what is "democracy"@icu_20121020
TRANSCRIPT
Opening
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目的
この講義のGoalは、デモクラシーや日本の政治について考える1つの視点・切り口を提供することです。
リラックスして自由にご質問ください。(話の途中でも歓迎です)
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まず、みなさんの意見を聞かせてください
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Q. 日本はデモクラシーの国だと思いますか?
・ YES or NO
・ その理由
本日のアジェンダ
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1 日本人の政治的センスと歴史的条件
1.1 世論調査を見てみると・・・
1.2 政治文化の分類
1.3 日本人と政治文化論
2 デモクラシーの過去と現在、そして未来
2.1 近代デモクラシーと政治的主体性
2.2 デモクラシーの課題と未来
日本人の政治的センスと歴史的条件
|-- page. 6 |-- 日本人の政治的センスと歴史的条件
日本の投票率はそれほど低いわけではない
|-- page. 7 |-- 世論調査を見てみると・・・
40
50
60
70
80
90
100
国政選挙の投票率比較
France Germany Italy United Kingdom United States Japan
出典:IDEAデータベースより作成
※イタリアは上記の中で唯一「義務投票制」をとる
日本の若者は政治に無関心ではない
|-- page. 8 |-- 世論調査を見てみると・・・ 出典:内閣府の「第8回 世界青年意識調査」より作成
※対象は18~24歳
11.7
8.5
15.4
7.7
9.3
46.2
41.2
39.1
25.5
33.3
32.2
36.2
25.5
20.6
31.3
9.3
12.6
18.8
44.9
25.7
0.6
1.5
1.2
1.4
0.4
0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%
日 本
韓 国
アメリカ
イギリス
フランス
若者の政治に対する関心度(2009年)
非常に関心がある まあ関心がある あまり関心がない
まったく関心がない わからない・無回答
自分の声が政策に反映されていないと感じる人は多い
|-- page. 9 |-- 世論調査を見てみると・・・ 出典:内閣府の「社会意識に関する世論調査(平成24年1月)」より作成
1.1
0.2
0.8
0.8
1.1
1
2.1
14.4
14.8
11.1
10.6
11.6
13.7
22.1
55.1
53.3
54.3
54.8
57
58.5
51.8
26.8
29.5
33
33
29.9
25.4
15.7
2.6
2.2
0.8
0.8
0.4
1.5
8.3
0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%
総数
20~29歳
30~39歳
40~49歳
50~59歳
60~69歳
70歳以上
国の政策への民意の反映程度(2011年)
かなり反映されている ある程度反映されている あまり反映されていない
ほとんど反映されていない わからない
自分の声が政策に反映されていないと感じる人は多い(2)
|-- page. 10 |-- 世論調査を見てみると・・・ 出典:内閣府の「社会意識に関する世論調査(平成24年1月)」より作成
0
10
20
30
40
50
60
70
80
90
国の政策への民意の反映程度(推移)
反映されている(小計) 反映されていない(小計)
※ 「反映されている(小計)」=「かなり反映されている」+「ある程度反映されている」
※ 「反映されていない(小計)」=「ほとんど反映されていない」+「あまり反映されていない」
投票は政策反映につながらない?
|-- page. 11 |-- 世論調査を見てみると・・・ 出典:内閣府の「社会意識に関する世論調査(平成24年1月)」より作成
30.1
27.1
25.1
26.4
30.4
29.6
38.4
20.2
23.8
19.3
21.4
20.5
21.7
16.4
15.5
22.1
22.5
21.6
16.9
11.2
6
13.7
11
10.9
8
12.7
17.3
18.8
13.3
9.6
16.7
16.4
13.6
12.7
10.2
4.6
5.2
4.4
4.6
3.7
5
5
0.8
0.8
0
0.4
1
0.8
1.5
1.8
0.4
1.2
1.2
1.2
1.8
3.7
0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%
総数
20~29歳
30~39歳
40~49歳
50~59歳
60~69歳
70歳以上
政策への民意の反映方法(2011年)
政治家が国民の声をよく聞く
国民が国の政策に関心を持つ
国民が参加できる場をひろげる
国民が選挙のときに自覚して投票する
政府が世論をよく聞く
日本の高校生は悲観的?
|-- page. 12 |-- 世論調査を見てみると・・・ 出典:日本青少年研究所の「中学生・高校生の生活と意識・調査報告書」より作成
13.4
19.1
14.6
40.1
41.8
24.7
28.3
40.6
33.6
34.1
26.6
11.9
10.3
21.5
26.3
5.5
0.9
0.6
4.2
1.9
0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%
韓国
中国
アメリカ
日本
私個人では政府の決定に影響を与えられない(2009年)
全くそう思う まあそう思う あまりそう思わない 全くそう思わない 無回答
アーモンド・ヴァーバによる政治文化の3分類
|-- page. 13 |-- 政治文化の分類 参照:『現代日本の政治文化』 (中村菊男)
アメリカの政治学者であるガブリエル・アーモンドとシドニー・ヴァーバは、5カ国の比較研究により、政治文化を「政治的対象に対する心理的指向」と定義した。
分類
偏狭型
臣民型
参加型
① ② ③ ④ 該当する国
メキシコ
ドイツ、イタリア
アメリカ、イギリス
①政治システム
②インプット(政治機構に対する利益の表明や投票による影響力の行使など)
③アウトプット(政府の決定した政策内容やその施行方法など)
④政治システムの中の自分
▷ 日本はどの分類に該当するだろうか?
政治的有効性感覚
|-- page. 14 |-- 政治文化の分類 参照:『現代日本の政治文化』 (中村菊男)
政治学者である中村菊男は、日本の政治文化は臣民型に近いと主張した
自分の一票で社会をどれだけ変えることができるかという政治意識を政治的有効
性感覚という。 この政治的有効性感覚は2種類あり、市民的有効性感覚(citizen
competence)と臣民的有効性感覚(subject competence)に分けられる
政治的有効性感覚 市民的有効性感覚(citizen competence)
臣民的有効性感覚(subject competence)
⇒政治体系の入力面に対する有効感であり、政治参加や
影響力行使といった能動的、積極的な有効感
⇒政治体系の出力面に対する有効感であり、被治者(すな
わち臣民)としての役割の自覚や、統治者への評価・期待と
いった受動的な有効感
日本人の政治意識は「あなたまかせ」?
|-- page. 15 |-- 政治文化の分類 参照:『日本の民主政の文化的特徴』 (村山皓)
政治不信の構造を研究した村山皓は、日本人の政治意識を「あなたまかせ」と称した
「日本人の政治不信は「あなたまかせ」の不信である。日本人の政治への不満は、
民主政治に原因と結果があるのなら、原因を無視し結果の善し悪しで左右される。
政治への国民の影響力が民主政治の原因とすれば、その影響力がないことへの
不満は比較的重要ではない。むしろ結果としての国の政策や行為への不満のほ
うが重要である」
▷ 村山の主張をどう思いますか? ▷ 日本の政治文化をめぐる議論を見ていきましょう
国民 政府/行政 (プロセス)
インプット
アウトプット
重要なのはココ
「ムラ」カルチュアと近代制度の二重構造
|-- page. 16 |-- 日本人と政治文化論 参照:『近代日本の精神構造』 (神島二郎)
「ムラ」のカルチュアとは、「全員一致の意思決定」や「対立自体が悪」などの志向性や習俗を指す
政治学者の神島二郎は、「ムラの文化は近代日本の社会ある
いは集団内での根源的な政治原理として機能してきた。明治以
降の日本社会とは、旧来の伝統的なムラ文化の上に、欧米か
ら輸入されたデモクラシー(近代的な法体系・制度など)が重
なった二重構造から成っている」と主張する。
西欧的な政治制度
日本的な「ムラ」カルチュア
全員一致の意思決定 対立自体が悪という概念
内部にしこりを残さないために「多数決による意思決定」を避ける
⇒ 一見、みんなの意見を大切にする方法に
見えるが、少数者や反対者が意見を述べるこ
と自体が不可能となる
e.g.) 稟議制における「逆さ印」
対立自体を悪とし、「本来なら人々は分かり合える」という同質性を前提に立つ
⇒100人いれば100通りの考え方があると
いう、「互いに異なる立場からの主張」を前
提に意識決定することが馴染まない
普遍的価値と集団主義
|-- page. 17 |-- 日本人と政治文化論 参照:『政治学への道案内』 (高畠通敏)
福沢諭吉は近代日本社会の特徴を、「政治権力が経済や文化、宗教などの他の社会活動にすべて優先して偏重される」と称した
資質尊重 業績尊重
個別的価値 尊重
普遍的価値 尊重
タルコット・パーソンズによる社会分類
集団の連帯 (中国)
集団の目標 (日本)
経済的価値 (アメリカ)
文化的価値 (ラテンアメリカ)
「集団の目標」の特徴
「自然権」や「自由・平等・博愛」などの普遍的原理が集団を超えて成り立ちにくい
集団が成立すると、集団目標を遂行するために全人的献身を要求する
集団の利益が史上とし、無責任の体系やセクショナリズムを醸成する
e.g. 「省益あって国益なし」 「自分は死んでも会社は永遠である。会社万歳。(1979年)」
政治意識の同方向性
|-- page. 18 |-- 日本人と政治文化論 参照:『自由について──七つの問答──』 (丸山眞男)
丸山眞男は戦前日本の統治を「翼賛型」を称した
エルンスト・トレルチによる組織分類
教会型
専門組織人の階梯的な秩序を持つ組織
セクト型
縦の命令系列に従わない平等な個人のコミットメントにより成り
立つ組織
翼賛型の特徴
「翼賛型とは「同方向的上昇性」であり、みんな
が同じ方向を向いている。治者と被治者が対立
するように向き合っていない。みんな上を向いて
いる。天皇も国民の方へ、下を向いているん
じゃなくて、皇祖神のほうを向いている。」
伊藤博文と森有礼の憲法論争
明治憲法の第五条
(修正後)「天皇ハ帝国議会ノ協賛ヲ以テ立法権ヲ行フ」
(修正前)「天皇ハ帝国議会ノ承認ヲ経テ立法権ヲ施行ス」
⇒「上と下が対立して、下が上の権利を制限するという考え方
に対する抵抗感、馴染まないという感情が強かったことの証」
高度経済成長とPublic(公)
|-- page. 19 |-- 日本人と政治文化論
戦後日本は経済成長を第一に掲げ、PublicとPrivateの領域を区別してきた
公(おおやけ)という字の語源は「大家(天皇家)」で、「お上」や「官」を指
すことが多い。public(みんなのもの)に「公」という字があてられたこと自
体が日本人の政治意識を表している。
Public (みんなのもの)
公 (お上、官)
経済成長を至高命題とする日本の政治は、戦争の総括や天皇制の
あり方を国民を巻き込んで議論してこなかった。
物質的な豊かさを求めるには「頑張って働けばよく」、自分たちの政
治参加によって社会をよくしようという気運が高まることは少なかっ
た。
戦前の国家主義の反動により、戦後日本では「お上」である「公」よりも
「私」のことがらが重要であるという風潮がつくられ、「公」は政治家と官僚
に任せておけばよく、「普通の人」は基本的に「私」の世界に生きていれば
よいことになった。
上からの近代化・民主化
|-- page. 20 |-- 日本人と政治文化論
日本は上からの近代化・民主化を急ピッチに成し遂げなければならなかった
列強諸国からの外圧によって、明治維新を成し遂げた日本は富
国強兵を推進し、急激な近代化を成し遂げる。憲法を策定し帝国
議会を設立した日本は、西欧的な市民革命を経験したのか?
「和魂洋才」という言葉が示すように、システムを取り入れても依
然として日本的な思考・慣習がそこにはあった。明治維新が当時
「御一新」と呼ばれたことも示唆深い。
太平洋戦争に敗れた日本は、GHQの指導の下に様々な民主化政策を
「受け入れる」。新しい憲法には「国民主権」「平和主義」「基本的人権」
が謳われ、議院内閣制が明文化され、女性の投票権も認められた。しか
し、それは日本人自身で勝ち取ったものなのだろうか?
日本は近代化と民主化を考える際に「いかにして独立を守るか」という文脈の中で考えざるを得な
かった。日本の政治文化をめぐる議論に「○○が足りない論」が多いのは歴史的な必然性がある。
デモクラシーの過去と現在、そして未来
|-- page. 21 |-- デモクラシーの過去と現在、そして未来
デモクラシーの意味
|-- page. 22 |-- 近代デモクラシーと政治的主体性
「デモクラシー」を定義する試みは今も続いている
Democracyの語源はDemokratiaで、Demos(民衆)+Kratia(統治)を組み合わせたもの。
つまり、「民衆の統治」。
「民衆」とはだれを指すのか・・・?
「統治」とは何を意味するのか・・・?
「デモクラシーという言葉は様々な時代や地域で、様々な政治体制や政治的態度に対し
て使われてきた。時にはデモクラシーの名において戦争が行われ、正反対の政策を正当
化するためにデモクラシーの概念が役立てられてきた。」
デモクラシーを定義し、デモクラシーとそうでないものを分ける基準をつくり、現実社会を
デモクラシーに近づけていくための知性を提供することは、政治学のもっとも重要な使命
の1つに他ならない。
参照:『デモクラシーとは何か』 (ジャック・ライブラリー)
近代における政治的主体の誕生
|-- page. 23 |-- 近代デモクラシーと政治的主体性
マキャベリは『君主論』の中で、君主が主体となって国家をつくることを論じた
マキャベリは君主が備えるべきヴィルトゥについて論じた。ヴィルトゥとはア
レテーの訳であるが、ソクラテスやキケロが共和国を担うべく市民が持つべ
き徳目としてあげたものとは異なり、自前の軍隊をつくり、近隣諸国からの
侵略から祖国の独立を守るために必要な能力であった。
参照:『現代における政治と人間』 (高畠通敏)
・ 政治の力学を認識し、それにのっとって行動できる能力
・ チャンスを逃さず、機敏に武力を行使できる能力
・ 時には嘘をつき、策略をめぐらすことのできる能力
⇒強大な国家をつくり維持することがすべてに優先する
国家は神とともに人間に君臨する存在ではなく、人間がつくるべき被造物として捉えられた。
⇒すべてが「宗教の侍女」であった世界観からの転換(キリスト教でさえ君主が国家を維持するた
めの道具でしかない)
マキャベリの発想の根底には2つの前提があった
①国家をつくる基本は暴力の集中である ②民衆は阿呆である
「市民」の誕生
|-- page. 24 |-- 近代デモクラシーと政治的主体性
社会契約論と革命によって近代国家が誕生する
参照:『現代における政治と人間』 (高畠通敏)
ルソーは、人々が単に恐怖から君主の権力に従うのではなく、進んで従うべき
権力や政府というものを考えるとき、そこに契約という原初的な合意があったと
仮定する以外にないと考えた。
絶対君主を革命によって打倒した人々たちは、古代ギリシャにおけるデモクラ
シーよりもはるかに規模の大きい、多数主体が運営する国家という課題に向き
合う必要があった。
⇒自分たちが権力をあたらしく組織し、担わなければならないということ
彼らはルールを近代的な実定法の形で定着させ立憲政治をつくった。権力の
集中する行政機構や官僚層をどうやってコントロールするかという問題意識か
ら、人権保障と政府の組織を市民憲法に明記し、多数決を制度化し、その枠
を超えて権力は行動できないとした。
⇒法や制度を完備しただけで政治が終わるわけではなく、その枠の中で日々
の政治過程がはじまる。市民相互の対立をどのように調整し、少数派も納得
して従う決定を生み出すことができるか、が焦点がとなっていく。
「市民」の誕生(2)
|-- page. 25 |-- 近代デモクラシーと政治的主体性
エドマンド・バークの「国民代表」原理が議会市民政治を発展させる
参照:「バークの代表論」 (苅谷千尋)
バークは代議士の政治的フリーハンドと自由な立場からの討論を主張する。
それぞれの選挙区から選ばれるが、それは便宜であって、本質においてひと
りひとりが国民全体の代表である。
・ 選挙区に対して具体的利害の公約をしてはいけない
・ 任期中は選挙民から完全に独立し、あらゆることを自由に決定できる
⇒個々の地域の利益を合算しても国益には合致せず、代表者が集まる議会
での討議プロセスにおいてのみ発見されるという考え方
バークの理論は、「統治者と被治者が契約によって結ばれている以上、両
者の関係は双務的であり、有権者は自らの意思を表明し代表を指示でき
る」という考えを否定し、社会契約説を新たなフェーズに移行させた。ま
た、議論のプロセスそのものに価値を置く討議デモクラシーの先駆けでも
ある。
「理性的」なコミュニケーションによって国益を討議し、議会民主政を担う市民が誕生
市民の崩壊と大衆の登場
|-- page. 26 |-- 近代デモクラシーと政治的主体性
マルクスは「市民」というイデオロギーを暴露し、選挙権拡大により大衆が登場する
参照:『現代における政治と人間』 (高畠通敏)
マルクスは市民国家はブルジョア支配にすぎないと批判する。「理性的」な討
議デモクラシーを、市民(=ブルジョワ)による支配の正当化と捉え、市民国
家という概念そのものがイデオロギーであると主張する。
当時の「市民」とは財産と教養を持つ人々であり、無産階級の絶対多数の
人々は含まれなかった。かれらは財産と教養を独占することによって支配階
級でいることができ、それを「理性的」と称していたに過ぎないと。
男性 女性
フランス 1848年 1944年
アメリカ 1870年 1920年
イギリス 1918年 1928年
日本 1925年 1945年
「市民」という概念が揺らいでいく一方で、普通選挙(選挙の際に年
齢・性別以外の制限をつけない形式)の実施を求める運動が各国で
拡がっていった。
普通選挙実施年
ここにおいて、政治的主体としての大衆が誕生する。マスメディアが
非常に大きな影響を持つようになり、大衆は概念的には政治的主体
であるのにもかかわらず、実際には「受動的」になっていく。
デモクラシーと数の問題
|-- page. 27 |-- デモクラシーの課題と未来
近代政治の発展は政治的主体数の拡張の歴史であった
政治的主体 主体数
君主
市民
大衆
一人
小数
多数
国家に対する影響力
とても大きい
大きい
小さい
現代を生きる人々が「自分が何かしても国は変わらない」と感じる根本的原因に政治的主
体数の問題がある。この原理は各国の政治文化を問わず作用する。
デモクラシーと数の問題(2)
|-- page. 28 |-- デモクラシーの課題と未来
デモクラシーには逃れることのできない「数のジレンマ」がある
デモクラシーの歴史に逆行することを望まないとするならば、「民衆の統治」を現代社会に馴染む
形で再定義し、あたらしい統治システムやその制度を担う私たち自身のあり方を模索しつづけるし
かない。これは市民革命後の人々が直面した課題よりも、ずっと複雑でスケールの大きい、チャレ
ンジングな課題だと思う。
ロバート・ダールはこう主張する。「デモクラシーの単位が小さくなれば、それ
だけ市民参加の可能性が大きくなり、市民が政治的決定を代表に委ねる必
要性は減少する。単位が大きくなれば、市民にとって重要な諸問題を処理す
る能力は大きくなるが、市民が代表に決定を委ねなければならない必要性も
増大する。」
・ スモールイズビューティフル、ということもある
・ しかし、時には大きいほうがよいこともある
参照:『デモクラシーとは何か』 (ロバート・ダール)
「代表」原理と「代理」原理をのりこえて
|-- page. 29 |-- デモクラシーの課題と未来
近年SNSや様々なオンラインサービスの発展により、直接民主政の可能性が指摘
されている。「代表」と「代理」の2つの原理を統合することは可能だろうか?
「代表」の原理
代議士は国民の代表であり、任期中の政
治的フリーハンドを認め、自由な立場から
の討論を重視
選挙では「政策」を選ぶ 選挙では「人」を選ぶ
バークの時代の前提は崩れている
( 「市民」の崩壊、行政の肥大化・専門化)
「代理」の原理
代議士は国民の代理であり、任期中の政
治的フリーハンドを認めず、有権者との双
務的な関係を重視
討論そのもののプロセスを重視するという
議会政の根底を否定する
あらゆる政治的決定に対し、単に民衆が代表者に委任するのではなく、地域や諸団体の個々の
利益を合算するのでもない、大規模な人数による重層的な議論プロセスを包含するような統治シ
ステムは実現できるのか?
つくば市民の挑戦
|-- page. 30 |-- デモクラシーの課題と未来
つくば市では、facebookでまちづくりのアイデアを募集し、オンライン上で議論を行
い、「いいね!」による投票を行い、市議会に提案するという試みがなされている。
参照:「一般社団法人Co-Create事業報告書」
政策の見える化 議論
Co-create Tsukubaのしくみ
Co-create Tsukuba
提案 投票
情報提供 進捗報告 住民
facebook上 提案
市議会
「民衆の統治」のあたらしい可能性として注目していきたい
場所や時間を超えたオンライン上での議論は成り立つのか?
成り立つとすればどのくらいの規模までなりたつのか?
代議政を補完する直接民主政のしくみとして機能するのか?
Closing
|-- page. 31 |-- Closing
今日伝えたかったこと
|-- page. 32 |-- Closing
・ 日本には「デモクラシー」という言葉がしっくりこない文化的土壌があるかもしれない。
・ 日本の政治文化をめぐる議論にあるように、そのしっくりこない感は歴史的条件によると
ことが大きい。
・ デモクラシーに「正解」はなく、「完成」するものでもない。時代によって立ち向かわなけれ
ばならない課題は変化していく。
最後に
|-- page. 33 |-- Closing
Q. 政治学を学ぶ意義とは何ですか?
A. それは、「知性のメス」をみがくということです
「われわれをとりまく人間的環境を「状況」として全体的に把握し、そこから逃避するので
はなく、これを「人間の条件」として受け入れながら、なおかつ、「状況」に対して「主体的」
に働きかけようという態度である。
「状況」として把握するということは、われわれを取りまく「制度」や「イデオロギー」だとか
「権力」構造などを、流動する人間の現実のなかでの一変数として見透かすということで
あり、それはとりもなおさず、われわれの内なる「意識」や「習慣」にしがらみになっている
ものを、突きはなして観察する態度を養うことでもある。
いいかえれば、それはわれわれの「知性のメス」をみがくことだといっても良い。
「主体的」に働きかけるというのは、このようにして、「分解」した状況を再統一する「価値」
を洗練してゆくということでもある・・・」
引用:『政治学への道案内』(高畠通敏)
参考文献
|-- page. 34 |-- Closing
『デモクラシーとは何か』 (ジャック・ライブラリー)
『デモクラシーとは何か』 (ロバート・ダール)
『ダール、デモクラシーを語る』 (ロバート・ダール)
『政治学への道案内』 (高畠通敏)
『現代における政治と人間』 (高畠通敏)
『近代日本の精神構造』 (神島二郎)
『日本の民主政の文化的特徴』 (村山皓)
『現代日本の政治文化』 (中村菊男)
『自由について──七つの問答──』 (丸山眞男)
「バークの代表論」 (苅谷千尋)