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ICH harmonisation for better health 医薬品規制調和国際会議 ICH 調和ガイドライン 医薬品のがん原性試験に関するガイ ドラインの補遺 S1B(R1) 草案版 2021 5 10 日承認 現在意見募集中 ICH プロセスのステップ 2 において、適切な ICH 専門家作業部会によって承認された合 意草稿またはガイドラインは、国または地域の手順に沿った内部および外部での意見募 集のため、ICH 総会によって ICH 地域の規制当局に送付される。

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Page 1: ICH

ICH harmonisation for better health

医薬品規制調和国際会議

ICH 調和ガイドライン

医薬品のがん原性試験に関するガイ

ドラインの補遺

S1B(R1)

草案版

2021 年 5 月 10 日承認

現在意見募集中

ICH プロセスのステップ 2 において、適切な ICH 専門家作業部会によって承認された合

意草稿またはガイドラインは、国または地域の手順に沿った内部および外部での意見募集のため、ICH 総会によって ICH 地域の規制当局に送付される。

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S1B 補遺 文書履歴

記号 履歴 日付

S1B(R1)* ステップ 2 下で ICH 総会のメンバーによって承

認され意見募集のため公開 2021 年 5 月 10 日

*この補遺は S1 ガイドライン (S1A, S1B および S1C(R2))の補完であり、既存の S1B ガイドラインを

置換するものではない。ICH プロセスのステップ 4 では、この補遺は S1B ガイドラインと統合され

る。

法的通知:本文書は著作権で保護されており、ICH ロゴを除いて、本文書の ICH の著作権が

承認されているすべての場合に、公的使用許諾書の下で使用、複製、他の著作物への転載、

改編、修正、翻訳または配布することができる。本文書を改編、修正または翻訳するいかなる場合でも、本文書原本へのまたは本文書原本に基づいて変更したことが識別される場合を

除いて、明記、区別化するための適切な手順を取らなければならない。本文書原本の改編、

修正または翻訳を ICH が承認または支援したかのいかなる印象も避けなければならない。 本文書は「現状のまま」提供され、いかなる種類の保証も伴わない。ICH または本文書原本

の著者らは、いかなる場合も、本文書の使用に起因する申し立て、損害またはその他の負担

に対して責任を負わない。 上記の許可は第三者が提供する内容には適用されない。したがって、著作権が第三者に帰属

する文書については、この著作権所有者から複製の許可を得なければならない。

Page 3: ICH

ICH 調和ガイドライン

医薬品のがん原性試験に関するガイ

ドラインの補遺

ICH S1B(R1) ICH 合意ガイドライン

目次

序文 ......................................................................................................................................................... 1

1. 緒言 .............................................................................................................................................. 1

1.1 本補遺の適用範囲 ...................................................................................................................... 1

1.2 本補遺の目的 .............................................................................................................................. 1

1.3 背景 .............................................................................................................................................. 1

2. 低分子医薬品のヒトにおけるがん原性を評価するための証拠の重み付けアプローチ .. 2

2.1 WoE 評価で考慮すべき要素 ..................................................................................................... 3

2.2 ヒト発がんリスク評価のための WoE 要素の統合 ................................................................ 4

2.3 マウスがん原性試験 .................................................................................................................. 4

3. rasH2-Tg マウスがん原性試験の高用量選択基準に関する解説 ......................................... 5

参考文献 ................................................................................................................................................. 5

付録 1:証拠の重み付に基づくアプローチを適用した事例研究 .................................................. 7

i

Page 4: ICH

ICH S1B(R1) ガイドライン

序文

本補遺は、ICH S1A:医薬品におけるがん原性試験の必要性に関するガイダンス、S1B:

医薬品のがん原性を検出するための試験に関するガイダンス、および S1C(R2):医薬

品のがん原性試験のための用量選択のガイダンスと密接に関連して使用する。本補遺は

S1 ガイドラインを補完するものである。

1. 緒言

1.1 本補遺の適用範囲

本補遺は、S1A に記載の通り、がん原性評価が推奨されているすべての低分子医薬品を

対象とする。

1.2 本補遺の目的

本補遺は、現行の S1B ガイドラインに記載されていない追加のアプローチを導入するこ

とにより、低分子医薬品のヒト発がんリスクを評価するための試験の枠組みを拡張する。

これは、2 年間ラット試験が、ヒトがん原性リスク評価を完了する上で価値を付与する

か否かを示す特定の証拠の重み付け(weight of evidence:WoE)の基準を提供する統合

的なアプローチである。また、本補遺では、rasH2-Tg マウスモデルにおける高用量設定

のための血漿中曝露量比に基づくアプローチが追加されているが1、S1C(R2)ガイドラ

インにおける高用量選択のための、その他のすべての推奨事項は継続して適用される。

この統合的アプローチの適用により、3Rs[使用動物数の削減/苦痛の軽減/代替法の

利用]の原則に基づいて動物の使用を削減し、より科学的な機序に基づく発がん性評価

を得ることに集中するために資源をシフトすると供に、新規低分子医薬品の安全かつ倫

理的な開発を促進する。

1.3 背景

S1B ガイドラインは、医薬品のがん原性試験に対処するためのアプローチを柔軟に検討

することを求めているが、基本的な枠組みとして一般的には長期げっ歯類試験を推奨し

ており、実際には、これらは、通常ラットを用いた 2 年間試験およびマウスを用いた 2 種目のげっ歯類がん原性試験(2 年間または短期試験)となる。S1B ガイドラインの発

出以来、腫瘍発現の作用機序の解明に向けた科学的進歩、げっ歯類モデルの限界に関す

る理解の向上に加え、医薬品データセットの複数の後ろ向き解析により、2 年間ラット

がん原性試験にはヒトの発がんリスク評価に価値を付与しない場合があったこと、また、

1 rasH2-Tg マウスは、実験動物中央研究所の野村達次の研究室で開発された(1)。このモデルは、

S1B ガイドラインで TgHras 2 トランスジェニックマウスとして言及された。本モデルの公式名称は

CByB6F1-Tg(HRAS)2Jic であり、C57BL/6JJic-Tg(HRAS)2Jic ヘミ接合雄マウスを BALB/cByJJic 雌マウ

スと交雑することにより維持されている。この交雑に由来する同腹子は、遺伝子型が tg/wt のトラン

スジェニック rasH2-Tg 動物、および遺伝子型が wt/wt の野生型 rasH2-Wt 動物である。 S1B に記載されている他の短期モデルは、rasH2-Tg マウスと比較して過去 20 年間に大きな使用実績が

ないため、これらのモデルを用いた医薬品開発経験は非常に限られている。したがって、血漿中曝露

比に基づく高用量の選択は、S1B で言及されているその他の短期がん原性モデルには、適さないと思

われる。 用量設定試験および曝露データを得るためには、rasH2-Tg マウスの同腹子の野生型 rasH2-Wt を使用

することが適切である。

1

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ICH S1B(R1) ガイドライン

利用可能なすべての薬理学、生物学および毒性データの包括的評価に基づき、がん原性

を適切に評価できる可能性があることが示されている(2-9)。

このような後ろ向き解析から得られた結論が現実的に(すなわち、2 年間ラットがん原

性試験の結果を知る前に)確認可能かどうかを判断するため、ICH S1(R1)RND:医薬

品のげっ歯類がん原生試験の変更(案)-規制通知文書(Proposed Change to Rodent Carcinogenicity Testing of Pharmaceuticals–Regulatory Notice Document)の下で、自主的な

国際共同前向き研究が実施された。この前向き評価から得られた結論により、特定の医

薬品では、2 年間ラット試験を実施する代わりに、統合的 WoE アプローチによって、ヒ

トにおける発がんリスクを適切に評価可能であったことが確認された2。

また、ICH S1C(R2)に示されている 2 年間げっ歯類試験における高用量選択のための

曝露量比によるエンドポイント(動物/ヒト血漿 AUC に基づく)を rasH2-Tg マウスを

用いた試験に使用することは国際的には受け入れられていない。そのために、利用可能な情報に基づき rasH2-Tg 試験における曝露量および結果を評価するため、包括的な解析

を実施した3。3 項に記載のように、本解析の結果は、このモデルでの高用量選択におい

て、曝露比が 50 倍を超えることに意義がないことを示している。

2. 低分子医薬品のヒトにおけるがん原性を評価するための証拠の重み付けアプローチ

薬物開発の過程において、重要な生物学的、薬理学的および毒性学的情報を考慮した科

学的に頑健ながん原性評価戦略を構築することが医薬品開発者にとって重要である。2.1項および 2.2 項に記載した統合的な WoE 評価アプローチは、被験物質が以下のいずれか

に該当するという結論を支持する可能性がある。 ● ヒトで発がん性がある可能性が高いため、製剤にはその情報が表示され、2 年間

ラットがん原性試験は価値を付与しないと思われる;または ● ヒトでは発がん性がない可能性が高いため、2 年間ラット試験は価値を付与しな

2 前向き評価の実施および結果は取りまとめられ、RND および PEP の更新に関する ICH ウェブサイト

に掲載され、将来の DRA 医薬品規制当局:日本語翻訳のみに追加の原稿に示される。これらの新しい引用はステップ

4 のバージョンに表示され、この脚注は変更される。 3 高用量選択のための rasH2-Tg マウス短期モデルに対する適切な曝露マージンを決定するために取ら

れたアプローチは、前述したラットおよびマウスの 2 年間試験(10,11)ならびに Hisada S、Tsubota K ら(原稿執筆中)による「rasH2-Tg マウスおよび 2 年間のげっ歯類モデルの腫瘍発現感度を評価する

利用可能なデータ調査」と類似している。要約草案: 50 の薬物について実施された 6 ヵ月間 rasH2-Tg モデルおよび 2 年間ラット試験の結果を解析した。このうち 15 の薬物は 2 年間マウス試験でも評価さ

れた。rasH2-Tg で陽性と結論付けられた 13 試験において、6 つの遺伝毒性発がん物質は、0.1~3 倍以

内の AUC 曝露比または体表面積で調整した用量比(げっ歯類:ヒト)で陽性であり、7 つの非遺伝毒

性発がん物質はすべて 1~50 倍以内で陽性であった。これら 7 つの物質のうち、3 つは 25 倍を超える

曝露量でのみ陽性であった。rasH2-Tg モデルは、3 つすべてのモデルで検討されたこれらの 13 の薬物

について、2 年間ラットまたはマウス試験よりも 20 倍感受性が高い、あるいは 10 倍感受性が低い、

もしくはその中間であり、13 のうち 3 つの薬物は 2 年間ラット試験で陰性であった。rasH2-Tg で陰性

であった 37 の薬物のうち 8 つの薬物は、50 倍(60 倍~200 倍超)を超える曝露比で評価された。2 年間ラット試験において 25 倍未満の曝露比で陽性であり、rasH2-Tg で陰性であった 11 の薬物について、

9つの薬物は、最大耐量(MTD)により 50倍未満の曝露比で rasH2-Tgでの高用量選択が制限された。

その他の 2 つの薬物の曝露マージンは 50 倍を超えた。ラットで認められたこれら 11 の薬物の腫瘍発

現能のヒトへの外挿性については疑問視されている。結論として、rasH2-Tg マウスで高い曝露量が忍

容された場合、25 倍を超える曝露量にいくらかの価値が認められるが、全体的な 証拠から、50 倍を超える曝露マージンにベネフィットはないことが示された。(注:Hisada らの発表

により、この要約パラグラフは削除される可能性がある)。

2

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ICH S1B(R1) ガイドライン

いであろう(ラットでも発がんする可能性がない、またはラットでは発がんする

可能性が高いが、ヒトへの外挿性がないことが知られている十分に認知された機

序を介する);または ● ヒトのがん原性については不確かであり、2 年間ラットがん原性試験はヒトのリ

スク評価に価値を付与する可能性が高い。

WoE 評価の結果、ヒトの発がん性が不確かであると結論付けられた場合は、S1B に記載

されている、2 年間ラットがん原性試験およびマウスを用いたがん原性評価(短期また

は 2 年間試験)を実施するというアプローチが、引き続き最も適切な戦略である。

2.1 WoE 評価で考慮すべき要素 WoE アプローチは、公開情報および従来の薬物開発試験から得られる発がん性に関連す

るデータすべての包括的評価に基づいており,以下の要素が含まれる。 1) 薬物標的の生物学的特性、ならびに親化合物およびヒトの主要活性代謝物の主な

薬理学的機序に基づく、発がん性を示すデータ。これにはラットおよびヒトにお

ける薬物標的の分布、遺伝子改変モデルからの情報、ヒト遺伝子関連研究、がん

遺伝子データベース、薬物クラスの発がん性情報が含まれる。 2) 親化合物および主要代謝物のオフターゲット作用を示す副次的薬理学的スクリー

ニング結果、特に発がんリスクを示す結果(例:核内受容体への結合)。 3) 親薬物および主要代謝物の曝露マージン評価を含む、被験薬を用いて完了した反

復投与毒性試験,特にラット長期試験の病理組織学的データ4。 4) 薬物標的および代償性内分泌反応機序の情報を含むホルモン変動の証拠;反復投

与毒性試験における内分泌器官および生殖器官の重量、肉眼的および病理組織学

的変化ならびに生殖毒性試験の結果5。 5) ICH S2(R1):医薬品の遺伝毒性試験および解釈に関するガイダンスの基準による

遺伝毒性試験データ;不確かな遺伝毒性は、発がん性に関する不確実性を増大さ

せる。 6) ICH S8:医薬品の免疫毒性試験に関するガイドラインに従った免疫調節の証拠。

標準的なラットおよびマウスがん原性試験は、この特定のヒトのリスクを同定す

るのに信頼性がないことが一般に認識されている(12,13)。

4 2 年間ラット試験における発がん性を特定するために、特に注目される長期ラット毒性試験の病理

組織学的所見には、細胞肥大、細胞過形成、持続性組織傷害および/または慢性炎症、変異細胞巣、

前腫瘍性病変および腫瘍が含まれる。病因を推定すること、および/または、そうした所見のヒトへ

の外挿性を考察することが重要である。長期ラット毒性試験のデータは、2 年間ラット試験の予想さ

れる結果および試験実施の価値を評価する上で最も重要であることが示されているが、短期ラット試

験でも、重要な病理組織学的結論が得られることがある。 非げっ歯類およびマウスを用いた長期毒性試験から得られたデータは、ラット試験の所見のヒトへの

外挿性(例:種特異的な機序の相違)および 2 年間ラット試験の実施の価値に関して、追加の背景情

報を得るために有用と考えられる。 5 内分泌組織および生殖組織に萎縮、肥大、過形成などの病理組織学的変化が認められた場合、また

は被験物質による統計学的および生物学的に有意な内分泌器官または生殖器官の重量変化が認められ

た場合、ホルモン濃度の変化が記録されていなくても、機能的ホルモン変動の証拠とみなすことがで

きる。このような所見は、ヒトへの外挿性について検討されておらず、それ以外に実証されていない

場合は、潜在的な発がんリスクを示唆していると思われる。

3

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ICH S1B(R1) ガイドライン

上記の WoE 要素は、2 年間ラット試験が価値を付与するか否かを結論付けるのに十分で

ある可能性がある。しかし、1 つあるいはそれ以上の WoE 要素が不確定の可能性や、発

がん性の懸念を示す場合、医薬品開発者は、潜在的リスクのヒトへの外挿性を明らかに

する検討を実施することができる。以下のアプローチが考えられるが、これらに限らな

い。

1) 追加の検討試験または過去の試験において採取した検体の分析(例:特殊組織化

学染色、分子バイオマーカー、血清ホルモン値、免疫調節のさらなる特性評価、

代替の in vitro または in vivo 試験システム、新規技術によるデータ等) 2) 臨床用量および曝露におけるヒトへの機序的な外挿性を示すために得られた臨床

データ(例:尿中薬物濃度および結晶形成の証拠、ヒト血漿中ホルモンの変化を

対象とした測定、ヒト画像データ)

2.2 ヒト発がんリスク評価のための WoE 要素の統合

上述の WoE 要素の統合解析により、標準的な 2 年間ラット試験のヒトの発がんリスク評

価に対する寄与が判断される。すべての要素は統合解析に影響を及ぼすが、各要素の相

対的重要性は、検討される分子ごとに異なる。ICH S1 RND 研究[S1(R1)RND:医薬品の

げっ歯類がん原生試験の変更(案)-規制通知文書]で得られた経験に基づく重要な結

果と事例の要約を付録 1 に示し、2 年間ラット試験の必要性を判断する際に WoE 要素を

どのように統合できるかを示す。

ICH S1 RND 研究の経験から、ある薬物クラスの他の化合物で確立されたプロファイル

は、薬理学的標的の調節に関連したヒトでの発がんリスク評価に大きく寄与することが

示されている。新たな治療標的を有する化合物(すなわち first-in-class)であっても、統

合的な WoE ベースのアプローチは適用可能である。このような候補物質については、

標的の生物学的特性に関して懸念要因がないことを確立するために、より高い水準で科

学的根拠が要求される。付録 1 では、WoE 評価により、2 年間ラット試験が新規標的阻

害薬のヒトがん原性リスク評価に価値を付与しないと思われるとの結論に至った事例を

示している。

WoE 評価によって 2 年間ラット試験の実施が不要であると判断された場合、医薬品開発

者は販売承認を申請する各地域の医薬品規制当局(DRA)との調整を求める必要がある。

医薬品開発者が ICH S1B に従って 2 年間ラット試験を実施することを決定した場合、各

DRA との合意を求めることやそれらの根拠の文書化の義務はない。

2.3 マウスがん原性試験

統合 WoE 評価により 2 年間ラット試験が有意な価値をもたらさないことが示された化合

物についても、ICH S1B に規定する 2 年間または短期のトランスジェニックモデルのい

ずれかのマウスを用いたがん原性試験は、依然としてがん原性評価計画の一部として推奨される6。しかし、例えば、WoE 評価によりヒトに対する発がん性リスクがないこと

6 ラットについて記述した WoE アプローチにより 2 種目のげっ歯類がん原性動物種としてマウスを除

外することは,以下の理由から適切ではない:(1)通常、6 ヵ月間の慢性毒性試験はマウスを用いて

実施されないため、WoE アプローチが実施できず、このアプローチを確認するためのデータベースは

存在しない。(2)マウスを用いたがん原性試験の結果は、対応するラットのがん原性試験の結果と

異なる場合が多く、直接外挿することはできない。(3)受け入れ可能ながん原性試験のモデルとし

て、rasH2-Tg マウスの 6 ヵ月間投与が採用されている。 EU では、WoE 評価の結果、2 年間ラット試験が価値を付与しないことが示された場合、マウスを用

いたがん原性試験(2 年間または短期)も推奨されない。

4

Page 8: ICH

ICH S1B(R1) ガイドライン

が強く示され、かつマウスでは治療用量以下の薬理学的に不活性な薬物曝露しか得られ

ないことがデータにより示される場合には、マウスを用いたがん原性試験の実施が適切

でない可能性がある。

3. rasH2-Tg マウスがん原性試験の高用量選択基準に関する解説

rasH2-Tg マウスモデルにおいて、用量制限毒性がない場合、ICH S1C(R2)に概説される

その他の用量設定基準を適切に用いず、高用量選択のために血漿中曝露量(AUC)比を

用いることは、エンドポイントとして国際的には受け入れられていなかった。このため、

rasH2-Tg マウスモデルを用いて評価した 50 の化合物について利用可能なデータを解析し

た結果、血漿中 AUC 曝露量比(げっ歯類:ヒト)で 50 倍を超える投与量はがん原性評

価を支持する上での価値がないとの結論に達した。したがって、げっ歯類を用いた 2 年間の試験について、S1C(R2)に規定されているがん原性試験の高用量の選択に関するす

べての基準は、血漿中 AUC 曝露量比を含めて、rasH2-Tg に適用できる。ただし、曝露

量比は、野生型げっ歯類を用いた 2 年間試験の 25 倍ではなく、rasH2-Tg マウスでは 50 倍である。S1C(R2)の他のすべての事項は、rasH2-Tg マウスに適用可能である。

参考文献

5

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ICH S1B(R1) ガイドライン

6

Page 10: ICH

ICH S1B(R1) ガイドライン

付録 1:証拠の重み付に基づくアプローチを適用した事例研究

序文

ICH S1 RND 研究の結果の一つとして、以下の WoE 特性を持つ事例は、2 年間ラット試

験の結果がヒトのがん原性リスク評価に貢献しないとする結論を支持する可能性がより

高いとの認識が示された。 ● 標的の生物学的特性は十分に解明されており、ヒトの発がんに関与することが知

られている細胞経路とは関連しない。しばしば、医薬品の標的は非哺乳類由来で

あり、その薬理学的な薬物クラスの発がん性データが利用可能であった。 ● 慢性毒性試験での結果において、発症機序やヒトへの外挿性に関する適切な説明

のできない過形成、肥大、異型細胞変化、または変性/再生性変化は認められず、

オンターゲット又はオフターゲットの発がん懸念のないことが示唆されること; ● 内分泌器官および生殖器官の変動が認められない、または観察された内分泌系の

所見について潜在的なヒトへの外挿性に関して適切に説明されること; ● 医薬品のオフターゲット作用の検討を目的とした副次的薬理スクリーニングによ

り懸念が特定されない。 ● 標的の生物学的特性および反復投与毒性試験に基づき、免疫調節または免疫毒性

の証拠がないこと ● ICH S2(R1)ガイダンスの基準に基づき、遺伝毒性の総合評価は陰性と結論づけ

られる。

最初の RND では、rasH2-Tg マウス試験の結果が利用可能な場合には、これらが WoE 要素の一つとして推奨されたが、その結果は 2 年間ラットがん原性試験の結果の予測には

有意に寄与しなかった。したがって、WoE 評価を支持するために rasH2-Tgマウス試験の

完了は期待されない。ただし、rasH2-Tg マウスの試験結果が得られている場合は、その

評価にて考察すべきである。

WoE アプローチの適用を説明するために、一連の事例研究を示す。これらの事例は説明

のみを目的として提示したものであり、WoE 評価を裏付けるデータの充足性を示す指針

として意図したものではない。事例 1 および 2 では、医薬品の重要な WoE 要素と、2 年間ラット試験が発がん性リスクの評価に価値を付与しないと結論付けるために、どのよ

うにデータを統合したかを説明している。これらの事例とは対照的に、事例 3 では、

WoE 要素のデータをどのように統合して、ヒトに対するがん原性が不確かであり、2 年間ラットがん原性試験がヒトのリスク評価に価値を付与すると結論付けたかについて説

明している。事例 4 は、薬理学的クラス内の他の分子について利用可能なデータがない

にもかかわらず、2 年間ラットがん原性試験がヒトのがん原性評価に寄与しないと結論

付けられた分子について説明している。

事例 1:非哺乳類標的に対する低分子阻害剤

前向き WoE 評価:すべての DRA および医薬品開発者により、ラットおよびヒトの両種に

おいて発がん性を示さない可能性が高く、2 年間ラット試験は価値を付与しないと結論付け

られた。

根拠 WoE 解析は、この分子は高い曝露マージンで十分に検討され、いずれの WoE 要素につ

いても懸念要因が特定されなかったと結論付けられた。

7

Page 11: ICH

ICH S1B(R1) ガイドライン

2 年間ラット試験の結果:2 年間ラット試験では、被験物質に関連した腫瘍性所見は認

められなかった。

WoE の基準

意図する薬物標的および発がんに関連した薬理学的経路に関する知見 ● 非哺乳類由来の標的であり、潜在的な哺乳類発がん経路の意図的な(薬理作用に

よる)変化は除外される。 ● 同じ非哺乳類の薬理学的標的を有する他の化合物を用いて実施された 2 年間ラッ

ト試験において、発がん性の結果を示す証拠がない。

副次的薬理スクリーニング ● 10 μM までの薬物濃度で、エストロゲン、アンドロゲン、グルココルチコイド受

容体との相互作用がないことを含め、オフターゲットの相互作用を示す証拠がな

い。

ラットを用いた慢性毒性試験の一般毒性 ● 吸収が飽和するヒト曝露量の 31 倍までの用量を投与した Wistar ラット慢性(6 ヵ

月)毒性試験。 ● ヒトに特異的な主要代謝物の証拠は認められなかった。 ● 標準的な一連の組織において、投与に関連した病理組織学的所見は認められなか

った。

非げっ歯類を用いた慢性毒性試験における一般毒性 ● 非ヒト霊長類に慢性投与(9 ヵ月)すると、反応性好中球浸潤および再生性過形

成を伴う胆管過形成ならびに肝細胞肥大が認められた。無毒性量に対してヒト曝

露量の 5 倍のマージンが確認された。 ● ラットを用いた慢性毒性試験では同様の所見は認められなかったため、ラットを

用いたさらなる評価では有用な情報は得られないと思われる。

ホルモン変動 ● 生殖器重量および病理組織学的検査では投与に関連した所見は認められなかった

遺伝毒性 ● ICH S2(R1)ガイダンスの基準に基づく遺伝毒性の証拠はなかった

免疫毒性 ● 臨床病理学的検査または免疫系組織(例:リンパ器官、脾臓、胸腺、骨髄)の病

理組織学的検査において、投与に関連した変化は認められなかった

追加の特別な検討 ● 利用可能なデータはなかった

事例 2:神経細胞 G タンパク質共役受容体の低分子アンタゴニスト

前向き WoE 評価:ヒトとの関連性がないことがよく認識されている機序により、ラットで

は発がんの可能性があるが、ヒトでは発がんがない可能性が高く、2 年間ラット試験は価値

8

Page 12: ICH

ICH S1B(R1) ガイドライン

を付与しないと一致して結論づけられた

根拠 WoE 解析により、ラット慢性毒性試験で観察された毒性およびその薬理学的クラスによ

る腫瘍発生に基づき、げっ歯類に特異的な肝臓および甲状腺腫瘍の可能性が示された。

肝シトクロム P450 の誘導が示された。ホルモン変動の証拠は、標的の薬理作用から理

解されており、生殖器重量および病理組織学的検査に変化はなく、また、ヒトに比して

高い曝露比で認められた。

2 年間ラット試験の結果:2 年間ラット試験では肝細胞肥大が認められたが、腫瘍性所

見は認められなかった。

WoE の基準

意図する薬物標的および発がんに関連した薬理学的経路に関する知見 ● 脳の受容体発現が主であり、一部の末梢組織では低レベルで受容体が発現し、種

間で同様 ● 受容体活性化は、視床下部の副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモンの産生による 2 次

的な下垂体からの ACTH 放出を増加させる。 ● ラットでの LH サージおよびゴナドトロピン放出と関連した視床下部の受容体の

リガンド濃度。 ● 標的をノックアウトしたマウスに発がん性に関連する所見は認めなかった。 ● 同じ薬理学的標的を有する他の化合物を用いたラット長期試験において、オフタ

ーゲット作用のシトクロム P450 誘導に続く甲状腺刺激ホルモン増加が一致し認め

られ、甲状腺濾胞細胞腺腫/腺がん発生が認められた。 ● 臨床最大用量における Cmax より 8 倍高い Ki を示すあるオフターゲット受容体に

対するアンタゴニスト結合作用。腫瘍発現と関連しないオフターゲット受容体の

既知の標的薬理作用。

ラットを用いた慢性毒性試験の一般毒性 ● ヒト曝露量の 50 倍から 74 倍の曝露量での肝肥大および臓器重量の増加。 ● ヒト曝露量の 170 倍から 670 倍の曝露量での甲状腺の濾胞肥大の増加。 ● ヒトに特異的な代謝物の証拠がない。 ● ヒトにおける主要な活性代謝物はラットでも認められた

非げっ歯類を用いた慢性毒性試験における一般毒性 ● ヒト曝露量の約 230 倍での肝肥大および臓器重量の増加。

ホルモン変動 ● 薬物標的の阻害と一致した、ラットを用いた慢性毒性試験における、ヒト曝露量

の 74 倍超での病理組織学的変化を伴わない副腎重量の減少および ACTH 濃度の

低下。その反応は成長抑制として認められた。 ● ラットを用いた受胎能試験では、ヒト曝露量の 60 倍で不規則な性周期および妊娠

率の低下が認められ、ヒト曝露量の 500 倍超では、黄体数、着床数および生存胚

数の減少が認められた。薬物標的の阻害と一致していたと考えられた。 ● ラットを用いた慢性毒性試験では、生殖器重量および病理組織学的検査に投与に

関連した変化は認められなかった。

9

Page 13: ICH

ICH S1B(R1) ガイドライン

遺伝毒性 ● ICH S2(R1)ガイダンスの基準に基づくと、未変化体またはヒト主要代謝物の遺伝

毒性誘発の証拠はなかった。

免疫毒性 ● 臨床病理学的検査、リンパ球サブセットまたは免疫系組織(例:リンパ器官、脾

臓、胸腺、骨髄)の病理組織学的検査において、投与に関連した変化は認められ

なかった。

追加の特別な検討 ● CYP1A2 および CYP3A1 の誘導の増加が示された。 ● 化合物の脱フッ素化に関連した骨および歯のフッ素症は、ヒトでは発生しないこ

とが示された。

事例 3:広範に発現するセリン/スレオニンキナーゼの first-in-class の低分子阻害剤

前向き WoE 評価:ヒトに対する発がん性に関しては不確かであり、2 年間ラットがん原性

試験はヒトのがん原性評価に価値を付与する可能性が高いと全会一致で結論

根拠 明らかな発がん性に関する不確実性は、複雑な標的への薬理作用、薬物標的に前例がな

く、カニクイザルの同様な所見で支持されるラットの慢性毒性試験における機序の解明

が不十分な重要な病理組織学的変化に基づくものである。サルで認められた免疫毒性は、

全体的なリスク評価には寄与するが、ラットがん原性試験から新たな情報を得ることは

期待されない。

2 年間ラット試験の結果:2 年間ラット試験では、雌雄ともに下垂体腫瘍の発現率、致

死率の上昇、および潜伏期間の短縮が示された。ラットにおけるこの発がん性の結果は、

ヒトにおける発がん性の総合的な評価に寄与すると考えられる。

WoE の基準

意図する薬物標的および発がんに関する薬理学的経路に関する知見 ● 炎症性の酸化ストレスによる標的の活性化は、細胞のアポトーシスを促進し細胞

増殖の制御に関連する。標的の阻害はアポトーシスのシグナル伝達を抑制し、細

胞増殖に影響するため、理論的にはがん細胞の増殖を促進する。 ● 薬物標的は、動物モデルにおいて、発がんの促進および抑制の両方で、がん発生

における組織依存的な役割を示す。 ● げっ歯類長期試験またはトランスジェニックマウス短期試験による、標的の阻害に

よる腫瘍発生の有無に関するデータは得られていない。

ラットを用いた慢性毒性試験の一般毒性 ● ヒト曝露量の 14 倍で、腎臓の好塩基性尿細管、好酸性滴状物および腎皮質の褐色

色素の発現率および重症度の増加。病因は実験的には未検証 ● ヒト曝露量の 39 倍で非腺胃部の境界縁の慢性刺激性変化。病因は実験的には未検

証。 ● 病理組織学的な変化を伴わない肝重量増加。

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Page 14: ICH

ICH S1B(R1) ガイドライン

● ヒトに特異的な代謝物の証拠がない。 ● ヒトで認められた主要な不活性代謝物はラットでも認められた。

非げっ歯類を用いた慢性毒性試験における一般毒性 ● サルでは、ヒト曝露量の約 12 倍までの曝露量で消化管上皮の変性、壊死、反応性

過形成、拡張、炎症および潰瘍。 ● ヒト曝露量の約 12 倍までの曝露量で尿細管の変性/再生、壊死、拡張および空胞

化の発現率上昇。

ホルモン変動 ● ヒト曝露量の 17 倍でラットに副腎重量増加および皮質肥大。病因は実験的に未解

明。

免疫毒性 ● サルでは、ヒト曝露量の 12 倍で、NK 細胞または顆粒球の機能に対する影響を伴

わない TDAR の抑制、ならびに脾臓、胸腺、リンパ節におけるリンパ球の減少。

遺伝毒性 ● ICH S2(R1)ガイダンスの基準に基づくと、未変化体またはヒト主要代謝物に遺伝

毒性の証拠はない。

追加の特別な試験 ● 肝酵素 CYP1A、CYP3A および CYP2B の増加。

事例 4:プロスタグランジン受容体の低分子阻害剤

前向き WoE 評価:ラットおよびヒトの両者において発がん性を示す可能性は低く、2 年間

ラット試験は価値を付与しないと全会一致で結論

根拠 first-in-class である事例 3 の被験薬と比較した場合、事例 4 の薬物標的は、がん発生の役

割に関連せず、ラットを用いた慢性毒性試験では病理組織学的所見は認められず、高用

量は、50 倍を超える高曝露であった。また、副次的薬理スクリーニングからは、被験薬

の標的選択性が高いことも示された。

2 年間ラット試験の結果:2 年間ラットがん原性試験では、用量依存的な腫瘍の増加は

認められなかった。

WoE の基準

意図する薬物標的の生物学的特性および発がんに関連する薬理学的経路に関する知見 ● アレルギー性炎症反応に関連した受容体の活性化と、現在得られているデータか

らは、腫瘍のイニシエーションまたはプログレッションにおける役割は示唆され

ていない。 ● 薬物標的のノックアウトマウスを 1 年間観察した結果、組織学的な異常や免疫機

能に対する影響は認められなかった。 ● 同じ薬理学的標的を有する他の化合物を用いた 2 年間のラットがん原性試験のデ

ータはない。

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Page 15: ICH

ICH S1B(R1) ガイドライン

● 被験薬を評価した rasH2-Tg がん原性試験のデータはない。

副次的薬理スクリーニング ● 被験薬は、同じクラスの他の受容体および炎症反応に関与する評価対象の他の受

容体のサブセットと比較して、当該薬物標的に対し 300 倍以上の選択性を示した。 ● 種々の受容体、イオンチャネル、トランスポーターおよび酵素の副次的薬理スク

リーニングにおいて、被験薬は当該薬物標的に対して 2000 倍以上の選択性を示し

た。

ラットを用いた慢性毒性試験の一般毒性 ● 26 週間までの反復投与毒性試験の一環として実施した病理組織学的評価では、検

討した最高用量(AUC に基づくヒト曝露量の約 54 倍)で、いずれの臓器または

組織においても増殖性変化は認められなかった。 ● ヒトに特異的な代謝物の証拠は認められなかった。

非げっ歯類を用いた慢性毒性試験における一般毒性 ● 最長 39 週間の反復投与毒性試験の一環として実施した病理組織学的評価では、検

討した最高用量(AUC に基づくヒト曝露量の約 45 倍)で、いずれの臓器または

組織においても増殖性変化は認められなかった。

ホルモン変動 ● 生殖器の重量および病理組織学的検査において、投与に関連した所見は認められ

なかった。

遺伝毒性 ● ICH S2(R1)ガイダンスの基準に基づく遺伝毒性の証拠はなかった。

免疫毒性 ● 26 週間ラット毒性試験では、検討した最高用量(AUC に基づくヒト曝露量の約

54 倍)で、免疫機能(一次および二次抗体反応を評価する TDAR 試験を含む)に

対する作用およびリンパ球サブセットに対する有害作用は認められなかった。

追加の特別な試験 ● 未実施。

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