir Bajic, Takashi

Gojobori and Shugo Watabe

Comparison of seasonal changes in the bacterial communities at the Ofunato Bay,

Iwate Prefecture, Japan, using shotgun metagenomic data among 2015—2018 (2015—

2018 年の岩手県大船渡湾におけるショットガンメタゲノム解析データを用いた細菌叢

の季節変動の比較)

(日本水産学会春季大会 平成 31 年 3 月、東京品川)

7. Saki Yanagisawa, Nanami Mizusawa, Jonaira Rashid, Atsushi Kobiyama, Yuri

Ikeda, Tosiaki Kudo, Yuichiro Yamada, Md. Shaheed Reza, Mitsuru Jimbo, Daisuke

Ikeda, Shigeru Sato, Takehiko Ogata, Shinnosuke Kaga, Shiho Watanabe, Kimiaki

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Naiki, Yoshimasa Kaga, Satoshi Segawa, Kazuho Ikeo, Katsuhiko Mineta, Vladimir

Bajic, Takashi Gojobori, and Shugo Watabe

Metagenomic analyses on seawater samples collected through 5.0 μm filters from

different areas in the Ofunato Bay (大船渡湾の異なる定点から得られた 5.0 μm フ

ィルター回収海水試料のメタゲノム解析)

(日本水産学会春季大会 平成 31 年 3 月、東京品川)

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地域連携部門

2018 年度大船渡市産学官連携研究開発事業

地域連携部門・助手

清水恵子

日本におけるシロザケ Oncorhynchus keta 資源は人工的にふ化・放流を行う増殖事業によ

って維持されている。しかし、近年の回帰率低迷により、シロザケの漁獲量は大きく減少し、

親魚不足、加工原料不足が大きな課題となっている。シロザケの種苗生産の現場ではより種

苗性の高いシロザケ稚魚を生産するための技術開発が行われているが、現在までに有効な

解決策は示されていない。そこで、シロザケの養殖技術を確立し、1~2 歳魚を新たな水産

資源として活用できないかと考えた。

シロザケは生活史のほとんどをベーリング海やアラスカ湾で過ごす冷水性魚類のため、

三陸沿岸での養殖は難しいとされており、シロザケの長期飼育に関する報告はほとんど存

在しない。そこで本研究ではシロザケ養殖技術確立の端緒として、三陸地域の水温条件下に

おけるシロザケの成長を明らかにすることを目的とし、室内水槽を用いてシロザケの越夏

試験を実施した。なお、本研究は 2018 年度大船渡市産学官連携研究開発事業を活用し、盛

川漁協と共同で行った。

2017 年 12 月下旬に採卵し、ふ化場で飼育されたシロザケ稚魚を、3 月下旬に三陸キャン

パスに移送後、淡水で飼育し、5 月下旬にから試験開始まで海水で飼育した。飼料は配合飼

料とした。室内に約 1 トンの角型水槽を 3 つ設置し、各水槽に海水、調温海水、海水と淡水

の混合水をかけ流し、海水区、調温海水区、混合水区とした。6 月下旬、各水槽にサケを 200

尾ずつ入れ、飼育試験を開始した。7 月下旬に

は過密飼育を回避するため、各水槽の飼育尾数

を 100 尾に調整した。餌は既存の配合飼料を飽

食量投与し、試験期間中は水温、溶存酸素濃度、

塩分濃度を測定し、適宜、体重と尾叉長を測定

した。なお、水槽施設の関係で、海水区につい

ては 9 月上旬に試験を終了した。

飼育水温について、いずれの試験区でも試験

開始時の 6 月下旬には約 15℃で、7 月下旬には

18℃を超えた。8 月に入ると、海水区ではさら

に上昇して 20℃を超え、9 月上旬に 22.5℃の最高水温となった。調温海水区では、8 月上旬

から 9 月下旬まで概ね 20℃以下で推移し、10 月上旬には約 18℃まで低下したが、調温装置

写真 1.飼育試験の様子。

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を終了して自然水温の海水を注水したところ、20℃まで上昇するも、11 月下旬までに 16℃

まで低下した。海水と淡水の混合水区では、9 月上旬まで海水区と同様に推移し、9 月上旬

には 21.7℃まで上昇、その直後、18℃まで急激に低下し、11 月には 13℃まで低下した。試

験期間中の溶存酸素濃度は、どの試験区においても 6 ㎎/L を超えていた。塩分濃度につい

ては、海水区では試験期間中 33~35‰で推移し、混合水区では、施設設備の関係で海水と

淡水の混合比が一定にならず、試験期間中は 0~20‰の間を変動しながら推移した。

試験期間中の水温変化から水温上昇期(6 月下旬-7 月中旬)、最高水温期(7 月下旬-9 月

上旬)、水温下降期(9 月中旬-11 月下旬)と分け、各期間の死亡率について調査した。海水

区では、水温上昇期に死亡する個体は確認されなかったが、水温が 22℃を超えた最高水温

期には死亡率が 7%に上昇した。調温海水区の死亡率は、水温上昇期では 1%、最高水温期

では 2%、水温下降期では 3.1%。混合区では、水温上昇期では 0.5%、最高水温期では 5%、

水温下降期では 6.4%。最高水温期における平均水温は、海水区で 20.3℃、調温海水区で

18.2℃、混合水区で 19.4℃。水温が 20℃を超えた日数は、海水区で 25 日、調温海水区で 1

日、混合水区で 10 日であった。平均水温が 20℃を超え、また、20℃を超える日数が多いほ

ど死亡率が高まる傾向がみられた。また、調温海水区と混合水区のどちらにおいても、水温

上昇期よりも水温下降期の死亡率が高い結果となった。調温海水区と混合水区について、試

験が終了した 11 月下旬における体重および尾叉長は、調温海水区:137.65±41.35g、219.50

±22.95mm、混合水区:166.44±28.54g、

245.90±13.74mm であった。

三陸キャンパスで飼育したシロザケと

既報のオホーツク海で採集されたシロザ

ケの大きさを比較したところ(図 1)、大

きな差は見られず、三陸地方の水温条件

下においてもオホーツク海で採集される

シロザケの大きさまで成長することが分

かりました。三陸地方においても、20℃

を超えない環境下で飼育できれば、死亡

率を抑えながら飼育できるのではないか

と思われます。

本研究では、室内水槽を用いて三陸地方の水温条件下でシロザケ稚魚の越夏試験を行い、

約 9 割のシロザケが越夏に成功し、採卵から約 1 年で 150g 前後まで成長することが分かり

ました。今後は、三陸地方の水温条件下においてシロザケ 2 歳魚の成長についても調べたい

と思います。

図 1.オホーツク海で採集されたシロザケ

と飼育魚との比較。参考文献:Honda et al.

(2019) Ichthyological Research, 66, 155-

159.

10

15

20

25

30

0 100 200 300

尾叉長cm

体重g

オホーツク海02年10月 飼育魚18年11月

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水産食品加工室の活動報告

海洋ゲノム科学研究室・特任教授 渡部終五

食品化学研究室・准教授 池田大介

水産食品加工室は、2015年末に採択された文部科学省の平成27年度「私立大学等教育研究

活性化設備整備事業」および学部からの支援により北里大学海洋生命科学部附属三陸臨海

教育研究センター1号館1階にて設置された。2016年度1)、2017年度2)に引き続き、2018年度も

有効に利用されたが、主な内容は学生の製造実習、本加工室で製造した水産練り製品(蒲鉾)

の大船渡市産業まつりの出展、試験販売のための取組みである。その概要を以下に述べる。

なお、製造実習および大船渡市産業まつりの出展については主担当のそれぞれ、池田大介准

教授および清水恵子助手が別途、詳細を記述する。

エゾイソアイナメ揚げかまぼこの試験販売に向けての取組み

エゾイソアイナメ Physiculus maximowiczi は通称ドンコと呼ばれているが、深海魚のチゴ

ダラ Physiculus japonicus と同種ともされる。この魚種は冬季には鍋物の具材として市価が

高くなるが、夏季には需要がほとんどなくなり、低・未利用魚となるため、筆者らは 2013

年以来、岩手県水産技術センターの支援も受けつつ、水産練り製品の原料として有効利用

するための研究開発を行ってきた。

今までの研究から、ドンコを原料として製造した水産練り製品は、高級練り製品の原料

魚とされるシログチから製造されたものに匹敵する足(蒲鉾の弾力性を表す業界用語)を

もつことが示された 3-5)。また、2013 年 9 月の三陸漁業生産組合にて試作品の製造を始め

として、2016 年には岩手県の越喜来、普代、釜石の各漁協の婦人部などの協賛を得て、ド

ンコ揚げ蒲鉾の試作と試食を行ったところ、いずれでも好評であった。さらに、同年 10

月の大船渡保健所からの営業許可を得て水産加工室で製造したドンコ揚げ蒲鉾と蒸し蒲鉾

を、2017 年 2 月 14 日に盛岡で開催された平成 28 年度岩手県水産加工品コンクール・

展示商談会、2018 年(平成 30 年)1 月 25 日(木)に開催された大船渡商工会議所主催の

三陸けせんマチナカ商談会へ出展し、好評を得た。一方、ドンコ揚げ蒲鉾の製造のコスト

計算を試みてきた。その結果、ドンコの魚価が 300 円/kg 程度までなら、お土産用として

販売できるような状況にあることが分かった。

そこで、2018 年 4 月末から 5 月初めの連休をターゲットに試験販売を実現すべく、実際

に臨時従業員を雇って試供品の製造を 4 月 16 日、25 日日に行った。4 月 16 日には鮮魚

7.9 kg、凍結魚 5.6 kg から揚げ蒲鉾を製造した。また、4 月 25 日には 36 kg から同じく揚

げ蒲鉾を製造した。製造後、揚げ蒲鉾は-35℃に冷凍保存し、店頭には解凍して陳列する計

画であった。しかしながら、試験販売を行う状況が整わず、製造した揚げ蒲鉾はときどき

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試供品として興味をもって頂いた方

達に頒布した程度になった。

その後、大船渡市役所、北里大学

当局、道の駅「さんりく」を経営す

る三陸ふるさと振興株式会社など

と、種々の折衝を行ってきて今日に

至っている。未だ試験販売の見通し

は立っていないが、ドンコ蒲鉾を何

としてでも一度は市場に提供して消

費者の評価を確かめたいと思ってい

る。

その他の活動

2019 年 12

月 9 日には卒業研究用のため、卒論学生 4 名とのドンコの冷

凍すり身を調製した。また、池田准教授が中心になって、

2019 年 1 月 27 日〜29 日に昨年とほぼ同様の規模 2)で学生の

ドンコ蒲鉾製造実習を行った。さらに、清水助手が中心にな

って、2018 年 10 月 27 日、28 日の「復興!第 38 回大船渡市

産業まつり」へドンコ蒲鉾を出展した。学生の製造実習と産

業まつりへの出展についてはそれぞれ、池田准教授および清

水助手の寄稿をご参照頂きたい。

謝辞

ドンコ蒲鉾製造に当たっては古水州さんにお世話になりま

した。御礼申し上げます。

引用文献

1. 渡部終五・池田大介:水産食品加工室の活動報告. 2016 年度北里大学海洋生命科学部附

属臨海教育研究センター紀要. 33-37 (2017). https://www.kitasato-

u.ac.jp/mb/serc/annual_report.html

2. 渡部終五・池田大介:水産食品加工室の活動報告. 2017 年度北里大学海洋生命科学部附

図 1.試験販売用ドンコ揚げ蒲鉾の製造の様子.

図 2.試験販売用ドンコ揚げ蒲鉾の包装イメージ図.

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属臨海教育研究センター紀要. 42-46 (2018). https://www.kitasato-

u.ac.jp/mb/serc/annual_report.html

3. 渡部終五・池田大介・渡邊晃次・小山寛喜・安元 剛・神保 充・菅野信弘・上田智広・松

岡洋子・万 建栄:三陸産エゾイソアイナメの普通肉ミオシンの特徴と水晒し肉の加熱ゲ

ル形成能について. 平成 26 年度日本水産学会春季大会講演要旨集(2014).

4. 渡部終五・真白宙樹・影田久保裕子・池田大介・水澤奈々美・小山寛嬉・安元 剛・神保

充・菅野信弘・上田智広・松岡洋子・万 建栄:三陸産エゾイソアイナメ凍結魚の加熱ゲ

ル形成能について. 平成 27 年度日本水産学会春季大会講演要旨集(2015).

5. 渡部終五:「どんこ」と呼ばれる魚の練り製品化ーミオシンの高度解析に基づく新しい魚

肉練り製品の開拓と地域振興. 明日の食品産業, No. 489, 27-34 (2018).

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地域連携活動

水産海洋イノベーションオフィサ(IOF)育成プログラム

SERC 地域連携部門・助手

清水恵子

私は、東京海洋大学、岩手大学、北里大学の3大学が運営する水産海洋イノベーションコ

ンソーシアム「水産海洋イノベーションオフィサ(IOF)育成プログラム」に参画し、IOF

研修を通してスキルアップを図りながら、三陸臨海教育研究センター(以下、SERC)地域

連携部門においてリサーチ・アドミニストレーター(以下、URA)活動を行っています。

URA とは大学における研究支援人材のことで、University Research Administrator を略

して URA と呼ばれています。そして、IOF とは水産分野に特化した上級 URA にあたりま

す。今年度は主に、シロザケの健苗生産に関する研究の支援とエゾイソアイナメを原料とす

る蒲鉾作製技術の普及活動を行いました。

シロザケの健苗生産に関する研究支援

今年度は、水産庁委託事業「平成 30 年度さけ・ますふ化放流抜本対策事業」に参画する

ことになりました。本事業では、国立研究開発法人水産研究・教育機構北海道区水産研究所

を中心に、北日本のふ化場や研究機関が共同研究機構を構成し、事業が行われました。担当

した研究課題は、シロザケ稚魚の遊泳力強化技術開発と遊泳力評価方法の確立で、岩手県水

産技術センターや県内のふ化場と情報を交換しながら研究を行いました。研究支援として

は、事業契約、事業専属の臨時職員雇用、研究打合せ、機器類の借用等にかかる窓口対応、

研究の進捗管理、予算管理、研究計画や報告書にかかる書類作成支援などを行いました。ま

た、2 回行われた事業検討会にも出席し、事業全体の進捗状況の確認を行いました。

実証試験では、岩手県水産技術センターが管理する熊野ふ

化場の飼育池に循環流速制御装置を設置し、シロザケ稚魚の

遊泳力強化試験が行われました。そのため、熊野ふ化場を訪

問し、設置された装置の稼働状況や飼育試験の状況の確認を

行いました。

SERC では来年度にかけて、室内水槽室の修繕工事が予定

されていたため、小規模試験が困難となりました。そのため、

岩手県水産技術センターに交渉をしたところ、ご快諾いただ

き、熊野ふ化場で小規模試験も行うことができました。(写

真 1)。

写真 1.熊野ふ化場での

実験の様子。

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本事業に参画することによって、北海道におけるシロザケの研究者やシロザケ増殖事業

の関係者と情報交換をする機会が増えました。今年度は、北海道区水産研究所を訪問して研

究の打合せや分析に関する情報交換を行い、また、北海道日高管内のふ化場を視察しました

(写真 2)。生産規模や職員数、施設について説明をしていただき、地理や地形を活かした

種苗生産を行っているため、岩手県との相違について把握することができました。

岩手県沿岸部におけるドンコ蒲鉾作製技術の普及活動

エゾイソアイナメ Physiculus maximowiczi(通称ドンコ)は東北を代表する魚で、冬の鍋の

材料になりますが、夏に捕れるものは売り物にならず、ほとんど捨てられています。

SANRIKU 事業において、渡部終五特任教授の研究グループが、エゾイソアイナメの筋肉

が水産練り製品に非常に向いていることを科学的に証明しました。これまでに、渡部特任教

授と一緒に岩手県沿岸地区の漁協を訪問し、エゾイソアイナメを原料とした蒲鉾(ドンコ蒲

鉾)作製技術の普及活動を行ってきました。今年度は、漁業者以外にもドンコかまぼこを広

めたいと考え、大船渡市産業まつりにおいてドンコ蒲鉾の試食品を出展しました。詳細につ

きましては、「大船渡市産業まつりにおけるドンコ蒲鉾の出展」をご覧ください。また、今

年度はドンコ蒲鉾の試験販売に向け、地域のコーディネート役として、大船渡市企画調整課

や三陸ふるさと振興株式会社との調整や、水産練り製品販売における衛生管理上の要件に

ついて大船渡保健所から情報収集を行いました。

今年度も多くの漁業者や水産関係者などを訪問し、調査研究に関する協議等をさせてい

ただきました。今後も地域に根差した研究が推進できるように研究支援活動を行い、大学の

研究活動が少しでも地域の貢献につながるように努めたいと思います。

写真 2.日高管内のふ化場の様子。右は仔魚を管理する養魚池。岩手県に

おける仔魚管理では浮上槽を用いるため、写真のような養魚池はない。

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地域連携活動

地域連携部門・助手

清水恵子

震災後、海洋生命科学部の活動拠点が相模原市に移り、三陸キャンパスには新たに三陸臨海

教育研究センター(以下、SERC)が設置されました。これまでに大船渡市水産課の全面的

なご協力のもと、大船渡市内の水産関係先を訪問し、SERC の周知活動を行ってきました。

お陰様で SERC の認知度も徐々に上がってきています。

大船渡市における委員会・協議会への参画

今年度は、大船渡市水産振興計画推進委員会と大船渡市漁協就業者確保育成協議会ワー

キンググループに参画させていただき、大船渡市における水産業の現状と課題の把握、新規

漁業者の就労に向けた取り組みに参加させていただくことができました。特に、大船渡市漁

協就業者確保育成協議会ワーキンググループにおいては、大船渡版漁業就業ガイドライン

の作成にも関わることができ、新規漁業就業者の受け入れ態勢や支援の充実を図るための

議論にも参加させていただきました。

三陸臨海生物学実習におけるホタテ養殖施設見学の実施

今年度の三陸臨海生物学実習では、昨年度と同様に、越喜来漁協の全面的な協力のもと、

ホタテ養殖施設見学を実施することができました。地域連携部門では漁協との窓口役とし

て、打合せの日程調整などを行い、当日は乗船して実習に参加しました(写真 1)。実習に

参加した学生全員が現役のホタテ養殖業者の船に乗り、プランクトン採集、養殖施設の見学、

付着生物採集を行い、持ち帰ったプランクトンや付着生物については、学生たちによって分

類や計測が行われました。後日、実習担当の先生方や学生達と越喜来漁協を訪問し、実習の

報告会を行いました(写真 2)。船を出していただいた漁業者や漁協職員に参加していただ

き、付着生物やホタテの成長などに関する情報交換を行いました。この実習を契機に、来年

度、東北マリンサイエンス事業の研究成果を基にして、越喜来漁協との懇談会を開催できる

ように調整が進んでいます。なお、三陸臨海生物学実習の詳細については、難波信由准教授

の「教育活動報告:臨海生物学実習」をご覧ください。

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小学生向け SERC 施設見学会の開催

昨年度に引き続き、今年度も小学生向けの見学会を開催しました。試験的な取り組みです

ので、大々的に宣伝はしておりませんが、SERC の施設見学を申し込んできた小学校 PTA

の子供や親御さんたちに対し、施設見学のほかにタッチプールや海藻押し葉を体験できる

ように企画しています。当学部の先生方のご支援のお陰もあり、好評を得ています。SERC

施設見学会の詳細については、「越喜来小学校 PTA による SERC 施設見学会」をご覧くだ

さい。

共同運営ラボ等の利用状況

SERC には、地域企業・団体との種苗生産技術や食品加工技術等に関する共同研究の実施

を促進するため、共同運営ラボ、屋内・屋外水槽、水産食品加工が設置されております。今

年度は大船渡市産学官連携研究開発事業の助成により、共同運営ラボや屋内水槽が利用さ

れました。また、未(低)利用水産資源の活用に関する研究の事業化に向けて、水産食品加

工室が利用されました。詳細については、「大船渡市産学官連携研究開発事業」(清水)お

よび渡部特任教授の「水産食品加工室の活動報告」をご覧ください。地域連携部門では水産

写真 2.越喜来漁協で開催した三陸臨海生物学実習の報告会の様子。

写真1.三陸臨海生物学実習におけるホタテ養殖施設見学の様子。

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分野における共同研究や共同運営ラボ等の利用に関する窓口対応をしておりますので、是

非一度お問い合わせください。

2018 年 10 月 27, 28 日に大船渡市民体育館で開催された「復興!第 38 回

大船渡市産業まつり」における SERC の活動紹介の様子

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越喜来小学校 PTAによる SERC施設見学会

地域連携部門・助手

清水恵子

2017 年 7 月、越喜来小学校 PTA からの要請により、初めて小学生向けの三陸臨海教育

研究センター(以下 SERC)の施設見学会が行いました。2018 年度においても、同小学校

の PTA から同様の見学会を行いたいという申し込みがあり、2018 年 7 月 8 日、施設見学

会を開催しました。昨年度は 4、5 学年でしたが、今年度は 3 学年の児童、保護者の方々、

クラス担任の先生を対象として、施設見学の他、タッチプールによる磯生物の観察、海藻押

し葉作製に対応しました。

前年度同様、越喜来漁協と吉浜漁協に見学会の趣旨をご理解いただき、6 月下旬に展示用

の磯生物を採集しました。さらに、SERC スタッフからも三陸キャンパスで飼育管理してい

るウニ、アワビ、ナマコを提供していただき、観察用のタッチプールを用意しました。また、

学部の先生方のご厚意により、海藻押し葉標本作製で使用する道具類をお借りし、会場を整

えることができました。

7 月 8 日朝、越喜来小学校 3 学年の皆さんが SERC1 号館の講義室に集合し、開会式が行

われました(写真 2)。見学会の順序や注意事項が説明され、子供たちはしっかりと話を聞

いていました。次に、共同運営ラボに移動し、実体顕微鏡や分析装置を見学しました(写真

3)。ラボの次は 3F に移動し、研修フロアの見学を行いました。研修フロアでは、施設担当

の古水州さんから宿泊施設の説明や利用状況についての説明がありました(写真 4)。次に、

写真1.海岸に生息するアメフラシ(写真中央)およびアメフ

ラシの卵(写真左側の黄色の塊)。

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階段を下りて 1F の水槽室に移動し、飼育中の魚の見学をしました。試験中の実験水槽もあ

りましたので、子供たちは騒がずに静かに水槽をのぞいていました。

写真 3.共同運営ラボ室の見学の様子。

写真 4.研修フロアの見学の様子。

写真 2.講義室での開会式の様子。

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水槽室見学の後は体験型の見学です。ピロティ―に移動して、設置されたタッチプールを

囲み、臆することなく磯の生物に触ったり、持ち上げては細部の観察を行ったりしていまし

た。また、ガラスの縦型水槽にはヒトデやウニが入っていて、管足を使って壁面を移動する

様子を観察することができました。

タッチプールを存分に楽しんだ後は、2 号館 1F 移動し、海藻押し葉アートの作製を行い

ました。海藻押し葉はピンセットを使いながらケント紙に海藻を丁寧に広げ、乾燥させて作

製します。子供も大人も、各々のケント紙に向かって慎重に海藻を広げて、海藻の色や形な

ど特徴を活かしながら、アート作品に仕上げていきました(写真 7)。出来上がった海藻押

し葉アートは数日間かけて乾燥後させ、ラミネート加工を施して、後日、子供たちに配布し

ました(写真 8)。

写真 5.タッチプールの様子。

写真 7.海藻押し葉アート作製の様子。

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今年も昨年と同様に、磯の生物に触れる子供たちの満面の笑みを見ることができました。

来年も同様の申込があった場合には、今回の経験を活かし、SERC をより身近に感じていた

だける企画を用意したいと思います。

写真 8.海藻押し葉アート作品。

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大船渡市産業まつりにおけるドンコ蒲鉾の出展

地域連携部門・助手

清水恵子

URA 活動の一環として、渡部終五特任教授グループが開発したエゾイソアイナメ

Physiculus maximowiczi(通称ドンコ)を原料とした蒲鉾の作製技術について、これまでに岩

手県内の漁協女性部を中心に講習会などを開催してきております。ドンコ蒲鉾の普及活動

を通し、漁協女性部のほとんどの方がドンコから練り製品を作製できることを知らないこ

とが分かりました。そこで、今年度は漁業者以外の方々にもドンコ蒲鉾を周知するため、大

船渡市産業まつりにドンコ蒲鉾の試食を出展することにしました。

9 月 26、27 日に、SERC スタッフの古水州さん、若林法子さん、若林哲子さん、近藤由

香さんにも参加していただき、SERC 水産食品加工室において 1 回目のドンコ蒲鉾の試作

を行いました。基本的なレシピは渡部特任教授から伝授していただきました。ドンコ蒲鉾の

特徴は、つなぎなどの添加物を入れず、塩と砂糖だけで弾力や味を調えることです。そこで、

塩と砂糖の添加量を検討することにしました。本試作では、A)食塩 1.75%、砂糖 2.5%、B)

食塩 1.2%、砂糖 2.5%、C)食塩 1.75%、砂糖 5%、D) 食塩 0.8%、砂糖 1.2%の 4 条件を設

定しました。9 月 26 日、30 尾、約 13kg のドンコ鮮魚を用意し、内臓を除去後、三枚にお

ろし、採肉を行い、冷蔵庫で保管しました。翌日、冷蔵庫から魚肉を取り出し、ミンチ機に

かけ、水晒しを行いました。油圧器を用いて水を切り、重量を測ったところ、魚肉は 4.51kg

ありました。魚肉を 4 等分し、各条件の割合で食塩と砂糖を添加し、ステファンミキサーを

用いて擂潰したのち、成形をして 140℃と 180℃の 2 段階の温度の油で揚げました。試作参

加者で食味を行った結果を表 1 に示しました。

A)食塩 1.75%、砂糖 2.5% B)食塩 1.2%、砂糖 2.5% C)食塩 1.75%、砂糖 5% D)食塩 0.8%、砂糖 1.2%

味 塩辛い 塩気が足りない 少し甘すぎる 塩、砂糖の味が薄い

におい 魚臭あり 生臭い? 魚臭が程よい。 最も魚臭が強い

弾力 強い。

蒲鉾の切り口が層状だった。

若干弱い。 強い。 ない。

食感 固い。

特に表面が固く、口に残る。

軟らかい。

水っぽい。

最もしっとりしている。

ぷりぷり感がある。

しっとり感が全くない。

凍結後、

解凍

最もドリップが多い。 ドリップあり。

凍結前より柔らかい。

食感が E に近くなった。

ドリップあり。 ドリップなし。

表 1.食味試験の結果。

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10 月 17、18 日に、再び古水州さん、若林法子さん、若林哲子さん、近藤由香さんにも参

加していただき、大船渡市産業まつりに出展する試食用のドンコ蒲鉾を作製しました。前回

の食味試験を参考に、A)食塩 1.75%、砂糖 2.5%、B)食塩 1.5%、砂糖 2.5%、C)食塩 1.75%、

砂糖 3.75%の 3 条件を設定し、産業まつりでは各条件で作られた蒲鉾の試食とアンケート

調査を行うことにしました。ドンコ 60 尾、約 29kg を用意し、前回と同様の方法で蒲鉾を

作製しました。また、お土産品を想定した試作品も展示用に作製しました(写真 1)。

10 月 16 日、笠井宏朗特任教授にも参加いただき、古水州さん、若林法子さんとともに、

会場となる大船渡市民体育館においてブースを設置しました。ブース設置の際には、大船渡

市役所の方々のご協力をいただきました。翌日の 17 日から 18 日の 2 日間、「復興‼第 38 回

大船渡市産業まつり」が開催されました。ブ

ースでは、古水さんがバーナーで試食用の蒲

鉾の表面を炙り、周辺に香ばしい香りが漂い

ました(写真 2)。1 日目は、あいにくの雨模

様で集客が心配されましたが、普段、汁物で

しか食べることがないドンコから蒲鉾がで

きたという珍しさもあって、ブースに足を止

めてくださる方が徐々に増え、試食とアンケ

ートにも参加していただきました(写真 3)。

2 日目は雨が上がり、家族連れがみられるな

ど、客層に若干の変化が見られました。アン

ケートに回答してくださったのは、ほとんど

が大船渡市在住の方で、50 歳代、60 歳代か

らの回答が多い結果となりました。味ついて

のアンケート結果を図 1 に示しました。試食

をした多くの方から美味しかった、販売して

欲しいとの声もいただきました。さらに、味

について自由に感想を書いていただいたと

ころ、条件 A では塩辛くて水っぽいという感

写真 1.ドンコ蒲鉾試作品。

図 1.1 日目における味についてのアン

ケート調査の結果。A)食塩 1.75%、砂糖

2.5%、B)食塩 1.5%、砂糖 2.5%、C)食塩

1.75%、砂糖 3.75%

5

19

11

40 1

0

5

10

15

20

非常に美味

しかった

美味し

かった

普通 あまり

美味しく

なかった

美味しく

なかった

不明

A

5

22

8

0 05

0510152025

非常に美味

しかった

美味し

かった

普通 あまり

美味しく

なかった

美味しく

なかった

不明

B

5

24

7

0 04

051015202530

非常に美味

しかった

美味し

かった

普通 あまり

美味しく

なかった

美味しく

なかった

不明

C

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想が多く、反対に条件 C では甘みを強く感じた感想が見られました。また、条件 B では塩

辛いという感想が減り、食感と味のバランスが良いという感想が見られました。添加する食

塩や砂糖の違いがアンケート結果に反映される結果となりました。他にも、年代別に好みの

歯ごたえがあること、味や食感によって用途が異なること、他の食材との食べ合わせなど、

様々なご意見もいただきましたので、今後の活動の参考にしたいと思います。

写真 2.試食用のドンコ蒲鉾をバーナーで炙っている様子。

写真 3.ブースの様子。ブース内は 2 日間とも盛況で、

用意した試食用蒲鉾は全てなくなりました。

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地域連携活動報告

北里大学海洋生命科学部・教授

朝日田 卓

三陸臨海教育研究センターでは、地域と連携した活動も多く行われている。本稿では、私

が参加した主な活動について報告する。

1.「教員のための博物館の日 2018 in 気仙」におけるワークショップ「イカのひみつをさ

ぐろう」

国立科学博物館が全国の博物館を支援(共催)して行った「教員のための博物館の日 2018

in 気仙」が、2018年 7月 31日に大船渡市立博物館(陸前高田市立博物館と共催)におい

て開催された。私は大船渡市立博物館の専門研究員でもあることから、昨年に引き続き 5つ

のプログラムのうちの一つであるワークショップを担当し、「イカのひみつをさぐろう」と

題したイカの解剖と観察を行った。これは昨年好評を得たことから、博物館から再実施を依

頼されたものである。ワークショップには校長先生や副校長先生を始めとした 15名の小中

学校教員が参加した(写真 1)。

ワークショップでは、博物館教育プログラムの開発(科研費)において作成したワークシ

ート(図 1)を用いて解説を行いながら、スルメイカを材料に解剖と観察を進めた。スルメ

イカは不漁で価格が高騰しているが、昨年より大ぶりなものを博物館が用意してくれた(参

加者から料理もしたいという声もあったが)。

イカが身近な三陸地方の教員であっても解剖は初めてとのことで、三つある心臓や青い

血(オキシドールをかけるとエラや心臓が青くなる)、外套膜をとめているボタンなどに驚

き、「大いに勉強になった」「子供になった気分で学べた」と感想を述べていた。また、イカ

スミを使って絵や文字を書きアート作品にしたり、眼を解剖してレンズを観察したりと、ワ

ークショップを最後まで楽しんでいた。今回も非常に好評であったことから、2019 年度は

対象生物を変えてワークショップを開催する計画である。

2.「川の楽校」

大船渡市越喜来小学校において 2002年から継続している第 16回目の「川の楽校」を 2018

年 8月 29日に実施した(天候不良で 1日延期)。例年、水圏生態学研究室の大学院生や 4年

次生がアシスタントを務めているが、今年も院生 2名を含めた 5名が参加した。震災以降、

立根川や甫嶺川で実施していたが、昨年から場所を浦浜川下流域に戻して行っている(越喜

来小学校の移転新築と浦浜川の復旧工事終了による)。対象学年は 1年生から 3年生である

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が、これは少子化に伴って児童数が減っているため徐々に対象学年を拡大した結果であり、

生活科の授業の一環として行っている。

例年通り、最初に子供たちに目をつむらせて、音やにおい、風や温度(気温、水温)など

を五感で感じてもらい、続いてそれぞれ網を持って魚やエビ、カニなどをつかまえることに

挑戦させた(写真 2)。子供たちは魚やカニを捕まえるたびに歓声を上げ、勢い余って全身

ずぶぬれになる子もいた。

採集した生き物は小学校の理科室に運んで顕微鏡も使って観察(写真 3)した後、捕れた

生き物の名前を確認するなどし、再び川に放流した。アユやヤマメ、チチブなどの魚類と、

スジエビやモクズガニ、水生昆虫類を採集できた。ウナギ(クロコ)も昨年に引き続き採集

され、震災後の生物相回復を実感できた。

他にも、環境に関するフォーラムや博物館関連シンポジウム、講座などに参加したが、い

ずれも盛況であり自然観察を通じた学習会などの開催要望は増加している。このような機

会は大学生にとっても有意義で自らの学びに繋がるため、2019 年度もできるだけ学生を参

加させたいと考えている。

写真 1. ワークショップ「イカのひみつをさぐろう」

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図 1. ワークシート「イカのひみつをさぐろう」(全 4ページの内の 1-2ページ)

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写真 2. 「生き物はどこかな?」

写真 3.「次は私の番だよ(理科室での観察)」

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2018 年度いわて海洋研究コンソーシアム関連事業

「海洋研究学びの場創出推進事業(海洋研究出前授業)

SERC応用微生物学部門・特任教授

笠井宏朗

1月26日午後 1 時半から約一時間、大船渡市盛駅前のカメリアホールの会議

室で行われました。講師は海洋生命科学部の広瀬雅人先生で、講義のタイトルは

「コケムシってどんな動物?―海にいるへんてこな動物の多様性―」でした。集

まったのは小学生以下の子供 10数名とその家族でした。広瀬先生の講義はクイ

ズ形式で導入し、綺麗な写真や動画、標本をふんだんに使った内容で子供達に飽

きさせないだけでなく、最新の情報も盛り込み、保護者にとっても興味深いもの

でした。

ノートを取りながら熱心に講義を聞く子供もいて、質問タイムには、「コケムシ

の寿命は?」「コケムシにはなぜ色がついているの?」「広瀬先生はなぜコケムシ

の研究をしようと思ったの?」などの質問が活発に出されました。講義終了後に

は、先生が準備した標本に多くの子供が集まり先生と話をしていました。

今回、コケムシというあまり有名ではない生き物を対象にした講義でしたが、

聴衆の反応は素晴らしく、海の生き物に対する関心の深さを感じる出前講義と

なりました。

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施設・設備

主な施設・設備

⚫ センター1 号館

➢ 地域交流研修フロア 宿泊設備 定員 54 名(6 人部屋 6 室、4 人部屋 3 室、

2 人部屋 1 室、1 人部屋 4 室)

➢ 地域大学共同運営ラボ 各種クロマトグラフィー、光学顕微鏡、冷凍庫、冷蔵庫、

小型遠心機、純水製造装置、オートクレーブ、製氷機、実験台等

➢ 屋内水槽 約 450 m2、海水・淡水供給設備、通気設備

➢ 海水ろ過調温設備

➢ 冷蔵冷凍設備 -30 度、4 度、10 度

➢ 食品加工実験室 ミートチョッパー、裏漉し機、蒸し器、擂潰機、フードカッター、

フライヤー等

⚫ 屋外実験水槽施設 約 1,050 m2、海水・淡水供給設備、通気設備

⚫ センター2 号館

➢ KAUST 4 階

➢ 応用生物科学部門 4 階

➢ 環境生物学部門 3 階

➢ 増殖生物学部門 3 階

➢ 応用微生物学部門 2 階

➢ 実習室 1 階

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2018 年度 地域交流研修フロア利用実績

月 利用者数

2018 年 4 月 103

2018 年 5 月 52

2018 年 6 月 84

2018 年 7 月 143

2018 年 8 月 637

2018 年 9 月 87

2018 年 10 月 68

2018 年 11 月 142

2018 年 12 月 70

2019 年 1 月 44

2019 年 2 月 50

2019 年 3 月 43

合計 1,523

小壁漁港

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アクセス

住所

〒022-0101 岩手県大船渡市三陸町越喜来字烏頭 160-4

北里大学海洋生命科学部附属三陸臨海教育研究センター

東京からのアクセス

(東北新幹線 新花巻駅経由) 乗車時間 5 時間強

東京駅 →(東北新幹線)→ 新花巻駅 →(釜石線・急行)→ 釜石駅 →(三陸鉄道リ

アス線)→ 三陸駅 →(タクシー10~15 分程度) →三陸臨海教育研究センター

(東北新幹線 一ノ関駅経由) 乗車時間 6 時間弱

東京駅 →(東北新幹線)→ 一ノ関駅 →(大船渡線)→ 気仙沼駅 →(JR大船渡線

BRT) → 盛駅 → (三陸鉄道リアス線)→ 三陸駅 →(タクシー10~15 分程度)

→三陸臨海教育研究センター

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北里大学海洋生命科学部附属三陸臨海教育研究センター

〒022-0101 岩手県大船渡市三陸町越喜来字烏頭 160-4

TEL: 0192-44-2121(代), FAX: 0192-44-2125